- 1 -令和7年12月17日判決言渡令和7年(行ケ)第10070号審決取消請求事件口頭弁論終結日令和7年11月10日判決 原 告日本洋酒酒造組合 同訴訟代理人弁護士末吉 剛吉野海希同訴訟代理人弁理士片山礼介 被 告月光川蒸留所株式会社 同訴訟代理人弁理士影山剛士河野上 真 緒 主文 1 特許庁が無効2024-890064号事件について令和7年6月3日にした審決を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求主文同旨第2 事案の概要本件は、商標登録の無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。争点は、商標法3条1項3号該当性である。 1 特許庁における手続の経緯等 - 2 -(1) 被告は、次のとおりの登録第6765218号商標(以下「本件商標」という。)に係る商標権の商標権者である。(甲1、13。本判決では、特記しない限り書証番号の枝番号の表記を省略する。)登録商標(標準文字):エシカルグレーン登録出願日:令和5年7月24日 登録査定日:令和5年12月7日設定登録日:令和5年12月22日商品及び役務の区分並びに指定商品:第33類「清酒、日本酒、焼酎、泡盛、洋酒、ウイスキー、蒸留酒、ウォッカ、ジン、ブランデー、ラム、リキュール、カクテル、スピリッツ、果実酒、 酎ハイ、中国酒、薬味酒」(2) 原告は、令和6年10月3日、本件商標が商標法3条1項3号に該当するとして商標登録無効審判を請求した(甲13)。特許庁は、同請求を無効2024-890064号事件として審理を行 、薬味酒」(2) 原告は、令和6年10月3日、本件商標が商標法3条1項3号に該当するとして商標登録無効審判を請求した(甲13)。特許庁は、同請求を無効2024-890064号事件として審理を行い、令和7年6月3日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をして、そ の謄本は、同月12日に原告に送達された。 (3) 原告は、令和7年7月11日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。 2 本件審決の理由の要旨(1) 「エシカル」及び「グレーン」の意味について 「エシカル」は、「道徳上の、倫理的な。」の意味を有する英単語の「ethical」の発音をカタカナで表記したものである。 「倫理的な。環境や社会に配慮した。」との説明もある。 「グレーン」は、「穀物の粒、また穀物の意。」の意味がある。 (2) 使用例について 「エシカル」について、食品に関連して「論理的消費(エシカル消費)」、 - 3 -「エシカルフード(論理的に配慮された食品)」のように使用されている。 「グレーン」について、酒類の品質表示として「グレーンウイスキー(とうもろこし等の穀類を主原料としたウイスキー)」のように使用されている。 (3) 本件商標についての検討本件商標は、「エシカルグレーン」の文字を標準文字で表してなり、その構 成文字は、同じ大きさ及び書体で、字間なく横書きしたまとまりの良い構成からなるから、一連一体の語を表してなると看取されるものである。 上記(1)によると、「エシカル」及び「グレーン」の文字はそれぞれ「論理的な」及び「穀物」の意味合いを有する語と理解されるところ、本件商標は、全体として辞書等に載録されている語でないことから造語といえるが、各語の 有する語義から グレーン」の文字はそれぞれ「論理的な」及び「穀物」の意味合いを有する語と理解されるところ、本件商標は、全体として辞書等に載録されている語でないことから造語といえるが、各語の 有する語義から、構成全体より「論理的な穀物」ほどの漠然とした意味合いを理解するのが自然である。 上記(2)によると、食品を取り扱う業界で「エシカル」の文字が「論理的に配慮された」食品等を表す文字として「エシカルフード」のように「エシカル〇〇」の態様で使用されていることがうかがわれるが、本件商標の指定商品 との関係では、「エシカル〇〇」として使用されている実情は見いだせない。 職権調査によるも、本件商標の指定商品を取り扱う業界において、「エシカルグレーン」の文字が、具体的な商品の品質を表示するものとして、取引上一般的に使用されている事実を発見することができず、取引者、需要者が「エシカルグレーン」の文字を商品の品質を表示したものと認識すべき事情も発 見できなかった。 そうすると、本件商標は、その指定商品との関係において商品の品質を直接的かつ具体的に表したものとして理解、認識されるとまではいえず、これをその指定商品に使用した場合には、自他商品の識別標識としての機能を果たし得る。 したがって、本件商標は、商標法3条1項3号に該当しない。 - 4 -第3 原告主張の審決取消事由(商標法3条1項3号該当性の判断の誤り) 1 本件商標が商標法3条1項3号に該当すること(1) 「エシカル」及び「グレーン」の意味「エシカル」は、「経済活動で、環境・社会貢献などに配慮すること」という意味で辞書に載録されている通常の日本語であり、SDGs目標12(つ くる責任、つかう責任:持続可能な生産・消費)の一環として公益性の高い用語である。また 境・社会貢献などに配慮すること」という意味で辞書に載録されている通常の日本語であり、SDGs目標12(つ くる責任、つかう責任:持続可能な生産・消費)の一環として公益性の高い用語である。また、「エシカル(倫理的)消費」という語も一般に認識が広まっており、倫理的消費に対する消費者意識が高まっているほか、倫理的に配慮された食品を流通させるべき企業の社会的責任も広く認識されている。 なお、本件審決は、本件商標の指定商品との関係では、「エシカル○○」と して使用されている実情は見いだせないとするが、「エシカルワイン」、「エシカルカクテル」、「エシカルジン」、「エシカルビール」、「エシカルチューハイ」、「エシカルコーヒー」のように、本件商標の指定商品を含む食品類の前に「エシカル」を付して、「地球環境に配慮した持続可能な社会を実現するための取り組みを行うことを企業理念として掲げて生産・販売される当該食品類」で あることを示す例は数多くみられるところである(甲28~53)。 「グレーン」は、洋酒の分野ではウイスキーの原料としてのとうもろこし等の穀類を指す。また、穀物を主原料とするウイスキーは「グレーンウイスキー」と呼ばれ、単に「グレーン」と呼ばれることもある。このため、需要者は、「グレーン」が「グレーンウイスキー」を指すことを理解している。 (2) 商標法3条1項3号該当性上記(1)のとおり、「エシカル」は「地球環境に配慮した持続可能な社会を実現するための取り組みを行うことを企業理念として掲げて生産・販売される」という商品又はその原材料の一般的な性質を表し、「グレーン」は酒類の原材料(品質)の表示であるとともに、「グレーンウイスキー」の略称である。 したがって、「エシカルグレーン」は、「地球環境に配慮した持続可 その原材料の一般的な性質を表し、「グレーン」は酒類の原材料(品質)の表示であるとともに、「グレーンウイスキー」の略称である。 したがって、「エシカルグレーン」は、「地球環境に配慮した持続可能な社 - 5 -会を実現するための取り組みを行うことを企業理念として掲げて生産・販売される穀物を原材料とするウイスキー」という商品の品質及びその原材料を意味するものであって、指定商品との関係で自他商品識別力を欠くものであるから、「エシカル」の語の公益性からしても、本件商標を特定人に独占させることは適切ではない。 よって、本件商標は商標法3条1項3号に該当する。 2 本件審決の誤り本件審決は、「本件商標の構成全体から「論理的な穀物」ほどの漠然とした意味合いを理解する」と認定した。本件審決は、その理由部分において、「倫理的」とすべき点を一貫して「論理的」と記載しているが、「エシカル」の意味を正し く十分に理解していれば、このような誤りは生じ得ない。 前記1のとおり、「エシカルグレーン」は、「地球環境に配慮した持続可能な社会を実現するための取り組みを行うことを企業理念として掲げて生産・販売される穀物を原材料とするウイスキー」及びその原材料を意味するから、審決による認定は誤っている。 この誤りは審決の結論を左右するものであるから、本件審決には取り消すべき違法がある。 第4 被告の反論 1 本件商標が商標法3条1項3号に該当するとの点に対して本件商標は飽くまで「エシカルグレーン」であり、これが指定商品における 具体的な品質等を普通に用いられる方法で直接表示するものかが検討されるべきである。「エシカル」に「倫理的な。環境に配慮した。」といった意味があるとしても、これらは理念・姿勢・価値判断を表示する抽象的な 体的な品質等を普通に用いられる方法で直接表示するものかが検討されるべきである。「エシカル」に「倫理的な。環境に配慮した。」といった意味があるとしても、これらは理念・姿勢・価値判断を表示する抽象的な観念を示すにとどまる。すなわち、「エシカル〇〇」が、選定・調達・農法・工程・サプライチェーンのいずれの段階において倫理的であるのかは不明であり、需要者である消 費者はその具体的な品質を理解できない。また、「グレーン」が、穀物一般又は - 6 -グレーンウイスキーを意味し得ることは争わないが、それ自体が酒類一般の品質表示として通念化しているとはいえない。 そして、実際に穀物やウイスキーの品質等を表示するものとして「エシカルグレーン」という文字列が使用された例は皆無である。 そうすると、本件商標は、指定商品の具体的な品質等を普通に用いられる方 法で直接表示するものではなく、商標法3条1項3号に該当しない。 2 本件審決の誤りとの点に対して原告は、本件審決が「倫理的」を「論理的」と記載したことを論難するが、本件審決は一貫して「エシカル」(倫理的)の語義を把握して、使用例、取引の実情及び職権調査の結果をもって、本件商標が商標法3条1項3号に該当しない と判断したものである。「論理的」との記載については、文脈上、本件審決が「倫理的」と記載すべきところを「論理的」と誤って記載したことは明白であり、そのような誤記が数か所みられるとしても、本件審決の結論には影響しない。 第5 当裁判所の判断 1 商標法3条1項3号について 商標法3条1項3号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くとされているのは、これらの商標が、指定商品又は指定役務の関係で、取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから、特定人によるその 法3条1項3号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くとされているのは、これらの商標が、指定商品又は指定役務の関係で、取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから、特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに、一般的に使用される標章であって、多くの場合自他商品識別力を欠き、商標としての機能を果たし 得ないものであることによるものである(最高裁昭和53年(行ツ)第129号同54年4月10日第三小法廷判決・裁判集民事126号507頁参照)。 そうすると、ある商標が、その指定商品について商品の品質、原材料その他の特徴(以下「品質等」という。)を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるというためには、当該商標が当該商品との関係で商品の品 質等を表示記述するものであって、当該商標が当該商品に使用された場合に、 - 7 -取引者、需要者により、将来を含め、商品の品質等を表示したものとして一般に認識されるものであることを要すると解される。そして、当該商標の取引者、需要者によって当該商品に使用された場合に商品の品質等を表示したものと一般に認識されるかどうかは、当該商標の構成やその指定商品に関する取引の事情を考慮して判断すべきである。 2 検討これを本件についてみると、前記第2の2のとおり、本件審決は、その判断部分において、「エシカル」は「倫理的な」等の意味を有すると認定しているものの、その後の「エシカル」の使用例や、本件商標についての検討の場面では、「エシカル」の文字から「論理的な」の意味合いが生ずるとした上で、本件商標 の構成全体から「論理的な穀物」ほどの漠然とした意味合いを生ずるなどと認定しており、本件商標の構成から生じる観念を正しく検討していないとい ら「論理的な」の意味合いが生ずるとした上で、本件商標 の構成全体から「論理的な穀物」ほどの漠然とした意味合いを生ずるなどと認定しており、本件商標の構成から生じる観念を正しく検討していないといわざるを得ない。 この点について、被告は、本件審決中の「論理的」との記載は、「倫理的」と記載すべきところを「論理的」と誤って記載したことが明白であり、そのよう な誤記が数か所みられるとしても、本件審決の結論には影響しないと主張する。 しかし、本件審決は、理由の核心部分といえる「当審の判断」部分において、辞書等に載録された意味を引き写す冒頭の部分を除き、全ての箇所において「論理的な」、「論理的に配慮された」又は「論理的な穀物」などと記載しているのであって、これらが審判官による単純な誤記であると即断することはできない。 前記のとおり、ある商標がその指定商品について商品の品質等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるというためには、当該商標が当該商品に使用された場合における取引者、需要者の一般的認識を検討すべきところ、本件審決は、その検討の前提となる構成から生じる意味を誤っているから、結局は商標法3条1項3号該当性判断の核心部分における検討を誤っ ているというほかなく、この誤りは結論に影響を及ぼすものというべきである。 - 8 -したがって、本件審決は、商標法3条1項3号該当性の判断に誤りがあって、この誤りは、審決の結論に影響を及ぼすものであるから、本件審決には取り消されるべき違法がある。原告の主張する取消事由には理由がある。 3 結論以上のとおり、原告が主張する取消事由には理由があり、本件審決には取り 消されるべき違法があるから、本件請求を認容することとして、主文のとおり判決する。 主文 以上のとおり、原告が主張する取消事由には理由があり、本件審決には取り消されるべき違法があるから、本件請求を認容することとして、判決する。 理由 知的財産高等裁判所第1部 裁判長裁判官 増田稔 裁判官 伊藤清隆 裁判官 天野研司
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