- 1 - 主文 本件上告を棄却する。 上告費用は上告人の負担とする。 理由 上告代理人岡田康夫ほかの上告受理申立て理由について 本件は,Aの債権者である被上告人が,上告人に対し,詐害行為取消権に基づき,Aと上告人との間の不動産持分の売買契約の取消し及び上告人への上記持分の移転登記の抹消登記手続を求める事案である。 原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。 (1)被上告人は,平成9年2月24日,B信用組合から事業の全部を譲り受け,同信用組合がAに対して有していた,C株式会社を主債務者とする連帯保証債務履行請求権(以下「甲債権」という。)及び有限会社Dを主債務者とする連帯保証債務履行請求権(以下「乙債権」という。)を取得した。 (2)Aは,平成15年1月10日,債務超過の状態にあるのに,上告人との間で,第1審判決別紙物件目録記載1~7の各不動産についてのAの持分につき売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結し,同年7月15日,上告人に対し,本件売買契約に基づき,上記各持分の移転登記(以下「本件各登記」という。)の手続をした。 (3)被上告人は,平成16年9月14日,Aに対し,甲債権に係る連帯保証債務の履行を求める訴訟(以下「別件訴訟」という。)を提起し,次いで平成18年9月6日,上告人に対し,甲債権を被保全債権として,詐害行為取消権に基づき,本件売買契約の取消し及び本件各登記の抹消登記手続を求める本件訴訟を提起し- 2 -た。 (4)その後,別件訴訟における裁判上の和解に基づき甲債権が消滅したことから,被上告人は,平成19年5月16日,本件訴訟の第1審第1回弁論準備手続期日において,被保全債権に係る主張を甲 -た。 (4)その後,別件訴訟における裁判上の和解に基づき甲債権が消滅したことから,被上告人は,平成19年5月16日,本件訴訟の第1審第1回弁論準備手続期日において,被保全債権に係る主張を甲債権から乙債権に変更した。 (5)上告人は,被上告人が遅くとも別件訴訟を提起した日には取消しの原因を知っていたから,上記(4)の主張の変更より前に,乙債権を被保全債権とする詐害行為取消権については,民法426条前段所定の2年の消滅時効が完成した旨主張し,これを援用した。 原審は,上記事実関係等の下で,本件訴訟の提起により,被上告人の上告人に対する詐害行為取消権の消滅時効が中断したと判断して,被上告人の請求を認容すべきものとした。 所論は,被上告人が本件訴訟において被保全債権に係る主張を変更したことは,訴えの交換的変更に当たるから,乙債権を被保全債権とする詐害行為取消権には本件訴訟の提起による消滅時効の中断の効力は及ばないというのである。 そこで検討すると,詐害行為取消権の制度は,債務者の一般財産を保全するため,取消債権者において,債務者受益者間の詐害行為を取り消した上,債務者の一般財産から逸出した財産を,総債権者のために,受益者又は転得者から取り戻すことができるとした制度であり,取り戻された財産又はこれに代わる価格賠償は,債務者の一般財産に回復されたものとして,総債権者において平等の割合で弁済を受け得るものとなるのであり,取消債権者の個々の債権の満足を直接予定しているものではない。上記制度の趣旨にかんがみると,詐害行為取消訴訟の訴訟物である詐害行為取消権は,取消債権者が有する個々の被保全債権に対応して複数発生する- 3 -ものではないと解するのが相当である。 したがって,本件訴訟において,取消債権者の被保全債権に係る主張が前記事実関係 行為取消権は,取消債権者が有する個々の被保全債権に対応して複数発生する- 3 -ものではないと解するのが相当である。 したがって,本件訴訟において,取消債権者の被保全債権に係る主張が前記事実関係等のとおり交換的に変更されたとしても,攻撃防御方法が変更されたにすぎず,訴えの交換的変更には当たらないから,本件訴訟の提起によって生じた詐害行為取消権の消滅時効の中断の効力に影響がないというべきである。 これと同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。論旨は採用することができない。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官田原睦夫の補足意見がある。 裁判官田原睦夫の補足意見は,次のとおりである。 本件における論点は,従前ほとんど論議されていなかった点であることにかんがみ,若干の補足的意見を述べる。 本件は,詐害行為取消訴訟の提起後に,原告が当初主張していた被保全債権が消滅したところから,主張に係る被保全債権を交換的に変更した事案であるが,以下に例示するように,債権者が債務者に対して複数の債権を有していて,その一部を被保全債権として詐害行為取消訴訟を提起した後に,その被保全債権が第三者に移転した場合を考えれば,法廷意見の述べるところの妥当性がより検証されると考える。 事例として,甲は乙に対して,A(債権額120万円),B(債権額150万円),C(債権額170万円)の3口の債権を有しているところ,乙は,その債権発生後に丙に現金200万円を贈与し,乙にはその他にさしたる財産がないとする。 - 4 -その場合,甲は,任意の2口の債権を被保全債権として丙に対して詐害行為取消訴訟を提起し,200万円の給付を求めることができるが,それは1個の請求と解することに異論はないと思われる。そして,甲が,A,B両債権を被保全債権とし の債権を被保全債権として丙に対して詐害行為取消訴訟を提起し,200万円の給付を求めることができるが,それは1個の請求と解することに異論はないと思われる。そして,甲が,A,B両債権を被保全債権として訴えを提起した後に,甲が丁に対してB債権を譲渡し,あるいは,B債権につき丁を差押債権者とする差押転付命令を受けた場合,甲が従前の訴訟を維持するためにはC債権を被保全債権として追加主張する必要があるところ,その主張は,攻撃防御方法の追加としか評価し得ないのである。 なお,B債権を取得した丁が,甲の提起した詐害行為取消訴訟に独立当事者参加(民訴法47条)をすることができるか否かについては,その訴訟の目的である権利を譲り受けたといえるか否かとも関連して問題となり得るが,その点については立ち入らない。 (裁判長裁判官那須弘平裁判官田原睦夫裁判官近藤崇晴裁判官岡部喜代子裁判官大谷剛彦)
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