平成15(ワ)11990 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成17年5月25日 大阪地方裁判所
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判決文本文28,745 文字)

主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告は,各原告に対し,それぞれ1500万円及びこれに対する平成15年12月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,大韓民国の国籍を有する原告らが,国民年金法の制定に際し国籍要件を設けて同年金の被保険者から原告らを除外した立法行為,及び同法の改正過程で国籍要件を削除した際に原告らに対しなんらの救済措置をとらなかった立法不作為が,憲法14条1項ないし国際人権規約に反し違法である旨主張して,被告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,慰謝料の支払を求めた事案である(附帯請求は,訴状送達日の翌日である平成15年12月25日以降の民法所定年5分の割合による遅延損害金請求である。)。 第3 前提事実(証拠を付さない事実は,当事者間に争いがない。) 1 当事者原告らは,いずれも大韓民国の国籍を有し,わが国で居住する在日外国人(いわゆる在日コリアン)である。原告らの生年月日,出生地,わが国への渡航時期は,別紙原告経歴一覧表記載のとおりである(弁論の全趣旨)。 2 国民年金法の立法経緯及び内容(乙1,2)(1)ア国民年金法(昭和34年法律第141号)は,それまで年金制度の対象とされていなかった農業者,自営業者等を対象とした公的年金制度を創設する法律として,昭和34年4月16日に公布され,同年11月1日に施行された(その後,数次の改正が行われているが,難民の地位に関する条約等への加入に伴う出入国管理令その他関係法律の整備に関する法律(昭和56年法律第86号)による改正前のものを,以下「旧法」という。)。同法律は,厚生年金制度,各共済年金制度と共に,いわ 位に関する条約等への加入に伴う出入国管理令その他関係法律の整備に関する法律(昭和56年法律第86号)による改正前のものを,以下「旧法」という。)。同法律は,厚生年金制度,各共済年金制度と共に,いわゆる「国民皆年金制度」の確立を図るものである。 イ国民年金は,老齢,障害または死亡という給付事由に関して必要な給付を行う社会保険制度であり,日本国内に住所を有する20歳以上60歳未満の日本国民が原則として被保険者とされ(旧法7条1項),被保険者が保険料を納付し(旧法88条),それを主な財源として拠出するという拠出制を基本とするものである。 旧法による給付は,老齢年金等(旧法15条1号),障害年金(同法2号)及び母子年金等(同法3号)であり,各号の年金について福祉年金(老齢福祉年金,障害福祉年金,母子福祉年金等)が定められた。本件で問題となるのは老齢年金及び老齢福祉年金である。 ウ老齢年金は,保険料納付済期間が25年以上である者(旧法26条1号)または保険料納付済期間が10年以上であり,かつ,その保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が25年以上である者(同条2号)が65歳に達したときに支給されることとされた。保険料の納付は,昭和36年4月1日から開始されたが,このように原則として25年以上の保険料納付済期間が支給要件とされたことから,昭和36年4月1日現在で35歳を超える者は国民年金に加入しても60歳までに25年間という支給要件を満たすことができないことになるなどのため,昭和36年4月1日現在において31歳を超え,50歳を超えない者について,25年という保険料納付済期間等の要件が緩和された(旧法76条)。 一方,老齢福祉年金に関しては,昭和36年4月1日現在において50歳を超える者を強制加入の被保険者とせず,70歳に達したとき いて,25年という保険料納付済期間等の要件が緩和された(旧法76条)。 一方,老齢福祉年金に関しては,昭和36年4月1日現在において50歳を超える者を強制加入の被保険者とせず,70歳に達したときに老齢福祉年金が支給されることとされ(旧法74条,80条),また,45歳を超え50歳を超えない者には支給要件(拠出要件)が緩和された上,70歳に達したとき老齢福祉年金が支給されることとされた(昭和37年法律第92号による改正後の旧法79条の2)。これらの福祉年金は,国庫の負担で無拠出制の年金を給付するというものであるが,前者のように,制度の発足前に給付事由が生じていた場合に支給される福祉年金を,経過的に発生するものとして経過的老齢福祉年金といい,後者のように,拠出年金における拠出要件を緩和して支給する福祉年金を,拠出制を補完するものとして補完的老齢福祉年金という。 エ旧法7条1項は,前記のとおり,国民年金の被保険者の資格について,「日本国内に住所を有する20歳以上60歳未満の日本国民は,国民年金の被保険者とする。」と定め,日本国籍を有しない者を除外していた(以下,旧法7条1項を「国籍条項」,その内容を「国籍要件」という。)。また,補完的老齢福祉年金の支給要件を定めた旧法53条1項(昭和37年法律第92号による改正後の旧法79条の2)は,そのただし書で「その者が70歳に達した日において,日本国民でないとき,又は日本国内に住所を有しないときは,この限りではない。」と定め,老齢福祉年金についても,日本国籍を有しない者を除外していた。 (2) 難民の地位に関する条約(昭和56年10月15日条約第21号,以下「難民条約」という。)を批准したことに伴い制定された難民の地位に関する条約等への加入に伴う出入国管理令その他関係法律の整備に関する法律(昭和 位に関する条約(昭和56年10月15日条約第21号,以下「難民条約」という。)を批准したことに伴い制定された難民の地位に関する条約等への加入に伴う出入国管理令その他関係法律の整備に関する法律(昭和56年法律第86号。昭和56年6月12日公布,昭和57年1月1日施行。以下「整備法」という。)により,旧法7条1項中「日本国民」の文言は「者」に改められた。これにより,国民年金制度における拠出制年金の被保険者資格につき,国籍要件が撤廃された。また,福祉年金についても,同様に国籍要件は撤廃された。 しかし,整備法附則4項にあるとおり,同法の効果は同法の施行日(昭和57年1月1日)以後の期間についてのみ生じ,従前国籍条項により国民年金の被保険者とされなかった者に対し,遡及して整備法を適用するなどの何らかの救済措置が講じられることはなかった。また,整備法附則5項では,福祉年金について,「この法律による改正前の国民年金法による福祉年金が支給されず,又は当該福祉年金の受給権が消滅する事由であって,施行日前に生じたものに基づく同法による福祉年金の不支給又は失権については,なお従前の例による。」とされた。 (3)アその後,国民年金法等の一部を改正する法律(昭和60年法律第34号,以下「新法」という。)により,従来,被用者を対象とした被用者年金(厚生年金・共済年金)と国民年金に分立していた年金制度が改められ,国民年金の適用を全国民に拡大するとともに,全国民共通の基礎年金を国民年金から支給し,その上に被用者年金を上乗せするといういわゆる「2階建て」の体系に再編,統一され,老齢年金等は老齢基礎年金と改められた(新法15条)。 イ老齢基礎年金は,20歳から60歳未満の者を被保険者とし,保険料納付済期間と保険料免除期間との合算期間が25年以上の者に対し,65歳か され,老齢年金等は老齢基礎年金と改められた(新法15条)。 イ老齢基礎年金は,20歳から60歳未満の者を被保険者とし,保険料納付済期間と保険料免除期間との合算期間が25年以上の者に対し,65歳から支給されるところ(新法26条),改正後に国民年金制度へ強制加入とされた者(たとえばサラリーマンの妻ら)については,老齢基礎年金の支給要件である25年を満たすことのできない者が生じ得ることとなった。そのため,新法は,こうした者の救済のための経過措置として,それまでの任意加入期間を合算対象期間としてその被保険者期間に合算する方式をとった。また,旧法7条の国籍条項により国民年金の被保険者とならなかった期間も合算対象期間に算入された(新法附則8条5項10号)。ただ,このように合算対象期間への算入が認められたものの,支給額の算定においては現実に納付した期間によることとされた。 ウ同法は,昭和61年4月1日から施行されたが,その施行日において60歳以上の者は新法の適用を受けず,新法による改正前の国民年金法が引き続き適用された(新法附則31条)。また,新法施行日前に発生した年金給付については,同法附則32条1項において,「旧国民年金法による年金たる給付(中略)については,(中略)なお従前の例による。」とされ,整備法制定時同様,補完措置ないし経過措置は講じられなかった。したがって,施行日において60歳以上の者で,従前国籍要件のため老齢年金ないし老齢福祉年金が支給されなかった者については,新法の老齢基礎年金のみならず,新法前の老齢年金,老齢福祉年金も支給されなかった。 3 原告らの年金不加入等(1) 原告らは,それぞれ,旧法施行当時,旧法7条1項の国籍条項によって,国民年金制度の被保険者の資格要件を充たさず,国民年金に加入することができなかった。 (2) 整 3 原告らの年金不加入等(1) 原告らは,それぞれ,旧法施行当時,旧法7条1項の国籍条項によって,国民年金制度の被保険者の資格要件を充たさず,国民年金に加入することができなかった。 (2) 整備法により国籍条項が撤廃された後も,原告らは,原告Eを除き,整備法施行日である昭和57年1月1日当時,20歳以上60歳未満という被保険者の資格要件を充たさなかったために,国民年金に加入することができなかった。 原告Eは,当時58歳で,被保険者の資格要件は充たしていたものの,老齢年金受給に必要な25年の保険料納付済期間等を充たすことができなかったことから,老齢年金の受給権を取得できなかった。 (3) また,新法施行当時,原告らはいずれも60歳を超えていたために被保険者とはならず,引き続き,年金給付を受けることができなかった。 4 国際人権規約の批准及び日本における発効昭和41年12月17日,国連総会で,経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約(昭和54年8月4日条約第6号,以下「A規約」という。),市民的及び政治的権利に関する国際規約(同日条約第7号,以下「B規約」という。)並びに個人通報に関する選択議定書(第一選択議定書)が採択され,我が国は,昭和54年6月21日,これらのうち,A規約及びB規約のみ(以下,A規約及びB規約を総称して「国際人権規約」という。)を批准した。そして,国際人権規約は,同年9月21日,発効した(昭和54年外告187)。 第4 争点 1 国民年金法の内容が憲法14条1項に違反するか否か。 (1) 国民年金の被保険者資格につき国籍要件を定めた旧法7条1項は,憲法1条1項に違反するか。 (2) 国籍条項を削除した整備法において定められた,老齢福祉年金の支給について遡及して適用しないとする整備法附則5項の規定及 つき国籍要件を定めた旧法7条1項は,憲法1条1項に違反するか。 (2) 国籍条項を削除した整備法において定められた,老齢福祉年金の支給について遡及して適用しないとする整備法附則5項の規定及び同法において原告らに対する何等の救済措置がないことは,憲法14条1項に違反するか。 (3) 新法において原告らに対する何等の救済措置がないことは,憲法14条1項に違反するか。 2 国民年金法の内容が国際人権規約に違反するか否か。 被告は,国際人権規約発効時,整備法施行時あるいは遅くとも新法施行時,在日コリアンである原告らが無年金のままに据え置かれるという状態を直ちに是正すべき積極的措置義務を果たさなかったか否か。 3 上記各立法行為または立法の不作為が国家賠償法上違法か否か。 国民年金法の旧法における国籍条項,整備法の附則5項及び新法に関する国会議員の立法行為,または国籍要件撤廃後に原告らに対し何ら救済措置を講じなかった立法不作為は,国家賠償法上違法か。 4 損害額第5 争点に対する当事者の主張 1 争点1(国民年金法の内容の違憲性)について(原告らの主張)(1) 旧法下の国籍条項は憲法14条1項に違反する。 被告は,旧法7条1項において,国民年金制度の被保険者資格につき,国籍要件を設けて,日本国籍を有しない者を国民年金制度から排除した。日本国籍を有しない者を年金制度の被保険者から除外したこと,とりわけ,日本の植民地であった時代に日本に渡り,サンフランシスコ条約(日本国との平和条約,昭和27年4月28日発効)の発効の後も引き続き日本に在住する在日コリアンに対し,その自らの意思に基づかず一方的に日本国籍を喪失させた上で,日本国籍がないことを理由に国民年金制度から排除することは,「社会的身分又は門地」による差別に当たり,憲法14条1項に違 在日コリアンに対し,その自らの意思に基づかず一方的に日本国籍を喪失させた上で,日本国籍がないことを理由に国民年金制度から排除することは,「社会的身分又は門地」による差別に当たり,憲法14条1項に違反する。 被告は,被用者年金制度においては,国籍条項を撤廃する一方で,旧法時の国民年金制度に限り国籍条項を設けているのであるから,旧法下の国籍条項が不合理な差別に当たることは明らかである。 (2) 整備法附則5項により国籍要件撤廃の効果が遡及しないこと及び老齢福祉年金につき原告ら在日コリアンの無年金老齢者のための救済措置がないことは,憲法14条1項に違反する。 整備法での改正で国籍条項が撤廃されたことにより,在日コリアンは,国民年金制度に加入することができるようになった。 ところで,被告は,旧法による国民年金制度の創設に当たっては,日本国民に対し,拠出制の老齢年金において,一定年齢以上の者については25年の保険料納付済期間等を満たさずとも老齢年金を受給可能とする措置をとるとともに,旧法施行当時50歳を超える者のうち,70歳未満の者は70歳に達したときに,70歳以上の者は直ちに,無拠出制の老齢福祉年金の支給を開始するとの経過措置をとった。整備法は,まさしく,在日コリアンにとっての国民年金制度の創設に当たるものであり,内外人平等の原則からすれば,在日コリアンに対しても,旧法と同様,老齢福祉年金についての救済措置をとるべきであった。 しかるに,整備法には,上記救済措置が何ら講じられていないばかりか,あえて同法附則5項によって,国籍要件撤廃の効果が遡及しないものとし,原告らを国民年金制度から排除することを明文で積極的に規定している。 (3) 新法には,在日コリアンに対し無拠出制の年金支給を認めるなどの救済措置が講じられておらず,このような新法 ないものとし,原告らを国民年金制度から排除することを明文で積極的に規定している。 (3) 新法には,在日コリアンに対し無拠出制の年金支給を認めるなどの救済措置が講じられておらず,このような新法の内容は,憲法14条1項に違反する。 新法においては,改正後に国民年金制度へ強制加入させられた者で,老齢基礎年金の受給に必要な受給資格期間を満たせない者につき,旧法制定時から整備法施行時までの期間を「カラ期間」と認めることで,加入期間の不足を補完する措置がとられたものの,在日コリアンに対し無拠出制の年金支給を認めるなどの救済措置は講じられなかった。 しかも,新法附則31条により,新法施行当時60歳以上の者について,新法における前記補完措置を適用しないこととし,新法施行日において,60歳以上であった原告らにつき,20年9ヶ月という極めて長期の未加入期間を「カラ期間」としても合算しないこととした。 (4) 被告は,居住要件を満たさない日本国民のうち,沖縄返還時,小笠原諸島復帰時にこれらの地域に住所を有した者,帰国した中国残留邦人及び北朝鮮によるいわゆる拉致被害者などに対しては,国民年金法上,救済措置を設ける一方で,国籍要件を満たさない原告ら在日コリアンに対しては,何ら救済措置を講じようとしない。 在日コリアンも,日本国民と同じく納税の義務を果たしているのであり,かかる差別は到底許されるものではない。 (5) このように,旧法において国籍要件が設けられたこと,整備法において国籍要件が撤廃されながら,原告ら在日コリアンに対しては,何ら救済措置が講じられず,逆に,整備法附則5項で「従前の例による」として意図的に救済措置が排除されたこと,新法において,単に任意未加入期間を「カラ期間」として認めるのみで,何ら原告ら在日コリアンの救済に結びつく措置 れず,逆に,整備法附則5項で「従前の例による」として意図的に救済措置が排除されたこと,新法において,単に任意未加入期間を「カラ期間」として認めるのみで,何ら原告ら在日コリアンの救済に結びつく措置がとられなかったことは,旧植民地出身者であり自己の意思に基づかないで日本国籍を喪失させられた者(平和条約国籍離脱者)である原告ら在日コリアンを国民年金制度から意図的に排除するものであり,かかる措置は「社会的地位又は門地」による差別に当たり,憲法14条1項に違反する。 (被告の主張)(1) 憲法14条1項は,絶対的な法の下の平等を保障したものではなく,合理的理由のない差別を禁止する趣旨のものであって,各人に存する経済的,社会的その他種々の事実関係上の差異を理由として,その法的取扱いに区別を設けることは,その区別が合理性を有する限り,何ら同規定に違反しない。立法府が法律を制定するに当たり,その政策的,技術的判断に基づき,各人についての経済的,社会的その他種々の事実関係上の差異を理由としてその取扱いに区別を設けることは,それが立法府の裁量を逸脱するものでない限り,合理性を欠くということはできず,憲法14条1項に違反するものではない。 (2)ア国民年金制度は,憲法25条2項の規定を実現するため,老齢,障害又は死亡によって国民生活の安定が損なわれることを国民の共同連帯によって防止することを目的とし,保険方式により被保険者の拠出した保険料を基に年金給付を行うことを基本として創設されたものである。 また,福祉年金は,制度発足当時において既に老齢又は一定程度の障害の状態にある者,あるいは保険料を必要期間納付することができない見込みの者等,保険原則によるときは,給付を受けられない者についても同制度の保障する利益を享受させることとして,経過的又 一定程度の障害の状態にある者,あるいは保険料を必要期間納付することができない見込みの者等,保険原則によるときは,給付を受けられない者についても同制度の保障する利益を享受させることとして,経過的又は補完的な制度として,無拠出制で設けられたものである。 社会保障政策上の施策において,外国人をどのように処遇するかについては,国は,特別の条約が存しない限り,当該外国人の属する国との外交関係,変動する国際情勢,国内の政治・経済・社会的諸事情等に照らしながら,その政治的判断によりこれを決定することができる。 イ国民年金制度の設計に当たっては,保険料負担額,給付の水準,拠出対象者の範囲,国庫の負担等幅広い観点から検討しなければならず,その一部として,外国人の負担と給付のあるべき姿を検討すべきものである。そして,社会保険方式を基本とし,長期間にわたる保険料の拠出を要する年金制度において,我が国への在住期間が必ずしも安定しない在留外国人をその適用対象とすれば,これらの者については,保険料負担のみを求められ,本国への永住帰国等により,原則25年という支給要件を満たすことができなくなるおそれがあり,かえって,不利益をもたらすことになり得る。したがって,拠出制の対象者から外国人を除くとしたことは,制度当時の政策的判断として特段不合理なものではない。我が国に定住している外国人であっても,将来的には本国に帰国するなどのため出国する可能性があるから,同様の理由があてはまる。 いわゆる在日韓国・朝鮮人についても,我が国に居住するに至った事情・帰国の予定等は人それぞれであるから,各事情に応じて国民年金法の適用対象とするのは立法技術的に困難であるとともに,日本に居住する他の外国人に対し不公平が生じることとなる。 ウさらに,福祉年金,このうち老齢福祉年金につい ぞれであるから,各事情に応じて国民年金法の適用対象とするのは立法技術的に困難であるとともに,日本に居住する他の外国人に対し不公平が生じることとなる。 ウさらに,福祉年金,このうち老齢福祉年金については,その対象者を,国民年金制度が更に前から発足していれば拠出制の対象者となったであろう者に対し経過的ないし補完的老齢福祉年金を給付して救済しようとしたものであり,拠出と給付の関係を無視して給付対象者の範囲を設定しているものではないのであって,拠出制同様,在留外国人を除外することは合理的な区別である。 (3) 整備法は,我が国が難民条約及び難民の地位に関する議定書(昭和57年1月1日条約1号)へ加入するに当たって国内法を整備するために制定された法律であり,その目的とするところは,難民条約への加入という人道的見地からなされたものであって,過去の国籍要件の設置そのものが不合理であったという理由でされたものではない。整備法による国籍条項の削除の効果を遡及させるというような特別な救済措置を講ずるかどうか及び補完措置あるいは経過措置を講ずるか否かは,もとより立法府の裁量に属することである。 他方,在日韓国・朝鮮人だけ国籍要件の撤廃を遡及して適用すれば,他の外国人及び保険料を納付していなかった日本人に対し不公平が生じることとなる。 (4) 新法において在日韓国・朝鮮人を含む在留外国人に対し補完措置あるいは経過措置を講じなかったことも同様に立法府の裁量に属し,著しく合理性を欠くものではない。 (5) よって,旧法下の国籍要件及び国籍要件の撤廃を遡及しないとした整備法附則5項の規定は,憲法14条1項に反しないし,整備法及び新法に救済措置がないことも憲法14条1項に違反するものではない。 2 争点2(国際人権規約違反)について(原告らの主張) とした整備法附則5項の規定は,憲法14条1項に反しないし,整備法及び新法に救済措置がないことも憲法14条1項に違反するものではない。 2 争点2(国際人権規約違反)について(原告らの主張)(1) 国際人権規約の効力と解釈ア国際人権規約の国内的実施批准された経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約(A規約)及び市民的及び政治的権利に関する国際規約(B規約)の効力は,特別の国内法を制定する必要はなく,条約が公布されることによって当然に国内法的効力を有する。そして,A規約及びB規約は,その内容に鑑み,原則として裁判規範として直接適用が可能である。 イ国際人権規約の解釈規約人権委員会の公表する「一般的意見」や,個人からの通報に対して送付される「見解」は,国際人権規約に関する委員会の有権的解釈を示すものであり,条約法に関するウィーン条約32条がいうところの解釈の補足的手段となるべきものである。 よって,我が国の裁判所が国際人権規約を解釈適用する場合,上記解釈原則にしたがって,その権利の範囲を確定することが必要である(以下の主張は,上記一般的意見や見解に基づくものである。)。 (2) B規約違反ア B規約26条の適用範囲B規約26条は,「すべての者は,法律の前に平等であり,いかなる差別もなしに法律による平等の保護を受ける権利を有する。このため,法律は,あらゆる差別を禁止し及び人種,皮膚の色,性,言語,宗教,政治的意見その他の意見,国民的若しくは社会的出身,財産,出生又は他の地位等いかなる理由による差別に対しても平等のかつ効果的な保護をすべての者に保障する。」と規定している。 国籍は,同条項中の「他の地位」に含まれ,国籍の相違による差別は禁じられる。 また,B規約26条は自由権のみならず,社会保障に関する権利につい 果的な保護をすべての者に保障する。」と規定している。 国籍は,同条項中の「他の地位」に含まれ,国籍の相違による差別は禁じられる。 また,B規約26条は自由権のみならず,社会保障に関する権利についても差別を禁ずる趣旨である。 そして,同条で禁止される「差別」に該当するか否かは,「基準が合理的であり,かつ客観的である場合であって,かつまた本規約の下での合法的な目的を達成するという目的で行われた」か否かが基準となる。 さらに,B規約違反の事実が,同規約の発効以前に生じたものであったとしても,同規約発効後も引き続き継続している場合には,B規約違反を構成する。 イ締約国による積極的行動義務B規約2条2項は,締約国は,「すべての個人に対し,(中略)この規約において認められる権利を尊重し及び確保することを約束する」と定めている。ここでいう「尊重」は,国家が個人の権利に干渉しないという,いわば消極的義務であり,「確保」は,国家が個人の権利を積極的に実現しなければならないという,積極的義務である。差別的立法をすることは「尊重義務」に違反し,差別的立法を放置することは「確保義務」に違反する。 (3) A規約違反A規約2条2項の差別禁止条項は,即時実施義務があり,自動執行力を有する。また,A規約9条は,「この規約の締約国は,社会保険その他の社会保障についてのすべての者の権利を認める。」と規定する。 このように,社会権規約の場合も,差別禁止条項については,その即時実施義務及び直接適用可能性において,自由権規約と異なるところはない。 また,社会権規約の性質上,国の積極的措置なしには社会権の実現は望めないから,国に積極的措置義務が存するのは明白である。すなわち,社会保障が漸進的達成義務にとどまるとしても,一旦特定の社会保障立法を行った場合に, 約の性質上,国の積極的措置なしには社会権の実現は望めないから,国に積極的措置義務が存するのは明白である。すなわち,社会保障が漸進的達成義務にとどまるとしても,一旦特定の社会保障立法を行った場合に,その内容に差別禁止条項に抵触する部分があれば,これを是正すべき積極的義務が生じることは当然の帰結というべきである。 (4) 本件へのあてはめ原告らは,日本の植民地支配の結果,日本での生活を余儀なくされた者である。そして,かつては日本国籍を有していたが,戦後,被告により,自己の意思によらずして一方的に日本国籍を剥奪された。しかし,今日に至るまで,納税の義務をはじめ,日本国籍を有する者と同等の義務を果たしてきた。 このように,一方的に日本国籍を剥奪しておきながら,日本国籍がないことを理由に国民年金制度から原告らを排除することは,国際人権規約(B規約2条2項,26条,A規約2条2項,9条)上,禁止されている国籍による差別に当たることは明らかである。 したがって,被告は,国際人権規約発効後,直ちに旧法の国籍条項を削除するとともに,原告ら在日コリアンが置かれている差別状態を是正すべき積極的措置を講じる義務があった。 しかるに,被告は,差別是正の措置を何らとらないばかりか,整備法の改正により国籍条項を撤廃した後も,あえて,整備法附則5項を設けて,従来の法律関係に影響を及ぼさないものとし,原告らを排除する旨を明文で積極的に規定し,更に,その内容は,新法改正時にも,同趣旨のまま維持された。 以上のとおり,国際人権規約発効後,原告ら在日コリアンに対し,国民年金制度における差別を是正しなかったことは,「確保義務」どころか,「尊重義務」に反し,B規約2条2項,26条並びにA規約2条2項,9条に違反する。 (被告の主張)(1) 国際人権規約の解釈について における差別を是正しなかったことは,「確保義務」どころか,「尊重義務」に反し,B規約2条2項,26条並びにA規約2条2項,9条に違反する。 (被告の主張)(1) 国際人権規約の解釈についてア B規約26条及びA規約2条2項の平等原則は,区別的な取扱いをすべて禁止する趣旨ではなく,合理的な区別が許容されるのであり,このことは,規約人権委員会も認めている。 合理的な区別か否かの判断は,同条の文理から一義的に明らかではなく,規約の条文の解釈問題となるが,その解釈権限は,各締約国にある。規約委員会の一般的意見は,各国に両規約の解釈及び実施に当たって参考とされることが期待されているにすぎず,何ら法的な性格を有するものでもない。 イそして,B規約26条及びA規約2条2項の平等原則における合理性の有無を判断するに当たっては,平等原則が問題となっている権利の内容を抜きにして評価を行うことはできない。この場合,国際人権規約自体が,市民的及び政治的権利と経済的,社会的及び文化的権利とで,異なった規定の仕方をしていることも踏まえれば,合理的な理由による区別であるか否かの判断を,我が国の裁判所が憲法14条1項の解釈において権利の性質等をも考慮して判断しているのと同趣旨の基準によって行うことには十分合理性がある。 ウなお,A規約においては,「各締約国は(中略)この規約において認められる権利の完全な実現を漸進的に実現するため(中略)行動することを約束する。」(2条1項)と規定されているのであり,各締約国に対しては権利の「漸進的実現」が要請されているにすぎない。 A規約9条において,「この権利の締約国は,社会保険その他の社会保障についてのすべての者の権利を認める。」とされている点についても,これによって,直ちに具体的権利が付与されるものではなく,権利の実現に 規約9条において,「この権利の締約国は,社会保険その他の社会保障についてのすべての者の権利を認める。」とされている点についても,これによって,直ちに具体的権利が付与されるものではなく,権利の実現に向けて積極的に社会保障政策を推進すべき政治的責任を負うことを宣明したものであって,A規約上の権利については,もともと各国の立法政策にゆだねられている。 そして,A規約が我が国において発効した昭和54年9月21日から約2年後の昭和56年の整備法での改正により,国民年金法から国籍要件が撤廃されたことでA規約上の権利の「漸進的」な「達成」は実現されている。 (2) B規約違反及びA規約違反についてア国民年金制度は憲法25条2項に規定する理念に基づくものであるところ,社会保障に関する立法においては,既に述べたとおり,立法府に広い裁量が認められる。そして,社会保険方式を基本とし,長期間にわたる保険料の拠出を要する年金制度において,在日韓国・朝鮮人を含む在留外国人を支給対象者から除外して自国民を優先的に取り扱うことは立法府の裁量の範囲に属する事柄というべきであり,このような取扱いの区別については,その合理性を否定することができない。国籍要件は,B規約26条及びA規約2条2項の平等原則に違反しない。 イ被告は,国際人権規約が効力を生じた2年後の昭和56年には,整備法による改正で国民年金法から国籍要件を撤廃しているのであるから,合理的裁量の範囲内において改正の措置を講じているものと認められ,国際人権規約に違反するとはいえない。 (3) 老齢福祉年金の適用について老齢福祉年金について,国籍要件の撤廃を遡及させる措置を講じなかったことについても,ILO102号条約(社会保障の最低基準に関する条約)68条1項に規定されているように, 年金の適用について老齢福祉年金について,国籍要件の撤廃を遡及させる措置を講じなかったことについても,ILO102号条約(社会保障の最低基準に関する条約)68条1項に規定されているように,全額国庫負担の無拠出年金について国籍要件を設けることは国際的にも許容されているのであり,老齢福祉年金について,国籍要件の撤廃を遡及させなかったことについては合理性が認められる。 (4) よって,一連の立法措置は,国際人権規約に違反しない。 3 争点3(国家賠償法上の違法性)について(原告らの主張)(1) 旧法下の国籍要件,整備法附則5項の規定及び整備法ないし新法に原告らに対する救済措置がないことは,争点1で主張したとおり,憲法14条1項ないし国際人権規約に違反するものであり,かかる立法措置(立法不作為を含む。)は,原告ら在日コリアンを不当に差別するものであって,原告らに対する不法行為に該当する。 (2) 立法行為の違法性判断に当たっては,侵害される人権の性質を考慮するとともに,原告ら定住外国人のように選挙権を有せず,国会議員が政治的責任を負わない少数者の人権が問題となっていること,原告らのように自らの意思によらずに日本国籍を喪失したことに照らすと,最高裁判所昭和60年11月21日第一小法廷判決(民集39巻7号1512頁,以下「昭和60年最高裁判決」という。)の射程は限定して考えられるべきである。すなわち,立法内容の違憲性が極めて明白であるにもかかわらず当該立法をなし,あるいは立法後違憲性が極めて明白となってから相当期間を経過してもなお必要な立法措置がなされない場合には,その立法行為によって,重大な人権侵害等著しい不利益が生じており,司法による救済の必要が極めて高いときには,当該立法行為は国家賠償法上違法といえる。 上記のとおり,被告が旧法7 なされない場合には,その立法行為によって,重大な人権侵害等著しい不利益が生じており,司法による救済の必要が極めて高いときには,当該立法行為は国家賠償法上違法といえる。 上記のとおり,被告が旧法7条1項において国籍条項を設け,自らの意思によらずに日本国籍を喪失した原告ら在日コリアンを国民年金制度から排除したことは,極めて不合理な差別であり,かかる立法は国家賠償法上違法というべきである。 仮に,上記の昭和60年最高裁判決の基準に従うとしても,上記のような極めて不合理な差別は,憲法14条1項の一義的な文言に明白に違反するものである。 (3) さらに,国際人権規約を批准した昭和54年までには,①掛け捨てになることへの配慮,②年金の問題は当該当事者の国籍国の責任である,との国籍要件を支えていた立法事実が存在しなくなるとともに,同年以降において,数度にわたり国会でも国民年金法の改善を求める国会質疑が行われ,地方自治体からも国に対し制度改正の要望が挙げられていたのであるから,少なくとも新法改正時点までには,国会に認められた必要な立法措置をとるために要する相当期間が経過していた。 また,原告ら在日コリアンの高齢者世帯は,公的年金制度の欠落のため,昭和60年の時点で経済的に極めて劣悪な状況にあり,旧法制定当時,国民年金制度に加入できなかった高齢者が老齢福祉年金を必要とするのと同じ状況が存在した。かかる状況にあった在日コリアンに対し,無拠出型の年金を支給するなどの救済措置を何ら講じなかったことは,在日コリアンの高齢者世帯の生活を極めて困難にするもので,同人らに対する重大な人権侵害となる。 よって,遅くとも昭和60年ころには,相当期間が経過して,立法不作為が国家賠償法上違法であったことは明白である。 (被告の主張)(1) 前述のとおり,国民年金制度 対する重大な人権侵害となる。 よって,遅くとも昭和60年ころには,相当期間が経過して,立法不作為が国家賠償法上違法であったことは明白である。 (被告の主張)(1) 前述のとおり,国民年金制度における在留外国人の処遇についての旧法,整備法及び新法の内容が不合理であるということはできず,憲法14条1項,B規約26条及びA規約2条2項に違反しないから,国家賠償法上も違法ということはできない。 (2)アまた,国会議員の立法行為(立法不作為を含む。)が国家賠償法上違法となるのは,少なくとも,国会議員が具体的な立法をしてはならないこと,あるいは,すべきことが憲法上一義的に明白であるのに,あえて,立法行為(立法不作為)をしたような容易に想定し難いような例外的場合でなければならない。 イ憲法14条1項,25条は,国民年金の給付要件として国籍要件を設ける立法をしてはならないこと,また,その後,老齢福祉年金の給付要件としての国籍要件の撤廃を遡及して適用させる立法をすべきことを一義的に明らかにしているわけではない。憲法14条1項は,合理的区別については許容する趣旨であり,立法府の裁量を逸脱するものでない限り合理性を欠くということはできない。憲法25条についても,立法府の広範な裁量が認められている。したがって,立法内容が両条項に違反するかどうかの判断に際しても,上記合理的区別となるか,あるいは立法府の裁量を逸脱していないか検討しなければならず,してみれば,およそ本件立法措置につき上記例外的場合を想定することはできない。 ウ B規約26条及びA規約2条2項については,区別的な取扱いをすべて禁止する趣旨ではなく,合理的な区別が許容されることは規約人権委員会も認めるところであるが,これらの規定の文言上,何が合理的な区別かは一義的に明らかであるとは 条2項については,区別的な取扱いをすべて禁止する趣旨ではなく,合理的な区別が許容されることは規約人権委員会も認めるところであるが,これらの規定の文言上,何が合理的な区別かは一義的に明らかであるとはいえず,国会議員に対し,原告らが主張するような立法措置をとることが一義的に要請されているのにあえてこれを立法しないという事情も存在せず,かかる立法措置については各国の立法政策に委ねられている。 エ以上のとおり,国民年金法における在留外国人の処遇については,国会議員がすべきでない立法行為またはすべき立法行為が一義的に明白であるいう例外的な場合には当たらない。 したがって,国家賠償法上違法とはいえない。 4 争点4について(原告らの主張)原告らは,国民年金制度発足当初から国籍要件により国民年金に加入できず,国籍要件撤廃後も,撤廃の効果が遡及適用されず,また,経過措置が講じられなかったため,現在まで年金制度から排除され続けた。これら被告の一連の立法措置(立法不作為を含む。)により原告らが被った精神的損害は,1人当たり金1500万円を下らない。 (被告の主張)原告らの主張は争う。 第6 当裁判所の判断 1 国籍条項(旧法7条1項)が憲法14条1項に違反するか否か(争点1(1))について(1) 国民年金制度は,従来高齢者の老後を支えてきた家族形態が変容し,核家族化が進んだこと,人口の高齢化,社会保障意識の高揚,戦後の急速な経済復興等の社会的要因を背景として,日本国憲法25条2項に規定する理念に基づき,老齢,障害または死亡によって国民生活の安定がそこなわれることを国民の共同連帯によって防止し,もって健全な国民生活の維持及び向上に寄与することを目的として(旧法1条等)制定されたものである。このように国民年金制度が憲法25条2項に規定する理念に基づ われることを国民の共同連帯によって防止し,もって健全な国民生活の維持及び向上に寄与することを目的として(旧法1条等)制定されたものである。このように国民年金制度が憲法25条2項に規定する理念に基づいて創設されたことに鑑みると,その被保険者の範囲等,国民年金制度の内容の選択決定は,立法府の広い裁量に委ねられており,社会保障制度における区別的取扱いについても,それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用とみざるを得ないような場合を除き,裁判所が審査判断するに適しない事柄であるといわねばならない。 しかし,憲法25条の趣旨にこたえて制定された法令において,受給者の範囲等について何ら合理的理由のない不当な差別的扱いがされたときは,憲法14条違反の問題が生じ得ると解すべきである(最高裁判所昭和57年7月7日大法廷判決・民集36巻7号1235頁)。 (2) ところで,憲法第3章の諸規定による基本的人権の保障は,権利の性質上日本国民のみをその対象としているものを除き,我が国に在住する外国人に対しても等しく及ぶものと解すべきであるところ,憲法14条1項も,その保障の対象となる権利の性質上特段の事情が認められない限り,我が国に在住する外国人に対してもその保障が及ぶものと解される。 このように,憲法14条1項は,我が国に在住する外国人を含め法の下の平等の原則を定めるが,右規定は合理的な理由のない差別を禁止する趣旨であって,各人に存する経済的,社会的その他種々の事実関係上の差異を理由としてその法的取扱いに区別を設けることは,その区別が合理性を有する限り,何ら同規定に反するものではないと解すべきである(最高裁判所昭和39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁,同平成7年7月5日大法廷判決・民集49巻7号1789頁)。 (3) 以 る限り,何ら同規定に反するものではないと解すべきである(最高裁判所昭和39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁,同平成7年7月5日大法廷判決・民集49巻7号1789頁)。 (3) 以上を前提に,旧法下の国籍条項が憲法14条1項に違反するか検討する。 確かに,国民年金制度自体は,原則は拠出制の社会保険制度であり,全額公費から支弁される無拠出制の社会保障給付と異なるものであるから,被用者保険である厚生年金等と同様に被保険者の範囲を国籍によって限定しないとする立法(たとえば定住外国人についての任意加入制度の創設)もありうるところではある。 しかしながら,我が国の公的年金制度は,当時の社会的諸事情を反映しながら,サラリーマン,公務員等を対象とする厚生年金保険,各共済年金制度からその対象者を拡大してきたものであるところ,国民年金制度は,昭和34年に至り,敗戦と戦災による疲弊と混乱からある程度の立ち直りを見せ,家族形態の変化や高齢者人口の増加に備え,一定の社会保障を国民全体に及ぼすことが重要な課題となったため,国庫の負担も加えた上で,それまで年金制度から取り残されていた農業者・自営業者等を適用対象とすることで国民皆年金体制の確立を図ったものである。すなわち,この制度は,給付の財源として被保険者が保険料を拠出するという保険方式を基本とし(旧法88条),年金給付の前提として,被保険者に対し,老齢年金であれば原則として25年以上の保険料の納付という負担を要求するものである。なお,国庫も毎年度,国民年金事業に要する費用に充てるため,当該年度において納付された保険料の総額の2分の1に相当する額を負担する(旧法85条)。 このように,長期の給付を前提とする年金制度を創設するに際しては,その財源,給付水準,財政運営方式等と併せて適用対象について定め された保険料の総額の2分の1に相当する額を負担する(旧法85条)。 このように,長期の給付を前提とする年金制度を創設するに際しては,その財源,給付水準,財政運営方式等と併せて適用対象について定めなければならないところ,当時の立法政策として,農業者・自営業者等から拠出される保険料と国庫負担によって給付を賄うという国民年金制度を発足させるに当たって,当時の社会的・経済的状況に照らし,まず日本国民に対し社会保障を行うことが急務とされていたのであって,このような我が国の歴史的・社会的・経済的諸事情に照らせば,旧法施行時,国籍条項を設け,わが国に在留する外国人に被保険者資格を認めないとしたことが,直ちに著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用とみざるを得ないような立法措置であるとまで断ずることはできない。 以上に加え,外国人に対する社会保険を含む社会保障の責任は,第1次的にはその者の属する国家が負うべきであるから,社会保障上の施策において在留外国人をどのように処遇するかについては,国は,特別の条約の存しない限り,当該外国人の属する国との外交関係,変動する国際情勢,国内の政治・経済・社会的事情に照らしながら,その政治的判断により決定することができるのであり,その限られた財源の下で福祉的給付を行うに当たり,自国民を在留外国人より優先的に扱うことも,許されるべきことと解される。 (4) 以上より,旧法下の国籍条項は,憲法25条2項の趣旨を実現するための立法の際における立法府の裁量の範囲内にあるものであり,また,何ら合理的理由のない差別であるとはいえず,憲法14条1項に違反しないというべきである。 (5) これに対し,原告らは,日本国籍を有しない者を年金制度の被保険者から除外すること,とりわけ,日本の植民地であった時代に日本に渡り,サン ず,憲法14条1項に違反しないというべきである。 (5) これに対し,原告らは,日本国籍を有しない者を年金制度の被保険者から除外すること,とりわけ,日本の植民地であった時代に日本に渡り,サンフランシスコ条約(日本国との平和条約)の発効の後も引き続き日本に在住する在日コリアンに対し,その自らの意思に基づかず一方的に日本国籍を喪失させた上で,日本国籍がないことを理由に国民年金制度から排除することは,「社会的身分又は門地」による差別に当たり,また,厚生年金保険制度において国籍要項を撤廃したこととの対比においても不合理であり,憲法14条1項に違反する旨主張する。 しかしながら,いわゆる在日韓国・朝鮮人であっても,我が国に居住するに至った事情は様々である上,戦後補償責任として一般に主張されている内容自体も一義的でなく,法的根拠となりえないものである。そして,いわゆる在日韓国・朝鮮人について,その歴史的経緯等に鑑み,日本国民と同様に取り扱うか,それとも他の外国人と同様に取り扱うかという点についても,立法府が広範な裁量の下に判断する事柄であり,本件立法措置につき,立法府がその裁量を逸脱・濫用したものと認められないことは前述したとおりである。 また,厚生年金制度は,いわゆる労働者保護立法の一環として,被用者保護の観点から,被用者の年齢,国籍等に関係なく一律に強制適用されているもので,国民年金制度とは制度の仕組みを全く異にするものであるから,国籍条項の有無につき,両者を同列に論じることは相当ではない。 その他,原告らは,原爆医療法についての最高裁判所の判例,国民年金制度における誤適用問題,地方自治体での取組等を根拠に旧法下の国籍条項の存在が憲法14条1項に反する旨縷々主張するが,いずれも,旧法下の国籍条項が合理的理由のない差別であることの根拠とな 例,国民年金制度における誤適用問題,地方自治体での取組等を根拠に旧法下の国籍条項の存在が憲法14条1項に反する旨縷々主張するが,いずれも,旧法下の国籍条項が合理的理由のない差別であることの根拠となるものではない。 以上より,原告らの主張は採用することができない。 2 整備法附則5項の規定及び同法に原告らに対する何等の救済措置がないことが憲法14条1項に違反するか否か(争点1(2))について(1) 整備法により,旧法7条1項中「日本国民」の文言は「者」に改められ,これにより,国民年金制度における拠出制年金の被保険者資格につき,国籍要件が撤廃された。また,福祉年金についても,同様に国籍要件は撤廃された。 しかし,整備法附則4項にあるとおり,同法の効果は同法の施行日(昭和57年1月1日)以後の期間についてのみ生じ,従前国籍条項により国民年金の被保険者とされなかった者に対し,遡及して整備法を適用するなどの何らかの救済措置は講じられなかった。また,整備法附則5項では,福祉年金について,「この法律による改正前の国民年金法による福祉年金が支給されず,又は当該福祉年金の受給権が消滅する事由であって,施行日前に生じたものに基づく同法による福祉年金の不支給又は失権については,なお従前の例による。」とされた。 (2) 原告らは,整備法による改正は,まさしく,在日コリアンにとっての国民年金制度の創設に当たり,旧法施行当時の老齢福祉年金同様,何らかの経過措置ないし補完措置をとるべきであった旨主張する。 確かに,整備法による改正によって国籍条項を撤廃するに際しては,原告らのように,旧法の国籍条項を削除するのみではなお国民年金制度の被保険者資格ないし老齢年金の受給資格要件を充たさない者に対しても,その生活実態(甲6,15,27ないし32,34,原告C しては,原告らのように,旧法の国籍条項を削除するのみではなお国民年金制度の被保険者資格ないし老齢年金の受給資格要件を充たさない者に対しても,その生活実態(甲6,15,27ないし32,34,原告C)に照らし,何らかの救済措置が講じられることが望ましいものであったことは否定しがたい。 しかし,福祉年金は,拠出制を基本とする国民年金制度において,制度発足当時において既に老齢の状態にある者,あるいは保険料を必要期間納付することができない見込みの者等,保険原則によるときは給付を受けられない者に対し,例外として,補完的ないし経過的に,国庫負担による無拠出制の年金を給付することとしたものである。原告らが主張する経過措置ないし補完措置は,国庫負担の無拠出制の年金を指すものであり,かかる無拠出制の社会保障制度は,第1次的にはその者の属する国家が負うべきであるから,立法府は,無拠出制の年金を前提とする経過的ないし補完的措置を講ずるか否かにつき,より広範な裁量権を有するものというべきである。 そして,前述の国民年金制度の仕組み,法律不遡及の原則などに照らせば,原告らが主張する救済措置がないことが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱,濫用とみざるを得ないものということはできない。 (3) さらに,原告らは,居住要件を満たさない日本国民のうち,沖縄返還時,小笠原諸島復帰時にこれらの地域に住所を有した者,帰国した中国残留邦人及び北朝鮮によるいわゆる拉致被害者などに対しては,国民年金法上,救済措置を設ける一方で,国籍要件を満たさない原告ら在日コリアンに対しては,何らの救済措置がないこと,在日コリアンも,日本国民と同じく納税の義務を果たしていることを理由に,憲法14条1項に違反する旨主張する(後記の新法改正に関しても同旨の主張をする。)。 しかしな ては,何らの救済措置がないこと,在日コリアンも,日本国民と同じく納税の義務を果たしていることを理由に,憲法14条1項に違反する旨主張する(後記の新法改正に関しても同旨の主張をする。)。 しかしながら,日本人に対する特別扱いとの対比についても,沖縄復帰特別措置及び小笠原復帰特別措置の対象者は,当時両地域に日本の施政権が及ばなかったため,結果的に本土の法制度が及ばなかったことから国民年金制度に加入できない状態にあった者,中国残留邦人特別措置の対象者は,戦後の混乱によって本邦に引き揚げることなく中国での居住を余儀なくされたことから国民年金制度に加入できない状況にあった者,北朝鮮の拉致被害者特別措置の対象者は,北朝鮮当局による拉致という極めて特殊な状況によって年金制度に加入できない状況にあった者で,いずれについても,当該事情がなければ強制加入の対象となっていたはずの,本来,国民年金制度による保障体系の枠内に位置づけられる者であり,制度発足当初から明確に国民年金制度の適用対象外とされた原告らを含むいわゆる在日韓国・朝鮮人の場合とは本質的に事情を異にしており,これを根拠に在日韓国・朝鮮人に対する救済措置がないことが不合理な差別であるとはいえない。 また,税負担と年金受給の関係についても,租税は,国の経費一般に充てるための財力調達の目的をもって,国その他の公共団体が,その権限の及ぶ地域において,法の定める一般的標準によりその担税力に応じて賦課するものであって,社会保障の権利とは直接結びつくものではなく,社会保険とは制度目的を異にするものであるから,納税の義務を負担しているからといって国民年金の支給を受ける権利があると解することはできない。 よって,原告らの上記主張は採用できない。 3 新法において原告らに対する何等の救済措置がないことが憲法14条1項 を負担しているからといって国民年金の支給を受ける権利があると解することはできない。 よって,原告らの上記主張は採用できない。 3 新法において原告らに対する何等の救済措置がないことが憲法14条1項に違反するか否か(争点1(3))について(1) 新法によって,旧法7条の国籍条項により国民年金の被保険者とならなかった期間は合算対象期間に算入された(新法附則8条5項10号)。しかし,新法の施行日において60歳以上の者は新法の適用を受けず,新法による改正前の国民年金法が引き続き適用された(新法附則31条)。また,新法施行日前に発生した年金給付については,同法附則32条1項において,なお従前の例によるとされ,整備法制定時同様,補完措置ないし経過措置は講じられなかった。 (2) 原告らは,新法において,原告ら在日コリアンに対し無拠出制の年金支給を認めるなどの救済措置を講じなかったことは,憲法14条1項に違反する旨主張する。 しかし,前記2のとおり,老齢福祉年金は,例外として,補完的ないし経過的に国庫負担による無拠出制の年金を給付するものであるところ,原告らが主張する経過措置ないし補完措置は,かかる無拠出制の社会保障制度を指すのであって,第1次的にはその者の属する国家が負うべきであるから,立法府は,無拠出制の年金を前提とする経過的ないし補完的措置を講ずるか否かにつき,より広範な裁量権を有するものというべきである。 そして,前述の国民年金制度の仕組み,法律不遡及の原則などに照らせば,原告らが主張する救済措置がないことが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱,濫用とみざるを得ないものということはできない。 4 国民年金法の内容が国際人権規約に違反するか否か(争点2)について(1) 国際人権規約の内容ア A規約9条は,「この規約の締約国 量の逸脱,濫用とみざるを得ないものということはできない。 4 国民年金法の内容が国際人権規約に違反するか否か(争点2)について(1) 国際人権規約の内容ア A規約9条は,「この規約の締約国は,社会保険その他の社会保障についてのすべての者の権利を認める。」と規定し,外国人を排除していない。しかし,この規定は,社会保障の権利を即時に具体的な権利として認めたものとはいい難く,「この規約の各締約国は,立法措置その他のすべての適当な方法によりこの規約において認められる権利の完全な実現を漸進的に達成するため,自国における利用可能な手段を最大限に用いることにより,個々に又は国際的な援助及び協力,特に,経済上及び技術上の援助及び協力を通じて,行動をとることを約束する。」(同規約2条1項)とあるように,締約国に立法の漸進的達成の義務があるというに止まるものである。しかしながら,同規約2条2項は,「この規約の締約国は,この規約に規定する権利が人種,皮膚の色,性,言語,宗教,政治的意見その他の意見,国民的若しくは社会的出身,財産,出生又は他の地位によるいかなる差別もなしに行使されることを保障することを約束する。」と規定し,これは,ひとたび社会保障立法がされた場合は,その内容において差別があってはならないとする趣旨であると解される。 イ(ア) B規約の2条1項は,「この規約の各締約国は,その領域内にあり,かつ,その管轄の下にあるすべての個人に対し,人種,皮膚の色,性,言語,宗教,政治的意見その他の意見,国民的若しくは社会的出身,財産,出生又は他の地位等によるいかなる差別もなしにこの規約において認められる権利を尊重し及び確保することを約束する。」としてB規約上の権利についての無差別原則を規定し,2項においてそのために必要な立法を講ずべき一般的な義務を,3項 る差別もなしにこの規約において認められる権利を尊重し及び確保することを約束する。」としてB規約上の権利についての無差別原則を規定し,2項においてそのために必要な立法を講ずべき一般的な義務を,3項において個別具体的な救済措置を講ずる義務を,それぞれ規定している。しかし,これらの規定は,いずれもB規約上の権利に関するものであり,社会保障などの権利に関連した差別からの保護を定めたものではないと解されている。 (イ) 一方,B規約の26条は「すべての者は,法律の前に平等であり,いかなる差別もなしに法律による平等の保護を受ける権利を有する。このため,法律は,あらゆる差別を禁止し及び人種,皮膚の色,性,言語,宗教,政治的意見その他の意見,国民的若しくは社会的出身,財産,出生又は他の地位等のいかなる理由による差別に対しても平等のかつ効果的な保護をすべての者に保障する。」と規定する。この規定で保護される者には外国人も含まれ,また,国籍による差別も「他の地位」による差別に含まれると解される。もっとも,すべての処遇の差異が本条で禁止される差別に当たるわけではなく,基準が合理的ありかつ客観的である場合であって,かつまた,本規約の下での合法的な目的を達成する目的でなされた場合には禁止される差別には当たらない(規約人権委員会一般的意見18)。 また,社会保障の権利についても,法律によって認められた以上は本規定による保護が可能であり,法律によって認められた社会保障の権利に関して同条が禁ずる差別の状態にあるときは,締約国にはその状態を解消すべき施策を講ずるべき義務が生ずるものと解するのが相当である。もっとも,社会保障の権利に関し差別の状態を解消すべき施策を講ずるときにも,社会保障の権利を創設する場合(立法による社会保障制度を創設する場合)と同様に,自ずから合理 るものと解するのが相当である。もっとも,社会保障の権利に関し差別の状態を解消すべき施策を講ずるときにも,社会保障の権利を創設する場合(立法による社会保障制度を創設する場合)と同様に,自ずから合理的期間を要するものであるから,かかる合理的期間を経過してもなお必要な施策が講じられていないときに,上記の義務に反することとなるというべきである。 (2)ア B規約については,日本政府が留保なしに批准したものであるから,なんらの立法措置を講ずることなく国内法的効力を有するものである。また,同規約が,自由権という基本的人権について定めていること,個人を主体として当該権利が保障されるという規定の仕方となっていることに照らすと,同規約は裁判規範性を有すると解すべきである。 また,A規約2条,9条についても,留保なしに批准されているところ,社会保障を受ける権利自体は国の漸進的達成義務によるものであるから直ちに具体的な権利として認めることはできないが,すでに立法された場合には,社会保障を受ける権利において差別を禁止する同規約2条2項は,自由権規約26条と同趣旨にあるものとして,裁判規範性を認めることができると解すべきである。 イ被告は,A規約2条1項において,締約国は立法の漸進的達成義務を規定していることから,同規約2条2項(及び9条)の規定は,締約国において,社会保障についての権利が国の社会政策により保護されるに値するものであることを確認し,その権利の実現に向けて積極的に社会保障政策を推進すべき政治的責任を負うことを宣言したもので,個人に対し即時に具体的権利を付与すべきことを定めたものではないから,A規約の規定は自動執行力がなく,旧法の国籍条項を直ちに排斥するものではないと主張する。 しかしながら,本件は,原告らが,A規約9条の規定を具体 に具体的権利を付与すべきことを定めたものではないから,A規約の規定は自動執行力がなく,旧法の国籍条項を直ちに排斥するものではないと主張する。 しかしながら,本件は,原告らが,A規約9条の規定を具体的に立法化化したものである旧法において定められた国籍条項が,内外人平等原則に違反して違法である旨主張して国家賠償を求めている事案であり,いわば国家から差別的待遇を受けないことを求める,A規約の自由権的側面に関わる問題である。このような自由権的側面に関する事項については,A規約の規定であっても,その性質上,自動執行力ないし裁判規範性を有するものと解すべきである。 ウ以上のとおり,本件では,旧法,整備法及び新法の各内容について,B規約26条,A規約2条2項に違反しないか否かを検討することとする。 (3) 国民年金法(旧法)は,国際人権規約が発効した昭和54年9月1日の時点よりも前に制定されており,国際人権規約の効力に遡及効はないから,旧法が,国際人権規約発効後においてなお,B規約26条,A規約2条2項が要求する内外人平等原則に違反するか否かを検討することとする。 ア前記1(4)で述べたとおり,国民年金制度を創設した昭和34年当時は,敗戦と戦災による疲弊と混乱からある程度の立ち直りを見せ,家族形態の変化や高齢者人口の増加に備え,一定の社会保障を国民全体に及ぼすことが重要な課題となっていた一方で,長期の給付を前提とする年金制度を創設するにあたっては,給付の財源,給付水準,財政運営方式等と併せて適用対象について高度に技術的かつ複雑な判断を要したのであり,農業者・自営業者等から拠出される保険料と国庫負担によって給付を賄うという国民年金制度を,まず日本国民に対して保障するという立法政策をとったことには,合理性があったということができる。 あり,農業者・自営業者等から拠出される保険料と国庫負担によって給付を賄うという国民年金制度を,まず日本国民に対して保障するという立法政策をとったことには,合理性があったということができる。 これに対し,国際人権規約が発効した昭和54年当時は,戦後混乱期からの復興を終え,社会的・経済的基盤は整い,また,国民年金制度(旧法)が創設されてから20年を経過し,国民年金制度自体も,種々の問題を含みながらも相応に整備されてきた時期にあったということができる。 そうすると,国民年金制度への加入資格要件(被保険者の範囲)につき,日本国民とわが国に在留する在国人,とりわけ,定住外国人とを区別する十分な合理的理由は薄れたものとみるべきである。 したがって,国民年金制度への加入資格要件としての国籍条項の存在は,国際人権規約発効当時,必ずしも十分な合理的理由があるとは言えず,自国民と外国人の平等な取扱いを要求する内外人平等原則(A規約2条2項,B規約26条)が許容する処遇の差異の基準に合致せず,このまま放置するときは違法な状態となるとみる余地があったということができる。 イもっとも,国民年金制度において,被保険者の範囲を変更するには,長期の給付を予定する年金制度の設計を,保険料の額,年金受給に必要な保険料納付済期間等の面から改めて検討することが必要となるのであり,被保険者の年齢構成,所得状況,我が国の財政状況等に照らした技術的政策的判断が必要となる。国籍条項の撤廃により在留外国人に対し,被保険者の範囲を拡大するに当たっても,それに伴う諸々の立法手当をする必要があり,それにはある程度の合理的期間が必要であると認められる。 かかる事情に照らすと,国際人権規約の発効後,旧法下の国籍条項が国際人権規約の平等原則に違反する状態となりうる事態が生じたとしても, あり,それにはある程度の合理的期間が必要であると認められる。 かかる事情に照らすと,国際人権規約の発効後,旧法下の国籍条項が国際人権規約の平等原則に違反する状態となりうる事態が生じたとしても,それが直ちに国際人権規約に違反するというものではなく,上記立法措置に必要な合理的期間が経過してもなお必要な改廃措置がとられない場合に,初めて国際人権規約上平等原則違反になると解すべきである。 ウ本件においては,国際人権規約が発効した昭和54年9月21日から約2年経過後の昭和56年6月12日に整備法による改正が行われ(昭和57年1月1日施行),旧法下の国籍条項が撤廃されており,この期間は,長期の給付を予定する国民年金の被保険者の範囲を変更して年金制度の設計を見直すための合理的な期間であると認められる。したがって,整備法による改正までに上記の期間を要したことが旧法下の国籍条項を削除すべき義務を怠ったものであるということはできず,国際人権規約上違法であるとまではいえない。 (4)ア原告らは,一方的に日本国籍を剥奪しておきながら,日本国籍がないことを理由に国民年金制度から原告らを含む在日コリアンを排除することは国際人権規約上禁止される国籍による差別に当たるから,被告は,国際人権規約発効後,直ちに旧法の国籍条項を削除するだけでなく,いわゆる在日韓国・朝鮮人が置かれている差別状態を是正すべき積極的措置,具体的には原告らに対する補完的,経過的老齢福祉年金の創設を行うべき義務があったのにこれを怠った旨主張する。 イしかし,国際人権規約の発効後整備法によって国籍要件を削除するまでに一定の期間を要したことが旧法下の国籍条項を削除すべき義務を怠ったものであるといえないことは前記(3)ウのとおりである。 また,原告らを含むいわゆる在日韓国・朝 って国籍要件を削除するまでに一定の期間を要したことが旧法下の国籍条項を削除すべき義務を怠ったものであるといえないことは前記(3)ウのとおりである。 また,原告らを含むいわゆる在日韓国・朝鮮人に対する補完的,経過的老齢福祉年金を創設するか否かについては,前記2,3のとおり,老齢福祉年金は,例外として,補完的ないし経過的に国庫負担による無拠出制の年金を給付するものであるところ,原告らが主張する経過措置ないし補完措置は,かかる無拠出制の社会保障制度を指すのであって,第1次的にはその者の属する国家が負うべきであるから,立法府は,無拠出制の年金を前提とする経過的ないし補完的措置を講ずるか否かにつき,より広範な裁量権を有するものというべきである。 いわゆる在日韓国・朝鮮人が置かれた状況や歴史的経緯に鑑みて日本国民と同様に取り扱うか否かという点についても立法府の裁量の下に判断すべき事柄であることに変わりはない。 そして,前述の国民年金制度の仕組み,法律不遡及の原則などに照らせば,原告らが主張する救済措置がないことが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱,濫用とみざるを得ないものということはできない。 このことは,A規約9条が社会保険その他の社会保障についてのすべての者の権利を認めるとしながらも,2条1項により,「各締約国は立法措置その他のすべての適当な方法によりこの規約において認められる権利の完全な実現を漸進的に達成するため,自国における利用可能な手段を最大限に用いることにより(中略)行動をとる。」と規定されていることからも導かれるところである。 ウしたがって,原告らの上記主張は採用することができない。 5 立法行為または立法不作為が国家賠償法上違法か否か(争点3)について(1) 国会議員の立法行為(立法不作為を含む。 ろである。 ウしたがって,原告らの上記主張は採用することができない。 5 立法行為または立法不作為が国家賠償法上違法か否か(争点3)について(1) 国会議員の立法行為(立法不作為を含む。)は,立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うというごとき,容易に想定し難いような例外的な場合でない限り,国家賠償法1条1項の規定の適用上,違法の評価を受けないものといわなければならない(最高裁判所昭和60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁)。 本件においては,前記1ないし4で判示したとおり,旧法下の国籍条項,整備法による改正時及び新法の施行時の立法不作為を含む立法措置について,いずれも憲法14条1項及び国際人権規約に違反し違憲違法であるというものではない。したがって,これらに関する国会議員の立法行為及び立法不作為について,原告らとの関係で,それが国家賠償法上違法と評価すべき余地はないといわざるを得ない。 (2) したがって,国会議員の立法行為または立法不作為に関して,被告が原告らとの関係で国家賠償法に基づく損害賠償義務を負うとはいえず,原告らの損害賠償請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がない。 6 結論以上によれば,原告らの本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第22民事部裁判長裁判官小西義博裁判官高見進太郎裁判官曳野久男は,転補につき,署名押印することができない。 裁判長裁判官小西義博別紙原告経歴一覧表原告生年月日出生地渡航時期A1920年6月11日韓国済州島1932年B い。 裁判長裁判官小西義博別紙原告経歴一覧表原告生年月日出生地渡航時期A1920年6月11日韓国済州島1932年B1919年12月5日韓国済州島1934年C1921年12月1日韓国全羅南道1933年D1921年12月18日韓国慶尚北道1939年E1923年11月26日韓国慶尚北道1940年

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