- 1 -平成25年8月8日判決言渡平成24年(行ケ)第10353号審決取消請求事件口頭弁論終結日平成25年7月25日判決 原告吉野石膏株式会社 訴訟代理人弁護士鮫島正洋久礼美紀子小栗久典弁理士島添芳彦 被告チヨダウーテ株式会社 訴訟代理人弁護士宮嶋学大野浩之高田泰彦柏延之弁理士勝沼宏仁 主文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由 - 2 -第1 原告の求めた判決特許庁が無効2011-800235号事件について平成24年9月5日にした審決を取り消す。 第2 事案の概要本件は,特許無効審決の取消訴訟である。争点は,容易想到性である。 1 特許庁における手続の経緯被告は,平成23年11月16日付けで,原告が特許権者であり,発明の名称を「防火区画壁」とする本件特許第4700215号(平成13年4月13日出願,優先権主張平成13年4月10日 ける手続の経緯被告は,平成23年11月16日付けで,原告が特許権者であり,発明の名称を「防火区画壁」とする本件特許第4700215号(平成13年4月13日出願,優先権主張平成13年4月10日,平成23年3月11日設定登録,請求項の数4,甲30)の請求項1~4について,無効審判の請求をした(無効2011-800235号,甲31)。原告は,平成24年2月2日付けで本件訂正請求をした(甲33)。 特許庁は,平成24年9月5日,本件訂正請求を認めた上で,「特許第4700215号の請求項に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をし,その謄本は,同月13日,原告に送達された。 2 本件発明の要旨本件特許の請求項1~4に係る発明は,本件訂正請求書(甲33)に記載された以下のとおりである(以下,各発明を「本件発明1」,「本件発明2」等といい,これらを総称して「本件発明」という。)。 【請求項1】室と室,または室と設備空間とを仕切る屋内非耐力壁であって,軽量鉄骨製スタッド及び不燃性ボード材料により形成される乾式工法の防火区画壁において,壁芯に沿って配置された上下の溝型ランナと,上端部及び下端部を上下の前記溝型ランナの溝内に挿入されることで前記ランナに係止して垂直に立設され,壁芯に沿って所定間隔を隔てて整列配置された軽量鉄- 3 -骨製スタッドと,該スタッドの片面にのみ取付けられ,2層構造に積層された不燃性ボード材料の下貼りボード及び上貼りボードとからなり,前記ボード材料は,9.5~25mmの範囲内の板厚を有する石膏ボード又は石膏板であり,前記スタッド及びボード材料の各着火温度は,1000℃以上の温度であり,防火区画壁の任意の側の雰囲気温度が950℃の高温に達したときに,防火区画壁の他方の側 る石膏ボード又は石膏板であり,前記スタッド及びボード材料の各着火温度は,1000℃以上の温度であり,防火区画壁の任意の側の雰囲気温度が950℃の高温に達したときに,防火区画壁の他方の側における前記ボード材料の表面温度は,最高200℃以下,平均160℃以下の範囲内の温度を維持し,前記下貼りボードは,不燃性且つ耐熱性を有するスクリュービスによって前記スタッドのみに固定され,該スクリュービスは,前記スタッドに沿って300mm以下の間隔に配置され,前記上貼りボードは,ビス又はステープルによって前記下貼りボードの表面に固定されており,前記スクリュービスは,前記ランナ,スタッド及びボード材料が構成する耐火構造の防火区画壁の片側領域の雰囲気温度が900℃以上の高温に達したときに,前記ボード材料及びスタッドの一体性を保持するとともに,前記スタッドの熱変形を抑制することを特徴とする防火区画壁。 【請求項2】前記ボード材料は,加熱時におけるボード素材の結晶水の蒸発気化熱によりボード自体の温度上昇を抑制する性質を有することを特徴とする請求項1に記載の防火区画壁。 【請求項3】前記ボード材料は,21mmの板厚を有する石膏ボードからなることを特徴とする請求項1に記載の防火区画壁。 【請求項4】前記スクリュービスは,前記スタッドの過剰な熱変形を制限するとともに,各層- 4 -のボード材料の目地又は継目が,壁芯方向に互いにずれた位置に配置され,或いは,各層のボード材料の目地又は継目が,互いに縦横に交差することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の防火区画壁。 3 審決の理由の要点審判で平成24年5月2日発送による無効理由通知がされた(甲35)。その概要は次のとおりである。 「訂正後の請求項1~4に記 乃至3のいずれか1項に記載の防火区画壁。 3 審決の理由の要点審判で平成24年5月2日発送による無効理由通知がされた(甲35)。その概要は次のとおりである。 「訂正後の請求項1~4に記載された発明は,特開2000-8511号公報(引用例1)記載の発明,特開平11-247324号公報(引用例2)の記載,および周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。」審決は,上記無効理由通知に基づき,本件発明1~4の容易想到性を認めた。 審決がその判断の前提として認定した,引用例1(甲28)記載の発明,本件発明1と引用例1に記載の発明との一致点及び相違点,並びに相違点に関する審決の判断は,以下のとおりである。 【引用例1記載の発明】「エレベータシャフト,階段等の竪穴区画と,これに隣接する室内空間との間に設置されている防火区画壁であって,石膏ボード等からなる耐火壁板と,これを支持する保持部材とから構成され,保持部材は,床スラブの上面と梁鉄骨の下面とに沿ってそれぞれ設けられた上下の鋼製のランナーと,これらランナー間に所定間隔ごとに配置された鋼製のスタッドとから構成され,耐火壁板は室内空間側にのみ設けられており,耐火壁板はこれらスタッドに固定されている防火区画壁。」の発明【本件発明1と引用例1記載の発明との一致点及び相違点】ア一致点「室と室,または室と設備空間とを仕切る屋内非耐力壁であって,鋼製スタッド及び不燃性ボード材料により形成される乾式工法の防火区画壁において,壁芯に沿って配置された上下の溝型ランナと,上端部及び下端部を上下の前記溝型ランナの溝内に挿入されることで前記ランナに係止して垂直に立設され,壁芯に沿って所定- 5 -間隔を隔てて整列配置された鋼製スタッドと,該スタッド 下の溝型ランナと,上端部及び下端部を上下の前記溝型ランナの溝内に挿入されることで前記ランナに係止して垂直に立設され,壁芯に沿って所定- 5 -間隔を隔てて整列配置された鋼製スタッドと,該スタッドの片面に取付けられた不燃性ボード材料とからなり,前記ボード材料は,石膏ボード又は石膏板である防火区画壁。」である点。 イ相違点1「鋼製スタッド」について,本件発明1においては,「軽量鉄骨製スタッド」であるのに対し,引用例1記載の発明においては「鋼製のスタッド」である点。 ウ相違点2「スタッドの片面に取付けられ」ている点について,本件発明1においては,「スタッドの片面にのみ取付けられ」ているのに対し,引用例1記載の発明においては「耐火壁板は室内空間側にのみ設けられており,耐火壁板はこれらスタッドに固定されている」点。 エ相違点3「不燃性ボード材料」について,本件発明1においては,「2層構造に積層された不燃性ボード材料の下貼りボード及び上貼りボード」であるのに対し,引用例1記載の発明においては,そのような規定がない点。 オ相違点4「ボード材料」について,本件発明1においては,「9.5~25mmの範囲内の板厚を有する」ものであるのに対し,引用例1記載の発明においては,そのような規定がない点。 カ相違点5本件発明1においては,「スタッド及びボード材料の各着火温度は,1000℃以上の温度」であるのに対し,引用例1記載の発明においては,そのような規定がない点。 キ相違点6本件発明1においては,「下貼りボードは,不燃性且つ耐熱性を有するスクリュービスによってスタッドのみに固定され,該スクリュービスは,スタッドに沿って- 6 -300mm以下の間隔に配置され」ているのに 発明1においては,「下貼りボードは,不燃性且つ耐熱性を有するスクリュービスによってスタッドのみに固定され,該スクリュービスは,スタッドに沿って- 6 -300mm以下の間隔に配置され」ているのに対し,引用例1記載の発明においては,そのような規定がない点。 ク相違点7本件発明1においては,「上貼りボードは,ビスまたはステープルによって下貼りボードの表面に固定されて」いるのに対し,引用例1記載の発明においては,そのような規定がない点。 ケ相違点8本件発明1においては,「防火区画壁の任意の側の雰囲気温度が950℃の高温に達したときに,防火区画壁の他方の側における前記ボード材料の表面温度は,最高200℃以下,平均160℃以下の範囲内の温度を維持」するとされているのに対し,引用例1記載の発明においては,そのような規定がない点。 コ相違点9本件発明1においては,「スクリュービスは,ランナ,スタッド及びボード材料が構成する耐火構造の防火区画壁の片側領域の雰囲気温度が900℃以上の高温に達したときに,ボード材料及びスタッドの一体性を保持するとともに,スタッドの熱変形を抑制する」のに対し,引用例1記載の発明においては,そのような規定がない点。 【相違点に関する審決の判断】相違点1について検討すると,鋼製スタッドと石膏ボードを用いた防火区画壁において,鋼製スタッドとして軽量鉄骨を用いることは周知であり(例えば,特開昭62-206140号公報(甲29)参照),相違点1に係る事項が格別な差異であるとは認められない。 相違点2について検討すると,引用例1には,「スタッドにのみ固定されている」とは記載されていないものの,スタッドを用いた第一の実施の形態においては,「スタッドに固定されている」と記載され, い。 相違点2について検討すると,引用例1には,「スタッドにのみ固定されている」とは記載されていないものの,スタッドを用いた第一の実施の形態においては,「スタッドに固定されている」と記載され,ランナーに取り付けられる旨の記載はなく,またランナーに取り付けられていることを推定させるような記載もないこと,原告の- 7 -平成24年2月2日付け答弁書(甲32)の「7.理由[2]軽量鉄骨製スタッドを用いた乾式工法の防火区画壁について」における「我が国の軽鉄間仕切壁においては,このような建物の層間変位に追随すべく,スタッドは,上記の如くランナに挿入されてランナに係止するだけであり,スタッドがランナに固定されることはなく,ボード材料は,スタッドのみに固定され,ボード材料がランナに固定されることはない。」との主張,審判乙4(社団法人全国建設室内工事業協会「建築内装仕上工事標準施工要領書」平成9年版,甲26)の「(4)上,下ランナにはねじ留めしない。」との記載,を考慮すれば,引用例1記載の発明においても,耐火壁板はスタッドのみに固定されているものと認められ,該相違点2に係る事項は,実質的な相違点であるとは認められない。もしくは,当業者にとって,該審判乙4の記載から,容易に採用し得る構成にすぎない。 相違点3について検討すると,引用例1には,耐火壁板の重ねる枚数については何ら限定するものではなく,例にあげた以外のものを採用しても良い旨の記載があることや,引用例2に,竪穴区画等に用いる耐火構造壁について,室内側石膏ボードを2層構造としたものが記載されていることを考慮すると,相違点3に係る事項は,当業者が適宜採用し得る差異にすぎないものと認められる。 相違点4について検討すると,平成24年2月2日付の答弁書41頁,あるいは審判乙15(日本規格協 ることを考慮すると,相違点3に係る事項は,当業者が適宜採用し得る差異にすぎないものと認められる。 相違点4について検討すると,平成24年2月2日付の答弁書41頁,あるいは審判乙15(日本規格協会「JISA 6901:1997」,甲27)に記載されているように,相違点4に係る板厚は一般的に用いられる石膏ボードの板厚を記載したにすぎず,該相違点が格別なものであるとは認められない。 相違点5について検討すると,平成24年2月2日付の答弁書43頁を参照すれば,引用例1記載の発明においても,記載はないものの同様であるものと認められる。 相違点6,7について検討すると,引用例2には,下張り石膏ボードをビスによりスタッドに対して固定し,上張り石膏ボードを,ステープル等の係止具により,下張り石膏ボードの表面に張着することが記載されており,相違点6,7に係る事項が当業者にとって格別なことであるとは認められない。また,間隔については,審判乙4- 8 -には111頁に「(3)ねじ留めの間隔は,スタッドへ外周部,中間部とも300mm以内で留める。」と記載されており,当業者にとって通常採用し得る間隔にすぎないものである。 間隔について,原告は審判乙4第112頁の図4-18には「300程度」と記載されていることを根拠に,審判乙4の該記載は,300mmを若干超える程度の間隔を否定するものではないと主張しているが,「300mm以内」,「300程度」との記載からは,通常は「300mm以内で300mm程度」と認められ,該点に関する原告の主張には無理がある。また,本件発明1においては,「300mm以下」と限定されているが,明細書中に300mm以上にした場合について,なんら記載されておらず,また,口頭審理において明らかにされたように,効果の確認は,300mm 件発明1においては,「300mm以下」と限定されているが,明細書中に300mm以上にした場合について,なんら記載されておらず,また,口頭審理において明らかにされたように,効果の確認は,300mm,250mm,150mmについて行ったのみであることから,本件発明1における「300mm以下」と限定は,審判乙4に記載されたような,通常採用される間隔を記載したにすぎないものと認められ,当業者にとって格別なものであるとは認めることができない。 相違点8について検討すると,甲12~14(注)を参照すれば,該規定は,防耐火性能試験の基準に適合することを示しているにすぎないところであり,また,口頭審理において明らかにされたように,請求項に記載された他の構成が満足されれば達成される構成であり,他の特別な構造を限定するものでもない以上,当業者にとって想到困難な事項であるとは認めることができない。 (注)甲12は平成12年の建築基準法改正後の建築基準法施行令107条,甲13は平成12年5月31日建設省告示第1432号「可燃物燃焼温度を定める件」,甲14は財団法人日本建築総合試験所が平成12年6月1日に制定した「防耐火性能試験・評価業務方法書」。 相違点9について検討すると,甲12~14や,平成24年2月2日付の答弁書44,45頁を参照すれば,該規定は,建築基準法の規定を満たしていることを記載しているにすぎず,また,口頭審理において明らかにされたように,請求項に記載され- 9 -た他の構成が満足されれば達成される構成であり,他の特別な構造を限定するものでもない以上,当業者にとって想到困難な事項であるとは認めることができない。 以上,検討したように,本件発明1は,引用例1記載の発明に,引用例2に記載された事項や,防火区画壁としては周知の構成を採用 もない以上,当業者にとって想到困難な事項であるとは認めることができない。 以上,検討したように,本件発明1は,引用例1記載の発明に,引用例2に記載された事項や,防火区画壁としては周知の構成を採用したにすぎず,構成については,当業者が容易に想到し得る以上の格別な構成を有しているとは認めることができない。 また,本件発明1の効果について検討すると,本件明細書段落【0025】に「エレベータシャフト,設備シャフト等の竪穴の如く,一方の側からは極端に施工困難な条件に設置される乾式工法の防火区画壁に関し,その施工性を大幅に改善することができる。」と記載された効果に関しては,引用例1記載の発明と差異があるとは認められない。 したがって,本件発明1は,引用例1記載の発明,引用例2の記載,および周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 【本件発明2について】訂正後の請求項2において限定される事項は,甲15(社団法人石膏ボード工業会「石膏ボードハンドブック本編平成4年度版」29頁)に記載されているように,石膏ボードが本来的に有している性質であると認められ,当業者にとって格別な事項であるとは認められず,本件発明2は,引用例1記載の発明,引用例2の記載,および周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 【本件発明3について】石膏ボードの板厚は,要求される強度,耐火性能などに応じて,適宜選択し得る事項にすぎないものと認められるところであり,板厚を21mmとすることの技術的意義についても記載されておらず,単に広く用いられている石膏ボードを限定したにすぎないものと認められ,本件発明3は,引用例1記載の発明,引用例2の記載,および周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたもの れておらず,単に広く用いられている石膏ボードを限定したにすぎないものと認められ,本件発明3は,引用例1記載の発明,引用例2の記載,および周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 【本件発明4について】- 10 -各層のボード材料の目地又は継目をずらして配置することは,引用例2の図2や,甲17(社団法人石膏ボード工業会「石膏ボードハンドブック本編平成4年度版」)122頁の2枚張りの図にあるように,周知であると認められ,該請求項において限定される事項が,当業者にとって格別なものであるとは認められず,本件発明4は,引用例1記載の発明,引用例2の記載,および周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第3 原告主張の審決取消事由 1 取消事由1(本件発明1と引用例1記載の発明との一致点・相違点認定の誤り)本件発明1と引用例1記載の発明との間には,審決が摘示する相違点以外にも次の相違点があり,審決は,一致点・相違点の認定を誤っている。 (1) 「室と室,または室と設備空間とを仕切る」点について引用例1記載の発明では「設備空間」は,「エレベータシャフト,階段,設備シャフト等であり,可燃物もほとんどないため」「火災の発生の可能性は非常に低い」「竪穴区画」を意味するとされている。すなわち,「エレベータシャフト,階段,設備シャフト等の竪穴のうち,火災の発生の可能性が非常に低い空間」を意味している。したがって,本件発明1と引用例1記載の発明は,前者が「室と室,または室と設備空間とを仕切る防火区画壁」であるのに対し,後者は「室と火災の発生の可能性が非常に低い設備空間とを仕切る防火区画壁」であるという点で相違する。 本件発明1における「設備空間」は,火災の発生の可能性が相当 間とを仕切る防火区画壁」であるのに対し,後者は「室と火災の発生の可能性が非常に低い設備空間とを仕切る防火区画壁」であるという点で相違する。 本件発明1における「設備空間」は,火災の発生の可能性が相当程度ある設備空間である。 (2) 「非耐力壁」である点について引用例1記載の発明は,竪穴を区画するものではあるが,「非耐力壁」であることについての言及はない。よって,引用例1記載の発明が「非耐力壁」であると言うことはできない。したがって,本件発明1と引用例1記載の発明は,前者が「屋- 11 -内非耐力壁」であるのに対し,後者においてはそのような規定がないという点で相違する。被告は,引用例1記載の発明はランナ及びスタッドなどの保持部材を用いて耐火壁板を固定するものであるため,構造上非耐力壁であることは明らかと主張するが,「ランナ及びスタッドなどの保持部材を用いて耐火壁板を固定する」耐力壁も存在し(甲53),被告の主張は認められない。 (3) 「ランナが壁芯に沿って配置されている」点について引用例1記載の発明においては,「床スラブの上面と梁鉄骨の下面とに沿ってそれぞれ設けられた上下の鋼製のランナー」との開示しかなされておらず,それが壁芯に沿ったものであることについての言及はない。したがって,本件発明1と引用例1記載の発明は,「ランナ」について,前者が「壁芯に沿って配置された」ものであるのに対し,後者においてはそのような規定がないという点で相違する。 (4) 「スタッドとランナを固定しない」点について本件発明1においては,「スタッド」は「ランナに係止」されている。それに対し,引用例1記載の発明においては,「ランナ」と「スタッド」から構成された「保持部材」が「建物に固定」されている。引用例1記載の発明において,ランナとス タッド」は「ランナに係止」されている。それに対し,引用例1記載の発明においては,「ランナ」と「スタッド」から構成された「保持部材」が「建物に固定」されている。引用例1記載の発明において,ランナとスタッドを建物に固定するためには,その構造上,ランナを建物に固定し,さらに,スタッドをランナに固定するほかに方法がない。本件発明1と引用例1記載の発明は,「スタッド」について,前者が「ランナに係止されるにとどまり,固定されていない」のに対し,後者においては「ランナに固定されている」という点で相違する。 スタッドをランナに固定する工法も用いられることがあるから(甲17),「スタッドをランナに係止して立設することは一般的な施工方法」であるとはいえない。 (5) 「スタッドが垂直に立設され壁芯に沿って配置されている」点について引用例1記載の発明においては,「ランナー間に所定間隔ごとに配置された鋼製のスタッド」との開示しかなされておらず,それが垂直に立設されたものであること,及び壁芯に沿って配置されたものであることについての言及は全くない。した- 12 -がって,本件発明1と引用例1記載の発明は,「スタッド」について,前者が「垂直に立設され,壁芯に沿って配置された」ものであるのに対し,後者においてはそのような規定がないという点で相違する。 2 取消事由2(引用例1記載の発明と引用例2その他の周知例を組み合わせても本件発明1を構成することはできない)(1) 相違点5について審決は,「相違点5について検討すると,平成24年2月2日付の答弁書43頁を参照すれば,引用例1記載の発明においても,記載はないものの同様であるものと認められる。」と判示した。審決摘示の当該審判答弁書の部分は,「『防火区画壁の任意の側の雰囲気温度が950℃の 弁書43頁を参照すれば,引用例1記載の発明においても,記載はないものの同様であるものと認められる。」と判示した。審決摘示の当該審判答弁書の部分は,「『防火区画壁の任意の側の雰囲気温度が950℃の高温』になるのであるから,スタッド及びボード材料の着火温度が1000℃以上の温度であることは,容易に理解し得る。」というものである。 しかし,進歩性の判断においては,すべての相違点について,副引用例もしくは技術常識を組み合わせて,埋めることができることが必要であり,被請求人の主張内容はこれを代替する作用を有し得ない。したがって,被請求人(原告)の主張により相違点を埋め,もって,容易想到性判断の基礎とすることは誤りである。そうすると,「スタッド及びボード材料の各着火温度は,1000℃以上の温度」という点については,本来,技術常識であることが立証されない限り,引用例同士を組み合わせても相違点として残ることになる。審判答弁書の上記記載は,被請求人という一個人の認識に過ぎないのであって,この主張をもって,「スタッド及びボード材料の各着火温度は,1000℃以上の温度」という構成が当時のすべての当業者の技術常識であることが立証されているとはいえない。 (2) 相違点9について甲12~14を根拠として「建築基準法の規定を満たしていることを記載しているにすぎ」ないとした審決の判断は誤りである。答弁書(甲32)の記載を参照したとしても,「非耐力壁」に建築基準法施行令107条1号が適用されないとの結- 13 -論が影響を受けるものではない。また,口頭審理における被請求人の主張については,「請求項に記載された他の構成の満足は,相違点9にかかる構成の実現に対する必要条件にすぎない」というのが,被請求人の真に意図していたところである。 また,スクリュ おける被請求人の主張については,「請求項に記載された他の構成の満足は,相違点9にかかる構成の実現に対する必要条件にすぎない」というのが,被請求人の真に意図していたところである。 また,スクリュービスの材質や強度,取り付け強度その他によって,ボード材料とスタッドの一体性保持・スタッドの熱変形抑制という機能を有する構造となるか否かは異なるはずである。きわめて強度の低いスクリュービスを用いたり,スクリュービスをきわめて緩く取り付けたりした場合には,ボードとスタッドの一体性が維持されず,スタッドの熱変形が抑制されない可能性があることは自明である。請求項に記載の他の構成においては,少なくともスクリュービスの材質や強度,取り付け強度に関する限定はなされておらず,「請求項に記載された他の構成が満足」されたからといって,必ずしも,「スクリュービスは,ランナ,スタッド及びボード材料が構成する耐火構造の防火区画壁の片側領域の雰囲気温度が900℃以上の高温に達したときに,ボード材料及びスタッドの一体性を保持するとともに,スタッドの熱変形を抑制する」構成が実現されるとはいえない。 本件発明1においては,スタッドとランナは係止されているだけでこれらを固定しているものではなく,また,ボードをランナに固定しない構成とされているため,特段の工夫をしない場合,スタッドの加熱変形によってボード材料及びスタッドから成る壁体の一体性が保持されず,結果として,耐火性を発揮できない可能性がある。各構成部材をすべてとめつけて固定するような構成を採用していないにもかかわらず,ボード材料及びスタッドの一体性を保持するような構成に限定しているという点で,相違点9にかかる構成は,実質的に本件発明1の構成を限定する意義を有する。 3 取消事由3(引用例1記載の発明から容易想到であ 料及びスタッドの一体性を保持するような構成に限定しているという点で,相違点9にかかる構成は,実質的に本件発明1の構成を限定する意義を有する。 3 取消事由3(引用例1記載の発明から容易想到であるとはいえない)本件発明1の解決課題は,「両側からの火災に対する耐火性を発揮する」方向性であるところ,引用例1記載の発明の解決課題は,「竪穴区画側からの火災に対する防火機能を省く」方向性であり,両者の方向性は逆であるから,両者の解決課題- 14 -には,共通性がない。作用効果についても,本件発明1は「両側からの火災に対する耐火性を発揮する」ものであり,引用例1記載の発明は「片側からの火災のみに対する耐火性を発揮する」ものであるところ,両側に対する耐火性を有するものと,片側のみの耐火性を有するものは,使用できる場面が異なるのであって,耐火性の程度にとどまる問題ではなく,耐火性の質が異なるものといえる。したがって,両者の作用効果においても,共通性がない。 引用例1には「高い施工性を維持しつつ,両側からの火災に対する耐火性を有する防火区画壁を提供すること」という課題に関する記載はなく,また,その解決手段についても,「係止具がスタッドの過剰な熱変形を制限し,スタッドを所定位置に保持する作用を発揮して高温加熱時にスタッド及びボード材料の一体性を保持すること,及びボード材料を少なくとも2層構造に積層すること」に関する記載はない。 審決は,本件発明1における「片面施工による高い施工性を維持しつつ,両側からの火災に対する耐火性を有する防火区画壁を提供すること」という解決課題設定及びその解決手段の達成が容易に想到できたとの点について,証拠を基礎とした客観的合理的な論理に基づいた説明を示していない。 審判乙4(甲26)には,「ねじ留めの間隔は・・ こと」という解決課題設定及びその解決手段の達成が容易に想到できたとの点について,証拠を基礎とした客観的合理的な論理に基づいた説明を示していない。 審判乙4(甲26)には,「ねじ留めの間隔は・・300㎜以内で留める」こと及び「石膏ボードを上下ランナにねじ留めしない」ことが開示されているが,これは中空壁におけるねじ留めの方法について述べたものにすぎない。「片面施工による高い施工性を維持しつつ,両側からの火災に対する耐火性を有する防火区画壁を提供すること」という課題の解決のための手段として開示されたものではなく,本記載をもって,本件発明1の解決課題に対する解決手段が記載されているということができない。 本件発明1における解決課題と作用効果は,引用例1記載の発明における解決課題と作用効果と異なるものであるし,引用例1に,本件発明1の解決課題及びその解決手段の記載はない。また,本件発明1の解決課題及び解決手段は,その設定・- 15 -着眼自体がユニークであるといえ,課題の設定が容易であったとはいえない。 したがって,引用例1記載の発明を基礎として,本件発明1と引用例1記載の発明の相違点にかかる構成に到達することが容易であったとはいえない。 4 取消事由4(顕著な効果認定の看過)審決は,原告の主張に対応して,「引用例1の請求項2には,保持部材の竪穴区画壁に,保持部材のみを覆う耐火被覆材を設けることが記載されていることから,竪穴区画からの火災について想定されている」と認定する。しかし,審決が「引用例1記載の発明」として認定しているのは,請求項1にかかる発明(第一の実施の形態)であり,当該発明は請求項2にかかる発明(第二の実施の形態)とは別の発明である。引用例1記載の発明の効果は,「エレベータシャフト,設備シャフト等の竪穴の如く, 求項1にかかる発明(第一の実施の形態)であり,当該発明は請求項2にかかる発明(第二の実施の形態)とは別の発明である。引用例1記載の発明の効果は,「エレベータシャフト,設備シャフト等の竪穴の如く,一方の側からは極端に施工困難な条件に設置される乾式工法の防火区画壁のうち竪穴空間ではない空間側からの火災にのみ耐火性を発揮するものに関し,その施工性を大幅に改善することができる。」というものであると考えるべきである。 本件発明1は石膏ボードを用いた防火区画壁という技術分野に属するものであるが,かかる技術分野においては,物の構造に基づく効果の予測が非常に困難である。 引用例1記載の発明の効果は,竪穴空間ではない空間側からの火災にのみ耐火性を発揮するものに限って生じるものであるのに対し,本件発明1の効果には,そのような限定がなく,本件発明1により,竪穴空間からの火災に対しても耐火性を発揮するものにおいても,施工性を改善できるという効果が発揮される。本件発明1のこのような効果は,引用例1記載の発明の効果と比較して,技術水準から予測される範囲を超えた顕著な効果であるといえる。 また,甲1(Knauf 社「クナウフ社被覆壁とシャフトウォール W62」),被告が甲1開示のシャフトウォールの試験結果であるとする乙1(iBMB作成の試験証明書),及びドイツにおける耐火性能基準を示すものであるとする乙2(ドイツ規格協会規格委員会「DIN 4102 Teil 2 建築部材や建築材料の燃焼挙動」)のいずれを- 16 -参照しても,甲1開示のシャフトウォールが,両側耐火の効果を有するものであるのか明らかでなく,甲1を根拠として,スタッドを火炎側に露出させた比較的簡易な構造の間仕切壁構成ではスタッド側からの火災に対する耐火性を発揮することができないことが技術常識 の効果を有するものであるのか明らかでなく,甲1を根拠として,スタッドを火炎側に露出させた比較的簡易な構造の間仕切壁構成ではスタッド側からの火災に対する耐火性を発揮することができないことが技術常識であったことは否定されない。さらに甲1と本件発明1の構成を比較すると,スタッド及びランナに対するボードの固定態様が異なっているから,「本件発明1のような構造をもって,両側耐火の防火区画壁を構成することができる」との技術常識が導かれるものではない。 また,被告は,甲4(GYPSUMASSOCIATION「FireResistanceDesignManual」)のシャフトウォールが,スタッド側からの火炎に対する耐火性を発揮することを前提とした議論を展開するが,甲4を参照しても,両側耐火の効果を有するものであるのか明らかでない。さらに,甲4記載の壁体は,スタッドの片面に石膏ボードを取り付けた構造ではあるが,補強材として鋼製帯板(steelstrip)が使用されており,かつ,石膏ボードは4枚使用されているなど,本件発明1とまったく異なるものである。したがって,仮に,甲4を根拠として,「甲4のような構成をもって両側耐火の防火区画壁を構成することができる」との技術常識が得られたとしても,本件発明1のような比較的簡易な構造の間仕切壁を前提とした場合に,両側耐火の性能を発揮できるか否かを判断することはできず,「片面のみに石膏ボードを設置して両側耐火の防火区画壁を構成することができる」との技術常識が導かれることはない。 5 取消事由5(請求人の主張する無効理由1から4に関する審決の判断について)審決は,無効理由1,無効理由2,無効理由3,及び無効理由4に理由があると認める根拠について,「本件発明1~4についてで検討した事項を考慮すれば」な 効理由1から4に関する審決の判断について)審決は,無効理由1,無効理由2,無効理由3,及び無効理由4に理由があると認める根拠について,「本件発明1~4についてで検討した事項を考慮すれば」などと抽象的かつ包括的に述べるのみであり(注),その判断の根拠を証拠による認定事実に基づき具体的に明示しているとは到底言えない。このような審決の記載が,審決の「理由」の記載を求める特許法157条2項4号の規定に違反することは明- 17 -らかである。 (注)この点の審決の判断について,本判決では摘示を省略した。 第4 被告の反論 1 取消事由1(本件発明1と引用例1記載の発明との一致点・相違点認定の誤り)に対し(1) 「室と室,または室と設備空間とを仕切る」点について本件発明1に係る請求項の記載において,「設備空間」の意義には,なんらの限定も付されていないから,仮に引用例1記載の発明が「室と火災の発生の可能性が非常に低い設備空間とを仕切る防火区画壁」であったとしても,「室と室,または室と設備空間とを仕切る防火区画壁」であることには違いはなく,「室と室,または室と設備空間とを仕切る」点は相違点ではない。 (2) 「非耐力壁」である点について引用例1記載の発明は,本件発明1と同様に,ランナ及びスタッドなどの保持部材を用いて耐火壁板を固定するものであるため,構造上,非耐力壁であることは明らかであり,「非耐力壁」である点は相違点ではない。 (3) 「ランナが壁芯に沿って配置されている」点について本件明細書には,「ランナが壁芯に沿って配置されている」ことの意義についての記載がなく,どのような場合に壁芯に沿っていないといえるのかが明確ではない。 少なくとも,本件発明1と引用例1記載の発明とは,室と室,または室と設備空 が壁芯に沿って配置されている」ことの意義についての記載がなく,どのような場合に壁芯に沿っていないといえるのかが明確ではない。 少なくとも,本件発明1と引用例1記載の発明とは,室と室,または室と設備空間とを仕切るために設置されるものである点では一致しているから,引用例1記載の発明は,本件発明1でいうところの「ランナが壁芯に沿って配置され」た構造を有している。したがって,「ランナが壁芯に沿って配置されている」点は相違点ではない。 (4) 「スタッドとランナを固定しない」点について「固定」は「係止」を包含する概念であり,引用例1記載の発明は,スタッドが- 18 -ランナに係止して立設されたものも含む。スタッドをランナに係止して立設することは一般的な施工方法であり(乙3,4,甲26),引用例1記載の発明のスタッドも,一般的な施工方法と同様,ランナに係止されて立設されたものであると理解するのが自然であるから,スタッドとランナを固定しない点は相違点ではない。 (5) 「スタッドが垂直に立設され壁芯に沿って配置されている」点について引用例1の【図1】からも明らかなとおり,引用例1記載の発明のスタッドは垂直に立設されたものである。「壁芯に沿って配置された」点について,本件明細書にはこの点の意義についての記載がなく,どのような場合に壁芯に沿っていないといえるのかが明確ではないが,少なくとも,本件発明1と引用例1記載の発明とは,室と室,または室と設備空間とを仕切るために設置されるものである点では一致しているのであるから,引用例1記載の発明は,本件発明1でいうところの「スタッドが・・・壁芯に沿って配置された」構造を有しているといえ,相違点とはいえない。 2 取消事由2(引用例1記載の発明と引用例2その他の周知例を組み合わせても本件発 件発明1でいうところの「スタッドが・・・壁芯に沿って配置された」構造を有しているといえ,相違点とはいえない。 2 取消事由2(引用例1記載の発明と引用例2その他の周知例を組み合わせても本件発明1を構成することはできない)に対し(1) 相違点5について引用例1記載の発明のスタッドは鋼製であり,ボード材料は石膏ボードであるため,引用例1記載の発明のスタッド及びボード材料の着火温度が1000℃以上であることは明らかである。したがって,相違点5は実質的な相違点ではない。 (2) 相違点9について防火性能評価の実務においては,「非耐力壁」は,「耐力壁」と区別されることなく,建築基準法施行令107条1号に基づく耐火構造として取り扱われていた。 「非耐力壁」についても建築基準法施行令107条1号に基づく耐火構造として取り扱われていたのであるから,相違点9は建築基準法の規定を満たしていることを記載しているにすぎない。 相違点9に係る構成は,防火区画壁の具体的な構造を特定するものではなく,法- 19 -令上要求される性能を抽象的に記載したものにすぎず,他の要件に加えて本件発明1に係る構成を特定するものとはいえない。また,仮に相違点9に係る構成の意義が原告の主張どおりであったとしても,それは耐火性能を有しないことが明らかであるような例外的な構成を除外する意義を有するにすぎない。 3 取消事由3(引用例1記載の発明から容易想到であるとはいえない)に対し引用例1記載の発明と本件発明の解決課題は,施工性の改善という主要な部分で共通しており,本件は引用例1と本件発明の解決課題が全く異なる場合とはいえない。 防火区画壁は両側耐火であることが原則であり(建築基準法施行令107条2号),法令上片側耐火が認められるのは例外的な場合 ており,本件は引用例1と本件発明の解決課題が全く異なる場合とはいえない。 防火区画壁は両側耐火であることが原則であり(建築基準法施行令107条2号),法令上片側耐火が認められるのは例外的な場合に限られているため,一般的に,当業者には,防火区画壁を両側耐火のものにすることについての強い動機が存在している。さらに,引用例1には,竪穴空間側からの火災を想定した記載がなされているのであり,この記載は,引用例1記載の発明を両側耐火のものとして用いることを想定するものといえる。そして,引用例1の請求項2に係る発明は,請求項1に係る発明と全く別の発明であると理解すべきものではなく,請求項1に係る発明を前提として,その発明が用いられる場面において要求される耐火性能に応じて採りうる構成を示したものと理解すべきものである。海外では,本件出願の前から,スタッドを火炎側に露出させた構造の防火区画壁であって,スタッド側からの火災に対する耐火性を発揮することができるものが存在し実際に利用されていた(甲1,甲4)。 これらの事情を考慮すると,引用例1記載の発明は両側耐火のものも包含していると理解すべきであり,そのため,引用例1記載の発明は本件発明1と実質的に同一のものである。 引用例1記載の発明は,竪穴空間側からの火災に耐火性を有するものを排除するものではなく,本件発明1の解決課題と方向性が逆であるとはいえない。また,引用例1記載の発明と本件発明1との解決課題及び作用効果の主要部分は,共に,片- 20 -面施工による施工性の改善にあり,その点において両者は一致している。 「係止具がスタッドの過剰な熱変形を制限し,スタッドを所定位置に保持する作用を発揮して高温加熱時にスタッド及びボード材料の一体性を保持すること」は耐火性能を有するために当然に備えてい している。 「係止具がスタッドの過剰な熱変形を制限し,スタッドを所定位置に保持する作用を発揮して高温加熱時にスタッド及びボード材料の一体性を保持すること」は耐火性能を有するために当然に備えていなければならないことであって技術常識に属するものであり,「ボード材料を少なくとも2層構造に積層すること」については,引用例1の【図2】及び【図3】に記載され,また一般的な施工方法でもある。したがって,実質的には,「係止具がスタッドの過剰な熱変形を制限し,スタッドを所定位置に保持する作用を発揮して高温加熱時にスタッド及びボード材料の一体性を保持すること,及びボード材料を少なくとも2層構造に積層すること」に関する記載が存在している。 4 取消事由4(顕著な効果認定の看過)に対し原告は,本件発明1は物の構造に基づく効果の予測が非常に困難な技術分野に属するものであると主張するが,そうであるならば,鋼材をむき出しにして火炎にさらすような構造においては耐火性を有しないと決めつけることもできない。そして,耐火性を有しないと決めつけることができないのであるから,当業者としては耐火性を有するかもしれないという認識を有することになり,耐火性を有するという効果も当業者の予測の範囲内に入ることになる。このように,耐火性を有するという効果も当業者の予測の範囲内に入ることから,引用例1記載の発明を両側耐火のものとして用いようとすることについての阻害事由も存在しない。したがって,「高い施工性を維持しつつ,両側からの火災に対する耐火性を有する防火区画壁を提供する」という課題は当業者にとって当然の解決課題の設定であり,本件発明1における解決課題の設定自体がユニークであったとする原告の主張は誤りである。そもそも,海外においては鋼材をむき出しにして火炎にさらすような構造の は当業者にとって当然の解決課題の設定であり,本件発明1における解決課題の設定自体がユニークであったとする原告の主張は誤りである。そもそも,海外においては鋼材をむき出しにして火炎にさらすような構造のものが存在し実際に利用されていたのであるから(甲1,甲4),耐火性を有するという効果は,当然に技術水準から予測される効果にすぎないものである。 5 取消事由5(請求人の主張する無効理由1から4に関する審決の判断につい- 21 -て)に対し審決は,無効理由通知の理由については,その判断の根拠を証拠による認定事実に基づき具体的に明示している。そして,無効理由通知の理由についての審決の判断には誤りがないのであるから,審決の理由の記載としては十分である。したがって,審決の記載が特許法157条2項4号の規定に違反しているとの原告の主張は誤りである。 第5 当裁判所の判断 1 引用例1の記載引用例1(甲28)には,以下の事項が記載されている。 【特許請求の範囲】【請求項1】 建物の竪穴区画とこれに隣接する他の区画との間に設置される防火区画壁であって,該防火区画壁が,防火性能を有した耐火壁板と,該耐火壁板を保持するため前記建物に固定された保持部材とから構成され,かつ,前記耐火壁板が,前記保持部材に対して前記他の区画側にのみ設けられていることを特徴とする防火区画壁。 ・・・・・・【発明の詳細な説明】【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,ビル等に設置される防火区画壁に関するものである。 ・・・・・・【0003】このようなものとしては,例えば,図6に示すように,金属製のスタッド1の両面にそれぞれ防火性能を有した耐火壁板2を取り付けた構成の防火区画壁3が多用されている。また,図7に示すように,複数枚の耐火壁板2 ようなものとしては,例えば,図6に示すように,金属製のスタッド1の両面にそれぞれ防火性能を有した耐火壁板2を取り付けた構成の防火区画壁3が多用されている。また,図7に示すように,複数枚の耐火壁板2を重ね合わせ,これを鋼製のランナー5で床や天井に固定する構成の防火区画壁6もある。 - 22 -【0004】【発明が解決しようとする課題】しかしながら,上述したような従来の防火区画壁には,以下のような問題が存在する。防火区画壁3,6をはじめとする従来の防火区画壁は,いずれもその両側の区画に対して防火機能を有していた。ところが,防火区画壁を,例えばエレベータシャフト等の竪穴区画とこれに隣接する区画との間に設置する場合,竪穴区画側から火災が発生する可能性は非常に低く,またこのような竪穴区画内には可燃物もないことから,竪穴区画側からの火災に対する防火機能は無駄であるとも言え,この点においてコスト削減の余地がある。また,竪穴区画側に耐火壁板2を取り付けるには,大がかりな足場等を組む必要があり,非常に手間がかかるという問題もある。 【0005】本発明は,以上のような点を考慮してなされたもので,より低コストで容易に施工することのできる防火区画壁を提供することを課題とする。 【0006】【課題を解決するための手段】請求項1に係る発明は,建物の竪穴区画とこれに隣接する他の区画との間に設置される防火区画壁であって,該防火区画壁が,防火性能を有した耐火壁板と,該耐火壁板を保持するため前記建物に固定された保持部材とから構成され,かつ,前記耐火壁板が,前記保持部材に対して前記他の区画側にのみ設けられていることを特徴としている。 【0007】このように,防火区画壁を構成する耐火壁板を他の区画側にのみ設けることによって,他の区画側からの火災に対して防火性能を に対して前記他の区画側にのみ設けられていることを特徴としている。 【0007】このように,防火区画壁を構成する耐火壁板を他の区画側にのみ設けることによって,他の区画側からの火災に対して防火性能を発揮することができる。また,竪穴区画側には耐火壁板を設けないので,足場等を組んで施工を行う必要がなくなる。 ・・・・・・【0011】[第一の実施の形態]図1に示すものは,エレベータシャフト,階段,設備シャフト等,上下方向に連続する竪穴区画S1と,これに隣接する室内空間(他の空間)S2との間に設置されている防火区画10である。この図において,符号1- 23 -1は床スラブ,12は岩綿等が吹き付けられて耐火被覆が施された梁鉄骨,13は天井,をそれぞれ示している。 【0012】図1および図2に示すように,この防火区画壁10は,石膏ボード等からなる耐火壁板15と,これを支持する保持部材16とから構成されている。保持部材16は,床スラブ11の上面と梁鉄骨12の下面とに沿ってそれぞれ設けられた上下の鋼製のランナー17,18と,これらランナー17,18間に所定間隔ごとに配置された鋼製のスタッド19とから構成され,前記耐火壁板15はこれらスタッド19に固定されている。 【0013】このような防火区画壁10によれば,室内空間S2側からの火災に対しては,耐火壁板15によって防火機能を発揮することができ,竪穴区画S1側への延焼を防止することができる。一方,竪穴区画S1は,エレベータシャフト,階段,設備シャフト等であり,可燃物もほとんどないため,竪穴区画S1側における火災の発生の可能性は非常に低い。 【0014】上述した防火区画壁10では,耐火壁板15を室内空間S2側にのみ設ける構成としたので,施工時には,竪穴区画S1側に耐火壁板15を設ける必要がなく, る火災の発生の可能性は非常に低い。 【0014】上述した防火区画壁10では,耐火壁板15を室内空間S2側にのみ設ける構成としたので,施工時には,竪穴区画S1側に耐火壁板15を設ける必要がなく,これにより,竪穴区画S1内に足場を組むことなく,施工を室内空間S2側から行うことができる。したがって,施工の効率化を図り,コスト低減および工期の短縮化を図ることができる。 ・・・・・・【0016】[第二の実施の形態]次に,本発明にかかる防火区画壁の第二の実施の形態について説明する。以下に説明する第二の実施の形態において,前記第一の実施の形態と共通する構成については同符号を付し,その説明を省略する。 ・・・・・・【0020】しかも,耐火被覆材27によって,竪穴区画S1側からの火災に対しても防火性能を発揮することができる。このように,耐火被覆材27を,ランナー26のみを覆うよう設けることによって,低コストで防火性能を得ることができる。 - 24 -・・・・・・【0023】【発明の効果】以上説明したように,請求項1に係る防火区画壁によれば,防火区画壁を構成する耐火壁板を,竪穴区画に隣接する他の区画側にのみ設ける構成としたので,これによって,他の区画側からの火災に対して防火性能を発揮することができる。 また,竪穴区画側に足場等を組んで施工を行う必要がなく,施工を他の区画側から行うことができる。したがって,施工の効率化を図り,コスト低減および工期の短縮化を図ることができる。 【0024】請求項2に係る防火区画壁によれば,保持部材の竪穴区画側に,保持部材のみを覆う耐火被覆材を設けた構成となっている。これにより,竪穴区画側からの火災に対しても防火性能を発揮することができる。しかも竪穴区画側の耐火被覆材を最小限とすることができるので,低コスト 持部材のみを覆う耐火被覆材を設けた構成となっている。これにより,竪穴区画側からの火災に対しても防火性能を発揮することができる。しかも竪穴区画側の耐火被覆材を最小限とすることができるので,低コストで前記効果を得ることができる。 2 本件発明1との対比以上の記載からみると,審決が認定した引用例1記載の発明,すなわち,引用例1の請求項1に記載され,第一の実施の形態として記載された発明は,室内空間(すなわち,他の区画側)からの火災に対して,竪穴区画側への延焼を防止するために耐火壁板を設けた発明であり,竪穴区画側からの火災に対して防火性能を発揮することは意図されていなかったといえる。そして,第二の実施の形態で実施例が示される発明は,第一の実施の形態で示される発明に保持部材を覆う耐火被覆材を設けることで,竪穴区画側からの火災に対して防火性能を発揮するものとした発明であるといえる。 しかし,引用例1に記載された第二の実施の形態においては,耐火被覆材によって覆われる保持部材がランナー26であり,これは第一の実施の形態と同様に,鋼製(温度の上昇によって変形するおそれがある。)であると考えられることからすると,第二の実施の形態における竪穴区画側からの火災に対する防火性能とは,ランナー26そのものの延焼を防止する防火性能でなく,ランナー26の温度が上昇- 25 -することを防止し,その変形を防ぐことによる防火性能であると考えられる。このことは,第二の実施の形態における保持部材である石膏ボードが一般に結晶水の作用により火災時に一定以上の温度に上昇しない性質を有していることからもわかる。 そして,本件特許出願時において,ランナー26等を石膏ボードで覆うことが竪穴区画側からの火災に対する防火性能を備えるために必要であると考えられていたか否かに 性質を有していることからもわかる。 そして,本件特許出願時において,ランナー26等を石膏ボードで覆うことが竪穴区画側からの火災に対する防火性能を備えるために必要であると考えられていたか否かについて検討すると,平成10年法律第100号による建築基準法改正(平成12年6月1日施行。以下「平成12年の建築基準法改正」という。)に伴い,少なくとも耐力壁での防火壁の鋼材温度の基準が廃止されたことについて原告及び被告の間に争いはなく(甲10,甲50),この点からみて,鋼材温度が上昇しても鋼材の過度の変形がなければ防火壁は防火性能を備えることができ,鋼材温度の上昇は防火性能を備える点で必須の事項であるとは考えられなくなったとみるのが自然である。 3 取消事由1(本件発明1と引用例1記載の発明との一致点・相違点認定の誤り)について審決は,本件発明1と引用例1記載の発明とは,相違点1から9の点で相違すると認定しているが,原告は他にも相違点があると主張するので,以下,原告が主張する個別の相違点について検討するが,いずれも相違点と認めることはできず,取消事由1は理由がない。 (1) 「室と室,または室と設備空間とを仕切る」点について本件発明1では「室と室,または室と設備空間とを仕切る」について,「室と室,または室と設備空間とを仕切る屋内非耐力壁であって」とのみ特定し,それ以上に室及び設備空間に関する事項を特定していない。そして,一般的な意味において「室」及び「設備空間」とのみ特定される事項が,火災の発生の可能性の有無及びその可能性の高低を限定することはないから,本件発明1の「室」及び「設備空間」は火災の発生の可能性が低い,あるいは無いものをも含むものと解される。したがって,- 26 -原告主張のように引用例1記載の発明が「室と火災 定することはないから,本件発明1の「室」及び「設備空間」は火災の発生の可能性が低い,あるいは無いものをも含むものと解される。したがって,- 26 -原告主張のように引用例1記載の発明が「室と火災の発生の可能性が非常に低い設備空間とを仕切る防火区画壁」であるとしても,本件発明1が限定するにとどまる「室と室,または室と設備空間とを仕切る防火区画壁」であることに変わりはなく,この点について本件発明1と引用例1記載の発明との間に相違はない。 (2) 「非耐力壁」である点について引用例1には「本発明は,ビル等に設置される防火区画壁に関するものである。」(【0001】)と記載されており,引用例1記載の発明が防火区画壁であることは明らかである。そして,防火区画壁について耐力壁と非耐力壁があり(甲11,甲12),このことは自明であるところ,引用例1には非耐力壁であることについての言及がないことは原告主張のとおりである。しかし,引用例1には防火区画壁が耐力壁であることについての言及もないから,引用例1記載の発明も,防火区画壁について耐力壁なのか非耐力壁なのかの限定をするものではない。この点について本件発明1と引用例1記載の発明の間に相違はない。 (3) 「ランナが壁芯に沿って配置されている」点について引用例1には,原告主張のように「ランナが壁芯に沿って配置されている」点について明記されていない。しかし,引用例1記載の発明は竪穴区画とこれに隣接する室内空間との間に設置される区画壁であり,耐火壁板である石膏ボード等の壁板をランナーとスタッドからなる保持部材により支持しているものである。したがって,区画壁によって竪穴区画と室内空間とが分けられるのであるから,これを支持するランナーは当然壁芯に沿って配置されることとなり,この点は引用例1の図 なる保持部材により支持しているものである。したがって,区画壁によって竪穴区画と室内空間とが分けられるのであるから,これを支持するランナーは当然壁芯に沿って配置されることとなり,この点は引用例1の図2の記載からも明らかである。この点について本件発明1と引用例1記載の発明の間に相違はない。 (4) 「スタッドとランナを固定しない」点について引用例1には「・・・耐火壁板を保持するため前記建物に固定された保持部材・・・」(請求項1),「保持部材16は,床スラブ11の上面と梁鉄骨12の下面とに沿ってそれぞれ設けられた上下の鋼製のランナー17,18と,これらランナ- 27 -ー17,18間に所定間隔ごとに配置された鋼製のスタッド19とから構成され・・・」(【0012】)と記載されている。そして,保持部材が建物に固定されていることは明記されているが,スタッドとランナーからなる保持部材のいずれが建物に固定されているのか,あるいは両者が固定されているのかは明記されていない。 図2に示される保持部材の構造からみて,少なくとも建物には保持部材のランナーが固定され,スタッドは床スラブや梁鉄骨等の建物に直接固定されるものではなく,ランナーに固定されるものであるといえる。 本件発明1では,スタッドはランナに係止されているものであるが,このスタッドには,下貼りボードがスクリュービスにより固定され,この下貼りボードの表面には,ビス又はステープルによって上貼りボードが固定されている(甲33)。このようにスタッドに下貼りボードと上貼りボードが固定されると,スタッドはランナの溝方向に移動することができないから,通常係止状態から外れることがなく,これによりスタッドをランナに固定することができるのは明らかである。 引用例1記載の発明においても同様の手段によりス ランナの溝方向に移動することができないから,通常係止状態から外れることがなく,これによりスタッドをランナに固定することができるのは明らかである。 引用例1記載の発明においても同様の手段によりスタッドをランナーに固定できることは明らかである。どのような手段によりスタッドをランナーに固定しているかは明記されていないが,これは,引用例1記載の発明は,スタッドがランナーに適切に固定されていれば,その手段がどのような手段であっても発明を実施できるからであり,この手段には,当然慣用の手段であるスタッドがランナに係止して立設されたものを含むといえる。この点について,本件発明1と引用例1記載の発明の間に相違はない。 (5) 「スタッドが垂直に立設され壁芯に沿って配置されている」点について上記(3)で判示したように,引用例1記載の発明のランナは壁芯に沿って配置されているものであるから,ランナーに配置されるスタッドも当然壁芯に沿って配置されるものとなる。そして,スタッドを立設する場合に特段の指示がなければ,これは垂直に立設するべきものと考えるのが自然であり,引用例1記載の発明においてもスタッドは垂直に設けられていると考えられる。したがって,この点について本- 28 -件発明1と引用例1記載の発明との間に相違はない。 4 取消事由2(引用例1記載の発明と引用例2その他の周知例を組み合わせても本件発明1を構成することはできない)について(1) 相違点5について審決は,相違点5について,「平成24年2月2日付の答弁書43頁を参照すれば,引用例1記載の発明においても,記載はないものの同様であるものと認められる。」と判断した。 原告作成に係る同答弁書(甲32)には,①請求人(被告)が「本件特許の請求項1に記載された『前記スタッド及 用例1記載の発明においても,記載はないものの同様であるものと認められる。」と判断した。 原告作成に係る同答弁書(甲32)には,①請求人(被告)が「本件特許の請求項1に記載された『前記スタッド及びボード材料の各着火温度は,1000℃以上の温度であり』は,発明の詳細な説明に記載されたものではないので,本件特許の出願は,特許法36条6項1号の規定に違反する」(38,39頁)と主張するが,「この記載は,本件特許の出願に係る発明が,木製,紙製又は樹脂(プラスチック)製の間柱や,木質合板等の木質系ボード又は樹脂(プラスチック)製ボードを使用したものではないことを明瞭にするための記載である。スタッド及びボード材料の着火温度に関し,請求人は,無効審判請求書(甲31)の40頁において,『甲7発明では,そのボード材料は無機繊維強化石膏ボードであり,そのスタッドは軽量鉄骨製なので,甲7発明のスタッド及びボード材料の各着火温度は,1000℃以上の温度である。』と述べるとともに,無効審判請求書の45頁において『石膏も本来的に不燃性のものである』と述べている。」(43頁)との記載,②「即ち,着火温度に関する請求項1の上記記載は,請求人が無効審判請求書の40頁及び45頁において自ら説明したとおりであり,・・・」(44頁)との記載,及び③「なお,本件特許においては,出願後の補正により請求項1の『ボード材料』が『石膏ボード又は石膏板』に限定されるとともに,建築業界における鋼製スタッド(軽量鉄骨製スタッド)の意味が審査段階の意見書等において十分に説明されたので,着火温度の限定は,請求人が述べるように,結果的には,重複した限定(従って,無用の限定)となったかもしれない。」(44頁)との記載がある。 - 29 -これらの記載からすると,石膏ボード及び建築業界における 定は,請求人が述べるように,結果的には,重複した限定(従って,無用の限定)となったかもしれない。」(44頁)との記載がある。 - 29 -これらの記載からすると,石膏ボード及び建築業界における鋼製スタッドの着火温度は1000℃以上であることが技術常識であり,審判手続において原告もこのことを認めていたものである。そして,引用例1記載の発明は被告の主張するようにスタッドは鋼製であり,ボード材料は石膏ボードであるから,その着火温度が1000℃以上であることは明らかであり,相違点5はスタッドとボードの着火温度を引用例1が明記していなかったことから認定された相違点ではあるが,実質的な違いはなく,引用例1記載の発明においても記載はないが,本件発明1と同様であると認めた審決に誤りはない。 (2) 相違点9についてア審決は,本件発明1においては「スクリュービスは,ランナ,スタッド及びボード材料が構成する耐火構造の防火区画壁の片側領域の雰囲気温度が900℃以上の高温に達したときに,ボード材料及びスタッドの一体性を保持するとともに,スタッドの熱変形を抑制する」のに対し,引用例1記載の発明においては,そのような規定がない点を相違点9として認定し,この相違点9について,建築基準法の規定を満たしていることを記載しているにすぎず,請求項に記載された他の構成が満足されれば達成される構成であり,他の特別な構造を限定するものでもないと判断している。 原告は,相違点9に係る本件発明1の構成が特定する事項として「スクリュービスの材質や強度,取り付け強度その他」,あるいは「各構成部材をすべてとめつけて固定するような構成を採用していないにもかかわらず,ボード材料及びスタッドの一体性を保持するような構成に限定しているという点」を挙げて,実質的な相違点と 他」,あるいは「各構成部材をすべてとめつけて固定するような構成を採用していないにもかかわらず,ボード材料及びスタッドの一体性を保持するような構成に限定しているという点」を挙げて,実質的な相違点と主張する。 イこれらの点について検討すると,引用例1記載の発明は,上記3の(4)において判示したように,スタッドに下貼りボードと上貼りボードが固定し,スタッドのランナ溝方向への移動を規制することで,ランナに係止されたスタッドをこのランナに固定するものを含む発明である。これは,各構成部材をすべてとめつけ- 30 -て固定するような構成を採用していないにもかかわらず,ボード材料及びスタッドの一体性を保持するような構成であるといえ,さらに引用例1記載の発明は防火区画壁に関する発明であることを考慮すると,少なくとも一方の区画側からの火災に対して,「各構成部材をすべてとめつけて固定するような構成を採用していないにもかかわらず,ボード材料及びスタッドの一体性を保持するような構成に限定している」といえる。そして,本件特許の出願時において鋼材温度が上昇しても鋼材の過度の変形がなければ防火壁は防火性能を備えることができ,鋼材温度の上昇は防火性能を備える点で必須の事項であるとは考えられなくなったことを考慮すると,引用例1記載の発明は,一方の区画側からの火災だけでなく,他方の竪穴区画側からの火災に対しても各構成部材をすべてとめつけて固定するような構成を採用していないにもかかわらず,ボード材料及びスタッドの一体性を保持するような構成であるといえ,この点に関する原告の主張は採用できない。 ウスクリュービスの材質や強度,取り付け強度等について検討すると,本件発明1では,スクリュービスに関して,特許請求の範囲にも,訂正明細書(甲34)の発明の詳細な説明 の主張は採用できない。 ウスクリュービスの材質や強度,取り付け強度等について検討すると,本件発明1では,スクリュービスに関して,特許請求の範囲にも,訂正明細書(甲34)の発明の詳細な説明にも,スクリュービスの材質や強度,取り付け強度に関する特定や記載はない。 これに対して,引用例1記載の発明では,「下貼りボードは,不燃性且つ耐熱性を有するスクリュービスによってスタッドのみに固定され,該スクリュービスは,スタッドに沿って300mm以下の間隔に配置され」ている点について特定されていない(相違点6)。審決は,この相違点6について,引用例2に下張り石膏ボードをビスによりスタッドに対して固定し,上張り石膏ボードをステープル等の係止具により,下張り石膏ボードの表面に張着することが記載されており,当業者にとって格別なことであるとは認められないと判断している。原告は,この相違点6についての判断を具体的に争わず,限定のないスクリュービスの材質等から相違点9に関する本件発明1の構成を格別のものとすることはできない。 5 取消事由3(引用例1記載の発明から容易想到であるとはいえない)につい- 31 -て原告は,本件発明1は,「片面施工による高い施工性を維持しつつ,両側からの火災に対する耐火性を有する防火区画壁を提供すること」という解決課題を設定し,「片面施工可能な乾式構造とすること,係止具がスタッドの過剰な熱変形を制限し,スタッドを所定位置に保持する作用を発揮して高温加熱時にスタッド及びボード材料の一体性を保持すること,及びボード材料を少なくとも2層構造に積層すること」という解決手段により当該課題を解決するものであるのに対し,引用例1記載の発明は,両側の区画に対して防火機能を有する防火区画壁から,可能性は非常に低く,無駄な竪穴区画側 とも2層構造に積層すること」という解決手段により当該課題を解決するものであるのに対し,引用例1記載の発明は,両側の区画に対して防火機能を有する防火区画壁から,可能性は非常に低く,無駄な竪穴区画側からの火災に対する防火機能を省くことにより,より低コストで容易に施工することのできる防火区画壁を提供するものである点で異なる旨を主張する。 しかし,前記2において判示したように,引用例1記載の発明は,室内空間(すなわち,他の区画側)からの火災に対して,竪穴区画側への延焼を防止するために耐火壁板を設けた発明であり,竪穴区画側からの火災に対して防火性能を発揮することは意図されていなかったが,本件特許出願時においては,鋼材温度が上昇しても鋼材の過度の変形がなければ防火壁は防火性能を備えることができ,鋼材温度の上昇は防火性能を備える点で必須の事項であるとは考えられなくなったとみられ,本件特許出願時において引用例1記載の発明が竪穴区画側からの火災に対しても防火性能を備えることができたことは,当業者が容易に想到し得たことである。したがって,本件特許出願時に引用例1記載の発明が「片面施工による高い施工性を維持しつつ,両側からの火災に対する耐火性を有する防火区画壁を提供すること」ができることは,当業者が容易に想到し得た事項であり,原告の主張は採用できない。 また,甲4(FireResistanceDesignManual)に記載された事項を検討すると,甲4に記載された事項は,補強材として鋼製帯板(steelstrip)が使用されており,かつ,石膏ボードは4枚使用されているなど,本件発明1と異なるものであるとしても,スタッドに対して石膏ボード等が設けられていない側からの火災に対する耐- 32 -火性をも備えた区画壁であり,この記載事項から見ても, 4枚使用されているなど,本件発明1と異なるものであるとしても,スタッドに対して石膏ボード等が設けられていない側からの火災に対する耐- 32 -火性をも備えた区画壁であり,この記載事項から見ても,本件特許出願時において鋼材温度が上昇しても鋼材の過度の変形がなければ防火壁は防火性能を備えることができ,鋼材温度の上昇制限は防火性能を備える点で必須の事項であるとは考えられなくなったものといえる。 したがって,原告の主張は採用できず,本件発明1の容易想到性についての審決の判断に誤りはない。 6 取消事由4(顕著な効果認定の看過)について原告は,石膏ボードを用いた構造においては,その耐火性能を実験を行わずして事前に予測することは非常に難しく,鋼材をむき出しにして火炎にさらすような構造において耐火性を有するという効果が,技術水準から予測される範囲の効果といえるようになったものではない旨を主張する。 しかし,平成12年の建築基準法の改正により,鋼材温度の制限が撤廃されたことにより,鋼材をむき出しにして火炎をさらすことができる可能性が生じたのであり,これは取消事由1で判示したとおり,本件特許の出願時においては,鋼材温度が上昇しても鋼材の過度の変形がなければ防火壁は防火性能を備えることができ,鋼材温度の上昇制限は防火性能を備える点で必須の事項であるとは考えられなくなったといえる。 その結果,引用例1記載の発明において竪穴区画側からの火災に対する耐火性能についても当業者が検討することは容易になし得たことであり,この耐火性能を確認するために,算定式等だけでなく実験をも行いその効果を確認することは当業者が容易になし得たことである。したがって,実験を行わなければ効果が確認できないとする原告の主張は採用できない。 7 取消事由5(請求人の主 式等だけでなく実験をも行いその効果を確認することは当業者が容易になし得たことである。したがって,実験を行わなければ効果が確認できないとする原告の主張は採用できない。 7 取消事由5(請求人の主張する無効理由1から4に関する審決の判断について)について取消事由1~4で検討したとおり,無効理由通知の理由に基づく審決の判断には誤りがない。したがって,原告の主張する取消事由5の主張は,審決の結論に影響- 33 -するものではない。したがって,取消事由5は理由がない。 第6 結論以上によれば,原告の請求には理由がない。よって,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第2部 裁判長裁判官塩月秀平 裁判官池下朗 裁判官新谷貴昭
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