令和1(行ケ)10120 審決取消請求事件

裁判年月日・裁判所
令和3年5月19日 知的財産高等裁判所 3部 判決 審決取消
ファイル
hanrei-pdf-90385.txt

キーワード

判決文本文44,354 文字)

令和3年5月19日判決言渡令和元年(行ケ)第10120号審決取消請求事件口頭弁論終結日令和3年2月8日判決 原告株式会社前川製作所 訴訟代理人弁護士山崎順一同金子明同平井佑希同清水節同渡邉佳行同奥田洋平訴訟復代理人弁護士熊澤明彦訴訟代理人弁理士石橋克之同大木利恵 被告株式会社神戸製鋼所 訴訟代理人弁護士松本好史同松井保仁同岩崎浩平訴訟代理人弁理士言上惠一同前堀義之同奥西祐之 主文 1 特許庁が無効2018-800099号事件について令和元年8月7日にした審決を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求主文同旨第2 事案の概要 1 特許庁における手続の経緯等被告は,発明の名称を「油冷式スクリュ圧縮機」とする発明に係る特許(特許第3766725号,平成8年10月25日出願,平成18年2月3日設定登録,請求項の数2,以下「本件特許」という。)の特許権者である。 原告は,平成30年8月6日,請求項1に る発明に係る特許(特許第3766725号,平成8年10月25日出願,平成18年2月3日設定登録,請求項の数2,以下「本件特許」という。)の特許権者である。 原告は,平成30年8月6日,請求項1に記載された発明に係る特許を無効とすることを求めて無効審判を請求した(無効2018-800099号,以下「本件無効審判」という。)。 特許庁は,令和元年8月7日,結論を「本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。」とする審決(以下「本件審決」という。)をし,本件審決の謄本は,同月16日に原告に送達された。 原告は,令和元年9月13日,本件審決の取消しを求めて本件訴訟を提起した。 2 特許請求の範囲の記載本件特許の明細書(以下,図面を含め「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,請求項1に記載された発明を「本件特許発明」という。)。 油とともに吐出された圧縮ガスから油を分離回収し,一旦下部の油溜まり部に溜め,油分離された圧縮ガスを送り出す油分離回収器を吐出流路に設ける一方,スクリュロータの両側に延びるロータ軸をラジアル軸受により回転可能に 支持して入力軸を吸込側のロータ軸とし,吐出側のロータ軸を上記ラジアル軸受よりもスクリュロータから離れた位置にてスラスト軸受により回転可能に支持するとともに,上記スラスト軸受よりもスクリュロータから離れた位置にて上記ロータ軸にバランスピストンを取り付け,かつ上記スラスト軸受とこのバランスピストンとの間に圧力遮断する仕切り壁を設け,このバランスピストンの仕切り壁側の空間に,上記油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流路を設けて形成したことを特徴とする油冷式スクリュ圧縮機。 3 本件審決の理由の要旨⑴ 本件審決の理由は, のバランスピストンの仕切り壁側の空間に,上記油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流路を設けて形成したことを特徴とする油冷式スクリュ圧縮機。 3 本件審決の理由の要旨⑴ 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)のとおりである。 ⑵ 本件無効審判において原告が主張した無効理由は次のとおりである(本件審決3~4頁)。 ア無効理由1本件特許発明は,甲1に記載された発明に,例えば,甲2ないし甲5に記載された周知技術を適用して,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,その特許は特許法123条1項2号の規定により無効とすべきである。 イ無効理由2本件特許発明は,甲1に記載された発明において,甲6及び甲7に記載された教示にならって当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,その特許は特許法123条1項2号の規定により無効とすべきである。 ⑶ 本件審決が認定した甲1に記載された発明(以下「甲1発明」という。)は,次のとおりである(本件審決8~9頁)。 吐出流路において,オイルである液体とともに放出された高圧ガスから液体を分離冷却し,液体が分離された高圧ガスを送り出すとともに,おすロー タ12の両側に延びる軸部分63,66をラジアルスリーブタイプのベアリング52,54により回転可能に支持して,モータに接続される入力軸を低圧側の軸部分66とし,おすロータ12の高圧端部分63を上記ベアリング54よりもおすロータ12から離れた位置にてアンギユラコンタクトボールベアリング56により回転可能に支持するとともに,上記アンギユラコンタクトボールベアリング56よりもおすロータ12から離れた位置にて上 よりもおすロータ12から離れた位置にてアンギユラコンタクトボールベアリング56により回転可能に支持するとともに,上記アンギユラコンタクトボールベアリング56よりもおすロータ12から離れた位置にて上記高圧端部分63にスラストピストン62を取り付け,このスラストピストン62の上記アンギユラコンタクトボールベアリング56側の空間であるスラストピストン室60に,高圧ガスから分離されて冷却されてコンプレツサへと再循環される液体を,ポンプ140を経由して導く経路(136,138,142,144,134,168,166,172)を設けて形成した液体噴射スクリユウコンプレツサ。 ⑷ 本件審決が本件特許発明と甲1発明とを対比して認定した一致点,相違点は次のとおりである(本件審決18~20頁)。 ア一致点「吐出流路において,油とともに吐出された圧縮ガスから油を分離回収し,油が分離された圧縮ガスを送り出す一方,スクリュロータの両側に延びるロータ軸をラジアル軸受により回転可能に支持して入力軸を吸込側のロータ軸とし,吐出側のロータ軸を上記ラジアル軸受よりもスクリュロータから離れた位置にてスラスト軸受により回転可能に支持するとともに,上記スラスト軸受よりもスクリュロータから離れた位置にて上記ロータ軸にバランスピストンを取り付け,このバランスピストンのスラスト軸受側の空間に,油を導く経路を設けて形成した油冷式スクリュ圧縮機。」の点。 イ(ア) 相違点1「吐出流路において,油とともに吐出された圧縮ガスから油を分離回収し,油が分離された圧縮ガスを送り出す」に関して,本件特許発明にお いては,油とともに吐出された圧縮ガスから油を分離回収し,一旦下部の油溜まり部に溜め,油分離された圧縮ガスを送り出す「油分離回収器を吐出流路に設ける」であ 関して,本件特許発明にお いては,油とともに吐出された圧縮ガスから油を分離回収し,一旦下部の油溜まり部に溜め,油分離された圧縮ガスを送り出す「油分離回収器を吐出流路に設ける」であるのに対して,甲1発明においては,吐出流路において,オイルである液体とともに放出された高圧ガスから液体を分離冷却し,液体が分離された高圧ガスを送り出すとされているものの,何で高圧ガスから液体を分離冷却し,液体が分離された高圧ガスを送り出しているのかについては不明である点。 (イ) 相違点2本件特許発明においては,「上記スラスト軸受とこのバランスピストンとの間に圧力遮断する仕切り壁を設け」ており,また,「このバランスピストンのスラスト軸受側の空間に,油を導く経路を設けて形成した」ものであるのに対し,甲1発明においては,アンギユラコンタクトボールベアリング56とスラストピストン62との間に圧力遮断する仕切り壁を設けているか否か不明である点。 (ウ) 相違点3バランスピストンのスラスト軸受側の空間に,油を導く経路を設けて形成したことに関して,本件特許発明においては,バランスピストンの仕切り壁側の空間に,「上記油溜まり部の油を加圧することなく導く」均圧流路を設けて形成したのに対し,甲1発明においては,スラストピストン62の上記アンギユラコンタクトボールベアリング56側の空間であるスラストピストン室60に,高圧ガスから分離されて冷却されてコンプレツサへと再循環される液体を,ポンプ140を経由して導く経路(136,138,142,144,134,168,166,172)を設けて形成した点。 ⑸ 本件審決の無効理由についての判断の要旨本件審決の無効理由についての判断の要旨は次のとおりである。 ア無効理由1について ,168,166,172)を設けて形成した点。 ⑸ 本件審決の無効理由についての判断の要旨本件審決の無効理由についての判断の要旨は次のとおりである。 ア無効理由1について(ア) 相違点1(油分離回収器)について(本件審決20頁)甲1においては,「油分離回収器」に関して明記がないが,油冷式スクリュ圧縮機において,油とともに吐出された圧縮ガスから油を分離回収し,油が分離された圧縮ガスを送り出す手段として,油分離回収器を備えることは,例えば,甲6,甲8及び甲9に記載されるように技術常識であり,甲1発明が油分離回収器を備えることもこのような技術常識から明らかである。したがって,相違点1は実質的な相違点ではない。 (イ) 相違点2(圧力遮断する仕切り壁)について(本件審決24頁)アンギユラコンタクトボールベアリング56が配置された空間は,スラストピストン室60よりも低圧であって,当該空間とスラストピストン室60との間には圧力差が存在している。さらに,甲1の6欄22~25行には,「コンプレツサ噴射液体の如き圧力のかかつた液体が室60に導びかれて,ピストン62に作用してロータ12の端面64に作用する高圧ガスによるスラスト方向の力を相殺する。」との記載があることから,甲1発明においても,部品7,5,4は,全体として,スラストピストン62に作用するスラスト方向の力をスラストピストン室60内の圧力により相殺する程度に,スラストピストン室60とアンギユラコンタクトボールベアリング56が配置された空間とを圧力遮断する「仕切り壁」の機能を有していると解すのが合理的である。したがって,甲1発明は,本件特許発明の「仕切り壁」に相当する部品を備えているから,この点は,実質的な相違点ではない。 (ウ) 相違点3(非加圧流路)に 」の機能を有していると解すのが合理的である。したがって,甲1発明は,本件特許発明の「仕切り壁」に相当する部品を備えているから,この点は,実質的な相違点ではない。 (ウ) 相違点3(非加圧流路)について(本件審決25頁)甲1発明において,「コンプレツサ内の必要な全ての個所」に供給する液体の一部を,あえて,マニフオールド134を迂回して,スラストピストン室60に供給するための経路を新たに設けるようにすることは, コンプレツサ外部に位置されなければならない液体パイプ接合の数を最少とする中間ハウジング30及びマニフオールド134の採用意義に反するものである。 また,甲1発明において,相違点3に係る本件特許発明の発明特定事項のようにするために,液体をポンプ140で加圧せずにマニフオールド134に供給するという手段も考えられるが,ポンプ140で液体を加圧しているのは,スラストピストン62に適当な力を与えるためのみならず,コンプレツサ内の必要な全ての個所に液体流を供給するためでもあるから,「液体をポンプ140によって加圧した上でマニフオールド134に供給するようにした」こと自体が,中間ハウジング30及びマニフオールド134の設置前提となるものであり,液体をポンプ140で加圧せずにマニフオールド134に供給することも,中間ハウジング30及びマニフオールド134の採用意義に反するものである。 したがって,甲1発明において,液体を加圧することなくスラストピストン室に導く構成を採用することに阻害要因があるといえるから,仮に,液冷式スクリュー圧縮機において,バランスピストン室に油溜まり部の油を加圧することなく導入することが甲2ないし甲5に記載され,かかる事項が周知の技術であったとしても,甲1発明に甲2ないし甲5を適用することはで ュー圧縮機において,バランスピストン室に油溜まり部の油を加圧することなく導入することが甲2ないし甲5に記載され,かかる事項が周知の技術であったとしても,甲1発明に甲2ないし甲5を適用することはできず,当業者といえども相違点3に係る本件特許発明の発明特定事項を得ることはできない。 (エ) 無効理由1の成否(本件審決26頁)本件特許発明は,甲1発明に甲2ないし甲5に記載された周知技術を適用して,当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。よって,無効理由1によっては,本件特許を無効とすることはできない。 イ無効理由2について(本件審決26~27頁) 無効理由1に関して相違点3について記載したとおり,甲1発明において,液体をポンプ140及びマニフオールド134を通過させずにフイルタ146あるいは別途のフイルタを通過させた後,スラストピストン室60に供給するようにすることは,甲1に記載された技術思想に鑑み阻害要因があるといえるから,本件特許発明は,甲1発明において,甲6及び甲7に記載された教示にならって,当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。よって,無効理由2によっては,本件特許を無効とすることはできない。 第3 当事者の主張 1 取消事由1(無効理由1に関する進歩性の判断の誤り)⑴ 原告の主張ア相違点2(圧力遮断する仕切り壁)について(ア) 被告が本件審決の相違点2に関する判断の誤りを主張することの適否審決取消訴訟において,被告は,審決の判断を前提としてその適法性を主張すべきであり,被告が審決の誤りを主張することは,裁判所による指示などの特段の事情がある場合を除いて許されないところ,本件では,そのような特段の事情はなく,原告もこの点を争うもので その適法性を主張すべきであり,被告が審決の誤りを主張することは,裁判所による指示などの特段の事情がある場合を除いて許されないところ,本件では,そのような特段の事情はなく,原告もこの点を争うものではないから,相違点2の判断の誤りを述べる被告の主張は,それ自体失当である。 (イ) 本件審決の相違点2に関する判断の誤りの有無a 相違点1及び2は,本件特許発明及び甲1発明が属する油冷式スクリュ圧縮機の技術分野における技術常識や甲1の記載に照らせば実質的な相違点ではなく,この点に関する本件審決の判断に誤りはない。 その理由は次のbのとおりである。 b 被告は,本件審決が,相違点2に関して,甲1発明の部品7,5,4が「圧力遮断する仕切り壁に相当する」(実質的相違点ではない)と 判断したことにつき,甲1発明の部品7,5には貫通孔が存在し,そこからアンギユラコンタクトボールベアリング56に対して「積極的な液体供給が実現されている」から,上記判断は誤りであると主張する。 しかし,本件特許発明が「物」の発明である以上,その要旨認定や引用発明との対比は,物の客観的な構成によって行うべきことは当然であり,液体供給(漏出)が「積極的」か「消極的」かといった設計者の主観的な意図によって左右されるべきものではない。また,本件特許発明は「圧力遮断する仕切り壁」と規定するのみで,どの程度圧力を遮断するのか,どの程度液体の漏れが生じるのかといった点は,特許請求の範囲はもちろん,本件明細書にも一切特定されていない。 そうすると,本件特許発明の要旨としては,文字どおり圧力が一定程度遮断されていれば(仕切り壁の左右で圧力に差があれば)足りると解すべきであって,本件審決の判断に誤りはない。 イ相違点3(非加圧流路)について(ア) 甲1発明に,甲 ,文字どおり圧力が一定程度遮断されていれば(仕切り壁の左右で圧力に差があれば)足りると解すべきであって,本件審決の判断に誤りはない。 イ相違点3(非加圧流路)について(ア) 甲1発明に,甲2ないし5に記載された周知技術を適用し,加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設ける手段(手段1)により,バランスピストンのピストン室にオイルをポンプで加圧することなく供給し,相違点3に係る本件特許発明の構成を採用することは,容易に想到することができたから,本件審決の相違点3に関する判断には誤りがある。その理由は,後記(イ)のとおりである。 (イ)a 具体的な構成を前提にその採用の可否を判断することについて本件審決は甲1発明において,相違点3のように液体(オイル)を加圧することなくスラストピストン室60に導くための構成例としては,①加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設ける手段(以下「手段1」という。)と,②加圧ポンプ140を採用せず,液体 を加圧せずに空所134に供給する手段(以下「手段2」という。)とが考えられるとした上で,これらの手段はいずれも甲1発明における中間ハウジング30及びマニフオールド134の採用意義に反するとして,甲1発明に適用するに当たって阻害要因があると述べ,進歩性を認めている。 しかし相違点3に関し,本件特許発明は「油溜まり部の油を加圧することなく導く均圧流路」と規定するのみで,どのような構成によってそのような非加圧の流路が形成されるのかという点については,何ら構成要件上限定されていない 。そのため,甲1発明に相違点3にかかる構成を適用して本件特許発明に至ることができるか否かを判断する上において,どのような構成によって非加圧流路が形成されるのかということなどは構成要件外の事 ない 。そのため,甲1発明に相違点3にかかる構成を適用して本件特許発明に至ることができるか否かを判断する上において,どのような構成によって非加圧流路が形成されるのかということなどは構成要件外の事情にすぎないから,非加圧流路を形成するための具体的な構成のうち,ある特定の構成例のみに着目し,その特定の構成例を採用することに阻害要因があるとした本件審決の判断は誤りである。 b 甲2ないし5に記載された周知技術甲2ないし5には,スクリュ圧縮機において,バランスピストンに圧力を作用させるための空間に,圧縮機から回収された油を加圧することなく導く配管を設けることが記載されていたものであり,それは,本件特許の出願日前に周知の技術事項であった。 c 加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設ける手段(手段1)の採用と甲1発明の技術思想(a) 空所134への液体の集約甲1発明の本質は,取り外し自在な低圧ケース98及び/又は高圧ケース114を採用することにより,従来技術のような重く,大きく,複雑なハウジング構造を改良したところにある。そのため, 空所134へ液体を集約することは甲1発明の本質ではなく,空所134を経由しない経路を設ける手段を適用することによって,液体を集約するという空所134の役割の一部が発揮されなくなるとしても,そのことは,甲1発明の技術思想に反することはない。 (b) 外部への漏出防止甲1発明の特徴は,低圧ケース及び/又は高圧ケースで覆うという点にあり,甲1発明の高圧ケース114の役割は「外部」へのオイル漏れを最少にすることであって,ケース「内部」の構造を問うものではない。甲1の図7を見ても,低圧ケースや高圧ケースの内部には,パイプが枝分かれしており,多くの接合部分が存在し,このような接 オイル漏れを最少にすることであって,ケース「内部」の構造を問うものではない。甲1の図7を見ても,低圧ケースや高圧ケースの内部には,パイプが枝分かれしており,多くの接合部分が存在し,このような接合部分からはオイル漏れが生じる可能性はあるが,甲1発明において重要なのは,ケース「外部」にオイルが漏れないことであって,ケース「内部」においてオイル漏れが生じたとしても,オイルは単にケース98と114の内部に形成された室内に流れ込むだけで外部にまで漏れてしまうわけではないから,それによって甲1発明の目的が失われるものではない。甲1発明において,加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設ける手段(手段1)を採用することは,甲1発明の高圧ケース114の内部の構造をわずかに変更する程度のものにすぎないから,甲1発明の技術思想に反することはない。 d 加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設ける手段(手段1)を甲1発明に採用することについての阻害事由(a) スラストピストン62,アンギユラコンタクトボールベアリング56へ液体が供給されなくなることによるコンプレツサ10の機能不全本件特許発明の出願時点では,スラストピストン(バランスピス トン)について,ポンプで加圧しなくとも,ロータに加わるスラスト力を基準に受圧面積等を適宜調整して設計することにより,当該スラスト力を適切に軽減させることが可能であったから(例えば,甲2~5) ,スラストピストン室60への液体をポンプで加圧しなくとも,コンプレツサ10が機能しなくなることはない。 甲1には,アンギユラコンタクトボールベアリング56への液体供給が,スラストピストン室60から部品7,5の貫通穴等を経由して行われていることの開示はない。アンギユラコンタクトボール ことはない。 甲1には,アンギユラコンタクトボールベアリング56への液体供給が,スラストピストン室60から部品7,5の貫通穴等を経由して行われていることの開示はない。アンギユラコンタクトボールベアリング56への液体供給は,より高圧で圧力ロスの少ないベアリング54の方から行われると解される。 (b) フイルタ146を経由しないことによるコンプレツサ10の機能不全加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設けても,スラストピストン室60に供給される液体は,流路を循環する中で,それ以外の箇所に供給され,その過程でフイルタ146を経由し,異物はフイルタ146によって適切に除去されるから,コンプレツサ10が機能不全に陥ることはない。なお,一度流路を循環した液体がフイルタ146を経由せずにスラストピストン室60に供給される場合があり得るとしても,コンプレツサ10はそれによって機能不全を生じるようなものではない。 (c) 非加圧の経路を設ける動機付け逆スラスト力の発生という課題は,従前から周知であり,それが,バランスピストンのピストン室にポンプで加圧されたオイルを供給することによって生じることは,その作用機序からして明らかであり,その課題解決のためにバランスピストンのピストン室にオイルを加圧しないで供給すればよいことは自明な事柄であり周知であっ た。現にスクリュウコンプレツサの技術分野における当業者は,逆スラスト力の課題を認識し,バランスピストンのピストン室にオイルをポンプで加圧することなく(吐出圧Pdに応じた力で)供給することで,逆スラスト力の課題を解決していた(甲2~5)。 甲1に「ポンプ140は,スラストピストン62に適当な力を与えるに充分なだけの液体圧を増加せしめ,」(9欄41~43行),「圧力 供給することで,逆スラスト力の課題を解決していた(甲2~5)。 甲1に「ポンプ140は,スラストピストン62に適当な力を与えるに充分なだけの液体圧を増加せしめ,」(9欄41~43行),「圧力軽減バルブ164は,空所134中の液体圧を制限し,ケース114の空間116に液体を送り込むように働く。」(10欄24~27行)との記載があることから理解できるように,甲1発明においても,スラストピストン62に過大な力を与えてしまうと逆スラスト状態となってしまうという課題を認識しており,スラストピストン62に「適当な力」を与えるに「充分なだけ」の液体圧とすることとし,また過大な力が加わることを防止するための圧力軽減バルブ164を設けている。そのため,甲1発明に逆スラスト荷重解消のために非加圧の経路を設けるという動機付けはある。 e 容易想到性甲1発明は,逆スラスト力の発生という周知の課題を有しており,スクリュ圧縮機において,バランスピストンのピストン室に油を加圧することなく供給することは本件特許の出願日前に周知の技術事項であったから(甲2~5),甲1発明の上記課題を解決するために,上記の周知の技術事項を適用して,スラストピストン室へ液体を導く経路を非加圧の経路とし,加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設ける手段(手段1)を採用することは,当業者が容易に想到することができた。 ⑵ 被告の主張ア相違点2(圧力遮断する仕切り壁)について (ア) 被告が本件審決の相違点2に関する判断の誤りを主張することの適否原告の主張は争う。 被告が本件審決の相違点2に関する判断の誤りを主張することに何ら問題はない。 (イ) 本件審決の相違点2に関する判断の誤りの有無a 原告の主張は争う。 本件審決が,相違点 原告の主張は争う。 被告が本件審決の相違点2に関する判断の誤りを主張することに何ら問題はない。 (イ) 本件審決の相違点2に関する判断の誤りの有無a 原告の主張は争う。 本件審決が,相違点2について,部品7,5,4が「圧力遮断する仕切り壁」に相当する部品であると認定し,相違点2は実質的な相違点ではないと判断したのは誤りである。その理由は,次のbのとおりである。 b 甲1発明において,アンギユラコンタクトボールベアリング56には,その温度上昇による損傷を防止するために,スラストピストン室60から液体(ベアリングを冷却する前の油)を供給し続ける必要がある。そのため,アンギユラコンタクトボールベアリング56とスラストピストン室60との間に介在する部品7,5,4は,部品7,5に貫通穴が設けられ,それらの貫通穴が互い連通されているという構成であり,また,部品4は,その内側の空間を介してアンギユラコンタクトボールベアリング56が配置された領域と空間的に連通されているという構成であるから,部品7,5,4をもって,圧力遮断する仕切り壁ということはできない。 さらに,スラストピストン62が,ポンプ140で「充分」に「液体圧を増加せしめ」られた液体の供給を受け,「ロータ12の端面64に作用する高圧ガスによるスラスト方向の力を相殺する」という機能を実現するために要求されるのは,スラストピストン62のロータ側に作用する圧力,つまりスラストピストン室60の圧力が,スラスト ピストン62の反ロータ側に作用する圧力,つまり室174の圧力よりも高いことである。部品7,5,4が「圧力遮断する仕切り壁」に相当する部品でなくとも,スラストピストン室60は室174よりも高圧であるため,上記機能は実現される。 そうすると,本件審決が,部品7 りも高いことである。部品7,5,4が「圧力遮断する仕切り壁」に相当する部品でなくとも,スラストピストン室60は室174よりも高圧であるため,上記機能は実現される。 そうすると,本件審決が,部品7,5,4が「圧力遮断する仕切り壁」に相当する部品であると認定し,相違点2について,「甲1発明においては,アンギユラコンタクトボールベアリング56とスラストピストン62との間に圧力遮断する仕切り壁を設けているか否かは不明である点。」と認定したのは誤りであり,「甲1発明においては,アンギユラコンタクトボールベアリング56とスラストピストン62との間に圧力遮断する仕切り壁を設けていない点。」と認定すべきであり,相違点2は本件特許発明と甲1発明の実質的な相違点であると判断すべきである。 (ウ) 相違点2が実質的な相違点であることを前提とする進歩性判断甲1発明において,圧力遮断する仕切り壁を設け,相違点2に係る本件特許発明の構成とすることは,アンギユラコンタクトボールベアリング56に対する積極的な液体供給を実現するために部品7,5に敢えて貫通穴を設けたという貫通穴の採用意義に反し,アンギユラコンタクトボールベアリング56に対する積極的な液体供給を妨げるものであるから,当業者が容易に想到することはできなかった。したがって,本件特許発明には進歩性がある。 イ相違点3(非加圧流路)について(ア) 甲1発明に,甲2ないし5に記載された周知技術を適用し,加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設ける手段(手段1)により相違点3に係る本件特許発明の構成を採用することは,容易に想到することができなかったから,本件審決の相違点3に関する判断には誤り はない。その理由は,後記(イ)のとおりである。 (イ)a 具体的な構成を前提にそ を採用することは,容易に想到することができなかったから,本件審決の相違点3に関する判断には誤り はない。その理由は,後記(イ)のとおりである。 (イ)a 具体的な構成を前提にその採用の可否を判断することについて原告の主張は争う。 無効審判において,特許発明と引用例に係る発明を具体的に特定し,引用例に係る発明に具体的な構成を適用して特許発明に至ることができるかどうかを判断することは当然である。 b 甲2ないし5に記載された周知技術原告の主張は争う。 c 加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設ける手段(手段1)の採用と甲1発明の技術思想原告の主張は争う。 (a) 空所134への液体の集約甲1は,甲1発明が,「改良された液体分布機構」として,ポンプ140によって液体を加圧し,さらに,この加圧した液体をいったん空所134に集約した上で「コンプレツサ内の必要な全ての個所」(スラストピストン室60を含む。)に供給するという構成を採用したことを明らかにしており,甲1発明の「改良された液体分布機構」においては,ポンプ140により加圧された液体が,中間ハウジング30に形成された空所134を介することなく供給される個所は,コンプレツサ内に存在しない。したがって,スラストピストン室60についてのみ,ポンプ140によって加圧されない液体を空所134を介することなく供給するなどという構成は,甲1発明の技術思想に反するものであって,甲1発明への適用が排斥されている。 (b) 外部への漏出防止また,甲1発明は,コンプレツサ外部へのガス及び液体の漏れと いう課題の解決のために,中間ハウジング30内の空所134,ポンプ140等により構成される「改良された液体分布機構」を備え,ハウジング ,コンプレツサ外部へのガス及び液体の漏れと いう課題の解決のために,中間ハウジング30内の空所134,ポンプ140等により構成される「改良された液体分布機構」を備え,ハウジングのジヨイントを最少とするケースを備える。そして,コンプレツサ外部へのガス及び液体の漏れを減少させるためには,そもそも,内部における液体分布機構も改良してガス及び液体の漏れを減少させることが必要又は有益であるところ,甲1発明において,スラストピストン室へ液体を導く経路を非加圧の経路とすべく,例えば,パイプ138を分岐させ,パイプを増加させ,当該パイプをパイプ172に接続することは,甲1発明の「改良された液体分布機構」にとって著しく不合理な構成であり,このような構成を採用することは,甲1発明の技術思想に反する。 d 加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設ける手段(手段1)を甲1発明に採用することについての阻害事由原告の主張は争う。 (a) スラストピストン62,アンギユラコンタクトボールベアリング56へ液体が供給されなくなることによるコンプレツサ10の機能不全ポンプ140は,スラストピストン62に適当な力を与えるに充分なだけの液体圧を増加せしめるものであるところ,甲1発明において,スラストピストン室60への液体の経路を非加圧のものとするならば,ポンプ140により「液体圧」を「充分」に「増加せしめ」ることができず,スラストピストン62に「適当な力」を与えることができないため,スラストピストン62のスラスト荷重への対抗が不全となり,コンプレツサ10が機能しなくなる。 また,甲1発明は,液体が加圧されてスラストピストン室60に供給され,部品7,5の貫通穴等を経由してアンギユラコンタクト ボールベアリング56 コンプレツサ10が機能しなくなる。 また,甲1発明は,液体が加圧されてスラストピストン室60に供給され,部品7,5の貫通穴等を経由してアンギユラコンタクト ボールベアリング56に供給されるところ,甲1発明において,スラストピストン室60への液体の経路を非加圧のものとするならば,アンギユラコンタクトボールベアリング56に液体を供給し続けることができなくなって,アンギユラコンタクトボールベアリング56は,その温度が許容温度を超えて上昇して損傷し,コンプレツサ10が機能しなくなる。 (b) フイルタ146を経由しないことによるコンプレツサ10の機能不全加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設けると,スラストピストン室60に供給される液体がフイルタ146を迂回することになるので,異物(ロータ同士の接触により生ずる金属くず・鉄粉,液体の化学反応により生ずる不純物等)がスラストピストン室60に到達して詰まり等が生じることなどの不都合があり,ひいてはコンプレツサ10が機能不全に陥る。甲1発明において,スラストピストン室60に液体を供給する構成を,ポンプ140・フイルタ146・空所134を迂回するものの,他のフイルタを通過してスラストピストン室60に至る構成に改変しようとすると,フイルタ146とは別個のフイルタの追加が必要となり,更にはそれに応じた液体パイプ・液体パイプ接合の追加等が必要となるため,甲1発明がコンプレツサ外部の液体パイプ接合の数を最少としようとしている趣旨等に反し,そのような構成を採用することには,やはり阻害要因がある。 (c) 非加圧の経路を設ける動機付け甲1の「ポンプ140は,スラストピストン62に適当な力を与えるに充分なだけの液体圧力を増加せしめ,またコンプレツサ内の必要な全ての個 り阻害要因がある。 (c) 非加圧の経路を設ける動機付け甲1の「ポンプ140は,スラストピストン62に適当な力を与えるに充分なだけの液体圧力を増加せしめ,またコンプレツサ内の必要な全ての個所に液体流を供給するようにする。」(9欄41~4 4行)という記載は,当業者が読めば,スラスト荷重に対抗する力をスラストピストン62に与えるためにポンプ140が「液体圧を増加」することを述べていると認識するにすぎず,逆スラスト荷重状態の解消という課題を何ら示唆するものではない。また,甲1には,スラストピストン62について,「コンプレツサ噴射液体の如き圧力のかかつた液体が室60に導びかれて,ピストン62に作用してロータ12の端面64に作用する高圧ガスによるスラスト方向の力を相殺する。」(6欄22~25行)と記載されているものの,逆スラスト荷重状態の解消には何ら言及されていない。したがって,甲1には,逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)の発生という技術的課題について記載も示唆もなく,甲1発明に,逆スラスト荷重解消のために非加圧の経路を設けるという動機付けはない。 また,甲1発明において圧力軽減バルブ164が設けられている目的は,甲1の10欄24~26行に「圧力軽減バルブ164は,空所134中の液体圧を制限し」と記載されていることからして,中間ハウジング30の破損の原因となりかねない空所134の過剰な昇圧を防止するために空所134の圧力を制限することであり,逆スラスト荷重状態を解消することではない。そのため,圧力軽減バルブ164が設けられていることは,甲1発明に逆スラスト荷重解消のために非加圧の経路を設けるという動機付けがあることを示すものではない。 e 容易想到性原告の主張は争う。 甲1発明と,原告が甲2ないし5に けられていることは,甲1発明に逆スラスト荷重解消のために非加圧の経路を設けるという動機付けがあることを示すものではない。 e 容易想到性原告の主張は争う。 甲1発明と,原告が甲2ないし5に記載されていると主張する技術事項には,課題,作用及び機能の共通性はなく,甲1にそのような技術事項を適用する示唆もなく,これまで述べたように,甲1発明に加 圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設ける手段(手段1)を採用することは,甲1発明の技術思想に反し,阻害事由があり,動機付けがないから,甲1発明に,原告が甲2ないし5に記載されていると主張する技術事項を適用して相違点3に係る本件特許発明の構成を容易に想到することはできなかった。 2 取消事由2(無効理由2に関する進歩性の判断の誤り)⑴ 原告の主張ア甲1発明に,甲6及び甲7に記載された技術事項を適用し,加圧ポンプ140を採用せず,液体を加圧せずに空所134に供給する手段(手段2)により,バランスピストンのピストン室にオイルをポンプで加圧することなく供給し,相違点3に係る本件特許発明の構成を採用することは,容易に想到することができたから,本件審決の相違点3に関する判断には誤りがある。その理由は,後記イのとおりである。 イ(ア) 油ポンプを省略する動機付け甲1に係る特許は昭和47年(1972年)に出願され,本件特許が平成8年(1996年)に出願されるまでに約25年経過しており,その間に技術水準が変化した。スクリユウコンプレツサの技術分野で,甲1に係る特許の出願時にはスリーブタイプの軸受が用いられており,そのため油ポンプが必要であったが,その後,ころ軸受,玉軸受が普及し,軸受へ油を供給するためのポンプが不要になり,高効率化の要請もあり,油ポンプを採用せず にはスリーブタイプの軸受が用いられており,そのため油ポンプが必要であったが,その後,ころ軸受,玉軸受が普及し,軸受へ油を供給するためのポンプが不要になり,高効率化の要請もあり,油ポンプを採用せず,バランスピストン室に非加圧で油を供給するものが一般的になってきた。 甲1の「ポンプ140は,スラストピストン62に適当な力を与えるに充分なだけの液体圧を増加せしめ,またコンプレツサ内の必要な全ての個所に液体流を供給するようにする。」という記載は,コンプレツサにポンプが設けられる場合のポンプの一般的役割を説明したものにとどま り,甲1発明にポンプが必要であることを示すものではなく,甲1の請求項にもポンプという語はない。 甲1に係る特許の出願から本件特許出願までの間又は本件特許出願後にスリーブタイプの軸受や油ポンプを採用したスクリユウコンプレツサがあるとしても,油ポンプを省略することが本件特許出願当時の技術常識,周知技術であったことは否定されない。 (イ) 油ポンプの省略と甲1発明の技術思想甲1発明は,スクリユウロータなど液体(オイル)が分布する箇所を,取り外し自在な低圧ケース98及び/又は高圧ケース114で覆うこととし,これによって外部へのオイル漏れを防止しつつ,小型化・軽量化を図り,またケースが取り外し自在であることにより修理等を容易にすることをその目的,技術思想の一つとしている。加圧ポンプ140を採用せず,液体を加圧せずに空所134に供給する手段(手段2)を採用すれば,高圧ケース114内にかさばる油ポンプを省略することができるから,一層の小型化・軽量化を図ることができ,修理の際の取り回しや内部の視認性なども向上するから,上記の甲1発明の目的に資することになる。 (ウ) 油ポンプを省略することについての阻 ことができるから,一層の小型化・軽量化を図ることができ,修理の際の取り回しや内部の視認性なども向上するから,上記の甲1発明の目的に資することになる。 (ウ) 油ポンプを省略することについての阻害事由甲1発明において油ポンプを省略しても,スラストピストン62,アンギユラコンタクトボールベアリング56へ油が供給されなくなることはなく,コンプレツサ10の機能不全を生じることもない。 ⑵ 被告の主張ア甲1発明に,甲6及び甲7に記載された技術事項を適用し,加圧ポンプ140を採用せず,液体を加圧せずに空所134に供給する手段(手段2)により相違点3に係る本件特許発明の構成を採用することは,容易に想到することができなかったから,本件審決の相違点3に関する判断には誤り はない。その理由は,後記イのとおりである。 イ(ア) 油ポンプを省略する動機付け原告の主張は争う。 甲1の明細書には,「ポンプ140は,スラストピストン62に適当な力を与えるに充分なだけの液体圧を増加せしめ,またコンプレツサ内の必要な全ての個所に液体流を供給するようにする。」と記載されているから,ポンプ140が採用されたのは,コンプレツサ内の必要な全ての個所に液体流を供給するためであり,スリーブタイプの軸受に油を供給するだけのためにポンプ140が採用されているわけではない。また,甲1発明には,ラジアル軸受の構成がスリーブタイプの軸受であることが明記されている。甲1に係る特許の出願から本件特許出願までの間,更に本件特許出願後にも,スリーブタイプの軸受を採用したり,転がり軸受を採用した上で転がり軸受へ油を供給するために油ポンプを採用したスクリュコンプレッサがあるから,油ポンプを省略することが本件特許出願当時の技術常識,周知技術であったとはいえない。 したり,転がり軸受を採用した上で転がり軸受へ油を供給するために油ポンプを採用したスクリュコンプレッサがあるから,油ポンプを省略することが本件特許出願当時の技術常識,周知技術であったとはいえない。したがって,甲1発明の油ポンプを省略する動機付けはない。 (イ) 油ポンプの省略と甲1発明の技術思想原告の主張は争う。 甲1発明は,「改良された液体分布機構」として,ポンプ140により液体を加圧し,いったん空所134に集約した上でコンプレツサ内の必要な全ての個所(スラストピストン室60を含む。)に供給するという構成を採用しているから,ポンプを採用せず液体を加圧せずに空所134に供給する手段(手段2)を採用することは,甲1発明の技術思想に反する。 (ウ) 油ポンプを省略することについての阻害事由原告の主張は争う。 甲1発明において油ポンプを省略するならば,スラストピストン62,アンギユラコンタクトボールベアリング56へ油が供給されなくなり,コンプレツサ10の機能不全を生じるから,甲1発明において油ポンプを省略することには阻害事由がある。 第4 当裁判所の判断 1 本件特許の出願前に頒布された刊行物に記載された発明,技術事項⑴ 甲1ア甲1の記載事項本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲1(特公昭51-36884号公報)は,別紙のとおりであり,「ヘリカルスクリユウコンプレツサ」に関する公告公報であって,甲1には,図面とともに次のとおり記載されている。 (ア) 「この発明は,ハウジングに改良を施した液体噴射スクリユウコンプレツサに関するものである。」(2欄24~25行)(イ) 「従来の液体噴射スクリユウコンプレツサに関連する問題点としては,通常必要とされる多数のパイプ接合からの,コンプ 体噴射スクリユウコンプレツサに関するものである。」(2欄24~25行)(イ) 「従来の液体噴射スクリユウコンプレツサに関連する問題点としては,通常必要とされる多数のパイプ接合からの,コンプレツサハウジング部材間のフランジ付ジヨイントからのガスおよび噴射液体の漏れがある。コンプレツサ外への圧力のかかつたガスの漏れは,特に密閉された装置においては,またガスが有害なあるいは可燃性のものであるときは好ましくない。もちろん,噴射液体の漏れも望ましくないものである。 従つてコンプレツサハウジングのジヨイントの数を最少にし,ジヨイントを容易に密閉することが出来るようにすることが好ましい。」(3欄19~30行)(ウ) 「この発明は,密閉を行なうのに必要なハウジングのジヨイントを最少にし,コンプレツサハウジング内にほぼ収容される液体分布装置を備えた液体噴射ヘリカルガスコンプレツサのハウジング構造の改良を目 的とするものである。 この発明はまた,スライドバルブ容量制御装置を用いるタイプのヘリカルスクリユウガスコンプレツサのハウジング構造を提供するものであつて,その際注入ケース部分はスクリユウロータを収容するための組み立てられた金属部材として独立に構成されてコンプレツサ注入ガスと容量制御バルブにより送り込まれるガスのための室を構成するものである。 組み立てられたケース部分はまた,フレーム上にコンプレツサユニツトを保持するためにも構成され,コンプレツサは,コンプレツサ駆動モータに関してこのケース部分との整合を妨げることなくこれからそつくり取り外すようにすることが出来る。 この発明はさらにまた,中間のハウジング部材が基本のコンプレツサの支持体を構成し,組み立てられたケース部分から容易に取り外しが出来るような液体噴射ヘリカル くり取り外すようにすることが出来る。 この発明はさらにまた,中間のハウジング部材が基本のコンプレツサの支持体を構成し,組み立てられたケース部分から容易に取り外しが出来るような液体噴射ヘリカルスクリユウコンプレツサ用のハウジング構造を提供するものである。中間ハウジング部材はまた,コンプレツサ外部に位置されねばならない液体パイプ接合の数を最少とするような液体分布孔あるいはマニホールドを有している。中間ハウジング部材内にはこれに取り付けられた密閉可能なケース部分と共に液体分布孔が配置されていて,コンプレツサのガス-液体混合体に通常は曝されている閉領域内に位置するほぼ全ての液体パイプがこれにより設けられることとなる。またこの発明によるコンプレツサハウジング構造は,外観が美しいと共に容易に外部から吸音かつ絶縁層あるいはコーテイングを施すことが可能である。」(4欄8~42行)(エ) 「第3図から明らかなようにおすロータ12は,ロータの低圧端側のラジアルスリーブタイプのベアリング52とロータの高圧端側の同様のベアリング54とに回転自在に軸支されている。ベアリング52と54とはそれぞれベアリングハウジング34と中間ハウジング30とに位 置せしめられている。ロータ12に働く軸方向の力は,一対のアンギユラコンタクトボールベアリング56により部分的に受けられる。ベアリング56は,ベアリングハウジング58内に適当に取り付けられ,このハウジング58は,面32から離れかつこれに平行の第2の横断面59上の中間ハウジング30に着脱自在にボルト止めされている。ベアリングハウジング58は,円筒状の室60を有し,その中にはおすロータ12の高圧端部分63に取り付けられたスラストピストン62が設けられている。コンプレツサ噴射液体の如き圧力のか 止めされている。ベアリングハウジング58は,円筒状の室60を有し,その中にはおすロータ12の高圧端部分63に取り付けられたスラストピストン62が設けられている。コンプレツサ噴射液体の如き圧力のかかつた液体が室60に導びかれて,ピストン62に作用してロータ12の端面64に作用する高圧ガスによるスラスト方向の力を相殺する。なおロータ12の反対側の端部は,一体の軸部分66を有し,これに対してモータが第1図に示す如きカツプリング68によつて接続される。めすロータ14は,同様にスリーブベアリングおよび回転部材であるスラストベアリング(図示せず)によつて支持されている。」(6欄6行~31行)(オ) 「前述の如くコンプレツサ10は,液体が,圧縮熱の幾分かを吸収し,協働するロータ12と14の隙間を密閉するために,圧縮されたガスと混合されるように穴18,20により形成された作動室内に噴射されるような良く知られたタイプのものである。この液体は通常適当なオイルが用いられ,これはまた互いに係合する二つのロータおよびロータベアリング用の潤滑剤としても働く。コンプレツサ作動室内に直接噴射されまた潤滑用に用いられるこの液体は,高圧ガスと共に放出され,ガスから分離され,冷却されまた従来周知の如くコンプレツサに再循環される。」(9欄17行~28行)(カ) 「この発明によればケース98と114内にほぼ収容されている改良された液体分布機構を備えたハウジング構造が提供され,コンプレツサの外部に対する液体の漏れが最少にされる。コンプレツサ10内の中 間ハウジング30は,コンプレツサ中の種々の位置に液体を供給するための複数個の通路を有している。中間ハウジング30はまた,圧力のかかつた液体を分布する空所あるいはマニフオールド134を有している。 特に ウジング30は,コンプレツサ中の種々の位置に液体を供給するための複数個の通路を有している。中間ハウジング30はまた,圧力のかかつた液体を分布する空所あるいはマニフオールド134を有している。 特に第3図~第7図において,液体は中間ハウジング30内のパイプ136と通路138を介してめすロータの図示せぬ延長部により駆動される適当なポンプ140に導びかれる。ポンプ140は,スラストピストン62に適当な力を与えるに充分なだけの液体圧を増加せしめ,またコンプレツサ内の必要な全ての個所に液体流を供給するようにする。ポンプ140の放出パイプ142は,中間ハウジング30に固定されたフイルタ146と接続しているこのハウジングの通路144に接続している。 フイルタ146を通過した液体は,中間ハウジングの空所134内に流れる。 空所134は,コンプレツサベアリングおよびシール,スラストピストン,交叉する穴18と20により形成された作動室,および容量制御バルブ42に対する駆動体の室70に圧力のかかつた液体を分布せしめるためのマニフオールドとして働く。圧力のかかつた液体は,パイプ148,150通路152およびパイプ154を介して空所134から室70に供給される。適当なバルブ156がパイプ148内に挿入され,容量制御バルブ駆動体の室70に対する圧力のかかつた液体の流れを制御する。パイプ160内にはバルブ158が配置されて室70に圧力のかかつた液体を送り込む。パイプ160は,パイプ150と,ケース98の内部空間102に開口している中間ハウジングの通路162に接続している。空間102に放出される液体の大部分は,コンプレツサ作動室に流れる注入ガスと偶発的に混合される。空所134はまた,第5図に示され第7図に構成的に示されている圧力軽減バルブ164と接続している いる。空間102に放出される液体の大部分は,コンプレツサ作動室に流れる注入ガスと偶発的に混合される。空所134はまた,第5図に示され第7図に構成的に示されている圧力軽減バルブ164と接続している。圧力軽減バルブ164は,空所134中の液体圧を制限 し,ケース114の空間116に液体を送り込むように働く。圧力軽減バルブ164は,空間116と空所134との間に存在する圧力差により作用するタイプのバルブである。 空所134は第5図に示す如く,通路168によりこれに相互に結合された部分166を有し,また中間ハウジング30に位置するベアリング54に至る通路170を有している。またパイプ172は空所部分166からスラストピストン室60に通じていてスラストピストン62に作用する圧力のかかつた液体を供給する。第3図に示される如くカバー部分175により形成される室174へのスラストピストンの周縁を通つて漏れる液体は,この室から,中間ハウジングの適当な通路を介して穴20に通じているパイプ178に接続しているパイプ176によつて排出される。空所部分166に接続されたパイプ180はまた,ベアリングハウジング34中のベアリング52および同様にベアリングハウジング34中に前述の如く位置するめすロータ14のスラストピストンに液体を供給する。液体はまたパイプ182を経由して軸シールアセンブリ108に供給され,接続パイプ184を介してシールからパイプ178に排出される。 コンプレツサベアリングから,およびスラストピストンとシール108とから排出される液体は,交叉する穴18と20とからなる作動室内に流れる。」(9欄29行~11欄9行)(キ) 「上に述べた液体噴射および潤滑機構から明らかなように,中間ハウジング30内に分布空所あるいはマ れる液体は,交叉する穴18と20とからなる作動室内に流れる。」(9欄29行~11欄9行)(キ) 「上に述べた液体噴射および潤滑機構から明らかなように,中間ハウジング30内に分布空所あるいはマニホールドを設けまたケース98と114内にほぼ全部のパイプを位置せしめたことにより,コンプレツサ10の外への噴射液体の漏れの大部分が除去されることとなる。」(12欄13~18行)イ甲1の記載から理解できる事項 (ア) スクリュー圧縮機においては,潤滑等のためにロータに油を供給しつつ,ロータによりガスが圧縮され吐出されるから,スクリュー圧縮機の吐出流路において,液体が含まれる高圧ガスから液体を分離し,液体が分離された高圧ガスが送り出されることは技術常識である。そして,前記ア(ア)及び(オ)の記載並びに上記技術常識から,液体噴射スクリユウコンプレツサの吐出流路において,オイルである液体とともに放出された高圧ガスから液体を分離冷却し,液体が分離された高圧ガスを送り出すことが理解できる。 (イ) 前記ア(エ)及び第3図の記載から,おすロータ12の両側に延びる軸部分63,66をラジアルスリーブタイプのベアリング52,54により回転可能に支持して,モータに接続される入力軸を低圧側の軸部分66としていることが理解できる。 (ウ) 前記ア(エ)及び第3図の記載から,おすロータ12の高圧端部分63をベアリング54よりもおすロータ12から離れた位置にてアンギユラコンタクトボールベアリング56により回転可能に支持することが理解できる。 (エ) 前記ア(エ)及び第3図の記載から,アンギユラコンタクトボールベアリング56よりもおすロータ12から離れた位置にて高圧端部分63にスラストピストン62を取り付けていることが理解できる。 (エ) 前記ア(エ)及び第3図の記載から,アンギユラコンタクトボールベアリング56よりもおすロータ12から離れた位置にて高圧端部分63にスラストピストン62を取り付けていることが理解できる。 (オ) 前記ア(カ)並びに第3図,第5図及び第7図の記載から,スラストピストン62のアンギユラコンタクトボールベアリング56側の空間であるスラストピストン室60に,高圧ガスから分離されて冷却されてコンプレツサへと再循環される液体を,ポンプ140を経由して導く経路(136,138,142,144,134,168,166,172)を設けて形成したことが理解できる。 ウ甲1に記載された発明 甲1の記載事項(前記ア)及び甲1の記載から理解できる事項(前記イ)によれば,甲1には,本件審決が認定したとおり,甲1発明(前記第2の3⑶)が記載されていると認められる。 ⑵ 甲2ア甲2の記載事項本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲2(特開昭57-159993号公報)には,図面とともに次のとおり記載されている。 (ア) 「本発明は,互に噛み合う一対のスクリユーロータをロータ室で回転せしめて気体を圧縮する噴射式スクリユー圧縮機の運転中に生じる軸方向推力を打消すバランスピストンに関するものである。」(1頁右下欄11~15行)(イ) 「従来,この種の圧縮機は雄ロータを含む縦断面図の第1図に示されるようにロータケーシング1の両側は吸込側端壁及び吐出側端壁をなしており,吸込ケーシング2,吐出ケーシング3により密閉され,雄ロータ4と図示されない雌ロータがかみ合つており,両ロータはケーシング1の吐出し側の双円弧形外周と接している。雄ロータ4は吸込ケーシング1中のジヤーナル軸受6,吐出ケーシング3中のジヤーナル軸受8,スラスト玉軸 されない雌ロータがかみ合つており,両ロータはケーシング1の吐出し側の双円弧形外周と接している。雄ロータ4は吸込ケーシング1中のジヤーナル軸受6,吐出ケーシング3中のジヤーナル軸受8,スラスト玉軸受12より支承され,軸封装置18にて軸封され駆動端が機外に突出している。軸受6側の軸部4bは延出され軸端にはバランスピストン32が固定され,吸込ケーシング2に直接又は固定されたシリンダ中を滑動して回転するようになつている。22は吸込通路,25は吐出通路である。雌ロータ側は同様に機外に突出しない軸により軸架されバランスピストンを有しない。31はスライドバルブである。スクリユー圧縮機が運転されると雄ロータ4と雌ロータはかみ合つてその間の作用空間が吐出側へ移行して冷媒は圧縮され吐出口より吐出通路25へ吐出される。一方,軸受及びロータ間及びロータとロータケーシング1 間の潤滑,冷却,密封を行う油は吐出されたガスと共に吐出配管50をとおり油分離器52に入りそこで分離されて油配管53により油冷却器55に送られて冷却され,フイルタ56にて炉過されて,油ポンプ57により昇圧されて,軸受6,8,12等の各軸受,軸封装置18,スライドバルブ31ほかを介してロータ作用空間へ送られる。同じく送油された油ポンプ57からの圧油はバランスピストン室34に送られ,発生するロータの推力と均衡するようになつており,これらの給油は吐出通路25に再び出て合流する。」(1頁右下欄16行~2頁右上欄10行)(ウ) 「このような従来のスクリユー圧縮機のバランスピストンは油ポンプで加圧された潤滑・冷却シール用の圧油を作動油として供給しているため次の欠点があつた。 (1) …(2) 特に起動時圧縮機の吸入側と吐出側の圧力差が大きくならないうちに油ポンプにより吐出 ンプで加圧された潤滑・冷却シール用の圧油を作動油として供給しているため次の欠点があつた。 (1) …(2) 特に起動時圧縮機の吸入側と吐出側の圧力差が大きくならないうちに油ポンプにより吐出された圧力の高い油がバランスピストンにかかることによりロータが吐出側に推されスラスト軸受およびスラスト軸受抑え金などに過大な応力がかかりしかも起動のたびに繰返えされるため疲労変形の恐れがある。また,ロータ吐出側端面と吐出ケーシング端面が接触し,両端面が損傷したり発熱し,その発熱によりラジアル軸受メタルが溶融して流出することも起り得る。 (3) …」(2頁右上欄11行~左下欄15行)(エ) 「本発明はスクリユー圧縮機における従来のバランスピストンの加圧方法の問題点に鑑みなされたもので吐出圧の変動によるロータ推力に均衡し,従つて起動時,運転中に限らずロータが移動せず,油ポンプの容量を増大させないようなバランスピストンの加圧方法を得ることを目的とするものである。」(2頁左下欄16行~右下欄2行)(オ) 「本発明はスクリユー圧縮機において,吐出流体と共に潤滑,冷却, 密封用の油が油分離機により回収され,油ポンプにより圧縮機各部に給油され,吸込ケーシングに設けたロータ軸端の突出する空間にロータ軸に固定したピストンと吸込ケーシングに固定したシリンダをすきま少く嵌入してピストンの反吐出側に圧縮機の吐出圧力を受けた油を供給したことを特徴とするものである。」(2頁右下欄3~11行)(カ) 「第5図は油圧回路図を示す図面である。吐出通路25に吐き出された油を多量に含む圧縮ガスは吐出配管50を通り油分離器52に導かれ,圧縮ガスと油とに分離されたのち圧縮ガスは配管51から吐出され,油は油配管53により油冷却器55に導かれる。」(4頁左下 吐き出された油を多量に含む圧縮ガスは吐出配管50を通り油分離器52に導かれ,圧縮ガスと油とに分離されたのち圧縮ガスは配管51から吐出され,油は油配管53により油冷却器55に導かれる。」(4頁左下欄14~19行)(キ) 「油分離器52より分離された油の一部はフイルタ59を途中に備える配管58を通じてバランスピストン室34へ送られる。バランスピストン32には従つて吐出圧縮ガス圧力に追従して変化する油圧力が加わる。」(4頁右下欄7~11行)イ甲2の記載から理解できる事項甲2の第5図の記載から,配管58は,バランスピストン室34に,油分離器52の油を加圧することなく導くことが理解できる。 ウ甲2に記載された技術事項甲2の記載事項(前記ア)及び甲2の記載から理解できる事項(前記イ)によれば,甲2には,次の技術事項が記載されていると認められる。 「バランスピストンに油ポンプで加圧された潤滑・冷却シール用の圧油を作動油として供給している従来のスクリユー圧縮機においては,特に起動時,圧縮機の吸入側と吐出側の圧力差が大きくならないうちに油ポンプにより吐出された圧力の高い油がバランスピストンにかかることにより,ロータが吐出側に推され,スラスト軸受及びスラスト軸受抑え金などに過大な応力がかかるという課題があったところ,この課題を解決するために, 油を多量に含む圧縮ガスから油を分離回収し,油分離された圧縮ガスを送り出す油分離器52を吐出配管50に設け,軸部4b端には,雄ロータ4と雌ロータ5の推力のバランスをとるためのバランスピストン32に面するバランスピストン室34に,上記油分離器52の油を加圧することなく導く配管58を設けて形成したスクリユー圧縮機。」⑶ 甲3ア甲3の記載事項本件特許の出願前に頒布さ スピストン32に面するバランスピストン室34に,上記油分離器52の油を加圧することなく導く配管58を設けて形成したスクリユー圧縮機。」⑶ 甲3ア甲3の記載事項本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲3(国際公開第95/10708号)には,図面とともに次のとおり記載されている(翻訳は審決による。)。 (ア) 「公知の装置によれば,通常のケースにおいて,スラスト荷重を適切に低減することができる。しかしながら,出口圧が変化し,特に入口圧も変化するとき,問題が発生する。このような運転条件では,軸方向ガス力が変化し,結果として,バランスピストンの寸法や種々の運転条件によって,ロータがアンダーバランス又はオーバーバランスの状態になってしまうかもしれない。この結果は,スラスト軸受の寿命を減少させるであろう。」(1頁7~12行)(イ) 「本発明の目的は,問題になっている圧縮機における種々の運転条件(特に,高い入口圧及び出口圧で運転するための運転条件)へのスラストバランスの自動的な適応のための簡素且つ信頼性の高い手段を達成することである。」(1頁25~27行)(ウ) 「圧縮機1は,互いに噛み合う一対のスクリュロータを備えた回転スクリュータイプのものであり,低圧入口2と高圧出口3とを有する。 一方のロータは不図示の駆動手段に連結されるシャフト延長部15を有し,シャフト延長部はシリンダ14内にバランスピストン11を有する。 圧縮機には油が注入され,オイルセパレータ10が出口配管8に設けら れている。オイルセパレータからのガスはデリバリパイプ9を介して排出され,分離された油は配管6及び油注入手段4を介して作動スペースに戻るようになっている。配管6には,オイルセパレータに隣接して第1スロットル5が設けられており,油注入 はデリバリパイプ9を介して排出され,分離された油は配管6及び油注入手段4を介して作動スペースに戻るようになっている。配管6には,オイルセパレータに隣接して第1スロットル5が設けられており,油注入手段が第2スロットル4を構成している。第1スロットル5及び第2スロットル4の間において,配管6には,シリンダ14まで分岐配管が到達している。」(2頁18~26行)(エ) 「運転時,圧縮機の高圧端から低圧端に向かう方向(即ち,図中左側)の軸方向のガス力Fが各ロータに作用し,このガス力はps及びpdの関数である。ピストン11からのバランス力Fbは,ピストンの有効加圧面積12に依存し,ps及びpdの関数である。バランス力はガス力未満であるべきであり,合力FR=F-FBはスラスト軸受によって負担されるべきである。合力は,所定範囲(Fmin<FR<Fmax)内に収まるべきである。但し,Fmin 及びFmax は,スラスト軸受の負荷要求によって定まる。」(3頁7~14行)イ甲3の記載から理解できる事項(ア) 前記ア(ウ)及び図面の記載からみて,油とともに吐出された圧縮ガスから油を分離回収し,油を一旦下部の油溜まり部に溜め,油分離された圧縮ガスを送り出すオイルセパレータ10を出口配管8に接続していることが理解できる。 (イ) 甲3の図面を参照すると,配管6及び分岐配管7には油圧ポンプが設けられておらず,オイルセパレータ10からの油を「加圧することなく」シリンダ14のバランスピストン11の第1圧力表面12側に導くようになっていることが理解できる。 さらに,油は油注入手段4を介して作動スペースに戻るようになっていると記載されているから,このスクリュー圧縮機は油冷式であるとい える。 ウ甲3に記載された技術事項 さらに,油は油注入手段4を介して作動スペースに戻るようになっていると記載されているから,このスクリュー圧縮機は油冷式であるとい える。 ウ甲3に記載された技術事項甲3の記載事項(前記ア)及び甲3の記載から理解できる事項(前記イ)によれば,甲3には,本件審決が認定したとおり(本件審決12頁),次の技術事項が記載されていると認められる。 「油とともに吐出された圧縮ガスから油を分離回収し,油を一旦下部の油溜まり部に溜め,油分離された圧縮ガスを送り出すオイルセパレータ10を出口配管8に接続し,シリンダ14のバランスピストン11の第1圧力表面12側に,上記油溜まり部の油を加圧することなく導く配管6及び分岐配管7を設けて形成した,油冷式スクリュー圧縮機1。」⑷ 甲4ア甲4の記載事項本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲4(特開昭57-122188号公報)には,図面とともに次のとおり記載されている。 (ア) 「(7)特許請求の範囲第1項から第6項のいずれか1項に記載の油注入式ねじ形圧縮機に於ける軸受を冷却し潤滑しロータ軸スラストを平衡さす方法に於いて,前記ねじロータの軸的平衡の為に,圧力油が前記低圧側のねじロータの軸端(20)に近接した圧力空間に供給されることを特徴とする油注入式ねじ形圧縮機に於ける軸受を冷却し潤滑しロータ軸スラストを平衡さす方法。」(特許請求の範囲第7項)(イ) 「(11)特許請求の範囲第7項から第10項のいずれか1項に記載の油注入式ねじ形圧縮機に於ける軸受を冷却し潤滑しロータ軸スラストを平衡さす方法に於いて,前記ねじロータの圧力空間に供給される油の圧力が前記ねじ形圧縮機の出力圧力とほぼ同じであることを特徴とする油注入式ねじ形圧縮機に於ける軸受を冷却し潤滑しロータ軸スラストを トを平衡さす方法に於いて,前記ねじロータの圧力空間に供給される油の圧力が前記ねじ形圧縮機の出力圧力とほぼ同じであることを特徴とする油注入式ねじ形圧縮機に於ける軸受を冷却し潤滑しロータ軸スラストを平衡さす方法。」(特許請求の範囲第11項) (ウ) 「圧縮機の低圧側には,好ましくはころ軸受型のラジアル軸受と好ましくはアンギユラ・コンタクト玉軸受型のアキシアル軸受18がねじロータ15を支承する為に組み入れられている。この軸受組み入れ部分の外側に於いて,ねじロータ15の高圧端に作用する軸力の主要部分を平衡さす為にロータ軸端20に平衡ピストン19が配備されている。前記平衡ピストン19は圧力空間21に位置させられ,そして該圧力空間21へ油入口孔22を介して外側から圧力油が供給され得る。」(3頁右下欄1~10行)(エ) 「ねじロータ15の平衡ピストン19の圧力空間21に油が供給されるが,該油の圧力は油冷却器と油フイルタ中の圧力低下によつて減圧されたねじ形圧縮機の出口圧力に対応する。」(4頁左下欄12~15行)(オ) 「軸方向の力が高いねじロータ上には,本発明に係る装置により平衡力が与えられ,該平衡力は圧縮機に於ける逆圧の増大と共に増大し,それによつて軸受力そして,従つて,軸受稼動寿命は,実質的に一定である。」(5頁右上欄19行~左下欄3行)イ甲4に記載された技術事項前記アの記載事項によれば,甲4には,次の技術事項が記載されていると認められる。 「油冷却器及び油フイルタでの圧力降下によって減少したねじ圧縮機(スクリュ圧縮機)の出口圧力に対応する圧力の油を,平衡ピストン(バランスピストン)19に面する圧力空間21に導くための油入口孔22を設けて形成した油注入式ねじ形圧縮機。」⑸ 甲5ア甲5の記載事項 ュ圧縮機)の出口圧力に対応する圧力の油を,平衡ピストン(バランスピストン)19に面する圧力空間21に導くための油入口孔22を設けて形成した油注入式ねじ形圧縮機。」⑸ 甲5ア甲5の記載事項本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲5(実願昭62-128114号(実開昭64-34493号)のマイクロフィルム)には,図面 とともに次のとおり記載されている。 (ア) 「本考案は,以上の問題点を解消するために,バランスピストンの給排油構造を簡素化し,しかも圧縮ガス圧力の変動に係わらず安定したスラスト力の釣合と,圧縮作用空間及び軸受空間との確実な軸封作用が行えると共に,ロータ端面とケーシング端壁間との吐出端面隙間の正確な調整を可能とし,安価でしかも性能のよいスラスト力釣合装置を提供することを目的とする。」(4頁17行~5頁4行)(イ) 「さらに,オスロータ3側のベアリング12と該ロータの端面21間には,外周面にラビリンス溝を有する大径部14と小径部15より成るスペーサ16が嵌着し,該ロータと吐出ケーシング9間の吐出端面スキマを保持している。さらに,前記大径部14と小径部15の双方は,吐出ケーシング9の端壁22に形成する大径穴と小径穴とから成る軸封穴17内に密封摺動自在に挿通すると共に,前記スペーサの大径部14と小径部15との境にある段部18と,前記軸封穴17間に形成される作用室19を,連通孔20を介してメスロータ4に嵌着する軸封カラー25の油溝26と連通している。この油溝26は,前記軸封カラーの略中央部に全周にわたって形成されているもので,吐出ケーシング9に穿設した給油孔27と連通し,さらに配管28を介してセパレータタンク29内の油溜30と接続している。」(6頁12行~7頁8行)(ウ) 「圧縮機を運転する て形成されているもので,吐出ケーシング9に穿設した給油孔27と連通し,さらに配管28を介してセパレータタンク29内の油溜30と接続している。」(6頁12行~7頁8行)(ウ) 「圧縮機を運転すると,吸入口45から吸入されたガスはオス・メスロータ3・4の噛み合いによって圧縮され,吐出口46より吐出され,図示せざる吐出配管を介してセパレータタンク29内に圧送される。 これにより,油溜30内の潤滑油は前記圧縮ガス圧力により押し出され,配管28,給油孔27を介してメスロータ4の軸封カラー25外周部に形成された油溝26を経て,オスロータ3に設けられたスペーサ16の作用室19内に圧送される。 したがって,オスロータ3には常時圧縮ガス圧力に比例した図中A方向のスラスト荷重が作用する。 一方,前記したオス・メスロータの噛み合い回転に伴う圧縮作用により,両ロータには圧縮ガス反力としてのラジアル荷重と,図中B方向へのスラスト荷重が作用するが,このオスロータ側のスラスト荷重を前記作用室19内の油圧によってスペーサ16に作用する図中A方向のスラスト力が相殺し,ベアリング12に加わるスラスト荷重を軽減する。 即ち,前記A及びB方向のスラスト荷重は常に圧縮ガス圧力に比例した力で作用するので,前記圧縮ガス圧力の変動に係わらず常に均衡のとれた釣合が成される。」(7頁12行~8頁16行)イ甲5の記載から理解できる事項前記ア(イ),(ウ)及び第1図の記載からみて,油とともに吐出された圧縮ガスから油を分離回収し,油を一旦下部の油溜30に溜め,油分離された圧縮ガスを送り出すセパレータタンク29を吐出配管に接続すること,及び,スペーサ16に面する吸入側の作用室19に,油溜30の油を加圧することなく導く配管28を接続することが理解できる。 離された圧縮ガスを送り出すセパレータタンク29を吐出配管に接続すること,及び,スペーサ16に面する吸入側の作用室19に,油溜30の油を加圧することなく導く配管28を接続することが理解できる。 ウ甲5に記載された技術事項甲5の記載事項(前記ア)及び甲5の記載から理解できる事項(前記イ)によれば,甲5には次の技術事項が記載されていると認められる。 「油とともに吐出された圧縮ガスから油を分離回収し,油を一旦下部の油溜30に溜め,油分離された圧縮ガスを送り出すセパレータタンク29を吐出配管に接続し,バランスピストンとして機能するスペーサ16に面する吸入側の作用室19に,油溜30の油を加圧することなく導く配管28を接続した,スクリュ圧縮機。」 2 取消事由1(無効理由1に関する進歩性の判断の誤り)について ⑴ 相違点2(圧力遮断する仕切り壁)についてア当裁判所は,被告が本件審決の相違点2に関する判断の誤りを主張すること自体は失当とはいえないが,相違点2は実質的な相違点ではないとした本件審決の判断に誤りはないものと判断する。その理由は,以下のとおりである。 イ被告が本件審決の相違点2に関する判断の誤りを主張することの適否原告は,相違点2の判断の誤りを述べる被告の主張は,それ自体失当である旨主張する。 しかし,被告は,本件特許発明は甲1発明に甲2ないし5に記載された周知技術を適用して当業者が容易に発明をすることができたとの本件審決の判断は誤りであるという原告の主張を争い,その理由として,甲1発明と本件特許発明の相違点2は実質的な相違点であって,相違点2に係る本件特許発明の構成を容易に想到することはできず,本件特許発明は当業者が容易に発明をすることができなかったと主張するものであり,このような主張 発明の相違点2は実質的な相違点であって,相違点2に係る本件特許発明の構成を容易に想到することはできず,本件特許発明は当業者が容易に発明をすることができなかったと主張するものであり,このような主張は本件無効審判においても行っていたものである。したがって,被告の上記主張は,無効審判において審理判断の対象となっていなかった新たな事由を持ち出すものではないし,本件特許発明の進歩性を基礎付け得るものである以上,それ自体失当であるということもできない。したがって,原告の上記主張は,採用することはできない。 ウ本件審決の相違点2に関する判断の誤りの有無(ア) 本件特許発明における圧力遮断する仕切り壁の技術的意義a 本件明細書の記載本件明細書の発明の詳細な説明には次の記載がある。 (a)「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,スクリュロータに作用するスラスト力を軽減するように した油冷式スクリュ圧縮機に関するものである。」(b)「【0013】【発明の実施の形態】次に,本発明の実施の一形態を図面にしたがって説明する。 図1~3は,第1発明の第1の実施形態に係るスクリュ圧縮機を示し,図6,7に示すスクリュ圧縮機と互いに共通する部分については,同一番号を付して説明を省略する。 この圧縮機の場合,油ポンプ6の一次側にて油供給流路7から分岐させた均圧流路8が設けてあり,油ポンプ6の二次側に続く油供給流路7の部分はラジアル軸受13,14の箇所に導き,均圧流路8はバランスピストン17の箇所に導くように形成してある。この圧縮機本体3内の構造について,さらに詳説すれば,図2,3に示すように,圧縮機本体3の吐出側のロータ軸に,スクリュロータ11,12側から順番に,ラジアル軸受14,スラスト軸受16,バラン る。この圧縮機本体3内の構造について,さらに詳説すれば,図2,3に示すように,圧縮機本体3の吐出側のロータ軸に,スクリュロータ11,12側から順番に,ラジアル軸受14,スラスト軸受16,バランスピストン17を設けるとともに,スラスト軸受16とバランスピストン17との間に仕切り壁31を設けてある。この仕切り壁31は内周部に軸封手段32を備え,スラスト軸受16を収容している空間Aとバランスピストン17を収容している空間Bとを圧力遮断して,空間Bを,入力軸15,スラスト軸受16,ラジアル軸受13,14等の他の構成要素とは独立させてある。 【0014】そして,空間Aには吸込圧力Psを導き,空間Bのバランスピストン17のスラスト軸受16側の面には均圧流路8により吐出圧力Pdを導いている。 上述したように,入力軸15を吸込側に配置してあるためスラスト軸受部の径はラジアル軸受14,入力軸15の径によって左右され ず,スラスト軸受16の内径を小さくして,その負荷容量を大きくすることができる。また,空間Bを他の構成要素から独立させてあるので,バランスピストン17の軸径,外径を他の構成要素に左右されることなく定めることができる。 バランスピストン17に作用する力Fは,次式で表される。 F=(D2-d2)・(π/4)×Pdここで,Dはバランスピストン17の外径,dはバランスピストン17の軸径であり,したがって,十分にスラスト力を軽減するためには,力Fを大きくすればよく,そのためには(D2-d2)を大きくして,バランスピストン17の必要な受圧面積を確保すればよい。 即ち,バランスピストン17の外径Dを大きく,軸径dを小さくすればよい。」b 圧力遮断する仕切り壁の技術的意義前記a(a)の本件明細書の記載によれば,本件 の必要な受圧面積を確保すればよい。 即ち,バランスピストン17の外径Dを大きく,軸径dを小さくすればよい。」b 圧力遮断する仕切り壁の技術的意義前記a(a)の本件明細書の記載によれば,本件特許発明は,「スクリュロータに作用するスラスト力を軽減する」ことを前提としているところ,前記a(b)の記載と本件明細書の図3を参照すると,本件特許発明における「仕切り壁」とは,十分にスラスト力を軽減するよう吐出圧力Pdをバランスピストン17に作用させるために,吐出圧力Pdが導かれる空間Bと吸込圧力が導かれる空間Aとの間に配置することにより,空間Aと空間Bとを圧力遮断するものである。 そうすると,「仕切り壁」の密封性については,本件特許発明が前提とする「スクリュロータに作用するスラスト力を軽減する」よう吐出圧力Pdをバランスピストン17に作用させることができる程度に空間Bから空間Aへの油の流出を妨げることができることを要するものであって,全く流出させないほどの密封性を要するものではないと解される。 (イ) 甲1発明における部品7,5,4a 部品の配置甲1の図3を参照すると,別紙図面(本件審決23頁の図面に着色したもの。)のとおり,スラストピストン室60とアンギユラコンタクトボールベアリング56との間には,右から順に部品7,5,4が配置されるとともに,それらの下方に部品6が配置されることが看取できる。 b 圧力差の存在甲1発明において,スラストピストン室60には,コンプレツサ噴射液体のような圧力のかかった液体が導かれ,その圧力が,ピストン62に作用して,スラスト力を軽減している。 他方,アンギユラコンタクトボールベアリング56が配置された空間について検討すると,甲1には,コンプレツサベアリングに液体を分 れ,その圧力が,ピストン62に作用して,スラスト力を軽減している。 他方,アンギユラコンタクトボールベアリング56が配置された空間について検討すると,甲1には,コンプレツサベアリングに液体を分布させることが記載され,具体的には,ベアリング52,54に液体を供給することが記載されているが,アンギユラコンタクトボールベアリング56への液体供給については具体的な記載はない。そして,ボールベアリングを油で潤滑することは一般にも行われているが,ボールベアリングが配置される空間が高圧の油で完全に満たされているとボールの円滑な転動が阻害されるから,通常そのようなことは考えにくい。そうすると,甲1発明において,アンギユラコンタクトボールベアリング56が配置された空間は,ポンプ140で加圧された液体で完全に満たされていることはなく,当該空間はせいぜい気液混合状態であって,スラストピストン室60よりも低圧であり,アンギユラコンタクトボールベアリング56が配置された空間とスラストピストン室60との間には圧力差が存在しているものと認められる。 c 密閉性の程度 ところで,甲1の図3の記載から,部品5及び部品7には,両部材を貫通する穴が形成され,このような貫通穴は部品4の右端面に開口していることが看取できる。さらに,技術常識に鑑みれば,甲1の図3における部品3及び部品4は,アンギユラコンタクトボールベアリング56の外輪を回転不能に固定するための部品であり,部品5の押圧力を部品4を介してアンギユラコンタクトボールベアリング56の外輪に作用させていることが理解できる。したがって,部品5と部品4との間は相当に密なものであると解されるものの,部品5の貫通穴と部品4の右端面とにシール部材は見受けられず,また,前述のとおりアンギユラコンタク せていることが理解できる。したがって,部品5と部品4との間は相当に密なものであると解されるものの,部品5の貫通穴と部品4の右端面とにシール部材は見受けられず,また,前述のとおりアンギユラコンタクトボールベアリング56が配置された空間は低圧であるから,スラストピストン室60に供給された液体が前記貫通穴を介して,部品5と部品4との間からアンギユラコンタクトボールベアリング56が配置された空間に漏れ出る可能性が全くないとまではいえない。 しかし,前記(ア)bで検討したように,本件特許発明の「仕切り壁」の密封性は,発生する逆スラスト荷重にバランスする十分な圧力をバランスピストン17に作用させることができる程度に空間Bから空間Aへの油の流出を妨げることができるものであって,全く流出させないほどの密封性を要するものではない。そして,甲1に「コンプレツサ噴射液体の如き圧力のかかつた液体が室60に導びかれて,ピストン62に作用してロータ12の端面64に作用する高圧ガスによるスラスト方向の力を相殺する。」(6欄22~25行)との記載があることから,甲1発明においても,部品7,5,4は,全体として,スラストピストン62に作用するスラスト方向の力をスラストピストン室60内の圧力により相殺する程度に,スラストピストン室60とアンギユラコンタクトボールベアリング56が配置された空間とを圧力遮 断していると解される。 d 圧力遮断する仕切り壁への該当性そうすると,甲1発明において,部品7,5,4は,圧力差のあるスラストピストン室60と,アンギユラコンタクトボールベアリング56が配置された空間との間に配置することにより,これらの空間を遮断するものであるから,本件特許発明の「圧力遮断する仕切り壁」の機能を有していると認められる。 ンギユラコンタクトボールベアリング56が配置された空間との間に配置することにより,これらの空間を遮断するものであるから,本件特許発明の「圧力遮断する仕切り壁」の機能を有していると認められる。 (ウ) 本件審決の判断の誤りの有無これまで述べたところによれば,甲1発明は,本件特許発明の「仕切り壁」に相当する部品を備えているから,相違点2は,甲1発明と本件特許発明の実質的な相違点ではなく,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。 (エ) 被告の主張の検討a 被告は,甲1発明において,アンギユラコンタクトボールベアリング56にはスラストピストン室60から液体(ベアリングを冷却する前の油)を供給し続ける必要があり,そのため,アンギユラコンタクトボールベアリング56とスラストピストン室60との間に介在する部品7,5,4は,部品7,5に貫通穴が設けられ,それらの貫通穴が互い連通されているという構成であり,また,部品4は,その内側の空間を介してアンギユラコンタクトボールベアリング56が配置された領域と空間的に連通されているという構成であるから,部品7,5,4をもって,圧力遮断する仕切り壁ということはできないと主張する(前記第3,1⑵ア(イ)b)。 しかし,前記(イ)cのとおり,本件特許発明の「仕切り壁」は,油を全く流出させないほどの密封性を要するものではなく,甲1発明の部品7,5,4は,全体として,スラストピストン62に作用するスラ スト方向の力をスラストピストン室60内の圧力により相殺する程度に,スラストピストン室60とアンギユラコンタクトボールベアリング56が配置された空間とを圧力遮断しているから,圧力遮断する仕切り壁に該当するものと認められ,被告の上記主張を採用することはできない。 b また,被告は,甲 とアンギユラコンタクトボールベアリング56が配置された空間とを圧力遮断しているから,圧力遮断する仕切り壁に該当するものと認められ,被告の上記主張を採用することはできない。 b また,被告は,甲1発明において,スラストピストン62が,ポンプ140で「充分」に「液体圧を増加せしめ」られた液体の供給を受け,「ロータ12の端面64に作用する高圧ガスによるスラスト方向の力を相殺する」という機能を実現するために要求されるのは,スラストピストン62のロータ側に作用する圧力,つまりスラストピストン室60の圧力が,スラストピストン62の反ロータ側に作用する圧力,つまり室174の圧力よりも高いことであるとし,部品7,5,4が「圧力遮断する仕切り壁」に相当する部品でなくとも,スラストピストン室60は室174よりも高圧であるため,上記機能は実現されると主張する(前記第3,1⑵ア(イ)b)。 しかし,部品7,5,4は,スラストピストン室60と,アンギユラコンタクトボールベアリング56が配置された空間との間に存在するから,スラストピストン室60と,アンギユラコンタクトボールベアリング56が配置された空間との間に圧力差があれば,室174の圧力如何にかかわらず,部品7,5,4は圧力遮断する仕切り壁に該当すると認められる。また,被告の主張は,スラストピストン室60と室174との間に圧力差があれば,貫通穴を有する部品7,5,4が「圧力遮断」できない構造であっても,当該圧力差によってスラストピストン62は室174側に押圧されることになる,という趣旨とも解されるが,スラストピストン62を室174側に押圧する力が働くためには,スラストピストン室60内の圧力が上がる必要があり, そのためには,部品7,5,4が圧力を遮断するもの,すなわち,「圧力 ラストピストン62を室174側に押圧する力が働くためには,スラストピストン室60内の圧力が上がる必要があり, そのためには,部品7,5,4が圧力を遮断するもの,すなわち,「圧力遮断する仕切り壁」でなければならないと解される。したがって,被告の上記主張は,採用することができない。 ⑵ 相違点3(非加圧流路)についてア当裁判所は,甲1発明に,甲2ないし5に記載された周知技術を適用し,加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設ける手段(手段1)により,バランスピストンのピストン室にオイルをポンプで加圧することなく供給し,相違点3に係る本件特許発明の構成を採用することは,容易に想到することができたから,本件審決の相違点3に関する判断は誤りであると判断する。その理由は,以下のとおりである。 イ逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)の発生という技術的課題甲2に記載された技術事項は前記1⑵ウのとおりであり,甲2には,「バランスピストンに油ポンプで加圧された潤滑・冷却シール用の圧油を作動油として供給している従来のスクリユー圧縮機においては,特に起動時,圧縮機の吸入側と吐出側の圧力差が大きくならないうちに油ポンプにより吐出された圧力の高い油がバランスピストンにかかることにより,ロータが吐出側に推され,スラスト軸受及びスラスト軸受抑え金などに過大な応力がかかるという課題がある」こと,すなわち,逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)が発生するという技術的課題が示されていた。 そして,甲1発明は,高圧ガスから分離されて冷却されてコンプレツサへと再循環される液体を,ポンプ140を経由してスラストピストン室60に導く経路を設けて形成した液体噴射スクリユウコンプレツサであるが,逆スラスト力が発生しないことを裏付けるような事情はないか ツサへと再循環される液体を,ポンプ140を経由してスラストピストン室60に導く経路を設けて形成した液体噴射スクリユウコンプレツサであるが,逆スラスト力が発生しないことを裏付けるような事情はないから,甲1発明は,逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)の発生という技術的課題を有しているものと認められる。 ウ非加圧流路の設定に係る周知技術 (ア) 甲2に記載された技術事項は前記1⑵ウのとおりであり,「バランスピストン32に面するバランスピストン室34に,上記油分離機52の油を加圧することなく導く配管58を設けて形成」したものである。 甲3に記載された技術事項は前記1⑶ウのとおりであり,「シリンダ14のバランスピストン11の第1圧力表面12側に,上記油溜まり部の油を加圧することなく導く配管6及び分岐配管7を設けて形成した,油冷式スクリュー圧縮機1」である。 甲4に記載された技術事項は前記1⑷イのとおりであり,「圧力降下によって減少したねじ圧縮機(スクリュ圧縮機)の出口圧力に対応する圧力の油を,平衡ピストン(バランスピストン)19に面する圧力空間21に導くための油入口孔22を設けて形成した油注入式ねじ形圧縮機」である。 甲5に記載された技術事項は前記1⑸ウのとおりであり,「バランスピストンとして機能するスペーサ16に面する吸入側の作用室19に,油溜30の油を加圧することなく導く配管28を接続した,スクリュ圧縮機」である。 (イ) 前記(ア)のとおり,甲2ないし5には,スクリュ圧縮機において,バランスピストンに圧力を作用させるための空間に,圧縮機から回収された油を加圧することなく導く配管を設けることが記載されていたものであり,それは,本件特許の出願日前に周知の技術事項であったものと認められる。 エ容易想 作用させるための空間に,圧縮機から回収された油を加圧することなく導く配管を設けることが記載されていたものであり,それは,本件特許の出願日前に周知の技術事項であったものと認められる。 エ容易想到性甲1発明は,逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)の発生という技術的課題を有しており(前記イ),スクリュ圧縮機において,バランスピストンに圧力を作用させるための空間に,圧縮機から回収された油を加圧することなく導く配管を設けることは本件特許の出願日前に周知の技術事項で あったから(前記ウ(イ)),甲1発明の上記課題を解決するために,上記の周知の技術事項を適用して,スラストピストン室へ液体を導く経路を非加圧の経路とすることは,当業者が容易に想到することができたものであると認められる。 オ当事者の主張の検討(ア) 具体的な構成を前提にその採用の可否を判断することについて原告は,本件審決が,甲1発明において,相違点3のように液体(オイル)を加圧することなくスラストピストン室60に導くための構成例としては,①加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設ける手段(手段1)と,②加圧ポンプ140を採用せず,液体を加圧せずに空所134に供給する手段(手段2)とが考えられるとした上で,これらの手段はいずれも甲1発明に適用するに当たって阻害要因があると述べ,進歩性を認めたことについて,どのような構成によって非加圧流路が形成されるのかということなどは構成要件外の事情にすぎないから,非加圧流路を形成するための具体的な構成のうち,ある特定の構成例のみに着目し,その特定の構成例を採用することに阻害要因があると判断した本件審決は誤りであると主張する(前記第3,1⑴イ(イ)a)。 しかし,相違点3に係る本件特許発明の構成のように液体( の構成例のみに着目し,その特定の構成例を採用することに阻害要因があると判断した本件審決は誤りであると主張する(前記第3,1⑴イ(イ)a)。 しかし,相違点3に係る本件特許発明の構成のように液体(オイル)を加圧することなくスラストピストン室60に導くためには,スクリュ圧縮機に空所134が存在することを前提とするならば,①加圧ポンプ140がある構成において,加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設ける手段(手段1)と,②加圧ポンプ140を採用せず,液体を加圧せずに空所134に供給する手段(手段2)のいずれかの構成をとることになると考えられるところであり,本件審決は,考え得る二つの構成について検討したもので,それ以上に具体的な構成を特定してそのような具体的な構成に限って容易想到性を判断したものではないか ら,このような本件審決の検討方法に誤りはなく,この点に関する原告の主張は,採用することができない。 (イ) 加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設ける手段(手段1)の採用と甲1発明の技術思想についてa 空所134への液体の集約被告は,甲1は,甲1発明が,「改良された液体分布機構」として,ポンプ140によって液体を加圧し,さらに,この加圧した液体をいったん空所134に集約した上で「コンプレツサ内の必要な全ての個所」(スラストピストン室60を含む。)に供給するという構成を採用したことを明らかにしており,甲1発明の「改良された液体分布機構」においては,ポンプ140により加圧された液体が,中間ハウジング30に形成された空所134を介することなく供給される個所は,コンプレツサ内に存在しないとし,したがって,スラストピストン室60についてのみ,ポンプ140によって加圧されない液体を空所134を介するこ に形成された空所134を介することなく供給される個所は,コンプレツサ内に存在しないとし,したがって,スラストピストン室60についてのみ,ポンプ140によって加圧されない液体を空所134を介することなく供給するなどという構成は,甲1発明の技術思想に反するものであって,適用が排斥されていると主張する(前記第3,1⑵イ(イ)c(a))。 甲1には,空所134に関し,「中間ハウジング30はまた,圧力のかかつた液体を分布する空所あるいはマニフオールド134を有している。」(9欄35~37行),「空所134は,コンプレツサベアリングおよびシール,スラストピストン,交叉する穴18と20により形成された作動室,および容量制御バルブ42に対する駆動体の室70に圧力のかかつた液体を分布せしめるためのマニフオールドとして働く。圧力のかかつた液体は,パイプ148,150通路152およびパイプ154を介して空所134から室70に供給される。」(10欄6~13行)と記載され,ポンプ140によって加圧した液体の供給 について,いったん空所134に集約した上で「コンプレツサ内の必要な全ての個所」(スラストピストン室60を含む。)に供給するという構成を採用することが記載されているにとどまる。そうすると,ポンプ140により加圧された液体を供給する経路の一部を,あえて空所134を経由しない別の経路として設けるように変更することは,甲1の技術思想に反するものとして,その適用が排斥されているという余地があるとしても,ポンプにより圧力が加えられない液体をスラストピストン室60に供給する非加圧の経路を設ける場合に,これを,ポンプ140及び空所134を経由しないように設けることまでもが排斥されていると解することはできない。したがって,被告の上記主張を採用 トピストン室60に供給する非加圧の経路を設ける場合に,これを,ポンプ140及び空所134を経由しないように設けることまでもが排斥されていると解することはできない。したがって,被告の上記主張を採用することはできない。 b 外部への漏出防止被告は,甲1発明は,コンプレツサ外部へのガス及び液体の漏れという課題の解決のために,中間ハウジング30内の空所134,ポンプ140等により構成される「改良された液体分布機構」を備え,ハウジングのジヨイントを最少とするケースを備えるものであると指摘した上,コンプレツサ外部へのガス及び液体の漏れを減少させるためには,そもそも,内部における液体分布機構も改良してガス及び液体の漏れを減少させることが必要又は有益であるところ,甲1発明において,スラストピストン室へ液体を導く経路を非加圧の経路とすべく,例えば,パイプ138を分岐させ,パイプを増加させ,当該パイプをパイプ172に接続することは,甲1発明の「改良された液体分布機構」にとって著しく不合理な構成であり,このような構成を採用することは,甲1発明の技術思想に反すると主張する(前記第3,1⑵イ(イ)c(b))。 しかし,スラストピストン室へ圧力の加えられていない液体を供給 する非加圧の経路を設けるため,ケース内部において,例えば,ポンプ140に至るパイプ138に分岐を設け,これをスラストピストン室60に接続するように構成したとしても,これによって,コンプレツサ外部へのガス及び液体の漏れが必然的に増大するとは認められない。そのため,甲1発明が,コンプレツサ外部へのガス及び液体の漏れという課題の解決のためのものであるとしても,上記のような非加圧の経路を設けることが,甲1発明の「改良された液体分布機構」にとって著しく不合理な構成 1発明が,コンプレツサ外部へのガス及び液体の漏れという課題の解決のためのものであるとしても,上記のような非加圧の経路を設けることが,甲1発明の「改良された液体分布機構」にとって著しく不合理な構成であるとは認められないし,そのような構成を採用することが甲1発明の技術思想に反するということはできない。したがって,被告の上記主張を採用することはできない。 (ウ) 加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設ける手段(手段1)を甲1発明に採用することについての阻害事由についてa スラストピストン62,アンギユラコンタクトボールベアリング56へ液体が供給されなくなることによるコンプレツサ10の機能不全被告は,ポンプ140は,スラストピストン62に適当な力を与えるに充分なだけの液体圧を増加せしめるものであるところ,甲1発明において,スラストピストン室60への液体の経路を非加圧のものとするならば,ポンプ140により「液体圧」を「充分」に「増加せしめ」ることができず,スラストピストン62に「適当な力」を与えることができないため,スラストピストン62のスラスト荷重への対抗が不全となり,コンプレツサ10が機能しなくなると主張し,また,スラストピストン室60,部品7,5の貫通穴を経由してアンギユラコンタクトボールベアリング56に液体を供給し続けることができなくなって,アンギユラコンタクトボールベアリング56は,その温度が許容温度を超えて上昇して損傷し,コンプレツサ10が機能しなく なると主張する(前記第3,1⑵イ(イ)d(a))。 しかし,甲2ないし5には,スクリュ圧縮機において,バランスピストンに圧力を作用させるための空間に,圧縮機から回収された油を加圧することなく導く配管を設けることが記載されており,それは,本 。 しかし,甲2ないし5には,スクリュ圧縮機において,バランスピストンに圧力を作用させるための空間に,圧縮機から回収された油を加圧することなく導く配管を設けることが記載されており,それは,本件特許の出願日前に周知の技術事項であったから(前記ウ(イ)),加圧していない油(液体)によって,バランスピストン(スラストピストン)に,スラスト力をバランスさせるために必要な力を与えているスクリュ圧縮機は,本件特許の出願日前に周知であったものと認められる。また,甲1発明において,アンギユラコンタクトボールベアリング56への液体供給がどのように行われているかは不明であって,スラストピストン室60から,部品7,5の貫通穴を経由して液体が供給されていると一義的に解することはできず,仮にそのように液体が供給されているとしても,スラストピストン室60に供給される液体を非加圧にすることで,直ちにアンギユラコンタクトボールベアリング56への供給不足が生じることを裏付ける証拠はない。これらのことに照らすと,スラストピストン室60への液体の経路を非加圧のものとすることにより,コンプレツサ10が機能しなくなると認めることはできず,被告の上記主張は採用することができない。 b フイルタ146を経由しないことによるコンプレツサ10の機能不全被告は,加圧ポンプ140や空所134を経由しない経路を設けると,スラストピストン室60に供給される液体がフイルタ146を迂回することになるので,異物(ロータ同士の接触により生ずる金属くず・鉄粉,液体の化学反応により生ずる不物等)がスラストピストン室60に到達して詰まり等が生じることなどの不都合があり,ひいてはコンプレツサ10が機能不全に陥るとし,甲1発明において,スラ ストピストン室60に液体を供給する スラストピストン室60に到達して詰まり等が生じることなどの不都合があり,ひいてはコンプレツサ10が機能不全に陥るとし,甲1発明において,スラ ストピストン室60に液体を供給する構成を,ポンプ140・フイルタ146・空所134を迂回するものの他のフイルタを通過してスラストピストン室60に至る構成に改変しようとすると,フイルタ146とは別個のフイルタの追加が必要となり,更にはそれに応じた液体パイプ・液体パイプ接合の追加等が必要となるため,甲1発明がコンプレツサ外部の液体パイプ接合の数を最少としようとしている趣旨等に反し,そのような構成を採用することには,やはり阻害要因があると主張する(前記第3,1⑵イ(イ)d(b))。 しかし,スラストピストン室60に供給される液体がフイルタ146を迂回したとしても,圧縮機全体での液体の循環が繰り返される中で,大部分の異物はいずれはフイルタ146を通って除去されることになるし,必要であれば,ポンプの前にフイルタを経由するように構成を変更し,ポンプにより圧力を加えられる液体も,圧力を加えられない液体もフイルタを通過するようにするなどの対応を取ることもできるから,コンプレツサ10が機能しなくなるとは認められない。また,このように構成を変更するとしても,それによってコンプレツサ外部の液体パイプ接合の数が著しく増えるとする根拠はない。したがって,被告の上記主張を採用することはできない。 c 非加圧の経路を設ける動機付け被告は,甲1には,逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)の発生という技術的課題について記載も示唆もなく,甲1発明に,逆スラスト荷重解消のために非加圧の経路を設けるという動機付けはない旨主張する(前記第3,1⑵イ(イ)d(c))。 甲1の10欄24~26行に「圧力軽減バルブ について記載も示唆もなく,甲1発明に,逆スラスト荷重解消のために非加圧の経路を設けるという動機付けはない旨主張する(前記第3,1⑵イ(イ)d(c))。 甲1の10欄24~26行に「圧力軽減バルブ164は,空所134中の液体圧を制限し」と記載されていることから,圧力軽減バルブ164を設けた目的は,空所134の過剰な昇圧を防止することにあ り,逆スラスト荷重状態を解消することではないと解される。しかし,前記イのとおり,甲2には,「バランスピストンに油ポンプで加圧された潤滑・冷却シール用の圧油を作動油として供給している従来のスクリユー圧縮機においては,特に起動時,圧縮機の吸入側と吐出側の圧力差が大きくならないうちに油ポンプにより吐出された圧力の高い油がバランスピストンにかかることにより,ロータが吐出側に推され,スラスト軸受及びスラスト軸受抑え金などに過大な応力がかかるという課題がある」こと,すなわち,逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)が発生するという技術的課題が示されている。そして,上記のような逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)の発生の機序を踏まえると,当業者であれば,逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)の発生という課題は,特殊な構造のスクリュ圧縮機に特有のものではなく,スクリュ圧縮機一般に生じることを認識することができるものと認められ,甲1発明のスクリユウコンプレツサ(スクリュ圧縮機)にも生じることを認識することができるものと認められる。このように,甲1発明についても,逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)の発生という課題を認識できることから,そのような課題を解決するために,逆スラスト荷重解消のために非加圧の経路を設けるという動機付けも生じるものと認められる。そうすると,逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)が発生すると 識できることから,そのような課題を解決するために,逆スラスト荷重解消のために非加圧の経路を設けるという動機付けも生じるものと認められる。そうすると,逆スラスト力(逆スラスト荷重状態)が発生するという技術的課題やその課題の解消について甲1に直接の言及がないとしても,そのような課題を解決するために甲1発明に非加圧の経路を設けるという動機付けが生じるものと認められる。したがって,被告の上記主張を採用することはできない。 3 以上によれば,本件特許発明は,甲1発明に,甲2ないし甲5に記載された周知技術を適用して当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができず,本件特許は特許法12 3条1項2号の規定により無効とすべきものであると認められ,取消事由1(無効理由1に関する進歩性の判断の誤り)は理由がある。 よって,本件審決を取り消すこととし,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官鶴岡稔彦 裁判官上田卓哉 裁判官中平健 別紙図面(本件審決23頁の図面に着色したもの) (別紙審決書(写し)省略)

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る