令和4(わ)178 過失運転致死(変更後の訴因危険運転致死、予備的訴因過失運転致死)

裁判年月日・裁判所
令和6年11月28日 大分地方裁判所
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判決文本文10,756 文字)

令和6年11月28日宣告令和4年(わ)第178号過失運転致死(変更後の訴因危険運転致死、予備的訴因過失運転致死) 主文 被告人を懲役8年に処する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、令和3年2月9日午後10時57分頃、普通乗用自動車を運転し、大分市ab 番地付近の最高速度が法定により60km毎時と定められている片側2車線道路の第2車両通行帯を走行して同所先の信号機により交通整理の行われている交差点をc 方面からd 方面に向かい直進するに当たり、その進行を制御することが困難な時速約194.1kmの高速度で自車を走行させて同交差点に進入したことにより、折から対向右折進行してきた被害者運転の普通乗用自動車左前部に自車前部を衝突させ、その衝撃により同人を車外に放出させて路上に転倒させ、よって、同人に骨盤骨折の傷害を負わせ、同月10日午前1時34分頃、同市ef 丁目g 番h号A病院において、同人を前記傷害に基づく出血性ショックにより死亡させた。 (事実認定の補足説明)第1 本件の争点本件公訴事実(変更後の本位的訴因に基づくもの)の要旨は、被告人が、判示の日時頃、普通乗用自動車(以下「被告人車両」という。)を運転し、判示の道路(以下「本件道路」という。)の第2車両通行帯を走行して判示の交差点(以下「本件交差点」という。)を直進するに当たり、その進行を制御することが困難な時速約194.1kmの高速度で被告人車両を走行させるとともに、本件交差点内において対向右折する自動車の通行を妨害する目的で、重大な交通の危険を生じさせる速度である前記速度で直進進行して本件交差点に進入し、被告人車両を対向右折進行してきた被害者運転の普通乗用自動車(以下「被害者車両」という。)に著 しく接近させたことに な交通の危険を生じさせる速度である前記速度で直進進行して本件交差点に進入し、被告人車両を対向右折進行してきた被害者運転の普通乗用自動車(以下「被害者車両」という。)に著 しく接近させたことにより、被害者車両に被告人車両を衝突させるなどして被害者を死亡させたというものである。 被告人が、被告人車両を運転して本件交差点を直進するに当たり、時速約194. 1kmの速度で被告人車両を走行させて本件交差点に進入したことにより、対向右折進行してきた被害者車両に被告人車両を衝突させる事故(以下「本件事故」という。)を起こして、被害者を死亡させたことは、証拠上明らかである。本件の争点は、本位的訴因について、被告人の運転行為につき自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(以下「法」という。)2条2号の罪及び同条4号の罪が成立するかどうかであり、特に、同条2号の罪の成否に関しては、被告人の運転行為が「その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為」に該当するかが、同条4号の罪の成否に関しては、被告人に「人又は車の通行を妨害する目的」があったと認められるかがそれぞれ問題となる。 第2 前提となる事実関係等 1 本件の事実関係関係証拠によれば、本件の事実関係は、以下のとおりである。 ⑴ 本件事故現場は、非市街地(南方は住宅街が広がり、北方は海又は工場地帯)に位置し、中央分離帯により区分されたおおむね東西に通じる直線道路(本件道路)とおおむね南北に通じる道路が交わる信号機(閑散時半感応式。夜間等の閑散時は、従道路である交差道路から車両が来ない限り、主道路である本件道路の信号表示がずっと青色のままとなり、主道路交通を優先するもの)により交通整理の行われている十字路交差点(本件交差点)であり、西側・南側・北側出口に横断 道路から車両が来ない限り、主道路である本件道路の信号表示がずっと青色のままとなり、主道路交通を優先するもの)により交通整理の行われている十字路交差点(本件交差点)であり、西側・南側・北側出口に横断歩道が設けられている。本件道路の中央分離帯より南側の車道は、基本的に2車線であるが、本件交差点東側手前は右折専用車線が設けられ、3車線となっており、同中央分離帯より北側の車道は、基本的に3車線であるが、本件交差点西側手前は右折専用車線が設けられ、4車線となっている。これらの車道の両脇には歩道があり、本件交差点の西方は数百m間隔で信号交差点が続いている。本件道路の最高制限速度は法 定の60km毎時であり、路面は、アスファルト舗装され、本件事故当時乾燥していた。本件交差点の北側に街灯が1か所設けられているが、本件事故当時、建物の照明等はついておらず、現場付近はやや暗かった。 ⑵ 被告人は、かねてより自動車を運転して本件道路を複数回走行したことがあったところ、本件当夜、被告人車両を運転して本件道路の中央分離帯より南側の第2車両通行帯(幅員3.4m。その右側は外側線・側帯がなく、中央分離帯の縁石に直接接する。)を西進し、被害者車両との衝突地点の手前約728mの地点でアクセルを強く踏み込み、同衝突地点の手前約331mの地点で本件交差点の対面信号機(半感応動作なし)が青色を表示しているのを確認した後、時速約194.1kmの速度で被告人車両を進路から逸脱させることなく直進走行させて本件交差点に進入したことにより、対向右折進行してきた被害者車両に被告人車両を衝突させる本件事故を起こした。なお、両車両の進行方向の見通しは、前後左右共に良好であった。 ⑶ 本件事故当時、本件道路の中央分離帯より南側の車道を西進していた車両は被告人車両以外に見受けられな 突させる本件事故を起こした。なお、両車両の進行方向の見通しは、前後左右共に良好であった。 ⑶ 本件事故当時、本件道路の中央分離帯より南側の車道を西進していた車両は被告人車両以外に見受けられなかったが、同中央分離帯より北側の車道を東進していた車両は被害者車両以外にも複数台存在した。 ⑷ 被告人車両は、重量1530kg、長さ447cm、幅177cm、総排気量2970cc、最高時速250km、スポーツタイプの6速マニュアルトランスミッション仕様で、ABS機能があるクーペ型の普通乗用自動車であり、スイッチ式のクルーズコントロールブレーキ機能(スイッチを入れた場合、前車が減速した時に自車も減速する機能)が搭載されていた。また、装着されていたタイヤは、スポーツタイヤであり、溝は十分残っていた。 2 本件道路の平たん性関係証拠によれば、本件道路のような一般道路のアスファルト舗装の耐用年数は、およそ10年といわれており、特に、制動加重がかかる交差点手前や橋の前後、交通量(とりわけ貨物車の通行)が多い道路は、わだち割れ(車両のわだち部分の凹 凸)が生じやすく、傷みやすいところ、本件道路のうち被告人車両が本件事故直前に進行した本件交差点までの区間は、平成16年以降改修舗装歴がなかったこと、もっとも、10年経過すれば必ず補修を要するわけではなく、ポットホールと呼ばれるアスファルト舗装の凹みや穴がいくつもできたり、車のハンドルがとられるような凹凸ができたりしない限り、大規模な補修は行われない実情にあること、道路を造る際のアスファルト舗装の平たん性の基準については、表層の凹凸が一般道路では2.4mm以下、高速道路では1.3mm以下とされており、サーキット場では更に厳しい条件が付されることが認められる。 こうした事情に照らすと、本件事故当 の基準については、表層の凹凸が一般道路では2.4mm以下、高速道路では1.3mm以下とされており、サーキット場では更に厳しい条件が付されることが認められる。 こうした事情に照らすと、本件事故当時の本件道路には、補修を要しない程度のわだち割れが本件交差点付近等に存在していたと推認でき、本件事故の6日後に撮影された本件交差点付近(被告人車両が本件事故直前に進行した区間)の写真に停止線の歪みや水たまりが写っていることも、この評価を支えるものといえる。なお、警察官が本件事故の約1か月後に作成した実況見分調書には、本件道路の路面が平たんであるとの記載があるが、これは、特段の異状がなかったことを意味するにすぎないと考えられるから、前記の評価を左右しない。 3 自動車の走行場所及び速度と自動車の揺れの強さ及びハンドル操作回数の関係性関係証拠によれば、捜査機関は、令和6年5月20日、捜査用車両を使用し、警察官2名に、本件道路において時速60kmで走行させた上、サーキット場において時速60km及び時速140ないし150kmで走行させて、車両の揺れ及びハンドルの操舵角を計測する実験を実施したところ、同じ速度(時速60km)で本件道路及びサーキット場を走行した場合、一定角度を超えるハンドル操作の回数は本件道路の方が多く、同じ場所(サーキット場)で走行した場合、速度が上がれば(時速60kmと時速140ないし150km)、車両の揺れが大きくなり、一定角度を超えるハンドル操作の時間当たりの回数が多くなるという結果が得られたことが認められる。 この点、弁護人が主張するとおり、本件道路における走行実験は、本件事故から3年以上経過した後に実施されたものであり、路面の状況が本件事故当時と同一であるとはいえないこと、使用車両が被告人車両と同種ではない 、弁護人が主張するとおり、本件道路における走行実験は、本件事故から3年以上経過した後に実施されたものであり、路面の状況が本件事故当時と同一であるとはいえないこと、使用車両が被告人車両と同種ではないことなどを考慮すると、前記の実験結果は、本件事故当時の被告人車両の揺れの有無・程度や被告人のハンドル操作状況を具体的に推認し得るものではないが、一般的に、自動車は、速度が速くなると、揺れが大きくなり、運転者のハンドル操作の回数が多くなる傾向があるという限度では、その証拠価値を肯定できる。 4 自動車の速度及び夜間運転と視力・視野の関係性証人B(C大学D学部E専攻准教授)は、「自動車の速度が速くなると、運転者の視力が下がり、視野が狭くなる。その理由は、オプティカルフロー(視野内の画像情報の流れのようなもの)が速くなり、画像のぶれが生じ、明暗比が低くなる、見えにくくなったものなどに注意資源が割かれる、動体視力が低下するためである。 また、自動車を夜間に運転する場合も、視野が狭くなる。その理由は、視細胞のうち、視力や奥行き知覚、動体視力等に関係する錐体細胞の働きが弱くなる、光を取り込もうとして瞳孔径が大きくなり、角膜や水晶体の収差が増加することによって映像がぼやけるためである。もちろん、視力・視野への影響の程度は個人差があるが、速度が速くなったり暗くなったりすると視機能が下がることは、万人共通の生理的なメカニズムである」旨の所見を示しており、同証人の視能検査学者としての専門性に疑いはなく、これを採用し得ない合理的な事情は認められない。 この所見によれば、一般的に、自動車の速度が速くなる、あるいは、自動車を夜間に運転すると、運転者の視力が下がったり視野が狭くなったりする傾向があることが認められる。 第3 検討 1 法2条2号の罪の成否 れば、一般的に、自動車の速度が速くなる、あるいは、自動車を夜間に運転すると、運転者の視力が下がったり視野が狭くなったりする傾向があることが認められる。 第3 検討 1 法2条2号の罪の成否⑴ 法2条2号の「その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為」とは、速度が速すぎるため、道路の状況に応じて進行することが困難な状 態で自車を走行させることを意味し、具体的には、そのような速度での走行を続ければ、道路の状況や車両の構造・性能、貨物の積載の状況等の客観的事実に照らし、あるいは、ハンドルやブレーキの操作のわずかなミスによって自車を進路から逸脱させて事故を発生させる実質的危険性があると認められる速度で自車を走行させる行為をいい、この概念は、物理的に進路から逸脱することなく進行できない場合のみならず、操作ミスがなければ進路から逸脱することなく進行できる場合も含まれることを前提としていると解するのが相当である(東京高裁令和3年(う)第820号同4年4月18日判決参照)。なお、本罪が捉える進行制御困難性は、他の車両や歩行者との関係で安全に衝突を回避することが著しく困難となる、すなわち、道路や交通の状況に応じて、人の生命又は身体に対する危険を回避するための対処をすることが著しく困難となるという危険(対処困難性)とは質的に異なる危険性であることに留意する必要がある。 そこで検討すると、① 本件道路は、高速道路ほどの平たん性が元々要求されていない一般道路である上、被告人車両が進行した区間は15年以上改修舗装歴がなく、特段の異状と目されず、補修を要しない程度であるとはいえ、わだち割れが本件交差点付近等に存在していたと推認できること(前記第2の2)、② 被告人車両が進行した第2車両通行帯の幅員は3.4mであるのに対し、被告人 目されず、補修を要しない程度であるとはいえ、わだち割れが本件交差点付近等に存在していたと推認できること(前記第2の2)、② 被告人車両が進行した第2車両通行帯の幅員は3.4mであるのに対し、被告人車両の幅は177cmであり、左右の余裕は81.5cmずつしかなかった上、同車両通行帯の右側は外側線・側帯がなく、中央分離帯の縁石に直接接していたこと(前記第2の1⑵⑷)、③ 一般的に、自動車は、速度が速くなると、揺れが大きくなり、運転者のハンドル操作の回数が多くなる傾向があり、かつ、自動車の速度が速くなる、あるいは、自動車を夜間に運転すると、運転者の視力が下がったり視野が狭くなったりする傾向があるところ、被告人は、夜間であり、付近がやや暗い本件道路において、法定最高速度の3倍以上の高速度で被告人車両を走行させたこと(前記第2の1⑴⑵、3、4)、④ 本件道路は、一般道路であり、道路構造・交通特性上、高速道路のような一定速度での円滑・連続的な通行を予定していない上、住宅街・ 工場地帯に所在し、右折・横断・転回車両や横断歩行者(自転車)、先行車両の減速・停止があり得る信号交差点、車道と直接接する歩道等が存在していたところ、本件当時、本件道路の中央分離帯より北側の車道を東進していた車両が被害者車両以外にも複数台存在したこと(前記第2の1⑴⑶)などを考慮すれば、被告人が前記のような高速度での被告人車両の走行を続ける場合、直線道路である本件道路であっても、路面状況から車体に大きな揺れが生じたり、見るべき対象物の見落としや発見の遅れ等が生じたりし、道路の形状や構造等も相まって、ハンドルやブレーキの操作のわずかなミスが起こり得ることは否定できない。 その上で、前記の諸事情、特に、①②のような本件道路の状況、③のような被告人車両の速度に加え、被告人車両 構造等も相まって、ハンドルやブレーキの操作のわずかなミスが起こり得ることは否定できない。 その上で、前記の諸事情、特に、①②のような本件道路の状況、③のような被告人車両の速度に加え、被告人車両の最高速度が時速250kmであることは、エンジンの性能上当該速度を出すことが可能であることを意味するにすぎず、その走行安定性が格別高かったことを疑わせる事情が見当たらないことも併せ考慮すると、被告人が前記のような高速度での被告人車両の走行を続ける中、ひとたび前記のようなハンドルやブレーキの操作ミスが起これば、例えば、被告人車両が第2車両通行帯から瞬時に逸脱し、立て直しが困難となって蛇行・スピンするなどした結果、本件交差点を対向右折進行してきた車両に衝突するなどの事故が発生する事態が容易に想定できる。この点、プロレーサーとして活躍した経歴があり、現在はサーキット場のインストラクター等を務めている証人Fも、高速度走行の豊富な経験やプロレーサーとしての知識を踏まえ、被告人車両と同種の車両が本件道路を時速約194.1kmで走行している際にハンドルやブレーキの操作ミスが起こったことを仮定した場合の当該車両の動き等について、前記のような想定と同旨の供述をしており、前記の評価を支えるものとして首肯できる。 これに対し、弁護人は、被告人車両は本件道路に沿って直進走行できていた旨主張し、被告人は、本件道路を含めた一般道路を時速170ないし180kmで走行したことが複数回あるが、その際、自動車が進路から逸脱したことも、ハンドルやブレーキの操作に支障が生じたことも、危険な思いをしたこともなかった旨供述す る。しかし、現実には自車を進路から逸脱させることなく進行できた場合であっても、ハンドルやブレーキの操作のわずかなミスによって自車を進路から逸脱させて事故を な思いをしたこともなかった旨供述す る。しかし、現実には自車を進路から逸脱させることなく進行できた場合であっても、ハンドルやブレーキの操作のわずかなミスによって自車を進路から逸脱させて事故を発生させる実質的危険性があると認められる速度での走行である限り、「その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為」に該当することは、前記のとおりであるし、被告人の供述は、それまで一般道路において高速度走行をした際にハンドルやブレーキの操作ミスをしたことがなかった旨をいうものにすぎず、前記の評価を左右しない。 以上によれば、被告人が時速約194.1kmの速度で被告人車両を走行させて本件交差点に進入した行為は、ハンドルやブレーキの操作のわずかなミスによって自車を進路から逸脱させて事故を発生させる実質的危険性があると認められる速度で自車を走行させる行為といえるから、法2条2号の「その進行を制御することが困難な高速度で自動車を運転する行為」に該当する。 ⑵ そして、本件の事実関係に照らすと、被告人が法定最高速度を遵守した適切な運転行為をしていれば、本件事故の発生を確実に回避することができたと認められるところ、被告人において、前記危険運転行為の後、更に別個の交通法規違反行為が介在したという事情はなく、他方、被告人車両の速度超過の程度に照らし、被害者車両の右折進行態様が不適切・不相当であったともいえないから、本件事故は、被告人の運転行為の危険性が現実化したものであり、被告人の運転行為と本件事故との間には因果関係があるといえるし、被告人は、本件道路の状況や、被告人車両が著しく速い速度で走行していることといった進行の制御の困難性を基礎付ける事実を認識しながら、前記危険運転行為に及んだものと認められるから、法2条2号の罪の故意に欠けるところは の状況や、被告人車両が著しく速い速度で走行していることといった進行の制御の困難性を基礎付ける事実を認識しながら、前記危険運転行為に及んだものと認められるから、法2条2号の罪の故意に欠けるところはない。 ⑶ したがって、被告人の運転行為につき法2条2号の罪が成立する。 2 法2条4号の罪の成否⑴ 前記のような被告人車両の速度や本件交差点への進入形態等に照らし、被告人は、重大な交通の危険を生じさせる速度で、被告人車両を右折進行中の被害者車 両の直近に移動させたものと認められる。 ⑵ ところで、法2条4号の「人又は車の通行を妨害する目的」とは、歩行者又は道路上を通行する車全般に自車との衝突を避けるために急な回避措置をとらせるなど、相手方の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図することをいい、これらについての未必的な認識、認容があるだけでは足りないと解するのが相当である。 そこで検討すると、前記第2の1⑵の事実関係及び被告人の公判供述によれば、被告人は、本件当時、被告人車両を運転して直進車優先の本件道路の第2車両通行帯を西進し、被害者車両との衝突地点の手前約728mの地点において、被告人車両の前後及び対向車線を進行する車両は存在しないとの認識の下、アクセルを強く踏み込み始めるとともに、前方の状況を確認すべく前照灯をハイビームにし、同衝突地点の手前約331mの地点で本件交差点の対面信号機が青色を表示しているのを確認した後、時速約194.1kmの速度で被告人車両を走行させて本件交差点に進入したものであり、その際、対向右折進行してきた被害者車両に対して積極的にその通行を妨げる動機があったことをうかがわせる事情もないから、被害者車両の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図していたとは認められない。 これに対し、検察 てきた被害者車両に対して積極的にその通行を妨げる動機があったことをうかがわせる事情もないから、被害者車両の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図していたとは認められない。 これに対し、検察官は、本件道路は、対向右折車両が来ることが当然に想定される道路であること、時速約194.1kmという速度による走行は、当然に対向右折車両と衝突するか、衝突を免れるとすれば同車両に急な回避行動をとらせるほかない行為であること、そもそも被告人車両にとっては対向右折車両に気付くこと自体が困難であること、被告人がこれらの事情を認識していたことから、被告人には、対向右折車両等が存在した場合、同車両等の通行の妨害を来すのが確実であるとの認識があったといえ、このような認識がある場合にも「人又は車の通行を妨害する目的」があると認められる旨主張する。 しかし、検察官の主張は、通行妨害目的の対象車両の認識は未必的であってもよいことを前提としているが、同目的の要件は、客観面で通行を妨害する危険性が存 在していることを前提とした上で、主観面で、そのような危険性の認識・認容を超えて、相手方の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図している場合に、法2条4号の罪の成立を限定する面にその意義があるから、それとの関係上、飽くまで妨害することの認識ではなく対象車両の認識であるとはいえ果たして未必的であってもよいのか疑問が残る。その点は差し置いても、被告人において、真実、本件交差点に存在する対向右折車両等の通行の妨害を来すのが確実であると認識していたのであれば、被告人車両の速度に照らし、対向右折車両等との事故を発生させて自身の生命や身体を危険にさらすこともまた十分認識し得たことになるが、そのような危険を冒してまで高速度走行に及ぶ意思を有し、現に高速度走行に及んだも 速度に照らし、対向右折車両等との事故を発生させて自身の生命や身体を危険にさらすこともまた十分認識し得たことになるが、そのような危険を冒してまで高速度走行に及ぶ意思を有し、現に高速度走行に及んだものとは認め難いから、対向右折車両等の通行の妨害を来すのが確実であるとの認識があったと推認するには合理的な疑いが残る。 結局、本件の事実関係の下においては、弁護人も主張するとおり、被告人が、被告人車両を運転して本件道路を直進する際、場合によっては対向車線から本件交差点を右折進行する車両があり、場合によってはこれらの車両が急ブレーキをかける必要が生じる可能性があると考えていたこと(被告人の供述も同旨である。)を認定し得るにとどまるから、被告人に「人又は車の通行を妨害する目的」があったとは認められない。 ⑶ したがって、被告人の運転行為につき法2条4号の罪は成立しない。 (量刑の理由)本件犯行の態様は、一般道路において、法定最高速度の3倍以上もの常軌を逸した高速度で普通自動車を走行させ、急制動の措置を講じることのないまま、信号交差点に進入したという危険極まりないものであり、その危険性の高さは、本件事故の衝撃によって、被害者車両が大破し、被害者が、装着していたシートベルトがちぎれて車外に放出され、対向車線まで飛ばされたという悲惨な状況からも明らかである。被告人は、当時19歳の少年であったとはいえ、運転免許を受けている以上、高速度走行の危険性を理解していたはずであるのに、常習的に高速度走行に及ぶ中、 マフラー音やエンジン音、加速の高まりを体感して楽しむために本件犯行に及んだというのであり、身勝手・自己中心的な意思決定は厳しい非難に値する。落ち度のない被害者の生命が奪われた結果の重大性を前提にすると、遺族が厳重処罰を求めていることは十分 て楽しむために本件犯行に及んだというのであり、身勝手・自己中心的な意思決定は厳しい非難に値する。落ち度のない被害者の生命が奪われた結果の重大性を前提にすると、遺族が厳重処罰を求めていることは十分理解できる。もっとも、被告人の運転行為につき法2条4号の罪は成立せず、被告人は、法2条2号の罪と併合罪の関係に立つ道路交通法違反の罪(無免許・酒気帯び運転や救護・報告義務違反)は犯していない。 以上の諸事情に照らすと、本件は、検察官が主張する量刑傾向(処断罪:危険運転致死、共犯関係等:単独犯、処断罪と同一又は同種の罪の件数:1件、被害者の落ち度:なし、量刑上考慮した前科の有無:すべてなし。なお、当該量刑傾向に含まれる危険運転類型ごとの量刑傾向の差異についても裁判体の共通認識とした。)の中で、中程度からやや重い部類に属する事案といえる。 その上で、被告人が、常習的に高速度走行に及んでいたことなど自己に不利益な事実を率直に認めたり、本件事故現場での献花を続けたりして、反省の態度を示していること、未だ若年であること、両親が出廷して社会復帰後の監督を申し出ていること、被害者の遺族に対して保険により損害全額の賠償がなされる見込みがあることのほか、被告人の責めに帰し得ない事情のため公訴提起から公判審理までの期間が長引き、被告人として不安定な状態に置かれ続けたことといった一般情状も考慮し、主文の刑を量定した。 (求刑:本位的訴因につき懲役12年、予備的訴因につき懲役5年)令和6年12月3日大分地方裁判所刑事部 裁判長裁判官辛島靖崇 裁判官北島聖也 裁判官山西健太 裁判官北島聖也 裁判官山西健太

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