令和2年6月18日判決言渡令和元年(ネ)第10063号特許権侵害差止等請求控訴事件(原審東京地方裁判所平成29年(ワ)第44181号)口頭弁論終結の日令和2年1月16日判決 控訴人キヤノンITソリューションズ株式会社 同訴訟代理人弁護士鮫島正洋和田祐造高橋正憲杉尾雄一 被控訴人デジタルアーツ株式会社 同訴訟代理人弁護士大野聖二大野浩之同訴訟代理人弁理士松野知紘 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実 及び理由第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は,原判決別紙1物件目録記載の被告製品を製造し,販売し,販 売の申し出をしてはならない。 3 被控訴人は,原判決別紙1物件目録記載の被告製品を廃棄せよ。 4 被控訴人は,控訴人に対し,1億円及びこれに対する平成30年1月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等(略称は原判決のそれに従う。) 1 本件は,名称を「情報処理装置およびその制御方法,プログラム」とする本件特許権1(特許第4613238号)及び名称を「情報処理装置およびその制御方法,プログラム」とする本件特許権2(特許第5307281号)の特許 情報処理装置およびその制御方法,プログラム」とする本件特許権1(特許第4613238号)及び名称を「情報処理装置およびその制御方法,プログラム」とする本件特許権2(特許第5307281号)の特許権者である控訴人が,被告製品は本件発明1-11,2-5の技術的範囲に属し,被告製品をインストールしたサーバである被告装置は本件発明1-1~1-9,2-1~2-3の技術的範囲に属し,被告製品を用いたサーバコンピュータの制御方法である被告方法は,本件発明1-10,2-4の技術的範囲に属するから,被告製品を製造販売等する被控訴人の行為は,本件各特許権の直接侵害(本件発明1-11,本件発明2-5)及び間接侵害(本件発明1-1~1-9,2-1~2-3について特許法101条1号又は2号,本件発明1-10,2-4について特許法101条4号又は5号)に該当するとして,被控訴人に対し,特許法100条1項に基づく被告製品の製造,販売及び販売の申出の差止め並びに同条2項に基づく被告製品の廃棄を求めるとともに,民法709条及び特許法102条2項に基づく損害賠償として9億5767万8572円の一部である1億円及びこれに対する不法行為の後の日である平成30年1月9日(訴状送達の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 原判決は,被告製品,被告装置及び被告方法は本件発明1及び2の技術的範囲に属さないとして控訴人の請求を棄却したため,これを不服とする控訴人が控訴した。 3 前提事実 前提事実は,原判決「事実及び理由」第2の2(原判決2頁16行目から14頁10行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。 4 争点及び争点に関する当事者の主張(1) 本件における当事者の主張は,後記(2)のとおり訂正し 第2の2(原判決2頁16行目から14頁10行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。 4 争点及び争点に関する当事者の主張(1) 本件における当事者の主張は,後記(2)のとおり訂正し,後記5のとおり当審における補充主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」第2の3及び第3(原判決14頁11行目から42頁17行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。 (2) 原判決の訂正ア原判決15ページ15行目「構成要件11d」とあるのを「構成11d等」に訂正する。 イ別紙6中,115頁21行目「国際航海」とあるのを「国際公開」に訂正する。 5 当審における補充主張(1) 争点1-1(構成要件11D等の充足性)及び2-1(構成要件21C等の充足性)について(控訴人の主張)以下では,構成要件11Dに絞って論じるが,構成要件110C,111E,21C,24C及び25Cの「送信先」についても同様である。 ア技術常識を踏まえれば,ドメインは,構成要件11Dの「送信先」に含まれること「送信先」の「先」とは,下位概念の「行きつく目的地」ではなく,より一般的な用語である「物や作用の向かう所」と解釈すべきであり,「所」とは「場所」のことである。よって,構成要件11Dの「送信先」は,「電子メールに設定された,送信した電子メールが向かう場所」を意味すると解すべきである。 段落【0018】①によれば,本件発明1はSMTPが用いられている ところ,電子メールは,SMTPにより,送信者端末とメール中継装置(本件発明1の「情報処理装置」に相当する。)との間,メール中継装置と送信用メールサーバ(本件明細書等における「メール配送装置190」に相当する。)との間,送信用メールサーバと受信側のメールサーバとの間を 明1の「情報処理装置」に相当する。)との間,メール中継装置と送信用メールサーバ(本件明細書等における「メール配送装置190」に相当する。)との間,送信用メールサーバと受信側のメールサーバとの間をリレーして,送信者端末から受信側のメールサーバへと転送される。 SMTPに基づく通信においては,当該電子メールは,受信側のメールサーバまでしか届かず,ユーザ名に基づく電子メールのメールボックスへの配信は,上記SMTPに基づく転送処理終了後に,別途,受信側のメールサーバのローカルのプログラムである,MTAが行う。このように,SMTPを用いたメール転送処理上は,受信側のメールサーバのネットワーク上の住所を示すドメインが,「送信した電子メールが向かう場所」である。 したがって,ドメインは,「電子メールに設定された,送信した電子メールが向かう場所」であることから,「送信先」に含まれる。 イ特許請求の範囲の他の記載との整合性から,構成要件11Dの「送信先」にドメインが含まれているとしか読めないこと特許請求の範囲において,同一の文言たる「送信先」は,いずれの構成要件においても同一の意味に統一的に解釈されるべきである。 そして,本件明細書等1の段落【0041】及び【図5】には,制御ルールに関し,「送信先」と同義である「受信者」,「宛先」について,電子メールアドレス(例えば,「x@x.co.jp」)及びドメイン(例えば,「*@zzz.co.jp」)を設定することができると明確に記載されているから,構成要件11Bの「送信先」は,ドメインを含むものである。 ウ本件明細書等1に記載された事項を踏まえても,構成要件11Dの「送信先」にドメインが含まれること (ア) 本件明細書等1には,個々の「ドメイン」での送出制御を行う技術的思想が明確に 本件明細書等1に記載された事項を踏まえても,構成要件11Dの「送信先」にドメインが含まれること (ア) 本件明細書等1には,個々の「ドメイン」での送出制御を行う技術的思想が明確に開示された上で,複数の送信先を個々の「送信先」に分割することが記載されていることa 本件明細書等1に,個々の「ドメイン」での送出制御を行う技術的思想が明確に開示されていることは,前記イのとおりである。 b 本件明細書等1が従来技術としてあげる特許文献1(乙15公報)には,分割手段に相当する構成がなかったため,「送信メール保留装置」(本件発明の構成要件11Fの「制御手段」に相当する。)による保留の可否判断の制御で,一部の電子メールアドレス又はドメインにつき保留と判断されると,メッセージ全体が保留されてしまっていた。そこで,送出制御の単位をメッセージ単位よりも小さい単位とすることにより,効率よく電子メールを送出できるとの発想に至った結果創作されたのが,本件発明である。 送出制御の単位をメッセージ単位よりも小さい単位とする場合,「送信メール保留装置」による制御単位と同じ単位に送出制御の単位を揃えようと考えるのが,自然かつ合理的である。なぜなら,制御単位で同じ制御とされた送信先の各々に関しては,送出制御も共通となるから,送出制御単位も制御単位に合わせれば足りるからである。そして,制御単位として,電子メールアドレスとドメインのいずれも想定される以上,少なくとも送出制御単位にも,電子メールアドレスとドメインを含めるべきものといえる。 以上からすれば,分割手段の分割単位は,電子メールアドレスに限定されるものではなく,ドメインも含むこととなるのが論理的帰結である。 c 本件明細書等1では,段落【0062】~【0068】における電子メールアドレス 割手段の分割単位は,電子メールアドレスに限定されるものではなく,ドメインも含むこととなるのが論理的帰結である。 c 本件明細書等1では,段落【0062】~【0068】における電子メールアドレス単位での送信先の分割の記載のほかに,段落【00 61】及び【図4】では,電子メールアドレス単位で分割すると記載せず,あえて,段落【0041】で用いられているのと同様に,「受信者」単位で分割することが記載されている。 これは,【図5】の制御ルールに基づきドメイン単位で電子メールを送信又は保留する制御をする場合,送信又は保留の前提となる【図4】における「受信者」単位の分割に,「ドメイン」単位で行うことを含めるために,【図4】では,「電子メールアドレス」単位で分割すると記載せず,「受信者」単位で分割すると記載したものである。 すなわち,本件明細書等1において,【図5】を踏まえた上で,【図4】から技術的思想を把握すると,ドメイン単位で分割し送信制御する技術的思想が開示されているといえる。 (イ) 本件発明1の課題は,個々のドメインに分割し送信制御する構成を解決手段としても解決できること前記(ア)bのとおり,本件発明1の課題は,従来技術である特許文献1のメッセージ単位での保留の可否判断よりも,送出制御を効率化することである。 ドメイン単位で分割する場合であっても,送信を保留すべき電子メールアドレスのドメインとは異なるドメインの電子メールアドレスに対しては送信されるのであるから,課題は解決される。 エ機能的,抽象的な表現で記載された構成要件11Dの「送信先」にはドメインが含まれるものと解釈できること仮に,本件明細書等1に,個々の電子メールアドレスに分割し送信制御する実施例しか開示されず,個々のドメインに分割し送信制御する実施例 11Dの「送信先」にはドメインが含まれるものと解釈できること仮に,本件明細書等1に,個々の電子メールアドレスに分割し送信制御する実施例しか開示されず,個々のドメインに分割し送信制御する実施例が開示されていないとの前提に立ったとしても,機能的,抽象的な表現で記載された,構成要件11Dの「送信先」の文言を「ドメイン」に置換した構成は,当該開示された発明の記述の内容から当 業者が当然に実施し得るものであるから,複数の送信先の分割単位たる「送信先」にはドメインが含まれる。 (被控訴人の主張)ア控訴人の主張ア(技術常識を踏まえれば,ドメインは,構成要件11Dの「送信先」に含まれること)について「送信先」の「先」は「行きつく目的地」を意味するものである。 本件発明1のクレーム上,「送信先」は「電子メールに設定された」(構成要件11C等)ものであるから,「電子メール」の「送信先」を議論すべきであって,「情報処理装置からみた電子メールの送信先」を議論する意味はない。 「電子メール」は最終的にメールボックスに配送されるのであるから,「電子メール」にとっての「行き着く目的地」(送信先)はメールボックスであって,受信側のメールサーバは通過点にすぎない。 イ控訴人の主張イ(特許請求の範囲の他の記載との整合性から,構成要件11Dの「送信先」にドメインが含まれているとしか読めないこと)について控訴人は段落【0041】①及び【図5】の記載を根拠として,ドメイン分割の主張を行っているが,本件明細書等1のいずれにも,分割される個々の送信先として「*@ドメイン」を使用することは一切記載されていない。段落【0041】①の「『発信者(送信元)』,『受信者(宛先)』には,それぞれ電子メールアドレスを複数設定することができ,アスタリスクな として「*@ドメイン」を使用することは一切記載されていない。段落【0041】①の「『発信者(送信元)』,『受信者(宛先)』には,それぞれ電子メールアドレスを複数設定することができ,アスタリスクなどのメタ文字(ワイルドカード)を使うことによって任意の文字列を表すこともできる。」という記載は,条件定義部での判定としては「ユーザ名」(@の左側)を考慮せずに条件が合致するかどうかを判断できるということが記載されているに過ぎない。 より具体的に言えば,分割された個々の電子メールアドレス(ユーザ 名@ドメイン名)と,条件定義部で設定された「*@ドメイン名」という電子メールアドレスとを比較することしか本件明細書等1では記載されておらず,「*@ドメイン名」によって分割することは全く記載されていない。 ウ控訴人の主張ウ(本件明細書等1に記載された事項を踏まえても,構成要件11Dの「送信先」にドメインが含まれること)について(ア) 控訴人は,ドメイン単位の分割でも,本件発明の課題を解決することができると主張する。 しかし,本件明細書等1の段落【0004】では,「特許文献1に記載の技術においては,送信メール保留装置は受信したメッセージ単位でしか保留の可否を判断することができない。そのため,複数の送信先が記載された電子メールに対しては,誤送信の可能性がある送信先が1つでも含まれていれば,その他の送信先に対するメール送信までもが保留,取り消しがされることとなる。」ことが記載され,「1つでも」と明確に記載されている。 同じ「ドメイン」からなる複数の電子メールアドレスが送信先として設定されている場合において,他の電子メールアドレスとは異なる処理(保留,送信等)が設定されている電子メールアドレスが「1つでも」存在するときには,同じドメ る複数の電子メールアドレスが送信先として設定されている場合において,他の電子メールアドレスとは異なる処理(保留,送信等)が設定されている電子メールアドレスが「1つでも」存在するときには,同じドメインからなる電子メール全体に対して同じ処理を行うこととなり,「その他の送信先に対するメール送信までもが保留,取り消しがされることとなる」。したがって,「誤送信の可能性がある送信先が1つでも含まれていれば,その他の送信先に対するメール送信までもが保留,取り消しがされることとなる。」という課題を解決できない。 本件明細書等1において「1つでも」という文言が存在する中,控訴人の主張するように解釈するためには,送信先に「ドメイン」だけが含 まれ,「電子メールアドレス」が含まれないように解釈する必要があるが,そのような記載は本件明細書等1には存在しないし,控訴人自身もそのような主張は行っていない。 (イ) 控訴人は,本件明細書等1の段落【0061】等には「受信者(送信者)」単位で分割することが記載され,一方で,段落【0062】~【0068】及び【図12】には,「受信者」が「電子メールアドレス」であることを前提とした記載があるから,段落【0062】~【0068】の「電子メールアドレス」単位の分割は一例にすぎないと主張するようである。 しかし,本件明細書等1の【0062】~【0068】及び【図12】には,一例として「受信者」が「電子メールアドレス」である態様を述べているとの記載など全くなく,「受信者」が「電子メールアドレス」と同義のものとして説明されている。そうすると,同【0060】,【0061】及び【図4】の「受信者(送信者)」も「電子メールアドレス」を指すとしか考えられない。 エ控訴人の主張エ(機能的,抽象的な表現で記載された 説明されている。そうすると,同【0060】,【0061】及び【図4】の「受信者(送信者)」も「電子メールアドレス」を指すとしか考えられない。 エ控訴人の主張エ(機能的,抽象的な表現で記載された構成要件11Dの「送信先」にはドメインが含まれるものと解釈できること)について「送信先」は何ら「機能的,抽象的な表現」ではない。「送信」とは「通信を送ること」(甲43)であり,「先」とは「行き着く目的地」(乙3)であるから,「送信先」は極めて具体的な表現である。 また,被告装置等における「ドメイン毎に分割する」ことは,「個々の送信先に分割する」という「機能ないし作用効果を果たし得る構成」ではない。よって,「送信先」が仮に「機能的,抽象的な表現」であったとしても,「ドメイン毎に分割する」ことが「個々の送信先に分割する」(構成要件11D)を充足することにはならない。 (2) 争点1-2(本件発明1の均等侵害の成否)について (控訴人の主張)ア本件発明1の本質的部分(ア) 「送信先」が電子メールアドレスを意味するとした場合,本件発明1の課題は,従来技術である特許文献1では「メッセージ単位でしか保留の可否を判断することができない」ため,「複数の電子メールアドレスが記載された電子メール」に対して「誤送信の可能性がある電子メールアドレス」が1つでも含まれていれば,「その他の電子メールアドレス」に対するメール送信が保留されることとなる点にある(段落【0004】①)。すなわち,本来保留される必要のない「その他の電子メールアドレス」に対するメール送信が全て保留されてしまうことが課題となる。 本件発明1の効果は,「電子メールアドレスに応じた電子メールの送出制御を行うことにより効率よく電子メールを送出させる」ものである(段落【0 するメール送信が全て保留されてしまうことが課題となる。 本件発明1の効果は,「電子メールアドレスに応じた電子メールの送出制御を行うことにより効率よく電子メールを送出させる」ものである(段落【0008】①)。「その他の電子メールアドレス」に対するメール送信の全てが保留されていた従来技術に比べれば,仮にドメインに応じた送出制御を行った場合であっても,「その他の電子メールアドレス」のうち少なくとも一部の電子メールアドレスに対する電子メールの送信が保留されない場合,「電子メールアドレスに応じた電子メールの送出制御を行うことにより効率よく電子メールを送出させる」効果を得ることができる。 したがって,本件発明1において,複数の送信先を分割する単位が,個々の電子メールアドレス単位であることは,本件発明1の課題の解決をするのにあたり不可欠ではなく,「メッセージ単位」より小さい単位でかつ,制御ルールに従って送出を制御し得る単位で,複数の送信先を個々に分割した上で,分割した電子メールの送出に係る制御内容を決定及び送信制御を行い,上記単位に応じた電子メールの送出制 御を行うことが,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的な部分である。 (イ) 原判決は,本件明細書等1の課題の「送信先」を電子メールアドレスと読み替えた上で,「課題を解決するためには…電子メールアドレスごとに分割した上で,制御ルールを適用することが不可欠」であるとして,構成要件11Dの構成全体を本質的部分と結論付けている。 しかし,「送信先」が「電子メールアドレス」を意味すると解した上で同構成要件を充足しないことを理由に,文言侵害が否定された場合に,本件明細書等1の課題に記載された「送信先」を「電子メールアドレス」と読み替えて,課題を認定し,当該課題から直 を意味すると解した上で同構成要件を充足しないことを理由に,文言侵害が否定された場合に,本件明細書等1の課題に記載された「送信先」を「電子メールアドレス」と読み替えて,課題を認定し,当該課題から直接的に本質的部分を認定することは,均等侵害の成否の場面において,文言侵害が否定されることを理由に,均等侵害の成立が直ちに否定され,均等侵害がその機能を果たさない結果となることから,かかる結果が著しく妥当性を欠くことは明らかである。 かかる場面こそ,発明が解決しようとする課題の記載を形式的に取り出すのでなく,特許発明の技術的思想を踏まえ,「従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分」の「確定」をして,本質的部分を把握しなければならない(知財高裁平成27年(ネ)第10014号平成28年3月25日大合議判決(以下「大合議判決」という。)参照)。 イ被告装置の第1要件の充足本件発明1の本質的部分は,①「電子メールに設定された複数の送信先を個々」「に分割する分割手段」と,②「当該分割された」「電子メールの送出に係る制御内容を決定する決定手段」と,③「前記決定手段で決定された制御内容で,当該分割された」「電子メールの送信制御を行う制御手段」との構成である。 本件発明1と被告装置の相違部分は,本件発明1は送信先を分割する単位を電子メールアドレス単位とするのに対し,被告装置はこれをドメイン単位とする部分であり,被告装置は,「宛先の電子メールアドレスが設定された電子メールを,宛先のドメイン毎の電子メールに分割する分割部」(構成11d),「分割部でドメイン毎に分割された電子メールに対して実行するアクションを決定する決定部」(構成11e),「分割部でドメイン毎に分割された電子メールに対して,決定部で決定されたアクション 成11d),「分割部でドメイン毎に分割された電子メールに対して実行するアクションを決定する決定部」(構成11e),「分割部でドメイン毎に分割された電子メールに対して,決定部で決定されたアクションを実行する制御部」(構成11f)を備えるものである。 そして,本質的部分の上記①「電子メールに設定された複数の送信先を個々」「に分割する分割手段」と,構成11dの「宛先の電子メールアドレスが設定された電子メールを,宛先」「毎の電子メールに分割する分割部」とは共通する。また,本質的部分の上記②「当該分割された」「電子メールの送出に係る制御内容を決定する決定手段」と,構成11eの「分割部で」「分割された電子メールに対して実行するアクションを決定する決定部」とは共通する。さらに,本質的部分の上記③「前記決定手段で決定された制御内容で,当該分割された」「電子メールの送信制御を行う制御手段」と,構成11fの「分割部で」「分割された電子メールに対して,決定部で決定されたアクションを実行する制御部」とは共通する。 したがって,本件発明1の本質的部分を被告装置等が共通に備えていることから,本件発明1と被告装置の相違部分は本質的部分ではない。 したがって,均等の第1要件を充足する。 (被控訴人の主張)ア第1要件(本質的部分)について本件明細書等1の段落【0004】に記載された本件発明1の課題が 「誤送信の可能性がある送信先が1つでも含まれていれば,その他の送信先に対するメール送信までもが保留,取り消しがされることとなる」であることを鑑みると,当該課題に対応する本件発明1の効果である「効率よく電子メールを送出させる」とは,「誤送信の可能性がある送信先が1つでも含まれている場合であっても,その他の送信先に対するメール送信までもが保 ると,当該課題に対応する本件発明1の効果である「効率よく電子メールを送出させる」とは,「誤送信の可能性がある送信先が1つでも含まれている場合であっても,その他の送信先に対するメール送信までもが保留,取り消しがされることがない」ことを意味する。 したがって,「電子メールアドレス単位」で分割した場合に限って課題を解決でき,「個々の電子メールアドレス単位に分割すること」こそが重要であり,すなわち,本件発明1の本質的部分である。 イ第5要件(意識的除外)について本件特許1に係る無効審判(無効2019-800013号)において,控訴人は,「『複数の送信先』を『個々』すなわち『1つ1つ』(甲15)の送信先に分割」し,全てが「個々の送信先」に分割されるものであることを強調した主張を行った(乙32)。 かかる主張は,ドメイン単位で分割する態様を意識的に除外したものである。 したがって,ドメイン単位で分割する被控訴人の製品は,均等論の第5要件も充足しない。 第3 当裁判所の判断 1 争点1-1(構成要件11D等の充足性)及び2-1(構成要件21C等の充足性)について(1) 当裁判所も,本件発明1,2における「送信先」は,電子メールの宛先である電子メールアドレスを意味し,ドメインを含まないものであるところ,被告装置等の構成11d等及び21c等は,「受信部で受信した複数の宛先の電子メールアドレスが設定された電子メールを,宛先のドメイン毎の電子 メールに分割する」ものであるから,被告装置等は構成要件11D等及び21C等を充足しないと判断する。 その理由は,後記(2)のとおり付加訂正し,(3)のとおり控訴人の当審における補充主張に対する判断を付加するほかは,原判決「事実及び理由」第4の1,2,5(原判決42頁18行目から72 判断する。 その理由は,後記(2)のとおり付加訂正し,(3)のとおり控訴人の当審における補充主張に対する判断を付加するほかは,原判決「事実及び理由」第4の1,2,5(原判決42頁18行目から72頁19行目まで,75頁8行目から77頁24行目まで)記載のとおりであるから,これを引用する。 (2) 原判決の付加訂正ア原判決「事実及び理由」第4の2(1)の「ア特許請求の範囲の記載」(原判決63頁17行目から65頁9行目まで)を以下のとおり改める。 「 構成要件11Dは「前記受信手段で受信した電子メールに設定された複数の送信先を個々の送信先に分割する分割手段と,」,構成要件110Cは「前記受信工程で受信した電子メールに設定された複数の送信先を個々の送信先に分割する分割工程と,」,構成要件111Eは「前記受信手段で受信した電子メールに設定された複数の送信先を個々の送信先に分割する分割手段,」というものである。 そして,特許請求の範囲の記載全体についてみると,本件発明1-1,1-10及び1-11においては,「送信先」に関して,「電子メールの送出に係る制御内容を示す送出制御情報を,前記電子メールの送信元と送信先とに対応付けた制御ルール」(構成要件11B,110A,111C),「複数の送信先が設定された電子メールを前記端末装置から受信する」(構成要件11C,110B,111D),「受信した電子メールに設定された複数の送信先を個々の送信先に分割する」(構成要件11D,110C,111E),「当該分割された送信先に対する電子メールの送出に係る制御内容を決定する」(構成要件11E,110D,111F),「当該分割された送信先に対する前記電子メールの送信制御を行う」(構成要件11F,110E,111G)等の記載があ 送出に係る制御内容を決定する」(構成要件11E,110D,111F),「当該分割された送信先に対する前記電子メールの送信制御を行う」(構成要件11F,110E,111G)等の記載があ る。 証拠(甲23,乙4,5)及び弁論の全趣旨によれば,①インターネットにおけるドメインとは,インターネット上のコンピュータの所属(住所)を示すもので数字の羅列からなるIPアドレスをアルファベット等を用いてわかりやすく表記したものであること,②電子メールの仕組みは,固有の電子メールアドレスを有する送信者が作成した電子メールを送信用メールサーバ(SMTPサーバ)に送信し,これを同サーバが受信側のメールサーバ(POPサーバ等)に転送し,受信者が同サーバに届いた電子メールを確認することによりこれを受信するものであって,送信者と受信者がエンドツーエンドでメッセージを交換するものであること(段落【0002】①②参照),③電子メールアドレスとは,インターネット上の電子メールの送受信の宛先を意味するものであることが認められる。 そして,電子メールアドレスが,右の図(乙10・【図3】)に記載されているように,「@」を挟み,左側のユーザ名と右側のドメイン名で構成されていることについて当事者間に争いはないところ,ユーザ名は,特定のドメイン名を有するメールサーバに存在する多数のメールボックスのうち,当該ユーザが使用するメールボックスを特定するものであるということができる。 本件発明1の特許請求の範囲にいう「送信先」は,「電子メールに設定」されるものである(構成要件11D等)。通常,電子メールには,電子メールアドレスを設定し,ドメイン名のみを設定することは行わない。このことは,上記のとおり,電子メールは送信者と受信者がエンドツー 」されるものである(構成要件11D等)。通常,電子メールには,電子メールアドレスを設定し,ドメイン名のみを設定することは行わない。このことは,上記のとおり,電子メールは送信者と受信者がエンドツーエンドでメッセージを交換するものであって,ドメインを特定する のみでは電子メールは受信者に届かず,ユーザ名とドメイン名で構成されている電子メールアドレスを特定して初めて,受信者に電子メールが届くことから当然である。また,「電子メールのメールヘッダに設定されたアドレス」(乙8公報【請求項1】),「ここで,通常の電子メールシステムの場合,送信者が宛先電子メールアドレスの入力領域110に宛先の電子メールアドレスを入力し,送信ボタン140を押すと,その電子メールは,宛先電子メールアドレスの入力領域110に入力された電子メールアドレスに対して送信される。」(乙10公報段落【0028】),「電子メールの送受信は,宛先として設定された電子メールアドレスに基づいて送信先が特定され」(特開2007-52650(乙21)段落【0002】)などの記載も,電子メールに設定されるものは電子メールアドレスであることと整合的である。 したがって,特許請求の範囲の記載上,「送信先」は,電子メールアドレスを指すと解するのが自然である。」イ原判決「事実及び理由」第4の2(1)の「イ本件明細書等1の記載」(原判決65頁10行目)の後ろに行を改め以下のとおり付加し,「イ本件明細書等1の記載」中の「(ア)」等の各項記号を順次繰り下げる。 「(ア) 本件明細書等1には,「受信者(宛先)」(段落【0040】,【0041】,【0071】),「宛先(受信者)」(【0061】,【0062】),「送信先(受信者)」(段落【0064】から【0067】)との記載があること ,「受信者(宛先)」(段落【0040】,【0041】,【0071】),「宛先(受信者)」(【0061】,【0062】),「送信先(受信者)」(段落【0064】から【0067】)との記載があることから,「送信先」は,「受信者」及び「宛先」と同義であると解され,この点は控訴人も争っていない。 「受信者」の意義について,「電子メールは,送信者と受信者がエンドツーエンドで電子メッセージを交換するものであり」(段落【0002】①)との記載によれば,「受信者」とは,電子メールが最終的に行き着く先を意味することは明らかであり,それは電子メールアドレスに よって特定されるものである。 また,「電子メールは,該電子メールの宛先に設定されたメールアドレスに従って,メール中継装置150とメール配送装置190とを介して,該宛先である不図示の他のメール送受信端末に送信される。」(段落【0013】①),「「受信者(宛先)」には,メール送受信端末110から取得する電子メールの宛先(To,Cc,Bcc)の電子メールアドレス(受信者情報)が設定されている。」(段落【0040】①)との記載によれば,「宛先」は,To,Cc,Bccに設定され,受信者のメール送受信端末を特定する電子メールアドレスを意味すると解される。 他方で,本件明細書等1には,「受信者」又は「宛先」がドメインを含むことを示唆する記載はない。 そうだとすれば,「受信者」及び「宛先」と同義である「送信先」も,電子メールアドレスを意味すると解すべきである。」ウ原判決「事実及び理由」第4の2(1)ウ(原判決69頁12行目から72頁11行目まで)を,以下のとおり改める。 「ウ控訴人の主張について(ア) 控訴人は,制御ルールのリストの例示である【図5】の「条件定義部」の「受信 1)ウ(原判決69頁12行目から72頁11行目まで)を,以下のとおり改める。 「ウ控訴人の主張について(ア) 控訴人は,制御ルールのリストの例示である【図5】の「条件定義部」の「受信者」欄に,「*@zzz.co.jp」が定められており,これはドメインを表すものであるから,「送信先」には電子メールアドレスのみならず,ドメインを含むと主張する。 しかし,前記のとおり,本件明細書等1には,「図5は,制御ルールのリストの一例を示す図である。ここでは,ルールとは,「ID」,「ユーザID」,「条件定義部」,「分割評価」,「アクション定義部」,「管理者」から構成された1レコードの情報である。」(段落【0037】),「・「条件定義部」は, 「発信者(送信元)」,「受信者(宛先)」,「その他条件」から構成される。「発信者(送信元)」には,メール送受信端末110から取得する電子メールの送信元の電子メールアドレス(発信者情報)が設定されている。「受信者(宛先)」には,メール送受信端末110から取得する電子メールの宛先(To,Cc,Bcc)の電子メールアドレス(受信者情報)が設定されている。 「その他条件」には,メール送受信端末110から取得する電子メールから得られる電子メールアドレス以外の電子メールを特定するための条件(情報)が設定されている。」(段落【0040】),「「発信者(送信元)」,「受信者(宛先)」には,それぞれ電子メールアドレスを複数設定することができ,アスタリスクなどのメタ文字(ワイルドカード)を使うことによって任意の文字列を表すこともできる」(段落【0041】),「・「分割評価」には,メール送受信端末110から取得した電子メールに設定された複数の宛先毎のそれぞれを宛先とした電子メールを生成するか否かを示す 文字列を表すこともできる」(段落【0041】),「・「分割評価」には,メール送受信端末110から取得した電子メールに設定された複数の宛先毎のそれぞれを宛先とした電子メールを生成するか否かを示す真偽値(True,False)が設定される。すなわち,後述するステップS402の処理を実行するのか,それともステップS403の処理を実行するのかを判定するための条件が設定されている。」(段落【0042】),「・「アクション定義部」(送出制御情報)は,「アクション」および「遅延時間」から構成される。「アクション」には,条件定義部に設定された各条件に合致する電子メールに対する処理を示す情報(送出制御内容)が設定されている。図5の例では,「中継」と設定されている場合,電子メールを即時に中継(送出)するが,「保留」と設定されている場合は,電子メールを保留することを示している。」(段落【0043】)と記載されている。また, 【図5】は,以下のとおりである。 これらの記載によれば,「条件定義部」は,「分割評価」の「真偽値」及び「アクション定義部」の「アクション」に従った処理を行う電子メールを特定するための条件(情報)が設定されるものであるから,「条件定義部」の「受信者」欄に記載された事項は,「受信者」に関連して,受信者の電子メールアドレスが合致すべき条件を定義し,当該条件の合致を判定することにより,処理を行う電子メールを特定するためのものであって,「受信者」それ自体ではないというべきである。このことは,「「受信者(宛先)」には,・・・アスタリスクなどのメタ文字(ワイルドカード)を使うことによって任意の文字列を表すこともできる」( 段落【0041】) ことや,【図5】の「受信者」欄に,「NOT(*@zzz.co.jp)」との記載 スタリスクなどのメタ文字(ワイルドカード)を使うことによって任意の文字列を表すこともできる」( 段落【0041】) ことや,【図5】の「受信者」欄に,「NOT(*@zzz.co.jp)」との記載,すなわち,「@zzz.co.jp」との文字列を含まないとの条件を定めている例があることからも明らかである。なお,段落【0040】及び【図5】の「x@x.co.jp」のように,電子メールアドレスを「受信者」欄に設定した場合も,「x@x.co.jp」との文字列と受信者の電子メールアドレスとが文字列として一致するかを判定して,処理を行う電子メールを特定するものというべきである。 そうだとすれば,【図5】の「*@zzz.co.jp」とは,受信者の電子メールアドレスが,「@zzz.co.jp」との文字列を含むという電子メールを特定するための条件を定めるものであって,「*@zzz.co.jp」を「受信者」それ自体とするものではないというべきである。かかる解釈は,構成要件11Bが,「電子メールの送信元と送信先とに対応付けた制御ルール」としており,「制御ルール」は,「送信元と送信先とに対応付けた」ものとされているものの,「送信元」及び「送信先」それ自体を「制御ルール」としているわけではないこととも矛盾しない。 控訴人は,「*@zzz.co.jp」がドメインを意味することは,複数の特許文献(甲24,30~32,乙15)などの記載からも裏付けられると主張するが,上記のとおり,【図5】の「受信者」欄の記載は,電子メールを特定するための,電子メールに設定された受信者の電子メールアドレスが合致すべき条件を定めるものであって,「受信者」それ自体ではないから,「*@zzz.co.jp」の表記によってドメインを表している例があることが,本件発明1 設定された受信者の電子メールアドレスが合致すべき条件を定めるものであって,「受信者」それ自体ではないから,「*@zzz.co.jp」の表記によってドメインを表している例があることが,本件発明1や本件明細書等1における「送信先」又は「受信者」についての上記結論を左右するものではない。 (イ) 控訴人は,本件明細書等の段落【0061】及び【図4】のステップS402には,「受信者」の「宛先」単位で電子メールの分割をすることを記載しているが「受信者」の「宛先」にはドメインも含まれると主張する。 しかし,段落【0061】には「各宛先(受信者)のそれぞれを単一の宛先としたエンベロープをそれぞれ生成する」と記載されているところ,同エンベロープの生成を説明する【図12】には,送信先(受信者) の電子メールアドレスとして設定されてい る「A」,「B」,「C」のそれぞれを単一の宛先とするエンベロープ情報をそれぞれ生成することが図示されているのであるから,同段落の「各宛先(受信者)」とは電子メールアドレスを意味するというべきである。 (ウ) 控訴人は,本件明細書等1の段落【0003】に記載の従来技術である乙15公報における「宛先」は「電子メールアドレス」又は「ドメイン」であることが記載されており,本件発明1において分割する単位をドメインとしてもこの従来技術の課題を解決することができると主張する。 そこで,乙15公報をみるに,その段落【0032】には,【図2】の「項目203,205にあっては,アカウントを*として,ドメインのみを指定するとした設定も可能である」と記載されているが,ここにいう項目203は送信メールの一時保留機能を利用する場合において,一時保留せずに,即配信したいメールアドレスの即配信リストを設定する項目であり,同図 した設定も可能である」と記載されているが,ここにいう項目203は送信メールの一時保留機能を利用する場合において,一時保留せずに,即配信したいメールアドレスの即配信リストを設定する項目であり,同図の項目205は,全ての送信保留中メールを本人(送信者)に配送する場合において,配送を希望しない送信保留中メールを本人(送信者)に送信しないメールアドレスの送信不要リストを設定する項目である(段落【0030】)。 【図2】このように,項目203及び同205は即配信又は送信不要の電子メールアドレスを登録するためのものであって,項目203や項目205にアカウントを*としたドメインのみを指定した登録は,送信メールの宛先に設定された電子メールアドレスが合致すべき条件として「@yyy.yyy.com」等のドメインのものと定めたにすぎず,項目203や項目205に登録されたドメインが,電子メールの宛先それ自体を意味するわけではない。項目203には,「*.zzz.co.jp」という,ドメインの一部を設定している例があるが,メールサーバの特定すらされていないから,控訴人の解釈によってもこれを「宛先」と呼ぶことはあり得ないことも,上記解釈を裏付けている。 そうすると,従来技術である乙15公報における「宛先」に「ドメイン」が含まれると解することはできないので,控訴人の上記主張は前提において採用し得ないというべきである。 (エ) 控訴人は,電子メールをドメイン単位で分割する場合でも本件発 明1の課題を解決し得ると主張する。 しかし,電子メールをドメイン単位で分割するとなると,同一ドメインの複数の電子メールのうち,一つのみの送出を保留すべきような場合に上記課題を解決し得 明1の課題を解決し得ると主張する。 しかし,電子メールをドメイン単位で分割するとなると,同一ドメインの複数の電子メールのうち,一つのみの送出を保留すべきような場合に上記課題を解決し得ないことは,前記判示のとおりである。 控訴人は,本件発明1はいかなる場合でも電子メールの送出制御を効率的に行うことを課題と設定しているのではないと主張するが,本件発明1がその課題を解決し得ない構成を含むとは考え難く,特許請求の範囲及び本件明細書等1の記載に照らしても,「送信先」にドメインを含むとは解し得ないことも,前記判示のとおりである。」(3) 当審における補充主張に対する判断ア控訴人の主張ア(技術常識を踏まえれば,ドメインは,構成要件11Dの「送信先」に含まれること)について控訴人は,構成要件11Dの「送信先」は,「電子メールに設定された,送信した電子メールが向かう場所」を意味するとの主張を前提に,SMTPを用いたメール転送処理上は,受信側のメールサーバのネットワーク上の住所を示すドメインが,「送信した電子メールが向かう場所」であるから,ドメインは,「送信先」に含まれると主張する。 しかし,本件発明は「情報処理装置」(本件発明1-1~1-9,2-1~2-3),「情報処理装置の制御方法」(本件発明1-10,2-4)又は「情報処理装置で実行可能なプログラム」(本件発明1-11,2-5)であり,SMTPについては,特許請求の範囲には何ら記載がなく,本件明細書等1の第1実施形態の説明の中で,メール送受信端末110が備えている「メール送受信部111は,一般に知られているSMTP,POP,IMAP等のプロトコルに対応したメールクライ アント(メールユーザエージェント:MUA)に対応する機能部である。」(段落【0018 信部111は,一般に知られているSMTP,POP,IMAP等のプロトコルに対応したメールクライ アント(メールユーザエージェント:MUA)に対応する機能部である。」(段落【0018】①)と記載されているのみであるから,一連のメール転送処理中のSMTPが担う部分を取り出して,「送信先」の意義を検討する理由はないというべきである。なお,「情報処理装置」(本件明細書等1中では,「メール中継装置」)の役割は,送信者端末から電子メールを受け取り,送信用メールサーバ(メール配送装置)に電子メールを送信することであって,「情報処理装置」から受信側のメールサーバに直接電子メールを送信するわけではない(段落【0012】①,【0013】①,【0019】①,【0023】①,【図1】①)。 また,電子メール送信システムを全体としてみれば,SMTPが受信側のメールサーバに電子メールを送り届けるまでを担った後,メールサーバのMTAが,電子メールをメールキューに一時保管し,メールキューに保管された電子メールを,自身が管理するメールボックスへ配信するか他のメールサーバへ転送するかを行う配送責任を担い,電子メールのメールアドレスのドメイン名が自身の所属しているドメイン名の場合は配信,ドメイン名が自身の所属していないドメイン名の場合は転送と判断し,配信と判断した場合は,MTAの配信機能がメールアドレスのユーザ名が指定された当該ユーザのメールボックスに電子メールを配信するのであるから(甲45),SMTPにより,電子メールが送り届けられた時点でのドメインで特定される受信側のメールサーバは,配信か転送を行う前の電子メールをメールキューに一時保管している一時保管場所に過ぎない。 そして,電子メールの送信が終了するのは,メールサーバのMTAの配信機能が,メ れる受信側のメールサーバは,配信か転送を行う前の電子メールをメールキューに一時保管している一時保管場所に過ぎない。 そして,電子メールの送信が終了するのは,メールサーバのMTAの配信機能が,メールボックスに電子メールを配信した時点である(甲45,47)から,電子メールの最終的な送信場所は,受信者の電子メールアドレスのユーザ名で特定される「メールボックス」である。 よって,控訴人の主張アは採用できない。 イ控訴人の主張イ(特許請求の範囲の他の記載との整合性から,構成要件11Dの「送信先」にドメインが含まれているとしか読めないこと)について控訴人の主張は,段落【0041】①,【図5】①などから,構成要件11Bの定める制御ルールについての「送信先」はドメインを含むことを前提に,構成要件11Dの「送信先」もドメインを含むとするものと解されるが,そのようにいえないことは,前記(2)ウのとおり改めた上で引用する原判決のとおりであり,控訴人の主張イは採用できない。 ウ控訴人の主張ウ(本件明細書等1に記載された事項を踏まえても,構成要件11Dの「送信先」にドメインが含まれること)について(ア) 控訴人の主張のうち,段落【0041】①,【図5】①などを根拠に,「ドメイン」での送出制御を行う構成が本件明細書等1に開示されていることを前提に,分割単位としての「送信先」にもドメインが含まれるとの主張(本判決第2の5(1)(控訴人の主張)ウ(ア)a,同c)については,かかる前提が採用できないことは,前記(2)ウのとおり改めた上で引用する原判決のとおりである。 (イ) 控訴人は,本件発明1の課題は,従来技術である特許文献1のメッセージ単位での保留の可否判断よりも,送出制御を効率化することであることを前提に縷々主張する(本判決 する原判決のとおりである。 (イ) 控訴人は,本件発明1の課題は,従来技術である特許文献1のメッセージ単位での保留の可否判断よりも,送出制御を効率化することであることを前提に縷々主張する(本判決第2の5(1)(控訴人の主張)ウ(ア)b,同(イ))。 しかし,「特許文献1に記載の技術においては,送信メール保留装置は受信したメッセージ単位でしか保留の可否を判断することができない。そのため,複数の送信先が記載された電子メールに対しては,誤送信の可能性がある送信先が1つでも含まれていれば,その他の送信先に対するメール送信までもが保留,取り消しがされることとな る。」(段落【0004】)とあるところ,一部であっても本来保留される必要のない送信先に対するメール送信が保留されれば,誤送信の可能性がある送信先が1つでも含まれていることにより,メール送信が保留されてしまったことに変わりはないから,本件発明1の課題は,誤送信の可能性がないその他の送信先に対するメール送信は保留,取り消しがされなくなることと解すべきであり,メッセージ単位での保留の可否判断よりも送出制御を効率化すれば足りるとはいえない。 なお,制御ルールをドメイン単位のみで設定すれば,ドメインのレベルで見る限りは,誤送信の可能性がないその他の電子メールアドレスに対する送信は全てなされることとなるが,本件発明1においては,先に電子メールを分割した上で制御ルールの適用を行うものであるところ,制御ルールに,電子メールアドレス等のドメインより詳細な条件設定が可能である以上,ドメインに応じた送出制御では,保留の必要がない電子メールアドレスに対する送信がなされない場合が出てくるので,発明の課題を解決できない。 (ウ) 以上のとおり,控訴人の主張ウは採用できない。 エ控訴人の主 じた送出制御では,保留の必要がない電子メールアドレスに対する送信がなされない場合が出てくるので,発明の課題を解決できない。 (ウ) 以上のとおり,控訴人の主張ウは採用できない。 エ控訴人の主張エ(機能的,抽象的な表現で記載された構成要件11Dの「送信先」にはドメインが含まれるものと解釈できること)について控訴人の主張は,要するに,本件発明1の範囲を実施例に限定すべきでないというものと解される。 しかし,単に実施例にドメイン単位での分割が記載されているか否かではなく,本件明細書1等の記載を踏まえた結果,構成要件11Dの「送信先」は,電子メールアドレスを意味すると解されることは,前記(2)のとおり付加訂正した原判決に記載のとおりであるから,控訴人の主張は採用できない。 2 争点1-2(本件発明1の均等侵害の成否)及び2-2(本件発明2の均 等侵害の成否)について(1) 当裁判所も,電子メールに設定された複数の電子メールアドレスを個々の電子メールアドレスに分割し,記憶手段に記憶されている制御ルール等に従って,電子メールの送出に係る制御内容を決定し,決定された制御内容に従って電子メールの送信制御を行うとの構成は,本件発明1における本質的部分に該当し,同様に,複数の送信先が設定された電子メールから電子メールアドレス単位で個別メールを生成することは,本件発明2における本質的部分に該当するところ,被告装置はドメインごとに分割するものであるため,かかる構成を有さず,均等の第1要件を充足しないと判断する。 その理由は,後記(2)のとおり控訴人の当審における補充主張に対する判断を付加するほかは,原判決「事実及び理由」第4の3及び6(原判決72頁20行目から74頁25行目まで,77頁25行目から78頁13行目)記載のとおりで とおり控訴人の当審における補充主張に対する判断を付加するほかは,原判決「事実及び理由」第4の3及び6(原判決72頁20行目から74頁25行目まで,77頁25行目から78頁13行目)記載のとおりであるから,これを引用する。 (2) 当審における補充主張に対する判断ア控訴人は,本件発明1において,複数の送信先を分割する単位が,個々の電子メールアドレス単位であることは,本件発明1の課題の解決をするのにあたり不可欠ではなく,「メッセージ単位」より小さい単位でかつ,制御ルールに従って送出を制御し得る単位で,複数の送信先を個々に分割した上で,分割した電子メールの送出に係る制御内容を決定及び送信制御を行い,上記単位に応じた電子メールの送出制御を行うことが,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的な部分であると主張する。 しかし,本件明細書等1には,「特許文献1に記載の技術においては,送信メール保留装置は受信したメッセージ単位でしか保留の可否を判断することができない。そのため,複数の送信先が記載された電子メールに対しては,誤送信の可能性がある送信先が1つでも含まれていれば, その他の送信先に対するメール送信までもが保留,取り消しがされることとなる。」(段落【0004】),「本発明は上述の問題点に鑑みなされたものであり,ユーザによる電子メールの誤送信を低減可能とすると共に,宛先に応じた電子メールの送出制御を行うことにより効率よく電子メールを送出させる仕組みを提供することを目的とする。」(段落【0005】)と記載されている。 「送信先」及び「宛先」はいずれも電子メールアドレスを意味することは前記1のとおりであるから,これらの記載によれば,本件発明1は,誤送信の可能性がある電子メールアドレスが1つでも含まれていれば, 「送信先」及び「宛先」はいずれも電子メールアドレスを意味することは前記1のとおりであるから,これらの記載によれば,本件発明1は,誤送信の可能性がある電子メールアドレスが1つでも含まれていれば,その他の電子メールアドレスに対するメール送信までもが保留,取消しされることとなることを課題として認識し,その課題に鑑みて,電子メールアドレスに応じた電子メールの送出制御を行うことにより効率よく電子メールを送出させる仕組みを提供することを目的とするものと解される。 このように,本件明細書等1には,誤送信の可能性がないその他の電子メールアドレスに対するメール送信までもが保留,取消しされてしまうという従来技術である特許文献1の課題に対し,電子メールアドレスに応じた電子メールの送出制御を行うことによって課題を解決しようとすることが記載されているのであるから,そのために必須の構成である電子メールに設定された複数の送信先を電子メールアドレスごとに分割する構成が,本件発明1の本質的部分に含まれないとはいえない。 イ控訴人は,本件発明1の課題は,従来技術では,本来保留される必要のない「その他の電子メールアドレス」に対するメール送信が全て保留されてしまうことであって,それに比べれば,ドメインに応じた送出制御を行った場合であっても,少なくとも一部の電子メールアドレスに対する電子メールの送信が保留されない場合,「電子メールアドレスに応じ た電子メールの送出制御を行うことにより効率よく電子メールを送出させる」効果を得ることができる旨主張する。 しかし,前記1(3)ウ(イ)のとおり,「誤送信の可能性がある送信先が1つでも含まれていれば,その他の送信先に対するメール送信までもが保留,取り消しがされることとなる。」(段落【0004】①)とは,本来 ,前記1(3)ウ(イ)のとおり,「誤送信の可能性がある送信先が1つでも含まれていれば,その他の送信先に対するメール送信までもが保留,取り消しがされることとなる。」(段落【0004】①)とは,本来保留される必要のないその他の送信先(すなわち電子メールアドレス)に対するメール送信は全てなされるべきであるとの趣旨と解するのが自然である。 また,前記アのとおり,「効率よく電子メールを送出させる」ことは,電子メールアドレスに応じた電子メールの送出制御によってもたらされるものとされている。電子メールアドレスに応じた電子メールの送出制御によれば,保留の必要がないその他の電子メールアドレスに対する送信は全てなされるのであるから,本件発明の効果も同様と解すべきであって,保留の必要がないその他の電子メールアドレスのうちの一部の電子メールアドレスに対する電子メールの送信が保留されなくなることでは足りないというべきである。 ウ控訴人は,文言侵害が否定された場合に,本件明細書等1の課題に記載された「送信先」を「電子メールアドレス」と読み替えて,課題を認定し,当該課題から直接的に本質的部分を認定することは,均等侵害の成否の場面において,文言侵害が否定されることを理由に,均等侵害の成立が直ちに否定され,均等侵害がその機能を果たさない結果となることから,かかる結果が著しく妥当性を欠く旨主張する。 しかし,本質的部分の認定は,特許請求の範囲及び明細書の記載に基づいて,特許発明の課題及び解決手段とその効果を把握した上で,特許発明の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何であるかを確定することによって認定 されるべきである(大合議判決)。よって,本件明細書等1の記載に基づいて,本件発明1が,従来技術 見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何であるかを確定することによって認定 されるべきである(大合議判決)。よって,本件明細書等1の記載に基づいて,本件発明1が,従来技術である特許文献1のどのような点を課題として把握し,どのような解決手段を提示し,どのような効果をもたらすものなのかを把握することは,当然なされるべきことであるから,控訴人の主張は理由がない。 エ被告装置は,電子メールに設定された複数の送信先を電子メールアドレスごとに分割するという,本件発明1の本質的部分に含まれる構成を有していないから,均等の第1要件を充足しない。 第4 結論以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の請求は理由がないから,控訴人の請求を棄却した原判決は,相当である。 よって,本件控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官鶴岡稔彦 裁判官高橋 彩 裁判官石神有吾
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