平成21(ワ)34203 職務発明対価支払請求事件

裁判年月日・裁判所
平成24年4月27日 東京地方裁判所
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判決文本文112,821 文字)

- 1 -平成24年4月27日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成21年(ワ)第34203号職務発明対価支払請求事件口頭弁論終結日平成24年1月27日判決東京都中央区<以下略>原告 A1同訴訟代理人弁護士牧野和夫同工藤英知東京都中央区<以下略>被告アステラス製薬株式会社同訴訟代理人弁護士難波修一同向宣明同大江耕治同長尾貴子同訴訟復代理人弁護士前田香織 主文 1 被告は,原告に対し,1億6538万円及びこれに対する平成21年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は,これを6分し,その5を原告の,その余を被告の各負担とする。 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,原告に対し,10億円及びこれに対する平成21年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 - 2 - 2 仮執行宣言第2 事案の概要 1 本件は,被告の元従業員であり,その在職中にされた発明の名称を「スルフアモイル置換フエネチルアミン誘導体」とする発明及び「置換フエネチルア え。 - 2 - 2 仮執行宣言第2 事案の概要 1 本件は,被告の元従業員であり,その在職中にされた発明の名称を「スルフアモイル置換フエネチルアミン誘導体」とする発明及び「置換フエネチルアミン誘導体の製造法」とする発明の共同発明者の1人である原告が,被告に対し,平成16年法律第79号による改正前の特許法35条(以下,同条については,特にことわらない限り,同改正前の特許法における同条をいう。)に基づき,上記各職務発明に係る特許を受ける権利を被告に承継させたことによる相当の対価の一部請求として10億円及びこれに対する請求日の翌日である平成21年4月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提となる事実(争いのない事実以外は,証拠を項目の末尾に記載する。ただし,書証は枝番を含む。)(1) 当事者ア原告は,昭和41年に東京薬科大学薬学部薬学科を卒業し,昭和45年に九州大学大学院薬学研究科博士課程を中途退学して,同年4月,合併により被告が成立する前の山之内製薬株式会社(以下「山之内製薬」という。)に入社し,平成15年まで被告に在職した者である。 イ被告は,主として医薬品等の製造販売及び輸出入等を目的とする株式会社である。被告は,平成17年4月1日,山之内製薬と,藤沢薬品工業株式会社(以下「藤沢薬品工業」という。)が合併して成立した会社である。 (2) 対象となる発明(甲1,乙119,126)ア被告の従業員であった原告は,昭和45年4月以降,医薬品の研究開発に従事し,他の発明者と共同して,「スルフアモイル置換フエネチルアミン誘導体」に関する発明(以下「本件物質発明」という。)及び「置換フ- 3 -エネチルアミン誘導体の製造法」に関する発明(以下「本件製法 し,他の発明者と共同して,「スルフアモイル置換フエネチルアミン誘導体」に関する発明(以下「本件物質発明」という。)及び「置換フ- 3 -エネチルアミン誘導体の製造法」に関する発明(以下「本件製法発明」という。)をした(以下,両者を総称して「本件発明」ということがある。)。本件発明の発明者は,本件物質発明について,A2,A3,原告,A4及びA5であり,本件製法発明について,A3及び原告であるところ,共同発明者間における貢献度については,本件物質発明において原告が40%,本件製法発明において原告が90%であることは,被告もこれを積極的に争うものではない。 イ(ア) 被告は,本件物質発明について,我が国における特許出願日である昭和55年2月8日までには,原告及び共同発明者から当該発明に係る特許を受ける権利を承継し,原告は,特許法35条に基づき,その相当対価請求権を取得した。 (イ) 被告は,本件製法発明について,我が国における特許出願日である昭和60年11月13日までには,原告及び共同発明者から当該発明に係る特許を受ける権利を承継し,原告は,特許法35条に基づき,その相当対価請求権を取得した。 (ウ) なお,本件物質発明及び本件製法発明に係る我が国又は外国における各特許を受ける権利のうち,従業者による職務発明について,特許を受ける権利を企業が原始取得する法制となっている国であるイタリア,スペイン,フランス,イギリス,オランダ,ポルトガル及びベルギー(乙102~108)について,特許を受ける権利の承継及び相当対価請求権の取得の有無について,当事者間において争いがある。 ウ本件物質発明及び本件製法発明については,次のとおり,我が国及び諸外国において,本件物質発明に係る特許権(以下,その特許を総称して「本件物質特許」と ついて,当事者間において争いがある。 ウ本件物質発明及び本件製法発明については,次のとおり,我が国及び諸外国において,本件物質発明に係る特許権(以下,その特許を総称して「本件物質特許」という。)及び本件製法発明に係る特許権(以下,その特許を総称して「本件製法特許」という。また,本件物質特許と本件製法特許を併せて「本件特許」ということがある。)がそれぞれ成立した。 - 4 -(ア) 我が国における特許権(その発明の内容は別添各特許公報のとおり)① 本件物質発明に係る特許権(甲1の1)(以下,その特許を「日本物質特許」という。)出願日昭和55年2月8日出願番号昭55-14382登録日昭和63年6月8日満了日平成17年2月8日特許番号特許第1443699号発明の名称スルフアモイル置換フエネチルアミン誘導体発明者 A2,A3,原告,A4,A5② 本件製法発明に係る特許権(甲1の2)(以下,その特許を「日本製法特許」という。)出願日昭和60年11月13日出願番号昭60-254326登録日平成2年4月4日満了日平成17年11月13日特許番号特許第1553822号発明の名称置換フエネチルアミン誘導体の製造法発明者原告,A3(イ) 諸外国における特許権a 米国における特許権(乙119)(以下,その特許を「米国物質特許」という。)出願日昭和60年7月18日登録日昭和62年10月27日満了日平成21年10月27日- 5 -特許番号米国特許第4703063号発明の名称スルファモイル置換フェネチルアミン誘導体及びその製造法発明者 62年10月27日満了日平成21年10月27日- 5 -特許番号米国特許第4703063号発明の名称スルファモイル置換フェネチルアミン誘導体及びその製造法発明者 (ア)①と同じb 欧州における特許権(イギリス,ドイツ,フランス,イタリア,ベルギー,オランダ,スイス,オーストリア)(乙126)(以下,その特許を「欧州物質特許」という。)出願日昭和56年2月2日登録日昭和59年4月25日満了日平成18年2月2日特許番号欧州特許第34432号発明の名称スルファモイル置換フェネチルアミン誘導体,その製法及びそれらを含有する医薬組成物発明者 (ア)①と同じcⅰ スペイン物質特許権(乙126)(以下,その特許を「スペイン物質特許」という。)出願日昭和56年2月6日登録日昭和56年10月28日満了日平成13年10月28日特許番号スペイン特許第499224号発明の名称スルファモイル置換フェネチルアミン誘導体発明者 (ア)①と同じⅱ スペイン製法特許権(乙126)(以下,その特許を「スペイン製法特許」という。)出願日昭和61年7月29日登録日昭和63年1月11日- 6 -満了日平成18年7月29日特許番号スペイン特許第8600685号発明の名称置換フェネチルアミン誘導体の製造法発明者 (ア)②と同じd ロシア(旧ソ連)特許権(乙126)(以下,その特許を「ロシア物質特許」という。)出願日昭和56年2月6日登録日昭和59年3月23日満了日平成13年2月6日 ソ連)特許権(乙126)(以下,その特許を「ロシア物質特許」という。)出願日昭和56年2月6日登録日昭和59年3月23日満了日平成13年2月6日特許番号ソ連特許第1082320号発明の名称スルファモイル置換フェネチルアミン誘導体及びその酸付加塩の製造法発明者 (ア)①と同じe ポルトガル(乙126)(以下,その特許を「ポルトガル物質特許」という。)出願日昭和56年2月5日登録日昭和57年2月4日満了日平成13年2月5日特許番号ポルトガル特許第72460号発明の名称スルファモイル置換フェネチルアミン誘導体の製造法発明者 (ア)①と同じ(3) 職務発明規程(甲3)ア山之内製薬は,平成9年1月1日,次の内容の職務発明取扱い規程(以下「被告規程1」という。)を制定し,同日施行した。 (ア) (権利の承継)会社は,職務発明について,本規程の定めるところ- 7 -により特許を受ける権利又は特許権を承継することができるものとする(3条)。 (イ) (出願補償)会社は,特許を受ける権利を承継し,日本国に出願したときは,特許出願1件に対し1万円の補償金を発明者に支払う。発明者が複数の場合は,その均等割した百円単位(端数繰り上げ)の金額を支払うものとする。出願補償金の支払は同一発明に対しては1回のみとする(15条)。 (ウ) (登録補償)会社は,特許を受ける権利又は特許権を承継し,日本国の特許証の交付を受けたときは,特許権1件に対し2万円の補償金を発明者に支払う。発明者が複数の場合は,その均等割りした百円単位(端数繰り上げ)の金額を支払うものとする(16条)。 継し,日本国の特許証の交付を受けたときは,特許権1件に対し2万円の補償金を発明者に支払う。発明者が複数の場合は,その均等割りした百円単位(端数繰り上げ)の金額を支払うものとする(16条)。 (エ) (実施補償)会社は,権利を承継した職務発明を日本国で実施して利益を得たとき又は第三者に実施許諾して利益を得たときは,日本国で登録になっていることを条件に,実施あるいは実施許諾1回に限り,会社の事業目的への貢献度に応じ,特許権1件に対し10万円以上100万円以下の職務発明委員会が査定した補償金を,発明者に支払う。発明者が複数の場合は,その均等割りした百円単位(端数繰り上げ)の金額を支払うものとする(17条)。 (オ) (不在籍者への補償)会社は,補償金の支払を受ける権利を有する者が退任又は退職した後,当該権利を有する者より請求があったときは,補償金を支払うものとする(19条)。 (カ) (支払の期日)補償金は,支払が確定した年度(4月1日から3月31日)の翌年度に支払うものとする(21条)。 (キ) (施行期日)本規程は,平成9年1月1日から施行する(28条)。 イ山之内製薬は,平成15年4月1日,被告規程1を改訂して発明奨励規- 8 -程(以下「被告規程2」という。)とし,同日施行した。そして,登録補償を出願補償に統合するとともに,出願補償の補償額を,特許出願1件に対し5万円とするなどした。実施補償の内容については,上限が1000万円に変更されたほかは基本的に変更がない。付則により平成15年4月1日から施行するものとされている。 ウ被告は,会社の合併に伴い,平成17年4月1日,次の内容の職務発明規程(以下「被告規程3」という。)を制定し,同日施行した。 (ア) (権利の承継)会 日から施行するものとされている。 ウ被告は,会社の合併に伴い,平成17年4月1日,次の内容の職務発明規程(以下「被告規程3」という。)を制定し,同日施行した。 (ア) (権利の承継)会社は,職務発明について,本規程の定めるところにより特許を受ける権利を職務発明者から承継する(3条)。 (イ) (出願時補償)会社は,職務発明に係る特許等を受ける権利を承継した場合には,当該権利ごとに本章に定めるところにより補償金を職務発明者に支払う。…(13条)。 (ウ) (実施時補償)会社は,特許権等に係る発明等が実施されることにより利益を得た場合には,当該特許権等毎に…18条から21条に定めるところにより実施時補償金を職務発明者に支払う。実施時補償金は,職務発明者が会社を退職した場合も支払われ…る(17条)。 (エ) (対象製品の売上高に対する実施時補償金)① 対象製品の売上高に対する実施時補償金は,対象となる特許権等の存続期間中において対象製品につき特許権等に係る発明が実施されている限り支払われる(18条1項)。 ② 対象製品の売上高に対する実施時補償金は,対象となる特許権等の各々に対して,次の算定式により算定する(18条2項)。 実施時補償金額=対象製品の売上高×0.00005×(係数A)a 係数Aは,対象製品の売上高に対する特許権等の寄与度による係数であって,特許権等の種類,会社自らが使用する又は子会社に使用許諾される各種データなどにより定めるものとし,1以下とす- 9 -る。 b 係数Aは,対象製品の製品化における当該特許権等に係る職務発明の技術的寄与の程度も斟酌しつつ,当該特許権等の対象製品の独占性への貢献度を主たる判断基準として職務発明委員会が る。 b 係数Aは,対象製品の製品化における当該特許権等に係る職務発明の技術的寄与の程度も斟酌しつつ,当該特許権等の対象製品の独占性への貢献度を主たる判断基準として職務発明委員会が認定する。 c 係数Aは,各算定期間において見直す場合がある。 (オ) (対象製品の第三者へのライセンスアウトに基づく収入に対する実施時補償金)① 対象製品のライセンス収入に対する実施時補償金は,特許権等の存続期間中において当該特許権等の実施許諾として一時金,ロイヤリティー等が受領されている限り支払われる(19条1項)。 ② ライセンス収入による実施時補償金額は,対象となる特許権等の各々に対して次の算定式により算定する(19条2項)。 実施時補償金額=ライセンス収入金額×0.0005×(係数B)a 係数Bは,ライセンス収入に対する特許権等の寄与度による係数であって,特許権等の種類,使用許諾される各種データなどにより定めるものとし,1以下とする。 b 係数Bは,ライセンス契約,並びに対象製品の製品化における当該特許権等に係る職務発明の技術的寄与の程度も斟酌しつつ,当該特許権等の対象製品の独占性への貢献度を主たる判断基準として職務発明委員会が認定する。 c 係数Bは,各算定期間において見直す場合がある。 d 対象製品の第三者へのライセンスアウトに基づく収入として,当該特許権等の実施許諾の対価としての一時金,ロイヤリティー以外の収入が含まれている場合や対象製品の取引にロイヤリティー相当額が含まれているとみなされる場合においては,職務発明委員会が- 10 -それらの要素を考慮して本条のライセンス収入金額を認定する。 (カ) (補償金支払 象製品の取引にロイヤリティー相当額が含まれているとみなされる場合においては,職務発明委員会が- 10 -それらの要素を考慮して本条のライセンス収入金額を認定する。 (カ) (補償金支払時期)① 18条…に定める実施時補償金は,各算定期間満了後,会社が定める方法により支払われる(22条1項)。 ② 18条に定める実施時補償金の対象となる対象製品が会社もしくは子会社が製造承認を取得した医療用医薬品の場合,対象製品の日本,米国,欧州地域の主要6ケ国(イギリス,ドイツ,フランス,イタリア,スペイン,オランダ)のいずれかの国における最初の販売後遅滞なく最初の支払が行われるものとし…第18条により定める算定式により実施時補償金額を算定する(22条2項)。 (キ) (共同発明者が存在する場合の取扱い)18条…に定める…補償金は,各特許権等について当該補償金を受ける権利を有する職務発明者が複数存在する場合は,各職務発明者の職務発明への寄与度に応じて分配して支払われる(23条1項)。 (ク) (附則・経過規程)① 出願時補償の規程平成17年3月31日までに山之内製薬又は藤沢薬品工業が行った職務発明に係る特許出願等に対しては…会社は,山之内製薬又は藤沢薬品工業の旧規程により出願時補償を実施する(附則2項(2))② 実施時補償の規程a 平成17年3月31日までの出願に対しても同年4月1日以降に出願されたものと同様に,同年4月1日を最初の算定期間の起算日として,本規程を適用する(3項(1))。 b 平成17年3月31日までに山之内製薬又は藤沢薬品工業が行った職務発明に係る特許出願等の実施時補償については,山之内製薬又は藤沢薬品工業における同年3月31日までの実施時補償につい- b 平成17年3月31日までに山之内製薬又は藤沢薬品工業が行った職務発明に係る特許出願等の実施時補償については,山之内製薬又は藤沢薬品工業における同年3月31日までの実施時補償につい- 11 -て同年3月31日時点で山之内製薬又は藤沢薬品工業の旧規程上の補償の計算期間が満了していない場合は,計算期間の始期に遡って本規程を適用し,会社における最初の実施時補償時に,その期間を算入して算定する。ただし,対象製品が22条2項に該当する場合は,対象製品の最初の支払時期を同年4月1日以降とし,会社における最初の算定期間も含めた売上高予測に基づき,実施時補償金を算定する(3項(2))。 エ被告は,平成19年7月26日,被告規程3を改訂した(以下,被告規程3と合わせて「被告現行規程」という。)。 (4) 被告による上市(甲2)ア被告は,平成5年7月2日,塩酸タムスロシンを有効成分とする医薬品(商品名「ハルナール」)について,前立腺肥大症に伴う排尿障害治療剤として,薬事法に基づく製造承認を受け,平成5年8月30日,我が国における自社販売を開始した。 イ欧州においては,被告の欧州子会社であるアステラスファーマ社又は下記(6)のライセンシーが,商品名「Omnic」等により,平成7年9月,オランダ等における販売を開始した。 ウ米国においては,下記(5)の被告のライセンシーが,商品名「Flomax」により,平成9年9月,販売を開始した。 (以下,商品名については,我が国,欧州,米国を通じて「ハルナール」ということがある。)。 (5) 北米ライセンス契約等(乙73,110)被告の海外子会社は,平成5年12月15日,ベーリンガー・インゲルハイム・インターナショナル・ゲーエムベーハー(以下「BI社」という。)との間で,次の内容 北米ライセンス契約等(乙73,110)被告の海外子会社は,平成5年12月15日,ベーリンガー・インゲルハイム・インターナショナル・ゲーエムベーハー(以下「BI社」という。)との間で,次の内容のライセンス契約を締結した(乙73。以下「北米ライセンス契約」という。本件では被告を同契約の当事者として扱うことについ- 12 -て当事者間に争いがない。)。 ●(省略)●(6) 欧州ライセンス契約等(乙111~115)ア被告の海外子会社は,平成5年4月20日,BI社との間で,次の内容のライセンス契約を締結した(乙111。以下「欧州ライセンス契約」という。本件では被告を同契約の当事者として扱うことについて当事者間に争いがない。)。 ●(省略)●イ被告は,平成6年10月26日,BI社との間で,補足契約(乙112)を締結し,●(省略)●ウ被告の子会社は,平成7年8月22日,BI社との間で,次の内容の供給契約(乙114。以下「原供給契約」という。)を締結した(本件では被告を同契約の当事者として扱うことについて当事者間に争いがない。)。 ●(省略)●エ被告は,平成11年12月3日,BI社との間で,譲渡契約(乙113)を締結し,●(省略)●オ被告は,平成17年4月1日,BI社との間で,次の内容の第3補足契約(乙115)を締結した。 ●(省略)●(7) 被告による支払(乙4,24)被告は,原告に対し,平成21年3月6日,被告現行規程に基づき,ハルナールに関して,物質特許補償額309万8400円,製法特許補償額26万1500円の合計335万9900円を支払った(以下「本件支払」という。)。 (8) 本件訴訟に至る経緯(甲4)- 13 -ア原告は,被告に対し,平成21年3月31日到達の書面により,ハ 万1500円の合計335万9900円を支払った(以下「本件支払」という。)。 (8) 本件訴訟に至る経緯(甲4)- 13 -ア原告は,被告に対し,平成21年3月31日到達の書面により,ハルナールに関する我が国,米国,欧州各国における物質特許及び製法特許について,原告が特許法35条3項に基づいて支払を受けるべき相当の対価の額は,少なくとも40億円を下らないとして,その支払を請求した。 イ原告は,東京地方裁判所に対し,平成21年9月28日,本件訴訟を提起した。 3 争点(1) 使用者が受けるべき利益(1)-1 自己実施による独占の利益(1)-2 ライセンス収入(2) 使用者貢献度(3) 相当対価額の算定(4) 消滅時効 4 争点に対する当事者の主張(1) 使用者が受けるべき利益(1)-1 自己実施による独占の利益について(原告)ア使用者等が受けるべき利益の額(自己実施分)について(ア) 特許法35条3項,4項の「特許を受ける権利」には,我が国の特許を受ける権利及び外国の特許を受ける権利が含まれ,その譲渡の対価請求権は,同条項の適用により一元的に発生する(主位的主張)。 (イ) 仮に,特許法35条3項,4項の「特許を受ける権利」には,外国の特許を受ける権利が含まれないと解釈されるとしても,その譲渡の対価請求権は,同条項の類推適用により発生する(予備的主張)。 すなわち,同条項の規定は,職務発明の独占的な実施に係る権利が処分される場合において,職務発明が雇用関係や使用関係に基づくもので- 14 -あるために,当該発明をした従業者等と使用者等とが対等の立場で取引をすることが困難であることにかんがみ,その処分時において,当該権利を取得した使用者等が当該 係や使用関係に基づくもので- 14 -あるために,当該発明をした従業者等と使用者等とが対等の立場で取引をすることが困難であることにかんがみ,その処分時において,当該権利を取得した使用者等が当該発明の実施を独占することによって得られると客観的に見込まれる利益のうち,同条4項所定の基準に従って定められる一定範囲の金額について,これを当該発明をした従業者等において確保できるようにして,当該発明をした従業者等を保護し,もって特許法の目的を実現することを趣旨とする。そして,当該発明をした従業者等から使用者等への特許を受ける権利の承継について両当事者が対等の立場で取引をすることが困難である点は,その対象が我が国の特許を受ける権利である場合と外国の特許を受ける権利である場合とで何ら異なるものではない。また,特許を受ける権利は各国ごとに別個の権利として観念し得るものであるが,その基となる発明は,共通する一つの技術的創作活動の成果であり,その基となる雇用関係等も同一であって,これに係る各国の特許を受ける権利は,社会的事実としては実質的に1個と評価される同一の発明から生じるものである。さらに,当該発明をした従業者等から使用者等への特許を受ける権利の承継については,承継の時点において,どの国に特許出願するのか,あるいはいわゆるノウハウとして秘匿するのか,特許出願をした場合に特許が付与されるか等の点がいまだ確定していないことが多く,我が国の特許を受ける権利と共に外国の特許を受ける権利が包括的に承継されることも少なくなく,当該発明については,使用者等にその権利があることを認めることによって当該発明をした従業者等と使用者等との間の当該発明に関する法律関係を一元的に処理しようというのが,当事者の通常の意思であると解される。そうすると,同条3項,4項の規定 があることを認めることによって当該発明をした従業者等と使用者等との間の当該発明に関する法律関係を一元的に処理しようというのが,当事者の通常の意思であると解される。そうすると,同条3項,4項の規定については,その趣旨を外国の特許を受ける権利にも及ぼす状況が存在する(最高裁平成18年10月17日判決・日立製作所事件)。 - 15 -(ウ) そして,外国特許についても職務発明に対する相当対価請求という債権関係の処理において特許法35条3項,4項が適用(ないし類推適用)されるという考え方を前提にする限り,日本人たる原告が日本法人たる被告に対して,社会的事実としては実質的に一個と評価される本件発明から生じる職務発明に対する相当対価請求という場面において,外国特許に関する部分についても,我が国の特許と同じく特許法35条1項が適用(ないし類推適用)される。 (エ) 以上のとおり,本件において,外国の特許を受ける権利の譲渡対価請求権は日本法の特許法35条3項(及び4項)の直接適用ないし類推適用に根拠があり,欧州各国の特許法の職務発明規定に根拠を求めているわけではないから,外国の職務発明に関する特許制度の考え方を適用しようとする被告の主張は前提を欠く。また,イタリア等においても,従業者から使用者に対する補償金支払請求権が認められていることから,独占の利益を観念できないとの被告の主張は妥当でない。 イ使用者等が受けるべき利益の額(自己実施分)の算定方法及び算定内容(ア) 使用者等が受けるべき利益の額は,売上高×超過売上高の割合(50%)×仮想実施料率×本件発明の寄与度により,算定される。 (イ) 上記のうち,自己実施(自社販売分)による売上は,別表1「相当対価(自社販売分国内物質発明)」,別表2「相当対価(自社販売分 %)×仮想実施料率×本件発明の寄与度により,算定される。 (イ) 上記のうち,自己実施(自社販売分)による売上は,別表1「相当対価(自社販売分国内物質発明)」,別表2「相当対価(自社販売分国内製法発明)」,別表3「自社販売分欧州売上高(単位億円)」,別表4「相当対価(自社販売分欧州物質発明)」,別表5「相当対価(自社販売分欧州製法発明)」各記載のとおりである(別表1,2の売上額は乙109の額と,別表3~5の売上額は乙101,116の額と基本的には異なるものではない。)。 (ウ) 被告が競業他社に発明の実施を禁止することにより得ることができ- 16 -た,通常実施権の行使による売上高を上回る売上高(超過売上高)は50%である。 (エ) 仮想実施料率は,33.05%である。 (オ) 本件物質発明及び本件製法発明は,ハルナール(塩酸タムスロシン)の製造に必要不可欠である。ハルナールに関連する特許は,本件物質特許及び本件製法特許のみであり,これ以外の特許は使われていない。このことは,平成2年10月5日の薬事法に基づく製造承認申請時の提出書類に,被告指摘の他の特許が記載されていなかったことからも明らかであり,提出書類の「概要」が「塩酸タムスロシン(YM617)」とされていることからも,本件物質特許以外の特許は,少なくとも,寄与度の低い特許であったことを示している。医薬品業界においても,物質発明の寄与度は1.0,製法発明の寄与度は0.3といわれており,本件物質発明の特許期間中の寄与度は100%(1.0),上記期間満了後の本件製法発明の寄与度は30%(0.3)と評価するのが妥当である。 ウ超過売上高の割合本件においては,以下のとおり,超過売上高は,少なくとも売上高の50%を下回らない。 (ア) 本 件製法発明の寄与度は30%(0.3)と評価するのが妥当である。 ウ超過売上高の割合本件においては,以下のとおり,超過売上高は,少なくとも売上高の50%を下回らない。 (ア) 本件発明の価値ハルナールは,平成7年度日本薬学会 「技術賞(現創薬科学賞)」,平成9年度全国発明表彰 「内閣総理大臣発明賞」各受賞のほか,平成21年度大河内記念賞を受賞するなど,極めて高い評価を受けている。また,ハルナールは,売上高約2兆円という被告を代表するブロックバスター製品である。したがって,超過売上高は,少なくとも上記売上高の5割を下らない。 (イ) 市場の状況- 17 -a 被告が製薬業界において占めるシェアと,本件の製品が前立腺肥大症に基づく排尿障害治療薬市場において占めるシェアを比較すると,後者の方が高かったが,このことは,本件物質特許の法的独占力が強かったことを示している。すなわち,我が国の製薬市場における被告の市場シェア率は約10%であり,山之内製薬の時代の同シェア率は約5%であったが,ハルナールは,我が国における前立腺肥大症に伴う排尿改善剤の市場シェアの約70%を占めていた。また,全世界の医薬品市場における被告の市場シェア率は約1%程度であるところ,ハルナールは,北米や欧州における前立腺肥大症治療薬の市場シェア率は約50%を占めていた。したがって,市場の状況に鑑みれば,本件特許の法的独占力が強かったことを端的に示しており,ハルナールの超過売上高は50%を下回ることはない。 b 被告は,上市から特許期間満了までの数多くの競合品が存在することを指摘するが,ハルナールは数多くの競合品の存在にもかかわらず,その物質発明(塩酸タムスロシン)の特性・性状が優れていたことから,約70%もの市場シェア率を得ていたのであり, の競合品が存在することを指摘するが,ハルナールは数多くの競合品の存在にもかかわらず,その物質発明(塩酸タムスロシン)の特性・性状が優れていたことから,約70%もの市場シェア率を得ていたのであり,この点はむしろ本件特許の法的独占力の要素が占める割合が大きかったといえる。 被告は,また,特許満了後も販売数量が大きく減少していないことも指摘する。しかし,我が国の市場においては,特許期間満了後,被告が従来から販売してきた「カプセル剤」の販売を止めて「口腔内崩壊錠」に剤形変更し,平成17年6月から「ハルナールD錠」(口腔内崩壊錠)を販売したという理由(特許戦略・製品戦略)により,ハルナールの市場シェア率の低下が低く抑えられたのに対し,米国においては,「カプセル剤」から「口腔内崩壊錠」への剤形変更ができなかったことから,ハルナールの特許保護期間満了後の販売数量が,前- 18 -年度の平成21年度の456億円から平成22年度の52億円と,マイナス87%の急激な減少となった(甲13。なお,同年4月27日まで特許保護期間延長があったことからすると,同月分は特許保護期間中であり,期間満了後の販売数量の減少率は87%を上回るといえる。)。このような市場の状況からしても,本件特許(塩酸タムスロシン)はその法的独占力が強かったことを端的に示しており,ハルナールの独占の利益(超過売上高)としては,少なくとも50%を下回ることはない。 (ウ) 過去の多くの裁判例においても,超過売上高の算定において50%の減額が行われてきている。会社は,特許法35条1項により職務発明につき通常実施権を付与され,職務発明の特許を受ける権利を発明従業者から譲渡を受けなくとも,自社実施をすることができるため,自社実施のみで他社へのライセンスアウトが行われない場合に 項により職務発明につき通常実施権を付与され,職務発明の特許を受ける権利を発明従業者から譲渡を受けなくとも,自社実施をすることができるため,自社実施のみで他社へのライセンスアウトが行われない場合には,使用者等が受けるべき利益の額を算出するにあたり,一定割合(50%等)を控除して独占できる利益を算出することが多くの裁判例で行われてきている。 エ仮想実施料率についての補足主張(ア) 仮想実施料率は,被告がBI社から受領した平成12年~平成19年のライセンス料合計2758億円を,Flomax(ハルナールの米国製品名)の同期間の売上高合計(円換算額)8346.15億円で除した33.05%である。 (イ) 上記仮想実施料率は,米国での同期間のライセンス料及び売上高から算出したものであり,製品自体の売上金額を含むバルク・ロイヤルティであるが,医薬品の場合には原価はほとんどかからないから,これを考慮する必要はなく,上記割合には合理性がある。また,本件ハルナールは自社製品であり,売上規模も大きいので,ハルナールの利益率は,- 19 -他の医薬品に比べて高い。 オ発明の寄与度についての被告の主張に対する反論被告が関連すると主張する特許については,被告は「会社の貢献度」の場面において考慮しており,「使用者の受けるべき利益」においても考慮することは二重の評価である。また,被告の主張する関連特許は,ハルナールとの関連性がないか関連性が明らかにされていない(例えば,口腔内崩壊錠に関連する特許は,カプセル剤で販売されているハルナールとは何ら関連がない。)。出願のみで特許として成立していないものも多い。 カ具体的な相当対価額(ア) 本件相当対価は,①自社販売分(国内)物質発明について,売上高(3435億円+494億円×11/12)×超過売 。)。出願のみで特許として成立していないものも多い。 カ具体的な相当対価額(ア) 本件相当対価は,①自社販売分(国内)物質発明について,売上高(3435億円+494億円×11/12)×超過売上高50%×仮想実施料率33.05%×発明寄与度1×原告貢献度0.2×共同発明者間寄与度40%=51億3971万円(別表1)であり,②自社販売分(国内)製法発明について,売上高(494億円×1/12+449億円×8/12)×超過売上高50%×仮想実施料率33.05%×発明寄与度0.3×原告貢献度0.2×共同発明者間寄与度90%=3億0384万円(別表2)である。 (イ) 本件相当対価は,①自社販売分(欧州)物質発明について,売上高●(省略)●×超過売上高50%×仮想実施料率33.05%×発明寄与度1×原告貢献度0.2×共同発明者間寄与度40%=●(省略)●(別表4)であり,②自社販売分(欧州)製法発明について,売上高(スペイン)●(省略)●×超過売上高50%×仮想実施料率33.05%×発明寄与度0.3×原告貢献度0.2×共同発明者間寄与度90%=●(省略)●(別表5)である。 (被告)ア特許を受ける権利は,それぞれの国における特許の付与を受ける地位を- 20 -内容とし,特許権は各国で独立しており,審査を経て成立するものであることからすれば,特許を受ける権利の具体的なあり方も,それぞれの国の法律に規律されるものである。したがって,我が国における特許を受ける権利の対価請求と我が国以外の各国における特許を受ける権利の対価請求とで訴訟物が異なるから,対価の算定を個別に検討すべきことは明白である。 イライセンスアウトと自己実施が併存している場合の扱いについて特許法35条3項の「使用者等が受けるべき利益の額」とは,使用者等が対象発 るから,対価の算定を個別に検討すべきことは明白である。 イライセンスアウトと自己実施が併存している場合の扱いについて特許法35条3項の「使用者等が受けるべき利益の額」とは,使用者等が対象発明から得る利益から,法定通常実施権で得られる利益分を差し引いた「独占の利益」を意味するところ,特許権者が当該特許発明を他者にライセンスアウトしつつ,自らも実施している場合は,自己実施で得た利益は,すべて法定通常実施権による利益の範囲内というべきであるから,使用者等は「独占の利益」を得ていないと考えるべきである。そして,この点は,我が国の特許だけでなく,外国特許についての相当対価を算定する場合も同様というべきである。なぜなら,外国特許についても相当対価請求という債権関係の処理においては,我が国の改正前特許法35条3項,4項が類推適用されると考えるべきであり(最高裁平成18年10月17日第三小法廷判決等),原告も,かかる類推適用(ないし直接適用)の見解に立って請求していることからすると,外国特許に関する部分についても,我が国の特許法35条1項を類推適用し,法定通常実施権の存在を前提として相当対価を算定するべきだからである(知的財産高等裁判所平成21年6月25日判決参照)。 本件において,被告は,本件製品を自ら販売している欧州35余りの国のうち,イタリア,ドイツ,フランス,スペイン,イギリス,ポルトガル,ギリシャ,スイスの合計8カ国については,同時にBI社に本件物質発明をライセンスアウトしていたから,上記8カ国において被告が自ら販- 21 -売することにより得た売上には,独占の利益は含まれておらず,当該売上を,相当対価を算定する際に考慮する余地はない。 ウ独占の利益の算定(ア) 自社販売金額に50%を乗じることについて我が国と我が国 とにより得た売上には,独占の利益は含まれておらず,当該売上を,相当対価を算定する際に考慮する余地はない。 ウ独占の利益の算定(ア) 自社販売金額に50%を乗じることについて我が国と我が国以外の各国における対価請求権は訴訟物を異にするから,減額も個別に検討されるべきである。また,独占の利益の算出に当たっては,我が国の特許法を前提とすると,自社販売金額から法定通常実施権による利益分を減額し,超過売上高を算出する必要性があるが,過去の裁判例のように「通常は50%前後の減額をすべき」(知的財産高等裁判所平成21年6月25日判決)との一般論を首肯しうるとしても,本件においては,以下のとおり,大幅な減額をすべき事情(市場の状況,外国の法制)があるから,減額を50%にとどめるのは適切ではない。 a 本件物質発明の評価原告は,本件物質発明がいわゆる「ピカ新」であると主張しているが,誤りである。 そもそも「ピカ新」とは,医薬品について用いられる用語であって,物質そのものについて用いられる用語ではない。 「ピカ新」とは俗称であり,同義の用語として,「画期的新薬」とか「ファースト・イン・クラス」がある。この「画期的新薬」等という用語の意味は,一般的には,ⅰ新医薬品のうち,全く新しい着想によって研究開発されたもの,すなわち,ある適応症に対する医薬品として,同適応症においてはそれまで用いられていなかった作用機序をもつ医薬品として最初に上市されたものであること,ⅱ化学構造が従来の医薬品と基本骨格から異なるものであること,ⅲ薬価基準に基づき画期性加算がされていること,という3つの要件を全て備えたもの- 22 -とされている。 しかし,ハルナールは上記3つの要件をいずれも備えていない。 まず,ハルナールが上市された時点においては,排尿障害の がされていること,という3つの要件を全て備えたもの- 22 -とされている。 しかし,ハルナールは上記3つの要件をいずれも備えていない。 まず,ハルナールが上市された時点においては,排尿障害の領域においては,既にα1遮断作用という作用機序を有する医薬品として,我が国に限ってもプラゾシンが上市されていたことから,ハルナールは,排尿障害の領域におけるα1遮断作用を有する医薬品として最初に上市されたものではない。また,塩酸タムスロシンの化学構造は,アモスラロールに類似しているばかりでなく,同じアドレナリン受容体に作用するフォルモテロールにも類似しており,従来の医薬品と基本骨格が異なるものとはいえない。さらに,塩酸タムスロシンは,薬価収載において画期性加算はされていない。 したがって,本件物質発明に係る物質は,いわゆる「ピカ新」ではない。 b 市場の状況ⅰ 製品の売上は,特許により他の第三者が当該特許に係る発明を実施できなかったという特許の独占力・排他性のみで実現されるものではなく,会社のブランド力や競合品の状況等,他の要素も影響している上,これら要素の影響の度合いは国ごとに異なるから,国ごとに個別に状況を検討し,国ごとに超過売上高・独占の利益を算出しなければならない。 ⅱ 我が国においては,本件物質特許の期間満了前の製品の売上との比較において,特許期間満了後に,後発医薬品が数多く上市された後も本件の製品の販売数量が大幅に減少せず,市場において優位性を保っている。すなわち,我が国において,塩酸タムスロシンを主成分とする前立腺肥大症治療薬の市場の状況を見ると,本件物質発明の特許期間が満了した平成17年の前年の被告によるハルナール- 23 -の年間販売数量は約2億8323万4000個であり,特許満了後 成分とする前立腺肥大症治療薬の市場の状況を見ると,本件物質発明の特許期間が満了した平成17年の前年の被告によるハルナール- 23 -の年間販売数量は約2億8323万4000個であり,特許満了後から今日に至るまで,28もの製薬会社から本件物質を主成分とする数多くの後発医薬品が上市されている状況下においても,平成17年から平成22年の各年の被告によるハルナールの年間販売数量は,約2億8328万3000個~約2億3464万2000個と大幅な減少なく推移している(なお,本件物質を主成分とする前立腺肥大症治療薬全体の年間販売数量は,約2億9273万7000個~約2億8274万7000個であった。)。したがって,自社販売による売上においては特許の法的独占力以外の要素(被告のブランド力や営業活動)が大きく貢献していたことは明らかである。 ⅲ 自社販売金額から控除される数字は事案により異なり得るところ,ハルナール上市から特許期間満了までの「前立腺肥大症の排尿障害改善剤」市場の状況についてみると,ハルナール上市時にはα遮断薬として「ミニプレス」,抗男性ホルモン薬として「プロスタール」,「パーセリン」,「デポスタット」等が販売されていた。 また,ハルナール上市後には,α遮断薬として「エブランチル」(平成7年6月効能追加),「フリバス」(平成11年2月上市)が販売された。さらに海外市場まで含めれば,我が国でハルナールとの比較により有用性加算(Ⅱ)を得ているα遮断薬の「ユリーフ」が平成21年4月に米国で上市され(我が国では平成18年5月上市),抗男性ホルモン薬としては「アボルブ」が米国と欧州でそれぞれ平成13年と平成14年に承認を得ている(我が国では平成21年9月上市)。このように「前立腺肥大症の排尿障害改善剤」の市場では,多数の競合品 男性ホルモン薬としては「アボルブ」が米国と欧州でそれぞれ平成13年と平成14年に承認を得ている(我が国では平成21年9月上市)。このように「前立腺肥大症の排尿障害改善剤」の市場では,多数の競合品が存在していたものであり,かかる状況に鑑みれば,仮に被告が本件発明を実施し得る権利を独占せず第三者にライセンスしていたとしても,被告が実際に実現した売上- 24 -の50%もの売上を当該第三者が上げることができたとは考え難い。むしろ,被告によるハルナールの売上は,被告自身が長年にわたり構築したブランド力といった特許権の法的独占力以外の要素の占める割合が相当に大きかったのであるから,「独占の利益」の算出にあたり,自社販売金額に乗じる数値を算出する際には,上記多数の競合品の存在を考慮する必要がある。 c 関連特許の寄与ハルナールに関しては,我が国及び外国において,本件物質特許・本件製法特許の他に合計10の特許が関係しているから,ハルナールの自社販売金額及びライセンス収入のうち,本件発明の寄与度を明らかにし,使用者の受けるべき利益の算定に際してもこれを考慮する必要がある(知的財産高等裁判所平成20年5月14日参照)。なお,徐放性製剤に関する特許発明等については,ノウハウ等を含めた製品化への貢献も認められるため,その限りにおいて貢献度の観点からも考慮される。 本件では,製品(カプセル剤,口腔内崩壊錠及びTOCAS製剤)に関して,次の関連特許のうちⅰ及びⅱは塩酸タムスロシン合成の技術にかかる発明の特許,ⅲはカプセル製剤の技術にかかる発明の特許,ⅳⅴⅵⅸⅹはTOCAS製剤の技術にかかる発明の特許,ⅶⅷは平成17年6月に上市され本件製法特許満了期間である同年11月までの間も発売されていた口腔内崩壊錠(ハルナールD錠)の技術にかかる 特許,ⅳⅴⅵⅸⅹはTOCAS製剤の技術にかかる発明の特許,ⅶⅷは平成17年6月に上市され本件製法特許満了期間である同年11月までの間も発売されていた口腔内崩壊錠(ハルナールD錠)の技術にかかる発明の特許であり,いずれも本件の製品に実施され,不可欠の特許・発明である。なお,特許出願中の発明についても相当対価請求権は発生し得ることからすると,当該発明が特許出願中であることを理由に当該発明の寄与度が考慮されないのは不合理である。 ⅰ 光学活性なベンゼンスルホンアミド誘導体の製造法(特許- 25 -1881632号)ⅱ フェノキシアルキルハライド誘導体の新規製造法(特許3662761)ⅲ 持続放出性複合単位製剤(特許2036811)ⅳ ハイドロゲル徐放性製剤(特許3140465)ⅴ 安定な経口用医薬組成物(特許3462490)ⅵ 放出制御用医薬組成物およびその製造方法(特許3755532)ⅶ 口腔内溶解型圧縮成型物及びその製造法(特許3122141)ⅷ 口腔内速崩壊錠用徐放性微粒子含有組成物およびその製造方法(特許4019374)ⅸ 徐放性医薬組成物(特願2004-321699)ⅹ 徐放性医薬組成物(特願2004-321711)本件物質発明及び本件製法発明の発明寄与度の検討においては,以上12の特許ないし発明が,いずれも上記収益達成に不可欠であり,売上に寄与しているから,発明寄与度は,特許の種類に応じた特性等を考慮して調整し算出すべきである。 d 外国の法制欧州における売上上位国のうち,イタリア,スペイン,フランス,イギリス,オランダ,ポルトガル,ベルギーの7か国においては,会社の従業員が会社の業務の過程で発明を行った場合の当該発明に基づく特許を受ける権利は,従業員ではなく会社に原始的に帰属 イン,フランス,イギリス,オランダ,ポルトガル,ベルギーの7か国においては,会社の従業員が会社の業務の過程で発明を行った場合の当該発明に基づく特許を受ける権利は,従業員ではなく会社に原始的に帰属するとされる(乙102~乙108)。したがって,会社が特許を受ける権利を従業者から承継する事態は起こり得ず,「特許を受ける権利…を承継させ」た場合に適用される特許法35条3項は直接適用され得ず,類推適用の前提をも欠き,原告に特許法に基づく請求権は生じない。 仮に,外国特許について,改正前特許法35条3項,4項の類推適- 26 -用により相当対価請求権を認め,その額を算定するのであれば,「使用者等が受けるべき利益」は,同条1項も前提として特許を受ける権利を承継したことによって得られる法定通常実施権を超えた独占権に基づく利益として考える必要があるが,上記各国においては,我が国における法定通常実施権に相当するのが特許を受ける権利自体であり,法定通常実施権を超える部分としての「独占の利益」を観念することができない。なお,イタリア等の法制下において従業員に何らかの金銭的請求権が認められていることは独占の利益が観念できるかとは別の問題である。 (イ) 推定実施料率からの算定原告の主張する「推定実施料率」が,仮に発明を第三者に実施許諾した場合に得られるであろう実施料率という仮想実施料率を指すのであれば,「使用者の受けるべき利益」の算定に際して,これを用いること自体は争わないが,我が国における相当対価の算定と欧州における相当対価の算定とで別途検討する必要がある。また,原告が主張する推定実施料率33.05%は,被告が公表する決算資料(乙30)の数字に依拠しているものと推察されるところ,これは,対象となる我が国及び欧州における製品の上市から する必要がある。また,原告が主張する推定実施料率33.05%は,被告が公表する決算資料(乙30)の数字に依拠しているものと推察されるところ,これは,対象となる我が国及び欧州における製品の上市から特許期間満了までの期間と対応しない期間(平成12年~平成19年)の数値を根拠に算出した料率であること,当該資料におけるライセンス料の数字は,「バルク・ロイヤルティ等」との記載からも明らかなとおり,製品自体の売上金額や,本件発明に係る特許のライセンス料以外の他の特許,商標,ノウハウのライセンス料も含む金額であることから,当該数字を用いることは不当である。山之内製薬及び藤沢薬品の通常の実施料率(2~4%),製薬業界の一般的な実施料率(9割程度が2~10%),実際のBI社へのライセンス料率(北米ライセンス契約によると,特許のライセンス料率は●(省略)●- 27 -となる)と比較しても高額であり,「仮に発明を第三者に実施許諾した場合に得られるであろう実施料率」とはいえない。実際のBI社へのライセンス料率等に鑑みれば,用いるべき推定実施料率は,日本国内及び欧州の自社販売分のいずれについても,●(省略)●を上回ることはない。 (1)-2 ライセンス収入(原告)ア本件職務発明の相当対価請求の「使用者等が受けるべき利益の額」のうちのライセンス料には,次のとおり,米国の平成21年10月28日から平成22年4月27日までの売上高についてのライセンス料を加えて判断すべきである。 (ア) 米国では,該当医薬品の特許・承認を取得している企業に対して,小児適応症の承認取得の促進のために特許保護期間延長という制度を設けており,これは該当医薬品の特許・承認を取得していることが前提であるから,該当の特許発明が存在しなければ,特許保護期間の延長はありえない。 症の承認取得の促進のために特許保護期間延長という制度を設けており,これは該当医薬品の特許・承認を取得していることが前提であるから,該当の特許発明が存在しなければ,特許保護期間の延長はありえない。 (イ) 米国におけるハルナールの売上高は,平成20年が466億円,平成21年が456億円,平成22年が52億円という変化であり(甲13の1及び2),平成21年10月ではなく平成22年4月を境にして,売上高が激減している。 (ウ) FDA(米国食品医薬品局)の発刊する「オレンジブック(OrangeBook)」においても,「PatentExpire」が「Apr 27,2010」と規定され,特許期間の延長としている。 イ実施料率(ア) 医薬品の製造原価がほとんどかからないことは業界の常識であるところ,塩酸タムスロシンの原価率は,10㎎で10.5%,5㎎で7. - 28 -4%と算定されており(乙56),医薬品(0.2㎎と0.1㎎)では,原価率は1%程度で99%前後が利益であるから(甲30),原価はほとんどかかっていない)。したがって,BI社から受領する収入は,技術の対価額(ライセンス料)にほぼ近似し,塩酸タムスロシンの職務発明の相当対価請求にあたっては,「(仮想)実施料率」は,被告の決算資料で示されている「バルク・ロイヤリティ」を「売上高」で除した数字と殆ど近似するのであり,北米の場合33.05%,欧州の場合40%である。 (イ) 被告主張のライセンス料率●(省略)●は,「本件特許の実施権の付与・許諾の対価」のすべてではなく,「本件特許を使用した製品を販売する権利の付与・許諾の対価」にすぎない。BI社は「Flomax」,「Omnic」等の販売代理店であり,本件特許の実施権はBI社に付与されていない(乙73の2条1項,3項)から, 使用した製品を販売する権利の付与・許諾の対価」にすぎない。BI社は「Flomax」,「Omnic」等の販売代理店であり,本件特許の実施権はBI社に付与されていない(乙73の2条1項,3項)から,被告主張の●(省略)●が,被告が本件特許により得た利益の総額ではないことは明らかである。 (ウ) 被告とBI社間では,●(省略)●である。 (エ) このように,ライセンス料率は,すべての契約条件との兼ね合いで決定するのであり,すべての契約条件を明らかにせずに,「実際のBI社へのライセンス料率は,●(省略)●」とだけ主張しても無意味である。イニシャル・ペイメントの有無・内容,●(省略)●の有無・内容,特許満了後の原末購入義務の有無・内容等,具体的な契約条件を明らかにしなければ意味がなく,仮に同契約内容を明らかにできないとすれば,合理性を有する原告主張の仮想実施料率を前提に算定すべきである。 ウ被告の主張に対する反論(ア) 欧州ライセンス契約について,本件特許があるにもかかわらず,欧- 29 -州ライセンス収入が0という被告の算定方法が不合理であることは論を俟たない。 (イ) 北米ライセンス契約(乙73)は,●(省略)●,本件特許の実施権はBI社に付与されていないから,同契約12条に基づく被告のライセンス料●(省略)●の主張は合理的でない。 a 被告が,製品売上高を「バルク・ロイヤリティ」と表現しているのは,それが実質的な実施料収入だからである。 b 北米ライセンス契約の2.03条によれば,●(省略)●c 北米ライセンス契約の表題は,「LICENSEAGREEMENT」であるから,3条,11条及び12条のBI社の被告に対する支払は,ライセンス収入,すなわち実施料収入といえる。 d 北米ライセンス契約12条3項は,●(省略 ,「LICENSEAGREEMENT」であるから,3条,11条及び12条のBI社の被告に対する支払は,ライセンス収入,すなわち実施料収入といえる。 d 北米ライセンス契約12条3項は,●(省略)●これは本件特許権が存在するために有利な交渉力を背景に高率で合意することができたものであるから,当該対価は本件特許権の対価であることを示している。 (ウ) 仮に,仮想実施料率を●(省略)●と考えるのであれば,山之内製薬のBI社に対する製品供給についても,「自社販売」とみて,北米ライセンス契約のロイヤリティー●(省略)●の他に,職務発明の相当対価をその分加算して算定しなければならないはずである。 (被告)ア原告の主張は争う。 イ米国における平成21年10月28日以降の売上は考慮すべきではない。米国では,平成21年10月27日に物質特許の特許期間が満了した後,平成22年4月27日まで本件製品の独占販売期間が付与されているが,これは,米国の連邦食品・医薬品・化粧品法505A条(小児専門医療規定)に基づき,小児人口に対する新薬使用に関するデータ取得により小- 30 -児人口の健康を増進するという政策的理由から,米国食品医薬局(FDA)の要請に基づき,小児神経因性排尿障害に関する塩酸タムスロシンの有効性,安全性等を調査する臨床データを提出したことに対し,特許の存在とは無関係に,独占販売期間(FDAが対象製品の後発品を承認しない期間)が追加的に付与されたにすぎず,米国特許法上物質特許の特許期間が延長されたものではないから,当該販売期間における売上高は,特許発明に係る相当対価請求とは関係がない。 ウ北米ライセンス契約について(ア) 被告は,本件物質発明,本件製法発明及び徐放性製剤技術に対応する特許等について,BI社に対し,実施権を 上高は,特許発明に係る相当対価請求とは関係がない。 ウ北米ライセンス契約について(ア) 被告は,本件物質発明,本件製法発明及び徐放性製剤技術に対応する特許等について,BI社に対し,実施権を許諾(ライセンスアウト)するとともに,これらの技術等を用いて製造した製品を販売しているところ,北米ライセンス契約(乙73)によると,●(省略)●そして,上記のとおり,●(省略)●すなわち,上記ライセンス料率は,ライセンス対象となる特許の種類及び数を問題とせず,複数の特許間に軽重を設けることなく,当該地域において1つでもライセンス対象特許が存続している期間は,●(省略)●であり,当該地域におけるすべての特許の特許期間が満了した後は●(省略)●とされている(12条2項,3項)。 (イ) なお,12条2項では,●(省略)●(ウ) 北米ライセンス契約によると,●(省略)●かかる売買対価の中に,製造権のライセンス料相当分が実質的に含まれていることを意味していない。製品を販売する場合においてBI社に販売している製品は最終製品である「Flomax」そのものである。BI社は,米国当局から製造販売についての承認を得た「Flomax」と同一の製品を製造するための設備やノウハウ等を有していなかったことから,製造については山之内製薬に依存することとした。このように,製品の売買対価- 31 -は,米国において製造承認を得た「Flomax」と同一の製品を製造しなければならないという負担を山之内製薬が引き受けることを勘案して決定されたものであったため,その中に,実質的に製造権のライセンス料相当分が含まれるという性質のものではなかった。 エ欧州ライセンス契約(ア) 被告は,欧州ライセンス契約に基づき,BI社に対し,ⅰ本件物質発明,本件製法発明及び徐放 質的に製造権のライセンス料相当分が含まれるという性質のものではなかった。 エ欧州ライセンス契約(ア) 被告は,欧州ライセンス契約に基づき,BI社に対し,ⅰ本件物質発明,本件製法発明及び徐放性製剤技術に係る特許,ノウハウを実施する権利のうち,使用,販売についての非独占的権利又は半独占的権利並びに一定の条件下での製造権と,ⅱ商標を使用する独占的権利,をライセンスしている。 (イ) 欧州ライセンス契約においては,●(省略)●(ウ) 欧州ライセンス契約(乙111)及び欧州供給契約(乙114)における製品の売買は,●(省略)●また,第三補足契約(乙115)においては,●(省略)●すなわち,各国における特許の種類及び数を問題とせず,単純に「何らか1つでも特許が存続していれば●(省略)●」という方式にて製品対価を計算することとされていた。したがって,欧州ライセンス契約及び第三補足契約においては,米国ライセンス契約と同様,ライセンス対象となっている複数の特許間で軽重は設けられていなかった。 (2) 使用者貢献度(原告)ア本件では,創薬一般における会社の貢献の他に,以下の発明者による事情が考慮されるべきであり,そうすると,本件の使用者貢献度は80%であり,95%を上回ることはなく,発明者貢献度は20%であり,5%を下回ることはない。従前の用途発明,製法発明の裁判例の会社貢献度90%と比較しても,物質発明である本件では80%が妥当である。 - 32 -イ塩酸タムスロシン(YM-12617-1)の発明における「新たな知見」の発見(ア) 本件物質発明及び本件製法発明の経緯a 本件物質発明当時,アモスラロールの様なα1・β両遮断作用を持つラセミ化合物は知られていなかったが,原告は,新たにアモスラロールを光学分割して2つの (ア) 本件物質発明及び本件製法発明の経緯a 本件物質発明当時,アモスラロールの様なα1・β両遮断作用を持つラセミ化合物は知られていなかったが,原告は,新たにアモスラロールを光学分割して2つの光学異性体(R体とS体)を得,R体はβ遮断作用,S体はα1遮断作用が強い化合物であることが「新しい知見」として分かった。そして,各々の光学異性体を研究し,アモスラロールのメチレン側鎖のOH基の立体配置がα1及びβ遮断作用に強く関与していることが「新しい知見」として分かった。 b そこで,アモスラロールの脱OH体であるYM-11133(本件リード化合物)を合成し,YM-11133(本件リード化合物)は,アモスラロールのS体と同様に強いα1遮断作用を示す化合物であることが「新しい知見」として分かった。 c これらの「新たな知見」を基にして,フェネチルアミン構造を有する強力な新規α1遮断剤の創製を目指し,YM-11133(本件リード化合物)の最適化(構造修飾)研究に着手した。①側鎖の検討,②ベンゼンスルホンアミド環置換基の検討,③フエニルオキシ環置換基等を中心に検討を行い,最適化の過程で種々の構造修飾を経て多くの化合物を合成したが,特に,側鎖の検討として,ベンゼンスルホンアミド環のα位へのCH3(メチル)基の導入は,本件リード化合物よりα1遮断作用が約10倍増強する「新しい知見」が得られた。次に,これらの構造活性相関をもとに,各置換基の最適化を検討し,ベンゼンスルホンアミド環の2位置換基にはOCH3(メトキシ)基が,フエニルオキシ環のo位置換基にはOCH2CH3(エトキシ)基がそれぞれ最適と判断され,最終的にYM-12617(ラセミ体)- 33 -を見出した。 d 原告は専門家の意見推移並びに日・米・欧での今後の医薬品開発を視野に入れ( CH2CH3(エトキシ)基がそれぞれ最適と判断され,最終的にYM-12617(ラセミ体)- 33 -を見出した。 d 原告は専門家の意見推移並びに日・米・欧での今後の医薬品開発を視野に入れ(甲18,19),YM-12617(ラセミ体)の光学異性体の合成に着手した。そして,「光学活性なアミンを中間体として用いて」,YM-12617のR体とS体を合成し,強いα1遮断作用(ED50=0.00020mg/kg)を示した光学活性体のR体(YM-12617-1)を開発化合物として選択し,発明が完成した。 原告は,塩酸タムスロシンの工業的合成法を検討し,p-メトキシフェニルアセトンを出発原料として僅か4段階の反応を経て得られた光学活性なアミン体及びo-エトキシフェノールから1段階の反応で得られるブロム体から,塩酸タムスロシンを合成した。原告の発明した大量合成法は,不斉合成法を導入して光学活性なアミン体を得ることに着目し,成功したものであり,これにより高純度の塩酸タムスロシンを,採算コストも克服した工業的に耐え得る大量合成法を確立し,開発・商品化の目処を付けることができた。 (イ) 被告の主張する「被告に蓄積されていた知見」についてa 本件発明は新たな知見を利用していること上記のとおり,塩酸タムスロシン(YM-12617-1)は,既に被告において蓄積されていた知見ではなく,新たな知見や創造的な研究に基づいて発明されたものである。 アモスラロールの合成後に他の化合物(具体的にはAB-137,AB-190及びAB-173)が合成された。しかし,他の化合物は,それぞれ種々の経緯のうちに合成されるのであり,A6意見書(乙117)が述べるように,α・β遮断剤に関する構造活性研究が,そのまま容易に直接的にα遮断作用の増強に適応されるものでは 他の化合物は,それぞれ種々の経緯のうちに合成されるのであり,A6意見書(乙117)が述べるように,α・β遮断剤に関する構造活性研究が,そのまま容易に直接的にα遮断作用の増強に適応されるものでは- 34 -ない。アモスラロールや上記他の化合物はいずれもラセミ体であり,αとβの両遮断作用が重ね合わさって発現する「見せかけ」のα・β遮断作用であり,α遮断作用のみを発現するα遮断剤の構造活性相関情報とは直接関係するとは容易に考えられない。 b 被告主張の知見は,原告ら共同発明者が取得したものであることアモスラロールの発明は,塩酸タムスロシンの発明者である原告を含む5名の共同発明者で完成させ,特許を取得したものであり,アモスラロールが,原告ら共同発明者の貢献度を低下させることはありえない(甲14)。 c 「アドレナリン受容体研究」のアドレナリンは広い概念であり,被告主張の諸研究は,塩酸タムスロシンとは本質的に異なっている。塩酸タムスロシンの研究において,被告が蓄積してきたというアドレナリン受容体の研究の成果は何ら利用されていない。 (ウ) その他a α1・β遮断剤であるアモスラロールはフェニルエタノールアミン誘導体(側鎖にOH基が存在する)であり,β遮断作用の知見は必要であるが,原告らはフェネチルアミン誘導体(側鎖にOH基がない)であるα1遮断剤を研究していたから,「OH基がβ遮断活性に必要である」旨記載された文献(乙68)があったとしても,本件発明には直接関係がない。 b 論文(乙69)の化合物は,不可逆性(irreversible)α-アドレナリン受容体拮抗(遮断)作用を示す薬剤に関するものであるのに対し,本件物質発明は,可逆性(reversible)α1-アドレナリン受容体拮抗(遮断)剤であり,両者のα遮 ersible)α-アドレナリン受容体拮抗(遮断)作用を示す薬剤に関するものであるのに対し,本件物質発明は,可逆性(reversible)α1-アドレナリン受容体拮抗(遮断)剤であり,両者のα遮断作用の作用機序は著しく異なっているウ貢献度に関する事情- 35 -(ア) 「物質特許」は,製法発明や用途発明と異なり,強力な法的効力(高度の市場独占性・競争製品排除性)を持つ。医薬品の物質特許は,(a)製品の基本特許は原則一つであること,(b)高額なライセンス料を取得できること,(c)他者が製品開発を断念するケースも多いことなど,メリットも大きい。 (イ) ハルナール(塩酸タムスロシン)は,高い独創性・新規性・有用性を有する「ピカ新」(画期的新薬)であり,一般の創薬の特許発明より原告の貢献度を高く評価すべきである。 a ハルナール(塩酸タムスロシン)は,上記のとおり,新しい発想によって研究開発された化合物,医薬品である。 b 塩酸タムスロシンは,既存の薬と比較し,明らかに高い有効性・安全性を有している。塩酸タムスロシンは,α1遮断作用が,従前のα1遮断薬であったプラゾシンより約5倍強く,下部尿路での薬理作用では4~10倍強い。また,尿道と血管では,尿道に対し約13倍強い作用を示すという「選択性」の高い化合物である。また,安全性をもつことが客観的・科学的に実証されている。 また,塩酸タムスロシンは,通常の薬剤の一般的な投与量(1~20mg/1日程度)に比べ,極端に投与量が少ない(0.1~0.4mg/1日)ことから,採算コストを克服できた。この少ない投与量は,強いα遮断作用と高い生物学的利用率(バイオアベイラビリティ)をもつ塩酸タムスロシンの特性を反映したものであり,塩酸タムスロシンを発明した結果である。 c 塩酸タムスロ きた。この少ない投与量は,強いα遮断作用と高い生物学的利用率(バイオアベイラビリティ)をもつ塩酸タムスロシンの特性を反映したものであり,塩酸タムスロシンを発明した結果である。 c 塩酸タムスロシンは,対象疾患の医療体系に重大な影響を与え,治療方法の改善・進歩へ著しい貢献をした。すなわち,塩酸タムスロシンは,前立腺選択的α1遮断剤として,排尿障害の領域で1番手として上市され,前立腺肥大症に伴う排尿障害の第一選択薬と位置づけら- 36 -れ,外科手術に代わる治療法を導入したことから,医療経済に大きく貢献している。 (ウ) 本件物質発明は,被告業務外での原告独自の研究からの発想及び原告独自の立体化学からの発想により発明に至ったものであるから,原告の貢献度を高く評価すべきである。すなわち,原告を含む化学研究員は,勤務時間中はアモスラロールの実験を被告の業務として行っていたが,勤務時間外に自主的な研究やセミナーを行っていた。原告は,被告の業務とは別に,アモスラロールの光学異性体の研究を発展させたいとの強い思いから,昭和54年1月,アモスラロールの光学分割を行い,自主的・自発的に本件リード化合物(YM-11133)を合成した。このように,本件物質発明は,被告の業務の中で発想されたものではなく,原告が自主的な研究の中で発想したものである。また,原告は,かねてから,アモスラロールが不斉炭素を1つもつ化合物(ラセミ体)であることに着目し,その立体化学と生物活性の解明に大きな興味をもっていた。このような原告独自の発想に基づいて,原告は,立体化学的な考察を行い,最終的にYM-12617の各光学異性体から,本件物質発明(塩酸タムスロシン)を得た。 (エ) ハルナール(塩酸タムスロシン)は,原告の発明した光学異性体での創薬であるから,原告の貢献度 察を行い,最終的にYM-12617の各光学異性体から,本件物質発明(塩酸タムスロシン)を得た。 (エ) ハルナール(塩酸タムスロシン)は,原告の発明した光学異性体での創薬であるから,原告の貢献度を高く評価すべきである。排尿障害分野は大きな医療上の必要性が存在し,潜在市場の大きい重要分野であったが,被告は,市場性の認識の欠如から,当初,ラセミ体での開発方針を決定したために,ラセミ体での臨床試験など3年の特許期間を無駄にし,数千億円の利益を逸するミスをしており,会社の貢献度を低下させる事情の一つである。 (オ) 原告は,前記のとおり,塩酸タムスロシンの大量合成法を発明し,ハルナールの製品化に到達したものであり,原告は多大な貢献をした。 - 37 -また,これにより「原薬の製造権利」を確保できたことから,後年,BI社との契約では,原薬供給のライセンス料も得ることができたものである。 (カ) 原告は,塩酸タムスロシンについて,精製を繰り返し,標準薬を合成した。また,前臨床試験(物性,製剤,毒性,薬理,代謝など)で必要な12の塩酸タムスロシンの分解物,代謝物を供給した。対照薬として,α1遮断剤のプラゾシンの合成及び泌尿器疾患用薬(頻尿の治療薬)である塩酸フラボキサートの市販錠剤から抽出・精製し供給した。 (キ) 適応症の選定について,薬理部門の貢献は,共同発明者であるA5の貢献として考慮すべきである。昭和54年当時,原告ら自身も前立腺肥大症に基づく排尿障害への適応の可能性は考えており,薬理部門は裏付けの調査をしたにすぎない。実際,既に,α1遮断剤が前立腺肥大症に基づく排尿障害を改善することは判明していたのであり,薬理部門は文献探しをしたにすぎない。 また,排尿障害分野は,当時,大きな医療上の必要性が存在し,潜在需要の大 ,α1遮断剤が前立腺肥大症に基づく排尿障害を改善することは判明していたのであり,薬理部門は文献探しをしたにすぎない。 また,排尿障害分野は,当時,大きな医療上の必要性が存在し,潜在需要の大きい重要分野であったのであり,被告が同分野を開発テーマとしたからといって,先見の明などといえるものではない。 (ク) 被告が主張する徐放製剤の特許(特許第2036811号)の貢献はわずかである。 a 被告指摘の特許(特許第2036811号)は,ラセミ体(YM-12617)に関する製剤特許であり,塩酸タムスロシンに関する製剤特許ではなく,本件特許とは直接の関係がない。被告指摘の特許は「コーティング不要」というものであるが(甲10),塩酸タムスロシン(YM-12617-1)は光学異性体であり,コーティングされた粒状物を充填したカプセル剤であって,被告指摘の特許は利用さ- 38 -れていない。 b 塩酸タムスロシンは,前立腺への選択性が高く,プラゾシンに比べて起立性障害の副作用は極めて低い上,起立性障害は,生命の危険を及ぼすような重篤な副作用ではないから,製剤自体の副作用低減の貢献はそれほど大きなものとはいえない。 c 服用方法については,漸増法によっても起立性障害の副作用はコントロールが可能であったから,徐放性製剤に関する技術が塩酸タムスロシンにとって必要不可欠な技術であったわけではない。 d 被告は,現在,塩酸タムスロシンを「カプセル剤」ではなく,「口腔内崩壊錠」として発売しており,この事実は,被告が開発した「カプセル剤」が最良の製剤でなかったことを端的に示している。 (ケ)a 被告は,特許出願・登録において,事務手続作業をしたにすぎず,特許出願の本質的・実質的な貢献は原告ら発明者が行った。 b 臨床試験が可能となったのは,塩酸タム たことを端的に示している。 (ケ)a 被告は,特許出願・登録において,事務手続作業をしたにすぎず,特許出願の本質的・実質的な貢献は原告ら発明者が行った。 b 臨床試験が可能となったのは,塩酸タムスロシン(YM-12617-1)が優れた性状を有していたからである。臨床試験は創造的な作業とは言い難く,物質発明の後の工程であり,従属するルーティン的な作業といえる。 c 薬事法に基づく承認については,塩酸タムスロシンの性状が優れていたからこそ,開発が進み,安全性にも問題なく,承認に至ったものである。 (コ) 費用・工数,研究費等特許法35条の職務発明の対価請求は,量ではなく質の問題であり,費用・工数を比較することは無意味である。 また,ハルナールの研究開発に投じた費用は,被告の得た利益を算定する際に,ハルナールの売上高約2兆円から差し引く費用であり,貢献度の問題ではない。 - 39 -仮に,研究費を使用者貢献度の考慮事情とするとしても,次のような事情が考慮されるべきである。すなわち,医薬品の物質発明における研究期間は乙62でいえば当初の2~3年であり,それ以後の上市までの作業(非臨床試験,臨床試験等)は主に法令上の認可のための作業であり,製薬業界の研究期間が他の産業に比べて長いとはいえない。また,医薬業界の利益率は20%程度であるのに対し,家電メーカーの利益率は1~2%であることからみても,研究費の比率のみを取り出しても意味がない。研究費が高い分だけ発明ができるというわけではなく,したがって,研究費を多額に出したこと自体が直接的に会社の貢献度を高めるものではない。研究費の額・比率をもって使用者貢献度を考慮するとすれば,ハルナールの研究費の額・比率を基礎にしなければならず,ハルナールの発明の研究費は100億円に達していないから の貢献度を高めるものではない。研究費の額・比率をもって使用者貢献度を考慮するとすれば,ハルナールの研究費の額・比率を基礎にしなければならず,ハルナールの発明の研究費は100億円に達していないから,売上げ2兆円に対してせいぜい0.5%程度である。 (サ) 営業活動ハルナールは,平成5年4月から同年9月にかけてわずか6億円の営業活動費で,後に約2兆円もの売上高となる製品だったのであり,原告の貢献度が高いことを示している。活動費は被告の得た利益を算定する際に,売上高から差し引く費用の問題である。なお,営業活動についての原告の貢献を予備的に主張する。 a 原告は,MRとの連携業務も担い,平成2年,原告の研究グループが筑波大学医学類泌尿器科学と共同研究をした際,被告担当MRと連携して業務を行なうことが多々あった。平成5年ころ以降は,ハルナールの発売に当たって,開催された地区の医師や病院薬剤師に対する教育宣伝のセミナー等に参加して発明の経緯やハルナールの特徴等を話し,MRと担当地区の医師,薬剤師との接点を作る役割をした。 b 原告は,学術広報的活動も担ったことがあり,平成15年4月,我- 40 -が国薬学会主催による医学総会記念シンポジウム「薬学と医学の接点-くすりつくりの現場から」に被告が参加した際,原告も参加し,医薬関係者に対し,発明の経緯やハルナールの特徴等を説明した。 (シ) ライセンス交渉被告の主張するようなライセンス活動が可能だったのは,塩酸タムスロシンの性状が優れていたからである。 (ス) 被告は,平成17年5月13日,米国の他社の後発品申請について,ニュージャージー連邦地方裁判所に特許侵害訴訟を提起したが,原告は,平成18年8月,被告の証人として米国の裁判所に出廷し証言を行い,被告の勝訴及び 17年5月13日,米国の他社の後発品申請について,ニュージャージー連邦地方裁判所に特許侵害訴訟を提起したが,原告は,平成18年8月,被告の証人として米国の裁判所に出廷し証言を行い,被告の勝訴及び米国特許の有効性を維持することに貢献した(甲9)。 (セ) 成功確率成功確率を,独立要素として考慮することは相当ではない。 a 成功確率という法律に根拠のない要素を独立の要素として考慮する必要はなく,「貢献度」の一要素として考慮すべきである。 b 製薬業界において新薬発明が難しいということは,上市できた新薬の特許発明の素晴らしさの裏返しであり,むしろ,発明者貢献度を高める増額調整の要素である。本件の化合物は,有用かつ売上2兆円という大型商品であり,約20年の間,前立腺肥大症に伴う排尿障害治療薬の市場の50%を超えるシェアを確保し続けてきており,被告の代表製品である。 c 医薬品の特性は,有効成分である原薬の持つ性質(有効性,安全性,物理化学的性質等)に依存しており,本質的に優れた医薬品プロフィールを持つ原薬を発明することが成功の鍵であり,その結果,競合品より優れた特性を持つ等により高い市場独占性を確保できる。ハルナールも,同様であり,かかる医薬品の特殊性は,発明者の貢献度- 41 -の割合を高める要素である。 d 医薬品の物質特許の場合,製品の基本特許は原則一つであり,高額なライセンス料を取得でき,他社が製品開発を断念するケースも多く,これは発明者の貢献度の高さを裏付けるものである。ハルナールも,物質特許であり,さらに高度の市場独占性・競争製品排除性を有している。 e 創薬事業において失敗に終わる研究開発が多数存在する事情を考慮することは,原告にとっては,自身の対価請求とは関係のない失敗した研究の負担も負わされることになり ・競争製品排除性を有している。 e 創薬事業において失敗に終わる研究開発が多数存在する事情を考慮することは,原告にとっては,自身の対価請求とは関係のない失敗した研究の負担も負わされることになり,特許法35条4項の「その発明がされるについて使用者等が貢献した程度」という文言にも反する。 f 特許発明は,発明者の「無から有を生み出す創造性」から生み出されるものであり,会社は,かかる特許発明により単なる通常実施権を超えた独占の利益を生じた場合に初めて,そのうちの例えば20%程度を従業員に支払うだけである。 g 被告の成功確率0.61%又は0.88%との主張は,他の業界が成功確率100%であることを前提にしている点において誤りである。また,被告は,単に成功した化合物の数の候補となる各化合物の数に対する比率を算定しているのみであって,選択と集中の原則に従って生じる候補となる各化合物へ具体的に投入された各研究費の額の相違を無視している点においても誤りである。また,仮に,研究費の額や比率が使用者貢献度に反映するとしても,製薬業界は,研究費等が他の業界の3.8倍程度にすぎないというのであるから,そこからみても成功確率を0.61%又は0.88%とみるのは矛盾である。 さらに,製薬業界は,利益率が約20%と他の業界に比較して格段に高いことからみても不合理である。 - 42 -(被告)ア原告の主張は,争う。 イ本件では,以下の事情が考慮されるべきであり,発明の完成及び売上実現のために被告が果たした役割は大きいから,本件における使用者貢献度は少なくとも99.9%を上回り,原告の貢献度は大きくても0.1%を下回る。 (ア) 山之内製薬におけるアドレナリン受容体研究の蓄積塩酸タムスロシンは,アドレナリン受容体の一種であるα1受容体の は少なくとも99.9%を上回り,原告の貢献度は大きくても0.1%を下回る。 (ア) 山之内製薬におけるアドレナリン受容体研究の蓄積塩酸タムスロシンは,アドレナリン受容体の一種であるα1受容体の遮断薬である。世界各国におけるアドレナリン受容体関連の研究開発の中で,昭和40年,α1遮断薬のプラゾシンが創製され,高血圧及び心不全治療に有用であることが報告されたことから,以降,製薬業界では,α1遮断薬の研究開発が活発化した。山之内製薬は,昭和40年ころからアドレナリン受容体の研究を開始し,昭和52年にはアモスラロールを合成し(乙33),特許を取得した上,昭和63年に商品名「ローガン」で上市した。山之内製薬は,アドレナリン受容体に関連して,我が国において昭和35年から昭和55年にかけて,少なくとも37の特許を出願する等(乙34)して,アドレナリン受容体を研究開発対象として力を注ぎ,技術を蓄積していた。アモスラロールの発明も,昭和51年に研究開発が開始され,山之内製薬のアドレナリン受容体研究の蓄積から達成された。原告は,アモスラロールの発明者の1人であるが,その研究開発に関わり始めたのは原告が昭和45年に山之内製薬に入社した後の昭和52年であり,原告は,アモスラロールの研究開発の全過程に携わっていたわけではない。原告は,本件物質発明に至る過程においても,山之内製薬が蓄積してきたアドレナリン受容体の研究成果や技術,原告以外の山之内製薬従業員が行っていたアドレナリン受容体の研究の成果を,自由かつ十二分に活用した。 - 43 -原告は,アモスラロールを初めとしたα・β遮断剤に関する構造活性相関研究の成果の利用を否定するかのような主張をするが,それは,原告がその博士論文(乙123)において,別紙1のアモスラロールのA部及びD部の基の変換によ ルを初めとしたα・β遮断剤に関する構造活性相関研究の成果の利用を否定するかのような主張をするが,それは,原告がその博士論文(乙123)において,別紙1のアモスラロールのA部及びD部の基の変換によりα遮断作用が増強されるとの知見を塩酸タムスロシンの合成に用いたことを認めていることと矛盾しており,原告の主張は事実に反する。 (イ) 会社による適応症の選定a 排尿障害治療への着目原告がアモスラロールのデオキシ体(脱OH基)であるYM-11133を合成した昭和54年6月以降,山之内製薬の薬理部門は,適応症の選定を開始した。当初は,α1遮断薬の一般的な適応症である高血圧や心不全等を適応症として,研究開発を進めたが(乙32,35),昭和54年後半か昭和55年初頭ころから,薬理部門においてα1受容の調査を行い,α遮断薬であるフェノキシベンザミンが,尿道のα受容体を遮断することにより尿道緊張(収縮)を低下させ,前立腺肥大に伴う排尿障害を改善するという報告に注目した。このフェノキシベンザミンは,α1受容体とα2受容体を非選択的に遮断するα遮断薬であったが,薬理部門は,前立腺及び下部尿路平滑筋収縮に関与しているα受容体が,α2受容体ではなくα1受容体であるならば,α1受容体を選択的に遮断する効果を有する塩酸タムスロシンのラセミ体(YM-12617)は,下部尿路領域,中でも前立腺肥大症に基づく排尿障害の治療に用いた場合,高い効果を発揮する可能性があると考えた。 b 薬理学的研究山之内製薬薬理研究部門は,昭和56年6月から,下部尿路領域を適応症とする可能性を求めて,研究を開始した(乙38)。 - 44 -ⅰ 下部尿路領域におけるα1受容体の研究山之内製薬は,まず,摘出ウサギの膀胱頚部,尿道及び前立腺標本を用い,下部尿 領域を適応症とする可能性を求めて,研究を開始した(乙38)。 - 44 -ⅰ 下部尿路領域におけるα1受容体の研究山之内製薬は,まず,摘出ウサギの膀胱頚部,尿道及び前立腺標本を用い,下部尿路領域でのα受容体研究を行い,下部尿路平滑筋の収縮に関与しているα受容体は,α2受容体ではなく,α1受容体であることを明らかにした。これにより,α1遮断薬である塩酸タムスロシンのラセミ体(YM-12617)を下部尿路領域に適応できる可能性を一歩進めた。 ⅱ 下部尿路領域での塩酸タムスロシンのラセミ体(YM-12617)の薬理作用さらに,麻酔イヌを用いて,α1遮断薬プラゾシンとの比較研究を行い,塩酸タムスロシンのラセミ体(YM-12617)は,プラゾシンと比べ,下部尿路のα1受容体への選択性が高いこと,つまり,下部尿路のα1受容体に効果的に作用することを明らかにした。続いて,麻酔雄イヌを用いた研究により,塩酸タムスロシンのラセミ体(YM-12617)は,心拍数及び血圧に大きな影響を及ぼすことなく,前立腺部尿道内圧を選択的に低下させることを明らかにした。 c 開発テーマの決定ⅰ 開発テーマ化にあたっての難点会社として,前立腺肥大症に基づく排尿障害の治療薬を開発のテーマとするにあたっては,いくつもの難点があり,最大の難点は,前立腺肥大症に基づく排尿障害治療薬の市場性であった(乙39)。当時,排尿障害領域のうち,頻尿や残尿感等の疾患に関しては,ブロダロンという医薬品が広く普及しており,当時にして年間売上約50億円という市場を有していた。一方で,前立腺肥大症を原因とする排尿障害については,患者数はそれほど多くないと考え- 45 -られていたため,医薬品を開発したとしても,どれほどの市場を獲得できるかを予測することが困難であった。ま で,前立腺肥大症を原因とする排尿障害については,患者数はそれほど多くないと考え- 45 -られていたため,医薬品を開発したとしても,どれほどの市場を獲得できるかを予測することが困難であった。また,この時点では,徐放性製剤の技術の検討がされておらず,塩酸タムスロシンのラセミ体(YM-12617)の服用によって起立性障害等の副作用があることが予想されていたことから,大きな市場が望めないのではないかという見方が強かった。 ⅱ 山之内製薬による開発テーマ化の決定一方で,排尿障害という領域へのα1遮断薬の適用は医薬業界として前例がなく,試みる意義がある領域と考えられたこと等(乙39,乙40,乙41)から,競合品に先行させて低コストで開発するとの条件付きで,昭和57年5月の研究開発会議において,前立腺肥大症に基づく排尿障害の治療薬を開発テーマとすることを決定し,研究開発を推進し,昭和58年10月から,塩酸タムスロシンのラセミ体(YM-12617)の臨床試験を開始した。(なお,昭和58年11月に,臨床試験の対象を,本件物質発明に係る塩酸タムスロシン(YM-12617-1)へ変更した。)原告の提出するA7氏の陳述書(甲28,29)においては,YM-12617を含む新規構造のα1遮断剤研究が抗高血圧剤の適応を目的としたものではなかった旨記載されているが,これは原告の博士論文(乙123)において,高血圧や心不全に適用可能な薬剤の開発を目的としていたとする記載と矛盾しており,事実に反する。 d まとめ山之内製薬は,市場性が不明確であり,かつ,副作用という問題が存在していた前立腺肥大症に基づく排尿障害という領域を,医療界の要望や新規性に着目して開発テーマとすることを決定したものであ- 46 -り,その結果,それまで有効 であり,かつ,副作用という問題が存在していた前立腺肥大症に基づく排尿障害という領域を,医療界の要望や新規性に着目して開発テーマとすることを決定したものであ- 46 -り,その結果,それまで有効な治療薬が存在していなかった前立腺肥大症を原因とする排尿障害という領域において,有効な治療薬を開発するに至ったものである。山之内製薬のこの先見の明のある決定がなければ,ハルナールが生まれることはなく,この決定は,使用者等がその発明により利益を受けるについて貢献した事情の一つとして,極めて大きな意義を持つものである。 (ウ) 製剤方法及び処方方法について(徐放性製剤に関する技術)a 本件物質発明に係る物質(塩酸タムスロシン/YM-12617-1)を製剤し,製品化し,ハルナールとするために用いられている徐放性製剤技術は,山之内製薬が検討・開発したものである。当該技術は,本件物質発明がもたらす起立性障害等の副作用を解消する技術であり,本件物質発明に係る物質を実用の医薬品として製品化し,また,製品として広く普及させるにあたり,不可欠な技術であって,重要な役割を果たしている。 b 製剤技術(徐放性製剤技術)完成の経緯山之内製薬は,塩酸タムスロシンのラセミ体(YM-12617)の臨床試験を昭和58年10月に開始し,同年11月から,この塩酸タムスロシンのラセミ体(YM-12617)の製剤(製造方法,処方等)について検討を開始した(乙42)。 ⅰ 当時,α遮断薬は,起立性低血圧(安静状態で服用し,起立した際に,血圧が低下し,めまいなどが起きる症状)等の起立性障害という副作用を起こすことが知られており,塩酸タムスロシンのラセミ体(YM-12617)も,臨床試験の第Ⅰ相試験において,起立性低血圧等の起立性障害が認められた(乙32,42)。 ⅱ そ 立性障害という副作用を起こすことが知られており,塩酸タムスロシンのラセミ体(YM-12617)も,臨床試験の第Ⅰ相試験において,起立性低血圧等の起立性障害が認められた(乙32,42)。 ⅱ そこで,山之内製薬は,昭和58年11月から,起立性障害を防止するための製剤の検討を開始した(乙43)。当時,防止する方- 47 -法としては,一般に,漸増法による投与という方法が採用されていたが,これは,医師による投与量の調整という手間が必要となり,起立性障害という副作用を根本的に解決するものでもなかった。山之内製薬は,副作用を根本的に解決し,服用方法の点においても利用しやすい製品を開発することを目標とし,そのための製剤技術を確立する方針を決定した。 ⅲ このような方針の下で検討を開始したところ,起立性障害の原因の一つは,塩酸タムスロシンのラセミ体(YM-12617)が,経口投与後,急速に血中に吸収されることによる血漿中濃度の急激な上昇にあると推測された。そして,この原因に対処するためには,最高血漿中濃度の抑制,最高血漿中濃度到達時間の遅延及び血漿中未変化体濃度の維持を可能とする徐放性製剤が適していると考え,更なる検討・研究を重ねた(乙44)。具体的には,各種要因による血中濃度の変動が小さいといわれているマルチプルユニット系を選び,非崩壊性の球状顆粒をこれにより溶出をコントロールすることにし,種々の処方を検討した結果,(a)塩酸タムスロシンのラセミ体(YM-12617),(b)溶出制御剤を含有する水性懸濁液等,及び(c)結晶セルロースの3つを混合し,結晶セルロースの微粒子間の強固な結合によって消化管の中での安定性が高い(実質的に崩壊しない)微小な粒状物である単位製剤を発明した。この製剤方法においては,塩酸タムスロシンのラセミ体(YM- 合し,結晶セルロースの微粒子間の強固な結合によって消化管の中での安定性が高い(実質的に崩壊しない)微小な粒状物である単位製剤を発明した。この製剤方法においては,塩酸タムスロシンのラセミ体(YM-12617)は,強固な単位製剤の内部に,溶出制御作用を有する重合体の中に埋め込まれた状態で保持されることになるため,その放出は,緩やかかつ安定的,持続的なものとなる。 その後,最適な薬剤放出プロファイルを持つ単位製剤を得るための検討を行い,上記単位製剤の表面に,胃内部で溶けにくい腸溶性- 48 -の溶出制御剤によるコーティングを行う実験を行なった。最終的には,2%の量の溶出制御剤のコーティングを行った上で硬カプセルに充填したカプセル剤である製剤(CR-Y製剤)は,乳糖倍散と比べて血中への溶出が穏やかであり,乳糖倍散に比し,起立性障害の出現を抑制できることを明らかにした。さらに,服用の容易さを追及し,CR-Y製剤と同様の溶出挙動を保ったまま添加剤を半量にすることで,製剤を小型化し,CR-M製剤として完成した。CR-M製剤は,基本的には,初回より固定用量で投与しても起立性障害を起こすことがなく,また,血圧に影響を及ぼすこともないことが確認された上,1日に1回の投与のみで必要な治療効果が得られるものであった。(乙45)c まとめ山之内製薬は,昭和58年11月から昭和59年5月の約2年半で,集中的に上記の検討・研究を行い,塩酸タムスロシン(YM-12617-1)にとって最良の製剤を完成させた。なお,徐放性製剤に関する技術については,我が国(特許第2036811号)を含め,9カ国で特許を取得している。 医薬品が広く普及するためには,医薬品が有する治療効果ばかりでなく,医師の処方に基づいて患者自身が服用する医薬品としての使いやすさ,副 許第2036811号)を含め,9カ国で特許を取得している。 医薬品が広く普及するためには,医薬品が有する治療効果ばかりでなく,医師の処方に基づいて患者自身が服用する医薬品としての使いやすさ,副作用発生のおそれが可能な限り小さいことも重要な要素である。山之内製薬が確立した上記の技術は,これらの観点において不可欠な技術であり,この技術無くして,ハルナールが今日のような利益を上げることはなかった。したがって,この徐放性製剤技術は,山之内製薬が,本件物質発明により利益を受けるにあたり貢献した重要な事情である。 (エ) 臨床試験の実施- 49 -山之内製薬は,昭和58年10月から平成2年6月までの間,塩酸タムスロシンについての臨床試験を実施した。具体的には,合計約59の医療機関に協力を求め,各医療機関担当の開発担当者を定め,副作用情報のモニタリング等,関連法令の求める事項を実践した。 医薬品の製品化に当たっては,薬事法その他関連法規によって,臨床試験を実施することが義務付けられている。そして,十分な質と量を備えた臨床試験の円滑な実施のためには,会社と医療機関との間の信頼関係が築かれていることが重要であり,開発担当者を含め,会社の各部署の連携が要求される。山之内製薬の行った臨床試験も,同社が従前より医療機関との間で築き上げてきた信頼関係,人的パワー,コスト等を用いて行われたものであり,本件物質発明により利益を受けるにあたり貢献した重要な事情の一つである。 (オ) 本件物質発明の特許出願本件物質発明は,日本国内においては,昭和55年2月8日に,発明の名称を「スルフアモイル置換フェネチルアミン誘導体」として特許出願され,その後,20の実施例追加を行った後,昭和57年に本件物質発明,すなわち塩酸タムスロシン(YM-12617-1)を 日に,発明の名称を「スルフアモイル置換フェネチルアミン誘導体」として特許出願され,その後,20の実施例追加を行った後,昭和57年に本件物質発明,すなわち塩酸タムスロシン(YM-12617-1)を実施例23として追加した上で,昭和63年6月8日に特許第1443699号として登録され成立した。山之内製薬は,知的財産部門において,改正前特許法の定める出願手続に従い,願書,明細書その他必要書類を作成し,上記一連の過程を経て,本件物質特許の登録を実現させた。原告は,この過程の中で,本件物質発明を含めて9つの物質の合成を行い,実施例として記載する際の資料作成という極めて簡単な作業をしたにすぎず,そもそも従業員として通常の業務の一環であったものであり,発明者としての貢献というには値しない。 (カ) ハルナール開発の経緯全体- 50 -ハルナールの開発経緯は,他にも,広範囲にわたって多種多様な試験,研究開発が重ねられ,費用と時間が投じられた。 a 本件物質発明及びハルナールについてⅰ ハルナールの研究開発の経緯全体の俯瞰昭和55年から平成2年までのハルナールの開発経緯全体は,別紙2(図イー1 開発の経緯図)のとおりである。日本国内においても,原告による本件物質発明を含む段階である「イ.開発の経緯」の他,「ロ.物理化学規格及び試験方式」,「ハ.安定性」,「ニ.毒性」,「ホ.薬理」,「へ.吸収・分布・代謝・排泄・生物学的同等性」及び「ト.臨床」の6段階があり,各段階において,多種多様な数多くの試験が行われている。試験に投じられた費用及び人的資源は,全て山之内製薬が負担したものである。なお,外部の研究所や医療機関に依頼して実施した臨床試験等一部の試験についても,すべて,山之内製薬の負担において協力依頼したものであって,山之内製薬が本件 源は,全て山之内製薬が負担したものである。なお,外部の研究所や医療機関に依頼して実施した臨床試験等一部の試験についても,すべて,山之内製薬の負担において協力依頼したものであって,山之内製薬が本件物質発明がされるについて貢献した事情の一つである(乙46)。 ⅱ ハルナールの研究開発にかかった費用及び工数山之内製薬が,アモスラロールの研究が開始された昭和51年から平成20年までの33年間に,ハルナールの研究開発(主に①化学(すなわち物質の合成や製造方法の研究等に加えNMR,マススペクトル,元素分析等の特許の発明者ではない分析担当者等の工数及び費用も含まれる。),②薬理,③臨床開発の3つである。営業は含まない。)に投じた費用は,日本国内における合計が約107億9575万円,欧米での研究開発費用も併せた総計は約258億7285万円である。 また,昭和56年以降,今日に至るまで,山之内製薬が,ハルナ- 51 -ールの研究開発にかけた海外子会社の分を含まない工数の総計は約78,087時間である。 b その他ハルナールについてその他,本件物質発明とは別に,塩酸タムスロシンのラセミ体(YM-12617)に関する毒性試験及び臨床試験も後出EL社の協力を得て海外において実施した臨床試験も,最終的には「無駄」となったが,ハルナールという医薬品開発,完成のために不可欠であった。 これらはいずれも,ハルナールの完成のために不可避のリスクであって,会社が貢献した事情の一つである。 (キ) 薬事法に基づく承認申請等a 薬事法に基づく承認申請「医薬品」(薬事法2条1項)を販売するためには,最終的に,厚生労働大臣による医薬品の製造販売の承認を受ける必要がある(薬事法第14条1項)。この承認申請に際しては,薬事法等に従い,医薬品開発の初期段階で 」(薬事法2条1項)を販売するためには,最終的に,厚生労働大臣による医薬品の製造販売の承認を受ける必要がある(薬事法第14条1項)。この承認申請に際しては,薬事法等に従い,医薬品開発の初期段階である基礎調査から最終段階である臨床試験に至る各段階(合計7段階)についての資料を提出しなければならず(薬事法第14条3項,同施行規則第40条1項1号イないしト(1990年当時は同法施行規則第18条の3第1項1項1号イないしト)),その量は広範囲かつ膨大であり,その準備のために,会社は膨大な労力を投じなければならない。ハルナールの承認申請に際して,山之内製薬が実際に提出した資料は,合計103(乙46)に及ぶ。担当部門は,これらの資料に対応する試験等を行い,その結果を含めて申請書類を作成し,平成2年10月,申請を行い,平成5年7月2日に承認を得た。 b ハルナール発明に携わった従業員上記資料に関連する研究開発に関わった研究者は,山之内製薬の従- 52 -業員に限っても100名近く(原告を含む)にのぼるが,当該100名近くを除く多くの山之内製薬の従業員(研究者含む)が,これら試験に尽力した。 (ク) 事業の成功に対する貢献(我が国国内について)山之内製薬は,平成5年8月のハルナールの上市にあたり,当時の前立腺肥大症の罹患患者のうち,病院等の医療機関で適切な治療を受けている患者はごくわずかであるとの認識から,上市時及び上市後の販売の成功の鍵は前立腺肥大症患者市場の拡大であり,市場を拡大するためには,医師及び患者に対する前立腺肥大症に関する診断・治療に関する正しい知識の提供によって,潜在的な患者を掘り起こすことが必要不可欠であると考えた。 a 上市前の営業活動山之内製薬は,平成4年10月ころから,前立腺肥大症患者市場の拡大のために 治療に関する正しい知識の提供によって,潜在的な患者を掘り起こすことが必要不可欠であると考えた。 a 上市前の営業活動山之内製薬は,平成4年10月ころから,前立腺肥大症患者市場の拡大のために,患者啓発活動を開始した。具体的には,「前立腺肥大症と排尿障害」と題する啓蒙映画,「目で見る前立腺」と題する前立腺肥大症解説模型,潜在的な患者の医療機関における受診促進のための前立腺肥大症啓発ポスターの作成等を行い,これら映画,模型,ポスター等を,医療機関,医薬品卸等へ配布した。 b 上市直前期,上市時の営業活動(乙48)平成5年4月より,泌尿器科OL(OpinionLeader)への山之内製薬担当者の訪問,内科一般医師の啓蒙活動による前立腺肥大症患者の掘り起こし(市場の発掘,拡大),及び他の製品との差別化の徹底を主たる方針とし,営業活動を本格化させた(乙82・ハルナールプロジェクト)。 具体的には,病院及びGP(一般開業医)の泌尿器科医師の訪問・アンケート調査等(乙84~87),医薬品卸を通じた病院へのハルナ- 53 -ール納入を促進するための政策(病院及び医薬品卸への上市の案内状配布等),地区別の一般の患者対象の排尿障害に関するシンポジウムの開催による潜在患者の掘り起こし等の製品個別政策に最大のコストを投じ,加えて,医薬品卸向け資材や医師の啓蒙資材等の各種印刷物,患者啓発向け指導箋の作成,映画スライド作成,ハルナール製品名入りサービス品の作成,臨床試用医薬品及び製剤見本の作成等,ハルナールの普及及び前立腺肥大症市場拡大のために必要なあらゆる活動を行った。これら活動に投じられた人的資源と労力は莫大である。 また山之内製薬は,ハルナールに関して,上市前から継続的に医師を直接訪問し,医薬品について適切な情報提供を行う等して医師との間 らゆる活動を行った。これら活動に投じられた人的資源と労力は莫大である。 また山之内製薬は,ハルナールに関して,上市前から継続的に医師を直接訪問し,医薬品について適切な情報提供を行う等して医師との間の信頼関係を築き,上市後の医薬品の順調な販売を実現させるという役割を果たすMR(医薬情報担当者)を,合計1220人も投じ,医師への訪問を実行した。山之内製薬は,平成5年4月から9月にかけて,ハルナール販売のための営業活動等に対し,直接の費用として約6億円を投じている。 c 上市後の営業活動山之内製薬では,製品の上市後も,引き続き医師を直接訪問し,医薬品についての適切かつ新しい情報提供,製品安全性情報の収集等を行い,ひいては適切な医薬品の使用を推進する等して,医師との間の信頼関係を強め,医薬品の販売拡大を実現していく役割を果たすMRを,ハルナールの上市後も引き続き年間約1200人投じ,全国各地の医師を訪問させた。 また,前立腺肥大症患者市場拡大のために,医師向けの排尿障害に関する研究会・学術講演会の実施(乙88,89)や,一般患者向けの公開講座の実施(乙79,80),ポスター・患者向指導箋の医療機関への配布等も継続的に行い,さらに,有力全国紙及び地方紙への- 54 -患者啓発のための広告掲載をも実施した(乙74ないし76,78)。 また,平成8年下期には,全国の営業所長を動員して,健康診断の際に使用している問診票の内容を調査し,問診票に前立腺肥大に関する項目を追加するよう働きかけた(乙81)。 これらの営業努力の結果として,当初小さかった前立腺肥大症市場は大幅に拡大し,前立腺肥大症に基づく排尿障害を開発テーマ化した時の最大の懸念であった市場の予測が困難であるとの難点が解決されるとともに,ハルナールは,既存の薬剤を優に上回るペー た前立腺肥大症市場は大幅に拡大し,前立腺肥大症に基づく排尿障害を開発テーマ化した時の最大の懸念であった市場の予測が困難であるとの難点が解決されるとともに,ハルナールは,既存の薬剤を優に上回るペースで売上を拡大することができた。 d まとめMRの活動も含め,山之内製薬が行った,そして今も行っている営業活動は,ハルナールの売上拡大にとって不可欠なものであって,使用者等がその発明により利益を受けるについて貢献した事情の一つとして,重要な意義を有するものである。 (ケ) ライセンス契約締結被告は,米国,欧州の主要国(ドイツ,フランス,イタリア,スペイン,オーストリア,ギリシャ,ポルトガル及びスイスの合計8ヵ国)を含む世界各国について,BI社との間で本件物質発明に関する特許についてのライセンス契約を締結し,BI社からライセンス料及び本件製品売買対価を受領することよって利益を上げている。このBI社とのライセンス契約締結は,以下のような長い経緯を経て,山之内製薬が実現させたものである。 a イーライ・リリー社とのライセンス契約締結交渉山之内製薬は,BI社とのライセンス契約締結に向けた交渉を開始するより以前から,重要市場である米国への進出を果たすため,米国- 55 -企業との合弁会社設立を目指して活動を行っていた。この一環として,ライセンス部門等において,イーライ・リリー社(ELILILLYANDCOMPANY)(以下「EL社」という。)との間で,合弁会社設立を視野においた包括的な提携の交渉を行っており,昭和58年9月27日には当該提携に関する基本契約(BasicAgreement)を締結した。EL社とこの基本契約締結に至る過程において,本件物質発明に関しては,ゆくゆくは両社で設立する合弁会社において販売等を行うことを 該提携に関する基本契約(BasicAgreement)を締結した。EL社とこの基本契約締結に至る過程において,本件物質発明に関しては,ゆくゆくは両社で設立する合弁会社において販売等を行うことを前提にしつつ,これに先立ち,まずはライセンス契約に基づいた導出を行う方向で協議を進めており,昭和57年4月28日には,同社との間で秘密保持契約(SecrecyAgreement)を締結した。その上で,まずは同社に塩酸タムスロシンのラセミ体(YM-12617)の科学評価を行なわせた。その後,上記基本契約の枠組の下,昭和60年10月1日には,塩酸タムスロシンのラセミ体(YM-12617)のライセンス許諾に関するオプション契約(OptionAgreement)を,昭和61年3月12日には塩酸タムスロシン(YM-12617-1)のライセンス許諾に関するオプション契約(OptionAgreement)を締結した。このような経緯において,EL社は,塩酸タムスロシン(YM-12617及びYM-12617-1)の各種前臨床試験,臨床試験を開始した。 しかし,EL社は,昭和62年10月から昭和63年11月までの間に,同社において実施した塩酸タムスロシン(YM-12617及びYM-12617-1)のCR-M製剤を用いた臨床試験の結果,被治験者ごとに血漿中濃度に大きなバラつきが出ること,血圧低下や脈拍数増加等の副作用が見られること,食事の影響を検討する必要があること等の懸念をもったため,米国において塩酸タムスロシンを製品化することを断念する意向を示した。これに対して,山之内製薬- 56 -は,種々のデータや根拠を用いて,EL社の懸念している点は大きな障害ではないことを説明したものの,結局,両社の溝は埋まらなかった。これを受け,EL社と山之内製薬は,平 して,山之内製薬- 56 -は,種々のデータや根拠を用いて,EL社の懸念している点は大きな障害ではないことを説明したものの,結局,両社の溝は埋まらなかった。これを受け,EL社と山之内製薬は,平成元年10月31日付けで,上記基本契約及び一連の契約を全て解消する旨の契約書(Agreement)を交わし,ライセンスアウトに関する交渉を終了させた。 bBI社とのライセンス契約締結交渉EL社が塩酸タムスロシンの導入を断念した後,山之内製薬は,米国進出に関する戦略を見直す必要に迫られた。その結果,山之内製薬は,未だ経験のなかった米国における自社による臨床試験実施を含めた医薬品の開発(臨床開発)に,塩酸タムスロシンのため,初めて取り組むこととした。 一方で,これと並行して,山之内製薬ライセンス部門は,塩酸タムスロシンの新たなライセンスアウト先の探索を開始した。山之内製薬は,欧米の製薬企業からの製品の導入及び自社品の導出の機会を求めて,恒常的に欧米の多くの製薬企業のライセンス部門と製品情報の交換等を行なうことにより,これら企業との間のネットワークを築いていた。塩酸タムスロシンについても,上記のネットワークを生かし,主に米国の大手製薬企業を中心に多数の製薬企業に紹介を行ったものの,興味を示した企業は限定的であった。このように,ライセンス締結交渉が難航していた状況下の平成3年8月ころ,昭和58年以来交流のあったBI社との間で,塩酸タムスロシンについての秘密保持契約を締結し,科学評価を行なわせたところ,BI社は,平成4年2月ころには,欧州及び米国等について,一括で,塩酸タムスロシンに関するライセンス契約を締結することに強い興味を示したため,山之内製薬は,同社との間で,本格的にライセンス契約締結に向けた交渉を- 57 -開始した。 最 等について,一括で,塩酸タムスロシンに関するライセンス契約を締結することに強い興味を示したため,山之内製薬は,同社との間で,本格的にライセンス契約締結に向けた交渉を- 57 -開始した。 最終的に,山之内製薬とBI社は,平成4年10月,BI社対し欧州及び米国について,塩酸タムスロシンに関する本件物質特許及び本件製法特許を一括してライセンスアウトすることで基本的に合意した。 その後,地域別に詳細な契約交渉が開始された。欧州及び北米(米国,カナダ,メキシコ)に関するライセンス契約については,それぞれ,欧米又は我が国における多数回にわたる対面交渉も含めた精力的な交渉が行われた。その結果,(ⅰ)欧州については,平成5年4月20日に,欧州主要国(ドイツ,フランス,イギリス,イタリア,スペイン,オーストリア及びギリシャの合計7カ国)についての,販売権付与に関する契約が締結された(その後,ポルトガル,スイス及びトルコが追加され,イギリスが削除されたため,現在は合計8ヵ国となっている)。(ⅱ)北米(米国,カナダ,メキシコ)については,まずは平成5年7月26日に販売権許諾に関する基本契約が締結され,更に交渉を重ねた後,平成5年12月15日には,詳細な規定を盛り込んだライセンス契約が締結された。その後,(ⅲ)中南米及びアフリカ数カ国についても,平成7年4月にライセンス交渉が開始され,同年5月23日に販売権付与に関する契約が締結された。 なお,北米に関しては,ライセンス契約に基づいてBI社に北米地域における独占的な販売権を付与すると同時に,同社との間で本件製品売買を行うという取引関係であることから,ライセンス契約締結後も,BI社による製品「Flomax」の積極的な販売を促すため,継続的に,販売促進のためのインセンティブの提供等,各種の対策を 本件製品売買を行うという取引関係であることから,ライセンス契約締結後も,BI社による製品「Flomax」の積極的な販売を促すため,継続的に,販売促進のためのインセンティブの提供等,各種の対策を行っている。 c まとめ- 58 -上記のとおり,山之内製薬は,主にライセンス部門を通じて精力的なライセンス契約締結に向けた活動を行い,EL社と共同の合弁会社設立の中止,同社による塩酸タムスロシン開発の断念という事態を乗り越え,BI社との間でのライセンス契約締結を実現し,北米を初めとする世界の多くの国において,本件物質発明の製品化及び販売を実現させるに至った。BI社との間のライセンス契約の締結なくしては,ハルナールが今日ほど普及し,売上を上げることはなかったことは明らかであり,山之内製薬が実現させたBI社とのライセンス契約締結は,使用者等がその発明により利益を受けるについて貢献した事情の一つとして,極めて重要な意義を有するものである。そして,このBI社とのライセンス契約締結は,山之内製薬が長年の活動を通じて構築していた他の製薬企業とのネットワークがあればこそ実現したものであって,この山之内製薬の長年の活動も,極めて重要な意義を有するものとして考慮されるべきである。 (コ) 山之内製薬の海外における活動a 米国における臨床開発自社実施山之内製薬は,米国進出という事業目的を果たすため,また,塩酸タムスロシンの米国での製品化及び販売の実現を目的として,米国における医薬品の臨床開発を自ら実施することを決定し,平成元年10月,これを開始した。 前記のとおり,山之内製薬とBI社は,平成4年10月に,欧州及び米国について塩酸タムスロシンを一括してライセンスアウトすることで合意に至っているが,米国における臨床 これを開始した。 前記のとおり,山之内製薬とBI社は,平成4年10月に,欧州及び米国について塩酸タムスロシンを一括してライセンスアウトすることで合意に至っているが,米国における臨床開発は,同年以降も引き続き山之内製薬が行い,米国において医薬品を承認申請する際に必要となる申請書類を整えた上でこれをBI社に引継ぎ,最終的には,平成8年4月,BI社が申請人となり,米国において「Flomax」- 59 -の承認申請を行ったものである。この経緯に鑑みれば,米国における承認申請は,山之内製薬による臨床開発の実施なくしては実現しなかったものであり,米国における「Flomax」の販売及び売上は,山之内製薬が,自らリスクをとって米国で臨床開発を行ったからこそ実現したものということができる。また,前述のBI社とのライセンス契約締結についても,山之内製薬による従前からの臨床開発の実施があったからこそ,円滑に進んだものといえる。 b 欧州における臨床開発自社実施及び自社販売山之内製薬は,本件物質発明に関し,昭和63年以降,自社のロンドン事務所を通じ,オランダをはじめとする欧州諸国において自ら臨床開発を実施していた。その後,平成2年12月に,オランダのロイヤルヒストブロカデス社(RoyalGistBrocades. B.V)を買収したため,以降は,同社を通じて,引き続き,自ら,オランダ等において臨床開発を行った。そして,平成7年にまずオランダで販売承認を取得し,その後,ドイツ,フランス,イギリス,イタリア,スペイン,ポーランド,ベルギー,ポルトガル,アイルランド,チェコ,ギリシャ,スイス,ハンガリー,ノルウェイ,フィンランド,デンマーク,ロシア及び旧ソビエト連邦の一部の国等の合計35か国余りの欧州諸国においても順次販売承認を取得 ポルトガル,アイルランド,チェコ,ギリシャ,スイス,ハンガリー,ノルウェイ,フィンランド,デンマーク,ロシア及び旧ソビエト連邦の一部の国等の合計35か国余りの欧州諸国においても順次販売承認を取得した上で,販売を開始,実施している。これら各国における販売承認の取得はもちろん,これに至る前段階である各種の特許取得や臨床開発の実施,また,販売後の営業活動は,当然ながら,全て,山之内製薬がコストと労力を投じて行っている。しかも,欧州内でBI社が販売を実施している国は,ドイツ,フランス,イタリア,スペイン,オーストリア,ギリシャ,スイス及びポルトガルの合計8ヵ国であるが,山之内製薬は,今日時点で,このうちドイツ,フランス,イタリア,スペイン,ギリシャを含む前記合- 60 -計35か国余りにおいて事業活動を行っており,その活動範囲は広範囲に及び,これに投じているコストや労力の負担もまた,莫大なものである。このような山之内製薬の負担の下で,前記各国でのハルナール(各国での実際の商品名は,「Omnic」,「Flomax」,「Alana」等)の普及,売上が実現されている。 また,この当時,我が国の製薬企業が,海外において臨床試験を自ら行い,医薬品を自ら製造販売をしているケースはまれであり,山之内製薬のこれらの事業活動は,我が国の医薬業界にとって先駆的なものであった。山之内製薬が,米国においては臨床開発,欧州においては臨床開発及び自社販売という,ノウハウのない未知の領域において努力したという事情もまた,考慮されるべきである。 (サ) 外国での販促活動等a 米国での販促活動被告は,平成10年及び11年,BI社及びその子会社との間でMemorandum(乙90,91)を締結し,「Flomax」(ハルナールの米国名)の販売活動支援 促活動等a 米国での販促活動被告は,平成10年及び11年,BI社及びその子会社との間でMemorandum(乙90,91)を締結し,「Flomax」(ハルナールの米国名)の販売活動支援,フェースⅣ臨床試験の支援をすることを合意し,これを実施した。 被告は,平成11年11月9日,BI社及びその子会社との間で書面を取り交わし(乙92),●(省略)●はその後も継続された(乙93,94)。 被告は,平成16年8月16日,BI社の子会社との間で,プロモーション協力契約(乙95)を締結し,BI社と協力して,●(省略)●その後も同様の活動が継続された(乙96)。 ●(省略)●b カナダでの販促活動被告は,平成18年4月6日,BI社との間で,TOCASAg- 61 -reemenntForCanada(乙97)を締結し,販売促進のため,●(省略)●を合意した。 c 欧州での活動欧州でもMRによる泌尿器科専門医に対する積極的な訪問活動,情報提供活動を行ったほか,学会での発表を依頼するなどし,平成16年9月のオランダにおける承認を初めとして,徐放錠の販売を開始し(乙100),売上の維持・拡大に努めている。 d 特許侵害に対する活動被告は,被告の物質特許又は製剤特許の侵害を理由とする仮処分手続を申し立て,全面的な勝訴決定を得た。 (シ) 成功確率a 特許法35条に基づき相当対価を算定するにあたっては,会社が負っている研究開発・事業化のリスク(成功確率)を考慮するべきであり,製薬業界の特殊性から成功確率は格別に考慮されるべきである。 会社は,常に将来失敗するかもしれないリスクを抱えており,研究開発では,技術的なリスク,発明の完成や特許取得につき他社に先を越されるリスク等を,事業化では,補完的技術の開発・導入 べきである。 会社は,常に将来失敗するかもしれないリスクを抱えており,研究開発では,技術的なリスク,発明の完成や特許取得につき他社に先を越されるリスク等を,事業化では,補完的技術の開発・導入,生産体制・販売体制確立のための投資に見合う収益を得られる保証がないことや,ライセンス先が事業化に失敗するというリスクを抱えている。 そして,相当対価請求権自体は,特許を受ける権利等を使用者に承継させた時点で発生し,本来,その時点において算定されるべきものであるから,その時点で会社が負っていた研究開発・事業化のリスクが考慮されるべきである。 b 製薬業界では,会社が負担する研究開発・事業化に伴うリスクは,他の業界と比べて圧倒的に大きい。 ⅰ 製品の研究開発期間は,平成10年時点で,全産業平均約3年に- 62 -対し,医薬品は13.2年である(乙62,63)。 ⅱ 医薬品製造業の研究開発費は,平成20年度で1兆2956億円(全産業の約11%)であり,対売上高比率は11.74%(全産業平均3.11%)である。1新薬開発には約500億円を要すると言われる(乙62,64)。 ⅲ 新薬開発の成功確率は,平成16年~平成20年で約2万5482分の1であり,完成した合成化合物61万1576のうち,前臨床試験開始に至ったものは199,臨床試験を経て厚生労働省の承認を得て新薬となったものは24である(乙65)。化合物合成段階からみると成功確率は約0.01%にも満たない。本件では,被告は,α遮断薬及びα・β遮断薬関連の研究において合計327の化合物を合成し(乙67),そのうちハルナール及びローガン(アモスラロール)の2つを医薬品として上市しており,成功確率は2/327(約0.61%)である。本件物質発明のリード化合物(YM-11133)が合成さ し(乙67),そのうちハルナール及びローガン(アモスラロール)の2つを医薬品として上市しており,成功確率は2/327(約0.61%)である。本件物質発明のリード化合物(YM-11133)が合成された後の時期には合計114の化合物を合成しており,成功確率は1/114(約0.88%)である。 ⅳ その他,上市後に副作用等により販売を中止する場合は,研究開発費等の投資が無駄となる。 c 成功確率が低いことは,製薬業界の特殊性を形成するに至っているから,相当対価の算定にあたり,「独立要素」として考慮されるべきである。本件においても,製薬業界一般における成功確率は0.01%にも満たないから,少なくとも0.01%まで減じられるべきであり,上記α遮断薬及びα・β遮断薬関連の研究や,本件物質発明完成の過程を踏まえるとしても,0.61%(2/327)又は0.88%(1/114)に減じられるべきである。 - 63 -(ス) 原告に対する処遇a 原告は,本件物質発明がされた昭和57年以降,ハルナールの国内における臨床試験,開発の進展につれて,同期入社の他の研究職社員の中では最も早く昇進,昇格しており,在職中,資格,役職ともに,従業員として最高の人事処遇を受けている(乙49,51)。収入も,退職前年年収は●(省略)●を超え,退職前7年間の累計収入は●(省略)●である等,取締役に選任された者を除き,同期入社の従業員と比較しても最高の報酬を受けている(乙50)。人事面におけるこれらの厚遇は,本件物質発明の完成という原告の実績及び原告の有していた専門性も考慮した上で行われた人事判断の結果である。 他方,取締役として抜擢されるか否かは,経営者としての資質・能力の有無にかかる問題であり,従業員の処遇とは次元の異なる判断に基づくものである(なお,取締 考慮した上で行われた人事判断の結果である。 他方,取締役として抜擢されるか否かは,経営者としての資質・能力の有無にかかる問題であり,従業員の処遇とは次元の異なる判断に基づくものである(なお,取締役の選任は株主総会の決議事項である)。共同発明者のうちに取締役に選任された者がいることをもって,本件物質発明の発明者として原告と比較して厚遇を受けたということはできないし,その他の役員についても,単に研究者や営業職としての実績のみから取締役に選任されたものではない。したがって,取締役に就任した者がいることは,原告が従業員として最高の処遇を受けたことに何ら影響を与えない。 b 原告は,共同発明者の中で,取締役に選任された者を除き,最高の処遇を受けており,このことは,相当対価の算定にあたって十分に考慮されるべきである。 (セ) その他a 米国における訴訟米国ニュージャージー連邦地方裁判所における被告とRanbaxy社の間の特許侵害排除訴訟は,Ranbaxy社が本件物質特許の- 64 -無効等を主張して「Flomax」の後発品申請をしたことを受け,権利者として被告が訴訟提起し,その後控訴審において和解を成立させるまでの約2年半の間,当事者として訴訟活動を行い,費用と時間を投じたものであって,被告が本件物質発明により利益を受けるについて貢献した事情の一つである。原告の証言が,ニュージャージー連邦地方裁判所における被告とRanbaxy社の間の特許侵害排除訴訟の勝訴を導いたということはできず,原告が,被告の米国特許維持に貢献したとはいえない。 また,被告は,米国では,上記訴訟の他にも,同様の特許侵害排除訴訟をImpax社に対し提起し,和解を成立させるに到っている。 b 原告は,本件物資発明を,山之内製薬の従業員としての業務の一環として また,被告は,米国では,上記訴訟の他にも,同様の特許侵害排除訴訟をImpax社に対し提起し,和解を成立させるに到っている。 b 原告は,本件物資発明を,山之内製薬の従業員としての業務の一環として行っていた研究開発において実現したものである。そして,その研究開発は,全て,山之内製薬の研究所等,山之内製薬の所有管理するインフラ設備において行われたものであり,研究開発に必要となる機材,資材等は全て,山之内製薬が負担した。 ウ本件物質発明は,次のとおり,被告に蓄積されていた知見を利用しさえすれば容易に到達が可能なものであり(乙117),原告の貢献は大きいものとはいえない。 そもそも,本件物質発明に係る物質についての原告の貢献は,端的にいえば,既にA3によって合成されていた塩酸タムスロシンのラセミ体から,その光学異性体を合成したというにとどまるものである。 (ア) 本件物質発明(本件リード化合物発明後の構造修飾)は,被告が昭和51年以降継続して実施してきたα・β受容体遮断薬研究の蓄積の結実として完成したものであり,また,薬理研究を含むその他の研究等にも支えられているものである。例えば,ハルナールの研究開発に関連して被告が合成した合計326の化合物(乙67)及びこれら化合物の研- 65 -究の過程で獲得した多くの技術や知見があり,中でも,“ある化合物中のこの基をこのように置換すればα遮断作用が増強またはβ遮断作用が減弱される”,あるいは“この基を除去すればα遮断作用が増強またはβ遮断作用が減弱される”という,α遮断作用増強またはβ遮断作用減弱を導く構造修飾に関する技術・知見があった。本件物質発明は,会社財産であったアモスラロールに公知技術を適用して得られた本件リード化合物を基礎として,その上に,同じく会社財産で 強またはβ遮断作用減弱を導く構造修飾に関する技術・知見があった。本件物質発明は,会社財産であったアモスラロールに公知技術を適用して得られた本件リード化合物を基礎として,その上に,同じく会社財産であった上記技術・知見から最適のものを「寄せ集める」だけで完成に至った。原告は,被告の努力・負担の積み重ねがあればこそ,本件物質発明を完成に至らせることができたのであり,本件物質発明の実施品が社会において大きな価値を見出されるにように導く過程において,専ら被告による膨大な努力の積み重ねが行われてきたのであって,この過程の中に原告の貢献はない。 (イ) 本件発明に関して原告の直面した困難度は,単なる既存の知見の「寄せ集め」の一端を,それも被告における業務の範囲内で担ったにすぎないのであり,本来であれば,支払われていた給与額に相当する範囲を大きく超えるほどの困難の克服があったとは認められない程度のものである。また,原告は,仮に本件物質発明に失敗したとしても,従業員としての立場を失ったり,給与の返還を求められることはなかった。 (ウ) 昭和45年発表の論文(乙68)では,OH基がβ遮断活性に必要である旨が明記され,昭和48年発表の論文(乙69)では,OH基の有無,ラセミ体又は光学異性体の別によるα遮断作用を研究し,OH基がない場合の方が,ある場合よりα遮断作用が強い旨がデータとともに論じられていた。そのため,本件リード化合物が合成された昭和54年6月当時において,OH基を除去して脱OH化した場合に,β遮断作用が低下しα遮断作用が増強,維持されることは,当然期待されることと- 66 -認識されていた。したがって,アモスラロールからOH基を除去すれば,α遮断作用のみを有する新規の化合物が得られると発想し,これを実行することは,独 持されることは,当然期待されることと- 66 -認識されていた。したがって,アモスラロールからOH基を除去すれば,α遮断作用のみを有する新規の化合物が得られると発想し,これを実行することは,独自のものではなかった(乙53参照)。 (エ) 本件物質発明は,本件リード化合物のⅰメチル基をメトキシ基に変換し,ⅱメチル基を導入し,ⅲメトキシ基をエトキシ基に変換したものであるが,ⅰの変換は,昭和52年11月にアモスラロールから別の化合物(AB-137)を合成する際に既に行われ,α遮断作用が増強され逆にβ遮断作用が低下することが明らかになっていた。ⅱの導入は,昭和53年8月にAB-137から別の化合物(AB-190)を合成する際に既に行われ,α遮断作用は維持しつつβ遮断作用を低下させることが可能であることが明らかになっていた。ⅲの変換は,昭和53年4月にアモスラロールから別の化合物(AB-173)を合成する際に既に行われ,α遮断作用が増強され,β遮断作用が低下することが明らかになっていた。 このように,原告が本件リード化合物の構造修飾を開始した当時,被告には,アモスラロールから他の化合物を合成する際に蓄積していたより強いα遮断作用を得るための構造修飾の知見が存在しており,本件リード化合物から構造修飾を行う場合,既に会社に蓄積された上記知見を組み合わせて利用すれば,「より強いα遮断作用」を持つ化合物を得えられることは容易に想像が可能であった。原告らは,より強いα遮断作用が期待できる基に関する会社の知見をつなぎ合わせた構造修飾のみを行い,本件物質発明に至ったにすぎない。 (オ) 以上のとおり,原告は,既に公知となっていた「OH基を除去すればα遮断作用を増強又は維持したまま,β遮断作用を低下させる」との知見を利用 を行い,本件物質発明に至ったにすぎない。 (オ) 以上のとおり,原告は,既に公知となっていた「OH基を除去すればα遮断作用を増強又は維持したまま,β遮断作用を低下させる」との知見を利用してアモスラロールから本件リード化合物を合成し,また,既に会社に蓄積されていた,α遮断作用を増強しβ遮断作用を低下させ- 67 -るアモスラロールの構造修飾の方法を踏襲して,本件リード化合物の構造修飾を行い,本件物質発明に至ったにすぎない。会社に蓄積された知見を踏襲したことにより本件物質発明に至ったことに鑑みれば,会社の貢献度を高める事情である。 (カ) 原告は,被告が当初,前立腺肥大症に基づく排尿障害に有用な医薬品を,塩酸タムスロシンのラセミ体(YM-12617)で進めるとの方針を決定したこと,低コストでの開発方針を採用したことは被告のミスであると主張するが,ラセミ体での治療薬を開発テーマとしたことは合理的であった。 すなわち,被告が前立腺肥大症に基づく排尿障害の治療薬を正式にテーマ化した昭和57年5月の研究開発会議(乙56)の時点では,光学異性体のα遮断作用は未知数であったから,この時点でラセミ体での開発をテーマとしたことは当然である。また,臨床試験を開始した昭和58年10月当時,前立腺肥大症に基づく排尿障害は,その市場性が把握できていなかったため,低コストで開発する必要があり,そのためラセミ体での開発を行うこととしたものである。その後,研究の発展及びそれを取り巻く状況を考慮して,適切な時期に光学異性体での開発に方針転換したものである。 エ原告の研究は業務の一部であること原告は,本件物質発明が,被告会社の業務とは全く無関係な研究が基礎となって完成したものであるかのように主張するが誤りである。 会 換したものである。 エ原告の研究は業務の一部であること原告は,本件物質発明が,被告会社の業務とは全く無関係な研究が基礎となって完成したものであるかのように主張するが誤りである。 会社の従業員であるところの研究員は,会社から明示的に与えられている指示やテーマを実行するのみならず,会社の研究の発展のため,研究員としての知見を最大限活用し,自ら主体的に考え,研究することも同時に求められている。 昭和55年前後の当時,山之内製薬においては,研究員の間で,「セミ- 68 -ナー」という勉強会が行われていた。この「セミナー」には,各研究領域の化学,薬理のリーダーも含めた化学研究員のほぼ全員(3~4名)と,薬理研究員,その他情報調査担当者,知財担当者等数名が集まり,合計人数10人弱で構成され,開催日時がある程度固定化されていることが通常であった。「セミナー」においては,各研究員が,自身の「セミナー」の前段階における研究について発表,提案し,これらのうち,「セミナー」において研究領域グループ全体としての研究テーマとして取り上げることが決定された研究が,研究領域グループの研究テーマとして格上げされるという運用がされていた。 原告がいう自主的な研究や単独・独自の個人的研究とは,この「セミナー」の前段階の研究を指すと思われる。そして,定時の勤務時間外において行われていたこれらの研究及び「セミナー」における研究に対しては,残業手当も適正に支払われていた。 したがって,「セミナー」の前段階の研究及び「セミナー」における研究は,いずれも被告の業務の一部としての研究であって,被告の業務外の研究ではない。 (原告)被告の主張は争う。 (3) 相当対価額の算定(原告)ア原告の被告に対する本件請求は,一つの医薬品に関 も被告の業務の一部としての研究であって,被告の業務外の研究ではない。 (原告)被告の主張は争う。 (3) 相当対価額の算定(原告)ア原告の被告に対する本件請求は,一つの医薬品に関する特許についての一つの職務発明相当対価支払請求権であり,一つの訴訟物として主位的に請求する。 イ仮に,本件物質発明及び本件製法発明に係る各相当対価請求権,我が国における対価請求権及びその他の国における対価請求権が,それぞれ訴訟物を異にする場合には,予備的に,「次に記載する順序にしたがい,金1- 69 -0億円に満つるまで」との請求とする。 (ア) ライセンス対象分の対価請求と自社販売分の対価請求とは,ライセンス対象分を優先とする。 (イ) 物質特許分と製法特許分とでは,物質特許分を優先とする。 (ウ) 北米分,欧州分,我が国国内分とでは,同順序とする。 (エ) 欧州分のうち,国別に順序を付ける場合は,イタリア,ドイツ,スペイン,フランス,イギリス,オランダ,ポーランド,ポルトガル,フィンランド,ロシア,ベルギー,オーストリアの順序とする。 ウライセンス分における相当対価額の算定(ア) ライセンス分についての相当対価の額は,使用者等が受けるべき利益の額=ライセンス契約により得た収入の額×本件発明の寄与度として算定される。 a ライセンス契約により得た収入の額ハルナール(塩酸タムスロシン)について,BI社の米国売上は別表6「塩酸タムスロシン米国BI正味売上」のとおり●(省略)●であり(被告の主張と基本的に異なるものではないが,特許保護期間延長後のライセンス料を考慮するか否かの点において異なる。),米国における推定実施料率33.05%を乗じた●(省略)●が,被告がBI社からライセンス 主張と基本的に異なるものではないが,特許保護期間延長後のライセンス料を考慮するか否かの点において異なる。),米国における推定実施料率33.05%を乗じた●(省略)●が,被告がBI社からライセンス契約により得た米国の収入の額である。 また,BI社の欧州売上は,別表7「塩酸タムスロシン欧州BI正味売上」記載のとおり,●(省略)●であり,これに●(省略)●が,被告がBI社からライセンス契約により得た欧州の収入の額である。 b 本件発明の寄与度本件物質発明及び本件製法発明は,ハルナール(塩酸タムスロシン)の製造に必要不可欠な特許であるところ,医薬業界では,物質発- 70 -明は(1.0),製造発明は(0.3)の各寄与度と言われており,被告自身も同様に評価している。したがって,本件物質発明の特許期間中の寄与度は100%(1.0)であり,また,本件物質発明の特許期間が満了した後の,本件製法発明の寄与度は30%(0.3)と評価するのが妥当である。 (イ) 使用者等が貢献した程度は,前記のとおり80%であり,多くとも95%を上回ることはないから,発明者貢献度は20%であり,少なくとも5%を下回ることはない。 (ウ) 共同発明者間の寄与度については,本件物質発明について40%,本件製法発明について90%とすることについて,被告は算定の根拠として原告に呈示したものであり,原告,被告間で争いがない。 (エ) したがって,具体的な相当対価額(ライセンス分)は,次のとおりである。 a 米国BI分=●(省略)●(被告がBI社からライセンス契約により得た米国の収入の額●(省略)●に推定実施料率33.05%を乗じた額)×本件発明の寄与度(1.0)×発明者貢献度20%×共同発明者間の寄与度40 =●(省略)●(被告がBI社からライセンス契約により得た米国の収入の額●(省略)●に推定実施料率33.05%を乗じた額)×本件発明の寄与度(1.0)×発明者貢献度20%×共同発明者間の寄与度40%=●(省略)●b 欧州BI分(物質発明)=●(省略)●(被告がBI社からライセンス契約により得た欧州の収入の額●(省略)●にロイヤリティー●(省略)●を乗じた額)×本件発明の寄与度(1.0)×発明者貢献度20%×共同発明者間の寄与度40%=●(省略)●c 欧州BI分(製法発明)=●(省略)●(被告がBI社からライセンス契約により得た欧州の収入の額●(省略)●にロイヤリティー●(省略)●を乗じた額)×本件発明の寄与度(0.3)×発明者貢献度20%×共同発明者間の寄与度90%=●(省略)●(被告)- 71 -ア自己実施販売額について被告による本件の製品の国内自社販売額は,年度別にみると,合計4209億円である。 イライセンス収入について被告は,BI社との間で北米ライセンス契約,欧州ライセンス契約の他,●(省略)●ウ中間利息の控除原告は,被告に対し,我が国及び外国における本件物質発明及び本件製法発明の各特許を受ける権利を承継した時点(我が国の物質特許については昭和55年2月8日,製法特許については昭和60年11月13日,米国については昭和60年7月18日,欧州のおいては昭和56年2月2日)において,いずれも特許法35条に基づく相当対価の請求をすることができたから,対価の算定にあたっては,上記時点を基準として,被告において各発明による利益が得られた時期までの中間利息を控除する必要がある。 (4) 消滅時効(被告)ア全部消滅時効本件物質発明及び本件製法発明に係る各相当対価請求権は,次のとお 告において各発明による利益が得られた時期までの中間利息を控除する必要がある。 (4) 消滅時効(被告)ア全部消滅時効本件物質発明及び本件製法発明に係る各相当対価請求権は,次のとおり,我が国以外のすべての国における請求権を含めて,すべて確定的に時効消滅した。 (ア) 我が国における本件物質発明の特許を受ける権利についてa 被告が,我が国における本件物質発明に係る特許を受ける権利を承継した昭和55年2月8日当時,被告には,相当対価の支払に関し,支払時期,支払方法について定めた社内規程は存在しておらず,被告がこれらの点について原告と特別の合意をしたこともないから,原告- 72 -の本件物質発明に係る相当対価請求権の消滅時効の起算点は,遅くとも上記承継時である。 b 平成2年2月8日が経過した(民法167条1項)。 (イ) 我が国における本件製法発明の特許を受ける権利についてa 被告が,我が国における本件製法発明に係る特許を受ける権利を承継した昭和60年11月13日当時,被告には,相当対価の支払に関し,支払時期,支払方法について定めた社内規程は存在しておらず,被告がこれらの点について原告と特別の合意をしたこともないから,原告の本件製法発明に係る相当対価請求権の消滅時効の起算点は,遅くとも上記承継時である。 b 平成7年11月13日が経過した(民法167条1項)。 (ウ) 外国における本件物質発明及び本件製法発明に係る各特許を受ける権利についてa 外国における本件物質発明及び本件製法発明に係る各特許を受ける権利については,一括して原告から被告に承継されたと解されるから,本件物質発明については遅くとも昭和55年2月8日に,本件製法発明については遅くとも昭和60年11月13日に,それぞれ原告から被告に承継された ては,一括して原告から被告に承継されたと解されるから,本件物質発明については遅くとも昭和55年2月8日に,本件製法発明については遅くとも昭和60年11月13日に,それぞれ原告から被告に承継された(なお,外国の特許法制において,企業が職務発明に係る特許を受ける権利を原始取得する国であるイタリア,スペイン,フランス,イギリス,オランダ及びポルトガル等についても,予備的に相当対価請求権が発生することを前提に主張する。)。 b そして,旧特許法35条3項の類推適用により,上記の一括承継により相当対価請求権が発生し,当該時点から時効期間が開始するところ,消滅時効の問題は,実体問題であり,当該請求権発生に係る承継行為に最も密接な関係がある地の法の適用を受けると解されるから,- 73 -本件においては,日本法により時効期間は10年となり,平成2年2月8日及び平成7年11月13日が経過した。 (エ) 時効援用(主位的主張)a 被告規程1の制定及び時効援用山之内製薬は,被告規程1の制定過程である平成8年,制度の対象を「施行日以後に発生した出願・登録・実施」とした規程案を原告に説明し,同年10月には原告もメンバーの1人を構成していた研究開発会議において,被告規程1についての議論を行った。これら一連の説明,協議の中で,山之内製薬は,本件物質特許及び本件製法特許に係る各相当対価請求権は,時効期間が経過し,被告規程1の補償対象ではないことを明確に告知した(乙1,2)。山之内製薬は,これらの告知をもって,相当対価請求権の消滅時効を援用する旨の意思表示をした。 b 被告規程2の制定及び時効援用被告は,被告規程2の制定過程である平成14年10月ころから平成15年2月ころ,原告も参加した研究開発会議において,その施行日(平成15年4月1日)より した。 b 被告規程2の制定及び時効援用被告は,被告規程2の制定過程である平成14年10月ころから平成15年2月ころ,原告も参加した研究開発会議において,その施行日(平成15年4月1日)より前に出願,登録,実施された特許について何ら言及していない被告規程2について報告し,同会議の了承を得ている。したがって,山之内製薬は,原告に対し,本件物質特許及び本件製法特許に係る各相当対価請求権は,被告規程2の補償対象ではないことを明確に告知した(乙3)。山之内製薬は,この告知をもって,相当対価請求権の消滅時効を援用する旨の意思表示をした。 c 上記消滅時効の援用により,相当対価請求権はいずれも平成17年4月1日より以前に確定的に消滅しているから,平成21年3月6日になされた本件支払(合計335万9900円)は,時効消滅に対して何らの影響を与えない。 - 74 -(オ) 時効援用(予備的主張)a 被告は,原告に対し,平成21年11月11日の本件第1回口頭弁論期日において陳述された同日付け被告準備書面(1)をもって,本件物質発明及び本件製法発明に係る各相当対価請求権について,時効を援用する旨の意思表示をした。 b 被告は原告に対し,平成23年9月2日の本件第13回弁論準備手続期日において陳述された同年8月30日付け被告準備書面(19)をもって,すべての本件物質発明及び本件製法発明に係る各相当対価請求権について,時効を援用する旨の意思表示をした。 c 本件支払の性質被告による本件支払は,被告現行規程の趣旨及び本件支払の具体的経緯に照らせば,改正後特許法を前提とした被告現行規程に基づき,山之内製薬と藤沢薬品工業の合併後の両社従業員の処遇統一等の観点から一種の恩賞の意味合いで行われたものであるから,対価請求権の消滅時効の援用を妨げ ば,改正後特許法を前提とした被告現行規程に基づき,山之内製薬と藤沢薬品工業の合併後の両社従業員の処遇統一等の観点から一種の恩賞の意味合いで行われたものであるから,対価請求権の消滅時効の援用を妨げる事由とはならない。 ⅰ 被告現行規程の趣旨山之内製薬及び藤沢薬品工業は,合併して被告を設立するにあたり,平成17年4月1日施行の改正特許法35条3項,4項を前提として,両社の職務発明に関する社内規程を統合し,被告規程3としたが,その際,改正特許法では,同法施行前の特許を受ける権利の承継については,改正前特許法のみが適用されるとされたのに対し(附則2条),被告規程3では,両社の従業員の合併後の処遇統一等の観点から,平成17年3月31日以前にした特許を受ける権利の承継についても,同年4月1日以降に承継されたもののように扱い,同規程で算出された金額を支払うこととした。 ⅱ 本件支払の具体的経緯- 75 -被告は,本件支払に先立ち,原告に対し,被告現行規程が改正後特許法35条に対応して制定されたことを明確にしたり,ハルナールについては,被告規程1,2では支払対象となっておらず,未払部分もないこと等を説明した。 ⅲ 従業員の合併後の処遇統一等の要請山之内製薬は,専ら職務発明の発明者に適用される被告規程1,2と,職務発明の発明者であるか否かにかかわらず,広く報奨に値する者に適用される開発報奨規程(乙12)の制度を有していた。 また,藤沢薬品工業は,「職務発明取扱規定」(乙13)において出願補償及び登録補償を定め,「職務発明実績補償規則」(乙14)において,施行日より前に既に販売されている対象製品についても,対象となる特許権等の存続期間中であり,対象製品につき特許権等が実施されている限り,施行日以降 定め,「職務発明実績補償規則」(乙14)において,施行日より前に既に販売されている対象製品についても,対象となる特許権等の存続期間中であり,対象製品につき特許権等が実施されている限り,施行日以降の対象製品の売上高を基準に実績補償金を支払うとしていた。したがって,平成17年4月1日の合併にあたり各制度を整理統合した際,合併後の両社従業員の処遇統一という政策的配慮から,藤沢薬品工業において,職務発明実績補償規則の施行日以降,特許が実施されている限り,継続的に実績補償金を支払う運用をしていたことと同様,山之内製薬の従業員についても,特許を受ける権利の承継時期にかかわらず,同等の金額を支払うことにし,合併前に出願,実施がされた特許にかかる発明をした山之内製薬の従業員についても,いわば恩賞的な意味合いでの支払を行うこととなり,被告規程3が制定された。 イ一部消滅時効①(予備的主張)本件物質発明及び本件製法発明に係る各相当対価請求権のうち,平成17年3月31日以前の売上に対応する部分の請求権は,次のとおり,我が国以外のすべての国における当該請求権を含めて,時効消滅した。 - 76 -(ア) 本件支払が,平成17年4月1日以降の売上に対応する部分についての相当対価としての支払であったとしても,我が国及び外国における本件物質発明及び本件製法発明に係る各相当対価請求権のうち,同年3月31日以前の売上に対応する部分の請求権は,時効により消滅しており,当該消滅時効の援用を妨げるような事由は存在しない。 (イ) 時効援用a 被告は,原告に対し,本件支払の決定を通知したことをもって,本件物質発明及び本件製法発明に係る各相当対価請求権のうち,平成17年3月31日以前の売上に対応する部分につき,消滅時効を援用する意思表示を行った。 対し,本件支払の決定を通知したことをもって,本件物質発明及び本件製法発明に係る各相当対価請求権のうち,平成17年3月31日以前の売上に対応する部分につき,消滅時効を援用する意思表示を行った。 b 被告は,原告に対し,平成21年12月25日の本件第1回弁論準備手続期日において陳述された同月16日付け被告準備書面(3)をもって,本件物質発明及び本件製法発明に係る各対価請求権のうち,平成17年3月31日以前の売上に対応する部分につき,消滅時効を援用する意思表示をした。 c 被告は,原告に対し,平成23年9月2日の本件第13回弁論準備手続期日において陳述された同年8月30日付け被告準備書面(19)をもって,我が国及び外国における本件物質発明及び本件製法発明に係るすべての相当対価請求権のうち,平成17年3月31日以前の売り上げに対応する部分につき,消滅時効を援用する意思表示をした。 (ウ) 本件支払は,平成17年3月31日以前の売上に対応する部分の相当対価請求権については,時効利益の放棄にはならない。 a 仮に,原告の相当対価請求権が,特許期間満了までの将来における全ての売上に対する一個の請求権であるとしても,本件支払は,平成17年4月1日以降の売上に対応する部分という明確に区別された部分の弁済として行われたから,当該部分のみの時効利益の放棄となる- 77 -にすぎない。 b 原告の相当対価請求権が一個の請求権であるとしても,可分債権(金銭債権)の一部の時効利益の放棄は可能である。 c 時効利益の放棄の内容及び効果は,当該意思表示における効果意思の解釈により判断されるところ,一部の支払が,債権全部のうちの明確に区別された特定の部分についてのみの弁済として行われた場合には,債務者は,当該特定の部分に限定して弁済する意思を表示したに 果意思の解釈により判断されるところ,一部の支払が,債権全部のうちの明確に区別された特定の部分についてのみの弁済として行われた場合には,債務者は,当該特定の部分に限定して弁済する意思を表示したにすぎず,その余の部分については,それを支払う意思は表示されていないと解されるから,当該その余の部分についての時効利益の放棄にはならない。 d 債務の一部の支払について,時効利益の放棄の問題と時効中断の問題は,いずれも一部の支払がその余の部分の時効主張にどのような影響を与えるかという問題であり,債権者・債務者間の利益状況は類似しているから,整合性のとれた考え方をするべきである。そして,一部弁済が,ある特定の部分についてのみの弁済であると認められる場合には,残部について時効中断の効力は生じないと解されるから,時効利益についても,当該部分についてのみの放棄と解すべきである。 e 本件支払は,被告現行規程に基づき,平成17年4月1日以降の売上に対応する部分を支払ったにすぎないから,被告の効果意思も,この部分のみの時効利益を放棄するというものであり,被告は,上記効果意思を,原告に十分かつ適切に表示していた(乙8~10)。 (エ) 平成17年3月31日以前の売上に対応する部分の相当対価請求権についての時効援用は,信義則に照らしても,許される。 a 原告の相当対価請求権が一個の請求権であるとしても,本件支払は,平成17年4月1日以降の売上に対応する部分という明確に区別された部分の弁済として行われたから,同年3月31日以前の売上に- 78 -対応する部分については,信義則に照らしても時効援用は許される。 b 原告の相当対価請求権が一個の請求権であるとしても,可分債権(金銭債権)の一部以外の部分について時効援用することは,信義則に照らしも許されると考 いては,信義則に照らしても時効援用は許される。 b 原告の相当対価請求権が一個の請求権であるとしても,可分債権(金銭債権)の一部以外の部分について時効援用することは,信義則に照らしも許されると考えられる。 c 債務者が,時効完成後に,時効完成の事実を知りつつ債務の一部を弁済した場合で,当該一部弁済が,当該一部分のみに限定して時効利益を放棄する意思表示と解釈され,時効利益の放棄の効果も当該一部分のみに限定される場合,時効完成の事実を知っていたことが,当該一部分以外の部分にまで信義則に照らして時効援用を否定すべき根拠にはならない。 d 時効完成後に債務の一部の支払がされた場合,債務の全部について時効援用が信義則に照らして許されない場合があるが,その理由は,時効完成後に債務者が債務の承認をすることは,時効による消滅時効の主張と相容れない行為であること(債務者の帰責性),相手方においても債務者はもはや時効の援用をしない趣旨であると考えること(債権者の信頼ないしは期待保護の必要性),この場合に援用を認めなくても,永続した社会秩序の維持を目的とする時効制度の存在理由に反しないこと(時効制度の趣旨との整合性)である。しかし,本件支払のように,当該支払が,明確に区別された特定の部分の弁済としてされた場合には,それ以外の部分について時効消滅を主張することと相容れないものではなく(債務者の帰責性がない),それ以外の部分について時効消滅を主張しても,債権者の信頼・期待を損なうものでもなく(債権者の信頼ないしは期待の保護の必要性がない),それ以外の部分について時効援用を認めないことは,永続した社会的事実を覆滅させ,時効制度の趣旨にそぐわない(時効制度の趣旨との整合性がない)から,信義則に照らし,それ以外の部分の時効援用は許さ- 79 -れると解 いて時効援用を認めないことは,永続した社会的事実を覆滅させ,時効制度の趣旨にそぐわない(時効制度の趣旨との整合性がない)から,信義則に照らし,それ以外の部分の時効援用は許さ- 79 -れると解すべきである。 e 債務の一部の支払によって時効援用が信義則に照らして許されなくなるかの問題と一部支払による時効中断の問題は,いずれも一部の支払がその余の部分の時効主張にどのような影響を与えるかという問題であり,整合性のとれた考え方をすべきである。そして,一部の支払が,明確に区別された特定の部分についてのみの弁済としてなされた場合には,信義則に照らし,その余の部分の時効援用は許されると解すべきである。 f 本件支払は,被告現行規程に基づき,平成17年4月1日以降の売上に対応する部分を支払ったにすぎないから,同年3月31日以前の売上に対応する部分の相当対価請求権について時効消滅を主張することは,本件支払と相容れない行為ではない。また,被告は,原告に対し,本件支払の上記対象について十分かつ適切に表示しているから,原告が,同年3月31日以前の売上に対応する部分についても被告が支払をする意思があると期待・信頼したり,当該部分の時効援用をしない趣旨と考えることはない。そして,本件支払は,時効完成から長期間経過後にされた上記部分についてのものであり,同年3月31日以前の売上に対応する部分の状態への影響はないから,当該部分の時効援用を認めないことは,永続した社会秩序の維持を目的とする時効制度の存在理由に反する。 ウ一部消滅時効②(予備的主張)本件物質発明及び本件製法発明に係る各相当対価請求権のうち,本件支払の対象とならなかった我が国における本件物質発明に係る相当対価請求権及び欧州の一部の国(スペイン,ロシア,ポルトガル,ギリシャ等)における 発明及び本件製法発明に係る各相当対価請求権のうち,本件支払の対象とならなかった我が国における本件物質発明に係る相当対価請求権及び欧州の一部の国(スペイン,ロシア,ポルトガル,ギリシャ等)における本件物質発明に係る相当対価請求権等は,時効消滅した。 (ア) 本件支払が,特許法に基づく相当対価の一部の支払であったとして- 80 -も,我が国における本件製法発明に係る相当対価請求権並びに米国及び欧州の一部の国における本件物質発明に係る相当対価請求権についての一部の支払にすぎないから,本件支払の対象とされていない我が国における本件物質発明に係る相当対価請求権,及び,欧州の一部の国(スペイン,ロシア,ポルトガル,ギリシャ等)における本件物質発明に係る相当対価請求権等については,時効消滅しており,当該消滅時効の援用を妨げるような事由は存在しない。 (イ) 時効援用a 被告は,原告に対し,平成21年12月25日の本件第1回弁論準備手続期日において陳述された同月16日付け被告準備書面(3)をもって,本件支払の対象ではない我が国における本件物質発明に係る相当対価請求権等につき,消滅時効を援用する意思表示をした。 b 被告は,原告に対し,平成23年9月2日の本件第13回弁論準備手続期日において陳述された同年8月30日付け被告準備書面(19)をもって,我が国における本件物質発明に係る相当対価請求権,及び,欧州の一部の国(スペイン,ロシア,ポルトガル,ギリシャ等)における本件物質発明に係る相当対価請求権等ついて,消滅時効を援用する旨の意思表示をした。 (ウ) 本件支払は,その支払の対象とした相当対価請求権の一部の支払であり,被告はその部分のみ債務を認める意思を表示したにすぎないから,当該対価請求権全体はもとより,訴訟物を異にするそれ以外の相当 (ウ) 本件支払は,その支払の対象とした相当対価請求権の一部の支払であり,被告はその部分のみ債務を認める意思を表示したにすぎないから,当該対価請求権全体はもとより,訴訟物を異にするそれ以外の相当対価請求権等について時効利益の放棄となることはない。 (エ) 本件支払は,その支払の対象とした相当対価請求権の一部の支払であり,当該対価請求権全体はもとより,訴訟物を異にするそれ以外の本件物質発明に係る相当対価請求権等については,債務を認めたと評価しうる事情はなく,このことは原告も認識していたから,それ以外の相当- 81 -対価請求権等について時効援用をすることは,被告の先行する行為と相容れないものではなく,原告として被告がかかる時効援用をしない趣旨であると考えることはあり得ず,かかる消滅時効の援用を認めることは,永続した社会秩序の維持という制度趣旨にも合致するから,上記のそれ以外の相当対価請求権等については,時効援用により,消滅している。 エ平成17年4月1日以降の売上に対応する部分について,本件支払及び被告現行規程に基づき今後予定される追加支払は,改正後特許法35条4項に照らして合理的であるから,被告は,同日以降の売上に対応する部分について,これ以上の支払義務を負わない。 (ア) 改正特許法35条を踏まえた既存案件について,衆議院及び参議院の各経済産業委員会の平成16年5月の附帯決議(乙16)や政府参考人答弁等では,既存案件についても,当該紛争の当事者間に就業規則等の「自主的な取決め」が存在する場合には,これらに基づいて「相当の対価」を決定することによって解決することが望ましいという意思が表明された。被告は,これらを前提に被告現行規程を策定し,支払の対象となる特許が,平成17年3月31日以前に相当対価請求権を取得した特許であっ 決定することによって解決することが望ましいという意思が表明された。被告は,これらを前提に被告現行規程を策定し,支払の対象となる特許が,平成17年3月31日以前に相当対価請求権を取得した特許であっても規程が適用されるとしたから,その支払が「相当の対価」といえるかの判断にあたっては,改正特許法35条4項の精神を十分に反映して行われるべきである。 (イ) 被告規程3の制定に際しては,従業員との間で説明・協議を重ね,意見を聴取しており,被告規程3の改訂の際も,職務発明委員会で審議・決定し,社内ホームページで公開し,従業員に意見を求めた後,取締役会の承認を経て決定された。被告現行規程は,社内向けに公開されており,研修でも,毎回概要を説明し,退職者等にも,要請があれば情報を開示している。被告は,原告に対しても,適切な方法・時期に資料を- 82 -開示しており,また,本件支払の対価額の算定においても,本件支払の決定の通知前後を通じて質及び量ともに十分な意見聴取を行っている。 (ウ) 本件支払(合計335万9900円)の算定根拠となった被告現行規程18条,23条の算定式についても,被告は,改正前特許法35条4項及び裁判所の考え方に鑑みて,被告が属する製薬業界の特殊性等も加味しつつ,ⅰ独占の利益,ⅱ発明者貢献度,ⅲ共同発明者間の寄与割合,ⅳ発明寄与度を考慮し,当該算定式を制定したものであり,合理的である。本件支払の具体的算定においても,当該算定式を適用の上,個別具体的事情を考慮した上で,係数及び発明者間の寄与度を決定し,金額を算定したものであり,平成17年4月1日以降の売上に対応する部分についての「相当の対価」といえる。 (エ) したがって,本件支払は,改正特許法35条4項の精神に照らし,平成17年4月1日から平成20年3月31日までの売上 17年4月1日以降の売上に対応する部分についての「相当の対価」といえる。 (エ) したがって,本件支払は,改正特許法35条4項の精神に照らし,平成17年4月1日から平成20年3月31日までの売上に対応する部分の支払として合理的であるから,原告は,当該部分については,これ以上の何らの権利も有していない。また,被告が被告現行規程に基づいて今後支払うべき平成20年4月1日から平成21年10月27日までの売上に対応する部分の支払についても,被告現行規程に基づき然るべく行えば,「相当の対価」である。 オ原告の主張に対する反論当事者対等の要請は,ひとたび客観的に発生した対価請求権の時効消滅の場面では妥当しない。社会的事実として同一の発明から生じたとしても,権利として別個の請求権であれば,消滅時効は,それぞれの個別事情に応じて決せられる。我が国と外国の各特許を受ける権利が包括的に承継されることが少なくないことも,特許を受ける権利の承継時の事象にすぎず,別個の相当対価請求権の消滅時効が画一的に決せられるべき理由にはならない,- 83 -(原告)ア被告の主張はいずれも争う。 イ仮に,被告主張の消滅時効の起算点を前提に時効期間が経過しているとしても,被告は,時効利益を放棄しており,あるいは,被告が消滅時効を援用することは信義則に照らして許されない。 (ア) 全部消滅時効について被告は,消滅時効期間が完成していると認識しつつ,売上高・ライセンス収入・共同発明者間の寄与度等を基礎に金額を算定し,本件支払を行っているから,本件支払は,相当対価としての実績補償の性質を有し,当該債務を承認し一部弁済したものである。したがって,被告は,時効利益を放棄しており,あるいは,時効援用をすることは信義則に照らして許されない。 (イ) 一部 当対価としての実績補償の性質を有し,当該債務を承認し一部弁済したものである。したがって,被告は,時効利益を放棄しており,あるいは,時効援用をすることは信義則に照らして許されない。 (イ) 一部消滅時効①について相当対価請求権が,対象製品の年度別売上により区別されるという主張は不合理である。また,被告は時効利益を放棄しており,あるいは,時効援用は信義則に照らして許されない。 特許法35条の職務発明の相当対価請求権は,「使用者等が受けるべき利益」,「使用者等が貢献した程度」を考慮して定められるが,「使用者等が受けるべき利益」は,対象製品の売上に直接リンクせず,実施料率・利益率等をも考慮しており,実施料率も,見返り製品の有無・内容,特許満了後の原末購入義務の有無・内容等々具体的な契約条件により左右される。利益率も,売上高とリンクしない。「使用者等が貢献した程度」も,対象製品の売上とは直接関連しない。 被告の主張によると,時効期間の経過後に対象製品の販売が開始された場合は,時効期間経過前に相当対価請求権を行使しても,売上がないので,対価はゼロとなり,結局,販売開始時を過ぎても,原告は相当対- 84 -価請求権を行使できないことなる。 明確に区別できない1つの訴訟物である相当対価請求権の事案では,消滅時効の援用が部分的に認められたり認められなかったりする考え方は不合理である。 (ウ) 一部消滅時効②について特許法35条3項,4項の「特許を受ける権利」には,我が国及び外国の各特許を受ける権利が含まれ,その対価請求権は,同条項の適用により一元的に発生するか(主位的主張),外国の特許を受ける権利の譲渡の対価請求権は,同条項の類推適用により発生する(予備的主張)から,我が国の物質特許に関してのみ時効消滅することはない。すなわち,我 り一元的に発生するか(主位的主張),外国の特許を受ける権利の譲渡の対価請求権は,同条項の類推適用により発生する(予備的主張)から,我が国の物質特許に関してのみ時効消滅することはない。すなわち,我が国において職務発明に係る各国の特許を受ける権利は,社会的事実としては,実質的に1個と評価される同一の発明から生じること,承継の時点において,どの国に特許出願をするのか,特許出願をした場合に特許が付与されるかどうかなどの点は確定していないことが多く,我が国の特許を受ける権利とともに外国の特許を受ける権利が包括的に承継されることも少なくないこと等からすると,本件支払は,我が国における本件物質発明に係る対価請求権に対しても,時効利益の放棄であり,あるいは,その時効援用は,信義則に照らして許されない。 a 時効利益の放棄について被告は,消滅時効の完成の事実を知って(乙6)相当対価の一部として本件支払をしたから,時効の利益を放棄したものである。 平成17年3月31日以前の売上に対応する部分の時効利益の放棄にはならないとの主張は,相当対価請求権を年度別売上に対応して区別するという考え方自体が不合理であるし,被告は,本件支払の際,消滅時効の完成の事実を知っている状況で,「時効の利益を放棄するものではないとの留保」もしなかったから,本件支払によって,相当- 85 -対価につき弁済すべき意思を明らかにしたものである。そして,当事者が,弁済したり,弁済しようとする意思を明らかにした場合には,権利関係は当事者間においてすでに明瞭となっているから,本件支払後に消滅時効の援用を認めることは,時効制度の趣旨を逸脱するものである。 b 信義則について本件支払は,被告の売上高,ライセンス収入,共同発明者間の寄与度等を基礎に金額が算定されており 滅時効の援用を認めることは,時効制度の趣旨を逸脱するものである。 b 信義則について本件支払は,被告の売上高,ライセンス収入,共同発明者間の寄与度等を基礎に金額が算定されており,恩賞ではなく,実績補償という相当対価としての支払であるから,時効完成後の当該債務の承認であり,時効援用は信義則に照らして許されない。 本件においては,原告は,単なる一人の研究者・従業員にすぎないのに対し,被告は,大企業・使用者で法的な知識・経験が圧倒的に勝っていたこと,被告は,消滅時効の完成を認識していたものであり,時効完成を知らなくても,一部弁済を行った場合に時効援用権を喪失する場合があることと比較して,債務者を保護すべき要請は低いこと,原告には,欺瞞的な方法等の悪質性はないこと,被告は,本件支払の前に時効援用権を留保しなかったから,被告を保護すべき要請は低いこと,原告は,本件支払に納得しないとの明確な意思表示をしたから,原告を保護すべき要請が高いこと等,時効援用が信義則に照らして許されない事情がある。 また,職務発明の相当対価請求においては,第三者が,当該請求権が存在しないとして,その上に築き上げた社会の法律関係というものは存在しないから,永続した社会秩序の維持を目的とする時効制度の存在理由はそもそも妥当しない。本来存在した権利を消滅させるという消滅時効制度からすれば,本来の権利を尊重し持続させる方が,正義に適うといえる。対等の立場ではない発明をした従業者を保護する- 86 -という特許法35条3項,4項の趣旨も十分に考慮すべきである。 第3 当裁判所の判断 1 外国特許についての特許を受ける権利の承継についての準拠法(1) 本件において,原告は,本件物質発明及び本件製法発明について,我が国に 旨も十分に考慮すべきである。 第3 当裁判所の判断 1 外国特許についての特許を受ける権利の承継についての準拠法(1) 本件において,原告は,本件物質発明及び本件製法発明について,我が国における各特許を受ける権利の承継に基づく相当対価の支払請求をするとともに,外国における各特許を受ける権利の承継に基づく相当対価の支払請求をしており,後者においては,対象となる権利が外国の権利である点で渉外的要素を含むため,その準拠法を決定する必要がある。本件においては,前提となる事実(2)イのとおり,職務発明である本件物質発明及び本件製法発明について,発明者である原告は,使用者である被告に対し,被告を出願人とする最初の特許出願である我が国における特許出願をした時点,すなわち本件物質発明については昭和55年2月8日ころ,本件製法発明については昭和60年11月13日ころにおいて,それぞれ我が国における各特許を受ける権利とともに,外国における各特許を受ける権利をも譲渡したと認めるのが相当であり,かかる譲渡は,日本法人である被告と,我が国に在住して被告の従業員として勤務していた日本人である原告とが,原告が行った職務発明について我が国において締結したものであるから,原告と被告間においては,かかる譲渡の成立及び効力の準拠法については,我が国の法律とする旨の黙示の合意が存在すると認めるのが相当である。 そして,外国における特許を受ける権利の譲渡の対価に関する問題は,譲渡の当事者がどのような債権債務を有するかという問題であり,譲渡当事者間における譲渡の原因関係である債権的法律行為の効力の問題であると解されるから,かかる譲渡の対価に関する問題については,我が国の法律が準拠法となると認めるのが相当である(法の適用に関する通則法7条)。 被告は,従業員に 債権的法律行為の効力の問題であると解されるから,かかる譲渡の対価に関する問題については,我が国の法律が準拠法となると認めるのが相当である(法の適用に関する通則法7条)。 被告は,従業員による職務発明について,特許を受ける権利を企業が原始取得する法制となっている国であるイタリア,スペイン,フランス,イギリ- 87 -ス,オランダ,ポルトガル及びベルギー(乙102~109)においては,被告が本件物質発明及び本件製法発明についての特許を受ける権利を原始取得しており,そもそも相当対価請求権は発生しない等と主張する。しかしながら,特許を受ける権利が当該外国においてどのように取り扱われ,どのような効力を有するのかという問題とは異なり,特許を受ける権利の譲渡に基づく対価請求に関する問題は,上記のとおり,譲渡の原因関係である債権的法律行為の効力の問題であると解されるから,準拠法は,当事者の意思に従って定められると解される。そして,前記のとおり,本件では,当事者の意思に従い,譲渡の対価に関する問題については,我が国の法律が準拠法となると認められるところ,被告の主張は,譲渡の対価の問題についても各国法を準拠法とすることを前提とするものであり,準拠法の選択において誤っており,これを採用することはできない。 (2) そして,特許を受ける権利は,各国ごとに別個の権利として観念し得るものであるが,その基となる発明は,共通する一つの技術的創作活動の成果であり,職務発明とされる発明に係る各国の特許を受ける権利は,社会的事実としては,実質的に1個と評価される同一の発明から生じるものであるということができること,我が国の特許を受ける権利と共に外国の特許を受ける権利が包括的に承継されるということも少なくなく,外国の特許を受ける権利には,我が国の特許を受ける の発明から生じるものであるということができること,我が国の特許を受ける権利と共に外国の特許を受ける権利が包括的に承継されるということも少なくなく,外国の特許を受ける権利には,我が国の特許を受ける権利と必ずしも同一の概念とはいえないものもあり得るが,このようなものも含めて,当該発明については,使用者等にその権利があることを認めることによって当該発明をした従業者等と使用者等との間の当該発明に関する法律関係を一元的に処理しようというのが,当事者の通常の意思であると解されること等からすると,職務発明に係る外国の特許を受ける権利を使用者等に譲渡した場合において,当該外国の特許を受ける権利の譲渡に伴う対価請求については,特許法35条3項及び4項の規定が類推適用されると解するのが相当である(最高裁平成18年10月- 88 -17日第三小法廷判決参照)。本件において,原告は,本件物質発明及び本件製法発明について,我が国における各特許を受ける権利の承継に基づく相当対価の支払請求をするとともに,外国における各特許を受ける権利の承継に基づく相当対価の支払請求をしているから,後者については,同条3項,4項が類推適用され,原告は,被告に対し,上記各外国の特許を受ける権利の譲渡についても,同条3項に基づく同条4項所定の基準に従って定められる相当の対価の支払を請求することができるというべきである。 この点について,被告は,イタリア,スペイン等欧州7か国においては,会社の従業員が会社の業務の過程で発明を行った場合の当該発明に基づく特許を受ける権利は,従業員ではなく会社に原始的に帰属するから(乙102~108),特許を受ける権利の承継はなく,特許法35条3項の適用はなく,類推適用の余地もないと主張する。 しかし,ここでの特許法35条3項,4項の類推適 会社に原始的に帰属するから(乙102~108),特許を受ける権利の承継はなく,特許法35条3項の適用はなく,類推適用の余地もないと主張する。 しかし,ここでの特許法35条3項,4項の類推適用の基礎は,各国の法制が我が国と同様であることにあるのではなく,特許を受ける権利が社会的事実としては実質的に1個であることや当該発明に関する法律関係を一元的に処理しようという当事者の通常の意思にあるのであり,後記2及び5で認定する事実関係に照らせば,本件でもそのような類推適用の基礎が存在すると認められ,被告の主張を採用することはできない。 (3) 以上のとおり,外国の特許を受ける権利の譲渡についても特許法35条3項,4項が類推適用されると解されるが,その類推適用を前提とした上で,特許を受ける権利は,各国ごとに,また各特許権ごとに,別個の権利として観念し得るものであり,特許を受ける権利の譲渡による相当対価請求についても,同様に,各国ごとに,各特許権ごとに別個の権利として観念し得るものであるから,その権利ごとに訴訟物を異にすると解するのが相当である。 2 本件の事実関係- 89 -前提となる事実及び後掲の各証拠によれば,以下の事実が認められる。 (1) 原告の経歴原告は,昭和41年に東京薬科大学薬学部薬学科を卒業し,昭和45年に九州大学大学院薬学研究科博士課程を中途退学して,同年4月,山之内製薬に入社し,被告の中央研究所化学研究部に配属され,昭和59年3月には,九州大学から薬学博士号を授与された。同年8月,中央研究所化学研究部主管研究員,平成5年1月,創薬研究本部第三創薬研究所所長,平成8年8月,臨床開発本部副本部長,平成11年6月,信頼性保証本部本部長となり,平成15年11月1日に定年退職した(乙49。被告にお 究部主管研究員,平成5年1月,創薬研究本部第三創薬研究所所長,平成8年8月,臨床開発本部副本部長,平成11年6月,信頼性保証本部本部長となり,平成15年11月1日に定年退職した(乙49。被告における役職については当事者間に争いがない。)。 (2) 本件職務発明に至る経緯ア昭和23年,アルキストは,6種のカテコラミンの交換神経作働性作用を調べるうちに,カテコラミンが種々の器官に働く場合の作用順位が異なることを発見し,その説明として,作用を受ける器官の側に2種類の受容体が存在することを想定し,受容体をαとβに分類することを提唱した。 以後,この分類に従って,多くの薬剤がα受容体刺激剤,β受容体刺激剤等に分類され,その薬理作用が説明されるようになった。 昭和33年,パウエルにより,最初のβ受容体遮断剤であるDCIが発見され,アルキストの説が実証された。その後,ランズらにより,β受容体をβ1,β2に細分した考え方が提唱され,それぞれに選択性の高い刺激剤及び遮断剤が開発されるに至った。さらに,昭和49年,ランガーにより,神経終末側すなわちシナプス前の受容体と奏功器官側の受容体があることが明らかにされ,前者がα2受容体,後者がα1受容体と呼ばれるようになった。 その後,従来のβ遮断剤に加えて,α・β両受容体遮断剤が開発された。 - 90 -イ被告は,昭和40年から,アドレナリン受容体に関する研究である交感神経作動薬の創製研究を開始し,昭和60年までの間に,少なくとも合計37のアドレナリン受容体関連の特許出願を行っていた。また,被告は,昭和43年にはβ遮断薬であるインデノロールを,昭和47年にはβ2刺激薬であるフォルモテロールを上市しており,その後,一分子でαとβの両遮断作用を併せもたせる試みをスルフ 行っていた。また,被告は,昭和43年にはβ遮断薬であるインデノロールを,昭和47年にはβ2刺激薬であるフォルモテロールを上市しており,その後,一分子でαとβの両遮断作用を併せもたせる試みをスルファモイルフェネチルアミン誘導体に求め,昭和51年にα・β遮断薬である塩酸アモスラロール(製品名・ローガン。以下「アモスラロール」という。)を上市した。 ウ原告は,山之内製薬の他の研究員とともに,昭和51年から,高血圧治療薬として上市されることとなった上記のα・β遮断薬であるスルファモイルフェネチルアミン誘導体であるアモスラロールの研究開発に参加した。 アモスラロールは,上記のとおり,交感神経α1及びβ1両受容体遮断作用をもち,一分子に不斉炭素1個をもつラセミ体である。原告は,昭和54年1月,アモスラロールを光学分割し,光学異性体(R体とS体)を得た。その光学異性体は,S体がα1遮断作用を優位に,R体がβ遮断作用を優位に示し,水酸基の立体配置が両遮断作用に強く関与していることが示唆された。 エそこで,原告は,昭和54年6月ころ,アモスラロールからOH基を除去したdeoxy誘導体(YM-11133)を合成し,それがどのような生物活性を示すかに着目し,その遮断作用を調べたところ,deoxy誘導体はα1遮断作用が強く,β1遮断作用の弱い化合物であり,そのα1遮断作用はアモスラロールのS体とほぼ同等の活性を示した。 この経過について,昭和59年ころに作成された原告の博士論文「スルホンアミド基を有する新しい交感神経α-,β-両受容体遮断剤及びα-受容体遮断剤の分子設計と合成研究」(乙123)では,「amosul- 91 -alol(11a)はα-,β-両遮断作用を持ち,α-受容体遮断作用とβ-受容体遮断作用の比は7 受容体遮断剤及びα-受容体遮断剤の分子設計と合成研究」(乙123)では,「amosul- 91 -alol(11a)はα-,β-両遮断作用を持ち,α-受容体遮断作用とβ-受容体遮断作用の比は7:1であった。またこのα1-受容体遮断作用とα2-受容体遮断作用は,α1-受容体に約525倍の選択性を持っており,もし11aからβ-遮断作用を消去してα-遮断作用を残すことができれば,抗高血圧剤に適したα-遮断剤の開発が可能と考えられる。まず著者は,11aの光学異性体のうち,(+)体が強いα-遮断作用と弱いβ-遮断作用を示すα-遮断作用優位の化合物であることに着目し,11aの水酸基を除去したdeoxy誘導体である・・・(23a)のα-,β-両遮断作用を知るために23aを合成し,そのα-,β-両遮断作用を調べた。」(53頁)と述べられている。 当時の外国文献では,βアドレナリン遮断薬において,OH基がβ遮断活性に必要なこと(乙68),不可逆的アドレナリンα受容体遮断剤である(R)-及び(S)-N-(2-クロロエチル)-N-メチル-2-フェニル-2-ヒドロキシエチルアミン及び関連剤においてβ位のOH基の存在がα遮断作用を減弱させること(乙69)が示されていた。 オ原告は,昭和55年2月18日,山之内製薬内の自主的な勉強会(セミナー)で,YM-11133が強いα1遮断作用をもっており,立体化学的な考察により,これをリード化合物として,新規のα1遮断剤の創製が可能であるとの考えを発表した。同発表により,YM-11133の最適化(構造修飾)についての研究は,会社における正式の研究業務として取り上げられることになった。原告は,同発表において,乙69の文献の内容を紹介している。 カ原告とA3は,YM-11133の最適化(構造修飾)が正式 いての研究は,会社における正式の研究業務として取り上げられることになった。原告は,同発表において,乙69の文献の内容を紹介している。 カ原告とA3は,YM-11133の最適化(構造修飾)が正式の研究業務として取り上げられたことから,その研究を行い,ベンゼンスルホンアミド環の2位置換基にはOCH3(メトキシ基)が,フェニルオキシ環のo位置換基にはOCH2CH3(エトキシ基)がそれぞれ最適であると判- 92 -断し,A3は,昭和55年11月,YM-12617(ラセミ体)を合成した。 この経緯について,原告の前記博士論文では,「α-,β-遮断剤である11a(判決注:アモスラロール)の遮断作用は,ベンゼンスルホンアミド環の2位置換基及びアミン部フェニル環のオルト位置換基が活性増強に大きく関与していた。これらの知見を考慮に入れ・・・(23j~23n)を合成した。・・・それらの薬理試験の結果・・・(23m)がα-遮断剤として特にすぐれた薬理作用を示したので23mの誘導体(23j~23aa)を合成し,これらの構造活性相関を検討した。」(61頁)とされている。 また,昭和55年7月3日付けの山之内製薬内の報告書(作成者:A8,A9,A5)においては,YM-11133(AB196)のスクリーニング結果について記載されているが,YM-11133の置換部位(被告の主張するC部)について,CH3(メチル基)を最もα遮断作用の強い基として挙げている。 キ原告は,ラセミ体であるYM-12617の生物活性本体を見極めるため,合成により光学異性体を得ることを着想し,当初,YM-12617の光学分割を試みたが,よい結果が得られなかったため,光学活性な中間体を用いて,昭和57年9月,R(-)体とS(+)体の各光学異性体を合成した。このうち生物活 ることを着想し,当初,YM-12617の光学分割を試みたが,よい結果が得られなかったため,光学活性な中間体を用いて,昭和57年9月,R(-)体とS(+)体の各光学異性体を合成した。このうち生物活性本体であるR体(YM-12617-1)が,本件医薬品である塩酸タムスロシンである。塩酸タムスロシンは,従来のα1遮断剤であってプラゾシンと比較して約5倍のα1遮断作用を有するとともに,尿道と血管との選択性を比較すると,プラゾシンが血管より尿道に5.1倍の選択性を示したのに対し,塩酸タムスロシンは尿道に13.3倍の高い選択性を示した。 ク原告は,前記博士論文において,塩酸アモスラロールの開発動機につい- 93 -て,「高血圧患者の内で大きな比重を占める昇圧原因が特定されない本態性高血圧や腎性高血圧などの病型では,1種類の薬剤で血圧が十分にコントロールされるとは限らずむしろ2,3種類の薬剤を併用して目的を達せられることが多い。これら併用療法の1つとして,α-遮断剤とβ-遮断剤の併用による高血圧治療は各遮断剤による単独療法に比べ副作用の発現が少なく,血圧の良好な調整が行われ著効を見ることが多いと報告されている。著者らは,これら両遮断作用を持つα-,β-遮断剤が高血圧の治療において純粋なα-遮断剤やβ-遮断剤よりすぐれた治療効果が期待される点に着目し,α-,β-両受容体を遮断する抗高血圧剤の合成研究を開始した。著者らが研究に着手した1976年には,両受容体を遮断する化合物としてlabetalolが唯一知られており開発途上にあった。」(10頁)と述べ,YM-12617の開発について,「YM-12617(23m)は高血圧や心不全の治療剤としての可能性が示唆されており,現在それぞれの領域における治療剤として開発が進められている。」(66頁,76 ,YM-12617の開発について,「YM-12617(23m)は高血圧や心不全の治療剤としての可能性が示唆されており,現在それぞれの領域における治療剤として開発が進められている。」(66頁,76頁)と述べている(以上,アないしクにつき,甲22,23,26,乙21,32,34,36,37,68~70,123)。 (3) 塩酸タムスロシンの特許出願とその当時の市場の状況塩酸タムスロシンについては,昭和55年2月8日,特許出願された。 本件特許出願時から本件医薬品の販売が開始される平成5年ころにおいて,男子高齢者にみられる前立腺肥大症及びそれに伴う排尿障害,夜間頻尿等は,年齢のせいであるとして放置されていることも多かった。手術による治療も行われていたが,欧米では次第に医療費を圧迫するとして問題化されるようになっていた(乙75,80)。 ハルナール販売開始ころにおいては,我が国における前立腺肥大症の治療薬としては,α遮断薬としてファイザー株式会社が製造販売するミニプレス- 94 -錠があり,これはプラゾシン塩酸塩を成分とするものであった(乙55)。 このほか,プロスタール,エビプロスタッド,パーセリン,パラプロスト,ブラダロン等が医療機関において先行医薬として使用されていた(乙86)。 しかし,山之内製薬内においては,本件特許出願当時,ハルナールを上市した場合の市場規模については,患者統計では患者数が少ないとして,市場性を疑問視する意見もあった(乙39)。 (4) 塩酸タムスロシン開発後の経緯ア山之内製薬内における薬理部門の昭和56年6月2日付け「研究進行状況報告書」(報告者:A8,A9,A5)(乙38)では,「AB250のα遮断作用-invivo-」をテーマの1つとし,そこでは,「 山之内製薬内における薬理部門の昭和56年6月2日付け「研究進行状況報告書」(報告者:A8,A9,A5)(乙38)では,「AB250のα遮断作用-invivo-」をテーマの1つとし,そこでは,「今後の計画・方針」として,「下部尿路に対するAB250の作用の検討」と題して,「膀胱,尿道を含めて下部尿路と呼ぶが,まず摘出膀胱についてinvitroの系で始めることにした。膀胱は組織学的にも薬理学的にも2つに大別して検討されるべきと考えられている。すなわち膀胱体部(Body)と膀胱頸部(Base)である。d-receptorは膀胱頸部に多く,収縮反応もでやすい(NE10-8~10-7から)。そこでイヌの膀胱頸部を用いて検討することとした(6月よりstart)。」とされている。 イ昭和57年2月25日付けの山之内製薬の研究企画部作成の「YM-12617第1回評価委員会」の議事メモ(乙39)によれば,同月24日,YM-12617を排尿困難症への適応薬として開発テーマ化することについての会議が開かれ,「市場性」に関する部分には,「①前立腺肥大;患者統計では予想に反し極めて小さい。軽度~重度迄全てを含めると(泌尿器科以外の内科等も含める)かなり大きな潜在患者数を期待出来ないのであろうか。②前立腺肥大以外の適応;頻尿への可能性も期待される- 95 -ので,この部分での市場も考慮して欲しい。③販売戦略;本領域は新しく市場を開拓するとの態度が必要ではなかろうか,市場創出の因子も考慮して市場性の予測をして欲しい。④類似品;ブロダロンは併用される可能性はあっても,同一の対象ではない。エビプロスタットetc.の領域,或いは八味地黄丸,抗アンドロジェン剤の市場を参考にして考えられないか。」との記載がある。また,「今後の進め方」については,「①市 性はあっても,同一の対象ではない。エビプロスタットetc.の領域,或いは八味地黄丸,抗アンドロジェン剤の市場を参考にして考えられないか。」との記載がある。また,「今後の進め方」については,「①市場性;これを明白にすることが先決,②開発テーマ化;finalscreengの対象とするか否かは今後検討,又,他テーマの関係についても今後検討,③評価の時期;prazosinの治験が行われて,これが明白に先行するとYM-12617の意味が薄れてしまう為,評価は早急に行う必要がある。次回の評価委員会は1ケ月以内に開催。」との記載がある。 ウ昭和57年4月9日付けの山之内製薬の研究企画部作成の「第2回AB-250(YM-12617),排尿困難症,評価委員会」議事メモ(乙40)によれば,会議の結論として,AB-250について,「①新市場の為,予測が困難で市場性に問題が残るが,興味ある領域の為,競合品に先行することが重要で開発テーマを前向きに検討する。②開発テーマ化の時期,判断項目(スケジュール,経ヒ,採算性etc.)については,開発テーマ化事務局(研究開発部)に調整を一任する。」とされた。討論の内容としては,「AB-250に対する綜合的判断(技術論)」として「①将来性のある化合物であり臨床にて効果を追求する価値がある。②ユニークな適応に魅力あり。③本適応の場合,競合品(prazosin)の関係から開発が急がれる。④何れにせよ,市場性の検討を十分に行わない限り,問題が残るのではないか。」とされた。 エ薬理部門では,その後,YM-12617光学異性体のα遮断作用の検討が行われ,昭和58年1月4日付けの研究進行状況報告書(乙58)で- 96 -は,ラセミ体を(-)体と(+)体に光学分割した上で,(-)体及び(+)体のYM-126 7光学異性体のα遮断作用の検討が行われ,昭和58年1月4日付けの研究進行状況報告書(乙58)で- 96 -は,ラセミ体を(-)体と(+)体に光学分割した上で,(-)体及び(+)体のYM-12617のα遮断作用の麻酔ラットでの検討結果として,(-)体のYM12617のα遮断作用は(+)体のYM12617より455倍強力であり,プラゾシン(prazosin)の7倍強力であることが報告された。 オ上記のとおり,光学異性体についての研究の結果,(-)体の優れた効果が確認された。しかし,当時,排尿困難症の市場規模は小さいものと予測する見方があり,低コスト開発が目的とされていたことや,(-)体の大量合成法が確立していなかったことのため,山之内製薬はラセミ体での開発をすることとし,非臨床試験を経て,昭和58年からラセミ体の臨床第Ⅰ相試験に入った。第Ⅰ相単回経口投与試験では起立性障害が認められ,漸増法を用いても起立性障害を防止することができなかった。ラセミ体の第Ⅱ相用量設定試験では徐放性製剤を用いたところ,徐放化により起立性障害を防止できることが示唆された。 しかし,そのころ,欧米では,ラセミ体開発の是非について議論がされており,半分の不活性体を含むラセミ体よりも,活性体本体のみをヒトに使用すべきであるとの考え方が主流を示す傾向にあり,山之内製薬が提携交渉を進めていた米国のイーライ・リリー社は,ラセミ体による開発は近い将来欧米では認められなくなるのではないかとの見地から,山之内製薬に対し,光学分割した(-)体で開発を進めるべきであると助言した。 そこで,山之内製薬は,方針を変更し,ラセミ体での開発を第Ⅱ相用量設定試験で中止し,(-)体(塩酸タムスロシン)で開発を進めることとし,改めて非臨床試験から開始した(以上に と助言した。 そこで,山之内製薬は,方針を変更し,ラセミ体での開発を第Ⅱ相用量設定試験で中止し,(-)体(塩酸タムスロシン)で開発を進めることとし,改めて非臨床試験から開始した(以上につき,甲18,乙41)。 カ本件製法発明の特許出願本件製法発明は,昭和60年11月13日,原告及びA3を発明者として出願された。その内容は,別添本件製法発明の特許公報の特許請求の範- 97 -囲1項に示されるフエネチルアミン誘導体と置換フエノキシアセトアルデヒドとを反応させ,ついで反応生成物を還元することによりなる同項記載の置換フエネチルアミン誘導体又はその塩の製造法等である。同方法は,光学活性なフエネチルアミン誘導体を用いることにより,ラセミ化を伴わず,対応する立体配置を保持した光学活性な置換フエネチルアミン誘導体を容易に製造できる方法であり,工業的な製法にも適している。この方法は,アルキル化ではなく,還元アミノ化によるところに特徴があった。同発明は,原告が主に開発したものであるが,開発の過程でA3の助力も得たものである(以上につき,争いのない事実,甲1の2,甲26)。 キ大量合成法の確立山之内製薬とイーライ・リリー社は,昭和60年9月から10月にかけて開催されたジョイントミーティングにおいて,塩酸タムスロシンの製造方法について,医薬品として十分な光学及び化学純度をもつ製造法について,2社でその製法を競い,優れた製法を確立した方の会社の製造方法を採用することとなった。 原告は,昭和60年10月,原告がチームの責任者となり,他の2名の合成研究員,1名の分析研究者とともに,塩酸タムスロシンの大量合成法の研究を開始した。 原告らが開発した製造方法は,p-メトキシフェニルアセトンを出発 告がチームの責任者となり,他の2名の合成研究員,1名の分析研究者とともに,塩酸タムスロシンの大量合成法の研究を開始した。 原告らが開発した製造方法は,p-メトキシフェニルアセトンを出発原料として,4段階の反応を経て得られた光学活性なアミン体及びo-エトキシフェノールから1段階の反応でブロム体を得て,これにより塩酸タムスロシンを合成するという方法であり,不斉合成法を導入して光学活性なアミン体を得ることに特徴があった。この方法は,昭和61年2月に確立し,この方法により合成された塩酸タムスロシンは医薬品として十分な純度及び光学純度を有していたため,同年3月に開催されたイーライ・リリー社との合同会議で採用された。 - 98 -これにより,昭和61年4月には,前記のとおり,塩酸タムスロシンに変更して開発を進めることが決定し,非臨床試験を経て,同年11月から臨床試験が開始された(以上につき甲23,27)。 ク徐放製剤の開発YM-12617については,当初速放性の通常製剤(裸錠)による製剤が検討されたが(乙42),昭和58年11月ころから,溶出制御型製剤の検討が開始された(乙43)。 これは,乳糖倍散による第Ⅰ相試験において,体位変換による起立性障害(起立性低血圧等)がみられ,その原因の1つとして,急速な吸収による血中濃度の急激な上昇が考えられたためである。 塩酸タムスロシン徐放製剤カプセルの開発は,昭和61年4月から平成2年6月の4年余りにわたって行われた。その開発に当たっては,塩酸タムスロシンの基本特性としての物理的化学的性質と生物薬剤学的性質とが検討された。物理的化学的性質については,3種の試験液(pH1.2,4.0,6.8)を用いて溶解速度が測定され,原体の溶解速度はい ムスロシンの基本特性としての物理的化学的性質と生物薬剤学的性質とが検討された。物理的化学的性質については,3種の試験液(pH1.2,4.0,6.8)を用いて溶解速度が測定され,原体の溶解速度はいずれの試験液でも試験開始後10分で90%以上と速く,消化管内でも速やかな溶解性を示すと考えられた。生物薬剤学的性質については,ラットにおける吸収部位を14C-塩酸アムスロシンを用いてinsitu結紮消化管ループ法で検討した結果,本薬は胃では吸収されにくく,十二指腸,空腸,回腸及び結腸では良好に吸収されることが確認された。また,消化管内残存溶液について薄層クロマトグラフィーを行った結果,本薬は消化管内において安定であった。 イヌに乳糖倍散を経口投与したときのバイオアベイラビリティー(生物学的利用能)を水溶液と対照して比較すると,乳糖倍散を投与したときは,水溶液投与時に比べてTmax(最高血中濃度到達時間)がやや遅延し,Cmax(最高血中濃度)もやや減少したが,血漿中濃度-時間曲線- 99 -下面積(AUC)は水溶液の93%の値を示した。このことから,乳糖倍散は消化管からの吸収は良好で,速やかな血漿中濃度の立ち上がりを示すことが確認された。 以上の試験結果から,乳糖倍散投与時に認められた体位変換に伴う起立性障害は,血漿中濃度の急激な立ち上がりが原因の1つと考えられたため,上記物理的化学的性質及び生物薬剤学的性質を踏まえて,主薬と結晶セルロースの混合物にメタアクリル酸コポリマーLDを加えて造粒し,この造粒物に水系のメタアクリル酸コポリマーLDでコーティングし,乾燥して粒を得た後,これに滑沢剤を配合してカプセルに充填し,硬カプセル剤とした製剤を開発した。開発した製剤は,被膜のコート量の相違するCR-XとCR-Yの2種類 酸コポリマーLDでコーティングし,乾燥して粒を得た後,これに滑沢剤を配合してカプセルに充填し,硬カプセル剤とした製剤を開発した。開発した製剤は,被膜のコート量の相違するCR-XとCR-Yの2種類であった。 これらを用いてイヌにおけるバイオアベイラビリティー試験及び健康成人におけるバイオアベイラビリティー試験を行ったところ,CR-X及びCR-Yは,乳糖倍散と比較し,血漿中未変化体濃度の急激な立ち上がりを回避し,バイオアベイラビリティーを損なうことなく,徐放化されていることが確認された。その結果,被膜のコート量の差がバイオアベイラビリティーに影響を与えるものではないと判断され,製造時の再現性を考慮して,コート量を2%とするCR-Yが採用された。 しかし,CR-Y製剤では,投与量が増加すると服用量が多くなり,飲みにくくなることが懸念されたため,CR-Y製剤の添加量を全て半量に処方したCR-M製剤を製造し,これらを健康成人に食後経口投与した生物学的同等試験の結果,両製剤は生物学的に同等であるとみなされたため,最終製剤としてCR-Mが採用された。 その結果,副作用である起立性障害の出現を低下させるとともに,1日1回投与で効果のある徐放性製剤の開発に成功した(以上につき乙44,45)。 - 100 -ケ徐放製剤を用いた臨床試験被告は,被告が開発した徐放製剤を使用して,薬の溶出を制御して臨床試験を実施した。その結果,至適用量0.2mg/dを1日1回投与することが適切であるとの結果を得た。被告は,上記投与により,初回より固定用量で投与しても,起立性障害を起こすことはなく,血圧にも影響を及ぼすことなく,前立腺肥大に伴う排尿障害を改善することを確認し,また,1年間の長期投与試験においても有効性 記投与により,初回より固定用量で投与しても,起立性障害を起こすことはなく,血圧にも影響を及ぼすことなく,前立腺肥大に伴う排尿障害を改善することを確認し,また,1年間の長期投与試験においても有効性が維持されることを確認した(乙32,37)。 コ特許成立後の被告の事業活動本件物質特許は,昭和63年6月8日に,本件製法特許は平成2年4月4日にそれぞれ登録されたが,その後における被告の事業活動の内容は次のとおりである。 (ア) 薬事法に基づく承認申請手続被告は,平成2年10月,本件物質特許の実施品である医薬品を「ハルナール0.2g」及び「ハルナール0.1g」の名称で,いずれも効能又は効果を「前立腺肥大症に伴う排尿障害」として,薬事法に基づく医薬品製造承認申請をした(乙60)。同承認申請手続において,被告は厚生労働大臣に対し,100点余りの資料を提出した(乙46)。 ハルナールは,平成5年7月2日,医薬品としての承認を得た。 (イ) 国内での営業活動a 被告は,平成5年3月ころ,ハルナールの医薬品承認に先立って,ハルナールの新発売へ向けた準備行動の立案を全国の支店長等に指示し,各支店では,同年ころ,泌尿器科医や内科医・外科医に対する前立腺肥大症についてのアンケート調査を行った(乙82,85)。 ハルナール・プロジェクトと称された活動は,①地域の医療機関の把握,②重点的に訪問活動を実施すべき医療機関の選定,③その医療- 101 -機関に対する集中的な情報提供及び本件医薬品の採用の確約,④前記①ないし③の成果の確認作業という段階を追って進められた(乙122)。 b 被告は,ハルナールの営業活動として,平成8年から平成12年にかけて,タレ 供及び本件医薬品の採用の確約,④前記①ないし③の成果の確認作業という段階を追って進められた(乙122)。 b 被告は,ハルナールの営業活動として,平成8年から平成12年にかけて,タレントが医師にインタビューする形式の新聞広告を日本経済新聞,朝日新聞等の全国紙,北海道新聞等の地方紙に20回以上にわたり掲載するなどした(乙74,75,80)。 c 被告は,平成14年,15年ころには,排尿障害啓発キャンペーンと称して,排尿障害改善薬に関する記事を全国紙,地方紙に掲載するとともに,無料で啓発冊子を配布した(乙76~78)。 d 被告は,平成14年1月から平成16年12月にかけて,北海道から九州にわたる全国100か所余りの会場で,前立腺肥大又は排尿障害に関する市民公開講座を開催し,これらの障害の治療についての啓発活動を行った(乙79)。 また,被告は,平成14年5月から平成16年11月にかけて,北海道から沖縄にわたる全国100か所近くの会場で,医師を対象とする学術講演会を開催し,ハルナールについての情報提供を行った(乙88,89)。 (ウ) 海外でのライセンス契約に関する事業活動a 米国市場におけるライセンス契約被告は,重要市場である米国市場に進出するため,昭和57年ころから,米国の大手製薬企業であるイーライ・リリー社との合弁会社設立を視野においた包括的な提携交渉を開始し,塩酸タムスロシンについても,将来的に合弁会社において販売等を行うことを前提として,ライセンス許諾に関するオプション契約を締結し,各種前臨床試験,臨床試験を開始した。しかし,臨床試験の結果,起立性障害等の副作- 102 -用が懸念されることを理由として,イーライ・リリー社は,塩酸タム ス許諾に関するオプション契約を締結し,各種前臨床試験,臨床試験を開始した。しかし,臨床試験の結果,起立性障害等の副作- 102 -用が懸念されることを理由として,イーライ・リリー社は,塩酸タムスロシンを製品化することを断念する意向を示し,平成元年10月,被告とイーライ・リリー社との間の提携交渉は終了した。 この経験を踏まえて,被告は,米国市場での自社開発(臨床試験の実施)を決断し,同試験の実施と並行して,●(省略)●との間で新たにライセンス交渉を開始した。しかし,両者とも,塩酸タムスロシンには起立性障害等の副作用の問題があることや,前立腺肥大症の治療薬の市場は必ずしも将来性が見込めない等の理由から,ライセンス交渉は頓挫した。 被告は,その後,BI社との間で,平成5年4月20日に欧州ライセンス契約を,同年12月15日に北米ライセンス契約を締結した。 被告は,●(省略)●米国市場における市場拡大に貢献した(以上につき,乙90~96,122)。 b 欧州市場におけるライセンス契約前記のとおり,BI社は,被告との間のライセンス契約に基づき,ドイツ,フランス,イタリア,スペイン,オーストリア,ギリシャ,ポルトガル等で本件製品を販売し,イギリスでも本件製品のOTC(一般用医薬品)を販売している。 (エ) 欧州における自社販売被告は,昭和63年以降,オランダ等で塩酸タムスロシンの臨床試験を実施し,平成7年,オランダで販売承認を取得し,以後欧州各国で販売承認を取得し,欧州子会社による販売を開始した。 被告は,泌尿器科領域の三大学会(国際泌尿器科学会,米国泌尿器科学会,欧州泌尿器科学会)に参加し,臨床試験の結果を紹介するなどして塩酸タムス を取得し,欧州子会社による販売を開始した。 被告は,泌尿器科領域の三大学会(国際泌尿器科学会,米国泌尿器科学会,欧州泌尿器科学会)に参加し,臨床試験の結果を紹介するなどして塩酸タムスロシンの知名度を高めた(以上につき,乙122)。 (オ) 売上の状況- 103 -山之内製薬が,平成16年9月22日に発行したニュースリリースによれば,「『タムスロシン』は,同社(山之内製薬)が創製した前立腺・尿道平滑筋に選択性が高いα1ブロッカーである。血圧に影響を与える血管平滑筋にほとんど作用することなく尿道の緊張をやわらげ排尿障害を改善する。1993年に日本で発売以来,世界65ヶ国で販売しており,昨年度の全世界での売上高(ライセンシーの売上を含む現地売上高)は1900億円以上に達している。その有効性と高い安全性から着実に市場に浸透し,前立腺肥大症関連業のトップブランドとしての地位を確立している。」とされている(乙100)。 (5) 成功確率等ア製品開発の開始から製品化までの期間(開発リードタイム)は,平成10年の時点で,全事業分野の平均が3年とされるのに対し,医薬品の分野では13.2年とされている。これは新規物質が創製された後,非臨床試験,臨床試験を経て医薬品の承認を得るまでに長期間を要するためである(乙62,63,65)。 イ我が国における医薬品製造業の研究費は,平成20年度において1兆2956億円であり,売上高に対する研究費の比率は11.74%であり,製造業の中では最も比率が高い。また,平成21年版厚生労働白書によれば,新薬の開発には1品目約500億円を要するといわれている(乙62,64)。 ウまた,我が国製薬工業協会の調査によれば,平成16年から平成20年までの間に, 成21年版厚生労働白書によれば,新薬の開発には1品目約500億円を要するといわれている(乙62,64)。 ウまた,我が国製薬工業協会の調査によれば,平成16年から平成20年までの間に,合成(抽出)された化合物数61万1576のうち,厚生労働大臣の承認を取得するまでに至った化合物は24であり,その比率は2万5482分の1であった。 本件に関連する分野においても,被告は昭和51年8月のAB-1から昭和60年2月のAB327に至るまでの327の化合物を合成し(乙6- 104 -7),そのうち,ハルナールとローガン(アモスラロール)という2つの医薬品を上市したから,製品に至る率は2/327=0.61%であった。 (6) 原告に対する処遇原告は,前記のとおり,平成2年8月1日中央研究所第二創薬研究所副所長,平成5年1月1日創薬研究本部第三創薬研究所長,平成8年8月1日臨床開発本部副本部長,平成10年8月1日信頼性保証本部品質保証部長,平成11年6月29日信頼性保証本部長兼品質保証部長,同年8月1日信頼性保証本部長,平成15年6月27日信頼性保証担当役員付となり,同年11月1日に退職した(乙49)。 原告の退職前年(平成14年)の年収は●(省略)●であり,平成8年から平成14年までの期間の収入は合計●(省略)●であった(乙50)。 本件物質発明の発明者5名のうち,原告以外の4名の処遇をみると,A5は取締役社長,会長となったが(争いがない),A2の最終職歴は●(省略)●,A3は●(省略)●,A4は●(省略)●であった(乙71の1~3)。 (7) その他塩酸タムスロシンの創製については,財団法人大河内記念会から平成21年度の第56回大河内賞を受賞し(甲31),その他の賞も受 ●(省略)●であった(乙71の1~3)。 (7) その他塩酸タムスロシンの創製については,財団法人大河内記念会から平成21年度の第56回大河内賞を受賞し(甲31),その他の賞も受賞した(甲23)。 3 使用者が受けるべき利益(争点(1))(1) 相当対価額の算定における使用者が受けるべき利益の意義ア特許法35条4項は,同条3項所定の「相当の対価」の額について,「その発明により使用者等が受けるべき利益の額及びその発明がされるについて使用者等が貢献した程度を考慮して定めなければならない」と規定している。 - 105 -したがって,相当の対価を算定するに当たっては,「その発明により使用者が受けるべき利益の額」及び「その発明がされるについて使用者等が貢献した程度」を考慮すべきである。 そして,上記使用者が受けるべき利益及びその発明がされるについて使用者が貢献した程度については,本来,使用者が特許を受ける権利を承継した時点での価値として把握されるべきものであるが,権利承継の時点までの資料によってそのような価値を把握することは困難であり,相当対価の算定に当たっては,使用者等が特許を受ける権利を承継して特許を取得した結果,現実に利益を得たときはその得た利益の額及びその利益を得るについて使用者が貢献した程度等の権利承継後の事情を資料として判断するのが相当である。 イ 「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」使用者等は,職務発明について,特許法35条1項により無償の通常実施権を取得するから,「その発明により使用者等が得るべき利益」とは,使用者等が通常実施権の実施により得るべき利益を控除した特許発明の実施を排他的に独占することにより得るべき利益というべきである。し 施権を取得するから,「その発明により使用者等が得るべき利益」とは,使用者等が通常実施権の実施により得るべき利益を控除した特許発明の実施を排他的に独占することにより得るべき利益というべきである。したがって,特許権者たる使用者等が他社に特許をライセンスして利益を得ている場合には,それは,使用者等が特許発明の実施を排他的に独占することによって得るべき利益を算定する基礎となる。他方,特許権者たる使用者等が自ら発明を実施している場合における,特許発明の実施を排他的に独占することによって得るべき利益とは,特許法35条1項により使用者等に認められる無償の通常実施権分に基づく売上高を除いた売上高(以下「超過売上高」という。)を発明の実施に関する諸般の事情を考慮して定めた上で,その超過売上高を基礎として,それが他社にライセンスされた場合の他社に対するライセンス料相当額として算定するのが相当であり,具体的には超過売上高に想定実施料率を乗じた額となる(以下「超過利- 106 -益」という。)。 (2) 自己実施による独占の利益(争点(1)-1)ア我が国における自己実施による超過利益(ア) 本件医薬品(ハルナール)の売上高本件物質発明に係る特許権の存続期間は昭和63年6月8日から平成17年2月8日までであり,本件製法発明に係る特許権の存続期間は平成2年4月4日から平成17年11月13日までであるから,本来,各特許権ごとに超過利益を算出すべきである。しかし,本件物質発明に係る特許は物質特許であって,その存続期間中は,他社は被告の許諾を受けない限りその物の発明に係る医薬品を製造販売することはできないのであるから,本件物質発明に係る特許権の存続期間である昭和63年6月8日から平成17年2月8日までの間は,被告が得た は被告の許諾を受けない限りその物の発明に係る医薬品を製造販売することはできないのであるから,本件物質発明に係る特許権の存続期間である昭和63年6月8日から平成17年2月8日までの間は,被告が得た超過利益は,本件物質発明による特許がもたらした超過利益とみて差し支えないものであり,本件製法発明に係る特許による超過利益については,本件物質発明に係る特許の存続期間満了後である平成17年2月9日から本件製法発明に係る特許権の存続期間の満了日である平成17年11月13日までの超過利益を算定すれば足りるものというべきである。 そこで,本件物質発明及び本件製法発明に係る特許権の存続期間中における本件医薬品(ハルナール)の日本国内における売上高を求める必要がある。 平成5年8月~平成17年11月13日(本件製法特許の存続期間満了日)の本件医薬品(ハルナール)の被告自社販売(日本国内分)の正味売上(単位億円)は,次のとおりである。平成17年4月から平成17年11月13日までの売上については,平成17年4月から平成18年3月までの売上から日割計算により算出したものである(乙109)。 - 107 -期間正味売上(億円)平成5年8月~平成6年3月 平成6年4月~平成7年3月 平成7年4月~平成8年3月 平成8年4月~平成9年3月 平成9年4月~平成10年3月 平成10年4月~平成11年3月 平成11年4月~平成12年3月 平成12年4月~平成13年3月 平成13年4月~平成14年3月 平成14年4月~平成15年3月 平成15年4月~平成16年3月 平成16年4月~平成17年3月 平成17年4月~平成17年11月13日 年4月~平成14年3月 平成14年4月~平成15年3月 平成15年4月~平成16年3月 平成16年4月~平成17年3月 平成17年4月~平成17年11月13日 合計4209上記のうち,本件物質発明の存続期間中である平成5年8月から平成17年2月8日までの期間を日割計算して算出した売上高は3858億円である(平成16年4月から17年3月までの期間については,次のとおり,平成17年2月8日までの以下の日割計算による。494億×(10/12か月+1/12か月×8/28日)=423億。原告が別表1,2で本件物質発明分として主張する額と日割り計算の方法は異なるもののほぼ同額である。)。 また,平成17年2月9日から平成17年11月13日までの日本製法特許のみの存続期間中の売上高は351億円である(平成17年2月9日から同年3月31日までの期間については以下の日割計算による。 - 108 -494億×(1/12か月×20/28+1/12か月)=71億。原告が別表1,2で本件製法発明分として主張する額と日割り計算の方法は異なるもののほぼ同額である。)。 (イ) 超過売上高前記のとおり,本件医薬品(ハルナール)は,α遮断剤としては尿路に対する選択性が高く,それまでの前立腺肥大症の治療薬の先行医薬であったファイザー株式会社のミニプレス錠(有効成分はプラゾシン塩酸塩)と比較しても,高い尿路選択性を有する発明であり,他の先行医薬品と比較しても医薬品としての技術的優位性を有しており,そのため,その後の市場におけるシェアは高く,前立腺肥大症関連薬のトップブランドとしての地位を確立した。また,その安全性も高いものであった。 これらの事情を考慮すると,日本物質特 おり,そのため,その後の市場におけるシェアは高く,前立腺肥大症関連薬のトップブランドとしての地位を確立した。また,その安全性も高いものであった。 これらの事情を考慮すると,日本物質特許による独占の利益は売上高の50%とみるのが相当である。 したがって,我が国おける日本物質特許による超過売上高は1929億円となる。 被告は,この点について,本件物質発明に係る特許権の存続期間が満了した後も,年間販売数量は大幅な減少なく推移しており,自社販売による売上においては特許の法的独占力以外の要素が大きく貢献していたと主張する。確かに,被告が発表した決算資料(乙30の1,2)によれば,本件物質発明に係る特許権の存続期間が満了した後においても,ハルナールについては,相当額の売上が維持されていることが認められる。しかし,同証拠によれば,特許の存続期間満了後,売上高が次第に減少している事実も認められ,上記の特許の独占力を否定することはできない。一旦特許によって独占状態を築いた上で,その存続期間満了後に,どれだけ売上高を維持できるかは,被告の努力に係るところがあるとはいえるものの,存続期間満了後の売上高は相当対価算定の資料とは- 109 -ならないのであるから,その事実を直接の評価の対象とすることも相当でない。被告による独占力以外の要素は,後記のとおり,使用者の貢献度の問題として検討するのが相当である。 また,製法発明は物質発明に比較すれば独占力は弱いものの,物質発明の存続期間満了後も,本件医薬品(ハルナール)が相当程度の売上額を維持していること(乙30の1)にかんがみれば,本件製法発明に係る特許による独占の利益は30%とみるのが相当であり,その超過売上高は105億3000万円となる。 ( )が相当程度の売上額を維持していること(乙30の1)にかんがみれば,本件製法発明に係る特許による独占の利益は30%とみるのが相当であり,その超過売上高は105億3000万円となる。 (ウ) 想定実施料率本件物質発明及び製法発明の価値に照らすと,想定実施料率は,本件物質発明については●(省略)●(後記(3)ウ(ア)参照),本件製法発明については,物質発明との独占力の相違からみて●(省略)●とみるのが相当である。 (エ) 超過利益額以上によれば,日本物質特許による超過利益の額は●(省略)●(1000万円未満切捨て。以下同じ。),日本製法特許による超過利益の額は●(省略)●となる。 イ欧州子会社の自己実施による超過利益本件物質発明及び本件製法発明に係る特許の実施による被告の欧州子会社の利益を被告の利益とみることについては,被告も特に争わない。 (ア) 売上高欧州各国における欧州物質製法特許に係る特許権の存続期間は前提となる事実(2)ウ(イ)のとおりであり,前提となる事実(4)イのとおり欧州各国における販売開始日はいずれも欧州対応特許の登録後である。そして,平成7年7月~平成18年の塩酸タムスロシン製品の被告自社(欧州子会社)販売の欧州各国における正味売上(単位億円)は,次のとお- 110 -りである。ただし,前提となる事実(2)ウの各国における特許権の期間満了にかかわらず,製造国であるアイルランドにおける特許権の期間満了日(平成18年2月5日)までの売上額であり,平成18年は,同年1月~6月の正味売上額に基づき,同年2月5日まで日割計算した金額である。また,ドイツ,イギリス及びオランダの合計額は,平成17年までの各年の正味売上を100万円の 売上額であり,平成18年は,同年1月~6月の正味売上額に基づき,同年2月5日まで日割計算した金額である。また,ドイツ,イギリス及びオランダの合計額は,平成17年までの各年の正味売上を100万円の位より下を切り捨てた上で積算した金額であり,ロシアについては,一部,旧ソビエト連邦各国における売上額が含まれている(乙101,116)。 ●(省略)●上記のとおり,上記額は,欧州物質特許の満了日である平成18年2月2日を超えてアイルランド特許の満了日である平成18年2月5日までの売上高を開示しているが,それによって2月2日までの売上高とほぼ近似の数値が得られることから,以下,欧州での売上については,この開示された額を基礎として算定する。ただし,スペイン,ロシア,ポルトガルの3か国については,欧州物質特許は成立していないから,それぞれの国での販売開始日からそれぞれの国での本件物質発明に係る特許権の存続期間満了日までの日割りで計算する(スペインについては,平成9年から平成12年までの合計額●(省略)●と平成13年10月28日までの日割額●(省略)●の合計●(省略)●となる。ロシアについては,平成9年から平成12年までの売上合計額●(省略)●と平成13年2月6日までの日割額●(省略)●の合計●(省略)●となる。ポルトガルについては,平成10年から平成12年までの合計額●(省略)●と平成13年2月5日までの日割額●(省略)●の合計●(省略)●となる。)。 以上を合計すると,欧州各国での欧州物質特許並びにスペイン,ロシア,ポルトガルの本件物質発明に係る特許権の存続期間中の売上高は●- 111 -(省略)●(上記イタリア,ドイツ,フランス,イギリス,オランダ,ベルギーの売上高合計●(省略)●に上記スペイン,ロシア,ポル トガルの本件物質発明に係る特許権の存続期間中の売上高は●- 111 -(省略)●(上記イタリア,ドイツ,フランス,イギリス,オランダ,ベルギーの売上高合計●(省略)●に上記スペイン,ロシア,ポルトガルの売上高合計●(省略)●を加えた額である。原告が別表3,4で主張する●(省略)●に近い額である。)となる。 このほか,スペインについては,物質特許とは別に,本件製法発明に係る特許権が成立しており,その存続期間は平成18年7月29日までであるから,前記のスペイン物質特許の存続期間満了後である平成13年10月29日から平成18年7月29日までの間は,本件製法発明の実施による売上高とみられ,その売上高の合計は平成13年が●(省略)●(平成13年の売上高●(省略)●から物質発明特許についての前記売上高●(省略)●を控除した額)であり,それ以後の平成14年から平成18年までの売上高●(省略)●との合計額は●(省略)●となる(原告が別表3,5で主張する額と同額である。)。 原告は,ポーランド,フィンランド,オーストリアにおける相当対価についても主張するが,ポーランド,フィンランドについては,本件物質発明及び本件製法発明に対応する特許の存在を認めるに足りる証拠がなく,また,オーストリアについては,売上についてこれを具体的に認めるに足りる証拠がない。 (イ) 欧州BI社へのライセンスを考慮した超過売上高被告らとBI社との間の欧州ライセンス契約によれば,BI社は,●(省略)●(乙101欧州ライセンス契約書第1条1.4,1.5,第2条,別表1)。 これらの条項によれば,ドイツ,フランス,イギリスにおける取り決めの内容は必ずしも明らかでないものの,BI社は欧州ライセンス契約に基づいて,●(省 1.4,1.5,第2条,別表1)。 これらの条項によれば,ドイツ,フランス,イギリスにおける取り決めの内容は必ずしも明らかでないものの,BI社は欧州ライセンス契約に基づいて,●(省略)●合意されていたものと解される。 前記のとおり,本件医薬品は,α遮断剤としては尿路に対する選択性- 112 -が高く,それまでの先行α遮断剤であるプラゾシンと比較すると,5倍の選択性を有する発明であり,その後,市場におけるシェアは高かった。 これらの事情を考慮すると,本件物質発明に係る特許による独占の利益は,ライセンス契約が存在しないとすれば,本来,我が国と同じく売上高の50%とみることができる。 しかし,被告は欧州において,上記のとおり,BI社にライセンスをし,後記のとおり,BI社の平成8年から平成18年の特許の存続期間満了までの売上高は日本円に換算して●(省略)●であり,ほぼ同一の期間における上記(ア)の被告の欧州子会社の売上高合計●(省略)●の約65%に及んでいる。したがって,独占の利益を考慮するに当たっては,このライセンスの事実を考慮する必要がある。上記ライセンス契約の内容や前記外国におけるライセンス交渉の内容からは,被告が特にいわゆる限定的ライセンスポリシーを採用し,他へのライセンスの余地を認めていなかったとまでは認めることはできないものの,欧州でのBI社以外へのライセンスの余地はそれほど大きくはなかったとみることができる。 そうすると,欧州におけるBI社へのライセンスの事実を考慮した場合の欧州物質特許並びにスペイン製法特許による独占の利益は,欧州及びスペインに共通して10%と認めるのが相当である。 したがって,欧州物質特許による超過売上高は●(省略)●,スペ した場合の欧州物質特許並びにスペイン製法特許による独占の利益は,欧州及びスペインに共通して10%と認めるのが相当である。 したがって,欧州物質特許による超過売上高は●(省略)●,スペイン,ロシア,ポルトガルの物質特許による超過売上高は●(省略)●,スペイン製法特許による超過売上高は,特許の寄与率を30%とみて,●(省略)●(●(省略)●×0.1×0.3)となる。 (ウ) 想定実施料率本件物質発明及び製法発明の価値は欧州においても日本国内と異なら- 113 -ないものと考えられるから,想定実施料率は,本件物質発明については●(省略)●,本件製法発明については●(省略)●とみるのが相当である。 (エ) 超過利益額以上によれば,被告の欧州自販分による超過利益の額は,欧州物質特許について●(省略)●,スペイン,ロシア,ポルトガルの物質特許について●(省略)●,スペイン製法特許について●(省略)●となる。 (3) ライセンス収入(争点(1)―2)ア米国BI社の正味売上米国における米国物質特許に係る特許権の存続期間は,昭和62年10月27日から平成21年10月27日までであるところ,上記存続期間内における米国BI社の正味売上は,次のとおり,日本円に換算して●(省略)●であるただし,平成21年の売上は,年間合計額(●(省略)●)を特許満了日である同年10月27日までの日数で日割計算した金額である。また,TTMレートは,三菱東京UFJ銀行が公表している対顧客外国為替相場の,各年の年間平均値である(弁論の全趣旨)。 ●(省略)●原告は,北米での売上高については,特許保護延長期間である平成21年10月28日から平成22年4月27日までの売上高 為替相場の,各年の年間平均値である(弁論の全趣旨)。 ●(省略)●原告は,北米での売上高については,特許保護延長期間である平成21年10月28日から平成22年4月27日までの売上高を加算すべきであると主張する。 しかし,弁論の全趣旨によれば,上記特許保護延長期間は,被告がFDAからの要請に基づき,小児神経因性排尿障害に関する臨床データを出したことに関し,独占販売期間が追加的に付与されたものであって,特許法制に基づく保護期間が延長されたものではないから,上記期間における利益は,本件物質特許による利益と認めることはできない。よって,原告の- 114 -主張を採用することはできない。 なお,上記延長期間部分を除けば,原告が別表6で主張する額と,上記認定額は同額である。 イ欧州BI社の正味売上欧州における欧州物質特許に係る特許権の存続期間は,昭和59年4月25日から平成18年2月2日までであるところ,上記存続期間内における欧州BI社の正味売上は,次のとおり,日本円に換算して●(省略)●である。 ただし,平成18年の売上は,半期合計額(●(省略)●)を特許満了日である同年2月2日までの日数で日割計算(33日/181日)した金額である。また,TTMレートは,北米と同じく,三菱東京UFJ銀行が公表している対顧客外国為替相場の,各年の年間平均値である(この額については当事者間に争いがない。)。 ●(省略)●ウ北米及び欧州におけるライセンス収入(ア) 北米ライセンス契約のライセンス料率前提となる事実(5)ウのとおり,北米ライセンス契約において,●(省略)●そうすると,上記各条項からみれば,特許の実施許諾によるロイヤルティの額は●(省略)●と認め ライセンス料率前提となる事実(5)ウのとおり,北米ライセンス契約において,●(省略)●そうすると,上記各条項からみれば,特許の実施許諾によるロイヤルティの額は●(省略)●と認めるのが相当である。 原告は,想定実施料率は,被告の決算資料で示されているバルク・ロイヤリティを売上高で除した数字とほとんど近似すると主張するが,その算出根拠の合理性が十分に示されているとはいえず,採用することができない。 また,被告は,●(省略)●と主張するが,これをライセンスよる利益と認めるに足りる証拠はない。 - 115 -(イ) 欧州ライセンス契約のライセンス料率被告は,欧州ライセンス契約においては,特許のライセンス料は定められていないと主張し,本件証拠上,欧州ライセンス契約におけるライセンス料を定めた契約書等の証拠は見当たらない。また,被告が主張するように,製品販売対価として利益が設定されていた可能性も存在する。しかし,その詳細は被告によって明らかにされておらず,欧州ライセンス契約によって被告が得ていた利益をライセンス料率以外によって算定するだけの具体的な根拠もない。 したがって,北米ライセンス契約と欧州ライセンス契約の相手方がいずれもBI社であることを考慮し,欧州ライセンス契約のライセンス料率は,北米ライセンス契約のライセンス料率と同様の●(省略)●であると認めるのが相当である。 (ウ) ライセンス収入の額以上によれば,米国BI社からのライセンス収入の額は●(省略)●,欧州BI社からのライセンス収入の額は●(省略)●である。 4 使用者貢献度(争点(2))及び相当対価額の算定(争点(3))(1) 前記の本件発明に至る経緯,特許取得の状況,特許取得後における被告の販売活動 イセンス収入の額は●(省略)●である。 4 使用者貢献度(争点(2))及び相当対価額の算定(争点(3))(1) 前記の本件発明に至る経緯,特許取得の状況,特許取得後における被告の販売活動,ライセンス契約交渉等の諸般の事情を考慮すると,本件における被告の貢献度は99%,したがって,発明者側の貢献度は1%と認めるのが相当である。 この点について,原告が本件物質発明をするについて,被告の従来の知見をどの程度利用したかが争われ,被告はA6の意見書及び同陳述書(乙117,124),A10の陳述書(乙121)を提出しており,これらの証拠によれば,原告の本件物質発明は,被告の従来の知見を基礎としており,普通の研究者であれば,アモスラロールのアミノ基のβ位の水酸基を水素に変換すればβ活性が大きく減弱することを予想すること,別紙1のA部,C- 116 -部,D部について最も好ましいと思える置換基の変換を組み合わせること,光学活性アミン化合物を中間体として塩酸タムスロシンを合成すること等はいずれも容易であって,原告の寄与の程度は小さいとされ,また,製法特許も従来の製造方法に適宜簡単に変更できる合成法が追加されているにすぎず,大量合成法において原告が行ったのは単に条件検討であったとされる。 しかし,原告がアモスラロールを光学分割することから始まって塩酸タムスロシンを創製するまでの前記認定の事実関係については,原告独自の着想と寄与が認められるのであって(A11意見書(甲32)),被告が主張するほど原告の寄与を小さいものと認めることはできない。また,その製造方法についても,塩酸タムスロシン自体に原告の独自の着想と寄与が認められる以上,独自の貢献が存在することを否定することはできない。さらに,大量合成法についても,前記イーライ・リ ない。また,その製造方法についても,塩酸タムスロシン自体に原告の独自の着想と寄与が認められる以上,独自の貢献が存在することを否定することはできない。さらに,大量合成法についても,前記イーライ・リリー社との交渉の経緯からみれば,原告の貢献を否定することはできないのであって,A6意見書等の見解をそのまま採用することはできないものというべきである。 また,被告は,医薬品一般の開発において成功確率が低いこと等を使用者貢献度として考慮すべきであると主張する。確かに,前記認定事実によれば,医薬品一般の開発においてその成功確率が相当程度低いことが認められるし,他の分野と比較して医薬品開発事業の研究開発費の比率が高いことも認められる。しかし,本件訴訟における使用者貢献度を検討するについては,医薬品開発一般の実情や成功確率を問題とすべきではなく,本件物質発明及び製法発明に係る特許についての使用者としての貢献を問題とすべきである。そうすると,前記認定のとおり,本件発明に至るまでに被告において多数の化合物が合成され,それが本件発明に至る経緯となったという点において被告の貢献が認められるべきであり,その被告の貢献をも考慮した貢献度が前記の割合になるものである。 他方,被告は,被告による適応症の選定が本件医薬品(ハルナール)の成- 117 -功に寄与したものであると主張する。 前記事実関係によれば,原告は,主として高血圧や心不全の治療薬を念頭においてアモスラロールの光学異性体の構造修飾を行い,本件物質発明に至ったものであって,これを前立腺肥大症や尿道閉塞症への適用薬として開発を進めることについては,被告内における議論の経過を通じて確立していったものと認められる。そして,この適応症の選定が本件医薬品(ハルナール)の成功に結びついていった や尿道閉塞症への適用薬として開発を進めることについては,被告内における議論の経過を通じて確立していったものと認められる。そして,この適応症の選定が本件医薬品(ハルナール)の成功に結びついていったものであり,この点については被告の寄与が大きかったものと認められる。 原告は,原告も前立腺肥大症に基づく排尿障害への適応の可能性は考えていたと主張し,これに沿う証拠としてA7の陳述書及び意見書(1)(2)(甲28,29)を提出する。しかし,前記の原告博士論文の記載内容や被告における適応症選定に関する議論の経過に照らせば,適応症の選定についての被告の寄与が大きかったことは否定できず,この点は,原告が排尿障害への適応の可能性を考えたことがあったとしても(乙119参照),左右されるものではない。 (2) 本件物質発明について,原告の発明者割合が40%,本件製法発明について原告の発明者割合が90%であることについては,被告もこれを積極的に争うものではなく,前記本件職務発明に至る経緯で認定した事実に照らしても,上記発明者割合は相当である。 (3) そうすると,自己実施による我が国及び欧州における相当対価の額は,自社販売分について,日本物質特許について●(省略)●(●(省略)●×0.01×0.4。1万円未満切り捨て。以下同じ。),日本製法特許について●(省略)●(●(省略)●×0.01×0.9),欧州物質特許について●(省略)●(●(省略)●×0.01×0.4),スペイン・ロシア・ポルトガル物質特許について●(省略)●(●(省略)●×0.01×0.4),スペイン製法特許について●(省略)●(●(省略)●×0.0- 118 -1×0.9)の合計は3550万円となる。 ライセンス分について,北米ライセンスについて●(省略)●( ×0.4),スペイン製法特許について●(省略)●(●(省略)●×0.0- 118 -1×0.9)の合計は3550万円となる。 ライセンス分について,北米ライセンスについて●(省略)●(●(省略)●×0.01×0.4),欧州ライセンス契約について●(省略)●(●(省略)●×0.01×0.4)となり,合計は1億6424万円となる。 以上の総合計は,1億9974万円となる。 被告は中間利息を控除すべき旨主張するが,相当対価の額は特許を受ける権利を承継した時点において受けるべき相当対価の額として算定されるのであるから,中間利息を控除するのは相当でない。 5 時効消滅(争点(4))被告は,原告が主張する本件物質発明相当対価請求権及び本件製法発明相当対価請求権は,全部又は一部について時効により消滅したと主張するのに対し,原告は,被告は本件支払を行ったことにより,時効の利益を放棄した又は被告による時効の援用は信義則に反する旨を主張するので,この点について検討する。 (1) 消滅時効期間とその経過ア前提となる事実(2)のとおり,本件で消滅時効の成否が問題となるのは,次の各特許である。 (ア) 国内特許a 本件物質特許(特許第1443699号)b 本件製法特許(特許第1553822号)(イ) 海外特許(本件物質発明に係る特許権)a 米国物質特許(米国特許第4703063号)b 欧州物質特許(イギリス,ドイツ,フランス,イタリア,ベルギー,オランダ,スイス,オーストリア)(欧州特許第34432号)c スペイン(特許第499224号)- 119 -d ロシア(旧ソ連)(特許第1082320号) ギー,オランダ,スイス,オーストリア)(欧州特許第34432号)c スペイン(特許第499224号)- 119 -d ロシア(旧ソ連)(特許第1082320号)e ポルトガル(特許第72460号)(ウ) 海外特許(本件製法発明に係る特許権)スペイン(第8600685号)イところで,本件物質発明及び本件製法発明がされた当時山之内製薬には,職務発明に関する規程はなく(甲3参照),相当の対価の支払時期についての定めはなかったから,原告は遅くとも特許出願日までにされた承継の時から権利を行使することができたものといえる。そして,前記のとおり,日本物質特許が出願された昭和55年2月8日までには,本件物質発明について外国の特許を受ける権利も含めて承継がされ,日本製法特許が出願された昭和60年11月13日までには,本件製法発明について外国の特許を受ける権利も含めて承継がされたものである。そうすると,本件物質発明に係る特許は国内外を含めて平成2年2月8日が経過することにより,本件製法発明に係る特許は国内外を含めて平成7年11月13日が経過することにより,消滅時効の期間が経過したものと解される。 (2) 被告規程の制定,改定の経緯前提となる事実に加え,証拠(甲3,乙2~4,8~11,21~26)及び弁論の全趣旨によると,本件支払がされた経緯について,次の各事実を認めることができる。 ア山之内製薬は,平成17年4月1日に藤沢薬品工業と合併して被告となったが,合併前の山之内製薬における職務発明規定の内容は,前提となる事実(3)のとおりであり,最初に被告規程1が制定されたのは平成9年1月1日のことであり,それまでは職務発明の対価の支払に関する取決めは存在し 前の山之内製薬における職務発明規定の内容は,前提となる事実(3)のとおりであり,最初に被告規程1が制定されたのは平成9年1月1日のことであり,それまでは職務発明の対価の支払に関する取決めは存在しなかった。 そして,被告規程1は,その2条3項で,「「職務発明」とは,「会社」の業務範囲に属し,且つ,その発明をするに至った行為が「従業員- 120 -等」としての会社における現在又は過去の職務に属する発明を云う」としていたから,形式的には,本件物質発明及び本件製法発明もこれに該当することになる。そして,被告規程1の15条は出願補償について,「出願補償金の支払いは同一発明に対しては1回のみとする。」,16条は登録補償について「「会社」は,特許を受ける権利又は特許権を承継し,日本国の特許証の交付を受けたときは,特許権1件に対し20,000円の補償金を発明者に支払う。」,17条は,実施補償について,「「会社」は,権利を承継した「職務発明」を日本国で実施して利益を得たとき又は第三者に実施許諾して利益を得たときは,日本国で登録になっていることを条件に,実施あるいは実施許諾1回に限り,「会社」の事業目的への貢献度に応じ,特許権1件に対し100,000円以上1,000,000円以下の職務発明委員会が査定した補償金を,発明者に支払う。」とし,さらに,その支払時期について,21条で「補償金は,支払いが確定した年度(4月1日から3月31日)の翌年度に支払うものとする。」とされている。 そうすると,被告規程1の取り決めで考えれば,本件物質特許についての出願補償の支払時期は,出願された昭和55年2月8日の翌年度,登録補償の支払時期は登録された昭和63年6月8日の翌年度,実施補償については,製品が上市された平成5年8月30日の翌年度となると解される 出願補償の支払時期は,出願された昭和55年2月8日の翌年度,登録補償の支払時期は登録された昭和63年6月8日の翌年度,実施補償については,製品が上市された平成5年8月30日の翌年度となると解されるから,その支払時期から消滅時効期間が開始すると考えれば,被告規程1が施行された平成9年4月1日には,出願補償については消滅時効期間が経過しているものの,登録補償と実施補償についてはいずれもその時効期間が経過していないことになる。しかし,被告規程1の28条では,「本規程は1997年1月1日から施行する。」とされ,経過規定は置かれていないから,被告規程1は,既に消滅時効期間を経過した対価請求権について,新たに支払時期を設定して,遡及的にこれを支払う趣旨を定めた規- 121 -程とは認め難い。 また,被告規程2においては,登録補償の規程はなくなったが,実施補償の支払時期は被告規程1と同じく「実施あるいは実施許諾1回に限り」支払うとされ(16条),その支払時期は支払いが確定した年度(4月1日から3月31日)の翌年度とされ,2条3項は「職務発明」を「過去の職務に属する発明」を含むものと定義し,27条では「本規程は2003年4月1日から施行する。」とされていた。これらの規定によれば,被告規程1と同様,実施補償(前記のとおり平成6年度が支払時期となる)については,同様の問題点が存在するが,被告規程1と同様に経過規定は存在しないから,被告規程2も,既に消滅時効期間を経過した対価請求権について,新たに支払時期を設定して,遡及的にこれを支払う趣旨を定めた規程とは認め難い。 この点は,平成15年4月1日に施行された山之内製薬の「開発報奨規程」(乙12)についても,同様である。 イその後,山之内製薬が藤沢薬品工業と合併するに当たり,山之内製薬の補 認め難い。 この点は,平成15年4月1日に施行された山之内製薬の「開発報奨規程」(乙12)についても,同様である。 イその後,山之内製薬が藤沢薬品工業と合併するに当たり,山之内製薬の補償制度と藤沢薬品の補償制度を比較したところ,藤沢薬品工業では,実施時補償基準額に実質的にみて上限がない(平成13年4月1日に施行された同社の「職務発明実績補償規則」(乙14)の4条,別表1によれば,算定期間3年間の売上高が2500億円以上3000億円未満の場合の実績補償金の額は1000万円であるが,3000億円以上の場合は,500億円ごとに200万円を加算するものとされていた。)のに対し,山之内製薬では,被告規程2では,実施補償の額は,特許を受ける権利又は特許権1件に対し,10万円以上1000万円以下とされており,両者の補償内容に差が存在することが判明した。 そこで,山之内製薬と藤沢薬品工業の両者で話し合った結果,合併の日である平成17年4月1日に被告規程3が制定された。 - 122 -被告規程3の附則(経過規定)2項によれば,出願時補償については,「(1)2005年4月1日以降に会社が出願した職務発明に係る特許出願等に対して本規程を適用する。(2)2005年3月31日までに山之内製薬株式会社(以下,「山之内」という。)又は藤沢薬品工業株式会社(以下,「藤沢」という。)が行った職務発明に係る特許出願等に対しては,第3章の規程にかかわらず,会社は,山之内又は藤沢の旧規程により出願時補償を実施する。」とされ,これによれば,本件発明に係る特許を受ける権利の承継(以下「本件承継」という。)による出願時補償は,山之内の旧規程によることとされた。 他方,同附則3項によれば,実施時補償については,「(1)2005年3月 に係る特許を受ける権利の承継(以下「本件承継」という。)による出願時補償は,山之内の旧規程によることとされた。 他方,同附則3項によれば,実施時補償については,「(1)2005年3月31日までの出願に対しても2005年4月1日以降に出願されたものと同様に,2005年4月1日を最初の算定期間の起算日として,本規程を適用する。(2)2005年3月31日までに山之内又は藤沢が行った職務発明に係る特許出願等の実施時補償については,山之内又は藤沢における2005年3月31日までの実施時補償について2005年3月31日時点で山之内又は藤沢の旧規程上の補償の計算期間が満了していない場合は,計算期間の始期に遡って本規程を適用し,会社における最初の実施時補償時に,その期間を算入して算定する。」とされている(甲3)。 実施時補償についての上記(1)の趣旨は,被告規程3の18条1項において,「対象製品の売上高に対する実施時補償金は,対象となる特許権等の存続期間中において対象製品につき特許権等に係る発明が実施されている限り支払われる」との規程を併せ考えれば,本件承継のように平成17年3月31日までに出願されたものであっても,同年4月1日以降の実施による利益については,実施時補償の対象となる趣旨と解される。 実施時補償についての上記(2)の趣旨は,山之内製薬において被告規程2に基づく実施補償の計算期間が平成17年3月31日の時点で満了して- 123 -いない場合には,計算期間の始期に遡って被告規程3の実施時補償をするという趣旨と解されるが,山之内製薬の被告規程1,2による実施補償は,実施又は実施許諾1回に限り支払うものとされているから,上記計算期間という観念と相容れないものであり,上記(2)の規程は本件承継には適用されな されるが,山之内製薬の被告規程1,2による実施補償は,実施又は実施許諾1回に限り支払うものとされているから,上記計算期間という観念と相容れないものであり,上記(2)の規程は本件承継には適用されないものと解される。 ウ上記被告規程3の定めによれば,本件承継のように平成17年3月31日までに出願されたものであっても,同年4月1日以降の実施による利益については,実施時補償の対象となる趣旨と解される。この規定は,従来の被告規程1,2においては,実施補償が実施又は実施許諾1回に限り支払われるとの定めとなっていたのに対し,被告規程3においては,「対象製品の売上高に対する実施時補償金は,対象となる特許権等の存続期間中において対象製品につき特許権等に係る発明が実施されている限り支払われる。」(18条1項),「対象製品のライセンス収入に対する実施時補償金は,特許権等の存続期間中において当該特許権等の実施許諾として一時金,ロイヤリティー等が受領されている限り支払われる。」(19条)として,実施時補償金が継続的に支払われることとなったことに基づくものであると解される。そしてこのような規程の趣旨に照らせば,被告規程3においては,山之内製薬において消滅時効期間が経過した対価請求権であっても,平成17年4月1日以降の実施による利益については,その対価を支払う趣旨に変更したものであると解される。 そして,被告規程3の上記各規定は,平成19年7月26日の改訂によっても変更がない(甲3)。 (3) 被告による対価の支払前提事実(7)のとおり,被告は,原告に対し,被告現行規程に基づいて,ハルナールに関して,物質特許補償額309万8400円,製法特許26万1500円の合計335万9900円を支払った。 - 124 -そこ おり,被告は,原告に対し,被告現行規程に基づいて,ハルナールに関して,物質特許補償額309万8400円,製法特許26万1500円の合計335万9900円を支払った。 - 124 -そこで,その支払の趣旨を明らかにするため,支払に至る経緯について検討する。 ア被告は,原告に対し,平成20年4月25日付け書面を送付し,被告職務発明制度に基づき,平成17年4月~平成20年3月に被告が実施し利益を得ている特許(米国物質特許及び我が国における本件製法特許)について,実施時補償を行うので,事情聴取を依頼する旨の通知をした(乙8)。 この通知に先立って,山之内製薬と藤沢薬品工業との間で,平成17年3月7日に,合併前の合併準備委員会が開催されており,そこでは,「タムスロシンを補償対象とする。」という提案がされ,これに対し,山之内製薬のA5社長が,「何故,タムスロシンが今回補償対象となったのか? 時効でなかったのか?」と質問したのに対し,担当者のCは,「タクロリムスとタムスロシンは同様に実施し,特許のきれる時期も同時期であり,対応に差が出ることを問題と考え,補償対象とすることにした。」と回答している(乙6)。 イ上記通知に対し,原告は,被告に対し,平成20年5月2日付けメール(乙9の1)により質問をした。 その質問の内容は,「1.貴社の社内規定で,何故,現時点でハルナール(塩酸タムスロシン)が実施時補償の対象となったのでしょうか。その理由を貴社の社内規定でご説明下さい。・・・3.実施時補償の対象特許として2つの特許(Pat.4703063及び特許第1553822号)が挙げられています。何故,これらの特許が実施時補償の対象特許なのでしょうか。貴社の社内規定でご説明下さい。・・・」というものであった。 つの特許(Pat.4703063及び特許第1553822号)が挙げられています。何故,これらの特許が実施時補償の対象特許なのでしょうか。貴社の社内規定でご説明下さい。・・・」というものであった。 ウ被告は,原告に対し,同年5月7日付けメール(乙9の2)により回答した。その回答内容は,上記イの1の質問に対する回答として,「アステ- 125 -ラスの規程では,特許の存続期間中にその特許を実施し利益を上げている場合は,全て対象としています。また,3年ごとに,特許満了まで3年ごとの売上(又はライセンス収入)を基に実施時補償を支払う規定となっています。」,上記イの3の質問に対する回答として,「アステラスで実施し利益を上げている特許と判断されたためです。」というものであった。 被告は,その回答メールに,外部公表資料である被告の職務発明制度説明資料を添付した。 その説明資料には,「実施時補償額:上限なし」とされながらも,他方,その支払については,「2005年4月1日を最初の起算日として,3年毎(算定期間)にその間の売上(ライセンス収入)に基づき,特許満了まで支払う。」とされていた。 エ原告は,被告に対し,平成20年5月11日付けメール(乙9の3)により再度質問を行った。 その内容は,「公開されている資料では,最初の起算日が2005年4月1日となっていますが,対象期間は特許の有効期間中を通じてという理解でよろしいでしょうか。」,「私の発明の中で他に対象特許はありますか。」,「私の対象発明について,対象国を教えてください。」等というものであった。 オこれに対し,被告は,原告に対し,同月12日付けメール(乙9の4)により回答した。 その内容は,「アステラス発足後の2005年4月1日から特許 さい。」等というものであった。 オこれに対し,被告は,原告に対し,同月12日付けメール(乙9の4)により回答した。 その内容は,「アステラス発足後の2005年4月1日から特許満了までの売上(又はライセンス収入)が対象となります。例外として,旧社時代の規程に基づき未払いになっている部分については,新社の制度で支払うこととなっております。ハルナールにつきましては旧社規程で未払い部分はありませんので,2005年4月1日から特許満了までの売上が対象となります。」「少なくとも今回の対象は,2特許のみです。」,「特許- 126 -第1553822号は日本のみ(2005年4月1日~2005年11月13日(満了日))です。Pat.4703063につきましては,米国(2005年4月1日~2008年3月31日),欧州(オーストリア,ベルギー,スイス,ドイツ,フランス,イギリス,アイルランド,イタリア,ルクセンブルク,オランダで2005年4月1日~2006年2月2日(満了日)になります。なお,米国については特許満了が2009年10月27日になりますので,2011年度の実施時補償の対象にもなります。)というものであった。 カ原告は,被告に対し,平成20年5月16日付けメール(乙9の5)によりさらに質問を行った。 その内容は,「旧社時代の規程で未払い部分はないということですが,私の記憶では,旧社時代に同じような規程があってそれによって実施時補償は発生している(つまり2005年3月31日以前について)と理解しています。旧社は貴社によって引き継がれたと思いますので,この点を良く調べて頂いてご回答をお願いします。」等というものであった。 キこれに対し,被告は,原告に対し,同月19日付けメール(乙9の6)により は貴社によって引き継がれたと思いますので,この点を良く調べて頂いてご回答をお願いします。」等というものであった。 キこれに対し,被告は,原告に対し,同月19日付けメール(乙9の6)により回答した。 その内容は,「旧山之内の規程は1997年1月1日に制定され,1997年1月1日以降に日本で上市されたものが対象となっています。また,遡及適応の規定もありません。従いまして,1993年8月に上市されているハルナールは,旧規程で支払い対象となっておりません。」というものであった。 ク原告は,被告に対し,同月21日付けメール(乙9の7)によりさらに質問を重ねた。 その内容は,「現規程の最後の経過規定により旧山之内の規程で発生したものは貴社に支払義務があると理解しておりますが,旧山之内製薬の規- 127 -程では,1997年1月1日の規程制定以降に会社がその特許で利益を挙げたときには上市時期を問わず実施時補償を支払うと規定されていると理解しています。なぜ,貴社は「1997年1月1日以降に日本で上市されたものが対象となっています。また,遡及適応の規定もありません。」と断言できるのでしょうか。その根拠をお示し下さい。」等というものであった。 ケこれに対し,被告は,原告に対し,同日付けメール(乙9の8)により回答した。 その内容は,「旧山之内の規程を添付させて頂きます。「職務発明取り扱い規程」が1997年に制定されたもので,「発明奨励規程」が2003年に名称とともに改定されたものです。発明奨励規程の16条(職務取り扱い規程では17条)で,製品を例にすれば,実施して利益を得たときに1回に限り実施補償をすることが定められています。ここで利益を得た時とは日本での上市時を指します。そうしなければ の16条(職務取り扱い規程では17条)で,製品を例にすれば,実施して利益を得たときに1回に限り実施補償をすることが定められています。ここで利益を得た時とは日本での上市時を指します。そうしなければ,1回限り実施補償をするとされていることと矛盾が生じます。本規程は,製品を例にすれば,利益を得た時は日本での上市時を指し,1回に限り実施補償をすることを前提として,旧社で承認を得て制定されたものです。御理解の程,宜しくお願い致します。」というものであった。 コこれに対し,原告は,同月27日付けメール(乙9の8)で,「旧山之内製薬の規程を読みましたが,ご回答の意味や字義的解釈を理解できない部分があります。事情聴取の期限が迫ってきましたので,本件に関して現状の質問・回答の状況に留めておきます。」と回答し,一連のメールによるやり取りは終了した。 被告は,原告と被告間の上記メールのやり取りにおいて,上記のとおり,①被告現行規程では,特許の存続期間中に当該特許を実施し利益を上げている場合は,実施時補償の対象とすること,②実施時補償の対象期間- 128 -は,被告(アステラス)発足後の平成17年4月1日から特許満了までの売上(又はライセンス収入)であり,3年ごとの売上(又はライセンス収入)をもとに実施時補償を支払うことになっていること,例外的に,山之内製薬又は藤沢薬品工業の規程に基づく未払部分について,被告現行規程で支払うが,山之内製薬の規程は平成9年1月1日に制定され,実施して利益を得たときに1回に限り実施時補償を行うこととされ,1回限りとは,同日以降に我が国で上市されたものを対象とし,上市時を意味するため,平成5年8月に上市されたハルナールについては,支払対象とならず,上記未払部分はないこと,③平成20年の実施時補償の対象と りとは,同日以降に我が国で上市されたものを対象とし,上市時を意味するため,平成5年8月に上市されたハルナールについては,支払対象とならず,上記未払部分はないこと,③平成20年の実施時補償の対象となるのは,特許のあるすべての国であり,原告の発明については,本件製法特許については我が国であり(平成17年4月1日~同年11月13日(満了日)),本件物質特許については米国(平成17年4月1日~平成20年3月31日),欧州(オーストリア,ベルギー,スイス,ドイツ,フランス,イギリス,アイルランド,イタリア,ルクセンブルク,オランダ)(平成17年4月1日~平成18年2月2日(満了日))であること等を回答した。 サ被告は,原告に対し,平成20年10月24日付けで,「アステラス製薬実施時補償金支払いの件」と題する文書とともに,平成20年度実施時補償金支払通知を送付した(乙4,22)。 上記「支払いの件」と題する文書には,「この度,アステラス製薬の職務発明規程に基づき,2005年4月(一部の旧藤沢製薬案件等の経過規定対象案件は2004年4月)から2008年3月までの間で,アステラス製薬が実施等し利益を上げている全ての特許の職務発明者に対し,実施時補償金が支払われることになりました。」と記載されていた。 シ(ア) 上記通知に対し,原告は,被告に対し,平成20年11月4日付け書面(乙25の1),同月10日付け書面(乙25の2)及び同月14- 129 -日付け書面で質問を行った。 その内容は,被告の示した計算根拠についてのものであり,質問内容は詳細にわたっている。 (イ) 被告は,これらの質問について,原告に対し,同月6日付け書面(乙26の1),同月12日付け書面(乙26の2)及び同月17日付け書面( のものであり,質問内容は詳細にわたっている。 (イ) 被告は,これらの質問について,原告に対し,同月6日付け書面(乙26の1),同月12日付け書面(乙26の2)及び同月17日付け書面(乙26の3)により回答した。 (ウ) 被告は,原告と被告間の上記書面のやり取りにおいて,日本物質特許は既に満了し,欧州物質特許は平成18年2月2日に満了していることを前提として,平成17年度から平成19年度(平成17年4月1日から平成20年3月31日まで)の売上について実施時補償金を支払うとし,対象となる売上は,世界での売上高であり,支払対象期間は,本件物質特許について,日本物質特許を除き,欧州においては平成17年4月1日~特許期間満了日の平成18年2月2日(ただし,切り上げて1年分で計算している。),米国においては平成17年4月1日~平成20年3月31日であること等を回答した。また,製法特許については,対象は世界での売上高であり,日本製法特許については,支払対象期間は,平成17年4月1日から同年11月13日までであるとした(ただし,実際には1年分の売上に基づいて計算している。)(乙26の1)。 ス原告は,平成20年11月19日,上記決定通知に対して異議を申し立てたが(乙23),被告は,職務発明委員会において検討し,原告に対し,平成21年1月15日付け書面(乙24)により,実施時補償額を合計335万9900円(本件物質特許補償額として309万8400円,本件製法特許補償額として26万1500円)とした決定を確定する旨を通知した。 セ被告は,原告に対し,平成21年2月12日付け書面(乙11)により- 130 -通知し,被告が依頼している書面の返送が期限までにされない場合には,被告が最終的に決定した実施時補償金3 セ被告は,原告に対し,平成21年2月12日付け書面(乙11)により- 130 -通知し,被告が依頼している書面の返送が期限までにされない場合には,被告が最終的に決定した実施時補償金335万9900円を支払う旨を通知した。 ソ前提となる事実(7)のとおり,被告は,原告に対し,平成21年3月6日,本件支払(335万9900円)を実施した。 (4) 以上の認定事実に基づいて検討する。 アまず,職務発明における特許権を受ける権利の承継に基づく対価請求権は,特許を受ける権利が成立した1つの特許権ごとに観念されることから,その対価請求権も特許権ごとに発生すると解するのが相当である。そうすると,その消滅時効の成否についても,各特許権ごと判断するのが相当である。 前記認定事実によれば,本件物質発明に係る特許の相当対価請求権は国内外を含め平成2年2月8日が経過することにより,本件製法発明に係る特許の相当対価請求権は国内外を含めて平成7年11月13日が経過することにより,いずれも消滅時効期間が経過している。 そして,その山之内製薬は,被告規程3が施行される平成17年4月1日までは,いつでも消滅時効を援用することにより債務を免れることができる状態にあった。 被告は,消滅時効を援用する意思表示をした時期について,平成8年ころの被告規程1の制定過程における原告も参加した会議等において,被告規程1の内容を説明し,また,平成14年から15年ころの原告も参加した会議等において被告規程2の内容を説明して会議での了承を得ているから,これらにより,本件物質発明及び本件製法発明に係る特許を受ける権利の承継に基づく対価請求権について消滅時効を援用する旨の意思表示をしたと主張する。 しかし,原告が参加した会議等において,被告規程1,2の内 より,本件物質発明及び本件製法発明に係る特許を受ける権利の承継に基づく対価請求権について消滅時効を援用する旨の意思表示をしたと主張する。 しかし,原告が参加した会議等において,被告規程1,2の内容を一般- 131 -的に説明したからといって,それが原告が有する対価請求権を具体的に特定して消滅時効を援用する旨主張したものでない以上,そのことによって,原告が有する対価請求権について,消滅時効を援用する旨の意思表をしたものと認めることはできない。 また,被告は,本件支払の決定を通知したことによって,平成17年3月31日以前の売上に対応する部分について消滅時効を援用する意思表示をしたとも主張する。 しかし,補償金支払通知(乙4)及び異議申立に対する説明文書(乙24)においても,消滅時効を援用するものと解することのできる記載はなく,被告の主張を採用することはできない。 なお,被告は,前記原告とのメールのやりとりにおいて,「旧山之内の規程は1997年1月1日に制定され,1997年1月1日以降に日本で上市されたものが対象となっています。また,遡及適応の規定もありません。従いまして,1993年8月に上市されているハルナールは,旧規程で支払い対象となっておりません。」などと述べているが,これも算定の根拠を示したものにすぎず,消滅時効の援用の意思表示とみることはできない。 したがって,被告が原告に対し消滅時効を援用する旨の意思表示をしたのは,本件支払がされた後の本件訴訟提起後のことと認めるのが相当である。 イ前記認定事実によれば,被告は,被告現行規程に基づく実施時補償として,平成17年4月1日から平成20年3月31日の対象期間において,全世界における売上を対象とし,上記期間において特許期間が残存していた特許,すなわち,米国及び欧州におけ 規程に基づく実施時補償として,平成17年4月1日から平成20年3月31日の対象期間において,全世界における売上を対象とし,上記期間において特許期間が残存していた特許,すなわち,米国及び欧州における本件物質発明に係る特許並びに我が国における本件製法特許について,利益の有無を検討し,実施時補償を算定して本件支払を行っている。したがって,本件支払は,上記対象期- 132 -間の始期である平成17年4月1日において既に特許期間が満了している特許である我が国における日本物質特許(平成17年2月8日期間満了)並びにスペイン(平成13年10月28日期間満了),ロシア(平成13年2月6日期間満了)及びポルトガル(平成13年2月5日期間満了)における本件物質発明に係る各特許を除き,上記対象期間において,特許期間が残存している特許である日本製法特許(満了日は平成17年11月13日),米国物質特許(満了日は平成21年10月27日),欧州物質特許(対象国はイギリス,ドイツ,フランス,イタリア,ベルギー,オランダ,スイス,オーストリアであり,満了日は平成18年2月2日である。)及びスペインにおける本件製法特許に係る特許(満了日は平成18年7月29日)について,利益の有無を検討し,実施時補償を算定して本件支払を行ったと認められる。 ウ被告は,上記のとおり,特許期間が残存している特許についてのみ実施時補償を行っており,特許期間が残存していない特許について実施時補償をしていない。そして,被告が特許期間が残存していない特許について実施時補償をしなかったのは,前記A5社長の発言も併せ考えれば,特許期間が残存していない特許については,消滅時効期間が経過していると考えていたためであると認められる。そして,被告が消滅時効期間が経過していると考えた根拠としては 記A5社長の発言も併せ考えれば,特許期間が残存していない特許については,消滅時効期間が経過していると考えていたためであると認められる。そして,被告が消滅時効期間が経過していると考えた根拠としては,被告の前記説明内容に照らせば,山之内製薬の規程によっては原告に補償金を支払う根拠がなく,原告の対価請求権はその承継のときから消滅時効の期間が開始し,被告規程3の制定のときには,既に消滅時効期間を経過していると考えたためであると解するのが相当である。そうすると,被告は,支払をしなかった特許のみならず,被告規程3の附則に基づいて支払をした特許についても,消滅時効期間が経過していることを認識していたものと認められる。 エ以上のとおり,被告は,本件物質発明及び本件製法発明に係る特許を受- 133 -ける権利の譲渡に基づく相当の対価請求権について,その時効の完成を知っていたものであるが,上記支払をした各特許については,実施による利益の有無等の検討を行った上で,実施時補償としての本件支払を行ったことが認められるから,上記支払をした各特許については,被告は,本件支払により時効の利益を放棄したと認めるのが相当である。 被告は,この点について,本件支払は,平成17年4月1日以降の売上に対応する部分という明確に区別された部分の弁済として行われたから,当該部分のみの時効利益の放棄になるにすぎないと主張する。 しかし,相当対価請求権は,特許を受ける権利の承継の対価についての請求権であり,それは時期的に区切られた権利として成立するものではなく,権利の承継時に全体として1個の請求権として成立するものである。 その算定をするに当たって,被告の期間ごとの利益が算定資料として考慮されるとしても,それはあくまでも算定のための標識であるにすぎないので 利の承継時に全体として1個の請求権として成立するものである。 その算定をするに当たって,被告の期間ごとの利益が算定資料として考慮されるとしても,それはあくまでも算定のための標識であるにすぎないのであって,算定期間が相当対価請求権を区切る標識となり,その標識により可分な部分についての弁済が認められるというような性質のものではない。 しかも,本件では前記認定のとおり,時効の成否を含めて相当対価の算定方法について当事者間に争いがあり,被告はそのような争いがあることを承知の上で,自らの算定方法に基づいて算定して支払をしたものである。すなわち,被告の行為は,時効の成否を含めて相当額に争いがある場合に,時効の援用の意思表示をすることなく(消滅時効の援用をすることは,平成17年4月1日以降の実施時補償の支払をすることと矛盾するため時効の援用はしなかったものと解される。),相当額についての評価ともに自己の立場に基づいて支払をしたものである。 このような被告の行動を評価すれば,本件物質発明及び本件製法発明に係る特許のうち,被告現行規程に基づいて実施時補償をせざるを得ないも- 134 -のについては,その支払の妨げとなる時効の利益を放棄した上で,被告現行規程に基づき算定した額を相当対価の額として支払ったものと解するのが相当である。 よって,支払部分についてのみ時効利益を放棄した旨の被告の主張を採用することはできず,被告現行規程に基づいて実施時補償をした日本製法特許,米国特許,欧州特許,スペイン製法特許については時効の利益を放棄したものと解するのが相当である。 他方,原告の日本物質特許に係る請求,スペイン・ロシア・ポルトガルの物質特許に係る請求については,上記各権利とは別個の請求権として成立しているものであ 棄したものと解するのが相当である。 他方,原告の日本物質特許に係る請求,スペイン・ロシア・ポルトガルの物質特許に係る請求については,上記各権利とは別個の請求権として成立しているものであり,これらについては,被告現行規程に基づく支払の事実がなく,これらについて被告が時効利益の放棄をする意思は認められない。 そして,被告は,平成21年11月11日の本件第1回口頭弁論期日において,上記各請求権について消滅時効を援用する旨の意思表示をした。 したがって,原告の日本物質特許に係る請求,スペイン・ロシア・ポルトガルの物質特許に係る請求については,時効により消滅しており,その請求を認めることができない。 6 小括以上によれば,前記相当対価の算定において算定した対価額のうち,日本物質特許に係る相当対価請求権,スペイン・ロシア・ポルトガルの物質特許に係る相当対価請求権は,時効より消滅しているものと認められるから,前記総合計の額1億9974万円から,これらの時効消滅した額の合計3100万円を除いた1億6874万円が相当対価の額と認められる。 そして,前記のとおり,被告は,上記額のうち335万9900円を既に支払っているから,これを控除した1億6538万円(1000円未満切り捨て)が,最終的に認容すべき額となる。 - 135 -第4 結論以上により,原告の請求は,1億6538万円及びこれに対する請求の日の翌日である平成21年4月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める範囲で理由があるから,その限度で認容し,その余の部分は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官大須賀滋 主文 し、その余の部分は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 理由 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官大須賀滋 裁判官小川雅敏 裁判官菊池絵理は転補のため署名押印することができない。 裁判長裁判官大須賀滋

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