平成31(ワ)6848 砂川事件裁判国家賠償等請求事件

裁判年月日・裁判所
令和6年1月15日 東京地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-93609.txt

判決文本文30,212 文字)

令和6年1月15日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成31年(ワ)第6848号砂川事件裁判国家賠償等請求事件口頭弁論終結日令和5年9月11日判決 主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 及び理由第1 請求1⑴ 被告は、原告A及び原告Bに対し、各10万円及びこれらに対する昭和3 4年12月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 ⑵ 被告は、原告Cに対し、1万2500円及びこれに対する昭和34年12月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は、株式会社読売新聞社の発行する読売新聞全国版に、別紙謝罪広告目録記載1の内容の謝罪広告を、同2の条件で1回掲載せよ。 3⑴ 被告は、原告A及び原告Bに対し、各2000円及びこれらに対する平成31年4月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 ⑵ 被告は、原告Cに対し、250円及びこれに対する平成31年4月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は、アメリカ合衆国軍隊が使用する区域であって、入ることを禁じた場所である東京都北多摩郡砂川町(現立川市)所在の立川飛行場内に正当な理由なく立ち入ったという日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定に伴う刑事特別法(昭和27年法律第138号。以下「刑事特別法」という。)2条違反の公訴事実により公訴を提起された刑事事件(以下 「砂川事件」という。)の被告人であった原告A及び原告B、並びに同被告人 であった亡Dの相続人である原告Cが、被告に対し、砂 。)2条違反の公訴事実により公訴を提起された刑事事件(以下 「砂川事件」という。)の被告人であった原告A及び原告B、並びに同被告人 であった亡Dの相続人である原告Cが、被告に対し、砂川事件の上告審裁判所の裁判長裁判官田中耕太郎(以下「田中裁判長」という。)は砂川事件の上告審の審理中に密かにアメリカ合衆国関係者と面会し、砂川事件の心証、評議の状況、審理の予測等を伝えるなどしていたため、①砂川事件の上告審裁判所は憲法37条1項所定の「公平な裁判所」とはいえない状態となっており、田中 裁判長が前記被告人らの公平な裁判所の裁判を受ける権利を侵害したとして、国家賠償法1条1項に基づき慰謝料各10万円(原告Cについては、これに同原告の法定相続分割合を乗じた1万2500円)及びこれに対する砂川事件上告審判決の日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払並びに名誉を回復する処分としての 謝罪広告を求めるとともに、②原判決を破棄し、砂川事件を第一審に差し戻す旨の上告審裁判所の判決は憲法37条1項に違反し無効であり、したがって前記被告人らをそれぞれ罰金2000円に処した差戻後の第一審判決も無効であるから、前記被告人らが被告に納付した罰金は法律上の原因を欠くとして、不当利得返還請求権に基づき、各2000円(原告Cについては、これに同原告 の法定相続分割合を乗じた250円)及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで前記①同様の遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実(争いのない事実及び後掲証拠等により容易に認められる事実。なお、証拠等を掲記しない事実は当事者間に争いがない。枝番号を記載しない書証は全ての枝番号を含む。) ⑴ 当事者 事実(争いのない事実及び後掲証拠等により容易に認められる事実。なお、証拠等を掲記しない事実は当事者間に争いがない。枝番号を記載しない書証は全ての枝番号を含む。) ⑴ 当事者原告A、原告B及び亡Dは、砂川事件の被告人であった者である(以下、併せて「本件被告人ら」という。)。 亡Dは、平成25年(2013年)2月17日に死亡した。原告Cは、亡D及びその配偶者であるEの子であり、同人らには原告Cのほかに3名の子 がいる。 ⑵ 砂川事件の公訴提起東京地方検察庁検察官は、昭和32年(1957年)10月2日、要旨、本件被告人らが、同年7月8日、正当な理由がないのに、アメリカ合衆国軍隊が使用する区域であって入ることを禁じた場所である飛行場内に深さ4. 5mないし2.3mにわたって立ち入ったものであるとの公訴事実で、刑事 特別法2条を罰条として、東京地方裁判所に公訴を提起した(同裁判所昭和32年(特わ)第367号及び同第368号。以下、この第一審を「砂川事件第一審」という。)。 なお、同年当時、同条本文は、「正当な理由がないのに、合衆国軍隊が使用する施設又は区域(行政協定第二条第一項の施設又は区域をいう。以下同 じ。)であつて入ることを禁じた場所に入り、又は要求を受けてその場所から退去しない者は、一年以下の懲役又は二千円以下の罰金若しくは科料に処する。」と規定していた。 ⑶ 砂川事件の裁判の経過ア東京地方裁判所は、昭和34年(1959年)3月30日、本件被告人 らには前記公訴事実と概ね同様の事実が認められ、同事実が刑事特別法2条に該当するものの、我が国が自衛に使用する目的でアメリカ合衆国軍隊の駐留を許容していることは憲法9条2項前段によって禁止されてい らには前記公訴事実と概ね同様の事実が認められ、同事実が刑事特別法2条に該当するものの、我が国が自衛に使用する目的でアメリカ合衆国軍隊の駐留を許容していることは憲法9条2項前段によって禁止されている陸海空軍その他の戦力の保持に該当するものであり、アメリカ合衆国軍隊の駐留が同項前段に違反して許されないものであるから、アメリカ合衆国軍 隊の施設又は区域内の平穏に関する法益が一般国民の同種法益以上の厚い保護を受ける合理的理由がなく、刑事特別法2条の規定は憲法31条に違反し無効なものであるため、前記公訴事実は訴因として罪とならないと判断して、本件被告人らに対し、いずれも無罪を言い渡した(以下「砂川事件第一審判決」という。)(甲1)。 イ検察官は、昭和34年4月3日、同判決について、刑事訴訟法406条、 刑事訴訟規則254条1項に基づき、最高裁判所に対して跳躍上告をした(同裁判所昭和34年(あ)第710号。以下、この上告審を「砂川事件上告審」という。)。 ウ最高裁判所第一小法廷は、昭和34年6月12日、砂川事件上告審を大法廷で審理裁判する旨決定した(このときの最高裁判所大法廷を、以下 「本件上告審裁判所」という。)(甲20の1)。本件上告審裁判所では、当時の最高裁判所長官である田中裁判長が裁判長裁判官を務めた。 エ本件上告審裁判所は、昭和34年9月18日、弁論を終結し、同年12月16日、砂川事件第一審判決がアメリカ合衆国軍隊の駐留が憲法9条2項前段に違反し許すべからざるものと判断したのは、裁判所の司法審査権 の範囲を逸脱し同条項及び憲法前文の解釈を誤ったものであり、したがって、これを前提として刑事特別法2条を違憲無効としたことも失当であって、破棄を免れないと判断して、原判決を破棄し砂 法審査権 の範囲を逸脱し同条項及び憲法前文の解釈を誤ったものであり、したがって、これを前提として刑事特別法2条を違憲無効としたことも失当であって、破棄を免れないと判断して、原判決を破棄し砂川事件を東京地方裁判所に差し戻す旨判決した(最高裁判所昭和34年12月16日大法廷判決・刑集13巻13号3225頁。以下「砂川事件上告審判決」という。) (甲2、20の10)。 オ差戻しを受けた東京地方裁判所(同裁判所昭和35年(特わ)第6号。 以下、この第一審を「砂川事件差戻審」という。)は、昭和36年(1961年)3月27日、刑事特別法2条が違憲無効ではないとの砂川事件上告審判決に拘束されることを前提に、前記公訴事実と概ね同様の事実を認 め、同事実が刑事特別法2条に該当するとして、本件被告人らに対し、各罰金2000円に処する旨の有罪判決を言い渡した(以下「砂川事件差戻審判決」という。)(甲3)。同判決は、控訴審における控訴棄却判決及び第二次上告審における上告棄却判決を経て、昭和39年(1964年)1月5日、確定した。 カ本件被告人らは、その頃、確定した砂川事件差戻審判決で言い渡された 罰金各2000円を納付した(原告A本人〔7頁〕、弁論の全趣旨)。 ⑷ アメリカ国立公文書館が保管するとされる公文書の発見ジャーナリストであるFは、平成20年(2008年)4月10日、アメリカ国立公文書館において、「SUNAKAWA」との文字が記載された文書(甲4。以下「甲4電報」という。)の原本を発見し、複写して写しを持 ち帰った(甲4、24、33、34、証人G〔7~9頁〕)。 ジャーナリストであるHは、平成23年(2011年)9月30日、アメリカ国立公文書館において、書簡(甲6。以下 写して写しを持 ち帰った(甲4、24、33、34、証人G〔7~9頁〕)。 ジャーナリストであるHは、平成23年(2011年)9月30日、アメリカ国立公文書館において、書簡(甲6。以下「甲6書簡」という。)の原本を発見し、同文書をスキャンしてデータを持ち帰った(甲6、25、33、34、証人G〔7~9頁〕)。 甲6書簡の翻訳作業をしていたIは、平成25年(2013年)1月8日発送の郵便で、アメリカ国立公文書館に対し、甲6書簡に記載されていた「G73」なる文書の開示請求を行ったところ、同館から同年1月16日付けで、同文書(甲5。以下「甲5書簡」といい、甲4電報及び甲6書簡と併せて「本件各文書」という。)の写しの送付を受けた(甲5、26、33、 34、証人G〔7~9頁〕)。 ⑸ 砂川事件の再審請求原告らほか1名は、本件各文書の記載内容によれば、田中裁判長が、砂川事件上告審の係属中に、複数回にわたり被害者の立場にあったアメリカ合衆国の駐日大使らと接触し、砂川事件に係る評議の秘密を漏洩するなどの言動 をとっていたと認められることから、田中裁判長を裁判長とする本件上告審裁判所による砂川事件上告審判決は、本件被告人らほか1名の公平な裁判所による裁判を受ける権利を侵害し、憲法37条1項に違反するものであり、砂川事件上告審判決による破棄差戻しを受けて、同判決中の判断に拘束された砂川事件差戻審の裁判所も「公平な裁判所」による裁判をすることは不可 能であり、同裁判所としては、訴訟上の信義則として裁判を打ち切るほかな く、免訴を言い渡すべきであった、田中裁判長の前記言動を示す本件各文書の発見は、免訴を言い渡すべき明らかな証拠をあらたに発見したときに該当するとして、平成26年(2014年 打ち切るほかな く、免訴を言い渡すべきであった、田中裁判長の前記言動を示す本件各文書の発見は、免訴を言い渡すべき明らかな証拠をあらたに発見したときに該当するとして、平成26年(2014年)6月17日、砂川事件差戻審の有罪判決に対して、再審の請求をした(東京地方裁判所平成26年(た)第12号。以下、この再審請求事件を「砂川再審請求事件」という。)(甲8)。 しかし、東京地方裁判所は、平成28年(2016年)3月8日、弁護人提出に係る新証拠をもってしても、田中裁判長に不公平な裁判をする虞があると認めるに足りる事情を合理的に疑わせることはできず、その余の点について判断するまでもなく、これらの証拠は免訴を言い渡すべき明らかな証拠とは認められないとして、前記再審の請求を棄却する決定をした。これに対 して原告らほか1名が即時抗告の申立てをしたが(東京高等裁判所平成28年(く)第149号)、東京高等裁判所は、平成29年(2017年)11月15日、刑事訴訟法337条は、「正義の観点からして、有罪判決を言い渡すのがはばかられる事情」というような包括的な免訴事由を認めるものであるとは解されず、また、砂川事件上告審判決を言い渡した本件上告審裁判 所の審理及び判決は憲法37条1項の「公平な裁判所」に違反したものであるとの請求人らの主張する事実が認められたとしても、砂川事件差戻審判決を言い渡した砂川事件差戻審の裁判所が刑事訴訟法337条により免訴を言い渡すべきであったともいえないから、同法435条6号に基づく再審請求は認められないとして、同抗告を棄却する決定をし、これに対して原告らほ か1名が特別抗告の申立てをしたが(最高裁判所平成29年(し)第684号)、最高裁判所は、平成30年(2018年)7月18日、同抗告を棄 として、同抗告を棄却する決定をし、これに対して原告らほ か1名が特別抗告の申立てをしたが(最高裁判所平成29年(し)第684号)、最高裁判所は、平成30年(2018年)7月18日、同抗告を棄却する決定をした。(甲8~10)⑹ 本訴提起原告らは、平成31年(2019年)3月19日、本訴を提起した(当裁 判所に顕著な事実)。 ⑺ 消滅時効の援用被告は、令和元年(2019年)6月12日の本件第1回口頭弁論期日において、原告らに対し、原告らの国家賠償請求及び謝罪広告請求に係る消滅時効を援用するとの意思表示をした(当裁判所に顕著な事実)。 2 争点 〔国家賠償請求に係る争点〕⑴ 田中裁判長の行為についての違法性及び故意過失の有無⑵ 本件被告人らの損害⑶ 除斥期間経過の有無⑷ 除斥期間を適用することが正義公平の理念に反するため除斥期間を不適用 とすべきか否か⑸ 消滅時効の完成の有無〔謝罪広告請求に係る争点〕前記争点⑴から⑸までに加えて⑹ 謝罪広告請求の可否 〔不当利得返還請求に係る争点〕⑺ 罰金相当額の不当利得返還請求をすることの適法性(本案前の争点)⑻ 法律上の原因の有無 3 争点に対する当事者の主張⑴ 争点⑴(田中裁判長の行為についての違法性及び故意過失の有無)につい て(原告らの主張)ア田中裁判長の行為本件各文書の記載内容によれば、本件上告審裁判所の裁判長であった田中裁判長は、砂川事件上告審の審理中に以下の行為を行っていたことが 認められる。 (ア) 情報漏洩田中裁判長は、駐日アメリカ大使J(以下「 の裁判長であった田中裁判長は、砂川事件上告審の審理中に以下の行為を行っていたことが 認められる。 (ア) 情報漏洩田中裁判長は、駐日アメリカ大使J(以下「J大使」という。)又は駐日アメリカ主席公使K(以下「K公使」といい、J大使と併せて「J大使ら」という。)に対して、昭和34年(1959年)4月24日頃、①砂川事件が他の事件に優先して審理されることになるとの予測及び② 砂川事件の審理が開始されてから判決言渡しまでに少なくとも数か月かかるとの予測を伝えた。また、田中裁判長は、同年7月31日頃、J大使らに、③砂川事件の判決が12月になるとの予測、④弁護団が裁判所の結審を遅らせるべくあらゆる可能な法的手段を試みているとの事実、⑤争点を事実問題ではなく法的問題に閉じ込める決心をしているとの田 中裁判長の姿勢ないし考え、⑥口頭弁論を9月初旬に始まる1週につき2回、いずれも午前と午後に開廷することによりおよそ3週間で終わるという予測、⑦口頭弁論終結後に14人の同僚裁判官たちの多くがそれぞれの見解を長々と論じたがることによって、判決言渡しまでの期間が長引くという問題が生じるとの予測、⑧結審後の評議では実質的に全員 一致の判決が下されることを希望しているとの田中裁判長の姿勢ないし考え及び⑨判決は世論を乱す少数意見が回避されることを希望しているとの田中裁判長の姿勢ないし考えを伝えた。さらに、田中裁判長は、同年11月5日頃、J大使らに、⑩現時点で判決言渡時期は未定であるとの事実及び判決は来年の初めまでには出したいとの田中裁判長の姿勢な いし考え、⑪15人の裁判官がこの事件に取り組む際の共通の土俵を確立したいとの田中裁判長の姿勢ないし考え及びこのことが最も重要な問題であるとの田中裁判長の には出したいとの田中裁判長の姿勢な いし考え、⑪15人の裁判官がこの事件に取り組む際の共通の土俵を確立したいとの田中裁判長の姿勢ないし考え及びこのことが最も重要な問題であるとの田中裁判長の考え、⑫裁判官全員が一致して、適切で、現実的な、合意された基本的規準に基づいて事件に取り組むことが重要であるとの田中裁判長の姿勢ないし考え、⑬裁判官たちが考えている論点 は3つあるとの事実、1つ目は手続上の論点で、砂川事件第一審の東京 地方裁判所には、合衆国軍隊駐留の合憲性について裁定する権限がなく、不法侵入事件という固有の争点を逸脱しているのではないかと考えている裁判官がいるとの事実、2つ目は法律上の論点で、米軍駐留により提起されている法律問題に取り組むべきであると考えている裁判官がいるとの事実及び3つ目は憲法上の論点で、日本国憲法の下で、条約は憲法 より優位にあるかどうかという憲法上の問題に取り組むべきであると考えている裁判官がいるとの事実、⑭評議において砂川事件第一審判決は支持されていないとの事実及び同判決は覆されるであろうとの予測並びに⑮裁判官15人のうちできるだけ多くの多数によって憲法上の論点について裁定させることが重要であるとの姿勢ないし考え及び憲法問題に 第一審が判決を下すのはまったく間違っているとの考えを伝えた。 (イ) 訴訟指揮田中裁判長は、本件上告審裁判所の裁判長として、砂川事件上告審の公判期日を指定し、同期日において訴訟を指揮し、法廷秩序の維持に関わり、公判終結後には評議を開き、これを整理し、判決公判期日におい て、砂川事件上告審判決を宣告した。 (ウ) 評議のリード前記(ア)のとおり、田中裁判長がJ大使らに伝えた内容に表れた田中裁判長の姿 これを整理し、判決公判期日におい て、砂川事件上告審判決を宣告した。 (ウ) 評議のリード前記(ア)のとおり、田中裁判長がJ大使らに伝えた内容に表れた田中裁判長の姿勢ないし考えによれば、田中裁判長が、本件上告審裁判所の評議において、他の14人の構成裁判官を支配し判決内容を自身が望む 一定の方向にリードしていたと推認される。実際、砂川事件上告審の審理手続は田中裁判長の企図したとおりの経過で行われ、その評議も田中裁判長の希望したとおりに行われ、砂川事件上告審判決へと結実した。 イ違法性及び故意過失田中裁判長は、前記ア(ア)のとおり、砂川事件のありとあらゆる情報を、 J大使らを通じて、砂川事件の被害者であり、検察官側の当事者的立場 にあるともいうべきアメリカ合衆国に伝えていたことになる。このような裁判情報の漏洩は、単なる漏洩にとどまらず、裁判の一方当事者のみに対する漏洩という点で、不公平な裁判結果をもたらすものである。すなわち、一方当事者であるアメリカ合衆国に対して、裁判情報等を漏洩し、審理や評議の進め方について打ち合わせをしていた田中裁判長が本 件上告審裁判所を構成し、かつその裁判長として訴訟指揮や評議といった手続を行い(前記ア(イ))、本件上告審裁判所を構成する他の裁判官を自身の望む一定方向にリードしていた点(前記ア(ウ))で、本件上告審裁判所は「偏頗のおそれ」がある不公平な裁判所となっており、憲法37条1項所定の「公平な裁判所」には当たらなかった。そのため、本件被 告人らは、田中裁判長の故意又は重大な過失によって、同項所定の公平な裁判所による裁判を受ける権利を侵害されたといえる。 (被告の主張)事実は不知であり、法的主張は争う。 告人らは、田中裁判長の故意又は重大な過失によって、同項所定の公平な裁判所による裁判を受ける権利を侵害されたといえる。 (被告の主張)事実は不知であり、法的主張は争う。 本件各文書の成立については不知である。仮に、本件各文書の成立の真正 が認められたとしても、これらには伝聞に当たる情報が記載されており、田中裁判長の発言を正確に聴取したものか、田中裁判長の発言の真意や意図を的確に理解して記載したものか、あるいは田中裁判長の発言がその趣旨を損なわないように要約されたものか、いずれも明らかではないし、本件各文書は田中裁判長の言動に関するように見る余地のある記載とJ大使らの主観を 表現した記載とが渾然一体となっており、これだけで田中裁判長の言動を確定ないし推測するのは不適切であるといわざるを得ないから、本件各文書によって原告らが主張するような田中裁判長の各行為を認定することはできない。 ⑵ 争点⑵(本件被告人らの損害)について (原告らの主張) 本件被告人らは、田中裁判長の行為によって公平な裁判所による裁判を受ける権利を侵害され、精神的苦痛を受けた。 これを金銭評価すれば各10万円を下らない。 (被告の主張)争う。 ⑶ 争点⑶(除斥期間経過の有無)について(被告の主張)仮に原告らの主張する国家賠償請求権及び謝罪広告請求権が発生していたとしても、これらの請求権は、砂川事件上告審における田中裁判長の各行為それ自体によって生じた損害に基づくものであり、原告らの主張する加害行 為が行われた時に損害が発生したものといえるから、当該加害行為の時が除斥期間(国家賠償法4条、平成29年法律第44号による改正前の民法 って生じた損害に基づくものであり、原告らの主張する加害行 為が行われた時に損害が発生したものといえるから、当該加害行為の時が除斥期間(国家賠償法4条、平成29年法律第44号による改正前の民法724条後段)の起算点となる。そして、当該加害行為は、遅くとも砂川事件上告審判決が言い渡された昭和34年(1959年)12月16日には終了している。 したがって、前記各請求権は、いずれも、遅くとも同日の20年後である昭和54年(1979年)12月16日の経過をもって、除斥期間を経過したことになる。 (原告らの主張)原告らは、前提事実⑸のとおり、砂川事件差戻審判決に対して再審の請求 をして、下級審である東京地方裁判所が憲法37条1項に違反する本件上告審裁判所の宣告した砂川事件上告審判決により差戻しを受けたことは非類型的免訴事由に該当する旨主張して、再審を開始して免訴の判決をすることを求めていたところ、原告らの主張が採用されて再審が開始される可能性も相当程度存在した。そして、当該再審が開始されれば再審公判において新たな 裁判所のもとで公平な裁判所による裁判を受けることが可能となるのである から、本件被告人らの公平な裁判所による裁判を受ける権利の侵害については、再審開始の可否が確定するまでは損害の発生が確定していなかったといえる。 そうすると、平成30年(2018年)7月18日に砂川再審請求事件において特別抗告棄却決定がなされ、再審の請求による救済手段が尽きたこと で、はじめて本件被告人らの損害の発生が確定したといえるから、同時点を除斥期間の起算点とすべきである。 したがって、本訴提起時点(平成31年3月19日)で除斥期間は経過していない。 ⑷ 争点⑷(除斥期間 人らの損害の発生が確定したといえるから、同時点を除斥期間の起算点とすべきである。 したがって、本訴提起時点(平成31年3月19日)で除斥期間は経過していない。 ⑷ 争点⑷(除斥期間を適用することが正義公平の理念に反するため除斥期間 を不適用とすべきか否か)について(原告らの主張)仮に、田中裁判長の各行為時を除斥期間の起算点としたとしても、除斥期間の制度趣旨は、長期間の経過による証拠の散逸及び証人の記憶の減衰、加害者を長期間不安定な状態に置くことの妥当性並びに社会的安定の維持の要 請にあるところ、除斥期間を適用することが正義公平の理念に反するときは、これを適用すべきではない。 本件についてみると、本訴請求は、アメリカ国立公文書館で保管されている本件各文書を証拠とするものであるから、証拠が散逸するおそれはなく、信用性が一般に高い公文書により十分に事実を立証できることに照らせば、 証人の記憶の減衰を本件で考慮する必要はない。 そして、法的安定性という観点からみても、アメリカ合衆国政府が本件各文書を機密指定していたために本件の事実関係が隠蔽されていたところ、同指定が解除され、情報が公開されて本件各文書が発見されたことを契機に、本件の国家賠償請求権の行使がなされたものである。ここで、もともと田中 裁判長がJ大使らと密会して本件被告人らの公平な裁判所による裁判を受け る権利を侵害したことからすれば、本件は両者による共同不法行為ともいうべき事案であり、前記機密指定は片方の共同不法行為者であるJ大使らの所属するアメリカ合衆国政府による隠蔽ということになる。そうすると、他方の共同不法行為者である田中裁判長の職務上の違法行為について国家賠償責任を負う被告において、前記 共同不法行為者であるJ大使らの所属するアメリカ合衆国政府による隠蔽ということになる。そうすると、他方の共同不法行為者である田中裁判長の職務上の違法行為について国家賠償責任を負う被告において、前記機密指定のために国家賠償請求権の行使が遅く なり、そのため長期間不安定な状態に置かれたとしても、そのことによる不利益は甘受すべきであって、除斥期間適用による利益を享受すべき理由はない。加えて、原告らは、最高裁判所に対して司法行政文書の開示申出をしたのに対し、最高裁判所は不存在である旨回答したところ、同回答は信用できないし、仮に真に同文書が不存在なのであれば、あえて記録を残さずに本件 の事実関係を隠蔽したということであって、いずれにせよ、被告も本件の事実関係を隠蔽しているのであるから、なおさら被告が除斥期間適用による利益を享受すべき理由はない。このように、権利侵害の加害者が、加害の事実を知り得ない状況を殊更に作出し、そのために原告らがその事実を知ることができないまま20年が経過したのであるから、そのような場合に原告らに 一切の権利行使を許さず、加害の責任を負う被告の法的責任を免れさせることは、国家賠償責任を認めた憲法17条の趣旨にも反する。 したがって、原告らの請求に対し、除斥期間を適用すべきではない。 (被告の主張)判例上、除斥期間経過の効果が否定されるのは極めて限定的な事案につい てのみであるところ、本件について、例外的に除斥期間の適用を否定すべき事案であることをうかがわせる事情は見当たらない。 ⑸ 争点⑸((国家賠償請求権及び謝罪広告請求権についての)消滅時効の完成の有無)について(被告の主張) 原告らの主張する損害は、本件上告審裁判所における田中裁判長の行為に ⑸ 争点⑸((国家賠償請求権及び謝罪広告請求権についての)消滅時効の完成の有無)について(被告の主張) 原告らの主張する損害は、本件上告審裁判所における田中裁判長の行為に よって本件被告人らの公平な裁判所による裁判を受ける権利が侵害されたというものであるから、砂川事件差戻審判決に対する再審の請求及びそれに対する裁判の確定を待たずして、田中裁判長の加害行為時点で損害が発生したものといえる。 そして、前提事実⑸のとおり、原告らは、平成26年(2014年)6月 17日、田中裁判長の行為がアメリカ国立公文書館保管の本件各文書により明らかになったなどとして、本件被告人らの公平な裁判所による裁判を受ける権利が侵害されていたことを理由に再審の請求をしたというのであるから、遅くとも同日の時点では、原告らにおいて、田中裁判長の行為によって、前記損害が発生したことを現実に認識するとともに、砂川再審請求事件及びそ れに対する裁判を待たずして、被告に対する国家賠償請求及び謝罪広告請求が事実上可能な状況のもとに、その可能な程度にこれを知ったことが認められる。 したがって、原告らが本訴を提起した平成31年(2019年)3月19日の時点で、国家賠償請求権及び謝罪広告請求権について、いずれも3年の 時効期間(国家賠償法4条、平成29年法律第44号による改正前の民法724条前段)が経過し、消滅時効が完成している。 (原告らの主張)原告らは、前提事実⑸のとおり、砂川事件差戻審判決に対して再審の請求をして、下級審である東京地方裁判所が憲法37条1項に違反する本件上告 審裁判所の宣告した砂川事件上告審判決により差戻しを受けたことは非類型的免訴事由に該当する旨主張して、再審を開始して 請求をして、下級審である東京地方裁判所が憲法37条1項に違反する本件上告 審裁判所の宣告した砂川事件上告審判決により差戻しを受けたことは非類型的免訴事由に該当する旨主張して、再審を開始して免訴の判決をすることを求めていたところ、原告らの主張が採用されて再審が開始される可能性も相当程度存在した。そして、当該再審が開始されれば再審公判において新たな裁判所のもとで公平な裁判所による裁判を受けることが可能となり、また免 訴判決を得られれば、本件被告人らの損害は発生しないか、発生しても損害 の程度は異なり、本件被告人らの名誉も回復されることになっていた。したがって、本件被告人らが侵害された公平な裁判所による裁判を受ける権利については、再審開始の可否が確定するまでは損害の発生が確定していなかったといえる。 そうすると、平成30年(2018年)7月18日に砂川再審請求事件に おいて特別抗告棄却決定がなされ、再審の請求による救済手段が尽きたことで、はじめて本件被告人らの損害の発生が確定したといえるから、同時点を消滅時効の起算点とすべきである。 したがって、本訴提起時点で消滅時効は完成していない。 ⑹ 争点⑹(謝罪広告請求の可否)について (原告らの主張)本件被告人らは、砂川事件第一審判決において正当に無罪判決の言渡しを受けたが、その後、同判決は砂川事件上告審判決において破棄され、名誉を毀損された。本件被告人らのかかる名誉の回復は、金銭の支払のみにより実現できるものではないから、名誉回復の手段として謝罪広告請求が認められ るべきである。 (被告の主張)争う。 ⑺ 争点⑺(罰金相当額の不当利得返還請求をすることの適法性)について(被告の主張) 復の手段として謝罪広告請求が認められ るべきである。 (被告の主張)争う。 ⑺ 争点⑺(罰金相当額の不当利得返還請求をすることの適法性)について(被告の主張) 本訴のうち、罰金相当額の不当利得返還を求める訴えは、原告らが、砂川事件差戻審判決が無効であると主張して、同判決による罰金として納付された罰金相当額の返還を求める実質的当事者訴訟(行政事件訴訟法4条)である。 有罪の言渡しをした確定判決の効力を争う手段として、刑事訴訟法におい て再審の制度が定められており、再審の審理の中ではいわゆる再審事由の存 否について争い、これが奏功した場合には再審開始の決定がなされ、その後の刑事訴訟における審理の結果として、無罪判決が確定すると、既に徴収された罰金の額に刑事補償法所定の金額を加算した補償金が再審請求人に交付されることとなる。原告らの前記の訴えは、前記の再審の手続における争点及び効果と同一のものであり、実質的にみれば、行政事件訴訟に名を借りて 再審と同一の請求をするものにほかならない。この点を措くとしても、原告らは、前記の訴えの請求原因事実として、確定した砂川事件差戻審の有罪判決が無効であることを主張しているのであるから、本来、再審及び再審手続開始決定後の刑事訴訟において判断されるべき事項を不可欠の前提としている。 このように、原告らの主張は、再審の手続と同一の請求をするものにほかならないか、再審の手続において判断されるべき事項を不可欠の前提とする請求に係る行政訴訟であるといえる。 しかしながら、我が国の司法制度は、行政事件訴訟及び民事訴訟とは別個に刑事訴訟という訴訟類型を置いており、司法権の運営の機能性、効率性を 損なわないようにす 行政訴訟であるといえる。 しかしながら、我が国の司法制度は、行政事件訴訟及び民事訴訟とは別個に刑事訴訟という訴訟類型を置いており、司法権の運営の機能性、効率性を 損なわないようにするため、刑事事件として刑事訴訟の審理を経た結果によって確定した有罪判決の効力を争う訴訟類型については、専ら刑事訴訟手続によることが予定されているというべきである。したがって、行政事件訴訟又は民事訴訟において、一度確定した有罪判決の有効性を争うことは、刑事訴訟における審判事項を目的とするものである以上、許されないというべき であり、本訴のうち罰金相当額の不当利得返還を求める訴えは不適法である。 (原告らの主張)本訴のうち罰金相当額の不当利得返還を求める部分は、無効な有罪判決によって「罰金」として納付させられた罰金相当額の返還を求めるものであって、あくまで民法703条に基づく不当利得返還請求をするにすぎず、刑事 訴訟法所定の再審手続により「有罪の言渡を受けた者に対して無罪若しくは 免訴を言い渡」す法的効果(刑事訴訟法435条)が得られるものではないから、実質的に見て再審と同一の請求というものではない。 また、砂川再審請求事件においては、憲法37条1項に違反した裁判による判決であったことを理由として免訴判決を求める再審請求は刑事訴訟法上認められないとする判断が確定したから、無効な砂川事件差戻審判決によっ て徴収された罰金の返還を求める法的手続としては不当利得返還請求訴訟以外になく、本件が刑事訴訟法上の手続で判断されるべきとはいえない。 ⑻ 争点⑻(法律上の原因の有無)について(原告らの主張)前記⑴(原告らの主張)欄イのとおり本件上告審裁判所は憲法37条1項 所定の「公平 判断されるべきとはいえない。 ⑻ 争点⑻(法律上の原因の有無)について(原告らの主張)前記⑴(原告らの主張)欄イのとおり本件上告審裁判所は憲法37条1項 所定の「公平な裁判所」に当たらないため、同裁判所の宣告した、砂川事件第一審判決を破棄し、事件を東京地方裁判所に差し戻す旨の砂川事件上告審判決は違憲である。そして、憲法98条1項所定の「国務に関するその他の行為」には裁判所の判決も含まれるから、同判決は違憲のため無効であるというべきである。そうすると、砂川事件第一審判決を破棄した法令上の根拠 が失われるとともに、本件被告人らに罰金2000円を科した砂川事件差戻審判決も法令上の根拠を失い無効である。したがって、本件被告人らが同判決により納付を強制された2000円の罰金は、法律上の原因がないといえる。 (被告の主張) 本件被告人らに対してそれぞれ罰金2000円を科す旨の砂川事件差戻審判決は確定しており、その後、砂川再審請求事件において再審の請求は棄却された。したがって、当該罰金相当額を被告が保持することには「法律上の原因」がないとはいえない。 第3 当裁判所の判断 1 争点⑴(田中裁判長の行為についての違法性及び故意過失の有無)について ⑴ 認定事実ア本件各文書について(ア) 前提事実⑷に加え、証拠(甲4~7、11~13、証人G〔7~9頁〕)によれば、J大使が昭和34年(1959年)4月24日付けでアメリカ国務長官に宛てて甲4電報を発した事実、同大使が同年8月3 日付けでアメリカ国務長官に宛てて甲5書簡を発した事実、J大使が同年11月5日付けでアメリカ国務長官に宛てて甲6書簡を発した事実がいずれも認められる。 (イ) 実、同大使が同年8月3 日付けでアメリカ国務長官に宛てて甲5書簡を発した事実、J大使が同年11月5日付けでアメリカ国務長官に宛てて甲6書簡を発した事実がいずれも認められる。 (イ) 甲4電報の記載証拠(甲4、7、11~13)によれば、甲4電報には、次のaの英 文が記載されており、これを日本語に翻訳すると次のbのとおりである。 なお、丸番号は後記説示の便宜上当裁判所が付したものであり、前記第2の3⑴(原告らの主張)欄ア(ア)における丸番号に概ね対応させたものである(後記(ウ)及び(エ)においても同様である。)。 a 原文(英語) INPRIVATECONVERSATIONCHIEFJUSTICETANAKATOLDAMBASSADORTHATWHILE ①CASEHADBEENGIVENPRIORITY,②UNDERJAPANESEPROCEDURESAFTERDELIBERATIONSBEGINITWOULDTAKEATLEASTSEVERALMONTHSFORDECISIONTOBEREACHED. b 翻訳(日本語)大使との内々の会話において、田中長官は、①本件は優先されるであろうが、②日本の手続の下では審理開始後、判決に達するまで、少なくとも数か月は要するであろうと述べていた。 (ウ) 甲5書簡の記載 証拠(甲5、7、11~13)によれば、甲5書簡には、次のaの英 文が記載されており、これを日本語に翻訳すると次のbのとおりである。 a 原文(英語)Duringconversationathous 簡には、次のaの英 文が記載されており、これを日本語に翻訳すると次のbのとおりである。 a 原文(英語)Duringconversationathousemutualfriend, SupremeCourtChiefJusticeKotaroTANAKAtoldDCM ③henowthoughtdecisioninSunakawa〔裁判所注:原文ママ〕 caseprobablein December. ChiefJusticesaidthat ④defenseattorneystryingeverylegaldevicepossibletodelaycompletionCourt’sconsideration, butheisdeterminedto ⑤confineissuetoquestionoflawandnotoffact. Onthisbasishebelieved ⑥oralargumentscouldbecompletedinaboutthreeweekstime, withtwosessions, morningand afternooneach, perweekbeginningearlyinSeptember. ⑦ProblemwouldarisethereafterbecausesomanyofhisfourteenAssociateJusticesliketoarguetheirviewsatgreatlength. ChiefJusticeaddedhehoped ⑧Court’sdelib teJusticesliketoarguetheirviewsatgreatlength. ChiefJusticeaddedhehoped ⑧Court’sdeliberationscouldbecarriedoutinmannerwhichwouldproducesubstantialunanimityofdecisionand ⑨avoidminorityopinionswhichcould “unsettle” publicopinion.Comment:〔裁判所注:以下省略〕b 翻訳(日本語)共通の友人の家での会話の際に、田中耕太郎最高裁判所長官は、次席〔翻訳人注:K公使を指す〕に対し、③砂川事件の判決は12月に なろうと今考えている旨述べた。長官の述べるところによれば、④被告側弁護団は裁判所の審議終了を引き延ばすためにあらゆる法的な措置を試みているが、⑤長官は論点を事実問題ではなく、法律問題に限定する決意である由。これに基づき、長官は、⑥口頭弁論は9月上旬から毎週1度、午前と午後に開催し、3週間程度の間に完了するであ ろうと確信していた。⑦彼〔翻訳人注:田中裁判長を指す〕の14人 の陪席裁判官の多くは、彼らの見解を徹底的に議論したいであろうから、問題はその後生じるであろう。さらに長官は、⑨裁判所の審議は、世論を「揺るがす」ような少数意見を避け、⑧実質的な全員一致をもたらすようなやり方で行われることを希望する旨述べた。 コメント:〔裁判所注:以下省略〕 (エ) 甲6書簡の記載証拠(甲6、7、11~13)によれば、甲6書簡には、次のaの英文が記 ことを希望する旨述べた。 コメント:〔裁判所注:以下省略〕 (エ) 甲6書簡の記載証拠(甲6、7、11~13)によれば、甲6書簡には、次のaの英文が記載されており、これを日本語に翻訳すると次のbのとおりである。 a 原文(英語)DuringrecentinformalconversationwithChiefJusticeTanaka wehadabriefdiscussionabouttheSunakawacase. TheChiefJusticesaidthat ⑩henowhopedthattheSupremeCourtofJapanwouldbeabletohanddownitsverdictbythefirstoftheyearalthoughhewasnotyetcertainofthistiming. Heobservedthat ⑪withabenchoffifteenjusticesthemostimportantproblemwasto trytoestablishsomecommondenominatortoapproachthecase.ChiefJusticeTanakasaidthat ⑫itwasimportantthat, ifpossible,allofhisassociatejusticesapproachthecaseonthebasisofagreed,appropriateandrealisticgroundrulesas ciatejusticesapproachthecaseonthebasisofagreed,appropriateandrealisticgroundrulesasitwere. Heimpliedthat⑬someofthejusticeswereapproachingthecaseona “procedural” basiswhereasotherswereviewingitona “legal” basiswhilestillotherswereconsideringtheproblemona “constitutional” basis.(Igathered …〔裁判所注:中略〕)TheChiefJusticegavenoindicationthat ⑭hebelievedthelowercourt’srulingwouldbeupheld. Onthecontrary, Ihadimpression thathefelt ⑭itwouldbeoverruledbutthat ⑮theimportantthing wastohaveaslargeamajorityofthefifteenjusticesaspossibleruleontheconstitutionalissueinvolved, which, hesaid, ithadbeenquiteimproperforJudgeDatetopasson.b 翻訳(日本語)最近非公式に、田中最高裁判所長官と砂川事件につ hadbeenquiteimproperforJudgeDatetopasson.b 翻訳(日本語)最近非公式に、田中最高裁判所長官と砂川事件について短時間話し 合った。長官は、⑩タイミングについては定かではないものの、日本の最高裁は年初までには判決を出したいと目下望んでいる旨述べた。 長官は、⑪15人の裁判官による法廷にとって、最も重要な問題は、本件にアプローチするための共通の土台を確立しようとすることであるとみていた。田中長官は、⑫できれば、最高裁の裁判官全てがいわ ば合意した、適切かつ現実的な基本原則に従って本件にアプローチすることが重要だと述べた。彼〔翻訳人注:田中裁判長を指す〕の示唆するところによれば、⑬何人かの裁判官は本件を「手続的」観点からアプローチする一方、他の裁判官は「法律的」な観点から見ていたり、「憲法的」な観点から問題を考えている裁判官もいる由。 (私が推測するに…〔裁判所注:中略〕)長官からは、⑭下級裁判所の判決が支持されると考えているといった示唆はなかった。反対に、私の受けた印象では、⑭長官は同判決が覆されるだろうと感じているようだが、⑮重要なことは、裁判官15人のうちできるだけ多くの多数によって、関連した憲法上の論点につ き裁定させることのようである。⑮この憲法上の論点について伊達判事〔裁判所注:甲第1号証によれば、砂川事件第一審裁判所の裁判長を指す〕が判決を下したことは、全く適切ではなかったと彼〔翻訳人注:田中裁判長を指す〕は述べていた。 イ証人G(以下「G」という。)の供述について (ア) Gは、昭和41年(1966年)に外務省に入省し、大臣官房総務 課企画官や情報調査局分析課課長 す〕は述べていた。 イ証人G(以下「G」という。)の供述について (ア) Gは、昭和41年(1966年)に外務省に入省し、大臣官房総務 課企画官や情報調査局分析課課長、在アメリカ合衆国大使館参事官、国際情報局局長等の在職歴を有する者である(甲29、証人G〔1~3頁〕)。 Gは、日本政府において、在外公館からの報告は、所在国の情報資料として最も重要視されるものであり、報告の方法として最も多いの は電報であること、在外公館から本国に対し所在国に関する情報を伝える場合、事実関係と報告者の認識とを峻別し、事実関係は可能な限り正確に報告することを心がけ、とりわけ、所在国関係者による発言の内容は明確にすることが求められること、アメリカ合衆国においても、在外公館からアメリカ合衆国本国への報告文書、とりわけ国務長 官を宛先に指定した電報又は書簡は、国務長官の判断に供されるため重大な役割を担っていること、本国に送信又は送付された電報又は書簡は、最終的にアメリカ国立公文書館に保管され、将来的に公文書公開の対象にもなることから、作成者はこれらを正確に作成し、在外公館内の決裁においても正確性が確認され、事実関係と作成者の考え又 は推論とを明確に峻別することが求められる旨を証言している(証人G〔3~11頁〕)。 Gは、本件各文書について、田中裁判長が「述べた」(原文は“told”)と記述されている部分(例えば前記③)については、実際に田中裁判長が当時そのように語ったとの事実を示す客観的描写であ ると考えられること、他方で、田中裁判長が「確信していた」(原文は“believed”)と記述されている部分(前記⑥)や田中裁判長の考え方についての報告者の印象(原文は“Ihadimpression”)が記述 こと、他方で、田中裁判長が「確信していた」(原文は“believed”)と記述されている部分(前記⑥)や田中裁判長の考え方についての報告者の印象(原文は“Ihadimpression”)が記述されている部分(前記⑭後段)などについては、報告者が何らかの根拠に基づきそのような判断をしたことは認められるものの、その判断 根拠は不明であり、その内容に関して田中裁判長のとった具体的な発 言は分からないこと、田中裁判長から「示唆はなかった」(原文は“gavenoindication”)と記述されている部分(前記⑭前段)についても、田中裁判長がそのような様子を見せなかったということしか分からない旨を証言している(証人G〔15~21頁〕)。 (イ) 前記(ア)によれば、Gは、砂川事件上告審判決が言い渡された後で ある昭和41年(1966年)に日本の外務省に入省しているから、同人の前記の証言は、砂川事件上告審が審理されていた当時のアメリカ合衆国における公文書の作成に関する知見に基づくものではない。 もっとも、同人の外交官としての経歴に照らせば、同人は外交及び海外情報の分析に関する知見を有し、同人の前記証言も、同知見からの 合理的な推論を述べたものと認められるから、本件各文書の内容を検討する際に一定程度参考にすることができる。 ウ本件各文書から田中裁判長の具体的言動がうかがえるかについて(ア) 前記ア及びイに基づき検討するに、本件各文書において、田中裁判長が「述べた」、「述べていた」又は「述べるところによれば」(原 文は“told”、“said”又は“added”)と記述されている部分(前記①から④まで、⑧から⑩まで、⑫及び⑮)については、同人が語った事実についての正確性が求め るところによれば」(原 文は“told”、“said”又は“added”)と記述されている部分(前記①から④まで、⑧から⑩まで、⑫及び⑮)については、同人が語った事実についての正確性が求められる状況下で起案されたことが推認される。 もっとも、本件各文書においては、通訳や通信技術の制約から、報 告者が報告事項を要約して記述した可能性も否定できない。そうすると、田中裁判長が前記①から④まで、⑧から⑩まで、⑫及び⑮の事項に関する言及をしたという事実は推認されるものの、その発言文言や発言態様、発言がなされた文脈等の詳細までを具体的に推認するのは難しいといわざるを得ない。 (イ) 他方で、前記⑤から⑦まで、⑪、⑬及び⑭については、前記と異な り田中裁判長が「述べた」などとは記述されていないこと、前記Gの証言によっても、それらの記述の根拠が不明である(証人G19頁)、あるいは曖昧な形で伝えた(同20頁)とされていることも踏まえれば、それらの報告内容の前提として、田中裁判長が何らかの言及をしたのか否かは定かでない。 ⑵ 法的検討ア憲法37条1項にいわゆる「公平な裁判所の裁判」とは、偏頗や不公平のおそれのない組織と構成をもった裁判所による裁判を意味するものであって、個々の事件につきその内容実質が具体的に公正妥当なる裁判を指すのではない(最高裁判所昭和23年5月26日大法廷判決・刑集2 巻5号511頁)。 すなわち、個々の裁判内容の公平は同条項の直接に保障するところではなく、同条項は、手続的側面から予断と偏見のない第三者的裁判所を保障することで、公平な裁判を帰結するための前提条件を保障するものである。したがって、当該裁判官が訴追者その他の事件関係者との間で事 、同条項は、手続的側面から予断と偏見のない第三者的裁判所を保障することで、公平な裁判を帰結するための前提条件を保障するものである。したがって、当該裁判官が訴追者その他の事件関係者との間で事 件に予断又は偏見をもたらすような特別な関係を有する、あるいは手続外の事情により事件に対する一定の判断を既に形成しているなどの特段の事情が認められない限り、当該裁判所がなした裁判は「公平な裁判所の裁判」でないとはいえず憲法37条1項に反しないと解するのが相当である。 イ前記⑴ウ(ア)のとおり推認される田中裁判長の言動に対する検討(ア) 前提事実及び認定事実によれば、田中裁判長は、検察官が昭和34年(1959年)4月3日に跳躍上告をした後の同月24日頃、J大使との会話の中で、その発言文言や発言態様、発言がなされた文脈等の詳細までを具体的に推認するのは難しいものの、①砂川事件が他の事件に優 先して審理されるとの予測及び②日本の手続の下では砂川事件の審理が 開始されてから判決言渡しまでに少なくとも数か月を要するとの予測に言及したことが推認される。 しかし、①の予測については「原裁判において同種の判断をしていない他のすべての事件に優先して、これを審判しなければならない」と定めた刑事訴訟規則256条から容易に導かれる帰結であり、また、②の 予測についても、上告審を行う最高裁判所の運用における一般論の域を出ないものといえる。したがって、仮に田中裁判長がJ大使との会話の中で前記①及び②のような予測を有していたとしても、そのことから、田中裁判長が訴追者その他の事件関係者との間で事件に予断又は偏見をもたらすような特別な関係を有する、あるいは手続外の事情により事件 に対する一定の判断を既に形成しているなど も、そのことから、田中裁判長が訴追者その他の事件関係者との間で事件に予断又は偏見をもたらすような特別な関係を有する、あるいは手続外の事情により事件 に対する一定の判断を既に形成しているなどの特段の事情があるとはいえない。 (イ) また、前提事実及び認定事実によれば、田中裁判長は、砂川事件上告審の審理中である同年8月3日頃、K公使に対し、その発言文言や発言態様、発言がなされた文脈等の詳細までを具体的に推認するのは難しい ものの、前記③砂川事件の判決は12月になろうと今考えていること、④被告側弁護団は裁判所の審議終了を引き延ばすためにあらゆる法的な措置を試みていること、⑨裁判所の審議は、世論を「揺るがす」ような少数意見を避け、⑧実質的な全員一致をもたらすようなやり方で行われることを希望する旨を言及したことが推認される。しかし、前記③は判 決時期の予測、前記④は審理状況の認識、前記⑧及び⑨は裁判所の審議のあり方についての希望であるところ、既に砂川事件上告審の審理が始まっていたことを踏まえれば、仮に田中裁判長がそのような予測、認識ないし希望を有していたとしても、直ちに田中裁判長が訴追者その他の事件関係者との間で事件に予断又は偏見をもたらすような特別な関係を 有する、あるいは手続外の事情により事件に対する一定の判断を既に形 成しているなどの特段の事情があるということはできない。 (ウ) さらに、前提事実及び認定事実によれば、田中裁判長は、砂川事件上告審が同年9月18日に弁論を終結した後、同年12月16日に砂川事件上告審判決を言い渡すまでの間の同年11月5日頃、J大使との短時間の会話において、その発言文言や発言態様、発言がなされた文脈等の 詳細までを具体的に推認するのは難しいものの、⑩ 16日に砂川事件上告審判決を言い渡すまでの間の同年11月5日頃、J大使との短時間の会話において、その発言文言や発言態様、発言がなされた文脈等の 詳細までを具体的に推認するのは難しいものの、⑩タイミングについては定かではないものの、日本の最高裁は年初までには判決を出したいと目下望んでいる、⑫できれば、最高裁の裁判官全てがいわば合意した、適切かつ現実的な基本原則に従って本件にアプローチすることが重要である、⑮重要なことは、裁判官15人のうちできるだけ多くの多数によ って、関連した憲法上の論点につき裁定させることである、この憲法上の論点について伊達判事が判決を下したことは、全く適切ではなかった旨について言及をしたと推認される。しかし、前記⑩は判決の時期についての希望、前記⑫及び⑮は審議のあり方についての希望や原判決についての意見であるところ、既に砂川事件上告審の弁論が終結されていた ことを踏まえれば、仮に田中裁判長がそのような希望ないし意見を有していたとしても、直ちに田中裁判長が訴追者その他の事件関係者との間で事件に予断又は偏見をもたらすような特別な関係を有する、あるいは手続外の事情により事件に対する一定の判断を既に形成しているなどの特段の事情があるということはできない。 ウその他原告らの指摘する情報漏洩等の観点からの検討原告らは、田中裁判長が砂川事件に関する進行状況、訴訟指揮や評議の方針及び内容、心証や予測される判決内容等といった情報を、J大使等を通じてアメリカ合衆国に伝えており、このような裁判情報の漏洩は、単なる漏洩にとどまらず、裁判の一方当事者のみに対する漏洩という点 で、不公平な裁判結果をもたらすものである旨主張する。しかし、前記 認定、説示のとおり、本件各文書その 報の漏洩は、単なる漏洩にとどまらず、裁判の一方当事者のみに対する漏洩という点 で、不公平な裁判結果をもたらすものである旨主張する。しかし、前記 認定、説示のとおり、本件各文書その他本件全証拠によっても、田中裁判長が、J大使等に対し、砂川事件の進行の予測(①及び②)、判決時期の予測や希望(③及び⑩)、審理状況(④)、審議のあり方についての希望(⑧、⑨、⑫及び⑮)、原判決に対する意見(⑮)について言及をしたことが推認されるにとどまり、田中裁判長がどのような文脈でど のような意図をもってどのような発言文言で言及したのかは不明であることに加え、田中裁判長がJ大使等に対し砂川事件に関する具体的な評議の内容や心証、予測される判決内容等といった情報まで伝えていた事実は認めることができない。また、アメリカ合衆国又はその関係者は砂川事件において訴訟活動をする地位にはないから、田中裁判長がJ大使 等に裁判情報を漏洩したことで砂川事件における当事者の訴訟活動に影響するという関係にはないし、田中裁判長が裁判情報を漏洩したことで田中裁判長が予断又は偏見を抱くに至るわけでもない。なお、甲6書簡には「田中最高裁判所長官と砂川事件について短時間話し合った」との記載があるが、田中裁判長は当時最高裁判所長官の職にあったこと(公 知の事実)、我が国の最高裁判所長官がアメリカ合衆国関係者と面会する理由としては外交礼譲も考えられることからすれば、この記載のみから、原告らが主張するように、田中裁判長がアメリカ合衆国と審理や評議の進め方について打合せをしていたとまでは推認できない。 確かに、裁判官は、裁判や裁判所に対する国民の信頼を損なうことがな いように、慎重に行動すべきであるといえるものの、憲法37条1項との関係でいえば、本件上告 をしていたとまでは推認できない。 確かに、裁判官は、裁判や裁判所に対する国民の信頼を損なうことがな いように、慎重に行動すべきであるといえるものの、憲法37条1項との関係でいえば、本件上告審裁判所を構成する裁判官が訴訟に関係する者と面会したとしても、それだけでは、直ちに前記説示のような特段の事情が認められるとはいえず、本件上告審裁判所が「公平な裁判所」ではないとはいえない。 また、原告らは、田中裁判長が他の構成裁判官を支配し、砂川事件上告 審判決の内容を自身が望む一定の方向にリードしていた旨も主張するが、本件全証拠によっても、田中裁判長が評議の開催及び整理といった裁判長の職務(裁判所法75条2項)を超えた行為をしたことはうかがわれない。 その他本件全証拠によっても、本件において田中裁判長が訴追者その他 の事件関係者との間で事件に予断又は偏見をもたらすような特別な関係を有するとか、あるいは手続外の事情により事件に対する一定の判断を既に形成しているなどの特段の事情は見当たらず、原告らの主張を踏まえても、本件上告審裁判所が憲法37条1項所定の「公平な裁判所」ではないとはいえない。 ⑶ 小括よって、田中裁判長の行為に違法性は認められない。 2 争点⑸((国家賠償請求権及び謝罪広告請求権についての)消滅時効の完成の有無)について前記1で認定説示したところによれば、争点⑵ないし⑹を判断するまでもな く原告らの国家賠償請求及び謝罪広告請求はいずれも理由がないが、念のため、争点⑸についても判断する。 ⑴ 判断基準平成29年法律第44号による改正前の民法724条にいう「損害及び加害者を知った時」とは、被害者において、加害者に対する賠償請求をするこ 争点⑸についても判断する。 ⑴ 判断基準平成29年法律第44号による改正前の民法724条にいう「損害及び加害者を知った時」とは、被害者において、加害者に対する賠償請求をするこ とが事実上可能な状況の下に、それが可能な程度に損害及び加害者を知った時を意味し、「損害を知った時」とは、被害者が損害の発生を現実に認識した時をいうと解するのが相当である(最高裁判所昭和48年11月16日第二小法廷判決・民集27巻10号1374頁、同平成14年1月29日第三小法廷判決・民集56巻1号218頁)。もっとも、加害者の行為が不法行 為であることは、被害者が加害行為の行われた状況を認識することによって 容易に知ることができる場合もありうるのであって、その行為の違法性が別訴で争われている場合でも、別訴の裁判所の判断を常に待たなければならないものではない(最高裁判所昭和43年6月27日第一小法廷判決・集民91号461頁参照)。 ⑵ 検討 原告らは、本訴において、本件被告人らが田中裁判長の行為によって憲法37条1項所定の公平な裁判所による裁判を受ける権利を侵害されて、精神的苦痛を受けた旨主張し、その損害賠償及び名誉回復のための処分を求めている。そうすると、原告らの主張する損害は、田中裁判長の行為によって直ちに生じ、遅くとも砂川事件訴訟の終了時点(砂川事件差戻審判決の確定) 以降には生じていないというべきである。また、原告らの主張する損害は、刑事訴訟の過程における手続的権利を侵害されたことで生じたとされるものであるから、同損害に係る国家賠償請求は、砂川事件の確定判決である砂川事件差戻審判決の存在により制約を受けるとも解されず、再審の手続によって同判決を取り消すまでもなく国家賠償請求をすることが可 ものであるから、同損害に係る国家賠償請求は、砂川事件の確定判決である砂川事件差戻審判決の存在により制約を受けるとも解されず、再審の手続によって同判決を取り消すまでもなく国家賠償請求をすることが可能であるという べきである(仮にこのように解さないとすれば、本件においては、前提事実⑸のとおり、砂川事件の確定判決である砂川事件差戻審判決は未だ再審の手続により取り消されていないのであるから、この点で原告らの国家賠償請求及び謝罪広告請求は理由がないことに帰する。)。したがって、遅くとも砂川事件差戻審判決の確定時点以降、原告らは被告に対する賠償請求をするこ とが事実上可能な状況の下にあったといえる。 そして、本訴において原告らは、平成26年6月17日、田中裁判長によって本件被告人らが憲法37条1項で保障された「公平な裁判所の裁判」を受ける権利を侵害されたことを理由として砂川事件差戻審の有罪判決に対して再審の請求を行ったと主張しているところ(訴状11頁、原告ら最終準備 書面53頁)、原告らは、同請求が棄却され、同決定に対する抗告も棄却さ れ、同決定に対する特別抗告も棄却された後に本訴を提起したのであるから、同請求を行った時点では、砂川再審請求事件における判断にかかわらず、田中裁判長の行為が違法であると現実に認識していたというほかない。したがって、原告らは、遅くとも当該請求を行った平成26年6月17日には、田中裁判長の行為によって本件被告人らの公平な裁判所による裁判を受ける権 利が侵害されたことを現実に認識し、かつ被告に対する賠償等請求が可能な程度に、加害者を知ったと認めるのが相当である。 これに対し、原告らは、砂川再審請求事件において再審が開始されれば再審公判において新たな裁判所のもとで公平な裁 被告に対する賠償等請求が可能な程度に、加害者を知ったと認めるのが相当である。 これに対し、原告らは、砂川再審請求事件において再審が開始されれば再審公判において新たな裁判所のもとで公平な裁判所による裁判を受けることが可能となり、また免訴判決を得られれば、本件被告人らの損害は発生しな いか、発生しても損害の程度は異なり、本件被告人らの名誉も回復されることになっていたから、再審開始の可否が確定するまでは本件被告人らの損害の発生が確定していなかったといえる旨を主張する。しかし、前記説示のとおり、原告らの主張する損害は、田中裁判長の行為によって直ちに生じるものであるから、その後に再審が開始されたとしても消滅ないし軽減するよう なものではなく、したがって砂川再審請求事件における裁判が確定するまで損害の発生が確定していなかったとはいえない。確かに、再審が開始され、再審公判により適正な判断がされれば損害に対する救済となるとの側面は否めないものの、損害に対する救済の途が残されているからといって、その手段の残るかぎりいつまでも損害を知りえず、したがって時効も進行を始めな いと解することは相当でないというべきである(前掲最高裁判所昭和43年6月27日第一小法廷判決参照)。したがって、原告らの前記主張は採用できない。 以上によれば、原告らの国家賠償請求権及び謝罪広告請求権は、遅くとも平成26年6月17日より消滅時効の進行を開始し、平成29年6月17日 の経過により完成したと認められる。そして、被告が同消滅時効を援用した のは前提事実⑺のとおりである。 3 争点⑺(罰金相当額の不当利得返還請求をすることの適法性)について被告は、刑事事件として刑事訴訟の審理を経た結果により確定した有罪判決の効力 のは前提事実⑺のとおりである。 3 争点⑺(罰金相当額の不当利得返還請求をすることの適法性)について被告は、刑事事件として刑事訴訟の審理を経た結果により確定した有罪判決の効力を争う訴訟類型については、専ら刑事訴訟手続によることが予定されており、行政事件訴訟又は民事訴訟において、一度確定した有罪判決の有効性を 争うことは許されないというべきであるところ、原告らの罰金相当額の不当利得返還を求める訴えは、実質的には再審手続と同一の争点及び効果を得ようとするものであるから、行政訴訟ないし民事訴訟においてこれを行うことは許されず、原告らの前記訴えは不適法である旨主張する。 しかしながら、原告らの前記訴えは被告に対して金銭の給付を求める不当利 得返還請求訴訟であり、有罪判決の有効性そのものが訴訟物となる訴訟類型ではない(被告は、刑事確定判決の無効確認を求める訴えの提起が不適法と解されていることも指摘するが、この点で本件と事案を異にする。)。すなわち、原告らは前記第2の3⑻(原告らの主張)欄のとおり砂川事件差戻審判決が無効である旨主張しているが、これは不当利得返還請求権の請求原因として主張 されているにすぎない。そして、そのような請求原因の主張があった場合に不当利得返還請求の訴え提起それ自体を制限すべきとする根拠規定は見当たらない。 また、再審制度や刑事補償制度が設けられているとの観点から検討しても、刑事訴訟法上の再審制度は、確定有罪判決に事実誤認又はその疑いがある場合 に、事実認定の不当を是正するとともに、有罪の言渡しを受けた者を救済するための非常救済手続であるし、憲法40条及び同条を具体化した刑事補償法上の刑事補償制度は、刑事手続において結果として理由のない身柄の拘束等を受けた個人の損害を定 に、有罪の言渡しを受けた者を救済するための非常救済手続であるし、憲法40条及び同条を具体化した刑事補償法上の刑事補償制度は、刑事手続において結果として理由のない身柄の拘束等を受けた個人の損害を定型的かつ迅速に補填しようとする社会的政策的制度であり、いずれについても民法703条が不当利得返還請求権を定めた趣旨とは異なる ものである。そして、憲法40条及び刑事補償法所定の刑事補償請求権は、金 銭債権の一種ではあるものの、その要件及び額に関する定めは、不当利得返還請求権のそれと異なっている。以上に照らしても、刑事補償請求権が不当利得返還請求権の一種であるとは位置付けられないし、刑事補償法が民法703条の特則とも解されず、したがって、刑事補償法が補償の請求及び補償払渡の請求について特別の手続を定めていること(同法6条から21条まで)によって も、罰金相当額の不当利得返還請求権の行使についてまで同手続によることを規定したとは解されず、その他に同法を通覧しても同請求権を民事訴訟によって訴求することを禁止する趣旨は読み取れない。なお、罰金を納付した後に免訴の裁判を受けた場合には、「もし免訴…の裁判をすべき事由がなかつたならば無罪の裁判を受けるべきものと認められる充分な事由があるとき」(刑事補 償法25条1項)を除いて国に対して補償の請求をすることはできず、この場合には国に対して不当利得返還請求権を行使して罰金相当額の返還を求めるほかないという点も指摘できる。 被告は、罰金相当額の不当利得返還を求める訴えが不適法であるとする根拠として、関税法上の規定に基づく通告処分は抗告訴訟の対象とならない旨判示 した最高裁判所昭和47年4月20日第一小法廷判決・民集26巻3号507頁、道路交通法上の規定に基づく反則金の納付 根拠として、関税法上の規定に基づく通告処分は抗告訴訟の対象とならない旨判示 した最高裁判所昭和47年4月20日第一小法廷判決・民集26巻3号507頁、道路交通法上の規定に基づく反則金の納付の通告は抗告訴訟の対象とならない旨判示した最高裁判所昭和57年7月15日第一小法廷判決・民集36巻6号1169頁、検察審査会法上の規定に基づく検察審査会による起訴をすべき旨の議決は抗告訴訟の対象とならない旨判示した最高裁判所平成22年11 月25日第一小法廷決定・民集64巻8号1951頁を引用する。これらの判例は、関税法上の通告処分の対象となった反則事実の有無等、道路交通法上の通告の理由となった反則行為の有無等及び検察審査会法上の検察審査会による起訴をすべき旨の議決の適否については、いずれも刑事訴訟手続において判断されるべきものであることを理由に、それぞれ抗告訴訟の対象とならない旨判 断したものであるが、民法703条に基づく不当利得返還請求権の有無につい ては、前記説示のとおり再審手続を含む刑事訴訟手続又は刑事補償法所定の補償の請求手続において判断することが想定されておらず、この点において、前記各判例は本件とは事案を異にしており、本件の訴えを不適法と解すべき根拠として適切とはいえない。 したがって、被告の前記主張は採用できず、罰金相当額の不当利得返還を求 める訴えを提起することが不適法であるとはいえない。 なお、同訴えの本案の要件において、罰金納付の法律上の原因となる有罪の確定判決が再審手続等の特段の措置をまつまでもなく内容的効力を生じないというためには、確定判決の法的安定性の見地をも考慮して検討されるべきであり、このことは当該確定判決の手続に違憲の瑕疵が認められる場合であっても 同様であって、 までもなく内容的効力を生じないというためには、確定判決の法的安定性の見地をも考慮して検討されるべきであり、このことは当該確定判決の手続に違憲の瑕疵が認められる場合であっても 同様であって、当該確定判決の内容的効力を否定すべきか否かは、総合的な視野に立つ合理的な解釈を行うことになり、当該確定判決が常に絶対的に無効となるとは解されない(最高裁判所昭和51年4月14日大法廷判決・民集30巻3号223頁参照、最高裁判所平成元年6月20日第三小法廷判決・民集43巻6号385頁伊藤正己補足意見参照)。したがって、同訴え自体を適法と しても、有罪判決により形成された刑罰に係る法的安定性を徒に損なうことにはならないと解される。 4 争点⑻(法律上の原因の有無)について原告らは、前記第2の3⑴(原告らの主張)欄のとおり、本件上告審裁判所が憲法37条1項所定の「公平な裁判所」には当たらなかったから、砂川事件 上告審判決は憲法98条1項により無効であり、同判決に基づく差戻し後の判決である砂川事件差戻審判決もまた無効であり、したがって本件被告人らによる罰金各2000円の納付が法律上の原因を欠く旨主張する。 しかし、本件上告審裁判所が憲法37条1項所定の「公平な裁判所」に当たらないとはいえないことは前記1で認定説示したとおりであるから、砂川事件 上告審判決が無効であるとの原告らの主張はその前提を欠いており、採用でき ない。 したがって、原告らの不当利得返還請求は、いずれも理由がない。 第4 結論よって、原告らの請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第5部 裁判長裁判官小池 主文 って、原告らの請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第5部 裁判長裁判官小池あゆみ 裁判官下山久美子 裁判官溝口翔太 (別紙)謝罪広告目録については、記載を省略。

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る