令和6年5月30日判決言渡 令和5年(行ケ)第10025号審決取消請求事件 口頭弁論終結日令和6年2月27日判決 原告エスエプシー株式会社(審決の表示:エスエフシーカンパニーリミテッド) 同訴訟代理人弁護士増井和夫 同橋口尚幸 同藤誠二郎 被告学校法人関西学院 被告エスケーマテリアルズジェイエヌシー株式会社 被告ら訴訟代理人弁護士末吉剛 同高橋聖史 同訴訟復代理人弁護士瀬戸一希 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は、原告の負担とする。 3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。 事実 及び理由 第1 請求 特許庁が無効2021-800041号事件について令和4年10月31日にした審決を取り消す。 第2 事案の概要 1 特許庁における手続の経緯等 ⑴ 設定登録 被告学校法人関西学院及び訴外JNC株式会社は、平成26年2月18日及び同年10月7日の優先権を主張して、平成27年2月18日、発明の名称を「多環芳香族化合物」とする特許出願(特願2015-555894号。以下「本件出願」という。)をし、平成28年5月20日、特許権の設定の登録を受けた(特許第5935199号、請求項の数は24。特許公報は甲29。特許の請求項の数、特許請求の範囲の記載は、その後訂正に 以下「本件出願」という。)をし、平成28年5月20日、特許権の設定の登録を受けた(特許第5935199号、請求項の数は24。特許公報は甲29。特許の請求項の数、特許請求の範囲の記載は、その後訂正により変わったが、以下、訂正の前後を通じて、「本件特許」といい、その特許権を「本件 特許権」と、その明細書を「本件明細書」という。)。 被告エスケーマテリアルズジェイエヌシー株式会社は、令和3年4月26日、訴外JNC株式会社から、同社の持分につき特定承継による移転を受けた(甲57)。 ⑵ 無効審判請求 原告は、令和3年5月7日、本件特許の請求項1ないし5、9ないし24に係る発明につき特許庁に無効審判(無効2021-800041号)を請求した(甲34)。 被告らは、令和3年11月16日、本件特許の特許請求の範囲につき訂正請求をした(甲30の1、2)。 特許庁は、令和4年3月14日、職権審理結果通知(訂正拒絶理由)を発 した(甲31)。 被告らは、令和4年4月1日、意見書(甲32の3)と共に手続補正書(甲32の1)を提出し、前記訂正請求に係る訂正請求書を補正した(甲32の2)。 特許庁は、上記令和4年4月1日付け手続補正書に対して同月15日付け で手続補正指令を発したところ、同月22日、原告は、手続補正書を提出した(以下、令和4年4月1日付け及び同月22日付け手続補正書により補正された後の、令和3年11月16日付け訂正請求に係る訂正を「本件訂正」という。訂正後の請求項の数28。甲33の1、2)。 特許庁は、令和4年10月31日、特許第5935199号の特許請求の 範囲を、本件訂正に係る訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、請求項〔1、3~20〕、〔21~24〕、2、25、26、 は、令和4年10月31日、特許第5935199号の特許請求の 範囲を、本件訂正に係る訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、請求項〔1、3~20〕、〔21~24〕、2、25、26、27、28について訂正することを認める、本件審判の請求は成り立たないとする審決(出訴期間として在外者に対し90日を付加。以下「本件審決」という。本件審決の内容は別紙1審決書(写し)のとおり。)をし、その謄本は、令和4年1 1月9日、原告に送達された。 ⑶ 本件訴訟の提起原告は、令和5年3月7日、前記第1記載のとおり、本件審決の取消し(ただし、本件訂正を認めた点については争わない。)を求めて、本件訴訟を提起した。 2 本件訂正後の特許請求の範囲本件訂正の内容は、本件審決4頁21行目ないし同26頁下から8行目までに記載のとおりである。 本件訂正後の特許請求の範囲のうち、訂正後の請求項1ないし5、9ないし28については、次のとおりである(本件訂正後の本件特許の特許請求の範囲 の記載は別紙2「訂正した特許請求の範囲/特許第5935199号」(甲33 の2)のとおりである。同別紙(甲33の2)に引かれた下線は本件訂正による訂正箇所である。請求項9の引用する請求項6ないし8の特許請求の範囲の記載については、別紙2参照。各請求項記載の発明は、請求項の番号に対応して「本件発明1」などといい、本件発明1ないし5、9ないし28を併せて「本件各発明」という。なお、前記のとおり、本件発明6ないし8についての無効審判 請求はされていない。)。 「【請求項1】下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物、または下記一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体であって、上記多量体は、一般式(1) 求はされていない。)。 「【請求項1】下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物、または下記一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体であって、上記多量体は、一般式(1)で表される単位構造に含まれる環を複数の単位構造で共有 するようにして結合した形態か、または、一般式(1)で表される単位構造に含まれる環同士が縮合するようにして結合した形態である、多環芳香族化合物またはその多量体。 【化1】 (上記式(1)中、A環、B環およびC環は、それぞれ独立して、アリール環またはヘテロアリール環であり、これらの環における少なくとも1つの水素は置換されていてもよく、 Y¹は、Bであり、 X¹およびX²は、それぞれ独立して、O、N-R、SまたはSeであり、前記N-RのRは置換されていてもよいアリール、置換されていてもよいヘテロアリールまたはアルキルであり、また、前記N-RのRは-O-、-S-、-C(-Ra)2-または単結合により前記A環、B環および/またはC環におけるX¹またはX²との結合位置(原子)に隣接する炭素と結合してい てもよく、前記Raは水素またはアルキルであり、前記隣接する炭素はY¹、X¹およびX²から構成される上記式(1)の中央の縮合2環構造を構成する炭素ではなく、そして、式(1)で表される化合物または構造における少なくとも1つの水素がハ ロゲンまたは重水素で置換されていてもよい。)【請求項2】下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物、または下記一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体であって、上記多量体は、一般式(1)で表される単位構造に含まれる環を複数の単位構造で共有するよ うにして結合した形態か、 は下記一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体であって、上記多量体は、一般式(1)で表される単位構造に含まれる環を複数の単位構造で共有するよ うにして結合した形態か、または、一般式(1)で表される単位構造に含まれる環同士が縮合するようにして結合した形態であり、【化532】 A環、B環およびC環は、それぞれ独立して、アリール環またはヘテロアリ ール環であり、これらの環における少なくとも1つの水素は置換または無置換のアリール、置換または無置換のヘテロアリール、置換または無置換のジアリールアミノ、置換または無置換のジヘテロアリールアミノ、置換または無置換のアリールヘテロアリールアミノ、置換または無置換のアルキル、置換または無置換のアルコキシまたは置換または無置換のアリールオキシで置換されて いてもよく、また、これらの環はY¹、X¹およびX²から構成される上記式中央の縮合2環構造と結合を共有する5員環または6員環を有し、Y¹は、P=OまたはP=Sであり、X¹およびX²は共にO、SまたはSeであるか、一方がOで他方がSもしくはSeであるか、一方がN-Rで他方がSeであるか、または、一方がSで他 方がSeであり、前記N-RのRはアルキルで置換されていてもよいアリール、アルキルで置換されていてもよいヘテロアリールまたはアルキルであり、また、前記N-RのRは-O-、-S-、-C(-Ra)2-または単結合により前記A環、B環および/またはC環におけるX¹またはX²との結合位置(原子)に隣接する炭素と結合していてもよく、前記Raは水素またはアルキルであり、 前記隣接する炭素はY¹、X¹およびX²から構成される上記式(1)の中央の縮合2環構造を構成する炭素ではなく、式( 隣接する炭素と結合していてもよく、前記Raは水素またはアルキルであり、 前記隣接する炭素はY¹、X¹およびX²から構成される上記式(1)の中央の縮合2環構造を構成する炭素ではなく、式(1)で表される化合物または構造における少なくとも1つの水素がハロゲンまたは重水素で置換されていてもよく、そして、多量体の場合には、一般式(1)で表される構造を2または3個有する2ま たは3量体である、多環芳香族化合物またはその多量体。 【請求項3】下記一般式(2)で表される、請求項1に記載する多環芳香族化合物。 【化2】 (上記式(2)中、R¹、R²、R³、R⁴、R⁵、R⁶、R⁷、R⁸、R⁹、R10およびR11は、それぞれ独立して、水素、アリール、ヘテロアリール、ジアリールアミノ、ジヘテロアリールアミノ、アリールヘテロアリールアミノ、アルキル、アルコキシま たはアリールオキシであり、これらにおける少なくとも1つの水素はアリール、ヘテロアリールまたはアルキルで置換されていてもよく、また、R¹~R11のうちの隣接する基同士が結合してa環、b環またはc環と共にアリール環またはヘテロアリール環を形成していてもよく、形成された環における少なくとも1つの水素はアリール、ヘテロアリール、ジアリールアミノ、ジヘテロアリー ルアミノ、アリールヘテロアリールアミノ、アルキル、アルコキシまたはアリールオキシで置換されていてもよく、これらにおける少なくとも1つの水素はアリール、ヘテロアリールまたはアルキルで置換されていてもよく、Y¹は、Bであり、X¹およびX²は、それぞれ独立して、O、N-R、SまたはSeであり、前 記N-RのRは炭素数6~12のアリール、炭素数2~15のヘテロアリールまた されていてもよく、Y¹は、Bであり、X¹およびX²は、それぞれ独立して、O、N-R、SまたはSeであり、前 記N-RのRは炭素数6~12のアリール、炭素数2~15のヘテロアリールまたは炭素数1~6のアルキルであり、また、前記N-RのRは-O-、-S-、-C(-Ra)2-または単結合により前記a環、b環および/またはc環におけるX¹またはX²との結合位置(原子)に隣接する炭素と結合していてもよく、前記Raは炭素数1~6のアルキルであり、前記隣接する炭素はY¹、X¹ およびX²から構成される上記式(2)の中央の縮合2環構造を構成する炭素ではなく、そして、式(2)で表される化合物における少なくとも1つの水素がハロゲンまたは重水素で置換されていてもよい。) 【請求項4】R¹、R²、R³、R⁴、R⁵、R⁶、R⁷、R⁸、R⁹、R10およびR11は、それぞれ独立して、水素、炭素数6~30のアリール、炭素数2~30のヘテロアリールまたはジアリールアミノ(ただしアリールは炭素数6~12のアリール)であり、また、R¹~R11のうちの隣接する基同士が結合してa環、b環また はc環と共に炭素数9~16のアリール環または炭素数6~15のヘテロアリール環を形成していてもよく、形成された環における少なくとも1つの水素は炭素数6~10のアリールで置換されていてもよく、Y¹は、Bであり、X¹およびX²は、それぞれ独立して、O、N-RまたはSであり、前記N- RのRは炭素数6~10のアリールまたは炭素数1~4のアルキルであり、そして、式(2)で表される化合物における少なくとも1つの水素がハロゲンまたは重水素で置換されていてもよい、請求項3に記載する多環芳香族化合物。 【請求項5】 4のアルキルであり、そして、式(2)で表される化合物における少なくとも1つの水素がハロゲンまたは重水素で置換されていてもよい、請求項3に記載する多環芳香族化合物。 【請求項5】前記ハロゲンはフッ素である、請求項1、3および4のいずれかに記載する多環芳香族化合物またはその多量体。」「【請求項9】請求項1、請求項3ないし8のいずれかに記載する多環芳香族化合物また はその多量体を含有する、有機デバイス用材料。 【請求項10】前記有機デバイス用材料が、有機電界発光素子用材料、有機電界効果トランジスタ用材料または有機薄膜太陽電池用材料である、請求項9に記載する有機デバイス用材料。 【請求項11】 発光層用材料である、請求項10に記載する有機電界発光素子用材料。 【請求項12】電子注入層用材料または電子輸送層用材料である、請求項10に記載する有機電界発光素子用材料。 【請求項13】 正孔注入層用材料または正孔輸送層用材料である、請求項10に記載する有機電界発光素子用材料。 【請求項14】陽極および陰極からなる一対の電極と、該一対の電極間に配置され、請求項11に記載する発光層用材料を含有する発光層とを有する、有機電界発光素子。 【請求項15】陽極および陰極からなる一対の電極と、該一対の電極間に配置された発光層と、前記陰極および前記発光層の間に配置され、請求項12に記載する電子注入層用材料および/または電子輸送層用材料を含有する電子注入層および/または電子輸送層とを有する、有機電界発光素子。 【請求項16】陽極および陰極からなる一対の電極と、該一対の電極間に配置された発光層と、前記陽極および前記発光層の間に配置され、請求項13に記載する正孔 とを有する、有機電界発光素子。 【請求項16】陽極および陰極からなる一対の電極と、該一対の電極間に配置された発光層と、前記陽極および前記発光層の間に配置され、請求項13に記載する正孔注入層用材料および/または正孔輸送層用材料を含有する正孔注入層および/または正孔輸送層とを有する、有機電界発光素子。 【請求項17】 さらに、前記陰極と該発光層との間に配置される電子輸送層および/または電子注入層を有し、該電子輸送層および電子注入層の少なくとも1つは、キノリノール系金属錯体、ピリジン誘導体、フェナントロリン誘導体、ボラン誘導体およびベンゾイミダゾール誘導体からなる群から選択される少なくとも1つを含有する、請求項14~16のいずれかに記載する有機電界発光素子。 【請求項18】前記電子輸送層および/または電子注入層が、さらに、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属、アルカリ金属の酸化物、アルカリ金属のハロゲン化物、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属のハロゲン化物、希土類金属の酸化物、希土類金属のハロゲン化物、アルカリ金属の有機錯体、アルカ リ土類金属の有機錯体および希土類金属の有機錯体からなる群から選択される少なくとも1つを含有する、請求項17に記載の有機電界発光素子。 【請求項19】請求項14~18のいずれかに記載する有機電界発光素子を備えた表示装置。 【請求項20】請求項14~18のいずれかに記載する有機電界発光素子を備えた照明装置。 【請求項21】Y¹のハロゲン化物、Y¹のアミノ化ハロゲン化物、Y¹のアルコキシ化物お よびY¹のアリールオキシ化物からなる群から選択される試薬と、場合によりブレンステッド塩基とを用いて、連続的な芳香族求電子置換 ハロゲン化物、Y¹のアミノ化ハロゲン化物、Y¹のアルコキシ化物お よびY¹のアリールオキシ化物からなる群から選択される試薬と、場合によりブレンステッド塩基とを用いて、連続的な芳香族求電子置換反応により、下記中間体におけるA環とB環とC環とを前記Y¹により結合する反応工程を含む、下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物、または下記一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体を製造する方法。 【化8】 (上記(中間体)および式(1)中、A環、B環およびC環は、それぞれ独立して、アリール環またはヘテロアリ ール環であり、これらの環における少なくとも1つの水素は置換されていてもよく、Y¹は、Bであり、X¹およびX²は、それぞれ独立して、O、N-R、SまたはSeであり、前記N-RのRは置換されていてもよいアリール、置換されていてもよいヘテロ アリールまたはアルキルであり、また、前記N-RのRは-O-、-S-、-C(-Ra)2-または単結合により前記A環、B環および/またはC環におけるX¹またはX²との結合位置(原子)に隣接する炭素と結合していてもよく、前記Raは水素またはアルキルであり、前記隣接する炭素はY¹、X¹およびX²から構成される上記式(1)の中央の縮合2環構造を構成する炭素ではなく、 そして、式(1)で表される化合物または構造における少なくとも1つの水素がハロゲンまたは重水素で置換されていてもよい。)【請求項22】有機アルカリ化合物を用いて下記中間体におけるX¹とX²の間の水素原子 をオルトメタル化する反応工程と、Y¹のハロゲン化物、Y¹のアミノ化ハロゲン化物、Y¹のアルコキシ化物お よびY¹ 物を用いて下記中間体におけるX¹とX²の間の水素原子 をオルトメタル化する反応工程と、Y¹のハロゲン化物、Y¹のアミノ化ハロゲン化物、Y¹のアルコキシ化物お よびY¹のアリールオキシ化物からなる群から選択される試薬を用いて前記メタルとY¹とを交換する反応工程と、ブレンステッド塩基を用いて連続的な芳香族求電子置換反応により下記中間体におけるA環とB環とC環とを前記Y¹により結合する反応工程とを含む、請求項21に記載する下記一般式(1)で表される多環芳香族化合 物、または下記一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体を製造する方法。 【化9】 【請求項23】 前記連続的な芳香族求電子置換反応により前記中間体におけるA環とB環とC環とを前記Y¹により結合する反応工程において、さらにルイス酸を加えて反応を促進させることを特徴とする、請求項21または22に記載する製造方法。 【請求項24】 さらに中間体におけるX¹とX²の間の水素原子をあらかじめハロゲン化する反応工程を含む、請求項21~23のいずれかに記載する製造方法。 【請求項25】下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物、または下記一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体であって、上記多量体は、 一般式(1)で表される単位構造に含まれる環を複数の単位構造で共有するようにして結合した形態か、または、一般式(1)で表される単位構造に含まれ る環同士が縮合するようにして結合した形態であり、【化533】 A環、B環およびC環は、それぞれ独立して、アリール環またはヘテロアリール環であり、これらの環における少なくとも1つの水素は置換または無置換 にして結合した形態であり、【化533】 A環、B環およびC環は、それぞれ独立して、アリール環またはヘテロアリール環であり、これらの環における少なくとも1つの水素は置換または無置換 のアリール、置換または無置換のヘテロアリール、置換または無置換のジアリールアミノ、置換または無置換のジヘテロアリールアミノ、置換または無置換のアリールヘテロアリールアミノ、置換または無置換のアルキル、置換または無置換のアルコキシまたは置換または無置換のアリールオキシで置換されていてもよく、また、これらの環はY¹、X¹およびX²から構成される上記式中 央の縮合2環構造と結合を共有する5員環または6員環を有し、Y¹は、P=OまたはP=Sであり、X¹およびX²は共にO、SまたはSeであるか、一方がOで他方がSもしくはSeであるか、一方がN-Rで他方がSeであるか、または、一方がSで他方がSeであり、前記N-RのRはアルキルで置換されていてもよいアリール、 アルキルで置換されていてもよいヘテロアリールまたはアルキルであり、また、前記N-RのRは-O-、-S-、-C(-Ra)2-または単結合により前記A環、B環および/またはC環におけるX¹またはX²との結合位置(原子)に隣接する炭素と結合していてもよく、前記Raは水素またはアルキルであり、前記隣接する炭素はY¹、X¹およびX²から構成される上記式(1)の中央の 縮合2環構造を構成する炭素ではなく、式(1)で表される化合物または構造における少なくとも1つの水素がハロ ゲンまたは重水素で置換されていてもよく、そして、多量体の場合には、一般式(1)で表される構造を2または3個有する2または3量体である、多環芳香族化合物またはその多量体を含有する、有機デバ ゲンまたは重水素で置換されていてもよく、そして、多量体の場合には、一般式(1)で表される構造を2または3個有する2または3量体である、多環芳香族化合物またはその多量体を含有する、有機デバイス用材料。 【請求項26】下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物、または下記一般式(1)で 表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体であって、上記多量体は、一般式(1)で表される単位構造に含まれる環を複数の単位構造で共有するようにして結合した形態か、または、一般式(1)で表される単位構造に含まれる環同士が縮合するようにして結合した形態であり、【化534】 A環、B環およびC環は、それぞれ独立して、アリール環またはヘテロアリール環であり、これらの環における少なくとも1つの水素は置換または無置換のアリール、置換または無置換のヘテロアリール、置換または無置換のジアリールアミノ、置換または無置換のジヘテロアリールアミノ、置換または無置換 のアリールヘテロアリールアミノ、置換または無置換のアルキル、置換または無置換のアルコキシまたは置換または無置換のアリールオキシで置換されていてもよく、また、これらの環はY¹、X¹およびX²から構成される上記式中央の縮合2環構造と結合を共有する5員環または6員環を有し、Y¹は、P=OまたはP=Sであり、 X¹およびX²は共にO、SまたはSeであるか、一方がOで他方がSもしくはSeであるか、一方がN-Rで他方がSeであるか、または、一方がSで他 方がSeであり、前記N-RのRはアルキルで置換されていてもよいアリール、アルキルで置換されていてもよいヘテロアリールまたはアルキルであり、また、前記N-RのRは-O-、-S-、-C(-Ra)2-または単結 であり、前記N-RのRはアルキルで置換されていてもよいアリール、アルキルで置換されていてもよいヘテロアリールまたはアルキルであり、また、前記N-RのRは-O-、-S-、-C(-Ra)2-または単結合により前記A環、B環および/またはC環におけるX¹またはX²との結合位置(原子)に隣接する炭素と結合していてもよく、前記Raは水素またはアルキルであり、 前記隣接する炭素はY¹、X¹およびX²から構成される上記式(1)の中央の縮合2環構造を構成する炭素ではなく、式(1)で表される化合物または構造における少なくとも1つの水素がハロゲンまたは重水素で置換されていてもよく、そして、多量体の場合には、一般式(1)で表される構造を2または3個有する2ま たは3量体である、多環芳香族化合物またはその多量体を含有する、有機電界発光素子用材料、有機電界効果トランジスタ用材料または有機薄膜太陽電池用材料である、有機デバイス用材料。 【請求項27】下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物、または下記一般式(1)で 表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体であって、上記多量体は、一般式(1)で表される単位構造に含まれる環を複数の単位構造で共有するようにして結合した形態か、または、一般式(1)で表される単位構造に含まれる環同士が縮合するようにして結合した形態であり、【化535】 A環、B環およびC環は、それぞれ独立して、アリール環またはヘテロアリ ール環であり、これらの環における少なくとも1つの水素は置換または無置換のアリール、置換または無置換のヘテロアリール、置換または無置換のジアリールアミノ、置換または無置換のジヘテロアリールアミノ、置換または無置換のアリールヘテロアリールアミノ、置換ま 置換または無置換のアリール、置換または無置換のヘテロアリール、置換または無置換のジアリールアミノ、置換または無置換のジヘテロアリールアミノ、置換または無置換のアリールヘテロアリールアミノ、置換または無置換のアルキル、置換または無置換のアルコキシまたは置換または無置換のアリールオキシで置換されて いてもよく、また、これらの環はY¹、X¹およびX²から構成される上記式中央の縮合2環構造と結合を共有する5員環または6員環を有し、Y¹は、P=OまたはP=Sであり、X¹およびX²は共にO、SまたはSeであるか、一方がOで他方がSもしくはSeであるか、一方がN-Rで他方がSeであるか、または、一方がSで他 方がSeであり、前記N-RのRはアルキルで置換されていてもよいアリール、アルキルで置換されていてもよいヘテロアリールまたはアルキルであり、また、前記N-RのRは-O-、-S-、-C(-Ra)2-または単結合により前記A環、B環および/またはC環におけるX¹またはX²との結合位置(原子)に隣接する炭素と結合していてもよく、前記Raは水素またはアルキルであり、 前記隣接する炭素はY¹、X¹およびX²から構成される上記式(1)の中央の縮合2環構造を構成する炭素ではなく、式(1)で表される化合物または構造における少なくとも1つの水素がハロゲンまたは重水素で置換されていてもよく、そして、多量体の場合には、一般式(1)で表される構造を2または3個有する2または3量体である、多環芳 香族化合物またはその多量体を含有する、発光層用材料である、有機電界発光素子用材料。 【請求項28】陽極および陰極からなる一対の電極と、該一対の電極間に配置され、下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物、または下記一般式(1)で 料である、有機電界発光素子用材料。 【請求項28】陽極および陰極からなる一対の電極と、該一対の電極間に配置され、下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物、または下記一般式(1)で 表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体であって、上記多量体は、 一般式(1)で表される単位構造に含まれる環を複数の単位構造で共有するようにして結合した形態か、または、一般式(1)で表される単位構造に含まれる環同士が縮合するようにして結合した形態であり、【化536】 A環、B環およびC環は、それぞれ独立して、アリール環またはヘテロアリール環であり、これらの環における少なくとも1つの水素は置換または無置換のアリール、置換または無置換のヘテロアリール、置換または無置換のジアリールアミノ、置換または無置換のジヘテロアリールアミノ、置換または無置換のアリールヘテロアリールアミノ、置換または無置換のアルキル、 置換または無置換のアルコキシまたは置換または無置換のアリールオキシで置換されていてもよく、また、これらの環はY¹、X¹およびX²から構成される上記式中央の縮合2環構造と結合を共有する5員環または6員環を有し、Y¹は、P=OまたはP=Sであり、X¹およびX²は共にO、SまたはSeであるか、一方がOで他方がSもし くはSeであるか、一方がN-Rで他方がSeであるか、または、一方がSで他方がSeであり、前記N-RのRはアルキルで置換されていてもよいアリール、アルキルで置換されていてもよいヘテロアリールまたはアルキルであり、また、前記N-RのRは-O-、-S-、-C(-Ra)2-または単結合により前記A環、B環および/またはC環におけるX¹またはX²との結 合位置(原子)に隣接する炭素と結合 はアルキルであり、また、前記N-RのRは-O-、-S-、-C(-Ra)2-または単結合により前記A環、B環および/またはC環におけるX¹またはX²との結 合位置(原子)に隣接する炭素と結合していてもよく、前記Raは水素またはアルキルであり、前記隣接する炭素はY¹、X¹およびX²から構成される上記 式(1)の中央の縮合2環構造を構成する炭素ではなく、式(1)で表される化合物または構造における少なくとも1つの水素がハロゲンまたは重水素で置換されていてもよく、そして、多量体の場合には、一般式(1)で表される構造を2または3個有する2または3量体である、多環芳香族化合物またはその多量体を含有する、発光層用材料を含有する発 光層とを有する、有機電界発光素子。」 3 本件各発明につき本件審決の判断の対象とされた無効理由本件審決の判断の対象とされた、本件各発明(本件訂正後のもの。本件審決における「本件訂正発明」に相当)についての無効理由(審判段階における答弁書及び口頭審理陳述要領書による主張整理後のもの。)は、次のとおりである。 ⑴ 無効理由1(サポート要件違反)本件各発明は、特許請求の範囲の記載が、下記の点で、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていないから、本件各発明の特許は、同号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法123条1項4号に該当し、無効とすべきものである。 ア本件発明1ないし5(化合物の発明)について本件特許の解決しようとする課題は、本件明細書の段落【0034】等の記載より、有機EL素子材料として有用な化合物を提供することである。 本件発明1及び2は、特許請求の範囲の記載が無限定かつ非常に広範なため、包摂される化合物は無数に存 明細書の段落【0034】等の記載より、有機EL素子材料として有用な化合物を提供することである。 本件発明1及び2は、特許請求の範囲の記載が無限定かつ非常に広範なため、包摂される化合物は無数に存在する。 実施例を参酌しても、実施例で使用された化合物は限られており、以下の記載不備が認められる。 すなわち、ヘテロ原子であるB、P、O、N、S、Seなどを含む中央の縮合2環構造(D構造)の周囲にベンゼン環などを配することを特徴としているが、縮合2環構造を構成するヘテロ原子は、相互に電子的性質が大きく 相違するのであるから、例えばX¹及びX²がOの場合に効果があるとして も、N、S又はSeでも同様の効果があると認識し得る根拠は存在しない。 本件発明1及び2は縮合2環構造のヘテロ原子の作用を特徴としているのであるから、ヘテロ原子が直接結合する芳香環が、ベンゼン環であるか、それ自体がヘテロアリール環であるかは、重要な相違点であり、ベンゼン環との電子状態の相違により、実施例と同等の効果が得られると認識するこ とはできない。 最も大きい実施例73(化合物1-1006)の環構造にしても、炭素数は18個であり、炭素数がさらに多いアリール環又はヘテロアリール環であれば、有機EL素子材料にとって重要なπ電子の広がりの状態が大きく異なるのであるから、実施例の化合物と同視することはできない。 A~C環の置換基は無限定であるのに実施例はフェニル基とジフェニルアミノ基が多く、実施例と同様の作用効果が得られることの裏付けにはなり得ず、極性の異なる置換基について、どのような影響があるかを知ることは、本件明細書の開示からは不可能である。なお、A~C環の構造や置換基によって、有機EL素子材料としての作用効果に大きな けにはなり得ず、極性の異なる置換基について、どのような影響があるかを知ることは、本件明細書の開示からは不可能である。なお、A~C環の構造や置換基によって、有機EL素子材料としての作用効果に大きな相違を生ずること は、本件明細書の実施例及び比較例のデータからも明らかに認められる。 特にハロゲンで置換された場合には、ベンゼン環等の電子状態に影響を与えるので、結果的に有機EL素子材料としての特性にも影響するはずであり、実施例なしにハロゲンを含む化合物の発明が開示されているとは認められない。 本件発明3及び4は、本件発明1、2よりは限定はされているが、同様に実施例にない組み合わせを含んでいる。 本件発明5は、実施例がなく、本件明細書の記載においてもフッ素を含有することが如何なる技術的意義を有するかについても不明である。 イ本件発明9ないし20及び25ないし28(用途の発明)について 本件発明9ないし20及び25ないし28は、本件発明1などを引用す る用途発明であるから、本件発明1などがサポート要件を満たしていない以上、同様に無効である。 ウ本件発明21ないし24(製造方法の発明)について本件発明21ないし24は、本件発明1に対応する化合物の製造方法の発明であるところ、本件各発明の課題は有機EL素子材料として有用な化 合物を提供することであり、製造方法それ自体が課題を解決する発明ではないから、製造される化合物が有機EL素子材料に適していることが明細書の記載から理解できなければならないが、本件発明1などがサポート要件を満たしていない以上、同様の無効理由がある。 ⑵ 無効理由2(実施可能要件違反) 本件発明1、2、5及び9ないし28は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で 、本件発明1などがサポート要件を満たしていない以上、同様の無効理由がある。 ⑵ 無効理由2(実施可能要件違反) 本件発明1、2、5及び9ないし28は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていないから、これらは、同号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法123条1項4号に該当し、無効とすべきものである。 ア本件発明1、2、5、9ないし20及び25ないし28(化合物及び用 途の発明)について本件明細書に記載の合成例はすべて、AないしC環とD構造とが結合を共有している位置の環がベンゼン環であるところ、マーカッシュ形式で記載された請求項の残りの選択肢について、当業者が「過度の試行錯誤を要することなく」実施できるとする根拠が説明されていないし、技術常識で もない。 イ本件発明21ないし24(製造方法の発明)についてY¹と結合を形成する環がヘテロアリール環(5員環又は6員環)である場合の実施例は存在せず、発明の詳細な説明の一般記載にも、ヘテロアリール環がY¹と結合する化合物の具体的な構造式の開示すらないところ、 ヘテロアリール環とベンゼン環では電子状態が異なり、特に5員環の場合 はその形状の相違も大きいから、AないしC環がヘテロアリール環である場合は、当業者といえども、式(1)の化合物を得ることができるかどうか判断できないのであり、使用すべき試薬や反応条件も不明である。 ⑶ 無効理由3(甲1(国際公開第2012/118164号)に基づく新規性ないし進歩性欠如) ア無効理由3-1(新規性欠如)本件発明1ないし5は、本件特許の優先日より前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発 8164号)に基づく新規性ないし進歩性欠如) ア無効理由3-1(新規性欠如)本件発明1ないし5は、本件特許の優先日より前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である甲1に記載された発明であり、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができるものではないから、同法1 23条1項2号に該当し、無効とすべきものである。 イ無効理由3-2(進歩性欠如)本件発明1ないし5、9ないし20及び25ないし28は、甲1に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができる ものではないから、同項の規定に違反してされたものであり、同法123条1項2号に該当し、無効とすべきものである。 ⑷ 無効理由4(甲2(特開2012-234873号公報)に基づく進歩性欠如)本件発明1、3、5及び9ないし20に係る化合物におけるY1がBである 発明は、本件特許の優先日より前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、甲2に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができるものではないから、同法123条1項2号に該当し、 無効とすべきものである。 ⑸ 無効理由5(甲3(特表2009-512628号公報)に基づく進歩性欠如)本件発明2及び25ないし28に係る化合物におけるY1がP=Oである発明は、本件特許の優先日より前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に 09-512628号公報)に基づく進歩性欠如)本件発明2及び25ないし28に係る化合物におけるY1がP=Oである発明は、本件特許の優先日より前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった 発明である、甲3に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができるものではないから、同法123条1項2号に該当し、無効とすべきものである。 ⑹ 無効理由6(甲4(OrganicLetters,2011,Vol.13,No.8,p.2130-2133。該当す る論文の表題の訳は「リン環の結合部を有する屈曲形のπ共役骨格構造へのタンデムホスファフリーデルクラフツ反応」。以下、そこに記載された発明を「甲4発明」という。)に基づく進歩性欠如)本件発明21ないし24は、本件特許の優先日より前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公 衆に利用可能となった発明である、甲4発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができるものではないから、これらの請求項に係る発明の特許は、同項の規定に違反してされたものであり、同法123条1項2号に該当し、無効とすべきものである。 4 本件審決の無効理由(本件訂正後の本件各発明に対するもの)についての判断の要旨本件審決の内容は、別紙1審決書(写し)のとおりであり、その理由の要旨は以下のとおりである。 ⑴ 無効理由1(サポート要件違反)について 本件各発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明 内容は、別紙1審決書(写し)のとおりであり、その理由の要旨は以下のとおりである。 ⑴ 無効理由1(サポート要件違反)について 本件各発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細 な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、特許法36条6項1号に適合するものである。 よって、無効理由1(サポート要件違反)には、理由がない。 ⑵ 無効理由2(実施可能要件違反)について本件発明1、2、5、9ないし20及び25ないし28について、発明の詳細な説明は、物の発明について、その物を製造し、使用することができ、物を製造する発明について、その製造方法により物を製造し、製造した物を使用することができる程度に記載されているといえ、特許法36条4項1号 に適合するものである。 よって、無効理由2(実施可能要件違反)には、理由がない。 ⑶ 無効理由3(甲1に記載された発明に基づく新規性ないし進歩性欠如)についてア甲1に記載された発明の認定 甲1には、化合物の発明及びその化合物を用いた有機デバイスの発明が記載されているところ(以下、甲1に記載された化合物の発明を「甲1発明1」と、有機デバイスの発明を「甲1発明2」という。)、甲1発明1及び甲1発明2の内容は、本件審決91頁下から4行目ないし同93頁下から22行目のとおりと認められる。 イ新規性欠如について(無効理由3-1)(ア) 本件発明1と甲1発明1の化合物60ないし64又は260ないし264との一致点及び相違点(相違点1-1)は、本件審決95頁1 められる。 イ新規性欠如について(無効理由3-1)(ア) 本件発明1と甲1発明1の化合物60ないし64又は260ないし264との一致点及び相違点(相違点1-1)は、本件審決95頁12行目ないし30行目のとおりである。 本件発明1と甲1発明1の化合物60ないし64又は260ないし2 64は、相違点1-1において相違するから、本件発明1は甲1に記載 された発明ではない。 (イ) 本件発明2と甲1発明1の化合物65ないし69又は265ないし269との一致点及び相違点(相違点2-1)は、本件審決97頁24行目ないし同98頁14行目のとおりである。 本件発明2と甲1発明1の化合物65ないし69又は265ないし2 69は、相違点2-1において相違するから、本件発明2は、甲1に記載された発明ではない。 (ウ) 本件発明3は、本件発明1を引用して、多環芳香族化合物についてさらに限定するものであり、本件発明4は、本件発明3を引用してさらに限定するものである。すなわち、本件発明1が有する、「下記一般式(1) で表される多環芳香族化合物」(以下「単量体」という場合がある。)と、「下記一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体」という選択肢について、単量体に限定するとともに、その構造についてさらに限定するものである。 一方、甲1発明1の化合物60ないし64及び260ないし264は、 本件発明1の「下記一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体」に相当する。 よって、本件発明3及び4は単量体であるのに対し、甲1発明1の化合物60ないし64及び260ないし264は多量体である点で相違するから、本件発明3ないし4は、甲1に記載された発明ではない。 る。 よって、本件発明3及び4は単量体であるのに対し、甲1発明1の化合物60ないし64及び260ないし264は多量体である点で相違するから、本件発明3ないし4は、甲1に記載された発明ではない。 (エ) 本件発明5は、本件発明1、3又は4を引用して、ハロゲンはフッ素であると特定するものである。そうすると、本件発明5と、甲1発明1の化合物60ないし64及び260ないし264とは、少なくとも相違点1-1で相違するから、本件発明5は、甲1に記載された発明ではない。 (オ) 以上のとおり、本件発明1ないし5は、甲1に記載された発明ではない から、特許法29条1項3号の規定に違反してされたものでない。 よって、無効理由3-1(甲1に基づく新規性欠如)には、理由がない。 ウ進歩性欠如について(無効理由3-2)(ア) 本件発明1と甲1発明1とは、上記相違点1-1を有するところ、甲1発明1の化合物60ないし64及び260ないし264は、それぞれ甲1の一般式[1]で表される化合物の具体例であるから、これをほかの構 造の化合物とする動機付けはない。また、下記甲1の一般式[1] で表される化合物(化合物についての説明は本件審決の54頁参照)は、請求項1の記載からも理解できるとおり、単結合かAr1で示される構造を介して、三つのベンゼン環を有する構造を2以上有することが特定さ れたものである。そうすると、仮に、甲1発明1の化合物20ないし64及び260ないし264について、甲1全体の記載を参酌して異なる化合物とすることを試みたとしても、一般式[2-1]又は[2-2](本件審決56頁)について選択し得る置換基について変更したり、単結合で結合した二つの部分構造をAr1で示される構造を介して結合するよ とすることを試みたとしても、一般式[2-1]又は[2-2](本件審決56頁)について選択し得る置換基について変更したり、単結合で結合した二つの部分構造をAr1で示される構造を介して結合するよ うに変更したりすることに留まり、相違点1-1で特定される構造の多量体とする動機付けはない。よって、本件発明1は、甲1発明1に基づいて容易になし得たものではない。 (イ) 本件発明2と甲1発明1とは、上記の相違点2-1を有するところ、上 記と同様の理由により、甲1発明1の化合物65ないし69及び265ないし269について、これをほかの構造の化合物とする動機付けはなく、相違点2-1で特定される構造の多量体とする動機付けもない。よって、本件発明2は、甲1発明1に基づいて容易になし得たものではない。 (ウ) 本件発明3及び4と甲1発明1とは、上記のとおり、本件発明3及び4は単量体であるのに対し、甲1発明1は多量体である点で相違する。そして、上記のとおり、甲1発明1の化合物60ないし64及び260ないし264をほかの構造の化合物とする動機付けはない上、単量体とすることが動機付けられるところもない。よって、本件発明3及び4は、甲 1発明1に基づいて容易になし得たものではない。 (エ) 本件発明5は、本件発明1、3又は4を引用して、ハロゲンをフッ素に限定するものである。そうすると、少なくとも上記の相違点1-1を有するところ、本件発明5は、上記と同様の理由により、甲1発明1に基づいて容易になし得たものではない。 (オ) 本件発明9は、本件発明1、3ないし5の何れかに記載の多環芳香族化合物又はその多量体を含有する有機デバイス用材料であるから、甲1発明2の化合物60ないし64又は260ないし264を用いた有機デバ 本件発明9は、本件発明1、3ないし5の何れかに記載の多環芳香族化合物又はその多量体を含有する有機デバイス用材料であるから、甲1発明2の化合物60ないし64又は260ないし264を用いた有機デバイスとは、有機デバイス用材料である点で一致し、少なくとも相違点9-1(本件審決101頁13行目ないし20行目)を有するところ、上記 相違点9-1は、上記で検討したのと同様の理由により、甲1発明2に基づいて容易になし得たものではない。 (カ) 本件発明10ないし20は、直接又は間接的に本件発明9を引用する有機デバイス用材料、有機電界発光素子用材料、有機電界発光素子、表示装置又は照明装置に関するものである。そうすると、本件発明10ないし 20は、本件発明9の構成を全て含む発明であるから、上記(オ)と同様の 理由により、甲1発明2に基づいて容易になし得たものではない。 (キ) 本件発明25は、実質的に本件発明2に記載の多環芳香族化合物又はその多量体を含有する、有機デバイス用材料に関するものであるから、甲1発明2の化合物65ないし69又は265ないし269を用いた有機デバイスとは、有機デバイス用材料である点で一致し、上記で検討した のと同様に、少なくとも相違点25-1(本件審決102頁5行目ないし10行目)を有するところ、上記相違点25-1は、上記で検討したのと同様の理由により、甲1発明2に基づいて容易になし得たものではない。 (ク) 本件発明26ないし28は、それぞれ実質的に本件発明2に記載の多環 芳香族化合物又はその多量体を含有する有機デバイス用材料、有機電界発光素子用材料又は有機電界発光素子に関するから、上記(キ)で検討したのと同様の理由により、甲1発明2に基づいて容易になし得たものではない。 ( はその多量体を含有する有機デバイス用材料、有機電界発光素子用材料又は有機電界発光素子に関するから、上記(キ)で検討したのと同様の理由により、甲1発明2に基づいて容易になし得たものではない。 (ケ) 以上のとおり、本件発明1ないし5、9ないし20及び25ないし28 は、甲1発明1又は甲1発明2及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法29条2項の規定に違反してされたものでない。 よって、無効理由3-2(甲1に基づく進歩性欠如)には、理由がない。 ⑷ 無効理由4(甲2に記載された発明に基づく進歩性欠如)について ア甲2には、化合物の発明及びその化合物を含有するエレクトロルミネッセンス素子材料の発明が記載されているところ(以下、甲2に記載された化合物の発明を「甲2発明1」と、エレクトロルミネッセンス素子材料の発明を「甲2発明2」という。)、甲2発明1及び甲2発明2の内容は、本件審決第6の4⑵ア及びイ記載(図を含む。本件審決105頁)のとおり と認められる。 イ本件発明1と甲2発明1の式(1-52)又は式(2-54)で表される化合物65ないし69との一致点及び相違点(相違点1-2)は、本件審決106頁33行目ないし107頁16行目のとおりである。 ウ甲2発明1は、式(1-52)又は式(2-54)(本件審決105頁参照)で表される個別の化合物として完成されたものとして認定されたもの であるから、これをほかの化合物とする動機付けはなく、仮に、ほかの化合物とすることを試みるとしても、式(1-52)又は式(2-54)で表される化合物の構造について、特にP=Oに着目して、それをBに換えることを動機付けられるところはない。 よって、本件発明1は、甲2 とすることを試みるとしても、式(1-52)又は式(2-54)で表される化合物の構造について、特にP=Oに着目して、それをBに換えることを動機付けられるところはない。 よって、本件発明1は、甲2発明1に基づいて容易になし得たものでは ない。 エ本件発明3は、本件発明1を引用して、多環芳香族化合物の構造を限定するものであり、本件発明4は、本件発明3を引用して、更に限定するものである。 また、本件発明5は、本件発明1、3又は4を引用して、ハロゲンはフ ッ素であると特定するものである。 したがって、本件発明3ないし5は、上記と同様の理由により、甲2発明1に基づいて容易になし得たものではない。 オ本件発明9は、本件発明1、3ないし5の何れかに記載の多環芳香族化合物又はその多量体を含有する有機デバイス用材料であるから、甲2発明 2の式(1-52)又は式(2-54)で表される化合物を含有する有機エレクトロルミネッセンス素子材料とは、有機デバイス用材料である点で一致し、少なくとも相違点9-2(本件審決108頁7行目ないし11行目)を有するところ、相違点9-2は、上記で検討したのと同様の理由により、甲2発明2に基づいて容易になし得たものではない。 カ本件発明10ないし20は、直接又は間接的に本件発明9を引用する有 機デバイス用材料、有機電界発光素子用材料、有機電界発光素子、表示装置又は照明装置に関するものである。 そうすると、本件発明10ないし20は、本件発明9の構成を全て含む発明であるから、上記と同様の理由により、甲2発明2に基づいて容易になし得たものではない。 以上のとおり、本件発明1、3ないし5及び9ないし20は、甲2発明1又は甲2発明2及び技術常識に基づいて、当業者が 上記と同様の理由により、甲2発明2に基づいて容易になし得たものではない。 以上のとおり、本件発明1、3ないし5及び9ないし20は、甲2発明1又は甲2発明2及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法29条2項の規定に違反してされたものでない。 よって、無効理由4(甲2に基づく進歩性欠如)には、理由がない。 ⑸ 無効理由5(甲3に記載された発明に基づく進歩性欠如)についてア甲3には、化合物の発明及びその化合物の少なくとも一つを含む有機電子素子の発明が記載されているところ(以下、甲3に記載された化合物の発明を「甲3発明1」と、有機電子素子の発明を「甲3発明2」という。)、甲3発明1及び甲3発明2の内容は、本件審決第6の5⑵ア及びイ記載 (図を含む。本件審決110頁ないし113頁)のとおりと認められる。 イ本件発明2と甲3発明1の式(1)又は式(2)の化合物(本件審決110頁参照)との一致点及び相違点(相違点2-3の1ないし2-3の3)は、本件審決115頁13行目ないし116頁34行目のとおりである。 ウ甲3発明1の選択肢に、本件発明2と重複する場合が含まれているとし ても、多数の選択肢の組合せから、(Y)n及びXについて、好ましいとして示されてもいないものを選択して、相違点2-3の1ないし2-3の3に係る構成となる、三つのベンゼン環をP=Oと、二つのO、二つのS又はOとSとを含む縮合2環構造(D構造)で連結した構造とすることの動機付けはない。 加えて、多量体についても、非常に特に好ましくは2量体又は3量体で あることは示されているものの(甲3の段落【0028】)、Lは化学結合であるか、アルキル基や芳香族環などであるから、本件 、多量体についても、非常に特に好ましくは2量体又は3量体で あることは示されているものの(甲3の段落【0028】)、Lは化学結合であるか、アルキル基や芳香族環などであるから、本件明細書における連結系2量体に相当し、それに換えて、本件発明2で特定する多量体にすることが動機付けられるところもない。 よって、本件発明2は、甲3発明1に基づいて容易になし得たものでは ない。 エ本件発明25は、実質的に本件発明2に記載の多環芳香族化合物又はその多量体を含有する、有機デバイス用材料に関するものであるから、甲3発明2の式(1)又は式(2)の化合物を含む有機電子素子とは、有機デバイス用材料である点で一致し、上記で検討したのと同様に、少なくとも 相違点25-3の1ないし25-3の3(本件審決117頁30行目ないし118頁29行目)を有するところ、相違点25-3の1ないし25-3の3は、上記で検討したのと同様の理由により、甲3発明2に基づいて容易になし得たものではない。 オ本件発明26ないし28は、それぞれ実質的に本件発明2に記載の多環 芳香族化合物又はその多量体を含有する有機デバイス用材料、有機電界発光素子用材料又は有機電界発光素子に関するから、上記で検討したのと同様の理由により、甲3発明2に基づいて容易になし得たものではない。 以上のとおり、本件発明2及び25ないし28は、甲3発明1又は甲3発明2及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができた ものではないから、特許法29条2項の規定に違反してされたものでない。 よって、無効理由5(甲3に基づく進歩性欠如)には、理由がない。 ⑹ 無効理由6(甲4発明に基づく進歩性欠如)についてア甲4発明の内容は、本件審決119頁31行目な 反してされたものでない。 よって、無効理由5(甲3に基づく進歩性欠如)には、理由がない。 ⑹ 無効理由6(甲4発明に基づく進歩性欠如)についてア甲4発明の内容は、本件審決119頁31行目ないし120頁下から13行目のとおりと認められる。 イ本件発明22と本件発明21との一致点及び相違点(相違点21-4の 1ないし21の4の3)は、本件審決122頁6行目ないし123頁13行目のとおりである。 ウ本件発明21は、甲4発明に基づいて容易になし得たものではない。また、本件発明22ないし24は、本件発明21を直接又は間接的に引用して反応工程や試薬を限定するものであるから、甲4発明とは、少なくとも 上記の相違点21-4の1ないし21-4の3で相違する。したがって、同様の理由により、本件発明22ないし24は、甲4発明に基づいて容易になし得たものではない。 本件発明21ないし24は、甲4発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法29条2項の 規定に違反してされたものでない。 よって、無効理由6(甲4に基づく進歩性欠如)には、理由がない。 5 原告の主張する取消事由⑴ 取消事由1(サポート要件違反に関する判断の誤り、無効理由1に対応)⑵ 取消事由2(実施可能要件違反に関する判断の誤り、無効理由2に対応) ⑶ 取消事由3-1(甲1発明1に基づく新規性欠如に関する判断の誤り、無効理由3のうちの新規性欠如の主張に対応)⑷ 取消事由3-2(甲1発明1及び2に基づく進歩性欠如に関する判断の誤り、無効理由3のうちの進歩性欠如の主張に対応)⑸ 取消事由4(甲2発明1及び2に基づく進歩性欠如に関する判断の誤り、 無効理由4に対応)⑹ 取消事 2に基づく進歩性欠如に関する判断の誤り、無効理由3のうちの進歩性欠如の主張に対応)⑸ 取消事由4(甲2発明1及び2に基づく進歩性欠如に関する判断の誤り、 無効理由4に対応)⑹ 取消事由5(甲3発明1及び2に基づく進歩性欠如に関する判断の誤り、無効理由5に対応)⑺ 取消事由6(甲4発明に基づく進歩性欠如に関する判断の誤り、無効理由6に対応) 第3 当事者の主張 1 取消事由1(サポート要件違反に関する判断の誤り、無効理由1に対応)について〔原告の主張〕⑴ 本件発明1の解決しようとする課題である「有機EL素子用材料として有用な化合物の提供」について、本件明細書の段落【0034】等より、「優れ た有機EL素子を提供すること」にあると解した場合には、「優れた」がどのようなレベルの特性を意味するかが本件明細書において明らかとはいえないので、そこにいう「優れた」とは、実用性があり、従来技術と比較して本件各発明を実施することに価値のある効果を達成し得る程度に「優れた」という意味として検討する。 有機EL素子の外部量子効率は、蛍光発光素子の場合に5ないし7%程度を上限とし、燐光発光素子とTADF素子では10%を超えているが、比較例1及び3が蛍光発光の従来技術の水準を示していると解されるので、その数値を基準として検討する(比較例2は、ドーパントにIr(PPy)₃を使用しており、燐光発光素子である。)。 ⑵ 本件明細書の実施例中には、比較例1に対し、同等以下の例が含まれている。その他の化合物をドーパントに使用し、蛍光発光と解される実施例のほとんどは、5%前後の外部量子効率を示している。明細書に比較例を記載するのは、発明以下の従来技術のレベルを示すことで特許発明は比較例より の他の化合物をドーパントに使用し、蛍光発光と解される実施例のほとんどは、5%前後の外部量子効率を示している。明細書に比較例を記載するのは、発明以下の従来技術のレベルを示すことで特許発明は比較例より高い効果を有するのが通例と考えられるところ、このように比較例よりも低い 数値の実施例は奇異に感じられる。 実施例として選ばれた化合物ですら、比較例に実質的に劣る明るさの化合物が含まれるのであるから、実験されていない無数の置換基において、上記の例よりさらに外部量子効率が劣り、実質的に発光装置とはいえない程度のもの、さらにはほとんど発光しないものも存在することは容易に推測される ものである。 しかも、本件発明1の化合物には、上記実施例よりもさらに外部量子効率の劣る例があることを、被告自身が立証している。甲26(平成28年〔2017年〕3月8日付け追加実験報告書。本件審決の乙12)の化合物Aは、本件明細書の化合物(1-4301)と同一構造の化合物であり、本件発明1の具体例として明確に開示されている化合物でありながら、上記実施例よ り外部量子効率で劣っている。 甲26の化合物(Wakamiya化合物)A及び化合物Bの例が示すように、本件明細書に開示された実施例と異質の置換基を使用した場合には、本件発明1の化合物において、さらに外部量子効率が低くなることは十分予測される。 ⑶ 本件発明1は、本件発明1に含まれる化合物が、有機EL素子に使用された場合の、化合物全体として定まるエネルギーレベルによる電子的性質の利用に関する発明である。化合物としての性質は、A環、B環及びC環の構造、置換基の種類や大きさ、置換位置などが複雑に影響するのであり、化学式を見ただけで判断できるものでない。 このような発明 用に関する発明である。化合物としての性質は、A環、B環及びC環の構造、置換基の種類や大きさ、置換位置などが複雑に影響するのであり、化学式を見ただけで判断できるものでない。 このような発明においては、実施例に開示された化合物と、実施例と構造や置換基が類似していることから同様の作用効果をもたらすことが合理的に推測される範囲を超えて、サポート要件の充足は認められないのが特許解釈の常識である。 中央の縮合2環構造(D構造)に直接結合を共有した環がヘテロアリール 環である場合につき、本件明細書には何の具体的開示もない。本件明細書に存するのは、段落【0038】、【0039】の極めて一般的な記載だけである。本件明細書において膨大な数の化合物の構造式を示しながら、縮合2環構造(D構造)とヘテロアリール環が直接結合を共有した構造式は一つも示していない。 なお、へテロアリール環に関する唯一の実施例44(化合物1-2681) は、確かにC環に該当する位置がカルバゾール環であるが、縮合2環構造(D構造)と直接結合を共有しているのはやはりベンゼン環である。A環、B環及びC環に該当する位置において、例えばピリジン環(ヘテロ6員環)が直接結合を共有した例や、ヘテロ5員環が直接結合を共有した例は、本件明細書には一切開示されていない。 ヘテロアリール環とベンゼン環では形状も電気的性質も異なるのであるから、化合物全体として電子的性質が大きく異なることは明らかである。 本件明細書からも、技術常識からも、縮合2環構造(D構造)とヘテロアリール環が直接結合を共有する場合について、何の具体的情報も得られない。 他方、本件発明1は、ヘテロアリール環の構造を一切特定しておらず、かつ、 ヘテロアリール環の置換基も一切特定してい テロアリール環が直接結合を共有する場合について、何の具体的情報も得られない。 他方、本件発明1は、ヘテロアリール環の構造を一切特定しておらず、かつ、 ヘテロアリール環の置換基も一切特定していないことから、論理的にいえばその範囲は無限大である。このような化合物を無限定に包含している本件発明1について、サポート要件違反の無効理由があることは明白である。 同様の議論は、本件発明1以外にも当てはまり、本件発明1ないし5、9ないし28は全てサポート要件違反により無効とされるべきである。 〔被告らの主張〕⑴ 本件各発明の課題は、有機EL素子用材料として用いることができる新規の有用な化合物の提供(段落【0034】)にあり、そのための特性(例えば、後記⑶のとおりの大きなHOMO-LUMOギャップ及び高い三重項励起エネルギー(ET))を実現することにある(段落【0035】)。 ⑵ また、本件各発明の課題及び解決手段について、素子の外部量子効率の数値そのものを議論することは適切ではない。本件各発明の化合物は、二つの芳香環(A環及びB環)をヘテロ原子(例えば、Y¹及びX¹)で連結したという共通の構造上の特徴を有する。この構造により、本件各発明の化合物は、A環及びB環を芳香環で連結して3環以上の芳香環(例えば、後記⑸のアン トラセン)とする場合と比較して、A環とB環とが分断されており、それに より大きなHOMO-LUMOギャップ及び高い三重項励起エネルギー(ET)を実現した(段落【0035】)。つまり、縮合2環構造でのヘテロ原子(例えば、Y¹及びX¹)による置換により、望ましい化合物特性が実現し、課題が解決できる。したがってサポート要件に適合する。 素子の外部量子効率を評価する場合であっても、ヘテロ原子(例 のヘテロ原子(例えば、Y¹及びX¹)による置換により、望ましい化合物特性が実現し、課題が解決できる。したがってサポート要件に適合する。 素子の外部量子効率を評価する場合であっても、ヘテロ原子(例えば、Y¹ 及びX¹)による置換による外部量子効率の違いを評価すべき(つまり、芳香環の置換基を固定して、Y¹、X¹及びX²をクレームの組み合わせに変更すべき)であり、それを超えて、外部量子効率の値そのものを比較すべきではない。 ⑶ 本件発明1ないし5の解決しようとする課題は、「有機EL素子用材料とし て用いることができる、新規な多環芳香族化合物を提供」することにある(段落【0014】)。「有機EL素子用材料として用いることができる」とは、有機EL素子材料として有用であることを意味する。本件審決も、本件発明1ないし5の課題は、「有機EL素子材料として有用な化合物の提供」であると認定した。当該化合物を用いることにより、優れた有機EL素子を提供する ことができる(段落【0034】)。有機EL素子材料としての有用性に関し、本件発明1ないし5の化合物は、以下の特性を有する(本件明細書の段落【0035】)。 ・HOMOとLUMOとのエネルギーギャップ(HOMO-LUMOギャップ)を大きくすること ・S1(一重項励起状態)とT1(三重項励起状態)とのエネルギーの差(ΔEST)を小さくすること・T1とS0とのエネルギー差(ET;三重項励起エネルギー)を大きくすること本件各発明の化合物は、上記特性の少なくとも一部を備えることにより、 優れた有機EL素子を提供することができる。特に、HOMO-LUMOギ ャップ(Egに対応する。)を大きくすることにより、発光波長が短波長化する。 本件審決も、段落【0 優れた有機EL素子を提供することができる。特に、HOMO-LUMOギ ャップ(Egに対応する。)を大きくすることにより、発光波長が短波長化する。 本件審決も、段落【0035】を参照し、本件各発明の化合物の特徴として、大きなHOMO-LUMOギャップ及び高いETを認定した上で、本件各発明の化学構造及び実施例から、当該特徴が裏付けられていると判断した(本 件審決85ないし86頁)。 したがって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。 ⑷ 実施例として、以下の記載がある。 本件各発明の化合物をOLED(有機EL)の発光層のドーパント又はホ スト材料として使用したところ、青色又は緑色発光が実現し、高い外部量子効率も実現した(段落【0765】以降の実施例)。OLEDの外部量子効率の理論限界値は、5ないし7.5%であり、リン光材料(例えば、Ir(PPy)₃)を使用した場合でも約10%とされている(Ir(PPy)₃を使用した実施例として、例えば実施例5ないし14)。本件明細書の実施例では、 これらに近い値又はそれを超える外部量子効率が実現した。これらの優れた素子性能は、本件各発明の式(1)及び式(2)の化合物の構造及び特性に由来する。 本件明細書の実施例におけるOLEDの性能は、実際に本件各発明の化合物を合成し、その化合物を用いてOLEDを作成し、その性能を測定して初 めて明らかとなった。これらの実施例の結果に基づくと、本件各発明の化合物の特徴を説明することができ、実施例の結果を特許請求の範囲に一般化することができる(本件各発明の化合物に関する説明として、例えば段落【0035】を参照)。 ⑸ 化合物の発明(本件発明1ないし5)については、以下の記載がある。 特許請求の範囲に一般化することができる(本件各発明の化合物に関する説明として、例えば段落【0035】を参照)。 ⑸ 化合物の発明(本件発明1ないし5)については、以下の記載がある。 本件各発明の式(1)の化合物の特徴の一つは、A環、B環及びC環の間に 縮合2環構造(D構造。本件明細書の段落【0038】)が介在する点にある。 例として、A環及びB環がベンゼン環である場合を取り上げると、A環及びB環がY¹及びX¹によって結合した部位(段落【0035】での「ヘテロ元素を含む6員環」)は、3環以上の芳香族化合物(A環及びB環がベンゼン環である場合には、下記アントラセン)と対比することができる。 上記アントラセンのような3環以上の芳香族化合物では、中央の環にて炭素原子がsp2混成軌道によるπ結合を形成し、縮合環中でのπ電子の非局在化を促進し(段落【0035】での「共役系の拡張」)、結果としてHOMO-LUMOギャップが減少している。これに対し式(1)の化合物では、 A環とB環とがY¹及びX¹(ヘテロ原子)の単結合で置換されることにより、A環とB環がより分断された(A環及びB環の各々にπ電子が閉じ込められた)状態にある。その結果、共役系は維持された状態でA環とB環のHOMO-LUMOギャップが増大する。この事情は、段落【0035】で「ヘテロ元素を含む6員環は、芳香族性が低いため、共役系の拡張に伴うHOMO -LUMOギャップの減少が抑制される」と説明されているとおりである。 HOMO-LUMOギャップの増大は、ETの増大にも寄与する。 これらの効果は、Y¹が、B、P=O及びP=Sのいずれの場合でも、さらにはX¹及びX²がO、N-R、S又はSeのいずれの場合でも、上記の機序により実現する。 増大は、ETの増大にも寄与する。 これらの効果は、Y¹が、B、P=O及びP=Sのいずれの場合でも、さらにはX¹及びX²がO、N-R、S又はSeのいずれの場合でも、上記の機序により実現する。 Y¹がBの場合には(本件発明1)、X¹及びX²がO、N-R、S又はSeのいずれの場合でも、上記に加え、SOMO1及びSOMO2の重なりが小さい(SOMO1及びSOMO2の局在化)。それにより、ΔESTが小さくな り、ETが大きくなる。この事情は、段落【0035】で「ヘテロ元素の電子的な摂動により三重項励起状態(T1)のSOMO1およびSOMO2が局在化することが原因となっていると考えられる」、「本発明に係るヘテロ元素を含有する多環芳香族化合物は、三重項励起状態(T1)及び一重項励起状態(S1)のエネルギー差が小さく、熱活性型遅延蛍光を示す」と説明され ているとおりである。 本件各発明の化合物は、大きなEg(HOMO-LUMOギャップ)を備えており、それに加え、小さなΔEST、大きなETといった特徴も有し得る。 これらの特徴に由来する効果として、短波長化、ホストとして使用される場合の寿命の向上、電子輸送層及び正孔輸送層に使用された場合の発光層から のエネルギーの散逸の防止及び熱活性型遅延蛍光が挙げられる。 ⑹ 素子の発明(本件発明9ないし20及び25ないし28)については以下の記載がある。 本件発明9ないし20及び25ないし28の課題は、本件発明1ないし5の化合物を含有する、有機デバイス用材料、有機電界発光素子、表示装置及 び照明装置の提供にある(段落【0317】、【0318】及び【0933】、本件審決84頁)。 本件発明1ないし5の化合物は、有機EL素子の発光材料(単独の発光材料、ホスト―ド 示装置及 び照明装置の提供にある(段落【0317】、【0318】及び【0933】、本件審決84頁)。 本件発明1ないし5の化合物は、有機EL素子の発光材料(単独の発光材料、ホスト―ドーパントを使用する場合の各材料、電子輸送層及び正孔輸送層の材料)として優れている。 本件明細書には、本件発明1ないし5の化合物が、有機電界発光素子における正孔注入層及び正孔輸送層を形成する材料、発光層用の材料、ホスト材料又はドーパント材料、電子輸送層又は電子注入層を形成する材料として実際に使用することができることが記載されている(段落【0318】、【0327】、【0329】、【0331】、【0333】、【0334】、【0357】及 び【0359】等)。ドーパント材料、ホスト材料又は電子輸送材料とした場 合の、好ましいY¹、X¹及びX²の組み合わせも記載されている(段落【0069】)。 また、本件明細書には、有機電界発光素子の応用例として、表示装置及び照明装置について記載されている(段落【0392】)。 そして、実施例では、有機EL素子が作成したことが示されている。 したがって、本件発明9ないし20及び25ないし28について、当業者は課題を解決できると認識できるから、サポート要件に適合する。 ⑺ 製造方法の発明(本件発明21ないし24)については、以下の記載がある。 本件発明21ないし24の課題は、本件発明1の化合物の製造方法の提供 にある(本件審決84頁)。 本件明細書には、本件発明21ないし24で特定する製造方法(本件各発明の化合物が生成する。)についての記載がある(段落【0281】ないし【0310】)。 また、実施例では、本件発明21ないし24で特定する製造方 件発明21ないし24で特定する製造方法(本件各発明の化合物が生成する。)についての記載がある(段落【0281】ないし【0310】)。 また、実施例では、本件発明21ないし24で特定する製造方法により、 本件各発明の化合物が製造されたことが記載されている。 したがって、本件発明21ないし24について、当業者は課題を解決できると認識できるから、サポート要件に適合する。 ⑻ 原告は、素子の外部量子効率の数値に着目し、本件明細書の実施例の中では、外部量子効率が比較例を下回るものが含まれること、置換基の種類及び 大きさによって化合物の性質は相違し得ること、甲26の化合物A及び化合物Bの外部量子効率の違いによると、本件明細書の実施例とは異なる置換基を使用した場合には、外部量子効率は低くなることが予測されることなどを主張する。 しかし、本件各発明に該当する化合物と、当該化合物とは縮合2環構造以 外の点でも大きく異なる構造を有する化合物とを、素子の外部量子効率にて 比較することは、適切ではない。本件各発明の化合物は、二つの芳香環(A環及びB環)をヘテロ原子(例えば、Y¹及びX¹)で連結したという共通の構造上の特徴(縮合2環構造)を有する。素子の外部量子効率を評価する場合であっても、芳香環の置換基は固定して、縮合2環構造でのヘテロ原子(例えば、Y¹及びX¹)による置換の有無による外部量子効率の違いを評価すべ きである。 また、本件審決は外部量子効率の数値については検討しなかったところ、素子の外部量子効率の数値そのものを議論すべきではないことは既に述べたとおりである。 原告は、縮合2環構造(D構造)と直接結合する共有する環がヘテロアリ ール環である化合物については、その具体的構造及び製造方法 数値そのものを議論すべきではないことは既に述べたとおりである。 原告は、縮合2環構造(D構造)と直接結合する共有する環がヘテロアリ ール環である化合物については、その具体的構造及び製造方法について一切開示がないと主張する。しかし、原告の主張は、サポート要件に関するものではない。 また、本件明細書の記載(とりわけ、段落【0281】ないし【0317】の「2.多環芳香族化合物およびその多量体の製造方法」)及び技術常識に照 らし、AないしC環がヘテロアリール環である場合であっても、AないしC環がアリール環である場合と同様に、本件各発明の化合物を得ることができる。 2 取消事由2(実施可能要件違反に関する判断の誤り、無効理由2に対応)について 〔原告の主張〕⑴ 本件明細書において具体的に記載された合成例1ないし86は、A環、B環及びC環と縮合2環構造(D構造)とが結合を共有している位置の環は全てベンゼン環であり、非常に広範な特許請求の範囲に対して、その合成例はごく一部に限られている。ヘテロアリールの唯一の合成例である68(実施 例44の化合物(1-2681)に対応)にしても、縮合2環構造(D構造) と直接結合を共有している位置の環はベンゼン環である。 しかし、ヘテロアリール環とベンゼン環では電子状態が大きく異なり、特に5員環の場合はその形状の相違も大きいところ、本件明細書にはAないしC環に該当する位置がヘテロアリール環の例については合成例がないばかりか、本件明細書の一般的な説明においても、ヘテロアリール環がY¹と結合す る化合物の具体的な構造式の開示すらない。特に、物を生産する方法の発明である本件発明21ないし24においては、Y¹の位置でBと結合して縮合2環構造(D構造)を形成す ロアリール環がY¹と結合す る化合物の具体的な構造式の開示すらない。特に、物を生産する方法の発明である本件発明21ないし24においては、Y¹の位置でBと結合して縮合2環構造(D構造)を形成する合成例に、ヘテロアリール環の例が一つもないことは重大な意味をもつ。 本件明細書から当業者が理解できることは、A環、B環及びC環がベンゼ ン環あるいは置換基を有するベンゼン環である場合には、Y¹を含む試薬との反応によって、式(1)の縮合2環構造を形成することができることだけである。 以上のとおり、本件各発明のように無限定かつ非常に広範な範囲の化合物において、マーカッシュ形式で記載された請求項の残りの選択肢について、 当業者が過度の試行錯誤を要することなく実施できるとする根拠は本件明細書に説明されていないし、出願時の技術常識でもない。本件各発明のうち、本件発明1、2、5、9ないし28は実施可能要件違反により無効とされるべきである。 ⑵ 本件審決は、本件各発明について、本件明細書の一般的な記載に言及する だけで、実施可能要件は満たされているとする。 しかし、サポート要件違反について検討したとおり、本件各発明はその化合物の範囲があまりに無限定で広すぎるのであり、特にA環、B環及びC環が「それぞれ独立して、アリール環またはヘテロアリール環であり」としか特定しておらず、A環、B環及びC環への置換基を特定していないことから、 その範囲は論理的にいえば無限大である。 化合物の発明(本件発明1、2及び5)が実施可能であるためには、発明の化合物が過度の試行錯誤を要せずに製造できること、かつ、製造した化合物において当該発明の作用効果が実現できることが必要とされるところ、本件各発明の類型のうち、A環、B環及びC環 あるためには、発明の化合物が過度の試行錯誤を要せずに製造できること、かつ、製造した化合物において当該発明の作用効果が実現できることが必要とされるところ、本件各発明の類型のうち、A環、B環及びC環がベンゼン環である発明の類型についてすら、開示されている合成例、実施例の数と態様は限定的であり、 実施例と類似性のない無数の化合物群については、製造することも、製造した場合の作用効果を予測することも不可能である。まして、一般式(1)に含まれるA環、B環及びC環がヘテロアリール環を含む発明の類型においては、合成例も実施例もなく、本件明細書にあるのは、数行の極めて一般的な記載のみである。 本件発明1、2又は5に用途を付記した本件発明9ないし20、25ないし28においても、実施可能でない範囲を含むことが明らかであり、当該発明は全体として実施可能要件違反の無効理由がある。本件発明21ないし24についても同様である。 〔被告らの主張〕 ⑴ 原告は、AないしC環がヘテロアリール環である場合について、AないしC環がベンゼン環である場合と異なり、当業者は、Y¹を含む試薬との反応によって式(1)の化合物が得ることができないとするところ、原告は、その根拠として、ヘテロアリール環とベンゼン環では電子状態が大きく異なるのに本件明細書にはAないしC環がヘテロアリール環である合成例の記載はな い、ヘテロアリール環がY¹と結合する化合物の具体的な構造式の開示がないと主張する。 しかし、当業者は、本件明細書の記載(とりわけ、段落【0281】ないし【0317】の「2.多環芳香族化合物およびその多量体の製造方法」)及び技術常識に照らし、AないしC環がアリール環及びヘテロアリール環の何 れであっても、過度の試行錯誤なしに、そこに示 ないし【0317】の「2.多環芳香族化合物およびその多量体の製造方法」)及び技術常識に照らし、AないしC環がアリール環及びヘテロアリール環の何 れであっても、過度の試行錯誤なしに、そこに示された第1反応(A環とB 環とのX¹による結合及びA環とC環とのX²による結合)及び第2反応(分子内の芳香族求電子置換反応、Y¹のB環に対する反応とY¹のC環に対する反応との二つの反応で構成される)によって式(1)の化合物を得ることができる。その理由は、第2反応のフリーデルクラフツ反応は、芳香環全般(アリール環かヘテロアリール環かを問わない。)に適用できるためである。 本件審決も、AないしC環がアリール環及びヘテロアリール環の何れであっても、当業者は、Y¹を含む試薬との反応によって式(1)の化合物を得ることができることを正しく認定している(本件審決91頁)。 以下、化合物の発明(本件発明1、2及び5)について、その製造方法を説明する。当該製造方法は、第1反応と第2反応とを備える。化合物の発明 の説明の過程で、製造方法の発明(本件発明21ないし24)についても説明する。 第1反応には、一般的な反応が利用できる。例えば、結合基(X¹及びX²)がN-Rである場合、ブッフバルト‐ハートウィッグ反応といった一般的反応が利用でき、結合基(X¹及びX²)がOである場合、ウルマンエーテル合 成反応を利用することができる(段落【0281】、甲19(令和2年11月24日作成の陳述書、本件審決の乙5、3ないし5頁)。結合基(X¹及びX²)がS又はSeである場合には、一般的な各種の反応を利用することができる(甲20〔ScienceofSynthesis(2007)、本件審決の乙6〕及び甲21〔ScienceofSynt ²)がS又はSeである場合には、一般的な各種の反応を利用することができる(甲20〔ScienceofSynthesis(2007)、本件審決の乙6〕及び甲21〔ScienceofSynthesis(2007)、本件審決の乙7〕)。 第1反応については、原告も、第1反応が一般的な反応により適宜実施できることを認めている(甲34〔本件審判請求書〕、92頁)。 第2反応の第3工程は、フリーデルクラフツ反応に分類される。フリーデルクラフツ反応の代表例は、芳香族化合物をハロゲン化アルキルによってアルキル化する反応である。その機構は、芳香環に対するアルキル基の求電子 置換であり、それによって芳香環の炭素とアルキル基の炭素との間で新たな 炭素-炭素結合が形成される。ヘテロフリーデルクラフツ反応は、アルキル基に代えてヘテロ元素を有する基を利用し、芳香環の炭素とヘテロ元素との結合を形成させる反応である。本件明細書(例えば、段落【0282】及び【0283】)には、タンデムヘテロフリーデルクラフツ反応による第2反応の具体的な実施態様が記載されている。 ヘテロフリーデルクラフツ反応の機構も、フリーデルクラフツ反応と同様に、芳香環に対する求電子置換反応である。アリール環及びヘテロアリール環は、何れも芳香環であり求電子剤の攻撃を受けるから、何れも求電子置換反応に使用することができる。ヘテロフリーデルクラフツ反応でのヘテロ元素として、ホウ素及びリン(甲4)の何れも使用することができる。 各種の有機化学の教科書及び学術論文にも、ヘテロアリール環において求電子置換反応が起きることについての記載がある(甲22〔OrganicChemistry:StructureandFunction(sixthediti 術論文にも、ヘテロアリール環において求電子置換反応が起きることについての記載がある(甲22〔OrganicChemistry:StructureandFunction(sixthedition) ,2009,p.1175-1177、ボルハルト・ショアー著現代有機化学(第6版、下)、本件審決の乙8〕及び甲23〔MechanisticStudiesintoAmine-MediatedElectrophilicArene BorylationandItsApplicationinMIDABoronateSynthesis (JournaloftheAmericanChemicalSociety,2013,Vol.135,p.474-487) 、本件審決の乙9〕)。 ⑵ 原告は、AないしC環の置換基は特定されておらず、その範囲は無限大であるところ、本件明細書で開示されている合成例及び実施例は限定的である から、全ての態様につき、製造すること及び効果を予測することは不可能であると主張する。 しかし、上記のとおり、本件各発明の化合物は、アリール環及びヘテロアリール環の何れの場合でも、置換基の種類に関係なく製造することができる。 以上のとおり、AないしC環がヘテロアリール環である場合であっても、 AないしC環がアリール環である場合と同様に、当業者は、第1反応及び第2反応によって式(1)及び式(2)の化合物を得ることができる。 したがって、本件発明1、2、5及び9ないし24について、発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件(特許法36条4項1号)に適合する。 3 取消事由3-1(甲1発明1に基づく新規性欠如に関する判断の誤り、無効 理由3のうちの新規性欠如の主張に対 いて、発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件(特許法36条4項1号)に適合する。 3 取消事由3-1(甲1発明1に基づく新規性欠如に関する判断の誤り、無効 理由3のうちの新規性欠如の主張に対応)について〔原告の主張〕⑴ 本件発明1には、「A環、B環およびC環・・・の環における少なくとも1つの水素は置換されていてもよく」と記載されており、この「置換」基の態様については限定がないから、「置換」基がたまたま式(1)と同一の構造を 有する場合も、本件発明1の「多環芳香族化合物」の範囲に含まれると解される。 甲1発明1において、一般式[2-1]のY¹がBである化合物61ないし64の右半分を1個の「置換」基とみれば、本件発明1の「多環芳香族化合物」に一致し、甲1発明は本件発明1に包含される。一般式[2-2]のY¹ がBである化合物261ないし264でも同じ議論が成立つ。 下記は、甲1発明1の一般式[2-2]であり、左の丸囲み部分が縮合2環構造であるところ、右半分の枠で囲んだ部分を1個の置換基とみるものである。 上記によれば、本件発明1は、甲1発明1より新規性欠如で無効である。 ⑵ 本件審決は、本件発明1の「その多量体」は、甲1発明の「連結系2量体」を排除しており、両者は相違するとしている(本件審決95頁32行目ないし34行目の「(イ)判断」)。 しかし、本件発明1はA環などの置換基を限定しておらず、論理的には無限 大であるので、このような化合物の定義は本来不適切であるが、特許権者たる被告がこの定義を選択した以上、新規性欠如や進歩性欠如の議論においては、その文言どおりに解釈するのが特許解釈の原則である。 ⑶ 本件審決は、本件明細書の段落【0063】の記載に言及して、連結系2量 被告がこの定義を選択した以上、新規性欠如や進歩性欠如の議論においては、その文言どおりに解釈するのが特許解釈の原則である。 ⑶ 本件審決は、本件明細書の段落【0063】の記載に言及して、連結系2量体である甲1発明の化合物は、本件発明1ないし5において「その多量体」 であって、「多環芳香族化合物」ではないかのごとく述べている(本件審決99頁8行目ないし36行目の「カ請求人の主張について」)。 しかし、段落【0063】の記載は、一般式(1)の構造を複数含む化合物も本件各発明の範囲に含まれることを意味しているだけであり、請求項における記載形式として、複数の一般式(1)の構造の一方が「置換基」として 含まれる請求項の記載形式を排除するものではない。 ⑷ 本件発明2ないし5も新規性欠如であること本件発明2は、甲1発明1において、一般式[2-1]のY¹がP=Oである化合物65ないし69の右半分を1個の「置換」基とみれば、本件発明2の「多環芳香族化合物」と完全に一致し、甲1発明1は本件発明2に包含さ れる。一般式[2-2]のY¹がP=Oである化合物265ないし269でも同じ議論が成立つ。なお一般式[5]の左半分に着目しすると、右半分が「置換ベンゼン環」であることから、段落[0057]の化合物465ないし469及び段落[0058]の化合物646ないし650は、Y¹がP=Oである本件発明2の「多環芳香族化合物」となる。 本件発明3及び4は、本件発明1をある程度限定しているものの、置換基と して無限定なアリール基、ヘテロアリール基を含んでおり、一般式[2-1]等の右半分を式(2)の構造の置換基と見ることができ、やはり本件発明1と同様に新規性欠如の無効理由がある。本件発明5は、本件発明1に置換基としてフッ 、ヘテロアリール基を含んでおり、一般式[2-1]等の右半分を式(2)の構造の置換基と見ることができ、やはり本件発明1と同様に新規性欠如の無効理由がある。本件発明5は、本件発明1に置換基としてフッ素を含むことを付記した発明であるから、本件発明1と同じ理由により新規性欠如の無効理由がある。 〔被告らの主張〕⑴ 本件明細書の段落【0063】では、多量体に関して、以下のとおり説明されている。 「一般式(1)で表される単位構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体、好ましくは一般式(2)で表される単位構造を複数有する多環芳香族化合物 の多量体」上記の記載が示すとおり、単量体とは別に、多量体が定義されている。そのため、単位構造を複数有する化合物は多量体に分類される。甲1の式[2-1]及び[2-2]は、複数の単位構造を有し、単量体ではない。 原告の主張は、甲1発明1のような単位構造を連結基で複数結合した形態 (以下「連結系多量体」という。)は多環芳香族化合物(単量体)に該当するという独自の見解に依拠しているが、誤っている。 ⑵ 原告は、本件審決が認定した相違点1-1は誤りとするが、甲1の式[2-1]及び[2-2]は、骨格において左右対称であり、左右の各々のユニットが三つのフェニル基を備える。したがって、式[2-1]及び[2-2] は、複数の単位構造を有するから、単量体ではなく、2量体(多量体)である。 そして、式[2-1]及び[2-2]のような連結系2量体は、本件各発明にて限定された多量体には該当しない。 したがって、本件発明1は、甲1発明1に対し、新規性を有することは明 らかである。 ⑶ 原告は、本件発明2ないし5についても、本件発明1と同様に、甲1発明1の式[2-1]及び[2-2 本件発明1は、甲1発明1に対し、新規性を有することは明 らかである。 ⑶ 原告は、本件発明2ないし5についても、本件発明1と同様に、甲1発明1の式[2-1]及び[2-2]の右半分のユニットは本件各発明の一般式(1)の化合物の置換基に該当するから、連結系2量体である甲1発明1は、「多環芳香族化合物」(単量体)の範囲に含まれると主張するが、かかる主張が誤っていることは上記のとおりである。 したがって、本件発明2ないし5は、甲1発明1に対し、新規性を有することは明らかである。 4 取消事由3-2(甲1発明1及び2に基づく進歩性欠如に関する判断の誤り、無効理由3のうちの進歩性欠如の主張に対応)〔原告の主張〕 ⑴ 甲1発明1の連結系2量体が、本件発明1の単量体には含まれないとの解釈を前提としたとしても、本件発明1の構成は容易に想到される。 連結系2量体は、2量体であるという見方と、置換基を有する単量体であるとの二つの見方ができる。仮に、本件発明1の訂正の経緯に照らして、本件審決のように甲1発明1の連結系2量体は本件発明1の単量体に含まれな いと扱うとしても、技術常識の問題として、連結系2量体は右半分を置換基として有する単量体であると見ることができるとの、当業者の認識が影響されるわけではない。 加えて、甲1発明1は、甲1の一般式[2-1]、[2-2]の具体例であるところ、一般式[2-1]、[2-2]にはY¹、Y2、X¹ないしX6などを 適宜選択することにより多様な構造が包含されており、構造式の左半分と右半分が同一である必要はない(一般式[2]につき段落[0028]に「Y¹とY2は同一であっても異なっていてもよい」との記載があり、一般式[2]の好ましい構造である一般式[2-1]、 造式の左半分と右半分が同一である必要はない(一般式[2]につき段落[0028]に「Y¹とY2は同一であっても異なっていてもよい」との記載があり、一般式[2]の好ましい構造である一般式[2-1]、[2-2]につき段落[0030]に「X¹ないしX6は、互いに同一であっても異なっていてもよい」との記載 がある)。構造式の右半分と左半分が異なれば、そのような化合物は置換基を 有する単量体であるところ、一般式[2-1]、[2-2]は、構造式の右半分の置換基について多様な選択が可能であることを教示しているのである。 したがって、本件発明1は、構造を特定しない置換基を有する単量体であるから、甲1発明1及び一般式[2-1]、[2-2]の説明から容易に想到される。 ⑵ 本件審決において甲1記載事項の(甲1f)として指摘されているとおり、甲1はNをヘテロ原子とする場合について、化合物1、2、24及び201の2量体と、化合物AないしCの単量体の比較試験を行っている(化合物AないしCの構造は、甲1の【図2】に示された下記図のとおりである)。 図:甲1の化合物AないしC比較試験を行うということは、作用効果に相違はあるとしても、2量体と単量体のいずれも目的とする作用効果をある程度有していることを示している。すなわち、甲1発明であるヘテロ原子がBの場合やP=Oの場合にも、単量体が程度の差はあれ、有機EL素子材料としての性質を有するとの認識 が存在することを意味している。 甲1において2量体は単量体を原料として製造されるのであるから、2量体の開示は、単量体が製造されることの開示でもある。甲1は、多環芳香族化合物の単量体の構造を、具体的に開示する(段落[0065]の一般式[11]、段落[0071]の一般式[13 るのであるから、2量体の開示は、単量体が製造されることの開示でもある。甲1は、多環芳香族化合物の単量体の構造を、具体的に開示する(段落[0065]の一般式[11]、段落[0071]の一般式[13]、より具体的に段落[0090] の[11a]など)。 反応中間体としての単量体は、通常ハロゲンなどの反応性置換基を有して いるが(段落[0066]には、単量体の一般式[11]のZが、ハロゲン原子であることが記載されている)、本件発明1ないし5は置換基にハロゲンも含んでいる。 一般式[11]には、対応する甲1発明に応じてY¹、X¹、L1ないしL4、R1ないしR12が全部特定された単量体(Zはハロゲン原子)が記載されて いるに等しく、かかる単量体は本件発明1と合致する。 図:段落[0065](一般式[11]は、甲1発明1に応じて、Y¹、X¹、L¹ないしL4、R1ないしR12が全部特定された単量体(Zはハロゲン原子)である) 図:左は段落[0071]の一般式[13]、右は段落[0090]の[11a]⑶ さらに、甲2及び甲3には、ヘテロ原子を含む縮合2環構造をベンゼン環 が取り囲む本件各発明の一般式(1)、一般式(2)と共通する構造の化合物 につき、単量体が有機EL素子材料として優れていることを教示しているし、甲3は、単量体も2量体も有機EL素子材料であることを示しており、技術常識である。 甲2の段落【0021】は単量体を開示するところ、「発明の一般式(1)又は一般式(2)に示す、多環式の縮環構造を持つ化合物を用いることで」、 「より剛直な縮環構造を有し」、「NやP等のヘテロ原子を含むことで電荷輸送性能を調整することができ」との具体的な示唆があり、まさに甲1発 )に示す、多環式の縮環構造を持つ化合物を用いることで」、 「より剛直な縮環構造を有し」、「NやP等のヘテロ原子を含むことで電荷輸送性能を調整することができ」との具体的な示唆があり、まさに甲1発明1にも当てはまる記載であるから、甲1発明1から単量体を得る動機付け根拠の一つとなる。 ⑷ 加えて、甲44(TheoreticalDesignof π‑ConjugatedHeteropolycyclic CompoundsContainingaTricoordinatedBoronCenter(J. Phys. Chem. C2013, 117, 29, 14999–15008):「三配位ホウ素中心を含むπ共役ヘテロ多環式化合物の理論的設計」)には、Y¹の位置がBで、X¹、X²の位置がO等であるcompound1-5の構造が具体的に開示され、具体的な特性を評価したうえで、優れた有機EL素子用材料が得られることが教示されている。 X¹、X²の位置については、甲44の本文中の記載によれば、NR、PR、O、S及びSeであってもよいとされている。 上記は甲44の図1(中心はB。compound4が、X¹及びX²がO)。 上記は甲44の表3(compound1ないし5の具体的な特性を評価 している)。 これら甲1の記載及び公知文献(甲2、3、44)から認められる技術常識に基づけば、より製造過程が簡便となる単量体を有機EL素子材料に用いようとする動機付けが認められ、甲1発明の連結系2量体に基づき、対応する単量体の構成自体が容易に想到されることは明らかである。 ⑸ 本件審決は、請求人(原告)の主張に対する応答の中で、「c 効果について」の項目を設けて、甲26のデータに言及して づき、対応する単量体の構成自体が容易に想到されることは明らかである。 ⑸ 本件審決は、請求人(原告)の主張に対する応答の中で、「c 効果について」の項目を設けて、甲26のデータに言及している(本件審決103頁下から2行目ないし104頁14行目)。 しかし、甲26には、連結系2量体であるWakamiya化合物(なお、甲26は、Wakamiya(US2014/0058099)の文献に基 づくものとして、Wakamiyaと表記している。)60から構成が容易に想到される単量体である発明の化合物1-1、本件発明1に属するWak amiya化合物A(化合物1-4301と同じ構造)とWakamiya化合物Bが記載されており、化合物1-1の外部量子効率が、これらの中では比較的高いが、本件明細書の実施例のいずれよりも低い値である。そしてWakamiya化合物A(化合物1-4301と同じ構造)とWakamiya化合物Bを用いた場合の外部量子効率は、Wakamiya化合物6 0と大差がなく、本件各発明の実施例の化合物よりも著しく劣る効果を示し、進歩性がないことを裏付けるものである。 ⑹ Y¹がBである本件発明3ないし5については、新規性欠如でも説明したとおり、本質的には本件発明1と同じであり、本件発明1と全く同じ議論が成立つ。本件発明9ないし20については、本件発明1の化合物に周知の用途 を付した発明にすぎず、本件発明1と同様に無効である。 本件発明2については、甲1発明1において、一般式[2-1]のY¹がP=Oである化合物65ないし69か、一般式[2-2]のY¹がP=Oである化合物265ないし269に基づけば、本件発明1と同じ議論が成立つ。本件発明25ないし28は、実質的に本件発明2の化合物に周知の =Oである化合物65ないし69か、一般式[2-2]のY¹がP=Oである化合物265ないし269に基づけば、本件発明1と同じ議論が成立つ。本件発明25ないし28は、実質的に本件発明2の化合物に周知の用途を付し た発明にすぎず、本件発明2と同様に無効である。 〔被告らの主張〕⑴ 甲1に記載されたを本件発明1に係る化合物に換えることについての動機付けはない。 甲1には、Y¹及びY2の各々をBに特定し、X¹及びX²並びにX¹及びX3 の各々をO、S又はNCH3に特定することは示唆されておらず、その動機付けの根拠は見当たらない。甲1では、実際に合成され評価された化合物は、Y¹及びY2の何れもNの化合物である。そこで、被告は、本件発明1の化合物と、当該化合物にてY¹のBをNに置換した化合物とを対比し、Y¹の違いが及ぼす影響を調べた。具体的には、本件発明1の化合物として化合物(1 -50)を用い、比較化合物(2)(段落【0932】;化合物(1-50) にてY¹のBをNに置換した化合物である。)と対比した(甲25〔実験報告書(特許5935199号:化合物(1-50)(Y¹=B)と比較化合物(2)(Y¹=N)との比較)〕)。評価に際し、実施例23ないし31に準じた条件にて、化合物(1-50)又は比較化合物(2)を電子輸送層1(ETL1)として用いた有機電界発光素子を作成し、素子の駆動電圧及び外部量子 収率を測定した。電子輸送層2としてET-1を用いた素子とET-2を用いた素子との2種類を作成した。 その結果、化合物(1-50)を用いた素子では、外部量子収率が5.30%~6.33%に達し、比較化合物(2)を用いた場合の0.29~0. 43%を大幅に上回った。 さらに、分子軌道計算により、化合物( 化合物(1-50)を用いた素子では、外部量子収率が5.30%~6.33%に達し、比較化合物(2)を用いた場合の0.29~0. 43%を大幅に上回った。 さらに、分子軌道計算により、化合物(1-50)及び比較化合物(2)のHOMO-LUMOギャップ、ET及びΔESTを求めた。その結果、化合物(1-50)のHOMO-LUMOギャップは、比較化合物(2)と同等であったが、化合物(1-50)のETは、比較化合物(2)よりも0.31eV大きく、化合物(1-50)のΔESTは、比較化合物(2)よりも0.2 34eV小さいことがわかった。 つまり、ET及びΔESTの点で、化合物(1-50)は、比較化合物(2)よりも優れている。 以上のとおり、甲1には異なる化合物とすることについての動機付けがなく、本件発明1は、Y¹をBに特定することにより、Y¹がNの場合と比較し て予想外かつ顕著な効果を奏する。したがって、化合物の相違に係る構成を採用することは、当業者が容易に想到し得た事項ではない。 ⑵ また、相違点1-1のうち、2量体を単量体にする動機付けに関しては、以下のとおりである。 甲1の一般式[2-1]及び[2-2]は、本件各発明の式(1)に対応 するユニットの二つが単結合で連結した構造を有する(連結系2量体)。し かし、単量体及び本件各発明の2量体は示唆されておらず、その動機付けの根拠は見当たらない。 これに対し原告は、甲1に記載された発明の連結系2量体を単量体に変換することは、当業者が容易に想到し得た事項であると主張するが、誤っている。その理由は以下のとおりである。 トリフェニルアミンの連結系多量体については、従来より、正孔(ホール)輸送材料として多くの研究が蓄積されてきた(甲24〔「有機電界 ると主張するが、誤っている。その理由は以下のとおりである。 トリフェニルアミンの連結系多量体については、従来より、正孔(ホール)輸送材料として多くの研究が蓄積されてきた(甲24〔「有機電界発光素子」(豊田中央研究所R&Dレビュー,1998,Vol.33,No.2,p3-22)〕、本件審決の乙10)。代表的な例が、TPD及びα-NPBであり、何れも連結系2量体である。 甲1の発明者は、従来技術にて正孔輸送材料として使用されていたトリフェニルアミンの連結系2量体(例えば、TPD及びα-NPB)に着目し、その改良の結果、式[2-1]及び式[2-2]の連結系2量体に至った。 実施例9でのホール移動度の測定において、甲1の化合物1、24及び201は、α-NPBと対比されている。実施例11での有機EL素子(OLE D)での評価では、正孔輸送層として甲1の化合物1又はα-NPBが使用され、これらの化合物が対比された。α-NPBとの対比は、甲1が従前の連結系2量体の改良を目的としていることを示している。 それに加え、甲1では、単量体も、比較対象とされている(試験例1)。 この事情も、甲1は連結系2量体の枠内での改良を目的としており、単量体 への転換を目的としていないことを示している。 まして、甲1には、連結系2量体を離れて、本件各発明の多量体の構造を採用する動機付けはない。 以上のとおり、甲1は、正孔輸送材料としての連結系2量体の改良を目的としており、あえて連結系2量体を単量体に変換する動機づけを提供するも のではない。この点について、本件審決も正しく判断している(本件審決1 03頁)。 それに加え、本件発明1は、甲1式[2-1]及び[2-2]発明と比較して、顕著な効果を奏する。 被告は、本件 の点について、本件審決も正しく判断している(本件審決1 03頁)。 それに加え、本件発明1は、甲1式[2-1]及び[2-2]発明と比較して、顕著な効果を奏する。 被告は、本件発明1の単量体と、当該単量体の二つを単結合で連結した連結系2量体とを対比した(甲26)。具体的には、本件発明1の単量体とし て化合物(1-1)を用い、化合物(1-1)の二つを単結合で連結した連結系2量体として甲1の化合物(60)を用いた(甲26では「WakamiyaCompound 60」と表記されている。)。これらの化合物を発光層のドーパント材料として用いた有機電界発光素子を作成し、その性能を評価した。評価に際し、実施例1及び2に準じた条件を用いた。 その結果、化合物(1-1)を用いた場合(InventiveElement 2-1)の外部量子収率は2.30%であり、甲1の化合物(60)を用いた場合(WakamiyaElement 1-1)の1.00%を大幅に上回った。 さらに、化合物(1-1)を用いた場合(InventiveElem ent 2-1の半値幅は34nmであり、甲1の化合物(60)を用いた場合(WakamiyaElement 1-1)の半値幅(117nm)よりも狭く、化合物(1-1)を用いた素子は色純度の点で優れていた。 以上のとおり、本件発明1は、予想外かつ顕著な効果を奏する。 ⑶ 原告の主張の誤り ア原告は、以下のとおり、連結系2量体は本件発明1の多環芳香族化合物(単量体)に該当することを主張する趣旨と解されるが、かかる前提は誤りである。 (ア) 原告は、甲1の一般式[2-1]及び[2-2]について、構造式の右半分と左半分が異なれば、そのような化合物は置換基を有する単量体 張する趣旨と解されるが、かかる前提は誤りである。 (ア) 原告は、甲1の一般式[2-1]及び[2-2]について、構造式の右半分と左半分が異なれば、そのような化合物は置換基を有する単量体 であると主張する。 しかし、本件審決の認定した甲1発明1(具体的な化合物60ないし64、260-264)は、二つの単位構造を有する連結系2量体であり、右の単位構造と左の単位構造とは同一である。 (イ) 原告は、構造式の右半分の置換基について多様な選択が可能であること(2量体に変えて単量体にすること)が教示されていると主張する。 しかし、一般式[2-1]及び[2-2]は、二つの単位構造の骨格を有する。一方の単位構造を消滅させることまで示唆されているわけではない。 (ウ) 原告は、甲1には、単量体の構造が具体的に開示されていると主張する。 しかし、甲1には、一般的な合成スキームの反応中間体として単量体[11]及び[13]が一般式として記載されているにとどまる(段落[0065]及び[0071])。しかも、具体的な化合物[11a]は、中心元素がNであり、本件各発明の化合物には該当しない。 (エ) 原告は、甲2及び甲3には、本件各発明の一般式(1)及び一般式(2) と共通する構造(D構造)の化合物につき、単量体が有機EL素子材料として優れていること、単量体も2量体も有機EL素子材料であることが教示されているとして、甲1発明1から単量体を得る動機付けの根拠とする。 しかし、上記のとおり、主引例である甲1には、甲1発明1の連結系 2量体を単量体に変更する動機付けがない。 甲2には、本件各発明の縮合2環構造(D構造)のみに着目した記載はない(本件審決103頁)。さらに、甲2は、単量体の多環式化合物にお 明1の連結系 2量体を単量体に変更する動機付けがない。 甲2には、本件各発明の縮合2環構造(D構造)のみに着目した記載はない(本件審決103頁)。さらに、甲2は、単量体の多環式化合物において、縮環構造を増やすことにより、より剛直な化学構造を得ることを目的としており(段落【0021】)、単量体と連結系2量体を比 較するものではない。そのため、甲2は、連結系2量体を単量体に変換 する動機付けを提供するわけではない。 甲3では、式(1)が本件各発明の縮合2環構造(D構造)を有する場合があるにとどまり、縮合2環構造(D構造)が明示的に記載されているわけではない(本件審決103頁)。そのため、甲3は、連結系2量体を単量体に変換する動機付けを提供するわけではない。 以上のとおり、甲2及び甲3の記載を考慮しても、甲1発明1の連結系2量体を単量体に変更する動機付けは存在しない。 (オ) 原告は、甲44について、「Y¹の位置がBであり、X¹及びX²の位置がOであるcompound1-5の構造が具体的に開示され、具体的な特性を評価したうえで、優れた有機EL素子用材料が得られること が教示されている」と主張する。 しかし、原告の依拠するcompound4(X¹及びX²がOのもの)は、実際に合成された化合物ではない。 (カ) 原告は、甲26で示された化合物(1-1)、Wakamiya化合物A及びWakamiya化合物Bの外部量子効率について、本件明細 書の実施例のいずれよりも低い値であると主張する。 しかし、外部量子効率の数値そのものを比較することは適切でないことは、既に述べたとおりである。 イ本件発明2ないし5、9ないし20及び25ないし28について、原告は、本件発明1と同じ議論が成立つとして、 外部量子効率の数値そのものを比較することは適切でないことは、既に述べたとおりである。 イ本件発明2ないし5、9ないし20及び25ないし28について、原告は、本件発明1と同じ議論が成立つとして、本件発明1と同様に無効であ ると主張する。 しかし、本件発明1に関する原告の主張が誤っていることは、既に述べたとおりである。 加えて、本件発明11、14、27及び28は、甲1にて用途とされた正孔輸送層材料ではなく、発光層用材料という点でも進歩性を有する。 したがって、本件発明2ないし5、9ないし20及び25ないし28は、 本件発明1と同様に、進歩性を有する。 5 取消事由4(甲2発明1及び2に基づく進歩性欠如に関する判断の誤り、無効理由4に対応)〔原告の主張〕⑴ 本件審決の甲2発明1の認定、本件発明1との対比は認め、争わない。取消 事由4における争点は相違点1-2の容易想到性の判断である。 甲1にはY¹がBであると特定された化合物60ないし64及び260ないし264とY¹がP=Oと特定された化合物65ないし69及び265ないし269が具体的に開示され、Y¹の位置のP=OをBに置き換えても優れた有機EL素子用材料が得られることが教示されている。 甲3には、X¹及びX²としてではあるが、ヘテロ原子としてBが選択できることが教示されている。 甲44には、上記4〔原告の主張〕⑷のとおり、Y¹がBで、X¹、X²がOである化合物を含む一般式が冒頭に記載され、優れた有機EL素子用材料が得られることが教示されている(図1において、中心はB。compound4 が、X¹及びX²がO。表3において、compound1ないし5の具体的な特性を評価している。)。 したがって、甲2発明1を主引例とし、上 ている(図1において、中心はB。compound4 が、X¹及びX²がO。表3において、compound1ないし5の具体的な特性を評価している。)。 したがって、甲2発明1を主引例とし、上記の各種公知文献を参酌すれば、Y¹としてP=OではなくBを当業者が選択するのは単なる設計変更であり容易であったから、本件発明1は進歩性を欠如し無効である。 なお、本件発明1には顕著な作用効果は認められない。 ⑵ 本件発明3ないし5については、取消事由3-1の新規性欠如でも主張したとおり、本質的には本件発明1と同じであり、本件発明1と同じ議論が成り立つ。本件発明9ないし20については、本件発明1の化合物に周知の用途を付した発明にすぎず、本件発明1と同様に無効である。 ⑶ 本件審決は、甲2発明1は個別の化合物として完成されており、本件各発 明のY¹に相当する位置のP=OをBに交換する動機付けがないとする。 しかし、本件審決が指摘するとおり、甲2の一般式(1)又(2)のY1について「各々独立にN、P、P=O、P=S、Si、Ar1のいずれかを表し」と記載されており、複数の選択肢を示していることから、甲2発明1においてもY¹についてP=O以外の選択肢を排除しているわけではない。 そして、甲1には、「典型的な有機エレクトロルミネッセンス素子は、ガラスなどの透明基板上にITOなどの陽極、ホール注入層、ホール輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層、陰極が積層された構造を有する。一般式[1]で表される本発明の化合物は、その物性に応じて、ホール注入層、ホール輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層の材料として用いることが可能である。 例えば、電子輸送材料として有用な一般式[1]で表される化合物(特にY¹およびY2が に応じて、ホール注入層、ホール輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層の材料として用いることが可能である。 例えば、電子輸送材料として有用な一般式[1]で表される化合物(特にY¹およびY2が>B-または>P(=O)-である化合物)を電子輸送層に使用すれば、陰極から電子注入層を経由して電子輸送層に注入される電子を効率良く発光層へ輸送することができる。・・・」(段落[0086])との記載があり、甲2発明のY¹についてP=OとBの両方が使用でき、いずれを使用して も優れた有機EL素子材料が得られることが分かる。さらに、甲3及び甲44も参酌すれば、当業者がP=OではなくBを選択するのは単なる設計変更であり容易であったといえる。 〔被告らの主張〕⑴ 原告は、Y¹がBの発明(本件発明1、3ないし5及び9ないし20)のみ について、取消事由4を主張する。 原告は、甲1、甲3及び甲44を参酌すれば、ヘテロ原子Y¹としてP=OではなくBを当業者が選択するのは単なる設計変更であるとするが、これらの証拠を参酌しても、ヘテロ原子Y¹としてP=Oではなく、あえてBを選択する動機付けは存在しない。ヘテロ原子Y¹としてBを選択した場合の効果は 予想外であり、当業者であっても予測することはできなかった。したがって、 ヘテロ原子Y¹としてP=OではなくBを選択することは、当業者が容易に想到し得た事項ではない。 原告は、甲2発明においてもY¹についてP=O以外の選択肢を排除していないと主張する。しかし、甲2には、Y¹としてBを選択する積極的な示唆がない。請求項1には、本件各発明のY¹に当たる位置(甲2のY¹及びY2) について、Bは候補に挙げられていない。 ⑵ 原告は、Y¹=Bの化合物が甲1に具体的に記載されていると する積極的な示唆がない。請求項1には、本件各発明のY¹に当たる位置(甲2のY¹及びY2) について、Bは候補に挙げられていない。 ⑵ 原告は、Y¹=Bの化合物が甲1に具体的に記載されていると主張する。また、原告は、甲1の段落[0086]の記載に基づき、Y¹としてP=OとBの両方が使用できると主張する。 しかし、甲1には、式[2-1]及び式[2-2]という上位概念を表す 手段として、各部位の置換基の組合せが多数列挙されているにすぎない。甲1において、Y¹=Y2=Bの化合物が実際に合成されたわけではなく、試験に付されたわけでもない。甲1で実際に合成され試験された対象は、Y¹=Y2=Nの化合物のみである。 仮に、甲1にY¹がBの化合物が具体的に記載されていたとしても、甲1は、 縮合2環構造に特に着目しているわけではなく、まして、縮合2環構造のY¹をBにする技術的意義を開示しているわけではない。 原告は、甲3も「X¹及びX²としてではあるが」Bが選択できることを教示するとも主張するが、原告も自ら認めているとおり、甲3には、Y¹がBの化合物は記載されていない。Y¹とは異なるX¹及びX²について列挙された多 数の例の中にBが含まれているというだけである。 原告は、甲44には、Y¹がBで、X¹及びX²がOである化合物を含む一般式が記載され、優れた有機EL素子用材料が得られることが教示されていると主張する。 しかし、甲44は、本件訴訟で新たに提出された証拠であり、審判段階で の副引例ではない。そのため、甲44を副引例として考慮することはできな い。その点を措くとしても、甲44では、Y¹がBで、X¹及びX²がOである化合物が実際に合成されたわけではない。 ⑶ 被告は、Y¹がBの場合とY¹がP=Oの 考慮することはできな い。その点を措くとしても、甲44では、Y¹がBで、X¹及びX²がOである化合物が実際に合成されたわけではない。 ⑶ 被告は、Y¹がBの場合とY¹がP=Oの場合との違いを明らかにするため、本件明細書の式(1-401)の化合物(Y¹=B)と、当該化合物のうちY¹をBからP=Oに置換した化合物(ComparativeCompoundA)との比較を 行った。具体的には、各化合物の蛍光量子収率及び発光波長を測定し(蛍光量子収率は、素子の外部量子収率と相関することが知られている。)、さらに、各化合物がドーパントとして作用することを想定して有機EL素子(OLED)を作製し、その性能を測定した。OLEDは、実施例1に準じて作製した 。その結果、化合物(1-401)は、ComparativeCompoundA と比 較して、約8倍も高い蛍光量子収率を有し、両者の発光波長も大きく異なることがわかった。(甲27〔特許第1,955,647号関連実験報告書、本件審決の乙13〕TABLE.1)。 以上のとおり、ヘテロ原子Y¹がP=Oである化合物よりも、ヘテロ原子Y¹がBである化合物の方が優れた素子性能を有する。そして、Y¹がBであ る化合物の効果は、予測困難であった。 ⑷ 以上のとおり、ヘテロ原子Y¹としてP=OではなくBを選択することは、当業者が容易に想到し得た事項ではないから、本件発明1は進歩性を有する。 本件発明3ないし5及び9ないし20も、本件発明1と同様に、進歩性を有する。 6 取消事由5(甲3発明1及び2に基づく進歩性欠如に関する判断の誤り、無効理由5に対応)〔原告の主張〕⑴ 本件審決の甲3発明1及び2の認定について、原告は争わない。甲3発明1及び2と本件各発明とは 由5(甲3発明1及び2に基づく進歩性欠如に関する判断の誤り、無効理由5に対応)〔原告の主張〕⑴ 本件審決の甲3発明1及び2の認定について、原告は争わない。甲3発明1及び2と本件各発明とは、非常に多くの置換基で選択肢が一致するところ、 その具体例としては、以下のとおりである。 ①本件発明2の「置換または無置換のアリール、置換または無置換のヘテロアリール」と、甲3発明1の「1以上の基R2により置換されていてもよい、5ないし40個の芳香族環原子を有する芳香族若しくは複素環式芳香族環構造」が一致。 ②本件発明2の「ジアリールアミノ」と、甲3発明1の「N(Ar)2」が 一致。 ③本件発明2の「置換または無置換のアルキル、置換または無置換のアルコキシ」と、甲3発明1の「1ないし40個のC原子を有する直鎖アルキル、アルコキシ」が一致。 ④本件発明2の「置換または無置換のアリールオキシ」と、甲3発明1の 「5ないし24個の芳香族環原子を有するアリールオキシ」が一致。 ⑤本件発明2と甲3発明1はいずれもベンゼン環へのハロゲン置換を含む。 そうすると、本件発明2の特許請求の範囲には、公知の上位概念である甲3発明1に包含される多数の化合物が含まれており、本件発明2と甲3発明 1とが重複する部分では、選択発明についての考え方が適用されるから、重複する範囲の化合物につき顕著な作用効果を有するのでなければ、重複する範囲の化合物については進歩性が否定される。 ⑵ 本件審決は、甲3の式(1)においてX(本件発明2のY¹に相当)で特に好ましいのは窒素とされていることなどを理由に、甲3が好ましいとする態 様と本件発明2が一致しないとして、甲3から本件発明2を容易に想到することができないとした。 しかし Y¹に相当)で特に好ましいのは窒素とされていることなどを理由に、甲3が好ましいとする態 様と本件発明2が一致しないとして、甲3から本件発明2を容易に想到することができないとした。 しかし、公知の上位概念の発明に包含される発明は、公知発明と異質な作用効果若しくは同質でも顕著に優れた作用効果を有する場合に進歩性が認められるが、そうでないときは進歩性が否定される。これは選択発明の進歩性 の判断基準として確立した原則である。 本件発明2の化合物のうち、甲3発明1の上位概念に包含される化合物については、この選択発明の基準によって進歩性が判断されなければならない。 後願の化合物に作用効果の裏付けがない場合、公知文献に開示された上位概念の発明は、好ましい態様に限られることなく、進歩性を否定する公知技術となるのであり、公知発明のうち、特に好ましい態様のみが公知技術になる のではない。 本件審決は、甲3に開示された技術的事項からひとまとまりの技術的思想として把握できる個々の化合物が、広く本件発明2と重複することを示していないとして選択発明の考え方を適用して検討する余地はないとした。 しかし、甲3の式(1)に包含される化合物群は、各選択肢の範囲に基づ き、全て特定可能な化合物群であり、ひとまとまりの技術的思想として把握できる。甲3発明1は、有機EL素子材料に適する一群の化合物を式(1)により定義しているのである。 したがって、公知の上位概念(化合物群)に含まれる後願の化合物発明は、選択発明の成立要件を満たさなければならない。本件審決の判断は誤りであ る。 本件発明25ないし28は、実質的に本件発明2の化合物発明に周知の用途を付記した発明であるから、本件発明2の進歩性が否定されれば、同様に進歩性が否 ならない。本件審決の判断は誤りであ る。 本件発明25ないし28は、実質的に本件発明2の化合物発明に周知の用途を付記した発明であるから、本件発明2の進歩性が否定されれば、同様に進歩性が否定される。 〔被告らの主張〕 ⑴ 甲3発明1は、本件発明2と包含関係にはない。そのため、選択発明の規範は本事案に適用できない。仮に、本件発明2の一部が甲3発明1の化合物群に形式的には包含されるとしても、甲3の特許請求の範囲請求項1の発明の技術的思想が明確ではないため、選択発明の規範を本事案に適用することはできない。そのため、原告の選択発明に基づく主張も成り立たない。 選択発明に関する新規性及び進歩性の規範は、先行発明と特許に係る発明 とが包含関係にあることを前提とする。それに対し、甲3発明1と本件発明2とは、原告も認めるとおり、包含関係にはない。本件発明2の多くの部分は、甲3発明1の外にある。したがって、本件各発明は、甲3発明1との関係において、選択発明の規範によって無効とはなり得ない。 ⑵ 甲3の特許請求の範囲請求項1は、置換基のマーカッシュ形式の記載によ り、多様な構造かつ様々な置換基の化合物に及ぶ。甲3の式(1)及び(2)において、三つのフェニル基と結合し化合物の中心に位置するXについて、「Xは、出現毎に同一であるか異なり、N、P、As、Sb、P=O、As=O若しくはSb=Oであり」とする選択肢がある。 しかし、甲3に具体的に例示された全ての化合物において、X=Nである (甲3の11ないし20頁)。実際に合成された化合物でも、X=Nである(甲3の段落【0060】ないし【0068】)。 甲3には、「トリアリールアミンの新規なクラスが、更に改善された電子特性を有することが今回見出 20頁)。実際に合成された化合物でも、X=Nである(甲3の段落【0060】ないし【0068】)。 甲3には、「トリアリールアミンの新規なクラスが、更に改善された電子特性を有することが今回見出された」と記載されている(段落【0008】)。 この記載が示すとおり、甲3は、元来、X=Nの場合(つまり、トリアリー ルアミンの誘導体)の発明を開示する。甲3には、形式的には、XについてN以外の選択肢が列挙されている。しかし、甲3を精査しても、X=Nを超えた技術的思想を読み取ることはできない。つまり、なぜ、XをN以外の「P、As、Sb、P=O、As=O若しくはSb=O」に拡張することができるのか、合理的な説明は見当たらない。 隣接するフェニル基を架橋する(Y)nについて、nは0、1又は2であり、Yには、「Yは、出現毎に同一であるか異なり、O、S、C(R1)2、C=O、C=S、C=NR1、C=C(R1)2、Si(R1)2、BR1、NR1、PR1、AsR1、SbR1、BiR1、P(=O)R1、As(=O)R1、Sb(=O)R1、Bi(=O)R1、SO、SeO、TeO、SO2、SeO2、TeO2若 しくは化学結合であり;」との選択肢がある。 甲3に具体的に例示された化合物において、Yは、C(CH3)2などの置換又は無置換の炭化水素基、C=O、NH、NR(R:炭化水素基)、O、S、SO2に限られる。 しかも、甲3を精査しても、Yの多様な置換基を包摂する技術的思想を読み取ることはできない。甲3には、一般的な記載として、「物理的特性は、架 橋単位Yの特定の選択により影響され、最適化されることができる」との記載があるにとどまる(段落【0030】)。 ⑶ 甲3の特許請求の範囲請求項1の技術的思想は明ら 載として、「物理的特性は、架 橋単位Yの特定の選択により影響され、最適化されることができる」との記載があるにとどまる(段落【0030】)。 ⑶ 甲3の特許請求の範囲請求項1の技術的思想は明らかではない。 甲3の特許請求の範囲請求項1には、マーカッシュ形式を利用して、X及び(Y)nについて様々な選択肢が機械的に列挙されている。しかし、その文 言の示す技術的思想は、明らかではない。進歩性の判断のための先行発明(甲3発明1)は甲3の文言どおりに認定できるとしても、その先行発明は、選択発明の規範における上位概念としての技術的思想とはいえない。 本件発明2の化合物群の一部が、甲3の請求項1にて列挙された化合物群と重複し、その重複する箇所を進歩性判断の対象として抜き出すとしても、 重複箇所の技術的思想は明らかではない。その理由は、甲3発明1の技術的思想が明らかではなく、甲3発明1に基づいて本件各発明の一部を切り出す意義も明らかではないためである。 ⑷ 本件審決の認定判断は、上記で説明した事情に基づいて理解することができる。 つまり、甲3の特許請求の範囲には、マーカッシュ形式にて各置換基の選択肢が機械的に多数列挙されているものの、その記載から技術的思想を把握することができない。甲3の特許請求の範囲における(各置換基についての)多数の選択肢の組合せには、本件発明2に該当する組合せがあり得るとしても、甲3から技術的思想を把握することができないのだから、本件発明2に 該当する組合せの技術的思想を把握することもできない。選択発明の規範は、 上位概念としての技術的思想と下位概念としての技術的思想とを把握できることを前提とする。原告の主張では、その前提が欠けている。本件審決の認定及び判断は正当である。 の規範は、 上位概念としての技術的思想と下位概念としての技術的思想とを把握できることを前提とする。原告の主張では、その前提が欠けている。本件審決の認定及び判断は正当である。 7 取消事由6(甲4発明に基づく進歩性欠如に関する判断の誤り、無効理由6に対応) 〔原告の主張〕⑴ 甲4発明の内容、本件発明21との一致点及び相違点についての本件審決の認定は争わない。 ⑵ 相違点21-4の1の容易想到性について甲4発明で使用されているブチルリチウム(BuLi)は、水素とハロゲ ン原子の両方とも置換できることは公知である。加えて、甲12(「SynthesisofDibenzochalcogenaborinsandSystematicComparisonsofTheirOpticalPropertiesbyChangingaBridgingChalcogenAtom」 (Chemistry‐AnAsianJournal, 2009, 4, 42 ‐ 49) )、甲13(「EfficientSynthesisofDibenzoxaborininolsfromDiarylEthersandTheirApplicationto DibenzofuranSynthesis」(AdvancedSynthesis & Catalysis, 2013, 355,3625‐3632))、甲14(「9-Hetero-10-boraanthracene-derivedborinicacidcatalystsforregioselectiveactivationofpolyols」 (ChemicalScience, 2013,4, 3298‐3303) icacidcatalystsforregioselectiveactivationofpolyols」 (ChemicalScience, 2013,4, 3298‐3303))においては、いずれもフェノキシベンゼン(ジフェニルエーテル)の酸素のオルト位がBuLiによってLi化されているところ、甲 12では当該位置がハロゲン原子(臭素Br)であり、甲13及び甲14では当該位置が水素である。なお、本件明細書の段落【0286】ないし【0287】においても、水素原子ではなくハロゲン原子(臭素Br)がBuLiによってLi化されており、BuLiは水素とハロゲン原子のいずれにも使用できることは技術常識である。 甲4自身がscheme2 の前半部分において、2個のハロゲン置換基(オルト -パラ配向性)を有する1、3ージクロロベンゼンにおいて、オルト位である中央の水素が、BuLiと反応することを教示している(甲4の2131頁左欄7行目ないし13行目)。 甲12ないし甲14は、いずれもフェノキシベンゼン(ジフェニルエーテル)のオルト位をLi化し、続いてBに置換し、Bをフェノキシ基とフリー デルクラフツ反応により結合させている。本件発明21の縮合2環構造を形成する反応と同じ反応である(ただし、BとOを含む環が一つ形成されるにとどまる)。 以上のとおり、ハロゲンと同様の置換配向性を有するフェノキシ基やフェニル基に挟まれた中央位置の水素についても、BuLiと反応することが容 易に想到される。出発物質におけるBuLiとの反応位置が水素かハロゲン原子(ヨウ素I)かが相違していても、いずれもLi化されるのであり、Li化された後は相違が解消する。 したがって、甲4の記載及び甲12ないし甲14の周知技 おけるBuLiとの反応位置が水素かハロゲン原子(ヨウ素I)かが相違していても、いずれもLi化されるのであり、Li化された後は相違が解消する。 したがって、甲4の記載及び甲12ないし甲14の周知技術を参照すれば、甲4発明において、中間体2aなどのハロゲン(ヨウ素)の位置をLi化す る反応を、水素からLi化させる反応とすることは適宜選択できる手段にすぎない。 ⑶ 相違点21-4の3の容易想到性について甲1には、本件各発明のY¹がB又はP=Oであり、本件各発明のX¹及びX²がいずれもOである化合物60ないし69及び260ないし269が、有 機EL素子材料として有用であると記載されている。したがって、X¹及びX²がいずれもOである化合物を得る動機付けがある。 ここで、Y¹がB又はP=Oであり、X¹及びX²がいずれもOである化合物を製造することを意図する当業者であれば、甲4発明において中間体のナフチル基をフェノキシ基に置換すれば、X¹及びX²がいずれもOである化合物 を合成できることが容易に理解される。 甲1と甲4の技術分野の共通性があることは明らかであり、有機EL素子材料などに利用可能なπ共役系化合物の製造手段として、スキーム1の反応を提供するというのが、甲4の意図である。ヘテロ原子を含む共役系化合物を有機EL材料に使用することを考える研究者であれば、甲4の手法の利用を考えるのは当然である。 さらに、甲12ないし甲14は、フェノキシベンゼン(ジフェニルエーテル)のベンゼン環にBを導入し、フリーデルクラフツ反応によりBとOと2個のベンゼン環による6員環を形成しているのである。甲4の反応において、2個のナフチル基を2個のフェノキシ基に変えれば、甲4の生成物に代えて、本件各発明と同じBとOを含 クラフツ反応によりBとOと2個のベンゼン環による6員環を形成しているのである。甲4の反応において、2個のナフチル基を2個のフェノキシ基に変えれば、甲4の生成物に代えて、本件各発明と同じBとOを含む縮合2環構造が形成されることは容易に理解 されるし、そのような構造を得ることは、甲1を参照することにより、強く動機付けられる。 ⑷ 相違点21-4の1、3について、甲4発明の反応式において、m-ヨウ化テラリルを、m-ジフェノキシベンゼンに変えた出発物質を使用することが容易に想到できるかどうかが問題点であるところ、π共役化合物である点 で技術分野の共通する、甲1に記載の有機EL素子用材料及び甲44に記載の相対的に高いHOMO-LUMOギャップ理論値を有するcompound4の化合物のような、ヘテロ原子を含む共役系化合物を考える研究者であれば、甲4の手法の利用を考えるのは当然である。また、m-ジフェノキシベンゼンそれ自体の合成は、甲56(「Ligand-freehighlyeffective iron/copperco-catalyzedformationofdimericarylethersorsulfides」(リガンドフリー高効率鉄/銅共触媒による二量体アリールエーテルまたはスルフィドの形成)(Org. Biomol. Chem., 2011, 9, 5043–5046))に記載の公知の方法で行うことができ、当業者が容易に入手可能である。 ⑸ 本件発明22ないし24について 本件発明22は、本件発明21の製造方法に、有機アルカリ金属を用いて中 間体のオルトメタル化をする反応工程と、連続的な芳香族求電子置換反応においてブレンステッド塩基を使用することを、必須とする。 甲4発 21の製造方法に、有機アルカリ金属を用いて中 間体のオルトメタル化をする反応工程と、連続的な芳香族求電子置換反応においてブレンステッド塩基を使用することを、必須とする。 甲4発明には、ベンゼン環の二つの置換基の間にPCl2を導入するに際し、BuLiが2度使用されている。最初のBuLiの添加により二つの置換基の間の水素がメタル化(Li化)され、いったんヨウ素に置換されるが、2 回目のBuLi添加によりヨウ素がLiに置換し、そしてPCl2に置換するものと理解されるところ、一度ヨウ素化を経るかどうかは、実質的な相違ではない。その次の連続的な芳香族求電子置換反応では、ブレンステッド塩基であるアミン化合物のNEt(i-Pr)2が使用されている。したがって、甲4発明に基づく本件発明21の進歩性欠如の理由は、本件発明22につい ても成立する。本件発明22は進歩性を欠如し無効である。 本件発明23は、ルイス酸を加えることを付加した従属項である。甲4発明は、ルイス酸であるAlCl3を使用する。本件発明24は、X¹とX²の間の水素をハロゲン化する工程を付加した、従属項である。甲4発明は、本件発明21のA環のX¹とX²の間に相当する位置にPCl2を結合させる前に、 結合位置をヨウ素化している。 以上のとおり、甲4発明に基づく進歩性欠如の理由は、本件発明22ないし24についても成立する。本件発明21は進歩性を欠如し無効である以上、本件発明22ないし24も無効である。 〔被告らの主張〕 ⑴ 甲4発明は、甲4のScheme 2 において、中間体m-ヨウ化テラリル(化合物2aないし2c)から化合物4aないし4c(Y¹=(P=S))又は化合物5aないし5c(Y¹=(P=O))までの製造方法である。 甲4発明と本件 2 において、中間体m-ヨウ化テラリル(化合物2aないし2c)から化合物4aないし4c(Y¹=(P=S))又は化合物5aないし5c(Y¹=(P=O))までの製造方法である。 甲4発明と本件発明21との相違点は、本件審決が認定したとおりである(相違点21-4の1ないし相違点21-4の3)。これらの相違点を解消す るために(つまり、甲4発明から出発して本件発明21に至るためには)、中 間体m-ヨウ化テラリル(甲4発明での出発物質)を変更し、その結果、反応経路及び生成物をも変更する必要がある。化学物質の製造方法の発明において、このような大がかりな変更は、当業者が容易に想到し得たものではない(本件審決124頁)。 しかも、甲4等には、相違点21-4の1及び相違点21-4の3の構成 が記載されていない。さらに、甲4等には、甲4発明に対し相違点21-4の1及び相違点21-4の3の改変をする示唆もない。そのため、当業者は、甲4等から本件発明21に到達し得ない。 したがって、本件発明21は、甲4等の記載を参酌しても当業者が容易に想到し得た発明ではないので、進歩性を有する。 ⑵ 甲4では、Scheme 2 として、1、3-ジクロロベンゼンを出発物質とした一連の反応が記載されている。甲4発明は、そのうち、m-ヨウ化テラリル(化合物2aないし2c)から硫化ホスフィン(4aないし4c)又はホスフィンオキシド(5aないし5c)までの反応経路に当たる(本件審決119ないし120頁)。もっとも、Scheme 2 は一連の合成経路として記載され ているのだから、そのうちm-ヨウ化テラリルに至るまでの反応を無視すべきではない。 Scheme 2 では、1、3-ジクロロベンゼンのクロロ(Cl)基は、グリニ の合成経路として記載され ているのだから、そのうちm-ヨウ化テラリルに至るまでの反応を無視すべきではない。 Scheme 2 では、1、3-ジクロロベンゼンのクロロ(Cl)基は、グリニャール反応により、Ar(ナフチル基)にて置換された(Scheme 2 のArMgBrが、グリニャール試薬である。Arが求電子試薬として作用する。)。 グリニャール反応に先立ち、2位のHは、BuLiによってリチオ化(リチウム置換)され、グリニャール反応の後、I2により、さらにIで置換された。 グリニャール反応におけるクロロ(Cl)基のAr(ナフチル;アリール基に分類される。)による置換は、相違点21-4の3に関する。m-ヨウ化テラリルでは、Arとフェニル基とが直接に(つまり、炭素-炭素結合にて)結 合する。それに対し、本件発明21の中間体では、B環とA環とはX¹を介し て結合し、C環とA環とはX²を介して結合している。つまり、炭素-炭素結合にX¹又はX²が挿入されている。相違点21-4の3を解消するためには、Arを(アリール-X¹)基又は(アリール-X²)基(例えば、フェノキシ基(Ph-O-)などのアリールオキシ基)で置換する必要がある。その例として、原告は、Arのフェノキシ基による置換が容易であると主張する。 しかし、グリニャール反応は、アルキル基又はアリール基での置換に用いられているものの、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基)での置換には用いられていない(乙8〔理化学辞典第4版(岩波書店)354頁〕)。 したがって、Arをアリールオキシ基で置換して相違点21-4の3を解消する動機付けに欠ける。 ⑶ 本件発明22ないし24について、原告は、本件発明21と同じ議論が成立つとして、本件発明21 したがって、Arをアリールオキシ基で置換して相違点21-4の3を解消する動機付けに欠ける。 ⑶ 本件発明22ないし24について、原告は、本件発明21と同じ議論が成立つとして、本件発明21と同様に無効であると主張する。 しかし、本件発明21に関する原告の主張が誤っていることは、上記1で説明したとおりである。とりわけ、甲4のScheme 2 において、Arをアリールオキシ基で置換して相違点21-4の3を解消する動機づけに欠ける本 件発明22ないし24も、本件発明21と同様に、進歩性を有する。 第4 当裁判所の判断 1 本件各発明の内容⑴ 本件各発明の概要本件明細書(甲29)によれば、本件各発明の概要について、以下のとお り認められる。本件各発明の内容の詳細は、後記⑵のとおりである。 ア本件各発明は、多環芳香族化合物及びその多量体、具体的には下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物又は一般式(1)で表される単位構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体に関する。さらには、該一般式(1)が下記一般式(2)で多環芳香族化合物及びその多量体に関する。 一般式(1)のAないしC環はアリール環又はヘテロアリール環であり(両 者をまとめて「芳香環」という場合がある)、一般式(1)又は(2)において、Y¹はBであり、X¹及びX²はそれぞれ独立してO、N-R、S又はSeであるか、又は、Y¹はP=O又はP=Sであり、X¹及びX²は共にO、S又はSeであるか、一方がOで他方がS若しくはSeであるか、一方がN-Rで他方がSeであるか、又は一方がSで他方がSeである(段落【0 001】、【0009】、【0017】及び【0037】)。 イ本件各発明に係る化学物質は、下記中間体に、Y¹のハロゲン化物 Rで他方がSeであるか、又は一方がSで他方がSeである(段落【0 001】、【0009】、【0017】及び【0037】)。 イ本件各発明に係る化学物質は、下記中間体に、Y¹のハロゲン化物などの試薬と、場合によりブレンステッド塩基とを用いて、連続的な芳香族求電子置換反応により、下記中間体における芳香環であるA環を、B環、C環 と、前記Y¹により結合する反応工程を含む方法等により得られる(段落【0030】、後記⑵エ(シ)、段落【0401】ないし【0759】の各合成例)。 ウ本件各発明に係る化学物質は、芳香環を、ホウ素又はリンと、酸素、窒 素、硫黄又はセレンの、ヘテロ元素で連結した構造を有し、発光層用材料、電子輸送層材料又は正孔輸送層用材料として、有機EL素子を形成する層等に用いることのできるものである(段落【0035】)。 エ多環芳香族化合物及びその多量体について、その具体的な例が、段落【0070】ないし【0280】に記載されている。 オ多環芳香族化合物及びその多量体の製造方法のスキーム(1)ないし(27)が説明とともに示されている(段落【0281】ないし【0310】)。 カ有機電界発光素子及びその他の有機デバイスについて、段落【0765】ないし【0849】には、実施例1ないし34として、各実施例について、ドーパント、ホスト及び電子輸送層の内容が記載されている。 ⑵ 本件明細書等の記載の詳細と本件各発明につき認められる事実本件明細書(甲29)の記載によれば、本件各発明につき、以下の事実が認められる(下線は判決で付記)。 ア技術分野、発明が解決しようとする課題及び効果(ア) 本件各発明は、多環芳香族化合物及びその多量体、具体的には一般式 (1)( につき、以下の事実が認められる(下線は判決で付記)。 ア技術分野、発明が解決しようとする課題及び効果(ア) 本件各発明は、多環芳香族化合物及びその多量体、具体的には一般式 (1)(前記第2の2【請求項1】、前記⑴ア、後記ウ(ア))で表される多環芳香族化合物又は一般式(1)で表される単位構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体に関する。さらには、該一般式(1)が一般式(2)(前記第2の2【請求項3】、前記⑴ア、後記ウ(ア))である多環芳香族化合物及びその多量体に関する(段落【0001】、【0009】ないし【0 017】、【0037】)。 また、本件各発明は、そのような多環芳香族化合物及びその多量体を含む有機EL素子用材料(段落【0009】)、有機電界発光素子、有機電界効果トランジスタ及び有機薄膜太陽電池、並びに、表示装置及び照明装置(段落【0001】、【0018】ないし【0029】)、及びそのよう な多環芳香族化合物又はその多量体を製造する方法(段落【0030】な いし【0033】)に関する。 (イ) 有機EL素子に用いられる材料としては、該素子の有機化合物を含む層に適当な発光層用材料、正孔輸送材料、電子輸送材料として、種々の有機材料の開発が活発に検討されていたが(段落【0002】ないし【0004】、【0008】)、有機EL素子用材料の選択肢を増やすために、従来 のものとは異なる材料の開発が望まれていた(段落【0008】)。 有機EL素子や有機薄膜太陽電池に使用する材料としてトリフェニルアミン誘導体を改良した材料が報告されており、トリフェニルアミンを構成する芳香環同士を連結することでその平面性を高めた化合物は、例えばNO連結系化合物について、国際公開第2012/1181 フェニルアミン誘導体を改良した材料が報告されており、トリフェニルアミンを構成する芳香環同士を連結することでその平面性を高めた化合物は、例えばNO連結系化合物について、国際公開第2012/118164号 (判決注;甲1)や国際公開第2011/107186号に開示され、その電荷輸送特性が評価されていた(段落【0005】)。しかし、これら文献には、NO連結系化合物以外の材料の製造方法については記載されておらず、また、連結する元素が異なれば化合物全体の電子状態が異なるため、NO連結系化合物以外の材料から得られる特性も未だ知られてい なかった(段落【0005】、【0008】)。 (ウ) 本件各発明は、ホウ素原子と酸素原子などで複数の芳香環を連結した新規な多環芳香族化合物として、一般式(1)で表される多環芳香族化合物又は該一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族の多量体を見出し、その製造に成功した(段落【0009】、【0035】及び【0 037】)。 (エ) 本件各発明が解決しようとする課題は、上記のように、有機EL素子に用いられる材料としては種々のものが開発されているが、有機EL素子用材料の選択肢を増やすために、従来のものとは異なる化合物からなる材料の開発が望まれていた。特に、上記(イ)のほか段落【0004】記載 の文献で報告されたNO連結系化合物以外の材料から得られる有機EL 特性やその製造方法は未だ知られていなかったものである(段落【0008】)。 (オ) 上記(エ)の課題を解決するための手段として、本件各発明は、ホウ素原子と酸素原子などで複数の芳香族環を連結した新規な多環芳香族化合物を見出し、その製造に成功したものであり、この多環芳香族化合物を含有 する層を一対の電極間に配置 段として、本件各発明は、ホウ素原子と酸素原子などで複数の芳香族環を連結した新規な多環芳香族化合物を見出し、その製造に成功したものであり、この多環芳香族化合物を含有 する層を一対の電極間に配置して有機EL素子を構成することにより、優れた有機EL素子が得られることを見出し、本件各発明を完成させたものである。すなわち、本件各発明は、以下のような多環芳香族化合物またはその多量体、さらには以下のような多環芳香族化合物またはその多量体を含む有機EL素子用材料を提供するものである(段落【0009】)。 (カ) 本件各発明の効果として、例えば有機EL素子用材料として用いることができる、新規な多環芳香族化合物を提供することができ、この多環芳香族化合物を用いることで優れた有機EL素子を提供することができる(段落【0034】)。 (キ) 上記本件各発明の効果を具体的に指摘すると、後記イ(エ)ないし(キ)記載 のとおりである。 イ背景技術、作用機序(ア) 三重項励起子のエネルギー(T1)が大きい共役構造を有する化合物は、より短い波長の燐光を発することができるため、青色の発光層用材料として有益であることが知られている。また、発光層を挟む電子輸送 材料や正孔輸送材料としても、T1が大きい新規共役構造を有する化合物が求められていた(段落【0005】)。 (イ) 比較的共役系の小さな芳香環を多数連結することで、ホスト材料に必要なHOMO-LUMOギャップ(薄膜におけるバンドギャップEg)が担保されるので、ホスト材料は、一般に、ベンゼンやカルバゾールなど の既存の芳香環を単結合やリン原子やケイ素原子で複数連結した分子で ある。また、燐光材料や熱活性型遅延蛍光材料のホスト材料は、加えて、高い三重項励起エネルギ ルバゾールなど の既存の芳香環を単結合やリン原子やケイ素原子で複数連結した分子で ある。また、燐光材料や熱活性型遅延蛍光材料のホスト材料は、加えて、高い三重項励起エネルギー(ET)も必要となるが、分子にドナーあるいはアクセプター性の芳香環や置換基を連結することで、三重項励起状態(T1)のSOMO1及びSOMO2を局在化させ両軌道間の交換相互作用を小さくすることで三重項励起エネルギー(ET)を向上させている (段落【0006】)。 (ウ) しかし、共役系の小さな芳香環はレドックス安定性が十分ではなく、既存の芳香環を連結していった分子をホスト材料として用いた素子は寿命が十分ではない。一方、拡張π共役系を有する多環芳香族化合物は、一般に、レドックス安定性は優れているが、HOMO-LUMOギャップ (薄膜におけるバンドギャップEg)や三重項励起エネルギー(ET)が低いため、ホスト材料に不向きと考えられてきた(段落【0006】)。 (エ) 本件各発明において、芳香環を、ホウ素、リン、窒素、硫黄などのヘテロ元素で連結した多環芳香族化合物は、共役系の拡張に伴うHOMO-LUMOギャップの減少がヘテロ元素を含む6員環の芳香族性の低さに より抑制されると考えられること、及びヘテロ元素の電子的な摂動により三重項励起状態(T1)におけるSOMO1及びSOMO2が局在化すると考えられることにより、大きなHOMO-LUMOギャップ(薄膜におけるバンドギャップEg)と高い三重項励起エネルギー(ET)を有することを見出した(段落【0035】)。 (オ) また、本件各発明の、芳香環を、ホウ素、リン、窒素、硫黄などのヘテロ元素で連結した多環芳香族化合物は、上記三重項励起状態(T1)におけるSOMO1及びSOMO2 落【0035】)。 (オ) また、本件各発明の、芳香環を、ホウ素、リン、窒素、硫黄などのヘテロ元素で連結した多環芳香族化合物は、上記三重項励起状態(T1)におけるSOMO1及びSOMO2の局在化により、両軌道間の交換相互作用が小さくなるため、三重項励起状態(T1)と一重項励起状態(S1)のエネルギー差が小さくなり、熱活性型遅延蛍光を示して、有機EL素 子の蛍光材料としても有用である(段落【0035】)。 (カ) 高い三重項エネルギー(ET)を有する材料は、燐光有機EL素子や熱活性型遅延蛍光を利用した有機EL素子の電子輸送層や正孔輸送層としても有用である(段落【0035】)。 (キ) さらに、これらの多環芳香族化合物は、置換基の導入により、HOMOとLUMOのエネルギー差を任意に動かすことができるため、イオン化 ポテンシャルや電子親和力を周辺材料に応じて最適化することが可能である(段落【0035】)。 ウ多環芳香族化合物及びその多量体(ア) 本件各発明は、下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物、又は下記一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体 である。本件各発明は、好ましくは、下記一般式(2)で表される多環芳香族化合物、又は下記一般式(2)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体である(段落【0037】)。 一般式(1)におけるA環、B環及びC環は、それぞれ独立して、アリ ール環又はヘテロアリール環であり、これらの環における少なくとも一つの水素は置換基で置換されていてもよい。この置換基は、置換又は無置換のアリール、置換又は無置換のヘテロアリール、置換又は無置換のジアリールアミノ、置換又は無置換のジヘテロアリールアミノ、置換又は無置 水素は置換基で置換されていてもよい。この置換基は、置換又は無置換のアリール、置換又は無置換のヘテロアリール、置換又は無置換のジアリールアミノ、置換又は無置換のジヘテロアリールアミノ、置換又は無置換のアリールヘテロアリールアミノ(アリールとヘテロアリール を有するアミノ基)、置換又は無置換のアルキル、置換又は無置換のアルコキシ又は置換又は無置換のアリールオキシが好ましい。これらの基が 置換基を有する場合の置換基としては、アリール、ヘテロアリール又はアルキルが挙げられる(段落【0038】)。 (イ) 上記アリール環又はヘテロアリール環は、Y¹、X¹及びX²から構成される一般式(1)の中央の縮合2環構造(上記(ア)の式(1)。この構造を「D構造」ともいう。式(2)も同様。)と結合を共有する5員環又は6 員環を有することが好ましい(段落【0038】)。ここで、「縮合2環構造(D構造)」とは、一般式(1)の中央に示した、Y¹、X¹及びX²を含んで構成される二つの飽和炭化水素環が縮合した構造を意味する(段落【0039】)。 (ウ) 一般式(1)のA環、B環及びC環である「アリール環」としては、例 えば、炭素数6ないし30のアリール環が挙げられ、炭素数6ないし16のアリール環が好ましく、炭素数6ないし12のアリール環がより好ましく、炭素数6ないし10のアリール環が特に好ましい。なお、この「アリール環」は、一般式(2)で規定された「R1ないしR11のうちの隣接する基同士が結合してa環、b環又はc環と共に形成されたアリー ル環」に対応し、また、a環(又はb環、c環)が既に炭素数6のベンゼン環で構成されているため、これに5員環が縮合した縮合環の合計炭素数9が下限の炭素数となる(段落【0049】)。 具 ル環」に対応し、また、a環(又はb環、c環)が既に炭素数6のベンゼン環で構成されているため、これに5員環が縮合した縮合環の合計炭素数9が下限の炭素数となる(段落【0049】)。 具体的な「アリール環」としては、単環系であるベンゼン環、二環系であるビフェニル環、縮合二環系であるナフタレン環、三環系であるテル フェニル環(m-テルフェニル、o-テルフェニル、p-テルフェニル)、縮合三環系である、アセナフチレン環、フルオレン環、フェナレン環、フェナントレン環、縮合四環系であるトリフェニレン環、ピレン環、ナフタセン環、縮合五環系であるペリレン環、ペンタセン環などが挙げられる(段落【0050】)。 一般式(1)のA環、B環及びC環である「ヘテロアリール環」として は、例えば、炭素数2ないし30のヘテロアリール環が挙げられ、炭素数2ないし25のヘテロアリール環が好ましく、炭素数2ないし20のヘテロアリール環がより好ましく、炭素数2ないし15のヘテロアリール環がさらに好ましく、炭素数2ないし10のヘテロアリールが特に好ましい。また、「ヘテロアリール環」としては、例えば環構成原子として炭 素以外に酸素、硫黄及び窒素から選ばれるヘテロ原子を1ないし5個含有する複素環などが挙げられる。なお、この「ヘテロアリール環」は、一般式(2)で規定された「R1ないしR11のうちの隣接する基同士が結合してa環、b環又はc環と共に形成されたヘテロアリール環」に対応し、また、a環(又はb環、c環)がすでに炭素数6のベンゼン環で構成され ているため、これに5員環が縮合した縮合環の合計炭素数6が下限の炭素数となる(段落【0051】)。 具体的な「ヘテロアリール環」としては、例えば、ピロール環、オキサゾー 環で構成され ているため、これに5員環が縮合した縮合環の合計炭素数6が下限の炭素数となる(段落【0051】)。 具体的な「ヘテロアリール環」としては、例えば、ピロール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、チアジアゾール環、トリアゾール環、 テトラゾール環、ピラゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ピラジン環、トリアジン環、インドール環、イソインドール環、1H-インダゾール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、1H-ベンゾトリアゾール環、キノリン環、イソキノリン環、シンノリン環、キナゾリン環、キノキサリン環、フタラジン環、ナ フチリジン環、プリン環、プテリジン環、カルバゾール環、アクリジン環、フェノキサチイン環、フェノキサジン環、フェノチアジン環、フェナジン環、インドリジン環、フラン環、ベンゾフラン環、イソベンゾフラン環、ジベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ジベンゾチオフェン環、フラザン環、オキサジアゾール環、チアントレン環などが挙げら れる(段落【0052】)。 (エ)本件各発明は、一般式(1)で表される単位構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体、好ましくは、一般式(2)で表される単位構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体である。多量体は、2ないし6量体が好ましく、2ないし3量体がより好ましく、2量体が特に好ましい(段落【0063】)。 多量体は、一つの化合物の中に上記単位構造を複数有する形態であればよく、例えば、上記単位構造が単結合、炭素数1ないし3のアルキレン基、フェニレン基、ナフチレン基などの連結基で複数結合した形態(判決注:連結 、一つの化合物の中に上記単位構造を複数有する形態であればよく、例えば、上記単位構造が単結合、炭素数1ないし3のアルキレン基、フェニレン基、ナフチレン基などの連結基で複数結合した形態(判決注:連結に関する説明)に加えて、上記単位構造に含まれる任意の環(A環、B環又はC環、a環、b環又はc環)を複数の単位構造で共有するよ うにして結合した形態(判決注:共有に関する説明)であってもよく、また、上記単位構造に含まれる任意の環(A環、B環又はC環、a環、b環又はc環)同士が縮合するようにして結合した形態(判決注:縮合に関する説明)であってもよい(段落【0063】)。 このような多量体としては、例えば、下記(段落【0064】)式(2 -4)、式(2-4-1)、式(2-4-2)、式(2-5-1)~式(2-5-4)または式(2-6)で表される多量体化合物が挙げられる。 「下記式(2-4)で表される多量体化合物は、例えば後述する式(1-21)で表されるような化合物に対応する。すなわち、一般式(2)で説明すれば、a環であるベンゼン環を共有するようにして、複数の一般式 (2)で表される単位構造を一つの化合物中に有する多量体化合物である。また、下記式(2-4-1)で表される多量体化合物は、例えば後述する式(1-2665)で表されるような化合物に対応する。すなわち、一般式(2)で説明すれば、a環であるベンゼン環を共有するようにして、二つの一般式(2)で表される単位構造を一つの化合物中に有する多量体 化合物である。また、下記式(2-4-2)で表される多量体化合物は、 例えば後述する式(1-2666)で表されるような化合物に対応する。 すなわち、一般式(2)で説明すれば、a環であるベンゼン環を共有するようにして、 2)で表される多量体化合物は、 例えば後述する式(1-2666)で表されるような化合物に対応する。 すなわち、一般式(2)で説明すれば、a環であるベンゼン環を共有するようにして、二つの一般式(2)で表される単位構造を一つの化合物中に有する多量体化合物である。また、下記式(2-5-1)ないし式(2-5-4)で表される多量体化合物は、例えば後述する式(1-22)ない し式(1-25)で表されるような化合物に対応する。すなわち、一般式(2)で説明すれば、b環(またはc環)であるベンゼン環を共有するようにして、複数の一般式(2)で表される単位構造を一つの化合物中に有する多量体化合物である。また、下記式(2-6)で表される多量体化合物は、例えば後述する式(1-31)ないし(1-37)で表されるよう な化合物に対応する。すなわち、一般式(2)で説明すれば、例えばある単位構造のb環(またはa環、c環)であるベンゼン環とある単位構造のb環(またはa環、c環)であるベンゼン環とが縮合するようにして、複数の一般式(2)で表される単位構造を一つの化合物中に有する多量体化合物である。」(段落【0064】)。 (オ) 本件各発明に係る多環芳香族化合物及びその多量体は、有機デバイス用材料として用いることができる。有機デバイスとしては、例えば、有機電界発光素子、有機電界効果トランジスタ又は有機薄膜太陽電池などが挙げられる。特に、有機電界発光素子においては、発光層のドーパント材料として、Y¹がB、X¹及びX²がN-Rである化合物、Y¹がB、X¹が O、X²がN-Rである化合物、Y¹がB、X¹及びX²がOである化合物が好ましく、発光層のホスト材料として、Y¹がB、X¹がO、X²がN-Rである化合物、Y¹がB、X¹及びX²が B、X¹が O、X²がN-Rである化合物、Y¹がB、X¹及びX²がOである化合物が好ましく、発光層のホスト材料として、Y¹がB、X¹がO、X²がN-Rである化合物、Y¹がB、X¹及びX²がOである化合物が好ましく、電子輸送材料として、Y¹がB、X¹及びX²がOである化合物、Y¹がP=O、X¹及びX²がOである化合物が好ましく用いられる(段落【0069】)。 (カ) 本件各発明の多環芳香族化合物及びその多量体は、A環、B環及びC 環(a環、b環及びc環)の少なくとも一つにおける、Y¹に対するパラ位にフェニルオキシ基、カルバゾリル基又はジフェニルアミノ基を導入することで、T1エネルギーの向上(およそ0.01ないし0.1eV向上)が期待できる。特に、Y¹がB(ホウ素)、X¹及びX²がO又はN-R(Rは上記説明どおり)の場合に、B(ホウ素)に対するパラ位にフェニ ルオキシ基を導入することで、A環、B環及びC環(a環、b環及びc環)であるベンゼン環上のHOMOがよりホウ素に対するメタ位に局在化し、LUMOがホウ素に対するオルト及びパラ位に局在化するため、T1エネルギーの向上が特に期待できる(段落【0246】)。 (キ) 化合物中の末端のフェニル基やp-フェニレン基のオルト位における 少なくとも一つの水素をメチル基などで置換することにより、隣り合う芳香環同士が直交しやすくなって共役が弱まる結果、三重項励起エネルギー(ET)を高めることが可能となる(段落【0263】)。 (ク) 本件各発明の多環芳香族化合物及びその多量体の具体的な例が、段落【0070】ないし【0280】に記載されている。 エ多環芳香族化合物及びその多量体の製造方法(ア) 構造に応じた製造方法のスキーム(1)ないし(27)が その多量体の具体的な例が、段落【0070】ないし【0280】に記載されている。 エ多環芳香族化合物及びその多量体の製造方法(ア) 構造に応じた製造方法のスキーム(1)ないし(27)が説明とともに示されており、それらスキームの概要は以下のとおりである。 (イ) 一般式(1)や(2)で表される多環芳香族化合物及びその多量体は、基本的には、まずA環(a環)とB環(b環)及びC環(c環)とを結合 基(X¹やX²を含む基)で結合させることで中間体を製造し(第1反応)、その後に、A環(a環)、B環(b環)及びC環(c環)を結合基(Y¹を含む基)で結合させることで最終生成物を製造することができる(第2反応)(段落【0281】)。 (ウ) 第1反応では、例えばエーテル化反応であれば、求核置換反応、ウルマ ン反応といった一般的反応が利用でき、アミノ化反応であればブッフバ ルト-ハートウィッグ反応といった一般的反応が利用できる。また、第2反応では、タンデムヘテロフリーデルクラフツ反応(連続的な芳香族求電子置換反応、以下同様)が利用できる(段落【0281】)。 第2反応は、下記スキーム(1)や(2)に示すように、A環(a環)、B環(b環)及びC環(c環)を結合するY¹を導入する反応であり、例 としてY¹がホウ素原子、X¹及びX²が酸素原子の場合を以下に示す。まず、X¹とX²の間の水素原子をn-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム又はt-ブチルリチウム等でオルトメタル化する。次いで、三塩化ホウ素や三臭化ホウ素等を加え、リチウム-ホウ素の金属交換を行った後、N、N-ジイソプロピルエチルアミン等のブレンステッド塩基を 加えることで、タンデムボラフリーデルクラフツ反応させ、目的物を得ることができる 素等を加え、リチウム-ホウ素の金属交換を行った後、N、N-ジイソプロピルエチルアミン等のブレンステッド塩基を 加えることで、タンデムボラフリーデルクラフツ反応させ、目的物を得ることができる。第2反応においては反応を促進させるために三塩化アルミニウム等のルイス酸を加えてもよい(段落【0282】)。 (エ) 多量体については、複数のA環(a環)、B環(b環)及びC環(c環)を有する中間体を用いることで製造することができる。詳細は下記スキーム(3)ないし(5)のとおりである。この場合、使用するブチルリチウム等の試薬の量を2倍量、3倍量とすることで目的物を得ることができる(段落【0284】)。 上記スキームにおいては、オルトメタル化により所望の位置へリチウムを導入したが、下記スキーム(6)および(7)のようにリチウムを導入したい位置に臭素原子等を導入し、ハロゲン-メタル交換によっても所望の位置へリチウムを導入することができる(段落【0286】)。 (オ) 上記スキームにおいては、オルトメタル化により所望の位置へリチウム を導入したが、スキーム(6)及び(7)のようにリチウムを導入したい位置に臭素原子等を導入し、ハロゲン-メタル交換によっても所望の位置へリチウムを導入することができる(段落【0286】)。 また、スキーム(3)で説明した多量体の製造方法についても、上記スキーム(6)及び(7)のようにリチウムを導入したい位置に臭素原子や 塩素原子等のハロゲンを導入し、ハロゲン-メタル交換によっても所望の位置へリチウムを導入することができる(スキーム(8)、(9)及び(10))(段落【0288】)。 この方法によれば、置換基の影響でオルトメタル化 を導入し、ハロゲン-メタル交換によっても所望の位置へリチウムを導入することができる(スキーム(8)、(9)及び(10))(段落【0288】)。 この方法によれば、置換基の影響でオルトメタル化ができないようなケースでも目的物を合成することができ有用である(段落【0290】)。 上記の合成法を適宜選択し、使用する原料も適宜選択することで、所望の位置に置換基を有し、Y1がホウ素原子、X1及びX2が酸素原子である多環芳香族化合物及びその多量体を合成することができる(段落【0291】)。 (カ) その他の例として、Y1がホウ素原子、X1及びX2が窒素原子である場 合の多環芳香族化合物及びその多量体の合成のスキーム(スキーム(11)及び(12)。段落【0292】)、Y1がホウ素原子、X1及びX2が窒素原子である場合の多量体について、上記スキーム(6)及び(7)のようにリチウムを導入したい位置に臭素原子や塩素原子等のハロゲンを導入し、ハロゲン-メタル交換によっても所望の位置へリチウムを導入 することができること(スキーム(13)、(14)及び(15)。段落【0 294】)、Y1がリンスルフィド、リンオキサイドまたはリン原子、X1及びX2が酸素原子である多環芳香族化合物及びその多量体の合成のスキーム(スキーム(16)ないし(19)。段落【0296】)、Y1がリンスルフィド、リンオキサイドまたはリン原子、X1及びX2が酸素原子である場合の多量体について、上記スキーム(6)及び(7)のようにリチ ウムを導入したい位置に臭素原子や塩素原子等のハロゲンを導入し、ハロゲン-メタル交換によっても所望の位置へリチウムを導入することができること(スキーム(20)、(21)及び(22)。段落【0298】)がそれ したい位置に臭素原子や塩素原子等のハロゲンを導入し、ハロゲン-メタル交換によっても所望の位置へリチウムを導入することができること(スキーム(20)、(21)及び(22)。段落【0298】)がそれぞれ示されている。 (キ) 上記ではY1が、B、P、P=O又はP=Sであり、X1及びX2がOま たはNRである例を記載したが、原料を適宜変更することで、Y1が、Al、Ga、As、S-R又はGe-Rであったり、X1及びX2がS である化合物も合成することができること(段落【0300】)、以上の反応で用いられる溶媒の具体例は、t-ブチルベンゼンやキシレンなどであることなどが記載されている(段落【0301】)。 (ク) 一般式(2)で表される多環芳香族化合物は、a環、b環及びc環における置換基の相互の結合形態によって、スキーム(23)及び(24)(スキーム(23)及び(24)及びそこに示された式(2-1)及び(2-2)。段落【0302】)に示すように、化合物を構成する環構造が変化すること、これらの化合物はスキーム(23)及び(24)に示す中間体に 上記スキーム(1)ないし(19)で示した合成法を適用することで合成することができることが記載されている(段落【0302】)。 (ケ) スキーム(1)ないし(17)及び(20)ないし(25)の合成法では、三塩化ホウ素や三臭化ホウ素等を加える前に、X1及びX2の間の水素原子(またはハロゲン原子)をブチルリチウム等でオルトメタル化す ることで、タンデムヘテロフリーデルクラフツ反応させた例を示したが、 ブチルリチウム等を用いたオルトメタル化を行わずに、三塩化ホウ素や三臭化ホウ素等の添加により反応を進行させることもできることが記載されている(段落【0307】)。 したが、 ブチルリチウム等を用いたオルトメタル化を行わずに、三塩化ホウ素や三臭化ホウ素等の添加により反応を進行させることもできることが記載されている(段落【0307】)。 また、Y1がリン系の場合には、下記スキーム(26)や(27)に示すように、X1とX2(下記式ではO)の間の水素原子をn-ブチルリチ ウム、sec-ブチルリチウムまたはt-ブチルリチウム等でオルトメタル化し、次いで、ビスジエチルアミノクロロホスフィンを加え、リチウム-リンの金属交換を行った後、三塩化アルミニウム等のルイス酸を加えることで、タンデムホスファフリーデルクラフツ反応させ、目的物を得ることができ、この反応方法は国際公開第2010/104047号 公報(例えば27頁)にも記載されている(段落【0308】)。 (コ) Y1がリン系の場合には、スキーム(26)や(27)(段落【0309】)に示すように、X1とX2(式ではO)の間の水素原子をn-ブチルリチウムsec-ブチルリチウムまたはt-ブチルリチウム等でオルトメタル化し、次いで、ビスジエチルアミノクロロホスフィンを加え、リチウム -リンの金属交換を行った後、三塩化アルミニウム等のルイス酸を加えることで、タンデムホスファフリーデルクラフツ反応させ、目的物を得ることができること(段落【0308】)、上記スキーム(26)や(27)においても、ブチルリチウム等のオルトメタル化試薬を中間体1のモル量に対して2倍、3倍のモル量を使用することで多量体化合物を合成す ることができること、リチウム等のメタルを導入したい位置にあらかじめ臭素原子や塩素原子等のハロゲンを導入しておきハロゲン-メタル交換することで所望の位置へメタルを導入することができることが記載されている(段落【03 、リチウム等のメタルを導入したい位置にあらかじめ臭素原子や塩素原子等のハロゲンを導入しておきハロゲン-メタル交換することで所望の位置へメタルを導入することができることが記載されている(段落【0310】)。 (サ) 段落【0406】には上記(ウ)の一般的な反応としてのウルマン反応によ る第1反応の具体例の記載があり、これにつき【化255】として、以下 のとおり図示されている。 また、段落【0407】には上記(ウ)の第2反応の具体例の記載があり、これにつき【化256】として以下のとおり図示され、結果として化合物(1-2)が得られた旨の記載がある。 (シ) 合成例(1)ないし(86)として、多環芳香族化合物の合成例が、収率やNMR測定などの物性値とともに、示されている(段落【0401】ないし【0759】)。 オ有機電界発光素子及びその他の有機デバイス (ア) 有機電界発光素子について(段落【0318】ないし【0391】)有機電界発光素子の構造(段落【0319】)や材料の一般的な記載(段落【0325】等)及び応用例(段落【0392】)としての表示装置(段落【0393】)又は照明装置(段落【0396】)の記載に加え、一般式(1)で表される多環芳香族化合物又はその多量体が、発光層用の材料 (段落【0331】)、ホスト材料(段落【0333】)、ドーパント材料(段落【0334】)、電子輸送層又は電子注入層を形成する材料(電子輸送材料、段落【0359】)、正孔注入層及び正孔輸送層を形成する材料(正孔輸送材料、段落【0388】)として使用することができることが記載されている。 (イ) 本件各発明に係る多環芳香族化合物及びその多量体は、上記の有機電界発光素 料(正孔輸送材料、段落【0388】)として使用することができることが記載されている。 (イ) 本件各発明に係る多環芳香族化合物及びその多量体は、上記の有機電界発光素子の他に、有機電界効果トランジスタ又は有機薄膜太陽電池などの作製に用いることができる(段落【0397】)。 (ウ) 段落【0402】ないし【0758】には実施例1ないし80及び比較例1ないし3の記載があり、実施例では、上記ウ(ク)に示された具体的な 例の化合物や、上記エ(シ)の合成例で合成した化合物を、発光層のドーパント又はホスト材料や電子輸送層に用いて有機EL素子を作製し、青色又は緑色の発光色とその波長、外部量子効率やCIE色度が示されている。 なお、外部量子効率は、100cd/m2(実施例1ないし14、65) 又は1000cd/m2(実施例6ないし64、66ないし69、73ないし75、77ないし80)の輝度が得られる電流密度で駆動した際の測定値であり、2ないし8%程度(リン光材料としてドーパントに段落【0780】のIr(PPy)₃(トリス(2-フェニルピリジン)イリジウム(乙9、412頁)。本件優先日前に室温で高効率発光する緑色リ ン光発光材料として知られていたイリジウム錯体(甲11)。)を用いた実施例5ないし14、17ないし19、54ないし61においては、5ないし17%程度)の測定値が示されている。 (エ) 段落【0765】ないし【0849】には、実施例1ないし34として、各実施例について、ドーパント、ホスト及び電子輸送層の内容が記載さ れている。 (オ) 段落【0850】ないし【0875】には、実施例35ないし53及び比較例1(ドーパント)が記載されているところ、実施例における青色発光は439ないし 送層の内容が記載さ れている。 (オ) 段落【0850】ないし【0875】には、実施例35ないし53及び比較例1(ドーパント)が記載されているところ、実施例における青色発光は439ないし478nmであり、輝度1000cd/m2における外部量子効率(以下同じ)は、2.75ないし6.50%である。一方比較 例は、青色発光は471nm、外部量子効率は、3.67%である。 そのうち、段落【0865】には、実施例44として、化合物(1-2681)を発光層のドーパント材料に用いた素子につき、「発光層のドーパント材料である化合物(1-79)を化合物(1-2681)に替えた以外は実施例35に準じた方法で有機EL素子を得た。両電極に直流電圧を印加すると、約465nmにピークトップを有する青色発光が得ら れた。その時のCIE色度は(x,y)=(0.127,0.091)であり、輝度1000cd/m2における外部量子効率は5.25%であった。」との記載がある。実施例44の素子構成は、段落【0851】に記載があるところ、正孔注入層2(5nm)にはHAT-CNが用いられている。 上記化合物(1-2681)は、段落【0182】に【化133】として以下のとおり記載されており、その合成例の記載は、段落【0680】の合成例68、【化459】として記載されている。 (カ) 段落【0876】ないし【0889】には、実施例54ないし61及び 比較例2(電子輸送層)が記載されているところ、実施例における緑色発光は510nmであり、外部量子効率は、7.94ないし17.24%である。一方、比較例は、緑色発光は510nm、外部量子効率は、7.50%である。 (キ) 段落【0915】ないし【0932】には、実施例70ないし あり、外部量子効率は、7.94ないし17.24%である。一方、比較例は、緑色発光は510nm、外部量子効率は、7.50%である。 (キ) 段落【0915】ないし【0932】には、実施例70ないし80及び 比較例3(電子輸送層)が記載されているところ、実施例における青色発光は456nmであり、外部量子効率は、5.33ないし7.56%であ る。一方、比較例は、青色発光は456nm、外部量子効率は、5.10%である。 カ産業上の利用可能性本件各発明によれば、新規な多環芳香族化合物を提供することで、有機EL素子用材料の選択肢を増やすことができ、新規な多環芳香族化合物を 有機電界発光素子用材料として用いることで、優れた有機EL素子、それを備えた表示装置及びそれを備えた照明装置などを提供することができるとされている(段落【0933】)。 2 取消事由1(サポート要件違反に関する判断の誤り、無効理由1に対応)について ⑴ 判断基準特許請求の範囲の記載がサポート要件(特許法36条6項1号)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識 できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解される。 ⑵ 本件各発明が解決しようとする課題の認定発明の課題は、原則として、発明の詳細な説明の記載から把握すべきであ るところ、一般に、化学物質に関する発明の課題は、新規かつ ものと解される。 ⑵ 本件各発明が解決しようとする課題の認定発明の課題は、原則として、発明の詳細な説明の記載から把握すべきであ るところ、一般に、化学物質に関する発明の課題は、新規かつ有用な化学物質を提供することにあるものと考えられる。 前記1⑵ア(エ)のとおり、本件各発明が解決しようとする課題として、有機EL素子用材料の選択肢を増やすために、従来のものとは異なる化合物からなる材料の開発が望まれていたが、公知文献で報告されたNO連結系化合物 以外の材料から得られる有機EL特性やその製造方法は未だ知られていなか った(段落【0008】)ところ、同(オ)のとおり、その課題を解決するための手段として、ホウ素原子と酸素原子などで複数の芳香族環を連結した新規な多環芳香族化合物を見出してその製造に成功し、この多環芳香族化合物を含有する層を一対の電極間に配置して有機EL素子を構成することにより、優れた有機EL素子が得られることを見出して本件各発明を完成させたもので ある。本件各発明は、多環芳香族化合物またはその多量体、多環芳香族化合物またはその多量体を含む有機EL素子用材料を提供するもの(段落【0009】)としている。 そして、本件明細書の発明の詳細な説明には、前記1⑵カ(段落【0933】)のとおり、本件各発明は、新規な多環芳香族化合物を提供し、有機EL 素子用材料の選択肢を増やすものであるほか、その化合物を用いることで、優れた有機EL素子や、それを備えた表示装置及び照明装置などを提供するものであることが示されている。 そうすると、前記1⑵ア、イ(特に本件明細書の段落【0001】ないし【0009】、【0034】)の記載から、化合物の発明である本件発明1ない し5の解決しようとする課題は、 示されている。 そうすると、前記1⑵ア、イ(特に本件明細書の段落【0001】ないし【0009】、【0034】)の記載から、化合物の発明である本件発明1ない し5の解決しようとする課題は、有機EL素子用材料として新規かつ有用な化合物の提供であり、上記化合物を材料、素子及び装置に用いる用途に係る発明である本件発明9ないし20及び25ないし28の解決しようとする課題は、上記化合物を含有する、有機電界発光素子材料などの有機デバイス用材料、有機電界発光素子、表示装置及び照明装置の提供であり、化合物の製 造方法の発明である本件発明21ないし24の解決しようとする課題は、上記化合物の製造方法の提供であるとそれぞれ認められるところであり、これらは、本件審決が認定した(本件審決第6の1(4)ア、84頁21行目ないし30行目)とおりである。 ⑶ 本件明細書の記載とサポート要件の充足性の判断 前記1⑵アないしウのとおりの本件明細書の記載から認められる事実によ れば、本件各発明の化合物は、芳香環であるA環、B環及びC環を、縮合2環構造(D構造)のホウ素又はリンと、酸素、窒素、硫黄又はセレンの、ヘテロ原子で結合した化学構造を有するものである点に特徴を有するものであること、並びにその結合によりπ共役系を拡張した多環芳香族化合物でありながら、D構造の芳香族性の低さ及びD構造のヘテロ元素の電子的な摂動(前 記1⑵イ(エ)、段落【0035】)による特長を有する、有機EL素子用材料として使用することのできる新規かつ有用な化学物質であることが理解できる。 本件各発明の化合物の持つこのような特長により、これらを有機電界発光素子の材料等として用いた場合には、大きなHOMO-LUMOギャップを有するか、高い三重項励起エネルギー であることが理解できる。 本件各発明の化合物の持つこのような特長により、これらを有機電界発光素子の材料等として用いた場合には、大きなHOMO-LUMOギャップを有するか、高い三重項励起エネルギー(ET)を有するか(段落【0035】)、 あるいは三重項励起状態(T1)と一重項励起状態(S1)のエネルギー差が小さくなる(段落【0036】)などの特性を発揮する優れた性質を持つものとなる。 そして、上記1⑵の本件明細書に示された記載により、本件各発明の化合物を製造できること(前記1⑵ウ、エ)、本件各発明の化合物を有機電界発光 素子における発光層用材料や電荷輸送材料として使用することができること、及びそのような有機電界発光素子を備えた表示装置や照明装置にできること、有機電界効果トランジスタまたは有機薄膜太陽電池などの作成に用いることができること(前記1⑵オ)、がそれぞれ理解できる。 そうすると、本件各発明に係る特許請求の範囲に記載された発明は、本件 明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であり、その発明の詳細な説明の記載により、当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものということができる。 以上の検討によれば、本件明細書の記載はサポート要件を欠くものではないから、原告の主張する取消事由1は理由がない。 ⑷ 原告の主張に対する判断 ア原告は、本件各発明の課題は優れた有機EL素子材料の提供にあるところ、そこにいう「優れた」の意味するところによれば、「従来技術の平均的な素子の外部量子効率を超える優れた有機EL素子材料の提供」が本件各発明の課題であると解されると主張する。 しかし、本件明細書には「優れた有機EL素子材料の提供」(段落【00 34】等)との記載があるものの 率を超える優れた有機EL素子材料の提供」が本件各発明の課題であると解されると主張する。 しかし、本件明細書には「優れた有機EL素子材料の提供」(段落【00 34】等)との記載があるものの、そこにいう「優れた」の意味について、原告が主張するような従来技術の平均的な素子の外部量子効率を超えたものを意味するとの記載はない。むしろ、本件明細書の記載によれば、そこにいう「優れた」とは、本件各発明の化合物が、その構造上の特徴である縮合2環構造(D構造)により(前記1⑵イ(エ)、(オ)及びウ(キ)参照、段落 【0035】、【0036】及び【0263】)、本件明細書の段落【0035】及び【0036】に示されたような、大きなHOMO-LUMOギャップ、高い三重項励起エネルギー、三重項励起状態(T1)と一重項励起状態(S1)のエネルギー差が小さいことなどの分子軌道論上の特性を有する材料であることを意味するものであり、外部量子効率の観点のみから 従来技術を超えるものであることを直ちに意味するものではないと解される。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。 イ原告は、比較例よりも外部量子効率の劣る実施例や、審判段階での提出証拠(甲26、本件審決の乙12)によれば、本件各発明は課題を解決す ることができない発明を含んでおり、サポート要件を満たさない旨を主張する。 しかし、本件各発明の課題については上記⑵のとおり認められるところであり、原告の主張するような従来技術の平均的な素子の外部量子効率を超えることを課題とした発明ではないから、本件各発明の課題を従来技術 の平均的な素子の外部量子効率を超える優れた有機EL素子材料の提供 にあるとする原告の主張は、その前提を欠くものである。 た発明ではないから、本件各発明の課題を従来技術 の平均的な素子の外部量子効率を超える優れた有機EL素子材料の提供 にあるとする原告の主張は、その前提を欠くものである。 この点につき、原告が提出する甲47における(J-1)構造である本件各発明の化合物(以下「本件化合物」という。)(1-2681)は、その分析において、正孔注入層2は(60nm)であり、用いられているのもTBB(本件明細書の段落【0771】及び【0772】参照)である から、本件明細書の段落【0865】に示された実施例44における外部量子効率と直ちに比較することはできないものである。 既に述べたとおり、本件明細書は、外部量子効率の向上が本件各発明の課題であると記載しているものではないし、比較例化合物の外部量子効率と同等以上の外部量子効率を得ることの意義についての具体的な記載や、 本件優先日前に達成された水準あるいは本件明細書に記載された比較例において示されたものと比較して、より高い外部量子効率を発揮する化合物として本件各発明を説明しているものでもない。そもそも有機EL素子の外部量子効率は、含有させた個々の化合物やその組み合わせ、層構成等により変わるものであり(前記1⑵ア(イ)、本件明細書段落【0005】及 び【0008】参照)、本件各発明の化合物を含有させた有機EL素子の中に外部量子効率の観点からは低いものが存在するからといって、直ちに、その化合物が、発光層材料や電荷輸送用材料などの有機EL素子用材料として有用ではなく、上記分子軌道論上の特性を有することにより備える性質により、上記で認定した本件各発明の課題を解決することができないも のであるということはできない。 したがって、原告の上記主張は採用することができない 上の特性を有することにより備える性質により、上記で認定した本件各発明の課題を解決することができないも のであるということはできない。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。 ウ原告は、①B環やC環としてπ共役系を拡大したアリールを選択すると、本件各発明の化合物であっても、HOMO-LUMOギャップが小さくなり、ΔESTが大きくなって、発光色が長波長化するシミュレーション結果 が得られ(甲46、52)、②B環又はC環において、ヘテロアリールのヘ テロ環がD構造に直結した化合物を合成して発光素子のドーパントとすると、本件各発明の化合物であっても、色座標が変化し、外部量子効率の数値が悪化する実験結果が得られた(甲47)ことから、本件発明1ないし5は、課題を解決することができない発明を含んでいる旨を主張する。 しかし、原告の上記主張は、結局のところ、本件各発明の課題につき、 外部量子効率の観点から、従来技術の平均的な素子の外部量子効率を超える優れた有機EL素子材料の提供とすることを前提とするものであるから、既に述べたとおり、原告主張はその前提を欠くものである。 また、π共役系を拡大するほど、HOMO-LUMOギャップが小さくなり、ΔESTが大きくなって、発光色がエネルギーギャップの減少に応じ て長波長化する傾向を示すことは、前記1⑵イ(ウ)の段落【0006】の記載に示されているように、本件優先日前の技術常識である。そうすると、原告が提示する上記シミュレーションの結果は、当該技術常識と整合的なシミュレーション結果が得られたことを示すものとはいえても、本件各発明が、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものでなく、サポート 要件を欠くことを示すものとはいえない。 識と整合的なシミュレーション結果が得られたことを示すものとはいえても、本件各発明が、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものでなく、サポート 要件を欠くことを示すものとはいえない。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。 エ原告は、本件発明1ないし5は、AないしC環及びその置換基の定義が広く、無限定であるのに対し、本件明細書には一部の具体例が記載されているのみであり、具体例に示される以外の化合物として外部量子効率の極 めて悪い化合物や発光波長が青色以外又は可視領域外であるものまで包含し得るから、課題を解決できる化合物として、特許請求の範囲全体にまで拡張ないし一般化することはできず、サポート要件を欠く旨を主張する。 しかし、原告の主張は、既に述べたとおり、本件各発明の課題を外部量子効率の観点のみから捉えるものであり、前提を欠くものである。 また、本件各発明の課題は、発光材料以外の有機EL素子用材料の提供 をも含むものであり、特定の発光波長域の化合物の提供を課題としたものではなく、本件各発明に係る化合物が、前記分子軌道論上の特性を有することにより備える性質を持つことをもって足りるものというべきであり、サポート要件を欠くものではない。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。 3 取消事由2(実施可能要件違反に関する判断の誤り、無効理由2に対応)について⑴ 判断基準特許法36条4項1号に規定する実施可能要件については、明細書の発明の詳細な説明が、当業者において、その記載及び出願時の技術常識に基づい て、過度の試行錯誤を要することなく、特許請求の範囲に記載された発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているかを検討すべきである が、当業者において、その記載及び出願時の技術常識に基づい て、過度の試行錯誤を要することなく、特許請求の範囲に記載された発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているかを検討すべきである。 ⑵ 本件明細書の発明の詳細な説明の記載本件明細書には、前記1⑵のとおり、本件発明1、2及び5に係る化合物の発明につき、その化合物の構造上の特徴が示されているところ(前記1⑵ ウ(ア))、併せて、AないしC環・置換基・Y¹、X¹、X²の例示の記載(前記1⑵ウ(ウ)、(オ))、多量体の構造の記載(前記1⑵ウ(エ)及び(カ))、本件化合物の具体例(前記1⑵ウ(ク))、製造方法のスキーム(前記1⑵エ(ア)ないし(サ))及び化合物の合成例(前記1⑵エ(シ))がそれぞれ示されている。 本件発明9ないし20及び25ないし28に係る化合物の用途の発明に つき、有機電界発光素子における本件化合物の使用を含めた有機電界発光素子及びその応用例(前記1⑵オ(ア)、(イ))、及び本件化合物を用いた有機EL素子とした実施例(前記1⑵オ(ウ)ないし(キ))等が記載されている。また、ドーパント材料、ホスト材料又は電子輸送材料とした場合の好ましいY1、X1及びX2の組み合わせ(前記1⑵ウ(オ)、段落【0069】)、有機電界発光素子 の応用例としての表示装置及び照明装置(前記1⑵オ(ア)、段落【0393】、 【0396】)についても記載がされている。 本件発明21ないし24に係る化合物の製法に係る発明については、それらの製造方法により本件発明1ないし5の化合物が最終生成物として製造される旨の記載がある(前記1⑵エ(ア)ないし(シ)、段落【0281】ないし【0310】)ところ、そこには、本件発明21及び22に係るブレンステッド塩 1ないし5の化合物が最終生成物として製造される旨の記載がある(前記1⑵エ(ア)ないし(シ)、段落【0281】ないし【0310】)ところ、そこには、本件発明21及び22に係るブレンステッド塩 基を用いる反応(前記1⑵エ(ウ)、段落【0282】)、本件発明23に係るルイス酸を加えて反応を促進させること(前記1⑵エ(ウ)、段落【0282】)、本件発明24に係る予めハロゲン化する反応工程(前記1⑵エ(オ)、段落【0286】)等についてもそれぞれ示されている。 これら本件明細書の発明の詳細な説明の記載により、当業者は、過度の試 行錯誤を要することなく、本件化合物を製造し、製造したものを使用し、また、本件化合物を用いた有機EL素子等を製造し、使用することができる旨を理解するといえる。 そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が、本件発明1、2、5及び9ないし28の実施をすることができる程度に、明確かつ十分に 記載されたものと認められる。 以上によれば、原告の主張する取消事由2は理由がない。 ⑶ 原告の主張に対する判断ア(ア) 原告は、本件各発明のうち、A環、B環又はC環がヘテロアリール環である化合物については、化合物として記載がなく、合成例もないから、 本件各発明は、明細書の記載及び優先日当時の技術常識を考慮した場合であっても、当業者が実施できない範囲を含む旨を主張するので、以下検討する。 (イ) ヘテロアリール環におけるフリーデルクラフツ反応について、以下の事実が認められる。 a 甲22(本件審決の乙8:OrganicChemistry:Structureand Function(sixthedition) ,2009,p.1175-1177)には、電子分 本件審決の乙8:OrganicChemistry:Structureand Function(sixthedition) ,2009,p.1175-1177)には、電子分布及び共鳴構造の寄与などによって、ベンゼン環に代表されるアリール環よりは、チオフェン環、フラン環およびピロール環などのヘテロアリール環の求電子置換反応における反応性が高いことが示されている(1177頁)。すなわち、求電子置換反応において、これらのヘテロアリール環 の反応性は、アリール環の反応性よりもむしろ高いことが示されている。 b 甲23(本件審決の乙9: MechanisticStudiesintoAmine-MediatedElectrophilicAreneBorylationandItsApplicationinMIDABoronateSynthesis(JournaloftheAmericanChemical Society,2013,Vol.135,p.474-487)には、ヘテロアリール環を有する化合物がアリール環を有する化合物よりも低い温度でヘテロフリーデルクラフツ反応(具体的には、ボラフリーデルクラフツ反応;ヘテロ元素がホウ素)が進行する例が示され、ヘテロアリール環においても、アリール環と同様に、ヘテロフリーデルクラフツ反応は進行し、しか も、ヘテロアリール環では、アリール環と比較して、より穏和な条件(具体的には、より低温)でヘテロフリーデルクラフツ反応が進行する旨が記載されている。 c 原告も、アリール環かヘテロアリール環であるかを問わず、フリーデルクラフツ反応が進行することについては争わない(原告第4準備書 面41頁)。 (ウ) 本件明細書に 旨が記載されている。 c 原告も、アリール環かヘテロアリール環であるかを問わず、フリーデルクラフツ反応が進行することについては争わない(原告第4準備書 面41頁)。 (ウ) 本件明細書には、A環、B環又はC環がヘテロアリール環である化合物が、具体例化合物として複数記載されているほか、段落【0865】の実施例44において、段落【0182】【化133】に示された化合物(1-2681)(合成例の記載は段落【0680】のうちの合成例68、【化 459】)を有機EL素子製造に用いた例も示されている。 本件明細書には、A環、B環又はC環がヘテロアリール環であるときに、D構造に直結する環がヘテロ環である場合を除くとの記載はなく、むしろ、本件明細書に記載されたヘテロアリール環の選択肢が、単環のヘテロアリール環を含んでいることから(前記1⑵ウ(ウ)、段落【0052】)、本件明細書には、A環、B環又はC環がヘテロアリール環であるこ との中に、上記のD構造に直結する環がヘテロ環である場合を含むものとして記載されているといえる。 確かに、本件明細書には、上記実施例44で用いられた化合物や上記D構造に直結する環がヘテロ環である化合物について具体的な合成例は記載されていないが、本件化合物の基本的な製造方法は、既に述べたと おり、請求項21ないし24(本件発明21ないし24)や、本件明細書に記載されている。そして、原告の主張に係る芳香環をヘテロ原子で結合する反応過程については、本件発明21ないし24における連続的な芳香族求電子置換反応(芳香族求電子置換反応であるフリーデルクラフツ反応。段落【0281】、【0282】等)は、上記(イ)のとおり、その芳 香族がアリール環かヘテロアリール環かを問わず進行す 芳香族求電子置換反応(芳香族求電子置換反応であるフリーデルクラフツ反応。段落【0281】、【0282】等)は、上記(イ)のとおり、その芳 香族がアリール環かヘテロアリール環かを問わず進行することは技術常識である。有機EL素子用材料における芳香環として、ヘテロアリール環は常用されているものであるから、当業者であれば、公知の原料を用い、本件明細書に記載の方法に従って、対応する化合物を得られると解するものである。 そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された合成法及び上記(イ)のとおりの技術常識に基づいて、A環、B環又はC環がヘテロアリール環である本件各発明の化合物は、上記実施例44で用いられた化合物や上記D構造に直結する環がヘテロ環である化合物も含み、製造できるものと当業者において理解できると認められる。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。 イ原告は、本件明細書に記載がない非常に複雑な構造のヘテロアリール環を扱う場合においては、過度の試行錯誤なしには実施困難であるといわざるを得ない旨を主張する。 しかし、本件明細書に記載のない非常に複雑な構造のヘテロアリール環とは具体的にどのような構造のものであり、製造過程のどの段階において 過度の試行錯誤が必要とされるかなどについて、原告は具体的に主張しておらず、原告の主張はその前提を欠くものである。 この点を措くとしても、上記アに示したように、A環、B環又はC環がヘテロアリール環である本件各発明の化合物について、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づけば製造することができる旨を 当業者は理解できるものと認められる。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。 4 取 、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づけば製造することができる旨を 当業者は理解できるものと認められる。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。 4 取消事由3-1(甲1発明1に基づく新規性欠如に関する判断の誤り、無効理由3-1に対応)について⑴ 原告の主張する取消事由3-1の内容 甲1の記載及び本件審決が認定した甲1発明1の内容につき、当事者間に争いがない。 甲1発明1は、後記5⑵アの一般式[2-1]及び[2-2]に示される、縮合2環構造を含む単位構造二つが連結基で結合した化合物に関するものである。 原告は、本件各発明の一般式(1)の化合物は、「置換されていてもよ」いとされている(請求項1の記載)一方で、その置換基については限定していないから、一般式(1)で表される単位構造を複数有する化合物は、一の単位構造が、置換基として他の単位構造を有する、本件各発明の単量体化合物であるところ、本件審決は、甲1発明1の化合物を置換単量体と認定せず、 本件各発明の多量体と対比して判断している点で誤りであり、甲1発明1 である化合物60ないし69又は260ないし269は、片方の構造を置換基とする、置換単量体であるのに対し、本件発明1の一般式(1)は置換基を限定していないから、両者は、本件発明1の一般式(1)の化合物(単量体)である点で一致しており、相違するところはないから、新規性を欠如する旨を取消事由3-1として主張する。 ⑵ 検討本件各発明における「多量体」につき検討すると、本件発明1ないし5は、「多量体」について、前記第2の2特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載のとおり、まず「下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物」と記載 における「多量体」につき検討すると、本件発明1ないし5は、「多量体」について、前記第2の2特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載のとおり、まず「下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物」と記載した後、これに続いて「または」として、一般式(1)で表される構造を「複 数有する多環芳香族化合物の多量体」と記載して、この両者を区別し、後者を「多量体」としている(請求項1)。 その上で、その(上記)「多量体」とは、①一般式(1)で表される単位構造に含まれる環を複数の単位構造で共有するようにして結合した形態のもの(以下「共有系多量体」という。)か、「または」、②その単位構造に含ま れる環同士が縮合するようにして結合した形態のもの(以下「縮合系多量体」という。)である、と定義している(請求項1)。 そして、本件明細書の段落【0063】においても、前記1⑵ウ(エ)下線部分記載のとおり、本件各発明の一般式(1)で表される単位構造を複数有するものを多量体として記載している(一般式(2)についても同様)。本件 明細書の他の記載を参照しても、本件明細書には、一つの化合物の全体をみたときに、そこに含まれる一般式(1)又は(2)の単位構造の数で、多量体か単量体かを分けて考える旨の記載しか存しない(例えば、本件明細書の段落【0064】の式(2-4)の化合物を多量体化合物として説明することなど。前記1⑵ウ(エ)下線部分等参照。なお、本件明細書の段落【028 4】、【0285】【化225】では、単量体と区別して多量体(共有系多量 体、縮合系多量体)の製造方法を示していることも同様。)。 上記検討によれば、本件各発明の一般式(1)におけるA環、B環又はC環が有していてもよい置換基の内容については特段の限定がなくとも、一 体、縮合系多量体)の製造方法を示していることも同様。)。 上記検討によれば、本件各発明の一般式(1)におけるA環、B環又はC環が有していてもよい置換基の内容については特段の限定がなくとも、一般式(1)又は(2)で表される単位構造を複数有する化合物は、前記多量体に係る定義によれば、本件各発明において「多量体」に区分されるものと いうことができる。 そして、原告の主張する「他の単位構造」が「置換基」である化学物質とは、一つの単位構造に対して、「単結合」で結合した基に「他の単位構造」が存在することが前提となるところ、本件明細書の段落【0063】には、単位構造の連結に関する説明として、「上記単位構造が単結合、炭素数1な いし3のアルキレン基、フェニレン基、ナフチレン基などの連結基で複数結合した形態」と記載されているところ、これは、一つの単位構造に対して、他の単位構造が、単結合で直接結合するか、あるいは、単結合で結合した連結基を介して、間接的に結合したものを指すということができる。 そして、そこに示された連結に係る多量体とは、原告が主張する、「置換基」 として「他の単位構造」が存在する形態であるものにほかならないところ、これは、前記多量体の定義によれば、本件各発明の「多量体」には含まれないものである。 この点について、本件明細書の段落【0063】には結合に関する三つの形態が記載されているところ、そこに開示されている技術的思想において、 多量体は、甲1発明1のような単位構造を連結基で複数結合した形態である連結系多量体と、本件発明1ないし5で特定され、本件各発明に係る多量体として定義されたところの、単位構造に含まれる任意の環を複数の単位構造で共有するようにして結合した形態(共有系多量体)及び単位構造に含まれる任意 本件発明1ないし5で特定され、本件各発明に係る多量体として定義されたところの、単位構造に含まれる任意の環を複数の単位構造で共有するようにして結合した形態(共有系多量体)及び単位構造に含まれる任意の環同士が縮合するようにして結合した形態(縮合系多量体)と を意味するところ、前記本件特許の特許請求の範囲請求項1の定義によれ ば、本件各発明に係る多量体は、共有系多量体及び縮合系多量体に限られるものである。 これは、本件各発明に係る多量体を、前記定義に係る多量体に限定した本件訂正(本件訂正前の特許請求の範囲の記載は別紙3記載のとおり。本件訂正に係る訂正部分は、別紙2の下線部分。)の趣旨に沿うものであり、原告 も、本件(訂正)「発明1では、多量体の構造が甲1発明の連結系2量体を含まないように限定されたため」と述べている(甲39、7頁。本件発明2につき同旨)とおりであり、原告も理解している(本件審決99頁23行目ないし26行目)とされているところである。 以上によれば、甲1発明1は、本件発明1における多量体からは除外され た、連結系多量体にあたるものと認められる。このことは本件発明2ないし5についても、本件発明1と同様である。そうすると、本件発明1ないし5は、甲1発明1であるとはいえない。 以上によれば、原告の主張する取消事由3-1は、理由がない。 ⑶ 原告の主張に対する判断 原告は、本件各発明の一般式(1)で表される単位構造を複数有する化合物は、一の単位構造が、置換基として他の単位構造を有する本件各発明の単量体化合物であり、本件発明1ないし5は、甲1発明1により新規性を欠如する旨を主張する。 しかし、上記⑵で検討したとおり、甲1発明1の化合物は、本件発明1の 一般式(1)で表される 発明の単量体化合物であり、本件発明1ないし5は、甲1発明1により新規性を欠如する旨を主張する。 しかし、上記⑵で検討したとおり、甲1発明1の化合物は、本件発明1の 一般式(1)で表される単位構造を複数有する「多量体」であるから、甲1発明1の化合物は、本件各発明の「多量体」に区分されるが、その単位構造の結合形態が本件発明で定義する「共有」又は「縮合」には該当しないことから、甲1発明1は、本件発明1であるとはいえない。 また、本件明細書の段落【0063】には単位構造が「単結合」「で複数 結合した形態」を、上記共有形態及び縮合形態とは区別して記載していると ころ、甲1発明1の化合物は、この「単結合」で2個結合した形態の多量体である。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。 5 取消事由3-2(甲1発明1及び2に基づく進歩性欠如に関する判断の誤り、無効理由3-2に対応)について ⑴ 甲1の記載及び甲1発明1及び2の本件審決の認定に争いはない。 原告は、甲1発明1及び2の多量体(連結系2量体)から、本件発明1の単量体が容易に想到されるから、本件審決の判断には誤りがある旨を主張する。 ⑵ 甲1には、以下の記載がある(下線は判決で付記)。 ア一般式[2-1]及び[2-2](明細書の発明を実施するための形態、 段落[0031]) イ請求項1の記載下記一般式[1]で表される化合物。 【化1】 [一般式[1]において、Ar1は単結合または下記のいずれかの構造を表し;【化2】 Q1およびQ2は、ともに=CH-であるか、Q1が単結合でQ2が-CH=CH-であるか、Q1が-CH=CH-でQ2が単結合であり;p は下記のいずれかの構造を表し;【化2】 Q1およびQ2は、ともに=CH-であるか、Q1が単結合でQ2が-CH=CH-であるか、Q1が-CH=CH-でQ2が単結合であり;pは0~3のいずれかの整数を表し;qは0~3のいずれかの整数を表し;Eは 酸素原子、硫黄原子を表すか、または炭素原子、珪素原子、窒素原子、リン原子、ホウ素原子もしくは硫黄原子を介して連結する原子団を表し;X1は、酸素原子、硫黄原子、炭素原子、窒素原子、リン原子および珪素原子からなる群より選択される1つの原子を介して連結する連結基を 表し;Y1は、窒素原子、ホウ素原子およびリン原子からなる群より選択される1つの原子を介して連結する連結基を表し;L1とL2、L3とL4のいずれか一方は、互いに結合して酸素原子、硫黄原子、炭素原子、窒素原子、リン原子および珪素原子からなる群より選 択される1つの原子を介して連結する連結基を表し、L1とL2、L3とL4の他方は、各々独立に、水素原子または置換基を表し;R1、R2、R5~R7およびR10~R12は、各々独立に、水素原子または置換基を表し、R5とR6、R6とR7、R10とR11、R11とR12は、互いに結合して連結基を形成していてもよく; n1は2以上のいずれかの整数を表し、分子内にn1個存在するX1、Y1、R1、R2、R5~R7およびR10~R12は、それぞれ互いに同一であっても異なっていてもよく;Arが単結合であるとき、隣接する2つのR1同士が互いに結合して連結基を形成していてもよく、隣接する2つのR2同士が互いに結合して連 結基を形成していてもよい。]ウ明細書の記載・ 「上記の課題を解決するために鋭意検討を進めた結果、本 結合して連結基を形成していてもよく、隣接する2つのR2同士が互いに結合して連 結基を形成していてもよい。]ウ明細書の記載・ 「上記の課題を解決するために鋭意検討を進めた結果、本発明者らは、分子内に特定の環状構造を複数有する化合物が熱的に安定で電荷輸送材料として優れた特性を有しており、有機デバイスに効果的に利用できる ことを見出した。本発明者らは、この知見に基づいて、上記の課題を解決する手段として、以下の本発明を提供するに至った。」(段落[0008])・「一般式[1]で表される化合物の別の好ましい範囲として、下記の一般式[2]で表される化合物を挙げることができる。 【化12】 」(段落[0027])・「一般式[2]において、X1 およびX4 は、各々独立に、酸素原子、硫黄原子、炭素原子、窒素原子、リン原子および珪素原子からなる群より選択される1つの原子を介して連結する連結基を表す。X1 およびX4 の説 明と好ましい範囲については、一般式[1]のX1 の記載を参照することができる。X1 およびX4 は同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。 L1 とL2、L3 とL4 のいずれか一方は、互いに結合して、酸素原子、硫黄原子、炭素原子、窒素原子、リン原子および珪素原子からなる群よ り選択される1つの原子を介して連結する連結基を表す。また、L5 とL6、L7 とL8 のいずれか一方は、互いに結合して、酸素原子、硫黄原子、炭素原子、窒素原子、リン原子および珪素原子からなる群より選択される1つの原子を介して連結する連結基を表す。L1 とL2 が互いに結合して連結基を表すとき、L5 とL6 が互いに結合して連結基を表すことが好 ましい 原子および珪素原子からなる群より選択される1つの原子を介して連結する連結基を表す。L1 とL2 が互いに結合して連結基を表すとき、L5 とL6 が互いに結合して連結基を表すことが好 ましい。また、L3 とL4 が互いに結合して連結基を表すとき、L7 とL8が互いに結合して連結基を表すことが好ましい。L1 とL2、L3 とL4 のいずれか一方が表す連結基と、L5 とL6、L7 とL8 のいずれか一方が表す連結基は、互いに同一であっても異なっていてもよいが、同一である ことが好ましい。また、L1 とL2、L3 とL4 のいずれか一方が表す連結基と、L5 とL6、L7 とL8 のいずれか一方が表す連結基と、X1 およびX 4 が表す連結基は、同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。 Y1 およびY2 は、各々独立に、窒素原子、ホウ素原子およびリン原子 からなる群より選択される1つの原子を介して連結する連結基を表す。 Y1 およびY2 の説明と好ましい範囲については、一般式[1]のY1 の記載を参照することができる。Y1 とY2 は同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。」(段落[0028])・「一般式[2]の好ましい構造として、下記の一般式[2-1]および 一般式[2-2]を挙げることができる。一般式[2-1]および[2-2]におけるX1、X4、Y1、Y2、R1~R4、R5~R7、R10~R12、R13~R15 およびR18~R20 の定義と好ましい範囲については、一般式[2]における対応する記載を参照することができる。X2、X3、X5 およびX 6 の定義と好ましい範囲は、一般式[2]におけるX1 の定義と好ましい 範囲と同じである。また、X1~X6 一般式[2]における対応する記載を参照することができる。X2、X3、X5 およびX 6 の定義と好ましい範囲は、一般式[2]におけるX1 の定義と好ましい 範囲と同じである。また、X1~X6 は、互いに同一であっても異なっていてもよい。L11~L18 は、各々独立に、水素原子または置換基を表す。 L11~L18 がとりうる置換基の定義と好ましい範囲については、一般式[1]における連結基でないL1~L4 がとりうる置換基の記載を参照することができる」(段落[0030]) ・「以下に一般式[1]で表される化合物の具体例を例示する。なお、本発明の一般式[1]で表される化合物の範囲は、以下の具体例によって限定的に解釈されるべきものではない。以下の表1および2は一般式[2-1]で表される化合物の具体例であり、以下の表3および4は一般式[2-2]で表される化合物の具体例であり、以下の表5および6 は一般式[5]で表される化合物の具体例であり、以下の表7および8 は一般式[6]で表される化合物の具体例であり、以下の表9および10は一般式[7]で表される化合物の具体例である。」(段落[0052])・[表1-1]の一部(化合物60ないし69に係る部分のみ)「 」(段落[0053])・[表3-1]の一部(化合物260ないし269に係る部分のみ)「 」(段落[0055]) ・「[一般式[1]で表される化合物の合成]一般式[1]で表される化合物の合成法は特に制限されない。一般式[1]で表される化合物の合成は、既知の合成法や条件を適宜組み合わせることにより行うことができる。」(段落[0063])・「 例えば、好ましい合成法として、下記のスキーム1で表される合成法 ]で表される化合物の合成は、既知の合成法や条件を適宜組み合わせることにより行うことができる。」(段落[0063])・「 例えば、好ましい合成法として、下記のスキーム1で表される合成法 を挙げることができる。ここでは一般式[2]で表される化合物の合成スキームとして記載する。」(段落[0064]) ・「【化22】 」(段落[0065])・「一般式[11]および一般式[12]におけるX1、X4、Y1、Y2、L 1~L8、R5~R7、R10~R12、R13~R15 およびR18~R20 の定義は、一般式[1]および[2]と同じである。一般式[11]および一般式[12]におけるR1~R4 は水素原子または置換基を表し、置換基の説明と好ましい範囲は一般式[1]のR1 およびR2 の置換基の説明と好ましい範囲と同じである。一般式[11]および一般式[12]におけるZは ハロゲン原子を表し、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子であることが好ましく、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子であることがより好ましく、臭素原子であることがさらに好ましい。 スキーム1の反応はカップリング反応であり、通常はカップリング剤を用いて行う。すなわち、一般式[12]のZをメタル化し、パラジウ ム(0)やニッケル(0)を用いた既知のクロスカップリング反応により一般式[1]で表される化合物を合成することができる。反応条件は、既知の条件を参考にして最適化することができる。」(段落[0066])・「スキーム1の合成法は、一般式[1]のAr1 が単結合でない化合物の合成にも適用することができる。例えば、一般式[1]のAr1 が1,3 -フェニレン基である一般式[6]の化合物を合成するときは、スキー の合成法は、一般式[1]のAr1 が単結合でない化合物の合成にも適用することができる。例えば、一般式[1]のAr1 が1,3 -フェニレン基である一般式[6]の化合物を合成するときは、スキー ム1の一般式[11]で表される化合物の代わりに、下記の一般式[13]で表される化合物を用いればよい。他の一般式[1]の化合物も同様にして合成することができる。」(段落[0070])・「【化24】 」(段落[0071])・「[有機エレクトロルミネッセンス素子]典型的な有機エレクトロルミネッセンス素子は、ガラスなどの透明基板上にITOなどの陽極、ホール注入層、ホール輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層、陰極が積層された構造を有する。一般式[1]で 表される本発明の化合物は、その物性に応じて、ホール注入層、ホール輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層の材料として用いることが可能である。例えば、電子輸送材料として有用な一般式[1]で表される化合物(特にY1 およびY2 が>B-または>P(=O)-である化合物)を電子輸送層に使用すれば、陰極から電子注入層を経由して電子輸送層 に注入される電子を効率良く発光層へ輸送することができる。このため、発光層における電子とホールの再結合効率を上げて、消費電力と発熱量を抑えながら高い発光効率を実現することができる。また、それによって有機エレクトロルミネッセンス素子の長寿命化も実現することができる。別の例として、ホール輸送材料として有用な一般式[1]で表さ れる化合物(特にY1 およびY2 が>N-または>P-である化合物)を ホール輸送層に使用すれば、陽極からホール注入層を経由してホール輸送層に注入されるホールを効率良く発光層 れる化合物(特にY1 およびY2 が>N-または>P-である化合物)を ホール輸送層に使用すれば、陽極からホール注入層を経由してホール輸送層に注入されるホールを効率良く発光層へ輸送することができる。このため、発光層における電子とホールの再結合効率を上げて、消費電力と発熱量を抑えながら高い発光効率を実現することができる。また、それによって有機エレクトロルミネッセンス素子の長寿命化も実現する ことができる。 本発明の化合物を用いる有機エレクトロルミネッセンス素子には、有機エレクトロルミネッセンス素子に用いられる既知の材料を適宜選択して組み合わせて用いることができる。本発明の化合物を用いる有機エレクトロルミネッセンス素子には、公知の技術や公知の技術から容易に 想到しうる様々な改変を必要に応じて加えることができる。(段落[0086])・「【化27】 」(段落[0090])・ 「(試験例1)実施例1~4で得られた化合物1、化合物2、化合物24、化合物201(2量体)と比較化合物である化合物A~C(単量体)についてサイクリックボルタンメトリーを行った結果を図1および図2に示す。な お、サイクリックボルタンメトリーは、n-Bu4N+PF6-(0.1mol/l)を支持電解質に用い、参照電極としてAg/Ag+、作用極としてグラッシーカーボン、対極としてPtを用いて、CH2Cl2 溶液中で行った。サイクリックボルタンメトリーの結果より、化合物1、化合物24、化合物201は二段階の可逆な酸化波を示し、この測定条件下に おいて、対応するラジカルカチオンおよびジカチオンが安定に生成することが確認され、ホール輸送材料として優れた特性を示すことが示唆された。化合物2は、 階の可逆な酸化波を示し、この測定条件下に おいて、対応するラジカルカチオンおよびジカチオンが安定に生成することが確認され、ホール輸送材料として優れた特性を示すことが示唆された。化合物2は、二段階の可逆な酸化波に加えて、3、4段階目の二電子酸化に対応する酸化波も可逆に観測され、この測定条件下では、対応するテトラカチオン種までもが安定に生成することが確認され、優れ たホール輸送材料であることが示唆された。化合物1、化合物2、化合物24、化合物201は、サイクリックボルタンメトリーの測定結果と光吸収スペクトルから見積もられるHOMOがいずれも高いためホール注入性にも優れていることが確認された(図3参照)。なお、図3におけるα-NPDとTPDのデータは、Appl. Phys. Lett., 2007, 90, 183503 に基づくものである。」(段落[0130])エ図面の記載・図1 ・図2 ⑶ 検討ア本件発明1ないし5について甲1発明1の化合物60ないし69、260ないし269は、分子内に特定の環状構造を複数有する化合物について、これらが熱的に安定で電荷輸送材料として優れた特性を有している(甲1の段落[0008]等)と して記載された、一般式[2-1]で表される化合物の具体例のうちの一部(甲1の段落[0052])である。甲1には、一般式[2-1]で表される化合物の具体例のみで160の化合物が、全体では1160もの具体例化合物が示されているところ、甲1には、これら具体的に記載された化合物を、別の化学構造の化合物とすることを動機付ける記載はない。 仮に、甲1全体の記載を参酌して、これらを異なる化合物とすることを されているところ、甲1には、これら具体的に記載された化合物を、別の化学構造の化合物とすることを動機付ける記載はない。 仮に、甲1全体の記載を参酌して、これらを異なる化合物とすることを試みたとしても、甲1の一般式[2-1]や[2-2]、さらには一般式[1](特許請求の範囲等)に記載されたものは、いずれも前記4⑵で検討したとおりの連結系多量体を記載したものであるから、これは本件各発明における多量体の定義によれば、本件各発明に属するものではなく、本件各発 明の共有系多量体ないし縮合系多量体に係る多量体に到達するに至る動機付けは存在しない。 そうすると、本件発明1ないし5は、甲1発明1から容易に想到し得たものでない。 イ本件発明9ないし20、25ないし28について 本件発明9ないし20、25ないし28は、本件発明1ないし5のいずれかに記載の多環芳香族化合物又はその多量体を含有する有機デバイス用材料、それら材料を含有する有機電界発光素子、それら有機電界発光素子を備えた表示装置又は照明装置に関する特定を有するものであり、甲1発明2との間には、本件審決が認定したとおりの相違点9-1が存在する ところ、上記アの本件発明1ないし5と同様の理由により、本件発明9な いし20、25ないし28は、当業者が、甲1発明2及び技術常識に基づいて容易に想到をすることができたものであるとはいえない。 ウ小括以上のとおりであるから、本件発明1ないし5、9ないし20及び25ないし28は、当業者が、甲1発明1及び2並びに技術常識に基づいて、 容易に発明をすることができたものではない。 そうすると、原告の主張する取消事由3-2は理由がない。 ⑷ 原告の主張に対する判断ア原告は、「縮合2環構 及び2並びに技術常識に基づいて、 容易に発明をすることができたものではない。 そうすると、原告の主張する取消事由3-2は理由がない。 ⑷ 原告の主張に対する判断ア原告は、「縮合2環構造(D構造)を有する単量体の多環芳香族化合物が有機EL素子材料として好適である」との技術常識が、甲2、甲3及び甲4 4から認められるところ、当該技術常識に基づけば、より製造過程が簡便となる単量体を有機EL素子材料に用いようとする動機付けが認められ、甲1発明1の連結系2量体(連結系多量体)に基づき、対応する単量体の構成自体が容易に想到され、「単量体も優れた作用効果を奏する」との技術常識(甲2、甲3に加え、甲1による)及び甲44より、その効果も当業者が予 測可能なものである旨を主張する。 (ア) しかし、前記⑶アで検討したとおり、甲1には、分子内に特定の環状構造を複数有する化合物が熱的に安定で電荷輸送材料として優れた特性を有していることを前提として、甲1発明の化合物60ないし69及び260ないし269の2量体(多量体)が記載されているにすぎないもの であり、その2量体に換えて、敢えてこれを単量体とすることの動機付けに係る記載があるとはいえない。 (イ) 原告は、甲1が試験例1(甲1の段落[0130])において、化合物1、2、24、201及び比較化合物AないしC(単量体)のサイクリックボルタンメトリーを行い、その結果を図1及び図2に示したことにつ いて、「比較試験を行うのは、(比較化合物である単量体自体が)目的とす る作用効果をある程度有していることを示している」とする。 しかし、甲1には、比較化合物AないしCが有機EL用材料として好適であることが前提として採用された化合物である旨の記載はなく、その る作用効果をある程度有していることを示している」とする。 しかし、甲1には、比較化合物AないしCが有機EL用材料として好適であることが前提として採用された化合物である旨の記載はなく、そのようなものとして比較したとの記載もない。しかも、試験例1で確認したそれらの化合物は、いずれも中央のヘテロ元素が窒素の化合物であって、 ホウ素やリンの化合物でもない。そうすると、原告の主張は、甲1の比較例に対する原告独自の理解を前提とするものであって、甲1に接した当業者が通常理解する内容に基づくものとはいえない。よって、甲1の比較化合物の記載につき、甲1には、単量体化合物が有機EL用材料として有用であることの示唆があるとはいえない。 (ウ) 原告は、甲2、甲3及び甲44から認められる技術常識に基づけば、より製造過程が簡便となる単量体を有機EL素子材料に用いようとする動機付けが認められ、甲1発明1の連結系2量体に基づき、対応する単量体の構成自体が容易に想到されると主張する。 まず、甲2及び甲3については、後記6⑶及び7⑷のとおり、甲2には、 その一般式(1)又は一般式(2)で表される化合物全体の構造を有するものが有機EL素子材料として記載されており、甲3には、縮合2環構造(D構造)を有する場合があるといえる式(1)の化合物が記載されているにすぎないものであり、いずれも本件各発明に係る縮合2環構造(D構造)に着目した記載はない。 そして、原告は、本件訴訟において新たに提出する甲44の化合物4について指摘するところ、甲44には、以下の記載がある。 すなわち、甲44の図1は以下のとおりであり、その中心は元素Bで、そのうちcompound4が、X¹及びX²がOである。X¹、X²の位置については、甲44の本文中 、甲44には、以下の記載がある。 すなわち、甲44の図1は以下のとおりであり、その中心は元素Bで、そのうちcompound4が、X¹及びX²がOである。X¹、X²の位置については、甲44の本文中の記載によれば、NR、PR、O、S及 びSeであってもよいとされている。 甲44の表3は以下のとおりであり、compound1-5の具体的な特性が評価されている。 しかし、甲44は「三配位ホウ素中心を含むπ共役ヘテロ多環式化合 物の理論的設計」をタイトルとした論文であり、原告の主張する化合物4(compound4)も、計算上のものとして描かれただけの化合物である上に、中央のホウ素のまわりに環状に閉じた縮合3環構造を有する化合物であって、本件各発明に係る縮合2環構造(D構造)を有する化合物ではない。そして、その縮合3環構造のうちの、縮合2環構造 部分に着目する旨の記載もない。加えて、甲44には、有機EL素子用 材料についての技術事項を開示する論文である旨の記載もされていない。 以上によれば、甲2、甲3に加え、甲44の記載を追加して参照しても、「縮合2環構造(D構造)を有する単量体の多環芳香族化合物が有機EL素子材料として好適であること」が技術常識であるとは認められ ない(なお、原告の主張は、そもそも甲44の記載から技術常識としていかなる事実が認められるとするのかが明確ではなく、実質的には甲1発明1を主引用例とし、相違点1-1に係る構成について、甲44を副引用例とする進歩性欠如の無効理由を追加主張するものと解され、これは審決取消訴訟の審理範囲(最高裁昭和51年3月10日同42年(行 ツ)第28号大法廷判決・民集30巻2号79頁)を逸脱するものとも解されるところで の無効理由を追加主張するものと解され、これは審決取消訴訟の審理範囲(最高裁昭和51年3月10日同42年(行 ツ)第28号大法廷判決・民集30巻2号79頁)を逸脱するものとも解されるところである。)。 (エ) 小括そうすると、上記甲1の比較化合物の記載や、上記甲2、甲3及び甲44の記載を考慮しても、原告が主張する動機付けが存在するとはいえ ず、甲1発明1の連結系多量体(連結系2量体)に基づき、本件各発明の一般式(1)等の単量体を容易に想到できるとはいえない。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。 イ原告は、一般式[2-1]及び[2-2]において構造式の右半分と左半分とが同一である必要はない(甲1の段落[0028]及び[0030]を 根拠とする)から、甲1発明1の化合物の左右を異ならせ、置換単量体に係る発明とすることは、当業者が容易に想到し得たものである旨を主張する。 しかし、原告は、本件審判手続において一般式[2-1]及び[2-2]を主引用発明とする進歩性欠如の主張は一切しておらず、原告の当該主張が本件訴訟の審理範囲に属するものといえるのかについて疑問なしとはし ないものの、ひとまずこの点を措いて検討する。 原告が指摘する甲1の段落[0028]及び[0030]には、一般式[2]や一般式[2-1]及び[2-2]の可変基X¹ないしX4、Y¹ないしY2について、原告が主張するように、それぞれ「同一であっても異なっていてもよい」と記載されているが、続けて、前記⑵ウの段落[0028]の下線部分のとおり、X¹ないしX4、Y¹とY2について、それぞれ「同一で あることが好ましい」ことが記載されている。 甲1発明1の化合物60ないし69及び26 前記⑵ウの段落[0028]の下線部分のとおり、X¹ないしX4、Y¹とY2について、それぞれ「同一で あることが好ましい」ことが記載されている。 甲1発明1の化合物60ないし69及び260ないし269は、それぞれ甲1のそれら一般式で表される化合物の具体例であって、上記のとおり「同一であることが好ましい」と言及され、そのことが具体化されているこれらの化合物について、あえて他の化合物とする動機付けは存在しないと いうべきである。 そうすると、甲1発明1の連結系多量体(連結系2量体)に基づき、原告が主張するところの置換単量体(本件各発明の一般式(1)等)を容易に想到できるとはいえない。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。 ウ原告は、甲1発明1の化合物について、合成スキーム1の原料の式[11]を読み込めば、対応する原料化合物として単量体化合物が認識され、単量体が有機EL用材料として使用できることは前記アのとおり周知(甲2、3及び44)であり、単量体を使用する方が製造過程もより簡便となるから、単量体を用いる動機付けが認められ、甲1発明1の原料化合物の開示に基 づき進歩性が欠如する旨を主張する。 しかし、原告は、本件審判手続において一般式[11]を主引用発明とする進歩性欠如の主張は一切しておらず、原告の当該主張は本件訴訟の審理範囲に属するものといえるのかについて疑問なしとしないものの、ひとまずこの点を措いて検討する。 原告は、甲1に中間体として単量体が示されていることを主張するとこ ろ、当業者において、甲1において、甲1発明1の化合物60ないし69、260ないし269に対応した、合成スキーム1の一般式[11]に当てはめた原料である「単量 とを主張するとこ ろ、当業者において、甲1において、甲1発明1の化合物60ないし69、260ないし269に対応した、合成スキーム1の一般式[11]に当てはめた原料である「単量体」が、具体的に記載されている、あるいは記載されているに等しいと解するものではない。しかも、甲1は連結系多量体の発明であって、既に検討したところと同様に、単量体のままで使用しようとする 技術的思想はそもそも示されておらず、甲1の比較化合物の記載や、甲2、3及び44の記載によっても、単量体を使用する動機付けが存在しているともいえない。 そうすると、原告が主張する単量体に対する認識も、単量体を使用しようとする動機付けも、いずれも存在するとはいえず、甲1発明1の連結系多 量体(連結系2量体)に基づき、原告が主張する置換単量体を容易に想到できるとはいえない。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。 エ原告は、そもそも進歩性の評価は、発明の構成の容易想到性と作用効果の顕著性の2段階によって行われるのが原則であるが、本件発明1のよう な化合物発明の場合、作用効果の顕著性の評価が重要であるところ、本件各発明は、外部量子効率が確認されていない化合物を無数に包含しており、実施例の範囲に限っても比較例より外部量子効率の劣る実施例が存在しており、原告の実験(甲47)及び被告の実験(甲26)においても比較例より外部量子効率の劣る本件化合物の素子例が存在し、HOMO-LUMOギ ャップや、ΔEST、ETの数値自体をとってみても、環構造の相違、置換基の種類及び大きさの相違によって大きく変動するもので、作用効果の劣る数値の化合物が存在することは明らかであり、被告は、顕著な作用効果があることの立証責任を果たしていない みても、環構造の相違、置換基の種類及び大きさの相違によって大きく変動するもので、作用効果の劣る数値の化合物が存在することは明らかであり、被告は、顕著な作用効果があることの立証責任を果たしていない旨を主張する。 しかし、上記⑶のとおり、本件では、そもそも甲1発明1及び2に甲2、 甲3及び甲44を適用しても本件発明に至る動機付けがなく、本件各発明 に構成の容易想到性がないと認められるのであるから、さらに被告が顕著な作用効果を立証しなければならないものではない。原告の主張は、新規な化学構造は容易想到であるから化合物発明の進歩性判断では顕著な作用効果の存在によって進歩性を認めるべきであるとするところ、これは化合物の発明についての原告独自の見解である。 そして、本件各発明の範囲内の化合物には外部量子効率等の作用効果に劣るものが含まれており顕著な効果の存在が立証されていないとする点について、本件発明1ないし5は、縮合2環構造(D構造)を含む構造上の特徴を有することで、有機EL素子材料として有用な化合物であることが理解でき、実施例において有機EL素子材料としての効果が確認されている ことは既に述べたとおりである。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。 6 取消事由4(甲2発明1及び2に基づく進歩性欠如に関する判断の誤り、無効理由4に対応)について⑴ 取消事由4及び甲2発明1及び2の内容 原告は、本件審決の甲2発明1の認定、本件発明1との対比等は認め、その上で、取消事由4として、甲2発明1と本件発明1との相違点1-2(本件発明1は、「Y¹は、B」であると特定しているのに対し、甲2発明1は、Y¹に相当する部分がP=Oである点)の容易想到性の判断は誤りである旨を主張する て、甲2発明1と本件発明1との相違点1-2(本件発明1は、「Y¹は、B」であると特定しているのに対し、甲2発明1は、Y¹に相当する部分がP=Oである点)の容易想到性の判断は誤りである旨を主張するので、以下検討する。 甲2は、発明の名称を、「有機エレクトロルミネッセンス素子材料、有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置および照明装置」とする、特開2012-234873号公報であるところ、そこには、本件審決が認定したとおり、「下記の式(1-52)又は式(2-54)で表される化合物 」であるところの、甲2発明1及び同様の「上記の式(1-52)又は式(2-54)で表される化合物を含有する有機エレクトロルミネッセンス素子材料」の発明(甲2発明2)が記載されている。 ⑵ 甲2の記載内容 ア請求項1の記載(一般式(2)についての記載は下記イ参照)「一般式(1)または一般式(2)で表される化合物を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子材料。 【化1】 式(1)中、「X1」、「Y1」は各々独立にN、P、P=O、P=S、SiAr1のいずれかを表し、「Z1」は単なる結合手またはNAr2、O、S、PAr3、P(=O)Ar4、P(=S)Ar5、SiAr6Ar7のいずれかを表す。 「Ar1~Ar7」は芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表す。 「A1~A14」は各々独立にC-Rx1又はNを表し、複数のRx1はそれぞれ同じであっても異なっていても良い。 「Rx1」は各々独立に水素原子又はアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族炭化水素基、複素環基、芳香族複素環 基、ハロゲン原子、アルコキシル 異なっていても良い。 「Rx1」は各々独立に水素原子又はアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族炭化水素基、複素環基、芳香族複素環 基、ハロゲン原子、アルコキシル基、シクロアルコキシル基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、スルファモイル基、ウレイド基、アシル基、アシルオキシ基、アミド基、カルバモイル基、スルフィニル基、アルキルスルホニル基又はアリールスルホニル基、アミノ 基、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシル基、アルキルシリル基又はアリールシリル基、アルキルホスフィノ基又はアリールホスフィノ基、アルキルホスホリル基又はアリールホスホリル基、アルキルチオホスホリル基又はアリールチオホスホリル基から選ばれる何れかの基である。」イ請求項1の一般式(2)についての記載 「【化2】 式(2)中、「X2」、「Y2」は各々独立に前記一般式(1)におけるX1、Y1と同義の基を表し、「Z2」は前記一般式(1)におけるZ1と同義の基 を表す。 「A15~A28」は各々独立にC-Rx2又はNを表し、複数のRx2はそれぞれ同じであっても異なっていても良い。 「Rx2」は各々独立に前記一般式(1)におけるRx1と同義の基を表す。」ウ発明が解決しようとする課題 ・「以上のとおり、現況においては、いずれの化合物を用いても有機EL素子の本来必要とされる機能を十分に向上させるには至ってはいない。 したがって、本発明の主な目的は、発光効率が高くて発光寿命も長く、駆動電圧が低くてその駆動時の電圧上昇も小さい、という素子自体に本来必要とされる機能を向上させることができる有機エ てはいない。 したがって、本発明の主な目的は、発光効率が高くて発光寿命も長く、駆動電圧が低くてその駆動時の電圧上昇も小さい、という素子自体に本来必要とされる機能を向上させることができる有機エレクトロルミネッセン ス素子材料を提供することにあり、併せてこれを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子、照明装置および表示装置を提供することにある。」(段落【0008】)エ発明の効果・「 本発明によれば、発光効率が高くて発光寿命も長く、駆動電圧が低く てその駆動時の電圧上昇も小さい、という素子自体に本来必要とされる機能を向上させることができる。」(段落【0014】)オ発明を実施するための形態(下線は判決で付記)・「 本発明の有機EL素子材料は、好ましくは本発明の有機EL素子の発光層に用いられ、特に好ましくは発光層中のホスト化合物として用いられ る。 尚、本発明の有機EL素子の構成層、ホスト化合物等については後に詳細に説明する。」(段落【0020】)・「『X1』、『Y1』の好ましい形態としては、X1またはY1のいずれかがNである場合にはより正孔の電荷輸送性・注入性が向上するため好ましい。 またX1またはY1のいずれかがP、P=O、P=Sの何れかである場合に はより電子の電荷輸送性・注入性が向上するため好ましく、さらにはP=O又はP=Sであることが好ましく、特にP=Oであることがより好ましい形態として挙げられる。 一方、X1またはY1のいずれかがSiAr1の場合にはより電荷に対する耐久性が向上するため、特に好ましい形態の1つとして挙げられる。特に、 X1がN、Y1がP=Oとなる場合には正孔と電子の両方の電荷輸送性を向上させることができるため好ましく、さらにはX に対する耐久性が向上するため、特に好ましい形態の1つとして挙げられる。特に、 X1がN、Y1がP=Oとなる場合には正孔と電子の両方の電荷輸送性を向上させることができるため好ましく、さらにはX1がN、Y1がSiとなる場合には正孔と電子の両方の電荷輸送性を持ち、かつ耐久性が向上するため、特に好ましい形態として挙げられる。」(段落【0023】。段落【0029】に、X2及びY2について同旨の記載がある。) ・「以下に、本発明に係る化合物の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されない。」(段落【0044】)⑶ 検討上記甲2発明1に係る化合物(1-52)、同(2-54)は、それぞれ一般式(1)及び(2)で表される化合物の具体的な合成例(段落【0044】 参照)として示された、それぞれ136個(甲2の段落【0045】ないし【0054】)、124個(甲2の段落【0055】ないし【0063】)の化合物のうちの二つにすぎず(甲2の段落【0044】、【0048】及び【0058】。段落【0048】及び【0058】は具体的化合物の記載につき、摘記を省略。)、その記載から、これらを別の化学構造の化合物とする動機付 けは認められない。 甲2全体の記載を参酌してみても、甲2には、P=Oに特に着目して変更しようとする動機付けに係る記載はないどころか、むしろ、上記⑵オの段落【0023】に、「X1またはY1のいずれかが・・・特にP=Oであることがより好ましい形態として挙げられる。」と記載されるなど(段落【0029】 同旨)、むしろそれに反する教示がある。 本件発明1、3ないし5のY¹に相当する、甲2の一般式(1)で表されるY1について、甲2には、「各々独立にN、P、P=O、P=S、SiAr1のいずれかを に反する教示がある。 本件発明1、3ないし5のY¹に相当する、甲2の一般式(1)で表されるY1について、甲2には、「各々独立にN、P、P=O、P=S、SiAr1のいずれかを表し」(請求項1)と記載されており、その選択肢にホウ素(B)は含まれていない。このようなP=Oについて、甲2の一般式(1)でヘテロ元素として選択肢にすら存在しないBに、敢えて変更するような動機付け は、甲2には認められないというべきである。 そして、甲1ないし甲3には、前記5⑶ア、⑷ア及び後記7⑷のとおり、本件発明1、3ないし5の縮合2環構造(D構造)に該当するといえる構造が記載されているとしても、いずれもそのような構造自体に着目したことについては記載されていないし、甲1ないし甲3には、上記縮合2環構造(D 構造)のY¹に相当するヘテロ原子について、甲2に選択肢としても記載されていないBを、P=Oに換えて選択することを動機付けるような記載は存在しない。 また、原告が新たに提出する甲44(Y¹がBで、X¹、X²がOである化合物4を含む一般式)についても、甲44は、既に述べたとおり、「三配位ホウ 素中心を含むπ共役ヘテロ多環式化合物の理論的設計」をタイトルとした論文であり、そこに示された化合物4(compound4)も計算上描かれたものにすぎない。甲44の化合物につきヘテロ元素としてホウ素元素を含むことが記載されているとしても、甲44とは異なる化学構造の化合物である甲2発明1の化合物において、そのP=Oを、甲2に選択肢として記載さ れていないBとすることまでは、何ら動機付けられるものではない。 このように、甲1、甲3及び甲44には、それぞれにおいて、ホウ素原子を採用した化合物の例が示されるにとどまり、甲2記載の化合物の基 れていないBとすることまでは、何ら動機付けられるものではない。 このように、甲1、甲3及び甲44には、それぞれにおいて、ホウ素原子を採用した化合物の例が示されるにとどまり、甲2記載の化合物の基P=Oを、基Bに変更する動機付けはない。 そうすると、本件発明1、3ないし5は、甲2発明1に基づいて容易に想 到し得たものということはできない。 そして、本件発明9ないし20は、本件発明1、3ないし5のいずれかに記載の多環芳香族化合物又はその多量体を含有する有機デバイス用材料、それらの材料を含有する有機電界発光素子、それらの有機電界発光素子を備えた表示装置又は照明装置に関する特定を有するものであり、甲2発明2との間には、本件審決が認定したとおりの相違点9-2が存在する(本件審決の 相違点の認定につき当事者間に争いがない。)から、本件発明1、3ないし5と同様の理由により、本件発明9ないし20は、当業者が、甲2発明2に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 以上のとおり、相違点1-2及び9-2に係る事項は容易想到ではないから、本件発明1、3ないし5及び9ないし20は、当業者が、甲2発明1及 び2に基づいて容易に発明をすることができたものではない。 したがって、原告の主張する取消事由4は理由がない。 ⑷ 原告の主張に対する判断ア原告は、本件各発明について、甲1には、Y¹がBであると特定された化合物60ないし64及び260ないし264と、Y¹がP=Oと特定され た化合物65ないし69及び265ないし269とが具体的に開示されることから、Y¹の位置のP=OをBに置き換えても優れた有機EL素子用材料が得られることにつき、甲3には、本件各発明でいうX¹及びX²としてでは ないし69及び265ないし269とが具体的に開示されることから、Y¹の位置のP=OをBに置き換えても優れた有機EL素子用材料が得られることにつき、甲3には、本件各発明でいうX¹及びX²としてではあるが、ヘテロ原子としてBが選択できることが、甲44には、Y¹がBで、X¹、X²がOである化合物を含む一般式が冒頭に記載され、優 れた有機EL素子用材料が得られることがそれぞれ教示されているから、甲2発明を主引例とし、各種の公知文献を参照すれば、Y¹としてP=OではなくBを当業者が選択するのは単なる設計変更であり容易である旨を主張する。 しかし、甲1には、有機EL素子材料となる一般式の化合物において、 Y¹はBやP=Oであってよいことが、化合物例を伴って示されているの みであり、原告が主張するような、「P=OをBに置き換えて」みるという方向性や、「P=OをBに置き換えても優れた有機EL素子用材料が得られる」という有機EL素子材料としての評価については記載されていない。 そして、甲1の一般式に当てはまらない、異なる化学構造の化合物である甲2発明1の化合物において、そのような甲1の記載が存在していても、 甲2発明1の化合物のP=Oを、甲2に選択肢として記載されてもいないBとすることは、何ら動機付けられるものではない。 甲3については、後記7⑷のとおり、有機電子素子のための化合物の一般式において、ヘテロ元素を含んでいてもよい連結基-(Y)n-の多数のYの選択肢のうちにホウ素が含まれていることを開示するものである。し かし、そのような甲3の記載は、甲3に記載されたものとは異なる化学構造の化合物である甲2発明1の化合物において、そのP=Oを、甲2に選択肢として記載されてもいないBとすることを、何ら動 。し かし、そのような甲3の記載は、甲3に記載されたものとは異なる化学構造の化合物である甲2発明1の化合物において、そのP=Oを、甲2に選択肢として記載されてもいないBとすることを、何ら動機付けるものではない。 本件訴訟において新たに追加された甲44(Y¹がBで、X¹、X²がO である化合物4を含む一般式)について、これは本件審決で審理されていなかった副引用例の追加と考えられなくはないものであって、この点を措くとしても、既に述べたとおり、甲44で原告が指摘する具体的化合物4(compound4)は計算上描かれたものにすぎず、甲44の化合物がヘテロ元素としてホウ素元素を含むものであることまでは記載されて いるといえても、甲44とは異なる化学構造の化合物である甲2発明1の化合物において、そのP=Oを、甲2に選択肢として記載されてもいないBとすることまでは、何ら動機付けられるものではない。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。 イ原告は、本件審決が甲2発明1の化合物のP=OをBに交換する動機付 けを否定したのは誤りである旨を主張する。 しかし、甲2発明1の化合物の、特にP=Oに着目して、それをBに交換する動機付けが認められないことについては既に検討したとおりである。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。 7 取消事由5(甲3発明1及び2に基づく進歩性欠如に関する判断の誤り、無 効理由5に対応)について⑴ 取消事由5の内容原告は、本件審決の甲3発明1及び2の内容、本件発明2との一致点及び相違点の認定は争わないが、進歩性の判断につき、本件発明2及び25ないし28は甲3発明1及び2との関係で選択発明であるから、 内容原告は、本件審決の甲3発明1及び2の内容、本件発明2との一致点及び相違点の認定は争わないが、進歩性の判断につき、本件発明2及び25ないし28は甲3発明1及び2との関係で選択発明であるから、重複する範囲に おいて顕著な効果を奏する必要があるところ、これがないから進歩性を欠くとして、甲3発明1及び2に基づく進歩性判断の誤りを取消事由5として主張する。 ⑵ 選択発明についていわゆる選択発明は、構成要件の中の全部又は一部が上位概念で表現され た先行発明に対し、その上位概念に包含される下位概念で表現された発明であって、先行発明が記載された刊行物中に具体的に開示されていないものを構成要件として選択した発明をいい、この発明が先行発明を記載した刊行物に開示されていない顕著な効果、すなわち、先行発明によって奏される効果とは異質の効果、又は同質の効果であるが際立って優れた効果を奏する場合 には先行発明とは独立した別個の発明として特許性を認めるのが相当である。 ⑶ 甲3の記載(下線は判決で付記)ア甲3(発明の名称を、「有機電子素子のための化合物」とする、特表2009-512628号公報)には、甲3発明1及び2に関し「下記式(1)又は式(2)の化合物 ここで、使用される記号及び添字は、以下が適用される:Xは、出現毎に同一であるか異なり、N、P、As、Sb、P=O、As=O若しくはSb=Oであり;Yは、出現毎に同一であるか異なり、O、S、C(R1)2、C=O、C= S、C=NR1、C=C(R1)2、Si(R1)2、BR1、NR1、PR1、AsR1、SbR1、BiR1、P(=O)R1、As(=O)R1、Sb(=O)R1、Bi(=O)R1、SO、SeO、TeO、SO2、 NR1、C=C(R1)2、Si(R1)2、BR1、NR1、PR1、AsR1、SbR1、BiR1、P(=O)R1、As(=O)R1、Sb(=O)R1、Bi(=O)R1、SO、SeO、TeO、SO2、SeO2、TeO2若しくは化学結合であり;R1は、出現毎に同一であるか異なり、H、OH、F、Cl、Br、I、 CN、CHO、NO2、N(Ar)2、Si(R2)3、B(OR2)2、C(=O)Ar、P(=O)Ar2、S(=O)Ar、S(=O)Ar2、CR2=CR2Ar、C≡CAr、OSO2R2、1ないし40個のC原子を有する直鎖アルキル、アルコキシ若しくはチオアルコキシ基又は3ないし40個のC原子を有する分岐或いは環状アルキル、アルコキシ若しくはチオアル コキシ基(各鎖は1以上の基R2により置換されていてもよく、そして、1以上の隣接しないCH2基は、-R2C=CR2-、-C≡C-、Si(R2)2、Ge(R2)2、Sn(R2)2、C=O、C=S、C=Se、C=NR2、P(=O)R2、S=O、SO2、NR2、-O-、-S-若しく-CONR2で置き代えられていてもよく、また、1以上のH原子は、F、Cl、 Br、I、CN若しくはNO2で置き代えられていてもよい)又は1以上の 基R2により置換されていてもよい、5ないし40個の芳香族環原子を有する芳香族若しくは複素環式芳香族環構造、又は1以上のR2基により置換されていてもよい、5ないし24個の芳香族環原子を有するアリールオキシ若しくはヘテロアリールオキシ基、又は、2、3、4若しくは5個のこれらの構造の組み合わせであり;ここで、2以上の置換基R1は、同一環 上及びまた異なる環上で、互いにモノ或いはポリ環状、脂肪族、芳香族若しくは複素環式芳香族環構造を形成するも 4若しくは5個のこれらの構造の組み合わせであり;ここで、2以上の置換基R1は、同一環 上及びまた異なる環上で、互いにモノ或いはポリ環状、脂肪族、芳香族若しくは複素環式芳香族環構造を形成するものであってもよく;Rは、R1と同様に定義され、少なくとも1つの基Rは、水素ではなく;R2は、出現毎に同一であるか異なり、H若しくは1ないし20個のC原子を有する脂肪族芳香族及び/又は複素環式芳香族炭化水素基であって、 2以上の基R2は、互いに環構造を形成するものであってもよく;Arは、出現毎に同一であるか異なり、5ないし30個の芳香族環原子を有する芳香族若しくは複素環式芳香族環構造であって、1以上の非芳香族基R1により置換されていてもよく;Lは、1ないし40個のC原子を有する少なくとも2価の直鎖アルキレ ン、アルキリデン、アルキレンオキシ若しくはチオアルキレンオキシ基、又は3ないし40個のC原子を有する分岐或いは環状アルキレン、アルキリデン、アルキレンオキシ若しくはチオアルキレンオキシ基(各鎖は1以上の基R2により置換されていてもよく、そして、1以上の隣接しないCH2基は、-CR2=CR2-、-C≡C-、Si(R2)2、Ge(R2)2、 Sn(R2)2、C=O、C=S、C=Se、C=NR2、P(=O)R2、S=O、SO2、-O-、-S-若しくは-CONR2で置き代えられていてもよく、また、1以上のH原子は、F、Cl、Br、I、CN若しくはNO2で置き代えられていてもよい)又は5ないし40個の芳香族環原子を有する少なくとも2価の芳香族若しくは複素環式芳香族環構造であっ て、1以上の基R2、若しくはP(R1)3-P、P(=O)(R1)3-P、C (R1)4-P、Si(R1)4-P、N なくとも2価の芳香族若しくは複素環式芳香族環構造であっ て、1以上の基R2、若しくはP(R1)3-P、P(=O)(R1)3-P、C (R1)4-P、Si(R1)4-P、N(Ar)3-Pにより置換されていてもよく、又は2、3、4若しくは5個のこれら系の組み合わせ;又はLは化学結合であり;nは、出現毎に同一であるか異なり、0、1若しくは2であり、ここで、n=0は、水素若しくは基R1がYの代わりに存在することを意味するが、 但し少なくとも2個の添字nは、0でなく;pは、2、3、4、5若しくは6であり、但し、pは、Lの最大原子価より大きくはなく;但し、以下の化合物は除く」 である甲3発明1及び同様の「下記式(1)又は式(2)の化合物を含む有機電子素子」の発明(甲3発明2)が記載されている。 イ発明の詳細な説明の記載・「 驚くべきことに、トリアリールアミンの新規なクラスが、更に改善された電子特性を有することが今回見出された。これら化合物は、分子中 心の柔軟性を低減し、置換基に基づく溶解性を増加する、硬質な平面トリフェニルアミン単位と外面周囲の軟質な構造要素を含み、加えて、エミッターとして使用することができる化合物は、外面周囲のπ電子系を拡張することにより合成することができる。加えて、平面状の安定なトリアリールアミンの陽イオン遊離基は、電子及び磁性材料として使用す ることができる。」(段落【0008】)・「式(1)及び式(2)の好ましい化合物は、記号Xが、窒素、燐若しくはP=Oを、特に好ましくは、窒素若しくは燐を、非常に特に好ましくは、 窒素を表わすものである。」(段落【0020】)・「 更に、式(1)及び式(2)の好ましい化合物は くはP=Oを、特に好ましくは、窒素若しくは燐を、非常に特に好ましくは、 窒素を表わすものである。」(段落【0020】)・「 更に、式(1)及び式(2)の好ましい化合物は、記号Yが、出現毎に同一であるか異なり、O、S、(CR1)2、C=O、P(=O)R1、C=C(R1)2、NR1、SO若しくはSO2又は化学結合を、特に好ましくは、2個の同一の基R1で置換されたO、S、C=O若しくはC(R1)2 を、非常に特に好ましくは、2個の同一の基R1、好ましくは、アルキル置換基、特にメチル置換基で置換されたO、C=O若しくはC(R1)2を、特に2個の同一のR1基、好ましくは、メチル置換基で置換されたC(R1)2を表わすものである。」(段落【0021】)・「更に、好ましい化合物は、添字nは、出現毎に同一であるか異なり、0 若しくは1を表し、n=0は、水素若しくはR1基がYの代わりに存在することを意味し、但し、少なくとも2個の添字nは0ではなく、添字nは、特に好ましくは1である。」(段落【0027】)・「更に、式(2)の好ましい化合物は、添字pは、2、3、4若しくは5、特に好ましくは、2、3若しくは4、非常に特に好ましくは、2若しくは 3であり、但し、pは、Lの最大原子価より大きくはない。」(段落【0028】)・「式(1)の化合物の好ましい例が、以下に挙げる構造(1)乃至(48)である。 (【化6-1】ないし【化6-10】として構造(1)ないし(48)を 記載)物理的特性は、架橋単位Yの特定の選択により影響され、最適化されることができる。この新規なクラスの化合物の決定構造要素は、低イオン化ポテンシャルを持つ平面状トリフェニルアミンであるが、一方で、置換基とブリッジY 架橋単位Yの特定の選択により影響され、最適化されることができる。この新規なクラスの化合物の決定構造要素は、低イオン化ポテンシャルを持つ平面状トリフェニルアミンであるが、一方で、置換基とブリッジYの選択が、発光に対して、また固体状態での物理的 パラメーター(融点、ガラス転移点、非晶質挙動)に対して、重要である。」 (段落【0030】)⑷ 検討甲3には、式(1)又は式(2)として、一般式が記載され、その可変部の選択肢として、XのN以下の7個の選択肢のうちの一つにP=Oがある。また、3か所ある-(Y)n-(式(1)及び(2)参照)における、 少なくとも2個のnは0でない、0、1又は2であってよいnのうち、一つのnは0で残り二つのnは1であり得るし、YのO以下の25個の選択肢のうちにO、S、NR1が含まれてはいる。また、甲3には、前記⑶イのとおり「物理的特性は、架橋単位Yの特定の選択により影響され、最適化されることができる。」(段落【0030】)との記載はある。 しかし、甲3のその他の記載を参照しても、上記のような特定の選択肢(XのN以下の7個の選択肢のうちP=Oとし、3か所ある-(Y)n-につき少なくとも2個のnは0でない、0、1又は2であってよいとされるnから、一つのnを0で残り二つのnを1とし、YのO以下の25個の選択肢のうちO、S、NR1とする)について、これらを組み合わせることに ついての記載はない。 むしろ、甲3には、Xは、非常に特に好ましくは窒素であると記載されている(段落【0020】)一方で、P=Oは特に好ましいとする選択肢にも挙げられておらず、Yについても、好ましくはメチル置換基で置換されたC(R1)2を表す(段落【0021】)とされ、O、S、又はNR1は好 ま 0】)一方で、P=Oは特に好ましいとする選択肢にも挙げられておらず、Yについても、好ましくはメチル置換基で置換されたC(R1)2を表す(段落【0021】)とされ、O、S、又はNR1は好 ましいものとして挙げられていないし、三つのnについても、一つのnが0で他の二つのnが1であることが望ましいとの記載もないことから、甲3には、上記特定の選択肢を組み合わせて化合物とする技術的思想を、抽出することができる程度の記載があるとはいえないので、本件発明2における縮合2環構造(D構造)とする動機付けは存しない。 甲3の式(2)の化合物は、連結基または単結合である基Lを介して、 式(1)の化学構造が2ないし6個結合した(p=2、3、4、5又は6とする定義より)連結系多量体であるから、既に述べたとおりの本件各発明における共有系多量体又は縮合系多量体に係る多量体へと換える動機付けも存しない。そうすると、本件発明2は、甲3発明1に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 本件発明25ないし28は、本件発明2に記載されたのと同様の多環芳香族化合物又はその多量体を含有する有機デバイス用材料、それら材料を含有する有機電界発光素子に関する特定を有するものであり、甲3発明2との間には、本件審決が認定したとおりの相違点が存在するから、本件発明2と同様の理由により、本件発明25ないし28は、当業者が、甲3発 明2に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 そして、原告の主張においても、本件発明2及び25ないし28の化合物には、甲3発明1及び2の化合物と一部において重なるものがあり、その重複する部分において選択発明についての考え方が適用されるというものにすぎないところ、上記認定に照 発明2及び25ないし28の化合物には、甲3発明1及び2の化合物と一部において重なるものがあり、その重複する部分において選択発明についての考え方が適用されるというものにすぎないところ、上記認定に照らしても、本件発明2及び25ない し28は、甲3発明1及び2に上位概念で表現されたものに包含される下位概念で表現された発明に該当するものとはいえないから、本件発明2及び25ないし28が甲3発明1及び2の選択発明であるということはできない。 以上のとおり、相違点に係る事項は容易に想到し得るものではないから、 本件発明2及び25ないし28は、当業者が、甲3発明1及び2に基づいて容易に発明をすることができたものではない。 したがって、原告の主張する取消事由5は理由がない。 ⑸ 原告の主張に対する判断原告は、本件発明2の特許請求の範囲は、公知技術である甲3発明に開 示された化合物群と、非常に多くの置換基で選択肢が一致し、選択発明の 考え方が適用されるから、重複する範囲の化合物につき顕著な作用効果を有するのでなければ、重複する範囲の化合物については、少なくとも進歩性が否定され、甲3の式(1)に包含される化合物群は、甲3の式(1)に関する各選択肢の範囲に基づき、全て特定可能な化合物群であり、ひとまとまりの技術的思想として把握できるから、公知の上位概念(化合物群) に含まれる後願の化合物発明は、選択発明の成立要件を満たさなければならないところ、この要件を満たさない旨を主張する。 しかし、原告の主張は、マーカッシュ形式で記載された甲3発明1及び2について、多数の選択肢の組合せのうちに本件発明2に該当する組合せがあり得るというものに留まり、甲3に開示された技術的事項から、ひと まとまりの技術的思想として 式で記載された甲3発明1及び2について、多数の選択肢の組合せのうちに本件発明2に該当する組合せがあり得るというものに留まり、甲3に開示された技術的事項から、ひと まとまりの技術的思想として把握できる個々の化合物が、本件発明2と広く重複していることを示すものではない。前記⑷のとおり、甲3には、本件発明2に該当する個々の化合物につき、ひとまとまりの技術的思想として把握することのできる記載はないから、両発明について、選択発明の考え方を適用する前提を欠くものである。 そして、既に述べたとおり、甲3発明1の選択肢に、本件発明2と重複する場合が含まれているとしても、多数の選択肢の組合せから、(Y)n及びXについて、好ましいとして示されてもいないものを選択して、相違点2-3の1ないし2-3の3に係る構成となる、三つのベンゼン環をP=Oと、二つのO、二つのS又はOとSとを含む縮合2環構造(D構造)で 連結した構造とすることの動機付けはないし、本件発明2の多量体とすることが動機付けられることもない。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。 8 取消事由6(甲4発明に基づく進歩性欠如に関する判断の誤り、無効理由6に対応)について ⑴ 甲4発明の内容等 甲4発明の内容、本件発明21との一致点及び相違点については、本件審決記載のとおりであることに当事者間に争いがいない。 ⑵ 甲4の記載甲4は、「リン環の結合部を有する屈曲形のπ共役骨格構造へのタンデムホスファフリーデルクラフツ反応」と題する論文であり、甲4発明の内容は、 その反応を具体的に示したスキーム2(Scheme 2)、図1及びその説明に係る以下の記載から、本件審決が認定したとおりと認められる。 ・スキーム2(S る論文であり、甲4発明の内容は、 その反応を具体的に示したスキーム2(Scheme 2)、図1及びその説明に係る以下の記載から、本件審決が認定したとおりと認められる。 ・スキーム2(Scheme 2) ・図1 ・説明「タンデムホスファフリーデルクラフツ反応は、ジクロロ(m-テラリル) ホスフィンを、リン環の結合部を有する屈曲形のπ共役骨格構造を含むトリアリールホスフィン誘導体へと変換する。堅固な分子骨格構造は前例のないホスフィン化合物が分子全体に広がる拡張π共役を保持することを可能にする。」(2130ページ要約(ABSTRACT))「我々は、タンデムヘテロフリーデルクラフツ反応を発展させて、Sche me1に示されているようにヘテロ原子の結合部を有するπ共役骨格構造を容易に入手できるようになり得ると考えた。・・・我々は、最終的に、ジクロロ(m-テラリル)ホスフイン(XY2=PCl2)のタンデムホスファフリーデルクラフツ反応により、特定の条件における選択的6,6-閉環を経てホスファペリレン1が得られることを見出した。」(2130ページ右 欄7行~2131ページ左欄4行)「合成経路はScheme2に記載する。1,3-ジクロロベンゼンの2位での選択的リチウム化とそれに続く2当量のアリールグリニャール試薬で処理すると、m-ヨウ化テラリル2a-2cがヨウ化時に32-79%の収率で得られた。2a-2cにおいてリチウム-ハロゲン交換をし、得られ たアリールリチウムをそれに続くトリクロロホスフィンによる捕集により、m-テラリルホスフィンジクロリド3a-3cが得られた。添加剤と反応条件を注意深くスクリーニングした後、S8、AlCl3及びNEt(i-Pr)2を併用し、3a- リクロロホスフィンによる捕集により、m-テラリルホスフィンジクロリド3a-3cが得られた。添加剤と反応条件を注意深くスクリーニングした後、S8、AlCl3及びNEt(i-Pr)2を併用し、3a-3cのタンデムホスファフリーデルクラフツ反応を達成した。特に、タンデム反応は選択的に6,6-閉環を形成し、硫化ホス フィン4a-4c(E=S)が11-43%の収率で得られ、現在の反応条件下では5,5-又は5,6-閉環の形成は観察されなかった。」(2131ページ左欄7~20行)「4a-4cをトリエチルホスフィンで硫酸化すると、目的物のホスフィン、15b-ホスファナフト[1,8-ab]ペリレン1a、6,10-ジ メチル-15b-ホスファナフト[1,8-ab]ペリレン1b、及び15 b-ホスファ-3,4,12,13-テトラヒドロアセナフト[5,6-ab]シクロペンタ[lm]ペリレン1cが、75-80%の収率で得られた。 同様にH2O2で酸化すると、対応するホスフィンオキシド5a-5cが70-79%の収率で得られた(Figure1)。」(2131ページ右欄1~7行) 「要約すると、我々はリン環の結合部を有する屈曲形のπ共役骨格構造へのタンデムホスファフリーデルクラフツ反応を開発した。・・・堅固な分子フレームワークは前例のないホスフィン化合物が分子全体に広がる拡張π共役を保持することを可能にする。このシンプルで実用的な戦略はπ共役骨格構造の更なる拡張と、複数のリン及び/又は他のヘテロ原子の導入に 適するであろう。」(2132ページ右欄下から3行~2133ページ左欄9行)」⑶ 技術常識に関する記載グリニャール反応について記載した辞典には、「グリニャール試薬を用いるアルキル化またはアリール化反応をいう 」(2132ページ右欄下から3行~2133ページ左欄9行)」⑶ 技術常識に関する記載グリニャール反応について記載した辞典には、「グリニャール試薬を用いるアルキル化またはアリール化反応をいう。グリニャール試薬は反応活性に 富み、>C=O、-C≡N、活性水素、あるいはハロゲン化アルキルと容易に反応する。」との記載がある(乙8〔理化学辞典第4版〕)。 ⑷ 検討甲4には前記⑵のとおり、中間体m-ヨウ化テラリル(2a-2c)からブレンステッド塩基を用いて連続的な芳香族求電子置換反応(タンデムホ スファフリーデルクラフツ反応)により閉環を形成し化合物を製造する方法の記載があるのものの、本件発明21に係るX¹及びX²を介して芳香環が結合した化合物を合成することについての記載はなく、そのような化合物が得られるように、甲4発明の内容である上記スキーム2(Scheme 2)に対して、中間体を含め、必要な変更を加えることを動機付けることに係る 記載もない。 甲1や甲44には、既に述べたとおり、それぞれに記載の化合物について、それぞれに言及するところはあるものの、甲4の反応により生成された化合物である上記ホスファペリレン(化合物1a-1c)、硫化ホスフィン(化合物4a-4c)、ホスフィンオキシド(化合物5a-5c)や、甲4の上記反応の中間体に係るm-テラリル構造におけるベンゼン環の1、3 -位の二つのアリール基Ar(ナフチル基)を、本件発明21のアリールオキシ基(フェノキシ基)に置換することに関する記載はなく、単に甲1、44に記載のそれぞれの化合物が、それぞれに好適なものとして記載されているのみであるから、原告主張のような動機付けがあることまでを導き出せるとはいえない。 そして、本件 はなく、単に甲1、44に記載のそれぞれの化合物が、それぞれに好適なものとして記載されているのみであるから、原告主張のような動機付けがあることまでを導き出せるとはいえない。 そして、本件発明22ないし24は、本件発明21の方法に関する特定を有するものであり、甲4発明との間には、本件発明21と同様の相違点が存在するから、本件発明21と同様の理由により、本件発明22ないし24は、当業者が、甲4発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 以上のとおり、相違点に係る事項は容易想到ではないから、本件発明21ないし24は、当業者が、甲4発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。 したがって、原告の主張する取消事由6は理由がない。 ⑸ 原告の主張に対する判断 ア原告は、相違点21-4の1について、甲4発明は、m-ヨウ化テラリル(2a-2c)のヨウ素をブチルリチウム(BuLi)でリチウム化したアリールリチウムを、リチウム-リン交換反応に付して、m-テラリルホスフィンジクロリド中間体(3a-3c)を経て、リンで架橋された化合物を得るものであり、上記のブチルリチウムが水素とハロゲンの両方を置換で きることは、甲12ないし甲14に記載されるように周知であるから、ヨウ 化物でなく水素からリチウム化させる反応とすることは適宜選択可能な事項であり、容易想到である旨を主張する。 しかし、原告が主張するように「甲4発明において中間体のナフチル基をフェノキシ基に置換すれば、X¹及びX²がいずれもOである化合物を合成できることが容易に理解される」としても、それは「ナフチル基をフェノ キシ基に置換す」るという前提が必須であるところ、甲4にはその「置換」をしようとする ¹及びX²がいずれもOである化合物を合成できることが容易に理解される」としても、それは「ナフチル基をフェノ キシ基に置換す」るという前提が必須であるところ、甲4にはその「置換」をしようとする技術的思想が記載されているとは認められない。 そして、甲1には、Y¹がBやPOでありX¹及びX²がOである本件発明21の単位構造を有する化合物は示されてはいるが、本件発明21と甲4発明とは、中間体も生成物も反応経路も全く異なるものであり、製造方法全 体としてみても、甲4発明について、中間体m-ヨウ化テラリル(化合物2a-2c)に換えて、ベンゼン環の1、3-位に本件発明21のX¹及びX²に相当するO、N-R、S又はSeを介してアリール基が結合した化合物であって、2-位に置換基を有さない化合物を中間体として用い、トリクロロホスフィン(PCl3)に換えて、例えばBCl3などと反応させてから、タ ンデムヘテロフリーデルクラフツ反応を実施して、本件発明21の一般式(1)で表される多環芳香族化合物を製造する方法に変更する動機付けはなく、一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体を製造する方法とする動機付けもないから、甲1の記載から、原告主張のような動機付けがあることまでを導き出せるとはいえない。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。 イ原告は、相違点21-4の3について、甲4発明のm-ヨウ化テラリル(2a-2c)の「Ar」基を、ナフチルからフェノキシに変えれば、本件発明21と同じ化合物が得られるところ、甲1発明1の化合物より、Y¹がB、P=Oで、X¹、X²がOである化合物を得る動機付けがあるから、その ような化合物を製造することを意図する当業者であれば、甲4発明におい ところ、甲1発明1の化合物より、Y¹がB、P=Oで、X¹、X²がOである化合物を得る動機付けがあるから、その ような化合物を製造することを意図する当業者であれば、甲4発明におい て、中間体の「Ar」基のナフチル基を、フェノキシ基に置換すれば、X¹及びX²がいずれもOである化合物を合成できることが容易に理解される旨を主張する。 しかし、前記アで検討したとおり、甲1には、原告が主張する動機付けは存しないというべきである。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。 ウ原告は、相違点21-4の1、3について、甲4発明の反応式において、m-ヨウ化テラリル(下図左)を、m-ジフェノキシベンゼン(下図右)に変えた出発物質を使用することが容易に想到できるかどうかが問題であり、π共役化合物である点で技術分野の共通する、甲1に記載の有機EL素子 用材料及び甲44(前記5⑷ア(ウ)記載のとおり、本件訴訟において提出)に記載の相対的に高いHOMO-LUMOギャップ理論値を有するcompound4の化合物のような、ヘテロ原子を含む共役系化合物を考える研究者であれば、甲4の手法の利用を考えるのは当然で、m-ジフェノキシベンゼンそれ自体の合成は、公知の方法(甲56、本件訴訟において提出)で 行うことができ、当業者が容易に入手可能である旨を主張する。 (左:m-ヨウ化テラリル)(右:m-ジフェノキシベンゼン) しかし、甲44、甲56は、既に述べたように、審判段階において主張していなかった副引用例を本件訴訟において追加するもので、本件訴訟の審理範囲を逸脱するものと考えられなくはないものの、この点をひとまず措いて、検討する。 甲1及び甲44には、それぞれに記載の化合物についてそれぞ 副引用例を本件訴訟において追加するもので、本件訴訟の審理範囲を逸脱するものと考えられなくはないものの、この点をひとまず措いて、検討する。 甲1及び甲44には、それぞれに記載の化合物についてそれぞれに言及は あるが、甲4に示されたcompound(化合物)1、4及び5(前記5II→ 参照)や、甲4のm-テラリル構造におけるナフチル基を、アリールオキシ基(フェノキシ基)に置換することの記載はない。甲1に記載の、Y¹がB、X¹及びX²がOの化合物は合成例の記載がなく、甲44についても計算上の化合物であって、合成に関する記載はなく、甲1及び甲44のいずれにも、フェノキシ基を有する化合物を中間体として製造することの記載も示唆も ない。そのような、単にそれぞれの化合物がそれぞれに好適なものとして記載されている甲1及び甲44から、原告主張のような動機付けがあり、甲4の、水素原子でなくヨウ素原子を有し、アリールオキシ基でなくナフチル基を有するm-ヨウ化テラリルを、水素原子及びアリールオキシ基を有するm-ジフェノキシベンゼンに変えた出発物質を使用することまでを導き出 せるとはいえない。 甲56は、「リガンドフリー高効率鉄/銅共触媒による二量体アリールエーテルまたはスルフィドの形成」と題する論文であり、そこには、「二量体アリールエーテルまたはスルフィドはジヨードベンゼンとフェノールのカップリングで製造できることから、次のような疑問が生じる:ジフェノールと ヨードベンゼンのカップリングはどうなるか?スキーム2に示されるように、驚くべきことに、1,4-ジフェノールとヨードベンゼンの反応は起こらなかった。他方では、1,3-ジフェノールとのカップリングでは、所望の生成物が良好な収率で得られた(収率84%)。 示されるように、驚くべきことに、1,4-ジフェノールとヨードベンゼンの反応は起こらなかった。他方では、1,3-ジフェノールとのカップリングでは、所望の生成物が良好な収率で得られた(収率84%)。」(5045頁左欄1~7行目)との記載がある。 図の記載は以下のとおりである(枠に囲まれたスキーム2に示されるのがm-ジフェノキシベンゼン)。 (図のタイトルの訳文:スキーム 2 Fe(acac) 3 /CuI 触媒系を使用したジフェノールとヨードアレーンのカップリング)」(5045 頁左欄)しかし、甲56のスキーム2にm-ジフェノキシベンゼンが示されている としても、そこから直ちに何らかの公知の方法が認められるものとはいえないし、そもそも甲4のm-ヨウ化テラリルを、m-ジフェノキシベンゼンに換える動機付けに係る記載もない。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。 9 結論 以上によれば、原告主張の取消事由はいずれも理由がない。 よって、原告の請求を棄却することとし、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官東海林 保 裁判官今井弘晃 裁判官水野正則 (別紙1 審決書、別紙2 訂正した特許請求の範囲/特許第5935199 裁判官水野正則 (別紙1 審決書、別紙2 訂正した特許請求の範囲/特許第5935199号省略)別紙3 【特許請求の範囲】【請求項1】下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物、または下記一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体。 【化1】 (上記式(1)中、A環、B環およびC環は、それぞれ独立して、アリール環またはヘテロアリール環であり、これらの環における少なくとも1つの水素は置換されていてもよく、Y1は、B、P=OまたはP=Sであり、Y1がBのとき、X1およびX2は、それぞれ独立して、O、N-R、SまたはSeであり、前記N-RのRは置換されていてもよいアリール、置換されていてもよいヘテロアリールまたはアルキルであり、また、前記N-RのRは-O-、-S-、-C(-Ra)2-または単結合により前記A環、B環および/またはC環におけるX1またはX2との結合位置(原子)に隣接する炭素と結合していてもよく、前記Raは水素またはアルキルであり、前記隣接する炭素はY1、X1およびX2から構成される上記式(1)の中央の縮合2環構造を構成する炭素ではなく、Y1がP=OまたはP=Sのとき、X1およびX2は共にO、SまたはSeであるか、一方がOで他方がSもしくはSeであるか、一方がN-Rで他方がSeであるか、または、一方がSで他方がSeであり、前記N-RのRは置換されていてもよいアリール、置換されていてもよいヘテロアリールまたはアルキルであり、また、前記N-RのRは-O-、-S-、-C(-Ra)2-または単結合により前記A環、B環および/またはC環におけるX1またはX2との結合位置 換されていてもよいヘテロアリールまたはアルキルであり、また、前記N-RのRは-O-、-S-、-C(-Ra)2-または単結合により前記A環、B環および/またはC環におけるX1またはX2との結合位置(原子)に隣接する炭素と結合していてもよく、前記Raは水素またはアルキルであり、前記隣接する炭素はY1、X1およびX2から構成される上記式(1)の中央の縮合2環構造を構成する炭素ではなく、そして、式(1)で表される化合物または構造における少なくとも1つの水素がハロゲンまたは重水素で置換されていてもよい。)【請求項2】A環、B環およびC環は、それぞれ独立して、アリール環またはヘテロアリール環であり、これらの環における少なくとも1つの水素は置換または無置換のアリール、置換または無置換のヘテロアリール、置換または無置換のジアリールアミノ、置換または無置換のジヘテロアリールアミノ、置換または無置換のアリールヘテロアリールアミノ、置換または無置換のアルキル、置換または無置換のアルコキシまたは置換または無置換のアリールオキシで置換されていてもよく、また、これらの環はY1、X1およびX2から構成される上記式中央の縮合2環構造と結合を共有する5員環または6員環を有し、Y1は、B、P=OまたはP=Sであり、Y1がBのとき、X1およびX2は、それぞれ独立して、O、N-R、SまたはSeであり、前記N-RのRはアルキルで置換されていてもよいアリール、アルキルで置換されていてもよいヘテロアリールまたはアルキルであり、また、前記N-RのRは-O-、-S-、-C(-Ra)2-または単結合により前記A環、B環および/またはC環におけるX1またはX2との結合位置(原子)に隣接する炭素と結合していてもよく、前記Raは水素またはアルキルであり、前記隣接する炭素 C(-Ra)2-または単結合により前記A環、B環および/またはC環におけるX1またはX2との結合位置(原子)に隣接する炭素と結合していてもよく、前記Raは水素またはアルキルであり、前記隣接する炭素はY1、X1およびX2から構成される上記式(1)の中央の縮合2環構造を構成する炭素ではなく、Y1がP=OまたはP=Sのとき、X1およびX2は共にO、SまたはSeであるか、一方がOで他方がSもしくはSeであるか、一方がN-Rで他方がSeであるか、または、一方がSで他方がSeであり、前記N-RのRはアルキルで置換されていてもよいアリール、アルキルで置換されていてもよいヘテロアリールまたはアルキルであり、また、前記N-RのRは-O-、-S-、-C(-Ra)2-または単結合により前記A環、B環および/またはC環におけるX1またはX2との結合位置(原子)に隣接する炭素と結合していてもよく、前記Raは水素またはアルキルであり、前記隣接する炭素はY1、X1およびX2から構成される上記式(1)の中央の縮合2環構造を構成する炭素ではなく、式(1)で表される化合物または構造における少なくとも1つの水素がハロゲンまたは重水素で置換されていてもよく、そして、多量体の場合には、一般式(1)で表される構造を2または3個有する2または3量体である、請求項1に記載する多環芳香族化合物またはその多量体。 【請求項3】下記一般式(2)で表される、請求項1に記載する多環芳香族化合物。 【化2】 (上記式(2)中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10およびR11は、それぞれ独立して、水素、アリール、ヘテロアリール、ジアリールアミノ、ジヘテロアリールアミノ、アリールヘテロアリールアミノ、アルキル、アルコキシまたはアリールオキシ R8、R9、R10およびR11は、それぞれ独立して、水素、アリール、ヘテロアリール、ジアリールアミノ、ジヘテロアリールアミノ、アリールヘテロアリールアミノ、アルキル、アルコキシまたはアリールオキシであり、これらにおける少なくとも1つの水素はアリール、ヘテロアリールまたはアルキルで置換されていてもよく、また、R1~R11のうちの隣接する基同士が結合してa環、b環またはc環と共にアリール環またはヘテロアリール環を形成していてもよく、形成された環における少なくとも1つの水素はアリール、ヘテロアリール、ジアリールアミノ、ジヘテロアリールアミノ、アリールヘテロアリールアミノ、アルキル、アルコキシまたはアリールオキシで置換されていてもよく、これらにおける少なくとも1つの水素はアリール、ヘテロアリールまたはアルキルで置換されていてもよく、Y1は、B、P=OまたはP=Sであり、Y1がBのとき、X1およびX2は、それぞれ独立して、O、N-R、SまたはSeであり、前記N-RのRは炭素数6~12のアリール、炭素数2~15のヘテロアリールまたは炭素数1~6のアルキルであり、また、前記N-RのRは-O-、-S-、-C(-Ra)2-または単結合により前記a環、b環および/またはc環におけるX1またはX2との結合位置(原子)に隣接する炭素と結合していてもよく、前記Raは炭素数1~6のアルキルであり、前記隣接する炭素はY1、X1およびX2から構成される上記式(2)の中央の縮合2環構造を構成する炭素ではなく、Y1がP=OまたはP=Sのとき、X1およびX2は共にO、SまたはSeであるか、一方がOで他方がSもしくはSeであるか、一方がN-Rで他方がSeであるか、または、一方がSで他方がSeであり、前記N-RのRは炭素数6~12のアリール、炭素数2~15のヘテ SまたはSeであるか、一方がOで他方がSもしくはSeであるか、一方がN-Rで他方がSeであるか、または、一方がSで他方がSeであり、前記N-RのRは炭素数6~12のアリール、炭素数2~15のヘテロアリールまたは炭素数1~6のアルキルであり、また、前記N-RのRは-O-、-S-、-C(-Ra)2-または単結合により前記a環、b環および/またはc環におけるX1またはX2との結合位置(原子)に隣接する炭素と結合していてもよく、前記Raは炭素数1~6のアルキルであり、前記隣接する炭素はY1、X1およびX2から構成される上記式(1)の中央の縮合2環構造を構成する炭素ではなく、そして、式(2)で表される化合物における少なくとも1つの水素がハロゲンまたは重水素で置換されていてもよい。)【請求項4】R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10およびR11は、それぞれ独立して、水素、炭素数6~30のアリール、炭素数2~30のヘテロアリールまたはジアリールアミノ(ただしアリールは炭素数6~12のアリール)であり、また、R1~R11のうちの隣接する基同士が結合してa環、b環またはc環と共に炭素数9~16のアリール環または炭素数6~15のヘテロアリール環を形成していてもよく、形成された環における少なくとも1つの水素は炭素数6~10のアリールで置換されていてもよく、Y1は、B、P=OまたはP=Sであり、Y1がBのとき、X1およびX2は、それぞれ独立して、O、N-RまたはSであり、前記N-RのRは炭素数6~10のアリールまたは炭素数1~4のアルキルであり、Y1がP=OまたはP=Sのとき、X1およびX2は共にOまたはSであるか、一方がOで他方がSであり、前記N-RのRは炭素数6~10のアリールまたは炭素数1~4のアルキルで ~4のアルキルであり、Y1がP=OまたはP=Sのとき、X1およびX2は共にOまたはSであるか、一方がOで他方がSであり、前記N-RのRは炭素数6~10のアリールまたは炭素数1~4のアルキルであり、そして、式(2)で表される化合物における少なくとも1つの水素がハロゲンまたは重水素で置換されていてもよい、請求項3に記載する多環芳香族化合物。 【請求項5】前記ハロゲンはフッ素である、請求項1~4のいずれかに記載する多環芳香族化合物またはその多量体。 【請求項6】下記式(1-1)、下記式(1-2)、下記式(1-4)、下記式(1-10)、下記式(1-49)、下記式(1-81)、下記式(1-91)、下記式(1-100)、下記式(1-141)、下記式(1-151)、下記式(1-176)、下記式(1-411)、下記式(1-447)、下記式(1-601)または下記式(1-701)で表される、請求項1に記載する多環芳香族化合物。 【化3】 【請求項7】下記式(1-21)、下記式(1-23)、下記式(1-24)、下記式(1-50)、下記式(1-152)、下記式(1-201)、下記式(1-401)、下記式(1-422)、下記式(1-1048)、下記式(1-1049)、下記式(1-1050)、下記式(1-1069)、下記式(1-1084)、下記式(1-1090)、下記式(1-1092)、下記式(1-1101)、下記式(1-1102)、下記式(1-1103)、下記式(1-1145)、下記式(1-1152)、下記式(1-1159)、下記式(1-1187)、下記式(1-1190)、下記式(1-1191)、下記式(1-1192)、下記式(1-1201)、下記式(1-1210)、下記式(1-1247)、下記式(1-1250)、下記式 記式(1-1187)、下記式(1-1190)、下記式(1-1191)、下記式(1-1192)、下記式(1-1201)、下記式(1-1210)、下記式(1-1247)、下記式(1-1250)、下記式(1-1251)、下記式(1-1252)または下記式(1-1271)で表される、請求項1に記載する多環芳香族化合物。 【化4】 【化5】 【請求項8】下記式(1-1-1)、下記式(1-79)、下記式(1-142)、下記式(1-152-2)、下記式(1-158)、下記式(1-159)、下記式(1-721)、下記式(1-1006)、下記式(1-1104)、下記式(1-1149)、下記式(1-1150)、下記式(1-1301)、下記式(1-1351)、下記式(1-2305)、下記式(1-2626)、下記式(1-2657)、下記式(1-2662)、下記式(1-2665)、下記式(1-2676)、下記式(1-2678)、下記式(1-2679)、下記式(1-2680)、下記式(1-2681)、下記式(1-2682)、下記式(1-2683)、下記式(1-2691)、下記式(1-2699)、下記式(1-3588)、下記式(1-3654)、下記式(1-3690)、下記式(1-3806)、下記式(1-3824)、下記式(1-4114)、下記式(1-4150)、下記式(1-4341)、下記式(1-4346)、下記式(1-4401)、下記式(1-4421-1)で表される、請求項1に記載する多環芳香族化合物。 【化6】 【化7】 【請求項9】請求項1ないし8のいずれかに記載する多環芳香族化合物またはその多量体を含有する、有機デバイス用材料。 【請求項10】前記有機デバイス用材料が、有機電界発光素子用材料、有機電界効果トランジス 請求項1ないし8のいずれかに記載する多環芳香族化合物またはその多量体を含有する、有機デバイス用材料。 【請求項10】前記有機デバイス用材料が、有機電界発光素子用材料、有機電界効果トランジスタ用材料または有機薄膜太陽電池用材料である、請求項9に記載する有機デバイス用材料。 【請求項11】発光層用材料である、請求項10に記載する有機電界発光素子用材料。 【請求項12】電子注入層用材料または電子輸送層用材料である、請求項10に記載する有機電界発光素子用材料。 【請求項13】正孔注入層用材料または正孔輸送層用材料である、請求項10に記載する有機電界発光素子用材料。 【請求項14】陽極および陰極からなる一対の電極と、該一対の電極間に配置され、請求項11に記載する発光層用材料を含有する発光層とを有する、有機電界発光素子。 【請求項15】陽極および陰極からなる一対の電極と、該一対の電極間に配置された発光層と、前記陰極および前記発光層の間に配置され、請求項12に記載する電子注入層用材料および/または電子輸送層用材料を含有する電子注入層および/または電子輸送層とを有する、有機電界発光素子。 【請求項16】陽極および陰極からなる一対の電極と、該一対の電極間に配置された発光層と、前記陽極および前記発光層の間に配置され、請求項13に記載する正孔注入層用材料および/または正孔輸送層用材料を含有する正孔注入層および/または正孔輸送層とを有する、有機電界発光素子。 【請求項17】さらに、前記陰極と該発光層との間に配置される電子輸送層および/または電子注入層を有し、該電子輸送層および電子注入層の少なくとも1つは、キノリノール系金属錯体、ピリジン誘導体、フェナントロリン誘導体、ボラン誘導体およびベンゾイミダゾール誘導 る電子輸送層および/または電子注入層を有し、該電子輸送層および電子注入層の少なくとも1つは、キノリノール系金属錯体、ピリジン誘導体、フェナントロリン誘導体、ボラン誘導体およびベンゾイミダゾール誘導体からなる群から選択される少なくとも1つを含有する、請求項14~16のいずれかに記載する有機電界発光素子。 【請求項18】前記電子輸送層および/または電子注入層が、さらに、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属、アルカリ金属の酸化物、アルカリ金属のハロゲン化物、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属のハロゲン化物、希土類金属の酸化物、希土類金属のハロゲン化物、アルカリ金属の有機錯体、アルカリ土類金属の有機錯体および希土類金属の有機錯体からなる群から選択される少なくとも1つを含有する、請求項17に記載の有機電界発光素子。 【請求項19】請求項14~18のいずれかに記載する有機電界発光素子を備えた表示装置。 【請求項20】請求項14~18のいずれかに記載する有機電界発光素子を備えた照明装置。 【請求項21】Y1のハロゲン化物、Y1のアミノ化ハロゲン化物、Y1のアルコキシ化物およびY1のアリールオキシ化物からなる群から選択される試薬と、場合によりブレンステッド塩基とを用いて、連続的な芳香族求電子置換反応により、下記中間体におけるA環とB環とC環とを前記Y1により結合する反応工程を含む、下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物、または下記一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体を製造する方法。 【化8】 (上記(中間体)および式(1)中、A環、B環およびC環は、それぞれ独立して、アリール環またはヘテロアリール環であり、これらの環における少なくとも1つの水素は置換されていてもよく、 (上記(中間体)および式(1)中、A環、B環およびC環は、それぞれ独立して、アリール環またはヘテロアリール環であり、これらの環における少なくとも1つの水素は置換されていてもよく、Y1は、B、P=OまたはP=Sであり、X1およびX2は、それぞれ独立して、O、N-R、SまたはSeであり、前記N-RのRは置換されていてもよいアリール、置換されていてもよいヘテロアリールまたはアルキルであり、また、前記N-RのRは-O-、-S-、-C(-Ra)2-または単結合により前記A環、B環および/またはC環におけるX1またはX2との結合位置(原子)に隣接する炭素と結合していてもよく、前記Raは水素またはアルキルであり、前記隣接する炭素はY1、X1およびX2から構成される上記式(1)の中央の縮合2環構造を構成する炭素ではなく、そして、式(1)で表される化合物または構造における少なくとも1つの水素がハロゲンまたは重水素で置換されていてもよい。)【請求項22】有機アルカリ化合物を用いて下記中間体におけるX1とX2の間の水素原子をオルトメタル化する反応工程と、Y1のハロゲン化物、Y1のアミノ化ハロゲン化物、Y1のアルコキシ化物およびY1のアリールオキシ化物からなる群から選択される試薬を用いて前記メタルとY1とを交換する反応工程と、ブレンステッド塩基を用いて連続的な芳香族求電子置換反応により下記中間体におけるA環とB環とC環とを前記Y1により結合する反応工程とを含む、請求項21に記載する下記一般式(1)で表される多環芳香族化合物、または下記一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体を製造する方法。 【化9】 【請求項23】前記連続的な芳香族求電子置換反応により前記中間体におけるA環とB 合物、または下記一般式(1)で表される構造を複数有する多環芳香族化合物の多量体を製造する方法。 【化9】 【請求項23】前記連続的な芳香族求電子置換反応により前記中間体におけるA環とB環とC環とを前記Y1により結合する反応工程において、さらにルイス酸を加えて反応を促進させることを特徴とする、請求項21または22に記載する製造方法。 【請求項24】さらに中間体におけるX1とX2の間の水素原子をあらかじめハロゲン化する反応工程を含む、請求項21~23のいずれかに記載する製造方法。
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