平成16(わ)100 殺人被告

裁判年月日・裁判所
平成16年7月1日 甲府地方裁判所
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判決文本文3,408 文字)

主文 被告人を懲役9年に処する。 未決勾留日数中50日をその刑に算入する。 理由 (犯罪事実)被告人は,平成15年8月末か9月初めころから,放浪していた実弟のA(以下「被害者」ともいう。)が実家である被告人方に戻り,同居するようになったが,そのころほとんど仕事がなく,知人に電気代を立て替えてもらったり近隣に住む実妹に食料を援助してもらったりという経済的に逼迫した状態にあったことから,仕事もせずに昼間から飲酒して被告人の世話になるだけの毎日を送っていた被害者に不満を鬱積させ,次第に被害者を邪魔者と感じるようになった。さらに,同年11月初めころから,被害者が意味不明な独り言を口走ったり,頭を10分間くらい振り回し,こたつの敷布団を破るなどの不可解な行動をし,更には突然被告人の胸ぐらに掴みかかるなどの暴力を振るうようになったことから,被告人は,被害者が飲酒のし過ぎで精神に異常を来したと考えたものの,誰にも相談できずにあれこれ思い悩むうちに,被害者をこのままにしていたら,一人の時より倍くらいの金がかかって二人とも共倒れになってしまうし,いずれ刃物を持ち出すなどして自分が殺されてしまうかもしれない,だからといって家から追い出して他人に迷惑をかけたら自分の責任になって困るなどと考えたあげく,精神に異常を来して様々な形で自分に迷惑をかけかねない邪魔な被害者は,事故か病気で死んでくれたらいいとか,死ぬのを待っていたのでは生活も苦しくなる一方なので,いっそのこと自分の手で殺すしかないなどと思い詰めるようになった。 被告人は,平成15年11月上旬ころの午前11時ころ,山梨県北都留郡a町bc番地の被告人方庭先でゴミを燃やしていたところ, なので,いっそのこと自分の手で殺すしかないなどと思い詰めるようになった。 被告人は,平成15年11月上旬ころの午前11時ころ,山梨県北都留郡a町bc番地の被告人方庭先でゴミを燃やしていたところ,同番地の被告人方敷地の南端において,A(当時50歳)が急斜面に面して小便をするような格好で立ったのを見かけ,この高さから突き落とせば打ち所が悪ければ死ぬかもしれない,同人が小便をしていたときに誤って落ちたことにすれば自分が怪しまれないで済む,同人を殺すなら今しかないと考え,咄嗟に同人を殺害しようと決意し,同所において,殺意をもって,前記急斜面に向かって佇立していた同人の背中を力任せに右手で押して,同人を直線距離にして約9.2メートル前方,高低差にして約5.8メートル下の同町bd番eの茶畑に突き落とした上,同所において,同人の頸部を左腕で力一杯絞め付け,よって,そのころ,同所において,同人を窒息死させて殺害したものである。 (法令の適用)被告人の判示所為は刑法199条に該当するところ,所定刑中有期懲役刑を選択し,その所定刑期の範囲内で被告人を懲役9年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中50日をその刑に算入し,訴訟費用については,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (量刑の理由)本件は,判示のとおりの殺人の事案である。 被告人が本件犯行を敢行するに至った動機形成の過程は,前記認定のとおりであるが,自らが経済的に困窮していた被告人が,弟である被害者と同居することになり,被害者が仕事もせず酒浸りの生活を送っているのを見て,このままでは二人とも共倒れとなってしまうとの危機感を募らせ,被害者に対して強い憤りを感じるようになったことは理解できないわけではないものの,自らも酒浸りの毎日を送る中で,これまでど いるのを見て,このままでは二人とも共倒れとなってしまうとの危機感を募らせ,被害者に対して強い憤りを感じるようになったことは理解できないわけではないものの,自らも酒浸りの毎日を送る中で,これまでどおり自堕落な生活を続けていくには,邪魔になる被害者には死んでもらうしかないと考えて,本件犯行に及んだものであり,その短絡的かつ身勝手な動機に酌量の余地は乏しい。被告人は,被害者が精神に異常を来して,いずれ刃物を持ち出すなどして自分が殺されてしまうかもしれないという恐怖を感じていたというけれども,一方では,被害者が暴れ出して,暴力をふるってくることがあっても,自分は仕事もしていて体力には自信があったので,喧嘩になっても勝つことができると思っていた旨も供述しており,殺されるかもしれないという恐怖は切迫したものではなかったことが明らかであり,仮に,被告人がそのような恐怖を感じていたとしても,何ら本件犯行を正当化するものではない。 犯行態様は,無防備な被害者を背後から崖下に突き落とし,抵抗もできなくなったところを,確実に殺害するため,被害者の頭や脇腹を足蹴りにした上,「早く死ね。」と思いながら被害者の頸部を約3分間ほど力一杯締め続けて窒息死させており,その殺害方法は,極めて卑劣かつ残忍である。 被害者は,仕事もせず酒浸りの自堕落な生活を続けていたものではあるが,もとより生命を奪われなければならないような落ち度は全くなく,全く事態を予想できないまま,肉親である被告人の手によって殺害されたもので,50歳という年齢で,突如その生命を絶たれたのであって,その苦痛や無念さは想像に難くない。のみならず,殺害された後も,無惨な姿で野ざらしにされていたのであって,哀れというほかはなく,本件犯行の結果は,まことに重大である。被害者の遺族らの被害感情に当初厳しいもの 無念さは想像に難くない。のみならず,殺害された後も,無惨な姿で野ざらしにされていたのであって,哀れというほかはなく,本件犯行の結果は,まことに重大である。被害者の遺族らの被害感情に当初厳しいものがあったのも当然といえる。 さらに,犯行後の行状を見ても,被告人は,被害者の遺体を弔うことなく,そのまま野ざらしにしておいただけでなく,邪魔者がいなくなって清々したという思いで,酒浸りの日々を送り,遺体が発見された後も,今までと同じように自由に暮らしたいなどという身勝手な理由から,しばらくの間は犯行自体を否認し続けていたのであって,全く改悛の情をうかがうことのできない態度に終始していた。のみならず,被告人は,当公判廷においても,自分の生活を守るためには仕方がなかった,被害者は死んだ方がよかったと思うなどと述べており,自己の責任を真摯に顧みる姿勢が不十分であるといわざるを得ない。 以上の事情に照らすと,本件犯情は悪質で,被告人の刑事責任は重大である。 しかしながら,他方で,被告人は被害者殺害の時期や方法などの計画を周到に練っていたとまでは認められず,本件犯行は,たまたま無防備の状態にある被害者を見かけたことに端を発した偶発的な犯行であること,被告人が,逼迫した経済状態の中で,このままでは二人とも共倒れになってしまうとの危機感を募らせ,弟や妹らに相談することもできないまま,精神的に追い詰められていった心情に同情の余地がないではないこと,被告人は,これまでに被害者の長女に対して示談の申し入れをして慰謝に努め,被害者の長女も厳重な処罰までは求めないとの心境になっていること,被告人の実妹が情状証人として出廷し,今後の指導監督を誓約するとともに,被告人の兄弟らも,現在では,本件犯行に追い込まれていった被告人の心情を理解して,厳重な処罰までは望まず,社 なっていること,被告人の実妹が情状証人として出廷し,今後の指導監督を誓約するとともに,被告人の兄弟らも,現在では,本件犯行に追い込まれていった被告人の心情を理解して,厳重な処罰までは望まず,社会復帰後は被告人を支えていく旨述べていること,被告人は,当公判廷において,本件犯行を素直に認め,被告人なりに反省の態度を示していること,被告人には一般前科がないこと,その他不遇な生活歴など,被告人のために斟酌すべき事情も認められるので,これらの事情をも十分に考慮した上,被告人を主文のとおりの刑に処するのが相当であると判断した。 よって,主文のとおり判決する。 (検察官倉持俊宏,国選弁護人東條正人各出席)(求刑懲役12年)平成16年7月1日甲府地方裁判所刑事部裁判長裁判官川島利夫裁判官柴田誠裁判官肥田薫

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