令和2(ワ)2625 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和4年11月25日 大阪地方裁判所
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判決文本文13,313 文字)

主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は、原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 被告は、原告に対し、1650万円及びこれに対する平成▲年▲月▲日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の要旨原告は、被告が公文書の改ざんを指示したことにより原告の夫にうつ病を発 症させて自殺するに至らせたなどと主張して、被告に対し、民法709条に基づく損害賠償として、1650万円及びこれに対する不法行為後の日(原告の夫が自殺した日)である平成▲年▲月▲日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている。 2 前提事実次の事実は、文中に掲記の証拠及び弁論の全趣旨により認められる。 (1) 当事者等ア Aは、昭和38年生まれで、平成29年当時、財務省の地方支分部局である近畿財務局の管財部統括国有財産管理官(1)所属の上席国有財産管理 官であった(甲1、乙10)。 イ原告は、Aの妻である(甲1)。 ウ被告は、平成29年2月当時、財務省理財局長であった。同年7月5日、国税庁長官に就任し、平成30年3月9日、懲戒処分を受け、同日依願退職した(甲8)。 (2) 森友学園案件の概要 ア学校法人森友学園(以下「森友学園」という。)は、近畿財務局に対し、大阪府豊中市a町b番所在の国有地(以下「本件土地」という。)を小学校の建設用地として一定期間借り受けた上で買い受けることを要望した。国(近畿財務局長)は、森友学園との間で、本件土地について、平成27年5月29日、10年間の事業用定期借地契約及び売買予約契約を締結し、 次いで、平成28年6月20日、売買契約を締結し、本件土地 (近畿財務局長)は、森友学園との間で、本件土地について、平成27年5月29日、10年間の事業用定期借地契約及び売買予約契約を締結し、 次いで、平成28年6月20日、売買契約を締結し、本件土地は、森友学園に売却された(甲8、9)。 イ森友学園への本件土地売却については、豊中市議会議員等からの情報公開請求、国会議員からの資料要求、報道機関からの照会等の動きがあり、平成29年2月9日には、「近畿財務局が売却額等を非公表にしている」、 「売却額は同じ規模の近隣国有地の10分の1」、「森友学園が買った土地には、今春に同学園が運営する小学校が開校する予定」、「同校の名誉校長は首相の妻」などといった報道がされた。この森友学園案件は、国会審議においても、同月15日以降、連日取り上げられるなどし、同月17日には、内閣総理大臣から、本人や妻が、事務所も含めて、この国有地払下げ に一切関わっていないことは明確にしたい旨の答弁があった。財務省において国有財産行政を所掌する理財局及び近畿財務局は、国会等の対応に追われることになった(甲8)。 (3) Aのうつ病発症及び自殺ア近畿財務局において、平成29年2月以降、通常業務のほか、森友学園 案件に関わる国会からの資料要求及び行政文書の開示請求への対応、上級官庁との連絡調整、指示事項への対応、国民からの苦情申出への対応等を担当していたAは、同年7月上旬頃、うつ病を発症した。同月20日以降病気休暇を取得し、同年10月18日からは休職となった(乙10)。 イ Aは、平成▲年▲月▲日自殺した(乙10)。 (4) Aの手記 Aが残した手記には、決裁文書の改ざんの指示について、要旨が次のとおりの記載がある(甲10、17)。 ア決裁文書の調書の差替えは事実であり、元は、 乙10)。 (4) Aの手記 Aが残した手記には、決裁文書の改ざんの指示について、要旨が次のとおりの記載がある(甲10、17)。 ア決裁文書の調書の差替えは事実であり、元は、全て被告の指示である。 野党に資料を示した際、森友学園を厚遇したと受け取られる疑いのある箇所は全て修正するよう被告から指示があったと聞いた。 イ平成29年2月26日、被告の指示を受けた理財局のB補佐が過剰に修正箇所を決め、B補佐の修正した文書を近畿財務局で差替えをした。 ウ平成29年3月7日頃にも修正作業の指示が複数回あり、これに相当抵抗した。近畿財務局のC管財部長は、当初は応じるなとの指示だったが、理財局のD総務課長等から直接電話があり、応じることはやむを得ないと の方針となった。 エ被告は、修正する箇所を事細かく指示したのかどうかは分からないが、B補佐などが過剰反応して、修正範囲をどんどん拡大し、修正した回数は3回ないし4回程度と認識している。 (5) 財務省による調査結果 財務省は、平成30年3月12日、理財局によって森友学園案件の決裁文書が改ざんされていたことを公表し、同年6月4日には、自らの調査結果を取りまとめた「森友学園案件に係る決裁文書の改ざん等に関する調査報告書」を公表した。この報告書には、要旨が次のとおりの記載がある(甲8、9)。 ア理財局では、平成29年2月21日の国会議員団との面会を受けて、森 友学園に本件土地を貸し付けるに当たって作成された特例申請及び特例承認に係る文書について、政治家関係者に関する記載の取扱いが問題となり得ることが認識された。理財局の総務課長及び国有財産審理室長が被告に報告したところ、被告は、当該文書の位置付け等を十分に把握しないまま、そうした記載のある文書を 係者に関する記載の取扱いが問題となり得ることが認識された。理財局の総務課長及び国有財産審理室長が被告に報告したところ、被告は、当該文書の位置付け等を十分に把握しないまま、そうした記載のある文書を外に出すべきではなく、最低限の記載とすべき であると反応した。被告からは、それ以上具体的な指示はなかったものの、 総務課長及び国有財産審理室長は、これを受けて、将来的に当該決裁文書の公表を求められる場合に備えて、記載を直す必要があると認識した。こうした認識は、国有財産企画課長にも共有された。国有財産審理室の職員は、同月26日、近畿財務局の管財部の職員に対し、決裁文書の書換えを具体的に指示した。 イ被告は、平成29年2月27日、国有財産企画課及び国有財産審理室から、本件土地の売払決議書の内容の報告を受けた際、このままでは外には出せないと反応したことから、配下の職員の間では、記載を直すことになるとの認識が改めて共有された。また、被告から総務課長及び国有財産企画課長に対して、担当者に任せるのではなくしっかりと見るようにとの指 示があり、指示を受けた両者は、記載内容を整えた上で被告の了解を得る必要があると認識した。 ウ理財局の国有財産審理室の職員は、平成29年3月7日から8日にかけて、近畿財務局に対し、決裁文書の書換え案を示した。近畿財務局の統括国有財産管理官の配下職員は、そもそも改ざんを行うことへの強い抵抗感 があったこともあり、理財局からの度重なる指示に強く反発し、同月8日までに管財部長に相談した。また、理財局の総務課長と近畿財務局の管財部長との間でも相談がされた。結論として、近畿財務局においては、統括国有財産管理官の配下職員はこれ以上作業に関与させないこととしつつ、理財局が国会対応の観点から作業を行うならば 長と近畿財務局の管財部長との間でも相談がされた。結論として、近畿財務局においては、統括国有財産管理官の配下職員はこれ以上作業に関与させないこととしつつ、理財局が国会対応の観点から作業を行うならば、一定の協力は行うものと 整理された。 (6) 公務災害認定近畿財務局長は、平成31年2月7日、原告に対し、Aの平成29年7月10日のうつ病発症が公務災害に該当し、原告が国家公務員災害補償法の規定による補償を受けることができることを通知した(甲22)。 3 争点 (1) 被告の不法行為責任の有無ア決裁文書等の改ざん指示(争点1)イ説明義務及び謝罪義務の違反(争点2)(2) 損害(争点3) 4 争点に対する当事者の主張 (1) 争点1(決裁文書等の改ざん指示)について(原告の主張)ア被告の改ざん指示財務省理財局長であった被告は、平成29年2月21日頃、理財局のD総務課長及びE国有財産審理室長(以下「E審理室長」という。)に対し、 「野党に資料を示した際、森友学園を厚遇したと取られる疑いがある箇所は全て修正するように」などと決裁文書等の改ざんを指示した。 また、被告は、平成29年2月27日、理財局の国有財産企画課及び国有財産審理室から「売払決議書」に関する報告を受けた際、「このままでは外には出せない」などと改ざんを指示した。その結果、配下の職員は、「売 払決議書」等の記載内容を改ざんする必要があるとの認識を共有した。さらに、被告は、D総務課長及びF国有財産企画課長に対し、「担当者に任せるのではなくしっかり見るように」と、改ざんの状況を自ら確認するように指示をした。両名は、「売払決議書」等の記載内容を改ざんした上で、被告の了承を得る必要があると認識した。 「担当者に任せるのではなくしっかり見るように」と、改ざんの状況を自ら確認するように指示をした。両名は、「売払決議書」等の記載内容を改ざんした上で、被告の了承を得る必要があると認識した。 イ被告の改ざん指示によりAが自殺するに至ったこと前記アの被告の改ざん指示を受けたE審理室長は、B室長補佐及び担当係長を通じて、Aら近畿財務局職員に対し、少なくとも、平成29年2月26日に4回、同月27日に1回、同年3月7日に2回、同月8日に1回、決裁文書等の改ざんを指示した。これに対し、Aは、法令や職務倫理に従 い、涙を流して抵抗し、理財局に対して抗議のメールも送信したものの、 強い強要を受け、最終的には改ざんに関与せざるを得なかった。部下を巻き込みたくないとの思いもあったと思われる。 Aは、決裁文書等の改ざんの強要により、次のとおり、平成29年2月26日以降、継続的に極めて強い心理的負荷にさらされた。その結果、同年7月上旬頃にうつ病を発症し、平成▲年▲月▲日に自殺するに至った。 被告は、自らの改ざん指示によって国家公務員倫理法や国家公務員倫理規程を遵守してきたAのような国家公務員が強度の心理的負荷を受けることは少なくとも認識認容していたから、被告には故意が認められる。 (ア) Aは、決裁文書等の改ざんに関与したことにより、連続した30日間の時間外労働時間数が、平成29年1月24日以降の起算日で100時 間を超え、同年2月5日以降の起算日では160時間を超える極度の長時間労働となり、最高で183時間39分となった。また、同年2月6日から17日まで及び同年3月6日から17日までの各12日間連続勤務に従事した。Aは、このような極度で恒常的な長時間労働や連続勤務に従事したことから、極めて強い心理的負荷を受けた。 、同年2月6日から17日まで及び同年3月6日から17日までの各12日間連続勤務に従事した。Aは、このような極度で恒常的な長時間労働や連続勤務に従事したことから、極めて強い心理的負荷を受けた。 (イ) Aは、平成29年3月20日以降は改ざんに関与することはなかったと思われるものの、同年4月から6月にかけて、会計検査院からの資料提出要求、2回の実地検査、問合せ等に対応する実務を担当したと思われる。これらの対応における近畿財務局の方針は、虚偽の回答を行うというものであり、決裁文書等の改ざんに抵抗したAがこれらを担当する ことには著しい苦痛を感じていたと思われる。また、会計検査院法は、会計検査院の要求に応じないことを懲戒処分の対象としている(同法26条、31条2項)から、懲戒処分を受ける恐怖とも闘わなければならなかった。Aは、会計検査院対応により、極めて強い心理的負荷を受けた。 (ウ) Aは、改ざん後の決裁文書等について行政文書開示請求がされた場合、 文書所管部署として対応を行っていたと考えられる。改ざん後の決裁文書等を開示するという対応をせざるを得なかったことは、行政機関の保有する情報の公開に関する法律の目的に明らかに反する行為であるから、極めて強い心理的負荷を受けた。 (エ) 決裁文書等の改ざんは、有印公文書変造及び同行使罪(刑法155条 2項、158条)や公用文書等毀棄罪(同法258条)の構成要件に該当するため、Aは、改ざんを行ったことに対する強い後悔と自責の念にさいなまれていた。平成29年11月7日には、大阪地方検察庁から、上司を通じて任意で取調べを行いたいとの打診を受け、同年12月25日、検事から電話で20分程度事情聴取を受けた。刑事訴追を受け、有 罪となる恐怖と闘わなければならず、極め 大阪地方検察庁から、上司を通じて任意で取調べを行いたいとの打診を受け、同年12月25日、検事から電話で20分程度事情聴取を受けた。刑事訴追を受け、有 罪となる恐怖と闘わなければならず、極めて強い心理的負荷を受けた。 (オ) Aは、被告や後任の理財局長や財務大臣等が国会において森友学園案件に関して虚偽答弁を139回も繰り返したことについて、これを止めることができず、虚偽であると説明できなかったことにより、極めて強い心理的負荷を受けた。 ウ被告の対外的個人責任を認めるべきであること公務員の対外的個人責任を否定し、民法709条に基づく被害者の損害賠償請求権を剥奪するには、積極的な法的根拠が必要である。その積極的な法的根拠としては、濫訴のおそれによる萎縮効果のみを検討すれば足りる。公務員の地位や違法行為の性質、態様等を踏まえ、違法行為の抑制や 権限濫用の防止の必要性と萎縮効果とを比較考量した上で、前者が上回れば、公務員の対外的個人責任を否定する積極的な法的根拠はないから、原則に戻って、民法709条に基づく公務員の対外的個人責任を認めるべきである。 被告がした決裁文書等の改ざん指示は、財務省内部における自らの保身 と歓心を買うという私的な目的をもって故意に行われた、次に述べるとお り悪質な行為であるから、その抑止の必要性は高い。他方、当該行為について被告の対外的個人責任を肯定したとしても、被告と同様の各省庁の局長以上の国家公務員に対して萎縮効果が生じるとは考えられない。したがって、本件においては、被告の民法709条に基づく対外的個人責任を認めるべきである。 (ア) 改ざんされた決裁文書等は、連日国会で質疑が繰り返されていた森友学園案件に関するものであった。これらが改ざんされた結果、国会議員は森 9条に基づく対外的個人責任を認めるべきである。 (ア) 改ざんされた決裁文書等は、連日国会で質疑が繰り返されていた森友学園案件に関するものであった。これらが改ざんされた結果、国会議員は森友学園案件について十分な審議を行うことができなかった。被告による決裁文書等の改ざん指示は、国会審議を妨害するもので、議会制民主主義を破壊するものであった。 (イ) 改ざんされた決裁文書等は、行政文書開示請求の対象となっており、開示請求を行った国民は、改ざん後の決裁文書等の開示しか受けられなかった。公文書等の管理に関する法律1条にいう「主権者である国民が主体的に利用」することや、行政機関の保有する情報の公開に関する法律1条にいう「国民の的確な理解と批判」が不可能になった。健全な民 主主義の根幹を崩して国民主権を機能不全に陥れるものであった。 (ウ) 国家公務員が決裁文書等の改ざんを指示することは、有印公文書変造及び同行使罪や公用文書等毀棄罪の構成要件に該当する行為である。国民全体の奉仕者であることを自覚して公正に職務を執行しなかったこと、職務や地位を私的利益のために用い、国民の疑惑や不信を招くような行 為を行ったこと、公共の利益の増進を目指して全力を挙げて職務に取り組まなかったことを意味するから、国家公務員倫理法及び国家公務員倫理規程に違反する。国家公務員の懲戒事由である「職務上の義務に違反し、又は職務を怠った場合」及び「国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合」(国家公務員法82条1項2号、3号)にも該当 する。 (エ) 被告は、理財局長という地位を利用し、「上司の職務上の命令」(国家公務員法98条1項)という形をとって、Aを始めとする多数の国家公務員を、犯罪行為、国家公務員倫理法及び国家公務 る。 (エ) 被告は、理財局長という地位を利用し、「上司の職務上の命令」(国家公務員法98条1項)という形をとって、Aを始めとする多数の国家公務員を、犯罪行為、国家公務員倫理法及び国家公務員倫理規程に違反する行為並びに懲戒事由に該当する行為に巻き込んだ。 (被告の主張) 原告の主張する被告の行為は、国家賠償法1条1項の適用対象となる行為であるから、公務員であった被告は、原告に対して損害賠償責任を負うことはない。 (2) 争点2(説明義務及び謝罪義務の違反)について(原告の主張) 決裁文書等の改ざん指示に係る違法性の強さ及びAの自殺という重大な結果に照らせば、被告は、原告に対し、信義則上、国家公務員を退職後も、改ざんを指示した経緯の説明と謝罪をすべき義務を負う。 原告は、平成30年10月28日に1回、令和元年8月上旬頃に2回、被告に対し、改ざんを指示した経緯の説明と謝罪を要求したが、被告は回答せ ず、上記各義務に違反した。被告は、原告に対し、民法709条に基づき損害賠償責任を負う。 (被告の主張)公務員が退職後に原告が主張するような信義則上の説明義務や謝罪義務を負うことはない。原告の主張は、公務員在職時の被告の責任を形を変えて問 おうとするものであり、公務員個人が責任を負わないとした判例の趣旨を没却するものである。 (3) 争点3(損害)について(原告の主張)原告主張の被告の各不法行為により原告が受けた損害は、次の合計165 0万円である。 ア慰謝料 1500万円(ア) 故意に改ざんを指示したことによるもの 1200万円(イ) 経緯の説明と謝罪を拒否したことによるもの 300万円イ弁護士費用 150万円(被告の主張) 500万円(ア) 故意に改ざんを指示したことによるもの 1200万円(イ) 経緯の説明と謝罪を拒否したことによるもの 300万円イ弁護士費用 150万円(被告の主張) 否認ないし争う。 第3 当裁判所の判断 1 本件訴訟の経過次の各点は、当裁判所に顕著である。 (1) 提訴当初の請求内容 ア原告は、本件訴訟の提起当初、被告に対する請求のほか、国に対し、Aの相続人として、同人が決裁文書等の改ざん作業を強制されたこと及び長時間労働や連続勤務を余儀なくされたことが国の注意義務違反によるもので、その結果、うつ病を発症し自殺するに至ったと主張して、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償として、逸失利益6288万9107円、死亡 慰謝料2800万円、遺族固有の慰謝料500万円、葬祭料150万円及び弁護士費用973万8910円の合計1億0712万8017円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。 イ原告は、本件訴訟の提起当初、被告に対しては、慰謝料500万円及び弁護士費用50万円の合計550万円及びこれに対する遅延損害金の支 払を求めた。 (2) 国からの証拠提出ア国は、本件訴訟において、求釈明に応じ、Aの労働時間に関する資料(乙1~9)や、公務災害認定に関する資料(乙10)を書証として提出した。 イ原告は、令和3年2月8日、近畿財務局長に対し、Aが、決裁文書等の 改ざんに関し、どのような過程を経て改ざんが行われたか一目で分かるよ うにまとめた文書又は準文書(いわゆる「Aファイル」)について、文書提出命令を申し立てた。 これを受け、国は、令和3年6月21日、「本省の対応(調書等修正指示)」と題する書面から始まる書類一式(乙11)を任意に提出し、その後、こ 「Aファイル」)について、文書提出命令を申し立てた。 これを受け、国は、令和3年6月21日、「本省の対応(調書等修正指示)」と題する書面から始まる書類一式(乙11)を任意に提出し、その後、これに関連する資料(乙12~17(枝番を含む。))も任意に提出した。 上記書類一式(乙11)の冒頭の「本省の対応(調書等修正指示)」と題する書面には、「本省において、議員説明(提出)用に、決裁文書をチェックし、調書の内容について修正するとの連絡受。本省の問題意識は、調書から相手方(森友)に厚遇したと受け取られるおそれのある部分は削除するとの考え。現場として厚遇した事実もないし、検査院等にも原調書のま まで説明するのが適切と繰り返し意見(相当程度の意思表示し修正に抵抗)した。」、「本省の修正指示を受け、3月7日午前、速やかに部長に報告。本件事案は本省と協議し当初の定期借地契約を締結している過程等が調書から削除されることは今後の検査院への説明等に支障が生じるため、現場の問題認識として既に決裁済の調書を修正することは問題があり行う行う (引用注:ママ)べきではないと、本省審理室担当補佐に強く抗議した。」、「3月9日、C部長から局長に報告。今回の対応(修正等)は、本省理財局が全責任を負う。G局長の責任で対応するとの発言(部長と本省幹部間で話をしたと思われる)。当局は一切修正作業は行わず本省が修正作業を行うとの説明受(納得できず)。」、「本省で、議員からの資料要求に対するH 理財局長への説明過程や、同局長からの指示等の詳細が当局に還元(説明なし)されず、詳細が不明確なまま、本省審理室(担当補佐)からその都度メールで投げ込まれてくるのが実態。本件の備忘として、修正等の作業過程を下記のとおり記録しておく。」との記載がある(1頁) (説明なし)されず、詳細が不明確なまま、本省審理室(担当補佐)からその都度メールで投げ込まれてくるのが実態。本件の備忘として、修正等の作業過程を下記のとおり記録しておく。」との記載がある(1頁)。 そして、上記書類一式(乙11)の中には、Aが、平成29年3月8日、 理財局国有財産審理室の課長補佐級職員に宛て、売払調書の文言修正を求 められたことに対する意見として、「今後、会計検査院の受検を受ける当局として、既に意思決定した調書を修正することに疑問が残ること」、「国会対応のため、本省の判断において修正等を行うことは、そのご指示に従うこと(本省が修正したものに差し替える)」などと記載して送信したメールのプリントアウト(223頁)などが含まれていた。 (3) 国の請求認諾国は、令和3年12月15日の進行協議期日において、原告の請求を認諾した。 (4) 請求の拡張原告は、令和4年1月28日、被告に対する請求を前記第1のとおりに拡 張した。 2 争点1(決裁文書等の改ざん指示)について(1) 原告主張の行為についての損害賠償責任の所在ア公権力の行使に当たる国の公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合には、国がその被害者に対 して賠償の責めに任ずるのであって、公務員個人はその責めを負わないものと解すべきである(最高裁昭和28年(オ)第625号同30年4月19日第三小法廷判決・民集9巻5号534頁、最高裁昭和49年(オ)第419号同53年10月20日第二小法廷判決・民集32巻7号1367頁等)。すなわち、国家賠償法1条1項は、その適用を受ける公務員の行為に ついて、当該公務員個人は民法709条に基づく損害賠償責任を負わないとするものであると解 廷判決・民集32巻7号1367頁等)。すなわち、国家賠償法1条1項は、その適用を受ける公務員の行為に ついて、当該公務員個人は民法709条に基づく損害賠償責任を負わないとするものであると解される。 本件において原告が主張する被告の行為は、財務省理財局長という立場を利用し職務上の命令として行った決裁文書等の改ざん指示であり、Aにうつ病を発症させて自殺に至らせたことについて故意であるというもので ある。公権力の行使に当たる国の公務員が、その職務を行うについて、故 意又は過失によって違法に他人に損害を与えたこと、すなわち、国家賠償法1条1項が適用される行為を主張している。 イ原告は、Iの鑑定意見書(甲53)に依拠して、被告が原告の主張する被告の行為について、自らが不法行為責任を負うのではなく、国が国家賠償責任を負うと主張するのであれば、当該行為が国家賠償法1条1項の要 件を充足することを立証しなければならないところ、被告はこの点の主張立証を行っていないから、原告の主張する被告の行為は国家賠償法1条1項の要件を充足しないと主張する。 しかし、前記アで述べたとおり、原告の主張自体に、公権力の行使に当たる公務員である被告がその職務を行うについて故意によって違法に損害 を与えたことが表れている。原告自身が国家賠償法1条1項が適用される行為を主張している以上、被告がどのような主張立証をしているかは問題とならない。原告の上記主張は採用できない。 ウそうすると、原告の主張する被告の改ざん指示行為については、国家賠償法1条1項に基づき国が損害賠償責任を負うかどうかが問題となる一方、 被告個人は民法709条に基づく損害賠償責任を負わない。 (2) 被告の対外的個人責任を認めるべきであるとする原告の主張について 条1項に基づき国が損害賠償責任を負うかどうかが問題となる一方、 被告個人は民法709条に基づく損害賠償責任を負わない。 (2) 被告の対外的個人責任を認めるべきであるとする原告の主張についてア原告は、公務員の対外的個人責任を否定して民法709条に基づく被害者の損害賠償請求権を剥奪するために必要な積極的な法的根拠としては、濫訴のおそれによる萎縮効果のみを検討すれば足り、公務員の地位や違法 行為の性質、態様等を踏まえ、違法行為の抑制や権限濫用の防止の必要性が萎縮効果を上回れば、原則に戻って民法709条に基づく公務員の対外的個人責任を認めるべきであると主張する。そして、被告がした決裁文書等の改ざん指示は、財務省内部における自らの保身と歓心を買うという私的な目的をもって故意に行われた悪質な行為であるから、その抑止の必要 性は高いのに対し、当該行為について被告の対外的個人責任を肯定したと しても、被告と同様の各省庁の局長以上の国家公務員に対して萎縮効果が生じるとは考えられないとして、被告の対外的個人責任を認めるべきであると主張する。 イ森友学園案件に関する決裁文書等の改ざんは、前提事実(5)のとおりの財務省自身が認める内容を前提とすると、組織的にされたものである。被告 は、財務省の調査報告書(甲8)において、その方向性を決定づけた者で、問題行為の全般について責任を免れるものではないとされている。他方、Aが改ざんの指示に対して抵抗したことは、これまでにみたとおり、本件の証拠上に表れている。このような本件の事案について、原告は、違法行為を抑止する必要性が高いことを主張するところ、一般に、不法行為に基 づく損害賠償制度が将来における同様の行為を抑止する機能を有することは否定できない。 しかし、我が国の 、原告は、違法行為を抑止する必要性が高いことを主張するところ、一般に、不法行為に基 づく損害賠償制度が将来における同様の行為を抑止する機能を有することは否定できない。 しかし、我が国の不法行為に基づく損害賠償制度は、被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し、加害者にこれを賠償させることにより、被害者が被った不利益を補てんして、不法行為がなかったときの状態に回復さ せることを目的とするものである。加害者に対する制裁や、将来における同様の行為の抑止、すなわち一般予防を目的とするものではない(最高裁平成5年(オ)第1762号同9年7月11日第二小法廷判決・民集51巻6号2573頁参照)。 このような我が国の不法行為に基づく損害賠償制度の目的に照らすと、 国に対して国家賠償法1条1項に基づいて損害賠償責任を追及することができる以上、被害者が公務員個人に対しては損害賠償責任を追及できないとしても、国が資力の点で公務員個人に劣ることは想定できないのであるから、被害者の保護に欠けるところはないと考えられる。 他方、原告のいう違法行為の抑止や権限濫用の防止は、公務員個人に対 する損害賠償責任の追及によるほか果たすことができないというものでも ない。 ウ加えて、本件訴訟においては、前記1のとおり、当初国に対する損害賠償請求と併合された状態で一定程度審理が進んだ上で、国に対する請求が既に認諾されたという事情もある。 この点に関し、原告は、上記鑑定意見書(甲53)に依拠して、本件訴 訟の相被告であった国が認諾したのは、被告以外の公務員の不法行為についての損害賠償請求であるので、当該認諾によって、被告に対する民法709条に基づく損害賠償請求は影響を受けないと主張する。 確かに、前記第2の4(1)の原告 たのは、被告以外の公務員の不法行為についての損害賠償請求であるので、当該認諾によって、被告に対する民法709条に基づく損害賠償請求は影響を受けないと主張する。 確かに、前記第2の4(1)の原告の主張と前記第3の1(1)アとを比べると、本件訴訟における原告の被告に対する請求の請求原因事実と、原告の 国に対する請求の請求原因事実は、完全に重なり合っているわけではないようにもみえる。 しかし、不法行為によって生じた結果として原告が主張するのは、被告に対する関係でも、国に対する関係でも、Aがうつ病を発症して自殺したということであって同じである。その同じ結果により生じた損害の賠償を 国と被告にそれぞれ求め、そのうち、国に対する損害賠償請求が認諾されるに至ったのであるから、被害者が被った不利益を補てんするという不法行為に基づく損害賠償制度の目的に照らせば、やはり被害者の保護に欠けるところはないといえる。原告の上記主張は、本件の結論に影響を与えるものではない。 エ以上に述べたところによれば、違法行為の抑制や権限濫用の防止の必要性といった我が国の不法行為に基づく損害賠償制度の目的とはいえないものを考慮要素としてする比較考量により民法709条に基づく公務員の対外的個人責任を認めるか否かを決するとする法的根拠は見いだし難い。本件訴訟の経過に照らせば、そのように考えるべき実質的基礎もないといわ ざるを得ない。原告主張の考え方は採用することができない。 (3) まとめしたがって、被告は、原告の主張する決裁文書等の改ざん指示について民法709条に基づく損害賠償責任を負わない。 3 争点2(説明義務及び謝罪義務の違反)について原告は、被告の改ざん指示行為の強度の違法性及びその結果の重大性に照ら し、 ざん指示について民法709条に基づく損害賠償責任を負わない。 3 争点2(説明義務及び謝罪義務の違反)について原告は、被告の改ざん指示行為の強度の違法性及びその結果の重大性に照ら し、被告は、信義則上、原告に対して改ざんを指示した経緯の説明及び謝罪をすべき義務を負うと主張する。 しかし、前記2において説示したとおり、被告は、原告の主張する改ざん指示行為について損害賠償責任を負わない。そうである以上、Aの妻である原告に対し、道義上はともかくとして、当該行為について説明をしたり謝罪をした りすべき法的義務が信義則上発生すると考えることはできない。原告の上記主張には理由がない。 したがって、被告は、原告の主張する説明義務及び謝罪義務の違反について民法709条に基づく損害賠償責任を負わない。 4 結論 以上の次第で、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第8民事部 裁判長裁判官中尾 彰 裁判官神永 暁 裁判官籔野拓輝

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