主文 被告人Aを懲役2年に,被告人Bを懲役1年に,被告人C及び被告人Dをそれぞれ懲役2年に処する。 未決勾留日数中,被告人Aに対しては110日を,被告人Bに対しては70日を,被告人C及び被告人Dに対しては各60日を,それぞれその刑に算入する。 この裁判が確定した日から,被告人Bに対し3年間,被告人C及び被告人Dに対し4年間,それぞれその刑の執行を猶予する。 訴訟費用は,被告人A,被告人B,被告人C,被告人Dの連帯負担とする。 被告人Eは無罪。 理由 【罪となるべき事実】第1被告人Aは暴力団甲組乙会丙組若頭,被告人D,被告人Cは同組構成員であったが,共謀の上,平成11年9月12日午前零時20分ころ,鹿児島県鹿児島市ab丁目c番d号丁病院北側駐車場において,被告人Aが,前記丙組の元組員であったF(当時25歳)に対し,その右手小指にのみを当て,これをハンマーで打ち付ける暴行を加えてその指を切断し,よって,同人に全治10日間を要する右第5指末節切断の傷害を負わせた。 第2被告人Bは,前記丙組構成員であったが,同月11日,鹿児島県曽於郡(現曽於市)e町fg番地h所在の前記F方付近において,前記Aらが前記Fの指を切断しようとしていることの情を知りながら,前記Fの居所を探知した上でこれを前記Aに電話で通報するなどし,もって前記第1記載のAらの傷害の犯行を容易にさせてこれを幇助した。 【被告人Eに対する無罪判決の理由,他の被告人らに関して被告人Eの共謀を認定しなかった理由】 第1 争点 公訴事実本件公訴事実第1は,「被告人Eは暴力団甲組乙会丙組組長,被告人Aは同組若頭,被告人D,被告人Cは同組構成員であったが,共謀の上,平成11年9月12日午前零時20分ころ,鹿児島県鹿児島市ab丁目c番d号丁病院北側駐車場において,被告人Aにおい 丙組組長,被告人Aは同組若頭,被告人D,被告人Cは同組構成員であったが,共謀の上,平成11年9月12日午前零時20分ころ,鹿児島県鹿児島市ab丁目c番d号丁病院北側駐車場において,被告人Aにおいて,上記丙組の元組員であったF(当31年)に対し,その右手第5指にのみを当て,これをハンマーで打ち付ける暴行を加えて同人の同指を切断し,よって,同人に全治10日間を要する右第5指末節切断の傷害を負わせたものである。」というものである。 すなわち,検察官の主張は,被告人Eについても傷害罪の共同正犯が成立する,というものである。 争点 本件においては,被告人Aが,被告人C,同Dと共謀の上,判示の方法で被害者の右手小指を切断したこと(以下,「本件傷害行為」ともいう。),被告人Eがその実行行為に直接関与していないことは証拠上明らかであり,争いになっていない。 したがって,争点は,被告人Eとの関係では,本件傷害行為につき,同被告人と実行行為者である被告人Aらとの間での共謀があったかであり,被告人A,同C,同Dとの関係では,同被告人らの本件犯行が被告人Eとの共謀の上でしたものであったかである。 被告人Aらと同Eとの間の共謀の成立時期及び根拠となる事実として,検察官は,論告において,「本件は,結局,被害者が上納金を持ち逃げした際,被告人Eが,いわゆる指詰めを含むけじめを付けさせるため,被告人Aらに指示して被害者を捜させ,その際には発見に至らなかったものの,約1年後に被害者を発見した被告人Aから,電話で『今,捕まえました。これからけじめを取ります。』などと言われて指詰めを含むけじめを被害者に付けさせる旨報告を 受けたのに対し,『分かった。』などと言ってこれを実行するよう指示し,被告人Aらが,この指示の下に本件犯行を実行したというのが全体像であり,遅くと 指詰めを含むけじめを被害者に付けさせる旨報告を 受けたのに対し,『分かった。』などと言ってこれを実行するよう指示し,被告人Aらが,この指示の下に本件犯行を実行したというのが全体像であり,遅くとも電話で指示した際に被告人Eとの間で具体的な共謀が成立したことは明らかである。」と主張している。ただ,冒頭陳述においては,「犯行に至る経緯及び本件共謀の状況」の項目において,被告人Aから被告人Eへの事前の電話による共謀の成立を主張し,持ち逃げ行為直後の指示についてはその項目の前の「被告人らと被害者Fとの関係」の項目で摘示しているに過ぎない。これらを合わせ読むと,検察官は,持ち逃げ発覚直後において被告人Eが組員らに与えた指示に指詰めが含まれていたことを主張の前提としつつも,本件における具体的な共謀の成立時期及び根拠事実としては,本件傷害行為の前に,被告人Aが,被告人Eに対し,携帯電話でその状況を報告し,同被告人の了承,指示を受けていたことを主張するものと考えられる。 弁護人は,被告人Aが同Eへ電話した事実はなく,被告人Eは本件傷害行為について他の被告人らと共謀しておらず無罪であると主張し,被告人E及び他の被告人らもこれに沿う供述をする。 当裁判所は,被告人Eと被告人Aらとの間の共謀を認定するには合理的な疑いが残ると判断したので,以下その理由を説明する。 第2当裁判所の判断上記のとおり,共謀の成立について検察官が根拠として主張する事実は,被告人Eが,本件傷害行為の前に,被告人Aから電話で報告を受けて了承し実行を指示したか否かであり,この点に関する検察官の主たる証拠は,被害者の捜査段階における供述である。もっとも,共謀の成否を判断するに当たっては,それ以外の背景事情となる事実関係も考慮に入れ,事案の性質に即して検討する必要がある。そこで,検討の順 主たる証拠は,被害者の捜査段階における供述である。もっとも,共謀の成否を判断するに当たっては,それ以外の背景事情となる事実関係も考慮に入れ,事案の性質に即して検討する必要がある。そこで,検討の順序としては,①前提となる事実関係を認定し,②それを踏まえて事案の性質を整理した上で,③被害者の供述の信用性について判断し,さらに,④それ以外に共謀関係が成立する余地がないかについても 念のために検討を加えた上で,⑤結論を導くことにする。 前提となる事実関係関係証拠によれば,本件犯行に至る経緯,本件犯行の前後にわたる状況として以下の事実が認められ,これらの事実についてはほぼ争いがない。 (1)被告人らと被害者の関係平成10年ころ,被告人Eは,暴力団甲組乙会丙組の組長であった。その実子である被告人Aは同組若頭で組長に次ぐ立場にあり,将来は被告人Eの跡を継いで二代目組長となることが予定されていた。また,当時,同組において,被告人Dは被告人Eの舎弟(弟分),被告人Bは若頭補佐,被告人Cは若中であった。 被害者は,平成9年12月,当時交際していたGの親族に丙組の組員がいたことがきっかけで,丙組の組員となり,その後,組長の運転手兼ボディーガードとして被告人Eと行動を共にするようになった。 (2)被害者の持ち逃げ行為と被告人Eらの対応被告人Eは,当時甲組乙会の財務副委員長として,毎月中部ブロックの所属組織から上納金を集めて甲組本部に納める役割を担っていた。被告人Eと行動を共にしていた被害者も,その集金作業に関与していた。 被害者は,平成10年8月1日,集金された上納金約1000万円を持ったまま,Gやその幼い長男等と共に逃亡した(以下,この行為を「持ち逃げ行為」ともいう。)。 被告人Eは,この持ち逃げ行為の発覚後,被害者を捜し出すように被告人Aら組 された上納金約1000万円を持ったまま,Gやその幼い長男等と共に逃亡した(以下,この行為を「持ち逃げ行為」ともいう。)。 被告人Eは,この持ち逃げ行為の発覚後,被害者を捜し出すように被告人Aら組員に指示し,被害者の逃亡先である可能性が窺われた九州や沖縄も捜させたが,発見することができなかった。被害者は,この持ち逃げ行為により破門された。 被告人Eは,親戚等から借金するなどして持ち逃げされた約1000万円を補填し,甲組本部への上納自体は予定どおり行った。 (3)被害者の所在の判明被害者は,Gと以前親族関係にあったHを頼り,偽名を名乗った上,鹿児島県曽於郡(当時。以下同じ。)e町内のH方の近くの家を借りた。被害者は,しばらく同所でGらと生活していたが,その後別の女性と交際するようになったため,Gが,その長男と共に被害者方を出て名古屋市に戻ることになった。 Gは,同市内に住む親族に連絡した上,持ち逃げ行為から約1年1か月後の平成11年9月10日,飛行機で名古屋空港へ向かった。Gから連絡を受けたその親族は,Gが名古屋市に戻ってくることを被告人Bに伝え,これを受けた被告人Bは,Gを迎えに行く親族に同行して名古屋空港に行った。被告人Bは,Gを問い詰めて被害者の居場所を教えるように迫り,前記e町内であることまで聞き出したが,地番までは分からなかった。そこで,Gが被告人Bを被害者方に案内することになったが,被告人Aの指示で被告人Cもこれに同行することになった。 同月11日朝,被告人Bと同Cは,Gと共に飛行機で宮崎空港へ向かった。 そして,同空港付近で借りたレンタカー(カローラクラスの小型車)で前記e町に向かい,Gの案内で被害者方付近を走行しているうちにHに出くわした。また,被害者方を発見したが留守であった。被告人Bと同Cは,被害者方の様子が見 りたレンタカー(カローラクラスの小型車)で前記e町に向かい,Gの案内で被害者方付近を走行しているうちにHに出くわした。また,被害者方を発見したが留守であった。被告人Bと同Cは,被害者方の様子が見えるH方で,被害者の帰宅を待つことにした。Hは,被告人Bらの目的が被害者に対して持ち逃げ行為について制裁を加えることにあると考え,被告人Bらに対し,被害者の命は助けてほしい旨頼んだ。 被告人Bは,同Aに電話を掛けて被害者の居場所を見付けた旨報告し,これを受けた被告人Aは自分も現地に向かうことにした。被告人Aは,被告人Dに同行を頼むと,同人と共に飛行機で宮崎空港まで行き,同空港から,迎えに来ていた被告人C運転の前記レンタカーに乗ってH方に到着した。被害者はその時点でもまだ帰宅しておらず,被告人Aら4名は,H方でその帰り を待った。その間に,Hは,被告人Aに対しても,被害者の命だけは助けてほしいと頼んだ。 同日午後8時ころ,被害者が交際中の女性と共に帰宅したところ,Hは,まず自分に被害者と話をさせてほしい旨被告人Aらに言い,先に一人で被害者方に入った。そして,被害者に対し,「丙組の連中が来たぞ。」,「お前も男なら,きちんと話をしろ。」,「命だけは助けてくれるように頼んだ。」などと言った。被害者は,「分かりました。」,「話をして詫びを入れます。」などと答えた。 その直後,被告人A,同D,同Cが被害者方に入り,少なくとも,被告人Dが被害者を1回蹴った。 (4)被害者方から病院駐車場へ行くまでの状況被害者は,被告人Aに対し,謝罪の上,持ち逃げした金は働いて返すつもりであると述べ,被告人Aからは,丙組に戻るように言われたが,これには応じなかった。被害者は,被告人Aから,どうするのかなどと更に詰め寄られ,結局,けじめとして指を詰める(切断する)ことを申 すつもりであると述べ,被告人Aからは,丙組に戻るように言われたが,これには応じなかった。被害者は,被告人Aから,どうするのかなどと更に詰め寄られ,結局,けじめとして指を詰める(切断する)ことを申し出た。被告人Aは,指を詰めた後すぐに治療を受けられる病院の近くでこれを実行させることにし,夜間でも診療を受け付けている病院を探した。そして,被告人Aは,同C運転の前記レンタカーに被害者を乗せ,被告人Dと共に鹿児島市内の丁病院へ向かった。被告人Aらは,途中で金物屋に立ち寄り,指を切断するために使うまな板,のみ,ハンマーを買った。また,コンビニエンスストアに立ち寄り,氷,髪留め用のゴム,栄養ドリンクを買った。そして,被害者にどちらの手の指を切断するか尋ね,被害者が選んだ右手小指をゴムで縛らせ,氷で冷やしておくように指示した。 なお,被告人Bは,被告人Aの指示を受け,被告人Aらと被害者が病院に向けて出発した後も,G及びHと共にH方に残った。 (5)本件傷害行為の状況 病院の駐車場に着くと,被害者は,レンタカーから降り,被告人Aの指示により,駐車場の路面に置かれたまな板の上で,右手小指の第1関節にのみの刃を当て,右手の他の指でのみを持って支え,左手にハンマーを持った。 そして,ハンマーをのみの柄の部分に向けて振り下ろそうとしたものの,恐怖の余りなかなか振り下ろせず,被告人Aに急かされて,結局軽く1回叩いただけで切断には至らなかった。被告人Aから更に責め立てられた被害者は,被告人Aにのみとハンマーを渡した。被告人Aは,同月12日午前零時20分ころ,被害者に対し,まな板の上にその右手を手のひらが上向きになるように置かせ,その小指の第1関節にのみの刃を当てると,のみの柄の部分をハンマーで2回叩き,その小指を切断した。 被告人Aらは,切断されてまな板の に対し,まな板の上にその右手を手のひらが上向きになるように置かせ,その小指の第1関節にのみの刃を当てると,のみの柄の部分をハンマーで2回叩き,その小指を切断した。 被告人Aらは,切断されてまな板の外に飛んでいった小指の先を捜して拾い,栄養ドリンクの空き瓶に入れた。 (6)本件傷害行為後の状況被告人Aは,被害者を病院に連れていって治療を受けさせ,その治療代を支払った。被告人Aらは,同C運転の前記レンタカーに被害者を乗せて前記e町へ戻り,被害者をその自宅近くで降ろした。そして,H方で待っていた被告人Bと共に,同日のうちに名古屋市へ戻り,栄養ドリンクの空き瓶に入った小指の先を丙組事務所の神棚に飾った。その後,本件について公訴提起に至るまでの間,全ての被告人らと被害者との間に接触はなかった。 本件事案の性質被害者の持ち逃げ行為は,その額が多額に及ぶことに加え,それが被告人Eが上部組織に納めるべき預かり金であったということから,丙組やその組長である被告人Eに対する重大な裏切り行為であった。この持ち逃げ行為の直後,丙組の組員らは,被告人Eの指示の下,被害者を捜すため,遠方の九州や沖縄まで行っており,組員らの間で,被害者には何らかのけじめを取らせることが当然であると認識されていたと推認することは十分に可能である。 本件傷害行為は,丙組の組員である被告人A,同C,同Dが,不義理を働いた元組員に対してけじめを取らせるために,指詰めと称してその指を切断し,被告人Bがこれを幇助したというものであり,暴力団組織特有の思考に基づく犯行である。その意味では,同組の組長として組織の頂点に立っていた被告人Eは,本件傷害行為に重大な関わりを有するといえる。 しかしながら,被告人Eに,共謀共同正犯としての刑事責任を問うためには,本件傷害行為について,被告人Aら 組の組長として組織の頂点に立っていた被告人Eは,本件傷害行為に重大な関わりを有するといえる。 しかしながら,被告人Eに,共謀共同正犯としての刑事責任を問うためには,本件傷害行為について,被告人Aらとの間に,共謀共同正犯の成立要件としての共謀,すなわち,互いに他人の行為を利用し,各自の意思を実行に移すことを内容とする意思の連絡が,証拠によって認定できなければならないのは当然である。 本件傷害行為の前の電話による謀議について(1)双方の主張検察官は,被告人Aが,同Eに対し,本件傷害行為の前に携帯電話でその状況を報告し,同被告人の了承を得て,指示を受けたことを主張し,弁護人はこれを争っている。 (2)証拠の構造この点に関しては,このやりとりを直接聞いたという被害者の供述がある。 すなわち,被害者は,捜査段階において,被害現場へ移動する車内で,被告人Aが,同Eに携帯電話で電話を掛け,被害者の小指を切断することについて報告し,被告人Eがそれを了承したのを聞いた旨供述している(検察官調書,甲2ないし4)。そして,検察官の立証としては,直接証拠はこれのみである。 他方で,被害者は,公判廷において,被告人Aが携帯電話を持っていたという記憶はあるが,被告人Eと電話していたかどうかは分からないなどと,捜査段階における供述と異なる内容を供述している。 当裁判所は,被害者の捜査段階における供述には特信性があると認め,そ の証拠能力を肯定した。しかし,被告人Eと同Aとの電話でのやりとりに関する供述については,被害者の供述の信用性及び証明力には疑いを差し挟む余地があり,この供述のみでは,検察官主張の事実を合理的な疑いを超えて認定することはできないと判断した。以下,その理由を説明する。 (3)被害者の捜査段階における供述の特信性ア公判供述被害者の 余地があり,この供述のみでは,検察官主張の事実を合理的な疑いを超えて認定することはできないと判断した。以下,その理由を説明する。 (3)被害者の捜査段階における供述の特信性ア公判供述被害者の公判供述についてみると,①前記のとおりの被告人らと被害者の丙組における立場や関係,本件に至る経緯に加え,②本件の立証が被害者の供述に大きく依拠すること,③本件について公訴が提起された後であり,被害者の公判供述前である平成18年3月12日,被告人らと被害者との間で,弁護人を介して示談が成立し,同月17日,同示談について公正証書が作成され,その内容は,被害者による約1000万円の持ち逃げ行為と被告人らによる本件傷害行為について,互いに謝罪し,返還請求権や損害賠償請求権を放棄し合うというものであることなどの事情が認められる。これらの事情の下では,被害者は,被告人らの面前では被告人らに不利益な供述をしにくい心理状態であったことが容易に推認される。 また,被害者の証人尋問に当たっては,検察官がこれを請求した際,ビデオリンク方式による証人尋問及びその際に遮へい措置をとることの申し出があったが,被害者は,前記示談の公正証書と同一日付で,同じ公証役場において,当公判廷で証言する場合には裁判官及び被告人らの面前で証言したい,ビデオリンク方式による証人尋問及び遮へい措置等の証人保護の措置を執っていただかなくても結構である旨の内容の公正証書をあえて作成し(弁20),その後,被害者から,弁護人を介して法廷において被告人らの面前で証言したいとの希望が出されたため,検察官による前記申し出が撤回され,通常の方法により被告人ら5名の面前で尋問が行われたという経緯があった。また,被害者は,証人尋問前の検察官との打合せに 応じようとしなかった。 そして,被害者は,公判廷に 前記申し出が撤回され,通常の方法により被告人ら5名の面前で尋問が行われたという経緯があった。また,被害者は,証人尋問前の検察官との打合せに 応じようとしなかった。 そして,被害者は,公判廷において,自分が持ち逃げした約1000万円の性質や出所,本件に至る経緯における被告人らの具体的な言動などについて,あいまいな供述に終始し,証言を避けようとする傾向がある。また,公判廷における供述のうち,捜査段階における供述と相反する部分は,いずれも被告人らにとって有利に変遷している。被告人Aらが被害者方に入った時の状況については,被告人Dが被害者を1回蹴ったことは公判において争われていないが,被害者は,この点についても自宅で被告人らから暴行を受けた記憶はないと述べており,殊更に被告人らをかばう姿勢が窺われる。 このような事情からすると,被害者は,公判廷において,被告人らに対する不利益な供述を意図的に回避していたと推認される。 イ捜査段階における供述他方で,被害者の捜査段階での供述は,被告人らとの示談が成立する前に,被告人らやその関係者がいない場所でされたものである。公判廷に比べると,少なくとも前記のような事情はなかったと認められる。また,被害者は,調書の内容を確認した上で署名押印したものである。 ウ小括したがって,両供述を比較すれば,被害者の検察官調書における供述は,証拠能力の要件としての相対的に信用すべき特別の情況があると認められる。 しかしながら,以上の結論は,公判供述の信用性の低さが主たる原因であるから,検察官調書における供述の信用性及び証明力がどの程度のものであるかについては,更なる検討を要する。 (4)被害者の検察官調書における供述の信用性ア供述の具体的内容 被害者は,被告人らとの関係,本件の原因となった持ち逃げ行為, 明力がどの程度のものであるかについては,更なる検討を要する。 (4)被害者の検察官調書における供述の信用性ア供述の具体的内容 被害者は,被告人らとの関係,本件の原因となった持ち逃げ行為,被告人らが自宅に来てから本件被害に遭うまでの一連の状況について述べているが,被告人Aが被告人Eに電話した状況についての供述は,概略以下のとおりである。 被害者は,自宅で,被告人Aから,持ち逃げ行為について,「どうするんだ。ケジメを付けろ。」などと責められ,殴る蹴るの暴行を受けた。そこで,「指を詰めてけじめを取ります。」などと言ったところ,被告人Aらと,指を詰めるために,被告人らのレンタカーで出掛けることになった。 車はカローラクラスのものが2台あった記憶である。被害者はそのうちの1台に乗るように指示された。被告人Cが運転をし,被害者は後部座席の真ん中に座り,被告人Aと同Dは,被害者を挟んでその両隣に座った。車内は,ラジオなどかかっておらず,ほかの組員も黙っていたので静かだった。すると,被害者のすぐ右隣にいた被告人Aが携帯電話を取り出して電話を掛け,「親父さん,今,捕まえました。」,「これからけじめとります。」と言った。このとき,電話の相手が「分かった。」というのがはっきり聞こえた。この声が被告人Eの声であった。自分は以前被告人Eの運転手兼ボディーガードとして毎日被告人Eと行動を共にしていたので,このとき声を聞き違えるはずがない。被告人Eの声は,よく通る特徴のある声なので聞けばすぐに分かる。それに,被告人Aが「親父さん」と呼ぶのは被告人Eしかいないので,その意味でも電話の相手は間違いなく被告人Eである。被告人Aは「これからけじめを取らせます。」とだけ言うと,すぐに電話を切った。(以上につき,甲3)指を切断した後の治療が終わると,被害者は,被 で,その意味でも電話の相手は間違いなく被告人Eである。被告人Aは「これからけじめを取らせます。」とだけ言うと,すぐに電話を切った。(以上につき,甲3)指を切断した後の治療が終わると,被害者は,被告人Aらと共に,乗ってきたレンタカーに乗って病院を出発した。車内で各人が座っていた位置は行きと同じであった。誰も話をせず,音楽などもかかっていなかったため車内は静かだった。レンタカーが走り出すと,被告人Aは再び携帯電話 を取り出して電話を掛け,「親父さん。」,「今,終わりました。」,「けじめとりました。」,「指は持って帰ります。」などと言った。このときも,被告人Aが「親父さん」と呼ぶ人間は,組長であり,実の父親でもある被告人E以外には考えられないので,電話の相手は被告人Eに間違いないと思った。すると,やはり聞き慣れた,太くてよく通る被告人Eの声で,「分かった。」と言うのが聞こえた。その後,被害者は自宅近くで解放された。(以上につき,甲4)イ供述に誤りが入りこむ可能性(ア)被告人Eと被害者との関係本件傷害行為は,前記のとおり,丙組の幹部である被告人Aらが,かつて同組に所属していた被害者に対して,その持ち逃げ行為に対し,指を切断するいわゆる指詰めをさせることによって,けじめを取らせたというものである。被告人Eは当時組長としてその頂点に立っていた。 暴力団組織から更なる制裁や報復を受ける危険性を考えれば,被害者が被告人Eに不利益となるような虚偽の内容をあえて供述することは,通常は考えにくい。しかし,本件に至る経緯や被告人Eの立場からすると,被害者が,本件傷害行為は被告人Eの意向によるものと考えていたとしても不自然ではない。そのような認識を持った被害者が,自分の供述が持つ重要性を十分意識せず,被害感情等から被告人Eにその責任を負わせよ 害者が,本件傷害行為は被告人Eの意向によるものと考えていたとしても不自然ではない。そのような認識を持った被害者が,自分の供述が持つ重要性を十分意識せず,被害感情等から被告人Eにその責任を負わせようとして,その関与を誇張する方向で虚偽の供述をするなどといった可能性について,これをあり得ないものと決め付けることはできない。 (イ)記憶の変容等の可能性被害者が本件の参考人として取調べを受けたのは,本件の約6年3か月後であり,そのきっかけは,本件傷害行為のことを探知した愛知県の警察官が訪ねてきたことにある(被害者の公判供述・尋問調書51丁 (以下,関係者の公判供述については,「被害者公判51丁」のように略記する。),甲20・2丁等)。その間,被害者が被告人らと接触した事実が窺えないことも考えると,被害者の記憶が相当薄れている部分があることは容易に想像できる。 取調べにおいては,取調官が,記憶喚起等のため,聴取した内容や他の証拠関係をふまえて誘導や示唆を行い,取調べの対象者から新たな供述を引き出すことが想定される。このような誘導や示唆は,相当なものであれば当然許されるものであるが,その結果得られた供述の信用性を判断するには,誘導を受けて供述者の記憶が変容したり,供述者が取調官に迎合して記憶に反する事実を述べたりする可能性を考慮に入れる必要がある。 (ウ)捜査機関と被害者との関係本件傷害行為の原因は,被害者が約1000万円という大金を持ち逃げしたことである。また,被害者は,取調べの当時は別件で執行猶予中であった。被害者は,持ち逃げ行為の経緯について,その取調べの初期の段階で作成された警察官調書(甲20)において,「私は甲組中部ブロックのお金を持ち逃げしたことについて,たとえやくざが集めたお金だといっても持ち逃げしたことは事実ですの について,その取調べの初期の段階で作成された警察官調書(甲20)において,「私は甲組中部ブロックのお金を持ち逃げしたことについて,たとえやくざが集めたお金だといっても持ち逃げしたことは事実ですので悪いことをしたと反省しております。」などと詳細に供述している。この持ち逃げ行為は,対象となる現金が暴力団の資金であるとはいえ,法律的には窃盗ないし横領行為に該当する可能性がある。刑事事件として立件される可能性が現実にどの程度あったかはともかくとして,被害者が,傷害の被害者という立場でありながら,捜査機関に対する関係ではなお自己の刑事責任を問われかねないという微妙な立場に置かれていたということも,考慮を要する点である。 そして,前記2のとおり,本件傷害行為は丙組に対して不義理を働い たことに対するけじめともみるべき事案であるが,その組長である被告人Eは実行行為に関与しておらず,その刑事訴追の可否は,他の被告人らとの謀議行為の有無によって決まるという関係にある。後記オのとおり,被告人Eと他の被告人らとの謀議行為については,被害者供述以外に有力な証拠がないことを併せて考慮すれば,取調官が,被告人Eと実行犯とりわけその主導的な立場にあった被告人Aとの謀議行為の有無に大きな関心を持っていたと考えるのが自然である。 そうすると,取調官が,被告人Eと他の被告人らとの謀議行為に関連する誘導や示唆を行い,これを受けた被害者が,取調官の思惑を察してその意に添うような供述をしたという可能性を排除することはできない。 (エ)小括したがって,その供述の信用性判断に当たっては,慎重な吟味を要する。 ウ供述内容の自然性,合理性(ア)前記供述が前提とする事情前記の供述内容では,被告人Aが何の支障もなく携帯電話で電話を掛けていたことが前提とされ,被害者は,走 たっては,慎重な吟味を要する。 ウ供述内容の自然性,合理性(ア)前記供述が前提とする事情前記の供述内容では,被告人Aが何の支障もなく携帯電話で電話を掛けていたことが前提とされ,被害者は,走行する自動車内において,右隣に座っていた被告人Aの携帯電話から漏れる声を聴き,その具体的な言葉を聞き取った上,電話の相手が誰かも特定できたということになる。 (イ)電波状態について被害者方のある鹿児島県曽於郡e町から本件犯行現場である鹿児島市を結ぶ主要な道路付近は,証拠上その具体的な走行経路は特定されていないが,当時被告人Aが使っていた携帯電話会社(戊会社)の資料によれば,同社の携帯電話で通話が可能な地域(営業エリア)とされていた(甲27)。もっとも,実際に電波が安定的に繋がって実用的な通話ができるかどうかは,携帯電話会社のその地域における設備の充実度,周 囲の地形や電波の障害となりうる構造物の有無,使用する携帯電話の有する機能など,その具体的通話に固有の条件に大きく依拠し,携帯電話会社の電波の届く範囲に関する公式資料とは,若干異なることがあることは日常生活においてよく経験するところである。そして,この通話可能な地域の中にあるH方や被害者方は,被害者が「家畜農家ばかりの『田舎の中の田舎』」(甲2・2丁)と表現するような地域にある。被告人Aと同じ携帯電話会社の携帯電話を使っていた被告人Cは(同被告人公判37丁),H方で携帯電話を使う際,室内では電波状態が悪かったため,隣接する玄関付近に移動していた(Gの検察官調書,甲15・12丁)。また,被告人Cは,公判廷において,当時車を運転している途中で交際相手から携帯電話に着信があり,電話に出たところ電波状態が悪くてほとんど会話ができなかったと供述している(同被告人公判13丁。なお,その電話の 人Cは,公判廷において,当時車を運転している途中で交際相手から携帯電話に着信があり,電話に出たところ電波状態が悪くてほとんど会話ができなかったと供述している(同被告人公判13丁。なお,その電話の相手である内妻Iも,公判廷でこれに沿う供述をしている。)。これからしても,平成11年当時,「田舎の中の田舎」と表現されるような地域にある被害者方と鹿児島市を結ぶ道路を走行中の車内では,場所によって程度の差があるとしても,電波状態が相当不安定だったのではないかという疑問がある。 また,電話を掛けた具体的な場所は証拠上明らかではないが,移動中の出来事の前後関係や,被害者が初期の取調べで通話があった時期を「車に乗せられて数分後」であると供述していること(甲20・18丁。 なお,その後の取調べでは,通話の時期についての具体的な供述は全く録取されていない。)から推測すると,被害者方を出てまもないころすなわち宮崎県と鹿児島県の県境に近い地域であった可能性が強く疑われるところ,この辺りは戊会社の前記資料によっても通話可能圏の辺縁である。また,被告人Aが使用していたという携帯電話の機種は不明であり,電波を受ける感度が特段高かったという立証はない。 (ウ)通話の際の諸条件について自動車の走行には,車内に会話や音楽がなかったとしても,ある程度の騒音が伴うのが通常である。被告人Aが電話を掛けた際の走行状態等については,一部高速道路を走行したとの関係者の供述がある程度で,それ以外に具体的な立証はない。車の種類もカローラクラスの小型車というだけで,車内の防音の程度も不明である(被害者の警察官調書(甲23・8丁)には「シーンと静まり返っており」との記載があるが,その後の調書では維持されていない。)。通話時の状況について,被告人Aが携帯電話を当てた耳が右か左かも 明である(被害者の警察官調書(甲23・8丁)には「シーンと静まり返っており」との記載があるが,その後の調書では維持されていない。)。通話時の状況について,被告人Aが携帯電話を当てた耳が右か左かも特定されていないし,その当て方,スピーカーから声の漏れる程度も不明である(車内での被告人Aと被害者の位置関係についても,後記エのとおり供述が変遷している。)。被告人Aが携帯電話の受話音量を特に大きめに設定していたという立証もない。また,被告人Eの声は,公判廷における供述を聞くかぎりでは,被害者の供述するように「太くてよく通る」と認められるが,その音質は低く,携帯電話のスピーカー越しでどのように聞こえるかは定かではない。 (エ)小括このように,被告人Aと同Eとの通話状況に関する被害者の供述には,本当にそのようなことが可能な状況であったのか,常識的に確認しておきたい事柄がなお多く残っているというべきであり,その言葉どおりの内容を真実であると認めるには躊躇を覚えざるを得ない(検証を行うにも条件が不明確に過ぎ,それもかなわない。)。 エ供述経過被害者は,捜査段階においては,一貫して被告人Aが同Eに電話を掛けたことを供述している。 しかし,その周辺事実についてみると,車内で被害者自身や被告人Aら が座った位置について,供述が変遷している。すなわち,被害者は,平成17年12月15日には,被告人Aと被害者が後部座席に乗り,被告人Dが助手席に乗ったことをはっきり覚えているなどと述べる一方で(同日付け警察官調書,甲20・17丁),平成18年2月6日には,後部座席の真ん中に座っていた被害者の右隣に被告人Aが,左隣に被告人Dが座っていたことを思い出したと述べ(同日付け警察官調書,甲23・8丁),その後は検察官に対しても同様の供述を維持しているのである 部座席の真ん中に座っていた被害者の右隣に被告人Aが,左隣に被告人Dが座っていたことを思い出したと述べ(同日付け警察官調書,甲23・8丁),その後は検察官に対しても同様の供述を維持しているのである(同月7日付け検察官調書,甲3・13丁,甲4・7丁)。 被害者にとって,この車内での状況は,小指の切断という衝撃的な出来事の前後のことであり,その当時の心理状態は尋常なものではなかったと推測される。また,取調べ時より6年以上も前のことであり,本件後この取調べまでの間は被告人らと接触したことはなかったのであるから,記憶が一部消失したり,混乱したりすることは十分あり得ることである。 しかし,このとき乗っていた車はカローラクラスの小型車であり,男性3人が後部座席に座れば相当窮屈な状況になるはずである。さらに,被告人Dの体格は,身長185センチメートル,体重100キログラム(現在。 同被告人公判8丁,乙29・5丁。なお,同被告人は,当時の体重は120キログラムぐらいあったと公判廷で供述している。)と相当大柄である。 そうすると,被害者が,捜査段階の当初は被告人Aと自分が二人で後部座席に座り,被告人Dが助手席に座っていた記憶があると述べたにもかかわらず,その後,実は被告人Dも後部座席に座っていて,自分が被告人Aと同Dの真ん中に挟まれて座っていたことを思い出したというのは理解に苦しむ不自然な変遷であるが,その不自然さを解消させる合理的な説明はない。 このほか,被害者方に来た丙組組員の人数及び人物(J及びKがいたか),自動車の台数(2台か,1台か),犯行現場である病院の駐車場に 同行した人物(被告人Bがいたか)などについても,被害者の捜査段階における供述には変遷が見られ,それらについて,説得力のある理由が述べられていない。これらはいずれも被告人Aの電話を の駐車場に 同行した人物(被告人Bがいたか)などについても,被害者の捜査段階における供述には変遷が見られ,それらについて,説得力のある理由が述べられていない。これらはいずれも被告人Aの電話を聞いた状況と直結する点ではないが,程度の差はあれ関連する周辺事実であって,この部分の変遷も,争点に関する供述の信用性及び証明力を検討する上で無視することはできない。 本件犯行現場へ往復する車内の状況についていえば,被害者が,その当時の自己の認識やそれに基づく記憶のままに供述していたかどうかについては,疑問が残るといわざるを得ない。 オ他の証拠による裏付けの有無本件は,取調べ時よりも6年以上前のことであり,当時の被告人Aの携帯電話の通話履歴等は証拠化されていない。通話が支障なく可能であったかどうかについても,前記のとおりその立証は不十分といわざるを得ない。 被害者の供述内容の裏付けとして他に考えられるのは,本件傷害行為後の被告人Aからの電話を認める被告人Eの捜査段階における供述である(その証拠能力や信用性については,後記4(3)で検討する。)。しかし,捜査段階においても,被告人Eは,被害者供述によればその数時間前にされたはずの事前の連絡については明確に否定しており(乙6・3丁),被害者の供述と明らかに矛盾しているのであって,この点を無視して事後の電話連絡の点だけを取り上げ,両者の供述が互いに補強し合う関係にあるということはできない。 検察官は,被告人Aが電話していたかどうかについて,同乗していた被告人C及び同Dが,捜査段階において覚えていないと供述していたことを指摘し,このような供述は通話の事実を明確に否定しない曖昧なものであり,通話の事実と矛盾しないと主張する。しかし,捜査段階における取調官の発問は,6年以上前に,片道約2時間にわたって走 ていたことを指摘し,このような供述は通話の事実を明確に否定しない曖昧なものであり,通話の事実と矛盾しないと主張する。しかし,捜査段階における取調官の発問は,6年以上前に,片道約2時間にわたって走行していた自動車 内で,同乗者が二言三言の短時間の通話をしたかという点について,その具体的な時期を特定せずに尋ねたものである。これに対して覚えていないと答えたことを,ことさらに曖昧な供述と評価することは相当とは思われない。 カ小括これまで検討したとおり,被告人Aと同E間の通話についての被害者の供述には,その信用性及び証明力に疑念を差し挟む余地が残るといわざるを得ない。公判供述であれば,このような疑念は反対尋問によって検証されるところであるが,供述調書という性質上,これを行うことは不可能である。そして,証拠として採用された全ての供述調書を検討しても,取調官において,このような供述内容や供述経過についての疑問を提起して問いただすなどして,その信用性及び証明力について吟味を尽くした形跡は見受けられない。このような被害者の供述は,前述のとおり外部的な情況を比較すれば公判供述よりも信用すべき情況下でなされたものとはいえ,その内容については,誤りが入り込んでいる危険性が十分に払拭されているということはできない。 そうすると,このような供述のみでは,被告人Aと同E間の電話による謀議行為を認定する証拠として十分であるとはいえないから,結局,被告人Eと他の被告人らとの間に本件傷害行為の共謀があったとするには合理的な疑いが残るといわざるを得ない。 (5)被告人Eの捜査段階における供述この携帯電話の通話に関しては,被告人Eの検察官調書(乙2)が若干触れている。その内容,信用性は後に詳しく検討するが(後記4(2),(3)),事前の電話については否定する 人Eの捜査段階における供述この携帯電話の通話に関しては,被告人Eの検察官調書(乙2)が若干触れている。その内容,信用性は後に詳しく検討するが(後記4(2),(3)),事前の電話については否定する供述であり,事後の報告については,「確か電話だったと思うのですが」という留保付きで,被告人Aから報告を受けたことを認める供述にとどまっている。これをもって,共謀を直接根拠付ける ものと評価することはできない。 持ち逃げ行為直後における共謀について(1)問題の所在前記2のとおり,被害者による持ち逃げ行為が,丙組にとって重大な裏切り行為ともいえること,本件傷害行為が,丙組に迷惑を掛けた被害者に対するけじめという意味を持つことからすると,持ち逃げ行為が発覚した平成10年8月1日に,被告人Eが,被害者の行方を捜すように被告人Aら組員に指示した時点において,被害者の指を切断する旨の共謀が配下の組員らとの間に成立していたのではないか,そして,本件傷害行為もその共謀に基づいて行われたということはできないか,検討する余地がある。 (2)被告人Eの捜査段階における供述内容被告人Eは,捜査段階において,被告人Aら組員に被害者を捜し出すように指示した際の状況,及び,被告人Aから電話を受けた状況について,それぞれ以下のように供述している(乙2)。 なお,検察官は,本件の罪体に関する被告人Eの検察官調書について,同被告人関係では刑事訴訟法322条1項により乙2号証ないし乙6号証を,他の被告人らの関係では同法321条1項2号により乙2号証及び乙5号証を証拠請求したが,当裁判所は,証拠決定において,被告人Eの関係で乙2号証ないし乙6号証の任意性を認め,他の被告人らの関係で乙2号証の特信性を認めたが,乙5号証の特信性を認めなかった(その採否の理由は決定に際し が,当裁判所は,証拠決定において,被告人Eの関係で乙2号証ないし乙6号証の任意性を認め,他の被告人らの関係で乙2号証の特信性を認めたが,乙5号証の特信性を認めなかった(その採否の理由は決定に際して示したとおりである。)。ただ,乙5号証の供述内容は,以下に述べる乙2号証の内容のうち,事後に被告人Aから電話連絡を受けた状況を詳細に述べたものであり,認定を左右するものではない。 ア持ち逃げ行為直後の状況「私は,Fに金を持ち逃げされたことで私のメンツをつぶされましたので,Fに対して怒りが心頭に達しました。そのため,私は,すぐに被告人 AたちにFを捜し出すよう指示しました。すると,丙組の組員が,Fが交際していたGたちとともに九州に行ったらしいという情報を入手してきました。それで,私は,Aたちに指示して,九州に行かせてFを捜させました。Aたちに九州でFを捜させた期間は2週間ほどだったという記憶です。 私は,そのための交通費や宿泊費など諸費用として300万円ほどを使いました。私がAたちに九州でFを捜させ始めて2,3日くらい経っても,Fを見つけ出すことはできませんでした。私は,そのころには,Fが私の金を持ち逃げして高飛びし,既にその金を使い込んでいるだろうから,Fから金を取り戻せないだろうと思いました。私は,Fから金を取り戻せない以上,Fに,私の金を持ち逃げしたことのケジメを付けさせなければならないと思いました。ケジメを付けさせるとは,責任を取らせるということであり,ヤクザの世界では,命を取るか,指を詰めさせるということです。不義理を働いた人間にケジメを付けさせるのは当然のことなのです。 私のその当時のFに対する怒りは,それはもう言葉で言い表せないほどの強いものであり,私としては,Fの命を取らなければ気が済まないほどの考えでいました。そのため メを付けさせるのは当然のことなのです。 私のその当時のFに対する怒りは,それはもう言葉で言い表せないほどの強いものであり,私としては,Fの命を取らなければ気が済まないほどの考えでいました。そのため,私は,その後も,Aたちに,『F,見つかったか?』などと電話で指示するなどして,九州でFを捜させ続けました。」イ被告人Aから電話を受けた状況「その後,1年ほど経った平成11年9月中旬ころ,私は,確か電話でだったと思うのですが,Aから,『今,Fがケジメを付けましたから。』,『指を詰めました。』と報告を受けました。私は,それを聞いて,AたちがついにFを見つけ出して,Fに,私の金を持ち逃げしたことについて,Fの手の指を切断するという形でケジメを付けさせたことが分かりました。 私は,Fに金を持ち逃げされた当初は,気も狂わんばかりの怒りの気持ちを持っており,Fの命を取らなければ気が済まないと思っていました。し かし,その後,私自身が,そのFに対する怒りが影響したのかもしれませんが,くも膜下出血で入院するなどしましたし,持ち逃げ後1年余りが経っており,私の言葉で言うならば,『時間は薬』になったと思うのですが,そのようにFにケジメを付けさせたと聞いて,私は,そのケジメをもってFを許してやることにしました。」(3)前記供述の証拠能力(任意性,特信性)及び信用性ア弁護人及び被告人の主張弁護人は,前記供述が録取された平成18年2月8日付け検察官調書(乙2)の任意性及び特信性を争い,被告人Eも,公判廷において,その内容のうち,①「私が丙組の若頭だったAたちに指示して,私の金を持ち逃げしたFの右手の小指を切断させたことに間違いありません。」という冒頭部分,②「私は,確か電話でだったと思うのですが,Aから,『今,Fがケジメを付けましたから。』,『指を に指示して,私の金を持ち逃げしたFの右手の小指を切断させたことに間違いありません。」という冒頭部分,②「私は,確か電話でだったと思うのですが,Aから,『今,Fがケジメを付けましたから。』,『指を詰めました。』と報告を受けました。」という部分,③「私は,Fから金を取り戻せない以上,Fに,私の金を持ち逃げしたことのケジメを付けさせなければならないと思いました。ケジメを付けさせるとは,責任を取らせるということであり,ヤクザの世界では,命を取るか,指を詰めさせるということです。不義理を働いた人間にケジメを付けさせるのは当然のことなのです。私のその当時のFに対する怒りは,それはもう言葉で言い表せないほどの強いものであり,私としては,Fの命を取らなければ気が済まないほどの考えでいました。」,「私は,Fに金を持ち逃げされた当初は,気も狂わんばかりの怒りの気持ちを持っており,Fの命を取らなければ気が済まないと思っていました。」などの部分の3点について,いずれも自分が言ったことではないと述べる。 イ証拠能力(任意性,特信性)についてそこで検討すると,被告人Eの公判供述及び前記供述調書の記載によれ ば,同人が,その内容を読み聞かされた後,その最終丁を渡されて署名指印したこと,その最終丁に前記②及び③の事実が記載されていることが認められる。 また,被告人Eが,捜査及び公判を通じて,前記供述調書の記載の内容のうち前記①②③以外の点については特に争っていないこと,この日は,被告人Eが本件について初めて検察官から取り調べられたという場面であり,被告人Eが,検察官に対し,「警察よりも先に認める調書を検事さんの前で取ってもらって,警察のメンツをつぶさないか。」という話をしたことがあったことからすると,被告人Eは,検察官に対し,それまで認めていなかった自 察官に対し,「警察よりも先に認める調書を検事さんの前で取ってもらって,警察のメンツをつぶさないか。」という話をしたことがあったことからすると,被告人Eは,検察官に対し,それまで認めていなかった自己に不利益な事実を認める供述を任意にしていたと推認される。 被告人Eは,自分の家族を含む関係者の処分等について捜査段階において強く案じていたと公判で供述しており,それにはもっともな点があると考えられるが,その公判供述を前提にしたとしても,自分の供述内容次第で関係者の処分が左右されることを具体的に認識したのはこの取調べよりも後のことである。この供述調書が作成された当時において,このような懸念が被告人Eの供述内容に影響を及ぼしたことを推認させる事情は特に見当たらない。したがって,この供述には,公判廷における供述よりも信用すべき特別の情況があったと認められる。 もっとも,被告人Eは,その翌日,勾留場所の警察署でその供述調書の写しを読み,自分が言ったとおりのことが書かれていないと思い,その後に行われた取調べの冒頭で,検察官にこれを破棄するように抗議をしたことが認められる。調書の内容を自分の目で確認した直後に強固な不満を表明したその態度からすると,事実関係の細部にわたる部分や表現のしかた等については,本人の真意どおりの表現になっていなかった可能性は否定できないが,前記事情を前提に考えると,このことは供述の大要について 任意性,特信性を否定する事情となるものではない。 ウ信用性について前記調書の内容は,身近な組員であった被害者に大金を持ち逃げされた後の対応を具体的に説明した上,被害者に対する感情について,被害者に対して激しい怒りを抱いたが,その約1年後に被告人Aからの報告で被害者に指を切断させるという形でけじめを付けさせたことを知り,被害者を許 応を具体的に説明した上,被害者に対する感情について,被害者に対して激しい怒りを抱いたが,その約1年後に被告人Aからの報告で被害者に指を切断させるという形でけじめを付けさせたことを知り,被害者を許してやることにした,というものである。その心情は当時の状況からみて自然なものであり,概ね信用できるというべきである。被告人Eは,公判廷で,この供述調書について,自分が被害者に対して殺意を持っていたかのような記載が不満である旨述べており,実際にもその後の取調べで検察官に抗議したことが認められるが,強い感情の動きを表現する際の言葉のあやの程度の問題とも言える。被告人Eは,公判廷において,持ち逃げ行為が発覚した後,被害者を捜すように指示したのは金を取り戻すためであり,それ以外に謝罪を求めたり制裁を加えたりすることは考えていなかったと供述するが,前記のとおりの被害者が持ち逃げした金の性質やその額からすると,いかなる謝罪や制裁をも想定していなかったというのは不自然であり,そのまま信用することはできない。 もっとも,前記供述調書中,被告人Aから事後に電話で報告を受けたという点について,被告人Eは,公判廷において,この事実を強く否認し,本件傷害行為について知ったのは,時期は分からないが,被告人Aから喫茶店で直接報告を受けた時であると供述しているところ,捜査段階においても,この供述調書の写しを手渡されて読んだ後初めて行われた取調べの冒頭で検察官にその破棄を求めたのであって,その当時からこのような記載内容に相当不満を抱いていたと推測できる。この点についての被告人Eの供述をそのまま信用することは慎重であるべきである。もっとも,この点の供述は,時期,方法はともかくとして,本件傷害行為については被告 人Aから事後的な報告を受けたにとどまるという点では,公判供述 供述をそのまま信用することは慎重であるべきである。もっとも,この点の供述は,時期,方法はともかくとして,本件傷害行為については被告 人Aから事後的な報告を受けたにとどまるという点では,公判供述と有意な差があるわけではない。 (4)検討以上のような被告人Eの捜査段階における供述を前提にすると,被告人Eが,被害者の持ち逃げ行為に激怒し,組員らに被害者を捜すように指示した時点では,被告人Eや指示を受けた組員らが,被害者を捜し出してきた場合には,金を取り戻すほか,何らかの形で謝罪を求めたり制裁を加えたりすることも想定していたと考えられる。そして,自分で自分の指を切断するいわゆる指詰めは,暴力団組織特有のけじめの取り方の1つであるから,被害者の態度や金を返せるかどうかといった事情次第で,その指を切断する可能性もあり得たといえる。 もっとも,証拠上認められる被告人Eの指示は,被害者を捜せというものであり,けじめを取らせることは明示していない。被害者に「ケジメを付けさせなければならない」旨の被告人Eの捜査段階における供述は,持ち逃げ行為直後の自己の内心の感情を述懐しているに過ぎないともいえる。被害者を発見できた場合にどのような対応をとるかは,被告人Eがそのときの具体的状況に応じて判断するべきことがらであったとも考えられる。現に,被害者の持ち逃げ行為と同時期に,被害者と同様に金を持ち逃げした別の組員は,まもなく発見され,持ち逃げした金を返した上,丙組に戻ることになったことが認められる。被告人Eから指示を受けた組員は,被害者の処分を決める前段階として,被害者を発見して被告人Eの元に連行することのみを要求されていた可能性が否定できない。 しかも,被告人Eは,持ち逃げ行為の約2週間後には被害者を捜すことを断念した(乙2)。本件はその約1年1か月後 ,被害者を発見して被告人Eの元に連行することのみを要求されていた可能性が否定できない。 しかも,被告人Eは,持ち逃げ行為の約2週間後には被害者を捜すことを断念した(乙2)。本件はその約1年1か月後の犯行であるが,その間,被告人Eが,組員らに対し,被害者の捜索等について何らかの指示を出していたなどの事情は認められない。また,被告人Eが,持ち逃げ行為から2か月 後の平成10年10月,意識障害を起こして病院に搬送され,くも膜下出血と診断されて約1か月間入院していたという事情もある(弁5)。 このような事情をふまえると,被告人Aらは,被害者の所在が判明した後に,本件傷害行為について新たな共謀関係を形成し,その共謀に基づいて被告人Aがこれを実行したとみるべきである。被告人Eが同Aから事後に報告を受けた際,これを咎めなかった事実は,この認定と矛盾するものではない。 したがって,本件の証拠関係の下では,平成10年8月1日に被告人Eが被害者を捜すように指示した時点において,被害者の指を切断することについてまで共謀が成立し,この共謀に基づいて本件傷害行為が実行されたと認定することはできない。 なお,被告人Dの検察官調書(乙30,31)には,本件傷害行為時,被害者の指を切断することについて被告人Eの指示があったという趣旨の記載がある。しかし,被告人Dの検察官調書(乙30・7ないし8丁)によれば,同被告人がそのように供述する根拠は,平成11年9月11日に被告人Aから一緒に鹿児島に行くよう依頼を受けたことについて,暴力団組織内における上下関係を考慮すれば,同被告人が被告人Eの了解を得ずに被告人Dに指示を出すことはできない立場であることから,被害者のけじめを取りに行くのは被告人Eの指示によるものだと考えたというもので,いわば被告人Dの推測に基づくものにすぎ が被告人Eの了解を得ずに被告人Dに指示を出すことはできない立場であることから,被害者のけじめを取りに行くのは被告人Eの指示によるものだと考えたというもので,いわば被告人Dの推測に基づくものにすぎない。この供述によって,被告人Eと被告人Aらとの間に本件傷害行為についての共謀があったと認めることはできない。 結論 そうすると,本件に関する全証拠を検討してみても,本件公訴事実第1のうち,被告人Eと他の被告人らとの共謀の点については,その証明が不十分であるといわざるを得ないのであって,被告人Eに対しては犯罪の証明がないときに当たるから,刑事訴訟法336条により無罪の言渡しをし,他の被告人らに対する関係では判示第1のとおり認定することとする。 【被告人Bに対する事実認定の補足説明】第1被告人の弁解被告人Bは,公判廷において,被害者の居場所を被告人Aに電話で通報した際には,被害者を名古屋に連れ戻して働かせることくらいしか考えていなかったのであり,被害者の指を切断するとは思っていなかった旨供述している。 そこで,当裁判所が判示第2のとおり認定した理由を補足して説明する。 第2当裁判所の判断当時,被告人Aは若頭で,組長に次ぐ立場であり,被告人Bは若頭補佐として被告人Aを補佐する立場にあった。被告人Bは,持ち逃げ行為直後には,Gの親族に事情を聞きに行くなどして被害者の行方を捜したことがある(被告人B公判13丁)。そして,本件犯行前日,Gが名古屋市に戻ってくることを知ると,その親族と共に名古屋空港まで迎えに行った上,Gに対し被害者の所在を教えるように追及し,その翌日には,被告人Aに連絡を入れた上,被告人Cと共にGに案内をさせて被害者を捜しに行ったものである。当時,持ち逃げ行為から1年以上が経過しており,被害者から約1000万円もの金を取り戻 に追及し,その翌日には,被告人Aに連絡を入れた上,被告人Cと共にGに案内をさせて被害者を捜しに行ったものである。当時,持ち逃げ行為から1年以上が経過しており,被害者から約1000万円もの金を取り戻せる見込みは乏しかった。 このような状況を前提に,先に述べた本件に至る経緯や事案の性質を合わせて考えると,被告人Aが被害者に会った場合,その被害者の対応等の状況によっては,若頭である被告人Aの判断で,被害者がけじめとしてその指を切断するような状況になるかもしれないことは,容易に想像できるというべきである。 被告人A及び同Cも,公判廷においてこの点を認めている(被告人A第5回公判5丁,被告人C公判23丁)。 そして,被告人Bも,捜査段階においては,被告人Aに電話を掛けた時点で,被害者に対するけじめの付け方としては指詰めしかないだろうという気持ちだった旨供述しているが,この供述は,以上の事実からすれば自然な内容であり,信用することができる。 したがって,被告人Bは,被告人Aらが被害者の指を切断することについて,少なくとも未必的には認識し認容した上で判示のとおりの行為に及び,その傷害の犯行を幇助したと認められる。 被告人Bの弁解を,そのまま信用することはできない。 (被告人Cにつき)【確定裁判】 事実 平成12年3月30日名古屋地方裁判所宣告有印私文書偽造,偽造有印私文書行使,公正証書原本不実記載,不実記載公正証書原本行使の罪により懲役1年6月(5年間執行猶予)平成12年4月14日裁判確定 証拠 前科調書(乙28),判決書謄本(乙35)【法令の適用】罰条第1の事実行為時には刑法60条,平成16年法律第156号による改正前の刑法204条に,裁判時には刑法60条,その改正後の刑法204条に該当するが,刑法6条,10条により軽い行 の適用】罰条第1の事実行為時には刑法60条,平成16年法律第156号による改正前の刑法204条に,裁判時には刑法60条,その改正後の刑法204条に該当するが,刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。 第2の事実行為時には刑法62条,前記改正前の刑法204条に,裁判時には刑法62条,その改正後の刑法204条に該当するが,刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。 刑種の選択各罪懲役刑法律上の減軽第2の罪刑法63条,68条3号(従犯) 併合罪の処理被告人Cにつき,刑法45条後段,50条(まだ確定裁判を経ていない判示第1の傷害罪について更に処断)未決勾留日数刑法21条(被告人Aに対し110日,同Bに対し70日,同C,同Dに対し60日各算入)刑の執行猶予被告人B,同C,同Dにつき,刑法25条1項訴訟費用刑訴法181条1項本文,182条(被告人A,同B,同C,同Dの連帯負担とする。)【量刑の事情】 事案の概要本件は,暴力団構成員である被告人A,同B,同C,同D(以下,被告人ら4名という。)のうち,同Bを除く被告人ら3名が,共謀の上,その組織の金を持ち逃げした元構成員の被害者に対し,その右手小指を切断した傷害(第1),被告人Bが,被害者の居場所を知らせるなどしてこの犯行を容易にした傷害幇助(第2)の事案である。 全体的な犯情傷害の犯行について,被告人Aらは,被害者の所在を突き止めて同人方に押し掛けて暴力団の威力を示し,被害者にその指を切断することを承諾させると,直ちに指を切断するための道具を入手して被害者を病院の駐車場に連行し,被害者にその実行を強要し,恐怖の余り躊躇する被害者を責め立てた挙げ句,被告人Aが,まな板の上に被害者の右手を置かせ,その小指にのみの刃を当て,のみをハンマ を入手して被害者を病院の駐車場に連行し,被害者にその実行を強要し,恐怖の余り躊躇する被害者を責め立てた挙げ句,被告人Aが,まな板の上に被害者の右手を置かせ,その小指にのみの刃を当て,のみをハンマーで2回叩いてこれを切断したというものである。なお,被害者方にいた被告人Aらは,被害者が指を切断することを承諾した状況について,被告人Dが被害者を1回蹴ったが被告人Aがすぐにやめさせ,それ以外の暴行はなかったこと,被害者が自分から指を詰めることを申し出たことなどを述べる。しかし,前述のとおりのその状況に至るまでの経緯,被告人らと被害者との関係や,被告人Aが 暗殺を手掛ける組織と思われる己会の話題を出していたことなどからすると,被害者は,その生命,身体への危害に対する激しい恐怖を覚え,それから免れるために不本意ながらも指の切断を承諾したものであって,直接の暴行がどの程度であったかは,それほど重要なことではない。暴力団特有の思考に基づく反社会的かつ残酷な態様の犯行である。 被害者は健常な右手小指にのみを打ち付けられて切断され,その小指の先を永久に失ったのであり,その痛みや恐怖は多大なものであったと推察される。結果は重大である。 被告人ら4名の立場,役割被告人Aは,被告人ら4名のうちの上位者である。そして,被害者に指の切断を承諾させ,他の共犯者らに指示して病院を探させたり,道具を入手させたりするなどした上,自ら被害者の指を切断するなど,終始主導的な役割を果たした。 その刑事責任は相当重い。 被告人Bは,被害者を捜すため,Gを連れて鹿児島県に行き,その居場所を発見して被告人Aに報告したのであり,傷害の犯行に対して寄与した役割は大きい。 幇助にとどまるのは被告人Aの指示に基づいてH方に残ったという事情によるもので,その刑事責任は決して軽くない。 被 場所を発見して被告人Aに報告したのであり,傷害の犯行に対して寄与した役割は大きい。 幇助にとどまるのは被告人Aの指示に基づいてH方に残ったという事情によるもので,その刑事責任は決して軽くない。 被告人Cは,被告人Bと共に鹿児島県に行き,被害者方から犯行現場までの往復を含め,鹿児島県内で移動する際の車の運転を担当したのであり,傷害の犯行に対して果たした役割を軽視することはできない。その刑事責任は重い。 被告人Dは,被告人Aと共に被害者方に押し掛け,同所から犯行現場までの往復に同行したものであり,やはりその役割を軽視することはできない。その刑事責任は重い。 被告人ら4名のために酌むことができる事情被告人ら4名はいずれも,自己の刑事責任を認めて反省の言葉を述べている。 そして,被害者との間で示談が成立し,被害者が寛大な処罰を求めている。 被告人Aについては,妻が,公判廷において,その更生を援助し,暴力団を辞める方向で話し合う意思を示しており,被告人Aもこれを重く受け止める旨述べている。また,前科がない。 被告人Bについては,その刑事責任は幇助にとどまり,傷害の犯行に直接関与したものではない。また,丙組を脱退することも含めて今後の進退を考えたい旨述べており,兄がその指導監督を申し出ている。そして,禁錮以上の刑に処せられた前科がない。 被告人Cについては,前記確定裁判の執行猶予期間が無事満了しており,本件はその余罪に当たる関係にある。また,今後について内妻とよく話し合うつもりであると述べ,その内妻が,公判廷において,更生を援助し,丙組から脱退する方向で意見を言う旨述べている。健康状態に不安がある。 被告人Dについては,すでに丙組から脱退しており,それ以降鉄筋工として真面目に働いている。また,妻が指導監督を誓約している。そして,平成3年11月 向で意見を言う旨述べている。健康状態に不安がある。 被告人Dについては,すでに丙組から脱退しており,それ以降鉄筋工として真面目に働いている。また,妻が指導監督を誓約している。そして,平成3年11月に最終の前科に係る刑の執行を終了した後は,現在まで特に問題を起こしていない。 結語そこで,以上の諸事情を総合し,共犯者間の量刑の均衡も考慮した上で,被告人Aについては,前記のとおりの刑事責任の重さからすると,その刑の執行を猶予するべきとはいえないので実刑に処し,今回初めて服役することを考慮してその刑期を主文のとおりに定め,被告人B,同C,同Dについては,社会内で更生する機会を与えるため,主文のとおりの懲役刑を定めた上でその刑の執行を猶予することとする。 (検察官森幹,主任弁護人黒岩千晶,弁護人山崎圭(私選)各出席)(求刑被告人E,被告人Aにつき懲役2年6月,被告人Bにつき懲役1年,被告人C,被告人Dにつき懲役2年)平成18年9月1日 名古屋地方裁判所刑事第2部裁判長裁判官伊藤納裁判官大村泰平裁判官宮部良奈
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