- 1 - 主文 被告人を懲役25年に処する。 未決勾留日数中140日をその刑に算入する。 札幌地方検察庁で保管中の包丁2本(令和6年領第666号符号1、同年領第840号符号1-1)を没収する。 理由 注。以下の親族に関する続柄は、すべて被告人からみた続柄である。 (犯行に至る経緯)被告人は、かねてより異母姉であるAを金にだらしない人物などとして嫌っていた。被告人は、グループホームに入居する実母の介護等をAに任せていたものの、Aが介護費用を滞納していたため、令和6年1月、その滞納分の一部を妻から借りて返済した。ところが、返済の際、Aが実母のおむつ代も滞納していることを知らされると、被告人は、Aが依然として金にだらしないと思い、妻には愚痴をこぼしていた。 被告人は、同月20日の夕方に仕事から帰宅すると、妻から、Aの滞納を立て替える状況がいつまで続くのかを尋ねる趣旨で「私って金づるなの」と聞かれた。被告人は、Aの金のだらしなさは今後も続くと思う一方、これ以上妻から金を借りて迷惑をかけることはできないと考えて板挟みになり、ここにAを殺して自分も死のうと決意するに至った。そして、どうせ自殺するのであれば、かねてより金に汚いと思っていた義弟(妻の弟)であるBを殺すのも変わらない、Bを殺せば義父の遺産分割で妻らが得られる遺産が増えてよいと考えるに至った。そこで、被告人は、レンタカーを借りてa町にあるA方と岩見沢市にあるB方に赴き、2人をそれぞれ包丁で殺害しようと考えた。 被告人は、翌21日の朝、返り血を浴びた服装のままでA方からB方に移動すると怪しまれてB殺害を実行できなくなると考え、着替えやタオルを用意して自宅を出た。また、被告人は、Aらを殺害するにはそれぞれ切れ味の良い新 21日の朝、返り血を浴びた服装のままでA方からB方に移動すると怪しまれてB殺害を実行できなくなると考え、着替えやタオルを用意して自宅を出た。また、被告人は、Aらを殺害するにはそれぞれ切れ味の良い新品の包丁を使 - 2 -うのがよいと考え、刃物店でA殺害用、B殺害用及び自殺用として包丁3本を購入したほか、自身が怪我をしたときに備えてばんそうこう等を購入した。そして、購入した包丁を箱から出し、取り出しやすいよう包丁の柄を上向きに立ててリュックに入れた上、レンタカーを運転してまずA方に赴いた。 (罪となるべき事実)第1 被告人は、令和6年1月21日午後0時1分頃から同日午後0時19分頃までの間に、北海道余市郡a町b町c丁目d番地e所在のアパートf号室のA方において、床に座って会話をしていたAが立ち上がろうと前かがみになった際、リュックに忍ばせていた包丁を取り出すと、殺意をもって、A(当時63歳)の首の後ろを狙って前記包丁(刃体の長さ約18.5センチメートル。令和6年領第840号符号1-1。)を振り下ろしたほか、Aの後頭部や肩の後ろ付近を同包丁で複数回突き刺すなどし、Aの後頸部に深さ約8.2センチメートルの刺切創や肩甲間部上方に深さ約14.5センチメートルの刺切創等、合計11か所の刺切創等を負わせ、よって、その頃、同所において、Aを頸部刺創による出血性ショックにより死亡させて殺害した。 第2 被告人は、業務その他正当な理由による場合でないのに、前記第1の日時場所において、前記第1の包丁1本を携帯した。 第3 被告人は、同日午後3時31分頃から同日午後4時45分頃までの間に、北海道岩見沢市g条h丁目i番地jのB方において、会話中に冷たい飲み物がほしいと申し向けてBを冷蔵庫に向かわせた際、リュックに忍ばせていた別の包丁を取り出すと、殺 ら同日午後4時45分頃までの間に、北海道岩見沢市g条h丁目i番地jのB方において、会話中に冷たい飲み物がほしいと申し向けてBを冷蔵庫に向かわせた際、リュックに忍ばせていた別の包丁を取り出すと、殺意をもって、背後からB(当時57歳)の腰付近を狙って前記包丁(刃体の長さ約18.5センチメートル。同年領第666号符号1。)を突き刺したほか、Bの首や右側頭部を同包丁で複数回突き刺すなどし、合計35か所の刺切創等を負わせたが、同包丁の刃が背中の骨に当たったため深さ約1.7センチメートルの刺創にとどまったり、同包丁の刃が椎骨に当たったため椎骨動脈の約9.1ミリメートル手前で刃が止まったりしたほか、Bに抵 - 3 -抗されるなどしたため、Bに全治約4週間を要する多数刺切創による出血性ショックの傷害を負わせたにとどまり、殺害の目的を遂げなかった。 第4 被告人は、業務その他正当な理由による場合でないのに、前記第3の日時場所において、前記第3の包丁1本を携帯した。 (証拠の標目)省略(法令の適用)罰条判示第1の所為刑法199条判示第2及び第4の所為いずれも銃砲刀剣類所持等取締法31条の18第2項2号、22条判示第3の所為刑法203条、199条刑種の選択判示第1及び第3の罪については有期懲役刑を、判示第2及び第4の罪については懲役刑をそれぞれ選択する。 併合罪の処理刑法45条前段、47条本文、10条(刑及び犯情の最も重い判示第1の罪の刑に法定の加重をする。)未決勾留日数算入刑法21条(140日をその刑に算入する。)没収刑法19条1項2号、2項本文(札幌地方検察庁で保管中の包丁1本(令和6 の刑に法定の加重をする。)未決勾留日数算入刑法21条(140日をその刑に算入する。)没収刑法19条1項2号、2項本文(札幌地方検察庁で保管中の包丁1本(令和6年領第840号符号1-1)は、判示第1の殺人の用に供した物、同包丁1本(同年領第666号符号1)は、判示第3の殺人未遂の用に供した物で、いずれも被告人以外の者に属しない)訴訟費用(不負担) 刑事訴訟法181条1項ただし書(量刑の理由) 1 本件は、判示のとおり極めて計画性の高い残酷な犯行である。被告人がAとBに対して殺意を抱くに至った理由は常人には理解しかねるが、犯行そのものから見て取れる殺意の強さは非常に強固であり、かつ、長時間にわたって揺らいでい - 4 -ない。 Aは死亡したため被害感情を述べることはできないが、自宅で被告人と会話していたところ突然首を刺された驚きや恐怖、生きる望みを絶たれた無念さ等はさぞかし大きかったであろうと推測される。 また、Bは、本件後に病院に搬送された際には意識や体動のない瀕死状態にあり、その後瞳孔が開いたままの状態から出血性ショックの状態に陥っていたもので、治療によって幸い一命をとりとめたものの、今でも後頭部の痛みや人差し指のしびれに悩まされている。したがって、Bに対する殺人が未遂に終わったとはいえ、それは偶然の結果に過ぎず、被害結果は死亡させたのに近いほど重い。そして、Bは、日常生活のふとした時に事件を思い出すなど、多大な精神的苦痛を被っており、被告人に対して最も厳重な処罰を望んでいる。 2 ところで、被告人は、犯行当時、統合失調症の慢性期にあり、他者への共感が乏しかった点や犯行にブレーキをかけられなかった点などは統合失調症の慢性期症状の影響があったことは否定できない。 しか 2 ところで、被告人は、犯行当時、統合失調症の慢性期にあり、他者への共感が乏しかった点や犯行にブレーキをかけられなかった点などは統合失調症の慢性期症状の影響があったことは否定できない。 しかし、被告人は幻覚や幻聴もなく日常生活を送ることができている上、本件においては、いろいろな場面を想定して周到に計画し、その計画に沿って犯行を遂行できているのであるから、通常の人と同じように非難を受けるべきである。そもそも被告人は妻に対しては強く共感できており、妻が述べる被告人の姿も人間味のある姿であることからすると、被告人の他者に共感する力も結局は被告人自身の好き嫌いに大きく左右されるものと考えられる。また、一度決めたことをやり抜く点も被告人の性格と考えられることなどからすると、被告人が本件犯行を計画して遂行したのは、被告人のもともとの気質による部分も大きいと考えられる。したがって、被告人が統合失調症の慢性期にあったことを大きく酌むことはできない。 3 また、被告人は、Bを刺すのを止めた後、妻に電話して本件犯行を告げたところ、妻から自殺をせずに自首するよう説得されて110番通報したもので、法 - 5 -律上は自首が成立する。 この自首によってBの救命や捜査の開始が早まった点は評価できる一方、被告人は、妻からの説得を受けた後も、自殺するか自首するか悩みながらBが動かなくなるのを見届け、Bが死んだかなと思ってようやく110番通報したのであって、真摯な反省や悔悟の念から自首したのではない。このような経緯を考慮すると、自首の点も大きく酌むことはできない。 4 以上からすると、本件は、同種事案(殺人、単独犯、凶器として刃物類を使用、処断罪以外の罪が1~4件ある事案)のうち、殺人1件と殺人未遂1件の事案における量刑傾向の中では相応に重い部類に位 い。 4 以上からすると、本件は、同種事案(殺人、単独犯、凶器として刃物類を使用、処断罪以外の罪が1~4件ある事案)のうち、殺人1件と殺人未遂1件の事案における量刑傾向の中では相応に重い部類に位置付けられる。 そして、犯行状況を冷静に語り、本件について「やり過ぎた」と述べるにとどまる被告人の態度からは、AやBに危害を加えたことを反省する様子は認められない。それ故、被告人に再犯のおそれがないとは言い切れず、今後も些細なことで残忍な行為に突き進まないか懸念が残る。また、Bに対する被害弁償として妻及び義妹が各150万円を支払っているが、これとて義父の遺産分割で得られる現金から各150万円を差し引いたものに過ぎず、被告人が慰謝の気持ちで行ったものではないし、Bが厳罰を望んでいることに変わりはない。 このような点も考慮した結果、被告人に対しては、主文のとおりの刑を科すのが相当であると判断した。 (求刑-懲役25年、主文同旨の没収)(弁護人の科刑意見-懲役19年)令和6年12月13日札幌地方裁判所刑事第2部裁判長裁判官井戸俊一 裁判官新宅孝昭 - 6 - 裁判官斎藤由里阿
▼ クリックして全文を表示