平成16年11月4日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成15年(ワ)第1423号退職金等請求事件(第1事件)平成15年(ワ)第3867号退職金等請求事件(第2事件)口頭弁論終結日平成16年9月27日判決当事者の表示 (省略) 1 被告は,原告Aに対し,135万4649円及びこれに対する平成15年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は,原告Bに対し,180万1077円及びこれに対する平成15年9月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用は,これを3分し,その2を被告の負担とし,その余は原告らの負担とする。 5 この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,原告Aに対し,221万4049円及びこれに対する平成15年3月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は,原告Bに対し,361万7577円及びこれに対する平成15年9月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,被告の元従業員で被告を退職した原告らが,被告に対し,未払の退職金(原告Aにつき181万4049円,原告Bにつき205万7577円)並びに身分手当(原告Aにつき40万円,原告Bにつき78万円)及び職位手当(原告Bにつき78万円)の支払を求め,これに対して,被告が就業規則の変更による退職金算定基準の変更及び57歳以上の従業員への身分手当及び職位手当の不支給等を主張して争っている事案である。 1 前提となる事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)(1)ア被告は,各種高圧ガスの売買等を目的と 給等を主張して争っている事案である。 1 前提となる事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)(1)ア被告は,各種高圧ガスの売買等を目的とする株式会社である。 原告Aは,昭和18年1月生まれであり,昭和37年6月1日に被告に従業員として雇用され,平成15年1月31日に被告を定年退職した。 原告Bは,昭和18年7月生まれであり,昭和43年9月12日に被告に従業員として雇用され,平成15年7月31日に被告を定年退職した。 イ被告における定年は,原告らが雇用された時点では55歳であったが,昭和63年には60歳に変更されていた(乙1の1)。 (2)ア原告Aは,平成13年5月分まで,基本給,家族手当,住宅手当及び作業手当(同年6月からは営業手当)のほか,被告の給与規定及び人事管理規定に基づく身分手当(ただし,名称は役付手当)として月額2万円の支給を受けていた。 イ原告Bは,平成11年6月から被告の総務部課長兼総務部次長の職にあり,平成13年5月分まで,基本給,家族手当及び住宅手当のほか,被告の給与規定及び人事管理規定に基づき,職位手当及び身分手当としてそれぞれ月額3万円の支給を受けていた。 ウ被告は,上記各規定を変更し,平成13年6月以降,①身分手当を支給しないこととし,また,②57歳の誕生月を迎える年度の5月31日を管理職の任期として,原告らに対し,身分手当及び職位手当を支払わなかった。 (3)ア被告は,平成11年6月1日からの実施として退職慰労金支給規定(以下「退職金規定」という。)を変更した(乙2の5,証人C)。 同変更前の退職金規定(平成7年6月1日実施のもの(甲3の4)。以下「旧退職金規定」という。)では,退職時の 慰労金支給規定(以下「退職金規定」という。)を変更した(乙2の5,証人C)。 同変更前の退職金規定(平成7年6月1日実施のもの(甲3の4)。以下「旧退職金規定」という。)では,退職時の月額基本給に,退職時までの勤続年月数(1か月未満の端数は1か月として切り上げて計算する(甲3の4。勤続月数の計算につき,以下同じ。)。)に応じた支給率を乗じた額を退職金額としていたが,同変更後の退職金規定(平成11年6月1日実施のもの(乙2の5)。以下これを「新退職金規定」という。)は,退職者が57歳以上である場合には,57歳になった時の基本給に,57歳の誕生月までの勤続年月数(1か月未満の端数の扱いについては,上記に同じ。)に応じた支給率を乗じた額を退職金額とする旨の定めとなった。 その後,平成14年6月1日実施で退職金規定が更に改定された(以下,この変更後の規定(甲2の4)を「現退職金規定」という。)が,現退職金規定における退職金額の算定も,上記の新退職金規定の内容と同様である(甲2の4,乙2の5)。 イ原告Aの退職時の基本給の額は月額41万4520円,57歳になった時の基本給の額は月額41万1800円であり,退職時までの勤続期間は40年8か月,57歳になった時までの勤続期間は37年8か月である。 ウ原告Bの退職時の基本給の額は月額46万1630円,57歳になった時の基本給の額は46万0400円であり,退職時までの勤続期間は34年11か月,57歳になった時までの勤続期間は31年10か月である。 エ平成11年の退職金規定の変更前後を通じ,退職金規定による支給率は,勤続期間が40年8か月の場合は37.582,37年8か月の場合は35.512,34年11か月の場合は33.615,31年10か月の場合は31. 退職金規定の変更前後を通じ,退職金規定による支給率は,勤続期間が40年8か月の場合は37.582,37年8か月の場合は35.512,34年11か月の場合は33.615,31年10か月の場合は31.487とされている(甲2の4,3の4,乙2の5)。 オ上記変更前後を通じ,退職金規定には,「退職金の全部,又は一部を会社が任意の機関に積立てをし,従業員の退職や死亡を理由に当該機関から支給される場合は,その額を控除する。年金受給の控除額は,当該機関で算出された退職一時金に相当(現退職金規定では「該当」)するものとする。」との定めがある(甲2の4,3の4,乙2の5)。 また,現退職金規定には,上記の定め(現退職金規定9条1項)に加え,「前項の任意の機関とは,「E基金」及び「F年金」をいう。」(同条2項)との定めがある(甲2の4)。 被告は,従前からF年金に加入し,積立金を拠出しており,また,平成4年ころからはE基金にも加入し,事業主負担となる増加掛金を支払っていた(甲8,12,乙31,証人D,証人C)。 カ被告は,原告Aの退職金を現退職金規定に基づき1462万3841円(41万1800円に支給率として35.512を乗じた額)と算定し,原告Aに対し,後記のF年金及びE基金から支給される額を控除した755万3041円を支払った。 原告Aに対しては,被告を退職するに際し,前記オの加入契約に基づきF年金から621万1400円及びE基金から85万9400円が支払われた。 キ被告は,原告Bの退職金を現退職金規定に基づき1449万6615円(46万0400円に支給率として31.487を乗じた額)と算定し,原告Bに対し,後記のF年金及びE基金から支給される額を控除した865万4915円を支払った。 金規定に基づき1449万6615円(46万0400円に支給率として31.487を乗じた額)と算定し,原告Bに対し,後記のF年金及びE基金から支給される額を控除した865万4915円を支払った。 原告Bに対しては,被告を退職するに際し,前記オの加入契約に基づきF年金から480万5200円及びE基金から103万6500円が支払われた。 (4)平成11年の改定前後を通じて被告の退職金規定では,退職金(退職手当金)は,原則として,退職発令日から1か月以内に支給するものと定められている(甲2の4,3の4,乙2の5)。 2 争点(1)身分手当及び職位手当を原告らに支給しないこととした就業規則(その内容をなす給与規定及び人事管理規定等)の変更が原告らに対して有効か否か(争点1。給与規定等の変更の原告らに対する有効性)(被告の主張)ア原告らの入社当時,被告は55歳定年制を採っており,原告らは55歳以降の賃金について既得権を有していたとはいえず,給与規定及び人事管理規定の変更は就業規則の不利益変更に当たらない。 イ仮に上記給与規定等の変更が不利益変更に当たるとしても,当該変更は,高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである。 (ア)変更の必要性について① 被告の主要業務であるガスの販売業務は成熟産業であり,被告の売上げは平成3年度(1991年度)以降減少傾向にあって,好転の気配はなく,また,被告には借入金の返済として年間5000万円以上の支出があった上,平成10年ころから,医療改革の一環として,医療ガスの価額の上限が設定されるとの話も出てきたことから,将来的に更に経営環境が厳しくなることが想定され,人件費を削減する必要に迫られた。 ② 被告においては,定年を従来の55歳から60 療ガスの価額の上限が設定されるとの話も出てきたことから,将来的に更に経営環境が厳しくなることが想定され,人件費を削減する必要に迫られた。 ② 被告においては,定年を従来の55歳から60歳に引き上げたことによる人件費の増加に対応する必要があったことに加え,従来の給与配分が年功に応じたものとなっていたことで,若手から中堅の従業員の給料が低くなる傾向があり,さらに,年金受給年齢の引上げに伴い,定年を延長して嘱託社員として雇用を継続する措置を検討する必要があった上,企業の趨勢が成果配分へと移行する傾向があり,被告においても営業力を強化するため成果主義への移行を段階的に織り込む必要があったことから,給与体系を合理化すべく,職能給の導入を検討する必要があった。 ③ 被告における身分手当は,いわゆるバブル期に役付手当を補填することを主目的として定められたものであり,上記の職能給制度への移行に抵触するものであった。 (イ)変更内容の相当性,原告らの受ける不利益の程度について① 被告における身分手当は,上記(ア)③の点で廃止することとし,定年が延長された高齢従業員の退職までの給与を確保する必要からも,労働生産性が減少するにもかかわらず定年延長による利益を受けていた高年齢層の賃金を押さえることとし,57歳未満の従業員については基本給に身分手当分を組み入れた。 原告らを含む57歳以上の者について,身分手当等の基本給への組入れをしなかったのは,これらの者は5年間の定年延長による雇用継続の利益を受ける一方で,被告側からすれば生産性の低下する者の雇用継続をすることに伴う賃金の減少が要請され,また,これらの者は55歳定年制のもとで入社しているもので,賃金を減少しても入社時の期待を害することにはならないのであって,不 れば生産性の低下する者の雇用継続をすることに伴う賃金の減少が要請され,また,これらの者は55歳定年制のもとで入社しているもので,賃金を減少しても入社時の期待を害することにはならないのであって,不合理な差別をしたものではない。55歳以上の者を対象とせず,57歳以上の者を対象とした点も,従業員の利益にかんがみて,実質的な不支給の年齢を引き上げたにすぎない。 ② また,役職定年制度を導入して57歳以上の者に職位手当を支給しないこととしたのは,管理職に若年層を取り込み,人事を流動化させ,組織の活性化や新陳代謝を目的としたものである。 ③ 身分手当及び職位手当の廃止ないし不支給による原告らの賃金の減少額は,賃金総額に比して大きいものではない。また,原告らの賃金額は,身分手当を削減しても,原告らの属性に照らし,同業他社と比較しても,低いものではなく,むしろ高い部類に属するものである。 (ウ)代償措置,従業員との交渉等について① 原告らは,定年延長により5年間で約3286万円(原告A)ないし4500万円以上(原告B)の賃金及び賞与の支給を受ける利益を受けている。 一方,被告にとっては,定年延長による従業員構成の高齢化による人材停滞を回避する必要があり,身分手当及び職位手当が廃止ないし不支給とされても,原告らは雇用及び管理職の地位を確保され,上記の高給を得ることができたものであるから,上記給与規定等の変更による不利益は甘受すべきである。 ② 職位手当の57歳以上の者への不支給について就業規則の変更をしたのは平成11年6月であり,平成13年までの間,2年間の猶予期間も設定していた。 また,身分手当の廃止についても,平成11年6月に給与規定等を改定して基本給の2割の削 則の変更をしたのは平成11年6月であり,平成13年までの間,2年間の猶予期間も設定していた。 また,身分手当の廃止についても,平成11年6月に給与規定等を改定して基本給の2割の削減をすることを定め,平成13年から実施することとしていたが,従業員の利益にかんがみ,その実施をやめ,代わりに身分手当を廃止することとしたものであり,実質的に2年間の経過措置を設けている。 ③ 被告は,上記変更について従業員に内容を説明し,変更後の規定の内容を全従業員に回覧して理解を求めた。その後の平成14年の就業規則の変更の際には,説明会を開催して従業員の意見も聴取した。 ④ 原告ら以外の従業員は上記変更について何らの異議を述べていない。また,平成14年6月1日の就業規則の改定では,身分手当が存在しない上,職能給制度を前提として等級号俸を55歳時で停止し,55歳以上の者には職位手当を支給しないものとしているが,原告ら以外の従業員は,すべて同改定に同意している。 ウ以上のとおり,給与規定等の変更は有効であり,原告らに対して効力を有する。 (原告らの主張)ア身分手当及び職位手当を57歳以上の従業員に対して不支給とする給与規定等の変更は,原告らの既得の利益を不当に奪うものであり,同規定の変更は就業規則の不利益変更に当たる。 イ次のとおり,被告の給与規定等を含む就業規則について変更の必要性は認められず,また,変更内容の相当性も認められない。 (ア)変更の必要性について① 被告の事業業績は,別紙「事業業績経過表」記載のとおり,順調に推移しており,第47期の決算期(平成12年6月から13年5月にかけての決算年度。以下,「第○○期」との記載は,このように6月から翌年5月までとな 業績は,別紙「事業業績経過表」記載のとおり,順調に推移しており,第47期の決算期(平成12年6月から13年5月にかけての決算年度。以下,「第○○期」との記載は,このように6月から翌年5月までとなる被告の決算期を指す。)以前においても業績悪化の事実は認められない。 ② 被告における従業員等の給与経費は,第41期(平成6年から7年にかけての年度)から第47期までの間,増加傾向が全く認められず,また,それが経費に占める割合についても同様であって,定年延長による経費の増加を窺わせる状況は何ら存しない。 ③ 本件就業規則等の変更時においては,高齢の長期在職従業員は数名しか存しない上,原告らの給与(基本給)の増額は微少なものに過ぎず,給与体系の見直しをしなければならないような事情は認められない。 (イ)変更内容の相当性について① 第47期以前とそれ以降との(販売費等の)経費の売上高に占める割合と従業員給与等の経費に占める割合とを比較すれば,前者の割合が増加しているのに対し,後者の割合が減少している。すなわち,被告は,給与等以外の経費については削減しないまま,従業員の給与(そのうちでも特に57歳を超える従業員の給与)等を削減することにより,従来どおりの株式配当や役員賞与の支払を維持しようとしているものであり,それが著しく合理性に欠けるものであることは明らかである。 ② また,被告の給与規定等の変更は,57歳を超える従業員に対する身分手当及び職位手当を廃止し,それ未満の従業員に対する各手当相当額は基本給に組み入れて支給するというものであり,公平性に欠ける取扱いであって,なおさら合理性を欠くものである。 ウしたがって,前記の給与規定等の変更は原告らに対しては無効であり,原告らは,被告に 給に組み入れて支給するというものであり,公平性に欠ける取扱いであって,なおさら合理性を欠くものである。 ウしたがって,前記の給与規定等の変更は原告らに対しては無効であり,原告らは,被告に対して,平成13年6月以降の身分手当及び職位手当の支払を請求できる。 (2)新退職金規定への変更は原告らに対して効力が及ぶか,すなわち,原告らの退職金の(積立部分の控除前の)額は新退職金規定(これと内容を同じくする現退職金規定)によって算出すべきか,それとも旧退職金規定によって算出すべきか(争点2。退職金規定の変更の原告らに対する効力の有無)(被告の主張)ア原告らの入社当時,被告は55歳定年制を採っており,原告らは55歳以降の賃金及び勤続期間を基礎とする退職金の算定について既得権を有していたとはいえず,退職金規定の変更は就業規則の不利益変更に当たらない。 イ仮に上記退職金規定の変更が不利益変更に当たるとしても,当該変更は,高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである。 (ア)前記(1)「被告の主張」イ(ア)のとおり,被告は,人件費を削減する必要に迫られていた。現に,平成14年から15年の決算内容によれば,従来の退職金算定基準によると被告は赤字に陥ることとなる。 また,被告における退職金額は,同業他社と比して非常に高額になっていた。 さらに,被告の企業年金の平成14年5月29日時点での積立不足は2764万5344円に上り,退職金規定の改定及び任意基金からの積立分の控除は経営上必至であった。 (イ)原告らが入社した当時は,被告は55歳定年制を採用しており,原告らは60歳までの賃金及びこれを前提とする退職金の支給を期待する立場にはなかった。 また,原告らの新退職金 (イ)原告らが入社した当時は,被告は55歳定年制を採用しており,原告らは60歳までの賃金及びこれを前提とする退職金の支給を期待する立場にはなかった。 また,原告らの新退職金規定による退職金額は55歳定年時での退職金に比して多く,同業他社の水準に比べても高額である。 (ウ)原告らは,前記(1)「被告の主張」イ(ウ)①のとおり,定年延長により賃金及び賞与の支給を受ける利益を受ける一方,被告はこれによる経費を負担しており,退職金規定の変更による減額程度の不利益は甘受すべきである。 また,同③のとおり,被告は,上記変更について従業員に内容を説明し,変更後の規定の内容を全従業員に回覧して理解を求め,同④のとおり,原告ら以外の従業員は上記変更について何らの異議を述べていない。また,平成14年6月1日の就業規則の改定では,原告ら以外の従業員は,すべて同改定に同意している。 ウしたがって,退職金規定の変更は有効であり,原告らの退職金額は新退職金規定(これと内容を同じくする現退職金規定)に従って算定される。 (原告らの主張)ア新退職金規定の内容は,旧退職金規定による退職金に関する原告らの既得の利益を不当に奪うものであり,新退職金規定への変更は就業規則の不利益変更に当たる。 イ前記(1)「原告らの主張」イ(ア)のとおり,新退職金規定への変更を含む就業規則の変更の必要性は認められず,また,同(イ)と同様に,新退職金規定は,57歳を超える従業員に対する退職金についてのみ退職金算定の勤続年数を短縮し,57歳を超える退職金額を削減することにより,従来どおりの株式配当や役員賞与の支払を維持しようとするものであり,著しく合理性に欠け,公平性にも欠ける。 ウしたがって,新退職金規 数を短縮し,57歳を超える退職金額を削減することにより,従来どおりの株式配当や役員賞与の支払を維持しようとするものであり,著しく合理性に欠け,公平性にも欠ける。 ウしたがって,新退職金規定への変更は原告らに対して効力を有せず,原告らの退職金額は旧退職金規定に従って算出されることになり,原告Aの退職金の額は,退職時の基本給の額41万4520円に勤続期間が40年8か月の場合の支給率37.582を乗じた1557万8490円,原告Bの退職金の額は,退職時の基本給の額46万1630円に勤続期間が34年11か月の場合の支給率33.615を乗じた1551万7692円である。 (3)E基金からの支給額が退職金規定に基づき退職金の支払額から控除されるか否か(争点3。E基金からの支給額の控除の当否)(原告らの主張)ア旧退職金規定のもとでは,E基金から支給される年金額は退職金額から控除しない慣行があった。すなわち,旧退職金規定下においては,E基金から支給される年金について,退職制度とは別のいわゆる外枠制度を採っていた。 イ被告は,E基金からの支払われる年金額につき,現退職金規定において,控除対象となることを定め(前記1(3)オ),上記アの外枠制度から年金給付を退職金に含ませる内枠制度に変更した。 ウ上記イの変更は,労働条件の一方的な不利益変更であり,合理性はなく,無効である。 (被告の主張)ア旧退職金規定のもとでも,E基金から支給される年金額は退職金額から控除することとなっていた。 上記基金からの支給額については元総務部長及び同次長が勝手に控除しない扱いをした例があるのみであり,E基金から支給される年金額を控除しないとの労使慣行は存しない。 イ被告は,上記元総務部長及び同 金からの支給額については元総務部長及び同次長が勝手に控除しない扱いをした例があるのみであり,E基金から支給される年金額を控除しないとの労使慣行は存しない。 イ被告は,上記元総務部長及び同次長らが総務部を出た後に,E基金からの支給について本来の扱いに改善したにすぎず,現退職金規定9条2項の定めも扱いの明確化を図ったにすぎないものであり,就業規則の変更に当たらない。 第3 争点に対する判断 1 就業規則の不利益変更の判断基準について(1)本件において,被告は,給与規定等及び退職金規定の変更は就業規則の不利益変更に当たらないと主張しているので,まずこの点について判断する。 本件で問題となる身分手当及び職位手当の支給並びに退職金の額については,いずれも就業規則の記載事項であり(労働基準法89条2号及び3号の2),また,いったん就業規則で雇用契約時における労働条件よりも労働者に有利な条件が定められた場合には,就業規則の内容に従って労働条件は変更されるものである(同法93条)。したがって,原告らの雇用時において55歳定年制を採っていたとしても,原告らの雇用期間内に定年が60歳に延長された以上,いったん就業規則(ないしその内容をなす諸規定)で定められた55歳を超える期間の労働条件をその後に一方的に原告ら労働者に不利に変更することは,いわゆる就業規則の不利益変更に当たり,労働者の既得権を奪うものとして,原則として許されないものというべきである。 被告の定年は,前記のとおり既に昭和63年には60歳になっていたものであり,本件において問題となるのは平成7年に実施された就業規則のその後の改定についてであって,定年延長に伴ってされた改定とはいえず,いったん形成された賃金及び退職金についての労働条件を切り下げるものであることは明らか 問題となるのは平成7年に実施された就業規則のその後の改定についてであって,定年延長に伴ってされた改定とはいえず,いったん形成された賃金及び退職金についての労働条件を切り下げるものであることは明らかであるから,上記の被告の主張は,失当である。 (2)一方,労働条件の集合的処理,特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって,当該規則条項が合理的なものである限り,個々の労働者において,これに同意しないことを理由として,その適用を拒むことは許されない(最高裁昭和43年12月25日大法廷判決・民集22巻13号3459頁参照)。 そして,当該規則条項が合理的なものであるとは,当該就業規則の作成又は変更が,その必要性及び内容の両面からみて,それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても,なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認することができるだけの合理性を有するものであることをいい,特に,賃金,退職金など労働者にとって重要な権利,労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については,当該条項が,そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において,その効力を生ずるものというべきである(最高裁昭和63年2月16日第三小法廷判決・民集42巻2号60頁参照)。 この合理性の有無は,具体的には,就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度,使用者側の変更の必要性の内容・程度,変更後の就業規則の内容自体の相当性,代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況,労働組合等との交渉の経緯,他の労働組合又は他の従業員の対応,同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して判断すべきである(最高裁平 性,代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況,労働組合等との交渉の経緯,他の労働組合又は他の従業員の対応,同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して判断すべきである(最高裁平成9年2月28日第二小法廷判決・民集51巻2号705頁,最高裁平成12年9月7日第一小法廷判決・民集54巻7号2075頁参照)。 以下,争点1及び2に関して,上記の点につき検討する。 2 就業規則の不利益変更の合理性に関する事実関係について本件において,賃金及び退職金に関する就業規則の内容をなす給与規定及び人事管理規定並びに退職金規定の各規定の変更の合理性を判断するについて,後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,関連する事実関係として次の事実が認められる。 (1)就業規則の変更の必要性及び変更の経過に関して(甲2の1ないし4,3の1ないし4,6の1ないし9,8,乙2の1ないし5,3,5,8から12まで,13の1ないし4,26,27の1ないし5,28の1ないし3,29,33,34,証人D,証人C)ア被告の売上高は,第41期(平成6年から平成7年にかけての年度)から第44期(平成9年から平成10年にかけての年度)まで,20億円を超えていたが,第45期(平成10年から平成11年にかけての年度)に17億円弱となって以降,17億円弱から18億円弱の間を推移し,第49期(平成14年から平成15年にかけての年度)には15億5000万円弱となった。一方で,被告の営業利益の額は,第41期(平成6年から平成7年にかけての年度)から第49期までの間に,1422万円,7562万円,5014万円,5436万円,1431万円,4712万円,6942万円,5788万円,2420万円と推移し,また,この間の各期の当期利益額は,それぞれ2093万円,6 に,1422万円,7562万円,5014万円,5436万円,1431万円,4712万円,6942万円,5788万円,2420万円と推移し,また,この間の各期の当期利益額は,それぞれ2093万円,6070万円,4069万円,972万円,4421万円,715万円,1427万円,4010万円,2608万円となっている。 支出についてみると,上記の期間では,支払利息は第41期に2455万円と最も多く,その後は第48期(平成13年から平成14年にかけての年度)まで900万円強から1300万円強の間を推移し,第49期に779万円となっている。 この間,長期借入金の残高は,第41期に6億7455万円であったのが,第42期に3億4870万円となり,第44期までに2億5590万円まで減少した後,第46期までに3億2180万円まで増えたが,その後減少し,第48期に2億1720万円,第49期に1億6700万円となっている。短期借入金は第41期に9000万円であったのが,第43期から第47期まで1億1000万円,第48期及び第49期に1億4000万円となっている。 また,退職金を除く人件費の額は,第41期から第45期まで4億円ないし4億3000万円弱を推移していたが,第46期及び第47期には3億7000万円程度,第49期には3億4000万円弱となっている。退職金の支給額(退職給与引当金からの充当額を除く。)は,第41期から第49期の間では,0円から2798万円の間であり,同期間の平均では各期当たり1069万円となっている。 販売費及び一般管理費に占める人件費(退職金の支給額を含み,退職給与引当金からの充当額を除く。)は,第41期から第47期まで,概ね70パーセント弱(給与,賞与及び退職金についてみると,概ね62ないし65パーセント)であったが 人件費(退職金の支給額を含み,退職給与引当金からの充当額を除く。)は,第41期から第47期まで,概ね70パーセント弱(給与,賞与及び退職金についてみると,概ね62ないし65パーセント)であったが,第48期及び第49期には概ね63ないし65パーセント(給与,賞与及び退職金についてみると,概ね57ないし59パーセント)となっている。 その一方,役員賞与として,第41期から第48期までの間に,それぞれ680万円,1225万円,1150万円,580万円,792万円,770万円,930万円,900万円が支給されている(第49期は支給がされていない)。従業員の賞与額は,同期間に,それぞれ6881万円,6387万円,8202万円,7741万円,6234万円,5738万円,6487万円,5902万円と推移している(第49期は4939万円)。 そのほかの支出項目としては,貸倒損失が第41期から第45期までは(第43期の236万円を除き)ほとんどなかったが,第46期から第49期にかけては,それぞれ1082万円,5129万円,2976万円,855万円生じている。また,交際接待費としては,第46期から第49期までの平均で各期当たり700万円余り,旅費交通費は800万円余り支出されている。 イ被告の業務の中心は高圧ガスの販売であり,売上高ではガスの販売が6割程度,その他機械の販売等が4割程度となっていたが,利益額でみるとガスの販売が約8割であった。ガスの販売には,産業ガスの販売と医療ガスの販売があり,医療ガスが売上,利益額の約2割5分ないし3割程度を占めていた。 医療ガスについては,平成10年ころから,価額の上限が設定されるとの噂が業界内であり,平成14年に至って液体酸素,酸素ボンベ等の上限価格が国により設定された。そして,平 程度を占めていた。 医療ガスについては,平成10年ころから,価額の上限が設定されるとの噂が業界内であり,平成14年に至って液体酸素,酸素ボンベ等の上限価格が国により設定された。そして,平成14年には,診療報酬改定もあり,前年に比して医療ガスの売上が8割,利益が7割程度に落ち込んだ。また,同じころ,産業ガスのユーザーである溶接関連企業の倒産も増え,取引先の中にも倒産する企業が出てくるようになった。 ウ被告の取締役会ないし幹部会では,上記の状況を踏まえ,平成10年ころから,経費の削減方策が検討されていた。 また,被告の経営計画発表会では,同年ころから,成果主義の導入や退職金額の引下げも検討されていた。C常務取締役(平成11年当時。後に専務取締役)ら被告役員の多くは,平成11年当時,被告の給与体系が年功に応じたものとなっており,労働生産性の劣る高齢労働者の賃金が相対的に高くなり過ぎているとの認識や,退職金額が地場企業として相対的に高額であるとの認識,さらには,成果主義の導入とともに若年層に管理職への道を開く必要性があるとの認識をもっていた。 そこで,同年,被告の取締役会において,高年層の給与額及び退職金の支給額を引き下げること並びに管理職定年を設けることが検討され,これに対してD取締役が当面は給与減額等の措置は必要ないとして異議を述べたものの,就業規則の変更をすることが決められ,同年6月,①平成13年6月から,満年齢57歳の誕生月をもって基本給を2割減額する(千円未満は切り捨てる。)旨の給与規定の定め,②平成13年6月から,57歳の誕生月を迎える年度の5月31日を管理職の任期として以降は職位手当を支給しないこととする旨の人事管理規定の定めがそれぞれ設けられ,また,③退職金規定についても,平成11年6月か 年6月から,57歳の誕生月を迎える年度の5月31日を管理職の任期として以降は職位手当を支給しないこととする旨の人事管理規定の定めがそれぞれ設けられ,また,③退職金規定についても,平成11年6月から,退職者が57歳以上である場合,57歳になった時の基本給に,57歳の誕生月までの勤続年月数に応じた支給率を乗じた額を退職金額とする旨の定めに変更された。 エ被告取締役の役員報酬は,平成11年9月から11月までの3か月間,1人当たり8万円から15万円(代表取締役については52万円)の減額がされ,平成14年10月から平成15年5月までの8か月間も1人当たり10万円又は20万円(代表取締役については40万円)の減額がされている。役員の退職慰労金に関する規程も平成6年及び平成12年に改定され,前者の改定では支給率を改定前の3分の1(非常勤の場合)から7割程度に減額し,後者の改定では支給率を改定前の2分の1から8割程度に減額している。なお,後者の改定後の支給基準による退職慰労金の支給を受けたのは,これまでのところDのみである。 オ被告は,平成13年6月,前記ウ①の変更による従業員に対する影響が大きいことから同変更を取りやめ,その一方で,職能給制度ないし成果主義を部分的に導入すべく,職能資格規程等を新たに設け,これに伴い,身分手当を支給しないこととした。 また,同月,被告は前記ウ②の変更を実施した。 カ被告は,さらに,平成14年6月,前記ウ②の管理職の任期を55歳に引き下げる就業規則(人事管理規定)の改定をするとともに,退職金規定を新退職金規定から現退職金規定に改め,前記第2の1(3)オのとおり,退職金支給額の控除対象となる退職金積立て先である任意の機関とは,E基金及びF年金である旨の定めを設けた。 (2)変更内容の相 を新退職金規定から現退職金規定に改め,前記第2の1(3)オのとおり,退職金支給額の控除対象となる退職金積立て先である任意の機関とは,E基金及びF年金である旨の定めを設けた。 (2)変更内容の相当性及び原告らの被る不利益の程度に関して(甲2の2,8,9の2及び3,乙2の1ないし5,13の2及び4,19,44,証人D,証人C,原告B本人,原告A本人)ア平成11年6月当時の被告の従業員数は概ね65名程度であった。そのうちで,当時満年齢が57歳以上の従業員は3名ないし4名程度,55歳以上の者が(57歳以上の者を含め)7名から9名程度であった。 原告らの後に定年退職をしたのは,平成16年に1名であり,平成17年に定年に達する者も1名である。 イ原告Aの退職金額は,新退職金規定に従って算出すると1462万3841円,旧退職金規定に従うと1557万8490円であり,その差額は95万4649円(後者の約6.1パーセント。退職時の基本給の約2.3か月分)である。原告Bの退職金額は,新退職金規定に従って算出すると1449万6615円,旧退職金規定に従うと1551万7692円であり,その差額は102万1077円(後者の約6.6パーセント。退職時の基本給の約2.2か月分)である。 ウ平成7年6月1日実施の給与規定(甲3の2)によれば,賃金の中に役付手当が掲げられ,役付手当は職位手当に身分手当を加えたものとされており,職位手当及び身分手当の内容は別途定める人事管理規定によることとされていた。そして,身分手当については,人事管理規定(甲3の3)において,身分の昇進基準として,「参事は副参事,副参事は主事の内より昇進に値する技量を有する者」,「主事は社員の内より昇進に値する技量を有する者」と定められ,在資格年数として,副参事2級 3の3)において,身分の昇進基準として,「参事は副参事,副参事は主事の内より昇進に値する技量を有する者」,「主事は社員の内より昇進に値する技量を有する者」と定められ,在資格年数として,副参事2級は原則として3年以上,副参事1級は5年以上とされ,副参事2級については2万円,副参事1級については3万円の身分手当を支給するものと定められていた。また,職位手当については,課長代理以上の管理職の職位手当について定められ,次長の職位手当は月額3万円と定められていた。 給与規定及び人事管理規定については,前記(1)ウのとおり,平成11年に改定がされたが,身分手当に関する上記の規定の内容に変更はなく,職位手当については,同ウ②のとおり,57歳の誕生月を迎える年度の5月31日を管理職の任期とする改定(平成13年6月実施)がされたほかは,上記の内容と同様であった。 原告Bは,平成11年12月に,総務部課長兼総務部次長から被告G営業所業務次長への異動の発令を受け,平成12年1月から同営業所に移った。もっとも同営業所では,具体的に役割の定まった仕事はなく,同営業所所長からは課長や課長代理の相談にのり,これを指導するよう指示を受けていた。原告Bは,退職時まで同営業所業務次長の地位にあり,平成13年6月までは次長の職位手当として月額3万円の支給と,副参事1級に相当する月額3万円の身分手当の支給を受けていたが,同月以降,これらの支給がされなくなった。 また,原告Aは,同月までは,副参事2級に相当する月額2万円の身分手当の支給を受けていたが,同月以降,この支給がされなくなった。 エ被告は,前記(1)オのとおり,平成13年6月,職能資格規程等を新たに設け,基本給を年齢給と職能給に分け,職務関連の諸手当としては,管理職手当,役付手 同月以降,この支給がされなくなった。 エ被告は,前記(1)オのとおり,平成13年6月,職能資格規程等を新たに設け,基本給を年齢給と職能給に分け,職務関連の諸手当としては,管理職手当,役付手当,営業手当の3種として,身分手当は支給しないこととし,それぞれ管理職手当は課長代理以上,役付手当は係長及び主任,営業手当は管理職・事務職・業務担当を除いた者を対象にするものとした。ただし,上記の内容に従った給与規定の改定は,平成14年6月になってされたものである。 上記の扱いの変更に際して,被告は,従業員の基本給の額について,変更以前の給付額から減ることのないように等級等を定め,また,身分手当の不支給に伴う措置としては,57歳未満の従業員については基本給にそれまで支給されていた身分手当分が組み入れられるようにしたため,結果的に,57歳以上の者に対する身分手当に相当する額の支給のみが実質的に削減されることとなった。 また,被告は,上記変更に際し,概ね40歳以下の若年層の従業員に対する給与については,従前の額よりも大幅に増額するよう改めた。 オ平成13年6月以降支給されなかった身分手当及び職位手当の額は,原告Aの月額給与の約5パーセント,原告Bの月額給与の約13パーセント(各手当で約6.5パーセント)に相当するものである。 原告Bについてみると,平成12年8月から平成13年7月までの給与(賞与を除く。)の支給額は625万9260円であったが,平成13年8月以降は年額567万1560円と約9.4パーセントの減額になっている。同原告に対する賞与を含めた平成14年8月からの1年間の被告からの支給額は656万5560円である。 カ前記(1)記載の平成11年,13年及び14年の各就業規則改定に際し,被告の取締役会 。同原告に対する賞与を含めた平成14年8月からの1年間の被告からの支給額は656万5560円である。 カ前記(1)記載の平成11年,13年及び14年の各就業規則改定に際し,被告の取締役会ないし幹部会においては,改定による経費の削減効果の試算等の検討はされず,計数的な分析に関しては,業績の対前年比の数字を基に,経費削減の必要性の面での分析をしたのみである。 キ第50期以降の退職金額を試算すると,60歳の定年時を基準に退職金を算定した場合と,57歳を基準として退職金額を算定した場合とでは,年間の支出額の差は概ね100万円程度であり,最も多い第58期(平成23年から平成24年にかけての年度)で400万円程度(ただし,その前後の期は退職金額に全く差異がない。)である。 (3)就業規則の変更の手続に関して(甲7,8,乙18の1ないし9,20の1及び2,21から26まで,証人D,証人C,原告B本人,原告A本人)ア平成11年6月の就業規則の改定については,改定後に周知を図るため,従業員らに回覧されたが,事前に従業員ら又は従業員代表者の意見聴取はされなかった。 イ原告らを含む55歳を超える従業員7名は,同年11月8日付けで就業規則の改定の理由の開示と改定の経過の説明を求める書面(甲7)を被告代表者宛てに提出した。 同書面においては,原告らは,開示,説明を求める対象事項として,①休職の扱い,②基本給の変更,③退職金の計算方法を掲げていた。 D及びCらは,これを受け,同従業員らに対し,就業規則の変更内容の説明はしたが,被告はこの方針で行うとして,従業員からの意見や質問は受け付けず,被告の経営状況等についても具体的な説明はしなかった。 ウ被告は,平成13年6月,同月から実施される就業規則の改定による たが,被告はこの方針で行うとして,従業員からの意見や質問は受け付けず,被告の経営状況等についても具体的な説明はしなかった。 ウ被告は,平成13年6月,同月から実施される就業規則の改定による新人事システムの説明会を開催した。 エ平成14年6月の就業規則改定の際には,従業員に対する事前の意見聴取はされず,被告は従業員に対する同月19日に説明会を実施した。被告は,その後に,変更後の規定の内容を従業員らに回覧し,同改定についての従業員代表も定められたが,原告らからは,従業員代表に対する委任を撤回する旨の異議が述べられた。なお,他の者からは異議は述べられなかった。 3 争点1(給与規定等の変更の原告らに対する有効性)について前記認定事実をもとに,原告らに対する職位手当及び身分手当の不支給につき,就業規則の変更の原告らに対する有効性との関係で,その当否を判断する。 (1)職位手当についてア前記2認定のとおり,被告においては,①第45期(平成10年から平成11年にかけての年度)に大幅に売上高が減少し,営業利益が前年の4分の1(当期利益は前年より増えているが,これは前年に多額の役員退職金の支出があったことによる。)となり,不況の中で売上高及び利益額の相当部分を占める医療ガスについて価額の上限設定の動きもあるなど業績の好転の見通しも立たない状況であったものであって,平成11年当時経費削減の方策を講じる必要があったこと,②60歳定年制の下で,基本的に年功序列型の賃金体系を維持していたが,被告役員らの多くは,労働生産性の劣る高齢労働者の賃金が相対的に高くなり過ぎているとの認識をもち,成果主義の導入とともに若年層に管理職への道を開く必要性があると認識し,経営計画発表会においても成果主義の導入の必要性が述べられていたこと,③平 者の賃金が相対的に高くなり過ぎているとの認識をもち,成果主義の導入とともに若年層に管理職への道を開く必要性があると認識し,経営計画発表会においても成果主義の導入の必要性が述べられていたこと,③平成11年には被告取締役の役員報酬の減額も実施されたことが認められるのであり,平成11年に就業規則の改定を行ったこと自体は,被告にとって,高度の経営上の必要性に基づくものであったということができる。 イまた,平成11年にされた管理職の任期を定める人事管理規定の変更と,57歳以上の従業員の基本給の減額を定める給与規定の変更及び57歳を基準とする退職金の計算を定める退職金規定の変更とでは,前者が人事の流動化ないし新陳代謝を図ること等をも目的とするものと見られるのに対し,後者はもっぱら経費の削減のみを図るものと見られるものであり,これらの改定時期は同じであって相互に関連性は見られるとはいうものの,それぞれ別異の改定と解しうるものであるが,職位手当のみについて見れば,改定により原告Bの被る不利益は,定年時までの総額で78万円,給与額の概ね5ないし6パーセントというものであって,前記2(2)オの年間支給額に照らしても,不利益の程度としては,(決して小さいとはいえないが,)それほど大きいものとはいえない。 さらに,(経過はともあれ,)原告Bは平成12年1月に被告G営業所業務次長の職務に就いてからは,労務の提供がそれ以前に比べて実質的に減少していることが窺われるものであり,職位手当ないし管理職手当の支給の基盤となるべき管理業務の遂行の点でも状況の変化があったといい得るものである。 ウ管理職を一定の年齢をもって解く扱いは上記のとおり人事の流動化を図るものとして,その目的自体は首肯できないものではなく,また,そのような扱いも現代社会にお 化があったといい得るものである。 ウ管理職を一定の年齢をもって解く扱いは上記のとおり人事の流動化を図るものとして,その目的自体は首肯できないものではなく,また,そのような扱いも現代社会においては広汎にされていることが窺われ(乙42),57歳をもって管理職の任期とするという上記規定の内容はその年齢の設定やその後の賃金額等に照らしても,内容的に相当なものといい得る。 なお,原告Bは,不支給となった前後で被告における肩書きや職務内容は変わっていないことを指摘しているが,労働者を降職の扱いとしても様々な配慮から肩書きを継続することはあり得ることであり,肩書きの継続が直ちに職位手当ないし管理職手当の支給を基礎づけるものとまではいえないし,また,職務内容について,原告Bが(経過はともかく)被告G営業所において果たして実体的に管理職としての業務を遂行していたかという点に関しては疑義が残るものであることは,前記イに述べたとおりである。 エ被告が職位手当の57歳以上の従業員への不支給について就業規則の変更をしたのは平成11年6月であり,その実施は平成13年6月とされ,2年間の猶予期間が設定されていた。 その間,原告Bは,就業規則の改定の理由の開示と改定経過の説明を求める書面を提出しているが,その中で,管理職の任期(役職定年)に関する人事管理規定の改定に関しては触れられていない(その後も,職位手当の点が問題にされたことは窺われない。)。 原告Bは,平成11年12月まで総務部課長兼総務部次長の地位にあり,就業規則の改定作業の事務を担当していた(原告B本人)ものであって,就業規則の改定内容は理解しており,57歳の役職定年について少なくとも事前に検討課題となっていたことは把握していた(原告B本人尋問調書36項参照)もの の事務を担当していた(原告B本人)ものであって,就業規則の改定内容は理解しており,57歳の役職定年について少なくとも事前に検討課題となっていたことは把握していた(原告B本人尋問調書36項参照)ものである。 以上を総合して判断すれば,役職定年制を採用して,平成13年6月以降57歳以上の者に対して職位手当を支給しないこととした平成11年6月の人事管理規定の改定は,平成13年6月時に57歳となっている原告Bの被る不利益の程度を考慮したとしても,なおそのような不利益を法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであるというべきであって,原告Bの平成13年6月以降の職位手当(管理職手当)の支払を求める請求は理由がないものといわざるを得ない。 (2)身分手当についてア身分手当については,給与規定及び人事管理規定上は,平成14年6月1日に改定されるまで,支払われることとなっていたものである(甲2の2,乙2の2及び5)。 もっとも,身分手当は上記規定上,職能給の性質をもつものとして位置づけられていたと理解され(前記2(2)ウ),そのような理解に立てば,平成13年6月1日の実施として職能資格規程(乙27の2)等が定められ,これによる職能資格制度の採用に伴い,職能給の性質をもつ身分手当はその中に吸収され,身分手当自体は廃止されたと見ることも可能であると解される(この点,被告は,役付手当を補填する趣旨で設けられたにすぎないと主張し,職位手当と同様に職務給の性質のものであったとするかのような主張もしているが,管理職の任期を定めた平成11年6月1日実施の人事管理規定(乙2の4)においても,職位に基づく職位手当と身分に基づく身分手当とは区別されており,管理職定年に伴う身分の降格等の定めもあ もしているが,管理職の任期を定めた平成11年6月1日実施の人事管理規定(乙2の4)においても,職位に基づく職位手当と身分に基づく身分手当とは区別されており,管理職定年に伴う身分の降格等の定めもあるわけではなく,職位と身分は連動していない。また,仮に同規定において職務給として身分手当を継続する趣旨であったと理解するのであれば,身分手当は職能資格とただちに矛盾,抵触するものといい難いということになり,平成13年6月1日に廃止されたと見ることはできないものである。)。 イそして,職能資格制度の採用自体は,業績の低迷していた被告において,営業力を強化するための方策として理解し得るものであり,成果主義の導入については平成10年ころから既に検討されていたものであって,経営上の必要性に基づくものであったといい得る。 ウしかしながら,変更の内容面についてみると,57歳未満の従業員については基本給にそれまで支給されていた身分手当分を組み入れているのに対し,57歳以上の者に対してのみ,(能力の低下等を各労働者について個別に精査せず)一律にこのような措置をとらず,同手当に相当する支給額を削減し,一方で,40歳以下の若年層の従業員に対する給与は,従前の額よりも大幅に増額するよう定めているものであり,いわば職能と無関係に高年層の従業員の犠牲のもとに若年層を優遇する(更にいえば,原告らについて身分ないし職能資格を降格する根拠もない。)ものであって,年功制の是正との側面を考慮したとしても直ちに合理性を認め得るものでなく,高年層の従業員に対してそのような犠牲を求める必要があるかどうかが厳しく精査される必要があるというべきである。 エそして,原告らは,それぞれ月額2万円から3万円の給付を失う不利益を受けるのに対し,前記2(1)アの被告の財務・ 牲を求める必要があるかどうかが厳しく精査される必要があるというべきである。 エそして,原告らは,それぞれ月額2万円から3万円の給付を失う不利益を受けるのに対し,前記2(1)アの被告の財務・収支の状況及び同(2)アの高年層の従業員の人数に照らしても,財務・収支面で高年層に上記不利益を強いるだけの必要性があったとは認められず,また,高年層に対する代償措置は何ら見当たらない上に,身分手当の扱いに関する上記の変更については経過措置,猶予期間も設けられてない。 加えて,平成13年6月の制度改正に先立って,従業員らの意見聴取等がされたことは窺われず,これを追認する形でされた平成14年6月の給与規定等の就業規則の改定についても,従業員らに対する事前の意見聴取はされていない。また,事後的に従業員代表が選任され,同代表や他の従業員らは異議を述べていないとはいっても,同従業員代表については,原告らは委任を撤回することを表明している。 なお,猶予期間につき,被告は,平成11年6月の給与規定の改定の際に,平成13年6月から57歳以上の従業員に対する基本給を2割減額する旨の定めをしており,身分手当の不支給は上記減額に代えてより従業員に有利な形で講じられた措置であって,実質的に猶予期間があったとするかのような主張もしているが,前記2(1)ア及びエ並びに同(2)アの事実等に照らしても,そもそも平成11年6月時点において,人数の限られた57歳以上の者についてのみ基本給の額を2割も削減しなければならないような状況にあったとは到底認められないものであり,また,経費等の削減効果の具体的な試算もしないまま,かつ,従業員ら又は従業員代表に対する意見聴取をすることもなく,57歳以上の者を対象とすること,2割の削減とすること,2年後の実施とすることを り,また,経費等の削減効果の具体的な試算もしないまま,かつ,従業員ら又は従業員代表に対する意見聴取をすることもなく,57歳以上の者を対象とすること,2割の削減とすること,2年後の実施とすることを決めた(前記2(2)カ,(3)ア及びイ)のであって,内容面でも手続面でも相当性を欠き,上記改定は原告らに対する関係では無効であると解されるものである。したがって,上記改定の存在を理由に,平成13年6月からの身分手当の不支給の合理性を基礎づけることはできないというべきである。 57歳以上の者に対する上記身分手当の不支給の扱いは,実質的にみれば,従来は右肩上がりのものであった従業員の賃金の経年的推移の曲線を変更しようとするものであり,このような変更も,企業ないし従業員全体の立場から巨視的,長期的にみれば,企業体質を強化改善するものとして,その相当性を肯定することができる場合があるものと考えられる。しかしながら,本件における上記取扱いの変更は,短期的にみれば,特定の層の従業員にのみ賃金コスト抑制の負担を負わせているものといわざるを得ず,その負担の程度も軽いものとはいえない上,それらの者は若年ないし中堅層の労働条件の改善などといった利益を受けないまま退職の時期を迎えることとなることを考慮する必要がある。したがって,このような制度改正を行う場合には,これによる不利益を受ける労働者について経過措置を設けることによる適切な救済を併せ図るべきであり,そのような経過措置の要否及び範囲について十分な検討をしないまま労働者に不利益を課すことは,相当性に欠けるというほかはない。 オなお,被告は,原告らが定年延長による給与取得の利益を受けていることを殊更に強調しているが,前記のとおり,被告における定年は昭和63年には既に60歳とされていたものであり,定 ほかはない。 オなお,被告は,原告らが定年延長による給与取得の利益を受けていることを殊更に強調しているが,前記のとおり,被告における定年は昭和63年には既に60歳とされていたものであり,定年が60歳になったことと平成13年にされた上記の変更との関連性は見出し難く,仮に関連性があるとしても希薄なものであるというべきであって,定年延長による雇用継続を代償として評価することはできない。 以上を総合して判断すれば,職能資格制の採用(職能資格規程等の制定)に伴い,平成13年6月以降57歳以上の者に対して身分手当を支給しないこととした給与規定及び人事管理規定の実質的改定及びその後の平成14年6月にされた給与規定の改定は,原告らの被る不利益を法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであるとはいえず,原告らに対してその効力を及ぼすことはできないものというべきであり,原告らは,同改定前の給与規定及び人事管理規定に基づく身分手当の支払を平成13年6月以降も退職時まで請求できるものというべきであって,この点に関する原告らの請求は理由がある。 なお,被告は,本件で証人尋問及び原告ら本人尋問が終了した後に提出された平成16年8月31日付け準備書面において,はじめて上記改定につき原告らの「黙示の承諾」があったとの主張をするに至っているが,従業員が単に異議を述べないで減額された給料を受け取ることが黙示の承諾に当たるとはいえず,それ以外に上記改定について原告らの黙示の承諾があったことを基礎づける事情は何ら見当たらないのであって,被告の上記主張は失当である。 4 争点2(退職金規定の変更の原告らに対する効力の有無)について次に,旧退職金規定から新退職金規定への変更が原告らに対して効力を及ぼす ら見当たらないのであって,被告の上記主張は失当である。 4 争点2(退職金規定の変更の原告らに対する効力の有無)について次に,旧退職金規定から新退職金規定への変更が原告らに対して効力を及ぼすか否かについて検討する。 (1)前記3(1)ア①のとおり,第45期には,売上高が大幅に減少し,営業利益が著しく落ち込み,業績の好転の見通しも立たない状況であったものであって,平成11年当時経費削減の方策を講じる必要があったことは認められる。 また,前記2(1)エのとおり,役員報酬の減額のほか,平成6年と平成12年の2度にわたり,役員の退職慰労金の額も減額されており,さらに,その後の事情として,企業年金の積立不足が生じるに至っていること(乙8)等も併せかんがみれば,平成11年時点において,従業員の退職金規定の改定を行ったこと自体については,被告の立場として,経営上の必要性に基づくものであったと評し得るものである。 もっとも,退職金の減額による経費削減の効果としては,年間に概ね100万円程度に過ぎないものであり(前記2(2)キ),被告が第46期から第49期までの間に,平均で5000万円弱の営業利益,2200万円弱の当期利益を上げ,役員賞与についても相当額を支給しているなど前記2(1)アの状況にかんがみると,早期に退職金を減額しなければならないような切迫した状況にあったとはいえない。 (2)一方,新退職金規定への変更による原告らの不利益としては,それぞれ100万円前後,割合にして6ないし7パーセントの退職金の減額となるものであり,不利益の程度は決して小さいものではない。 (3)次に上記変更の内容の相当性及び代償措置という観点でみると,平成11年の給与規定の改定と退職金規定の改定との相互の関係は必ずしも明らかではないものの,仮に平 程度は決して小さいものではない。 (3)次に上記変更の内容の相当性及び代償措置という観点でみると,平成11年の給与規定の改定と退職金規定の改定との相互の関係は必ずしも明らかではないものの,仮に平成13年6月以降は2割を減額した基本給を基礎に退職金額を算定するとの趣旨のものであれば,同月以降の退職金の減額率は4分の1前後になるものであり,従業員に多大な不利益を課すものとなる上に,退職時期が同月の前であるか後であるかで相当な違いをもたらすものであって合理性に欠ける面がある。また,平成11年の改定が上記のような趣旨でないものとすると,57歳に至る直前の月の基本給の額が退職金算定の基礎となるということになるが,その場合,平成13年6月の給与体系の変更により,57歳未満の者については,身分手当に相当する額が基本給に組み入れられており,その増額された基本給の額が退職金算定の基礎になることから,長期的にみて結局は退職金の減額の効果はほとんど減殺されるものであり,減額の必要性自体に疑問が呈されることとなる上に,平成13年6月時点で57歳であるか否かによって退職金額に(身分手当に相当する額を基礎とする部分の)差異が生じ,やはり合理性に欠くものとなっているといわざるを得ない。 (4)さらに,上記退職金規定の改定については,経過措置が設けられず,既に57歳以上であった従業員に対する関係では既に潜在的に発生していたはずの権利を奪うものであるといえるほか,57歳に近い年齢であった従業員に対する関係においても,長く続いた60歳定年制のもとで形成された60歳までの勤続期間及び退職時の基本給を基礎とする退職金算定に対する期待権を侵害するというべきものである。また,退職金の算定を57歳時を基準とすることについて,経費の削減効果等を他の経費項目の削減を含めて被告が具 間及び退職時の基本給を基礎とする退職金算定に対する期待権を侵害するというべきものである。また,退職金の算定を57歳時を基準とすることについて,経費の削減効果等を他の経費項目の削減を含めて被告が具体的に検討したということもなければ,従業員らの意見を事前に聴取することもなく,上記改定がされ,さらに,(高年層以外の従業員からは上記改定に異議が述べられていないとはいっても,)高年層の従業員からは同改定の理由の開示が求められたにもかかわらず,これに対して,被告は,変更内容を会社の方針として告げるのみで,意見や質問を受け付けないばかりか,その必要性の基礎となる経営状況等すらも具体的に説明していない(そもそも十分に計数的な検討がされたと見られないことは上記のとおりである)のであり,上記改定には手続的な相当性という面からも問題があるといえる。 (5)なお,被告は,原告らの入社時に55歳定年制であったことをもって,原告らには60歳時を基準とする退職金算定の期待権はなかったと主張するが,前記1(1)のとおり,60歳定年を前提とする退職金の算定につきいったん就業規則の内容で定まった以上は,それが原被告間の労働条件になるものである。のみならず,本件においては,実質的にも,被告における定年が60歳になったのは昭和63年ころのことであって,平成11年の上記改定までの10年以上に及ぶ雇用継続の中で,原被告間の雇用条件は定年が60歳であることを既定の条件として定められてきていると解されるものであり,原告らの期待権の侵害がないとは到底いえないものである。 また,定年が60歳になったことと平成11年にされた上記の変更とは直接の関連性はなく,本件において定年延長による雇用継続を代償として評価することができないことも,前記3(2)オに述べたのと同様である。 年が60歳になったことと平成11年にされた上記の変更とは直接の関連性はなく,本件において定年延長による雇用継続を代償として評価することができないことも,前記3(2)オに述べたのと同様である。 以上を総合して判断すれば,退職金額の算定基準を退職(60歳定年)時から57歳時に変更する旧退職金規定から新退職金規定への変更は,これにより原告らの被る不利益を法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであるとはいえず,原告らに対してその効力を及ぼすことはできないものというべきであり,原告らは,変更前の旧退職金規定に基づく退職金の支払を請求できるものというべきである。 なお,前記3と同様に,被告は,本件で証人尋問及び原告ら本人尋問が終了した後に提出された平成16年8月31日付け準備書面において,はじめて上記変更につき原告らの「黙示の承諾」があったとの主張をするに至っているが,新退職金規定への変更に関しては原告らは理由の開示を求めており(前記2(3)イ),これに対して,被告役員であるCらの対応は,被告の立場のみを説明し,意見や質問は受け付けないとの態度であったのであって,原告らが異議を述べていなかったという状況であるとは到底いえず,被告の上記主張は,前提を欠き,失当である。 5 争点3(E基金からの支給額の控除の当否)についてE基金への掛金には,基本掛金(基本部分の給付のための掛金)と加算掛金(加算部分の給付のための掛金)及び事務費掛金(基金の業務運営のための掛金)とがあり,加算掛金及び事務費掛金等の増加する掛金はすべて事業主が負担することとなっていた(甲10,乙30,31,32の1)。この事業主負担となる加算掛金に基づく加算部分として,加入期間3年以上15年未満で退職した場合,脱退一時金 等の増加する掛金はすべて事業主が負担することとなっていた(甲10,乙30,31,32の1)。この事業主負担となる加算掛金に基づく加算部分として,加入期間3年以上15年未満で退職した場合,脱退一時金が支給され,原告らの退職に際してE基金から支給された前記第2の1(3)カ及びキの金額(原告Aにつき85万9400円,原告Bにつき103万6500円)はいずれもこの脱退一時金であると認められる(甲10,11の1,12,乙31,弁論の全趣旨)。 そうすると,旧退職金規定においても,同オのとおり,「退職金の全部,又は一部を会社が任意の機関に積立てをし,従業員の退職や死亡を理由に当該機関から支給される場合は,その額を控除する。」との定めがあったものであり,上記のとおり,E基金から支給された脱退一時金に対応する掛金はすべて事業主である被告が負担していたことにかんがみれば,上記脱退一時金は上記の定めに該当し,退職金の支給額から控除されるべきものであるというべきである。現退職金規定9条2項の定め(前記第2(3)オ参照)は,この点を明確にしたにすぎず,就業規則の不利益変更には当たらない。 この点,原告らは,E基金からの支給については退職金の支給額から控除しない労使慣行が存在したとして旧退職金規定下では外枠制度であったと主張している。しかしながら,旧退職金規定における上記の定めにつき,従前から被告が加入していたF年金からの支給とE基金からの支給とを区別していると見るのは困難であるし,被告はE基金には前記認定のとおり平成4年に加入したものであり,E基金からの支給額を控除しない扱いで退職金を支給された例も,平成7年ころから平成13年ころまでの期間に限られ(証人C),せいぜい10数例程度にすぎない(証人D)というものであって,慣行が成立していたとまで認めら 給額を控除しない扱いで退職金を支給された例も,平成7年ころから平成13年ころまでの期間に限られ(証人C),せいぜい10数例程度にすぎない(証人D)というものであって,慣行が成立していたとまで認められるものではない(さらにいえば,本件証拠上は,退職金の支払に関する決裁権限者である代表取締役が上記扱いを承認していたと認めるに足りないものである。)。 したがって,この点に関する原告らの主張は失当というべきであり,E基金からの支給額は,上記退職金規定の定めに従い,退職金の支払額から控除すべきである。 6 結論よって,原告らの請求は,原告Aにつき未払の身分手当40万円及び未払の退職金95万4649円の合計135万4649円並びにこれに対する退職日から1月を経過した平成15年3月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で,原告Bにつき未払の身分手当78万円及び未払の退職金102万1077円の合計180万1077円並びにこれに対する退職日から1月を経過した平成15年9月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度でそれぞれ理由があるからこの限りで認容し,原告らのその余の請求は理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,64条本文,65条1項本文を,仮執行の宣言につき同法259条1項を,それぞれ適用して,主文のとおり判決する。 福岡地方裁判所第5民事部裁判官森倫洋
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