- 1 - 主文 被告は,原告Aに対し,2710万3307円及びこれに対する平成20年9月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告は,原告Cに対し,3729万2001円及びこれに対する平成20年10月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告は,原告Dに対し,1488万3396円及びこれに対する平成20年10月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 原告らのその余の請求を棄却する。 訴訟費用は,訴え提起の手数料のうち46万5000円を原告らの負担とし,その余を被告の負担とする。 この判決の第1項ないし第3項は仮に執行することができる。 事実及び理由 第1請求 被告は,原告Aに対し,6531万6334円及びこれに対する平成20年9月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告は,原告Cに対し,9485万4135円及びこれに対する平成20年10月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告は,原告Dに対し,7425万5614円及びこれに対する平成20年10月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要 前提事実以下の事実は,当事者間に争いのない事実又は証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実である。 - 2 -(1)レジデンシャル-ONE(本件ファンド)証券会社である被告は,その営業の一環として平成15年6月から,「レジデンシャル-ONE」と称する住居用不動産投資ファンドの匿名組合への出資を顧客に勧誘し,顧客から匿名組合への出資の媒介をした。レジデンシャル-ONE(以下「本件ファンド」ともいう。)は,平成15年6月設定の2003年6 称する住居用不動産投資ファンドの匿名組合への出資を顧客に勧誘し,顧客から匿名組合への出資の媒介をした。レジデンシャル-ONE(以下「本件ファンド」ともいう。)は,平成15年6月設定の2003年6月号(1号)から平成19年11月設定の2007年11月号(46号)まで,各月ごとに被告が募集した顧客から匿名組合に出資されてファンドが設定された。 レジデンシャル-ONEは,被告作成のパンフレット(別紙1)にあるとおり,三大都市圏(東京・大阪・名古屋)の住居用不動産(主にマンション)を信託財産とする信託受益権を中心に投資するファンドである。ファンドの出資金は,1口100万円,被告が受け取る申込手数料は,出資金の3%(消費税別途),設定期間は,3年間,分配金支払日は,設定後半年毎で年2回とされている。中途解約はできず,設定期間終了時に出資金が償還されるが,運用期間中の分配と最終償還の原資は,不動産の賃料収入と売却代金に依存し,投資元本の償還及び期間中の分配は,保証されないファンドである。 レジデンシャル-ONEは,ノンリコースローン(借入)を導入して少ない投資資金で数多くの不動産に投資することで,投資効率を高め,利回りの向上を図ること,すなわちレバレッジアップにより高利回りを目指すことを特色としていた。 (2)レバレッジリスクレバレッジとは,小さな力で重い物を動かす「てこの原理」のことであり,少ない資金で大きな投資をすることを意味する。レバレッジ効果ともいう。 被告がパンフレットに記載したレバレッジアップとは,借入の導入により投資不動産の総額が顧客からの出資金の額よりも増えるため,賃貸収入や物- 3 -件の値上がりによる投資利益もそれだけ大きく見込むことができることをいう。しかし,当該ファンド償還に係る仕組み(別紙2)のとおり,償還に当たって 出資金の額よりも増えるため,賃貸収入や物- 3 -件の値上がりによる投資利益もそれだけ大きく見込むことができることをいう。しかし,当該ファンド償還に係る仕組み(別紙2)のとおり,償還に当たっては,出資金の償還よりも借入の返済が優先されるため,不動産価格が下落した場合には,レバレッジ効果が働き,不動産価格の下落幅以上に出資金が大幅に元本割れするリスク(レバレッジリスク)が内在する。 レバレッジリスクは,出資金に対する借入金の割合が大きくなればなるほどリスクも大きくなる。レジデンシャル-ONEは,出資金に対する借入金の割合の上限を定めており,1号(平成15年6月募集)から28号(平成17年11月募集)までは,上限が300%とされていたが,29号(平成18年4月募集)以降は,上限が400%に引き上げられた。 (3)レジデンシャル-ONEの損益レジデンシャル-ONEの各号ごとの1口あたりの出資金返還額,分配金の合計額(税引き前)は,損益一覧表(別紙3)のとおりである。同表のとおり,1号(平成15年6月募集)から18号(平成17年1月募集)までは,100万円の出資金に対し,出資金全額を償還した上で,ファンドの設定期間3年の分配金の合計(税引き前)として最低23万0377円~最高36万7189円の分配,出資金に対する割合にすれば年率7.7%~12. 2%の分配がされている。分配割合は,投資不動産の物件売却による損益率(同表⑪)が,0.38%~5.18%であるのに比べ高い割合となった。 ところが,19号(平成17年2月募集)以降は,不動産価格の下落によりレバレッジリスクが現実となり,19号では,出資金返還額が元本割れし,分配金の合計(税引き前)を加えて1口あたり5万6917円の利益となったものの,20号(平成17年3月募集)以降は,分配金を加えても バレッジリスクが現実となり,19号では,出資金返還額が元本割れし,分配金の合計(税引き前)を加えて1口あたり5万6917円の利益となったものの,20号(平成17年3月募集)以降は,分配金を加えても大幅な元本割れとなった。1口あたりの分配金差引後の損益(同表⑤)は,20号から口頭弁論終結時までに償還された43号(平成19年7月募集)につい- 4 -てみると,1口100万円の出資金に対し,40万9942円~93万6646円の大幅な元本割れとなっている。元本割れが確定した20号から43号までの24本のファンドのうち,26号(平成17年9月募集)以降の18本は,出資金元本の8割以上が償還されず,その半分の9本は,9割以上が償還されなかった。これら元本割れのファンドについて物件売却による損益率が確定しているファンドの損益率を見ると,-23.29%~-48. 66%となり,元本割れの割合が,不動産売却による損益率を大幅に上回り,レバレッジリスクが現実のものとなっている。 (4)レジデンシャル-ONEへの原告らの出資原告らは,平成15年7月から平成19年11月にかけて,別紙4損害額一覧表(ただし,A(損害額一覧表)のうち,2005年10月号の償還金額63万8400円は63万3840円の,2007年4月号は2007年3月号の誤り。)のとおり,被告従業員の勧誘を受けて,被告の媒介によりレジデンシャル-ONEの匿名組合出資契約を締結して同表購入金額欄のとおり匿名組合に対する出資金を支払い,同表手数料欄のとおり出資金の3. 15%の手数料(消費税込)を被告に支払った。各原告の投資総額は,次のとおりである。 原告A 出資金 7800万円(手数料込 8045万7000円)原告C 出資金1億1900万円(手数料込1億2274万8500円)原告D 出資 た。各原告の投資総額は,次のとおりである。 原告A 出資金 7800万円(手数料込 8045万7000円)原告C 出資金1億1900万円(手数料込1億2274万8500円)原告D 出資金1億1400万円(手数料込1億1759万1000円) 法律の規定(1)証券取引法(金融商品取引法)レジデンシャル-ONEのような匿名組合契約は,平成16年12月1日施行の証券取引法改正後は,証券取引法2条2項3号(平成19年9月30日施行の証券取引法改正後は,金融商品取引法2条2項5号)により有価証- 5 -券とみなして証券取引法(現在の金融商品取引法)が適用されることになった。 旧証券取引法43条1号(現在の金融商品取引法40条1号)は,適合性の原則を定め,証券会社(金融商品取引法においては金融商品取引業者)は,業務の運営の状況が,顧客の知識,経験及び財産の状況(金融商品取引法40条1項では,金融商品取引契約を締結する目的も加えられた。)に照らして不適当と認められる勧誘を行って投資家の保護に欠けることのないように,その業務を行わなければならないとしている。 (2)金融商品販売法平成13年4月1日に施行された金融商品の販売等に関する法律(以下「金融商品販売法」という。)は,制定当初から,レジデンシャル-ONEのような「不動産の信託の受益権に対する投資事業に係る匿名組合契約」を「金融商品の販売」の定義に含めた上で,被告のように金融商品の販売の媒介を業とする者(金融商品販売業者等)について重要事項の説明義務を定め,当該金融商品の販売について金利,通貨の価格,有価証券市場における相場その他の指標に係る変動を直接の原因として元本欠損が生ずるおそれがあるときは,その旨及び当該指標,当該金融商品の販売について当該金融商品の販売を行う者その他の ,通貨の価格,有価証券市場における相場その他の指標に係る変動を直接の原因として元本欠損が生ずるおそれがあるときは,その旨及び当該指標,当該金融商品の販売について当該金融商品の販売を行う者その他の者の業務又は財産の状況の変化を直接の原因として元本欠損が生ずるおそれがあるときは,その旨及び当該者を顧客に対し説明しなければならないとした(制定当初の3条1項1号,2号)。金融商品販売法における重要事項の説明義務は,平成19年9月30日の証券取引法改正の施行に合わせて改正され,上記事項に加え,当該指標に係る変動を直接の原因として元本欠損が生ずるおそれを生じさせる当該金融商品の販売に係る取引の仕組みのうちの重要な部分,当該者の業務又は財産の状況の変化を直接の原因として元本欠損が生ずるおそれを生じさせる当該金融商品の販売に係- 6 -る取引の仕組みのうちの重要な部分をも説明すべきことが明記されたほか(3条1項1号,3号),重要事項の説明は,顧客の知識,経験,財産の状況及び当該金融商品の販売に係る契約を締結する目的に照らして,当該顧客に理解されるために必要な方法及び程度によるものでなければならないと定められた(3条2項)。 金融商品販売法5条(制定当時の4条)は,重要事項の説明義務違反による金融商品販売業者等の損害賠償責任を定め,金融商品販売業者等は,顧客に対し同法3条の規定により重要事項について説明をしなければならない場合において,当該重要事項について説明をしなかったときは,これによって生じた当該顧客の損害を賠償する責めに任ずると定めている。 原告らの請求の原因(1)請求原因の骨子原告らの請求は,被告従業員が,適合性原則又は説明義務に違反して,原告らに対してレジデンシャル-ONEを勧誘し,契約をさせたと主張して,不法行為に基づく損害賠償 らの請求の原因(1)請求原因の骨子原告らの請求は,被告従業員が,適合性原則又は説明義務に違反して,原告らに対してレジデンシャル-ONEを勧誘し,契約をさせたと主張して,不法行為に基づく損害賠償請求権(民法709条,715条,金融商品販売法5条)に基づき,下記損害の賠償とこれに対する不法行為の日よりも後の日から支払済みまで民法所定年5分の遅延損害金の支払を求めるものである。 原告A 合計 6531万6334円取引による損害5931万6334円弁護士費用 600万円原告C 合計 9485万4135円取引による損害8623万4135円弁護士費用 862万円原告D 合計 7425万5614円- 7 -取引による損害6750万5614円弁護士費用 675万円取引による損害は,原告らの投資総額(1(4))から,別紙4損害額一覧表記載の償還金額(ただし,訴え提起時までに償還された2005年10月号までの分)を控除した額である。原告らが口頭弁論終結時において主張する損害額は,別紙4損害額一覧表のとおり,口頭弁論終結時までに償還された2007年7月号までの償還金額を控除した額であり,請求額よりも少なくなっている。 (2)適合性原則違反原告Aは,昭和14年生まれの女性である。平成8年a月に夫を亡くし,長男Bと暮らしているが,長男は遠方へ病気療養に出掛けることが多く,ほとんど一人暮らしに等しい。株取引等には全く関心がなく,これまで自ら株取引をしたことは一度もなかった。夫の相続財産として数銘柄の株式と投資信託を保有していたのみである。 原告Cは,昭和20年生まれの男性,原告Dは,昭和23年生まれの女性 く関心がなく,これまで自ら株取引をしたことは一度もなかった。夫の相続財産として数銘柄の株式と投資信託を保有していたのみである。 原告Cは,昭和20年生まれの男性,原告Dは,昭和23年生まれの女性であり,2人は夫婦である。C夫婦は,乾電池の材料を製造するための機械の部品をつくる小規模工場を経営している。二人とも金融や投資といったことに関する知識・経験はなく,被告において20年ほど前に口座を開設したものの,取引をする銘柄は被告の担当者に任せており,これまでも勧められるままに株式や投資信託を購入していただけである。 原告らのように,証券会社に資産を預けているものの,投機売買によって積極的に資産を殖やすことを目的としておらず,安全・確実な運用を希望し,自らは投資にさほど関心がなく知識・経験もないため,証券会社の担当者に資産運用を任せきりにしている者に対しては,レジデンシャル-ONEのような仕組みが複雑で投資リスクがわかりにくい上,実は,極めてハイリスク- 8 -・ハイリターンな商品を勧めるべきではない。原告らのような者に対して,レジデンシャル-ONEを勧めること自体が適合性原則に照らして不適切である。しかも,原告Aにしても,C夫婦にしても,投資信託等から乗り換えることにより,レジデンシャル-ONEに集中して投資させられ,Aに関しては累計78口,C夫婦に関しては233口も購入させられている。1つの商品にこれだけ集中して投資させられることは,そもそもポートフォリオの観点からして投資方法が明らかに不合理であるし,レジデンシャル-ONEがハイリスクな商品であることに鑑みれば,なおさらである。原告らのように証券取引に関する知識,経験の乏しい者に対して集中投資させたということは,いわばノルマを達成するために,あるいは手数料稼ぎのために,「言いなりに であることに鑑みれば,なおさらである。原告らのように証券取引に関する知識,経験の乏しい者に対して集中投資させたということは,いわばノルマを達成するために,あるいは手数料稼ぎのために,「言いなりになる投資家」に対してレジデンシャル-ONEを集中的に押し付けたというのが実態であり,その集中投資の違法性は際立つ。明らかに適合性原則違反である。 (3)説明義務違反説明義務は,民法1条2項の信義誠実原則(信義則)に基づくものであり,当該投資家に正しい判断を形成させるものであって,それに必要な方法及び程度を尽くすものでなければならない。一般投資家(金融商品取引における消費者)がある金融商品を購入するかどうかを判断するに当たっては,その商品の基本的性格はもちろん,その商品が元本保証か否かも含め「どれくらいのリスクがある商品か」ということが,非常に重要な要素となる。その商品のリスクの内容・程度につき具体的に認識・理解できなければ,適切な投資判断をすることはできないからである。したがって,証券会社は,その金融商品が「どれくらいのリスクがある商品か」を具体的に説明しなければならない義務を負う。 本件では,被告の従業員らは,本件ファンドにつき「予想配当利回りが7- 9 -~11%である」とか「銀行預金よりも有利である」などと勧誘するだけでなく,その反面,不動産が値下がりしたときはリスクが極端に増幅されること,具体的な程度として,「投資対象の不動産が1割値下がりすると,出資金は約半分になること」「不動産が2割値下がりすると,出資金はほとんど0円になる可能性があること」を説明しなければならない。そして,その理由として,「銀行借入によるレバレッジがかかるため,リターンが大きくなる反面,リスクも増幅されるということ」を十分に説明しなければならないのである。 ること」を説明しなければならない。そして,その理由として,「銀行借入によるレバレッジがかかるため,リターンが大きくなる反面,リスクも増幅されるということ」を十分に説明しなければならないのである。 かかる「レバレッジリスク」について説明がなければ,一般投資家は,本件ファンドを購入するかどうかを判断するにあたって,「どれくらいのリスクがある商品か」がわからず,最も重要な情報を与えられていないことになり,その結果,適切な判断ができない。本件において,原告らがレバレッジリスクについて正しい説明を聞き,具体的にこれだけハイリスクな商品であることを知っていれば,本件ファンドを買うことはあり得ない。 レバレッジリスクは,本件商品に内在する本質的な特徴である。本件ファンドにおいて最も重要なリスクは,不動産市況の悪化により,1口100万円の出資金が3年後にはわずか数万円から1万円以下になってしまうという極端なハイリスク性である。このハイリスク性は,銀行借入によるリスクや不動産投資リスクといった一般的なリスクについて,それぞれ説明をしたとしても,認識・理解できるものではない。そもそも本件商品は,複雑な仕組みを有しているのであるから,銀行借入によってリスクが増幅されるという仕組みについても,具体的に説明しなければ,一般投資家には到底理解できないものである。また,このレバレッジリスクによるハイリスク性が,ほかの不動産ファンドと比較して,本件ファンドの本質的な特徴である。ほかの投資信託や不動産ファンドについて知識を有している一般投資家であって- 10 -も,このレバレッジリスクについては知り得ないのである。したがって,この「レバレッジリスク」について,目論見書に明示した上で具体的に説明しなければならない。 レバレッジリスクは,次の3つの要素にわけて考えるこ バレッジリスクについては知り得ないのである。したがって,この「レバレッジリスク」について,目論見書に明示した上で具体的に説明しなければならない。 レバレッジリスクは,次の3つの要素にわけて考えることができる。 ①銀行借入により,上限5倍にまで増やして,不動産信託受益権を購入する。 ②3年後には,不動産価格が下落していても必ず売却・償還しなければならない。 ③投資家への配当に優先して,銀行へ弁済しなければならない。 この3つの要素があいまって,本件ファンドのリスクが増幅されるのであるから,具体的には,まず,それぞれについて説明をした上で,さらに3つの要素を関連づけることによって,その結果「リスクが増幅されてしまうこと」を説明し,理解させなければならない。しかるに,本件では,原告らに対し,そもそも銀行借入をするということ自体説明されておらず,上限5倍(出資金に対して400%の銀行借入)にまで増やす可能性があることは全く説明されていない。原告らは「3年満期」ということは聞いているが,3年間は途中解約できないことや,3年経てば必ず売却しなければならないという説明は受けていない。銀行借入に対する弁済との優劣については全く聞いていない。原告らは,銀行借入については全く意識していないから,銀行への弁済の優劣ということまでは全く考えが及ばない。したがって,一般投資家からすれば,「リスクが増幅されてしまうこと」については到底知りえないのである。 しかも,本件では,商品説明書ないし目論見書,パンフレット等を読んでも,レバレッジによるリスクを知ることはできない。営業員向けのQ&A集にも全く記載がない。本件ファンドについて最も詳しく解説されているはず- 11 -の目論見書にも,「リスクが増幅されてしまうこと」の解説はない。目論見書に書かれておらず,Q 。営業員向けのQ&A集にも全く記載がない。本件ファンドについて最も詳しく解説されているはず- 11 -の目論見書にも,「リスクが増幅されてしまうこと」の解説はない。目論見書に書かれておらず,Q&A集にも記載がないわけだから,従業員が口頭で説明していないことは明白である。なお,個々の担当者がリスクについて知らなかったからといって,被告の証券会社としての顧客に対する説明義務が免除されるものではないことは当然である。 被告の主張(争点)(1)被告の主張の骨子及び争点被告は,適合性原則違反,説明義務違反の違法性をいずれも争い,帰責性に応じた損失の分担ないし過失相殺の抗弁,損益相殺の抗弁を主張した。 損益相殺について,被告は,別紙3損益一覧表②の出資金返還額と④の分配金の合計額(税引き前)(いずれも1口当たりの金額)について,原告らの出資口数に応じた額を損益相殺すべき額として主張する。これに対し,原告らは,別紙4損害額一覧表の償還金額を損害から控除することは認めている。原告らが損害から控除している償還金額には,出資金の償還額と最終償還期日に支払われた税引き後の分配金は含まれるが,最終分配金の税相当額とそれ以前の分配金は含まない。 (2)説明義務違反について本件ファンドについて現実に発生した損失は,リーマンショックに象徴される世界的に稀有な事態において,極端な不動産市況の混乱によって発生したものであり,本件ファンドの仕組みや構造が主因であったものではない。 本件ファンドは,その構造を簡略化すると,原告ら被告の顧客から投資された投資資金(匿名組合の出資金)と銀行からの借入金(ノンリコースローン)とを合わせた資金で,複数の賃貸マンションを購入し,賃料収入を原資として配当金を支払い,3年後に当該賃貸マンションを売却し,借入金を返還した残金を原 出資金)と銀行からの借入金(ノンリコースローン)とを合わせた資金で,複数の賃貸マンションを購入し,賃料収入を原資として配当金を支払い,3年後に当該賃貸マンションを売却し,借入金を返還した残金を原資として償還金を支払う投資商品である。すなわち,投資対- 12 -象は,具体的なマンションという不動産であり,満期償還の原資は当該不動産の売却代金であるから,この投資対象の認識があれば,明示に説明されたか否かを問わず,本件ファンドが元本保証の商品でないことを認識するのが通常である。つまり,満期において投資物件(マンション)を売却して償還金の原資とする以上,物件の値下がり損失が元本割れの潜在的なリスクとなることは当然の事理である。また,本件ファンドは,賃貸マンションの利用による収益を分配することが主たる目的であり,売却による値上がり益(キャピタルゲイン)自体を獲得する目的で組成されたものではないから,投資を決定する際に見込まれた本件ファンドの投資利益は,投資期間中の分配金に加えて,通常の不動産市況において評価されることが期待された3年後の満期時のマンション売却による償還金であった。その際,マンションは購入時から3年間の使用を経ているのであり,これがマンションの減価要素となることも,投資対象がマンションであることから当然に認識できるところである。 一般に,投資商品におけるリスクは,構造が複雑であるからリスクが高いというものではなく,また,構造の複雑さによってリスクの理解が困難になるというものでもない。そのリスクは,投資対象そのものの内容と,その商品が得ようとする利益によって決まるものであり,それを理解することによりリスクを把握することができるものである。本件ファンドに出資するということは,原告ら投資家は,自ら手持ちの余裕資金で具体的な不動産運 得ようとする利益によって決まるものであり,それを理解することによりリスクを把握することができるものである。本件ファンドに出資するということは,原告ら投資家は,自ら手持ちの余裕資金で具体的な不動産運用を実際になして収益を上げる代わりに,他の多数の投資家が募集に応じて集積された出資金とノンリコースローンによる融資資金の効果をもって,関係者が実施する資産運用の収益の分配を受けるということである。しかし,自ら手持ちの資金で不動産を購入して運用した場合の利回りを超えて,より高い収益の分配が期待できるためには,経済的には当然にレバレッジが必要であ- 13 -り,負担する潜在的なリスクは高くならざるを得ない。 一方,本件ファンドにおいて実際に高いリスクが顕在化する見込みが認識されにくかったのは,事実である。本件ファンドの投資対象が三大都市圏に分散し,投資対象物件は,価格下落リスクの低い優良な賃貸建物を選別しており,募集当時,不動産市場は一般的に変動要因が少なく,中古の優良な運用対象不動産の大幅な価格の下落のおそれを警戒するべき事情は見られなかったからである。 本件ファンドの販売を担当した被告従業員においても,高い利回りの分配金を実現する手段としてノンリコースローンが組まれることを認識しており,それにより高利回りを追求するものであることを原告らに説明しているし,それはパンフレットにも記載されている。これらにより原告らは,ファンドの借入金が高利回りを実現する原動力であることを認識したものである。しかし,被告従業員は,不動産市況について大幅な下落が生じるとの見込みをもっておらず,またこの認識は原告らも同様であったため,償還時期の不動産の大幅な値下がり,それに加えてノンリコースローンによる資金で多数の物件を買い付けた結果としての合算損失の増大を明確に現 込みをもっておらず,またこの認識は原告らも同様であったため,償還時期の不動産の大幅な値下がり,それに加えてノンリコースローンによる資金で多数の物件を買い付けた結果としての合算損失の増大を明確に現実的なリスクとして警告することがなかったものであるが,それは説明義務違反として評価されるべきものではない。 原告らが本件ファンドに出資したことによって被った損失は,直接的には,投資対象物件が想定外に値下がりした不動産の値下がり損失であり,その原因は,運用の失敗であるというよりは,世界経済の動向による不動産を含めた多分野の資産価格の暴落,金融危機の影響が大きい。不動産の投機的な価格変動の影響を受けにくいと考えられていた本件ファンドの投資対象物件のような空き室率の小さい優良な賃貸物件についても,その売買について,金融危機の影響により,およそ物件の内容如何を問わず,金融機関からの不動- 14 -産関連融資が滞ったことなどから,流通自体が困難となり本件ファンドの対象物件についても価格が大きく下落したからである。すなわち,本件ファンドの元本割れは,実質的には,不動産売却時の価格下落リスクの発現によるものである。したがって,本件ファンドの販売を担当した被告従業員において,本件ファンドに対する投資における損失発生の危険性について必ずしも具体的に認識していなかったとしても,その理由は,本件ファンドの投資対象不動産の性質によるところであって,一定の経済合理性に基づいており,法律上はやむを得ない。本件ファンドの投資において,物件価格の下落によって発生した損失部分は,本件ファンドが不動産投資を内容とすることさえ認識していれば,投資家において負担しなければならない性質の損失である。 本件ファンドは,銀行預金金利の著しい低迷状況が長期間継続している経済情勢において 本件ファンドが不動産投資を内容とすることさえ認識していれば,投資家において負担しなければならない性質の損失である。 本件ファンドは,銀行預金金利の著しい低迷状況が長期間継続している経済情勢において,1口100万円という比較的小口の資金であっても,一定期間安定的に不動産投資に資金を投入することによって,高利回りの分配金を獲得せしめることを目標として組成されたものである。被告従業員は,本件ファンドへの出資を顧客に勧誘するにあたっては,パンフレットに記載されたとおり,本件ファンドが7%から11%の利回りを目指して運用されることを説明した。平成15年7月当時,銀行の3年物の定期預金金利は,年0.070%であり,平成16年7月当時でも同様であった。これに比較すると,本件ファンドにおける利回り7%ないし11%は,定期預金金利の100倍から150倍のリターンが期待できることを意味している。あるいは,1口100万円の本件ファンドの利回りを取得するためには,定期預金では1億円の元本が必要であることを意味しているのである。年利回り7%から11%が期待できるということが,当時,如何に高利回りの資金運用であったかは明らかであり,原告らがこの利回りの高さを認識し,また期待して本件ファンドに出資したのは事実である。通常の預金金利を超えた利潤がある- 15 -という事実は,レバレッジが存在している事実そのものである。すなわち,原告らは,本件ファンドにおける高い利回りを認識した以上,全員が,本件ファンドにおけるレバレッジの存在を認識しているのであり,そうであれば,当然に,その分リスクが拡大する潜在的な可能性を認識し得たということである。しかも,この事実は,本件ファンドの仕組みについての理解とは関係がない。そして,リターンがレバレッジによって拡大するのであれば,同 ,その分リスクが拡大する潜在的な可能性を認識し得たということである。しかも,この事実は,本件ファンドの仕組みについての理解とは関係がない。そして,リターンがレバレッジによって拡大するのであれば,同時にリスクがレバレッジによって拡大する可能性があることは,既に平成2年のバブル崩壊期を経て長期的に不況傾向の時期が継続している今日において,もはや常識であり説明するまでもない。本件ファンドにおいてリスクが拡大する可能性があるとすれば,それは元本が毀損されるリスクに他ならない。リスクがレバレッジによって拡大するのは,本件ファンドが行うノンリコースローンの存在による。ノンリコースローンの存在によるリスクというのは,出資金の償還のために投資対象物件を売却するについては,当該物件を担保とする銀行融資をまず返済しなければならないことが,その意味内容である。匿名組合出資の償還に先立って匿名組合の債務が返済されることは当然の事柄である。原告らにおいて,ノンリコースローンにより元本毀損の程度が拡大するリスク,すなわち損失にレバレッジ効果が表れる可能性を明瞭に認識しなかったのが事実であったとしても,本件ファンドが不動産を対象とする投資であって,償還金が不動産の売却資金を原資とすること,及び定期預金金利の100倍の利回りの分配金を目標とすることを理解すれば,仮に物件価格が値下がりしたときには,元本の毀損リスクも増大することは理解できるものである。 (3)適合性原則違反について原告Aは,後記(4)のとおり,リスクのある商品へ投資をした経験を有しているし,出資した資金は余裕資金であり,レジデンシャル-ONEへの- 16 -出資勧誘が適合性に違反するものではない。 C夫妻も,後記(4)のとおり,リスクのある商品へ投資した経験があり,レジデンシャル-ONEへの出資 余裕資金であり,レジデンシャル-ONEへの- 16 -出資勧誘が適合性に違反するものではない。 C夫妻も,後記(4)のとおり,リスクのある商品へ投資した経験があり,レジデンシャル-ONEへの出資勧誘が適合性に違反するものではない。 (4)帰責性に応じた損失の負担ないし過失相殺について本件ファンドの運用コスト,不動産価格の下落による損失,レバレッジによる損失は,本来原告ら投資家が負担すべき損失である。 投資家は,本件ファンドに出資することにより,自ら個別に運用することはおよそ不可能な資金規模の不動産運用に参加して収益及び売却益の分配を受ける利益を受ける。原告らに発生した損失には,そのための経費部分(本件ファンドの運用コスト)が含まれているのであり,この経費相当分は,運用の利益を期待する出資者が負担すべき性質のものである。 物件価格の下落によって発生した損失部分も,投資対象の本来的な性質に由来する損失であるから,本件ファンドが不動産投資を内容とすることを認識して取引した原告らにおいて負担すべきである。 さらに,レバレッジによる損失部分についても,本件ファンドが一般的な定期預金金利と比較すれば100倍程度の高い利回りの分配金を求める不動産投資であることを認識して投資した原告ら投資家自身が負担すべき損失である。原告らは,レバレッジにより達成される高利回りの収益分配を期待して本件投資をなしたのであるから,レバレッジによる損失についても,本来は,原告らが甘受すべきである。 仮に,被告に損害賠償義務が認められるのであれば,被告は,原告らの過失相殺を主張する。 原告Aは,昭和63年に投資信託の取引があり,平成5年以降は株式の取引もあり,被告における取引経験は長い。しかも,原告Aが本件ファンドについての説明を聞いたときには,息子であるBが同席して話を聞い 原告Aは,昭和63年に投資信託の取引があり,平成5年以降は株式の取引もあり,被告における取引経験は長い。しかも,原告Aが本件ファンドについての説明を聞いたときには,息子であるBが同席して話を聞いていた。 - 17 -Bは,平成13年4月1日付け委任状(代理人選任届)において,被告との有価証券取引について,原告Aから一切の権限を委任されており,B自身が自己の名義で被告に口座を開設して株式の現物取引や信用取引を積極的になしている。原告Aの証券取引を事実上補佐し,あるいは同原告に代わって投資判断をなしていたBは,証券取引について既にプロフェッショナルと評価される程度の力量があることは明らかである。 原告Dについては,昭和59年に株式や外国債券の取引があり,原告Cについても,昭和59年12月に転換社債の募集買付後,昭和61年頃からの株式,投資信託,社債等の取引があり,夫妻ともに証券会社における長期間の取引経験がある。また,原告Cは事業の経営者であり,原告Dは経理を担当している。C夫妻の取引は,被告従業員がなした説明や提供した資料等を検討し,夫婦で相談した上でなされており,しかも,C夫妻は,本件ファンドの運用実績についても検討していた。 第3裁判所の判断 要約被告には,レジデンシャル-ONEのレバレッジリスクを説明しなかった点で説明義務違反があり,民法709条,715条1項,金融商品販売法5条に基づき,原告らの損害を賠償すべき責任を負う。 被告が賠償すべき損害額は,高利回りの投資商品を購入した原告らもリスクを予測すべきであることから,過失相殺により,出資額の7割を被告が賠償すべき額の上限とした上で(3年間の期待利回りに相当する程度である出資元本の3割の損失と手数料相当額の損失は,高利の運用を期待した原告らが甘受すべきである。),これか より,出資額の7割を被告が賠償すべき額の上限とした上で(3年間の期待利回りに相当する程度である出資元本の3割の損失と手数料相当額の損失は,高利の運用を期待した原告らが甘受すべきである。),これから税引き前の分配金と償還金を損益相殺として控除した額とすべきである。 認定事実- 18 -前記前提事実並びに証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1)レバレッジリスクの投資判断における重大性投資家からの出資金のほかに銀行借入を導入することによって高利回りを目指すことを特徴とするレジデンシャル-ONE(本件ファンド)におけるレバレッジリスクは,以下に検討するとおり,投資家の投資判断にとって極めて重大な問題であり,かつ,そのリスク要因となる不動産市況の変動は,バブル崩壊後の不動産市況の激しい変動を経験した投資勧誘の専門家である証券会社(被告)にとって,十分に予測可能であった。 本件ファンドの仕組み,運用コストや賃料収入,銀行借入の利息などを除外した概念図は,別紙2の当該ファンド償還に係る仕組みのとおりとなる。 出資金に対する借入金の割合の上限は,300%又は400%とされていたから,300%の場合と400%の場合について検討すると次のとおりとなる。 すなわち,借入金の返済が出資金の償還より優先されるため,不動産の価格変動率は,不動産に対する投資額全体に占める出資金の割合(300%の場合は4分の1,400%の場合は5分の1)に反比例して,すなわち逆数に比例して,出資金の償還額の変動率を変えることになる。例えば,不動産価格が1%上昇又は下落すれば,出資金の償還額の変動率は,出資金の割合に反比例して不動産価格の変動率より増幅され,300%(出資金割合4分の1)の場合は4倍,400%(出資金割合5分の1)の場合は5倍となり, 又は下落すれば,出資金の償還額の変動率は,出資金の割合に反比例して不動産価格の変動率より増幅され,300%(出資金割合4分の1)の場合は4倍,400%(出資金割合5分の1)の場合は5倍となり,4%~5%の償還額の増加又は減少(減少した場合は出資元本の毀損)となる。これがレバレッジ効果であり,レバレッジによる利益又は損失の増幅は,利益となる場合(レバレッジアップ)も損失となる場合(レバレッジリスク)も,同じ原理により,同じ増幅率をもって生ずる。 - 19 -運用コストがないものと仮定しても,不動産価格が10%下落すれば,出資金元本の40%~50%が毀損し,不動産価格が20%下落すれば,出資金元本の80%~100%が毀損することになる。 すなわち,3年間の運用期間中に不動産価格が20%下落すれば,本件ファンドの出資金1口100万円は,全額償還されないことになるリスクを有している。 ところで,バブル崩壊後の不動産市況の動向を見れば,3年間で不動産価格が2割を超えて変動するリスクは,公知の事実である地価公示の平均価格の推移をみただけでも社会的経済的に見て決して無視し得ない可能性を有するリスクであり,3年後には必ず不動産を売却して償還資金を調達しなければならないという本件ファンドの特質からしても,投資勧誘の専門家である証券会社(被告)にとって十分に想定可能な危険であったと認められる。 そうすると,本件ファンドは,決して小さくない割合で想定される3年間での2割の不動産価格の下落によって,ファンドの出資金元金が全く償還されずに毀損するリスクを伴うものであって,その意味で,レジデンシャル-ONEのレバレッジリスクは,投資家の投資判断にとって極めて重大な意義を有する高いリスクであるということができる。したがって,レバレッジリスクは,本件ファンドの募集 て,その意味で,レジデンシャル-ONEのレバレッジリスクは,投資家の投資判断にとって極めて重大な意義を有する高いリスクであるということができる。したがって,レバレッジリスクは,本件ファンドの募集の取扱時に顧客に対し説明されるべき,投資判断に影響を及ぼす重要な事項であることは明らかである。 (2)レバレッジリスクの説明がされていないこと被告は,本件ファンドのパンフレット(別紙1),商品説明書(証券取引法改正により有価証券とみなされてからは目論見書),あるいは,営業員向けQ&A集(甲共6)において,レバレッジリスクを説明する記載をしておらず,原告らを勧誘した従業員が,上記(1)のような投資判断上における重大な問題であるにもかかわらず,契約にあたりレバレッジリスクを説明し- 20 -なかったことは明らかである。 商品説明書又は目論見書には,ファンドの仕組みについて,不動産信託受益権を取得し,保有,管理または売却することにより利益を得ることを目的として設立される投資ビークルは,匿名組合出資を受けるほかに,金融機関からノンリコースローンを借り入れることにより,別途資金調達を行うことを記載し,かつ,投資対象の取得の際に投資ビークルにおいて行われる借入は,当該投資対象の取得に伴って当該投資ビークルに対して実行される匿名組合出資金額の300%(平成18年4月募集から400%)を上限とすること,3年後の償還については,原則として,期限前償還は行わないことが記載されている。また,償還にあたっては,投資物件をすべて売却し,現金化することを記載し,投資リスクのうち一般的なリスクとして,出資持分の流動性に関するリスクにつき,投資者は,出資比率に応じて,本事業から生じる利益の分配を受ける権利を有し,あるいは損失を負担する義務を負い,損失の分配の結果,投資者 ち一般的なリスクとして,出資持分の流動性に関するリスクにつき,投資者は,出資比率に応じて,本事業から生じる利益の分配を受ける権利を有し,あるいは損失を負担する義務を負い,損失の分配の結果,投資者に分配された損失累計額が匿名組合出資の額を超過する場合においても,投資者は本匿名組合出資の範囲内でのみこれを負担するものと記載されている。このように出資金の300%~400%の借入をすることと不動産の売却による償還をすることにより損失を負担する義務を負うことは明記されているが,レバレッジリスクの記載は全くない。 平成15年6月2日付けの営業員向けQ&A集(甲共6)には,次のとおり投資物件の評価損の発生のリスク,目標の投資利回り,3年間はファンドの売却が不可能であること,3年後は不動産を売却しなければならずキャピタルロスが生じるおそれがあることについての説明は予定されているが,レバレッジリスクに対する説明は予定されていない。 「Q20.決算時に投資物件に大きな評価損が発生した場合,配当はどうなるのでしょうか?また,決算時に大きな評価損が発生する場合はどのような- 21 -場合が想定されますか? A20.期中のキャッシュフローが変わらないため,配当には影響がありません。評価損が発生するのはテナントが退出し,空室率が上昇した場合や賃料が下落したときです。その理由は,われわれは収益還元価格を重視して物件評価を行うためです。」「Q26.目標の投資利回りはどのくらいですか? A26.当ファンドの目標とする運用利回り7~11%(年利)。」「Q④.このファンドの投資家にとってのデメリットは何かありますか? A④.まず3年間は売却不可能です。換金性では劣ってしまいます。また,どんな優良物件をファンドが保有しても3年で売却する必要があり,キャピタルロスが生ずる可 家にとってのデメリットは何かありますか? A④.まず3年間は売却不可能です。換金性では劣ってしまいます。また,どんな優良物件をファンドが保有しても3年で売却する必要があり,キャピタルロスが生ずる可能性がないとは言えません。」「Q⑰.3年後の物件の売却について,その方法や値段などについて教えて下さい。 A⑰.売却手法や値段の予測については運用上の都合によりお答えできません。 将来(3年後)に対する見通しで重要なことは,まず第一に,住居用不動産の収益安定性にご注目いただきたい点。第二に,社会構造の変化により都市部レジデンシャルの新たな需要が発生している点。第三に,株安・低金利など,運用難により不動産マーケットが運用商品として見直されている点。第四として,時価総額から見て日本の不動産マーケットが世界から注目されている点などが一例としてあげられます。」本件ファンドのパンフレットには,別紙1のとおり,ファンドの概要として,目標利回りとして7~11%を目指します(税引前)と記載され,主な投資リスクについてと題して,①不動産売却時の価格下落リスク(相場下落・建物老朽化・周辺環境変化等により,投資物件の売却価格が取得価格より- 22 -下落した場合に売却損が発生するリスクがあります。),②賃料収入が減少するリスク,③流動性リスク(投資不動産を運用期間内に取得又は売却できるかどうかという,不動産の流動性リスクがあります。),④金利リスクなどの記載がされ,また,その末尾に「不動産の売買価額及び賃料は,需給のバランスで決定されます。市場への不動産供給が過剰になり,需給バランスが悪化し価格・賃貸料が低迷すると,当ファンドにおける取得不動産のキャピタルゲイン,インカムゲインとも大きく影響を受け,投資元本を毀損する可能性があります。」と記載されている。しか り,需給バランスが悪化し価格・賃貸料が低迷すると,当ファンドにおける取得不動産のキャピタルゲイン,インカムゲインとも大きく影響を受け,投資元本を毀損する可能性があります。」と記載されている。しかし,ファンドの特色として,「分散投資とレバレッジアップにより,安定かつ高利回りを目指します。」「ノンリコースローンを導入して,少ない投資資金で数多くの物件を購入することで,投資効率を高め,利回りの向上を図ります。」と記載され,レバレッジアップの記載はされているが,レバレッジリスクの記載は全くない。 平成19年11月募集の46号(最終号)のパンフレット(乙170)には,「投資ビークルを通じて借入を行なうことによってレバレッジを効かせた運用を行ないますが,収益が悪化した場合や,売却価格が下落した場合には,レバレッジを効かせない運用を行なっていた場合と比べて,分配金や元本に大きく悪影響を及ぼす可能性があります。」との記載が初めてされたが,これも抽象的記載にとどまり,後記(3)のとおり顧客に周知されなかった。 前記(1)のとおり,レバレッジリスクは,投資家の投資判断にとって重大なリスクであると考えられるにもかかわらず,これらの資料に全く記載がされていないことからすれば,被告従業員が原告らを勧誘するにあたって,レバレッジリスクの説明をしなかったことは明らかである。 (3)レバレッジリスクの認識の困難性証券取引等監視委員会の調査(甲共22)によれば,平成16年12月以降に本件ファンドの販売実績のある被告の営業員20名に勧誘状況等をヒア- 23 -リングしたところ,そのうち17名が,また,その他書面による確認を実施した営業員14名全てが,レバレッジリスクを理解していなかった。なお,上記20名から17名を除いた残り3名は,販売当初から同リスクを理解していた ,そのうち17名が,また,その他書面による確認を実施した営業員14名全てが,レバレッジリスクを理解していなかった。なお,上記20名から17名を除いた残り3名は,販売当初から同リスクを理解していたが,うち1名は顧客に対し同リスクを説明していなかった。その結果,ヒアリング等による確認が行われた営業員34名(販売顧客数延べ1866名)のうち,レバレッジリスクの説明をしないで不適当な勧誘行為を行っていた営業員は32名(同1754名)に及んでいる。 また(1)に述べたレバレッジリスクの性質からすれば,少なくとも借入金の優先返済及び出資金に対する借入金の割合の上限率に係る説明がなされるべきと考えられるところ,別紙1のとおり,商品パンフレットには,これらが記載されていない。目論見書等においては,これらの記載はあるものの,営業員から説明を受けない限り,顧客には分かりづらい表現となっており,営業員ですらほとんど理解していなかったことを考えれば,レバレッジリスクを一般投資家である顧客が理解することは困難であった。本件ファンドの借入上限率は,平成18年4月に,それまでの300%から400%に引き上げられたが,被告は,営業員に対し,借入上限率の引き上げについて周知しておらず,多数の営業員が当該引き上げを顧客に説明していなかった。また,本件ファンドの最終号(平成19年11月募集)の商品パンフレット等においてレバレッジリスクに係る項目が新たに設けられたが,被告は,営業企画部より,首都圏・近畿両本部長に対し,当該変更内容を部店長を介し営業員に周知するよう指示したものの,当該指示を受けた部店長は,営業員に対し変更の趣旨等を説明せず,変更項目のみを伝え,また,当該変更内容を顧客に説明するよう指示していなかった。 説明義務違反について前記認定事実によれば,本件フ 当該指示を受けた部店長は,営業員に対し変更の趣旨等を説明せず,変更項目のみを伝え,また,当該変更内容を顧客に説明するよう指示していなかった。 説明義務違反について前記認定事実によれば,本件ファンドにおけるレバレッジリスクは,借入- 24 -金によって出資金額の4~5倍もの投資をした上で,借入金の返済が出資金の償還に優先されることから,出資金の毀損率は投資額に対する出資金の割合(4分の1~5分の1)に反比例した割合(4倍~5倍)に増幅されるため,不動産価格が3年間でわずか20%下落するだけで,出資元本が全額毀損してしまうという重大なリスクが生ずるものであり,一方で,3年間で2割程度の不動産価格の変動は決してまれなことではないと想定されることからすれば,投資判断にあたっての最も重要な事項(「どれくらいのリスクがある商品か」という出資元本の毀損にかかわる投資判断の基本的事項)に含まれるというべきである。しかも,そのリスクの性質は,被告の営業員ですら理解していなかったように,単にレバレッジによる利回り上昇の効果(レバレッジアップ)の説明を受けただけでは一般の投資家は理解できないものであり,他方で,このようなレバレッジリスクの重大性は,投資勧誘の専門家である証券会社であれば,当然にその存在に気づくべきものである。バブル崩壊以降の金融・不動産市況の激変を考えれば,サブプライムローンの問題やリーマンショックに端を発した金融危機の影響などの最近の動向は,決して不可抗力のようなものではない。不動産価格の下落の可能性に気づかず,これを前提とするレバレッジリスクの重大性に思い及ばなかったことを正当化するものではないし,その点で被告の言い訳になるようなものでもない。 したがって,被告は,一般投資家である原告らに対してレジデンシャル-ONEの勧誘をす ジリスクの重大性に思い及ばなかったことを正当化するものではないし,その点で被告の言い訳になるようなものでもない。 したがって,被告は,一般投資家である原告らに対してレジデンシャル-ONEの勧誘をするにあたっては,営業員に対し,本件ファンドにつき「予想配当利回りが年7~11%である」というレバレッジの有利な側面を説明するばかりでなく,不即不離の反面であるレバレッジリスク,すなわち,不動産が値下がりしたときはリスクが極端に増幅されること,具体的な程度として,「投資対象の不動産が1割値下がりすると,出資金は約半分になること」,あるいは,「不動産が2割値下がりすると,出資金はほとんど0円に- 25 -なる可能性があること」を説明するとともに,その理由として,本件ファンドの仕組みについて,「銀行借入によるレバレッジがかかるため,リターンが大きくなる反面,リスクも増幅されるということ」を十分に説明すべき義務があったというべきである。 そして,被告は,上記の説明義務を十分に認識しなかった過失により,営業員に対し上記内容のレバレッジリスクの説明をするよう指導しなかったことは明らかである。なお,説明義務に違反していることについて被告に故意があったことを認めるに足る証拠はない。そうすると,原告らは,いずれも被告従業員からレバレッジリスクについて説明を受けなかったことが推定され,この推定を覆す証拠はない。また,原告らが,被告から説明を受けなくても前記のような重大なリスクであるレバレッジリスクを十分に理解していたと認めるべき証拠はなく,原告らは,被告が説明義務を尽くしていれば,このような高いリスクのある本件ファンドに出資しなかったものと推認できる。 したがって,被告は,被告従業員が,被告の業務の執行について,過失により説明義務に違反してレバレッジリスクを くしていれば,このような高いリスクのある本件ファンドに出資しなかったものと推認できる。 したがって,被告は,被告従業員が,被告の業務の執行について,過失により説明義務に違反してレバレッジリスクを説明しないで本件ファンドを原告らに勧誘して契約を締結させたことについて,民法709条,715条,金融商品販売法5条に基づき,原告らに生じた損害を賠償する責任がある。 ただし,決して勧誘をした営業員だけの問題ではなく,レバレッジリスクについて投資商品企画上の十分な注意を払うことなく,またそのような顧客の重要な権利保護にかかわるリスク説明等について適切な組織態勢をとってこなかった管理者を含む被告の組織全体の問題である。 損害の算定について前記認定事実によれば,原告らが,パンフレット等により,本件ファンドにおいて年7%~11%の高利回りが期待できるものと考えて,レジデンシ- 26 -ャル-ONEに投資したことは,明らかである。また,その際,本件ファンドが,不動産に投資するものであって,しかも3年間は中途解約ができず,3年後には投資不動産を売却しなければならないことを十分に理解していたはずである。それゆえ当然に,3年後の償還にあたっては,不動産価格の変動により,元本が毀損されるおそれがあることも十分に認識していたと認められる。一方で,別紙3の損益一覧表のとおり,本件ファンドの元本が大幅に毀損した理由には,レバレッジリスクとは無関係の不動産価格の大幅な下落による部分も相当に含まれている。 しかも,原告らは,パンフレット等により,本件ファンドが,借入により投資額を大きくするレバレッジ効果により,元本が保証される定期預金の金利が極めて低い投資環境の中で,年7%~11%もの高利回りを目標とする投資商品として本件ファンドが企画されていることを知っていたは 投資額を大きくするレバレッジ効果により,元本が保証される定期預金の金利が極めて低い投資環境の中で,年7%~11%もの高利回りを目標とする投資商品として本件ファンドが企画されていることを知っていたはずであり,このような高利回りには,その反面として,高いリスクが伴うことは当然に理解できたはずである。そのリスクにレバレッジリスクという名前をつけて具体的に説明されなくとも,借入により投資を拡大することにより高金利を求めること,すなわちレバレッジ効果を求めることには,その反面としてレバレッジによるリスクが生じることも一般的抽象的には認識できたはずである。借入を導入すれば,出資金の償還より借入の返済が優先されることは,説明されなくても誰でもわかる道理である。 したがって,被告の説明義務違反の不法行為により原告らが賠償を求めることができる損害額は,説明義務違反によってレバレッジリスクについて具体的に認識しなかったとしても,借入によるレバレッジ効果を期待し,更に不動産の価格変動リスクを承知の上で高利回りを期待してリスクの高い不動産投資を行った原告らの過失も斟酌して過失相殺をするのが相当である。 また,原告らが受け取った分配金(税引き前)や償還金は,損益相殺とし- 27 -て控除するのが相当である。損益相殺をするにあたっては,分配金に対する所得税は,原告らが投資により利益を得たことによって生じるものであり,本来原告らが負担すべきものであるから,税引き前の分配金を控除するのが相当である。 そして,別紙3の損益一覧表のとおり不動産価格の大幅な下落によって本件ファンドの元本の毀損が生じていることや,レバレッジ効果の反面としてレバレッジリスクが生じていることは,一般的抽象的には想定できるものであり,原告らが年7%~11%の利回りを期待したのであれば,具体的な ンドの元本の毀損が生じていることや,レバレッジ効果の反面としてレバレッジリスクが生じていることは,一般的抽象的には想定できるものであり,原告らが年7%~11%の利回りを期待したのであれば,具体的なレバレッジリスクの仕組みを知らなくても,そのような期待利回りの反面として,同じ程度のリスク(3年では,21%~33%となる。)を甘受すべきであると考えられることなどを考慮すれば,被告が原告らに賠償すべき損害額は,過失相殺により,投資総額のうち手数料相当分を除いた出資金額の7割を賠償すべき損害額とした上で,そこから,税引き前の分配金と出資金の償還額を損益相殺により控除した額とするのが相当である。なお,口頭弁論終結時において未償還のファンドについては,償還がないものとして損害額を算定するが,償還がされた時点において,上記と同様に償還額を損害の元本から控除すべきである。 弁護士費用は,上記のとおり過失相殺及び損益相殺をして算定した取引による損害額の1割(10万円未満切捨)とするのが相当である。 結論 (1)原告Aの請求について(別紙5A損害表)投資総額 8045万7000円(手数料込)出資金額 7800万円(手数料を除く。)過失相殺後の損害額5460万円(出資金額の7割)損益相殺後の損害額2470万3307円(損益相殺2989万669- 28 -3円)弁護士費用 240万円認容額合計 2710万3307円(2)原告Cの請求について(別紙6C損害表)投資総額 1億2274万8500円(手数料込)出資金額 1億1900万円(手数料を除く。)過失相殺後の損害額8330万円(出資金額の7割)損益相殺後の損害額3399万2001円(損益相殺4930万7999円)弁護士費用 資金額 1億1900万円(手数料を除く。)過失相殺後の損害額8330万円(出資金額の7割)損益相殺後の損害額3399万2001円(損益相殺4930万7999円)弁護士費用 330万円認容額合計 3729万2001円(3)原告Dの請求について(別紙7D損害表)投資総額 1億1759万1000円(手数料込)出資金額 1億1400万円(手数料を除く。)過失相殺後の損害額7980万円(出資金額の7割)損益相殺後の損害額1358万3396円(損益相殺6621万6604円)弁護士費用 130万円認容額合計 1488万3396円(4)まとめ以上によれば,原告らの請求は,被告に対し,民法709条,715条1項,金融商品販売法5条に基づき,上記認容額合計の損害賠償とこれに対する不法行為の後である原告Aにつき平成20年9月8日から,原告C及び原告Dにつき平成20年10月16日から各支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。 - 29 -大阪地方裁判所第13民事部裁判長裁判官小林久起裁判官加藤員祥裁判官田之脇崇洋
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