昭和57(ヨ)286 なかやタクシー懲戒解雇

裁判年月日・裁判所
昭和57年11月25日 千葉地方裁判所
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【DRY-RUN】主   文 一 債務者は、債権者に対し、昭和五七年一一月から昭和五八年六月まで毎月末日 限り各金二三万円を支払え。 二 債権者のその余の申請を却下する。 三 申請費用は債務者の負担とする。      

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判決文本文6,167 文字)

主   文 一 債務者は、債権者に対し、昭和五七年一一月から昭和五八年六月まで毎月末日 限り各金二三万円を支払え。 二 債権者のその余の申請を却下する。 三 申請費用は債務者の負担とする。        理   由 第一 当事者の求めた裁判 一 債権者 1 債権者が、債務者のタクシー運転手の地位にあることを仮に定める。 2 債務者は、債権者に対し、昭和五七年六月から本案判決の確定に至るまで毎月 末日限り金二五万一八八〇円を仮に支払え。 3 主文第三項と同旨 二 債務者 1 本件申請を却下する。 2 申請費用は債権者の負担とする。 第二 当裁判所の判断 一 雇用契約の成立等について 1 債務者が、旅客自動車運送事業を目的とする会社であることは当事者間に争い がない。 2(一)疎明資料によれば、次の事実が一応認められる。 (1)債権者は、昭和五三年四月に第二種免許を取得して以来、タクシーの運転手 等の職に就いてきたが、昭和五五年ころから時々アルバイトの運転手として債務者 でタクシーに乗務したことがあつた。 (2)債務者では、従業員を採用する場合には、先ず就業規則所定の書類選考、面 接試験を行なつたうえで、これらに合格した者を試用し、原則として二か月間の試 用期間中の勤務成績等を検討したうえで本採用の可否を決定するが、債務者の都合 又は被試用者の勤務成績等によつては試用期間を延長することがある。 (3)債権者は、昭和五七年二月二一日債務者に試用され、その後二か月間が経過 したが、試用期間の延長はされなかつた。 (二)以上によれば、債権者は、昭和五七年四月二一日には、試用期間を経過し て、本採用されたものということができる。 二 懲戒解雇の意思表示と債務者主張のその理由について  債務者が昭和五七年六月七日付でその翌日ごろ到達の内容証明郵便で債権者を懲 戒解雇する旨の意思表示をした て、本採用されたものということができる。 二 懲戒解雇の意思表示と債務者主張のその理由について  債務者が昭和五七年六月七日付でその翌日ごろ到達の内容証明郵便で債権者を懲 戒解雇する旨の意思表示をしたことは当事者間に争いがなく、債務者が懲戒解雇の 理由として次の1ないし4の事実を主張し、右事実は後記認定の債務者の就業規則 六八条八号及び九号に該当すると主張する。 1 債権者は、タクシーに乗務中に無線を使つての私語が多く、特に、これまで十 数回に亘つて、「今日はゴミ(基本料金の乗客のこと)ばつかりで乞食野郎が多い や」などと乗客や他の従業員に対し不快感を与えるような言葉を発した。 2 債権者は、昭和五七年五月女性の乗客に対し、コーヒーを飲みに誘つたことが あつたが、このようなことは他にも四、五件あり、そのうち三人の乗客からは債務 者に苦情の電話が寄せられた。 3 債権者は、他の従業員に対し、「俺はだてにスミ(刺青のこと)を入れている のではないぞ」とか「こんど車から降りて行つてぶん殴るぞ」などといつた暴言を 吐き、このため他の従業員から恐れられ、職場の雰囲気も著しく悪くしている。 4 債権者と債務者代表者との間で、昭和五七年六月一日債権者とアルバイトの運 転手のいずれがタクシーに乗務するか問題になつたとき、債権者は、代表者の命令 にも素直に応じようとはせず、逆に同人に対し「この馬鹿野郎」などと暴言を吐い た。 三 債務者主張の右事実の存否について 1 そこで、債務者が懲戒解雇の理由として主張する右各事実の存否について検討 するに、疎明資料によれば次の事実が一応認められる。 (一)債権者は、昭和五七年四月始めころ、タクシーに乗務して客待ちをしている 間に、当日は基本料金の乗客が続いたため、同僚の運転手であるAに対し「今日は ゴミばかりでいやになつちやうなあ」と話しかけた。  と 債権者は、昭和五七年四月始めころ、タクシーに乗務して客待ちをしている 間に、当日は基本料金の乗客が続いたため、同僚の運転手であるAに対し「今日は ゴミばかりでいやになつちやうなあ」と話しかけた。  ところで、債務者のタクシーで使用されている無線は、債権者所有のタクシー一 一台全部に通じるものであり、債権者の右発言もこれら全車両において受信されう るものであつた。そして、現に、債務者の他の従業員の中には、右のような発言を 聞いて不愉快な気持ちになつたものもあつたし、また、右発言が他のタクシーの乗 客に聞こえている可能性はあつた。ただ、タクシー運転手の間ではしばしば基本料 金の客のことを「ゴミ」と呼ぶことがあつた。  そこで、債務者の従業員であるB及びCが、債権者に対し右発言をたしなめた が、債権者は素直にこれを聞き入れようとはしなかつた。 (二)債権者は、昭和五七年五月ころから腰痛を感じるようになつたが、同月二八 日痛みが激しくなつたので、債務者に対し同月三〇日から一週間休みたいと連絡し たうえ、同月三〇日及び三一日は勤務を休み、針治療を受けたところ痛みも軽快し たので、同月三一日に債務者に対し明日から出勤する旨の連絡をした。  ところが、債権者が、六月一日に出勤すると、債権者の代わりに予め債務者の依 頼しておいたアルバイトの運転手が来ており、債務者代表者から「アルバイトを頼 んだから帰れ」等と語気強く言われたことから、債権者と債務者代表者との間で口 論となり、ついには債務者代表者から「お前なんかもう来なくてよい。」と債権者 を解雇する趣旨の発言がなされ、これに対し、債権者も「この馬鹿野郎」などと言 い返して退社した。  その後、債権者は債務者に架電したが、代表者が不在であつたためその妻に前記 暴言について謝罪し、代表者にも謝罪の意を伝えるよう依頼し、さらに同月三日債 権者は の馬鹿野郎」などと言 い返して退社した。  その後、債権者は債務者に架電したが、代表者が不在であつたためその妻に前記 暴言について謝罪し、代表者にも謝罪の意を伝えるよう依頼し、さらに同月三日債 権者は債務者事務所に赴き、代表者に対し重ねて謝罪したが、同人から宥怒を得ら れず、前判示のように同月七日付の解雇通告書が送付されてきた。 2 以上の限度で債務者主張の事実が認定しうるものの、それ以外の事実について は次のとおり認定しえない。 (一)まず、債務者は、債権者が乗務中に乗客のことを「ゴミ」と言つたのは、右 三1(一)に認定したものを含め十数回にも及ぶと主張するが、これを認めるに足 りる疎明資料はない。 (二)次に、前記二2の事由については、疎乙第三号証及び債務者代表者の供述中 にはこれに副うかの如き部分もないわけではないが、債権者の供述と比照してみる と右疎明のみでは右事由を認めることはできず、他にこれを認めるに足りる疎明資 料はない。 (三)さらに、前記二3の事由については、疎明資料によれば、債権者が行なつた という発言について、その日時、場所、発言がなされるに至つた状況等は、いずれ も全く不明であつて具体性に欠けるなど、これを疎明あつたということはできな い。 四 疎明資料によれば、債務者の就業規則第五七条には、従業員の違反行為に対 し、譴責、減給、昇給停止、乗務停止、出勤停止、減俸、格下げ、懲戒休職及び懲 戒解雇の各懲戒処分が定められており、同六八条には、懲戒解雇事由として、「風 紀紊乱等によつて職務規律をみだし他の従業員に悪影響を及ぼしたとき(八 号)」、他人に対して危害を加え又は故意にその業務を妨げたとき(九号)」と規 定されていることが認められる。 五 本件懲戒解雇の効力について そこで、以上の事実に基づいて本件懲戒解雇の効力について検討する。 1(一)まず、債 害を加え又は故意にその業務を妨げたとき(九号)」と規 定されていることが認められる。 五 本件懲戒解雇の効力について そこで、以上の事実に基づいて本件懲戒解雇の効力について検討する。 1(一)まず、債権者の前記三1(一)の行為は、一応右八号に該当するものとい うことができる。 (二)確かに、乗客のことを「ゴミ」などと呼ぶのは、これを聞いた乗客や他の従 業員に対し不快感を与えることは間違いなく、またこのような発言をも含めた運転 手の乗客に対す態度によつて、結局は債務者の営業に対する乗客の信頼が損なわれ ることにもなるわけであつて、このような行為を軽々に見逃すことはできないもの といわねばならない。 (三)しかしながら、タクシー運転手の間で、しばしば基本料金の乗客のことを 「ゴミ」と呼ぶことがあることや、また債権者が乗客に対して発言したものではな く乗客のいないとき他の同僚に対し無線で発言したにすぎないものであることに鑑 みるならば、債権者の前記発言はことさら強く非難するには当たらないというべき である。 2(一)次に、債権者の前記三1(二)の行為は、一応前記八号、九号に該当する ものと認められる。 (二)ところで、前認定のとおり、債権者が債務者代表者に対し、「この馬鹿野 郎」などと言つたことは、上司に対する場合でなかつたとしても、確かに不穏当な ことではあるが、しかしながら、このような口論となつた原因はさほど重大なもの とはいえず、従業員を指導教育すべき債務者代表者がもつと冷静な対応をしておれ ば、このような口論にまでは至らなかつたのではないかとも考えられ、このような 意味で、右口論について債権者のみを非難することは必ずしも当を得たものとはい えず、さらに右口論の後、債権者は債務者代表者に対して誠意をもつて陳謝してい ることを考えるならば、債務者代表者とすれば、一時的か偶発的 口論について債権者のみを非難することは必ずしも当を得たものとはい えず、さらに右口論の後、債権者は債務者代表者に対して誠意をもつて陳謝してい ることを考えるならば、債務者代表者とすれば、一時的か偶発的な出来事として処 置しえたのではないかとも推察される。 3 疎明資料によれば、これまでの債権者の勤務態度には多少問題があつたかのよ うではあるが、債務者代表者から特に注意されたこともなく、また懲戒処分を受け たこともなかつたことが認められる。 4 ところで、債務者において従業員を懲戒解雇する場合に、その手続については 就業規則等には何らの定めはないのであるが、前認定のとおり、本件解雇は債務者 において、債権者の前記各行為が就業規則六八条に定める懲戒解雇事由に該当する かどうか十分に検討されてうえでなされたものではなく、前記口論の途中で突如と してその意思表示がなされたものである。 5 以上を総合して判断すると、債権者は債務者に雇傭されて後一度も懲戒処分を 受けたことはなく、また本件違反行為の内容・程度等を考慮すると、これに対して 直ちに懲戒処分としては最も重い懲戒解雇にしたことは、著しく妥当性を欠き、解 雇権の濫用であると認められるから、本件解雇の意思表示は無効であるといわなけ ればならない。 六 そこで、次に保全の必要性について検討する。 1 疎明資料によれば、債権者の家族は妻と子供二人の四人家族で、債権者が債務 者から得る賃金収入のみによつてその生活を維持してきたものであつて、本件解雇 により収入の途を失つたこと、解雇後現在までは債権者の預貯金により生活を維持 してきたが、現在においては預貯金もほとんど使い果たし、また他からの援助も全 く期待できない状況にあることが認められる。  従つて、債権者の賃金債権については、保全する必要があるというべきである。 2 次に、保全すべき においては預貯金もほとんど使い果たし、また他からの援助も全 く期待できない状況にあることが認められる。  従つて、債権者の賃金債権については、保全する必要があるというべきである。 2 次に、保全すべき賃金債権の金額とその期間について検討する。 (一)先ず、金領について検討するに、賃金仮払の仮処分は、労働者が収入の途を 断たれたために生ずる差し迫つた生活の危機を回避するために認められるものであ つて、債権者が解雇される以前と同等程度の生活状態を維持することがその目的で はない。従つて仮払を求めうる金額については、必ずしもその労働者の解雇前の賃 金の額が基準となりうるわけのものではない。債権者において、特段の主張・疎明 のない限り、債権者が居住する地域における債権者と同様の家族構成の家庭で必要 とする標準生計費の額をもつて、その一応の基準と考えるべきである。  そして、千葉県人事委員会昭和五七年四月調査によれば、千葉市における四人家 族の場合の標準生計費の月額が金二二万七六一〇円であることが明らかである。  そこで、本件において保全すべき金額は、債権者において特に右額を超える生計 費を必要とする事情の主張・疎明がないから、右額を基礎にして月額金二三万円と 認めるのが相当である。 (二)次に期間について検討する。 (1)過去の賃金については、前記六1に認定した通り、債権者は、解雇後現在ま で自己の預貯金によつて生活を維持してきたのであるから、現時点においては、右 期間の賃金の仮払を求める必要性は認められない。 (2)将来の賃金については、債権者としては、解雇された後しばらくの間は債務 者からの仮払金によつて生活を維持してゆくこともやむを得ないところであろう が、本案訴訟の判決確定に至るまで、右仮払金のみによつてその生活の維持を計ろ うとすることは認められないものといわねばならない 者からの仮払金によつて生活を維持してゆくこともやむを得ないところであろう が、本案訴訟の判決確定に至るまで、右仮払金のみによつてその生活の維持を計ろ うとすることは認められないものといわねばならない。けだし、債権者が将来本案 訴訟を遂行しながらも、他に就職し収入を得ることによつてその生活を維持してゆ くことは十分可能だからである。従つて、仮払を求め得る期間は将来他に就職する ために必要な期間に限定すべきであつて、その期間としては、本決定告知の時から 八か月間と認めるのが相当である。 七 債権者は、賃金仮払の仮処分の他に、債務者のタクシー運転手の地位にあるこ とを仮に定める旨の仮処分をも求めているが、以上のとおり賃金債権が保全され、 差し迫つた生活の危機を回避することが可能となつたのであるから、それ以上にか かる仮処分を求める必要性はないというべきである。 八 以上の次第であるから、債権者の本件申請は、昭和五七年一一月から昭和五八 年六月まで各末日限り金二三万円の仮払を求める限度で理由があるから、事案に照 らし保証を立てさせないでこれを認容し、その余は理由がないから却下することと し、申請費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条但書を適用して、主文のとお り決定する。 (裁判官 小見山進)

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