平成27年4月28日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成26年(ワ)第20279号通常実施権確認請求事件口頭弁論の終結の日平成27年3月10日判決東京都中央区<以下略>原告成幸利根株式会社同訴訟代理人弁護士篠崎芳明進士 肇小川幸三寺 嶌 毅一郎杉山一郎中山祐樹石黒一利鶴岡拓真長野県諏訪郡<以下略>被告 A同訴訟代理人弁護士兼松浩一柏木秀夫松吉威夫鈴木邦人城 崎 建太郎新美裕司 主文 1 原告と被告との間において,原告が別紙特許権目録記載の特許権について特許法35条1項に基づく通常実施権を有することを確認する。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求主文同旨第2 事案の概要本件は,被告が伸栄株式会社(以下「伸栄」という。)に在職中に鋼管圧入工法及び鋼管圧入機に関する発明(以下「本件発明」という。)をし,これについて特許出願をして別紙特許権目録記載の特許権(以 本件は,被告が伸栄株式会社(以下「伸栄」という。)に在職中に鋼管圧入工法及び鋼管圧入機に関する発明(以下「本件発明」という。)をし,これについて特許出願をして別紙特許権目録記載の特許権(以下「本件特許権」といい,これに係る特許を「本件特許」という。)を有しているところ,伸栄を吸収合併した原告が,本件発明は特許法35条1項に定める職務発明である旨主張して,被告に対し,同項に基づく通常実施権を有することの確認を求める事案である。 1 前提事実(証拠等を掲げた事実以外は,当事者間に争いがない。)(1) 当事者等ア伸栄及び原告伸栄は,昭和45年に設立され,鋼管矢板,鋼管杭圧入工事等の土木工事を業とする株式会社であったが,平成26年10月1日,原告に合併し解散した(弁論の全趣旨)。 イ被告被告は,伸栄の創業者であり,平成21年11月19日までは伸栄の代表取締役として営業のほか業務全般を担当していたが,そのころ,その有する伸栄の株式を全てヒロセ株式会社に対して売り渡す(以下「本件株式譲渡」という。)と共に,伸栄の代表取締役を辞任し,以後は,会長の肩書で伸栄の取締役を務めたが,平成23年6月21日,取締役を退任した。 (2) 本件特許権ア被告は,伸栄在職中に本件発明を行い,平成23年5月31日,本件特 許に係る特許出願をし,平成26年2月21日,設定登録を受けた本件特許権の特許権者である。 イ本件発明は,具体的には別紙特許権目録の特許請求の範囲に記載された発明であり,自走式の鋼管圧入機を用いた鋼管圧入工法において,先行鋼管の上端部に着脱可能に固定される鋼管圧入機の2台のクランプ装置のうちの1台をスライド移動可能とし1本の先行鋼管を飛ばして配置することができ ,自走式の鋼管圧入機を用いた鋼管圧入工法において,先行鋼管の上端部に着脱可能に固定される鋼管圧入機の2台のクランプ装置のうちの1台をスライド移動可能とし1本の先行鋼管を飛ばして配置することができるようにすることにより,鋼管の圧入打設時における鋼管圧入機の安定性を確保することを主たる内容とするものである(甲4)。 2 争点本件発明は特許法35条1項所定の職務発明に当たるか否か 3 争点に関する当事者の主張[原告の主張](1) 本件発明は鋼管圧入工法及び鋼管圧入機に関するものであるところ,本件発明がされた当時,伸栄は鋼管圧入工事を業として行っていたのであるから,本件発明は伸栄の業務範囲に属する。 (2) 被告は,伸栄の創業者であり,前代表取締役であったことから,本件株式譲渡後も,伸栄の取引先との交渉,打合せや技術開発,技術指導等伸栄の業務全般を行っていた。伸栄での営業活動には,機械の施工能力や施工方法に関する知見や,工事現場の状況・土壌の硬さ,施工する鋼管杭の本数などの工事に係る詳細条件の把握等が不可欠であるから,被告の職務が主として営業関係であったとしても,被告のスペック営業(顧客に対して,工事計画の検討段階から,現場の状況を踏まえた上で他社と比較した技術・工法の優位性等をアピールする営業)の職務の一環として,顧客の工事内容や意向に応じて随時技術開発を行うことも当然に予定ないし期待されていた。 (3) 本件発明に至る経緯は以下のとおりであるから,本件発明は,被告の職務に属する発明であった。 ア伸栄は,平成23年1月ころ,国土交通省が発注予定であった石川県小松市の天神低水護岸工事(以下「本件工事」という。)の受注を目指していた。本件工事がΦ1400の鋼管矢板打設工事となる見込みであったところ,伸栄は, 年1月ころ,国土交通省が発注予定であった石川県小松市の天神低水護岸工事(以下「本件工事」という。)の受注を目指していた。本件工事がΦ1400の鋼管矢板打設工事となる見込みであったところ,伸栄は,これに対応できる鋼管圧入機を有していなかったため,本件工事の受注を契機に,Φ1400対応型鋼管圧入機を新たに購入することを検討していた。 イ被告は,Φ1400対応型鋼管圧入機の安定性を確保するための仕様について株式会社コーワン(以下「コーワン」という。)との間で打合せを重ね,その協議のなかで,クランプ装置をスライド移動可能とし1本の先行鋼管を飛ばして配置することができるようにする案を出し,これに基づいて伸栄の担当者としてコーワンに対し本件発明に基づく鋼管圧入機の製作検討及び見積依頼を行った。 ウ伸栄は,被告が取締役を退任した後,コーワンに対し,本件発明に基づく鋼管圧入機を発注した。 [被告の主張](1) 本件発明が鋼管圧入工法及び鋼管圧入機に関するものであることは認めるが,本件発明の発明行為が鋼管矢板・鋼管杭圧入工事等の土木工事を業とする原告の業務範囲に属することについては否認する。 (2) 被告は,本件株式譲渡以降は,営業のみを担当しており,技術指導・技術開発等は担当していなかった。伸栄が受注を目指していた本件工事についても,被告は,伸栄が本件工事のためにΦ1400の鋼管矢板打設工事に対応できる鋼管圧入機の製作をコーワンに依頼しようとしていたことは認識しており,営業活動の一環として,その参考見積をコーワンに依頼したことはあるが,機械の仕様の決定や発注には関与していない。原告の主張するような機械の仕様に関する打合せをコーワンとしたことはない。 (3) 本件発明は,被告が友人や家族と雑談をする中で思い至ったもので あるが,機械の仕様の決定や発注には関与していない。原告の主張するような機械の仕様に関する打合せをコーワンとしたことはない。 (3) 本件発明は,被告が友人や家族と雑談をする中で思い至ったものであり, 伸栄の業務とは全く関係がない。被告は本件株式譲渡後に伸栄の工事担当部門から機械が使いにくいといった特段の相談を受けたことは一度もないから,本件発明は被告の職務に属するものではない。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前記前提事実,当事者間に争いのない事実に後掲各証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる(全体につき,甲25,乙1,証人B(以下「B」という。),被告本人。ただし,乙1及び被告本人のうち以下の認定に反する部分は除く。)。 (1) 被告は,伸栄の創業者であり,平成21年11月19日までは代表取締役として営業のほか業務全般を担当していたが,そのころ,その有する伸栄の株式を全てヒロセ株式会社に売り渡すと共に(本件株式譲渡),伸栄の代表取締役を辞任し,以後は,事業承継を補完し,経営全般を支援するために,取締役として会長の肩書で引き続き伸栄の業務を補佐することとなった。被告の職務は,顧客に対して,工事計画の検討段階から,現場の状況を踏まえた上で,他社と比較した技術・工法の優位性等をアピールする営業業務を含み,その報酬は,月額60万円(ただし,平成23年4月以降は月額30万円)であった。被告は,平成23年6月21日に伸栄の取締役を退任した(甲15)。 (2) 伸栄は,平成23年1月ころ,本件工事の受注を目指していたが,そのためにはΦ1400の比較的大口径の鋼管矢板打設工事に対応できる鋼管圧入機を新たに購入する必要があり,コーワンに製作を依頼する方針であった(甲5の1ないし3,甲6)。 (3) 目指していたが,そのためにはΦ1400の比較的大口径の鋼管矢板打設工事に対応できる鋼管圧入機を新たに購入する必要があり,コーワンに製作を依頼する方針であった(甲5の1ないし3,甲6)。 (3) 被告は,伸栄の業務として,Φ1400対応鋼管圧入機の見積書をコーワンに依頼した(乙1,被告本人)。 (4) クランプ装置を2台とする自走式の鋼管圧入機では,例えば直径が13 00~1500㎜程度の比較的大口径の鋼管を地中に圧入打設する際には,クランプ装置を先行鋼管の上端部に固定して得られる圧入反力を十分確保することができなくなって,安定した状態で鋼管を地中に圧入打設することが困難になるということは,コーワンの鋼管圧入機を購入している業者の中で周知の懸念であったが,一方,クランプ装置を3本にすると株式会社技研製作所の特許権に抵触するおそれがあった(甲4,被告本人)。 (5) 平成23年1月13日ころ,コーワンのC副社長(当時。以下「C」という。)は,被告と電話で協議を行った。その際,コーワン側は鋼管圧入機のクランプ装置を2台とする提案をしたのに対し,被告は,3台目のクランプ装置の位置に突っ張り用のジャッキを付けることなどを希望した。(甲25,証人B)(6) これを受けて,コーワンは,平成23年1月18日,送付先を「伸栄株式会社」,配布先を「A会長」とし,「先日打ち合わせさせて頂きました,PZ―1500鋼管圧入引抜機の仕様について」,「コーワン社としましては提示の2本フランプ(ママ)で充分使用に耐えると確信しておりますが,会長の御要望で,2番クランプ後方のジャンクション部分にジャッキを設け圧入時の反力を受けたいとのことを検討しました結果(中略)2番クランプの後方に下部既設杭に当接させる当て板部を延長させ,圧入時の反力を受けさせ で,2番クランプ後方のジャンクション部分にジャッキを設け圧入時の反力を受けたいとのことを検討しました結果(中略)2番クランプの後方に下部既設杭に当接させる当て板部を延長させ,圧入時の反力を受けさせる方法が構成上一番良いかと考えます。」などとするファクシミリを送信し,被告はこれを受領した。そして,同日,Cが伸栄を訪れ,被告に上記内容を提案したところ,被告は,クランプを後方に移動できないかとの考えを示した。(甲24,25,証人B,被告本人)。 (7) コーワンのC,D及びBは,平成23年1月24日の午前中に,伸栄を訪れ,被告とΦ1400対応鋼管圧入機の仕様等について打合せを行った。 被告は,クランプ装置をスライド移動可能とし1本の先行鋼管を飛ばして配置することができるようにする案を出し,コーワンがこのアイデアを持ち帰 って検討することとなった。Bは,打合せ中に,「1/24 伸栄」,「Φ1300,1400」,「No2.クランプ1本とばし」,「サドル長長くなるのはOK」とのメモを作成した(甲7,25,証人B)。 (8) コーワンは,平成23年1月28日,「株式会社伸栄 A会長様」宛に,件名を「PZ-1500検討結果資料の件」とし,「先日はお忙しい中,有難うございました。先日の打ち合わせでの検討結果資料一式送らせて頂きます。」などとし,2台のクランプ装置のうちの1台をスライド移動可能とする鋼管圧入機の仕様の概要図等を添付したファクシミリを送信し,被告はこれを受領した(甲8,25,証人B,被告本人)。 (9) 被告は,上記(8)記載のファクシミリ添付の鋼管圧入機の仕様の概要図(甲8)を使って,本件特許に係る特許出願をし,本件特許権を取得した(被告本人)。 (10) 伸栄は,被告が取締役を退任した後,コーワンに対し,2台のクランプ クシミリ添付の鋼管圧入機の仕様の概要図(甲8)を使って,本件特許に係る特許出願をし,本件特許権を取得した(被告本人)。 (10) 伸栄は,被告が取締役を退任した後,コーワンに対し,2台のクランプ装置のうちの1台をスライド移動可能とし1本の先行鋼管を飛ばして配置することができる鋼管圧入機を発注した(甲23,証人B)。 2 事実認定に関する補足説示被告は,本件株式譲渡後は伸栄において営業のみを担当していたため,伸栄が本件工事のためにΦ1400の鋼管矢板打設工事に対応できる鋼管圧入機の製作をコーワンに依頼しようとしていたことは認識しており,営業活動の一環としてコーワンに鋼管圧入機の見積を依頼したことはあるが,その仕様の決定や発注については関与していない旨主張し,これに沿う供述をして前記1(5)ないし(7)認定のコーワン側との打合せの事実を否認する。そして,被告は,平成23年1月24日には引越作業をしていたため,コーワンの社員と打合せを行ったことはないとして,引越しの見積書(乙4)及び同日のETC利用状況を示すご利用代金明細書(乙5の2)を提出する。 しかしながら,被告は,その供述において,平成23年1月18日付けのコ ーワンからの被告宛ファクシミリ送信(甲24)や同月28日付の被告宛ファクシミリ送信(甲8)を受領してこれらに目を通したことは認めているところ,上記認定のとおり,これらには,「先日打ち合わせさせて頂きました,PZ―1500鋼管圧入引抜機の仕様について」とか「先日の打ち合わせでの検討結果資料一式送らせて頂きます」などの記載があり,これらの記載からすれば,被告がコーワン側と鋼管圧入機の仕様等について上記認定の打合せをしたことは明らかである。この点,被告は,これらのファクシミリ送信を受領して目を通 頂きます」などの記載があり,これらの記載からすれば,被告がコーワン側と鋼管圧入機の仕様等について上記認定の打合せをしたことは明らかである。この点,被告は,これらのファクシミリ送信を受領して目を通した当時はあまり関心がなくおかしいとは思わなかったなどと供述するが,不自然不合理な内容であって到底採用することができない。そして,被告が平成23年1月24日に引越作業をしていたことの証拠として提出する書証についても,引越作業が午後からであった可能性や被告自身が引越作業に立ち会っていなかった可能性があることからすれば,いずれも,同日の午前中に被告が伸栄でコーワンとの打合せ業務をしていたという認定と矛盾するものではないから,前記認定を覆すに足りず,他に前記認定を左右するに足りる証拠はない。 したがって,被告の主張は採用することができない。 3 判断上記認定事実によれば,被告は,伸栄の業務として,本件工事を受注するために必要な鋼管圧入機を発注するための検討をしている際に,本件発明をしたと認められるから,本件発明は,その性質上伸栄の業務範囲に属し,かつ,本件発明をするに至った行為が伸栄における被告の職務に属するものであったと認められる。 なお,仮に被告の主張するように,友人や家族との雑談が本件発明のきっかけとなったとしても,前記1(1)認定の被告の地位によれば,被告には職務上発注する機械の仕様について検討することも求められていたと考えられるから,本件発明をするに至った行為が伸栄における被告の職務に属するものであったことに変わりはないというべきである。 したがって,伸栄を吸収合併した原告は,当然に特許法35条1項に基づく通常実施権を有するものと認められる。 4 結論よって,原告の請求には理由があるから,これを全部認容することとし したがって,伸栄を吸収合併した原告は,当然に特許法35条1項に基づく通常実施権を有するものと認められる。 4 結論よって,原告の請求には理由があるから,これを全部認容することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官沖中康人 裁判官宇野遥子 裁判官藤田壮は,転補につき署名押印することができない。 裁判長裁判官沖中康人 (別紙)特許権目録 1 名称鋼管圧入工法及び鋼管圧入機 2 特許番号特許第5479401号 3 出願日平成23年5月31日 4 登録日平成26年2月21日 5 特許請求の範囲【請求項1】先行して地中に圧入打設された先行鋼管の上端部に着脱可能に固定される複数のクランプ装置を備えるサドル部と,該サドル部に対してスライド移動可能に設けられたスライドベース部と,該スライドベース部に対して旋回可能に設けられたリーダ部と,該リーダ部に対して昇降可能に設けられた,圧入される鋼管を把持するチャック装置を備える昇降圧入部とを含んで構成される,自走式の鋼管圧入機を用いた鋼管圧入工法において,前記鋼管圧入機のサドル部には,前記クランプ装置が2台設けられていると共に,一方の前記クランプ装置を,前記チャック装置側の他方の前記クランプ装置に隣接する位置から,前記先行鋼管の直径以上の長さに亘ってスライド移動可能にするクランプ装置移動機構が設けられており,前記2台のクランプ装置を,1本の前記先行鋼管を飛ばしてこれの両側に配置された前記先行鋼管の上端部に固定した状態で,前記昇降圧入部によって前記鋼管を圧入する鋼管圧入工法。 【請求項2】 前記2台のクランプ装置を,1本の前記先行鋼管を飛ばしてこれの両側に配置された前記先行鋼管の上端部に固定した状態で,前記昇降圧入部によって前記鋼管を圧入する鋼管圧入工法。 【請求項2】前記先行鋼管及び前記圧入される鋼管は,円弧形状の打設予定線に沿って,円弧形状の平面形状を描くように連設して圧入打設されるようになっている請求項1記載の鋼管圧入工法。 【請求項3】請求項1又は2に記載の鋼管圧入工法に用いる鋼管圧入機であって,先行して地中に圧入打設された先行鋼管の上端部に着脱可能に固定される複数のクランプ装置を備えるサドル部と,該サドル部に対してスライド移動可能に設けられたスライドベース部と,該スライドベース部に対して旋回可能に設けられたリーダ部と,該リーダ部に対して昇降可能に設けられた,圧入される圧入鋼管を把持するチャック装置を備える昇降圧入部とを含んで構成されており,前記サドル部には,前記クランプ装置が2台設けられていると共に,一方の前記クランプ装置を,前記チャック装置側の他方の前記クランプ装置に隣接する位置から,前記先行鋼管の直径以上の長さに亘ってスライド移動可能にするクランプ装置移動機構が設けられている鋼管圧入機。 以上
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