- 1 -主文 原判決を取り消す。 三重県警察本部長が控訴人に対して平成17年1月11日付けでした公文書部分開示決定のうち,平成16年1月16日付け新聞記事に記載されている別件控訴事件の被控訴人の職業,役職及び氏名ないしは年齢を非開示とした部分を取り消す。 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。 事実 及び理由第1当事者の求めた裁判 控訴人主文と同旨 被控訴人( )本件控訴を棄却する。 ( )控訴費用は控訴人の負担とする。 第2事案の概要 本件は,控訴人が,三重県警察本部長に対し,三重県情報公開条例(以下「本件条例」という。)に基づき,①津地方裁判所平成14年(行ウ)第31号事件,②上記①事件に関し,三重県警察本部長が平成15年3月19日付け控訴状で名古屋高等裁判所に控訴した事件(以下「別件控訴事件」という。)の各事件に関するすべての文書につき,開示請求をした(以下「本件開示請求」という。)ところ,三重県警察本部長は,平成16年1月16日付けP1新聞記事及びP2新聞記事の別件控訴事件の被控訴人(以下「相手方」という。)の職業,役職及び氏名を,また,同日付けP3新聞,P4新聞及びP5新聞記事の相手方の職業,役職,氏名及び年齢(以下,上記の各新聞記事を併せて「本件各新聞記事」といい,その相手方の職業,役職及び氏名ないし年齢の記載を「本件部分」という。)について,本件条例7条2号の非公開事由に- 2 -該当するとの理由で非開示にし,部分開示決定(以下「本件決定」という。)をしたため,控訴人が,被控訴人に対し,本件決定のうち,本件部分を非開示とした部分の取消しを求めた事案である。 原審は,本件各新聞記事が資料として収集され,三重県警察本部の職員により職務上作成された他の文書と一体 訴人が,被控訴人に対し,本件決定のうち,本件部分を非開示とした部分の取消しを求めた事案である。 原審は,本件各新聞記事が資料として収集され,三重県警察本部の職員により職務上作成された他の文書と一体として存在しているから,当該文書は新聞記事の部分を含め全体として本件条例の情報公開請求の対象となる「公文書」に該当するが,新聞で報道されたことだけで,本件条例7条2号イにいう「法令若しくは他の条例の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報」とはいえず,本件部分は本件条例7条2号の非開示事由が存在するとして,控訴人の請求を棄却した。 原判決に対し,控訴人が控訴した。 争いのない事実等( )本件条例は,以下のとおり規定している(甲3)。 2条この条例において「実施機関」とは…2項この条例において「公文書」とは,実施機関の職員が職務上作成し,又は取得した文書,図書,写真,フィルム及び電磁的記録(……)であって,当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして,当該実施機関が保有しているものをいう。ただし,次に掲げるものを除く。 1号官報,公報,白書,新聞,雑誌,書籍その他不特定多数の者に販売することを目的として発行されるもの7条実施機関は,開示請求があったときは,開示請求に係る公文書に次の各号のいずれかに該当する情報(以下「非開示情報」という。)が記録されている場合を除き,開示請求者に対し,当該公文書を開示しなければならない。 2号個人に関する情報(…公務員等(…地方公務員法…第2条に規定- 3 -する地方公務員をいう。…)の職務に関する情報を除く。)であって特定の個人が識別され得るもの,個人の事業に関する情報及び公務員等の職務に関する情報のうち公にすることにより当該個人の私生活上の権利利益を害す 公務員をいう。…)の職務に関する情報を除く。)であって特定の個人が識別され得るもの,個人の事業に関する情報及び公務員等の職務に関する情報のうち公にすることにより当該個人の私生活上の権利利益を害するおそれがあるもの…。ただし,次に掲げる情報を除く。 イ法令若しくは他の条例の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報ロ人の生命,身体,健康,財産,生活又は環境を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報( )控訴人は,三重県警察本部長に対し,本件条例に基づき,別件控訴事件 の各事件に関するすべての文書につき,開示請求(本件開示請求)をした(争いがない)。 ( )三重県警察本部長は,平成17年1月11日,本件開示請求のうち,別 件控訴事件に関する対象文書につき,本件条例12条1項に基づき,公文書部分開示決定(本件決定)を行った(争いがない)。 その中で,三重県警察本部長は,平成16年1月16日付けP1新聞記事及びP2新聞記事の別件控訴事件の被控訴人である相手方の職業,役職及び氏名を,また,同日付けP3新聞,P4新聞及びP5新聞記事の相手方の職業,役職,氏名及び年齢(本件部分)について,本件条例7条2号の非公開事由に該当するとの理由で非開示とした(争いがない)。 ( )控訴人は,平成17年4月8日,本件訴えを津地方裁判所に提起した。 (当裁判所に顕著) 当事者の主張( )控訴人 ア本件各新聞記事は,三重県警察本部の職員が職務上切抜いて作成した文書であるから,本件条例の情報公開請求の対象となる「公文書」に該当す- 4 -るが,以下の理由により公開すべきものである。 (ア)県立図書館などの施設においては,過去10年以上にわたるバックナンバーを保有し,誰でも自由に閲覧できる。現 象となる「公文書」に該当す- 4 -るが,以下の理由により公開すべきものである。 (ア)県立図書館などの施設においては,過去10年以上にわたるバックナンバーを保有し,誰でも自由に閲覧できる。現に,三重県立図書館や津市立図書館等では,いわゆる4大紙(P1,P3,P4,P5新聞)やP2新聞,P6新聞等の地方紙も過去10年以上にわたって所蔵し,だれかれの別なく閲覧に供している。特に本件の場合,平成16年1月16日付けの各紙と知れているから,何らの問題はない。すなわち,当該新聞の記事で報道された情報は,「現在,何人も知り得る状態に置かれている情報」である(控訴人の主張1)。 (イ)本件決定で部分非開示とされた公文書には,当該非開示部分についての情報を含むところの判決文が含まれる。裁判の公開原理及び民事訴訟法91条により,裁判記録は裁判所において誰でも閲覧できるのであるから,判決文は公になっている文書であり,また,そこに記載された情報は公になっていることは明らかである(控訴人の主張2)。 イ原判決には,以下のとおり,憲法違反の事由がある(控訴人の主張3)。 「市民的及び政治的権利に関する国際規約(B規約)」(以下「人権規約」という。)19条2項は,「すべての者は,表現の自由についての権利を有する。この権利には,口頭,手書き若しくは印刷,芸術の形態又は自ら選択する他の方法により,国境とのかかわりなく,あらゆる種類の情報及び考えを求め,受け及び伝える自由を含む。」と規定し,表現の自由についての権利は情報及び考えを摂取し,伝達する自由を含むと規定している。 憲法21条が保障する「表現の自由」は,一般に情報の「送り手」の情報伝達の自由とのみ理解されがちであるが,情報の入手の自由がなければ,情報伝達の自由は意味をなさないのであるから,同時にそれは いる。 憲法21条が保障する「表現の自由」は,一般に情報の「送り手」の情報伝達の自由とのみ理解されがちであるが,情報の入手の自由がなければ,情報伝達の自由は意味をなさないのであるから,同時にそれは情報の受け手の「情報の受領と入手の自由」,「知る自由」を含んでいる。これら両- 5 -者は,「表現の自由」を現す二つの面であり,表裏一体の関係にあるといえる。人権規約は,これを明確に規定したものである。 また,人権規約19条3項は,「2の権利の行使には,特別の義務及び責任を伴う。したがって,この権利の行使については,一定の制限を課すことができる。ただし,その制限は,法律によって定められ,かつ,次の目的のために必要とされるものに限る。(a)他の者の権利又は信用の尊重(b)国の安全,公の秩序又は公衆の健康若しくは道徳の保護」と規定し,表現の自由の行使に制限を課すのは上記の二つの場合に限ることを明記している。 憲法98条2項は,「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は,これを誠実に遵守することを必要とする。」と規定するが,条約の国内的効力は,判例上,憲法より下,法律より上に位置するとされる。 したがって,本件条例の解釈にあたっては,人権規約の規定を最大限に尊重すべきである。本件は,表現の自由が最大限に保障されるべき新聞報道に関する事案であるところ,原判決は,公文書として作成された新聞記事の情報を摂取し,伝達する権利を奪うものである。 よって,原判決は,国際法である人権規約19条2項,3項,ないしは憲法21条,98条2項に違反し,取消しを免れない。 ( )被控訴人 ア控訴人主張のアのうち,冒頭部分(本件各新聞記事が本件条例の情報公開請求の対象となる「公文書」に該当すること)は認める。 イ控訴人の主張1は否認ないし争う。本件各新聞記 。 ( )被控訴人 ア控訴人主張のアのうち,冒頭部分(本件各新聞記事が本件条例の情報公開請求の対象となる「公文書」に該当すること)は認める。 イ控訴人の主張1は否認ないし争う。本件各新聞記事の一部である本件部分は,相手方の職業,役職,氏名及び年齢を記載するもので,これら特定人の「職業」「役職」「氏名」「年齢」といった個人情報については,「特定の個人が識別され得るもの」として本件条例7条2号に定める非開示情報に当たるから,被控訴人は,本件条例7条2号により開示できない。 - 6 -仮に,本件部分を新聞記事であるという理由で開示すれば,他の「公文書」中の相手方の「職業」「役職」「氏名」「年齢」は本件条例7条2号に定める非開示情報となるにもかかわらず,本件部分が開示されることにより,結果的に他の「公文書」中の相手方の「職業」「役職」「氏名」「年齢」を開示したのと同様の結果となり,不当である。 ウ控訴人の主張2は争う。判決文の被控訴人の住所及び氏名は「開示をしない部分」とされており,控訴人も判決文の非開示部分について問題としているものではない。 第3当裁判所の判断 本件部分の本件条例7条2号本文該当性について( )証拠(甲1,2)及び弁論の全趣旨によれば,本件各新聞記事は,別件 控訴事件に関し「結果と終結について」との表題で,三重県警察本部の職員が職務上作成した文書の一部であり,別件控訴事件の判決結果についての平成16年1月16日付けの新聞記事を収集し資料として添付したものであること,上記文書中の本件各新聞記事以外の部分にも相手方の「職業」「氏名」が記載された部分があるが,そのうち「本文」中の「2当事者」の項に記載された相手方の住所,職業及び氏名は本件条例7条2号に該当し,公にすることにより特定の個人が識別され得ること の「職業」「氏名」が記載された部分があるが,そのうち「本文」中の「2当事者」の項に記載された相手方の住所,職業及び氏名は本件条例7条2号に該当し,公にすることにより特定の個人が識別され得ることが開示しない理由として部分開示決定され,「判決文」のうち相手方の住所及び氏名も前同様の理由で部分開示されていることが認められる。 ( )本件部分は,相手方の「職業」「役職」「氏名」「年齢」であるところ, これが個人に関する情報であって,直接又は他の情報と組み合せることにより特定の個人が識別され得るものであることは明らかである。 したがって,本件部分は,本件条例7条2号本文に該当する。 本件部分の本件条例7条2号但書イ該当性について( )控訴人の主張1について - 7 -ア本件条例7条2号は,その但書のイとして,「法令若しくは他の条例の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報」は,個人情報であっても,非公開事由に該当しない旨定めている(以下「例外事由イ」という。)。そして,「公にされている情報」とは,法令若しくは他の条例の規定により又は慣行により,現在,何人も知り得る状態におかれている情報をいうと解するのが相当である。 イ上記認定事実によれば,平成16年1月16日付けP1新聞,P2新聞,P3新聞,P4新聞及びP5新聞において,別件控訴事件に関する記事が掲載され,本件部分は,同記事の一部であることが認められる。 また,弁論の全趣旨によれば,三重県立図書館や津市立図書館等では,P1新聞,P3新聞,P4新聞,P5新聞のいわゆる全国紙やP2新聞,P6新聞等の地方紙を過去10年以上にわたって所蔵し,利用者に対し閲覧に供していることが認められるところ,かかる取扱いは,地方自治体の図書館に関する条例若しくは慣行に 聞のいわゆる全国紙やP2新聞,P6新聞等の地方紙を過去10年以上にわたって所蔵し,利用者に対し閲覧に供していることが認められるところ,かかる取扱いは,地方自治体の図書館に関する条例若しくは慣行に基づくものであると認められる。 そして,三重県警察本部の職員が本件各新聞記事をもとに本件部分を含む公文書を作成していることからすると,本件各新聞記事は,少なくとも三重県立図書館等の三重県内の公立図書館において,その全部もしくは少なくともP2新聞を含む一部が購入され,保管されていることが優に推認できる。 したがって,本件各新聞記事は,条例若しくは慣行により,三重県立図書館等の公立図書館において原則として誰でも閲覧できる状態にあると認められる。 そうすると,相手方の「職業」「役職」「氏名」「年齢」という本件部分についても,本件各新聞記事を閲覧することにより誰でも知り得る状態におかれていることになるから,本件部分は,例外事由イに該当し,公開すべき情報に当たる。 - 8 -ウ被控訴人は,新聞記事の一部であることを理由に例外事由イに該当するとすることは,同一の「公文書」中の本件部分以外に記載された相手方の「職業」「氏名」を非開示とした目的・趣旨を損なうという不合理な結果となる旨主張する。 しかしながら,一体となっている公文書中に,ある個人の個人情報に該当する部分が複数箇所ある場合において,同公文書中の一部の個人情報が法令等により何人も知り得る状態にあるのであれば,当該記載部分(個人情報)は公開すべきものであり,それ故同一の個人情報を記載した他の部分も,もはや当該個人の情報を保護すべき理由はないのであるから,当該公文書中の当該個人に関する記載部分(個人情報)は,これを全て公開すべきことは当然である。 被控訴人の主張によれば,一体となっている公文書中に や当該個人の情報を保護すべき理由はないのであるから,当該公文書中の当該個人に関する記載部分(個人情報)は,これを全て公開すべきことは当然である。 被控訴人の主張によれば,一体となっている公文書中に,ある個人の個人情報に該当する部分の記載が複数箇所あり,その一部は法令等により何人も知り得る状態にあるため,当該記載部分(個人情報)は公開すべきものである場合においても,なお,他にも同一の個人情報を記載した部分があることを理由に,当該個人情報が記載された部分の全てを非公開にできるということになるが,県民の知る権利を尊重するという本件条例1条の規定の趣旨に照らし,採用できない。 ( )控訴人の主張2,3について 上記のとおり,控訴人の主張1は全部理由がある。したがって,例外事由イ該当性に関する控訴人の主張2について判断する必要はない。また,原判決の判断が憲法に違反する旨の控訴人の主張3についても,判断する必要はない。 以上のとおり,控訴人の主張1は理由があるから,控訴人の本訴請求は認容すべきものである。 第4 結論 - 9 -よって,以上と結論を異にする原判決を変更することとし,主文のとおり判決する。 名古屋高等裁判所民事第3部裁判長裁判官青山邦夫裁判官坪井宣幸裁判官田邊浩典
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