平成30(わ)2034 住居侵入,窃盗未遂

裁判年月日・裁判所
令和2年3月10日 大阪地方裁判所
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判決文本文10,127 文字)

主文 被告人は無罪。 理由 第1 本件公訴事実及び弁護人の主張について 1 本件公訴事実は,「被告人は,金品窃取の目的で,平成30年4月17日午後11時45分頃,大阪市(住所省略)aマンション302号室A方において,同人方玄関内から土足のまま同人方居間に侵入し,その頃,同所において,本棚の中を物色するなどしたが,家人がいることに気付いて逃走したため,その目的を遂げなかったものである。」というものである。 2 弁護人は,被告人がaマンション(以下,「本件マンション」という。)302号室のA方(以下,「302号室」という。)には立ち入っておらず,仮に立ち入った事実が認められたとしても,被告人には住居侵入及び窃盗の各故意がいずれも認められず,責任能力も欠いた状態であったから,被告人は無罪である旨主張する。 第2 被告人が302号室に立ち入ったと認められるかについて 1 Aの当公判廷における供述によれば,以下の事実を認めることができる。 平成30年4月17日から翌18日にかけての夜,Aは,302号室北東側寝室(甲4)において,室内の照明を消して寝ていたところ,ガタという何かが落ちる音が聞こえて目を開けた(なお,Aは玄関扉の施錠を忘れていた可能性がある。)。 すると,302号室内の照明が点いており(玄関の照明は自動的に点灯するものである。),Aは,被告人が食堂居間(甲4)の本棚(公訴事実記載のもの。以下,「本棚」という。)に向かって何かを触っているのを見た。Aは怖くなって30秒くらい目を閉じていたところ,玄関ドアの閉じる音が聞こえた。Aが再び目を開けると302号室内に被告人の姿は見当たらなかった。Aは,被告人が室内にいないことを確認した上,玄関ドアの鍵とドアチェーンをかけ,すぐに110番通報をし ,玄関ドアの閉じる音が聞こえた。Aが再び目を開けると302号室内に被告人の姿は見当たらなかった。Aは,被告人が室内にいないことを確認した上,玄関ドアの鍵とドアチェーンをかけ,すぐに110番通報をした。警察官が302号室に臨場した後,Aは,本棚に置いていた白いかごの中にあったはずの充電コードが,本棚の前の床の上に落ちていることに気付いた。 2 弁護人は,Aは被告人に対する偏見を有していた者であり,また,302号室に侵入した人物を視認条件の悪い中で短い時間目撃したにすぎないから,Aが被告人を目撃したとの供述は信用できない旨主張する。 しかし,Aは,被告人と同じ本件マンションに居住する者であり,本件以前にも被告人の姿を何度か目撃したことがあり,既に見知った被告人の風貌や容姿から,目撃した人物が被告人であると特定しているのであって,目撃した時間が短いことは,Aの供述の信用性に疑念を生じさせる事情とはいえない。また,目撃した当時,302号室は照明が点灯しており,Aの視認条件に特段の問題があったとは証拠上認められない。さらに,Aは,被告人のことを「怖い人」だと思っていた旨述べるが,とはいえ被告人を罪に陥れてまで虚偽の供述をするような偏見や動機を抱いていたとまでは認められない。加えて,Aが当時の具体的な心情(恐怖心)を交えながら目撃時の状況を子細に述べていること等も併せて考えると,Aの供述には高い信用性を認めることができる。 3 以上から,信用できるAの供述により,公訴事実記載の当時,被告人が302号室内に立ち入り,本棚に向かって何かを触っていたとの事実を認めることができる。 第3 被告人はどのくらいの時間302号室に立ち入っていたかについて防犯カメラにより撮影された映像(甲6)によれば,被告人は,平成30年4月17日午後 っていたとの事実を認めることができる。 第3 被告人はどのくらいの時間302号室に立ち入っていたかについて防犯カメラにより撮影された映像(甲6)によれば,被告人は,平成30年4月17日午後11時44分頃,本件マンションに設置されたエレベーターに乗って1階まで降下したものの,1階でエレベーターを降りず,そのまま同エレベーターに乗って上昇し,同日午後11時48分頃,再び同エレベーターで1階に降下し,今度は同エレベーターを降りて本件マンション1階出入口に向かって歩いていったことが認められる。このことに加え,被告人を緊急逮捕した警察官が本件現場に向かうようにとの指令を傍受した時刻が同日午後11時46分頃である(甲5)ことからすると,被告人が302号室に立ち入ってから退出するまでの時間は,長くても同日午後11時44分頃から46分頃までの約2分間に満たない時間であったと認 められる。そして,被告人がエレベーターで上下の移動に要した時間,Aが,302号室内に被告人がいないことを確認した上,玄関ドアを施錠したり110番通報をしたりするのに要した時間等を考え合わせると,被告人が302号室内に立ち入った時間は,長くてもせいぜい1分間に満たない時間であったと認められる。 なお,前記のとおり,Aは30秒くらい目を閉じていたと述べている。Aの述べる30秒くらいという時間は感覚的なものであり,被告人が302号室内にとどまっていた時間を正確に示すものとは認められないが,被告人が302号室に立ち入っていた時間が1分間に満たない程度であったことを推認させるものと考えられる。 第4 被告人が自転車の鍵を忘れて502号室に引き返したことについて1(1) 被告人の父親であるB(以下,「父親」という。)の当公判廷における供述によれば,以下の事実を認めるこ と考えられる。 第4 被告人が自転車の鍵を忘れて502号室に引き返したことについて1(1) 被告人の父親であるB(以下,「父親」という。)の当公判廷における供述によれば,以下の事実を認めることができる。 平成30年4月17日午後11時30分過ぎ頃,被告人は,コンビニエンスストアに飲み物とたばこを買いに行くため,本件マンション502号室(被告人方。以下,「502号室」という。)を出たが,財布を忘れたため,直ぐに502号室に戻ってきた。その後,被告人は再び外出したが,今度は自転車の鍵を忘れたため,502号室に戻ってきた。被告人は,父親と一緒に約5分間自転車の鍵を探し,その後,あらためて外出した。 (2) 父親が,被告人とともに自転車の鍵を探した時間を約5分間と述べる点は感覚的なものであり,必ずしも正確な時間(数値)を述べているとは認められない。 しかし,それ以外の供述部分について,証拠上,父親の供述の信用性を疑わせる事情は認められない。そして,父親の供述によれば,被告人は,財布や自転車の鍵を忘れたため,2度に渡って502号室に戻ったと認められる。被告人が自転車の鍵を忘れて自宅に戻ったとの事実は,被告人がエレベーターに乗って1階に降下したにもかかわらず,エレベーターを降りずにそのまま同エレベーターに乗って上昇したという,一見不自然な被告人の行動を良く説明する事情といえる。以上によれば,父親の供述は信用することができる。 2 この点に関し,被告人は当公判廷において,以下のとおり供述している。 (1) 平成30年4月17日の夜は父親と一緒に過ごしていた。時間は覚えていないが,コンビニエンスストアへ自転車で買い物に行こうと考えて外出した。しかし,ドアを出たところで財布を忘れたことに気づき,いったん502号室に戻った。 あら 父親と一緒に過ごしていた。時間は覚えていないが,コンビニエンスストアへ自転車で買い物に行こうと考えて外出した。しかし,ドアを出たところで財布を忘れたことに気づき,いったん502号室に戻った。 あらためて外出したが,本件マンション1階の駐輪場で自転車の鍵がないことに気づき,再び部屋に戻って一人で鍵を探した。 (2)ア被告人の公判供述のうち,被告人が本件マンション1階の駐輪場で自転車の鍵がないことに気づき,再び部屋に戻って一人で鍵を探したという供述部分は,前記防犯カメラの映像(甲4)や父親の供述等から認定できる事実と明らかに矛盾しており信用できない(被告人は1階の駐輪場に行く前の段階で引き返していることが明らかである。)。 イしかし,買い物に出かけようとしたところ自転車の鍵を忘れて502号室に戻ったとの供述は,父親の供述内容とも合致している。被告人の公判供述は,自転車の鍵を忘れた時点・場所や502号室で一人で鍵を探したという点において信用できないが,自転車の鍵を忘れて502号室に取りに戻ったとの供述部分については信用できる。 なお,被告人の公判供述に信用できる部分と信用できない部分が混在することについては,後に述べるとおり,本件当時,被告人の判断能力や知能等が低下した状態にあったと認められることからすれば,被告人の記憶に曖昧な部分が存在することが推認できるから,特に不合理なものとは認められない。 3 以上から,本件当時,被告人は,いったんは本件マンション1階まで降りたものの,自転車の鍵を忘れたことに気づき,エレベーターを降りずに502号室に戻ろうとし,そのままエレベーターに乗って上昇したものと認められる。 第5 被告人に住居侵入及び窃盗の各故意が認められるかについて既に認定した事実のほか,証拠上,更に以下の事実を認定す 2号室に戻ろうとし,そのままエレベーターに乗って上昇したものと認められる。 第5 被告人に住居侵入及び窃盗の各故意が認められるかについて既に認定した事実のほか,証拠上,更に以下の事実を認定することができる。 1 実況見分調書(甲4)及び捜索差押調書(甲10)によれば,302号室と 502号室は同じ間取りである。もっとも,302号室では室内で犬を飼っているため,食堂と居間の間には高さ約45センチメートルの犬侵入防止柵が設置されている(甲4)。これに対し,502号室には,そのような柵あるいはそれと見間違えるような設置物は認められない(甲10)。また,302号室の本棚と同じ箇所に,502号室では何が設置されていたかについては,証拠上,明らかではない(甲10)。なお,A供述によれば,本件当時,302号室の玄関ドアが無施錠であった可能性が高い。 2 被告人は,障害等級2級の判定を受け,平成27年9月1日,大阪市から障がい者手帳の交付を受けている(弁1)。主治医の供述(弁2)によれば,被告人は器質性精神病にり患しており,全般的に判断能力や知能等が低下した状態にある。 なお,弁護人は,本件当時,被告人は責任能力を欠いていた旨主張するが,買い物に出かけるためにひとりでエレベーターに乗って外出するなどし,警察官の職務質問にも対応できている被告人について,責任能力が著しく減退していたとまでは認められないから,仮に被告人の行為が何らかの犯罪行為に該当するとした場合においても,被告人が責任能力を有していたことは明らかである。 3(1) 緊急逮捕手続書(甲5)によれば,被告人は,Aの通報を受けて臨場した警察官から自室の部屋番号を尋ねられ,自ら「502や」と答えたにもかかわらず4階でエレベーターを降り,本件マンション402号室のインターホ 捕手続書(甲5)によれば,被告人は,Aの通報を受けて臨場した警察官から自室の部屋番号を尋ねられ,自ら「502や」と答えたにもかかわらず4階でエレベーターを降り,本件マンション402号室のインターホンを押してドアを開けようとするなどしている。 (2) この点,被告人は,当公判廷において次のように述べている。 コンビニエンスストアで買い物をするなどした後,本件マンションに戻ってきたところ,エントランスで警察官から「話を聞かせてくれ」と声をかけられた。「僕は何もしてませんよ」といったが,警察官がついてきてエレベーターに一緒に乗ったので混乱してパニックになり,エレベーターが止まった階でエレベーターを直ぐに降りた。降りたのは4階だったが,それとは気づかずに502号室と間違えて402号室のインターホンのボタンを押し,ドアを開けようとしてしまった。402号 室のドアに鍵がかかっていたことで部屋を間違えたことに気づいた。警察官から身分証の提示を求められるなどしたので身分証を見せて「502の人間です」と説明したが,逮捕され,警察署に連れていかれた。 被告人の上記公判供述によれば,被告人が「何もしていない」か否かの真偽はさておき,被告人が警察官に声をかけられて混乱した精神状態に陥り,502号室と間違えて402号室のドアを開けて入ろうとしたことが認められる。 4(1) 以上によれば,①被告人が302号室に立ち入った時間が長くてもせいぜい1分間に満たない程度の時間であったこと,②本件当時,被告人は,自転車の鍵を忘れて502号室に鍵を取りに戻ろうとしていたこと,③302号室と502号室の間取りが同じであり,かつ,302号室の玄関扉が無施錠であったと認められること,④本件当時,被告人は,器質性精神病にり患しており,全般的に判断能力や知能等が低 ていたこと,③302号室と502号室の間取りが同じであり,かつ,302号室の玄関扉が無施錠であったと認められること,④本件当時,被告人は,器質性精神病にり患しており,全般的に判断能力や知能等が低下した状態にあったこと,⑤現に被告人は慌てたり混乱したりした精神状態の下で「502の人間です」といいながら402号室のドアを開けようとしたこととの各事実が認められる。 (2)アこれらの事実を踏まえて更に検討すると,被告人は精神障害の影響から判断能力や知能等が低下した状態にあったところ,緊張したり慌てたりした場合,混乱した精神状態に陥ることが推認できる。現に前述のとおり,被告人は,本件直後,自らが502号室に住んでいる旨を警察官に告げながら,間違えて402号室のドアを開けて402号室内に入ろうとしており,混乱した精神状態に陥ったことが推認できる。また,前記のとおり,本件当時の被告人の記憶に曖昧な部分が存在することは,当時の被告人の混乱した精神状態を推認させる事情であるとも考えられる。本件当時,被告人は,自転車の鍵を忘れたことに気づき,慌てて502号室に戻ろうとしていたことが推認できる。 イまた,Aの供述によれば,本件当時,302号室の玄関扉が施錠されていなかった可能性が高い。 ウ以上によれば,本件当時,被告人が混乱した精神状態の下,502号室と間 違えて302号室に立ち入った可能性を否定することができない(なお,弁護人は,被告人が誤って302号室に立ち入ってしまった可能性について明示的な主張をしていないが,弁論要旨第4に記載された部分はその旨の主張を前提としているように理解できる。)。そして,前記のとおり,被告人が302号室にとどまった時間は長くてもせいぜい1分間に満たない程度の時間であったと認められる上,被告人が 部分はその旨の主張を前提としているように理解できる。)。そして,前記のとおり,被告人が302号室にとどまった時間は長くてもせいぜい1分間に満たない程度の時間であったと認められる上,被告人が302号室からは何も持ち出していないことからすれば,被告人が金品窃取の目的で302号室に侵入したとの事実を認定するには合理的な疑いが残り,住居侵入及び窃盗の各故意を認定することについても,合理的な疑いが残るというべきである。 5(1) 検察官は,被告人が302号室内に立ち入った時点,あるいはリビングの照明を点灯して室内の状況を確認した時点において,被告人は,自らが立ち入った部屋が502号室ではないと認識したことは明らかであり,それ以降の行動については故意が存在すると主張する。 (2) しかし,前述のとおり,被告人が502号室と間違えて302号室に立ち入った可能性を否定できないことに加え,被告人が302号室に立ち入った時間が長くてもせいぜい1分間にも満たない程度の時間であること,被告人が慌てていた(混乱した精神状態であった)可能性を否定できないことからすれば,被告人が自転車の鍵を探すために302号室の玄関のドアを開けて同室内に立ち入った後,同室リビングに設置された本棚付近にまで一気に立ち入った可能性も否定できない。その際,通常であれば父親が不在であることに不自然さを感じたであろうことは,検察官の主張するとおりかもしれないが,被告人には精神障害の影響からくる判断能力や知能の低下等が認められることからすれば,そのような不自然さを感じなかったこともあり得ると考えられる。したがって,被告人が,玄関で気がついたり,リビングの照明を点灯した時点で気がついたりという認識・判断をするような余裕もなく,302号室内の本棚にまで立ち入り,同所で自転車の鍵を探そうとし えられる。したがって,被告人が,玄関で気がついたり,リビングの照明を点灯した時点で気がついたりという認識・判断をするような余裕もなく,302号室内の本棚にまで立ち入り,同所で自転車の鍵を探そうとして初めて502号室ではないことに気づき,慌ててその場を立ち去ったという可能性は否定できないというべきである。 なお,302号室内に犬侵入防止柵が設置されているとしても,302号室内がもともと明るかったわけではないこと,302号室と502号室が同じ間取りであること等の事情を踏まえれば,被告人が照明を点灯させながらリビング中央まで立ち入った後になって,初めて室内の調度等の違いに気づいたということも全くないわけではないと考えられる。 6 以上によれば,本件当時,被告人は,いったんは1階までエレベーターで降りたものの,途中で自転車の鍵を忘れたことに気づき,慌てて502号室に戻ろうとしたが,その精神障害等の影響から混乱した精神状態に陥り,502号室と間違えて302号室の本棚付近まで立ち入ってしまい,自転車の鍵を探しているうちに同所が502号室ではないことに気付き,直ちに302号室から立ち去ったとの事実を推認することが十分に可能である。そうすると,被告人につき,公訴事実記載の金品窃取の目的,住居侵入及び窃盗の各故意が存在すると認定することについては,いずれも合理的な疑いが残るというべきである。 第6 被告人の自白調書について 1 金品窃取の目的,住居侵入及び窃盗の各故意については,被告人の自白調書(いずれも平成30年4月21日付の各警察官調書〔乙2,11〕)が存在する(以下,「本件各自白調書」という。)。 本件各自白調書には,被告人が,平成30年4月21日に行われた警察官の取調べにおいて,警察官に対し,302号室の玄関には被告人の 〔乙2,11〕)が存在する(以下,「本件各自白調書」という。)。 本件各自白調書には,被告人が,平成30年4月21日に行われた警察官の取調べにおいて,警察官に対し,302号室の玄関には被告人の家の物ではない女性が履くようなサイズの白いサンダルがあったこと,すぐに逃げることができるように土足のまま302号室内に立ち入ったこと,部屋に入ってすぐ右側の壁にあった電気のスイッチを押して照明を点けたこと,本棚に現金が隠してあると思い近づいて物色したこと,かごの中をかき分けるように触ったところ葉書のようなものに触ったこと,振り返ると女の人が布団で寝ていることに気づき,バレて捕まってしまうと思い,怖くなって何も取らず小走りで玄関から出て行ったこと等について見取図を書きながら供述し,現金を盗むために302号室に侵入し,家の中を物色したこ とに間違いないと述べた旨の記載がある。 2 検察官は,本件各自白調書によれば,被告人に公訴事実記載の金品窃取の目的,住居侵入及び窃盗の各故意があったことを認定することができる旨主張する。 3(1) 本件各自白調書の取調状況を記録した録音・録画DVD(乙16)によれば,本件各自白調書の供述録取の過程は,取調官が302号室の客観的状況に関する捜査結果を手元におきながら取調べを行い,被告人が客観的状況と整合しない供述をすると,客観的状況と整合的な供述をするに至るまで何度も追及を繰り返したり,被告人に対して弁解の根拠(自分がやっていないことの証拠)を示すよう求めたりした結果,302号室内の状況等について,被告人が取調官の誘導や示唆に迎合的に供述した場面が認められる。 一般に,捜査官において既に把握している客観的事実と整合しない供述を被疑者がする場合,捜査官が追及的あるいは誘導的な質問をすること自体は禁止さ 官の誘導や示唆に迎合的に供述した場面が認められる。 一般に,捜査官において既に把握している客観的事実と整合しない供述を被疑者がする場合,捜査官が追及的あるいは誘導的な質問をすること自体は禁止されるものではなく,そのことから直ちに供述調書の任意性が否定されるものでもない。また,被疑者に精神障害の影響からくる判断能力や知能の低下等が認められることから直ちに供述調書の任意性が否定されるものでもない。しかし,本件における被告人の知的能力の程度や会話の相手方に対する迎合的な性格傾向も考慮すると,前記のような執ようかつ誘導的な取り調べの結果として得られた本件各自白調書について,その任意性の存在に問題が何ら存在しないとはいい難い。 (2) 他方,例えば,玄関ドアが無施錠であったことや302号室内の本棚の形状や玄関に置いてあった履物の状況等に関しては,被告人は,強く誘導されることなく自ら供述をするに至っており,本件各自白調書中,被告人が任意に供述したと認められる供述部分も存在する。しかし,前述のとおり,被告人が現に302号室内に立ち入ったことや302号室と502号室の間取りが同じであることからすれば,被告人が任意に供述したと認められる部分は,被告人に窃盗の目的や犯罪の故意があったか否かとは関係なく語り得る内容の供述といえる。また,このような任意性に問題がないと認められる供述部分は,前記のような執ようかつ誘導的な取調べの 結果得られた供述部分と内容的に混然としている部分もあり,その場合,本件各自白調書の供述の一部分のみの任意性を認めることは難しい。 (3) そうすると,前記のような任意性の存在に疑念の生じる部分が存在する以上,結局,本件各自白調書は,全体として,任意性に疑念を生じさせるような取調べの結果得られた供述録取書であるという い。 (3) そうすると,前記のような任意性の存在に疑念の生じる部分が存在する以上,結局,本件各自白調書は,全体として,任意性に疑念を生じさせるような取調べの結果得られた供述録取書であるというべきであり,いずれも任意性を欠くものとして本件証拠から排除されるべきものと考えられる。 4 仮に,本件各自白調書の証拠能力が否定されないとしても,本件各自白調書にはいわゆる「秘密の暴露」といえる供述内容が含まれておらず(室内の様子や玄関に置いてあった履物の状況等は,被告人を取り調べた4月21日の時点において,それ以前に実施された被害者の取調べや302号室の実況見分の結果により捜査官が既に把握していた事実であったと認められる。),被告人の知的能力の程度や会話の相手方に対する迎合的な性格傾向も踏まえると,検察官が指摘する女性用の履物の存在等について,被告人の本件各自白調書の内容が302号室内の客観的な状況と整合することは,その信用性を高める事情とはいえない。本件各自白調書はいずれも信用性が認められない。 5 そうすると,結局,本件各自白調書により被告人の金品窃取の目的,住居侵入及び窃盗の各故意を認定することはできないと考えられる。 第7 結論以上によれば,証拠上,被告人が302号室の本棚に向かって何かを触った後になって,302号室に間違って立ち入ったことに初めて気がついた可能性を否定できないから,その後直ちに302号室を立ち去った被告人について金品窃取の目的,住居侵入及び窃盗の各故意を認めることはできず,結局,本件公訴事実については犯罪の証明がないことになるから,刑事訴訟法336条により被告人に対して無罪の言渡しをする。 よって主文のとおり判決する。 (求刑懲役1年) 令和2年3月10日 大阪地方裁 主文 がないことになるから,刑事訴訟法336条により被告人に対して無罪の言渡しをする。よって主文のとおり判決する。 (求刑懲役1年) 理由 令和2年3月10日 大阪地方裁判所第11刑事部 裁判官佐藤卓生

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