平成21(ワ)33931 発明対価等請求事件

裁判年月日・裁判所
平成24年11月22日 東京地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-82812.txt

キーワード

判決文本文27,544 文字)

- 1 -平成24年11月22日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成21年(ワ)第33931号発明対価等請求事件口頭弁論終結日平成24年8月23日判決当事者の表示別紙当事者目録記載のとおり 主文 1 原告の被告株式会社アクロス,同B及び同Cに対する発明者に関する確認請求に係る訴えを却下する。 2 原告の被告富士石油販売株式会社に対する請求並びに被告株式会社アクロス,同B及び同Cに対するその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告富士石油販売株式会社は,原告に対し,1億円及びこれに対する平成21年10月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告株式会社アクロス,同B及び同Cは,原告に対し,連帯して1000万円及びこれに対する被告株式会社アクロスについては平成21年10月2日から,同Bについては同月7日から,同Cについては同月11日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 原告と被告株式会社アクロス,同B及び同Cとの間において,別紙特許目録記載の特許に係る発明の発明者は,原告であり,被告Bでないことを確認する。 第2 事案の概要 - 2 -本件は,原告が,炭素繊維強化炭素複合材料用の柔軟性中間材となるプリフォームドヤーンとその製造方法に関する発明について,(1) 主位的に,富士スタンダードリサーチ株式会社(以下「富士スタンダードリサーチ」という。)との間で,同社が相当の対価を原告に支払う旨合意して,その特許を受ける権利を同社に譲渡したとして,同社を吸収合併した被告富士石油販売株式会社(以下「被告富士石油販売」という。)に対し,上記合意に基づき の間で,同社が相当の対価を原告に支払う旨合意して,その特許を受ける権利を同社に譲渡したとして,同社を吸収合併した被告富士石油販売株式会社(以下「被告富士石油販売」という。)に対し,上記合意に基づき,相当の対価である13億9929万3226円のうち1億円及びこれに対する弁済期の後の日である訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,予備的に,同社及び被告富士石油販売が法律上の原因なくその特許を受ける権利により利益を受けたとして,同被告に対し,不当利得による返還請求権に基づき,ロイヤリティー相当額の利得1805万5568円及びこれに対する利得の日の後の日である訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による利息の支払を求めるとともに,(2) 原告が上記発明をしたにもかかわらず,被告株式会社アクロス(以下「被告アクロス」という。)並びにその代表取締役である被告B及び被告C(被告アクロス及び同Bと併せて,以下「被告アクロスら」という。)が上記発明の発明者が被告Bらであって原告でない旨述べ,これにより,原告の名誉を毀損し,又は人格的利益を侵害したとして,被告アクロスらに対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,1000万円及びこれに対する不法行為の後の日である訴状送達の日の翌日からそれぞれ支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求め,(3) 被告アクロスらが上記発明の発明者が原告であることを争っているとして,上記発明の発明者が原告であって被告Bでな - 3 -いことの確認を求める事案である。 1 前提事実(争いのない事実並びに各項末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)(1) 当事者等ア原告は,昭和43年4月に東京都港区六本木にあ 確認を求める事案である。 1 前提事実(争いのない事実並びに各項末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)(1) 当事者等ア原告は,昭和43年4月に東京都港区六本木にあった東京大学生産技術研究所(以下「東大生研」という。)に入所し,同月から昭和57年3月まではD教授が主宰する第4部鉄鋼研究室に,同年4月から平成元年3月まではE教授が主宰する第4部E研究室にそれぞれ所属した後,平成11年3月,東大生研を退所した(甲25,29,30)。 イ被告富士石油販売は,昭和40年6月18日に設立された石油類,石油化学製品の売買,輸送,貯蔵及び輸出入等を業とする株式会社であり,後記エのとおり,平成17年4月1日に富士スタンダードリサーチを吸収合併した。 ウ被告アクロスは,昭和62年5月20日に設立された繊維強化炭素材料,繊維強化プラスチックの生産,加工及び販売等を業とする株式会社であり,代表取締役会長を被告Cが,代表取締役社長を被告Bがそれぞれ務めている(甲3)。被告アクロスの昭和62年5月から平成21年3月までの売上高は,別表の売上高欄記載のとおり,合計279億9186万4527円である(甲6の1ないし22)。 エ富士スタンダードリサーチは,昭和56年4月7日に設立された石油,石炭関連技術の試験・研究等を業とする株式会社であり,昭和62年3月10日までは代表取締役をFが,同月31日までは取締役を被告Cがそれ - 4 -ぞれ務めていたが,平成17年4月1日,被告富士石油販売に吸収合併されて解散した(甲2の1ないし3)。 (2) 富士スタンダードリサーチによる特許出願と被告アクロスへの譲渡等ア富士スタンダードリサーチ及び富士石油株式会社は,昭和60年12月9日,発明の名称を「柔軟性複合材料及びその製造 )。 (2) 富士スタンダードリサーチによる特許出願と被告アクロスへの譲渡等ア富士スタンダードリサーチ及び富士石油株式会社は,昭和60年12月9日,発明の名称を「柔軟性複合材料及びその製造方法」,発明者を被告B及びほか3名とする特許出願をし,この出願は,平成6年1月19日に出願公告され,その後,特許権の設定の登録(特許番号1878463号)がされた(以下,この特許権に係る発明を「本件先行発明」という。乙1)。 イ富士スタンダードリサーチは,昭和61年8月2日,発明の名称を「無機質繊維強化炭素複合材料用の柔軟性中間材及びその製造方法」,発明者をE,原告,被告B,F及び被告Cとする特許出願をし,被告アクロスは,後記ウのとおり,富士スタンダードリサーチから特許を受ける権利の譲渡を受け,その旨を特許庁長官に届け出て,平成6年2月10日,別紙特許目録記載のとおり,特許権の設定の登録がされ,特許証(以下「本件特許証」という。)の交付を受けた(甲1の1・2)。 上記特許の特許出願の願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載は,本判決添付の特許公報の該当項記載のとおりである(以下,この発明を「本件発明」という。)(甲1の1)。 ウ富士スタンダードリサーチは,昭和62年3月,業務を停止し,同年6月30日,被告アクロスに対し,同被告又はその実施権者が本件発明に係る商業化を行った場合に正味売上高の1%を目安としたロイヤリティーの支払を受ける約束の下に,本件発明に係る特許を受ける権利を15万円 - 5 -で譲渡した(甲17の1,乙5)。 エ被告アクロスは,本件発明に係る商業化を行い,平成7年7月から平成19年8月までの間に,富士スタンダードリサーチ又は被告富士石油販売に対し,前記譲渡に基づくロイヤリティーとして,別表のロイヤリティ 被告アクロスは,本件発明に係る商業化を行い,平成7年7月から平成19年8月までの間に,富士スタンダードリサーチ又は被告富士石油販売に対し,前記譲渡に基づくロイヤリティーとして,別表のロイヤリティー欄記載のとおり,合計1805万5568円を支払った(乙7の1ないし22)。 (3) 被告アクロスによる原告の発明者性の否定等ア被告アクロスは,原告から本件発明の対価の支払を求められたが,平成19年11月27日付けで,原告に対し,本件発明の発明者が富士スタンダードリサーチの研究者とE教授であって原告でないとする書簡(以下「本件書簡」という。)を送付した(甲8の7)。 イ原告は,被告アクロスに対し,本件発明の対価の支払を求める訴訟(当庁平成20年(ワ)第27635号)を提起し,これに対し,被告アクロスは,平成20年12月12日付けで,本件発明の発明者が被告B1人であって原告でない旨記載した準備書面(以下「本件準備書面」という。)を提出し,これを陳述した。 2 争点(1) 被告富士石油販売に対する請求について主位的請求においては,①原告が本件発明をしたか否か,②原告が本件発明に係る特許を受ける権利を富士スタンダードリサーチに譲渡し,その際に,両者間に富士スタンダードリサーチが相当の対価を原告に支払うとの合意が成立したか否か,③相当の対価の発生の有無及び額,④請求債権についての - 6 -消滅時効の成否であり,予備的請求においては,上記①の外,⑤原告による本件発明についての特許を受ける権利の譲渡と富士スタンダードリサーチ又は被告富士石油販売によるロイヤリティー取得との間に因果関係があるか否かである。 (2) 被告アクロスらに対する請求について損害賠償請求においては,①被告アクロスの行為が原告に対 又は被告富士石油販売によるロイヤリティー取得との間に因果関係があるか否かである。 (2) 被告アクロスらに対する請求について損害賠償請求においては,①被告アクロスの行為が原告に対する名誉毀損又は人格的利益の侵害を構成するか否か,②違法性阻却事由の有無,③被告アクロスらの責任及び損害の額であり,発明者に関する確認請求においては,④確認の利益の有無,⑤本件発明の発明者が原告であって被告Bでないか否かである。 3 争点についての当事者の主張(1) 被告富士石油販売に対する請求についてア争点①(原告が本件発明をしたか否か)について(原告の主張)(ア) 本件発明に至る経緯複合材料とは,異質で異形の材料を組み合わせて合成することにより,単体の材料にはない特性を実現し,要求に適合する優れた性質を持つ材料をいい,中でも,炭素繊維強化炭素複合材料(carbonfiberreinforcedcarbonmatrixcomposites。以下「C/C複合材料」という。)は,補強材としての炭素繊維と母材(マトリックス。以下,単に「母材」という。)としての炭素を結合させることにより,優れた機械的特性や耐熱特性,耐蝕性,摩擦特性,熱・電気伝導性,軽量性,寸法安定性等を実 - 7 -現する複合材料である。 C/C複合材料は,従来の製造法では,母材に熱硬化性樹脂等を用いていて,生産性が悪く,製造費用が極めて高かったために,スペースシャトルの耐熱タイル等,宇宙船や航空機の耐熱材料又は制動材料として採用されるくらいで,民生用や産業用としてはほとんど実用化されていなかった。原告は,第4部E研究室に配属された昭和57年4月ころ,C/C複合材料の製造費用を安くするため,既に炭化された安価なコー 採用されるくらいで,民生用や産業用としてはほとんど実用化されていなかった。原告は,第4部E研究室に配属された昭和57年4月ころ,C/C複合材料の製造費用を安くするため,既に炭化された安価なコークス粉と炭素質バインダーを母材に用い,炭素繊維と共にホットプレスすることにより,C/C複合材料を簡便に短時間で製造する方法の研究に着手した。原告は,昭和60年ころまでに,金型の中に炭素繊維とコークス粉及び炭素質バインダーを交互に積層して中間材を製作し,これをホットプレスしてC/C複合材料を製造する方法を開発した。 しかし,補強材と母材を交互に積層してC/C複合材料を製造する前記方法は,C/C複合材料の強度が必ずしも十分でなかったり,作業性が悪くて中間材の製作に手間取ったり,作業環境が悪化するなど,C/C複合材料の大型化や量産化,パイプ等の異形品の製造には不向きであるという問題が判明した。原告は,炭素繊維束内に母材を十分取り込めばC/C複合材料の強度が高くなることが分かっていたので,何らかの装置を用いて炭素繊維束内にコークス粉と炭素質バインダーからなる母材を包含させた柔軟性中間材であるプリフォームドヤーンであれば,十分な強度のC/C複合材料を得られるのではないかと思い付いた。そこで,原告は,炭素繊維束内に母材を包含させる装置を検討したところ, - 8 -繊維強化プラスチックとその製造方法に関して仏国アトケム社が出願した発明(以下「アトケム発明」という。)において,粉末が入った装置の下部から空気や窒素を供給し続けて粉末の粒子が流動する流動層を形成し,その流動層に繊維を通して繊維に粒子を付着させる粒子付着装置があることを知り,粒子付着装置等でプリフォームドヤーンを製作する方法も思い付いた。 原告は,その後,プリフォームドヤーンを製作するた し,その流動層に繊維を通して繊維に粒子を付着させる粒子付着装置があることを知り,粒子付着装置等でプリフォームドヤーンを製作する方法も思い付いた。 原告は,その後,プリフォームドヤーンを製作するための粒子付着装置を探していたが,E教授から粒子付着装置を用いた繊維強化プラスチックの事業化等を試みている富士スタンダードリサーチを紹介されたので,昭和61年4月ころ,富士スタンダードリサーチの従業員であった被告Bに依頼して,同社の粒子付着装置等でプリフォームドヤーンを試作してもらい,できあがったプリフォームドヤーンをホットプレスしたところ,十分な強度のC/C複合材料が得られたものであり,これにより,原告のもとで本件発明が完成した。 (イ) 本件発明後の経緯原告は,平成元年春ころ,「炭素繊維強化炭素(C/C)複合材料用のプリフォームドヤーンの製造とこれを用いて作製したC/C複合材料の性質」と題する論文を執筆し,同年7月に英国で開催された国際会議で発表した。 また,原告は,平成3年,日本原子力研究所の顧問から,本件発明に関し,大河内賞の受賞候補者として推薦された。 さらに,原告は,平成18年4月11日,被告Bとの間で,原告を被 - 9 -告アクロスの名誉技術顧問とする名刺を被告アクロスが作成することを合意するとともに,本件発明の相当の対価の支払をめぐって,協議を開始したが,被告Bは,平成19年6月26日,原告に対し,「発明に対する対価は当然支払わなければならないと思っている。」と告げるとともに,被告アクロスが原告に支払う同社の株式配当金156万円を上記対価の一部に充当することを了承したものであり,その後も,被告アクロスは,原告に対し,本件発明に係る特許の評価に時間が掛かるなどと回答して,原告が本件発明をしたことを否定しなかったので 6万円を上記対価の一部に充当することを了承したものであり,その後も,被告アクロスは,原告に対し,本件発明に係る特許の評価に時間が掛かるなどと回答して,原告が本件発明をしたことを否定しなかったのである。 これらの事実からみても,原告が本件発明をしたことは明らかである。 (ウ) 共同発明者の発明者性本件発明の特許出願の願書に記載された発明者のうち,Eは,原告が所属していた研究室の主宰者であり,また,被告B,F及び被告Cは,富士スタンダードリサーチがプリフォームドヤーンを試作したり,本件発明の特許出願をしたりしたことから,いずれも儀礼的に記載されたにすぎない。 (エ) したがって,原告が本件発明における単独の発明者である。 (被告富士石油販売の主張)原告は,本件発明の発明者でない。被告Bが本件発明の発明者である。 イ争点②(原告と富士スタンダードリサーチとの間に同社が相当の対価を原告に支払うとの合意が成立したか否か)について(原告の主張)富士スタンダードリサーチは,C/C複合材料用のプリフォームドヤー - 10 -ンの試作への協力をしたことを契機に本件発明を知り,昭和61年5月ころ,取締役であった被告Cを代理人として,原告に対し,本件発明について特許を受ける権利の譲受けを申し入れた。原告は,本件発明に係る特許を受ける権利を富士スタンダードリサーチに譲渡したが,その際に,公務員としての自己の立場を考慮して,被告Cとの間で,本件発明の商品化に成功した場合は,原告が東大生研を退所した後に,富士スタンダードリサーチが相当の対価を原告に支払うとの合意をした。 仮に富士スタンダードリサーチが被告Cに代理権を授与していなかったとしても,富士スタンダードリサーチは,被告Cに,研究 富士スタンダードリサーチが相当の対価を原告に支払うとの合意をした。 仮に富士スタンダードリサーチが被告Cに代理権を授与していなかったとしても,富士スタンダードリサーチは,被告Cに,研究所長という肩書きを与えるとともに,原告から本件発明についての特許を受ける権利を譲り受けるための交渉等をする権限を授与してこれを一任したのであり,原告も被告Cに代理権があると信じたから,代理権授与の表示による表見代理又は権限外の行為の表見代理が成立する。 (被告富士石油販売の主張)原告の主張は否認又は争う。原告が被告Cに代理権があると信じても,企業において交渉権限を有する者が合意権限まで有するとは限らないから,過失がある。また,「相当の対価」などという抽象的な話に法的な拘束力はない。 ウ争点③(相当の対価の発生の有無及び額)について(原告の主張)(ア) 被告アクロスは,本件発明に係る特許を受ける権利の譲渡を受けて,その商品化を行い,原告は,平成11年3月に東大生研を退所した。 - 11 -(イ) 被告アクロスは,日本,米国,韓国及び欧州で本件発明についての特許権を取得して,プリフォームドヤーンを用いたC/C複合材料の製造及び販売を独占し,原告は,被告アクロスによる本件発明の商品化事業を指導した。そうすると,本件発明に係る特許を受ける権利に対する相当の対価の額は,被告アクロスが本件発明について得られる実施許諾料相当額とするのが相当であるところ,被告アクロスの昭和62年5月から平成21年3月までの売上高は,合計279億8586万4527円を下らない上,本件発明の実施料率は,5%を下らないから,相当の対価の額は,次の計算式のとおり,13億9929万3226円を下らない。 3月までの売上高は,合計279億8586万4527円を下らない上,本件発明の実施料率は,5%を下らないから,相当の対価の額は,次の計算式のとおり,13億9929万3226円を下らない。 (計算式)279億8586万4527円×0.05=13億9929万3226円(被告富士石油販売の主張)原告の主張は不知又は争う。 エ争点④(請求債権についての消滅時効の成否)について(被告富士石油販売の主張)仮に原告が相当の対価の支払請求権を有するとしても,原告は,平成11年3月に東大生研を退所したのであり,その時から起算して10年を経過したから,時効により消滅した。 (原告の主張)原告は,富士スタンダードリサーチが昭和62年3月末に業績不振で閉鎖されたために,同社に対して相当の対価の支払請求権を行使することができないと信じ,被告アクロスがロイヤリティーの支払について開示した - 12 -平成21年1月21日まで富士スタンダードリサーチが閉鎖後も存続していたことを知らなかったから,同日から権利を行使することができたものである。 仮にそうでないとしても,原告が東大生研を退所した後に富士スタンダードリサーチが相当の対価を原告に支払うこととしたのは,公務員である原告が民間企業である同社から金員を受領しても責任を問われないようにするためであったから,原告は,東大生研を退所した時から直ちに権利を行使することができたわけではなく,早くても退所後1年が経過した平成12年4月1日から権利を行使することができたというべきである。 仮にそうでないとしても,相当の対価は,被告アクロスにおける売上げに応じて発生するから,平成11年9月25日以降に発生したものは 年4月1日から権利を行使することができたというべきである。 仮にそうでないとしても,相当の対価は,被告アクロスにおける売上げに応じて発生するから,平成11年9月25日以降に発生したものは,消滅時効が完成していない。 オ争点⑤(原告による本件発明についての特許を受ける権利の譲渡と富士スタンダードリサーチ又は被告富士石油販売によるロイヤリティー取得との間に因果関係があるか否か)について(原告の主張)富士スタンダードリサーチ又は被告富士石油販売は,原告から本件発明に係る特許を受ける権利の譲渡を受け,これを被告アクロスに譲渡し,同被告からロイヤリティーの支払を受けているのであるから,原告による本件発明についての特許を受ける権利の譲渡と富士スタンダードリサーチ又は被告富士石油販売によるロイヤリティー取得との間には,因果関係がある。 - 13 -(被告富士石油販売の主張)原告の主張は争う。 (2) 被告アクロスらに対する請求についてア争点①(被告アクロスの行為が原告に対する名誉毀損又は人格的利益の侵害を構成するか否か)について(原告の主張)被告アクロスは,本件特許証に被告Bなど原告以外の者を発明者として掲載させたり,原告に対して本件書簡を送付し,また,原告との訴訟において,本件準備書面を陳述したりしたが,これらにより,原告の発明者としての社会的評価が低下し,又は原告の名誉感情が害されたから,被告アクロスの行為は,原告に対する名誉毀損又は人格的利益の侵害を構成する。 (被告アクロスらの主張)原告の主張は争う。 イ争点②(違法性阻却事由の有無)について(被告アクロスらの主張)(ア) 利益の侵害を構成する。 (被告アクロスらの主張)原告の主張は争う。 イ争点②(違法性阻却事由の有無)について(被告アクロスらの主張)(ア) 本件発明に至る経緯富士スタンダードリサーチでは,かつて,炭素繊維の製造方法や用途開発の研究が行われていた。富士スタンダードリサーチの従業員であった被告Bも,近くアトケム社から熱可塑性プラスチックの中間材に関する技術を導入する予定の下,大同特殊鋼株式会社と共に,補強材としての炭素繊維を母材としての樹脂で固めた炭素繊維強化プラスチックに - 14 -関する研究を行っていたところ,母材に熱可塑性樹脂繊維を用い,炭素繊維と熱可塑性樹脂繊維を混合させた混合繊維束の周囲にFIT設備で熱可塑性樹脂からなる柔軟なスリーブを設けた柔軟性中間材を製作することにより,容易に高品質の炭素繊維強化プラスチックを製造する方法を開発した。そこで,富士スタンダードリサーチ等は,昭和60年12月,本件先行発明について,発明者を被告B等とする特許出願をした。 被告Bは,前記研究と併せて,C/C複合材料に関する研究も行っていたところ,炭素繊維強化プラスチック用の柔軟性中間材に含まれる熱可塑性樹脂繊維を他の材料に置き換えればC/C複合材料用の柔軟性中間材を得られるのではないかと思い付いた。被告Bは,熱可塑性樹脂繊維に代わる母材の検討を始め,昭和61年2月か3月ころ,C/C複合材料の研究を行っていたE教授を訪ねたところ,C/C複合材料の母材にバルクメソフェーズ粒とピッチコークス又は石油コークス粉末を混合したものを用い,炭素繊維と共に交互に積層して中間材を製作し,これをホットプレスすることにより,C/C複合材料を製造する方法について説明を受けるとと ーズ粒とピッチコークス又は石油コークス粉末を混合したものを用い,炭素繊維と共に交互に積層して中間材を製作し,これをホットプレスすることにより,C/C複合材料を製造する方法について説明を受けるとともに,東大生研の研究者であったGとE教授が連名で同旨の発表をした「ホットプレス法によるC/Cの開発研究」と題する論文を紹介された。被告Bは,E教授の説明や上記論文から,母材にバルクメソフェーズ粒に相当するバインダピッチ粉末とコークス粉末の混合粉末を用い,炭素繊維と当該混合粉末を混合させた混合繊維束の周囲に熱可塑性樹脂からなる柔軟なスリーブを設けたC/C複合 - 15 -材料用の柔軟性中間材であるプリフォームドヤーンを思い付いた。被告Bは,机上にスリーブの材料となる熱可塑性樹脂シートを置き,その上に炭素繊維を並べ,その上にバインダピッチ粉末とコークス粉末の混合粉末を振りかけ,更にその上に樹脂シート,炭素繊維及び混合粉末の順で重ねたものを試作し,これにより,C/C複合材料を製造する見通しが立ったことから,被告Bのもとで本件発明が完成した。 (イ) 本件発明後の経緯被告Bは,アトケム社が近く熱可塑性プラスチック以外の分野にも事業を拡大して,特許出願をする可能性があると考え,C/C複合材料用のプリフォームドヤーンを試作していなかったが,H弁理士に本件発明の内容を説明し,同弁理士の協力を得て出願明細書案を作成した。その際,実施例は,炭素繊維強化プラスチックに関する試験実績と机上の試作を基に,推測して記載した。そして,被告Bは,E教授に対して同教授との共同発明として特許出願することを申し出たところ,E教授から原告も共同発明者に入れてほしいと依頼されたため,特許出願に先立ち,E教授と原告に対し,出願明細書案の確認を依頼したが 授に対して同教授との共同発明として特許出願することを申し出たところ,E教授から原告も共同発明者に入れてほしいと依頼されたため,特許出願に先立ち,E教授と原告に対し,出願明細書案の確認を依頼したが,特段のコメントはなかった。そこで,富士スタンダードリサーチは,昭和61年8月,本件発明につき,発明者をE,原告,被告B等とする特許出願をした。 被告Bは,昭和61年12月末,富士スタンダードリサーチが年末休みに入り,この間はFIT設備を使って設備が混合粉末で真っ黒になっても洗浄する余裕があったため,FIT設備を使ってC/C複合材料用 - 16 -のプリフォームドヤーンを試作した。その上で,F,被告C及び同Bは,昭和62年1月,E教授に対し,試作したプリフォームドヤーンを提供して共同研究を申し出た。E教授は,この申出を快諾し,富士スタンダードリサーチと第4部E研究室の共同研究が開始された。 これらの事実からも,被告Bが本件発明をしたことは明らかである。 (ウ) 共同発明者の発明者性本件発明の特許出願の願書に記載された発明者のうち,Eは,被告Bが共同発明者とすることを依頼し,原告は,Eから共同発明者とすることを依頼されたものであり,F及び被告Cは,富士スタンダードリサーチの慣例に従ったものであって,いずれも儀礼的に記載されたにすぎない。 (エ) 以上のとおり,本件発明の発明者は被告B1人であって原告でないから,原告以外の者が本件発明の発明者であるという事実や原告が本件発明の発明者でないという事実は真実である。これらの事実は,公共の利害に関する事実であるとともに,原告以外の者が本件発明の発明者であるという事実を含む本件特許証の掲載や,原告が本件発明の発明者でないという事実を含む本 いう事実は真実である。これらの事実は,公共の利害に関する事実であるとともに,原告以外の者が本件発明の発明者であるという事実を含む本件特許証の掲載や,原告が本件発明の発明者でないという事実を含む本件書簡の送付及び本件準備書面の陳述は,いずれも個人攻撃を目的としたものでもなく,専ら公益を図る目的でされたものである。 したがって,被告アクロスの行為は,違法でない。 (原告の主張)(ア) 本件発明に至る経緯について - 17 -富士スタンダードリサーチでは,本件発明に係る特許出願がされた昭和61年8月以前,C/C複合材料とは全く異なった繊維強化熱可塑性プラスチックに関する特許出願はされていたが,C/C複合材料に関する特許出願はされておらず,少なくとも本件先行発明に係る特許出願がされた昭和60年12月までは,繊維強化熱可塑性プラスチックに関する研究に専念していた。 また,被告Bは,本件先行発明の特許出願の願書に添付した明細書において,母材に熱可塑性樹脂粉末を用い,これを流動層等で補強材としての炭素繊維に付着させて周囲に柔軟なスリーブを設けるというアトケム発明について,母材が粉末であるため,補強材と母材の配合割合が定量的にならず,物性が安定しなかったり,中間材を切断すると,粉末が離散して作業環境が悪化したり,粉末が安定的に流動するよう粉末の平均粒子径を特定の範囲内に限定する厳密な粉末粒子製造工程を必要とし,生産コストが高くなったりするなどといった問題点があることを指摘していた。このため,被告Bは,E教授から母材にバルクメソフェーズ粒とピッチコークス又は石油コークス粉末を混合したものを用いて中間材を製作する方法についての説明等を受けたとしても,上記の問題点までをも解決することが ,被告Bは,E教授から母材にバルクメソフェーズ粒とピッチコークス又は石油コークス粉末を混合したものを用いて中間材を製作する方法についての説明等を受けたとしても,上記の問題点までをも解決することができたわけではないから,被告Bが,E教授の説明等から,母材にバインダピッチ粉末とコークス粉末の混合粉末を用い,これを流動層で補強材としての炭素繊維と混合させた混合繊維束の周囲に熱可塑性樹脂からなる柔軟なスリーブを設けたプリフォームドヤーンを思い付くというのは,不自然である。これに対し,原告は,上記 - 18 -の問題点に対する認識がなかったから,C/C複合材料用のプリフォームドヤーンを思い付いたのである。 さらに,アトケム発明は,熱可塑性樹脂粉末が流動層等で炭素繊維に付着させられるだけであるから,粉末の容積割合が低くなり,逆に炭素繊維の容積割合は50%弱と高くなるのに対し,被告BがE教授から説明を受けるなどしたというC/C複合材料用中間材の製作方法は,混合粉末が炭素繊維と共に交互に積層されるから,粉末の容積割合が高くなり,逆に炭素繊維の容積割合は1%又は2.5%と低くなる。これらの両中間材の製作方法や材料比は全く異なるから,被告Bが,E教授から上記中間材を製作する方法についての説明等を受けたとしても,この方法で用いた混合粉末を用い,これを流動層で炭素繊維に付着させて炭素繊維の容積割合を30%強とし,周囲に柔軟なスリーブを設けたプリフォームドヤーンを思い付くはずがない。これに対し,原告は,実験により,C/C複合材料における炭素繊維の容積割合を20ないし40%とすれば,補強材と母材が良好に結合することを把握していたから,炭素繊維の容積割合が50%弱となるアトケム発明の存在を知った際,自然とプリフォームドヤーンを思い付いたので 容積割合を20ないし40%とすれば,補強材と母材が良好に結合することを把握していたから,炭素繊維の容積割合が50%弱となるアトケム発明の存在を知った際,自然とプリフォームドヤーンを思い付いたのである。 (イ) 以上のとおり,本件発明の発明者は原告1人であって被告Bでないから,原告以外の者が本件発明の発明者であるという事実や原告が本件発明の発明者でないという事実はいずれも真実でないし,これらの事実が公共の利害に関する事実であることや被告アクロスが専ら公益を図る目的でされたことについても争う。 - 19 -したがって,被告アクロスの行為は,違法である。 ウ争点③(被告アクロスらの責任及び損害の額)について(原告の主張)被告アクロスは,代表者である被告B及び同Cの判断の下に,本件特許証に原告以外の者を発明者として掲載させたり,本件書簡を送付したり,本件準備書面を陳述したりしたことにより,原告の名誉を毀損し,又は原告の人格的利益を侵害したから,被告らは,これらによって原告の被った損害を連帯して賠償すべき責任があるところ,原告が被った精神的損害は,1000万円を下らない。 (被告アクロスらの主張)原告の主張は争う。 エ争点④(確認の利益の有無)について(原告の主張)本件発明に係る特許権の登録事項のうち発明者を訂正する手続はないが,被告アクロスらは,本件発明の発明者が原告であって被告Bでないことを争い,原告の名誉を毀損し,又は原告の人格的利益を侵害しているから,これに対する原状回復措置として,本件発明の発明者が原告であって被告Bでないことの確認を求める利益がある。 (被告アクロスらの主張)本件発明の発明者が 利益を侵害しているから,これに対する原状回復措置として,本件発明の発明者が原告であって被告Bでないことの確認を求める利益がある。 (被告アクロスらの主張)本件発明の発明者が原告であって被告Bでないことを確認しても,紛争の解決に資することはないから,本件発明の発明者が原告であって被告Bでないことの確認を求める利益はない。 - 20 -オ争点⑤(本件発明の発明者が原告であって被告Bでないか否か)について(原告の主張)本件発明の発明者は原告であって被告Bでない。 (被告アクロスらの主張)本件発明の発明者は原告でなくて被告Bである。 第3 当裁判所の判断 1 被告富士石油販売に対する請求について(1) 争点①(原告が本件発明をしたか否か)についてア前記前提事実に各項掲記の証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められ,この認定を覆すに足りる証拠はない。 (ア) 東大生研における原告の研究等(甲1の1,4,5,11の1・2,13,14の1ないし4,21,22,24,25,28,30,32,乙2,3の1・2,証人E,原告本人)a 原告は,昭和43年4月から昭和57年3月までの間に所属した東大生研の第4部鉄鋼研究室において,高炉内のコークスが鉄鉱石の還元機構に及ぼす役割を研究した後,昭和57年4月,各種耐熱用複合材料の製造技術の開発やその物性調査の研究を行っていた第4部E研究室に異動し,C/C複合材料の製造技術を開発するという研究課題が与えられた。 bC/C複合材料は,補強材としての炭素繊維と母材としての炭素を結合させることにより,優れた機械的特性や耐熱特性,耐蝕性,摩擦 - 21 -特性,熱・電 う研究課題が与えられた。 bC/C複合材料は,補強材としての炭素繊維と母材としての炭素を結合させることにより,優れた機械的特性や耐熱特性,耐蝕性,摩擦 - 21 -特性,熱・電気伝導性,軽量性,寸法安定性等を実現する高強度の複合材料である。 C/C複合材料の製造方法は,昭和57年当時,炭素繊維の成形体にフラン樹脂やフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸させて炭化させることを繰り返すことにより,密度を高くして強度を上げる樹脂含浸法や,炭素繊維の成形体にメタンやプロパン等の炭化水素を熱分解して得られた炭素を沈積させる化学蒸着法(ChemicalVaporDeposit-ion法。以下「CVD法」という。)等があったが,いずれも数か月間という長い製造期間を要し,1Kg当たり数十万円と価格も高いものであった。 c 原告は,昭和57年,E教授と共に,母材に既に炭化された安価なコークス粉とこれに炭素繊維を結合させるタールピッチ等の炭素質バインダーを用い,炭素繊維と共にホットプレスすることにより,簡便かつ短時間でC/C複合材料を製造する方法を考案し,研究を開始したところ,粒径3.5μmのピッチコークスとコールタールピッチを同量混練したものと長繊維でフィラメント1万2000本のPAN系炭素繊維につき,繊維容量割合を6%として,型枠の中に交互に積層し,最高温度600℃,最高圧力19.6MPaでホットプレスした後,1500℃で30分間炭化焼成させると,曲げ強度が約75MPaまで上がること,繊維容量割合を上げれば強度が高くなること等が判明した。 第4部E研究室では,なるべく早く研究の成果を公表するようにし - 22 -ていたこともあり,原告は,E教授と共に,前記研究の成果について,判 強度が高くなること等が判明した。 第4部E研究室では,なるべく早く研究の成果を公表するようにし - 22 -ていたこともあり,原告は,E教授と共に,前記研究の成果について,判明次第順次,昭和58年6月7日に開催された第2回日米複合材料会議で発表したり,同年10月21日に開催された第1回複合材料連合研究発表会で発表したりした。 d 炭素質バインダーに高揮発性のタールピッチを用いたC/C複合材料の製造方法は,タールピッチを加熱した時にガスが激しく発生し,衛生面や作業上の問題があったので,第4部E研究室に所属していたGは,E教授及び原告と共に,炭素質バインダーに低揮発性のバルクメソフェーズを用いる方法を考案し,研究を開始したところ,粒径5~6μmのピッチコークスと粒径300μm以下の石炭系バルクメソフェーズを同量混合したものと繊維重量割合36%のクロス織のピッチ系炭素繊維とを,型枠の中に交互に積層し,最高温度約650℃,最高圧力10MPaでホットプレスした後,1200℃で1時間炭化焼成させると,曲げ強度が約110MPaまで上がること等が判明した。 Gは,E教授と共に,前記研究の成果について,判明次第順次,昭和58年10月21日に開催された第1回複合材料連合研究発表会で発表したり,昭和59年5月26日に「ホットプレス法によるC/Cの開発研究」と題する論文を,昭和60年4月25日に「バルクメソフェーズを用いたC/C複合材料の開発研究」と題する論文をそれぞれ「東京大学生産技術研究所報告」に出稿したりした。 e バルクメソフェーズは,粘度が高いため,母材が炭素繊維束の中に十分浸透せず,高強度が得られないという問題があったので,原告は, - 23 -E教授と共に,樹脂を含浸させた炭素繊 e バルクメソフェーズは,粘度が高いため,母材が炭素繊維束の中に十分浸透せず,高強度が得られないという問題があったので,原告は, - 23 -E教授と共に,樹脂を含浸させた炭素繊維を用いる方法を考案し,研究を開始したところ,粒径3.5μmのピッチコークスと揮発分33. 5%の石油系バルクメソフェーズを1対4の割合で混合したものとエポキシ樹脂を含浸させた繊維容量割合約45%の長繊維のPAN系炭素繊維とを,型枠の中に交互に積層し,最高温度600℃,最高圧力49MPaでホットプレスすると,曲げ強度が約130MPaまで上がるものの,1500℃で30分間炭化焼成させると,曲げ強度が約80MPaまで下がること等が判明した。 原告は,E教授と共に,前記研究の成果について,判明次第順次,昭和60年12月2日に開催された第1回先端材料技術シンポジウムで発表したり,昭和61年4月に開催された講演会で発表したりした。 (イ) 富士スタンダードリサーチにおける被告Bの研究等(甲11の2,24,26,27,乙1,8,10,被告本人兼被告アクロス代表者B)a 富士スタンダードリサーチは,昭和56年4月7日,富士石油株式会社とアラビア石油株式会社の出資により,設立された。 富士スタンダードリサーチは,ピッチ系炭素繊維の製造とその複合材料への応用等を目指していたため,これらに関連する特許を年平均約8件のペースで出願していた。 b アトケム社は,昭和59年6月27日,発明の名称を「柔軟性複合材及びその製造法」とし,昭和58年6月28日と昭和59年4月10日に仏国でした両特許出願に基づく優先権を主張してアトケム発明に係る特許出願(特願昭59-131220)をした。 - 24 - その製造法」とし,昭和58年6月28日と昭和59年4月10日に仏国でした両特許出願に基づく優先権を主張してアトケム発明に係る特許出願(特願昭59-131220)をした。 - 24 -アトケム発明は,従来想定されていた複合材の材料の範囲を広げるとともに,曲げても折れないよう,熱可塑性粉末で含浸した繊維粗糸を当該粉末以下の融点を有する柔軟性被覆材で被覆した複合材に関するもので,特許出願の願書に添付した明細書と図面には,炭素繊維を含む粗糸が,ガイドロールによって広げられた後,流動化タンクの下部から入ってきた圧縮空気によって流動化状態にある熱可塑性粉末の中に通され,ガイドロールで得た静電気により,上記粉末が芯まで含浸するとともに,周囲も上記粉末で覆われ,最後に,押出機から押し出された熱可塑性の柔軟性被覆材で被覆される過程と装置が実施例として記載されている。 c 富士スタンダードリサーチは,アトケム社からの中間材に関する技術導入を予定し,その準備として,昭和60年1月,大同特殊鋼株式会社と共に,熱可塑性樹脂等で含浸した繊維束を柔軟性被覆材で被覆するFIT設備を購入し,繊維強化熱可塑性プラスチック等に関する研究を進めていた。 そのような中で,アトケム発明が昭和60年2月25日に出願公開(特開昭60-36156)されたが,上記発明には,母材が粉末であるために,補強材と母材の配合割合が定量的にならず,物性が安定しなかったり,中間材を切断すると,粉末が離散して作業環境が悪化したり,粉末が安定的に流動するように粉末の平均粒子径を特定の範囲内に限定させるための厳密な粉末粒子製造工程を必要となって,生産コストが高くなったりするなどの問題があった。そこで,富士スタ - 25 -ンダードリサーチでは,補強 粉末の平均粒子径を特定の範囲内に限定させるための厳密な粉末粒子製造工程を必要となって,生産コストが高くなったりするなどの問題があった。そこで,富士スタ - 25 -ンダードリサーチでは,補強材と母材の配合割合を定量的にして物性を安定させるとともに,製造や加工を容易にするべく,従業員の被告Bを中心に,アトケム発明における熱可塑性粉末を熱可塑性樹脂繊維に置き換えて繊維強化熱可塑性プラスチックを製造する方法を開発し,昭和60年12月9日,富士石油株式会社と共に,本件先行発明に係る特許出願をした。 (ウ) 本件発明に至る経緯等(甲4,10の3ないし5,11の2,15の1ないし3,24,27,乙8ないし11,証人E,原告本人,被告本人兼被告アクロス代表者B)a 被告Bは,昭和61年2月か3月ころ,上司の被告Cが交友関係のあったE教授からピッチ系炭素繊維の提供を求められたことから,被告Cに同行して第4部E研究室に赴き,その試作品を提供した。 その際,被告Bは,E教授から,第4部E研究室で行われていた研究の概要について説明を受けたり,Gが執筆した論文の紹介を受けたりしたことから,本件先行発明を応用し,混合粉末流動層等によってバインダーピッチ粉末とコークス粉末からなる混合粉末が包含された強化用繊維を芯材とし,その周囲に熱可塑性樹脂からなる柔軟なスリーブを設けたC/C複合材料を含む無機質繊維強化炭素複合材料用のプリフォームドヤーンを製造する方法を着想した。 b 富士スタンダードリサーチは,大同特殊鋼株式会社との間で,FIT設備を繊維強化熱可塑性プラスチック等に関する研究のためだけに使う旨合意していた。被告Bは,FIT設備を使ったC/C複合材料 - 26 -用のプリフォームドヤーンを試作することができなかっ IT設備を繊維強化熱可塑性プラスチック等に関する研究のためだけに使う旨合意していた。被告Bは,FIT設備を使ったC/C複合材料 - 26 -用のプリフォームドヤーンを試作することができなかったが,アトケム社が先に特許出願してしまうおそれがあったので,E教授の説明や同教授から紹介された論文を参考として,机上にスリーブの材料となる熱可塑性樹脂シートを置き,その上にバインダーピッチ粉末とコークス粉末の混合粉末に溶剤を加えたペーストを塗布し,その上に炭素繊維シートを置き,更にその上に熱可塑性樹脂シート,ペースト,炭素繊維シートを順に重ねたものを試作し,これにより,C/C複合材料用のプリフォームドヤーンを製作してC/C複合材料を製造する見通しを付けた。 c 被告Bは,昭和61年5月ころ,本件発明について特許出願をしようと考え,同月21日ころ,発明の名称や特許請求の範囲,プリフォームドヤーンを製造する装置の図面と特徴及び材料や製造方法,物性等の諸元をまとめたメモを作成した。このメモは,実施例において,バインダーピッチ粉末は石油系を用いるものとしていたが,コークス粉末は石油系を,強化用繊維はフィラメント3000本のピッチ系炭素繊維をそれぞれ用いるものとしていて,成形条件としての温度・圧力等や焼成条件としての温度・時間等,引っ張り強度・曲げ強度等は空欄であった。 被告Bは,E教授を経由して,原告に前記メモの確認や訂正,補充を依頼したところ,原告は,赤ペンで,「石油系」コークス粉末との記載をこれまで自分が用いてきた「石炭系」コークス粉末に訂正するとともに,直近の研究成果に対応させて,成形条件としての温度を「6 - 27 -00」℃,圧力を約49MPaに相当する「500」Kg/㎠と,焼成条件としての温度を「15 」コークス粉末に訂正するとともに,直近の研究成果に対応させて,成形条件としての温度を「6 - 27 -00」℃,圧力を約49MPaに相当する「500」Kg/㎠と,焼成条件としての温度を「1500」℃,時間を「30」分間とそれぞれ補充し,また,引っ張り強度の欄には「一次焼成品」,130MPaに近い「1300」Kg/㎠と,直下の曲げ強度の欄には「二次焼成品」,80MPaに近い「80」Kg/㎠とそれぞれ補充するなどして,E教授を経由してメモの写しを被告Bに返した。 d 富士スタンダードリサーチは,昭和61年5月30日,H及びI両弁理士に対し,本件発明に係る特許出願を委任した。 被告Bは,前記メモの写しの返還を受けて,前記両弁理士に本件発明に係る明細書案を起案してもらい,再び,E教授を経由して,原告に明細書案の確認や訂正,補充を依頼したところ,原告は,赤ペン又は鉛筆で,表現の訂正や各材料に関する知見等の補充を行ったが,その際,「芯材の周囲に熱可塑性樹脂からなるスリーブを設け,該芯材中に熱可塑性樹脂を用いた複合材料も知られている」というアトケム発明を意識した記載に対しては「この材料は文献上のものか?実際に作ったものか?」と記載し,「石炭系」バインダーピッチの記載に対しては「富士の材料か?」と記載して,これまで自分が用いてきた「石油系」バインダーピッチに訂正し,実施例や比較例中の曲げ強度や密度の数値等に対しては「テスト要」と記載したりして,E教授を経由して明細書案の写しを被告Bに返した。 e 被告Bは,その後も,E教授を経由した原告とのやりとりをして,本件発明に係る明細書案を完成させた。 - 28 -被告Bは,E教授に対する配慮と共に今後の関係強化のために,E教授に対し,同教授を も,E教授を経由した原告とのやりとりをして,本件発明に係る明細書案を完成させた。 - 28 -被告Bは,E教授に対する配慮と共に今後の関係強化のために,E教授に対し,同教授を共同発明者としたい旨を申し出たところ,E教授から原告も共同発明者とするよう依頼された。そこで,富士スタンダードリサーチは,発明者として,被告Bの外にE教授と原告を加え,更に同社の慣例に従い,代表取締役のFと取締役の被告Cを加えることとして,昭和61年8月2日,本件発明に係る特許出願をした。 f 被告Bは,昭和61年12月末,富士スタンダードリサーチが年末休みに入り,FIT設備を使ってC/C複合材料用のプリフォームドヤーンを試作して,設備内がすすで汚れても,洗浄する時間的余裕が生じたので,FIT設備等を使ってC/C複合材料用のプリフォームドヤーンを試作し,昭和62年1月,E教授に対し,上記プリフォームドヤーンを提供した。 g 被告アクロスは,昭和62年6月30日,富士スタンダードリサーチから,本件発明に係る特許を受ける権利を譲り受け,E教授に対し,プリフォームドヤーンを用いたC/C複合材料に関する共同研究を申し入れて,共同研究を開始した。 被告Bや原告は,東大生研千葉実験所において,研究を進めたところ,揮発分17%の石油系バルクメソフェーズと粒径3.5μmのピッチコークスを3対2の割合で混合した粉末が包含されたフィラメント6000本の繊維重量割合33%の炭素繊維とを,ポリプロピレンのスリーブで被覆して一方向に並べ,最高温度600℃,最高圧力49MPaでホットプレスした後,2000℃で30分間炭化焼成させる - 29 -と,曲げ強度が501MPaまで上がること等が判明した。 前記研究の成 ,最高温度600℃,最高圧力49MPaでホットプレスした後,2000℃で30分間炭化焼成させる - 29 -と,曲げ強度が501MPaまで上がること等が判明した。 前記研究の成果について,被告Bが平成2年3月ころに「炭素繊維強化炭素複合材料用プリフォームドヤーンの製造とその応用」と題する論文を発表し,原告が被告B及びE教授と連名で同年11月に「炭素繊維強化炭素(C/C)複合材料の新しい製造技術に関する研究」と題する論文を「東京大学生産技術研究所報告」に出稿した。 イ発明とは,自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいうところ(特許法2条1項),特許を受ける権利を原始的に取得する発明者とは,特許請求の範囲に基づいて定められた技術的思想の特徴的部分の創作行為に現実に加担した者をいうと解するのが相当である。 (ア) 証拠(甲1の1)によれば,① 本件発明は,例えば,炭素繊維強化炭素製品等の無機質繊維強化炭素製品の成形前駆体として有用な柔軟性中間材に関する,② 従来,無機質繊維強化炭素複合材料,例えばC/C複合材料は,炭素繊維を予め成形し,炉に入れて高温下で加熱し,次いで炭化水素系ガスを炉内に通して分解炭化させ,炭素を表面に沈着固化させる方法(CVD法)や炭素繊維の束,織布,不織布等をフェノール樹脂やエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂により所望の形状に成形した後,不活性ガス雰囲気で熱処理を行って樹脂を炭化させる方法等で製造されていたが,前者の方法は,ススを出さないように有機物ガスを熱分解させる必要があるために,生産性が悪く,また,均一な気孔の少ないC/C複合材料を得るためには長時間を要するほか高度な技術を必要とする欠点があり,後者の方法は,炭素繊維を熱硬化性樹脂で成形した成 - 30 -形体 めに,生産性が悪く,また,均一な気孔の少ないC/C複合材料を得るためには長時間を要するほか高度な技術を必要とする欠点があり,後者の方法は,炭素繊維を熱硬化性樹脂で成形した成 - 30 -形体を焼成炭化する過程において気孔が生じるために,該気孔に更に熱硬化性樹脂を含浸させて焼成炭化するという工程を繰り返し行う必要があってその操作工程が煩雑である上,機械的強度に優れたものが得られないという欠点があった,③ 本件発明は,従来の問題点を解決するために,作業性,後加工性,成形性に優れ,機械的強度が高く,かつ該強度にバラツキがなく,高品質の無機質繊維強化炭素複合材料の成形前駆体として有用な柔軟性中間材及び該柔軟性中間材の工業的に有利な製造方法を提供することを目的として,別紙特許公報記載の特許請求の範囲のとおりの構成を採用し,これにより,所期の目的を達成した,④ 本件発明は,芯材として,少なくとも,軟化性を有する石油及び/又は石炭系バインダーピッチ粉末と軟化性を有していない石油及び/又は石炭系コークス粉末が包含された複数の強化用繊維を用い,かつ,該芯材の周囲に熱可塑性樹脂からなる柔軟なスリーブを設けるという要件を組み合わせたことにより,この柔軟剤から得られる複合材料は,その母材中の強化用繊維の分散状況が従来の複合材料に比べて優れているために,より簡便に高密度になりやすい,強化用繊維の含有量を,柔軟性中間材の作成時にバインダーピッチとコークス粉末との包含量を変えることによって簡便に,任意にコントロールできるため,従来法に比べて簡便かつ短時間に高密度で機械的強度に優れた複合材を得ることができる,芯材の周囲に熱可塑性樹脂からなる柔軟なスリーブを設けたことから,その内部に水分やその他の不純物が侵入することを防止できるので,その成形品の機械的物性 で機械的強度に優れた複合材を得ることができる,芯材の周囲に熱可塑性樹脂からなる柔軟なスリーブを設けたことから,その内部に水分やその他の不純物が侵入することを防止できるので,その成形品の機械的物性を改善することができ,しかも,表面に毛羽立ちや - 31 -強化用繊維を露出することがないので、織布工程やハンドリングが容易であり,また,得られるクロスや織布等の強化用繊維が傷むことがなく,極めて後加工性が良いなどの顕著な作用効果を奏する,以上の事実が認められる。 (イ) そして,前記ア認定の事実によれば,本件発明に係る特許請求の範囲の請求項1の「少なくとも,軟化性を有する石油及び/又は石炭系バインダーピッチ粉末と軟化性を有していない石炭系コークス粉末からなる混合粉末が包含された複数の強化用繊維を芯材と」する構成,同請求項2の「少なくとも軟化性を有する石油及び/又は石炭系バインダーピッチ粉末と軟化性を有していない石炭系コークス粉末からなる混合粉末」との構成は,本件発明に係る特許出願がされた当時,いずれも原告やG等の研究によって公知であったものであり,また,本件発明に係る特許請求の範囲の請求項1の芯材「の周囲に熱可塑性樹脂からなる柔軟なスリーブを設け」る構成,同請求項2の「複数の強化用繊維を混合粉末流動層に導入して,各強化用繊維間に混合粉末が包含された芯材を形成し,次いで該芯材を熱可塑性樹脂で被覆して芯材の周囲に柔軟なスリーブを設ける」との構成も,本件発明に係る特許出願がされた当時,いずれもアトケム発明の出願公開によって公知であったものである。 (ウ) 以上によれば,本件発明に係る技術的思想の特徴的部分は,前記の両公知技術を組み合わせたところにあるものと認められる。前記ア認定の事実によれば,この組合せを着想し,試作によ である。 (ウ) 以上によれば,本件発明に係る技術的思想の特徴的部分は,前記の両公知技術を組み合わせたところにあるものと認められる。前記ア認定の事実によれば,この組合せを着想し,試作によってC/C複合材料用のプリフォームドヤーンを製作する見通しを付けたのは,被告Bだけで - 32 -あるから,被告Bが本件発明の発明者であり,原告が単独又は共同で本件発明をしたとは認められない。 (エ) 原告の主張についてa 原告は,炭素繊維とコークス粉及び炭素質バインダーを交互に積層してC/C複合材料を製造する方法を開発したが,強度が十分でないなどの問題が判明したので,プリフォームドヤーンであれば,十分な強度のC/C複合材料を得られるのではないかと思い付き,さらに,アトケム発明から粒子付着装置等でプリフォームドヤーンを製作する方法も思い付いて,昭和61年4月ころ,被告Bに依頼して,富士スタンダードリサーチの粒子付着装置等でプリフォームドヤーンを試作してもらい,できあがったプリフォームドヤーンをホットプレスしたところ,十分な強度のC/C複合材料が得られたもので,これにより本件発明が完成したと主張し,陳述書(甲25,30,32)及び本人尋問において,これに沿う内容の陳述をする。 原告は,昭和58年には,繊維容量割合を上げればC/C複合材料の強度が高くなることを認識していたから,炭素繊維と母材を交互に積層してC/C複合材料を製造する方法から,炭素繊維束内に母材を包含させてC/C複合材料を製造する方法を思い付くことは考えられないでもないが,そうであるとしても,更に炭素繊維束の周囲に熱可塑性樹脂からなる柔軟なスリーブを設けることまでをも思い付くということはできないし,原告が被告Bから確認を依頼された明細書案 は考えられないでもないが,そうであるとしても,更に炭素繊維束の周囲に熱可塑性樹脂からなる柔軟なスリーブを設けることまでをも思い付くということはできないし,原告が被告Bから確認を依頼された明細書案のうちのアトケム発明を意識した記載に対して「この材料は文献上のも - 33 -のか?実際に作ったものか?」と記載していることに照らすと,原告は,アトケム発明を知らなかったものと認められるから,原告がプリフォームドヤーンを思い付いたとは考え難いところである。また,弁論の全趣旨によれば,原告は,C/C複合材料の研究において,炭素繊維としてPAN系のもののみを用いていたことが認められ,原告による研究の成果も全てPAN系炭素繊維の使用を前提とするものであるところ,被告Bから確認を依頼された明細書案は,ピッチ系炭素繊維の使用を前提とするものである。そして,原告は,明細書案の「石炭系」バインダーピッチとの記載に対して「富士の材料か?」と記載したり,実施例や比較例中の曲げ強度や密度の数値等に対して「テスト要」と記載したりしているのである。さらに,富士スタンダードリサーチは,大同特殊鋼株式会社との間で,FIT設備を繊維強化熱可塑性プラスチック等に関する研究のためだけに使う旨合意していたのであって,被告Bは,本件発明に係る特許出願の後である昭和61年12月末になって,FIT設備を使ってC/C複合材料用のプリフォームドヤーンを試作することができたのであるから,被告Bが同年4月ころに原告の依頼を受け,FIT設備を使ってプリフォームドヤーンを試作したとは認め難い。これらの事情を併せ考えると,原告の上記陳述はにわかに採用することができず,他に原告の上記主張事実を認めるに足りる証拠はない。 b 原告は,(a)平成元年春ころに「炭素繊維強化炭素(C/ これらの事情を併せ考えると,原告の上記陳述はにわかに採用することができず,他に原告の上記主張事実を認めるに足りる証拠はない。 b 原告は,(a)平成元年春ころに「炭素繊維強化炭素(C/C)複合材料用のプリフォームドヤーンの製造とこれを用いて作製したC/C - 34 -複合材料の性質」と題する論文を執筆した,(b)平成3年に日本原子力研究所の顧問から,本件発明に関し,大河内賞の受賞候補者として推薦された,(c)被告Bは,原告を被告アクロスの名誉技術顧問とする名刺を被告アクロスが作成することを承諾するとともに,本件発明の相当の対価の支払義務があることを認めて,被告アクロスの株式配当金を上記対価に充当する旨了承し,また,被告アクロスも,原告が本件発明をしたことを否定しなかったから,これらの事実からみても,原告が本件発明をしたことは明らかであると主張する。 しかしながら,(a)については,上記論文は本件発明の特許出願後に執筆されたものであって,前記ア認定の事実に照らすと,本件発明に至る過程を表すものとはいえない。また,(b)については,証拠(甲6の4・5,11の1)によれば,原告が平成3年に被告アクロスの取締役,相談役兼日本原子力研究所の顧問のJから,C/C複合材料の新しい製造方法の開発と工業化に関し,「E君の発想創造に基づき,東京大学生産技術研究所で同君がA君と協同し基礎研究を確立した。 その基礎的成果をC君を代表者としてB,K君などが協力して生産規模へ発展させ,新用途の開拓を行った」との理由で,大河内賞の受賞候補者として推薦されたことが認められるが,ここにいう基礎研究とは,C/C複合材料を構成する材料の組成に関する研究を指すものというべきである。さらに,(c)については,証拠(甲7,8の2ないし7)及び 者として推薦されたことが認められるが,ここにいう基礎研究とは,C/C複合材料を構成する材料の組成に関する研究を指すものというべきである。さらに,(c)については,証拠(甲7,8の2ないし7)及び弁論の全趣旨によれば,①原告は,韓国で被告アクロスの宣伝をしやすいよう,平成18年4月11日に,被告Bとの間で,原 - 35 -告を被告アクロスの名誉技術顧問とする名刺を被告アクロスが作成することを合意し,実行されたこと,②原告が平成19年6月26日に本件発明の対価として7億9000万円の支払を被告アクロスに請求したのに対し,被告アクロスは,同年7月31日に,原告に対し,「貴殿のご要求金額はあまりに高額であり,また本件ではその背景として特許の価値の評価等複雑な問題が介在するという事情もあるため,このような短期間で十分な検討・評価を行うことは難しい状況です。」として,話合いによる解決は希望するものの,現時点では支払わない旨回答したが,原告からの要求が続いたため,同年11月27日付け文書で原告の発明者性を否定する旨回答したことが認められるにとどまる。これらの事実によっては,原告が本件発明における組合せを着想したものと認めることはできない。 (2) 以上のとおりであって,原告が単独又は共同で本件発明をしたとは認めることができないから,原告の被告富士石油販売に対する請求は,主位的請求及び予備的請求ともに,その余について判断するまでもなく理由がない。 2 被告アクロスらに対する請求について(1) 損害賠償請求についてア争点①(被告アクロスの行為が原告に対する名誉毀損又は人格的利益の侵害を構成するか否か)について被告アクロスが本件特許証に被告Bなど原告以外の者を発明者として掲載させたとしても,特許証は,特許権 告アクロスの行為が原告に対する名誉毀損又は人格的利益の侵害を構成するか否か)について被告アクロスが本件特許証に被告Bなど原告以外の者を発明者として掲載させたとしても,特許証は,特許権者に対してのみ交付され(特許法28条),公開されるものではないから,原告の社会的な評価を低下させる - 36 -ものとはいえないし,原告が単独又は共同で本件発明をしたと認められないことは,前記1のとおりであるから,原告の人格的利益を侵害することもないというべきである。 また,被告アクロスが原告に対して本件書簡を送付した行為も,原告に対してのみ送付したものであるから,原告の社会的な評価を低下させるものとはいえないし,原告が単独又は共同で本件発明をしたとは認められないから,原告の人格的利益を侵害することもないというべきである。 さらに,被告アクロスが本件準備書面を提出して陳述した行為は,原告が単独又は共同で本件発明をしたとは認められないから,原告の人格的利益を侵害することはないというべきである。これに対し,本件準備書面の内容は,原告の社会的評価を低下させるものであり,その陳述が公開の法廷で行われ,かつ,本件準備書面は,訴訟記録に編綴され,何人でも閲覧が可能な状態に置かれるのであるから,上記行為は,原告の名誉を毀損するものである。 イ争点②(違法性阻却事由の有無)について前記1のとおり,被告Bが本件発明の発明者であって,原告が単独又は共同で本件発明をしたとは認められないものであるところ,本件準備書面を提出する行為は,被告アクロスの訴訟活動として行われたものであり,これが正当な訴訟活動の範囲を逸脱したものと認めるに足りる特段の事情があることは窺えないのであって,このことに鑑みれば,上記行為は,公共の る行為は,被告アクロスの訴訟活動として行われたものであり,これが正当な訴訟活動の範囲を逸脱したものと認めるに足りる特段の事情があることは窺えないのであって,このことに鑑みれば,上記行為は,公共の利害に関する事実に係り,その目的が専ら公益を図るものであるということができるから,違法性を欠くものというべきである。 - 37 -そうすると,被告アクロスの上記行為は,名誉毀損又は人格的利益の侵害による不法行為を構成しない。 ウしたがって,原告の被告アクロスらに対する損害賠償請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がない。 (2) 発明者に関する確認請求についてア争点④(確認の利益の有無)について確認の利益は,原告の権利又は法律的地位に危険や不安定が現存し,かつ,その危険や不安定を除去する方法として,当事者間に当該請求について判決をもって法律関係の存否を確定することが必要かつ適切である場合に認められるものである。 原告の発明者に関する確認請求は,原告又は被告Bの本件発明の発明者に係る事実関係について積極的又は消極的な確認を求めるものにすぎず,本件全証拠によっても,原告の権利又は法律的地位に危険や不安定が現存すると認めることはできないし,判決をもって確定することが必要かつ適切であると認めることもできないから,原告が被告アクロスらに対して本件発明の発明者が原告であって被告Bでないことの確認を求める利益があるとは認められない。 イしたがって,発明者に関する確認請求に係る訴えは,確認の利益を欠き不適法である。 3 結論よって,原告の被告富士石油販売に対する請求は,理由がないからこれを棄却することとし,原告の被告アクロスらに対する請求のうち,発明者に関する ,確認の利益を欠き不適法である。 3 結論よって,原告の被告富士石油販売に対する請求は,理由がないからこれを棄却することとし,原告の被告アクロスらに対する請求のうち,発明者に関する - 38 -確認請求に係る訴えは,不適法であるからこれを却下し,その余の請求は,理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官高野輝久 裁判官志賀勝 裁判官小川卓逸(別紙特許公報は省略) - 39 -(別紙)当事者目録 千葉市<以下略>原告 A同訴訟代理人弁護士志知俊秀東京都中央区<以下略>被告富士石油販売株式会社同訴訟代理人弁護士田子真也吉野彰丸山真司篠田大地埼玉県蕨市<以下略>被告株式会社アクロスさいたま市<以下略>被告 B神奈川県逗子市<以下略>被告 C上記3名訴訟代理人弁護士山崎行造 B神奈川県逗子市<以下略>被告 C上記3名訴訟代理人弁護士山崎行造杉山直人小笠原裕同補佐人弁理士白銀博 - 40 -(別紙)特許目録 特許番号第1822657号発明の名称無機質繊維強化炭素複合材料用の柔軟性中間材及びその製造方法出願日昭和61年8月2日登録日平成6年2月10日

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る