平成29(行ウ)294 国籍存在確認請求事件

裁判年月日・裁判所
平成30年7月24日 東京地方裁判所 その他
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判決文本文20,967 文字)

平成30年7月24日判決言渡平成29年(行ウ)第294号国籍存在確認請求事件 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求原告が日本国籍を有することを確認する。 第2 事案の概要本件は,コロンビア共和国(以下「コロンビア」という。)の国籍を有する 母の子として出生した原告が,血縁上の父子関係のない日本国民である男性からコロンビアにおいて認知を受けたとして,国籍法の一部を改正する法律(平成20年法律第88号。以下「平成20年改正法」といい,この法律による国籍法の改正を「平成20年改正」という。)附則4条1項の規定による国籍取得の届出をしたところ,国籍取得の条件を備えておらず,日本国籍を取得して いないものとされたことから,日本国籍を有することの確認を求める事案である。 1 関係法令の定め別紙のとおり(別紙において定めた略語は,以下の本文においても用いることとする。) 2 平成20年改正に至る経緯等(1) 旧国籍法3条1項は,日本国民である父と日本国民でない母との間に出生した子について,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得した(すなわち,準正のあった)場合に限り,20歳未満の間に届出をすることによる日本国籍の取得を認めていた。 (2) 最高裁平成18年(行ツ)第135号同20年6月4日大法廷判決・民集 62巻6号1367頁(以下「最高裁平成20年判決」という。)は,旧国籍法3条1項が, めていた。 (2) 最高裁平成18年(行ツ)第135号同20年6月4日大法廷判決・民集 62巻6号1367頁(以下「最高裁平成20年判決」という。)は,旧国籍法3条1項が,出生した後に日本国民である父から認知されたにとどまる子と準正のあった子との間に日本国籍の取得に関する区別を生じさせていることは,遅くとも最高裁平成20年判決に係る上告人が国籍取得届を提出した平成15年当時において,憲法14条1項に違反していた旨判示した。 (3) 最高裁平成20年判決を受け,平成20年改正法が成立し,平成20年12月12日に公布された。平成20年改正法により,旧国籍法3条1項の規定が現行の国籍法3条1項に改められるとともに,経過措置として,平成15年1月1日から平成20年改正法の施行日(平成21年1月1日)の前日までの間において平成20年改正後の国籍法3条1項の規定の適用があると するならば同項の要件を備えていた者で20歳を超えたことにより同項の規定による届出ができないものについては,所定の条件を備えるときは,施行日から3年以内(天災その他その責めに帰することができない事由によってこの期間内に届け出ることができないときは,その届出の期間は,これをすることができるに至った時から3月)に限り,届出により日本国籍を取得で きることとなった(平成20年改正法附則4条,6条)。 3 前提事実(証拠等を掲記しない事実は,当事者間に争いがない。)(1) 原告は,1976年(昭和51年)▲月▲日,コロンビアにおいて,同国の国籍を有する母Aの嫡出でない子として出生した。 (2) 日本国民であるBは,1988年(昭和63年)12月21日,コロンビ アにおいて,原告の認知(以下「本件認知」とい いて,同国の国籍を有する母Aの嫡出でない子として出生した。 (2) 日本国民であるBは,1988年(昭和63年)12月21日,コロンビ アにおいて,原告の認知(以下「本件認知」という。)をした。(甲1,2の2)原告とBとの間には血縁上の父子関係はない。 (3) 原告は,平成2年7月29日に本邦に上陸し,以後本邦に在留していたところ,平成16年1月31日,強盗致傷事件の被疑者として逮捕され,平成 15年4月27日から同年12月2日にかけての3件の強盗致傷事件につい て起訴され,平成16年11月10日,横浜地方裁判所C支部において,強盗致傷の罪により,懲役13年に処する旨の有罪判決を受けた。原告は,同判決を不服として控訴したが,平成17年3月3日に控訴棄却の判決を受け,上記有罪判決は,同月18日に確定した。(甲6ないし8,17,乙3)原告は,その後,D刑務所に収容され,平成27年9月1日,仮釈放によ り同刑務所を出所し,同日,原告が出入国管理及び難民認定法24条4号ロ(不法残留)及び同号リ(刑罰法令違反)に該当するとの容疑により発付されていた収容令書に基づき,東京入国管理局収容場に収容された。原告は,その後,平成28年3月3日,同収容場から入国者収容所東日本入国管理センター(以下「東日本センター」という。)に移送され,同年7月8日,仮 放免を受けて東日本センターを出所した。(甲8ないし12,乙3)原告は,上記のとおり平成16年1月31日に逮捕されてから平成28年7月8日に東日本センターを出所するまでの間,保釈等により身体の拘束を解かれることはなく,身体の拘束を受け続けた。(争いのない事実,弁論の全趣旨) (4) 原告は,平成28年 8年7月8日に東日本センターを出所するまでの間,保釈等により身体の拘束を解かれることはなく,身体の拘束を受け続けた。(争いのない事実,弁論の全趣旨) (4) 原告は,平成28年10月5日,法務大臣に対し,平成20年改正法附則4条1項の規定による国籍取得の届出(以下「本件届出」という。)をした。 (乙1)(5) さいたま地方法務局長は,平成29年2月21日,原告に対し,本件届出は国籍取得の条件を備えているものとは認められない旨通知した。 4 争点及び当事者の主張本件の争点は,原告が国籍取得の条件を備えているか否かであり,この点についての当事者の主張の要旨は,以下のとおりである。 (原告の主張の要旨)(1) 本件認知が有効であること アコロンビア1968年法第75号1条柱書きは,実子の認知は撤回でき ないと定め,同条1項は,認知は出生証明書に認知をする者が署名してなされると定め,同条2項は,認知は公正証書によってなされると定めている。 また,コロンビア民法248条2項は,認知に関し,利害関係人等が異議申立てをすることができるのは,血縁関係のないこと等を知ってから140日以内と定めている。 本件において,Bは,1988年(昭和63年)12月21日,出生届に認知者として署名し,公正証書によってそれをなしたものであるところ,このようにBがした本件認知は撤回できず,利害関係人による異議申立てもないことから,コロンビア法上,本件認知は有効に確定している。 イ法の適用に関する通則法(以下「法適用通則法」という。)29条によ れば,Bによる原告の認知については,Bの本国法である日本法か,原告の本国法であるコロンビア 確定している。 イ法の適用に関する通則法(以下「法適用通則法」という。)29条によ れば,Bによる原告の認知については,Bの本国法である日本法か,原告の本国法であるコロンビア法が準拠法となるから,本件認知が無効となるためには,日本法及びコロンビア法のいずれにおいても無効でなけらばならない。そして,日本法では,認知は,利害関係人の訴え(認知無効の訴え)を受け,これを無効とする判決があれば無効となり,他方,コロンビ ア法では,利害関係人が,認知による親子関係が生じたことを知ってから140日以内に異議を申立て,異議が認められたときに無効となると定めているところ,本件においてこのような訴えないし異議申立てがないことからすると,本件認知は,無効とはいえない。本件認知は,コロンビア法を準拠法とし,完全に有効なものである。 ウ法適用通則法42条は,公序則による外国法の適用排除を定めるところ,国籍取得のための仮装認知の場合には,公の秩序又は善良の風俗(以下単に「公序」という。)の問題となるから,この場合,認知の効力は,法適用通則法42条が適用され,それ以外の場合,すなわち,認知が家族関係の構築を目的としてなされる場合には,公序の問題とはならないので,法 適用通則法29条によるコロンビア法の適用が認められる。そして,血の つながりのない者を血がつながっていると謀ってされた仮装認知により国籍取得を認めるということは,日本国の公序に反するので,そのような国籍取得のための仮装認知については,訴えや異議を待たず,民法90条を類推して当然に無効となると解される。 しかしながら,以下のとおり,本件認知は国籍取得のための仮装認知で はなく,本件認知には何ら日本国の公序に反する事実は 待たず,民法90条を類推して当然に無効となると解される。 しかしながら,以下のとおり,本件認知は国籍取得のための仮装認知で はなく,本件認知には何ら日本国の公序に反する事実は存在しないから,本件認知は,法適用通則法42条の適用を受けるものではない。すなわち,Bが昭和63年12月21日にコロンビアにおいて本件認知をしたのは,当時,既に,原告の母であるAと婚姻し,日本において夫婦としての生活を構築していたところ,そこに,それまで原告の祖母らの監護に委ねられ ていた原告とその弟を,原告の祖母の死に伴い,自分の子供として迎え入れることの決意の表明として行ったものであり,本件認知は,純然たる家族間の信義に基づくものである。 (2) 平成20年改正法附則4条が違憲又は違法であること旧国籍法3条1項が,父母の婚姻の事実の有無により,日本国籍付与につ いて差異を設けていた理由は,日本国民である父が日本国民でない母と法律上の婚姻をしたことをもって,初めて子に日本国籍を与えるに足りるだけの我が国との密接な結び付きが認められることにあるところ,最高裁平成24年(ク)第984号,第985号同25年9月4日大法廷決定・民集67巻6号1320頁によれば,婚姻ないし親子関係に対する国民の意識が平成1 3年7月の時点で変容していたというのであるから,既に変容している婚姻ないし親子関係との結び付きの濃淡をもって国籍付与の有無を決めるという旧国籍法3条1項の規制は,遅くとも平成13年7月の時点では,我が国との密接な結び付きを有する者に限り日本国籍を付与するという立法目的との合理的関連性を失っていたというほかない。そうすると,旧国籍法3条1項 は,遅くとも平成13年7月の時点で,上記立法目的との合理的 な結び付きを有する者に限り日本国籍を付与するという立法目的との合理的関連性を失っていたというほかない。そうすると,旧国籍法3条1項 は,遅くとも平成13年7月の時点で,上記立法目的との合理的関連性を欠 き,憲法14条に違反していたといえる。 それにもかかわらず,平成15年1月1日を基準として取扱いを異にしている平成20年改正法附則4条は,憲法14条に違反するか,あるいは,立法においては本来例文として読まなければならない最高裁平成20年判決の「遅くとも上告人が法務大臣あてに国籍取得届を提出した当時」という説示 部分に何らかの法的意味を読み込んでしまったものと考えざるを得ず,現行の国籍法3条に違反する。 したがって,原告に日本国籍を認めなかった国の判断は違憲又は違法であり,原告には日本国籍が認められるというべきである。 (3) 平成8年7月19日時点で20歳未満であった原告に最高裁平成20年判 決の法理が適用されること原告は,平成8年7月19日時点で20歳未満であったところ,以下のとおり,旧国籍法3条1項が準正を国籍取得の要件としていたことは,同日の時点においても,合理性を欠き,憲法14条に違反していた。したがって,最高裁平成20年判決の法理に照らせば,平成8年7月19日時点で20歳 未満であった原告には日本国籍が認められる。 ア最高裁平成20年判決の説示に照らせば,平成15年1月1日時点に限らず,そもそも,旧国籍法3条1項が準正を要件としていたこと自体が合理性を欠いていたのであり,それにもかかわらず,合理性があるというのであれば,合理性があると主張する被告側に立証責任があるというべきで ある。具体的には,被告が,平成8年7月20日から平成 合理性を欠いていたのであり,それにもかかわらず,合理性があるというのであれば,合理性があると主張する被告側に立証責任があるというべきで ある。具体的には,被告が,平成8年7月20日から平成14年12月31日までのいずれかの時点で,婚姻準正の有無で国籍取得の有無を分けるという規制が合理的関連性を失った,すなわち,少なくとも,この間のある時点では,規制に合理的関連性があった,という立証に成功しない限り,平成15年1月1日の時点で,規制に合理的関連性がなくなっていた以上, 平成8年7月19日の時点でも,規制に合理的関連性はなくなっていたと いう推認が働くことになる。 イ最高裁平成20年判決が,遅くとも平成15年1月1日時点で合理性を欠くと判断した理由は,①家族生活・親子関係に関する意識の多様化,②日本国民である父と日本国民でない母との間に出生する子の増大並びに③諸外国の動向及び条約の存在であるところ,これらの判断要素について, 平成8年7月19日時点でいかなる状況であったかを検討すると,以下のとおりである。 (ア) 家族生活・親子関係に関する意識について平成14年1月1日から同年12月31日までの間に出生した子のうち,嫡出でない子の占める割合は1.87%であるのに対し,平成7年 1月1日から同年12月31日までの間のそれは1.55%であり,平成7年中に出生した非嫡出子の割合と平成14年中に出生した非嫡出子の割合とで,有意の差は存在しない。そうすると,平成15年1月1日の時点と平成8年7月19日の時点とで比較しても,出生数に占める非嫡出子の数の割合に有意の差はなく,家庭生活や親子関係の実体が変化 し,多様化したという事実は,平成8年7月19日の時点で 1日の時点と平成8年7月19日の時点とで比較しても,出生数に占める非嫡出子の数の割合に有意の差はなく,家庭生活や親子関係の実体が変化 し,多様化したという事実は,平成8年7月19日の時点で,既に認められる。 また,家庭生活や親子関係の実体変化と多様化の原因である,我が国における社会的,経済的環境等の変化,核家族化の促進や,高度経済成長の一巡と低成長時代という経済環境は,平成8年7月19日の時点で も平成15年1月1日の時点と同じく認められており,最高裁平成20年判決が前提とした家族生活・親子関係に関する意識の変化は,既に平成8年7月19日の時点でも認められる。 (イ) 日本国民である父と日本国民でない母との間の子の数について夫妻の一方が外国人である婚姻のうち,夫が日本人である婚姻は,平 成8年頃には,既に年間2万7000件から2万8000件,割合にし て約3.6%に達していたのであり,国際化の進展に伴い,渉外婚姻が増えてきたという事実は,平成8年頃に,既に認められていた。それに伴い,一方が外国人である夫婦から生まれた子の出生数も増え,平成8年中に出生した両親の一方または双方を外国人とする子の出生数は1万1370人であったのに対し,平成15年中のそれは1万1157人で あり,むしろ,平成8年度中の方が,出生数は多かった。この統計は,日本国民である父と日本国民でない母との間に出生した子の数そのものを示すものではないが,両親の片方が日本人である場合も同様の推移をたどっていたと推認されるから,平成8年において,既に,日本国民である父と日本国民でない母との間に出生する子が増加していたという事 実が認められる。 そうすると,最 移をたどっていたと推認されるから,平成8年において,既に,日本国民である父と日本国民でない母との間に出生する子が増加していたという事 実が認められる。 そうすると,最高裁平成20年判決が前提とした,我が国の国際化の進展に伴い,国際的交流が増大することにより,日本国民である父と日本国民でない母との間に出生する子が増加しているという事実は,平成8年7月19日の時点でも,同様に認められる。 (ウ) 諸外国の動向及び条約の存在について我が国は,平成8年7月19日の時点で,既に市民的及び政治的権利に関する国際規約並びに児童の権利に関する条約を批准していた。また,1997年のヨーロッパ国籍条約は,国籍に関して男女の別を理由とする区別を否定し,出生の時に親の一方が締約国の国籍を有していた子に は法律上当然に国籍を取得することを定めなければならないと定めており,非嫡出子に対する法的な差別を許さない条約であるところ,同条約は,平成4年12月,国籍専門家委員会が研究に着手し,平成7年2月に条約草案が公表され,その後,諮問会議,人権運営委員会,ヨーロッパ移民委員会,国際公法諮問特別委員会などの協議を経て,平成8年1 1月29日,条約案がヨーロッパ法律協力委員会によって完成され,平 成9年5月14日,閣僚委員会によって正式に採択され,同年11月6日から署名のために開放されたという経緯をたどっており,このことからすると,既に,平成7年2月に条約草案が公表された時点で,諸外国においては,非嫡出子に対する法的な差別を解消する方向にあったことがうかがわれる。 そうすると,最高裁平成20年判決が理由とした諸外国の動向及び条約は,平成8年7月19 においては,非嫡出子に対する法的な差別を解消する方向にあったことがうかがわれる。 そうすると,最高裁平成20年判決が理由とした諸外国の動向及び条約は,平成8年7月19日の時点でも,平成15年1月1日の時点と同様に存在していた事実である。 ウ以上から,旧国籍法3条1項が準正を国籍取得の要件としていたことは,平成8年7月19日の時点においても,その合理性を喪失していたといえ る。 (4) 被告の主張に対する反論被告の主張は,認知の私法上の効力と無関係に,法律概念の相対性を前提として,国籍法3条1項にいう認知を,認知をした父又は母と子の間に血縁関係がある場合の認知のことをいうと縮小解釈する枠組みを採用すべきとす るものであるが,かかる枠組みは妥当でない。 なぜなら,国籍法は,国家の構成員の範囲を定める国家存立の基本に関する公法であり,その解釈に当たっては,拡張解釈や類推解釈を極力避けることが要請される上,国籍法においては,親子関係等,私法上の効力を前提とせざるを得ないのであり,国籍法3条1項に規定する「認知」という文言の 解釈についても,私法上の効力を無視した解釈をすることは妥当ではなく,仮に,国籍法における「認知」の解釈は,民法等の私法の規定による規律とは無関係に,国籍法独自の解釈の問題として考えることができるとすると,日本国民たる要件に国籍法の解釈という行政権による恣意的な判断が介在することになり,事案ごとに結論が左右されることになってしまうからである。 仮に,国籍法3条1項にいう「認知」を,私法上の認知の効力と切り離し, 「血縁上の親子関係がある者によりなされた認知」のように縮小解釈するとなると,例えば,客 である。 仮に,国籍法3条1項にいう「認知」を,私法上の認知の効力と切り離し, 「血縁上の親子関係がある者によりなされた認知」のように縮小解釈するとなると,例えば,客観的には,血縁上の親子関係がなかった者がした認知であったが,国籍法3条1項の届出の時には,その事実が判明しなかった場合(外国人母が,懐胎の可能性のある時期に,日本人男性及び外国人男性と性的関係を持ち,日本人男性が認知していたが,後日,日本人男性との血縁上 の親子関係が否定された場合や,いわゆる代理母制度を利用して海外で日本人父の精子を用いて懐胎したが,取り違えにより外国人の精子が用いられてしまった場合等),一旦届出により日本国籍が与えられたとしても,日本人との血縁関係がない者に国籍法3条1項の適用がない以上,日本国籍を否定することになるが,このような結果は,当該認知をした者(父)にとっても, 認知を受けた子及びその母にとっても,極めて酷である。 したがって,被告の主張に係る上記の枠組みは妥当でなく,私法上の効力を前提条件として国籍法の解釈を行うという枠組みが妥当である。 (被告の主張の要旨)(1) 国籍法3条1項等による国籍取得の届出は,認知をした父又は母と子に血 縁関係があることを前提とした制度であり,血縁関係のない日本国民との間で仮装認知がされたにすぎない者は,国籍法3条1項にいう「父又は母が認知した子」に該当し得ないことア以下に指摘する諸点に鑑みれば,国籍法3条1項による国籍取得の届出及び平成20年改正法附則4条1項による国籍取得の届出(以下,併せて 「国籍法3条1項等による国籍取得の届出」という。)は,認知をした父又は母と子に血縁関係があることを前提とした制度である 出及び平成20年改正法附則4条1項による国籍取得の届出(以下,併せて 「国籍法3条1項等による国籍取得の届出」という。)は,認知をした父又は母と子に血縁関係があることを前提とした制度であることが明らかである。 (ア) 我が国が原則として採用している血統主義は,血縁関係のある親子関係を前提としていること 我が国の国籍法は,出生による国籍の付与につき,原則として血統主 義,すなわち,自国民の子として出生した者に対して,自国の領土内で出生したかどうかを問わずに,自国の国籍を付与する主義を採用している(国籍法2条1号,2号)。そして,国籍法2条1号,2号に基づき,子が出生により日本の国籍を取得するには,子の出生時に,日本国民たる父又は母との間に法律上の親子関係が存在しなければならないところ, 法律上の親子関係は,自然的ないし生物学的親子関係,すなわち,血縁関係のある親子関係を前提としているものであり,このことは,認知者が血縁上の父子関係がないことを理由に認知の無効を主張することの可否が争われた認知無効確認請求事件につき,最高裁平成25年(受)第442号同26年3月28日第二小法廷判決・集民246号117頁(以 下「最高裁平成26年3月28日判決」という。)が,「認知は,血縁上の父子関係を前提として,自らの子であることを認めることにより法律上の父子関係を創設する制度であると解されるところ,血縁上の父子関係がないにもかかわらずされた認知は,認知制度の本来の趣旨に反するものであって無効というべきである。」旨判示していることからも明 らかである。 (イ) 国籍法3条1項等は血統主義の補完措置として設けられたこと 無効というべきである。」旨判示していることからも明 らかである。 (イ) 国籍法3条1項等は血統主義の補完措置として設けられたこと旧国籍法3条の規定が昭和59年に設けられた趣旨は,「日本国民である父と日本国民でない母との間に出生した嫡出子が生来的に日本国民を取得することとの均衡を図ることによって,同法の基本的な原則であ る血統主義を補完する」ものである(最高裁平成20年判決参照)。そして,平成20年改正により国籍法3条の要件が準正(父母の婚姻及び認知)から認知のみに変更されたとしても,血統主義の補完措置であるとする上記の趣旨がなお維持されていることは明らかであり,それは,経過措置規定である平成20年改正法附則4条1項においても同様であ る。 (ウ) 国籍法施行規則1条5項等においても,認知をした父と子に血縁関係があることを前提とした取扱いをしていること国籍法施行規則1条5項は,国籍法3条1項等による国籍取得の届出において届書に添付しなければならない書類として,①認知に至った経緯等を記載した父母の申述書(国籍法施行規則1条5項3号),②母が 国籍の取得をしようとする者を懐胎した時期に係る父母の渡航履歴を証する書面(同項4号)及び③その他実親子関係を認めるに足りる資料(同項5号)を掲げているところ,これら書類を添付しなければならないとした趣旨が,認知をした父と子に血縁関係があるのか否かを確認するためであることは明らかである。このように,認知をした父と子に血縁関 係があることを前提としていることは,国籍法施行規則からも導かれる。 (エ) 我が国の国籍法は,平成20年改正の前後を通じ,「仮 かである。このように,認知をした父と子に血縁関 係があることを前提としていることは,国籍法施行規則からも導かれる。 (エ) 我が国の国籍法は,平成20年改正の前後を通じ,「仮装認知」による形態によって国籍を取得させる事態を想定していないこと旧国籍法3条が届出による国籍取得の要件として準正を定めた趣旨は,我が国の国籍法がその立法政策の基調とする血統主義を補完する観点か ら,日本国籍を有する者と被認知者との血縁関係を前提とした認知が存することを前提に,なお,仮装認知,すなわち,血縁関係がないにもかかわらず「認知」を行ったかのような事態により,当該被認知者に我が国の国籍を取得させることを防止すること等にあり,このことからも,旧国籍法が,本件の原告のごとく,血縁関係のない日本国民から「仮装 認知」を受けたにすぎない者に国籍を取得させる事態をおよそ想定していなかったことは明らかである。 また,平成20年改正によって,国籍法3条の要件が準正(父母の婚姻及び認知)から認知のみに変更されることとなり,その改正の際には,とりわけ,「仮装認知」による虚偽の届出の増加が憂慮されたところ, その改正に係る国会質疑における政府側の回答において,当時の政府参 考人(法務省民事局長)は,日本国民と血縁関係のない「仮装認知」の形態による国籍取得という事態を明確に否定している。さらに,平成20年改正においては,仮装認知を念頭においた虚偽の届出を防止するための制裁措置として,新たに罰則規定(国籍法20条)が置かれた。このことも,平成20年改正後の国籍法が,血縁関係のない日本国民によ る「仮装認知」という形態による国籍取得という事態を想定していないことの表れである。 規定(国籍法20条)が置かれた。このことも,平成20年改正後の国籍法が,血縁関係のない日本国民によ る「仮装認知」という形態による国籍取得という事態を想定していないことの表れである。 イ国籍法3条1項にいう「父又は母が認知した子」の解釈民法779条の認知とは,婚姻外に生まれた子,すなわち嫡出でない子を血縁上の父母が自己の子であることを認めることにより,血縁上の親子 を法律上の親子とする行為であり,血縁関係が当然の前提とされている。 そして,我が国では,婚外子に係る法的親子関係としては,①血縁上の親子関係,すなわち,実親子関係を前提として法律上の親子関係を創設する認知制度と,②血縁上の親子関係のないものに法律上の親子関係を創設する養子縁組制度のそれぞれが置かれている。この点, 比 較法上,婚姻外の法的実親子関係を成立させる認知制度の基本的な立法態度としては,認知主義(意思主義又は主観主義)及び血縁主義(事実主義又は客観主義)の二つが存し,前者は自己の子であることを父が承認する行為を基礎に父子関係を認める立法であり,後者は,血縁関係を示す一定の事実により父子関係を認める立法である。我が国の民法は前者の認知主 義を採用しているが,留意すべきは,いずれの立法主義の立場に立っても血縁関係が存在することを当然の前提としているということである。それゆえ,我が国の法体系において,「認知」とは,その字義,制度趣旨や沿革に照らしても,血縁上の親子関係を当然の前提とした制度を意味するものと理解されているのであり,このことは,最高裁平成26年3月28日 判決が,血縁上の父子関係がないにもかかわらずされた認知は,認知制度 の趣旨に反するものであって無効であると するものと理解されているのであり,このことは,最高裁平成26年3月28日 判決が,血縁上の父子関係がないにもかかわらずされた認知は,認知制度 の趣旨に反するものであって無効であると判示していること等からも裏付けられるものである。 以上の認知制度の趣旨に照らせば,国籍法3条1項における「父又は母が認知した子」が,その文言上,認知者と当該子との血縁関係を前提とするものであることは明らかである。 ウ原告が国籍法3条1項にいう「父又は母が認知した子」に該当しないこと以上のとおり,国籍法3条1項等の国籍取得の届出は,認知をした父又は母と子に血縁関係があることを前提とした制度であることは明らかであるところ,本件においては,原告とBとの間に血縁関係がないのである から,そもそも,原告は国籍法3条1項にいう「父又は母が認知した子」に該当せず,原告が日本国籍を取得していないことは,本件認知に係る準拠法及び当該準拠法に照らした本件認知の有効性について検討するまでもなく,明らかである。 (2) 本件認知に係る準拠法について検討しても,本件認知が無効であること ア本件認知は,コロンビア法における認知の要件を満たさないこと(ア) 父との間の親子関係に関する認知の準拠法については,子の出生当時における父の本国法(本件では日本法)に加えて,認知当時における認知する者又は子の本国法(本件ではコロンビア法)のいずれによっても認知ができることとされており(法適用通則法29条2項), いわゆる選択的連結の方法が採用されている。 コロンビア法においても,我が国の民法と同様,非嫡出の父子関係については認知主義が採 とされており(法適用通則法29条2項), いわゆる選択的連結の方法が採用されている。 コロンビア法においても,我が国の民法と同様,非嫡出の父子関係については認知主義が採用されているところ,コロンビア法における任意認知の方法には,以下の①ないし④の方法がある 。 ① 父親が,子の出生登録届出にあたり,その届書に宣言者又は証人で あることを明記し,同書に署名する方法 ② 公証人に対し,提出する文書による方法③ 遺言による方法。この場合,遺言の取消しによっても,取消し前の遺言によって確立された認知には変更はない。 ④ 裁判官に対し示す方法。ただし,その裁判の主要目的が認知にない場合も含む。 このように,コロンビア法は,非嫡出の父子関係について認知主義を採用しており,上記①ないし④という任意認知の方法を定めていることからすれば,コロンビア法においても,認知をする者と子の間に,血縁上の父子関係を要求しているものと解される。 そして,本件において,Bがコロンビアで行った本件認知は,上記② の方法によるものと解されるが,原告の出生登録証明書には,「父親」欄の姓名として「F」,裏面の「非嫡出子の認知」欄の「認知をする父親の署名」として「G」と記載されていることからも,コロンビア法が血縁上の父子関係を要求していることは明らかである。 したがって,本件認知について,仮に法適用通則法29条が適用され, コロンビア法が準拠法とされたとしても,本件認知がコロンビア法における認知の要件を満たさないことは明らかであるから,本件認知は無効であると解される。 いて,仮に法適用通則法29条が適用され, コロンビア法が準拠法とされたとしても,本件認知がコロンビア法における認知の要件を満たさないことは明らかであるから,本件認知は無効であると解される。 (イ) 原告は,コロンビア1968年法第75号1条柱書きが,認知は撤回できないと規定していること,また,コロンビア民法248条2項 が,認知に関し,利害関係人等が異議申立てをすることができるのは,血縁関係のないこと等を知ってから140日以内と定めていることを前提として,本件認知について利害関係人による異議申立て等がないことからすると,本件認知はコロンビア法上有効に成立している旨主張する。 この点,甲第15号証の3のコロンビア法の訳文の正確性については 疑義があるといわざるを得ないが,仮に,コロンビア1968年法第75号1条の規定が甲第15号証の3のとおりであったとしても,同条柱書きが「実子の認知は撤回できず,次のようにしてなされる」と規定するとおり,同条の規定は,飽くまで「実子」を認知することを前提としているものであり,「実子」が,その文言どおり「血縁上の子」を指す ことは明らかである。そうすると,血縁上の親子関係がないBが行った本件認知は,「実子」の認知ではなく,認知の要件について規定した同条に該当しないのであるから,認知が有効に成立しているとは認められない。 また,甲第16号証に記載されたコロンビア民法248条は「嫡出子」 についての規定であり,「認知」についての規定であるとは解されない。 そもそも,コロンビアにおける婚外子に係る法的親子関係としては,我が国と同様,認知制度と養子縁組制度の両者を基調とする身分法体系を構築し 」についての規定であるとは解されない。 そもそも,コロンビアにおける婚外子に係る法的親子関係としては,我が国と同様,認知制度と養子縁組制度の両者を基調とする身分法体系を構築しているところ,血縁上の父子関係がないものが法律上の親子関係を創設する場合には,本来的には養子縁組の手続が予定されるもので ある。そうすると,コロンビアにおいても,認知とは,血縁上の親子関係を前提として,自らの子であることを認めることにより法律上の親子関係を創設する制度にほかならず,それゆえ,血縁上の父子関係がないにもかかわらずされた認知は無効であると解することが相当である。 以上によれば,コロンビア法においても,本件認知が有効に成立して いるとは認められない。 イ仮にコロンビア法において本件認知が有効であると解し得たとしても,そのようなコロンビア法の規定は法適用通則法42条により適用されないこと(ア) 仮にコロンビア法において本件認知が有効であると解し得たとして も,そのような血縁上の親子関係がないにもかかわらず有効とされる ような外国法における認知の規定は,以下のとおり,公序(公の秩序又は善良の風俗)に違反し,法適用通則法42条により適用されない。 (イ) すなわち,血縁上の親子関係がないにもかかわらず有効とされるような外国法における認知の規定は,我が国における認知制度の本来の趣旨に反するものであり,婚外子に係る法的親子関係として認知制度 と養子縁組制度の両者を基調とする我が国との身分法体系とも抵触を来すものである上, 仮に,そのような認知が公序に違反しないとされた場合,仮装認知が増加し,本来日本国籍を取得するべきではな 組制度の両者を基調とする我が国との身分法体系とも抵触を来すものである上, 仮に,そのような認知が公序に違反しないとされた場合,仮装認知が増加し,本来日本国籍を取得するべきではないような者が日本国籍を取得して日本国民としての数々の権利を行使することとなり,ひいては我が国の治安等にも悪影響を与える ことになるなど,我が国にとって極めて深刻な弊害が生じることは明らかである。 このことに鑑みると,血縁上の親子関係がないにもかかわらず有効とされるような外国法における認知の規定は,当事者の動機のいかんにかかわらず公序違反となり,法適用通則法42条により適用されないとい うべきである。 したがって,本件において,仮にコロンビア法において本件認知が有効であると解し得たとしても,そのようなコロンビア法の規定は公序違反となり,法適用通則法42条により適用されないこととなる。 (ウ) なお,原告は,血縁上の親子関係がない者の認知について,当該認 知をする目的が法律上の親子関係を生じさせる目的であれば有効となり,国籍取得をさせる目的であれば無効であると主張するようであるが,そもそも血縁上の父子関係がないにもかかわらずされた認知は認知制度の本来の趣旨に反するものであること等に鑑みると,当事者の動機いかんによって公序違反の有無の判断が左右されるなどというこ とは相当でなく,原告の上記主張は失当である。 ウ準拠法となる日本法によれば,本件認知が無効であること以上によれば,本件認知はそもそもコロンビア法により有効とされないか,又は,コロンビア法において本件認知が有効であると解し得たとしても,法適用通則法42条によりそのよ 効であること以上によれば,本件認知はそもそもコロンビア法により有効とされないか,又は,コロンビア法において本件認知が有効であると解し得たとしても,法適用通則法42条によりそのようなコロンビア法の規定は適用されない。そして,コロンビア法の適用が排除される以上,準拠法となる日本 法によれば,血縁上の父子関係がないにもかかわらずされた認知は,認知制度の本来の趣旨に反するものであって無効である(最高裁平成26年3月28日判決)ため,本件認知は無効である。 以上の理由からも,原告が国籍法3条1項にいう「父又は母が認知した子」に該当しないことは明らかである。 第3 当裁判所の判断 1 国籍法3条1項にいう「認知」の意義について(1) 国籍法2条1号は,子は出生の時に父又は母が日本国民であるときに日本国民とする旨を規定して,日本国籍の生来的取得について,いわゆる父母両系血統主義によることを定めている。そして,国籍法3条の規定する届出に よる国籍取得の制度は,法律上の婚姻関係にない日本国民である父と日本国民でない母との間に出生した子であって胎児認知を受けていないものについて,当該父の認知により当該父との間で法律上の親子関係を有するに至ることのほか同条1項の定める一定の要件を満たした場合に限り,法務大臣への届出によって日本国籍の取得を認めるものであり,出生の時に日本国民との 法律上の親子関係を有しない者であっても,出生後に日本国民との法律上の親子関係を有するに至ったことを基礎として届出による国籍の取得を認めることにより,同法の基本的な原則である血統主義を補完する意義を有するものといえる(なお,国籍法3条1項は,父又は母が認知をした場合について規定しているが,日本国民である母 出による国籍の取得を認めることにより,同法の基本的な原則である血統主義を補完する意義を有するものといえる(なお,国籍法3条1項は,父又は母が認知をした場合について規定しているが,日本国民である母の子は,出生により母との間に法律上の 親子関係が生ずると解され,同法2条1号により生来的に日本国籍を取得す ることから,同法3条1項は,実際上は,法律上の婚姻関係にない日本国民である父と日本国民でない母との間に出生した子に限り適用されることになる。)。すなわち,国籍法3条1項は,同法の基本的な原則である血統主義を基調としつつ,我が国との密接な結び付きの指標となる一定の要件を設け,これを満たす場合に限り出生後における日本国籍の取得を認めることとした ものと解される。 しかるところ,国籍法3条1項が基調とする血統主義の理念に照らせば,認知をする日本国民と認知を受ける者(以下「被認知者」という。)との間に法律上の父子関係が成立する前提として当該日本国民との血縁上の父子関係が存在することは,その被認知者と我が国との密接な結び付きを基礎付け る重要な要素であるということができる。そして,我が国の法体系において,認知は,血縁上の父子関係を前提として,嫡出でない子を自らの子であると認めることにより法律上の父子関係を創設する制度であるから,国籍法3条1項にいう「認知」も,それが血縁上の父子関係を前提としてされる行為であることを当然の前提として含意しているものと解される。 したがって,国籍法3条1項にいう「認知」は,当該認知が認知の要件を具備しているか否かを判断するための準拠法のいかんにかかわらず,認知をする日本国民と被認知者との血縁上の父子関係を前提としてされたものであることを要するものというべきで 」は,当該認知が認知の要件を具備しているか否かを判断するための準拠法のいかんにかかわらず,認知をする日本国民と被認知者との血縁上の父子関係を前提としてされたものであることを要するものというべきである。 (2) これを本件についてみると,前提事実(2)のとおり,Bと原告との間に血縁 上の父子関係はなく,本件認知はBと原告との血縁上の父子関係を前提としてされたものとはいえないから,本件認知は,国籍法3条1項にいう「認知」には当たらない。 (3) 原告は,国籍法の解釈に当たっては拡張解釈や類推解釈を極力避けることが要請される上,国籍法においては私法上の効力(ここでいう私法とは,我 が国の国際私法により定まる準拠法を指す。以下同じ。)を前提とせざるを 得ないこと等から,国籍法3条1項に規定する「認知」という文言の解釈について,認知の私法上の効力と無関係に,国籍法独自の解釈をすることが妥当でない旨主張する。 しかしながら,日本国籍は,我が国の構成員としての資格であって,その性質上,日本国籍の得喪の要件は我が国が自主的に決定できるものであり, 国籍法は,「日本国民たる要件は,法律でこれを定める。」とする憲法10条の規定を受けて日本国籍の得喪の要件を規定しているところ,このように,国籍法が我が国の構成員としての資格という国家の根幹に関する事項を規律していることからすれば,国籍法適用の前提問題となる身分関係の決定について常に私法に委ねなければならないとすることは必ずしも合理的ではなく, 国籍法の趣旨,目的に照らして同法の規定を合目的的に解釈することも許されるものというべきである。そして,認知に関していえば,我が国の法体系において,血縁上の父子関係がないにもかかわらずされた認知は,認知制度 趣旨,目的に照らして同法の規定を合目的的に解釈することも許されるものというべきである。そして,認知に関していえば,我が国の法体系において,血縁上の父子関係がないにもかかわらずされた認知は,認知制度の本来の趣旨に反するものであって無効であると解されるところ(最高裁平成26年3月28日判決(最高裁平成25年(受)第442号同26年3月 28日第二小法廷判決・集民246号117頁)),これに反し,仮に,そのような認知も有効な認知であるとして法的実親子関係を成立させるような外国法が存在し,その外国法が準拠法となる場合において,その外国法の規律を前提として国籍法3条1項に基づく日本国籍の取得が認められるとすることは,同項が基調とする血統主義の理念に照らし妥当でなく,前記(1)のと おり,同項に規定する「認知」の意義を合目的的に解釈すべきものと考えられる。 したがって,この点に関する原告の主張は採用することができない。 2 本件認知の効力についてなお,仮に,国籍法3条1項にいう「認知」が単に私法上有効な認知(渉外 的要素を含む認知については,我が国の国際私法により定まる準拠法の下で有 効な認知)を意味するものと解したとしても,Bがした本件認知は無効であるから,原告は,同項にいう「父又は母が認知した子」には当たらない。その理由は,以下のとおりである。 (1) 本件認知に係る準拠法を定める規定について本件認知のように渉外的要素を含む認知が私法上有効に成立し,法律上の 親子関係が生じているか否かについては,我が国の国際私法により定まる準拠法によって判断すべきであると解される。 そして,本件認知は昭和63年12月21日にされたものであるところ,法例を改正した が生じているか否かについては,我が国の国際私法により定まる準拠法によって判断すべきであると解される。 そして,本件認知は昭和63年12月21日にされたものであるところ,法例を改正した法律である平成元年法律第27号の附則2条本文は,同法律の施行前(すなわち,平成2年1月1日より前)に生じた事項については, なお従前の例による旨規定し,いわゆる旧法主義を採用している。これに対し,法適用通則法附則2条は,同法の規定は,同法附則3条の規定による場合を除き,同法の施行の日前(すなわち,平成19年1月1日より前)に生じた事項にも適用する旨規定し,いわゆる新法主義を採用しているが,その趣旨は,同法が公布された平成18年6月当時の法例の規定のうち,実質的 な内容に変更がなく,現代語化されたにとどまるものについては,法例の規定に代えて法適用通則法の規定を適用することとしてもその適用の結果に変わりがないことから,法適用通則法の施行の日前に生じた事項についても同法を遡って適用することとしたものであると解される。しかるところ,平成元年法律第27号による改正前の法例(以下「旧法例」という。)は,平成 18年6月当時の法例とは内容の異なる規定を置いていたのであるから,旧法例によって規律されていた事項(平成2年1月1日より前に生じた事項)については,法適用通則法附則2条の射程が及ぶものではなく,平成元年法律第27号附則2条により,なお旧法例の適用があるものと解するのが相当である。 したがって,本件認知についての準拠法は,法適用通則法29条でなく, 旧法例18条により定めるべきこととなる。 (2) 旧法例18条に基づく検討ア旧法例18条1項は,認知の要件につき,父又は母に関しては ,法適用通則法29条でなく, 旧法例18条により定めるべきこととなる。 (2) 旧法例18条に基づく検討ア旧法例18条1項は,認知の要件につき,父又は母に関しては認知の当時の父又は母の属する国の法律によりこれを定め,子に関しては認知の当時の子の属する国の法律によりこれを定める旨を規定しているから,本件 において,Bが原告についてした本件認知が有効に成立し,その効力が完全に発生するためには,一方において,父となるBの本国法(すなわち我が国の法律)による認知の要件を具備するとともに,他方において,子となる原告の本国法(すなわちコロンビアの法律)による認知の要件を具備することが必要であって,そのいずれの要件も具備する場合に初めて本件 認知の効力を肯定することができ,上記各本国法の規定する認知の無効要件が異なる場合には,一方の本国法によって認知が無効とされるときは,他方の本国法によって認知が無効とされないときであってもなお,本件認知の効力を否定することができるというべきである。 イそこで検討するに,Bの本国法である我が国の民法の下において,認知 は,血縁上の父子関係を前提として,自らの子であることを認めることにより法律上の父子関係を創設する制度であると解されるところ,血縁上の父子関係がないにもかかわらずされた認知は,認知制度の本来の趣旨に反するものであって無効というべきである(最高裁平成26年3月28日判決)。そして,本件のように認知無効の訴え以外の訴訟において認知の効 力が争われている場合において,血縁上の父子関係がないにもかかわらずされた認知の効力を否定するのに必ず認知無効の訴えを経なければならないとする理由はなく,また,国籍法3条1項等による国籍取得の届出を受け われている場合において,血縁上の父子関係がないにもかかわらずされた認知の効力を否定するのに必ず認知無効の訴えを経なければならないとする理由はなく,また,国籍法3条1項等による国籍取得の届出を受けた法務大臣においてそのような認知の無効を主張することが制限されるべき理由もないことからすれば,Bと原告との間に血縁上の父子関係 がないにもかかわらずされた本件認知は,少なくとも本件の原被告間にお いて,当然に無効であり,Bと原告との間に法律上の親子関係を生じさせる効力を有しないこととなる。 ウしたがって,本件認知がコロンビア法による認知の要件を具備し,コロンビア法の下でBと原告との間に法律上の親子関係を生じさせる効力を有するか否かについて検討するまでもなく,本件認知は無効であるから, 原告は,国籍法3条1項にいう「父又は母が認知した子」に当たらない。 3 小括本件届出は平成20年改正法附則4条1項の規定によるものであるところ,同項にいう「父又は母が認知した子」は国籍法3条1項にいう「父又は母が認知した子」と同義であるため,前記1で検討したところから,原告は平成20 年改正法附則4条1項にいう「父又は母が認知した子」に当たらない。また,原告が平成8年7月20日に20歳に達していることからすれば,原告は,平成15年1月1日から施行日の前日までの間において平成20年改正後の国籍法3条1項の規定の適用があるとするならば同項に規定する要件を備えていた者にも当たらないことが明らかである。 この点に関し,原告は,前記第2の4(原告の主張の要旨)(2)及び(3)のとおり,①平成8年7月19日の時点において20歳未満であった原告を適用対象としていない平成20年改正法附則4条の定めは違憲又は の点に関し,原告は,前記第2の4(原告の主張の要旨)(2)及び(3)のとおり,①平成8年7月19日の時点において20歳未満であった原告を適用対象としていない平成20年改正法附則4条の定めは違憲又は違法であり,また,②同日の時点において20歳未満であった原告に最高裁平成20年判決の法理が適用されることにより,本件届出による日本国籍の取得が認められる旨の主 張をする。しかしながら,いずれの主張も,平成8年7月19日の時点において平成20年改正後の国籍法3条1項の規定の適用があるとするならば原告が同項に規定する要件を備えていたことを前提とするものであるところ,原告は同日の時点においても同項にいう「父又は母が認知した子」には当たらず,同項に規定する要件を備えていたとは認められないから,原告の主張する平成2 0年改正法附則4条の違憲性ないし違法性及び旧国籍法3条1項の違憲性につ いて判断するまでもなく,原告が本件届出によって日本国籍を取得したものとは認められない。 4 結論よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民訴法61条を適用の上,主文のとおり判決 する。 東京地方裁判所民事第38部 裁判長裁判官朝倉佳秀 裁判官野村昌也 裁判官細井直彰 判官細井直彰

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