平成22(ワ)30777 特許権侵害差止等請求事件

裁判年月日・裁判所
平成24年3月29日 東京地方裁判所
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判決文本文87,826 文字)

平成24年3月29日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成22年(ワ)第30777号特許権侵害差止等請求事件口頭弁論終結日平成23年12月20日判決 東京都中央区<以下略>原告富士レビオ株式会社 訴訟代理人弁護士増井和夫 同菊池毅 同工藤敦子 同髙橋直樹 東京都品川区<以下略>被告バイオ・ラッドラボラトリーズ株式会社 訴訟代理人弁護士田中浩之 同野口明男 同野口祐子 同三好豊 訴訟代理人弁理士前直美 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由 第1 請求 1 被告は,別紙物件目録記載の製品を輸入し,販売してはならない。 2 被告は,前 も棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由 第1 請求 1 被告は,別紙物件目録記載の製品を輸入し,販売してはならない。 2 被告は,前項記載の製品を廃棄せよ。 3 被告は,原告に対し,3億2560万円及びこれに対する平成22年9月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 - 2 -第2 事案の概要 1 事案の要旨本件は,発明の名称を「病原性プリオン蛋白質の検出方法」とする特許第4362837号(以下,この特許を「本件特許」,この特許権を「本件特許権」という。)の特許権者である原告が,被告による別紙物件目録記載の製品(以下「被告製品」という。)の輸入及び販売が本件特許権の間接侵害(特許法101条4号)に当たる旨主張して,被告に対し,特許法100条1項及び2項に基づき,被告製品の輸入及び販売の差止め並びに廃棄を求めるとともに,特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償を求めた事案である。 2 争いのない事実等(証拠の摘示のない事実は,争いのない事実又は弁論の全趣旨により認められる事実である。)(1) 当事者ア原告は,医薬品,臨床検査薬,医薬部外品及びその他各種化学製品の製造,販売並びにこれらの輸入輸出等を目的とする株式会社である。 イ被告は,研究・診断用特殊化学薬品及び検査用製品等の製造,輸入及び販売等を目的とする株式会社である。 (2) 特許庁における手続の経過等ア原告は,平成9年7月18日にした特許出願(特願平9-193801号。以下「本件原々出願」という。)の一部を分割して平成16年8月9日にした特許出願(特願2004-231819号。以下「本件原出願」という。)の一部を更に分割して,平成19年9月14日,発明の名称を「病原性プリオン蛋 」という。)の一部を分割して平成16年8月9日にした特許出願(特願2004-231819号。以下「本件原出願」という。)の一部を更に分割して,平成19年9月14日,発明の名称を「病原性プリオン蛋白質の検出方法」とする発明について特許出願(特願平2007-239265号。以下「本件出願」という。)をし,平成21年8月28日,本件特許権の設定登録(請求項の数4)を受けた。 イ(ア) 被告は,平成22年10月7日,本件特許について無効審判請求(無効2010-800182号事件)をした。 - 3 -原告は,同年12月24日,本件特許の特許請求の範囲の減縮等を目的とする訂正請求(以下,この訂正請求に係る訂正を「第1次訂正」という。)をした。 特許庁は,平成23年6月10日,上記無効審判事件について,第1次訂正を認めた上で,「特許第4362837号の請求項1ないし4に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「別件審決」という。)をした(乙35)。 これに対し原告は,同年7月19日,別件審決の取消しを求める審決取消訴訟(知的財産高等裁判所平成23年(行ケ)第10227号事件)を提起した。 (イ) また,原告は,平成23年8月15日,本件特許の特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正審判請求(訂正2011-390098号事件。以下,この訂正審判請求に係る訂正を「第2次訂正」という。)をした。 (3) 発明の内容ア設定登録時のもの(ア) 本件特許の設定登録時の特許請求の範囲は,請求項1ないし4から成り,その請求項1の記載は,次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本件発明」という。)。 「【請求項1】 動物の中枢神経系組織から病原性プリオン蛋白質を酵素免疫吸着測定法により検出する方法であって,t-オクチルフェ 次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本件発明」という。)。 「【請求項1】 動物の中枢神経系組織から病原性プリオン蛋白質を酵素免疫吸着測定法により検出する方法であって,t-オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(トリトン(商標)X-100)及びサーコシル(商標)を同時に用いて前記中枢神経系組織中の非特異的物質を可溶化することと,前記可溶化された非特異的物質をプロテアーゼを用いて分解処理することと,超遠心分離処理を除く遠心分離処理を行うことにより前記分解処理により得られたものから病原性プリオ- 4 -ン蛋白質由来蛋白質を含有する濃縮物を得ることと,前記濃縮物を酵素免疫吸着測定法により検出することとを含む病原性プリオン蛋白質の検出方法。」(イ) 本件発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,各構成要件を「構成要件A」,「構成要件B」などという。)。 A 動物の中枢神経系組織から病原性プリオン蛋白質を酵素免疫吸着測定法により検出する方法であって,B t-オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(トリトン(商標)X-100)及びサーコシル(商標)を同時に用いて前記中枢神経系組織中の非特異的物質を可溶化することと,C 前記可溶化された非特異的物質をプロテアーゼを用いて分解処理することと,D 超遠心分離処理を除く遠心分離処理を行うことにより前記分解処理により得られたものから病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を含有する濃縮物を得ることと,E 前記濃縮物を酵素免疫吸着測定法により検出することとF を含む病原性プリオン蛋白質の検出方法。 イ第1次訂正後のもの第1訂正後の特許請求の範囲は,請求項1ないし4から成り,その請求項1の記載は,次のとおりである(以下,第1次訂正後の請求項1に係る発明を「第1 オン蛋白質の検出方法。 イ第1次訂正後のもの第1訂正後の特許請求の範囲は,請求項1ないし4から成り,その請求項1の記載は,次のとおりである(以下,第1次訂正後の請求項1に係る発明を「第1次訂正発明」という。下線部は訂正箇所である。)。 「【請求項1】 動物の中枢神経系組織から病原性プリオン蛋白質を酵素免疫吸着測定法により検出する方法であって,t-オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(トリトン(商標)X-100)及びサーコシル(商標)を同時に用いて前記中枢神経系組織中の非特異的物質を可溶化することと,前記可溶化された非特異的物質をプロテアーゼを用いて分解処- 5 -理することと,超遠心分離処理を除く遠心分離処理を行うことにより前記分解処理により得られたものから病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を含有する濃縮物を得ることと,前記濃縮物を洗浄することなく溶解液とし,再沈殿させることなく酵素免疫吸着測定法により検出することとを含む病原性プリオン蛋白質の検出方法。」ウ第2次訂正後のもの第2訂正後の特許請求の範囲は,請求項1及び2から成り(請求項3及び4は削除),その請求項1の記載は,次のとおりである(以下,第2次訂正後の請求項1に係る発明を「第2次訂正発明」という。下線部は訂正箇所である。)。 「【請求項1】 動物の中枢神経系組織から病原性プリオン蛋白質を酵素免疫吸着測定法により検出する方法であって,t-オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(トリトン(商標)X-100)及びサーコシル(商標)を同時に用いて前記中枢神経系組織中の非特異的物質を可溶化することと,前記可溶化された非特異的物質をコラーゲン分解酵素及びDNA分解酵素を用いることなくプロテイナーゼKを用いて分解処理することと,超遠心分離処理を除く遠心分離処理 中の非特異的物質を可溶化することと,前記可溶化された非特異的物質をコラーゲン分解酵素及びDNA分解酵素を用いることなくプロテイナーゼKを用いて分解処理することと,超遠心分離処理を除く遠心分離処理を行うことにより前記分解処理により得られたものから病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を含有する濃縮物を得ることと,前記濃縮物を洗浄することなく直接カオトロピックイオン剤を用いて溶解液とし,酵素免疫吸着測定法により検出することとを含む病原性プリオン蛋白質の検出方法。」(4) 被告の行為等ア被告は,平成18年7月から,被告製品を販売している。 イ被告製品の使用説明書(甲3)には,次のような記載がある。 「<本質>本製剤は,異常プリオン蛋白の性質を利用して牛延髄よりプリオン蛋- 6 -白の断片を精製し,抗ヒトプリオン蛋白マウスモノクロナール抗体による酵素免疫測定法(ELISA法)で検出します。」「<成分及び分量>本製剤は,「テセーBSE精製キット」及び「テセーBSE検出キット」により構成されています。」「テセーBSE精製キット・〔A〕プロティナーゼK希釈液(尿素0.12g/mL)…55mL・〔PK〕プロティナーゼK溶液(中略)…0.5mL」「テセーBSE検出キット」「<効能または効果>牛延髄における異常プリオン蛋白の検出」「<用法及び用量>2.操作方法1)テセーBSE精製キット1-1)ウシ延髄のObex域350±40mgを採取します。 1-2)採材した検体をグラインディングチューブに入れ,ホモジナイザーでできるだけ組織の塊が残らないようにホモジナイズします。 1-4)マイクロテストチューブに希釈調製したプロティナーゼK溶液250μLを加え,よく混和します。 1-5)37±2℃で10±1分 ザーでできるだけ組織の塊が残らないようにホモジナイズします。 1-4)マイクロテストチューブに希釈調製したプロティナーゼK溶液250μLを加え,よく混和します。 1-5)37±2℃で10±1分間インキュベートします。 1-7)20,000gで5分間,または15,000gで7分間遠心します。 1-11)「テセーBSE検出キット」の希釈液(R6)を125μL加え,よく混和します。 2)テセーBSE検出キット- 7 -2-8)プレートシールを剥がし,各ウェル中の溶液を吸引した後,プレートを洗浄液(18~22℃)で1ウェルあたり800μLのオーバーフロー設定で,3回洗浄します。(以下略)2-12)プレートシールを剥がし,各ウェル中の溶液を吸引した後,プレートを洗浄液(18~22℃)で1ウェルあたり800μLのオーバーフロー設定で,5回洗浄します。(以下略)2-16)反応停止液〔R10〕添加後30分以内に,主波長450nm,副波長620nmにおける吸光度を測定します。」ウ被告製品を使用する,牛延髄から病原性プリオン蛋白質を検出する方法(以下「被告方法」という。)は,本件発明の構成要件A及びEを充足する。 3 争点本件の争点は,被告方法が本件発明の技術的範囲に属するか否か(争点1),本件発明に係る本件特許に特許無効審判により無効にされるべき無効理由があり,原告の本件特許権の行使が特許法104条の3第1項の規定により制限されるかどうか(争点2),上記無効理由による権利行使の制限を否定する第1次訂正又は第2次訂正に係る対抗主張の成否(争点3),被告が賠償すべき原告の損害額(争点4)である。 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(被告方法についての本件発明の技術的範囲の属否)について(1) 原告の主張ア の成否(争点3),被告が賠償すべき原告の損害額(争点4)である。 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(被告方法についての本件発明の技術的範囲の属否)について(1) 原告の主張ア構成要件B及びCについて(ア)a 本件発明は,狂牛病の原因物質である病原性プリオン蛋白質を,動物の組織から濃縮した状態で取得し,検出する方法の発明であり,発明の核心部分は,簡便性と迅速性に極めて優れた,新規な濃縮方法を提供することにある。 - 8 -病原性プリオン蛋白質は,正常なプリオン蛋白質と,化学的なアミノ酸配列は同一であるのに,特異的な立体構造を有することにより,病原性を示す物質である。そして,その特異的な立体構造のために,正常なプリオン蛋白質(及び他の蛋白質)に比べ,界面活性剤による可溶化を受けにくい。この性質を利用して,病原性プリオン蛋白質の存在が疑われる動物組織を,特定の界面活性剤を含有する水中に分散させ,病原性でない,すなわち特異的でない蛋白質及び他の成分を可溶化すると,可溶化された非特異的蛋白質等は,分解酵素が存在すれば分解されるから,病原性プリオン蛋白質との分離が容易になる。他方,可溶化しない病原性プリオン蛋白質は,分解を受けないので,そのまま残存する。分解処理後のサンプルを遠心分離すると,病原性プリオン蛋白質は,粒子として存在するので沈殿物となり,非特異的蛋白質等の分解物は,溶液中に残って沈殿しない。そこで,遠心分離により得られた沈殿物を,今度は,病原性プリオン蛋白質も溶解する溶媒に溶かせば,定量分析をすることができる。本件発明は,このような原理を実現したものである。 本件発明の構成要件Bは,界面活性剤である「t-オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(トリトン(商標)X-100)」及び「サーコシル(商 。本件発明は,このような原理を実現したものである。 本件発明の構成要件Bは,界面活性剤である「t-オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(トリトン(商標)X-100)」及び「サーコシル(商標)」を同時に用いることにより,非特異的物質を可溶化させる「可溶化工程」を規定し,構成要件Cは,分解酵素である「プロテアーゼ」用いることにより,可溶化された非特異的物質を分解させる「分解処理工程」を規定している。 そして,本件発明は,非特異的物質が界面活性剤により可溶化されている状態で,分解酵素を作用させるものであり,界面活性剤と酵素は相互に阻害しないことが,当然の前提になっている。すなわち,本件原出願の願書に添付した明細書(以下,図面を含めて「原出願明細- 9 -書」という。乙3)の段落【0075】ないし【0077】,【0108】,【0109】の記載を読めば,当業者は,プロテアーゼが界面活性剤の可溶化作用を阻害することはなく,プロテアーゼによる処理は,界面活性剤の存在により阻害されないものと理解するものであり,この点については,本件出願の出願経過において,原告は,意見書(甲18)で指摘している。 そうである以上,本件発明において,組織を界面活性剤により水中に分散させ,可溶化を進行させる過程において,最初から分解酵素を共存させるか,ある程度可溶化が進んだ時点で分解酵素を加えるか,可溶化が実質的に終了してから分解酵素を加えるかによって,方法の原理が特に相違することはない。処理中の混合物中において生じている現象としては,①非特異的物質の特定の分子に着目すれば,非特異的物質が界面活性剤の作用により可溶化し,可溶化した非特異的物質が分解酵素により分解されるが,②非特異的物質の多数の分子(すなわち処理対象試料の全体)に着目すれば,非特異的 分子に着目すれば,非特異的物質が界面活性剤の作用により可溶化し,可溶化した非特異的物質が分解酵素により分解されるが,②非特異的物質の多数の分子(すなわち処理対象試料の全体)に着目すれば,非特異的物質の可溶化と分解が並行して進んでいる。 このような本件発明の本質に鑑みれば,構成要件B及びCは,時間的に区別された独立の工程として実施される必要はなく,界面活性剤とプロテアーゼを同時に添加する方法を排除するものではないというべきである。 b 被告製品中の「プロティナーゼK希釈液」は,「トリトンX-100」及び「サーコシル」のいずれも含むものであるところ,被告方法においては,この「プロティナーゼK希釈液」が加えられることにより,それに含まれる「トリトンX-100」及び「サーコシル」が同時に用いられ,脳組織中のプリオン蛋白質が可溶化され(構成要件B),可溶化されたプリオン蛋白質がプロティナーゼK溶液中のプロ- 10 -テアーゼにより分解処理される(構成要件C)。 したがって,被告方法は,本件発明の構成要件B及びCをいずれも充足する。 (イ) これに対し,被告は,後記のとおり,本件出願の出願経過において,原告は,可溶化工程と分解処理工程とを一つの工程で一体の操作として行う構成を本件発明から意識的に除外しているから,このような構成の場合も本件発明に含むと原告が主張することは包袋禁反言の原則の適用により許されず,被告方法は,可溶化工程と分解処理工程を一つの工程で一体の操作として行うものであるから,構成要件B及びCを充足しない旨主張する。 しかしながら,①特許庁の審査官は,平成21年6月10日,原告に対し,電話で,「現在の請求項1」(同日当時の請求項1)の記載では,各工程をどのような順番で行うのかが明確でなく,プロテアーゼによる分 しかしながら,①特許庁の審査官は,平成21年6月10日,原告に対し,電話で,「現在の請求項1」(同日当時の請求項1)の記載では,各工程をどのような順番で行うのかが明確でなく,プロテアーゼによる分解が,界面活性剤による可溶化よりも前に起こることまでが含まれるように読み得るが,それは含まないと思う旨の指摘があり,そうであれば,含まないよう記載して欲しいという補正の示唆があったこと,②その後原告に送付のあった同月11日付け拒絶理由通知書(乙5)において,本件発明の構成要件Bについて,「2種の界面活性剤を同時に入れるのか,別個に加えるのかが明らかではない。」との指摘(以下「第1の指摘」という。)と,構成要件BないしEの工程につき「各工程をどのような順番で行うのかが明確であるとはいえない」との指摘(以下「第2の指摘」という。)があったこと,③原告は,第1の指摘については,2種の界面活性剤の相乗的な作用により,必要な可溶化が行われることから,「同時に」添加する旨を記載した手続補正書案を作成し,第2の指摘については,「現在の請求項1」の記載から各工程の化学反応の順番は明確であることから,補正をすることなく,各工程の化学反応の順- 11 -番につき説明を記載した意見書案(甲19の2)を作成して,特許庁にFAXし,その上で,原告は,審査官に電話をかけ,その内容を説明した結果,「現在の請求項」のままで,各工程において,起こる化学反応の順番は明らかであり,プロテアーゼによる分解が,界面活性剤による可溶化よりも前に起こることは含まれないことにつき,審査官の納得が得られたこと(甲19の1),④上記経緯を経て,本件特許の特許査定がされたこと(甲20)に照らすならば,特許庁が平成21年6月11日付け拒絶理由通知書において,界面活性剤とプロテアーゼを同時に入 が得られたこと(甲19の1),④上記経緯を経て,本件特許の特許査定がされたこと(甲20)に照らすならば,特許庁が平成21年6月11日付け拒絶理由通知書において,界面活性剤とプロテアーゼを同時に入れるのか,別個に加えるのかが明らかではないと指摘したものではないことは明らかである。このような本件出願の出願経過からみると,本件発明は,界面活性剤とプロテアーゼを同時に添加する方法を排除するものではない。 したがって,被告の上記主張は,理由がない。 イ構成要件Dについて(ア) 甲8(化学辞典)には,「超遠心分離」とは,「毎分3万回転程度以上で回転する遠心機」を使用する遠心分離であること(858頁)が記載され,甲9(基礎生化学実験法)には,「低速遠心器」とは,「普通は,最高20000rpmまで」の遠心器であること(158頁)が記載されている。 また,当業者であれば,装置の構成と性能から,超遠心分離と一般(低速)の遠心分離とを容易に区別することができる。低速遠心分離は,主として固体と液体の分離をその使用目的とするが,一方で,超遠心分離は,溶解している成分の数を調べたり,高分子の分子量を求めるといった高度な技術に使用することを目的とし,このような高度の分析を行う性能を有していることが,超遠心分離装置の基準となる。 そして,遠心分離装置の性能は,基本的に回転速度に依存するから,- 12 -先ず回転速度が考慮される。厳密には,回転速度よりも,回転により発生する遠心力(加速度)の大きさ(g)が本質的なパラメータであるが,回転部分の半径が同じなら回転速度と遠心力は比例し,一般的には,30,000rpm程度を超える回転が可能な装置が超遠心分離装置となる。 (イ) 被告方法は,プロティナーゼK溶液による可溶化及び分解処理工程の後に「20 なら回転速度と遠心力は比例し,一般的には,30,000rpm程度を超える回転が可能な装置が超遠心分離装置となる。 (イ) 被告方法は,プロティナーゼK溶液による可溶化及び分解処理工程の後に「20,000gで5分間,または15,000gで7分間遠心」する工程を含むものである。 そして,被告の分析によれば,乙7記載の遠心力69,000gは,回転速度として約35,000~40,000rpmに相当するとのことである。この分析を基にすれば,被告方法の15,000g又は20,000gの遠心分離は,20,000rpmより小さな回転速度となる。 そうすると,被告方法における遠心分離の回転速度が30,000rpmを下回ることは明らかであるから,同遠心分離は,超遠心分離に当たらない。 したがって,被告方法は,「超遠心分離処理を除く遠心分離処理」を行うことにより「病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を含有する濃縮物を得る」ものといえるから,構成要件Dを充足する。 ウ構成要件Fについて被告方法が本件発明の構成要件A及びEを充足することは争いがなく,また,被告方法が構成要件BないしDを充足することは前記ア及びイのとおりである。 そうすると,被告方法は,本件発明の構成要件AからEを含む病原性プリオン蛋白質の検出方法であるといえるから,構成要件Fを充足する。 エ小括以上のとおり,被告方法は,本件発明の構成要件をすべて充足するから,その技術的範囲に属する。 - 13 -そして,被告製品は,被告方法の使用にのみ用いる物であるから,被告による被告製品の輸入及び販売は,本件発明に係る本件特許権の間接侵害(特許法101条4号)に当たるというべきである。 (2) 被告の主張ア構成要件B及びCについて(ア) 本件発明の構成要件B及びCは 製品の輸入及び販売は,本件発明に係る本件特許権の間接侵害(特許法101条4号)に当たるというべきである。 (2) 被告の主張ア構成要件B及びCについて(ア) 本件発明の構成要件B及びCは,その文言上も,出願経過からしても,可溶化工程と分解処理工程が同時に行われる場合は含まれない。 a 文言解釈本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載上,「可溶化すること」(構成要件B)と「分解処理すること」(構成要件C)とが明確に書き分けられているから,文言解釈上,「可溶化」と「分解処理」は,二つの別個独立した工程によって行われることが必要である。 また,構成要件Cの「前記可溶化された非特異的物質をプロテアーゼを用いて分解処理」との記載は,文言上,経時的にも,「可溶化」工程の後に「分解処理する」が行われる必要があることを意味するものである。 さらに,本件発明の特許請求の範囲においては,同時に行う場合には,「同時に」との文言が用いられている(構成要件B)のに対し,「可溶化すること」と「分解処理すること」については,「同時に」との文言が用いられていないことからすると,両工程が同時に行われることは,本件発明の特許請求の範囲において予定されていないと解釈すべきである。 b 出願経過からの解釈原告は,本件出願の出願経過において,平成20年11月5日付け拒絶理由通知書(乙2)に対応するため,遅くとも,同年12月19日付け手続補正によって特許請求の範囲を補正した時点で,可溶化工- 14 -程と分解処理工程とを一つの工程で一体の操作として行う構成を本件発明から意識的に除外したから,原告が,このような構成の場合も本件発明に含むと主張することは包袋禁反言の原則の適用により許されない。 (a) 原告は,平成20年11月5日付け拒絶理由 う構成を本件発明から意識的に除外したから,原告が,このような構成の場合も本件発明に含むと主張することは包袋禁反言の原則の適用により許されない。 (a) 原告は,平成20年11月5日付け拒絶理由通知書(乙2)により,「均一化工程」(本件発明の「可溶化工程」に相当)と「分解処理工程」とが「1つの工程」で行われる構成は,原出願明細書に記載されていなかったものとして,分割要件違反を前提とする新規性欠如及び進歩性欠如の拒絶理由通知がされたことを受け,同月26日付け意見書(甲18)を提出した。この意見書において,原告は,界面活性剤溶液はプロテアーゼ処理を阻害するものではない等の化学反応についての説明に基づき,本件原出願には「均一化工程」と「分解処理工程」を「一体の操作」として「同時に」行う構成も開示されていると当業者は解釈できる旨述べた。その上で,原告は,同年12月4日に審査官と面接を行ったが,面接における議論の結果,原告は,本件特許の特許請求の範囲の補正を行うこととなった(乙36)。その後,原告は,同月9日,FAXで,審査官に対して「可溶化」と「分解処理」とが別個の独立した工程であることを明確化した手続補正書案(乙37)を送付している。 これらの審査経過からすれば,原告は,平成20年12月4日の審査官との面接において,同年11月26日付け意見書に記載してあるとおり,「均一化工程」と「分解処理工程」とを一体の操作として同時に行う構成も本件原出願に記載されていた,との説明を行ったと考えられる。しかし,結果的に審査官を納得させることはできなかったため,原告において,かかる主張は諦め,補正を行うこととし,上記手続補正書案をFaxした後,同年12月19日付け- 15 -で,「可溶化」と「分解処理」とが別個の独立した工程であることを明確化 たため,原告において,かかる主張は諦め,補正を行うこととし,上記手続補正書案をFaxした後,同年12月19日付け- 15 -で,「可溶化」と「分解処理」とが別個の独立した工程であることを明確化した手続補正書(乙4)を提出した。 かかる補正が,上記審査経過を受けて行われたものであることに照らせば,原告が,「可溶化」工程と「分解処理」工程とを一つの工程で一体の操作として行う構成を意識的にかつ明確に除外したことは明らかである。 (b) さらに,原告は,平成21年6月11日付け拒絶理由通知書(乙5)を受けたため,同月24日付け意見書(乙6)を提出し,その中で,「可溶化」と「分解処理」とが別個の独立した工程であり,「可溶化」工程の後に「分解処理」工程を行うことをさらに明確化した。 (c) 以上によれば,原告は,包袋禁反言の原則の適用により,本件発明の権利範囲に「可溶化」工程と「分離処理」工程とを一つの工程で一体の操作として行う構成も含むと主張することは許されない。 (イ) 被告方法で使用する「プロティナーゼK希釈液」には,検体の可溶化を行う「トリトンX-100」及び「サーコシル」と,分解処理を行うプロテアーゼが含まれている。そして,被告方法では,この「プロティナーゼK希釈液」と「プロティナーゼK溶液」とを混合して,「プロティナーゼK混合液」とした上で,この「プロティナーゼK混合液」を検体に加えることにより,「トリトンX-100」及び「サーコシル」による「可溶化」とプロテアーゼによる「分解処理」が一つの工程で行われている。 このように,被告方法においては,「プロティナーゼK混合液」を検体に加えるという単一の手順により,「可溶化」と「分解処理」の双方が一つの工程で行われるから,被告方法は,本件発明の構成要件B及びCを充足しない。 被告方法においては,「プロティナーゼK混合液」を検体に加えるという単一の手順により,「可溶化」と「分解処理」の双方が一つの工程で行われるから,被告方法は,本件発明の構成要件B及びCを充足しない。 - 16 -イ構成要件Dについて原告は,被告方法は,20,000rpmより小さな回転速度を用いているから,構成要件Dの「超遠心分離処理を除く遠心分離処理」に当たると主張する。 しかし,回転数(rpm)が同じでもローター(回転部分)の大きさ(回転半径)が変われば,加わる遠心加速度が変わるため,回転数(rpm)は単独では超遠心分離と遠心分離を区別する基準とはなり得ない。また,この点を措くとしても,「超遠心分離を除く遠心分離」と「超遠心分離」は,一定の遠心加速度で明確に切り分けられる概念ではなく,その境界は不明である。 したがって,20,000rpmが超遠心分離と遠心分離の境界であるとの原告の主張には理由がなく,被告方法は構成要件Dを充足しない。 ウ小括以上のとおり,被告方法は,構成要件BないしDをいずれも充足しないから,本件発明の技術的範囲に属さない。 したがって,被告による被告製品の輸入及び販売は,本件発明に係る本件特許権の間接侵害に当たるとの原告の主張は理由がない。 2 争点2(本件特許権に基づく権利行使の制限の成否)について(1) 被告の主張本件発明に係る本件特許には,以下のとおりの無効理由があり,特許無効審判により無効にされるべきものであるから,特許法104条の3第1項の規定により,原告は,被告に対し,本件特許権を行使することができない。 ア無効理由1(乙7による新規性の欠如)本件発明は,以下のとおり,本件原々出願(出願日平成9年7月18日)の出願前に頒布された刊行物である乙7(1996年( 特許権を行使することができない。 ア無効理由1(乙7による新規性の欠如)本件発明は,以下のとおり,本件原々出願(出願日平成9年7月18日)の出願前に頒布された刊行物である乙7(1996年(平成8年)10月23日~25日に開催された「第44回日本ウイルス学会総会」の「アブ- 17 -ストラクト」中の「PrPSc 高度検出法の開発:ELISA法の検討」と題する部分(99頁)。以下同じ。)に記載された発明と同一のものであるから,本件発明に係る本件特許には,特許法29条1項3号に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。 (ア) 乙7の記載事項(1行~11行)によれば,乙7には,本件発明の構成要件AないしFの構成をすべて備える「動物の中枢神経系組織から病原性プリオン蛋白質を酵素免疫吸着測定法により検出する方法」が開示されている。 a 乙7には,スクレイピー感染マウスの脳又は脾臓を検体としてPrPScをELISA法によって検出する方法が記載されている。「PrPSc」は病原性プリオン蛋白質(の一種)であり,「ELISA」は酵素免疫吸着測定法と同義である。 したがって,乙7記載の方法は,「動物の中枢神経系組織から病原性プリオン蛋白質を酵素免疫吸着測定法により検出する方法」であり,乙7には,構成要件Aに相当する構成が開示されている。 b 乙7記載の方法は,「トリトンX-100」と「サーコシル」とを同時に用いてマウスの脳又は脾臓をホモゲナイズ(組織などを粉砕又は磨砕して均一な懸濁状態にすること=均一化)している。 ここで,本件出願の願書に添付した明細書(以下,図面を含めて「本件明細書」という。甲2)の記載(段落【0040】ないし【0046】,【0100】,【0108】)によれば,本件発明の構成要件Bにいう「可溶化」とは, の願書に添付した明細書(以下,図面を含めて「本件明細書」という。甲2)の記載(段落【0040】ないし【0046】,【0100】,【0108】)によれば,本件発明の構成要件Bにいう「可溶化」とは,「トリトンX-100」及び「サーコシル」という界面活性剤を用いた「均一化」と同じ意味であると理解できるから,乙7には,構成要件Bに相当する構成が開示されている。 c 乙7記載の方法は,上記のホモゲナイズされた試料をプロテアーゼの一種であるプロテイナーゼKを用いて分解処理しているので,乙7- 18 -には,構成要件Cに相当する構成が開示されている。 d 乙7記載の方法は,上記プロテアーゼ分解後の試料を69,000×g(×gとは,重力加速度の表記方法の一つであり,単にgと記載される場合とその意味は同じである。),20分の遠心分離処理をすることにより,PrPScを含む沈殿物を回収している。 構成要件Dの「超遠心分離処理を除く遠心分離処理」の意義は不明確であるが,69,000×gの遠心分離は,「超遠心分離処理を除く遠心分離処理」であると考えることができるから,乙7には,構成要件Dに相当する構成が開示されている。 e 乙7記載の方法は,回収された沈殿物を用いてELISA法を行っているので,乙7には,構成要件Eに相当する構成が開示されている。 f 乙7記載の方法は,上記のとおり可溶化,分解,分離,検出の各工程を含む病原性プリオン蛋白質の検出方法であるから,乙7には,構成要件Fに相当する構成が開示されている。 (イ) 以上によれば,本件発明は,乙7に記載された発明と同一のものであるから,新規性が欠如している。 イ無効理由2(乙7を主引用例とする進歩性の欠如)仮に乙7に開示された「69,000×g」の遠心分離処理が「超遠心分離処理」に該当 された発明と同一のものであるから,新規性が欠如している。 イ無効理由2(乙7を主引用例とする進歩性の欠如)仮に乙7に開示された「69,000×g」の遠心分離処理が「超遠心分離処理」に該当し,乙7に記載された発明が構成要件Dの「超遠心分離処理を除く遠心分離処理」の構成を備えていないとしても,本件発明は,以下のとおり,本件原々出願の出願前に頒布された刊行物である乙7及び乙9(「総説動物のプリオン病」山口獣医学雑誌,第23号1996年11月,1頁~15頁。以下同じ。)に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,進歩性が欠如し,本件発明に係る本件特許には,特許法29条2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。 - 19 -(ア) 本件発明と乙7に記載された発明との対比乙7には,次の相違点に係る本件発明の構成を除き,本件発明のその余の構成が開示されている。 (相違点)病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を含有する濃縮物を得る際に,本件発明は,「超遠心分離処理を除く遠心分離処理」(構成要件D)を行うものであるのに対し,乙7に記載された発明は,超遠心分離処理を行うものである点。 (イ) 乙9の記載事項乙9の記載事項(8頁右欄末行~9頁左欄4行,Fig.8等)によれば,乙9には,プロテアーゼ分解後の試料を「15,000回転」(rpmと同義)の遠心分離処理をすることにより,PrPScを含む沈殿物を回収していることが開示されている。 ここで,乙9記載の方法が用いる「15,000回転」の遠心分離処理は,「超遠心分離処理を除く遠心分離処理」(相違点に係る本件発明の構成)に該当する。 (ウ) 相違点の容易想到性a 乙7と乙9は,同一技術分野における同一課題に関する同一研究者らによる文 処理は,「超遠心分離処理を除く遠心分離処理」(相違点に係る本件発明の構成)に該当する。 (ウ) 相違点の容易想到性a 乙7と乙9は,同一技術分野における同一課題に関する同一研究者らによる文献であるから,当業者であれば,これらの文献を組み合わせるのは容易である。また,超遠心分離処理を行わないことには,作業時間が短縮できる点,高額でメンテナンス頻度も高いため経済的な負担がかかる超遠心分離装置を必要としない点,及び遠心管の破損による液漏れ事故が生じるリスクやローターの飛び出し事故のリスクが減るために安全である点といった利点がある以上,乙7記載の超遠心分離に代えて,乙9記載の遠心分離条件を適用することの動機付けが存在する。加えて,遠心加速度の変更は,当業者であればごく自然- 20 -に通常行うことであり,当業者が任意に選択し得る設計的事項にすぎない。 以上によれば,当業者であれば,乙7に記載された発明に乙9記載の遠心分離条件(相違点に係る本件発明の構成)を適用することにより,本件発明に想到することは容易であったものといえる。 b これに対し原告は,後記のとおり,乙7では,ズイッタージェントとサーコシルの組合せよりも,トリトンX-100とサーコシルの組合せの方が良好だったというのであるから,ズイッタージェントを使用する乙9に記載された遠心分離の条件を,乙7における既に良好である方法を変更するために適用する理由がないなどと主張する。 しかし,ズイッタージェントやサーコシルといった界面活性剤のいずれを使用するかという問題と,遠心分離条件をどのようにするかという問題との間には技術的な関連性はないから,そもそも界面活性剤の違いを根拠に,遠心分離条件の適用がないとの原告の主張は,その主張自体理由がない。 ウ無効理由3(乙8を主引 をどのようにするかという問題との間には技術的な関連性はないから,そもそも界面活性剤の違いを根拠に,遠心分離条件の適用がないとの原告の主張は,その主張自体理由がない。 ウ無効理由3(乙8を主引用例とする進歩性の欠如)本件発明は,以下のとおり,本件原々出願の出願前に頒布された刊行物である乙8(「Sensitiveenzyme-linkedimmunosorbentassayfordetectionofPrPScincrudetissueextractsfromscrapie-affectedmice」JournalofVirologicalMethods 64(1997)205-216。以下同じ。)及び乙9に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,進歩性が欠如し,本件発明に係る本件特許には,特許法29条2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。 (ア) 乙8を公知文献として参酌することの適格性乙8は,本件原々出願の出願前に,頒布された刊行物である。 原告は,後記のとおり,乙8について,平成11年法律第41号によ- 21 -る改正前の特許法30条1項(以下「特許法旧30条1項」という。)の適用を受けるための証明書(乙10)が提出され,その適用が主張され,これが認められているから,同条項の適用により,乙8を本件発明の進歩性の判断に当たり考慮することはできない旨主張する。 しかし,特許法旧30条1項は,「新規性喪失の例外規定は発表した発明と出願された発明が同一である場合のみ適用される規定」となっており,「発明者にとって酷となる…面を有している」ことに鑑み,平成11年改正は「出願に係る発明が発表した発明と同一でない出願についても新規性喪失の例外規定の 一である場合のみ適用される規定」となっており,「発明者にとって酷となる…面を有している」ことに鑑み,平成11年改正は「出願に係る発明が発表した発明と同一でない出願についても新規性喪失の例外規定の適用対象とする」ように改正したものである。 したがって,特許法旧30条1項は,審査過程で行われた補正を経た最終的な特許請求の記載に係る発明と刊行物に記載された発明との同一性がある場合にのみ適用され,同条項は,同一性のない発明の記載された文献を発明の進歩性判断に当たって公知文献として参酌することを何ら否定するものではない。 そして,乙8が後記のとおり最終的に本件発明とは同一性のない発明を開示するものである以上,進歩性否定の基礎資料としての適格性を有することは疑いがなく,原告の上記主張は理由がない。 (イ) 本件発明と乙8に記載された発明との対比a 乙8の記載事項(205頁2行~4行,206頁右欄下から8行~208頁左欄8行,207頁の「Fig 1」,207頁の「2.4 ELISA」)によれば,乙8のMethod1記載の方法は,本件発明の構成要件AないしDの構成を備える「動物の中枢神経系組織から病原性プリオン蛋白質を酵素免疫吸着測定法により検出する方法」である。 (a) 乙8のMethod1記載の方法は,スクレイピー感染動物の脳を検体としてPrPSc をELISA法によって検出する方法である。 - 22 -したがって,乙8のMethod1記載の方法は,「動物の中枢神経系組織から病原性プリオン蛋白質を酵素免疫吸着測定法により検出する方法」であり,乙8には,構成要件Aに相当する構成が開示されている。 (b) 乙8のMethod1記載の方法においては,トリトンX-100及びサーコシルを同時に用いて組織が「均質化」しており,これは, であり,乙8には,構成要件Aに相当する構成が開示されている。 (b) 乙8のMethod1記載の方法においては,トリトンX-100及びサーコシルを同時に用いて組織が「均質化」しており,これは,構成要件Bにいう「可溶化」に相当する。 したがって,乙8には,構成要件Bに相当する構成が開示されている。 (c) 乙8のMethod1記載の方法は,上記の可溶化された試料を,プロテイナーゼKを用いて分解処理しているので,乙8には,構成要件Cに相当する構成が開示されている。 (d) 乙8のMethod1記載の方法は,上記プロテアーゼ分解後の試料を「TLA 100.3ローター及びオプティマTLX デスクトップ型超遠心機,ベックマン」を用いて40,000回転(rpmと同義)の遠心分離処理をすることにより,PrPScを含む沈殿物を回収している。構成要件Dにおける「超遠心分離処理を除く遠心分離処理」の意義は不明確であるが,仮に乙8のMethod1記載の40,000回転の速度による遠心分離が「超遠心分離処理」に該当するとすれば,この点が本件発明と乙8のMethod1記載の方法との相違点となる。 (e) 乙8のMethod1記載の方法は,回収された沈殿物をELISA法に使用しているので,乙8には,構成要件Eに相当する構成が開示されている。 (f) 乙8のMethod1記載の方法は,上記のとおり,遠心分離処理の際に「超遠心分離処理」を用いていることが相違点となるとしても,- 23 -それ以外の点においては,乙8には,構成要件Fに相当する構成が開示されている。 b 以上によれば,乙8には,次の相違点に係る本件発明の構成を除き,本件発明のその余の構成が開示されている。 (相違点)病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を含有する濃縮物を得る際に,本 いる。 b 以上によれば,乙8には,次の相違点に係る本件発明の構成を除き,本件発明のその余の構成が開示されている。 (相違点)病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を含有する濃縮物を得る際に,本件発明は,「超遠心分離処理を除く遠心分離処理」(構成要件D)を行うものであるのに対し,乙8に記載された発明は,超遠心分離処理を行うものである点。 (ウ) 相違点の容易想到性乙9には,「15,000回転」の遠心分離処理の開示があり,この遠心分離処理が「超遠心分離処理を除く遠心分離処理」(相違点に係る本件発明の構成)に該当することは,前記イ(イ)のとおりである。 乙8には,遠心分離条件が本件発明と相違するものの,それ以外は本件発明と同一の方法が記載されており,乙8記載の方法と乙9記載の方法の基本的な構成は同一である。 また,乙8と乙9は,同一技術分野における同一課題に関する同一研究者らによる文献であるから,当業者であれば,これらの文献を組み合わせることは容易である。 以上によれば,当業者であれば,乙8に記載された発明に乙9記載の遠心分離条件(相違点に係る本件発明の構成)を適用することにより,本件発明に想到することは容易であったものといえる。 エ無効理由4(乙9を主引用例とする進歩性の欠如)本件発明は,以下のとおり,本件原々出願の出願前に頒布された刊行物である乙9及び乙8に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,進歩性が欠如し,本件発明に係る本件特許には,- 24 -特許法29条2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。 (ア) 本件発明と乙9に記載された発明との対比a 乙9の記載事項(8頁右欄末行~9頁左欄4行,Fig.8等)によれば,乙9記載の方法は,本件発明の構成要件A,C 同法123条1項2号)がある。 (ア) 本件発明と乙9に記載された発明との対比a 乙9の記載事項(8頁右欄末行~9頁左欄4行,Fig.8等)によれば,乙9記載の方法は,本件発明の構成要件A,CないしEの構成を備える「動物の中枢神経系組織から病原性プリオン蛋白質を酵素免疫吸着測定法により検出する方法」である。 (a) 乙9のFig.8に記載された方法は,スクレイピー感染動物の脳を検体としてPrPScをELISA法(又はウェスタンブロット)によって検出する方法である。 したがって,乙9記載の方法は,「動物の中枢神経系組織から病原性プリオン蛋白質を酵素免疫吸着測定法により検出する方法」であり,乙9には,構成要件Aに相当する構成が開示されている。 (b) 乙9記載の方法は,ズイッタージェント3-12及びサーコシルを同時に用いて組織が「一様に分散するまで放置」(すなわち可溶化)している。本件発明の構成要件Bと異なり,可溶化工程においてトリトンX-100をサーコシルと同時に用いてはいない。 したがって,この点は,本件発明と乙9記載の発明との相違点となる。 (c) 乙9記載の方法は,上記の可溶化された試料を,プロテイナーゼKを用いて分解処理しているので,乙9には,構成要件Cに相当する構成が開示されている。 (d) 乙9記載の方法は,上記プロテアーゼ分解後の試料を15,000回転(rpmと同義)の遠心分離処理をすることにより,PrPScを含む沈殿物を回収している。 そして,この15,000回転の遠心分離処理は,構成要件Dの「超遠心分離処理を除く遠心分離処理」に該当するから,乙9に- 25 -は,構成要件Dに相当する構成が開示されている。 (e) 乙9記載の方法は,回収された沈殿物をELISA法に使用しているので,乙9には,構 理を除く遠心分離処理」に該当するから,乙9に- 25 -は,構成要件Dに相当する構成が開示されている。 (e) 乙9記載の方法は,回収された沈殿物をELISA法に使用しているので,乙9には,構成要件Eに相当する構成が開示されている。 (f) 乙9記載の方法は,上記のとおり,可溶化の工程においてトリトンX-100をサーコシルと同時に用いてはいない点が本件発明との相違点であるが,それ以外の点においては,乙9には,構成要件Fに相当する構成が開示されている。 b 以上によれば,乙9には,次の相違点に係る本件発明の構成を除き,本件発明のその余の構成が開示されている。 (相違点)中枢神経組織中の非特異的物質を可溶化する際にサーコシルと共に用いる界面活性剤について,本件発明が「トリトンX-100」を用いるのに対し,乙9に記載された発明が「ズイッタージェント3-12」を用いる点。 (イ) 相違点の容易想到性乙9記載の方法が用いる「ズイッタージェント3-12」と,乙8記載の方法が用いる「トリトンX-100」はいずれも界面活性剤であり,乙9記載の発明に乙8記載の発明を適用することは均等物による置換を行うものにすぎず,当業者にとって何らの困難もない。 また,乙9には,可溶化工程における2種の界面活性剤の一方が本件発明と相違するものの,それ以外は本件発明と同一の方法が記載されており,乙8記載の方法と乙9記載の方法との基本的な構成は同一である。 そして,乙8と乙9は,同一技術分野における同一課題に関する同一研究者らによる文献であるから,当業者であれば,これらの文献を組み- 26 -合わせるのは容易である。 以上によれば,当業者であれば,乙9に記載された発明に乙8記載の界面活性剤(相違点に係る本件発明の構成)を適用することによ 業者であれば,これらの文献を組み- 26 -合わせるのは容易である。 以上によれば,当業者であれば,乙9に記載された発明に乙8記載の界面活性剤(相違点に係る本件発明の構成)を適用することにより,本件発明に想到することは容易であったものといえる。 オ無効理由5(実施可能要件違反)本件明細書の発明の詳細な説明は,以下のとおり,当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえず,平成11年法律第160号による改正前の特許法36条4項に適合しないから,本件発明に係る本件特許には,同項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされた無効理由(同法123条1項4号)がある。 (ア) 本件発明の特許請求の範囲(請求項1)における「超遠心分離処理を除く遠心分離処理」(構成要件D)は,その文言自体が不明確であるのみならず,本件明細書の発明の詳細な説明においても,その文言の意義についての説明はなく,また,「超遠心分離」の定義も全く記載されていない。 すなわち,本件明細書(甲2)の発明の詳細な説明には,TLA00.3ローターを使用した15,000rpm,40,000rpm,55,000rpmの3種類の回転数の遠心分離処理が記載され,55,000rpmについては「超遠心分離」とされている場合(段落【0111】)と「遠心分離」とされている場合(段落【0120】)との記載があるところ,仮にTLA 100.3ローターを使用した場合の15,000rpm(又はそれ以下)での遠心分離処理は,「超遠心分離処理を除く遠心分離処理」に含まれ,55,000rpm(又はそれ以上)での遠心分離処理は「超遠心分離処理」に含まれるとしても,その中間の回転数での遠心分離処理については,どこからが超遠心分離処理に相当するのか 心分離処理」に含まれ,55,000rpm(又はそれ以上)での遠心分離処理は「超遠心分離処理」に含まれるとしても,その中間の回転数での遠心分離処理については,どこからが超遠心分離処理に相当するのか,境界が不明である。このため,当業者は,どの回転数で遠心分離処- 27 -理を行えば構成要件Dに該当し,どの回転数で遠心分離処理を行えば構成要件Dに該当しないのかを判断することができない。 (イ) 本件原々出願の出願当時の文献(乙15ないし19)には,超遠心分離とされる回転数又は重力加速度は様々に説明されており,その多くは単一の数字を述べておらず,どの範囲が超遠心分離であるかについて,当業者にとって一義的に明確な境界はない。 また,そもそも,遠心分離は,試料中の個々の成分が遠心力をかけられたときに沈降する程度に応じて試料中の成分を分ける技術であり,成分の分離に当たっては,試料にかかる遠心加速度が重要となる。一般に,回転速度(回転数)が高いほど遠心加速度は大きくなるが,回転数(rpm)が同じでもローター(回転部分)の大きさ(回転半径)が変われば,加わる遠心加速度は変わるため,回転数(rpm)は単独では超遠心分離と遠心分離を区別する基準とはなり得ない。 したがって,構成要件Dの「超遠心分離処理を除く遠心分離処理」は,当業者の技術常識を勘案しても,不明確である。 (ウ) 以上のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明の構成要件Dの「超遠心分離処理を除く遠心分離処理」について当業者がこれを行うことができる程度に明確かつ十分な記載がないから,本件明細書の発明の詳細な説明は,実施可能要件に違反する。 カ無効理由6(明確性要件違反)本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載は,「特許を受けようとする発明」が明確であるとはいえず ,本件明細書の発明の詳細な説明は,実施可能要件に違反する。 カ無効理由6(明確性要件違反)本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載は,「特許を受けようとする発明」が明確であるとはいえず,平成14年法律第24号による改正前の特許法36条6項2号に適合しないから,本件発明に係る本件特許には,同号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされた無効理由(同法123条1項4号)がある。 すなわち,前記オのとおり,本件発明の構成要件Dの「超遠心分離処理- 28 -を除く遠心分離処理」は不明確であり,本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載は,「特許を受けようとする発明」が明確であるとはいえないから,明確性要件に違反する。 キ無効理由7(サポート要件違反)本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載は,以下のとおり,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえず,平成14年法律第24号による改正前の特許法36条6項1号に適合しないから,本件発明に係る本件特許には,同号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされた無効理由(同法123条1項4号)がある。 (ア) 本件発明は,分解工程(構成要件C)においてプロテアーゼによる分解のみを必須としている。本件明細書記載の実施例(方法1ないし8)のうち,本件発明の実施例であって結果が示されているものは方法4のみである。そして,方法4の工程2(分解工程)は,方法1と同様であり,この工程においては,非特異的物質を,まず「コラゲナーゼ」(コラーゲン分解酵素),「DNアーゼ」(DNA分解酵素)で分解した後,プロテイナーゼKを添加してさらに分解している。一方,非特異的物質を,分解工程において「コラゲナーゼ」及び「DNアーゼ」を用いずプロテアーゼのみを ),「DNアーゼ」(DNA分解酵素)で分解した後,プロテイナーゼKを添加してさらに分解している。一方,非特異的物質を,分解工程において「コラゲナーゼ」及び「DNアーゼ」を用いずプロテアーゼのみを用いて分解処理する態様は,本件明細書に記載されておらず,プロテイナーゼKのみで非特異的物質の分解が十分に行われることは示されていない。 このように,プロテアーゼのみで十分に非特異的物質が分解されることは,本件明細書の発明の詳細な説明の記載によってサポートされていない。 (イ) 本件明細書の発明の詳細な説明には,前記オ(ア)のとおり,TLA100.3ローターを使用した15,000rpm,40,000rpm,5- 29 -5,000rpmの3種類の回転数の遠心分離処理が記載されている。仮に原告が主張するように,このうち40,000rpm,55,000rpmでの遠心分離処理は超遠心分離処理であるとすると,本件発明における分離工程の「超遠心分離処理を除く遠心分離処理」は,15,000rpmでの遠心分離処理しか記載されていないことになる。 一方,「超遠心分離処理を除く遠心分離処理」は,その意義が不明であるとしても,少なくとも15,000rpmより低速での遠心分離処理はすべて含まれると考えられる。しかし,方法4の実施例と同一の条件で各工程を行えば病原性プリオン濃縮物が得られるとしても,遠心分離処理によって目的の成分を沈殿させることができるかどうかは,遠心力の大きさをはじめとして,試料液体の粘度等の要因にも依存する。そして,例えば,トリトンX-100,サーコシル等の界面活性剤は非常に粘度が高いので,その含有量はサンプルの粘度に影響するし,可溶化された組織もサンプルの粘度を高めると考えられるから,可溶化工程における界面活性剤や組織の含有量が異 ,サーコシル等の界面活性剤は非常に粘度が高いので,その含有量はサンプルの粘度に影響するし,可溶化された組織もサンプルの粘度を高めると考えられるから,可溶化工程における界面活性剤や組織の含有量が異なる場合に,15,000rpm又はそれ以下での遠心分離処理によって目的の病原性プリオン濃縮物が得られるかどうかは,不明である。 このように,本件明細書に記載された一例のみをもって,「超遠心分離処理を除く遠心分離処理」すべてについての十分な具体例が示されているとはいえない。 (ウ) 以上によれば,本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載は,特許を受けようとする発明が本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものとはいえないから,サポート要件に違反する。 (2) 原告の主張ア無効理由1に対し前記1(1)イ(ア)のとおり,遠心分離の回転速度が30,000rpm程度- 30 -を超える場合は,超遠心分離である。 しかるところ,乙7記載の方法の遠心力69,000gは,回転速度として約35,000~40,000rpmに相当するから,超遠心分離に当たる。また,乙7をみれば,微量の病原性プリオン蛋白質を高感度で分析するには,遠心分離における病原性プリオン蛋白質の回収を確実にするため,超遠心分離が必要であると解される。 そうすると,本件発明は,分離工程において,「超遠心分離処理を除く遠心分離処理」を行うのに対し,乙7に記載された発明は,超遠心分離処理を行う点で相違するから,本件発明は,乙7に記載された発明と同一のものとはいえない。 したがって,被告主張の無効理由1は,理由がない。 イ無効理由2に対し後記3(1)ア(エ)のとおり,乙7に乙9を組み合わせる動機付けは存在せず,相違点に係る本件発明の構成を容易に想到し得たものとはい て,被告主張の無効理由1は,理由がない。 イ無効理由2に対し後記3(1)ア(エ)のとおり,乙7に乙9を組み合わせる動機付けは存在せず,相違点に係る本件発明の構成を容易に想到し得たものとはいえないから,被告主張の無効理由2は理由がない。 ウ無効理由3に対し(ア) 本件原々出願の出願人の株式会社ザンギは,その出願手続において,乙8について,特許法旧30条1項の適用を受けるための証明書(乙10)を提出して,その適用を主張し,これが認められており,本件出願についても,その出願と同時に乙8が特許庁長官に提出されたものとみなされるので(特許法44条5項),特許法旧30条1項の適用を受ける。 特許法旧30条1項は,「特許を受ける権利を有する者が試験を行い,刊行物に発表し,電気通信回線を通じて発表し,又は特許庁長官が指定する学術団体が開催する研究集会において文書をもつて発表することにより,第二十九条第一項各号の一に該当するに至つた発明につい- 31 -て,その該当するに至つた日から六月以内にその者が特許出願をしたときは,その発明は,同項各号の一に該当するに至らなかつたものとみなす。」と規定しており,この規定の本来の目的は,同規定の手続を遵守する限り,出願人自身の公表によって出願人に不利益が及ばないようにすることであったと考えられ,平成11年改正は,立法により疑義を解決したものと解される。 したがって,特許法旧30条1項の規定は,できるだけ現行法と同様に解すべきであり,新規性を確保する発明の範囲は,乙8に具体的に開示された遠心分離の条件に限定されるものではなく,遠心分離一般の適用であったものというべきであるから,本件出願時に特許法旧30条1項の適用された範囲の一部を除く減縮の補正が審査過程で行われたとしても,同条項の適用性 条件に限定されるものではなく,遠心分離一般の適用であったものというべきであるから,本件出願時に特許法旧30条1項の適用された範囲の一部を除く減縮の補正が審査過程で行われたとしても,同条項の適用性が変わる必要性はなく,同条項の文言においても,これに反する解釈は要求されていない。 そうすると,乙8は,特許法旧30条1項の適用により,本件発明の進歩性の判断に当たり公知技術として考慮することはできないから,乙8及び乙9に基づく本件発明の進歩性の欠如をいう被告主張の無効理由3は,理由がない。 (イ) また,仮に本件発明の進歩性の判断に当たり乙8を公知技術として考慮することができるとしても,後記3(1)ア(オ)のとおり,乙8及び乙9に基づいて,相違点に係る本件発明の構成を容易に想到し得たものとはいえないから,被告主張の無効理由3は理由がない。 エ無効理由4に対し(ア) 前記ウ(ア)のとおり,乙8は,特許法旧30条1項の適用により,本件発明の進歩性の判断に当たり公知技術として考慮することはできないから,乙9及び乙8に基づく本件発明の進歩性の欠如をいう被告主張の無効理由4は,理由がない。 - 32 -(イ) また,仮に本件発明の進歩性の判断に当たり乙8を公知技術として考慮することができるとしても,後記3(1)ア(カ)のとおり,乙9及び乙8に基づいて,相違点に係る本件発明の構成を容易に想到し得たものとはいえないから,被告主張の無効理由4は理由がない。 オ無効理由5及び6に対し前記1(1)イ(ア)のとおり,超遠心分離と通常(低速)の遠心分離との区別の基準は明確であり,両者は,使用する装置において,30,000rpm程度を超える回転数が可能であり,かつ,密度勾配のような,溶解成分について性質を調べる分析が可能な装置か否かにより区別 離との区別の基準は明確であり,両者は,使用する装置において,30,000rpm程度を超える回転数が可能であり,かつ,密度勾配のような,溶解成分について性質を調べる分析が可能な装置か否かにより区別されるものである。 したがって,両者の区別が明確でないことを前提とする被告主張の無効理由5及び6は,いずれも理由がない。 カ無効理由7に対し(ア) 被告は,プロテアーゼのみで十分に非特異的物質が分解されること(構成要件B)は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載によってサポートされていない旨主張する。 しかし,本件明細書の段落【0078】,【0079】には,分解酵素について,コラーゲン分解酵素及びDNA分解酵素を併用せずに,プロテアーゼだけを用いればよいことが明記されているから,被告の上記主張は理由がない。 (イ) 被告は,本件明細書には,「超遠心分離処理を除く遠心分離処理」について15,000rpmの一例しか記載がなく,この一例のみをもって,「超遠心分離処理を除く遠心分離処理」すべてについてサポートされていない旨主張する。 しかし,15,000rpmの遠心分離によって本件発明が実施できることは,実施例により確認されているところ,本件発明における遠心分- 33 -離が,中枢神経系組織を可溶化処理と分解処理に付した後の状態で,沈殿物を効率的に取得するに十分な回転速度で実施される処理であることは明らかであるし,遠心分離の回転速度を15,000rpmに限定する必要のないことも明らかである。 また,本件発明の実施として行われる遠心分離の回転速度が適切であるかどうかは,病原性プリオン蛋白質の含有量が既知であるサンプルを使用して,検出感度を確認してみれば容易に判断できることであり,このような検出感度の確認は,当業者であれば,15 の回転速度が適切であるかどうかは,病原性プリオン蛋白質の含有量が既知であるサンプルを使用して,検出感度を確認してみれば容易に判断できることであり,このような検出感度の確認は,当業者であれば,15,000rpmの遠心分離を適用する場合はもとより,その他のすべての使用材料及び条件が適切であることを確認するために必ず行う作業である。その程度の予備試験を行うことが,サポート要件に影響するものではない。 したがって,被告の上記主張は理由がない。 (ウ) 以上によれば,被告主張の無効理由7は,理由がない。 3 争点3(訂正による対抗主張の成否)について(1) 第1次訂正による対抗主張の成否(争点3-1)ア原告の主張(ア) 第1次訂正の適法性及び第1次訂正発明の解釈a 第1次訂正発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,各構成要件を「構成要件A’」,「構成要件B’」などという。下線部は訂正箇所である。)。 A’ 動物の中枢神経系組織から病原性プリオン蛋白質を酵素免疫吸着測定法により検出する方法であって,B’ t-オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(トリトン(商標)X-100)及びサーコシル(商標)を同時に用いて前記中枢神経系組織中の非特異的物質を可溶化することと,C’ 前記可溶化された非特異的物質をプロテアーゼを用いて分解処- 34 -理することと,D’ 超遠心分離処理を除く遠心分離処理を行うことにより前記分解処理により得られたものから病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を含有する濃縮物を得ることと,E’ 前記濃縮物を洗浄することなく溶解液とし,再沈殿させることなく酵素免疫吸着測定法により検出することとF’ を含む病原性プリオン蛋白質の検出方法。 b 第1次訂正は,第1次訂正前の請求項1記載の方法 記濃縮物を洗浄することなく溶解液とし,再沈殿させることなく酵素免疫吸着測定法により検出することとF’ を含む病原性プリオン蛋白質の検出方法。 b 第1次訂正は,第1次訂正前の請求項1記載の方法の条件に限定(構成要件E’)を加えるものであって,特許請求の範囲の減縮を目的とし,本件明細書に記載した事項の範囲内おいてされたものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもないから,特許法134条の2第1項ただし書,同条5項において準用する同法126条3項及び4項の訂正要件を充足する。 すなわち,第1次訂正前の請求項1は,構成要件AないしEを充足する検出方法であることを要するものの,構成要件AないしEに明記されていない事項を加えることを排除していない。そして,本件明細書には,分解工程後の遠心分離により最初の濃縮物を得た段階から,酵素免疫吸着測定法(ELISA法)に供するまでの間に,各種の追加的な精製手段などを適用し得ることが開示されている。 第1次訂正は,構成要件Eを訂正した構成要件E’において,「洗浄することなく溶解液とし,再沈殿させることなく」との文言を加え,分離工程の濃縮物につき,追加的な洗浄工程を適用せず,必須でない沈殿工程(それは必然的に追加の遠心分離を要求する。)を適用しないで,最初の遠心分離による沈殿物(濃縮物)をそのまま溶解して酵素免疫吸着測定法に使用することを明確にしたものであり,上記「洗浄することなく溶解液とし」にいう「洗浄」とは,溶解液とする前に- 35 -行われる付加的な(追加的な)洗浄を意味する。 第1次訂正発明は,本件明細書記載の「方法4」に根拠を有するものである。すなわち,本件明細書記載の「方法4」は,最初の遠心分離による沈殿物(濃縮物)につき,抽出(洗浄)や溶解-再沈殿(塩析ま 第1次訂正発明は,本件明細書記載の「方法4」に根拠を有するものである。すなわち,本件明細書記載の「方法4」は,最初の遠心分離による沈殿物(濃縮物)につき,抽出(洗浄)や溶解-再沈殿(塩析またはメタノール添加)-遠心分離(超遠心分離)等の追加の濃縮手段を施さないことを特徴とするものであり(段落【0112】,【0120】,図2),最初の遠心分離による沈殿物(濃縮物)をそのまま溶解して酵素免疫吸着測定法に使用する方法は,本件明細書の段落【0051】ないし【0060】,【0150】,【0151】に開示されている。第1次訂正発明は,本件明細書に記載された各種の方法の中でも,簡便性及び迅速性に最も優れ,低濃度の病原性プリオンに対する検出感度については,図7に示すように,追加的な処理を行う濃縮方法よりも,かえって優れている。 以上のとおり,第1次訂正は,特許請求の範囲の減縮を目的とし,本件明細書に記載した事項の範囲内おいてされたものであって,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。 c これに対し,被告は,後記のとおり,本件明細書では,「方法4」を含むすべての方法において,沈殿物(濃縮物)を「5%SDSで加熱溶解」し,再沈殿させる工程を経た上で,酵素免疫吸着測定法を行っており,この工程を省略できるとの説明はされていないから,当該工程は,必須の工程であるというべきであり,これを省略できるとする原告主張の第1次訂正は,本件明細書に記載した事項の範囲外のものであって,新規事項の追加に当たり,特許法134条の2第5項において準用する同法126条3項を充足しないから,第1次訂正は,不適法である旨主張する。 しかし,被告の主張は,以下のとおり理由がない。 - 36 -(a) 第1次訂正発明の構成要件のD’の「遠心分離処理を 同法126条3項を充足しないから,第1次訂正は,不適法である旨主張する。 しかし,被告の主張は,以下のとおり理由がない。 - 36 -(a) 第1次訂正発明の構成要件のD’の「遠心分離処理を行うことにより…濃縮物を得る」及び構成要件E’の「前記濃縮物を洗浄することなく溶解液とし,再沈殿させることなく酵素免疫吸着測定法により検出する」との記載によれば,構成要件のD’の「濃縮物」は,遠心分離によって得られた試料であり,次に溶解するのであるから,固体状態(ペレット状)にあることは当然であり,しかも,その固体を「洗浄することなく」溶解して,当該溶液につき「再沈殿させることなく」酵素免疫吸着測定法を行うのであるから,構成要件E’に記載された「溶解液」は,酵素免疫吸着測定法に適した溶剤に試料を溶解した溶液である。 そうすると,第1次訂正発明において,遠心分離によって濃縮物を得た後に,「5%SDSで加熱溶解」して,メタノール沈殿を行うことを観念することができない。 (b) 本件明細書の発明の詳細な説明には,濃縮工程は,分離工程をもって終了し,分離工程は遠心分離であることの記載(段落【0050】ないし【0052】,【0056】,【0080】ないし【0082】,【0094】ないし【0096】等)があるが,濃縮(分離)工程として,「5%SDSで加熱溶解」が必要である旨の記載はない。 一方,本件明細書の発明の詳細な説明には,酵素免疫吸着測定法(ELISA法)は,固体試料をGdnSCN-PBS溶解液としてマイクロタイタープレートへ吸着させる方法であることの記載(段落【0058】ないし【0061】,【0064】,【0122】,【0123】,【0145】,【0151】,【0163】,【0177】等)があるが,ELISA法のために,「5%S あることの記載(段落【0058】ないし【0061】,【0064】,【0122】,【0123】,【0145】,【0151】,【0163】,【0177】等)があるが,ELISA法のために,「5%SDSで加熱溶解」し,メタノール中で再沈殿させる工程が必要であ- 37 -る旨の記載はない。 (c) 本件明細書記載の実施例において,SDS溶解が記載されている意味は,次のように理解される。 本件明細書では,従来の標準的な蛋白質の分析方法であるウエスタンブロット法(WB法)を基準として,酵素免疫吸着測定法(ELISA法)の作用効果を評価している(段落【0006】,【0159】ないし【0167】)。そのため,試料の作成も,WB法が適用できるSDS溶解液を一旦作成し,サンプル調製について,WB法のサンプル調製法を出発点としたことが記載されている(段落【0147】)。 WB法は,SDS-PAGEと呼ばれるSDS溶解液を使用する電気泳動法によって,試料に含有される蛋白質を分子量ごとに分けて検出することを必須としている(段落【0121】)。WB法の採用するSDS-PAGEにおいては,立体的な高次構造の蛋白質をそのまま泳動しても分子量による分離はできないので,SDSで変性して高次構造を壊してから泳動するため,SDS溶解液とすることは,試料の変性のための必須の工程となる。 一方,ELISA法を適用する場合には,SDSによる変性状態ではなく,GdnSCNによる蛋白質分子の変性状態の方が,適しており,試料の変性のためにSDS溶解液とすることは必要性がない。もっとも,本件明細書において,ELISA法の溶解液につき,SDSとGdnSCNの比較評価が行われているが(段落【0137】ないし【0143】),カオトロピックイオン剤(変性剤)であるGdnS い。もっとも,本件明細書において,ELISA法の溶解液につき,SDSとGdnSCNの比較評価が行われているが(段落【0137】ないし【0143】),カオトロピックイオン剤(変性剤)であるGdnSCNにより特異的な吸着が達成できることが見出され,実験データはGdnSCN-PBSを使用して得ており(段落【0163】等),ELISA法においては,ELISA法の溶剤(G- 38 -dnSCN)に溶解することが,測定のための変性操作になる。 実施例では,WB法との厳密な比較のために,試料を全部一旦SDS溶解液にしているので,ELISA法の適用に際し,SDSをGdnSCNに置換する必要があるから,メタノールを加えて,溶解している試料を沈殿させ,再度の遠心分離により固体とし,それをGdnSCN-PBS溶解液としている(図4)。メタノールを加えて,溶解している試料を沈殿させ,再度の遠心分離をする操作は,WB法との厳密な比較のための調製という以上の意味に乏しい操作である。しかし,同時に,5%SDSに溶解し,そしてメタノール沈殿をすれば,病原性プリオン蛋白質に付着等していた不純物で,メタノールに可溶なものは,この操作によって除去されるから,洗浄としての意味があることも事実である。また,ELISA法において,マイクロタイタープレートへのPrPSc由来蛋白質吸着に対するGdnSCNとSDSの効果を比較するためには(段落【0137】,【0138】),SDSが残存した状態のままではGdnSCNとSDSの正確な比較結果を得ることができないことから,一旦SDSに溶解した試料をメタノール中で沈殿させて,SDSを取り除く必要があった。 このように,本件発明は,WB法を出発点とし,WB法との比較を行っているので,試料はSDSに一旦溶解したものと理解される 溶解した試料をメタノール中で沈殿させて,SDSを取り除く必要があった。 このように,本件発明は,WB法を出発点とし,WB法との比較を行っているので,試料はSDSに一旦溶解したものと理解される。 (d) 以上の(a)ないし(c)を総合すると,当業者は,本件明細書の実施例(図4)に記載されているELISA法に先立って行われているSDSへの溶解とメタノール沈殿は,必須の工程ではないことを認識し,このSDS溶解―メタノール沈殿の工程が,たまたま病原性プリオン蛋白質の分析におけるWB法とELISA法の厳密な- 39 -比較を意図した一連の実験に際し,濃縮物をいったんSDSに溶解していたため,SDSのGdnSCNへの置換が必要になったことと,メタノールに可溶の夾雑物を取り除く洗浄工程としての技術的意義を有することの2点以外には意味がないことを理解するというべきである。 そして,本件明細書には,遠心分離による分離工程に加えて,洗浄工程を設けてもよいことが記載されているところ,洗浄工程は,界面活性剤によって固体試料を溶解(均一化)し,遠心分離をして固体を回収する工程であり,SDS溶解とメタノール沈殿は,洗浄工程とは明記されていないけれども,除去される夾雑物の種類が異なるだけで,手段(溶解―沈殿―遠心分離による回収)も効果も特に区別する必要がないから,構成要件E’の「洗浄することなく溶解液とし,再沈殿させることなく」にいう「洗浄」に当たると解すべきである。 したがって,当業者は,本件明細書には,ELISA法に関して,実施例のSDS溶解―メタノール沈殿の工程を含まない方法が記載されていると認められるものであり,第1次訂正発明は,この態様に基づくものであるから,第1次訂正が新規事項の追加に該当するとの被告の主張は,理由がない。 ( タノール沈殿の工程を含まない方法が記載されていると認められるものであり,第1次訂正発明は,この態様に基づくものであるから,第1次訂正が新規事項の追加に該当するとの被告の主張は,理由がない。 (イ) 被告方法が第1次訂正発明の技術的範囲に属することa 第1次訂正発明の構成要件A’ないしD’は,本件発明の構成要件AないしDとそれぞれ同内容である。 そして,被告方法が構成要件AないしDを充足することは,前記1(1)のとおりであるから,被告方法は,構成要件A’ないしD’を充足する。 b 被告方法は,遠心分離後,洗浄することなく,溶解液を加えている- 40 -から,構成要件E’を充足する。 c 以上によれば,被告方法は,構成要件A’ないしE’の構成を含む病原性プリオン蛋白質の検出方法であるから,構成要件F’を充足する。 したがって,被告方法は,第1次訂正発明の構成要件をすべて充足するから,その技術的範囲に属する。 (ウ) 無効理由1の解消第1次訂正発明と乙7に記載された発明との間には,次のとおりの相違点があり,第1次訂正発明は,乙7に記載された発明と同一のものとはいえないから,第1次訂正によって,被告主張の無効理由1は解消されている。 a 相違点1「第1次訂正発明は,分離工程において,「超遠心分離処理を除く遠心分離処理」を行うのに対し,乙7に記載された発明は,超遠心分離処理を行う点。」b 相違点2「乙7に記載された発明は,超遠心分離によって得た沈殿物を,5%SDSに溶解し,メタノールによる沈殿を経た沈殿物を分析に使用しているが,第1次訂正発明は,この操作を適用していない点。」「SDS溶解-メタノールによる再沈殿」は,メタノールに可溶な夾雑物をサンプルから除去するための精製方法であり,乙7の分析方法に 用しているが,第1次訂正発明は,この操作を適用していない点。」「SDS溶解-メタノールによる再沈殿」は,メタノールに可溶な夾雑物をサンプルから除去するための精製方法であり,乙7の分析方法による重要な要素であると考えられる。 (エ) 無効理由2の解消乙7と乙9を組み合わせる動機付けは存在せず,以下のとおり,これらを組み合わせたとしても,第1次訂正発明を容易に想到し得るものではないから,被告主張の無効理由2は理由がない。 - 41 -a 乙9は,界面活性剤としてズイッタージェントとサーコシルの組合せを記載した文献である。界面活性剤の種類,分析対象組織の種類,適用される遠心分離の方法,洗浄,再沈殿などの精製工程の有無は,結果に大きく影響する。乙9から,脳組織の処理について,ズイッタージェントに代えてトリトンX-100を使用した場合に適した遠心分離の方法は分からない。 乙9は,本件特許の発明者の一人であるA1教授の論文であり,乙7もA1教授らの発表である。両文献を検討すると,超遠心分離の適用が原則であり,脳組織にズイッタージェントを使用するときは15,000rpmの遠心分離も適用可能だが,ズイッタージェントを使用しないときは,超遠心分離が必要になると解される。 そして,乙7では,ズイッタージェントとサーコシルの組合せよりも,トリトンX-100とサーコシルの組合せの方が良好であったというのであるから,ズイッタージェントを使用する乙9に記載された遠心分離の条件を,乙7における既に良好である方法を変更するために適用する理由がない。 したがって,乙7に記載された発明に,乙9記載の遠心分離の条件(相違点1に係る第1次訂正発明の構成)を組み合わせる動機付けは存在しない。 b 乙9においても,遠心分離後に沈殿物を溶解しメタノ したがって,乙7に記載された発明に,乙9記載の遠心分離の条件(相違点1に係る第1次訂正発明の構成)を組み合わせる動機付けは存在しない。 b 乙9においても,遠心分離後に沈殿物を溶解しメタノールにより再沈殿する工程が使用されており,相違点2に係る第1次訂正発明の構成の開示はない。 c 以上によれば,当業者において乙7及び乙9に記載された発明に基づいて第1次訂正発明を容易に想到することができたものとはいえないから,第1次訂正によって,被告主張の無効理由2は解消されている。 - 42 -(オ) 無効理由3の解消a 仮に被告が主張するように第1次訂正発明の進歩性の判断に当たり乙8を公知技術として考慮することができるとしても,第1次訂正発明と乙8に記載された発明との間には,次のとおりの相違点がある。 (a) 相違点①「第1次訂正発明は,分離工程において,「超遠心分離処理を除く遠心分離処理」を行うのに対し,乙8に記載された発明は,超遠心分離処理を行う点。」乙8をみると,工程ごとに低速遠心分離と超遠心分離を使い分けており(207頁Fig.1参照),分離工程においては,超遠心分離処理を行うことが必要であると解される。乙8には,分離工程においては,超遠心分離処理を除く遠心分離処理を行うとの示唆はない。 (b) 相違点②「乙8に記載された発明は,酵素免疫吸着測定法による吸着の前に,濃縮物を5%SDS中で煮沸し,メタノール中で再沈殿させるのに対し,第1次訂正発明は,このような工程を含まない点。」乙8においては,濃縮物を5%SDS中で煮沸し,メタノール中で再沈殿させる工程を省いてもよいと解される記載や示唆はなく,同工程は必須である。 b 乙8に乙9を組み合わせても,第1次訂正発明を容易に想到し得るものとはいえない SDS中で煮沸し,メタノール中で再沈殿させる工程を省いてもよいと解される記載や示唆はなく,同工程は必須である。 b 乙8に乙9を組み合わせても,第1次訂正発明を容易に想到し得るものとはいえないから,第1次訂正によって,被告主張の無効理由3は,解消されている。 (a) 乙9は,界面活性剤としてズイッタージェントとサーコシルの組合せを記載した文献である。 - 43 -界面活性剤の種類,分析対象組織の種類,適用される遠心分離の方法,洗浄,再沈殿などの精製工程の有無は,結果に大きく影響する。遠心分離による特定の蛋白質の取得量は,より強い分離条件を適用するほど向上すると考えるのが通常であり,公知文献に記載された条件を弱める方向に変更することは想到困難であり,使用する界面活性剤の種類が異なる乙9が超遠心分離処理を除く遠心分離処理を行っているからといって,乙8において超遠心分離処理を除く遠心分離処理(相違点①に係る第1次訂正発明の構成)を適用することに想到することは困難である。 (b) 乙9には,遠心分離後に5%SDSを加え,100℃で加熱する工程及び8倍量のメタノールで沈殿する工程が含まれており,この工程を省いてよいと解される記載は一切ない。 したがって,乙9には,相違点②に係る第1次訂正発明の構成の開示はない。 c 以上によれば,当業者において乙8及び乙9に記載された発明に基づいて第1次訂正発明を容易に想到することができたものとはいえないから,第1次訂正によって,被告主張の無効理由3は解消されている。 (カ) 無効理由4の解消a 仮に被告が主張するように第1次訂正発明の進歩性の判断に当たり乙8を公知技術として考慮することができるとしても,第1次訂正発明と乙9に記載された発明との間には,次のとおりの相違点がある。 (a a 仮に被告が主張するように第1次訂正発明の進歩性の判断に当たり乙8を公知技術として考慮することができるとしても,第1次訂正発明と乙9に記載された発明との間には,次のとおりの相違点がある。 (a) 相違点A「可溶化工程における界面活性剤として,第1次訂正発明が「トリトンX-100」と「サーコシル」とを用いるのに対し,乙9に記載された発明が「Zwittergent」(ズイッタージェント)- 44 -と「サーコシル」を用いる点。」(b) 相違点B「乙9に記載された発明は,酵素免疫吸着測定法による吸着の前に,濃縮物を5%SDS中で煮沸し,メタノール中で再沈殿させるのに対し,第1次訂正発明は,このような工程を含まない点。」乙9においては,濃縮物を5%SDS中で煮沸し,メタノール中で再沈殿させる工程を省いてもよいと解される記載も示唆はなく,同工程は必須である。 b 乙9に乙8を組み合わせても,第1次訂正発明を容易に想到し得るものとはいえないから,第1次訂正によって,被告主張の無効理由4は,解消されている。 (a) 乙8には,脳組織のサンプルの調製に「ズイッタージェント」を用いる「方法4」は,高感度を実現する方法であり,かつ,陰性コントロールサンプルに対して,非特異的反応が一貫して微弱なので,最適な方法と考えられるとの記載があり(211頁右欄下から5行~末行),乙9において,脳組織のサンプル調製にわざわざ最適な方法である「ズイッタージェント」の代わりに「トリトンX-100」を使用する動機がない。 また,乙8において,脾臓組織に「トリトンX-100」を用いた旨の記載があり(210頁右欄1行~4行),これにより,脾臓組織につき,乙9において,「ズイッタージェント」に代えて「トリトンX-100」を用いることに想到し得るかも 「トリトンX-100」を用いた旨の記載があり(210頁右欄1行~4行),これにより,脾臓組織につき,乙9において,「ズイッタージェント」に代えて「トリトンX-100」を用いることに想到し得るかもしれない。しかし,脾臓組織の場合は,乙9においても,超遠心分離処理を行うと記載されており(9頁Fig.8の注記),「ズイッタージェント」に代えて「トリトンX-100」を用いることに想到したとしても,第1次訂正発明を想到することはできない。 - 45 -したがって,乙9及び乙8に基づいて,相違点Aに係る第1次訂正発明の構成を容易に想到し得たものとはいえない。 (b) 乙8及び乙9のいずれにも,濃縮物を5%SDS中で煮沸し,メタノール中で再沈殿させる工程を省いてよいと解される記載は一切なく,相違点Bに係る第1次訂正発明の構成の開示はない。 c 以上によれば,当業者において乙9及び乙8に記載された発明に基づいて第1次訂正発明を容易に想到することができたものとはいえないから,第1次訂正によって,被告主張の無効理由4は解消されている。 (キ) 小括以上のとおり,第1次訂正発明によって被告主張の無効理由1ないし4はいずれも解消され(なお,被告主張の無効理由5ないし7が理由のないことは,前記2(2)オ及びカのとおりである。),かつ,被告方法は第1次訂正発明の技術的範囲に属するものであるから,被告主張の本件特許権の権利行使の制限は,理由がない。 イ被告の主張(ア) 第1次訂正の適法性及び第1次訂正発明の解釈a 第1次訂正は,以下に述べるとおり,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲外のものであって,新規事項の追加に該当し,特許法134条の2第5項において準用する同法126条3項の訂正要件を充足しないから, り,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲外のものであって,新規事項の追加に該当し,特許法134条の2第5項において準用する同法126条3項の訂正要件を充足しないから,第1次訂正は,不適法である。 (a) 本件発明は,可溶化工程(構成要件B),分解工程(構成要件C),分離工程(構成要件D)及び検出工程(構成要件E)の4工程を含むものであるところ,第1次訂正は,分離工程で得られた濃縮物を,検出工程において「洗浄することなく溶解液とし」かつ「再- 46 -沈殿させることなく」酵素免疫吸着測定法で検出するというものであるから,検出工程(本件明細書の図4の各工程)に係るものである。 原告が第1次訂正の根拠として挙げる本件明細書の段落【0055】,【0056】は,いずれも「分離工程」(本件明細書の図2及び図3の各工程)に関する記載であり,これらの記載は,第1次訂正に対応する技術内容を開示したものではない。それ以外でも,本件明細書には,「検出工程」において「洗浄することなく溶解液」とする方法は開示されておらず,第1次訂正は,新規事項の追加に該当する。 すなわち,本件明細書の段落【0055】,【0056】にいう「洗浄」とは,あくまで,段落【0113】及び図2の「方法5」に「沈殿を8%ズイッタージェント3-12(界面活性剤)と,10mM,pH=7.5のトリス-塩酸緩衝液とを加えて均一化し,均一化物を作製した(洗浄工程)」と記載されているところの「洗浄」を指すのであり,段落【0055】,【0056】は,単に,「方法5」に「記載されているような「洗浄」を行う方法もあるが,「方法4」のように,そのような「洗浄」を行わない方法もあるということを述べているにすぎない。これらの記載内容,本件明細書の文脈及び全体の整 」に「記載されているような「洗浄」を行う方法もあるが,「方法4」のように,そのような「洗浄」を行わない方法もあるということを述べているにすぎない。これらの記載内容,本件明細書の文脈及び全体の整合性からみて,段落【0055】ないし【0057】は,「方法5」(及び「方法8」)における「分離工程」中の洗浄工程に関する記載であって,「検出工程」に係る第1次訂正の根拠となり得ない。 また,一般に,酵素免疫吸着測定法(ELISA法)においては,反応させるべき成分を含む試薬溶液や試料溶液を,順次固相に添加して,反応させた後に除去することを繰り返すが,反応後の溶液を- 47 -除去し,次の溶液を加える前に,固相を緩衝液,低濃度の界面活性剤を含む緩衝液又は水で「洗浄」することが行われている。このような洗浄は,通常当然に行われていることであり,本件明細書の段落【0122】ないし【0136】及び図4に示された具体的手順においては,これを行うことが記載されている。このような洗浄を省略してよいことは本件明細書には一切記載されていないし,酵素免疫吸着測定法において洗浄を行わないことは当業者に自明なことでもない。 なお,「脳組織…抽出物(濃縮物)」を「5%SDS…中で沸騰させ」る工程(本件明細書の段落【0122】)は,第1次訂正の「洗浄することなく」にいう「洗浄」に当たると解釈することはできない。すなわち,「洗浄」とは,一般に「固体の表面に付着したよごれや好ましくない物質を,液体により取り除くこと」(乙21),あるいは,限られた量の洗液で沈澱を清浄にすること(乙22)をいい,不純物を除去する一方で,洗浄される固体(沈澱)をできるだけ溶けないようにし,その損失を最小限にするという操作を指すものであるから,化学分野の当業者の通常の用語の理解として, こと(乙22)をいい,不純物を除去する一方で,洗浄される固体(沈澱)をできるだけ溶けないようにし,その損失を最小限にするという操作を指すものであるから,化学分野の当業者の通常の用語の理解として,洗浄される固体(沈澱)に実質的な変化を起こすような操作を「洗浄」と呼ぶことはない。本件明細書には,「洗浄」の意味について特段の説明はない以上,通常の語義から離れた解釈は許されないというべきである。一方,SDSは,周知の蛋白変性剤であり,「5%SDS…中で沸騰させ」る工程は,蛋白質を変性させる工程(蛋白質中の立体構造を実質的に変化させ,抗原性(抗体との反応性)を変化させ得る工程)であり,被洗浄成分の質的変化を伴うものであるから,「洗浄」に当たると解釈することはできない。仮に「5%SDS…中で沸騰させ」る工程が「洗浄」に当たるとの解釈に立って- 48 -も,本件明細書では,当該工程を省略できるとは何ら説明されておらず,かえって当該工程は「方法4」を含むすべての方法において行われているから,当該工程を省略できるとの解釈も不可能である。また,本件明細書では酵素免疫吸着測定法(ELISA法)とウエスタンブロット法(WB法)との感度の比較が行われている以上,両者の比較の前提条件は同一にする必要があるところ,サンプルをSDSで処理した場合としない場合とで抗原蛋白質(検出対象の病原性プリオン蛋白質)と抗体との反応性が代わることは公知であること(乙25),本件明細書のWB法において蛋白質を「5%SDS…中で沸騰させ」る工程は必須の工程であること(段落【0121】)からすると,ELISA法を用いる場合でも,検出の際の反応性を正確に確保するため,「5%SDS…中で沸騰させ」る工程は,必須であり,これを省略することができないものと解される。 この点に 1】)からすると,ELISA法を用いる場合でも,検出の際の反応性を正確に確保するため,「5%SDS…中で沸騰させ」る工程は,必須であり,これを省略することができないものと解される。 この点に関し,原告は,本件明細書記載の「方法4」は,最初の遠心分離による沈殿物(濃縮物)につき,抽出(洗浄)や溶解-再沈殿(塩析またはメタノール添加)-遠心分離(超遠心分離)等の追加の濃縮手段を施さないことを特徴とするものであり,第1次訂正発明は,この「方法4」に根拠を有し,最初の遠心分離による沈殿物(濃縮物)をそのまま溶解して酵素免疫吸着測定法に使用する方法は,本件明細書の段落【0151】などに開示されている旨主張する。 しかし,本件明細書の段落【0151】は,「方法4,…で調整(濃縮)し」としており,図2における「方法4」は「沈澱を5%SDSで加熱溶解」する工程を経ることが明記されており,かかる工程を経ることもなく「最初の遠心分離による濃縮物(ペレット状)」- 49 -をそのまま溶解して酵素免疫吸着測定法に使用することは,段落【0151】の記載と明らかに矛盾する。このほか,本件明細書のどこにも,「沈澱を5%SDSで加熱溶解」する工程を省略できる旨の記載は存在しないから,原告の上記主張は失当である。 (b) 本件明細書には,「再沈殿させることなく」酵素免疫吸着測定法を行う方法は開示されておらず,第1次訂正は,この点においても,新規事項の追加に該当する。 前述のとおり,本件明細書では,「5%SDS…中で沸騰させ」る工程は「方法4」を含むすべての方法において行われており,当該工程を省略できると解することはできない。 本件明細書の段落【0141】に「SDS濃度が最低濃度(0. 1%)であっても,脳組織からPrPSc由来蛋白質の吸着は生じて 方法において行われており,当該工程を省略できると解することはできない。 本件明細書の段落【0141】に「SDS濃度が最低濃度(0. 1%)であっても,脳組織からPrPSc由来蛋白質の吸着は生じていなかった」と記載されているとおり,溶液中にSDSが少量でも残存していたのでは,ELISA法によるマイクロタイタープレートへの病原性プリオン蛋白質由来蛋白質の吸着は生じ得ない。そして,「方法4」で「沈殿を5%SDSで加熱溶解」した後,「そのまま」GdnSCN-PBSに投入したのでは,溶液中にSDSが残存した状態でELISA法による測定を行うことになるのであるから,蛋白質の吸着が生じないこととなり,測定が不可能となる。 そうすると,本件明細書の段落【0151】の「方法4…で調整(濃縮)し,3MのGdnSCN-PBS中で…溶解,希釈化した。」との記載は,「5%SDSで加熱溶解」した「沈殿」をGdnSCN-PBSに投入する前に,再沈殿処理を行っていることの記載が省略されているものと理解するほかない。そもそも段落【0151】は,段落【0150】及び【0152】と併せて読めば,図7の「(A):脳組織」及び「(B):脾臓組織」に示された測定の測定条件に- 50 -ついて説明したものであることからすれば,段落【0151】の記載は図7の「(A):脳組織」及び「(B):脾臓組織」の測定条件に相違がある点に特に焦点をあてて記載されたものであって,図7の(A)と(B)に共通する再沈殿処理(第4の工程の(1)~(3)の処理)の記載が省略されていることはごく自然なことである。 以上のとおり,本件明細書の段落【0151】の上記記載は,5%SDSで加熱溶解,メタノール添加及び遠心分離(再沈澱)を行うことを当然の前提としつつ,その記載が省略されたものであり, とである。 以上のとおり,本件明細書の段落【0151】の上記記載は,5%SDSで加熱溶解,メタノール添加及び遠心分離(再沈澱)を行うことを当然の前提としつつ,その記載が省略されたものであり,第3の工程(分離工程)で生じた沈澱の溶液を「そのまま」3MのGdnSCN-PBSで溶解したものではない。本件明細書の他の記載をみても,本件明細書において,再沈殿を行うことなく酵素免疫吸着法を行う方法が開示されているということはできない。 (c) 以上のとおり,第1次訂正は,新規事項の追加に該当し,特許法134条の2第5項において準用する同法126条3項の訂正要件を充足しないから,不適法である。 b 仮に第1次訂正が本件明細書に記載された事項の範囲内のものであり,新規事項の追加に当たらないと解釈するとすれば,第1次訂正に係る「洗浄することなく溶解液とし」,「再沈殿することなく」の意味は,「分離工程」における付加的工程として,本件明細書に開示されている,「方法5」(及び「方法8」)におけるような付加的な洗浄工程及びその後の遠心分離を行わないことを指すものと解するほかはない。 (イ) 被告方法が第1次訂正発明の技術的範囲に属さないこと被告方法は,前記1(2)ア及びイと同様の理由により,第1次訂正発明の構成要件B’ないしD’を充足しない。 また,構成要件E’中の「洗浄することなく溶解液とし,再沈殿させ- 51 -ることなく」にいう「洗浄」は,検出工程に係るものであるところ,被告方法は,検出工程において洗浄が行われているから(前記第2の2(4)イの「2-8)」,「2-12)」),構成要件E’を充足しない。 以上のとおり,被告方法は,第1次訂正発明の構成要件B’ないしE’を充足しないから,その技術的範囲に属さない。 (ウ) 無効理由1 イの「2-8)」,「2-12)」),構成要件E’を充足しない。 以上のとおり,被告方法は,第1次訂正発明の構成要件B’ないしE’を充足しないから,その技術的範囲に属さない。 (ウ) 無効理由1が解消されないことa 原告主張の相違点1が認められないことは,前記2(1)アと同様である。 b 前記(ア)bのとおり,仮に第1次訂正が新規事項の追加に当たらないと解釈するとすれば,第1次訂正に係る「洗浄することなく溶解液とし」,「再沈殿することなく」の意味は,「分離工程」における付加的工程として,付加的な洗浄工程及びその後の遠心分離を行わないことを意味するものと解するほかはなく,5%SDS中での加熱溶解をしないこと,及びその後のメタノールによる沈澱及び遠心分離をしないことが第1次訂正発明において要件とされているものと解することはできないから,原告主張の相違点2は,存在しない。逆に,あくまで相違点2が存在すると原告が主張するのであれば,かかる主張は特許請求の範囲の記載に基づかない主張であって,失当である。 c したがって,第1次訂正発明には無効理由1と同様の新規性欠如の無効理由が存するから,第1次訂正によって,本件発明の無効理由1は解消されない。 (エ) 無効理由2が解消されないこと乙7及び乙9に記載された発明は,いずれも「分離工程」において,本件明細書記載の「方法5」及び「方法8」におけるような付加的な洗浄工程及びその後の遠心分離を行っていないので,この点において,乙8に記載された発明は,第1訂正発明との間に相違点はない。結局,第- 52 -1次訂正によって新たな相違点が生じることはなく,乙7に記載された発明と第1次訂正発明との相違点は,遠心分離条件のみである。 そして,前記2(1)イと同様の理由により,当業者であれば,乙 52 -1次訂正によって新たな相違点が生じることはなく,乙7に記載された発明と第1次訂正発明との相違点は,遠心分離条件のみである。 そして,前記2(1)イと同様の理由により,当業者であれば,乙7に記載された発明に乙9記載の遠心分離条件を適用することにより,第1次訂正発明に想到することは容易であったものといえる。 以上のとおり,第1次訂正発明には無効理由2と同様の進歩性欠如の無効理由があり,また,第1次訂正によって,本件発明の無効理由2が解消されることはない。 (オ) 無効理由3が解消されないこと前記(ア)bのとおり,仮に第1次訂正が新規事項の追加に当たらないと解釈するとすれば,第1次訂正に係る「洗浄することなく溶解液とし」,「再沈殿することなく」の意味は,「分離工程」における付加的工程として,本件明細書の「方法5」(及び「方法8」)におけるような付加的な洗浄工程及びその後の遠心分離を行わないことを意味するものと解するほかはない。 そして,乙8にMethod1として開示されている方法は,本件明細書記載の「方法5」及び「方法8」におけるような付加的な洗浄工程及びその後の遠心分離を行っていないので,この点において,乙8に記載された発明は,第1訂正発明との間に相違点はない。結局,第1次訂正によって新たな相違点が生じることはなく,両発明の相違点は,遠心分離条件のみである。 前記2(1)ウと同様の理由により,当業者であれば,乙8に乙9を組み合わせることは容易である。加えて,遠心加速度の変更は,当業者であれば,ごく自然に通常行うことであり,当業者が任意に選択し得る設計的事項にすぎない。 したがって,当業者であれば,乙8に記載された発明に乙9記載の遠- 53 -心分離条件を適用することにより,第1次訂正発明に想到すること であり,当業者が任意に選択し得る設計的事項にすぎない。 したがって,当業者であれば,乙8に記載された発明に乙9記載の遠- 53 -心分離条件を適用することにより,第1次訂正発明に想到することは容易であったものといえる。 以上によれば,第1次訂正発明には無効理由3と同様の進歩性欠如の無効理由があり,また,第1次訂正によって,本件発明の無効理由3が解消されることはない。 (カ) 無効理由4が解消されないこと前記(ア)bのとおり,仮に第1次訂正が新規事項の追加に当たらないと解釈するとすれば,第1次訂正に係る「洗浄することなく溶解液とし」,「再沈殿することなく」の意味は,「分離工程」における付加的工程として,本件明細書の「方法5」(及び「方法8」)におけるような付加的な洗浄工程及びその後の遠心分離を行わないことを意味するものと解するほかはない。 そして,乙9に開示されている方法は,本件明細書記載の「方法5」及び「方法8」におけるような付加的な洗浄工程及びその後の遠心分離を行っていないので,この点において,乙9に記載された発明は,第1訂正発明との間に相違点はない。結局,第1次訂正によって新たな相違点が生じることはなく,両発明の相違点は,可溶化工程における2種類の界面活性剤の一方が相違する点のみである。 前記2(1)エと同様の理由により,当業者であれば,乙9に乙8を組み合わせることは容易である。加えて,界面活性剤の相違は,本件明細書においても両者を比較検討している程度のものであって(「方法1」及び「方法4」),当業者であれば通常並行して検討する範囲内のものであるから,この意味でも当業者にとって組み合わせは容易である。 したがって,当業者であれば,乙9に記載された発明に乙8に記載された発明を組み合わせることによって,第 並行して検討する範囲内のものであるから,この意味でも当業者にとって組み合わせは容易である。 したがって,当業者であれば,乙9に記載された発明に乙8に記載された発明を組み合わせることによって,第1次訂正発明に想到することは容易であったものといえる。 - 54 -以上によれば,第1次訂正発明には無効理由4と同様の進歩性欠如の無効理由があり,また,第1次訂正によって,本件発明の無効理由4が解消されることはない。 (キ) 無効理由5ないし7が解消されないことa 仮に第1次訂正が認められたとしても,本件発明の無効理由5ないし7は,解消されない。 b また,仮に原告が主張するように,5%SDS中での加熱溶解が第1次訂正に係る「洗浄することなく」の「洗浄」に相当し,その後のメタノール(又はエタノール)沈殿及び遠心分離が第1次訂正に係る「再沈殿することなく」の「再沈殿」に相当するとしても,本件明細書には,「方法4」において分離工程で得られた沈殿物を5%SDS中で加熱溶解せず,その後のメタノール(又はエタノール)沈殿及び遠心分離を行わないことは記載も示唆もされておらず,当然,実施例における成功例の記載も存在しないから,第1次訂正発明は,新たなサポート要件違反の無効理由を有することになる。 (ク) 小括以上のとおり,第1次訂正は,新規事項を追加するものであって訂正要件を充足しないこと,被告方法は第1次訂正発明の技術的範囲に属さないこと,第1次訂正発明には無効理由があり,第1次訂正によって本件発明の無効理由が解消されないことからすれば,原告主張の第1次訂正による対抗主張は,理由がない。 (2) 第2次訂正による対抗主張の成否(争点3-2)ア原告の主張(ア) 第2次訂正の適法性及び第2次訂正発明の解釈a 第2次訂正発明を 主張の第1次訂正による対抗主張は,理由がない。 (2) 第2次訂正による対抗主張の成否(争点3-2)ア原告の主張(ア) 第2次訂正の適法性及び第2次訂正発明の解釈a 第2次訂正発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,各構成要件を「構成要件A'' 」,「構成要件B'' 」などという。下- 55 -線部は訂正箇所である。)。 A'' 動物の中枢神経系組織から病原性プリオン蛋白質を酵素免疫吸着測定法により検出する方法であって,B'' t-オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(トリトン(商標)X-100)及びサーコシル(商標)を同時に用いて前記中枢神経系組織中の非特異的物質を可溶化することと,C'' 前記可溶化された非特異的物質をコラーゲン分解酵素及びDNA分解酵素を用いることなくプロテイナーゼKを用いて分解処理することと,D'' 超遠心分離処理を除く遠心分離処理を行うことにより前記分解処理により得られたものから病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を含有する濃縮物を得ることと,E'' 前記濃縮物を洗浄することなく直接カオトロピックイオン剤を用いて溶解液とし,酵素免疫吸着測定法により検出することとF'' を含む病原性プリオン蛋白質の検出方法。 b 第2次訂正は,第1次訂正前の請求項1記載の方法の条件に限定(構成要件C'' 及びE'' )を加えるものであって,特許請求の範囲の減縮を目的とし,本件明細書に記載した事項の範囲内においてされたものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもないから,特許法126条3項及び4項の訂正要件を充足する。 (a) 非特異的物質をコラーゲン分解酵素及びDNA分解酵素を用いることなくプロテアーゼKを用いて分解処理することは,本件明細書の段落【 ないから,特許法126条3項及び4項の訂正要件を充足する。 (a) 非特異的物質をコラーゲン分解酵素及びDNA分解酵素を用いることなくプロテアーゼKを用いて分解処理することは,本件明細書の段落【0027】,【0032】,【0035】,【0049】,【0103】に開示されている。 (b) 洗浄,再沈殿が付加的な工程であるとして,最初の遠心分離による沈殿物の溶液をそのまま酵素免疫吸着測定法に使用すること- 56 -ができることが,本件明細書の段落【0055】,【0056】,【0058】ないし【0063】に開示されている。 また,GdnSCNは,カオトロピックイオン剤の例示であることが,本件明細書の段落【0140】に記載されている。 さらに,濃縮物を直接GdnSCNを用いて溶解することについて,本件明細書の段落【0177】に「これらの観察及び考察に基づいて,本発明者は,PrPSC含有物質を直接溶解させるために1M~5M(特に3M及び4M)のGdnSCNを用い,この濃度でのGdnSCNの存在下でマイクロタイタープレートへのPrPSCの吸着に成功した。」と記載されている。 本件明細書の各種実施例では,病原性プリオン蛋白質の濃縮物を一度はSDSに溶解し,メタノール沈殿したうえで後の実験を行っているが,それは,本件発明以前の病原性プリオン蛋白質の取扱いにおける技術常識に従ったものであると解される。すなわち,本件発明当時の主流であった分析法であるウェスタンブロット法では,SDS溶液として立体構造をほぐすことが必須であったため,ELISA法でも,分析のため,抗原-抗体反応の活性を高めるためには,SDS溶解により病原性プリオン蛋白質の立体構造をほぐすという前処理が有益であると認識されていたものと理解される。本件明細書の段落【0176】 も,分析のため,抗原-抗体反応の活性を高めるためには,SDS溶解により病原性プリオン蛋白質の立体構造をほぐすという前処理が有益であると認識されていたものと理解される。本件明細書の段落【0176】にも,ELISA法のためにSDSによる前処理を行う公知文献の引用がある。しかしながら,本件明細書では,ELISA法のための好適な条件の探索がなされ,溶剤としてGdnSCNとSDSの比較試験が行われているが,特に図5のデータにおいて,GdnSCNに溶解することによるELISA法の検出感度の増強が,SDSに溶解する場合より格段に優れていることが見出されている。このデータに基づけば,GdnSCNに直- 57 -接溶解することにより,十分に高い検出感度が得られるのであるから,SDSによる前処理は不要であるとの結論に到達する。そうであるから,段落【0177】において,GdnSCNに直接溶解してELISA法を行うことが,検討の結論として明記されたのである。 (c) また,本件発明においてSDS溶解及びメタノール沈殿をせず,カオトロピックイオン剤に直接溶解することは,本件明細書から読み取ることができる。 すなわち,本件明細書では,段落【0039】ないし【0052】において,病原性プリオン蛋白質由来蛋白質の濃縮工程の基本的な構成が示されているが,濃縮工程において,SDS溶解及びメタノール沈殿が必要だという記載もなければ,必要性の示唆もない。 また,段落【0053】ないし【0057】では,この基本構成に付加することが望ましい工程が詳細に説明されているが,付加工程としてもSDS溶解及びメタノール沈殿が必要だという記載もなければ,必要性の示唆もない。 次に,「本発明」の検出方法に基づく測定法について,段落【0058】ないし【0072】において説明が 工程としてもSDS溶解及びメタノール沈殿が必要だという記載もなければ,必要性の示唆もない。 次に,「本発明」の検出方法に基づく測定法について,段落【0058】ないし【0072】において説明があるが,ここでも,検出工程にSDS溶解及びメタノール沈殿が必要だという記載もなければ,必要性の示唆もない。さらに,段落【0073】ないし【0096】において,再度,濃縮方法についての説明が続くが,ここでも,SDS溶解及びメタノール沈殿が必要だという記載もなければ,必要性の示唆もない。 続いて,【実施例】の記載中には,「本発明は以下の実施例に限定されるものではない」と断った上で,いずれの濃縮方法においても,最後にSDS溶解が行われている(段落【0097】ないし【- 58 -0117】)が,各方法において,採用された付加的な工程について,その目的が説明されているのに対し,SDS溶解を行う目的については,何ら説明がなく(段落【0118】ないし【0159】),当業者がSDS溶解が「本発明」に不可欠な工程だと理解することはない。 そして,段落【0159】以降の記載を読むと,当業者は,本件明細書において,ウエスタンブロット法とELISA法の感度の比較が行われたことが分かり,このような比較試験を行おうとする場合には,前提条件はできる限り同一にしておかなければならないので,ELISA法で使用する濃縮物についても,SDS溶解を行ったことを理解する。 このように比較試験のため,前提条件を同一にする目的でSDS溶解を行ったにすぎないのであれば,当業者は,比較試験ではない場面で,ELISA法を実施する際は,SDS溶解が不要なことは容易に理解する。さらに,SDS溶解が不要であれば,当然,SDSを取り除くために行うメタノール沈殿も不要であることは容易 比較試験ではない場面で,ELISA法を実施する際は,SDS溶解が不要なことは容易に理解する。さらに,SDS溶解が不要であれば,当然,SDSを取り除くために行うメタノール沈殿も不要であることは容易に理解できる。特に,「本発明」においては,迅速性及び簡便性が重要視されているので,当業者は本件明細書の記載から必要性が読み取れない工程は不要であると理解する。 以上のとおり,本件明細書においては,実施方法の具体的な説明の記載中に,SDS溶解及びメタノール沈殿が必要だという記載もなければ,必要性の示唆もないので,SDS溶解及びメタノール沈殿が不要であることが読み取れる。そして,上述のように,本件明細書においては,カオトロピックイオン剤に試料を溶解することによって,SDSに溶解した場合よりも格段に高いELISA法の検出感度が得られることを明らかにし,SDSに溶解する必要性がな- 59 -いことを積極的に裏付けて,ELISA法のためには「直接」カオトロピックイオン剤に溶解することを記載している。 (d) 以上のとおり,第2訂正は,本件明細書の記載に基づいており,また,第1次訂正前の請求項の方法の条件に限定を加えるものであるから,特許請求の範囲の減縮に当たるといえる。 (イ) 被告方法が第2次訂正発明の技術的範囲に属することa 第2次訂正発明の構成要件A'' ,B'' ,D'' は,本件発明の構成要件A,B,Dとそれぞれ同内容である。 そして,被告方法が構成要件A,B,Dを充足することは,前記1(1)のとおりであるから,被告方法は,構成要件A'' ,B'' ,D''を充足する。 b 被告方法では,分解酵素として,プロテイナーゼKのみが使用され,コラーゲン分解酵素及びDNA分解酵素は使用されていないから,構成要件C'' を充足する '' ,B'' ,D''を充足する。 b 被告方法では,分解酵素として,プロテイナーゼKのみが使用され,コラーゲン分解酵素及びDNA分解酵素は使用されていないから,構成要件C'' を充足する。 また,被告方法では,検体をプロテアーゼにより分解処理した後の最初の遠心分離により得られた沈殿物を,洗浄他何らの工程を経ることなく,直接「【C】溶解液(尿素0.36g/mL)」を用いて溶解して,酵素免疫測定法による検出に使用しているところ,被告方法の溶解液に使用されている尿素とは,カオトロピックイオン剤の代表的なものの一つである(甲21)。 したがって,被告方法は,構成要件E'' を充足する。 c 以上によれば,被告方法は,構成要件A'' ないしE'' の構成を含む病原性プリオン蛋白質の検出方法であるから,構成要件F'' を充足する。 したがって,被告方法は,第2次訂正発明の構成要件をすべて充足するから,その技術的範囲に属する。 - 60 -(ウ) 無効理由1ないし4の解消a 第2次訂正発明は,①所定の界面活性剤を使用して非特異的物質を可溶化すること,②可溶化された非特異的物質をプロテイナーゼKのみで分解すること(他の酵素を使用しないことによる検出時間の短縮効果が得られる。),③超遠心分離を除く遠心分離で濃縮すること(超遠心分離に要する時間を不要とする短縮効果並びに超遠心分離を使用しないことによる簡便性,安全性が得られる。),④濃縮物を直接カオトロピックイオン剤で溶解する(SDS溶解工程を省くことによる時間の短縮効果が得られる。)ことにより,従来技術では両立させることが困難であった迅速性・簡便性と高感度を達成することができる方法であり,さらには安全性,経済性をも満たすものであり,第2次訂正発明は,乙7に記載された発明と )ことにより,従来技術では両立させることが困難であった迅速性・簡便性と高感度を達成することができる方法であり,さらには安全性,経済性をも満たすものであり,第2次訂正発明は,乙7に記載された発明と大きく異なっている。 したがって,第2次訂正発明は,乙7に記載された発明と同一であるとはいえないから,被告主張の無効理由1は,解消される。 b また,上記aの④のSDS溶解工程を省いて直接カオトロピックイオン剤に溶解することは,本件明細書の段落【0177】等の記載により認められるけれども,本件発明以前に,乙7ないし9の公知技術の記載のみから想到することは困難であった。乙7ないし9のいずれにおいても,濃縮された病原性プリオン蛋白質試料をSDSによる溶解とメタノール沈殿という処理を経たうえで分析に供しており,この処理を省略してよいことの示唆は存在しない。 そして,本件明細書に,「スクレーピー感染組織のギ酸又はSDSでの予備処理(カスクサック他,1987年)・・・が報告されており,これは,抗PrP抗体の免疫反応を増大させる」(段落【0176】)と記載されているように,SDS予備処理はELISA法の抗原-抗体反応を増強する手段として必要との知見が存在したから,こ- 61 -の予備処理は必要と認識されたはずである。 しかし,本件明細書では,上記のとおり,図5等から,GdnSCNに溶解する処理がSDSに溶解するよりも格段に高いELISA法の検出感度増大をもたらすことを考慮して,濃縮試料を直接GdnSCNに溶解するELISA法を記載しているのであるから,この「直接溶解」の点は,新規であり,かつ,第2次訂正発明の簡便性,正確性,迅速性等に寄与する要素として,進歩性の評価につき重要である(このことは,甲22のSDS溶解及びメタノール沈殿処理追加 ら,この「直接溶解」の点は,新規であり,かつ,第2次訂正発明の簡便性,正確性,迅速性等に寄与する要素として,進歩性の評価につき重要である(このことは,甲22のSDS溶解及びメタノール沈殿処理追加の有無による反応性の比較実験の結果からも裏付けられる。)。 そして,第2次訂正によって,被告主張の無効理由2ないし4が解消されることは,前記(1)ア(エ)ないし(カ)と同様である。 (エ) 小括以上のとおり,第2次訂正によって被告主張の無効理由1ないし4はいずれも解消され(なお,被告主張の無効理由5ないし7に理由のないことは,前記2(2)オ及びカのとおりである。),かつ,被告方法は第2次訂正発明の技術的範囲に属するものであるから,被告主張の本件特許権の権利行使の制限は,理由がない。 イ被告の主張(ア) 第2次訂正の適法性及び第2次訂正発明の解釈a 以下に述べるとおり,第2次訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲外のものであって,新規事項の追加に該当し,又は特許請求の範囲の拡張若しくは変更に該当し,また,第2次訂正発明は独立特許要件を欠いているから,第2次訂正は,特許法126条3項ないし5項の訂正要件を充足せず,不適法である。 (a) 構成要件Cに係る訂正について- 62 -第2次訂正は,構成要件Cについて,「前記可溶化された非特異的物質をコラーゲン分解酵素及びDNA分解酵素を用いることなくプロテイナーゼKを用いて分解処理することと,」と訂正するものである。 しかし,本件明細書には,「コラーゲン分解酵素及びDNA分解酵素を用いることなく」との点についての開示はない。原告が根拠として挙げる本件明細書の各段落にも,コラーゲン分解酵素及びDNA分解酵素を省略することができる旨の開示 コラーゲン分解酵素及びDNA分解酵素を用いることなく」との点についての開示はない。原告が根拠として挙げる本件明細書の各段落にも,コラーゲン分解酵素及びDNA分解酵素を省略することができる旨の開示はない。 また,本件明細書の段落【0049】の「望ましい」との記載は,コラーゲン分解酵素及びDNA分解酵素を用いた分解処理工程が付加的な工程であるということを意味するものではない。すなわち,段落【0049】は,分解処理に,①「コラーゲン分解酵素(コラゲナーゼ:Collagenase)」,②「DNA分解酵素(DNアーゼ:DNase)」及び③「蛋白質分解酵素(プロテイナーゼ:Proteinase又はプロテアーゼ)」のすべてを用いることを前提としつつ,分解処理工程の時系列として,①「コラーゲン分解酵素(コラゲナーゼ:Collagenase)」及び②「DNA分解酵素(DNアーゼ:DNase)」を用いた分解処理を行い,しかる後に,③「蛋白質分解酵素(プロテイナーゼ:Proteinase又はプロテアーゼ)」を用いた分解処理を行うことが望ましいとして,時系列的に望ましい手順について記載しているにすぎない。 また,本件明細書の実施例及び図面においても,プロテイナーゼKを用いている方法(方法1,3,4,5)においては,すべて,その前段階の処理として,コラーゲン分解酵素及びDNA分解酵素を用いた分解処理工程が行われており,コラーゲン分解酵素及びDNA分解酵素が省略されている例は開示されておらず,これらを省- 63 -略することの示唆もない。 したがって,第2次訂正による構成要件Cに関する訂正は,新規事項の追加に当たり,訂正要件を充足しない。 (b) 構成要件Eに係る訂正について第2次訂正は,構成要件Eについて,「前記濃縮物を洗浄することな 第2次訂正による構成要件Cに関する訂正は,新規事項の追加に当たり,訂正要件を充足しない。 (b) 構成要件Eに係る訂正について第2次訂正は,構成要件Eについて,「前記濃縮物を洗浄することなく直接カオトロピックイオン剤を用いて溶解液とし,酵素免疫吸着測定法により検出することと」と訂正するものである。 原告が根拠として挙げる本件明細書の段落【0055】,【0056】の記載は,方法5のような付加的洗浄を行わないことを意味するにすぎない。また,同じく段落【0177】中の「直接溶解」の記載は,段落【0176】に記載された「サーバン他,1990年」(乙33)の方法のように,1段階目としてプリオンをGdnSCNではない溶液中に入れ,マイクロタイタープレートに吸着させた上で,2段階目としてマイクロタイタープレートに吸着した状態のプリオンをGdnSCNで変性させる,ということはせず,直接,プリオンをGdnSCN溶液に溶解して変性させた状態にしておき,これをマイクロタイタープレートに吸着させることを意味しているにすぎない。これらの記載は,およそ,原告の主張するような,5%SDS溶解及びメタノール沈殿を排除する方法を開示しているものではない。仮に原告が第2次訂正によって5%SDS溶解及びメタノール沈殿を排除した方法を特許請求の範囲とする趣旨なのであれば,かかる訂正は,本件明細書には開示されていない方法をクレームするものであるから,新規事項の追加に当たり,訂正要件を充足しないことになる。 また,本件明細書では吸着時に使用する溶剤については一貫してGdnSCN(及びSDS)についてのみ述べているのであって,- 64 -カオトロピックイオン剤については,本件明細書の段落【0140】,【0141】に言及されているにすぎない。段落【0140】, GdnSCN(及びSDS)についてのみ述べているのであって,- 64 -カオトロピックイオン剤については,本件明細書の段落【0140】,【0141】に言及されているにすぎない。段落【0140】,【0141】は,図5に示した実験についての解説であるので,ここでカオトロピックイオン剤又は界面活性剤と述べているのは,実質的には図5の実験で使用されたGdnSCN及びSDSのことである。また,段落【0140】には,「前記カオトロピックイオン剤」との記載があるが,本件明細書においてカオトロピックイオン剤が登場するのはここが初めてであるので,これは,GdnSCNの説明であって,吸着時に使用する溶剤としてカオトロピックイオン剤すべてがGdnSCNと同様に作用することが開示されているわけではなく,あくまでも吸着時に使用する溶剤としてはGdnSCNしか認識されていないと解釈すべきである。それにもかかわらず,これらの記載をつなぎあわせ,本件明細書の段落【0177】に記載されたGdnSCNへの溶解をもって「直接カオトロピックイオン剤を用いて溶解液とする」ことを特許請求の範囲とするのであれば,それはすなわち,GdnSCNの上位概念であるカオトロピックイオン剤のクレーム化に該当し,新規事項の追加又は特許請求の範囲の拡張若しくは変更に該当するから,訂正要件を充足しない。 (c) 小括以上のとおり,第2次訂正は,新規事項の追加又は特許請求の範囲の拡張若しくは変更に該当し,特許法126条3項ないし5項の訂正要件を充足しないから,不適法である。 b 仮に第2次訂正が本件明細書に記載された事項の範囲内のものであり,新規事項の追加に当たらないと解釈するとすれば,構成要件Eの「前記濃縮物を洗浄することなく直接カオトロピックイオン剤を用- 65 -いて溶解 訂正が本件明細書に記載された事項の範囲内のものであり,新規事項の追加に当たらないと解釈するとすれば,構成要件Eの「前記濃縮物を洗浄することなく直接カオトロピックイオン剤を用- 65 -いて溶解液とし,」とは,①第1次訂正発明と同様,本件明細書の方法5(及び方法8)として記載されている「分離工程」における付加的工程としての洗浄工程を行わないこと,及び,②GdnSCNではない溶液中に溶解してマイクロタイタープレートに吸着させた上でGdnSCNで変性させるということはせず,直接プリオンをGdnSCN溶液に溶解して変性させた状態にしておき,これをマイクロタイタープレートに吸着させることを意味するにすぎず5%SDS溶解及びメタノール沈殿を排除することを意味するものではないと解するほかはない。 (イ) 無効理由2が解消されないこと原告の主張を前提とすると,第2次訂正発明は,①コラーゲン分解酵素及びDNA分解酵素による分解処理を省略している点,②超遠心分離処理を除く遠心分離処理を用いている点において,乙7記載の方法と相違することになる。 しかし,①の点は,本件明細書に記載されていない。それにもかかわらず,かかる省略を当業者が認識できるとすれば,それは当業者の技術常識にすぎないことになる。また,これらの処理を行った場合と省略した場合について感度のデータが本件明細書に示されていない以上,これらの処理の省略が当時の技術水準から予測される範囲を超えた顕著な作用効果を有するものとは認められない。したがって,コラーゲン分解酵素及びDNA分解酵素による分解処理の省略を根拠として,第2次訂正発明に進歩性を認めることはできない。 次に,②の点については,乙9には,15,000rpmで遠心分離処理を行うことにより濃縮物が得られることが記載されてお 分解処理の省略を根拠として,第2次訂正発明に進歩性を認めることはできない。 次に,②の点については,乙9には,15,000rpmで遠心分離処理を行うことにより濃縮物が得られることが記載されており,乙7及び乙9は同一研究者らによる同一技術分野の同一課題に関する文献であるから,当業者であれば,これらの文献を組み合わせることは容易である。 - 66 -そうすると,乙7に記載された発明に乙9に記載された発明を組み合わせることにより,第2次訂正発明を容易に想到し得たものであるり,第2次訂正発明には無効理由2と同様の進歩性欠如の無効理由があり,また,第2次訂正によって,本件発明の無効理由2が解消されることはない。 (ウ) 無効理由3が解消されないこと原告の主張を前提とすると,第2次訂正発明は,①コラーゲン分解酵素及びDNA分解酵素による分解処理を省略している点,②超遠心分離処理を除く遠心分離処理を用いている点において,乙8記載の方法と相違することになる。 しかし,①の点が進歩性を認める根拠とならないことは,前記(イ)のとおりである。 また,乙9には,相違点②の遠心分離に関する条件の開示がある。 そして,当業者は,乙8に記載された発明に乙9に記載された発明を組み合わせることにより,第2次訂正発明を容易に想到し得たものである。 したがって,第2次訂正発明には無効理由3と同様の進歩性欠如の無効理由があり,また,第2次訂正によって,本件発明の無効理由3が解消されることはない。 (エ) 無効理由4が解消されないこと乙9には,①コラーゲン分解酵素及びDNA分解酵素による分解処理を省略している点,②トリトンX-100を使用している点を除き,第2次訂正発明と同一の方法が開示されていると理解されるべきである。 しかし,①の コラーゲン分解酵素及びDNA分解酵素による分解処理を省略している点,②トリトンX-100を使用している点を除き,第2次訂正発明と同一の方法が開示されていると理解されるべきである。 しかし,①の点が進歩性を認める根拠とならないことは,前記(イ)のとおりである。 次に,②の点については,当業者は,乙9に記載された発明に乙8に- 67 -記載された発明を組み合わせることにより,第2次訂正発明を容易に想到し得たものである。 したがって,第2次訂正発明には無効理由4と同様の進歩性欠如の無効理由があり,また,第2次訂正によって,本件発明の無効理由4が解消されることはない。 (オ) 無効理由5が解消されないこと「超遠心分離処理を除く遠心分離処理」は,不明確であり,第2次訂正発明は実施可能な程度に開示されているとはいえない。 また,前述のとおり,本件明細書の実施例では,すべて5%SDSでの加熱溶解及びメタノール中で沈殿させる操作を行っている。そうすると,仮に,原告の主張を前提として,第2次訂正発明が,5%SDSでの加熱溶解及びメタノール中で沈殿させる操作を行わないことを意味した場合,本件明細書には,発明についての実施可能な実施形態の記載が全くないことになり,当業者は,発明の詳細な説明の記載に基づいて発明を容易に実施することはできない。 したがって,第2次訂正発明は,本件明細書の発明の詳細な説明において,実施可能な程度に開示されているとはいえないから,第2次訂正発明には,実施可能要件違反の無効理由があり,また,第2次訂正によって,本件発明の無効理由5が解消されることはない。 (カ) 無効理由6が解消されないこと前述のとおり,「超遠心分離を除く遠心分離処理」は不明確であり,その結果,当業者が,「超遠心分離」と「超遠心分離 件発明の無効理由5が解消されることはない。 (カ) 無効理由6が解消されないこと前述のとおり,「超遠心分離を除く遠心分離処理」は不明確であり,その結果,当業者が,「超遠心分離」と「超遠心分離を除く遠心分離」との境界領域にあるような回転数(又は遠心加速度)で分離を行った場合に,かかる分離が特許請求の範囲に含まれるのかどうかを判断することは極めて困難であることは明らかであるから,第2次訂正発明を明確に把握できない。 - 68 -したがって,第2次訂正発明は,明確性要件違反の無効理由があり,また,第2次訂正によって,本件発明の無効理由6が解消されることはない。 (キ) 無効理由7が解消されないことa 前記(ア)a(a)のとおり,本件明細書の実施例では,非特異的物質の分解処理工程において,プロテイナーゼK,コラーゲン分解酵素及びDNA分解酵素が用いられており,本件明細書には,プロテイナーゼKのみで分解処理工程を行った実施例は含まれておらず,プロテイナーゼKを用いる場合に,コラーゲン分解酵素及びDNA分解酵素を省略することができることの開示も示唆もない。 したがって,コラーゲン分解酵素及びDNA分解酵素を用いることなく,プロテイナーゼKのみで十分に非特異的物質が分解されることは本件明細書の発明の詳細な説明の記載によってサポートされていないから,第2次訂正発明は,サポート要件違反の無効理由を有する。 b 本件明細書の発明の詳細な説明には,「超遠心分離処理を除く遠心分離処理」すべてについての十分な具体例が示されているとはいえないから,第2次訂正発明には,サポート要件違反の無効理由がある。 c 前述のとおり,本件明細書の実施例では,すべて5%SDSでの加熱溶解及びメタノール中で沈殿させる操作を行っている。 したがって,仮に ,第2次訂正発明には,サポート要件違反の無効理由がある。 c 前述のとおり,本件明細書の実施例では,すべて5%SDSでの加熱溶解及びメタノール中で沈殿させる操作を行っている。 したがって,仮に原告の主張を前提として,第2次訂正発明が,5%SDSでの加熱溶解及びメタノール中で沈殿させる操作を行わないものであると解釈すると,第2次訂正発明は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載によってサポートされていない。 d 本件明細書上,「カオトロピックイオン剤」については,段落【0140】に「疎水性分子の水溶性を増加させ,疎水結合を弱め,膜蛋白質等の抽出に用いられるもの」とされており,種々の物質を包含し得- 69 -る。第2次訂正発明の特許請求の範囲には,かかる「カオトロピックイオン剤」を広く用いることが記載されているが,本件明細書の発明の詳細な説明においては,GdnSCN以外の実施例について一切開示がない。 したがって,この点においても,第2次訂正発明には,サポート要件違反の無効理由がある。 e 以上のとおり,第2次訂正発明には,サポート要件違反の無効理由があり,また,第2次訂正によって,本件発明の無効理由7が解消されることはない。 (ク) 小括以上のとおり,第2次訂正は,新規事項の追加又は特許請求の範囲の拡張若しくは変更に該当し,また,第2次訂正発明には,無効理由があり,独立特許要件を欠いていることからすると,第2次訂正は,訂正要件を充足せず,第2次訂正によって本件発明の無効理由が解消されることはないから,原告主張の第2次訂正による対抗主張は,理由がない。 4 争点4(原告の損害額)について(1) 原告の主張ア特許法102条2項に基づく損害額(ア) 被告が被告製品を輸入販売した行為は,原告の本件特許権の間接侵害 対抗主張は,理由がない。 4 争点4(原告の損害額)について(1) 原告の主張ア特許法102条2項に基づく損害額(ア) 被告が被告製品を輸入販売した行為は,原告の本件特許権の間接侵害の不法行為に当たるから,被告は,原告に対し,原告が受けた損害を賠償する義務を負う。 原告は,被告製品と同じ目的・効果を有する牛海綿状脳症診断用酵素抗体反応キット(商品名「フレライザBSE」。以下「原告製品」という。)を製造販売しているところ,被告による被告製品の輸入販売という本件特許権の間接侵害によって,原告製品の販路が奪われ,原告に損害が生じている。 - 70 -特許法102条2項によれば,被告が被告製品の販売によって受けた利益額が,原告の受けた損害額と推定される。 (イ) 被告が,平成21年8月28日(本件特許の設定登録日)から平成22年7月31日までの間に輸入販売した被告製品の数量は少なくとも7400箱,その売上額は少なくとも3億7000万円であり,その売上額の80%に相当する2億9600万円が,被告の受けた利益の額である。 したがって,特許法102条2項によって推定される原告の損害額は,2億9600万円を下らない。 イ弁護士費用被告による本件特許権の間接侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用に相当する原告の損害額は,2960万円を下らない。 ウまとめ以上によれば,原告は,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償として3億2560万円(前記ア(イ)及びイの合計額)及びこれに対する平成22年9月1日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。 (2) 被告の主張原告の主張は争う。 第4 当裁判所の判断本件の事案に鑑み,まず,争点2のうち, )から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。 (2) 被告の主張原告の主張は争う。 第4 当裁判所の判断本件の事案に鑑み,まず,争点2のうち,被告主張の無効理由2(乙7を主引用例とする進歩性の欠如)による本件特許権に基づく権利行使の制限の成否から判断することとする。 1 無効理由2の成否(争点2)について被告は,本件発明は,本件原々出願の出願前に頒布された刊行物である乙7及び乙9に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたもので- 71 -あって,本件発明に係る本件特許には,特許法29条2項に違反する進歩性欠如の無効理由(無効理由2)があり,特許無効審判により無効にされるべきものであるから,同法104条の3第1項の規定により,原告は,本件特許権を行使することができない旨主張する。 (1) 乙7の記載事項ア乙7(1996年(平成8年)10月23日~25日に開催された「第44回日本ウイルス学会総会」の「アブストラクト」中の「PrPSc 高感度検出法の開発:ELISA法の検討」と題する部分(99頁))には,次のような記載がある。 (ア) 「目的と意義:我々はこれまでにスクレイピーに感染した動物の診断法としてWesternblot(WB)法によりPrPScの検出を行ってきた。 今回,WB法より簡便かつ高感度な方法の確立を目的として,ELISA法について検討したので報告する。」(1行~2行)(イ) 「材料と方法:スクレイピー感染マウスの脳または脾臓を各種濃度のTritonX-100(TX),あるいはZwittergent3-12(ZW)と0.5%Sarkosyl(SK)存在下でホモゲナイズし,collagenase処理(0.5mg/100mg組織,37℃, onX-100(TX),あるいはZwittergent3-12(ZW)と0.5%Sarkosyl(SK)存在下でホモゲナイズし,collagenase処理(0.5mg/100mg組織,37℃,4~12hr),およびproteinaseK(PK)処理(50μg/100mg組織,37℃,1~2hr)を行ったのち,69,000xg,20min遠心した。」(3行~6行)(ウ) 「生じた沈殿物を5%のSDSにより溶解し,10倍量のメタノールにより沈殿させた。沈殿物を各種濃度のチオシアン酸グアニジン(GdnSCN)あるいはSDSで溶解し,マイクロプレートへ吸着させた。 一次抗体はB-103抗PrP合成ペプチドウサギ血清を用いた。Avidin-biotin-complex(ABC)法により抗原抗体複合物を検出した。」(6行~8行)- 72 -(エ) 「結果と考察:まず,試料調製に使用する界面活性剤について検討した。各種濃度のTX/0.5%SK,あるいはZW/0.5%SK存在下で処理した試料を抗原とした場合,PrPScの検出は4~8%TX/0.5%SKの処理で最も良い結果が得られた。」(9行~11行)(オ) 「次に,マイクロプレートへの吸着条件について検討した。メタノール沈殿により得られたPrPScを含む画分を0~5MGdnSCN,あるいは0~4%SDSで溶解したのちプレートへ吸着させ,PrPSc検出感度を比較した結果,3~4MGdnSCNによる溶解・吸着が適していることが明らかとなった。上記条件により最適化したELISAとWB法によるPrPScの検出感度を比較したところ,感染脳を試料とした場合,ELISAはWB法よりも10倍程度感度が高く,脾臓を用いた場合でもWB法と同程度の感度を示した。また,ELISAでは,病気末期の脳と比較し Scの検出感度を比較したところ,感染脳を試料とした場合,ELISAはWB法よりも10倍程度感度が高く,脾臓を用いた場合でもWB法と同程度の感度を示した。また,ELISAでは,病気末期の脳と比較して約1/500しかPrPScが含まれない試料でも陽性所見を得ることができた。以上のように,今回確立したELISAはWB法より簡便かつ高感度でPrPSc検出が可能であることから,多検体の検査が必要となる屠蓄場などでの検査法として有用と考えられる。」(11行~末行)イ前記アの記載を総合すると,乙7には,スクレイピー感染マウスの脳又は脾臓を,「TritonX-100」又は「Zwittergent3-12」と「0.5%Sarcosyl」の存在下でホモゲナイズし,「collagenase処理」及び「proteinaseK」処理を行った後,69,000×gで20min遠心し,生じた沈殿物を,5%SDSにより溶解し,10倍量のメタノールにより沈殿させ,その沈殿物をGdnSCNあるいはSDSで溶解し,マイクロプレートへ吸着させ,一次抗体としてB-103抗PrP合成ペプチドウサギ血清を用い,Avidin-biotin-complex(ABC)法により抗原抗体複合- 73 -物を検出する,ELISA法によるPrPScの高感度検出方法が記載されていることが認められる。 (2) 本件発明と乙7に記載された発明との対比前記(1)の認定を前提に,本件発明と乙7記載の方法(乙7に記載された発明)とを対比すると,乙7記載の方法の「スクレイピー感染マウスの脳」,「ELISA法」,「PrPSc」,「TritonX-100」,「Sarcosyl」,「proteinaseK処理」,「遠心し,生じた沈殿物」は,本件発明の「動物の中枢神経系組織」,「酵素免疫吸着測 ELISA法」,「PrPSc」,「TritonX-100」,「Sarcosyl」,「proteinaseK処理」,「遠心し,生じた沈殿物」は,本件発明の「動物の中枢神経系組織」,「酵素免疫吸着測定法」,「病原性プリオン蛋白質由来蛋白質」及び「病原性プリオン蛋白質」,「t-オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(トリトン(商標)X-100)」,「サーコシル(商標)」,「プロテアーゼを用いて分解処理すること」,「遠心分離処理を行うことにより」得る「病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を含有する濃縮物」にそれぞれ相当する。 そして,乙7記載の方法では,脳を「TritonX-100」と「Sarcosyl」の存在下で「ホモゲナイズ」しており,両者を同時に用いて中枢神経系組織を均質化(可溶化)しているといえる。 以上を総合すると,本件発明と乙7記載の方法とは,本件発明は,遠心分離処理が,「超遠心分離処理を除く遠心分離処理」であるのに対し,乙7記載の方法では,「69,000×gの遠心分離処理」である点において相違し,その余の構成は,一致するものと認められる。 (3) 相違点の容易想到性ア 「超遠心分離処理を除く遠心分離処理」の意義(ア) 本件発明の特許請求の範囲(請求項1)には,「超遠心分離処理を除く遠心分離処理」(構成要件E)の用語の意義を規定する記載はない。 ところで,一般に,「遠心分離」とは,遠心によって分離することをいい,「超遠心分離」とは,超遠心で溶液の成分を分離することをい- 74 -う(「化学大辞典(第1版)」東京化学同人)。 そして,甲8(「化学辞典」東京化学同人)には,「超遠心」とは,「高速回転(毎分3万回転程度以上),つまり大きな遠心加速度の下での遠心」(858頁)との記載があり,また,甲9(「基礎生化学実験 そして,甲8(「化学辞典」東京化学同人)には,「超遠心」とは,「高速回転(毎分3万回転程度以上),つまり大きな遠心加速度の下での遠心」(858頁)との記載があり,また,甲9(「基礎生化学実験法2抽出・分離・精製」)には,「遠心分離法のもっとも簡単なものは,固体試料と液体試料の分離である。この目的に使うのが,低速遠心器で,・・・普通は,最高20,000rpmまでで,数百ミリリットルから数リットルの試料の分別に用いる。」(158頁)との記載がある。 これらの記載を総合すれば,「超遠心」は,30,000rpm程度以上の回転数の大きな遠心加速度の下での遠心をいい,20,000rpmまでの回転数の遠心は,「超遠心」に当たらないものと解される。もっとも,遠心加速度(「g」あるいは「×g」)は,回転半径と回転数によって規定され,回転数(rpm)が同じでも回転半径が変われば,遠心加速度が変動するので,厳密には,回転数のみが,「超遠心」と「超遠心に当たらない遠心」あるいは「超遠心を除く遠心」とを区別する基準となるものではないが,回転半径が同程度の遠心機を使用する場合には,上記の回転数は,一応の区別の目安になり得るものといえる。 (イ) 本件明細書(甲2)には,「この分離工程では,例えば,遠心分離(超遠心分離)等の手段を用いて分離,濃縮することができる。」(段落【0094】),「次いで,これを超音波破砕してから,回転数15,000rpmで遠心分離し,その後,遠心分離で得られた溶液の上澄みに,最終濃度12%でNaClを添加,攪拌した(塩析工程)。この後,回転数55,000rpmで超遠心分離し,」(段落【0111】)との記載がある。これらの記載と図1ないし図3の「遠心分離(15,000rpm,20min)(第3の工程:分離工程)」との記載を総 後,回転数55,000rpmで超遠心分離し,」(段落【0111】)との記載がある。これらの記載と図1ないし図3の「遠心分離(15,000rpm,20min)(第3の工程:分離工程)」との記載を総合すれば,本件明細書では,回転数55,000rpmの遠心が「超遠心」,回転数15,0- 75 -00rpmの遠心が「超遠心を除く遠心」であることを開示しているものといえる。 (ウ) 乙7記載の「69,000xgの遠心分離処理」にいう「69,000xg」(遠心加速度)は,乙7からは,用いた遠心分離機が不明であり,その回転半径も不明であるため,これを直ちに回転数に換算することはできないが,乙7と同じ研究者による論文である乙8で使用した遠心分離機「TLA 100.3ローター及びオプティマTLX デスクトップ型超遠心機,ベックマン」を用いたとして換算すると,回転数は,35,714~40,318rpm(乙12の2,3)となる。 上記(ア)及び(イ)に照らすと,乙7記載の「69,000xgの遠心分離処理」は,30,000rpm程度以上の回転数の「超遠心」による遠心分離処理であって,本件発明の構成要件Eの「超遠心分離処理を除く遠心分離処理」に該当しない。 イ乙9の記載事項(ア) 乙9(「総説動物のプリオン病」山口獣医学雑誌,第23号1996年11月,1頁~15頁)には,次のような記載がある。 a 「この蛋白は当初スクレイピー病原体の構成蛋白として発見されたためプリオン蛋白(prionprotein,PrP)と名付けられたが,正常な細胞の構成蛋白としても存在するため,病原体を構成するものをscrapiePrP(PrPSc),正常なものをcellularPrP(PrPc)と区別している。プリオンはPrPcが構造変化してPrPScとなり としても存在するため,病原体を構成するものをscrapiePrP(PrPSc),正常なものをcellularPrP(PrPc)と区別している。プリオンはPrPcが構造変化してPrPScとなり,物理化学的抵抗性の高いアミロイドとして凝集したものである。」(2頁左欄下から8行~末行)b 「PrPcとPrPScは一次構造は同じであり,何らかの修飾など検出されていない。しかし高次構造の違いとして,前者はβシート構造が3%程度であるが,後者は40%以上と高いことが判ってい- 76 -る。」(6頁左欄下から10行~6行)c 「我々の研究室で実施しているウエスタンブロットあるいはELISA用の試料調製法(Fig.8)(32)では,界面活性剤抽出及び蛋白分解酵素処理の段階にPrPcが除去される。発症した動物の脳であれば,数μg相当の組織からPrPScが検出される。」(8頁右欄末行~9頁左欄4行)d 「1.被検脳組織→細寸,秤量↓2.8%Zwittergent3-12&0.5%Sarkosyl,PBSコラゲナーゼ(0.5mg/100mg組織重量)DNase(40μg/100mg組織重量)一様に分散するまで37℃放置↓3.ProteinaseK(50μg/100mg組織重量)37℃,1時間↓4.15,000回転↓5.沈殿に5%SDSを加え100℃5分加熱↓6.8倍量のメタノールで沈殿↓7.SDSサンプルバッファーに溶解(ウエスタンブロット用)3Mチオシアン酸グアニジンに溶解(ELISA用) Fig.8.ウエスタンブロット及びELISA用試料調製法。 - 77 -脾臓,リンパ節等は“ステップ4”の遠心を40,000回転とし,沈殿を6.25%Sarkosylに溶解,15,000 Fig.8.ウエスタンブロット及びELISA用試料調製法。 - 77 -脾臓,リンパ節等は“ステップ4”の遠心を40,000回転とし,沈殿を6.25%Sarkosylに溶解,15,000回転の上清に固形NaClを10%に加え4℃で放置,55,000回転の沈殿から“ステップ5”に戻る。」(9頁左欄)(イ) 上記(ア)によれば,乙9には,動物の脳組織を「Zwittergent3-12」,「Sarkosyl」及び「ProteinaseK」で処理し,毎分1万5000回転で遠心分離した沈殿物について酵素免疫吸着測定法(ELISA法)で検出する方法が開示されていることが認められる。 そして,前記ア(ア)及び(イ)に照らすと,乙9記載の遠心分離における毎分1万5000回転の遠心は,「超遠心」に該当しないから,乙9には,「超遠心分離処理を除く遠心分離処理」の構成(相違点に係る本件発明の構成)が開示されているものと認められる。 ウ容易想到性(ア) 乙7には,「WB法より簡便かつ高感度な方法の確立を目的として,ELISA法について検討」した結果の報告である旨の記載があるが(前記(1)ア(ア)),遠心分離処理条件の検討がされた旨の記載はない。 乙7記載の方法を更に簡便とするため,目的とする物質の遠心分離が達成できる範囲で遠心分離処理条件を変更し,その検出結果を検討することは,当業者が当然試みることといえる。 そして,乙7及び乙9は,ELISA法に用いてPrPScを検出する試料の調製法に係る文献である点で,その技術分野を共通にするところ,乙7には,「脳又は脾臓」から試料を調製する場合に,両者を区別せずに「69,000×g」で遠心すると記載されているのに対し,乙- 78 -9には,脾臓,リンパ節等については,遠心を40,0 ころ,乙7には,「脳又は脾臓」から試料を調製する場合に,両者を区別せずに「69,000×g」で遠心すると記載されているのに対し,乙- 78 -9には,脾臓,リンパ節等については,遠心を40,000回転とする一方で,脳の場合には15,000回転とされていること(前記イ(ア)d)に照らすならば,乙7及び乙9に接した当業者であれば,乙7記載の方法において,「脳」(脳組織)から試料を調製する場合に,「69,000×g」の遠心分離処理条件に代えて,乙9記載の「毎分1万5000回転」の遠心分離処理条件(相違点に係る本件発明の構成)を適用することを容易に想到し得たものと認められる。 (イ) これに対し原告は,界面活性剤の種類,分析対象組織の種類,適用される遠心分離の方法,洗浄,再沈殿などの精製工程の有無は,結果に大きく影響するところ,乙7及び乙9を検討すると,超遠心分離の適用が原則であること,乙7では,Zwittergentとサーコシルの組合せよりも,トリトンX-100とサーコシルの組合せの方が良好であったことなどからすると,Zwittergentを使用する乙9に記載された遠心分離の条件を,乙7における既に良好である方法を変更するために適用する動機付けが存在しないから,乙7に記載された発明に,乙9記載の遠心分離条件(相違点に係る本件発明の構成)を組み合わせることは容易想到とはいえない旨主張する。 しかしながら,前記(ア)で述べたように,乙7記載の方法において,目的とする物質の遠心分離が達成できる範囲で遠心分離処理条件を変更し,その検出結果を検討することは,当業者が当然試みることであり,しかも,乙9には「脳」(脳組織)から試料を調製する場合の遠心分離の回転数について15,000回転と記載されていることからすると,乙7記載の方法に,乙9記 することは,当業者が当然試みることであり,しかも,乙9には「脳」(脳組織)から試料を調製する場合の遠心分離の回転数について15,000回転と記載されていることからすると,乙7記載の方法に,乙9記載の遠心分離条件を適用する動機付けが存在するものといえること,乙7には,「脳」から試料を調製する場合に,「69,000×g」の遠心分離処理条件を変更することに問題があることを積極的に示唆する記載はなく,上記の適用について阻害事由- 79 -もないこと照らすならば,原告の上記主張は,採用することができない。 (4) まとめ以上によれば,本件発明は,当業者が,乙7及び乙9に記載された発明に基づいて,容易に発明をすることができたものといえるから,本件発明に係る本件特許には,特許法29条2項に違反する進歩性欠如の無効理由(無効理由2)があることが認められる。 2 第1次訂正による対抗主張の成否(争点3-1)について(1) 原告は,①第1次訂正は,本件発明の構成要件Eの「前記濃縮物を酵素免疫吸着測定法により検出することと」の構成について「洗浄することなく溶解液とし,再沈殿させることなく」との条件を付加して限定し,第1次訂正発明の構成要件E’の「前記濃縮物を洗浄することなく溶解液とし,再沈殿させることなく酵素免疫吸着測定法により検出することと」の構成に訂正したものであって,濃縮物につき,追加的な洗浄工程を適用せず,必須でない沈殿工程を適用しないで,最初の遠心分離による沈殿物(濃縮物)をそのまま溶解して酵素免疫吸着測定法に使用することを明確にしたものであり,これは,本件明細書の実施例に示された,濃縮物を5%SDSに加熱溶解し,メタノール中で沈殿させる付加的な操作を排除することを意味する,②第1次訂正によって,第1次訂正発明と乙7に記載された発 あり,これは,本件明細書の実施例に示された,濃縮物を5%SDSに加熱溶解し,メタノール中で沈殿させる付加的な操作を排除することを意味する,②第1次訂正によって,第1次訂正発明と乙7に記載された発明との間には,乙7に記載された発明では,超遠心分離によって得た沈殿物を,5%SDSに溶解し,メタノールによる沈殿を経た沈殿物を分析に使用しているのに対し,第1次訂正発明は,この操作を適用していない点において相違するという,本件発明と乙7に記載された発明との間に存在しなかった新たな相違点が生じるが,乙7及び乙9には,上記新たな相違点に係る第1次訂正発明の構成の開示がないことからすると,当業者が乙7及び乙9に基づいて第1次訂正発明を容易に想到し得るものではないから,第1次訂正によって被告主張の無効理由2は解消される,③被告方法は,第1次訂正発明の技術的範囲に- 80 -属するとして,被告主張の無効理由2は,第1次訂正による対抗主張によって否定される旨主張する。 これに対し,被告は,本件明細書に開示されたすべての方法において,沈殿物(濃縮物)を「5%SDSで加熱溶解」し,再沈殿させる工程を経た上で,酵素免疫吸着測定法を行っており,本件明細書には,当該工程を省略できるとの説明はされていないから,これを省略できるとする原告主張の第1次訂正は,本件明細書に記載した事項の範囲外のものであって,新規事項の追加に当たり,訂正要件を充足しない,仮に訂正要件を充足するように,第1次訂正に係る「洗浄することなく溶解液とし,再沈殿することなく」の用語を解釈するとすれば,「分離工程」における付加的工程として,付加的な洗浄工程及びその後の遠心分離を行わないことを意味するものと解するほかはなく,第1次訂正によって原告が主張する新たな相違点が生じるものではないから, ,「分離工程」における付加的工程として,付加的な洗浄工程及びその後の遠心分離を行わないことを意味するものと解するほかはなく,第1次訂正によって原告が主張する新たな相違点が生じるものではないから,無効理由2は解消されないとして,原告主張の第1次訂正による対抗主張は理由がない旨主張する。 ア本件明細書の記載事項本件明細書(甲2)の「発明の詳細な説明」には,次のような記載がある(なお,下記の記載中に引用する「図1」ないし「図5」については,別紙明細書図面参照)。 (ア) 「【技術分野】 本発明は,動物組織由来物質から病原性プリオン蛋白質を検出する方法,さらに,この検出方法の実施に際し,検出されるべき前記病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を濃縮する,病原性プリオン蛋白質由来蛋白質の濃縮方法,並びにその濃縮又は検出試薬キットに関するものである。」(段落【0001】),「現在行われている最も高感度な病原性プリオン蛋白質(異常プリオン蛋白質)の検出方法として,羊のスクレーピーに関して,発病前の低濃度での病原性プリオン蛋白質を検出するウエスタンブロット法(WB法;WesternBlotting)が- 81 -開発されている。しかしこの方法は,病原物質の蓄積部位の相違や,この方法を実施するのに時間がかかることや処理頭数などの関係から,牛に関しての適用は困難である。即ち,迅速な処理は困難である。」(段落【0005】,【0006】),「上述した方法以外では,病原性プリオン蛋白質に対する抗体を用いた免疫組織染色や病理所見による感染牛の検出法が広く実施されているのが現状である。しかしながら,これらの方法は,発病後顕著な神経症状を呈したり,死亡した家畜に関し有効なものであり,潜伏期間にある家畜の安全性,言い換えれば,屠蓄場まで,見かけ上,正常な牛 れているのが現状である。しかしながら,これらの方法は,発病後顕著な神経症状を呈したり,死亡した家畜に関し有効なものであり,潜伏期間にある家畜の安全性,言い換えれば,屠蓄場まで,見かけ上,正常な牛についての安全性が確保できなかった。」(段落【0007】,【0008】)(イ) 「近年,海外から,酵素免疫吸着測定法(ELISA:enzyme-linkedimmnosorbentassay)や,尿や血液による診断方法の報告もあるが,その感度や特異性には疑問があった。即ち,目的とする病原物質に含まれる病原性プリオン蛋白質をその測定試料調製段階で濃縮し,また,ELISA法用のマイクロタイタープレートへ効率良く吸着させれば,検出感度を向上させることができるが,これまでの方法では検出感度上の限界があった。」(段落【0009】,【0010】),「最近では,プリオン病の重大性が高まってきているため,羊や畜牛を屠殺時に選別するためのより感度の高い診断方法が求められている。」(段落【0019】),「選別方法としてはELISA法が適切な方法と言えるが,現在,この方法はTSEの基本的な研究のみで使用されているにすぎない(カスクザック他,1987年,サファー他,1990年;サーバン他,1990年)。これらの研究では,高純度PrPSCのみがマイクロタイタープレートに吸着されているが,診断においては原組織抽出液の使用も必要となる。」(段落【0020】)(ウ) 「本発明は,上述した従来の実情に鑑みてなされたものであり,そ- 82 -の目的は,動物組織由来物質から,比較的低濃度でも迅速かつ簡便に,そして高感度で組織特異的に病原性プリオン蛋白質を検出できる病原性プリオン蛋白質の検出方法,および,その検出方法の実施に際し,検出されるべき前記病原性プリオン蛋白 ,比較的低濃度でも迅速かつ簡便に,そして高感度で組織特異的に病原性プリオン蛋白質を検出できる病原性プリオン蛋白質の検出方法,および,その検出方法の実施に際し,検出されるべき前記病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を濃縮する方法を提供することにある。」(段落【0025】),「【課題を解決するための手段】 本発明者は,上述した課題を解決するべく鋭意検討を重ねた結果,動物組織由来物質から病原性プリオン蛋白質を検出する方法において,検出対象となる動物組織由来物質の種類に応じて,使用する調製剤(特に界面活性剤)や調製方法,検出方法を適宜選択することによって,前記病原性プリオン蛋白質を比較的低濃度でも迅速かつ簡便に,そして高感度で検出できることを見出した。」(段落【0026】),「即ち,本発明は,動物の中枢神経系組織から病原性プリオン蛋白質を免疫測定法により検出する方法の実施に際し,検出されるべき病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を濃縮する方法において,t-オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(トリトン(商標)X-100),サーコシル(商標)を用いて前記中枢神経系組織中の非特異的物質を可溶化することと,前記可溶化された非特異的物質をプロテアーゼを用いて分解処理することと,前記分解処理物から病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を含有する濃縮物を得ることとを含む濃縮方法に係るものである。」(段落【0027】),「本発明の濃縮方法によれば,まず,病原性プリオン蛋白質由来蛋白質の濃縮工程において,中枢神経系組織に適した界面活性剤を用いてこれを均一化しているので,前記動物組織由来物質に蓄積される病原性プリオン蛋白質の蓄積濃度が比較的小さくても,病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を十分に濃縮させることができる。」(段落【0028】),「さらに,濃縮後,免疫測定法,例 物組織由来物質に蓄積される病原性プリオン蛋白質の蓄積濃度が比較的小さくても,病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を十分に濃縮させることができる。」(段落【0028】),「さらに,濃縮後,免疫測定法,例えば酵素免疫吸着測定法(ELISA法;以下,同様)に基づいてこれを検出することができ- 83 -るので,病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を特異的に,かつ強固に結合(固定化)させることができ,迅速かつ簡便に,そして高感度でこれを検出することができる。」(段落【0029】)(エ) 「【発明の効果】 本発明の濃縮方法によれば,動物の中枢神経系組織から病原性プリオン蛋白質を免疫測定法により検出する方法の実施に際し,検出されるべき病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を濃縮する方法において,t-オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(トリトン(商標)X-100),サーコシル(商標)を用いて前記中枢神経系組織中の非特異的物質を可溶化することと,前記可溶化された非特異的物質をプロテアーゼを用いて分解処理することと,前記分解処理物から病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を含有する濃縮物を得ることとを含む濃縮方法によって,前記病原性プリオン蛋白質を濃縮することを特徴としており,まず,病原性プリオン蛋白質由来蛋白質の濃縮工程において,特に,中枢神経組織に適した界面活性剤を用いて非特異的物質を可溶化し,さらに,前記可溶化された非特異的物質をプロテアーゼを用いて分解処理しているので,前記中枢神経組織に蓄積される病原性プリオン蛋白質の蓄積濃度が比較的小さくても,病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を十分に濃縮させることができる。」(段落【0035】),「さらに,濃縮された病原性プリオン蛋白質をその後,酵素免疫吸着測定法に基づいてこれを検出することができるので,病原性プリオン蛋白 由来蛋白質を十分に濃縮させることができる。」(段落【0035】),「さらに,濃縮された病原性プリオン蛋白質をその後,酵素免疫吸着測定法に基づいてこれを検出することができるので,病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を特異的に,かつ強固に結合(固定化)させることができ,迅速かつ簡便に,そして高感度でこれを検出することができる。」(段落【0036】),「即ち,本発明の検出方法によれば,例えば牛や羊などをプリオン病(スクレーピーやBSE)感染初期の段階で診断,選別することが可能となり,また,これを大量かつ迅速に行うことができる。」(段落【0037】),「また,本発明の濃縮方法によれば,動- 84 -物組織由来物質から病原性プリオン蛋白質を検出する病原性プリオン蛋白質の検出方法の実施に際し,検出されるべき前記病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を濃縮する方法において,蓄積濃度が比較的小さくてもこれを十分に濃縮できる有効な濃縮方法を提供できる。」(段落【0038】)(オ) 「本発明の検出方法における第1の工程として,前記動物組織由来物質の種類に応じた界面活性剤を用いて,この動物組織由来物質を均一化する均一化工程を有しているので,前記動物組織由来物質を十分に溶解し,また,その種類に応じた前記界面活性剤の存在下で非特異的物質を可溶化し,病原性プリオン蛋白質を含有する前記動物組織由来物質を十分に均一化することができる。」(段落【0040】),「この第1の工程において,前記動物組織由来物質が中枢神経系組織(例えば,脳組織や脊髄組織など)の場合は,前記界面活性剤をズイッタージェント(Zwittergent)3-12〔商品名:カルビオケミカル社製:n-ドデシル-N,N-ジメチル-3-アンモニオ-1-プロパンスルホネート(N-dodecyl-N,N-dime ズイッタージェント(Zwittergent)3-12〔商品名:カルビオケミカル社製:n-ドデシル-N,N-ジメチル-3-アンモニオ-1-プロパンスルホネート(N-dodecyl-N,N-dimethyl-3-amino-1-propanesulfonate):分子量336.6〕又はトリトン(Triton)X-100〔商品名:シグマ社製:t-オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(t-octylphenoxypolyethoxyethanol)〕からなる界面活性剤とすることが望ましい。」(段落【0042】),「上記の各界面活性剤を使用することによって,前記脳組織における非特異的物質(正常プリオン蛋白質やその他の蛋白質:以下,同様)を十分に可溶化することができる。特に,前記中枢神経系組織として脳組織を用いることがさらに望ましい。」(段落【0043】)(カ) 「次に,前記第2の工程として,前記第1の工程で得られた均一化物を微生物プロテアーゼを含む分解酵素を用いて分解処理する分解処- 85 -理工程を有しているので,前記均一化物中の病原性プリオン蛋白質を含む物質(特に,染色体やDNAなど)を十分に分解,消化させて,目的物である病原性プリオン蛋白質を十分に取り出すことができる。」(段落【0047】),「一般に,病原性プリオン蛋白質は,染色体中の遺伝子上にのっていると考えられている。従って,特異的にこの蛋白質を取り出すためには,これを含む蛋白質を分解することが要求される。この第2工程は,非特異的物質を分解すると共に病原性プリオン蛋白質を含む蛋白質を分解する操作である。」(段落【0048】),「ここで,前記分解酵素としてコラーゲン分解酵素(コラゲナーゼ:Collagenase)及びDNA分解酵素(DNアーゼ:DNase)を用いて前記均一 白質を分解する操作である。」(段落【0048】),「ここで,前記分解酵素としてコラーゲン分解酵素(コラゲナーゼ:Collagenase)及びDNA分解酵素(DNアーゼ:DNase)を用いて前記均一化物を分解し,さらに蛋白質分解酵素(プロテイナーゼ:Proteinase又はプロテアーゼ:Protease)を用いて分解することが望ましい。」(段落【0049】)(キ) 「次に,前記第3の工程として,前記第2の工程で分解された前記均一化物から前記病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を含有する濃縮物を得る分離工程を有しているので,上記の第1の工程及び第2の工程で十分に均一化及び分解された前記病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を含有する物質を効率的に分離することができる。」(段落【0050】),「この分離工程では,例えば,遠心分離(超遠心分離)等の手段を用いて分離,濃縮することができる。」(段落【0051】),「以上が,前記病原性プリオン蛋白質由来蛋白質の濃縮工程の基本的な構成であるが,本発明の検出方法における濃縮工程では,上述した第1の工程~第3の工程に加えて,例えば,下記のような工程を付加することが望ましい。」(段落【0052】),「例えば,前記濃縮工程中に,前記第3の工程で得られた前記病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を含有する濃縮物を微生物プロテアーゼを含む分解酵素を用いて分解し,次い- 86 -で分離後に塩析処理を施す工程を更に有することが望ましい。」(段落【0053】),「即ち,前記病原性プリオン蛋白質由来蛋白質の溶解性を一層向上させるために,例えば,サーコシル(Sarkosyl,商品名:シグマ社製:C15H25NO3Na)等を使用して溶解処理,分離処理を行い,得られた分離抽出物を例えばNaClを用いて塩析した後,分離処理を行うことによ えば,サーコシル(Sarkosyl,商品名:シグマ社製:C15H25NO3Na)等を使用して溶解処理,分離処理を行い,得られた分離抽出物を例えばNaClを用いて塩析した後,分離処理を行うことによって,一層濃縮された病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を含有する濃縮物を得ることができる。」(段落【0054】),「また,前記濃縮工程中に,前記第3の工程で得られた前記病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を含有する濃縮物を界面活性剤で洗浄する洗浄工程を更に有することが望ましい。」(段落【0055】),「即ち,前記濃縮物(例えばペレット状)の付加的な洗浄工程として,界面活性剤を用いて前記濃縮物を洗浄することによって,前記濃縮物中の不所望の物質(非特異性物質)をさらに多く除去することができる。」(段落【0056】),「ここで,使用する界面活性剤としては,n-ドデシル-N,N-ジメチル-3-アンモニオ-1-プロパンスルホネート(例えばズイッタージェント3-12,3-08,3-10など)からなる界面活性剤が望ましい。」(段落【0057】)(ク) 「ここで,第4から第6工程で行われる測定法として免疫測定法,例えば酵素免疫吸着測定法(ELISA:enzyme-linkedimmnosorbentassay)は,酵素抗体法とも呼ばれ,特定の吸着面に抗体を配し,抗原と抗体とを結合せしめて,その複合体を形成し,これを検出する方法である。」(段落【0059】),「まず,前記第4の工程として,前記病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を含有する濃縮物を溶剤に溶解して前記濃縮物の溶解物を得る工程(溶解工程)を有しているので,次段の吸着工程で吸着面に吸着され易い病原性プリオン蛋白質由来蛋白質の濃縮物を作製することができる。」(段落【0060】),「こ- 87 -こで,前記溶 物を得る工程(溶解工程)を有しているので,次段の吸着工程で吸着面に吸着され易い病原性プリオン蛋白質由来蛋白質の濃縮物を作製することができる。」(段落【0060】),「こ- 87 -こで,前記溶剤としてグアニジンチオシアネート(GdnSCN)を使用することが望ましい。」(段落【0061】),「グアニジンチオシアネートは,前記濃縮物を次段での吸着工程で吸着されやすくする作用を有すると考えられる。これは,グアニジンチオシアネートによって抗プリオン蛋白質抗体の免疫反応性が増大するような抗原性サイトが発現することによるものと考えられ,グアニジンチオシアネートでの溶解処理によって,抗原-抗体複合体の強固で特異的な反応を検出することができる。」(段落【0062】),「次に,前記第5の工程として,前記溶解物中の前記病原性プリオン蛋白質を吸着面に結合させる工程(結合工程)を有しており,前段で溶解された溶解物中の前記病原性プリオン蛋白質由来蛋白質由来蛋白質を,例えばマイクロタイタープレート(microtiterplate)などに吸着させることができる。従って,抗原-抗体複合体の形成のための強く特異的な反応をこの方法にて検出することができる。」(段落【0064】),「次に,前記第6の工程として,上記第5の工程において結合された前記病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を酵素標識抗体と発色基質とを反応させて発色させる工程(発色工程)を有しているので,これを比色計や分光光度計などにより容易に検出できる。即ち,その発色度を検出することによって病原性プリオン蛋白質の有無,さらにはその蓄積濃度を調べることができる。」(段落【0066】),「この発色方法としては,前記病原性プリオン蛋白質由来蛋白質に結合するアビジン(avidin)と,前記化学発光物質に結合するビオ ,さらにはその蓄積濃度を調べることができる。」(段落【0066】),「この発色方法としては,前記病原性プリオン蛋白質由来蛋白質に結合するアビジン(avidin)と,前記化学発光物質に結合するビオチン(biotin)との複合体の形成に基づく発色を観察するアビジン-ビオチン複合体法(ABC法)やホースラディッシュペルオキシダーゼ複合ロバ抗兎免疫グロブリン(horseradishperoxidase-conjugateddonkyanti-rabbitIgG )を使用する間接法(HRP法)などを使用できる。」(段落【0068】),「なお,ELI- 88 -SA法による検出は,上述したウエスタンブロッティング法(WB法)に比べて,少なくとも同等の感度を示し,さらに,その測定は実用的かつ迅速である。また,ELISA法による検出の利点は,多くのサンプルを1回で分析することができ,潜在的に感染されている動物を大量に診断,選別することができ,感染によるプリオン病(特にBSE)をコントロールするという広汎な用途に利用することが可能である。」(段落【0072】),「上述した,本発明の濃縮方法によれば,前記動物組織由来物質に蓄積される病原性プリオン蛋白質の蓄積濃度が比較的小さくても,病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を十分に濃縮させることができる。なお,上記各濃縮方法で得られた病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を含有する濃縮物は,後段でELISA法に用いてもよいし,また,WB法や電気泳動法などに用いてもよい。」(段落【0096】)(ケ) 「本発明の濃縮方法によれば,動物の中枢神経系組織から病原性プリオン蛋白質を検出する方法の実施に際し,検出されるべき病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を濃縮する方法において,t-オクチルフェノキシポリエトキシエタノール によれば,動物の中枢神経系組織から病原性プリオン蛋白質を検出する方法の実施に際し,検出されるべき病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を濃縮する方法において,t-オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(トリトン(商標)X-100),サーコシル(商標)を用いて前記中枢神経系組織中の非特異的物質を可溶化し,さらに前記可溶化された非特異的物質をプロテアーゼを用いて分解処理するため,病原性プリオン蛋白質を含有する前記動物組織由来物質を十分に均一化及び分解することができる。」(段落【0074】),「また,プロテアーゼを含む分解酵素を用いて分解処理するので,前記均一化物中の病原性プリオン蛋白質を含む物質(特に,染色体)を十分に分解,消化させて,目的物である病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を十分に取り出すことができる。」(段落【0077】),「前記分解酵素として,コラーゲン分解酵素及びDNA分解酵素を用いて前記均一化物を分解し,さらに微生物プロテアーゼを含む蛋白質分解酵素を用いて分解- 89 -することが望ましい。」(段落【0078】)(コ) 「【実施例】 以下,本発明を具体的な実施例について説明するが,本発明は以下の実施例に限定されるものではない。」(段落【0097】),「以下,PrPSC由来蛋白質の濃縮方法に関し,方法1~方法8について図1~3を参照しながら簡単に説明する。」(段落【0101】),「方法1 まず,8%ズイッタージェント3-12(界面活性剤)と,サーコシルと,100mM塩化ナトリウム(NaCl)と,5mM塩化マグネシウム(MgCl2)と50mM,pH=7.5のトリス-塩酸緩衝液(Tris-HCl)とを加えて,上記脳組織を均一化し,均一化物(ホモジネート)を作製した(第1の工程)。」(段落【0102】),「次いで,この均一化物を 50mM,pH=7.5のトリス-塩酸緩衝液(Tris-HCl)とを加えて,上記脳組織を均一化し,均一化物(ホモジネート)を作製した(第1の工程)。」(段落【0102】),「次いで,この均一化物を,0.5mg/100mgコラゲナーゼ〔3,4,24,3〕(Collagenase)及び40μg/100mgのDNアーゼ〔3,1,21,1〕(DNase)を用いて,温度37℃,4~12時間で分解(消化)処理を行い,さらに,50μg/100mgのプロテイナーゼ〔3,4,21,14〕(ProteinaseK)を用い,温度37℃,0.5~2時間で分解(消化)処理を行った(第2の工程)。この分解(消化)処理は,前記組織中の病原性プリオン蛋白質以外の測定夾雑物質の酵素分解のために行ったものである。」(段落【0103】),「次いで,反応を停止した後,回転数15,000rpm,室温で20分間遠心分離を行った。これを,5%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)で10分間加熱溶解させ(第3の工程),PrPSC由来蛋白質含有の濃縮物を得た(図1)。」(段落【0104】),「方法2 まず,方法1と同様に,上記脳組織を均一化し均一化物を作製した(第1の工程)。次いで,前記均一化物を,ブロメリン〔3,4,22,23〕(Bromelain)を用いて温度45℃,0.5~2時間で分解(消化)した(第2の工程)。」(段落【0105】),「次いで,反応を停止した後,回転数15,000rpm,室温で20- 90 -分間遠心分離を行った。これを,5%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)で10分間加熱溶解させ(第3の工程),PrPSC由来蛋白質含有の濃縮物を得た(図1)。」(段落【0106】),「なお,ブロメリンを用いる場合,作用温度45~80℃,作用時間1~10時間程度が望ましい。ブロ 加熱溶解させ(第3の工程),PrPSC由来蛋白質含有の濃縮物を得た(図1)。」(段落【0106】),「なお,ブロメリンを用いる場合,作用温度45~80℃,作用時間1~10時間程度が望ましい。ブロメリンを用いる結果,使用する酵素の種類が1種類となり,また操作が簡便(操作時間の短縮や経費圧縮)になる。なお,測定結果は,3種類の酵素(コラゲナーゼ,DNアナーゼ,プロテイナーゼ)を用いた場合と感度においても遜色のない(同程度)結果であった。」(段落【0107】)(サ) 「方法3 組織重量の5~8倍容量の4%トリトンX-100(非イオン性界面活性剤)と,0.5%サーコシルと,100mM塩化ナトリウム(NaCl)と,5mM塩化マグネシウム(MgCl2)と,50mM,pH=7.5のトリス-塩酸緩衝液とを加えて,上記脾臓組織及び脳組織を均一化し均一化物を作製した(第1の工程)。」(段落【0108】),「次いで,方法1と同様の分解(消化)処理を行った(第2の工程)。さらに方法1と同様の分離処理を行った(第3の工程)。」(段落【0109】),「次いで,前記分離処理(第3の工程)で得られた沈殿物を6.25%サーコシル及び10mM,pH=9.2のトリス-塩酸緩衝液を用いて懸濁化,分解した(分解工程)。」(段落【0110】),「次いで,これを超音波破砕してから,回転数15,000rpmで遠心分離し,その後,遠心分離で得られた溶液の上澄みに,最終濃度12%でNaClを添加,攪拌した(塩析工程)。この後,回転数55,000rpmで超遠心分離し,5%SDSを用いて加熱溶解し,PrPSC由来蛋白質含有の濃縮物を得た(図2)。」(段落【0111】)(シ) 「方法4 方法3と,分離処理(第3の工程)までは同様にして,上記脾臓組織及び脳組織の分離を行ったのち,得 熱溶解し,PrPSC由来蛋白質含有の濃縮物を得た(図2)。」(段落【0111】)(シ) 「方法4 方法3と,分離処理(第3の工程)までは同様にして,上記脾臓組織及び脳組織の分離を行ったのち,得られた沈殿物(ペレッ- 91 -ト状)を5%SDSを用いて加熱溶解し,PrPSC由来蛋白質含有の濃縮物を得た(図2)。」(段落【0112】)(ス) 「方法5 方法3と,分離処理(第3の工程)までは同様にして,上記脾臓組織の分離を行ったのち,得られた沈殿物(ペレット状)を8%ズイッタージェント3-12(界面活性剤)と,10mM,pH=7. 5のトリス-塩酸緩衝液とを加えて均一化し,均一化物を作製した(洗浄工程)。」(段落【0113】),「次いで,回転数15,000rpmで遠心分離し,得られた沈殿物(ペレット状)を5%SDSを用いて加熱溶解し,PrPSC由来蛋白質含有の濃縮物を得た(図2)。」(段落【0114】),「方法5で用いたズイッタージェント3-12は,不所望な材料(非特異的物質)を更に多く除去するために,第3の工程(回転数15,000rpm)での遠心分離(TLA 100.3回転子,オプティマTLX デスクトップ型超遠心機,ベックマン(Beckman)社製)で得られたペレットの付加的な洗浄工程として用いた。」(段落【0119】)(セ) 「4.ELISA法図4に示すように,マイクロタイタープレートへの適切な吸着条件を調べるために,まず,脳組織及び脾臓組織抽出物を,5%SDS:ドデシル硫酸ナトリウム中で10分間加熱沸騰させ(1),これを10倍容量以上の氷冷メタノール中で沈殿させた(2)。 この組織抽出物は,通常,10~40mgの原組織を含有していた。但し,前記(数値)は,図4中の(数値)と対応するものである(以下,同様)。」(段落【0 容量以上の氷冷メタノール中で沈殿させた(2)。 この組織抽出物は,通常,10~40mgの原組織を含有していた。但し,前記(数値)は,図4中の(数値)と対応するものである(以下,同様)。」(段落【0122】),「次いで,遠心分離処理(3)後,得られたペレット状沈殿物を100μlの異なる濃度(1~5M)のグアニジンチオシアネート(グアニジンチオシアン酸エステル:GdnSCN),PBS(リン酸緩衝生理食塩水:最終pH≦5)中で超音波溶解させた(4)。ここまでの工程(1)~(4)は上述した第4の工程に相当するものである。」(段落【0123】),「また,図5に示すよ- 92 -うに,溶剤としてSDSを用いた場合の測定を行うために,GdnSCNの使用に変えて,ペレットを100μlの異なる濃度(0.1~4%(vol/vol))のSDS,PBS(最終pH≦5)中に溶解させた。」(段落【0124】),「5.測定結果 (1)適当なコーティング条件の決定マイクロタイタープレートへの高い吸着率を実現するためには,PrPSC由来蛋白質を十分に溶解させる必要がある。ここで,PrPSCを溶解させるためにGdnSCNとSDSの有用性を評価した(図5)。」(段落【0137】),「図5において,マイクロタイタープレートへのPrPSC由来蛋白質吸着に対するGdnSCN及びSDSの効果を見るために,スクレーピー感染マウスの脳組織(A)及び脾臓組織(B)からのサンプルを方法1及び方法5によってそれぞれ調製した。」(段落【0138】),「なお,前記カオトロピックイオン剤は,疎水性分子の水溶性を増加させ,疎水結合を弱め,膜蛋白質等の抽出に用いられるものであり,例えばGdnSCNが挙げられる。」(段落【0140】),「また,SDS濃度が最低濃度(0.1%)であっても,脳組 性分子の水溶性を増加させ,疎水結合を弱め,膜蛋白質等の抽出に用いられるものであり,例えばGdnSCNが挙げられる。」(段落【0140】),「また,SDS濃度が最低濃度(0.1%)であっても,脳組織からPrPSC由来蛋白質の吸着は生じていなかった(図5(A))。」(段落【0141】),「これに対して,PBS濃度を増やしながらGdnSCNをPBSに添加すると,コーティング効率が向上し,GdnSCNの濃度が4Mの側で脾臓組織のものについてのピークが生じた(図5(B))。また,3M付近のGdnSCN濃度で,脳組織のものについてはピークを示した(図5(A))。即ち,溶剤として1~5M(特に3~4M)のGdnSCNを使用したとき,強く特異的な吸着が見られた。」(段落【0142】),「スクレーピー感染マウスの脳組織のサンプル(A)を方法1で調製し,引き続いて,3MのGdnSCN中へ順次2倍ずつ希釈した。」(段落【0145】),「(3)適切なサンプル調製法(濃縮法)の確立 ELISA法については方法- 93 -3を用いた。このサンプル調製(濃縮)法は公知のウエスタンブロット法(グレイスウォール他,1996年)用のサンプル調製法である。」(段落【0147】)(ソ) 「本発明者は,WB法と感度が少なくとも同等であり,容易かつ短時間に検出可能なELISA法を脳組織及び脾臓組織に適用した。」(段落【0175】),「スクレーピー診断にELISA法を開発する上での大きな障害は,PrPSCが容易に沈積状態に凝集することであった(メイヤー他,1986年)。スクレーピー感染組織のギ酸又はSDSでの予備処理(カスクサック他,1987年),更に,純粋なPrPSCのGdnSCNでの変性(これはマイクロタイタープレートへの吸着後に行われた;サーバン他,1990年 ーピー感染組織のギ酸又はSDSでの予備処理(カスクサック他,1987年),更に,純粋なPrPSCのGdnSCNでの変性(これはマイクロタイタープレートへの吸着後に行われた;サーバン他,1990年)が報告されており,これは,抗PrP抗体の免疫反応性を増大させる。また,マイクロタイタープレートへのBSA牛胎児血清)の吸着がグアニジンの存在下で向上することが報告された(ズー他,1993年)。グアニジンはおそらく,抗原性サイトが生じることによって次々と耐プリオン蛋白質抗体の免疫反応性を増大させるPrPSCの展開を促進させるものと考えられる。」(段落【0176】),「これらの観察及び考察に基づいて,本発明者は,PrPSC含有物質を直接溶解させるために1M~5M(特に3M及び4M)のGdnSCNを用い,この濃度でのGdnSCNの存在下でマイクロタイタープレートへのPrPSC の吸着に成功した。」(段落【0177】),イ第1次訂正発明の構成要件E’の「洗浄することなく溶解液とし,再沈殿することなく」の意義等(ア) 「洗浄」とは,通常,「固体の表面に付着したよごれや好ましくない物質を,液体により取り除くこと」(科学大辞典(乙21))を意味するものと認められる。 - 94 -そして,本件明細書においても,遠心分離処理によって得られた濃縮物について,付加的な工程として,ズイッタージェント3-12等の界面活性剤を用いて処理する工程を「洗浄」ないし「洗浄工程」と呼んでおり(段落【0055】ないし【0057】(前記ア(キ)),【0113】(前記ア(ス)),図2,図3),かかる処理の目的は,不所望な材料(非特異的物質)を更に多く除去するためであることが記載されている(段落【0119】(前記ア(ス))。 一方,濃縮物を5%SDSに加熱溶解し ス)),図2,図3),かかる処理の目的は,不所望な材料(非特異的物質)を更に多く除去するためであることが記載されている(段落【0119】(前記ア(ス))。 一方,濃縮物を5%SDSに加熱溶解し,メタノール中で沈殿させる操作は,蛋白質を変性させる操作であって(乙23),これを「洗浄」と呼ぶことは通常の用語法ではないし,本件明細書中にこれを「洗浄」と呼ぶことの記載も示唆もない。 このような「洗浄」という用語の通常の意味及び本件明細書の発明の詳細な説明の記載事項によれば,構成要件E’の「前記濃縮物を洗浄することなく溶解液とし,再沈殿させることなく」にいう「洗浄」とは,方法5(図2)及び方法8(図3)で付加的な工程として行われている,ズイッタージェント3-12等の界面活性剤で,遠心分離処理により得られた濃縮物を処理する「洗浄工程」における「洗浄」を意味し,濃縮物を5%SDSに加熱溶解し,メタノール中で沈殿させる操作は「洗浄」に当たらないものと認められる。 また,構成要件E’の「前記濃縮物を洗浄することなく溶解液とし,再沈殿させることなく」にいう「再沈殿させることなく」とは,文言上,時系列で記載されているといえ,濃縮物をグアニジンチオシアネート(GdnSCN)等の溶剤に溶解して溶解液とした後,再沈殿させないで溶解液をそのまま酵素免疫吸着測定法に用いることを意味するものと解される。 さらに,本件明細書において,沈殿物をGdnSCN-PBSで溶解- 95 -させた溶液について,再沈殿といえる工程を有していないことからも,上記解釈が妥当である。 (イ) 以上によれば,第1次訂正前の本件発明には,濃縮物に対する洗浄工程を付加する場合とこれを付加しない場合を実施態様として含み得るものであったところ,第1次訂正は,このような付加的な「 ある。 (イ) 以上によれば,第1次訂正前の本件発明には,濃縮物に対する洗浄工程を付加する場合とこれを付加しない場合を実施態様として含み得るものであったところ,第1次訂正は,このような付加的な「洗浄工程」ないし「洗浄」を行わず,これに伴う再沈殿をさせない場合に限定したものであり,構成要件E’の「前記濃縮物を洗浄することなく溶解液とし,再沈殿させることなく酵素免疫吸着測定法により検出することと」とは,付加的な「洗浄」を行わず,かつ,濃縮物をグアニジンチオシアネート(GdnSCN)等の溶剤に溶解して溶解液とした後に,当該溶解液について再沈殿させる操作を経ることなく酵素免疫吸着測定法に用いることを意味するものと解される。 しかるところ,乙7に記載された発明においても,上記のような付加的な「洗浄工程」ないし「洗浄」は行われず,かつ,GdnSCNに溶解して得られた溶解液について再沈殿させる操作を経ることなく酵素免疫吸着測定法に使用している。 したがって,構成要件E’は,濃縮物を5%SDSに加熱溶解し,メタノール中で沈殿させる操作を排除するものとは解されず,第1次訂正によって,原告主張の新たな相違点が生じるものと解することはできない。 ウ原告の主張に対する判断原告は,①構成要件D’の濃縮物は固体状態(ペレット状)であり,構成要件E’は,その固体を「洗浄することなく」溶解して,当該溶液につき「再沈殿させることなく」,酵素免疫吸着測定法を行うのであるから,構成要件E’に記載された溶解液は,酵素免疫吸着測定法に適した溶剤に試料を溶解した溶液であり,濃縮物を得た後に,SDSに溶解してメタノ- 96 -ール沈殿をすることは観念できない,②構成要件E’の「洗浄することなく溶解液とし,再沈殿させることなく」にいう「洗浄」とは,付加的な洗 液であり,濃縮物を得た後に,SDSに溶解してメタノ- 96 -ール沈殿をすることは観念できない,②構成要件E’の「洗浄することなく溶解液とし,再沈殿させることなく」にいう「洗浄」とは,付加的な洗浄を意味し,SDS溶解及びメタノール沈殿は,この「洗浄」に当たる,③SDS溶解及びメタノール沈殿は,本件発明に必須の操作ではなく,これを省略できることは,本件明細書から読み取ることができるとして,第1次訂正により,5%SDSに溶解し,メタノールによる再沈殿を行う操作は,排除される旨主張する。 しかしながら,原告主張のSDS溶解が,構成要件E’の「前記濃縮物を洗浄することなく溶解液とし,再沈殿させることなく」にいう「洗浄」に当たらないことは,前記イ(ア)認定のとおりである。 そして,本件明細書の段落【0052】ないし【0057】,【0110】,【0111】,【0113】,【0114】,【0120】,図2及び図4によれば,本件明細書には,遠心分離により濃縮物を得た後,溶解液とする前までの中間に行う処理として,付加的な工程であると明記されているものを含め,方法3における「(塩析工程)」,「超遠心分離」及び「沈殿を5%SDSで加熱溶解」(図2),方法4における「沈殿を5%SDSで加熱溶解」(図2),方法5における「(洗浄工程)」,「遠心分離」及び「沈殿を5%SDSで加熱溶解」(図2),第4の工程における「(1) (沈殿を5%SDSで沸騰,10min)」,「(2) 10倍量のエタノールで沈殿させる」及び「(3) 遠心分離」(図4)などの開示がある。 ここで,構成要件E’においては,「濃縮物」を「溶解液」とする前に「洗浄」しないことを規定するのみであるから,濃縮物を得る段階と濃縮物を溶解液とする段階の中間に,上記「(洗浄工程)」における「洗 ここで,構成要件E’においては,「濃縮物」を「溶解液」とする前に「洗浄」しないことを規定するのみであるから,濃縮物を得る段階と濃縮物を溶解液とする段階の中間に,上記「(洗浄工程)」における「洗浄」以外の処理を行うことは排除されていないというべきである。 そうすると,「濃縮物」が固体状態(ペレット状)であるとしても,濃- 97 -縮物を得る段階と濃縮物を溶解液とする段階の中間に,SDSに加熱溶解してメタノール沈殿をするという「洗浄」に当たらない処理を行うことは,構成要件E’で排除されていないというべきである。 また,構成要件E’の「再沈殿させることなく」とは,「溶解液」とする工程の後に再沈殿させることをせずに,当該溶解液を酵素免疫吸着測定法に用いることを意味することは,前記イ(イ)認定のとおりである。 そうすると,「5%SDSで加熱溶解」に引き続き行われる「メタノール沈殿(エタノール沈殿)」は,「溶解液」とする工程の前に行われるものであるから,構成要件E’の「再沈殿」に該当せず,構成要件E’で排除されていないというべきである。 したがって,原告の上記主張は理由がない。 (2) 以上によれば,第1次訂正によって,本件発明についての無効理由2が解消されるものとはいえないから,その余の点について判断するまでもなく,原告の第1次訂正による対抗主張は,理由がない。 3 第2次訂正による対抗主張の成否(争点3-2)について(1) 原告は,①第2次訂正は,本件発明の構成要件Cの「前記可溶化された非特異的物質をプロテアーゼを用いて分解処理することと」の構成について「コラーゲン分解酵素及びDNA分解酵素を用いることなく」との条件を付加し,かつ,「プロテアーゼ」を「プロテイナーゼK」に特定して限定し,第2次訂正発明の構成要件C'' することと」の構成について「コラーゲン分解酵素及びDNA分解酵素を用いることなく」との条件を付加し,かつ,「プロテアーゼ」を「プロテイナーゼK」に特定して限定し,第2次訂正発明の構成要件C'' の「前記可溶化された非特異的物質をコラーゲン分解酵素及びDNA分解酵素を用いることなくプロテイナーゼKを用いて分解処理することと」の構成に,本件発明の構成要件Eの「前記濃縮物を酵素免疫吸着測定法により検出することと」の構成について「直接カオトロピックイオン剤を用いて溶解液とし」との条件を付加して限定し,第2次訂正発明の構成要件E'' の「前記濃縮物を洗浄することなく直接カオトロピックイオン剤を用いて溶解液とし,酵素免疫吸着測定法により検出する- 98 -ことと」の構成にそれぞれ訂正したものであって,これは,本件明細書の実施例に示された,濃縮物を5%SDSに加熱溶解し,メタノール中で沈殿させる付加的な操作を排除することなどを意味する,②第2次訂正によって,第2次訂正発明と乙7に記載された発明との間には,本件発明と乙7に記載された発明との間に存在しなかった新たな相違点が生じるが,乙7及び乙9には,上記新たな相違点に係る第2次訂正発明の構成の開示がないことからすると,当業者が乙7及び乙9に基づいて第2次訂正発明を容易に想到し得るものではないから,第2訂正によって被告主張の無効理由2は解消される,③被告方法は,第2次訂正発明の技術的範囲に属するとして,被告主張の無効理由2は,第2次訂正による対抗主張によって否定される旨主張する。 ア構成要件Cに係る訂正についての訂正要件の充足性(ア) 第2次訂正は,本件発明の構成要件Cを,「前記可溶化された非特異的物質をコラーゲン分解酵素及びDNA分解酵素を用いることなくプロテイナーゼKを用いて分解処理す 正についての訂正要件の充足性(ア) 第2次訂正は,本件発明の構成要件Cを,「前記可溶化された非特異的物質をコラーゲン分解酵素及びDNA分解酵素を用いることなくプロテイナーゼKを用いて分解処理することと」(第2次訂正発明の構成要件C'' )と訂正するものである。 そして,前記1(1)イの認定事実によれば,乙7記載の方法における可溶化された非特異的物質の分解処理は,「collagenase処理」及び「proteinaseK」処理によって行われ,これは,コラーゲン分解酵素及びプロテイナーゼKを用いた分解処理を意味するものであるから,第2次訂正後の本件発明(第2次訂正発明)と乙7に記載された発明との間には,可溶化された非特異的物質の分解処理について,第2次訂正発明は,コラーゲン分解酵素及びDNA分解酵素を用いることなく,プロテイナーゼKを用いるのに対し,乙7に記載された発明は,プロテイナーゼKと共にコラーゲン分解酵素を用いる点で相違するものといえる。 - 99 -(イ) この点に関し,被告は,本件明細書の実施例では,非特異的物質の分解処理工程において,プロテイナーゼK,コラーゲン分解酵素及びDNA分解酵素が用いられており,本件明細書には,プロテイナーゼKのみで分解処理工程を行った実施例は含まれておらず,プロテイナーゼKを用いる場合に,コラーゲン分解酵素及びDNA分解酵素を省略することができることの記載も示唆もなく,第2次訂正発明の構成要件C'' (上記相違点に係る第2次訂正発明の構成)は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載によってサポートされていないから,第2次訂正発明には,サポート要件違反の無効理由があり,第2次訂正は,独立特許要件を欠き,訂正要件(特許法126条5項)を充足しない旨主張する。 平成14年法律第24号によ ートされていないから,第2次訂正発明には,サポート要件違反の無効理由があり,第2次訂正は,独立特許要件を欠き,訂正要件(特許法126条5項)を充足しない旨主張する。 平成14年法律第24号による改正前の特許法36条6項1号は,特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであることに適合するものでなければならない旨規定している。 ところで,同条項に定める要件(サポート要件)の適合性の有無は,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載されていることを前提とした上で,発明の詳細な説明の記載及び特許出願時の技術常識に照らし,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かによって判断すべきである。 そこで検討するに,本件明細書の記載事項(前記2(1)ア)を総合すると,本件明細書には,①本件発明は,動物組織由来物質から,比較的低濃度でも迅速かつ簡便に,高感度で組織特異的に病原性プリオン蛋白質を検出できる病原性プリオン蛋白質の検出方法及びその検出方法の実施の際の試料となる病原性プリオン蛋白質由来蛋白質の濃縮方法を提供することを課題とし,その課題を解決する手段として,本件発明の- 100 -特許請求の範囲(請求項1)記載の各構成を採用したこと,②本件発明の効果として,病原性プリオン蛋白質由来蛋白質の濃縮工程において,特に,中枢神経組織に適した界面活性剤を用いて非特異的物質を可溶化し,可溶化された非特異的物質をプロテアーゼを用いて分解処理しているので,中枢神経組織に蓄積される病原性プリオン蛋白質の蓄積濃度が比較的小さくても,病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を十分に濃縮させることができ,さらに,濃縮された病 ロテアーゼを用いて分解処理しているので,中枢神経組織に蓄積される病原性プリオン蛋白質の蓄積濃度が比較的小さくても,病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を十分に濃縮させることができ,さらに,濃縮された病原性プリオン蛋白質を酵素免疫吸着測定法に基づいて検出することにより,病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を特異的に,かつ強固に結合(固定化)させることができ,迅速かつ簡便に,そして高感度でこれを検出することができることが開示されている。 そして,第2次訂正による本件発明の訂正内容及び第2次訂正発明の特許請求の範囲の記載に照らすならば,第2次訂正発明の課題及び効果は,本件発明の上記課題及び効果と同旨のものであることが認められる。 しかるところ,本件明細書の発明の詳細な説明には,前記2(1)アのとおり,非特異的物質の分解処理工程において,プロテアーゼとして「プロテイナーゼK」を用いた実施例(「方法3」ないし「方法5」)においては,プロテイナーゼKと共に,コラーゲン分解酵素である「コラゲナーゼ」及びDNA分解酵素である「DNアーゼ」が用いられており,これらのコラーゲン分解酵素及びDNA分解酵素を用いることなく,プロテイナーゼKのみを用いて分解処理を行った実施例の記載はない。 また,本件明細書には,非特異的物質の分解処理工程に関し,「次に,前記第2の工程として,前記第1の工程で得られた均一化物を微生物プロテアーゼを含む分解酵素を用いて分解処理する分解処理工程を有しているので,前記均一化物中の病原性プリオン蛋白質を含む物質(特に,- 101 -染色体やDNAなど)を十分に分解,消化させて,目的物である病原性プリオン蛋白質を十分に取り出すことができる。」(段落【0047】),「ここで,前記分解酵素としてコラーゲン分解酵素(コラゲナーゼ:Col やDNAなど)を十分に分解,消化させて,目的物である病原性プリオン蛋白質を十分に取り出すことができる。」(段落【0047】),「ここで,前記分解酵素としてコラーゲン分解酵素(コラゲナーゼ:Collagenase)及びDNA分解酵素(DNアーゼ:DNase)を用いて前記均一化物を分解し,さらに蛋白質分解酵素(プロテイナーゼ:Proteinase又はプロテアーゼ:Protease)を用いて分解することが望ましい。」(段落【0049】),「また,プロテアーゼを含む分解酵素を用いて分解処理するので,前記均一化物中の病原性プリオン蛋白質を含む物質(特に,染色体)を十分に分解,消化させて,目的物である病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を十分に取り出すことができる。」(段落【0077】),「前記分解酵素として,コラーゲン分解酵素及びDNA分解酵素を用いて前記均一化物を分解し,さらに微生物プロテアーゼを含む蛋白質分解酵素を用いて分解することが望ましい。」(段落【0078】)との記載がある。これらの記載は,「プロテアーゼを含む分解酵素」を用いることにより,目的物である病原性プリオン蛋白質を十分に取り出すことができること,「プロテアーゼを含む分解酵素」におけるプロテアーゼ以外の分解酵素の組合せとしてコラゲナーゼ及びDNアーゼを用いることが望ましいことを開示するものといえる。 一方で,本件明細書の発明の詳細な説明には,プロテイナーゼKを用いる場合に,コラーゲン分解酵素及びDNA分解酵素を用いることを省略することができることについての記載も示唆もない。かえって,本件明細書には,プロテアーゼとして,「ブロメリン」を用いた場合に関し,「なお,ブロメリンを用いる場合,作用温度45~80℃,作用時間1~10時間程度が望ましい。ブロメリンを用いる結果,使用する酵 件明細書には,プロテアーゼとして,「ブロメリン」を用いた場合に関し,「なお,ブロメリンを用いる場合,作用温度45~80℃,作用時間1~10時間程度が望ましい。ブロメリンを用いる結果,使用する酵素の種類が1種類となり,また操作が簡便(操作時間の短縮や経費圧縮)になる。なお,測定結果は,3種類の酵素(コラゲナーゼ,DNアナー- 102 -ゼ,プロテイナーゼ)を用いた場合と感度においても遜色のない(同程度)結果であった。」(段落【0107】)との記載がある。上記記載は,プロテアーゼとして,「ブロメリン」を用いる場合には,「コラゲナーゼ」及び「DNアナーゼ」を用いなくても,所望の検出感度を得ることができるが,「プロテイナーゼK」を用いて所望の検出感度を得るには,「プロテイナーゼK」,「コラゲナーゼ」及び「DNアナーゼ」の3種類の酵素を用いることが必要であることを示唆するものといえる。 さらに,本件原々出願当時,可溶化された非特異的物質の分解処理工程において,「プロテイナーゼK」のみを用いることによって,中枢神経組織に蓄積される病原性プリオン蛋白質の蓄積濃度が比較的小さくても,病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を十分に濃縮させる効果を奏することが技術常識であったことを認めるに足りる証拠はない。 以上を総合すると,当業者が,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件原々出願当時の技術常識に照らし,第2次訂正発明の構成要件C'' の「前記可溶化された非特異的物質をコラーゲン分解酵素及びDNA分解酵素を用いることなくプロテイナーゼKを用いて分解処理する」構成を採用した場合に,中枢神経組織に蓄積される病原性プリオン蛋白質の蓄積濃度が比較的小さくても,病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を十分に濃縮させる効果を奏し,高感度で組織特異的に病原性プリオ する」構成を採用した場合に,中枢神経組織に蓄積される病原性プリオン蛋白質の蓄積濃度が比較的小さくても,病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を十分に濃縮させる効果を奏し,高感度で組織特異的に病原性プリオン蛋白質を検出できるとする本件発明の課題を解決できることを認識できるものと認めることはできない。 したがって,第2次訂正発明は,サポート要件に適合しないというべきであるから,第2次訂正発明には,サポート要件違反の無効理由があるものと認められる。 イ小括- 103 -そうすると,第2次訂正は,独立特許要件を欠くものであって,訂正要件を充足しないというべきである。 (2) 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の第2次訂正による対抗主張は,理由がない。 4 結論以上によれば,本件発明に係る本件特許は,被告主張の無効理由2によって,特許無効審判により無効にされるべきものと認められるから,特許法104条の3第1項の規定により,原告は,本件特許権を行使することができないというべきである。 したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は,いずれも理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官大鷹一郎 裁判官上田真史 裁判官石神有吾 - 104 -別紙物件目録1. 名称「テセーBSE」2. 構成,成分及び分量(1) テセーBSE精製キット・ [A]プロティナーゼK希釈液(尿素0.12g/mL) 55mL・ [B]クラリファイングソリューション(1-ブタノール) 2. 構成,成分及び分量(1) テセーBSE精製キット・ [A]プロティナーゼK希釈液(尿素0.12g/mL) 55mL・ [B]クラリファイングソリューション(1-ブタノール)55mL・ [C]溶解液(尿素0.36g/mL)7mL・ [PK]プロティナーゼK溶液(Tritirachiumalbum由来)(500μL中プロティナーゼK450μL) 0.5mL・グラインディングチューブ1.4mL×96本×2袋(ブドウ糖50mg/mL,セラミックビーズ)(2) テセーBSE検出キット・ [R1]固相マイクロプレート96穴プレート×2枚(抗ヒトプリオン蛋白マウスモノクローナル抗体0.5μg/ウェル)・ [R2]洗浄原液250mL(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩酸塩12.1mg/mL)・ [R3]陰性コントロール(リン酸緩衝液)4mL・ [R4]陽性コントロール(凍結乾燥品) 4mL用(ヒトプリオン蛋白合成ぺプチド2μg)・ [R6]希釈液35mL(リン酸カリウム2.7mg/mL,リン酸二カリウム13.9mg/mL)・ [R7]酵素標識抗体2.8mL(ペルオキシダーゼ標識抗ヒトプリオン蛋白マウスモノクローナル抗体1μg/mL)- 105 -・ [R8]基質緩衝液(0.015%過酸化水素) 60mL・ [R9]発色液5mL(テトラメチルベンチジン二塩酸塩2.5mg/mL)・ [R10]反応停止液(硫酸0.5mol/L)28mL(3) 付属品・プレートシール8枚- 106 -別紙明細書図面図1 図2 - 107 -図3図4 - 108 -図5 付属品・プレートシール8枚 別紙明細書図面図1 図2 図3 図4 図5

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