- 1 -主文本件上告を棄却する。 上告費用は上告人の負担とする。 理由 上告代理人若尾令英の上告受理申立て理由第2の4について 本件は,破産者A(以下「破産者」という。)の破産管財人である被上告人が,中小企業金融公庫の申立てにより破産裁判所がした破産債権査定決定を不服として,その変更を求める事案である。中小企業金融公庫は,原判決言渡し後の平成20年10月1日に解散し,同日,上告人が,中小企業金融公庫の権利及び義務を承継した(株式会社日本政策金融公庫法17条参照)。 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。 (1)B社(以下「本件会社」という。)及びCは,平成10年9月10日,その所有に係る不動産(以下「本件不動産」という。)につき,中小企業金融公庫との間で,それぞれ中小企業金融公庫の本件会社に対する証書貸付債権を被担保債権とする根抵当権(極度額1億5000万円)を設定する旨の合意をするとともに,本件会社が債務の履行をしないときは,中小企業金融公庫において,本件不動産を法定の手続によらず,一般に適当と認められる方法,時期,価額等により自由に処分することができ,その処分代金を任意の方法により債務の全部又は一部の弁済に充てることができる旨の合意をした。 (2)中小企業金融公庫は,本件会社に対し,同日から平成13年1月17日までの間,5回にわたり合計1億8000万円の証書貸付けをし(以下,これらの各貸付けを「本件貸付け」と総称する。),破産者は,中小企業金融公庫に対し,本- 2 -件会社の本件貸付けに基づく各債務を連帯して保証する旨を約した。 本件会社及び破産者は,その際,中小企業金融公庫との間で,借入金債務及びこれに付帯する一切の債務の弁済として数個の給付をする場合又は本件会社の中小企業金融公庫からの債務が他 して保証する旨を約した。 本件会社及び破産者は,その際,中小企業金融公庫との間で,借入金債務及びこれに付帯する一切の債務の弁済として数個の給付をする場合又は本件会社の中小企業金融公庫からの債務が他にもある場合において,債務の全部を消滅させるに足りない弁済がされたときは,中小企業金融公庫が適当と認める順序方法により任意の時期にこれを各債務に充当することができ,その充当に対しては,本件会社及び破産者は異議を述べない旨を合意した(以下,この合意を「本件弁済充当特約」という。)。 (3)大阪地裁堺支部は,平成17年12月12日午後5時,本件会社及び破産者についてそれぞれ破産手続を開始する旨の決定をし,被上告人を破産者の破産管財人に選任した。 (4)中小企業金融公庫は,破産者の破産手続において,平成18年2月6日付けで,本件貸付けに基づく債権(5口の貸付金の元本,約定利息金及び破産手続開始の決定の前日までの遅延損害金の合計1億2667万5955円並びに同決定の日以降の遅延損害金)に係る保証債務履行請求債権(保証債権)を破産債権として届け出た(以下,この届出に係る債権を「本件破産債権」と総称する。)。 (5)本件不動産は,平成18年3月28日,任意売却された。中小企業金融公庫は,その売却代金から,本件会社に対する別除権の行使により7696万0371円を,Cに対する根抵当権の行使により4817万8444円を,それぞれ本件破産債権に対する弁済として受領した(以下,これらの弁済を「本件各弁済」という。)。 (6)被上告人は,平成18年7月6日に行われた債権調査期日で,本件破産債- 3 -権全額につき異議を述べたため,中小企業金融公庫は,同月28日,破産裁判所に対し,その額の査定を申し立てたところ,同裁判所は,同年10月24日,本件破産債権の額を 調査期日で,本件破産債- 3 -権全額につき異議を述べたため,中小企業金融公庫は,同月28日,破産裁判所に対し,その額の査定を申し立てたところ,同裁判所は,同年10月24日,本件破産債権の額を1億2667万5955円と査定する決定をした。 (7)被上告人は,上記決定を不服として,本件破産債権の額を,5口の貸付金の元本のうち本件各弁済によってもその全額が消滅しなかった1口の貸付金の元本額に相当する2244万4000円と査定することを求めて,本件訴えを提起した。 原審は,保証人である破産者の破産手続開始の決定があった後に,主債務者の物上保証人であるCにより複数の被担保債権のうち一部の債権についてその全額が弁済された以上,本件破産債権のうち上記弁済に係る保証債権については,「その債権の全額が消滅した」(破産法104条5項,同条2項)ものであり,中小企業金融公庫は上記債権を破産債権として行使することはできないとした上,中小企業金融公庫が本件弁済充当特約に基づきCに対する根抵当権の行使により受けた弁済金を各口の貸付金の元本債権に案分して充当するように充当指定権を行使することは,信義則上許されないと判断して,本件破産債権の額を2244万4000円と査定すべきものとした。 所論は,本件弁済充当特約に基づく充当指定権の行使が許されないとした原審の上記判断について,法令違反をいうものである。 本件弁済充当特約は,民法488条1項に基づく弁済者による充当の指定を排除するとともに,同条2項ただし書に基づく弁済受領者による充当の指定に対する弁済者の異議権を排除することを主たる目的とする合意と解すべきであり,本件弁済充当特約において,債権者において任意の時期に充当の指定ができる旨が合意- 4 -されているとしても,上記合意に基づき弁済受領後いつまで 排除することを主たる目的とする合意と解すべきであり,本件弁済充当特約において,債権者において任意の時期に充当の指定ができる旨が合意- 4 -されているとしても,上記合意に基づき弁済受領後いつまでも充当の指定をすることが許されるとすると,充当の指定がされるまで権利関係が確定せず,法的安定性が著しく害されることになる。 記録によれば,中小企業金融公庫は,本件各弁済を受けてから1年以上が経過した時期において初めて,本件弁済充当特約に基づく充当指定権を行使する旨を主張するに至ったことが明らかであり,上記の時期に本件弁済充当特約に基づく充当指定権を行使することは,法的安定性を著しく害するものとして,許されないというべきである。同一の給付について複数の者が「各自全部の履行をする義務」を負っており(以下,全部の履行をする義務を負う者を「全部義務者」という。),全部義務者の破産手続開始の決定後に,他の全部義務者が複数の債権のうちの一部の債権についてその全額を弁済した場合において,その破産債権の額につき見解の対立があったとしても,そのことは,上記判断を左右するものではない。 原審の前記判断は,これと同旨をいうものとして,是認することができる。 論旨は採用することができない。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官田原睦夫の補足意見がある。 裁判官田原睦夫の補足意見は,次のとおりである。 本件では,破産者と破産債権者間の弁済充当合意の効力が問題となっているので,破産手続開始決定前になされた弁済充当合意の効力に関して若干の補足意見を述べる。 一般に,金融機関と融資先の基本取引約定その他,商社やメーカーと取引先との基本取引約定書には,債権者が債務者に対して複数の債権を有している場合- 5 -に,債務者等からなされた弁済額がそ る。 一般に,金融機関と融資先の基本取引約定その他,商社やメーカーと取引先との基本取引約定書には,債権者が債務者に対して複数の債権を有している場合- 5 -に,債務者等からなされた弁済額がその債権の全部を消滅させるに足りないときは,債権者が適当と認める順序,方法により任意の時期に充当することができ,その充当に対しては,債務者は異議を述べない旨の約定(以下「弁済充当合意」という。)が結ばれている。かかる弁済充当合意の効力は,一般に承認されており,破産手続開始決定前に弁済充当合意に従って債権者が充当の指定をしていた場合には,破産管財人はその指定を前提として債権調査その他破産手続を進めることになる。 問題は,債権者が債務者の破産手続開始決定前にその充当の指定をしていない場合に,破産手続開始決定後も,その指定権を行使することができるか,破産管財人は,その充当の指定に拘束されるかという点である。 以下検討する。 (1)まず,かかる弁済充当合意は,不動産競売手続における配当手続では,その効力を有せず,配当金は民法489条ないし491条の規定に従って数個の債権に充当されるとするのが判例である(最高裁昭和62年(オ)第893号同年12月18日第二小法廷判決・民集41巻8号1592頁)。この理は,破産手続における担保権消滅請求手続において実施される配当手続についてもそのまま妥当するものと解される。 このように,弁済充当合意は,法定の換価手続における配当手続においては,その効力を主張し得ないものであるところ,破産管財人によって別除権の目的財産の受戻しがなされて,その際に別除権者に弁済がなされる場合も,同手続は,一般執行手続たる破産手続の一環として行われるものである以上,やはり同様に,弁済充当合意の効力を主張することはできないものというべきである なされて,その際に別除権者に弁済がなされる場合も,同手続は,一般執行手続たる破産手続の一環として行われるものである以上,やはり同様に,弁済充当合意の効力を主張することはできないものというべきである。 - 6 -(2)他方,破産手続開始決定後も,弁済充当合意の効力が存し,破産債権者において自由に充当指定できるとすると,他の一般破産債権者との関係で極めて不均衡な結果が生じ得る。即ち,破産債権者(X)が有する別除権の被担保債権が複数の破産債権である場合に,その別除権の目的財産に対する担保権の実行又はその受戻しによってその被担保債権の全部の債権を消滅させるに足りないときに,法定充当によれば,一個の債権しか残存しないことになるにもかかわらず,複数の被担保債権の一部にそれぞれ指定充当し,複数の債権がそれぞれ一部残存することにすると,Xは,開始時残存額主義の適用により,複数の債権につき破産手続開始決定時のそれぞれの全債権額でもって,破産手続に参加できることになる。具体例を上げると,例えば,Xが別除権の被担保債権として,100万円の債権5口合計500万円を有しているとする。そして,別除権の目的財産の受戻しによって400万円が弁済された場合に,法定充当によれば,1口100万円の債権が別除権の実行によって弁済を受けることができなかった債権として残存することとなるときに,Xが,弁済充当合意によって各被担保債権に80万円充当するとの指定をすると,Xは,各債権の全額を破産債権として行使することができるから,500万円全額につき破産債権を行使することができることとなる。その場合,破産配当率が20パーセントであれば,前者の場合,破産債権者は,20万円の配当金を受領できるのみであるが,後者の場合には合計100万円の配当を受領することができることとなる。 かかる結 。その場合,破産配当率が20パーセントであれば,前者の場合,破産債権者は,20万円の配当金を受領できるのみであるが,後者の場合には合計100万円の配当を受領することができることとなる。 かかる結果は,他の破産債権者の損失の下に弁済充当合意の効力を主張するXが利益を得ることを許容することとなるのであって,破産債権者間に著しい不均衡をもたらすものである。 - 7 -(3)以上検討したところよりすれば,破産債権者は,破産手続開始決定後,弁済充当合意の効力を破産手続上主張することはできないものというべきである。 (4)なお,原判決は,本件では本件会社の所有に係る担保目的不動産の売却代金を債権者が指定充当した旨判示しているが,その充当の内容は法定充当による場合と同様であるから,上記のように弁済充当合意の効力は破産手続との関係において認められないと解しても,結果において相違しない。 以上述べたところは,破産債権者は,破産者との間でなした弁済充当合意の効力を破産手続において主張することができないことを意味するにとどまり,例えば,破産債権者が保証人や物上保証人との間であらかじめ弁済充当合意をしているときに,破産手続開始決定後に保証人から弁済を受け,あるいは物上保証人から担保権消滅の対価として受けた弁済につき,破産債権者が同合意に基づく充当指定の権限を行使することを妨げるものでない。もっとも,本件において,上告人が弁済後1年以上を経過した原審の段階に至って,その充当権を行使することが許されないことは,法廷意見のとおりである。 また,2で述べたところは,飽くまであらかじめ破産者がなしていた弁済充当合意の効力についてであって,別除権の目的不動産の受戻しの際に,破産管財人が破産債権者一般の利益を図る観点から,別除権者との間で法定充当と異なる充当の ,飽くまであらかじめ破産者がなしていた弁済充当合意の効力についてであって,別除権の目的不動産の受戻しの際に,破産管財人が破産債権者一般の利益を図る観点から,別除権者との間で法定充当と異なる充当の合意を行うことを妨げるものではない。 (裁判長裁判官藤田宙靖裁判官堀籠幸男裁判官那須弘平裁判官田原睦夫裁判官近藤崇晴)
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