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主文 原判決を破棄し第一審判決を取り消す。上告人が被上告人に対し昭和三三年三月三一日付でしたD小学校教諭の職を免ずる処分を取り消す。訴訟の総費用は上告人の負担とする。理由 上告代理人米田正弌、同田辺哲夫、同石原輝、同平井二郎、同矢野政見、同亀井吉彦の上告理由は別紙のとおりである。上告理由第一点の一について。論旨は、原判決が、被上告人の退職願撤回の申入は被上告人の真意によるものである旨を判示したのを非難し、被上告人の退職願撤回はE教員組合の強要によるものであつて、本人の発意ないし次女との話し合いの結果によるものではない旨を主張するのである。しかし、原判決挙示の証拠によれば、原判決のように認定できないわけではなく、また、かりに、その撤回の動機が教員組合の行為が原因であつたとしても、ために、被上告人の退職願の撤回がその真意に基くものでないとはいえない。論旨は、原判決の事実認定を非難するに過ぎず、理由がない。論旨はまた、原判決が、被上告人は三月二七日Fを介してG教育委員会学校教育課長Gに撤回の申入をした旨を認定したのに対し、右FがGに面会した事実はなく、右認定は証拠に基かない認定である旨を主張するのである。しかし、一審証人FはGに二十七日に面会した旨陳述しており、もとより、これに反する証拠も存在するけれども、右原判決の認定が所論のように証拠に基かないものとはいえない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨選択を非難するに帰し、採用することができない。- 1 -論旨はまた、被上告人が四月一日に退職辞令書を異議なく受領し、P・T・Aの記念品料を受領し、別れの挨拶をし、さらに、退職に伴う県費支給の差額金を受領した事実によつて、被上告人は退職願の撤回を再び撤回したもの た、被上告人が四月一日に退職辞令書を異議なく受領し、P・T・Aの記念品料を受領し、別れの挨拶をし、さらに、退職に伴う県費支給の差額金を受領した事実によつて、被上告人は退職願の撤回を再び撤回したものと認めるべき旨を主張するのである。 辞令書を異議なく受領し、P・T・Aの記念品料を受領し、別れの挨拶をし、さらに、退職に伴う県費支給の差額金を受領した事実によつて、被上告人は退職願の撤回を再び撤回したもの た、被上告人が四月一日に退職辞令書を異議なく受領し、P・T・Aの記念品料を受領し、別れの挨拶をし、さらに、退職に伴う県費支給の差額金を受領した事実によつて、被上告人は退職願の撤回を再び撤回したものと認めるべき旨を主張するのである。しかし、その効力はとにかく、一応形式的に退職辞令書が交付されればそれを受領するのはむしろ当然であり退職に伴う諸行事に被上告人が追随したからといつて、所論のように、退職願の撤回を再撤回したものとは認め難い。のみならず、被上告人の右の行為によつて、違法な免職処分が適法になる理由はない。論旨は理由がない。同第一点の二について。論旨は、原判決が退職願の効力はその日付のときに生ずるとしたのを非難し、退職願提出のときに生じた旨を主張するのである。しかし、原判決も説明するように、退職願は免職に対する同意の効力を有するほか、それ自体独立に法的意義を有するものではなく、退職願の効力が何時発生したかは、本件の場合、免職処分の適否とは関係がない。すなわち、三月二六日に提出された本件退職願が免職処分の行われた三月三一日に同意として効力を有していたかどうかが問題であり、同意としての効力を失つたとする以上、免職処分は違法たるを免れないのである。論旨は理由がない。同第二点の一について。論旨は、私人の行政庁を相手方とする公法上の行為は、原則として自由に取消しまたは撤回することができない旨を主張するのである。しかし、当裁判所が昭和三四年六月二六日言い渡した判決(最高裁判所判例集一三巻六号八四六頁)は、免職処分が有効に成立する以前には、退職願を撤回することは原則として自由であると解すべき旨を判示しており、現在、右の先例を変更する必要を認めない。論旨は、結局、独自の見解というよりほかはなく採用すること- 2 -ができない。、退職願を撤回することは原則として自由であると解すべき旨を判示しており、現在、右の先例を変更する必要を認めない。論旨は、結局、独自の見解というよりほかはなく採用すること- 2 -ができない。同第二点の二について。論旨は、本件の場合、被上告人がした退職願の撤回は信義に反する旨を主張するのである。 例を変更する必要を認めない。論旨は、結局、独自の見解というよりほかはなく採用すること- 2 -ができない。、退職願を撤回することは原則として自由であると解すべき旨を判示しており、現在、右の先例を変更する必要を認めない。論旨は、結局、独自の見解というよりほかはなく採用すること- 2 -ができない。同第二点の二について。論旨は、本件の場合、被上告人がした退職願の撤回は信義に反する旨を主張するのである。前記当裁判所の判決が、退職願の撤回が信義に反すると認められるような特段の事情がある場合には、その撤回が許されないものと解すべき旨を判示していることは所論のとおりである。よつて、本件の場合、被上告人の退職願の撤回が信義に反するかどうかについて案ずるに、原判決の認定するところによれば、昭和三三年三月二五日、被上告人は、退職願をH校長に提出したのであるが、同日夜、撤回を決意し、翌二六日、口頭により右H校長に対し退職願撤回方の尽力を依頼し、翌二七日には、G教育委員会学校教育課長Gに対し撤回を申し入れたばかりでなく、同日H校長宅に行き退職願撤回方の尽力を要請し、さらに、翌二八日には、I教育委員会委員長宛退職願取消の申入と題する自己名義の文書に押印して発送したというのである。右の事実によれば、被上告人がした退職願の撤回について信義に反するものとする理由は少しもないのであつて、論旨は理由がないものといわなければならない。前記当裁判所の判決も、個人の恣意によつて行政秩序が犠牲に供されるような場合は、撤回が信義に反する旨を判示しているのであるが、この点について、原判決は、被上告人の退職願の撤回を許すことにより、事務的に多少の混乱が生ずることは予想に難くないが、すべての証拠によつても、そのために、年度末県下全体の教職員の人事異動に支障を来し、新年度の授業開始が不可能になるような事態を生ずる虞があるとは認められない旨を判示しており、右原判示は首肯すること 、すべての証拠によつても、そのために、年度末県下全体の教職員の人事異動に支障を来し、新年度の授業開始が不可能になるような事態を生ずる虞があるとは認められない旨を判示しており、右原判示は首肯することができる。元来、退職願の撤回が信義に反するかどうかは撤回者自身の行為について勘案すべきであつて、本件の場合のように、被上告人が退職願提出の当日、撤回を決意し、その翌日直ちに撤回に着手したような場合は、その上告委員会への到達が多- 3 -少遅延したからといつて、被上告人の行為が信義に反するものとはいえない。 不可能になるような事態を生ずる虞があるとは認められない旨を判示しており、右原判示は首肯することができる。元来、退職願の撤回が信義に反するかどうかは撤回者自身の行為について勘案すべきであつて、本件の場合のように、被上告人が退職願提出の当日、撤回を決意し、その翌日直ちに撤回に着手したような場合は、その上告委員会への到達が多- 3 -少遅延したからといつて、被上告人の行為が信義に反するものとはいえない。論旨は、上告委員会の立場に立つて、被上告人の行為が信義に反する旨をるる論ずるのであるが、到底採用できない。同第二点の三について。論旨は、本件免職処分に瑕疵があるにしても、その瑕疵は取消原因たるに止まり無効原因になるものではない旨を主張するのである。行政処分が違法であつても、その違法が重大かつ明白な場合に限つて無効とすべきことは、当裁判所の判例とするところである。これを本件について見るに、被上告人がした本件退職願の撤回は信義に反するものではなく、これを無視してした上告人の依願免職処分が違法であることは前述のとおりである。しかしながら、退職願の撤回が信義に反するかどうか、従つて、依願退職処分が違法であるかどうかは必ずしも明白ではなく、本件の場合、上告人がした免職処分は違法ではあるが、その違法は重大かつ明白な違法ということはできず、従つて、本件免職処分を無効と解することはできない。この点において論旨は理由があるものといわなければならない。よつてこれを無効とした原判決は破棄を免れないのである。しかしながら記録を精査するに、被上告人は一審以来、本件免職処分の無効確認を求めるとともに、第二次的に取消を求めており、そして本訴は、取消を求める訴 これを無効とした原判決は破棄を免れないのである。しかしながら記録を精査するに、被上告人は一審以来、本件免職処分の無効確認を求めるとともに、第二次的に取消を求めており、そして本訴は、取消を求める訴としての要件について欠くるところがないものと認められ、また、原判決が確定した事実関係のもとにおいては、本件免職処分が違法であることは前述のとおりであつて、民訴四〇八条一号、三八六条に基き、本件免職処分はこれを取り消すべきものとし、また、これを無効とした一審判決も取り消すべきものとし、訴訟費用については、民訴九六条、八九条を適用して、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。 して本訴は、取消を求める訴としての要件について欠くるところがないものと認められ、また、原判決が確定した事実関係のもとにおいては、本件免職処分が違法であることは前述のとおりであつて、民訴四〇八条一号、三八六条に基き、本件免職処分はこれを取り消すべきものとし、また、これを無効とした一審判決も取り消すべきものとし、訴訟費用については、民訴九六条、八九条を適用して、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。最高裁判所第二小法廷- 4 -裁判官池田克裁判官河村大助裁判官奥野健一裁判官山田作之助裁判長裁判官藤田八郎は出張につき署名押印することができない。裁判官池田克- 5 -
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