平成16年5月17日宣告裁判所書記官有馬一博平成13年(わ)第94号判決 主文 被告人を無期懲役に処する。 未決勾留日数中880日をその刑に算入する。 理由 (犯罪事実)被告人は,夫のS’(以下「S’」という。)と共謀の上,B(当時60歳。以下「被害者」という。)に対する170万円の債務の支払を免れる目的で同人を殺害しようと企て,平成12年10月16日午後2時40分ころ,福岡県a郡b町大字cd所在の無人貸付店「C」横駐車場において,S’が被害者に睡眠薬入りのジュースを飲ませ,同日午後6時ころ,北九州市e区所在の「D」付近所在の「E」北口駐車場において,S’が被害者に有機リン剤であるアセフェートを含有する殺虫剤入りの栄養ドリンク剤を飲ませ,さらに,同日午後9時ころから同日午後11時ころまでの間,福岡県a郡f町所在の「F」駐車場若しくは同町大字gh所在の料亭「G」東側駐車場又はそれらの周辺において,S’が所携のカッターナイフで被害者の頸部等を数回切りつけるなどし,よって,そのころ,同所において,被害者の左頸動脈及び左頸静脈切損に基づく失血により死亡させて殺害するとともに,上記170万円の債務の支払を免れて同金額相当の財産上不法の利益を得た。 (証拠)略(事実認定の補足説明)弁護人らは,被告人が被害者の殺害を決意したのは,被告人が被害者から性的な嫌がらせを受けていたためであり,被害者に対する債務を免れる目的はなかったから,被告人には強盗の故意がなかった,また,被告人は平成12年10月16日午前4時ころまでにはS’を説得して本件犯行を断念させ,S’との間の共犯関係から離脱したもの 対する債務を免れる目的はなかったから,被告人には強盗の故意がなかった,また,被告人は平成12年10月16日午前4時ころまでにはS’を説得して本件犯行を断念させ,S’との間の共犯関係から離脱したものであり,本件犯行はS’が同人固有の動機に基づいて敢行した単独犯行であるから,被告人は無罪である旨主張し,被告人も,公判廷においてこれに沿う供述をしているところ,当裁判所は,この点につき判示のとおり認定したので,その理由を以下のとおり補足して説明する。 1 前掲関係各証拠によると,被害者及びS’の各遺体の発見状況,鑑定結果及び解剖所見等について,以下の事実が認められる。 (1) 被害者及びS’の各遺体の発見状況及び鑑定結果等ア平成12年10月17日午前10時20分ころ,福岡県a郡f町大字gh所在の料亭「G」の東側駐車場に駐車中の軽四輪乗用自動車(以下「被害者車両」という。)内から,頸部等から血を流して助手席に横たわっている被害者の遺体が発見され,遺体の足下から血痕の付着したカッターナイフ(以下「本件カッターナイフ」という。)が,同車両の運転席側後部座席床下からキャップのない栄養ドリンク剤「H」の空き瓶1本が,運転席の座席及び助手席左側から透明プラスチック手袋各1枚が,それぞれ発見押収された。助手席背もたれは最大に倒され,遺体には上着がかけられており,遺体の下の背もたれ等に多量の血痕が付着していた。ドアはすべて施錠されていたが,エンジンキーは発見されなかった。他に,被害者の携帯電話機1台,「カンプ分」等の記載のある封筒,「I,J㈱」と記載のある封筒,チョコレートの空袋のほか,保険証書,領収証,預金通帳,貸付明細書等多数の書類等が発見押収された。しかし,遺書やそれらしきメモなどはなかった。 本件カッターナイフは,S’がその勤務先であるKで使 ,チョコレートの空袋のほか,保険証書,領収証,預金通帳,貸付明細書等多数の書類等が発見押収された。しかし,遺書やそれらしきメモなどはなかった。 本件カッターナイフは,S’がその勤務先であるKで使用していたものと同種のものであった。 イ前同日の午後4時過ぎ,前記「G」から北西方向に約200メートル離れた海岸の崖下約17.6メートルの海岸線岩盤上において,S’の遺体が発見された。着衣に血痕が付着し,上衣はめくれ上がり,腹部は露出していた。遺体の損傷が著しく,遺体近くには雑木の小枝が散在していた。S’の遺体の着衣のポケット内から,表面に「L」と印字されたビニール袋の中に入っていた未開封の「H」1本,キャップの付いた「H」の空き瓶1本及び「H」のキャップ1個のほか,袋に入ったプラスチック手袋20枚等が発見押収された。S’の遺体直近に「B」の署名のある「M」が落ちており,崖中腹にも「B」の署名のあるものを含む3枚のいずれも被害者を契約名義人とする金融会社発行のカードが遺留されていた。S’の遺体から少し離れた海岸線海中からS’の携帯電話機1台が発見押収された。被害者の遺体の発見現場から北西方向に約50メートル離れた草地において害虫駆除剤「スミチオン溶剤」の容器1個が,さらに約100メートル離れた草地においてプラスチック手袋1枚が発見押収された。しかし,遺書やそれらしきメモなどはなかった。 S’の遺体の着衣から発見押収された上記プラスチック手袋は,S’の勤務先の加工場で使われていたプラスチック手袋と同種のものであり,また,鑑定の結果,被害者車両内から発見押収されたプラスチック手袋2枚と,被害者の遺体発見現場近くの草地から発見押収されたプラスチック手袋1枚は,成分・形状・干渉像に照らし同種のものであることが確認された。 ウ平成12年10月17 見押収されたプラスチック手袋2枚と,被害者の遺体発見現場近くの草地から発見押収されたプラスチック手袋1枚は,成分・形状・干渉像に照らし同種のものであることが確認された。 ウ平成12年10月17日午後9時30分ころ,被告人の供述に基づき,福岡県a郡b町大字cd所在の無人貸付店「C」横駐車場(以下「本件C駐車場」という。)において,うどん片様の物,かまぼこ片様の物及びあげ片様の物等が含まれた吐物が発見採取された。 エ鑑定の結果,被害者車両内から発見押収された「H」の空き瓶及びその内容物並びに本件C駐車場で発見採取された吐物から,いずれも有機リン系農薬「Z’」の有効成分であるアセフェートが検出された。また,鑑定の結果,上記吐物から,うどん,蒲鉾,葱,あぶらあげが特定された。 オ鑑定の結果,被害者の血液型はO型であり,また,DNAのMCT118型は18-42以上型であった。S’の血液型はA型であり,また,DNAのMCT118型は30-32型であった。 カ鑑定の結果,本件カッターナイフからO型のヒト血痕が検出され,また,S’の遺体が着用していたカッターシャツの両袖部分から採取された資料から,DNAのMCT118型で18-42以上型が検出された。被害者車両内と被害者の遺体発見現場近くの草地からそれぞれ発見されたプラスチック手袋合計3枚からいずれもO型のヒト血痕が検出された。 (2) 被害者の遺体を解剖鑑定したO教授による所見等ア損傷の部位及び程度被害者には,①左頸動脈三角・甲状腺部,左胸鎖乳突筋部及び左外側頸三角部に創口を持つ分岐を伴う長さ約13.4センチメートルの切創,②左耳介内側面の皮膚の切創,③左乳突部及び左胸鎖乳突筋部の切創,④左顎下部及び舌骨部の切創,⑤左前腕部の切創,⑥右前腕部の切創の合計6箇所の切創が認められる 伴う長さ約13.4センチメートルの切創,②左耳介内側面の皮膚の切創,③左乳突部及び左胸鎖乳突筋部の切創,④左顎下部及び舌骨部の切創,⑤左前腕部の切創,⑥右前腕部の切創の合計6箇所の切創が認められるほか,⑦甲状軟骨の左右の上角に骨折が認められた。 イ成傷器の種類及び成傷方法上記①の切創は,極めて鋭利な刃器を数回にわたり刺入し,圧迫的に牽引することによって生じたと考えられ,また,上記②ないし⑥の切創も同一の刃器で生じたとしても矛盾しない。 上記⑦の骨折は,作用面の小さい軟鈍体の圧迫作用によるものと考えられ,人の手指による扼頸によって生じたとしても矛盾しない。 ウ薬毒物被害者の遺体から採取された血液,尿及び胃内容物から有機リン系農薬であるアセフェートが検出されたが,その濃度は致死量に達していない。 エ死因及び死亡推定日時死因は,上記①の切創によって生じた左総頸動脈,左内頸静脈及び左外頸静脈の切創に基づく失血であり,死亡日時は平成12年10月16日午後9時から同月17日午前3時の間と推定される。 オ最後の食物摂取から死亡までの経過時間は,約3時間以内と推定される。 2 前記1の認定事実によれば,被害者とS’の遺体発見は偶然ではなく,相互に密接な関係があることが容易に推認される上,被害者は他殺であることがそれ自体からほぼ確実で,S’についても他殺の可能性もあるが,自殺あるいは事故死の可能性も考えられ,S’が被害者を殺害した上,自ら海岸の断崖から投身自殺した可能性も少なからず推認されるところである。 3 そこで,両名の関係について更に見ていくと,前掲関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。 (1) 被害者の携帯電話機の通話明細によれば,遺体発見前日の平成12年10月16日,被害者は以下のとおりS’の携帯電話機等と頻繁 更に見ていくと,前掲関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。 (1) 被害者の携帯電話機の通話明細によれば,遺体発見前日の平成12年10月16日,被害者は以下のとおりS’の携帯電話機等と頻繁に通話している。すなわち,①午後1時31分49秒に公衆電話から電話が架かり,1分25秒間通話し,②午後2時8分34秒にS’の携帯電話機から電話が架かり,約36秒間通話し,③午後4時零分28秒にS’の携帯電話機から電話が架かり約1分5秒間通話し,④午後4時15分49秒S’の携帯電話機から電話が架かり約36秒間通話し,⑤午後4時32分35秒に「P」Qから電話が架かり47秒間通話し,⑥午後5時34分25秒に被害者の妻Rから電話が架かり約10秒間通話し,⑦午後5時50分14秒にS’の携帯電話機から電話が架かり33秒間通話した。 以上のとおりであるが,それ以降,被害者の携帯電話機の着発信はなく,上記Rによると,上記⑥の電話は,夫に迎えに来てもらおうと頼んだときの電話で,その時被害者は「まだ仕事だから。」と断わった。その後,同女は同日午後9時前ころから,三,四回被害者の携帯電話機に電話を架けたが,通話できなかった。 他方,S’の携帯電話機の通話明細にも上記に対応する被害者の携帯電話機との通話記録が残っている。その後,⑧同日午後10時35分28秒から約3分41秒間,⑨同日午後11時5分39秒から約4分44秒間,それぞれ自宅に電話を架け,通話しており,⑨が最後の通話となっている。上記⑧及び⑨の通話の時,S’は「取り返しの付かんことをした。」「もう帰られん。」などと被告人に言い,最後に「S,S。」などと,被告人の名前を呼ぶ声がして,電話が切れた。 (2) 被告人,S’及び被害者の身上・経歴,借入れ及び返還督促等ア被告人は,昭和29年4月14日,当時の福岡 告人に言い,最後に「S,S。」などと,被告人の名前を呼ぶ声がして,電話が切れた。 (2) 被告人,S’及び被害者の身上・経歴,借入れ及び返還督促等ア被告人は,昭和29年4月14日,当時の福岡県e市で出生し,前夫と婚姻して長女T及び長男をもうけたが,後に離婚し,平成4年4月,S’と婚姻し,平成12年10月当時は,同人との間にもうけた2人の子どもと共に4人で肩書地の住居で暮らしていた。 イ被告人は,前夫との婚姻中に消費者金融会社から度々借入れをして多額の負債を負ったことがあったが,S’と婚姻後も複数の消費者金融会社等からの借入れを続け,平成9年初旬には,消費者金融会社等に対する債務残高は約310万円に達し,平成12年10月当時は約120万円であった。S’も,平成9年2月ころから消費者金融会社等から借入れをするようになり,平成12年10月当時の消費者金融会社等に対する債務残高は約815万円にも及んでいた。 また,被告人及びS’(以下「被告人ら」ともいう。)は,平成8年10月25日ころから,それぞれの知人らに頼み知人ら名義で借入れをさせたり,さらには,知人らに資金運用先に預けた上高額の還付金を付けて返還する旨を約束して金員を受け取るなどしていたが,実際には資金の運用先などは存在しておらず,上記のような名目で知人らから預かった金員は被告人らの債務の返済に充てるなどしていた。被告人らが他人名義で消費者金融会社等から借り入れた債務残高は,平成12年10月当時約476万円に達していた。 ウ被害者は,昭和15年2月17日,東京都内において出生し,高等学校卒業後,Uに入隊し,定年退官するまでVとして勤務した後,J株式会社に再就職し,本件当時同社のWとして稼働していた。 被害者は,昭和42年,R(以下「R」という。)と婚姻し,長男X(以下「X」 学校卒業後,Uに入隊し,定年退官するまでVとして勤務した後,J株式会社に再就職し,本件当時同社のWとして稼働していた。 被害者は,昭和42年,R(以下「R」という。)と婚姻し,長男X(以下「X」という。)ら3人の子どもをもうけた。 エ被告人は,平成11年8月ころ,電気料金の集金のために被告人方を訪れた被害者と知り合った。被告人は,同年9月ころから,被害者に対し,「娘のTが消費者金融会社に勤めているが,娘の成績を上げるため,被害者の名義で同社から借入れをしてもらいたい。」旨,あるいは,「娘が働いている金融会社のバックに銀行に勤めている方がいて,上手に運用している。ここに金を預ければ高い還付金が受けられる。」旨,虚偽の事実を申し向け,被害者を信用させ,被害者名義で消費者金融会社数社から借入れをさせたり,被害者から運用資金名下に複数回にわたり金員を受け取ったりしていたが,その際,被害者に対し預り証等の証拠書類を一切渡さなかった。被告人らは,被害者から受け取った金員を被告人らの債務の返済に充てるなどしていた。 平成12年10月16日当時,被告人が被害者名義で借入れをしたり,被害者から運用資金名下に受け取っていた金員は,同日までに被告人が被害者に還付金名下に返還した金額を差し引いても,合計約1180万円に上っていた。 オ被害者は,平成12年2月ころ,息子のXに対し,「銀行よりも利率のいいところがある。4月の終わりまで預けて約70万円の還付金が付く。預けてみないか。」などと言って出資方を勧め,これに応じたXから300万円を預かった。被害者は,そのころ,被告人に対し,「息子から預かった現金であり,息子が5月に結婚式を挙げる際の費用に使うので,それまでに返して欲しい。」などと事情を明かして,Xから預かった300万円を被告人に渡し,被告人はこれ ろ,被告人に対し,「息子から預かった現金であり,息子が5月に結婚式を挙げる際の費用に使うので,それまでに返して欲しい。」などと事情を明かして,Xから預かった300万円を被告人に渡し,被告人はこれを同年5月までには返還する旨約束した上で受け取った(以下,上記元本300万円のほか還付金の支払を伴う金員の支払義務を「本件債務」という。)。被告人は,本件債務についても被害者に対し預り証等の証拠書類を交付しなかった。 カ Xは,約束の返還期限を過ぎても300万円の返還を受けなかったことから,平成12年5月ころ,被害者に対し,300万円の件はどうなっているのか問い質したが,被害者は,まだ出資先から300万円の返還を受けていないのでもう少し待って欲しい旨言った。なお,被害者は,その際,出資先から証書はもらっていないと言った。 キ被告人は,平成12年5月ころ及び同年8月ころ,Rから,被害者が被告人らに預けている金員の返還を求める旨の電話を受けたが,「私はよく分かりません。」「CのZに聞かないと分かりません。」などと言って,ごまかした。また,被告人は,同年8月上旬ころ,未だ300万円の返還がなされないことなどを不審に思っていたXから電話を受け,300万円の返還を強く求められたが,「結婚式の費用だったんですよね。すぐ返さないといけないと私も言っているんですけれども,もっと早く返してくれるようによく言っておきます。」などと,その場を言い逃れた。その後も被告人は,Xから何度も電話で300万円の返還を強く督促され,被害者からもその返還を求められたが,その度に,「もう少し待ってください。」などと言って返還をしなかった。 ク被告人は,平成12年9月10日ころ,被害者に前記300万円の還付金名下に約70万円を渡し,被害者はこれをXの銀行口座に振込入金した。 少し待ってください。」などと言って返還をしなかった。 ク被告人は,平成12年9月10日ころ,被害者に前記300万円の還付金名下に約70万円を渡し,被害者はこれをXの銀行口座に振込入金した。 Xは,同月11日ころ,自己の銀行口座に被害者から約70万円が振り込まれていることを確認したが,300万円全額の振込みがなかったことなどから,被告人方に電話を架け,被告人に対し残額をすべて返還するよう求めた。 ケ被告人は,平成12年9月25日ころ,被害者に前記300万円の元金の一部返済名下で150万円,還付金名下で10万円の合計160万円を支払った。その際,被告人と被害者は,被告人らが還付金を含めあと170万円を被害者に支払えば,本件債務は完済であることを確認した。被害者は同日ころ上記160万円をXの銀行口座に振込入金した。 コ Xは,平成12年9月25日ころ,自己の銀行口座に被害者から160万円が振り込まれていることを確認したが,未だ返済額が300万円に達していなかったことなどから,被告人方に電話を架け,被告人に対し本件債務の残額の支払を強く求めた。その際,Xは,被告人に対し,被告人がお金を渡しているという相手の人の名前や電話番号を教えて欲しい旨言ったが,教えてもらえなかったことから,被告人に対し,「電話で話していてもらちがあかないので,週末に被告人宅に行く。その時話し合いましょう。」などと言った。Xは,被害者に電話をし,被告人に電話で被告人宅に行く旨言ったことを伝えたところ,被害者から,自分が被告人と話をつけるので,Xが被告人宅に行くことは控えるように指示された。 サ被告人は,平成12年10月10日ころ,被告人方を訪れた被害者に対し,同日中に本件債務の残額を支払う旨伝えた。しかし,被告人らは,同日中に残額の170万円を用意できなかった うに指示された。 サ被告人は,平成12年10月10日ころ,被告人方を訪れた被害者に対し,同日中に本件債務の残額を支払う旨伝えた。しかし,被告人らは,同日中に残額の170万円を用意できなかったことから,被告人は,同日夕方,被害者の携帯電話に電話を入れ,娘のTの声色を使って,被害者に対し,170万円の支払を同月13日まで待って欲しい旨頼んだところ,被害者はこれを了承した。 被告人は,同月13日にも被害者から170万円の支払を求められたが,まだ用意ができていないなどと言って,支払を先延ばしにした。 シ被害者は,平成12年10月15日午後7時ころ,被告人から170万円の支払を受けるために被告人方を訪れた。しかし,被告人らは,未だ被害者に支払うべき170万円を用意できていなかったことから,被害者に対し,「翌16日午後2時にbのCの駐車場で待ち合わせをし,そこで170万円を渡す。」旨を約束した。しかし,被告人らは,同月16日までに170万円を用意する目処は立っておらず,近日中にこれを用意する当てもなかった。 4 以上によれば,平成12年10月15日までの被告人及びS’と被害者の関係が明らかとなったが,これによれば,被告人らは,本件債務の残債務,すなわち,170万円の支払をXから強く督促されており,資金調達に窮し,何度か引き延ばしたものの,同人から被告人方に出向く旨,強い態度に出られ,被害者に同月16日に本件C駐車場で170万円を支払う旨約束したものの,金策の当てはなく,追い詰められた状況下にあったことが認められ,とりわけ,被害者から300万円を受け取り,被害者やXから直接その返還を強く求められていた被告人は,相当困惑していたことが推認される。 ところで,被告人は,捜査段階で任意取調べ中,被告人及びS’は,上記のように追い詰められた挙句, け取り,被害者やXから直接その返還を強く求められていた被告人は,相当困惑していたことが推認される。 ところで,被告人は,捜査段階で任意取調べ中,被告人及びS’は,上記のように追い詰められた挙句,平成12年10月15日午後9時過ぎころ,被告人方で,翌日被害者を殺害することを共に決意し,二人でその計画を練ったという旨の自白をし,逮捕後もしばらくこれを維持したが,その後否認に転じ,公判段階でもこれを続け,捜査段階の自白は任意性及び信用性がないと主張している(なお,否認の趣旨は,補足説明の冒頭に掲記のとおりである。)。 本件においては,事件の核心部分である平成12年10月16日当日の被告人及びS’と被害者の行動や足取り,犯行の経過等を立証するための供述証拠は,被告人の上記捜査段階における自白(以下「本件自白」という。)以外にはないから,以下,本件自白の任意性及び信用性について検討する。 5 本件自白の任意性及び信用性(1) 本件自白の概要本件自白の概要は,平成12年10月16日に被害者に170万円を支払う旨約束したものの支払ができる当てはなく,被害者を殺すしかないと思い,S’と話し合って自殺に見せかけて被害者を殺すことを決めたこと,その方法は睡眠薬を被害者に飲ませ,眠った隙に口から農薬を流しこむというものであったこと,同日午後2時に本件C駐車場で被害者と会う約束をしたが,その前にa町の「S’’」という店で家庭用の農薬3本を,八幡西区の「B’」で睡眠薬を1箱それぞれ買って準備したこと,被告人が被害者の引きつけ役,S’がジュースに睡眠薬を溶かして勧める役という分担を決めていたこと,同日午後2時40分ころ本件C駐車場においてS’が睡眠薬と降圧剤を混入したグレープフルーツジュースを被害者に勧めて飲ませたこと,被告人は,S’がグレープフルーツジ 勧める役という分担を決めていたこと,同日午後2時40分ころ本件C駐車場においてS’が睡眠薬と降圧剤を混入したグレープフルーツジュースを被害者に勧めて飲ませたこと,被告人は,S’がグレープフルーツジュースに睡眠薬と降圧剤を混入する際,被害者の目をそらす役割を果たしたこと,被告人らと被害者は「C’」でうどん等を食べた後2台の車に分乗し,同日午後6時10分過ぎ頃,北九州市e区所在の「D」付近所在の「E」北口駐車場に行ったが,被告人は,同所において,S’から「農薬をここで飲ませるから,元の場所に戻っていなさい。」旨言われたことから,一旦同所付近を離れたこと,その後10分ほどして被告人が同所に戻ると,S’が自動車から降りて被告人の側まで来て,被告人に対し,「農薬を飲ませたよ。でも,Bさんは強いね。まだ効かない。」などと言ったこと,被告人が被害者の様子を見に行ったところ,被害者は自動車の助手席のシートを倒して仰向けになっており,被告人に対し,「今飲んだドリンクは強いみたいね。体がカッカッする。今のは効いた。」などと言ったこと,その後被告人らと被害者は2台の車に分乗し,同日午後7時ころ本件C駐車場に行ったこと,被害者は本件C駐車場に着いた途端自動車から飛び降り,同駐車場でうどんを嘔吐したこと,S’は「もうちょっと走って様子を見てみよう。」と言い,被害者を乗せ,Fの入口前まで行ったので,被告人もそれについて車を運転して行ったこと,D’前に着くと,S’は被告人のところに来て「まだ眠ってもいない。時間が掛かりそうだ。寝そうで寝ないから,Sは家に帰っときい。」と言ったので,被告人は一人で家に帰ったこと,そのころが同日午後7時20分ころだったが,あと1時間もすれば被害者は死んでしまい,S’がどこかの崖から被害者の死体を落として一人で帰ってくると思っていたこと, たので,被告人は一人で家に帰ったこと,そのころが同日午後7時20分ころだったが,あと1時間もすれば被害者は死んでしまい,S’がどこかの崖から被害者の死体を落として一人で帰ってくると思っていたこと,などというものであり,要するに,被告人とS’の間に被害者殺害の共謀が成立し,かつ,これに基づいて被告人らが被害者に睡眠薬等や農薬を飲ませるなど,具体的な実行行為を行ったというものである。 (2) 本件自白の任意性についてア弁護人らは,取調官が被告人に対し本件犯行の責任をすべてS’に押し付けるのは卑怯だなどと非難攻撃を加え,脅迫や机を叩くなどの暴行に及んだり,「罪を認めても懲役二,三年に過ぎない。」などと,偽計を用いた取調べを行うなどし,S’に被害者殺害を持ち掛けたためにS’を犯罪者にしてしまったことに道義的責任を感じていた被告人は,取調官の言うがままに本件自白をするに至ったもので,その任意性には疑問がある旨主張し,被告人は,公判廷において,「取調官から耳元で大きな声で怒鳴られたり,机を蹴飛ばされたりした。」「取調官に対し本当のことを言っても頭から嘘だと決めつけられ,お前は大うそつきだ,死んだ人間に全部罪をかぶせるななどと責められ,途中で,もういいや,もうきついと思った。とにかく苦痛だった。」「取調官から,おまえが認めないと,取調べは2年でも3年でも続くぞと言われた。」「取調官から,罪を認めても懲役二,三年程度だと言われた。その後,取調官から無期懲役や死刑になるなどと言われ,俺たちに任せていれば助けてやるなどとも言われた。」「取調官からお前もS’と一緒に睡眠薬を買っているはずだ。そういう風に証言している人もいると言われた。」などと供述している。 イそこで,本件自白に至る被告人の取調状況等を検討するに,第4回公判調書中の証人E’の供述部 一緒に睡眠薬を買っているはずだ。そういう風に証言している人もいると言われた。」などと供述している。 イそこで,本件自白に至る被告人の取調状況等を検討するに,第4回公判調書中の証人E’の供述部分,証人F’の公判供述,資料の複製に関する報告書(甲157),資料の複製並びに写真撮影報告書(甲159),承諾書1枚(平成13年押第95号の3),証人G’の公判供述及び第18回公判調書中の被告人の供述部分によると,取調官が被告人の取調中に,机を蹴ったり叩いたり,脅迫や偽計を用いたり,利益誘導をするなどしたことを窺わせる事情はない上,①被告人は,平成13年1月22日,本件公訴事実と同一内容の被疑事実で逮捕されるまでの間,任意の取調べを受けていたものであり,取調官の出頭要求に対しこれを拒否したり,途中で退室するなどといったことは一度もなかったこと,②被告人は,平成12年10月17日に家族関係やS’と被害者の関係,同月15日から17日までの行動等について警察官による事情聴取を受け,翌11月7日ポリグラフテストが行われ,当時特段厳しい追及を受けていたわけではないのに,同日本件自白の主要部分を内容とする申立書(乙3)を作成し,自白を始めたこと,③被告人は,取調官からS’と共に「G」付近まで行ったのではないかと厳しく追及されたと供述するが,S’と共に「G」付近に行ったことはないと当初の言い分を最後まで貫き通していること,④本件自白が録取された警察官調書においては,被告人が被害者から性的な嫌がらせを受けていたことや,S’がS’の前妻による被告人らへの嫌がらせに被害者が関与していると疑っていたことなども被害者殺害の動機になっていることなどの被告人の言い分も録取されていること(乙7)が認められる。 以上の事実に照らすと,本件自白は任意になされたものであることが認 関与していると疑っていたことなども被害者殺害の動機になっていることなどの被告人の言い分も録取されていること(乙7)が認められる。 以上の事実に照らすと,本件自白は任意になされたものであることが認められる。 この点に関する弁護人らの主張は採用しない。 (3) 本件自白の信用性についてア被告人が本件自白に至る経緯及び取調状況は,前記5(2)認定のとおりであり,取調官が違法,不当な取調べをしたと目すべき事情は何ら認められない。かえって,当時被告人に対する取調べは任意捜査でもあり,特段厳しい追及を受けていたわけではないのに,自白を始めた点は重要である。被告人は公判廷で自白の動機として,S’に対する被告人の道義的責任も挙げているところ,これは被告人の内心の事情であり,被告人の自白がむしろ自発的なものであったことを示唆すると考えるべきである。 イ本件自白の内容は,具体的,詳細で,体験しなければ供述し難いものを多く含んでいる。すなわち,本件C駐車場で被害者と待ち合わせした後,睡眠薬及び降圧剤が入ったグレープフルーツジュースを被害者に飲ませたというのであるけれども,降圧剤やグレープフルーツジュースを混ぜて飲ませた点は,被告人が供述しなければ,取調官は容易に知り得ない事実である。その後被害者が所用で一旦別れたという点及び再び本件C駐車場で被害者と待ち合わせをした後「D」付近に行ったという点も同様である。そして,三度本件C駐車場に行ったこともそうである。 ウここで,三度目に本件C駐車場に行った時,同所で被害者が「うどん」を吐いたという被告人の目撃供述(以下「うどんの件」という。)について検討する。 (ア) この点については,R証言に「平成12年10月17日午前中,被害者方を訪れた被告人から,同月16日に本件C駐車場で夫がうどんを吐いているのを (以下「うどんの件」という。)について検討する。 (ア) この点については,R証言に「平成12年10月17日午前中,被害者方を訪れた被告人から,同月16日に本件C駐車場で夫がうどんを吐いているのを見たと聞いた。」旨の供述があるので,同供述の信用性を吟味する必要がある。 a 上記供述は,具体性に富むものであり,内容においても格別不合理な点は認められない。また,上記供述は,証人H’が,平成12年10月17日午後,I’警察署においてRから事情聴取をした際,同人から,被告人が同月16日にうどんを吐く被害者の姿を見たと被告人から聞かされた旨言っていたと供述していることや,H’証人が上記事情聴取の際につけていたノート(甲153。以下「本件ノート」という。)に「16日にCで主人が吐いた。S’の妻から聞く。」という記載があることとも合致している。 以上によれば,Rの前記供述には基本的に信用性が認められる。 b 弁護人らは,H’証人がRから被告人が被害者とS’の2人が吐いていたと言っていた旨聞いたと供述しており,また,本件ノートにも「Sの主人も吐く。」と被害者とS’の2人とも吐いていた旨の記載があるところ,R証人は被告人から被害者がうどんを吐いていたことを聞いたと供述するだけで,S’も吐いていたということについては全く供述していないこと,平成12年10月17日にH’が録取して作成したRの警察官調書(甲144)にはうどん嘔吐の事実は全く記載されていないことを指摘し,被告人から被害者がうどんを嘔吐した現場に臨場していたことを聞いた旨のR証人の供述は信用できない旨主張する。 しかし,H’証人がRから被告人が被害者とS’の2人が吐いていたと言っていた旨聞いたと供述し,本件ノートに被害者とS’の2人ともうどんを吐いていた旨の記載がある点については,以下のような する。 しかし,H’証人がRから被告人が被害者とS’の2人が吐いていたと言っていた旨聞いたと供述し,本件ノートに被害者とS’の2人ともうどんを吐いていた旨の記載がある点については,以下のような事情を考え併せるべきである。すなわち,第4回公判調書中の証人Rの供述部分,甲70によれば,平成12年10月17日午前,被告人は被害者方に赴き,Rと会い,お互いの夫の安否について話し合ったことが認められるところ,第16回公判調書中の被告人の供述部分によれば,被告人は当時,S’に被害者殺害の疑いが掛からないように,取調官に「K’」の名前を出し,被害者が「K’」と会うことになっていた旨虚偽の話を作り,あたかもその人物が被害者に毒を飲ませたかのように装ったというのである。これが全くの作り話であったことは,公判廷で被告人自身が自認しているところであるが,そうだとすれば,被告人が,被害者のみならずS’も被害を受け共にうどんを吐いた旨の話を作ったとしても不思議ではなく,これに従って上記の日にそのようにRに告げた可能性は十分存在すると言わなければならない。 次に,H’証人の供述によると,H’は,Rから事情聴取をしていた際,被害者が殺害された背後事情を探るため,被害者とS’の間の金の流れについて関心を有しており,被害者が平成12年10月16日にうどんを嘔吐していたとの事実についてはそれほど関心を有していなかったことが認められる。そうすると,H’が作成した平成12年10月17日付けのRの警察官調書にうどん嘔吐の事実が記載されていないのは,H’が,その事実について供述録取書に記載するほどの重要性を感じていなかったからに過ぎないと考えられる。 したがって,いずれの点もR証人の前記証言の信用性を左右するものではない。この点に関する弁護人らの主張はいずれも採用できない。 に記載するほどの重要性を感じていなかったからに過ぎないと考えられる。 したがって,いずれの点もR証人の前記証言の信用性を左右するものではない。この点に関する弁護人らの主張はいずれも採用できない。 (イ) うどんの件は,被告人が本件自白に先立ってRに供述したことであるが,捜査官が現場に行って,供述のとおり,「うどん」様の吐物を発見採取し,鑑定の結果,その中から被害者の身体から検出されたのと同じ農薬成分「アセフェート」が検出されたのであるから,これは「秘密の暴露」とも言えるものである。 エさらに,被告人の本件自白は,うどんの件のほかにも,以下のとおり,その重要部分が他の客観的な証拠や情況証拠によって十分に裏付けられている。 (ア) 被告人らは被害者と平成12年10月16日午後2時に本件C駐車場で待ち合わせたが,その前に福岡県a郡a町所在の「S’’a町店」で家庭用農薬3本,すなわち,「Y’」「X’」「Z’」を購入したこと,「Z’」は殺虫剤であり「アセフェート」を含有するが,毒性が比較的弱いことは,前掲甲57,50及び51によって裏付けられている。 (イ) 被告人らがi区の「B’」で睡眠薬「W’」を購入したことは,前掲甲59によって裏付けられているし,被告人方から,開封済みの睡眠薬「W’」が押収されている(甲46)。また,被告人らが福岡県a郡a町所在の「L’」でグレープフルーツジュース,紙コップ,プラスチック製スプーン等を購入したことは,前掲甲60によって裏付けられている。S’が病院で「降圧剤」を処方されていたこと及び降圧剤とグレープフルーツジュースの飲み合わせが処方箋で禁止されていたこと,すなわち,S’が上記の飲み合わせが薬効上の理由から有害であることを承知していたことは,前掲甲54によって裏付けられている。 (ウ) 被告人らと被害者が スの飲み合わせが処方箋で禁止されていたこと,すなわち,S’が上記の飲み合わせが薬効上の理由から有害であることを承知していたことは,前掲甲54によって裏付けられている。 (ウ) 被告人らと被害者が「C’」でうどん等を食べたことは,前掲甲61によって裏付けられている。 (エ) 平成12年10月16日のS’と被害者の間の電話連絡は,すべて前掲甲66及び67によって裏付けられている。 (オ) 被告人らが被害者に農薬「Z’」を栄養ドリンク剤に混入させて飲ませたことは,被害者の遺体からその有効成分「アセフェート」が検出されたこと,同遺体のあった被害者車両内から「H」の空き瓶から同成分が検出されたこと及びS’の遺体の着衣のポケットからも「H」の空き瓶が発見されたことなどの情況証拠によって裏付けられている。 オこのように見てくると,被告人は,本件自白において,「F入口前でS’及び被害者と別れ,被告人のみ帰宅したが,あと1時間もすれば被害者が死亡し,S’がその死体をどこかの崖から落して帰ってくると思っていた。」旨,重大な内容の供述をするが,結果的にはそうならなかったものの,翌日崖のある海岸近くにある料亭駐車場で被害者の無残な遺体が発見され,S’が被告人に携帯電話機で「取り返しの付かんことをした。」「もう帰られん。」「S,S。」などと言い残して連絡を絶ち,被害者の遺体発見後間もなく上記料亭近くの海岸の崖下でS’の転落死体が発見されており,被告人の上記供述が単なる推測などではなく,それなりの根拠を有していたと考えざるを得ないのである。 カ被告人は,捜査段階で本件自白を翻したが,その理由について合理的な説明がない。すなわち,被告人は,第14回公判調書中の被告人の供述部分において,自白を翻した理由について,①子供の将来を考え,自分は前科者になったらいけな 本件自白を翻したが,その理由について合理的な説明がない。すなわち,被告人は,第14回公判調書中の被告人の供述部分において,自白を翻した理由について,①子供の将来を考え,自分は前科者になったらいけないと思った。 ②警察の留置場の同房者に「殺人は子から孫に伝わる。」と言われた。それまで夫S’の罪を軽減しよう,S’一人に罪を押し付けまいという気持から自白したが,同房者に「夫よりも生きた人をかばわな(かばわなくてはいけない。)。」旨忠告され,その気になった。 ③取調官が「俺達に任せていれば助けてやる。」と言うので信用し,被告人の刑については二,三年程度の懲役を覚悟していたが,途中で「無期だ。」と言われ,騙されたと思った。おおむね以上のような理由を挙げている。しかしながら,①②の理由は,自白する際当然考慮するはずの事情であるから,一旦重大事件の自白をした被疑者がその自白を翻す理由としては,いささか薄弱である。③の理由は,G’証人の証言によれば,被告人に対する取調べは,基本的に被告人の不合理な弁解を反対の証拠や供述,アリバイ等で崩していくという方法で行われたことがうかがわれるのであって,調書には被告人の弁解も録取してあり,被告人が弁解するように,取調官が一方的に利益誘導をしたり,暴行・脅迫・偽計の類を用いたことはなかったことが認められるのであるから,これも自白を撤回した理由としては合理性を欠くと言わざるを得ない。 (4) 以上のとおりであって,これらを総合すれば被告人の本件自白は任意性があり,かつ,曖昧な部分が残っていることは否定し難いものの,基本的には信用できるものである。 (5) 本件自白の信用性に関する被告人の弁解について検討する。 ア被告人は,逮捕後に本件自白を撤回し,①平成12年10月16日午後2時ころ,S’と共に,被害者と待ち合わせ場 きるものである。 (5) 本件自白の信用性に関する被告人の弁解について検討する。 ア被告人は,逮捕後に本件自白を撤回し,①平成12年10月16日午後2時ころ,S’と共に,被害者と待ち合わせ場所として約束した本件C駐車場に行ったが,被害者は現れず,したがって,被害者に降圧剤や睡眠薬を入れたグレープフルーツジュースを飲ませたことはない,②S’及び被害者と共に「C’」を出た後,S’から先に帰宅して子どもを迎えに行くようになどと言われたことから,1人で同日午後6時40分ころに帰宅した,したがって,S’が被害者に農薬を飲ませた現場にはいなかった,③被害者が本件C駐車場においてうどんを嘔吐していた現場にも臨場していなかったなどと弁解し,公判廷においても同様の弁解をしている。 イしかし,上記①の点については,前記3(2)認定のとおり,毎日のように被告人方を訪れて本件債務の支払を求めていた被害者がその支払を受けられる約束の時刻に現れなかったというのはいかにも不自然であるし,また,前掲甲66によると,平成12年10月16日午後2時前後に被害者から被告人らに対し一切電話が架けられていないことが認められるところ,被害者側の都合で約束の時刻に待ち合わせ場所に行くことができなくなったにもかかわらず,被害者の方から被告人らに対しその旨の断りの電話を架けなかったというのは符節が合わない。 次に,上記②の点については,S’が被告人に子どもを迎えに行くよう指示した時点では,まだS’は被害者に農薬を飲ませていなかったことになるが,被害者に農薬を飲ませるには被害者の注意をそらす役目の者が必要であるから,その前にS’が被告人に上記のような指示をしたとは考えにくく,この点も不自然である。 さらに,上記③の点については,被告人は,被害者が本件C駐車場においてうどんを嘔 そらす役目の者が必要であるから,その前にS’が被告人に上記のような指示をしたとは考えにくく,この点も不自然である。 さらに,上記③の点については,被告人は,被害者が本件C駐車場においてうどんを嘔吐しているのを見た旨供述したのは,平成12年10月16日午後9時30分ころ,本件C駐車場にS’を迎えに行った際,本件C駐車場に残っているうどん様の吐物を見て被害者が嘔吐したものだと思ったためであるなどと供述するが,うどん様の吐物を見ただけで直ちに被害者が嘔吐したものと分かったというのはいかにも唐突である。 以上のように,被告人の上記①ないし③の供述は,その内容自体不自然,不合理であり,信用できない。 (6) 弁護人らは,被告人の本件自白中被害者に農薬を飲ませた現場に臨場していた旨の供述は,被害者に農薬を飲ませたとする時刻に著しい変遷があり,信用できない旨主張する。 しかし,被告人の本件自白は,被害者に農薬を飲ませた現場に臨場していたこと自体については終始一貫しており,その具体的な時刻に関する供述に変遷があったとしても,被告人が被害者に農薬を飲ませた現場に臨場していたとの供述の信用性が減殺されることはないと言うべきである。 被告人の本件自白について弁護人らの指摘するその余の点を検討しても,被告人の本件自白の基本的部分の信用性が左右される事情とは言えない。 (7) 以上のとおりであって,他に本件自白の信用性に疑いを差し挟むべき証拠はない。 5 信用できる被告人の本件自白のほか,前掲関係各証拠によると,平成12年10月15日から同月16日にかけての被告人とS’の行動について,以下の事実が認められる。 (1) 被告人は,平成12年10月15日午後9時過ぎころ,被害者が被告人方を辞するや,本件債務の支払を免れるため,いっそ被害者を殺害する気になり 人とS’の行動について,以下の事実が認められる。 (1) 被告人は,平成12年10月15日午後9時過ぎころ,被害者が被告人方を辞するや,本件債務の支払を免れるため,いっそ被害者を殺害する気になり,S’に対し,「私,Bさんを殺したいよ。」「本気よ。」などと言って,被害者の殺害を持ち掛けたところ,S’もこれに同意した。そして,被告人とS’は,被害者の殺害方法について話し合い,被害者に「私の金銭の管理の件で最近S’さんにご迷惑をおかけしました。」との遺書めいた書面を書かせていたこともあって,最終的に被害者を自殺に見せかけて殺害すること,具体的には被害者に睡眠薬を飲ませた上,眠った被害者の鼻をつまんで農薬を飲ませて殺害することを決めた。 (2) 被告人らは,平成12年10月16日午前10時23分ころ,福岡県a郡a町所在の「S’’a町店」で被害者殺害に使用するための家庭用農薬3本,すなわち「Y’」「X’」「Z’」を購入し,また,S’は,同日午後零時12分ころ,北九州市i区j所在の「M’」で被害者殺害に使用するための栄養ドリンク「H」及び睡眠薬「W’」等を購入した。さらに,被告人らは,同日午後1時39分ころ,福岡県a郡a町所在の「N’」で被害者殺害に使用するためのグレープフルーツジュース,紙コップ,プラスチック製スプーン等を購入した。 (3) 被告人らは,同日午後2時15分過ぎころ,本件C駐車場に来た被害者に対し,睡眠薬を飲ませて眠らせた上で農薬を飲ませて殺害するため,被告人が被害者の注意をそらせている隙に,S’が本件C駐車場に駐車中の自動車内でグレープフルーツジュースに睡眠薬「W’」と降圧剤を混ぜた上,同日午後2時40分ころ,これを被害者に勧めて飲ませた。 (4) 被害者が郵便局に用事があると言うので,同日午後3時20分ころ,被告人らと被害 フルーツジュースに睡眠薬「W’」と降圧剤を混ぜた上,同日午後2時40分ころ,これを被害者に勧めて飲ませた。 (4) 被害者が郵便局に用事があると言うので,同日午後3時20分ころ,被告人らと被害者は一旦別れた。 (5) 被告人らは,同日午後5時過ぎころ,被害者と再度本件C駐車場で待ち合わせた上,北九州市e区k所在の「C’」に被害者と共に行ってうどん等を食べ,同日午後5時39分ころ,会計を済ませて店外に出た。その後,被告人の発案で被告人らと被害者は北九州市e区所在のDに行き,さらに,同所付近の「E」北口駐車場に移動した。そして,同所において,S’が被告人に対し「農薬はここで飲ませるから。元の場所に戻っていなさい。」などと言った上,農薬「Z’」を混入した「H」を被害者に飲ませた。 (6) その後,同日午後7時ころ,被告人らは被害者と共に本件C駐車場に戻ったところ,被害者は同駐車場に着いた途端,自動車から降りてうどんを嘔吐した。 (7) 本件C駐車場で,S’が「ちょっと走って,様子を見てみよう。」と言って,被害者の車を運転して同駐車場を出たので,被告人は自車を運転してついていくと,同日午後7時20分ころ,福岡県a郡f町所在の「F」駐車場に着いた。同所で,S’が「時間が掛かりそうだし,眠ってもいない。寝そうで寝ないから,もうSは帰っていいよ。」と言うので,被告人は車を運転して自宅に戻った。 (8) 同日午後10時35分と同日午後11時5分の2回,S’から携帯電話機で自宅に電話が架かった。その時,S’は「取り返しの付かんことをした。」「証拠を残した。」「もう帰られん。」などと被告人に言い,最後に「S,S。」などと,被告人の名前を呼ぶ声がして,電話が切れた。 6 前記1,3及び5の各認定事実を総合すれば,被告人とS’は,被害者から本件債務の支 「もう帰られん。」などと被告人に言い,最後に「S,S。」などと,被告人の名前を呼ぶ声がして,電話が切れた。 6 前記1,3及び5の各認定事実を総合すれば,被告人とS’は,被害者から本件債務の支払を強く迫られたが,支払の当てが全くなかったことから苦慮し,特に支払督促の矢面に立たされていた被告人は困惑し,その挙句,被告人らは,平成12年10月15日午後9時過ぎころ,被告人方において,被害者を本件C駐車場に呼び出して殺害することを計画し,本件共謀が成立したこと,被告人らが本件共謀を遂げた際に決めた被害者殺害の方法は自殺に見せかけた毒殺であり,被告人らは,その準備として,翌16日,被害者と会う前,農薬や睡眠薬等必要な物をホームセンターや薬局等で購入し,これらを秘に被害者に飲ませることに成功したが,被告人らが考えたほど農薬の毒性は強くなく,毒殺するに至らなかったため,同日午後9時ころから同日午後11時ころまでの間に,「F」駐車場若しくは料亭「G」東側駐車場又はそれらの周辺において,S’が所携のカッターナイフで被害者の頸部等に切り付け,これが致命傷となったこと(失血死。その後S’は自殺したと見られる。)及びカッターナイフを用いて殺害することは被告人とS’の間で決めた計画にはなく,その意味で被告人にはS’がカッターナイフを用いて被害者を殺害することまでの認識はなかったものの(これはいわゆる事実の錯誤に当たるが,同一構成要件内の具体的事実の錯誤にとどまるから,被告人の故意は阻却されない。),被告人が,上記共謀成立後,共犯関係から離脱したとの事情,すなわち,被害者殺害の意思を放棄し,これをS’に告げ,S’が被害者を殺害しないように説得し,これを止めさせるため具体的な行動を起こしたことなどは全くなかったことが認められる。 そうすると,判示のとおり,被告 害者殺害の意思を放棄し,これをS’に告げ,S’が被害者を殺害しないように説得し,これを止めさせるため具体的な行動を起こしたことなどは全くなかったことが認められる。 そうすると,判示のとおり,被告人はS’と共謀の上被害者に対し強盗殺人の犯行を犯したものであることが認められると言うべきである。 7 弁護人らは,①被告人らが被害者を殺害しても債務の支払を免れることはなく,また,本件債務は被害者がXから預かった300万円を被告人に預けて生じたものであり,被告人らは被害者よりもむしろXから強く返還を求められていたのであるから,たとえ被害者を殺害しても,Xからの返還請求が止まらないのは明らかであるから,被告人らが被害者殺害を決意したのは本件債務の支払を免れるためではなかった,②被告人は,以前より被害者から性的な嫌がらせを受けており,早く被害者との縁を切りたいと思っていたところ,平成12年10月15日午後9時ころ,被害者が,被告人宅を辞する際,被告人に対し蜂蜜の瓶を手渡しながら「今度,これで遊ぼうね。」と言いながらにやりと笑ったりしたことなどから,被害者に対し今までになかったほどの怒りが湧き,被害者からこれ以上の性的な嫌がらせを受けないためには被害者を殺害するしかないと決意したのであり,被害者に対する債務の支払を免れるために殺害を決意したのではなかった,③S’が被害者殺害を決意したのも,本件債務の支払を免れるためではなく,S’は,以前から被告人らに数々の嫌がらせをしてきたのは被害者とS’の前妻O’(以下「O’」という。)であると思いこみ,被害者に対する強い憤りから被害者殺害を決意したものである旨主張し,上記②及び③に関し,被告人も公判廷において同旨の供述をしている。 (1) 上記①の点については,被害者にはRやXら法定相続人がいる以上,被告人らが 憤りから被害者殺害を決意したものである旨主張し,上記②及び③に関し,被告人も公判廷において同旨の供述をしている。 (1) 上記①の点については,被害者にはRやXら法定相続人がいる以上,被告人らが被害者を殺害してもそれだけで本件債務の支払を免れることがないことは民事上当然としても,前記3(2)の認定事実のとおり,被告人らは被害者に対し本件債務の存在を証明し得る預り証等の証拠書類を渡していなかった以上,被害者を殺害すれば,Xら被害者の法定相続人らが被告人らに対し本件債務の支払を請求することが著しく困難になることは明らかであったと言うべきである。そして,これにより被告人らは被害者及びその法定相続人からあたかも本件債務の免除の処分行為を得たのと実質上同視し得るほどの現実の利益を受けることになるのであるから,このような場合も刑法236条2項の強盗利得罪を構成すると解するのが相当である。 (2) 上記②の点に関し,被告人は,平成12年10月15日午後9時ころ,被告人宅から辞する被害者を見送りに出た際,被害者から,蜂蜜の瓶を渡され,「今度,これで遊ぼうね。」などと蜂蜜を使った性的嫌がらせをすることを暗示する言葉を言われたことから,突然被害者に対する殺意が生じた旨供述しているが,被告人が被害者による性的嫌がらせに立腹していたとすれば,なぜ蜂蜜の瓶を渡された時にこれを拒否したり,一言の抗議もしなかったのか疑問であるし,被告人は,以前より被害者から数々の性的な嫌がらせを受けていたが,上記の日までは被害者を殺害したいなどと考えたことはない旨も供述していることに照らすと,被害者から蜂蜜の瓶を渡されて性的嫌がらせを暗示することを言われただけで,突然殺意が生じたというのは,いかにも不自然,不合理である。 また,被告人は,S’に被害者殺害を持ち掛けた際,S’に対し被 すと,被害者から蜂蜜の瓶を渡されて性的嫌がらせを暗示することを言われただけで,突然殺意が生じたというのは,いかにも不自然,不合理である。 また,被告人は,S’に被害者殺害を持ち掛けた際,S’に対し被害者から性的な嫌がらせを受けていたことや同日被害者から性的嫌がらせを暗示することを言われたことを告げなかったとも供述しているが,S’に被害者殺害を持ち掛ける際にこのような事情を一切説明せず,S’も被告人に被害者殺害を決意した理由を尋ねることなく被害者殺害を決意するに至ったというのも,極めて不自然,不合理である。被害者の膨大な数の遺留品が発見された被害者車両内から被告人が言う「蜂蜜」に類する道具やわいせつな書籍等は一切発見されていない。上記②の点に関する被告人の供述はにわかに信用できない。 (3) 上記③の点に関し,被告人は,以前より被告人らは何者かから数々の嫌がらせを受けており,S’はこれをS’の前妻O’の仕業であると考えていたところ,平成12年10月15日,家族でコンビニエンスストアに行った際,同所でO’を見かけた,しかし,被告人らが目を離した隙にO’を見失ってしまい,それとほぼ同時に,同日被害者が被告人方を訪れた際に乗っていた自動車と同車種の自動車がコンビニエンスストアから出るのを見た,そのため,S’は被害者がO’とつながっていると思いこみ,被害者殺害を決意したなどと供述するが,それだけのことで,O’や被害者に事の真相を問いただすこともせずに(O’は被害者との面識及びそのような嫌がらせをしたことをいずれも明確に否定している。),直ちに被害者殺害を決意したというのは,極めて不自然,不合理であり,信用できない。 (4) 以上のとおりであるから,この点に関する弁護人らの主張はいずれも採用できない。 8 結論よって,弁護人らの主張はいずれ 決意したというのは,極めて不自然,不合理であり,信用できない。 (4) 以上のとおりであるから,この点に関する弁護人らの主張はいずれも採用できない。 8 結論よって,弁護人らの主張はいずれも採用できず,判示のとおり認定した次第である。 (法令の適用)罰条刑法60条,240条後段刑種の選択無期懲役刑を選択未決勾留日数の算入刑法21条訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書(量刑の理由)本件は,被告人が,被害者に対する債務の支払を免れるために,夫と共謀の上,被害者を殺害し,被害者に対する債務の支払を免れて財産上不法の利益を得たという強盗殺人の重大事案である。 被告人は,前示のとおり,かねて被害者名義で借金をしたり,還付金を付けて返還するとの約束で被害者から多額の金員を受け取っていたところ,被害者やその長男からその一部である170万円の支払を厳しく求められてその支払に窮するや,被害者に対しその債務の存在を証明し得る預り証等の証拠書類を渡していなかったことをよいことに,いっそ被害者を殺害して上記170万円の債務の支払を免れようとしたものであり,その動機,目的が卑劣であるばかりか,他人の生命やその家族の生活等を犠牲にして自己の目的を遂げようとした極めて自己中心的な犯行である。被告人らは,農薬や睡眠薬を使い自殺に見せかけて被害者を殺害する方法を謀議し,農薬,睡眠薬,栄養ドリンク剤等を購入,準備した上で本件犯行に及んだものであり,本件は極めて巧妙かつ計画的な犯行である。被告人らは,被告人らの本件債務を支払う旨の言葉を信頼して無警戒な被害者に対し,睡眠薬や降圧剤を混入したジュースや,農薬を混入した栄養ドリンク剤を飲ませるなどしつつ,長時間にわたって連れ回し,被害者が農薬によって死亡する様子がないと う旨の言葉を信頼して無警戒な被害者に対し,睡眠薬や降圧剤を混入したジュースや,農薬を混入した栄養ドリンク剤を飲ませるなどしつつ,長時間にわたって連れ回し,被害者が農薬によって死亡する様子がないと見るや,さらに,鋭利なカッターナイフでその頸部等を数回切りつけるなどして殺害したものであり,犯行意図は強固で,犯行態様は執拗,非情かつ残忍である。被告人は被害者の殺害行為を直接実行していないものの,本件犯行を共犯者に持ち掛けたのは被告人であり,S’と共に殺害方法を練ったり,殺害に向け農薬等を買いに行くなどの準備行為を行い,途中でS’と別れるまで終始S’と行動を共にしてS’の実行行為を助けており,本件犯行において被告人が果たした役割は重大である。ところが,被告人は,捜査段階で一旦自白したものの,その後自白を翻し,その後の捜査,公判を通じ,本件犯行への関与を頑なに否認し,本件犯行の責任を共犯者に押し付けるあるいは被害者のせいにする責任回避的な弁解に終始しており,真摯かつ率直な反省の態度を窺うことはできない。被害者には格別の落ち度はなく,上記のような残忍な方法で殺害され,その受けた肉体的,精神的苦痛が甚大であったことはもとより,突然その生命を奪われ,定年退職後の幸福な家庭生活を踏みにじられ,家族の成長を見る機会も断たれた無念さは察するに余りある。被告人が本件犯行により返済を免れた債務の額は170万円と多額である。本件犯行の結果は極めて重大であり,良き夫・父親であり,定年退職後も働いてなお家族の生活を支え続けた被害者を失った遺族らの打撃,悲しみは深く,毎回欠かさず本件公判を傍聴し続けており,それにもかかわらず,被告人は遺族らに対し被害弁償や慰謝の措置を全く講じなかったばかりか,最後まで遺族らの心に届くような誠意ある謝罪の言葉を述べなかったもので,遺族ら さず本件公判を傍聴し続けており,それにもかかわらず,被告人は遺族らに対し被害弁償や慰謝の措置を全く講じなかったばかりか,最後まで遺族らの心に届くような誠意ある謝罪の言葉を述べなかったもので,遺族らが強く憤り,被告人に対し峻烈な処罰感情を述べているのは当然である。 以上によれば,被告人の刑責は極めて重いと言うべきである。 そうすると,捜査段階で一時本件犯行を認める自白をしていたこと,カッターナイフによる殺害行為は被告人とS’の共謀にはなく,被告人はその現場にもいなかったこと(もっとも,これは被告人がS’に指示され,それに従ったからに過ぎない。),被告人には前科がないこと,被告人には未成年の子どもがいることなど,被告人のために酌むことのできる情状を最大限に考慮しても,被告人の刑責は重大であり,酌量減軽を相当とするほどの情状は認められず,被告人に対しては,法定刑のうちの無期懲役刑を選択しこれをもって臨むほかない。 よって,主文のとおり量刑した。 (求刑無期懲役)平成16年5月17日福岡地方裁判所小倉支部第2刑事部裁判長裁判官若宮利信裁判官出口博章裁判官佐藤卓
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