平成16年12月22日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成16年(行ウ)第36号通知処分取消等請求事件口頭弁論終結の日平成16年11月18日判決 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 原告の請求 1 被告千種税務署長が,平成15年4月11日付けでした(1) 原告の平成10年分の所得税の更正の請求に対し,その更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り消す。 (2) 原告の平成11年分の所得税の更正の請求に対し,その更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り消す。 (3) 原告の平成12年分の所得税の更正の請求に対し,その更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り消す。 2 被告国は,原告に対し,5392万7200円及びこれに対する平成14年4月1日から支払済みまで年7.3パーセントの割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,ストックオプション(株式購入選択権)に係る権利行使利益を給与所得に区分して納税申告した原告が,同利益は一時所得に区分されるべきであることを理由に,被告千種税務署長(以下「被告税務署長」という。)に対し,更正の請求をしたところ,更正すべき理由がない旨の通知を受けたことから,その通知処分の取消しを求めた抗告訴訟と,上記納税申告は,ストックオプションに係る権利行使利益が給与所得に区分されるべきものとの誤信に基づくものであるから,錯誤により無効であると主張して,被告国に対し,一時所得に区分されることを前提として計算した税額と実際に納付した税額との差額及びこれに対する還付加算金の支払を求めた実質的当事者訴訟とが併合提 から,錯誤により無効であると主張して,被告国に対し,一時所得に区分されることを前提として計算した税額と実際に納付した税額との差額及びこれに対する還付加算金の支払を求めた実質的当事者訴訟とが併合提起されたものである。 1 前提事実(争いのない事実及び証拠によって容易に認定できる事実等)(1) 原告に対するストックオプションの付与原告は,内国法人であるA株式会社(以下「日本A社」という。)の従業員であった者であり,米国企業であるA社(以下「米国A社」という。)は,日本A社の親会社である。 原告は,従前,米国A社から同社のストックオプション(以下「本件ストックオプション」という。)を付与されていた。 (2) 原告による平成10年分及び平成11年分の確定申告原告は,平成10年分及び平成11年分の所得税について,それぞれ法定申告期限までに,別表「課税の経緯」の当該年分における確定申告欄記載のとおり,確定申告(期限内申告)した。 なお,原告は,平成10年及び平成11年中に,それぞれ本件ストックオプションを行使し,権利行使利益を得ていたが,それによる所得を申告していなかった。 (3) 原告による修正申告等ア原告は,平成14年3月1日,平成10年分及び平成11年分の所得税について,本件ストックオプションの権利行使利益を給与所得に区分した上で,別表「課税の経緯」の当該年分における修正申告①欄記載のとおり,修正申告した(甲1の2,2)。 イまた,原告は,平成14年3月1日,平成12年中に本件ストックオプションを行使して得た権利行使利益(以下,平成10年ないし平成12年に原告が本件ストックオプションを行使したことによる利益を「本件権利行使利益」と総称する。)を給与所得に区分した上,平成12年分の所得税について,別表「課税の経緯」 以下,平成10年ないし平成12年に原告が本件ストックオプションを行使したことによる利益を「本件権利行使利益」と総称する。)を給与所得に区分した上,平成12年分の所得税について,別表「課税の経緯」の平成12年分における確定申告欄記載のとおりに確定申告(期限後申告)をした(甲3)。 これに対し,被告税務署長は,平成14年4月24日,別表「課税の経緯」の平成12年分における賦課決定欄記載のとおり,無申告加算税の賦課決定処分をなした。 ウさらに,原告は,平成14年3月26日,住宅取得等特別控除の計算に誤りがあったとして,平成10年分及び平成11年分について,別表「課税の経緯」の当該年分における修正申告②欄記載のとおり,(再)修正申告をした(以下,これにア及びイの申告を併せて「本件修正申告等」といい,その各申告書を「本件申告書」という。甲1の1)。 (4) 東京地方裁判所の判決東京地方裁判所民事第3部は,平成14年11月26日,海外親会社から日本子会社の従業員等に対して付与されたストックオプションに係る権利行使利益が一時所得に区分される旨の判決を言い渡し(以下「本件判決」という。),他にも,下級裁判所のいくつかが同旨の判決を言い渡している。 もっとも,東京高等裁判所第12民事部は,平成16年2月25日,ストックオプションに係る権利行使利益が給与所得に区分されるとして,本件判決のうち控訴人(課税庁)敗訴部分を取り消し,その部分を棄却するとの判決を言い渡した(乙1)。 (5) 原告による更正の請求ア原告は,平成15年1月27日,被告税務署長に対し,本件権利行使利益は一時所得に区分されるべきであるとして,平成10年分ないし平成12年分の所得税につき,別表「課税の経緯」平成10年分ないし平成12年分の各更正の請求欄記載のとおり,更正の請求 し,本件権利行使利益は一時所得に区分されるべきであるとして,平成10年分ないし平成12年分の所得税につき,別表「課税の経緯」平成10年分ないし平成12年分の各更正の請求欄記載のとおり,更正の請求をした(以下「本件更正の請求」という。甲4ないし6)。 イ被告税務署長は,平成15年4月11日付けで,原告に対し,本件権利行使利益は給与所得に該当すること,また,本件更正の請求は,国税通則法23条1,2項所定の事由に該当する場合に当たらないことを理由に,更正をすべき理由がない旨の通知処分をした(以下「本件通知処分」という。甲7ないし9)。 (6) 原告による不服申立てア原告は,平成15年6月9日,本件通知処分に対して異議申立てをしたところ,被告税務署長は,同年9月8日付けで,同申立てを棄却する旨の決定をした(甲10ないし12)。 イ原告は,同月30日,さらに審査請求を申し立てたが,国税不服審判所長は,平成16年3月11日付けで,同請求を棄却する旨の裁決をした(甲13ないし15)。 (7) 本訴の提起原告は,平成16年6月9日,当庁に本件訴えを提起した。 2 本件の争点(1) 本件通知処分は適法か。 具体的には,更正の請求は,法定申告期限から1年内に限りなし得るのが原則である(国税通則法23条1項)ところ,本件更正の請求は,その例外を定めた同条2項各号に該当する場合に当たるか。 (2) 本件修正申告等は錯誤により無効か。 具体的には,本件修正申告等に客観的かつ明白な錯誤があって,税法の定める方法以外の方法による是正を許さなければ納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情があるか。 3 当事者の主張の要旨(1) 本件通知処分の適否(被告税務署長)ア国税通則法23条1項は,納税申告をした者は れば納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情があるか。 3 当事者の主張の要旨(1) 本件通知処分の適否(被告税務署長)ア国税通則法23条1項は,納税申告をした者は,当該申告書に係る国税の法定申告期限から1年内に限り,税務署長に対し,その申告に係る課税標準等又は税額等について更正を請求できる旨定めているが,本件更正の請求は,いずれも,法定申告期限(その年の翌年3月15日であることにつき所得税法120条1項)から1年を徒過してなされたことが明らかである。 イもっとも,国税通則法23条2項は,上記の例外として,①申告,更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決(判決と同一の効力を有する和解その他の行為を含む。)により,その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき(同項1号),②申告,更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算に当たってその申告をし,又は決定を受けた者に帰属するものとされていた所得その他課税物件が他の者に帰属するものとする当該他の者に係る国税の更正又は決定があったとき(同項2号),及び③その他当該国税の法定申告期限後に生じた上記①及び②に類する政令で定めるやむを得ない理由があるとき(同項3号)は,これらの各事由が生じた日の翌日から起算して2月以内に限り,更正の請求を行うことができる旨規定しているが,同項は,すべての後発的事由を適用対象とするものではないと解されている。 これを本件についてみると,同項1号の「判決」は,申告等に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実についての私法行為又は行政行為上の紛争を解決することを目的とする民事事件の判決を意味すると解されるところ,本件判決は,単に所得区分を明らかにするものにすぎず, 等又は税額等の計算の基礎となった事実についての私法行為又は行政行為上の紛争を解決することを目的とする民事事件の判決を意味すると解されるところ,本件判決は,単に所得区分を明らかにするものにすぎず,原告の納税申告等に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実(例えば,原告のストックオプションの付与契約の存否等)に関するものではないから,同項1号の事由に当たらない。さらに,仮に本件判決において,課税庁の判断と異なる所得区分が示されたとしても,これは法令の解釈に係るものであり,文理上,同条2項の後発的事由のいずれにも該当しない(法の解釈の変更は,職権での減額更正の対象になり得るにすぎない。)。 ウよって,本件判決は,同条2項所定の後発的事由に当たる余地がないばかりか,そもそも,本件更正の請求は,その期限を徒過してなされたものであるから,本件通知処分は適法である。 (原告)被告の主張は争う。 アいわゆるストックオプションに関しては,①オプション自体の価値(期待権の価値,以下「オプション利益」という。)と,②権利行使利益(事後的にたまたま生じた結果の一つ)という性質の異なる別個の経済的利益を観念できるところ,オプション利益は,それ自体独自の価値を有する一つの権利であって,期待権として,その価値の算定もなし得るものであり,しかも,その将来の貢献に対する期待度合い等を考慮してその付与の可否・付与数が決定されるものであるから,所得税法28条1項所定の給与所得に当たると考えられる。 これに対し,権利行使利益は,既に与えられたオプション利益を元手として被付与者が自己の投資判断に基づき事後的に得た運用益であるから,就労の対価ではなく,偶然的・偶発的所得として一時所得に当たる。すなわち,給与所得とは,雇用契約又はこれに類する原因に基づき 元手として被付与者が自己の投資判断に基づき事後的に得た運用益であるから,就労の対価ではなく,偶然的・偶発的所得として一時所得に当たる。すなわち,給与所得とは,雇用契約又はこれに類する原因に基づき,使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として,使用者から受ける給付をいうところ,労務の対価というためには,従業員が提供した労務と当該給付との間に経済的合理性に基づいた対価関係の存在を要するが,そのためには,従業員が提供した労務の質及び量と,当該給付との間に何らかの相関関係がなければならないはずである。そのような相関関係が認められない偶発的な所得の場合は,担税力のある継続的・安定的な所得である給与所得と評価できない。 しかるところ,従業員の就労は必ずしも企業の業績に反映されるとは限らない上,株価は,企業の業績だけでなく,その時々の経済状況や業界の状況,株式市場の状況等様々な要素によって定まることは周知の事実であり,しかも本件で問題となっているのは原告が就労していた日本A社の株価ではなく,そのグループ企業である米国A社のそれであるから,原告の就労との関係はより希薄であって,本件権利行使利益については,上記の相関関係を認めることはできない。また,権利を行使するかどうか,いつ行使するかは専ら原告の判断に委ねられており,それによって権利行使利益の額が異なるのであるから,これを就労の対価と見ることもできない。 以上のことは,本件判決が明言しているところである。 イ本件更正の請求は,確かに,法定申告期限から1年を超えてなされたものであるが,本件判決によって,ストックオプションの権利行使利益は給与所得ではなく一時所得に該当することが明らかになったのであるから,行政の法律適合性の要請により,被告税務署長は,本件修正申告等によって確定した税額部分を正しい ストックオプションの権利行使利益は給与所得ではなく一時所得に該当することが明らかになったのであるから,行政の法律適合性の要請により,被告税務署長は,本件修正申告等によって確定した税額部分を正しい税額に更正しなければならない義務を負い,更正の期間制限(申告期限から5年以内)に抵触しない限り,更正の請求がなされたか否かに関わりなく,違法状態を是正することができ,また是正しなければならないというべきである。 したがって,更正の請求の手続上の要件を欠いていることを理由としてそれを却下することは,実体税法上所得税の課税の基礎が失われているにもかかわらず,その是正がなされない状況を納税者に強いるものであって不当である。 (2) 本件修正申告等は錯誤により無効か(原告)ア我が国の税法は,申告納税制度を採用し,租税債務を可及的速やかに確定させるべく,申告の過誤の是正は,法律が特に認めた場合に限るとの建前を採っている。したがって,申告そのものを法律の定める方法で是正することなく,申告の錯誤を理由に納付した税金の還付を求めるためには,その錯誤が客観的に明白かつ重大であって,法律で定める方法以外にその是正を許さなければ納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がなければならない。 イ本件権利行使利益は,上記(1)の原告の主張のとおり,本来であれば,一時所得に区分されるべきであるにもかかわらず,東京国税局や名古屋国税局は,在日外資系企業数社に対し,米国親会社のストックオプションを行使により得た所得を給与所得として申告していなかったとして,税務調査を行い,日本A社に対しても,米国A社のストックオプションを行使した者の氏名等のデータの提出を求めてきた。日本A社からこのような連絡を受けた原告は,生物科学分野の研究者にすぎず, たとして,税務調査を行い,日本A社に対しても,米国A社のストックオプションを行使した者の氏名等のデータの提出を求めてきた。日本A社からこのような連絡を受けた原告は,生物科学分野の研究者にすぎず,税法の知識を全く有していなかった上,税理士から,従前一時所得として課税されてきたこと等の説明を受けなかったこともあって,給与所得として申告しなければならないと錯覚して本件修正申告等をしたものである。 このように,国税当局が違法な修正申告を求め,これに応じなければ追徴課税を行うなどの強硬措置を取っている状況下において,税法の知識を全く有していない原告が本件権利行使利益を給与所得として申告しなければならないとの錯誤に陥ったことは無理からぬというべく,法律の定める過誤是正以外の方法による是正を許さないことは著しく正義に反し,納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合に該当する。 (被告国)原告の主張は争う。 アまず,原告は,権利行使益が一時所得であるのにこれを給与所得であると誤解したと主張するが,原告の見解の根拠とされている本件判決やそれと同旨の判決は,いずれも控訴審において取り消されており,そもそも,権利行使益が一時所得であるとする原告の見解には問題がある。 仮に,事後的に最高裁判所の判決によって課税庁の法律解釈に誤りがあると判断されたとしても,それによって従前の課税処分が法律上当然に無効となるわけではないのと同様に,本件修正申告等についても,それによって錯誤無効とされることはないというべきである。 イまた,原告の主張する錯誤は,いわゆる動機ないし縁由の錯誤であるが,錯誤が客観的に明白であるとは,申告書の記載などから客観的にみて,かかる錯誤が容易に判断し得る場合を指すと解するのが相当であるところ, た,原告の主張する錯誤は,いわゆる動機ないし縁由の錯誤であるが,錯誤が客観的に明白であるとは,申告書の記載などから客観的にみて,かかる錯誤が容易に判断し得る場合を指すと解するのが相当であるところ,本件申告書は,国税通則法19条4項所定の適式な申告書の体裁を整えており,申告書自体からは,原告が主張するような動機・縁由は客観的に明白とはいえず,錯誤が客観的にみて容易に判断し得るような明白性を備えていない。 ウさらに,原告は,税法の知識を有していないとはいっても,千種税務署係官から何らの問題点の指摘や指導も受けていない状況の下で,本件権利行使利益を享受してから3年ないし1年超の長期間を経過した後に,専門家である税理士の関与の下に,自主的に本件修正申告等をしたものであり,原告において,十分に説明を受け,検討する機会があったというべきであるから,錯誤無効を主張することによる是正を許さなければ,その利益を著しく害すると認められる特段の事情は存在しない。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(本件通知処分の適否)について(1) 国税通則法23条1項は,納税申告書を提出した者は,当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより,当該申告書の提出により納付すべき税額が過大であるとき等に該当する場合には,当該申告書に係る国税の法定申告期限から1年以内に限り,税務署長に対し,その申告に係る課税標準等又は税額等につき更正をすべき旨の請求をすることができる旨定めている。これは,所得税の課税標準等について,最もその事情に通じていると思われる納税者自身の自主的申告に基づく方式(国税通則法16条2項1号,所得税法120条)が,民主主義国家における納税義務確定方式として相応しく, 得税の課税標準等について,最もその事情に通じていると思われる納税者自身の自主的申告に基づく方式(国税通則法16条2項1号,所得税法120条)が,民主主義国家における納税義務確定方式として相応しく,かつ効率的であると考えられた反面,その過誤の是正は法律が特に認めた場合に限ることによって,租税債務を早期に確定し,その効力が争われることによる不安定さを避けようとする要請に応じようとしたものと考えられる。 ところで,本件更正の請求は,前記前提事実(5)記載のとおり,平成15年1月27日になされているところ,平成10年分ないし平成12年分の各所得税に係る法定申告期限は,それぞれ平成12年ないし平成14年の各3月15日である(所得税法120条1項)から,いずれも同条1項所定の法定申告期限から1年の期限を徒過してなされたものであることが明らかである(そもそも,本件修正申告等は,平成12年分所得税の確定申告を除き,法定申告期限から1年を経過した後に行われているから,国税通則法23条1項に基づく更正の請求は,その余地がなかったことになる。)。 (2) 次に,国税通則法23条2項は,上記の例外として,①申告,更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決等により,その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき(同項1号),②申告,更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算に当たってその申告をし,又は決定を受けた者に帰属するものとされていた所得その他課税物件が他の者に帰属するものとする当該他の者に係る国税の更正又は決定があったとき(同項2号),及び③その他当該国税の法定申告期限後に生じた上記①及び②に類する政令で定めるやむを得ない理由があるとき(同項3号)には,これらの各事由が生じた日の翌日から起 更正又は決定があったとき(同項2号),及び③その他当該国税の法定申告期限後に生じた上記①及び②に類する政令で定めるやむを得ない理由があるとき(同項3号)には,これらの各事由が生じた日の翌日から起算して2月以内に限り,更正の請求を行うことができる旨を定めている。 その趣旨は,申告時には予知し得なかった事態その他やむを得ない事由が後発的に発生したことにより,本来納付すべき税額が申告に係る税額を下回ることとなった場合にまで,同条1項による納税義務の早期確定の要請を貫くことは不当と考えられたため,同項の期間を経過した後であっても,納税者側から減額更正を請求し得る途を開くことにあると考えられる。 したがって,上記①の「判決」は,同項1号が「その申告……に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決(略)により,その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき」と定めているとおり,申告に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった当該事実の存否や効力について判断が示されたものを指し,法令の解釈や課税客体の性質に関する評価など,同種の争点についての判断が示された判決を含むものではないと解するのが相当である。そうすると,同種のストックオプションによる権利行使利益の所得区分に関する本件判決が上記①の「判決」に該当しないことは明らかである。 また,同項3号は,「その他当該国税の法定申告期限後に生じた前2号に類する政令で定めるやむを得ない理由があるとき」にも,当該理由が生じた日の翌日から起算して2月以内に更正の請求を行うことを認めているところ,同号を受けた同法施行令6条1項は,やむを得ない理由として,ⅰ課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実のうちに含まれていた行為の効力に係る官公署の許可等の処分が取り消さ ことを認めているところ,同号を受けた同法施行令6条1項は,やむを得ない理由として,ⅰ課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実のうちに含まれていた行為の効力に係る官公署の許可等の処分が取り消されたこと(同項1号),ⅱ課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に係る契約が,解除され,又は取り消されたこと(2号),ⅲ帳簿書類の押収その他やむを得ない事情により,課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき帳簿書類その他の記録に基づいて税額等を計算することができなかったこと(3号),ⅳ租税に関する二重課税の回避又は脱税の防止のための条約に規定する権限のある当局間の協議により,その申告等に係る課税標準等又は税額等に関し,その内容と異なる内容の合意がなされたこと(4号)を定めているが,本件判決が上記の各号の事由に当たらないことは,その文言上明らかである(国税通則法23条1項の前記趣旨に照らせば,その例外となる同条2項各号掲記の事由を,類推ないし拡張して解釈すべきではない。)。 この点について,原告は,本件更正の請求が法定の期限を経過してなされたものであるとしても,行政の法律適合性の要請から,被告税務署長は更正をすることができ,またしなければならない旨主張する。なるほど,税務署長が,国税通則法24条の要件が充足されたと認めた場合,同法70条2項の期間内に減額更正が行われることがあり得ないわけではないが,それは,租税債務の早期確定の要請をも視野に入れた行政庁自身の判断にかかるものであって,法律適合性の要請があることをもって,被告税務署長が減額更正をすべき義務を負うものではない。 (3) そうすると,本件更正の請求は,国税通則法23条1項所定の期限を徒過してなされたものであり,かつ同条2項の各号に該当しないことが明らかであるから,同請求は理由がない 務を負うものではない。 (3) そうすると,本件更正の請求は,国税通則法23条1項所定の期限を徒過してなされたものであり,かつ同条2項の各号に該当しないことが明らかであるから,同請求は理由がないと判断した本件通知処分は,適法というべきである。 2 争点(2)(本件修正申告等は錯誤により無効か)について(1) 一般に,私人による公法上の意思表示については,法律行為に関する民法の規定がそのまま適用ないし準用されると解するのは相当でなく,法令によって定められた当該制度の趣旨・目的を総合的に勘案して,その可否,限度及び要件を決すべきであるところ,所得税については,前記のとおり,申告納税方式が採用されており,一定の期間に限って,当初の申告書に記載した内容の更正の請求をすることができるとされているのは,租税債務をできるだけ速やかに確定しようとする要請によると考えられる。したがって,確定申告書の記載内容が納税者の真意と一致しなかったとしても,民法95条によって直ちにその効力が失われると解すべきものではなく,その錯誤が客観的に明白かつ重大であって,法の定めた方法以外にその是正を許さないならば,納税者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合に限って,無効を主張できるというべきである(最高裁判所昭和39年10月22日第一小法廷判決・民集18巻8号1762頁参照)。 (2) これを本件について検討するに,前提事実(4),(5)に証拠(甲19,20,乙1ないし5)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。 ア国税当局は,かねて,ストックオプションによる権利行使利益が一時所得に当たることを前提として税務行政を行ってきたが,平成12年ころから,東京国税局や名古屋国税局が,在日外資系企業数社に対し,米国親会社のストックオプションの行使に ションによる権利行使利益が一時所得に当たることを前提として税務行政を行ってきたが,平成12年ころから,東京国税局や名古屋国税局が,在日外資系企業数社に対し,米国親会社のストックオプションの行使により得た所得について給与所得に当たるものとして,税務調査や更正処分を行うようになり,日本A社に対しても,米国A社のストックオプションを行使した者の氏名等のデータの提出を求めるに至った。 イ原告は,平成14年1月末ころ,日本A社から,在日外資系企業数社の社員及び役員等が米国親会社のストックオプション行使により得た個人所得を給与所得として税務申告していなかったとして,国税当局から税務調査を受け,修正申告に応じない者については追徴課税がなされていること,国税当局から,平成10年1月1日から平成12年12月31日までの期間中に米国A社のストックオプションを行使した者の氏名・住所,行使内容(株数,行使日,オプション価格,経済的利益等)についての情報の提供を求められたため,日本A社は,これに応じる予定であること,実際の申告に当たっては税理士等の専門家に相談するよう勧めることなどの連絡を受けた。 ウ原告は,生物科学分野の研究者であって,税法の知識に乏しく,従前の課税状況について知識がなかったため,税理士に日本A社からの連絡事項を伝え,その処理を依頼したところ,税理士から本件権利行使利益を給与所得として申告する旨の方針を示され,これを了解して本件修正申告等を行った。 なお,千種税務署の職員は,それまで原告の所得状況に何らの問題意識を抱いておらず,上記税理士から本件修正申告等を行うことの連絡を受けた後も,事務的な対応をするにとどまった。 エ原告は,その後,東京地方裁判所で本件判決が言い渡されたことを知り,本件更正の請求をした。もっとも,本件判決は,控訴審であ 正申告等を行うことの連絡を受けた後も,事務的な対応をするにとどまった。 エ原告は,その後,東京地方裁判所で本件判決が言い渡されたことを知り,本件更正の請求をした。もっとも,本件判決は,控訴審である東京高等裁判所において取り消されている上,本件判決以外にも,ストックオプションの権利行使利益を一時所得と認めた東京地方裁判所の判決はいくつか存在するが,現時点では,控訴審でその判断が肯定されたものはない。 上記認定事実によれば,確かに,ストックオプションの権利行使利益が一時所得に区分されるべきか給与所得に区分されるべきかについては,本件修正申告等の当時においても,両方の見解の対立があり,一時所得説に立つ裁判例がある一方で,給与所得説に立つ裁判例も有力であるから,本件修正申告等が前提とした給与所得に区分されるという考え方が明らかに誤りであったとはいえず,仮に,今後,最高裁判所によって一時所得説が支持されたとしても,少なくとも,本件修正申告等の時点において,その錯誤が客観的に明白であったとはいえない。 また,本件においては,平成12年分所得税の確定申告を除き,原告が本件修正申告等に対して更正の請求を行う余地がなかったことは前記のとおりであるけれども,千種税務署職員は原告の所得状況に何らの問題意識を抱いておらず,原告に対して何らの問題点の指摘,指導,しょうよう等を行っていない状況下において,原告は,税制の専門家である税理士に依頼した上,本件修正申告等を行ったのであるから,それが国税当局による税務調査等の動向を耳にしたために行われたものであるとしても,なお申告における自主性・自発性は失われないというべきであるから,その是正を許さないならば納税者の利益を著しく害すると認められる特段の事情を認めることはできない。 (3) したがって,本件修正申告等の内 申告における自主性・自発性は失われないというべきであるから,その是正を許さないならば納税者の利益を著しく害すると認められる特段の事情を認めることはできない。 (3) したがって,本件修正申告等の内容に過誤があるかどうかはともかくとして,少なくとも原告の主張する錯誤は,客観的に明白であるとはいえず,また,原告の利益を著しく害すると認められる特段の事情も存在しないから,本件修正申告等が無効であるとは認められない。 3 よって,原告の本訴各請求は,いずれも理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担について,行訴法7条,民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第9部裁判長裁判官加藤幸雄裁判官舟橋恭子裁判官尾河吉久(別表添付省略)
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