令和8年1月15日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和7年(ワ)第3632号損害賠償請求事件口頭弁論終結日令和7年11月28日判決 原告C訴訟代理人弁護士木村清志同寺内英佑 被告ニタコンサルタント株式会社 代表者代表取締役 訴訟代理人弁護士真鍋直敬 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告は、原告に対し、2800万円及びこれに対する令和7年5月13日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本判決で用いる呼称(略語)本文中に別に定めるほかは、次のとおりとする。 (1) 本件プログラム:別紙「プログラム目録」記載のプログラム(2) 甲1論文:「非定常浸透流下にある斜面の安定解析プログラムの開発」と題する論文(甲1) (3) A:a (4) B:b 2 原告の請求本件プログラムが原告の著作物又は共有著作物であり、被告による本件プログラムの改変が原告の著作権(複製権又は翻案権)及び著作者人格権(同一性保持権)の侵害であることを前提とする、不法行為に基づく損害賠償請求(3080 万円のうちの明示的一部請求)並びに遅延損害金の附帯請求 3 前提事実(1) 当事者等ア原告は、昭和60年以降、徳島大学工学部建設工学科教授を務め、現在は徳島大学の名誉教授を務める者である。 イ被告は、建設コンサルタント業等を目的とし、地盤・地質調査、自然災害に備える防災計画や環境保全計画の策定支援などを行う株式会社である。 ウ Aは、平成3年3月末まで徳島大学工学部に 。 イ被告は、建設コンサルタント業等を目的とし、地盤・地質調査、自然災害に備える防災計画や環境保全計画の策定支援などを行う株式会社である。 ウ Aは、平成3年3月末まで徳島大学工学部において原告の研究室の助手を務め、同年4月から被告の従業員の地位にある者である。 (2) 甲1論文の発表 甲1論文は、平成6年9月開催の土木学会第49回年次学術講演会において発表され、執筆者欄には原告とA(当時は被告の従業員)の2名の氏名が記載されていた。なお、第一執筆者はAであった。 甲1論文は、非定常浸透の時々刻々における間隙水圧分布を考慮した斜面安定解析プログラムの開発を目的とする研究結果に係る論文であり、同論文には、 ①任意時刻の安全率が即座に算出できるプログラムの開発を行うこととしたこと、②飽和・不飽和領域を一体としたFEM解析手法(非定常浸透流解析関係)とBishop法(ビショップ法。斜面安定解析関係)を組み合わせたプログラムを開発し、非定常浸透流下にある斜面の安定解析を行ったところ、同プログラムによれば、任意時刻における安全率を自動的に算出できるため、従 前大変煩雑であった浸透流のある設計業務を簡略化することが可能となった ことなどが記載されていた。 (3) 本件プログラムの公表及び修正等(甲26、28)ア被告は、自己の著作の名義の下に、本件プログラムを公表した。本件プログラムは、地下水浸透流の作用下にある斜面の安定解析を実現するプログラムであり、本件プログラム(Ver1.0)の斜面安定解析の安全率算定方 式は、ビショップ法であった。 イ被告は、その後、本件プログラムを修正・変更し、Ver2.0以降では、上記安全率算定方式としてビショップ法ではなく簡便分割法(修正フェレニウ の安全率算定方 式は、ビショップ法であった。 イ被告は、その後、本件プログラムを修正・変更し、Ver2.0以降では、上記安全率算定方式としてビショップ法ではなく簡便分割法(修正フェレニウス法)を採用した。 (4) 本件提訴に至る経緯等(甲7ないし10) 原告は、令和6年6月18日付け通知書により、被告に対し、本件プログラムの著作者は原告であり、その改変(Ver2.0から現行版)が原告の複製権等の侵害行為に当たるから、過去の販売利益に対する利益分配の合意をする形で早期円満に解決するこの検討をするよう通知した。 これに対し、被告は、同年7月2日付け回答書により、本件プログラムの発 案のきっかけは原告ではあるが、アイデア自体はBの提案であり、被告に金員の支払義務はない旨を回答し、同年10月7日付け回答書により、本件プログラムのソースコードは多岐にわたり、対象部分が不明であるので著作権について検討の余地がないなどと回答した。 4 主要な争点 (1) 原告が本件プログラムの著作権者又は共有著作権者であるか(争点1)(2) 原告の損害の有無及び額(争点2)なお、被告は、消滅時効ないし除斥期間経過も主張している。 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(原告が本件プログラムの著作権者又は共有著作権者であるか)につい て 【原告の主張】(1) 原告は、当時、原告研究室の助手であったAに指示し、A及び原告の研究室の大学院生を補助者として、同研究室で使用していた「飽和・不飽和浸透流解析プログラム」と「斜面安定解析プログラム」を連動させた非定常浸透流下にある斜面の安定解析プログラム(以下「原告プログラム」という。)を開発し た。原告は、原告プログラムを用いて解析をし、そ 解析プログラム」と「斜面安定解析プログラム」を連動させた非定常浸透流下にある斜面の安定解析プログラム(以下「原告プログラム」という。)を開発し た。原告は、原告プログラムを用いて解析をし、その結果であるビショップ法に基づく解析結果を甲1論文として発表した。 (2) その後、原告は、原告プログラムを基に、当時、被告に在職しながら原告の研究室に出入りしていたAに指示し、A及びBを原告の補助者として、本件プログラムの斜面安定解析プログラムを開発した。 本件プログラムが原告プログラムを基に作成されたことについては、本件プログラムの中核部分が「有限要素法による非定常飽和・不飽和浸透流解析」と「斜面安定解析」にあるところ、前者は上記「飽和・不飽和浸透流解析プログラム」に、後者は上記「斜面安定解析プログラム」に対応していることから明らかである。また、被告が本件プログラムを単独で開発したものではないこと は、原告プログラム及び本件プログラムの開発以前、「飽和・不飽和浸透流解析プログラム」と「斜面安定解析」を結合した解析法は存在しておらず、昭和50年以降多数の関連論文を発表していた原告以外に上記解析法を実現し得る者が存在しなかったこと、本件プログラムにビショップ法が使用されていたこと、原告が被告に多大な貢献をし、本件プログラム(ソフトウェア)の名称を 「SAUSE(サウス)」と命名したことなどから明らかである。 (3) 以上の事情に照らせば、原告は、本件プログラムの著作者(少なくとも共同著作者)である。なお、被告は、原告の許諾を受けて本件プログラムを販売していた。 【被告の主張】 (1) 本件プログラムは、地下水浸透流の作用下にある斜面の安定解析に用いるプ ログラムであり、河川堤防やダム貯水池等 受けて本件プログラムを販売していた。 【被告の主張】 (1) 本件プログラムは、地下水浸透流の作用下にある斜面の安定解析に用いるプ ログラムであり、河川堤防やダム貯水池等の工事において斜面の安定計算を行う際に使用される。その特徴は、斜面の地下水位を解析する飽和・不飽和浸透流解析プログラムと水位のデータをもとに斜面の安定性の解析を行う斜面安定解析プログラムを組み合わせたことにある。通常、公共事業などで斜面の安定性を解析する方法には、①技術者が現地調査等から水位を決定し、これに基 づいて行う方法のほか、②飽和・不飽和浸透流解析プログラムによって導き出された地下水位データを斜面安定解析プログラムに入力して行う方法があったが、後者には非常に作業が手間であるとの問題があった。 被告は、飽和・不飽和浸透流解析プログラムと斜面安定解析プログラムを組み合わせることが有用ではないかとの提案を原告から受け、そのようなプログ ラムの需要は不明であったが、プログラムの開発に着手した。なお、両プログラムを結合させるというアイデアは特別なものではない。 そこで、被告は、甲1論文にある飽和・不飽和浸透流解析プログラムが実務上不便であったため、Aにおいて修正し、斜面安定解析プログラムについては、被告従業員のBにおいて新たに作成し、本件プログラムを開発、完成させた。 本件プログラムにはビショップ法が採用されているが、これは一般的に安全率算定式として精度が高いためにすぎない。 (2) なお、原告は、甲1論文が原告の論文であると主張するが、同論文は、原告から論文の発表を勧められたAが、すべて単独で執筆、作成、学会発表を行った論文である。 (3) 以上のとおり、本件プログラムの著作者は被告である。 2 争点 と主張するが、同論文は、原告から論文の発表を勧められたAが、すべて単独で執筆、作成、学会発表を行った論文である。 (3) 以上のとおり、本件プログラムの著作者は被告である。 2 争点2(原告の損害の有無及び額)について【原告の主張】(1) 原告と被告代表者は、本件プログラムの改変分の販売について原告へ利益分配金を支払う旨を黙示に合意した(なお、初版である本件プログラムの被告に よる販売については、原告は許諾していた。)。 被告は、本件プログラムを改変したプログラムの販売により多額の利益を得ていたから、被告による著作権侵害により原告の被った損害は2800万円を下らない。 (2) また、被告の著作権侵害と相当因果関係のある弁護士費用は280万円を下らない。 (3) 原告は、被告に対し、上記損害の一部として2800万円の支払を求める。 【被告の主張】否認ないし争う。 第4 判断 1 争点1(原告が本件プログラムの著作権者又は共有著作権者であるか)につい て(1) 著作権法上保護されるプログラム著作権法上の「プログラム」とは、「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの」(同法2条1項10号の2)であるから、プログラムをプログラム著作物 (同法10条1項9号)として保護するためには、プログラムの具体的記述に作成者の思想又は感情が創作的に表現され、その作成者の個性が表れていること、すなわち、プログラムの具体的記述(一般的にはソースコードがこれに当たる。)において、指令の表現自体、その指令の表現の組合せ、その表現順序からなるプログラムの全体に選択の幅があり、それがありふれた表現ではなく、 の具体的記述(一般的にはソースコードがこれに当たる。)において、指令の表現自体、その指令の表現の組合せ、その表現順序からなるプログラムの全体に選択の幅があり、それがありふれた表現ではなく、 作成者の個性が表れていることが必要である。 (2) 「原告プログラム」について原告は、本件プログラムの著作権者(少なくとも共同著作者)であることの前提として、本件プログラムが原告プログラムを基に、A及びBを補助者として自らが本件プログラムを開発したと主張する。 しかしながら、原告は、当該原告プログラムについて、ソースコードを含め、 その具体的記述を一切特定していない上、甲1論文を含め本件全証拠によっても、(何らかの電子計算機を利用するためのプログラムが作成されたという程度のことは認められるとしても、)そもそも何が作成されたのか全く不明と言わざるを得ず、著作物としての「原告プログラム」が存在するとは認められない。なお、甲1論文の記載内容は、「原告プログラム」の目的や、それに用いら れる計算式、適用例等が記載されているにすぎず、甲1論文その他原告の研究成果を示す論文等を参照しても、プログラムの目的や設計思想についてはともかく、プログラムそれ自体の設計や実装に原告がどのように具体的に関与したかも明らかでない。 (3) 本件プログラムについて 本件プログラムについて、被告の従業員であるA及びBがその制作に関与し、被告の著作の名義の下に公表されたことは争いがなく、上記制作は被告の発意に基づくものである(弁論の全趣旨)ことからすれば、本件プログラムの著作者が原告であるとは認められない。 また、前記のとおり、「原告プログラム」の内容は一切不明であって、本件プ ログラムとの関係を検討することもできないか 旨)ことからすれば、本件プログラムの著作者が原告であるとは認められない。また、前記のとおり、「原告プログラム」の内容は一切不明であって、本件プログラムとの関係を検討することもできないから、この観点からも、本件プログラムが「原告プログラム」に基づいて作成されたとも認められない。 (4) 小括以上によると、争点1に関する原告の主張は、理由がない。 2 結論 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がない。 大阪地方裁判所第26民事部 裁判長裁判官 松阿彌隆 裁判官 島田美喜子 裁判官 西尾太一 (別紙)プログラム目録 名称:SAUSE (Slope Stability Analysis under Unsteady Seepage flow「非定常浸透流下の斜面安定解析」もしくは「地下水浸透流の作用下にある斜面の安定解析」)使用言語:FORTRAN機能:堤体中の任意時刻における間隙水圧分布とそれに基づく安全率を自動的に算出する。バージョン:初版 自動的に算出する。 バージョン:初版
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