平成21(ワ)585 三井金属神岡鉱山じん肺損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成26年6月27日 岐阜地方裁判所
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判決文本文99,020 文字)

主文 1 被告らは,別紙認容額等一覧表の「原告」欄記載の各原告のうち同表「被告」欄に被告らと記載されている者に対し,連帯して,同表「認容額」欄記載の各金員及びこれに対する同表「遅延損害金起算日」欄記載の各日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告三井金属鉱業株式会社は,別紙認容額等一覧表の「原告」欄記載の各原告のうち同表「被告」欄に被告三井金属と記載されている者に対し,同表「認容額」欄記載の各金員及びこれに対する同表「遅延損害金起算日」欄記載の各日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 原告A1,原告A2,原告A3及び原告A4の請求をいずれも棄却する。 4 上記4名を除く原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 5 訴訟費用は,甲事件及び乙事件を通じて,これを10分し,その3を被告らの負担とし,その余を原告らの負担とする。 6 この判決は,第1項及び第2項について,本判決が被告らに送達された日から10日を経過したときは,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求被告らは,別紙請求額一覧表の「原告」欄記載の各原告に対し,連帯して,同表「請求額」欄記載の各金員及びこれに対する同表「遅延損害金起算日」欄記載の各日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は,被告らの所有管理する神岡鉱山において,被告ら又はその下請会社との間の雇用契約に基づき稼働していた従業員又はその遺族が,被告らの安全配慮義務違反によってじん肺に罹患したなどと主張し,被告らに対し,債務不履行に基づ く損害賠償(包括的一律請求)として,別紙請求額一覧表の「請求額」欄記載の各金員及びこれに対する 被告らの安全配慮義務違反によってじん肺に罹患したなどと主張し,被告らに対し,債務不履行に基づ く損害賠償(包括的一律請求)として,別紙請求額一覧表の「請求額」欄記載の各金員及びこれに対する訴状送達の日である同表「遅延損害金起算日」欄記載の各日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。 前提事実(争いがない事実,後掲証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)当事者等(弁論の全趣旨)ア被告三井金属鉱業株式会社(旧商号は神岡鉱業株式会社。以下「被告三井金属」という。)は,昭和25年に三井鉱山株式会社の金属部門を分離する形で設立された株式会社である。同社は,三井鉱山株式会社が所有管理していた神岡鉱山を引き継ぎ,昭和61年6月30日までこれを所有管理していた。 イ被告神岡鉱業株式会社(以下「被告神岡鉱業」という。)は,昭和61年に被告三井金属の完全子会社として設立された株式会社であり,同年6月30日,被告三井金属から神岡鉱山の営業権一切を譲り受け,神岡鉱山を所有管理している。 ウ別紙1管理区分等一覧表の「原告等」欄記載の者(以下「原告等」と総称する。)は,いずれも,被告三井金属(その前身である三井鉱山株式会社を含む。)又は被告神岡鉱業との雇用契約,あるいは,被告らの下請会社との雇用契約に基づき,神岡鉱山で稼働していた者である。 エ原告等のうち,亡B1,亡B2,亡B3,亡B4及び亡B5は,それぞれ,別紙1管理区分等一覧表の「死亡日」欄記載の日に死亡した。 原告A5及び同A6は,亡B1の子であり,他の相続人との間で,原告A5及び同A6が亡B1の被告らに対する損害賠償請求権をそれぞれ2分の1ずつの割合で相続する旨の遺産分割協議が成立した。 た。 原告A5及び同A6は,亡B1の子であり,他の相続人との間で,原告A5及び同A6が亡B1の被告らに対する損害賠償請求権をそれぞれ2分の1ずつの割合で相続する旨の遺産分割協議が成立した。 原告A7は,亡B2の養女であり,唯一の相続人である。 原告A8は亡B3の死亡時の妻であり,原告A9,同A10及び同A11はその子であり,亡B3の財産をそれぞれ法定相続分に応じて相続した。 原告A12は,亡B4の死亡時の妻であり,他の相続人との間で,原告A12が亡B4の被告らに対する損害賠償請求権全額を相続する旨の遺産分割協議が成立した。 原告A13は,亡B5の子であり,他の相続人との間で,原告A13が亡B5の被告らに対する損害賠償請求権全額を相続する旨の遺産分割協議が成立した。 神岡鉱山の概要(乙1,乙86〔枝番を含む。以下,枝番のある証拠については,特記ない限り同じ。〕,弁論の全趣旨)神岡鉱山は,岐阜県飛騨市神岡町に所在し,飛騨高原の最北部に位置する銀,鉛,亜鉛の鉱山である。同鉱山は,栃洞,円山,茂住の各鉱床群よりなり,鉱山としては栃洞鉱(栃洞,円山),茂住鉱の二つがある。神岡鉱山の岩盤中の遊離けい酸成分の平均値は約8%であり,遊離けい酸含有率が比較的低い鉱山である。 神岡鉱山における正社員数は,昭和25年度には4354名在籍していたが,その後減少を続け,昭和61年度時点では761名,平成20年度時点では248名であった。 神岡鉱山における鉱石の採掘は,平成12年に茂住鉱の採掘が休止され,平成13年に栃洞鉱の採掘が休止された。現在,栃洞鉱における石灰石の採掘が継続されている。 じん肺とその特徴アじん肺の意義等じん肺とは,粉じんを吸入することによって肺に生じた線維増 3年に栃洞鉱の採掘が休止された。現在,栃洞鉱における石灰石の採掘が継続されている。 じん肺とその特徴アじん肺の意義等じん肺とは,粉じんを吸入することによって肺に生じた線維増殖性変化を主体とする疾病をいう(じん肺法2条1項1号)。また,同法及び同法施行規則は,じん肺の合 併症(じん肺と合併した肺結核その他のじん肺の進展経過に応じてじん肺と密接な関係があると認められる疾病をいう。以下同じ。)として,肺結核,結核性胸膜炎,続発性気管支炎,続発性気管支拡張症,続発性気胸,原発性肺がんを定めている(同法2条1項2号,同法施行規則1条)。 また,当該作業に従事する労働者がじん肺にかかるおそれがあると認められる作業は粉じん作業とされ,その範囲は厚生労働省令で定められている(同法2条1項3号,同条3項)。 イじん肺発症のメカニズム(甲A3ないし17,72,弁論の全趣旨)通常,体内に吸入された粉じんは,気管支の肺細胞と線毛細胞の働きによって,その大部分は痰として体外に排出される。また,対外に排出されずに肺胞まで進んだ場合,粉じんはマクロファージ(貧食細胞)によって肺胞の中に取り込まれ,肺胞の毛細血管と空気の部分の間に網の目のように張り巡らされたリンパの流れに入り込み,中央方向に流されていき,最終的には肺門のリンパ節に到達する。 このように,人間の体内には,非常に精巧な粉じん除去機能があり,通常,人間が生活する場所における粉じん程度では,人間の体内に害を及ぼすことはない。 ところが,粉じん除去機能の限界を超えた多量の粉じんが体内に吸入されると,吸入された粉じんは,肺胞腔内に蓄積し,肺胞壁を破壊し,そこから線維芽細胞が出てきて,肺胞腔内に線維ができ,結節ができる。結節が形成されるということは,そ 界を超えた多量の粉じんが体内に吸入されると,吸入された粉じんは,肺胞腔内に蓄積し,肺胞壁を破壊し,そこから線維芽細胞が出てきて,肺胞腔内に線維ができ,結節ができる。結節が形成されるということは,その領域の肺胞壁が閉塞することであり,肺胞でのガス交換機能が失われることになる。また,マクロファージによって貧食されリンパ管に入った粉じんは,リンパ腺に運ばれ蓄積されるが,リンパ腺に溜まった粉じんは,リンパ腺の細胞を増殖させ,その結果細胞が破壊されて膠原線維が増加し,リンパ腺の本来の機能が失われる。リンパ腺がこのように閉塞されてしまうと,その後に吸入された粉じんは,肺胞腔内に蓄積され,肺胞壁の破壊は更に加速される。それに伴い,更に肺胞のガス交換機能が失 われる。このようなじん肺の病変を線維増殖性変化という。そのほか,じん肺の基本的病変として,気道の慢性炎症性変化,肺の気腫性変化も生じる。 じん肺には,吸入する粉じんによる分類があり,遊離けい酸を吸入することによって生じるけい肺,石綿を吸入することによって生じる石綿肺などがある。 ウじん肺の特徴(甲A18ないし37,72,弁論の全趣旨)じん肺によっていったん肺に発生した線維増殖性変化,気腫性変化等は,現時点において,元の状態に戻すための治療方法がない(不可逆性)。また,じん肺の病像は,肺胞内に取り込まれた粉じんが,長期間にわたり線維増殖性変化を進行させるものであり,粉じん職場を離れた後においても,じん肺結節が拡大融合するなどして病状が進行する(進行性)。じん肺によって肺機能に障害を来すことによって,各種臓器にも慢性的な酸素不足を生じさせるなどして様々な影響や負担をもたらし,生命活動全体に多様な障害を及ぼすため,呼吸器の合併症のみならず,他の疾病の治療を困難にさせるなどの影 来すことによって,各種臓器にも慢性的な酸素不足を生じさせるなどして様々な影響や負担をもたらし,生命活動全体に多様な障害を及ぼすため,呼吸器の合併症のみならず,他の疾病の治療を困難にさせるなどの影響を及ぼす(全身性)。 じん肺に関する諸法令等の概要ア粉じんを多量に吸入すると健康障害を引き起こすことについてはかなり以前から指摘されており,内務省労働局は,工場法における業務上の疾病の取扱いにつき,昭和11年にけい酸を含む粉じんを発散させる作業に従事してけい肺に罹患した場合を業務に起因する疾病と取り扱うこととし,昭和22年,労働基準法施行規則で業務上の疾病の範囲がけい肺からじん肺に拡張された。 イ昭和35年には,じん肺に関し,適正な予防及び健康管理その他必要な措置を講ずることにより,労働者の健康の保持その他福祉の増進に寄与することを目的としたじん肺法(昭和35年法律第30号)が制定された。その後,じん肺法は,昭和52年7月に制定された「じん肺法の一部を改正する法律」(昭和52法律第76号。昭 和53年3月31日施行。)により改正され(以下,改正前のものを特に「旧じん肺法」という。),じん肺の定義等が現行のものに改められた。 ウ昭和24年5月16日に公布された鉱山保安法は,鉱山労働者に対する危害の防止等を目的とするものであり(同法1条),鉱業権者は,粉じん等の処理に伴う危害又は鉱害の防止のため必要な措置を講じなければならないものとされ(同法4条2号),同法30条の委任に基づき,金属鉱山等保安規則(昭和24年通商産業省令第33号。以下「保安規則」という。),石炭鉱山保安規則(昭和24年通商産業省令第34号)等が,鉱業権者が同法4条の規定によって講ずべき具体的な保安措置を定めている。 じん肺管理区分(以 省令第33号。以下「保安規則」という。),石炭鉱山保安規則(昭和24年通商産業省令第34号)等が,鉱業権者が同法4条の規定によって講ずべき具体的な保安措置を定めている。 じん肺管理区分(以下,単に「管理区分」という。)制度等ア管理区分制度及びじん肺健康診断の主な手続の流れは,別紙2じん肺管理区分決定の流れ及びじん肺法における健康管理の体系のとおりである。 イ管理区分制度じん肺法は,粉じん作業に従事する労働者等を,じん肺健康診断の結果に基づき,エックス線写真画像と肺機能障害の組み合わせに従って,以下のとおり,管理1から4までに区分し,健康管理を行うものとしている(じん肺法4条)。 管理区分じん肺健康診断の結果管理1じん肺の所見がないと認められるもの管理2 エックス線写真の像が第1型で,じん肺による著しい肺機能の障害がないと認められるもの管理3 イ エックス線写真の像が第2型で,じん肺による著しい肺機能の障害がないと認められるものロ エックス線写真の像が第3型又は第4型(大陰影の大きさが1側の肺野の3分の1以下のものに限る。)で,じん肺による著しい肺機能の障害がないと認められるもの 管理4 3分の1を超えるものに限る。)と認められるもの(2)エックス線写真の像が第1型,第2型,第3型又は第4型(大陰影の大きさが1側の肺野の3分の1以下のものに限る。)で,じん肺による著しい肺機能の障害があると認められるものなお,旧じん肺法においても,じん肺健康診断の結果に基づいて「健康管理の区分」を決定するものとされているが,同区分については,「労働安全衛生法及びじん肺法の い肺機能の障害があると認められるものなお,旧じん肺法においても,じん肺健康診断の結果に基づいて「健康管理の区分」を決定するものとされているが,同区分については,「労働安全衛生法及びじん肺法の一部を改正する法律の一部の施行に伴う経過措置及び関係政令の整備に関する政令」によって,対応関係にある現行のじん肺法上の管理区分にみなす旨の経過措置(同令2条)が定められているため,以下では,これに従って現行の管理区分で表記することとする。 ウじん肺健康診断事業者は,じん肺法の定める健康管理の一環として,常時粉じん作業に従事する,あるいは,従事させたことのある労働者等に対して,就業時健康診断,定期健康診断(常時粉じん作業に従事する管理1の労働者は3年ごと,管理2又は3の労働者は1年ごとに1回などと定められている。),定期外健康診断,離職時健康診断の実施義務を負っている(じん肺法7条ないし9条の2)。 じん肺健康診断は,次のaないしcの方法によって行うとされている(じん肺法3条,同法施行規則4条ないし8条)。 a 粉じん作業についての職歴の調査及びエックス線写真(直接撮影による胸部全域のエックス線写真をいう。以下同じ。)による検査b 胸部に関する臨床検査及び肺機能検査c 結核精密検査その他厚労省令で定める検査(合併症に関する検査) 上記方法によるじん肺健康診断の具体的実施手法及び判定については,労働省労働基準局長が各都道府県労働基準局長に宛てて発出した通達である昭和53年4月28日付け基発第250号「改正じん肺法の施行について」(以下「基発第250号通達」という。)により,じん肺健康診断の労働省安全衛生部労働衛生課編「じん肺診査ハンドブック」(昭和54年改訂部分を含む。以下,単に「じん肺診査ハンドブ 法の施行について」(以下「基発第250号通達」という。)により,じん肺健康診断の労働省安全衛生部労働衛生課編「じん肺診査ハンドブック」(昭和54年改訂部分を含む。以下,単に「じん肺診査ハンドブック」という。)に記載された内容を基本として行うとされている。 粉じん作業についての職歴の調査粉じん作業の職歴の調査は,事業場の名称,従事している又は従事していた粉じん作業の内容及び従事した期間を把握することによって行われる。 エックス線写真による検査a じん肺のエックス線写真の像は,別紙3エックス線写真像の分類の「1 じん肺法によるエックス線写真像の区分」記載のとおり,第1型から第4型までに区分される(じん肺法4条1項)。 b エックス線写真像の区分の判定は,昭和53年版及び昭和57年増補版「じん肺標準エックス線フィルム」(甲A83,126。以下,併せて「標準フィルム」という。)並びに「じん肺標準エックス線写真集」(平成23年3月)フィルム版及び電子媒体版(乙286の1。以下,併せて「標準写真集」という。)を用いて行うこととされている(基発第250号通達)。 標準フィルムは,第1型,第2型及び第3型の中央のものを示しているほか,じん肺の所見がないと判断するフィルムの上限のもの,第1型の下限のものを示している。 型の区分を行う際には明確にある型のものと判断できない場合があるため,別紙3エックス線写真像の分類の「2 エックス線写真像の区分に当たっての12階尺度」記載 の12階尺度(以下「12階尺度」という。)を用いることとされている(じん肺診査ハンドブック)。 c 標準フィルムの構成は別紙4標準フィルム一覧表のとおり,標準写真集の構成は別紙5標準写真集一覧表のとおりである。 胸 う。)を用いることとされている(じん肺診査ハンドブック)。 c 標準フィルムの構成は別紙4標準フィルム一覧表のとおり,標準写真集の構成は別紙5標準写真集一覧表のとおりである。 胸部に関する臨床検査胸部臨床検査は,①じん肺の経過の調査,②既往歴の調査,③自覚症状の調査,④他覚所見の検査によって行われる。 ①じん肺の経過の調査は,じん肺管理区分決定通知書等の書面の他,事業上で作成している管理台帳,健康管理個人票等を利用し,②既往症の調査は,肺結核,胸膜炎,気管支炎,気管支拡張症,気管支喘息,肺気腫,心臓疾患を対象に行われる。 ③自覚症状の調査は,呼吸困難,咳と痰,心悸亢進,喫煙について行われるが,このなかでも呼吸困難が最も重要とされる。 ④他覚所見の検査は,視診によるチアノーゼやばち状指の確認,聴診による水疱音及び捻髪音の複雑音の聴取の確認を行うとされている。 肺機能検査肺機能検査は,スパイロメトリー及びフロー・ボリューム曲線による検査(一次検査)並びに動脈血ガス測定(二次検査)により,それぞれ行われる(じん肺法施行規則5条)。 合併症に関する検査合併症に該当するか否かの判定は,じん肺診査ハンドブックに記載された判定の基準により行うとされている(基発第250号通達)。続発性気管支炎については別紙6続発性気管支炎に関する合併症の検査に記載のとおりである。 エ管理区分の決定手続等 じん肺健康診断の結果,じん肺の所見がないと診断された者の管理区分は管理1とされる(じん肺法13条1項)。 事業者は,じん肺健康診断の結果,じん肺の所見があると診断された労働者について,エックス線写真及びじん肺健康診断の結果を証明する書面等を都道府県労働局長(以 1とされる(じん肺法13条1項)。 事業者は,じん肺健康診断の結果,じん肺の所見があると診断された労働者について,エックス線写真及びじん肺健康診断の結果を証明する書面等を都道府県労働局長(以下「労働局長」という。)に提出する(じん肺法12条)。 労働局長は,上記エックス線写真及びじん肺健康診断結果証明書等が提出されたときは,これらを基礎として,地方じん肺診査医の診断又は診査により,当該労働者について管理区分の決定をする(じん肺法13条2項)。労働局長が,上記決定を行うため必要があると認めるときは,事業者に対し,エックス線写真の撮影若しくは厚生労働省令で定める範囲内の検査を行うべきこと又はその指定する物件を提出すべきことを命じることができる(同条3項)。 なお,地方じん肺診査医とは,じん肺に関し相当な学識経験を有する医師のうちから厚生労働大臣が任命した者である(同法39条4項)労働局長は,管理区分の決定をしたときは,事業者にその旨を通知し,事業者は,当該労働者等に対し,その者について決定された管理区分及びその者が留意すべき事項を通知しなければならない(じん肺法14条1項,2項)。 常時粉じん作業に従事する労働者又は常時粉じん作業に従事する労働者であった者は,いつでも,じん肺健康診断を受けて,厚生労働省令で定めるところにより,労働局長に管理区分を決定すべきことを申請することができる(じん肺法15条1項)。 事業者は,じん肺健康診断の結果,労働者の健康を保持するため必要があると認めるときは,就業上適切な措置を講じ,適切な保健指導を受けることができるための配慮をする努力義務を負い(じん肺法20条の2),管理区分が,管理2又は3イで ある労働者について,粉じんにさらされる程度を低減させるため,就業場所の変更, 保健指導を受けることができるための配慮をする努力義務を負い(じん肺法20条の2),管理区分が,管理2又は3イで ある労働者について,粉じんにさらされる程度を低減させるため,就業場所の変更,粉じん作業に従事する作業時間の短縮その他の適切な措置を講ずるように努める義務を負う(同法20条の3)。また,労働局長は,管理3イである労働者が現に常時粉じん作業に従事しているときには,事業者に対し,当該労働者を粉じん作業以外の作業に常時従事させるべきことを勧奨することができ,管理3ロである労働者が現に常時粉じん作業に従事しているときには,事業者に対し,当該労働者を粉じん作業以外の作業に常時従事させるべきことを指示することができること等も規定されている(同法21条,22条,22条の2)。そして,管理4と決定された者及び合併症にかかっていると認められる者は,療養を要するものとされる(同法23条)。 労災保険給付ア労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)7条1項1号所定の業務災害に関する保険給付(以下「労災保険給付」という。)は,同法12条の8第2項により,労働基準法75条等に規定する療養補償の事由が生じた場合に支給するとされているところ,同条1項の「業務上の疾病」には,「粉じんを飛散する場所における業務によるじん肺症又はじん肺法に規定するじん肺と合併した同法施行規則1条各号に掲げる疾病」が含まれている(労働基準法75条2項,同法施行規則35条別表第1の2第5号)。 じん肺法上,管理区分が管理4と決定された者及び合併症にかかっていると認められる者は療養を要するものとされていることから(じん肺法23条),これらの者のじん肺又は疾病は,原則として業務上の疾病として認定されることとなる。 イ管理区分手続上,管理2 かっていると認められる者は療養を要するものとされていることから(じん肺法23条),これらの者のじん肺又は疾病は,原則として業務上の疾病として認定されることとなる。 イ管理区分手続上,管理2又は3の決定を受け,法定合併症の認定を受けていない者から労災保険給付支給の請求があった場合,労働基準監督署において,管理区分決定通知書又はその写し,粉じん職歴,管理区分,決定の根拠となったじん肺健康診 断結果等を確認し,合併症に係る審査を行うとされ,この場合には,原則として地方じん肺診査医の意見に基づいて判定することとされている。 また,管理区分手続上,管理2又は3とされ,法定合併症の認定を受けている者から請求があった場合は,上記と同様の事項を確認し,健康診断を行った日に当該合併症が発病したものとみなすとされている。(基発第250号通達,各都道府県労働基準局長宛て労働省労働基準局補償課長・安全衛生部労働衛生課長事務連絡「じん肺の合併症に係る療養等の取扱いについて」〔甲A99〕)原告等の管理区分決定及び合併症の認定原告等は,遅くとも別紙1管理区分等一覧表の「初回管理区分決定日」欄記載の日に「初回管理区分」欄記載の管理区分決定を受け,「最新管理区分決定日」欄記載の日に「最新管理区分」欄記載の管理区分決定を受けた。また,「療養・休業補償給付等支給決定日」欄に記載がある者については,その記載された日に「法定合併症」欄記載の合併症に罹患したことを理由とする療養・休業補償給付の支給決定を受けた。第3 争点 安全配慮義務の有無被告らの従業員であった原告等に対する被告らの責任の有無下請会社の従業員であった原告等に対する被告らの責任の有無 損害の発生及び損害額じん肺罹患の有無及びその程度 被告らの従業員であった原告等に対する被告らの責任の有無下請会社の従業員であった原告等に対する被告らの責任の有無 損害の発生及び損害額じん肺罹患の有無及びその程度 じん肺による健康被害・合併症等の有無減額要素の有無 損害額 被告らが連帯責任を負うか否か 過失相殺の有無 喫煙による過失相殺の有無マスク不着用による過失相殺の有無 消滅時効の成否消滅時効の起算点はいつか被告らの消滅時効の援用が権利の濫用に該当するか否か第4 争点に関する当事者の主張 1 安全配慮義務違反の有無 被告らの従業員であった原告等に対する被告らの責任の有無(原告らの主張)ア使用者は労働契約上の信義則に基づき,労働者に対し,安全配慮義務を負っている。安全配慮義務は,労働者の生命・身体・健康という侵すことのできない絶対的価値を保持するものであることから,その内容は「万全の措置を尽くす義務」(高度の絶対的義務)である。そして,被告らも,被告らの従業員であった原告等との労働契約の成立により,原告等に対し,原告等が労働力を提供する過程において,その生命と健康が破壊されないようにすべき高度の健康保持義務を負担していたのである。 原告等が従事した坑内・坑外作業は,いずれの工程においても,粉じんを多量に発生させる粉じん職場であった。粉じんの吸入によりじん肺という極めて悲惨な職業病が発生することは古くから知られていたし,実際にも鉱山においてじん肺患者が発生することを,被告らは十分認識していた。したがって,被告らは,じん肺の発生を予見しながらあえて労働者に粉じん作業という危険な業務をさせるのであるから,絶えず実践可能な最高 山においてじん肺患者が発生することを,被告らは十分認識していた。したがって,被告らは,じん肺の発生を予見しながらあえて労働者に粉じん作業という危険な業務をさせるのであるから,絶えず実践可能な最高の医学的・科学的・技術的水準に基づくじん肺防止対策を総合的・体系的に尽くして,じん肺患者の発生を防止する義務があった。 被告らが負っていた具体的義務及びその義務違反は以下のとおりである。 イ作業環境の管理に関する義務 被告らは,原告等が従事した作業の各過程において,有害かつ吸入性の粉じんが発生していたのであるから,定期的及び随時に粉じんの濃度を測定し,その測定結果に基づいて,安全性の観点から,当該作業環境の状態の評価を行うべきであったが,十分な測定をしていなかった。 被告らは,粉じんの発生を防止・抑制し,作業員が粉じんに暴露することを防止・抑制し,安全性の向上を図る義務を負っていたところ,湿式さく岩機の導入や機械の大型化に伴う作業の遠隔化が図られたことによって一定程度粉じんの発生が減少したものの,なお乾式での作業がされることが相当程度あり,また,散水も行われていたものの,粉じん発生防止のためには十分なものではなかったなど,その義務を果たしていなかった。 ウ作業条件の管理に関する義務 被告らは,粉じんにさらされる機会を少しでも減らすため,労働時間を短縮し,休憩時間を十分確保し,粉じんから遮断された場所に休憩所を設けるべき義務があり,賃金獲得を求めてじん肺防止とは相容れない過度な労働を行うことにつながる能率給などの賃金体系を見直す義務があったが,これらの措置を取らなかった。 また,被告らは,発生を防止しあるいは飛散を抑制できなかった粉じんを吸い込まぬよう,有効かつ装着に適した呼吸具(マスク 率給などの賃金体系を見直す義務があったが,これらの措置を取らなかった。 また,被告らは,発生を防止しあるいは飛散を抑制できなかった粉じんを吸い込まぬよう,有効かつ装着に適した呼吸具(マスク)等の保護具及びその付属品を支給することも,次善の策として行うべきであったが,これらの対策も実施しなかった。 エ健康の管理に関する義務被告らは,労働者自身が,じん肺発生のメカニズム,危険性,有害性について十分認識するよう,定期的・計画的な安全衛生教育を行うべきであったが,これを行わなかった。 また,被告らは,じん肺発生を防止できず,労働者をじん肺に罹患させてしまったならば,軽症であっても,もうこれ以上粉 じんを吸入することがないように速やかに非粉じん職場への配置転換を行い,療養の機会を保障するべきであったが,これを実施しなかった。 (被告らの主張)ア安全配慮義務は,労働者の安全と健康そのものを請け負う義務ではない。労働者の職場における安全と健康を確保するという目標のために諸々の措置(手段)を講ずる債務であり,結果債務ではなく,当時の水準,社会的状況等に照らして予見可能性,結果回避可能性を前提に設定されるべきものである。 被告らは,神岡鉱山において,粉じん対策として,関係法令に定める基準を遵守するだけでなく,他に先んじて,研究・開発を行い,その時代における最高水準の対策を講じてきた。よって,被告らが安全配慮義務に違反した事実はない。 イ原告らの主張について法令上,粉じん測定の実施が義務付けられたのは,坑外の屋内作業場について昭和55年になってからであり,坑内については昭和63年になってからであるところ,神岡鉱山では,法的整備がされる以前から粉じん測定に取り組んできた。 神岡鉱山は,栃洞鉱,茂 の屋内作業場について昭和55年になってからであり,坑内については昭和63年になってからであるところ,神岡鉱山では,法的整備がされる以前から粉じん測定に取り組んできた。 神岡鉱山は,栃洞鉱,茂住鉱とも豊富な地下水に恵まれ,湿式さく岩機の使用水や散水の水源に事欠くことはなく,粉じんに対する対策として穿孔作業については湿式さく岩機を使用し粉じんの発生を防止し,発破後は,坑内の高湿潤な環境及びウォータースプレーの使用等により粉じんを除去し,さらにこれらの粉じん対策に加えて自然通気及び強制通気によって粉じん対策を補完した。また,坑外作業場においては,集じん機(集じん装置)を設置してきている。 神岡鉱山では,昭和25年に防じんマスクの国家検定制度が整備されるのに先駆けて作業者に防じんマスクを使用させてきたが,国家検定制度制定後は国家検定の改正 に合わせて国家検定に合格した防じんマスクを採用し,作業者全員に無償貸与している。 被告らは,労働時間の短縮に努めており,坑内作業者の年間所定労働時間は減少してきていた。また,被告らは坑内能率給を設定していたが,その目的は目的と手段の均衡を図ることにあり,月々の賃金に大きな変動はなく,過度な労働を行うことにつながるものではない。 被告らは,従業員に対し,じん肺予防のためのマスクの必要性や管理,保管方法,整備等についての教育活動等を行ってきており,じん肺教育も精力的に実施してきた。 下請会社の従業員であった原告等に対する被告らの責任の有無(原告らの主張)ア下請会社の従業員であった原告等の就労状況被告らの下請会社の労働者として就労した原告等(以下「原告等(下請)」という。)の下請会社での就労歴は,以下のとおりである。いずれの者も,当初被告らの従業員であったが 員であった原告等の就労状況被告らの下請会社の労働者として就労した原告等(以下「原告等(下請)」という。)の下請会社での就労歴は,以下のとおりである。いずれの者も,当初被告らの従業員であったが,退職後下請会社に再就職し,神岡鉱山で働いた。 原告A14 昭和55年1月から平成5年3月まで,有限会社岡田組,宮口建設株式会社,岡工業株式会社原告A15 平成元年1月から平成8年3月まで,有限会社吉沢組,有限会社岡田組原告A16 昭和60年1月から同年10月まで,有限会社吉沢組原告A4 平成6年7月から同年13年3月まで,神岡エンジニアリング株式会社(後にマインサービス株式会社に社名変更) 原告A17 昭和59年4月から平成13年3月まで,岡工業株式会社,有限会社岡田組イ原告等(下請)は,被告らの下請会社との間で締結された各労働契約に基づき,被告らの所有し管理する神岡鉱山において,被告らの指揮命令や監督のもとに作業に従事してきた。その結果,原告等(下請)がじん肺に罹患したことは,被告ら自身の安全配慮義務違反によるものといえる。 また,原告等(下請)がじん肺に罹患したのが,被告らに就業中か下請会社に就業中かを特定することは不可能であるが,前記のような関係からして,少なくとも被告らと下請会社は共同して,原告等のじん肺罹患についての債務不履行責任を負うべきである。あるいは,民法719条1項の類推適用により,原告等のじん肺罹患について連帯して債務不履行責任を負うべきである。 (被告らの主張)ア原告らの主張を争う。 イ被告らの下請会社でも保安係員が選任されており,被告らと下請会社との間の業務内容に関する打合せ・相談は,全て被告らの下請会社担当係員と上記の下請会社の保安係員との間でな 告らの主張を争う。 イ被告らの下請会社でも保安係員が選任されており,被告らと下請会社との間の業務内容に関する打合せ・相談は,全て被告らの下請会社担当係員と上記の下請会社の保安係員との間でなされており,この打合せ・相談を踏まえ,下請会社の作業者に対する指示命令は全て下請会社の保安係員から出されていた。作業中の各下請会社の作業者に対する指揮命令は,下請会社の保安係員の仕事であり,被告らの保安係員が直接下請会社の作業員に対して指示命令を行うことはなかった。 被告らは下請会社の作業員に対して直接指揮命令をしていなかったのであるから,被告らが下請会社の作業者に対して安全配慮義務を負うことはない。 したがって,原告等(下請)について,同人らが被告らを退職した以降,いずれも被告らが安全配慮義務を負う立場にない。 2 損害の発生及び損害額じん肺罹患の有無及びその程度(原告らの主張)原告等は,別紙1管理区分等一覧表の「最新管理区分」欄記載のとおり,いずれも管理2以上の管理区分決定を受けており,少なくとも同管理区分相当のじん肺に罹患している(なお,原告A18,原告A19,原告A20,亡B2,原告A21,原告A22,原告A23,原告A24,原告A1,亡B3,亡B4及び亡B5については,管理区分決定を超えて,それぞれ,管理3相当のじん肺に罹患している。)。 その理由は次のとおりである。 アまず,原告等は,いずれも管理2以上の管理区分の決定を受けており,管理区分の決定は,公的な認定機関による厳格な手続を経た信用性の極めて高い判断であるから,これをもってじん肺罹患の立証責任は果たされている。 すなわち,じん肺法及び管理区分制度は,長年の知見を積み重ねて安定的に運用されてきたものであり,それ自体高度の信 性の極めて高い判断であるから,これをもってじん肺罹患の立証責任は果たされている。 すなわち,じん肺法及び管理区分制度は,長年の知見を積み重ねて安定的に運用されてきたものであり,それ自体高度の信用性を有するものである。そして,管理区分の診査は,担当医の診断に加え,相当な学識経験を有する医師のうちから厚生労働大臣が任命した者である地方じん肺診査医らによる複数合議による診断を経て,じん肺法の定める手順方法に従って,公平中立が担保された立場からされる。そして,その診断方法・基準は,じん肺審査会等を経た長年にわたる研究等の成果を蓄積したものである。そうすると,これ以上信用性の高い判定方法は存在せず,労働局長が行う管理区分決定の結果が最も信用できる評価というべきである。 イまた,以下に述べるように管理区分決定の信用性を更に高める事情もある。 原告等のうち被告ら在職時に管理2以上の決定を受けた者は,退職するまで毎年,定期健康診断を受けており,労働局長に管理区分申請がされ,その都度,改めて 管理区分決定がされているが,管理2以上から管理1に変更された者はいない。また,法定合併症の認定を受けた者も,担当医による定期健康診断を毎年受けており,じん肺所見があるとの判定が繰り返しされている。 原告等はいずれも神岡鉱山で粉じん作業に従事していた者であり,原告等にはじん肺罹患の原因がある。また,原告等には,じん肺罹患に伴って予見される健康被害が現に発生しており,それが健康診断や労災保険給付の支給決定などによって確認されている。 C1医師は,その意見書及び証人尋問において,原告等全員がじん肺有所見者であるという意見を述べている。同医師の意見は,別紙7C1医師の鑑定意見記載のとおりである。同医師は,じん肺の診療につき豊富な C1医師は,その意見書及び証人尋問において,原告等全員がじん肺有所見者であるという意見を述べている。同医師の意見は,別紙7C1医師の鑑定意見記載のとおりである。同医師は,じん肺の診療につき豊富な経験を有し,じん肺所見を適切に読影・判定するための能力を高度に習得している。同医師は,胸部エックス線写真の像を判定の対象として標準フィルムと比較読影し,粉じんにさらされる作業歴を確認するなど,じん肺法制が要請する方法に準拠して上記意見を導いたものであり,上記鑑定意見の信用性は高い。 ウ被告らは,C2医師,C3医師,C4医師及びC5医師(以下,4名を併せて「C2医師ら」という。)の鑑定意見等を根拠として原告等の一部についてじん肺の罹患を否認し,あるいは,その重症度が認定された管理区分よりも低い旨主張する。しかしながら,管理区分決定には高い信用性が認められる上,じん肺所見の判定は評価的要素の介在する余地が大きいから,異なる医師の判定があるからという理由では管理区分決定の信用性を否定できない。また,以下に述べる理由からC2医師らの鑑定意見は信用できない。 C2医師らは,標準写真集の電子媒体版を用いて比較読影をしているが,同電子媒体版を厚生労働省の定める基準に従って使用したことを確認できていない。ま た,じん肺健康診断をした医師が標準フィルムを用いて比較読影しているにもかかわらず,標準写真集を主に用いてその適否を判断しており,じん肺健康診断における比較読影に標準写真集の電子媒体版が用いられている場合には標準写真集フィルム版を,標準フィルムが用いられている場合には標準フィルムを用いて行うこととしている「じん肺健康診断及び管理区分の決定におけるDR(FDR)写真及びCR写真の取扱い等について定めた通達」(平成22年6月24日付基安 ムが用いられている場合には標準フィルムを用いて行うこととしている「じん肺健康診断及び管理区分の決定におけるDR(FDR)写真及びCR写真の取扱い等について定めた通達」(平成22年6月24日付基安労発0624第1号)に反する取扱いをしている。 C2医師らは,胸部エックス線写真よりも,胸部CT写真を重視してじん肺所見の判定を行っているが,胸部CT写真を不適切に使用するものであり信用できない。その理由は次のとおりである。 a 胸部CT写真には,①スライス厚よりも小さい病変を捉えられないため,肺の病変を完全には把握できない,②コンピュータがデータを計算処理して描出した画像であるため,検査対象を正確に描出しているかの裏付けに乏しい,③撮影条件が適切に設定されていない場合にはじん肺罹患の有無を確認するのに適さない画像となるおそれがあるなどの限界がある。 b デジタル画像は,データの撮影,表示,保存等を統一しなければ,画像の見え方が異なり,誤診を招きかねないおそれがある。厚生労働省は,エックス線写真のデジタル画像については,撮影条件や使用方法等の準拠すべき規格について,厳格かつ詳細に取り決めているが,CT写真については統一したルールは存在しないし,一応の指針すら示されていないのが現状である。 c 標準写真集にCT写真が付属収録された理由として,①標準写真集に収録すべきエックス線写真を多数の候補から絞り込む際にCT写真が併せて検討されたこと,②症例の少ない型等,胸部エックス線写真のみでは医師間の判断のばらつきが大きくな る可能性が想定されるものについて参考として胸部CT写真も収録したことが挙げられているが,そうだとすれば,医師が標準写真集を見てそのじん肺所見に関するイメージを得る際の「参考」としてCT写真が用いられることが想 定されるものについて参考として胸部CT写真も収録したことが挙げられているが,そうだとすれば,医師が標準写真集を見てそのじん肺所見に関するイメージを得る際の「参考」としてCT写真が用いられることが想定されているにすぎない。 d このようにCT写真には諸々の限界があり,じん肺診断における胸部CT写真の有用性には未だ議論の余地が多分に残されており,胸部エックス線写真よりも胸部CT写真の方が肺の状況をより詳細・精密に観察できるとは断定できない。そのため,じん肺法においては,胸部エックス線写真による判定が基準となっており,CT写真は判定基準として採用されていない。また,CT写真については,画像の見え方を統一するための基準はなく,じん肺法は,患者の胸部CT写真と電子媒体版に収録された胸部CT写真を比較読影して判定を行うことを予定していない。 胸部エックス線写真上じん肺の陰影があるにもかかわらず,胸部CT写真上で粒状影が確認できないとしてじん肺所見がないと結論付けるのは,CT写真の利用方法としてあまりにも不適切であり,その診断結果は信用性に乏しい。 (被告らの主張) 原告等の一部については,じん肺に罹患していないか,あるいは,罹患しているとしてもその症状は管理区分決定よりも軽度である。その根拠は,以下に述べるように信用性の高い別紙8C2医師らの鑑定意見に記載のとおりである。 ア C2医師らは,開示を受けた資料のうち最新の胸部エックス線写真の読影結果を主体とし,これに加えて開示を受けた資料のうち最新の胸部CT写真の読影結果を考慮に入れて総合的に鑑定しており,鑑定方法に不適切な点はない。原告等の直近におけるじん肺の所見の有無・程度を診断するに当たり,胸部エックス線写真のみならず,胸部CT写真の読影結果を考慮に入れるべきである理由は次の 的に鑑定しており,鑑定方法に不適切な点はない。原告等の直近におけるじん肺の所見の有無・程度を診断するに当たり,胸部エックス線写真のみならず,胸部CT写真の読影結果を考慮に入れるべきである理由は次のとおりである。 現在の臨床医学の現場では,胸部エックス線写真によって胸部疾患が疑われる場合,精密検査のための手段として,肺の状況をより詳細・精密に観察できる胸部CT写真を利用することが常識となっている。 じん肺は肺内の線維化,気腫化(気腫性変化),胸膜変化など多彩な変化を示す疾患であるが,胸部エックス線写真ではこれらの多くを表現するには限界がある一方,胸部CT写真では胸部エックス線写真と比較して濃度分解能が高く,肺内の線維化像及び気腫化(気腫性変化)が鮮明に描出されるため,病理学のレベルに近いところまで解明が可能となる。また,胸部エックス線写真では一方向から撮影するものであるが故に重複像が形成され,じん肺結節や間質性変化や気腫性変化等によって形成される変化が互いに修飾されたり打ち消しあったりすることがあるが,胸部CT写真は,そのような重複像が形成されることが少なく,周辺の気腫化の影響をほとんど受けないので,陰影そのものがより具体的に表現される。 標準写真集には,症例の少ない型など,胸部エックス線写真のみでは医師間の判断のばらつきが大きくなる可能性が想定されるものについては,参考という位置づけではあるものの,同一患者の胸部CT写真を収録している。また,標準写真集の作成過程において,候補画像の選定は胸部エックス線写真の読影結果のみに基づくことなく,同一人における胸部CT写真の読影結果等も勘案して行われている。このことからも,病例によっては胸部CT写真を診断の参考にすることが有力といえる。 そのほか,胸部CT写 みに基づくことなく,同一人における胸部CT写真の読影結果等も勘案して行われている。このことからも,病例によっては胸部CT写真を診断の参考にすることが有力といえる。 そのほか,胸部CT写真は,胸部エックス線写真では判別できない中等症以下の気腫性変化(肺気腫病変)の検出に優れていること,一部の原告等の管理区分決定の診査において胸部CT写真が用いられていることなどからしても,CT写真には有用性が認められる。 イC2医師らは,標準写真集を用いて比較読影しているが,標準フィルムと標準写真集のいずれを比較読影に用いても結果は変わらないのであるから,比較読影の方法にも問題はない。 ウC2医師らの鑑定意見に反するC1医師の鑑定意見は信用できない。原告等のじん肺に関する画像診断においては,じん肺による粒状影の出現の仕方に従って,上肺野を中心に見ていくことがポイントとなるが,C1医師が作成した意見書には,「上肺野」ではなく「中肺野」に粒状影が認められる旨の意見が多く,この点は医学的に不適切であるととともに矛盾しているといえる。 C1医師は,鑑定意見を作成するに当たっても,原告等の胸部CT写真の読影結果を,原告等のじん肺所見の有無・程度を判定・診断するための判断材料には用いていない旨述べるが,このような判断方法は,標準写真集が「じん肺画像診断における胸部CT写真の有用性」を踏まえて,同一患者の胸部CT写真も収録し,その作成過程においても,候補画像の選定は胸部エックス線写真の読影結果のみに基づくことなく同一人における胸部CT写真の読影結果等も勘案して行われた事実や地方じん肺診査医が用いている現在の行政上の運用を看過するものである。 じん肺による健康被害・合併症等の有無(原告らの主張)原告等は,じん肺に 写真の読影結果等も勘案して行われた事実や地方じん肺診査医が用いている現在の行政上の運用を看過するものである。 じん肺による健康被害・合併症等の有無(原告らの主張)原告等は,じん肺に罹患したことによって,毎日のように咳や痰に苦しんでおり,息切れしやすくなり,それに伴って体力が低下している。また,次のとおりの症状が出ていたり,合併症等に罹患していたりする者がいる。 ア肺機能障害についてじん肺に罹患した者は,次第に肺機能が低下し,息切れ,呼吸困難の症状を来すようになる。肺機能障害は,じん肺による健康被害の中でも,最も著しい苦しみを患者に与えるものである。原告等の大部分は,じん肺健 康診断において肺機能障害があると判定されており,これらの原告等には,それぞれ肺機能障害が認められる。 被告らは,C2医師らの鑑定意見を根拠に,原告等に肺機能障害が生じていることを否認している。しかしながら,C2医師らの鑑定意見は,肺機能検査の結果を機械的に評価し,原告等の肺機能障害を否定するものであるが,法の要請するじん肺健康診断では,肺機能障害の判定に当たり,肺機能検査の結果を基準に機械的に当てはめることのみによるべきではなく,自覚症状をはじめとする諸調査,諸検査の結果を含めた「医師の総合判断」がなされなければならないとされている。C2医師らの判定は,自覚症状等の諸調査,諸検査を判断材料に含まないものであり,「総合判断」をしていないことは明らかであって,その判定は,法の求める肺機能障害の判定方法を逸脱するものであるから,信用できない。 イ続発性気管支炎について原告等のうち別紙1管理区分等一覧表の「法定合併症」欄に続発性気管支炎と記載されている者(以下「原告等(続発性気管支炎)」という。)については,以下に述べるよう イ続発性気管支炎について原告等のうち別紙1管理区分等一覧表の「法定合併症」欄に続発性気管支炎と記載されている者(以下「原告等(続発性気管支炎)」という。)については,以下に述べるように続発性気管支炎に罹患している。 原告等(続発性気管支炎)は,続発性気管支炎に罹患したことを理由とする療養・休業補償給付を支給されている。じん肺の合併症の罹患は労災保険給付を支給する前提となっており,特に続発性気管支炎は,医学上の病名ではなく,法律上の概念であるから,労働基準監督署長による労災認定のための条件に合致しているかどうかが重要である。労働基準監督署長の労災認定は,その過程で原則として地方じん肺診査医の意見が求められ,詳細な実地調査も行われるなど厳格なものであり,その信用性は高い。また,労災認定がされた後も,療養開始から1年6か月を経過した後は, 毎年の定時報告として書類の提出が要求され,改めて続発性気管支炎の状態について審査されている。 したがって,労災認定を受け,現在まで労災保険給付の支給を受けている原告等(続発性気管支炎)については,その判断による信用性は極めて高く,続発性気管支炎に罹患していると十分認定できるというべきである。 被告らは,1年のうち3か月以上毎日のように咳と痰があることを客観的に確認するため,3か月以上の期間を空けて2回以上喀痰検査をする必要があるなどと主張するが,じん肺診査ハンドブックでは,精密検査を必要とするものを選別するための前提として,胸部臨床検査における自覚病状(症状)の調査として問診で行うものとされており,被告らが指摘するような検査は要求されていない。原告等(続発性気管支炎)に対する検査に不適切な点はない。 被告らは,続発性気管支炎に罹患したとの判定がされているにも で行うものとされており,被告らが指摘するような検査は要求されていない。原告等(続発性気管支炎)に対する検査に不適切な点はない。 被告らは,続発性気管支炎に罹患したとの判定がされているにもかかわらず,抗生剤が処方されていないのは不自然であるなどとも主張するが,そもそも細菌感染は続発性気管支炎の積極的要件ではない上,続発性気管支炎には統一的な治療方針があるわけではなく,医師ごとに治療方針が異なり得ることなども踏まえると何ら不自然なものではない。 ウ原発性肺がんについて原告A14,亡B2,亡B3及び亡B4は,じん肺の法定合併症である原発性肺がんに罹患し,あるいは,死亡時まで罹患していた。 エじん肺死について亡B1,亡B2,亡B3及び亡B4については,遺族補償給付を支給する旨の決定がされており,このことからすれば,同人らは,じん肺が原因で死亡したと認められる。 また,亡B5については,遺族補償給付の支給決定はされていないものの,じん肺の影響を強く受けて死に至っている。すなわち,同人の死亡診断書には,直接死因が「オージキンリンパ腫」とされているものの,担当医師は「じん肺で亡くなったとは言いませんが,じん肺のために肺がひどく悪化しており,リンパ腫の治療に必要な薬を十分に投与することができませんでした。」などと説明しており,じん肺の影響により十分な治療を受けることができず死に至った可能性が高いというべきである。 (被告らの主張)ア肺機能障害について肺機能障害の有無については,じん肺法による肺機能検査という客観的な数値を基本として判断されるべきであり,これによると,原告等の一部については,肺機能障害があるとは認められない。また,肺機能障害があると認められる者についても,その者の画像診断結果,依 という客観的な数値を基本として判断されるべきであり,これによると,原告等の一部については,肺機能障害があるとは認められない。また,肺機能障害があると認められる者についても,その者の画像診断結果,依存症,喫煙歴等からすると,肺機能障害の原因はじん肺によるものではなく,喫煙による影響が大きいものと認められる。 イ続発性気管支炎について原告等(続発性気管支炎)は,いずれも続発性気管支炎に罹患していたとは認められない。その理由は概ね次のとおりである。 続発性気管支炎の罹患が認められるためには,管理2又は3相当のじん肺に罹患していなければならないが,先に主張したように原告等のうち一部の者は,じん肺の所見が認められず,又は,明らかでないから,続発性気管支炎の罹患は認められない。 また,じん肺診査ハンドブックの正確な理解としては,続発性気管支炎を認定するためには,「1年のうち3か月以上毎日のように咳と痰がある。痰の量は起床後約1時間で3ml 以上,かつ,痰の性状が膿性痰である。」ことを,問診による患者の自覚症状のみで判断するのではなく,客観的に確認しなければならない。そこで, 患者に対する詳細な問診が必要であることはもちろん,他の医療機関からの紹介状により詳細な診療情報と喀痰検査での客観的な成績などを得ているような場合は例外として,少なくとも,喀痰検査を最低3か月以上間隔を空けて2回以上実施しなければならない。原告等(続発性気管支炎)については,喀痰検査をわずか1回あるいは連続する2日間で合計2回又は近接する2日間で合計2回実施した程度で続発性気管支炎の認定を受けており,続発性気管支炎の要件が客観的に確認されたとはいえない。 さらに,続発性気管支炎とは,「気道の慢性炎症性変化というじん肺の病変に細菌 計2回実施した程度で続発性気管支炎の認定を受けており,続発性気管支炎の要件が客観的に確認されたとはいえない。 さらに,続発性気管支炎とは,「気道の慢性炎症性変化というじん肺の病変に細菌感染等が加わって生じた可逆性の気道感染」であり,抗生剤等による積極的な治療を加える必要がある。そこで,起炎菌を明らかにするための喀痰細菌検査が実施されておらず,抗生剤も処方されていない場合や,マクロライド系抗生剤の少量長期処方が継続されている一方,異なる種類の抗生剤の上乗せ処方がわずかな回数しかされていない場合には,担当医が患者の気道感染のコントロールに苦慮していたとは考え難く,続発性気管支炎が治癒していたのか,あるいは,そもそも続発性気管支炎に罹患していなかったのではないかと考えられる。 ウ原発性肺がんについて原告A14,亡B2,亡B3及び亡B4の罹患した肺がんはじん肺の法定合併症である「原発性肺がん」に該当することは否定できないが,亡B3以外の者については喫煙歴との関連性を十分に考慮する必要がある。 エじん肺死について亡B1の直接死因である「慢性閉塞性肺疾患」は,じん肺及びじん肺の法定合併症である続発性気管支炎に起因するものではなく,48年間にもわたる喫煙に起因するものであり,じん肺により死亡したとはいえない。 亡B2,亡B4については,喫煙歴との関連性を十分に考慮に入れなければならない。 亡B3については,同人の死亡とじん肺の法定合併症である肺がん罹患との間に相当因果関係は認められない。すなわち,平成16年7月10日以降,早期に胸部CT写真による経過観察や気管支鏡検査等による精査を実施していれば,肺がんの確定診断を得られた可能性もあり,平成18年12月頃までは根治手術を行うことができた可能性 16年7月10日以降,早期に胸部CT写真による経過観察や気管支鏡検査等による精査を実施していれば,肺がんの確定診断を得られた可能性もあり,平成18年12月頃までは根治手術を行うことができた可能性もあった。ところが,亡B3の担当医はこのような精査等を行わず,亡B3はその結果死亡したのであるから,原発性肺がんの罹患と死亡との間には相当因果関係が認められない。 亡B5については,じん肺が,直接の死因である「オージキンリンパ腫」の発症,症状の進行及び治療に影響を及ぼしたとはいえず,じん肺により死亡したとはいえない。 減額要素の有無(被告らの主張)本件において,じん肺の法定合併症の罹患又はじん肺によって死亡したとして労災認定を受けた原告等については,多額の労災保険給付等(労働者災害補償保険特別支給金支給規則に基づく特別支給金を含む。以下同じ。)を受給することを,損害額の算定に当たっては十分考慮されるべきである。 (原告らの主張)包括的一律請求たる本件慰謝料について,労災保険給付等は斟酌されるべきではない。原告等の損害をじん肺死であることを前提とすると,個別の費目で積み上げた場合,慰謝料のみで3000万円を優に超えるものであり,その場合,かかる慰謝料部分について本来休業補償給付等が損益相殺されることはない。仮に,考慮されるとしても,被告らが主張するように,十分考慮されるものではない。 損害額(原告らの主張)原告らが被告らに支払を求めている損害は,じん肺に罹患したこと自体についてである。じん肺の特徴である不可逆性,進行性及び全身性に照らすと,各原告等について,じん肺に起因する様々な損害を「慰謝料」の名目で包括的に一律3000万円とし,これに弁護士費用300万円を加えた3300万円を損害額 特徴である不可逆性,進行性及び全身性に照らすと,各原告等について,じん肺に起因する様々な損害を「慰謝料」の名目で包括的に一律3000万円とし,これに弁護士費用300万円を加えた3300万円を損害額とするのが相当である。 (被告らの主張)否認ないし争う。 ア原告らは包括的一律請求をするが,原告等の診療記録等の検討は個別にされており,原告等はその勤務時間も業務内容もそれぞればらばらであり,同一の加害原因や同一の症状,被害者の生活状態の共通性といった要素もないことなどからすれば,本件で包括的一律請求を根拠付ける理由は一切認められない。 イ神岡鉱山における遊離けい酸の含有率は非常に低く,じん肺の進展が軽度に止まる傾向があること,原告等の中には日本人男性の平均寿命と同程度以上の年齢が含まれていること,粉じん作業離脱後のじん肺の進行可能性が低い者がいること,じん肺は全身性疾患ではないことなどに照らし,原告等の損害の程度を過大に評価するべきではない。 3 被告らが連帯責任を負うか否か(原告らの主張)被告三井金属は被告神岡鉱業を分離し,神岡鉱山を経営させてきたが,その両者の関係は,単に分離して子会社化しただけである。被告三井金属は被告神岡鉱業の株式をすべて保有し,被告三井金属の従業員が被告神岡鉱業の役員に就任している。した がって,被告神岡鉱業は法人格を有してはいるが,その実質は被告三井金属の神岡鉱業所というべき存在であり,両社は実質的に同一の存在である。 原告等が罹患したじん肺の原因が,いずれの被告(下請会社も含む。)のもとでの粉じん作業であるかを特定することは不可能である。しかし,前記のように,被告らが実質的には同一であることからすれば,被告らは共同して,原告等のじん肺罹患についての債務不履行責任を 含む。)のもとでの粉じん作業であるかを特定することは不可能である。しかし,前記のように,被告らが実質的には同一であることからすれば,被告らは共同して,原告等のじん肺罹患についての債務不履行責任を負うべきである。あるいは,民法719条1項の類推適用により,原告等のじん肺罹患について連帯して債務不履行責任を負うべきである。 よって,被告らは,それぞれ共同債務不履行責任ないし連帯責任を負うべきである。 (被告らの主張)争う。 4 過失相殺の有無喫煙による過失相殺の有無(被告らの主張)喫煙歴がある原告等については,喫煙がじん肺の罹患それ自体,原発性肺がん,肺機能障害及び現在の自覚症状(咳・痰)に寄与しているといえ,同人らも,喫煙の身体への有害性を認識していたことからすると,公平の観点から民法418条の適用又は類推適用により損害額について相当程度の減額がなされるべきである。 特に,原告A14は,喫煙が人体に与える影響を調べるための指数であるブリンクマン指数(1日の平均喫煙本数×喫煙年数)約600から800の重喫煙者であるから,同人の扁平上皮がん罹患には少なくとも6割について,亡B4は,ブリンクマン指数の予測値が少なくとも約715以上の重喫煙者であるから,同人の肺腺がん罹患には少なくとも4割について喫煙が寄与しているというべきである。また,亡B2 も,ブリンクマン指数約640の重喫煙者であるから,同人の肺がん罹患にも喫煙が大きく寄与したものといえる。 (原告らの主張)以下の事情によると,喫煙していたことを理由とする過失相殺はするべきではない。 アじん肺の罹患及び増悪と喫煙の関係に関し,被告らの疫学的証明による主張立証はそもそも不適切であり,喫煙の影響の程度及びこれに対する認識の有無につい を理由とする過失相殺はするべきではない。 アじん肺の罹患及び増悪と喫煙の関係に関し,被告らの疫学的証明による主張立証はそもそも不適切であり,喫煙の影響の程度及びこれに対する認識の有無について,原告等それぞれについて具体的な主張立証をすべきである。 イ抽象的に喫煙の有害性を認識していただけでなく,じん肺の増悪,肺機能の低下,肺がんの発生を引き起こすという認識又はその可能性の認識がなければ,これらの関係で喫煙を中止するという判断はできないから,過失相殺の根拠である過失があったことにはならない。また,被告らは,じん肺に関連した喫煙対策も禁煙に関する教育も行っていなかった。 マスク不着用による過失相殺の有無(被告らの主張)鉱山保安法,その関連省令及び保安規程によると,作業中防じんマスクを着用することが義務付けられていたのであるから,粉じん作業中に自己の判断で防じんマスクを着用しなかった,原告A21及び原告A2を除く原告等については,自らの意思に基づく自己保健義務違反が認められるから,過失相殺すべきであり,保安係員等保安を指導・監督すべき地位にあった原告等については,その過失の程度がより大きいというべきである。 (原告らの主張) 原告等は,基本的にはマスクを着用しており,これを外すのは作業の都合上やむを得ない場合であった。また,そもそもじん肺教育が不十分であったのであり,原告等がマスクをせずに作業をしていても,保安係員としても厳しく指導することはなかったし,顔にフィットする適切なマスクが支給されたこともなかった。 以上の事情を考慮すると,マスクの不着用を過失相殺の対象とすることは相当ではない。 5 消滅時効の成否消滅時効の起算点はいつか(被告らの主張)ア原告ら かった。 以上の事情を考慮すると,マスクの不着用を過失相殺の対象とすることは相当ではない。 5 消滅時効の成否消滅時効の起算点はいつか(被告らの主張)ア原告らの損害賠償請求権は,各原告等に対する最も重い管理区分の初回決定時より消滅時効が進行するところ,原告等のうち,原告A14及び亡B4以外の者については,別紙1管理区分等一覧表記載のとおり,初回決定時から10年を経過しており,消滅時効が完成している。そして,被告らは,上記原告等に係る原告らに対し,本件各事件の第1回口頭弁論期日において,上記消滅時効を援用する旨の意思表示をしたから,当該原告らの損害賠償請求権は消滅している。 イ原告らは,じん肺の法定合併症の行政上の認定を受けたときから再度消滅時効が進行すると主張するが,誤りである。そもそも,本件において,原告等は,管理区分決定に相当する所見や法定合併症に罹患していないのであるから,管理区分決定又は法定合併症の決定を受けた時点から消滅時効が進行すると解するべきではない。 (原告らの主張)アじん肺被害による安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求権の消滅時効の起算点は,死亡時から進行する。よって,本件各事件の訴え提起前に死亡した亡B3以外の原告等に係る損害賠償請求権の消滅時効は未だ進行していない(なお,亡B 1,亡B6,亡B4及び亡B5が死亡したのは,本件各事件の訴訟継続中である。)仮に,消滅時効が死亡時から進行するのではないとしても,諸事情に鑑みて具体的に損害賠償請求権の行使が期待できるようになったと言える時から進行するのであって,本件では,本件各事件の訴え提起の約1年前である。 イ仮に上記主張が認められないとしても,消滅時効は,最終の行政上の決定を受けたときから進行 きるようになったと言える時から進行するのであって,本件では,本件各事件の訴え提起の約1年前である。 イ仮に上記主張が認められないとしても,消滅時効は,最終の行政上の決定を受けたときから進行すると解するべきであり,これには,法定合併症が認定されたときを含むものというべきである。よって,法定合併症の認定を受けた日から起算して訴え提起までに10年を経過していない原告等に係る損害賠償請求権については,消滅時効は完成していない。 また,じん肺によって死亡した場合は,死亡した時点から消滅時効が進行する。よって,亡B3については,死亡した日の平成20年3月28日から10年を経過する前に,相続人らが訴えを提起していることから,消滅時効は完成していない。 被告らの消滅時効の援用が権利の濫用に該当するか否か(原告らの主張)ア専門的知識のない原告等が,自らに安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求権が存することを認識することは極めて困難であった。 イ原告等の権利行使が困難であったのは,じん肺教育の欠如等の被告らの義務懈怠により,原告等がじん肺に対する一般的情報やじん肺罹患の損害に対して十分な認識を持ち得なかったためである。 また,被告らは,原告等に対し,管理区分決定がなされたことを通知しなかった。そのため,原告等のほとんどが,じん肺に罹患している事実すら在職中及び離職後に知ることができなかった。原告等が管理区分決定を受けていたことを明確に認識したのは,初めて療養・休暇補償給付等の支給を受けた時であった。 このように被告らには,原告等の権利行使を困難にさせた責任がある。 ウじん肺の不可逆性,進行性及び全身性等の特徴に鑑みると,原告等が被った被害は悲惨かつ深刻であり,救済の必要性が極めて高い。 そし に被告らには,原告等の権利行使を困難にさせた責任がある。 ウじん肺の不可逆性,進行性及び全身性等の特徴に鑑みると,原告等が被った被害は悲惨かつ深刻であり,救済の必要性が極めて高い。 そして,被告らは,じん肺発生を予見し,結果発生防止の手段を講じ得たにもかかわらず,適切な粉じん対策を行わず,原告等を含む多くの労働者をじん肺に罹患させたのであって,その責任は重大かつ極めて悪質である一方,被告らは原告等のじん肺罹患という健康被害をもたらす労働の上に莫大な利益を上げている。 エ時効制度の趣旨を,立証の困難を救済するものと理解したとしても,被告らにおいて時効援用の利益を与える必要は存しないし,原告等及び原告らは,権利を認識することすらできていなかったのであるから,権利の上に眠る者ということはできない。 オ以上の事情を総合考慮すると,原告らの損害賠償請求に対し,被告らが消滅時効を援用することは,著しく正義に反し,社会通念上是認し得るものではなく,権利濫用に当たるものである。 (被告らの主張)被告らの消滅時効の援用は権利濫用ではない。 消滅時効の援用が権利濫用と判断される場合とは,債務者の行為等によって,債権者が権利行使をする又は時効中断の手続をとることが何らかの意味で妨げられたと評価できる場合である。 本件において,被告らによる消滅時効の援用が権利濫用とされる事情は何ら存しない。 被告らにじん肺教育の欠如等の義務懈怠はなかった。そもそも,当該事実は安全配慮義務違反の有無に関する事実であり,これによって,被告らが原告等による権利行使や時効中断のための措置を講じることを妨げたと評価することはできない。 「権利を行使することができる時」とは,権利を行使する上で法律上の障害がないことを意味し,権利 被告らが原告等による権利行使や時効中断のための措置を講じることを妨げたと評価することはできない。 「権利を行使することができる時」とは,権利を行使する上で法律上の障害がないことを意味し,権利を行使し得ることを権利者が知らなかったなどの事実上の障害は時効の援用は妨げない。 第5 ついての当裁判所の判断(なお,この項において,「被告ら」とは,昭和61年6月30日までの時期については被告三井金属を,同年7月1日以降の時期については被告神岡鉱業をいう。) 1 認定事実(前記前提事実,後掲証拠及び弁論の全趣旨によって認められる事実。 以下同じ。)神岡鉱山の概要(乙1,3,4,156)ア各鉱山の概要神岡鉱山は,栃洞,円山,茂住の各鉱床群から成り立っており,鉱山としては栃洞鉱(栃洞坑,円山坑),茂住鉱の二つがある。神岡鉱山では,日本で初めて本格的にトラックレスマイニングが導入され,昭和43年に栃洞鉱で導入が始まり,昭和58年に全ての鉱山で導入が完了した。トラックレスとは無軌条の意であり,従来の坑内作業では,鉱石等の運搬をする際,水平的には軌条により,上下方向には巻き上げ機により行われていたため,物の移動が軌条の敷設に制約されていたところ,トラックレスマイニングの導入によって,重機類が斜坑を自走し,高低差のある作業レベル間を自由に自走できるようになったことから,各作業効率が向上した。 昭和60年頃の栃洞鉱及び茂住鉱の坑道,坑口,立坑及び通気の状況等は,別紙10記載のとおりであり,その概況は以下のとおりである。 イ栃洞鉱(栃洞坑)栃洞坑は,昭和30年代において,+220M(海抜850m準にある通洞準を0m(M)として設定した相対高度を示す呼称であり,海抜を示すものではない。以下 ある。 イ栃洞鉱(栃洞坑)栃洞坑は,昭和30年代において,+220M(海抜850m準にある通洞準を0m(M)として設定した相対高度を示す呼称であり,海抜を示すものではない。以下同じ。)から-370M間を採掘範囲としていた。上部の鉱石を採掘し終わるにつれて採掘範囲は下がり,+180Mから-370M間を採掘範囲として,+180Mから0M間を上部トラックレス斜坑,0Mから-200M間を上盤斜坑及び下盤斜坑の二つのトラックレス斜坑で連結し,更に-200Mから-370M間を上盤斜坑及び北西斜坑の二つのトラックレス斜坑で連結した構造になっている。 採掘された鉱石は-370Mに集鉱され,主要運搬坑道のトロリー電車及びグランビー鉱車で-370Mから-430M間の貯鉱洞に貯鉱され,-430Mの坑内破砕室で破砕された後,ベルトコンベアーで坑外の選鉱場へ搬送される。 ウ栃洞鉱(円山坑) 円山鉱床群は,栃洞鉱床群の北方2㎞に位置する。円山坑は+200Mから-250M間を採掘範囲として,+200Mから0M間を1,2番斜坑と5番斜坑,0Mから-250M間を下部大斜坑で連結した構造になっている。 採掘された鉱石は-370Mに集鉱され,主要運搬坑道をトロリー電車及びグランビー鉱車で約2㎞離れた栃洞坑まで運ばれ,栃洞坑で採掘された鉱石と共に-370Mから-430M間の貯鉱洞に貯鉱され,-430Mの坑内破砕室で破砕された後,ベルトコンベアーで坑外の選鉱場へ搬送される。 エ茂住鉱茂住鉱は,+200Mから0M間を中央斜坑,+75Mから0M間をトラックレス斜坑,0Mから-500M間を下部ケージ立坑及び下部大斜坑で連結した構造になって いる。下部大斜坑は-500Mから-620Mまで伸張している。昭和30年代からは+310M M間をトラックレス斜坑,0Mから-500M間を下部ケージ立坑及び下部大斜坑で連結した構造になって いる。下部大斜坑は-500Mから-620Mまで伸張している。昭和30年代からは+310Mから-500M間を採掘範囲としていた。 採掘された鉱石は-500Mに集鉱され,主要運搬坑道のトロリー電車及びグランビー鉱車で-500M坑外の選鉱場に運ばれていた。 神岡鉱山における作業の概要(乙1)神岡鉱山における作業部門は,大きく採鉱部門(坑内),選鉱部門(坑外)及び製錬部門(坑外)に分けられる。 採鉱作業は,亜鉛や鉛等の鉱石を採掘する作業,選鉱作業は,有用鉱物を選別する作業,製錬作業は,採掘された鉱石を製錬して,純度の高い亜鉛及び鉛等を取り出す作業である。 原告等の就労歴原告等は,別紙9原告等の個別事情の各原告等の「1 職歴」欄記載のとおりの就労歴を有する。(同欄の括弧内記載の証拠等)坑内作業の内容及び粉じんの発生・飛散状況ア坑内作業の作業者の職種神岡鉱山における坑内作業の作業者の職種には,進さく員,採鉱員,運搬員,試錐員,支柱員及び工作員などがある。そして,各作業者の職種ごとの粉じん発生状況は,以下のとおりである。 イ進さく員,採鉱員,運搬員 進さく員は,坑内にて掘進(坑道を掘る)作業,追切り(坑道を拡幅等する)作業及び切上り(上向きに掘進して立坑を開削する)作業等に従事する。採鉱員は,採鉱(採掘対象区画を起砕する)作業や長孔切上り(下向きに穿孔して下部の坑道・堀場に貫通した後,下から順次発破をかけて立坑を開削する)作業に従事する。いずれの作業も穿孔作業及び発破作業を伴うものである。 運搬員は,運搬(掘進,追切り,採鉱等によって発生した鉱石又はず に貫通した後,下から順次発破をかけて立坑を開削する)作業に従事する。いずれの作業も穿孔作業及び発破作業を伴うものである。 運搬員は,運搬(掘進,追切り,採鉱等によって発生した鉱石又はずり〔鉱石以外の岩石〕を,坑井又は採掘後の空間に運ぶ)作業に従事する。(乙156) トラックレスマイニングが導入される前は,各作業者が基本的に単独の切羽(掘進する先端の現場,行き止まり)を担当して,穿孔,発破及び運搬作業のすべてに従事していた。トラックレスマイニングが導入された後は,大型重機によって各レベル間を自由に走行できるようになったことから,穿孔,発破及び運搬作業をそれぞれ専門に担当する者を決めて組に分け,各作業員が複数の切羽を担当する分業の体制(クルーシステム)が採用され,これにより,作業効率が向上し,鉱石の産出量は増大した。(甲A55,乙156,157,証人D2,取下げ前の原告A25)穿孔作業(甲A54,55,62の1,71の24,乙101,131,156,証人D1,取下げ前の原告A25,原告A26,弁論の全趣旨)a 穿孔作業とは,火薬を充填するための孔をさく岩機であける作業をいい,岩石及び鉱石等をさく岩機で削る際,粉じんが発生する。 被告らは,次のとおり,時代に応じて,湿式さく岩機を導入して粉じんの発生を抑制するとともに,大型さく岩機を導入して粉じん発生源と作業者との遠隔化を図るなどして,粉じん対策を行った。 b 神岡鉱山では,当初乾式さく岩機を使用していたところ,昭和25年に湿式さく岩機を導入して,昭和29年頃,湿式さく岩機に完全に切り替えられた。湿式さく岩機によって穿孔作業を行うことにより,繰り粉(削りくず)が水と混合されて泥状になるため,乾式さく岩機を使用する場合と比べて,粉じん発生量が 昭和29年頃,湿式さく岩機に完全に切り替えられた。湿式さく岩機によって穿孔作業を行うことにより,繰り粉(削りくず)が水と混合されて泥状になるため,乾式さく岩機を使用する場合と比べて,粉じん発生量が大幅に減少した。 旧くから使用されていたD-7Lという手回しの固定式さく岩機も,上記時期に湿式化された。作業員は,2人1組となってこれを使用し,基本的に湿式で使用していたが,紋取り作業(さく岩機の先端のタガネが岩盤にある程度打ち込まれるまで タガネの先端を手で押さえて固定する作業)を行う場合には,湿式で使用すると,手でタガネを押さえる作業員が濡れてしまうところ,合羽が十分に支給されなかったこともあったため,乾式で使用されていた。 その後,昭和31年に手持ち式レッグさく岩機が導入され,昭和30年代後半の主体となった。同さく岩機は,1人につき1台ずつ支給され,紋取り作業は行われなくなった。もっとも,岩質が軟弱な箇所で水を使用して穿孔作業をすると,孔が崩れてしまうことがあり,そのような場合は,金属製の棒で岩片を掻き出す作業が必要になり,時間と手間を要したため,湿式ではなく乾式で使用されることもあった。 このように作業内容等によっては,作業員が湿式さく岩機を乾式で使用していたこともあったが,これに対して,保安係員は,厳重な指導は行っていなかった。 昭和40年代にトラックレスマイニングが導入された後は,手持ち式レッグさく岩機から,大型湿式さく岩機を搭載したクローラードリル,ジャンボ及び油圧式さく岩機(湿式でのみ使用可能なさく岩機)等の大型重機による穿孔作業に変わり,作業の湿式化が進められるとともに,粉じん発生源と作業者との遠隔化も図られた。 c 以上のように,湿式さく岩機を導入することにより,乾式さく岩機を使用する場合と比べて 重機による穿孔作業に変わり,作業の湿式化が進められるとともに,粉じん発生源と作業者との遠隔化も図られた。 c 以上のように,湿式さく岩機を導入することにより,乾式さく岩機を使用する場合と比べて粉じんの発生量が大幅に減少した。また,トラックレスマイニングの導入後は,大型重機が普及したことに伴い,粉じん発生源と作業者との遠隔化が進められ,粉じんにさらされる機会が減少した。もっとも,作業内容によっては湿式さく岩機が乾式で使用されることもあり,また,湿式で使用されたとしても粉じんが発生することは完全には避けられず,坑内に一定程度飛散する状況にあった。 発破作業 a 発破作業とは,穿孔作業終了後,削岩された各孔へ爆薬を充填し,岩盤を爆破する作業をいう。発破作業は,それ自体が岩石の破砕を行うものであるから,瞬間的に相当量の粉じんが発生する。(乙156)被告らは,次のとおり,散水・噴霧をしたり,その他発破作業後の退避時間の確保や作業方法を工夫したりして,粉じん対策を行った。 b 散水・噴霧散水(甲A54,55,75,乙22,37,156,160,証人D1,取下げ前の原告A25,原告A26)発破後,崩落・落石を防止するための浮石払いの散水,ずり取りをするための起砕物への散水及び不発残留火薬の有無の点検のための散水がそれぞれ行われた。粉じんの飛散を防止するためには,発破の規模に応じて,少なくとも5分間から15分間以上の散水を必要とした。しかし,作業員は,標準工程(作業ごとの平均的な実績から作業箇所ごとに設定され,労働組合との協定により,月初めに「賃金表」という形で職場に提示される。なお,作業員は,標準工程を「ノルマ」と呼んでいた。)の達成や他の作業員との競争を意識していたため,上記粉じんの飛散防止のた れ,労働組合との協定により,月初めに「賃金表」という形で職場に提示される。なお,作業員は,標準工程を「ノルマ」と呼んでいた。)の達成や他の作業員との競争を意識していたため,上記粉じんの飛散防止のために必要となる十分な散水を行っていなかった。また,水を使用すると危険な作業を行う際には(例えば,切上り作業において散水等行うと,足場が濡れてしまい,滑って転落する危険性があった。),十分な散水を行わなかった。 また,被告らの保安規程(鉱山保安法によって,鉱業権者が,鉱山における保安を確保するため,鉱山の現況に応じて講ずべき保安上必要な措置について定めることを義務付けられているもの)により,「岩盤その他粉じんの発生しやすい箇所に注水,散水しなければならない。」と定められていたものの,それ以上詳細な規定はなかったこと,保安日誌には,保安係員が各現場を巡回する際に確認する項目が掲げられているところ,「散水」の項目がなかったこと,さらには保安係員の粉じん対策に対する重要 性についての意識が薄かったこともあり,保安係員は,作業員に対して,各現場において散水するよう注意していたものの,それは厳重なものではなく指導としては不十分であって,災害防止を理由として水を使用しない場合等には,散水しなかったとしても黙認するなど,その指導は徹底していなかった。 ⒝ ウォータースプレーによる水の噴霧(乙129,130,161,取下げ前原告A25,弁論の全趣旨)発破によって発生する粉じんの飛散防止のため,昭和20年頃から,圧縮空気によって水を噴霧するウォータースプレーが切羽ごとに設置され,使用された。作業員は,各孔に爆薬を充填した後,発破する切羽面に向けてウォータースプレーを作動させてから,一定時間退避した。 ウォータースプレーによる粉じん除去は,昭 レーが切羽ごとに設置され,使用された。作業員は,各孔に爆薬を充填した後,発破する切羽面に向けてウォータースプレーを作動させてから,一定時間退避した。 ウォータースプレーによる粉じん除去は,昭和30年代に,適切な使用方法によって,70%から90%程度の除去が可能なレベルとなった旨の実験結果が報告されていた。これに関連して,昭和53年頃には,噴霧散水用ノズルを発破母線から約15m以上の距離を確保して設置すること,噴霧散水ノズルとしてはME-15型ノズルを使用し,ノズル口径は坑内水中の汚濁物質による目詰りを防止するため3mm 以上にすべきこと等の諸条件を満たして噴霧散水した場合,坑道発破については5分間から15分間で,切羽発破については15分間から25分間で,発破作業前の粉じん濃度と同様の状態にすることができる旨の実験結果が報告されていた。 もっとも,被告らの保安規程には,ウォータースプレーの設置場所,使用するノズルの型,口径,個数,散水時間等について具体的に定めた規定はない。 c 退避時間の確保及び作業内容(甲A54,55,乙24,101,156,証人D1,取下げ前の原告A25,原告A26)発破作業について,保安規則・規程・対策集によると,発破後の退避時間として,5分間から15分間退避時間を確保し,10m先が見通せないうちは発破箇所に近づかないことと定められていた。 しかし,作業員は,標準工程を意識したり他の作業員との競争心もあったりしたことから,上記退避時間を守らず,相当数の粉じんが飛散する中で切羽に戻り,作業を継続することがあった。当該行為は保安規程違反であったものの,作業員らの粉じん対策に対する意識や規程遵守の意識が薄く,保安係員も指示・指導を徹底していなかった。 ⒝ 時代の進展と共に新たな採鉱 継続することがあった。当該行為は保安規程違反であったものの,作業員らの粉じん対策に対する意識や規程遵守の意識が薄く,保安係員も指示・指導を徹底していなかった。 ⒝ 時代の進展と共に新たな採鉱法を導入し,全員が坑内から退避したことを確認した上で遠隔操作によって発破し,当該切羽が無人となる夜間を排気時間として利用していた。また,昭和40年代になると,発破作業を必要としない立坑開削を行う等,作業内容の改善が図られた。 d 以上のように,被告らは,散水・噴霧を行ったり,退避時間の確保や時代に応じて作業方法を工夫したりするなどして,発破作業による粉じんの発生・飛散防止対策を行った。もっとも,発破作業において粉じんが発生することはなお避けられず,坑内に飛散する状況であった。 運搬作業 a 運搬作業においては,鉱石やずりを運搬機械に積み込んでこれを運び,鉱石やずりを立坑に投入する際に,それぞれ粉じんが発生した。 作業員は,当初,手積み作業によって鉱石やずりを掻き集めていたが,その後,ローダー(ずり積機)によって積み込むようになり,積み込んだ後の鉱石やずりを杓子で均す際のほか,鉱車に付着した鉱石屑をエアーで除去する時にも粉じんが発生し,飛散した。 被告らは,次のとおり,積込み前の鉱石やずりへの散水を行い,時代に応じて,ウォーターカーテン等の粉じんの飛散防止装置を設置する他,大型運搬機を導入して粉じん発生源と作業者との遠隔化を図るなどして,粉じん対策を行った。(甲A54,55,62の2・4,取下げ前の原告A25,原告A26) b 散水(甲A55,乙22,156,取下げ前の原告A25,原告A26) 先に認定したとおり,保安規程により,岩盤その他粉じんの発生しやすい箇所に注水,散水しなければならないと定められ b 散水(甲A55,乙22,156,取下げ前の原告A25,原告A26) 先に認定したとおり,保安規程により,岩盤その他粉じんの発生しやすい箇所に注水,散水しなければならないと定められており,作業員は,鉱石やずり等を積み込む前,散水するように指導を受けていた。 しかし,粉じんの発生・飛散を防止するために鉱石やずりを十分湿潤状態にするには相当の時間を要したこと,これらをローダーのバケットですくうと機械に鉱石やずりがくっついてしまい,エアーブローで除去するためにも相当の時間を要したこと,湿潤状態の鉱石やずり等を立坑に投入すると水が溜まり,漏斗口からこれらを抜き出す際に水圧で水と鉱石が吹き出して事故が発生する危険性があり,そのため立坑に水を入れないよう指導されていたことなどから,十分な散水は行われておらず,鉱石やずりの表面を濡らす程度にとどまり,2回目以降に積み込む際には,散水をしていなかった。 保安係員が作業員に対して,各現場において散水するよう注意していたものの,それは厳重なものではなく指導としては不十分であり,災害防止を理由として水を使用しない場合等には,散水しなかったとしても黙認するなど,その指導は徹底していなかった。 c ウォーターカーテン(甲A54,乙12,原告A26)ウォーターカーテンとは,粉じんの飛散防止として,坑道の途中に設置されたミストのスクリーンである。栃洞鉱では昭和50年代から,茂住鉱では昭和63年頃から設置され,立坑付近でバルブの開閉によって使用するなどして使用された。粉じんの飛散防止として一定程度の効果はあったものの,ウォーターカーテンの設置箇所は限られており,作業員が止めてしまうこともある等,十分に効果を発揮できないこともあった。 d ベルトカーテン(甲A55,乙1 定程度の効果はあったものの,ウォーターカーテンの設置箇所は限られており,作業員が止めてしまうこともある等,十分に効果を発揮できないこともあった。 d ベルトカーテン(甲A55,乙11,101,139,取下げ前原告A25,原告A26)昭和50年頃,鉱石やずりを投入する立坑には,投入口にベルトカーテン(幅80cm 程度のスチールベルトを縦型ブラインドのように重ね合わせて坑井投入口を塞ぐようにつり下げたもので,バケットで押し込まれて開き,投入後にバケットを引くと元に戻って閉じるもの)が取り付けられていた。これにより,投入する際の粉じんの発生や,各レベルの坑道への粉じんの飛散の防止に一定程度の効果があった。 e 大型重機の導入(甲A67,乙157,証人D2,取下げ前の原告A25)トラックレスマイニングの導入に伴い,積込み機と運行機の両方の機能を併せ持った自走式のLHDによる運搬が主流となった。その後,時代と共に大型化し,粉じん発生源と作業者との遠隔化が進んだ。 f 以上のように,被告らは,散水やウォーターカーテン等の設置を行ったり,大型重機の導入によって粉じん発生源からの遠隔化を図ったりするなどして,運搬作業による粉じんの発生・飛散防止対策を行った。もっとも,運搬作業において粉じんが発生することはなお避けられず,坑内に飛散する状況であった。 ウ支柱員(甲A29の9,57,乙156,証人D1,原告A15)支柱員は,坑道や切羽を維持するため,岩盤状態が良くない場所に鋼枠や木枠による留め付けを設置する支保作業,その他安全確保のための処置等,坑内作業全般にわたり他の職種を支援する作業に従事する。具体的には,支保作業のほか,扇風機設置,電灯線・エアー配管,給水配管設置やその他補修作業等を行い,その作業内 業,その他安全確保のための処置等,坑内作業全般にわたり他の職種を支援する作業に従事する。具体的には,支保作業のほか,扇風機設置,電灯線・エアー配管,給水配管設置やその他補修作業等を行い,その作業内容は広範である。 支柱員は,ピックハンマー(乾式の機械であり,岩盤の岩目等弱いところにタガネを当てて,振動でチップ状に割る機械)を使用して,根掘り(支保枠を据 え付ける岩盤部分に穴を堀込む)や当たり取り(支保枠の据え付けに支障が出る岩盤の出っ張りを削り取る)作業を行っていたが,この際には,粉じんが発生した。また,ピックハンマーの全長が短いため,粉じん発生源と顔が近くなることから,粉じんを吸入する危険性が高い作業であった。 また,鉄板坑井では,鉄板に付着した鉱石を削ぎ取り,新たな鉄板を溶接する作業を行った。その際,鉱石が下にある状態で作業を行っていたところ,亜鉛が焼ける臭いを除去するためにエアーを吹かしたため,その際に粉じんが発生した。 打替(切上りにおいて,人道と鉱石立坑を隔てるための板)外しの作業においては,楢板をハンマーでたたき割って外す際,粉じんが発生した。そして,運搬作業の場合と同様に,立坑に水が入って溜まり,漏斗口から鉱石を抜き出す際に事故が発生するのを防止するため,立坑に水を入れないよう指導されていたこともあり,十分な散水はされていなかった。 支柱員には,上記ピックハンマーを使用しない作業も多数あり,比較的粉じんにさらされる機会の少ない作業も多かったが,上記粉じんが発生する各作業のほか,坑内作業であったこともあり,進さく員,採鉱員,運搬員その他坑内作業によって坑内に飛散した粉じんを吸入する状況であった。 エ試錐員(甲A57,乙101,証人D3)試錐員は,試錐作業(鉱床の広がりを調査 たこともあり,進さく員,採鉱員,運搬員その他坑内作業によって坑内に飛散した粉じんを吸入する状況であった。 エ試錐員(甲A57,乙101,証人D3)試錐員は,試錐作業(鉱床の広がりを調査することを目的として岩芯採取を行う,いわゆるボーリング作業)等に従事する。 試錐作業では,基本的には十分な水を使用して穿孔しており,粉じんが発生することはなかった。しかし,試錐作業を行う際に使用するバズーカという機械を固定するためにはアンカーボルトを打つ必要があったところ,時々,水を使用すると孔が崩れてしまうような場合があり,やむを得ず乾式で穿孔機械を使用して行うことがあり,その際,粉じんが発生した。 上記粉じんが発生する各作業のほか,坑内作業であったこともあり,進さく員,採鉱員,運搬員その他坑内作業によって坑内に飛散した粉じんを吸入する状況であった。 オ工作員(乙156,弁論の全趣旨) 工作員は,工作作業(坑内で使用する鉱山機械の保守,修理とコンプレッサーなどの設備,電気配線・電気設備の保守,修理などの作業)に従事する。昭和48年10月1日に,坑内工作と坑外工作の組織が統合された。 工作員は,機械修理が主な作業であったが,切羽で修理を行うこともあったことから,進さく員,採鉱員,運搬員その他坑内作業によって坑内に飛散した粉じんを吸入する状況にあり,また,粉じんが付着した機械修理を行う際に粉じんを吸入する状況にあった。 坑外作業の内容及び粉じんの発生・飛散状況ア選鉱(甲A59,68,乙1,132ないし135,139,141,148の2,158,証人D4,原告A3)選鉱の工程は,坑内で採掘した鉱石から有用鉱物(鉛鉱物・亜鉛鉱物)と不用鉱物である岩石(脈石と呼ばれる) 乙1,132ないし135,139,141,148の2,158,証人D4,原告A3)選鉱の工程は,坑内で採掘した鉱石から有用鉱物(鉛鉱物・亜鉛鉱物)と不用鉱物である岩石(脈石と呼ばれる)を分離し,有用鉱物を採収後,さらに鉛鉱物と亜鉛鉱物とに分離して,それぞれを採収する工程である。神岡鉱山では,鹿間,栃洞,茂住の3箇所に選鉱工場があり,各選鉱工場の基本的な工程に違いはない。 1次破砕工程(坑内)では,坑内採掘現場から貯鉱舎に投入された鉱石を,ジョークラッシャーに投入して破砕した後,ベルトコンベアーに落として載せて坑外の選鉱工場まで運ぶ。 2次破砕工程(坑外)では,1次破砕工程で破砕され,ベルトコンベアーで運ばれてくる鉱石をコーンクラッシャーに投入してさらに破砕し,ベルトコンベアーに落として載せて貯鉱舎まで運ぶ。 1次破砕工程及び2次破砕工程においては,破砕した鉱石をクラッシャーからベルトコンベアーに落として載せる際に粉じんが発生した。当該箇所に集じん装置(集じんフード,集じん配管,除じん装置等の連結装置により,集じんを吸引して集める装置)が設置されていたことから,粉じんの発生・飛散防止に一定の効果があったが,これ以外のベルトコンベアーの上部に集じん装置等は設置されておらず,ベルトコンベアーには覆いがなかったため,粉じんの発生・飛散を完全に防止することはできなかった。 2次破砕工程を終えて,貯鉱舎に蓄えられた鉱石は,ベルトコンベアーにより磨鉱工程(破砕した鉱石に水を加えて,粉砕器で湿式粉砕する工程)を行う建屋に運ばれる。その後,泥状となった鉱石が浮遊選鉱(浮選)工程に運ばれ,水槽の中で個体・液体分離が行われた後,脱水機にかけられて亜鉛製錬工場又は鉛工場に送られる。 上記の磨鉱工程 行う建屋に運ばれる。その後,泥状となった鉱石が浮遊選鉱(浮選)工程に運ばれ,水槽の中で個体・液体分離が行われた後,脱水機にかけられて亜鉛製錬工場又は鉛工場に送られる。 上記の磨鉱工程及び浮選工程は湿式による作業であり,基本的に粉じんは発生しない。もっとも,2次破砕が行われる建屋と磨鉱工程・浮選工程が行われる建屋との間は壁で仕切られていたものの,人の出入り等で扉が頻繁に開き,2次破砕工程において発生した粉じんが磨鉱及び浮選工程の建屋に一定程度飛散した。そのような状況の中,作業員は,磨鉱工程の建屋にあった監視室(現在は存在せず,2次破砕工程建屋のみに監視室が存在する。)において食事することが多かった。磨鉱及び浮選工場にあるモーター類の機械への悪影響を考慮して,水撒きによる掃除は,基本的に行われなかった。 イ亜鉛製錬(原告等の中に,鉛製錬の作業に従事した者はいない。)(甲A60,71の24,乙1,136,139,141,152,159,証人D5,原告A4)亜鉛製錬は,選鉱工場で産出した亜鉛精鉱を原料として,高純度の金属亜鉛を得る工程である。亜鉛精鉱には亜鉛以外の不純物が含まれているため,湿式製錬法によって主に置換反応で順次これらを分離して高純度金属亜鉛を得る。 まず,選鉱工場で産出した亜鉛精鉱は硫化鉱物であり,焙焼炉と呼ばれる炉で加熱して硫黄分を除去し,亜鉛の酸化鉱物とする(焙焼工程)。その後,焙焼工程で生じた亜鉛焼鉱を硫酸溶液で溶解し(溶解工程),清浄槽によって化学反応を利用して溶解液から不純物を除去し(清浄工程),これによって生じる硫酸亜鉛溶液(中性液)を電気分解して陰極に亜鉛を析出させ,陰極から板状の亜鉛(カソード亜鉛)を剥ぎ取った後(電解工程),カソード亜鉛を電気炉で熔解し,亜鉛地金及び亜 (清浄工程),これによって生じる硫酸亜鉛溶液(中性液)を電気分解して陰極に亜鉛を析出させ,陰極から板状の亜鉛(カソード亜鉛)を剥ぎ取った後(電解工程),カソード亜鉛を電気炉で熔解し,亜鉛地金及び亜鉛基合金地金を得る(熔鋳工程)。 焙焼工程で生産された亜鉛焼鉱は,専用のダンプトラックで溶解工程に運ばれ,貯鉱ビンに投入される。この際,ダンプトラックの吐き出し口と貯鉱ビン(同ビン内はブロワーの吸引により負圧に保たれている。)の受け入れ口を布製の管で直結した状態で亜鉛焼鉱を投入する。もっとも,投入が終了してダンプトラックの吐き出し口から布製の管を取り外して口を縛る際,粉じんが発生・飛散した。 熔鋳工程において,亜鉛カソードを電気炉に投入し,撹拌棒によって塩化アンモニアとかき混ぜてドロス(不純物)を分離する。表面に発生したドロスについては,手前に掻き出してコンテナに落とし,ドロスが溜まるとコンテナを取り出して,混入した亜鉛があれば取り出して再度電気炉に投入し,残りのドロスを工場に運ぶ。これらの作業を行う際,粉じんが発生した。上記のうち,ドロスを手前のコンテナに掻き落とす箇所や,コンテナ内部に,それぞれ集じん配管(除じん装置につなが っている)が設置され,粉じんを一定程度吸引する効果があったが,粉じんによって配管が詰まり,吸引効果が減少することがあった。また,亜鉛精錬の工程では,電気を使用するため,水撒きによる掃除はせず,主に箒で掃除していたことから,粉じんが飛散した。 被告らの安全配慮義務の有無について労働契約においては,使用者及び労働者の双方が相手方の利益に配慮して誠実に行動することが要請されており,その要請に基づく付随的義務として,使用者は,労働者の生命及び健康等を危険から保護するように配慮すべき においては,使用者及び労働者の双方が相手方の利益に配慮して誠実に行動することが要請されており,その要請に基づく付随的義務として,使用者は,労働者の生命及び健康等を危険から保護するように配慮すべき義務,いわゆる安全配慮義務を信義則上負っていると解される。 んを多量に吸入すると健康障害を引き起こすことについては戦前から指摘されており,その後,じん肺法等の法律の整備も進められたこと,内務省労働局は,工場法における業務上の疾病の取扱いにつき,昭和11年にけい酸を含む粉じんを発散させる作業に従事してけい肺に罹患した場合を業務に起因する疾病と取り扱うこととし,被告三井金属においても,昭和23年から昭和29年にかけて,労働組合との間で,けい肺を業務上の疾病として扱い,けい肺対策を講じる旨の交渉をしてきたことが認められ,これらを踏まえると,被告らにおいて,原告等が被告ら及び被告らの下請会社において稼働した時代に,原告等が粉じん作業に従事することによってじん肺に罹患する危険性があり,この点について予見していた又は予見し得たというべきである。 そして,先に認定したとおり,原告等が従事した各作業において,いずれも粉じんが相当程度発生し,そこで作業を行う者は,その粉じんに絶えずさらされる状況に置かれており,労働時間の大部分をこの環境において過ごす状況にあったこと,じん肺の基本的な病像として,不可逆性,進行性,全身性ということが指摘され,じん肺罹 患による生命,身体及び精神的被害が甚大であることからすると,被告らは,粉じんの発生・飛散の防止及び粉じん吸入の防止についてその時期に応じた必要な措置を講じ,粉じん作業従事者のじん肺罹患やその増悪を防止するべき安全配慮義務を負っていたというべきである。 以下,原告らが安全配慮義務の具体 及び粉じん吸入の防止についてその時期に応じた必要な措置を講じ,粉じん作業従事者のじん肺罹患やその増悪を防止するべき安全配慮義務を負っていたというべきである。 以下,原告らが安全配慮義務の具体的な内容であると主張する点を中心に,被告らの安全配慮義務違反の有無を検討する。 被告らの安全配慮義務違反の有無について作業環境の管理に関する義務ア各作業における粉じんの発生及び飛散の防止粉じん作業従事者のじん肺罹患やその増悪を防止するためには,各作業において粉じんの発生及び飛散を防止することが基本的な対策となる。以下,各作業において被告らが行った措置とその問題点等について検討する。 湿式さく岩機・大型重機の導入によって作業の湿式化・粉じん発生源からの遠隔化等を図ること a 先に認定したとおり,被告らは,神岡鉱山において,比較的早い段階から湿式さく岩機を導入して穿孔作業の湿式化を図り,これによって,粉じんの発生が減少した。しかし,作業員は,さく岩機を乾式で使用して穿孔作業を行うことが相当程度あるなど湿式での使用が徹底されていない状況があり,この点について,被告らは,作業員に対して,指導・監督を徹底していなかった。 b また,トラックレスマイニングの導入に伴って大型重機の導入を進めるとともに,穿孔作業,発破作業,運搬作業について作業方法自体を改善することによって,粉じんの発生・飛散の抑止及び粉じん発生源からの遠隔化が進められたことにより,作業員が粉じんにさらされる機会は減少した。しかし,その後も,なお相当数の粉じんが発生し,坑内に飛散する状況であった。 粉じん発生源に対する散水あるいは噴霧等を行うことa 先に認定したとおり,坑内作業については,発破作業において,浮石払いの散 じんが発生し,坑内に飛散する状況であった。 粉じん発生源に対する散水あるいは噴霧等を行うことa 先に認定したとおり,坑内作業については,発破作業において,浮石払いの散水,ずり取りをするための起砕物への散水及び残留火薬の点検のための散水が行われ,運搬作業においても,最初の積み込みの際には鉱石やずりの表面を濡らす程度の散水は行われていたが,標準工程との関係などから粉じんの発生・飛散を防止するために必要な散水は,十分に行われていなかった。 また,被告らにおいて,早い段階でウォータースプレーやウォーターカーテン等を導入するなど,時代に応じて一定の対策を講じてはいたことが認められるものの,ウォータースプレーについては,被告らの保安規程にその設置場所,使用するノズルの型,口径,個数,散水時間等について具体的に定めた規定はなく,効力を最大限に発揮することができる条件(使用する道具の他,水量や散水時間等)で適切に使用されていたとは限らず,ウォーターカーテンの設置箇所は限定的なものであって,有効に使用されていないこともある等,十分に効果を発揮できていないような状況であった。 保安係員は,上記のような状況を確認しても,黙認するか,一応注意をすることがあるものの厳重なものではなく,その指導・監督が徹底していなかった。 b 先に認定したとおり,坑外作業については,電気等を扱うことから水撒きによる掃除があまり行われておらず,箒で掃除することによってより粉じんが飛散する状況であった。 適切な通気・換気を確保すること,あるいは集じん装置等を設置することa 適切な通気・換気の措置による通気量の確保通気に関し,保安規則81条によると,坑内作業場の気流及び通気量に関し,発破の煙及び有毒ガスを薄めて運び去るた 集じん装置等を設置することa 適切な通気・換気の措置による通気量の確保通気に関し,保安規則81条によると,坑内作業場の気流及び通気量に関し,発破の煙及び有毒ガスを薄めて運び去るために必要な速度と量でなければならないと規定され,保安規則の昭和51 年改正によって,同条は,可燃性ガス,有毒ガス及び発破の煙を薄めて運び去るために必要な速度と量でなければならないと改訂され,同規則81条の2によると,坑内における車両系鉱山機械又は自動車の作業箇所又は運転箇所の通気量は,別に公示で定める量以上でなければならないと規定されている。 通気の方法には,坑内と坑外の温度差及び坑口間の標高差(気圧差)によって生じる空気の流れに基づいて,全坑道にわたる系統的な通気を考える自然通気と,自然通気の季節的変動あるいは1日の気温の変化に伴う通気の変動を補うことを目的として,あるいは,自然通気だけでは十分な通気が得られない末端の坑道での通気を確保することを目的として,各所に設置した大小扇風機及び圧縮空気による補完的な強制通気がある。 被告らの採用した通気方法は,自然通気を基本とした上で,強制通気で補完するというものであった。(弁論の全趣旨)⒝ 自然通気自然通気の状況に関して,証拠(乙3,4,取下げ前の原告A25)によれば,神岡鉱山は,メインの坑道から多数の坑道(ブランチ)が複雑に枝分かれしており,自然通気が坑道の奥まで十分には届かない場所もあったこと,自然通気は,主として坑内と坑外の温度差によることから,温度差が少ない春季及び秋季の自然通気は,自然通気の強い夏季及び冬季と比較すると弱くなり,季節によって自然通気の向きが反転することもあって不安定であったこと,トラックレスマイニングの導入後は,斜坑が設けられたことによって以前と 然通気は,自然通気の強い夏季及び冬季と比較すると弱くなり,季節によって自然通気の向きが反転することもあって不安定であったこと,トラックレスマイニングの導入後は,斜坑が設けられたことによって以前と比べて通気が良くなって改善したものの,その後も,自然通気のみでは十分な通気が得られない状況であったことが認められる。 ⒞ 強制通気 被告らは,自然通気が不十分であることを前提として,主要扇風機(坑道全断面を塞ぐ定置式の大型扇風機)及び局部扇風機(坑道の中に設置される小型扇風機で,風管により通気の必要な箇所に送風するもの)を設置したが,その時期については昭和40年代以降である(甲A55,乙157,取下げ前の原告A25)。 被告らは,昭和20年代以降に局部扇風機を設置しているという旨主張するが,これを客観的に裏付ける証拠はない。 ⒟ 被告らは,昭和55年に実施した通気及びガス測定結果(乙96)を提出しているが,その余の測定結果は提出しておらず,上記測定結果からは,原告等が神岡鉱山の坑内において保安規則が必要とする通気が確保されていたか否かを判断することはできない。また,通気量の測定は,坑内全体における通気量の確認を目的とするものであるものの,粉じんにさらされることを防止するための労働環境の管理という目的からすれば,粉じん発生及び飛散する量が比較的多い切羽付近やブランチにおける測定についても意識的に行うのが適当であると考えられるところ,証拠(乙157)及び弁論の全趣旨によると,被告らが測定した地点は,坑道全断面等の比較的通気量が安定して確保することができる地点であって,上記切羽付近やブランチ等の粉じんが発生・飛散し,通気の確保をより必要とする地点の測定を意識的に行っているような状況は窺われない。 ⒠ 以上によると,自然通 して確保することができる地点であって,上記切羽付近やブランチ等の粉じんが発生・飛散し,通気の確保をより必要とする地点の測定を意識的に行っているような状況は窺われない。 ⒠ 以上によると,自然通気に加えて,主要扇風機及び局部扇風機を設置したことによって,原告等が従事する粉じん作業のすべての現場において,十分な通気量が確保されていたとはいえず,被告らが,通気・換気のために一定の措置を取っていたことは認められるが,なお不十分であった。 b 集じん装置の設置神岡鉱山の坑内においては,1次破砕室に集じん機が設置されていたが,その他に,集じん機は設置されておらず,この点の対応がされていなかった(乙159,弁論の全趣旨)。 先に認定したとおり,神岡鉱山の坑外においては,選鉱工場において,コーンクラッシャーから鉱石が落とされて粉じんが発生する箇所や,亜鉛製錬の工場の電気炉等の周辺に集じん装置が設置されていたが,なお一定程度の粉じんが発生・飛散する状況であった。 イ粉じんの有無・濃度の定期的測定,当該作業環境の状態の評価粉じん作業従事者のじん肺罹患やその増悪を防止するため必要な措置を講じるためには,粉じんの濃度を測定して現状を把握し,それの測定結果を適切に評価して,有効な対策を講じることが必要となる。 坑内作業場について坑内作業場において粉じん測定の実施は,保安規則の昭和63年度改正によって,6月以内ごとに1回,定期に,作業場における空気中の粉じんの濃度及び当該粉じん中の遊離けい酸の含有率を測定することが義務化された(弁論の全趣旨)。 証拠(乙35,205,208)によると,本件において,被告神岡鉱業が平成2年度以降坑内において粉じん測定を行っていたことは認められるが,測定が義務化される以前から被告ら れた(弁論の全趣旨)。 証拠(乙35,205,208)によると,本件において,被告神岡鉱業が平成2年度以降坑内において粉じん測定を行っていたことは認められるが,測定が義務化される以前から被告らが定期的に坑内の作業場ごとに個別的に粉じん量の測定を行っていたことを窺わせる証拠はないことからすると,そのような測定は行っていなかったことが認められる。 また,被告らが提出した上記平成2年度以降の測定結果(乙35,205,208)によっても,平成2年下期に36箇所中2箇所,平成3年上期に34箇所中9箇所,平成3年下期に45箇所中7箇所,平成4年上期に40箇所中16箇所,平成4年下 期に42箇所中8箇所,平成5年下期に28箇所中5箇所,平成6年上期に20箇所中3箇所,平成6年下期に19箇所中3箇所,平成7年上期に14箇所中1箇所,平成7年下期に12箇所中1箇所,平成8年上期に9箇所中4箇所,平成8年下期に10箇所中2箇所,平成9年下期に10箇所中3箇所,平成10年上期に6箇所中1箇所,平成12年上期に6箇所中2箇所で測定値が管理濃度(行政通達によって作業場の粉じん濃度を一定水準以下に保つための目標値として定められたもの)を上回っていることが認められるところ,平成8年上期には9箇所中4箇所が管理濃度を上回り,それまでよりもかなり環境が悪化した数字となっており,測定結果に基づく評価を行い,粉じん濃度の改善に努めてきたと評価することができない測定結果となっている。 坑外作業場について a 選鉱(鹿間選鉱場)粉じん測定は,昭和55年の保安規則の改正により,6月以内ごとに1回,定期に,行われることが義務化された。 被告三井金属において,昭和53年度より前において粉じん測定を行っていなかったことについて争いはない。ま 和55年の保安規則の改正により,6月以内ごとに1回,定期に,行われることが義務化された。 被告三井金属において,昭和53年度より前において粉じん測定を行っていなかったことについて争いはない。また,被告三井金属は,同年度以降において,2次破砕工程の建屋の粉じん測定を行っているが,磨鉱工程及び浮選工程の建屋では,粉じんが発生することはないと判断されたことから,同年度以降においても粉じん測定は行われなかった。そして,同年度以降において,2次破砕工程を行う建屋について粉じん測定が行われたとしても,実際に作業員が作業をして粉じんにさらされる場所と,測定の定点が多少離れていたりするなど(証人D4),有効な測定方法とはいえない面があり,不十分であった。 b 亜鉛製錬 証拠(甲A61,乙208の1ないし5)によると,本件において,昭和53年度以降,被告神岡鉱業が製錬工場で粉じん測定が行われたことは認められるが,先に認定したとおり,亜鉛精錬では,焙焼工程において亜鉛焼鉱をダンプトラックで溶解工程の貯鉱ビンに投入する際や,熔鋳工程において電気炉(デマーグ炉)にカソード亜鉛を投入し,ドロスをコンテナに掻き落とした後に取り出す際に,それぞれ粉じんが発生するのであるから,労働環境の管理という目的からすれば,粉じんが発生する作業が行われている際に測定するのが適当であると考えられるところ,上記各測定がどのような作業状態のときに測定されたものかは資料上明らかになっていない。 なお,被告らは平成18年4月から平成20年1月までの各測定結果(乙208の1ないし5)を提出しているが,この測定結果をもって,原告等が作業をしていた時期の状況を推認できるものではない。 以上のように,坑内及び坑外いずれの作業場においても,粉じんの有無・濃度の ないし5)を提出しているが,この測定結果をもって,原告等が作業をしていた時期の状況を推認できるものではない。 以上のように,坑内及び坑外いずれの作業場においても,粉じんの有無・濃度の定期的測定は行われておらず,また,行われたとしても適切な方法で測定されていたか否か不明であったといえる。そうすると,被告らは,粉じん測定を前提とする各作業環境の状態の評価が適切に行われていなかったといえ,粉じん測定の結果に基づいて,粉じんの発生・飛散防止対策を有効適切に計画し,対策の効果の有無等を確認することが十分にできていなかったというべきである。 作業条件の管理に関する安全配慮義務ア粉じんから隔離した休憩所の設置,その他能率給などの刺激的賃金体系を見直す等して,休憩時間を確保して粉じんにさらされる時間の短縮の措置を図ること先に認定したように,粉じんの発生・飛散を完全に防止することはできない状況にあった以上,粉じんを吸入することを防止するための措置を講じることが重要となる。 休憩所等の設置 証拠(甲A73ないし75,乙99,証人D2)及び弁論の全趣旨によると,保安規則により,著しく粉じんを飛散する坑内作業場に就業している鉱山労働者を休憩させるときは,粉じんが飛散しない場所において休憩させなければならないこと,保安規程(昭和55年8月時点)29条2項により,鉱山労働者は休憩をする場合,粉じんが飛散しない場所において,休憩しなければならないことがそれぞれ定められているところ,神岡鉱山において,事務所及び食堂が坑外に設置されたのは,栃洞鉱では昭和62年,茂住鉱では平成4年であり,それ以前は坑内に設置されていたこと,食堂には空気清浄機が設置されていたものの,それは粉じん対策ではなく,たばこ対策であったこ 坑外に設置されたのは,栃洞鉱では昭和62年,茂住鉱では平成4年であり,それ以前は坑内に設置されていたこと,食堂には空気清浄機が設置されていたものの,それは粉じん対策ではなく,たばこ対策であったことが認められる。 先に認定したとおり,被告らが坑内作業について,時代に応じて対策を講じたことにより,粉じんの発生・飛散の程度は一定程度減少したものの,なお,各坑内作業によって粉じんが相当程度発生・飛散しており,その影響は食堂等の休憩室にも及んでいたものと考えられることからすると,遅くとも,昭和55年以降については,被告らが坑内に食堂等の休憩所を残置していたことは,上記各定めに照らして問題のある対応であったというべきである。 能率給等の見直しa 証拠(甲A57,66,71の3・19・20・27・33・39・50,乙37,証人D3,取下げ前の原告A25)及び弁論の全趣旨によると,以下の事実が認められる。 進さく員,採鉱員,運搬員及び試錐員の各給与は,基本給30%(年齢及び勤続年数による),職能給40%(技能の高さ,年功による)及び能率給30%(各作業種について予め決められた標準工程に対する実績による)から構成されていた。 標準工程は,作業ごとの平均的な実績から作業箇所ごとに設定され,労 働組合との協定により,月初めに「賃金表」という形で職場に提示されるものである。そして,月末に,作業箇所ごとに実績工程が測定され,標準工程に対する割合〔伸び率〕を算出した上でそれぞれ能率給に反映させるようになっていた。進さく員は,標準工程をはるかに超えて新記録を達成した場合,表彰されるとともに金一封が支給されることもあった。 ⒝ 作業員は,上記標準工程の設定,能率給の存在及び表彰制度等が存在したことから,標準工程の達成 準工程をはるかに超えて新記録を達成した場合,表彰されるとともに金一封が支給されることもあった。 ⒝ 作業員は,上記標準工程の設定,能率給の存在及び表彰制度等が存在したことから,標準工程の達成や他の作業員との競争を意識して作業に従事することとなり,そのため,休憩時間を惜しんで作業を継続したり,散水等の粉じん対策措置を確実に実践することを疎かにする状況が生じていた。 ⒞ このように,能率給が一因となって,休憩時間を確保せず,作業において保安面の確保が疎かになる場合がある等の問題が生じていたといえる。この点について労働組合から問題提起がされていたものの,その後も特段有効な見直しは行われなかったため,保安上の意識が不十分なままの作業が継続して行われていた。 b 以上の事実を踏まえると,被告らとしては,保安面での対策を十分に確保することができたことを前提として,適切な標準工程を慎重に設定し,より一層保安係員による指導・監督等を徹底し,上記弊害を阻止して能率給制度との両立を図るべく対策を講じるべきであったが,保安面での改善が特段見られなかったことからすると,この点について不十分であったと言わざるを得ない。 イ防じんマスクの支給を行い,その適切な使用法を指導・監督すること粉じんの吸入防止の措置としては,防じんマスクの着用が最も重要な措置であるといえる。 a 証拠(甲A54ないし60,乙156,162,証人D3,取下げ前の原告A25,原告A26,原告A3,原告A4,原告A15,原告A17)及び弁論の全趣旨によると,以下の事実が認められる。 国は,じん肺対策には防じんマスクの高性能化が重要であるとして,昭和25年より防じんマスクの国家検定制度を導入し,作業者に着用させるべき防じんマスクの基準を設け,技術 られる。 国は,じん肺対策には防じんマスクの高性能化が重要であるとして,昭和25年より防じんマスクの国家検定制度を導入し,作業者に着用させるべき防じんマスクの基準を設け,技術の進歩に併せて改正されていった。 被告らは,時代に応じて,国家検定制度に合格した防じんマスクを,作業種に応じて導入し,全員に無償貸与していた。 ⒝ 原告等を含む作業員は,基本的には防じんマスクを着用して作業を行っていた。 しかし,トラックレスマイニングの導入前においては,進さく員や採鉱員らにおいて,2人1組で行う共同作業が多く,危険な作業も多かったことから,災害を防止するためにも打合せや合図が必要となることが多く,防じんマスクを着用していると,打合せをしたり合図を送ったりする上で支障が生じることから,防じんマスクを外して作業を行うこともあった。また,防じんマスクを着用していると呼吸しづらく息苦しかったことから,坑内・坑外作業のいずれにおいても,体力を要する作業を行ったり,作業中暑くなったりする際は,防じんマスクを外して作業を行っていた。トラックレスマイニングの導入後においては,進さく員や採鉱員らにおいて1人で行う作業が増えたことから,それまでに比べて着用率が向上したものの,なお,上記のような場合,作業員は,変わらず防じんマスクを外して作業を行っていた。 ⒞ このように,作業時に,防じんマスクを常時着用することが徹底されていない状況にあったが,保安係員は,現場を巡回する際,当該状況を目撃すると防じんマスクを着用するように注意はしていた。しかし,巡回の際の確認すべき項目として,「保護具」があったものの,これには作業服,保安帽子等様々なものが含まれており,防じんマスクを特に重要視したものとなっていなかったことから,作業員だけでなく保安係員と 回の際の確認すべき項目として,「保護具」があったものの,これには作業服,保安帽子等様々なものが含まれており,防じんマスクを特に重要視したものとなっていなかったことから,作業員だけでなく保安係員としても,粉じん対策として,防じんマスクを常時着用すべきという意識があまり高くなく,指導・監督は徹底されていなかった。 b 神岡鉱山における坑内・坑外作業において,粉じんの発生・飛散を完全に防止することはできない以上,その吸入を防ぐために,適切な防じんマスクを支給し,常時着用して適切に使用するよう指導・監督を徹底して行うことが極めて重要であったというべきであるが,かかる指導・監督の徹底は不十分であった。 健康の管理に関する安全配慮義務ア定期的・計画的な安全衛生教育の実施により作業員の意識向上を図ること粉じん作業従事者のじん肺罹患やその増悪を防止するためには,作業員自身が,じん肺発生のメカニズム,有害性及び危険性を十分認識し,じん肺の予防措置やじん肺に罹患した場合の適切な処置を自ら主体的に行うことが必要であり,そのため,定期的・計画的な安全衛生教育を行うことが重要となる。 証拠(甲A56,71の1・14・44,甲B14の4,乙23,31,143,144,146,147,149,乙156,証人D1,証人D5,取下げ前の原告A25,原告A26,原告A15,原告A4)及び弁論の全趣旨によると,以下の事実が認められる。 神岡鉱山では,作業員の入所時に,保安,従事する作業の概要・基礎知識及び保護具の使用等を内容とする就業時教育を行っていた。この際,原告等は,じん肺に罹患する可能性があるため,防じんマスク等の保護具を着用すべき旨の説明を受けていた。 そのほか,在籍中においても,坑内作業者の場合,職場単位で出席する 時教育を行っていた。この際,原告等は,じん肺に罹患する可能性があるため,防じんマスク等の保護具を着用すべき旨の説明を受けていた。 そのほか,在籍中においても,坑内作業者の場合,職場単位で出席する「保安常会」に,坑外作業者の場合,工程別に出席する「保安班会」と呼ばれるミーティングがそれぞれ月に1回の割合で開かれる他,講演会の開催や保安週間等を設ける等して,じん肺を取り上げることもあった。また,昭和55年には,じん肺法が改正されたことに伴い,坑内・坑外作業者全員を対象に,粉じん作業者特別教育を実施し,じん肺をテーマとして,じん肺のメカニズムや特徴・危険性等について講義を行った。 上記のような就業時及び在籍時教育を受けたこともあり,原告等作業員らは,湿式さく岩機を使用し,粉じん発生源に対して散水・噴霧等を行い,各作業中は基本的には防じんマスクを着用して作業する等,基本的には被告らが実施した粉じんの発生・飛散防止のための様々な対策に従って作業をしていた。 しかし,上記保安常会及び保安班会は,災害防止を主な目的とするものであって,じん肺にテーマを絞った形式の教育をしていたものではなく,昭和55年に実施された粉じん作業者特別教育以外に,じん肺にテーマを絞った体系的な教育が行われたこともなかったことから,原告等も含めた作業員をして,じん肺罹患防止対策を自ら主体的に行う意識を十分向上させるまでには至らなかった。そのため,被告らは,先に述べたようにじん肺罹患防止対策を種々講じたものの,作業員自ら積極的に対策を講じる意識が乏しいままの状態であったために,各対策を適切に実施していない状況が生じ,これに対する指導・監督が徹底されておらず,十分な効果を発揮することができなかった。 上記認定事実によれば,被告らは,各種ミーティングを行う ったために,各対策を適切に実施していない状況が生じ,これに対する指導・監督が徹底されておらず,十分な効果を発揮することができなかった。 上記認定事実によれば,被告らは,各種ミーティングを行うなど従業員に対するじん肺教育を実施していたことは認められるものの,じん肺にテーマを絞った会合は昭和55年に1回実施されただけであり,従業員自身が,じん肺発生のメカニズム,有害性及び危険性を十分認識し,じん肺の予防措置やじん肺に罹患した場合の適切な処置を自ら主体的に行う意識を高めるためには,被告らが行っていた措置は不十分であった。 イ罹患者を早期に配置転換し,療養の機会を保障すること先に認定したとおり,原告等は,別紙9原告等の個別事情の「1 職歴」欄記載のとおりの就労歴を有し,別紙1管理区分等一覧表の「初回管理区分決定日」欄記載の日に「初回管理区分」欄記載の管理区分決定を受けたことが認められる。そして,被告 らにおいて,管理2以上の決定を受けた原告等に対して,配置転換を促す等何らかの措置を講じた形跡は窺われない(じん肺法21条により,被告らが作業員に対して,配置転換の勧奨等を促すべきことを規定しているのは管理3の決定を受けたものではあるものの,管理2を受けた者についても,配置転換について一定の配慮をすべきといえる。)。 まとめ以上の検討によれば,①作業環境の管理,②作業条件の管理及び③従業員の健康管理のいずれの面においても,被告らは,時代の進展に併せて,一定の粉じん対策を講じてきたことは認められるものの,それぞれ問題点も認められる。 殊に,被告らが講じた様々な対策の実行性を十分に確保するためには,これらを実際に実施する作業員自身において,じん肺のメカニズム,有害性及び危険性を十分に認識し,じん肺の予防措置やじん められる。 殊に,被告らが講じた様々な対策の実行性を十分に確保するためには,これらを実際に実施する作業員自身において,じん肺のメカニズム,有害性及び危険性を十分に認識し,じん肺の予防措置やじん肺に罹患した場合の適切な処置を自ら主体的に行う意識を十分に高める必要があるのであって,そのための指導・監督を徹底し,体系的な教育を十分に行うことが極めて重要であったというべきである。 この点については,先に認定したように,被告らの実施したじん肺教育は不十分なものであったため,作業員のみならず保安係員のじん肺の危険性等に対する意識が十分ではなく,湿式さく岩機等が導入された後も,作業効率を上げるためなどの目的から,作業員の判断で乾式による作業も継続して行われ,また,標準工程の達成等のため,十分な散水を行わず,退避時間を十分に確保せずに作業が行われていたこと,防じんマスクの常時着用についても,作業中に暑くなると外して作業をするなど徹底されていなかったこと(坑内・坑外の各作業において,粉じんの発生・飛散を完全には防止できない環境にあったことからすると,防じんマスクの常用着用の徹底はとりわけ重要であったといえる。)などじん肺防止のためには不適切な事態が発生し,また, この点について,本来,このような事態を是正すべき保安係員による指導・監督も徹底されていなかったという状況があったことが認められる。 このため,被告らが実施した作業の湿式化等の粉じん対策のための各措置も十分な効果を上げることができず,被告らの行ったじん肺防止のための措置は総体として不十分なものとなったと評価せざるを得ない。 本件における以上の事情を総合すると,被告らが各時期に講じたじん肺罹患の為の防止措置は,総体として不十分なものであったといえるから,被告らには,安全配慮義 なものとなったと評価せざるを得ない。 本件における以上の事情を総合すると,被告らが各時期に講じたじん肺罹患の為の防止措置は,総体として不十分なものであったといえるから,被告らには,安全配慮義務違反があったと認められる。 第6 についての当裁判所の判断(なお,この項において,「被告ら」とは,昭和61年6月30日までの時期については被告三井金属を,同年7月1日以降の時期については被告神岡鉱業をいう。) 先に検討したように,労働契約においては,使用者及び労働者の双方が相手方の利益に配慮して誠実に行動することが要請されており,その要請に基づく付随的義務として,使用者は,労働者の生命及び健康等を危険から保護するように配慮すべき義務,いわゆる安全配慮義務を負っていると解されるところ,元請会社と下請会社の労働者との間には直接の労働契約はないものの,下請会社の労働者が労務を提供するに当たって,いわゆる社外工として,元請会社の管理する設備,工具等を用い,事実上元請会社の指揮,監督を受けて稼働し,その作業内容も元請会社の労働者とほとんど同じであるなど,元請会社と下請会社の労働者とが特別な社会的接触関係に入ったと認められる場合には,労働契約に準ずる法律関係上の債務として,元請会社は下請会社の労働者に対しても,安全配慮義務を負うというべきである。 原告等(下請)の就労歴 別紙9原告等の個別事情の各原告等の「1 職歴」欄記載のとおり,原告等(下請)である原告A14,原告A15,原告A16,原告A4及び原告A17は,以下の就労歴を有する。(同欄の括弧内記載の証拠等) 原告A14は,昭和55年1月から平成5年3月までの間,被告らの下請会社である有限会社岡田組,宮口建設株式会社,岡工業株式会社の従業員として,神 歴を有する。(同欄の括弧内記載の証拠等) 原告A14は,昭和55年1月から平成5年3月までの間,被告らの下請会社である有限会社岡田組,宮口建設株式会社,岡工業株式会社の従業員として,神岡鉱山で進さく員等として粉じん作業に従事した。 原告A15は,昭和64年1月から平成8年3月までの間,被告神岡鉱業の下請会社である有限会社吉沢組,有限会社岡田組の従業員として,神岡鉱山で支柱員として粉じん作業に従事した。 原告A16は,昭和60年1月から同年10月までの間,被告三井金属の下請会社である有限会社吉沢組の従業員として,神岡鉱山で進さく員として粉じん作業に従事した。 原告A4は,平成6年7月から平成13年3月までの間,被告神岡鉱業の下請会社である神岡エンジニアリング株式会社(後にマインサービス株式会社に社名変更)の従業員として,その後,平成20年3月までの間,同社でアルバイトとして,神岡鉱山で製錬員として粉じん作業に従事した。 原告A17は,昭和59年4月から平成元年3月までの間,被告らの下請である岡工業株式会社,同年4月から平成13年3月までの間,有限会社岡田組の従業員として,神岡鉱山で進さく員等として粉じん作業に従事した。 3 原告等(下請)の労働状況証拠(甲A56,58,60,70,乙157,証人D2,原告A15,原告A4,原告A17)及び弁論の全趣旨によると,以下の事実が認められる。 平成3年頃までは,被告らの作業員(以下「本工」という。)の事務所と下請会社の作業員(以下「下請作業員」という。)の事務所は,それぞれ別の箇所に設置さ れており,各事務所でそれぞれ作業準備を行った。それ以降は,本工及び下請会社の作業員の事務所は,同じ場所に設置された。 下請会 請作業員」という。)の事務所は,それぞれ別の箇所に設置さ れており,各事務所でそれぞれ作業準備を行った。それ以降は,本工及び下請会社の作業員の事務所は,同じ場所に設置された。 下請会社は,下請作業員の中から保安係員を選任しており,保安係員は,毎朝,本工の事務所に行き,被告らの下請会社担当係員から,作業現場及び作業内容に関する指示事項や注意事項を受け,その後,下請作業員の事務所に戻ってこれを伝達した。下請作業員の作業現場は,岩盤が軟弱である等比較的作業条件が悪い場所であった。 原告等(下請)を含む下請作業員は,上記保安係員から伝達された指示に従って各現場に向かい,作業服,保安帽,保安靴,携帯電灯及びマスク等の着用物については下請会社から支給を受け,重機・機械,器具・道具,材料・燃料等については,被告らが用意したものを使用・消費して作業に従事した。下請作業員は,本工と共同で作業をすることはなかった。 被告らの保安係員は,毎日各現場を巡回し,下請作業員に対して保安上の注意・指導をしていた。下請作業員は,危険を伴う共同作業が多く,災害を防止するためには,作業に関する打合せや合図を送ることが必要であり,そのため防じんマスクを外して作業することが多かった。 下請会社の保安係員は,原告等(下請)を含む下請作業員に対して,防じんマスクの着用をするよう注意することはほとんどなく,被告らの保安係員は,下請作業員に対して,防じんマスクを着用するように注意したことがあったものの,厳重なものではなく,指導・監督を徹底していなかった。 下請会社の保安係員は,下請作業員の作業が終了する都度,被告らの事務所に行って被告らの下請担当係員に作業日報及び保安日誌を提出し,作業状況を報告していた。 下請会社の従業員は, 下請会社の保安係員は,下請作業員の作業が終了する都度,被告らの事務所に行って被告らの下請担当係員に作業日報及び保安日誌を提出し,作業状況を報告していた。 下請会社の従業員は,被告らが開催する定例の保安常会に出席し,これを踏まえて下請作業員に対して教育・指導していた。また,被告三井金属が昭和55年に実施した粉じん作業者特別教育は,下請作業員も対象とされていた。 鉱山保安法は,鉱山労働者に対する危害を防止することなどを目的として制定されたものであり(1条),鉱業権者は,鉱山における人に対する危害を防止するため粉じんの処理について必要な措置を講ずる義務並びに衛生に関する通気の確保及び災害時における救護のため必要な措置を講ずる義務がある旨規定しているところ(5条。なお,改正前の同法4条。),上記鉱山における人に下請作業員も含まれるものと解されることから,鉱山保安法及びその委任に基づいて制定された金属鉱山等保安規則に規定された鉱業権者の鉱山労働者に対する保安義務は,下請会社の労働者にも及ぶと解すべきである。 そして,先に認定したとおり,本件下請作業員は,被告らが所有管理する神岡鉱山で稼働しており,下請会社の保安係員を介して,作業現場及び作業内容について被告らの指示を受けていたといえること,下請作業員は,比較的作業条件の悪い現場での採掘を担当し,防じんマスクを含む保護具は下請会社から支給されていたものの,使用する重機等の道具及び燃料等については被告らが用意したものを使用していたことなどを考慮すると,下請作業員は,被告らの採掘計画に組み込まれ,本工と同一内容の作業を,被告らの定めた具体的な作業手順に従って遂行することによって被告らの鉱石採掘業の一環を担っており,その全体的な労働環境については,被告らが主に設定し得る 掘計画に組み込まれ,本工と同一内容の作業を,被告らの定めた具体的な作業手順に従って遂行することによって被告らの鉱石採掘業の一環を担っており,その全体的な労働環境については,被告らが主に設定し得る立場にあったといえる。加えて,被告らの保安係員が各作業現場を巡回して,保安上の指示・監督等を行い,作業終了後には,下請会社の保安係員から作業結果の報告を受けることで作業状況を把握し,保安常会も,下請会社の従業員を参加させて下請作業員に伝達させる等していたことからすれば,下請作業員に対する保安指 導を主体的に行う立場にあったといえる。そして,前述したように,神岡鉱山における各作業において粉じんが発生・飛散することは避けられず,そのため,本工の場合と同様に,作業員の粉じん防止策に対する意識の向上を図って防じんマスクの着用を指示することなどがとりわけ重要であったといえることからも,被告らが下請作業員を指導・監督できる立場にあったことを軽視することはできない。 上記検討によれば,原告等(下請)を含む下請作業員は,被告らが管理する神岡鉱山において,被告らの設備,工具等を用い,事実上被告らの指揮,監督を受けて稼働し,その作業内容も本工とほとんど同じであったといえるから,被告らと原告等(下請)とは特別な社会的接触関係に入ったと認められる。したがって,被告らは,原告等(下請)に対しても,労働契約に準ずる法律関係上の債務として,安全配慮義務を負っていたというべきである。 そして,先に認定したところによれば,被告らの原告等(下請)を含む下請作業員に対する粉じんの発生・飛散・吸入の防止措置は,第5において検討した本工に対する粉じんの発生・飛散・吸入の防止措置と同様に,じん肺罹患及びその増悪を防止するための対策として不十分であり,特に,防じんマスク る粉じんの発生・飛散・吸入の防止措置は,第5において検討した本工に対する粉じんの発生・飛散・吸入の防止措置と同様に,じん肺罹患及びその増悪を防止するための対策として不十分であり,特に,防じんマスクの着用を含むじん肺に関する教育及び指導が不十分であったと認められるから,被告らは,原告等(下請)に対し,その安全配慮義務を尽くしたものと評価することはできないというべきである。 よって,被告らは,原告(下請)に対して,安全配慮義務違反があったといえる。 第7 争点2(損害の発生及び損害額)についての当裁判所の判断 1 認定事実じん肺の種類及びエックス線写真上の陰影の特徴アけい肺(甲A9,100,116,乙43,289) 遊離けい酸(シリカ)を吸入すると,肺胞マクロファージの相互作用が引き金となって組織の線維化が進展し,膠原線維を主体とする玉ねぎ状の層状構造の結節(けい肺結節)が形成される。このけい肺結節を主体とするじん肺をけい肺という。 古典的けい肺結節は3㎜から6㎜までの境界明瞭な硬化した球形の結節であり,粉じんを混じ層状同心円状及び内部の不規則に走行する硝子化した高度の線維増生からなり,細胞成分は乏しい。けい肺結節は,線維起因性の強い結晶質シリカ濃度が,肺内堆積全粉じんの約20%以上ある場合に生じる。けい肺が進展すると結節が増大し,あるいは,いくつもの結節が融合して,直径1㎝以上の線維性結節(進行性線維化塊状巣)が形成される。 イ混合粉じん性じん肺(じん肺診査ハンドブックでは非典型けい肺と分類。甲A9,100,116,乙43,289)遊離けい酸を含む粉じんを少量ずつ長期間吸入した場合,けい肺結節と異なる形態の混合型粉じん性線維化巣(以下「MDF」という。)が生じる。このMDFを 甲A9,100,116,乙43,289)遊離けい酸を含む粉じんを少量ずつ長期間吸入した場合,けい肺結節と異なる形態の混合型粉じん性線維化巣(以下「MDF」という。)が生じる。このMDFを主体とするものを混合粉じん性じん肺という。粉じんの作業環境が改善した今日においてじん肺の軽症化に伴って増加してきており,実際の病例ではけい肺結節とMDFが混在している場合が多い。 MDFは,輪郭が不規則で星芒状(星型に少しとがった形。)を示す線維性小結節でおよそ6㎜までの様々な大きさを示す。粉じんを豊富に貪食した組織球や線維芽細胞の増生からなる細胞成分が目立ち,高度の線維化はなく,硝子化した像はあっても程度は弱い。周囲の肺胞壁などの間質への波及像により星芒状形態をとる。 この結節は,結晶質シリカ濃度が肺内堆積全粉じんの約20%未満である混合性のある粉じんによって引き起こされる。 ウじん肺陰影のエックス線写真上の特徴(甲A9,72,100,乙43,2 90の2,292の2,293の2,証人C1医師,証人C2医師)粒状影a けい肺における粒状影粒状影を示すじん肺の代表はけい肺である。けい肺における粒状影のエックス線写真像は,吸入粉じん量により異なり,一律ではない。初期の極めて線維化の弱い時期には,結節像は認めにくく,末梢の血管影が見えにくくなり,血管影と血管影との間に異常陰影が出現し次第に増加してくる。結節像は,一般に濃度が高く円形である。 粒状影は,経過とともに次第に大きさと数を増してきて全肺野に及ぶようになる。遊離けい酸含有率の高い粉じんによる典型的なけい肺では個々の結節の径が10㎜に達することがある。 なお,粒状影のタイプは,主要陰影の径に従って分類され,直径1.5㎜までのものがp,直径1.5㎜を超え けい酸含有率の高い粉じんによる典型的なけい肺では個々の結節の径が10㎜に達することがある。 なお,粒状影のタイプは,主要陰影の径に従って分類され,直径1.5㎜までのものがp,直径1.5㎜を超えて3㎜までのものがq,直径3㎜を超えて10㎜までのものがrとされている。 b 混合粉じん性じん肺(非典型けい肺)における粒状影遊離けい酸含有率の低い粉じんによるじん肺における粒状影のエックス線写真像及びその経過は,けい肺の場合と多少異なる。このような粒状影も,吸入粉じん量等によって異なり,一般的には,粒状ではあるがその大きさは小さく,輪郭が不規則で星芒状となって,濃度が低く淡い。このような粒状影は,進展に伴ってその数を増してくる。なお,先に述べたように,実際の病例ではけい肺結節とMDFが混在している場合が多い。c 粒状影の出現位置けい肺及び混合粉じん性じん肺(非典型けい肺)の粒状影は,一般的には上中肺野から(特に上肺野を中心に)出現が始まるものであり,上肺野優位で基本的に左肺と右肺とでほぼ均等(対称)に出現す るが,左右不均一な場合には,右肺優位に出現し,内層背側優位に出現することが多い。 d 粒状影と血管影の判別胸部エックス線写真では,前後に走っている血管の陰影(血管影)が粒状の影として写ることがある。一般的に,血管影に比べて粒状影の陰影はやや濃く,血管影が円形であるのに対し,粒状影は血管影に比して菱形,あるいは,少しとがった形で写ることが多い。 不整形陰影主に石綿肺に認められるが,その他のじん肺の場合にも,粒状影のほかに様々の形の小さな濃度の低い陰影が認められ,進展に伴ってその数を増してくる。 大陰影1つの陰影の長径が1㎝を超えるものを大陰影という。けい肺の場合には,上肺野における粒状影がその のほかに様々の形の小さな濃度の低い陰影が認められ,進展に伴ってその数を増してくる。 大陰影1つの陰影の長径が1㎝を超えるものを大陰影という。けい肺の場合には,上肺野における粒状影がその数と大きさを増してきて,次第に個々の粒状影が識別できない塊状影になり,比較的鮮鋭な辺縁と濃厚な陰影を示す大陰影になるのが一般的な経過である。その他のじん肺でも,吸入粉じん量の増加等により大陰影に発達することがある。 標準フィルム及び標準写真集の内容・取扱いじん肺健康診断におけるエックス線写真像の区分の判定は,標準フィルム及び標準写真集を用いて行うこととされている。 ア標準フィルムについて(甲A9,83,88,126,乙43)標準フィルムは昭和53年に初めて作成され,昭和57年にその増補版が作成されている。その内容は,別紙4標準フィルム一覧表記載のとおりであり,「じん肺の種類」(けい肺,石綿肺,その他のじん肺)に分類され,種類ごとに12階尺度に応じた胸部エックス線写真のフィルムが収録されている(ただし,12階尺度全てに対応 するものが収録されているわけではない。)。 じん肺診査ハンドブックに記載されている標準フィルムによる胸部エックス線写真の読影方法は次のとおりである。 a エックス線フィルムの読影に当たっては,粉じん作業に係る職歴調査の結果等により,けい肺,石綿肺又はその他のじん肺のうち,どの種類のじん肺のフィルムを用いるかをまず判断する。 b その後,選択した種類の標準フィルムを用いて読影の対象とするフィルムについて12階尺度を用いて判断する。エックス線写真を読影する場合,その写真がおおよそどの型に分類されるかを判断してからその型の標準フィルムを取り出して見比べて診断を行うことになるが,この作業は容易 ついて12階尺度を用いて判断する。エックス線写真を読影する場合,その写真がおおよそどの型に分類されるかを判断してからその型の標準フィルムを取り出して見比べて診断を行うことになるが,この作業は容易ではないため,スクリーニング用として標準フィルムの中に組合せエックス線写真が収録されている。この組合せエックス線写真によって,対象となるエックス線写真を第0型ないし第3型にふるい分け,ふるい分けた型に相当する標準フィルムと見比べ,肺野全体の影を対象とした最終診断を行う。 イ標準写真集について(甲A110,125,128,乙172,286,弁論の全趣旨) 標準写真集は,アナログ写真で作成された標準フィルムが相当期間を経て劣化してきたこと,エックス線写真のデジタル撮影への移行が進んでいることから,じん肺又は放射線の専門医により構成された厚生労働省「デジタル撮影によるじん肺標準エックス線画像に関する検討会」(以下「標準写真集検討会」という。)の結果を踏まえ,平成23年3月に作成されたものであり,その内容は次のとおりである。 a 標準写真集の内容は,別紙5標準写真集一覧表記載のとおりであり,「じん肺の種類」に代わり,「陰影の種類」(所見なし,粒状影,不整形陰影,大陰影,その他の陰 影)に分類され,種類ごとに12階尺度に応じた胸部エックス線写真がフィルム版と電子媒体版で掲載されている(ただし,12階尺度全てに対応するものが収録されているわけではない。)。 b 標準写真集検討会の報告書によれば,「その他の陰影」と分類した3例については,①粉じん作業歴から遊離けい酸の少ない粉じんの吸入が想定されたものであること,②画像所見は粒状影に近いが,粒状影と分類したものと比較して陰影が淡いこと,③遊離けい酸の少ない粉じんは,肺内で いては,①粉じん作業歴から遊離けい酸の少ない粉じんの吸入が想定されたものであること,②画像所見は粒状影に近いが,粒状影と分類したものと比較して陰影が淡いこと,③遊離けい酸の少ない粉じんは,肺内で沈着しても炎症及び組織の変化を起こしにくいため,「粒状影」とは別の分類とされていること,④今後,さらなる知見の収集に努め,必要に応じて見直しを行うことが望ましいことなどが記載されている。 平成23年9月26日付け基安労発0926号第1号「じん肺標準エックス線写真集(平成23年3月)フィルム版及び電子媒体版の取扱いについて」によると,フィルム版は,厚生労働省本省及び各都道府県労働局に配布され,これらの機関での管理区分の決定におけるじん肺のエックス線写真の像の区分の判定のために用いられ,電子媒体版は,厚生労働省本省,各都道府県労働局及びじん肺健康診断等を実施する医療機関等の関係団体に配布され,同医療機関等において使用されるものとされ,それぞれの使用方法について,以下のとおりとされている。 a 電子媒体版については,使用する機器やその設定によって画像の見え方が大きく変わることがあることから,上記通達添付の「「じん肺標準エックス線写真集」電子媒体版について」において,使用する際の医療機器(画像データの保存装置,キャプチャー機器及びビューワー,医療用モニター,イメージャー)の必要要件及びじん肺健康診断における使用方法が定められている。 b 上記通達においては,アナログ写真によるじん肺のエックス線写真の像の区分の判定は,従来どおり「じん肺標準エックス線フィルム」(昭和53年)を使用できるほ か,電子媒体版に収録された写真データを上記「「じん肺標準エックス線写真集」電子媒体版について」に示された適切な条件においてフィルムに出力したものを使用 ィルム」(昭和53年)を使用できるほ か,電子媒体版に収録された写真データを上記「「じん肺標準エックス線写真集」電子媒体版について」に示された適切な条件においてフィルムに出力したものを使用しても差し支えないとされている。 標準写真集による胸部エックス線写真の比較読影の方法については,概ね標準フィルムによる場合と同様である。 標準写真集の電子媒体版には,エックス線写真を撮影した一部の患者について,別紙5標準写真集一覧表記載のとおり,胸部CT写真も収録されている。 a 標準写真集検討会の報告書(甲A128の2)では,症例の少ない型など胸部エックス線写真のみでは医師間の判断のばらつきが大きくなる可能性が想定されるものについては,参考として同一患者の胸部CT写真も収録するとされている。 b 標準写真集検討会では,標準画像を選定する要件として,「同一人における胸部エックス線写真以外の情報(粉じん作業歴,胸部CT写真等)を勘案し,じん肺の程度として妥当と認められること」が挙げられ,候補画像については,実際に胸部CT写真等も踏まえて選定がされている。 c 標準写真集の附属書(乙286の2)では,写真番号3(粒状影の第0型(0/1))の「画像所見」の項目では,「胸部エックス線写真上,じん肺を疑う所見はほとんど認められない。胸部CT写真では,両側の肺上葉に少数の粒状影が観察される。 本例は,粒状影の密度と分布がごく限られているため,じん肺の型としては第1型に至らず,第0型(0/1)に相当する。」と記載されている。 ウ標準フィルムと標準写真集のDR(FDR)写真及びCR写真(両者を併せて,以下「デジタル写真」という。)の取扱い等について(甲A108,109,乙170) じん肺健康診断及び管理区分決定に際し と標準写真集のDR(FDR)写真及びCR写真(両者を併せて,以下「デジタル写真」という。)の取扱い等について(甲A108,109,乙170) じん肺健康診断及び管理区分決定に際して使用される胸部エックス線写真がデジタル写真である場合の取扱いは,平成22年6月24日付け基安労発0624第1号「じん肺健康診断及びじん肺管理区分の決定におけるDR(FDR)写真及びCR写真の取扱い等について」(その後の平成23年及び平成25年の改正も含む。)において,次のように定められている。 じん肺健康診断及び管理区分の決定において,デジタル写真を用いて検査を行う場合には,上記通達に詳細かつ具体的に規定された撮影条件(電圧,焦点被写体間距離等)及び画像処理条件として一般的条件(階調処理,周波数処理)と各メーカーの機器に応じて定められた画像処理条件に従う。 地方じん肺診査医は,管理区分申請にデジタル写真が添付されていた場合には,提出された写真について,上記各条件を満たしていることに加え,①全肺野の細部まで十分に読影が可能であること,②適正な濃度とコントラストであること,③陰影が強調されすぎていないことを確認する。 地方じん肺診査医は,管理区分申請の審査において,デジタル写真についてのエックス線写真の像の区分の判定を行う際,じん肺健康診断における比較読影に標準写真集電子媒体版が用いられている場合には標準写真集フィルム版を,標準フィルムが用いられている場合には標準フィルムを用いて行うこととされている。 じん肺の診断におけるCT写真の有用性・問題点ア胸部CT写真の仕組み及び特徴(甲A72) 胸部エックス線写真は,人体の背面から胸部へ向けてエックス線を照射し,その透過像をレントゲンフィルムに映し出すもので 写真の有用性・問題点ア胸部CT写真の仕組み及び特徴(甲A72) 胸部エックス線写真は,人体の背面から胸部へ向けてエックス線を照射し,その透過像をレントゲンフィルムに映し出すものである。これに対して,CT写真は,横臥した状態の患者に対し,多方面からエックス線を照射してエックス線吸収 値(CT値)を測定・記録した上,収集されたデータ(位置情報とCT値)をコンピュータで計算処理し,横断面の断層像(スライス像)を画像化するものである。 CT写真は,コンピュータ処理される幅(スライス厚)は,エックス線が照射される幅によって異なるという特徴や,胸部エックス線写真と異なり,診察目的に合わせて同一のデータの一部を強調して出力することができるという特徴を有する。 イじん肺診断における胸部CT写真の有用性(乙58ないし61,92ないし94,153,285,290の2,292の2,293の2,証人C2医師,弁論の全趣旨)現在の臨床医学の現場では,胸部エックス線写真によって胸部疾患が疑われる場合,精密検査のための手段として胸部CT写真を利用することが一般的に行われている。 じん肺は肺内の線維化,気腫化(気腫性変化),胸膜変化など多彩な変化を示す疾患であるが,胸部CT写真は,胸部エックス線写真と比較して空間分解能は劣るが,濃度分解能が高く,このため,肺内の線維化像及び気腫性変化が鮮明に描出され,それらの病態が理解されやすい画像となる。 胸部エックス線写真では正面という一方向から撮影するものであるが故に重複像が形成されるため,じん肺結節や間質性変化や気腫性変化等が互いに修飾されたり,打ち消しあったりすることがある。これに対し,胸部CT写真は,胸部レントゲン写真のように一定の層(前面から背面)にある濃淡を統合した るため,じん肺結節や間質性変化や気腫性変化等が互いに修飾されたり,打ち消しあったりすることがある。これに対し,胸部CT写真は,胸部レントゲン写真のように一定の層(前面から背面)にある濃淡を統合したものではないため,そのような重複像が形成されることが少なく,周囲の気腫化の影響もほとんど受けないので,陰影そのものがより具体的に表現されるという利点がある。 上記のような利点等から,胸部CT写真を利用することにより気腫性変化と粒状影を明確に区別し,実際の粒状影の有無・密度について確認することが可能であり,この点は,エックス線写真に比べて,CT写真が役立つ。また,初期のじん 肺の有無を確認するためには胸部CT写真の方が胸部エックス線写真よりも優れている旨の報告が多い。胸部エックス線写真では重複像が形成されるために不明瞭なじん肺陰影でも,胸部CT写真では微細な結節状陰影でも鮮明に表現されるため,特にじん肺法上のじん肺所見の有無の判断,すなわち12階尺度における0/1と1/0の境界領域の診断において威力を発揮することが指摘されている。 ウ胸部CT写真の特徴・限界等(甲A72,乙60,証人C2医師,弁論の全趣旨)CT写真によるじん肺診断の問題点としては,①不連続性の横断面による部分的な情報の欠落が存在する点,②病理解剖との対比が少数のため,CT写真がはたして肺の病変を忠実に表現しているかについての裏付けに乏しい点,③CT写真はコンピュータによって構成されたものであり,使用機種や撮影条件によっては,その表現を異にするので,標準的な画像を作成するにしても胸部エックス線写真のように広く適用されるまでには至っていない点などが指摘されている。 胸部CT写真については,じん肺罹患を判断する際に適した装置,撮影条件(スライス 的な画像を作成するにしても胸部エックス線写真のように広く適用されるまでには至っていない点などが指摘されている。 胸部CT写真については,じん肺罹患を判断する際に適した装置,撮影条件(スライス厚の設定など),保存方法,モニターの性能及び条件などについて,未だ統一的なルールが策定されていないのが現状である。 また,CT写真の場合,上下に走っている血管の陰影(血管影)が粒状の影として写ることがある。このため,CT写真の場合であっても,血管影かじん肺による粒状影か否かの区別は,エックス線写真の場合と同様に,当該粒状影の色(濃度),形及び出現箇所などを基に判断する必要がある。 原告等に対する管理区分の決定・労災保険給付の支給決定等ア管理区分決定手続について(別紙9原告等の個別事情の各原告等の「2 管理区分決定及び合併症等の認定」欄の証拠及び弁論の全趣旨) 管理区分決定の手続は,前提事実じん肺管理区分制度等に記載のとおりである。 原告等は,別紙9原告等の個別事情の各原告等の「2 管理区分決定及び合併症等の認定」記載のとおり,管理区分決定を受けた。 原告等は,被告らにおいて常時粉じん作業に従事していた間,管理区分が管理1である者は3年ごと,管理2である者は毎年,定期健康診断(じん肺健康診断)を受診しており,粉じん作業に従事していなくとも,被告らを退職するまで,管理区分が管理2である者は3年ごと,定期健康診断を受診していた。また,退職時には離職時健康診断を受診していた。原告等の中で管理2以上の管理区分決定を受けた後に上記健康診断でじん肺の罹患を否定された者はいない。なお,原告等のうち管理3の管理区分決定を受けた者で,その後も被告らに継続して勤務していた者はいない。 上記健康診断が実施されると,その た後に上記健康診断でじん肺の罹患を否定された者はいない。なお,原告等のうち管理3の管理区分決定を受けた者で,その後も被告らに継続して勤務していた者はいない。 上記健康診断が実施されると,その都度,エックス線写真及びじん肺健康診断の結果を証明する書面等が,労働局長に提出され,労働局長は,これらを基礎として,地方じん肺診査医の診断又は審査により,再度,管理区分の決定を行っていた(じん肺法12条,13条2項)。原告等のうち,一度,管理2以上の管理区分決定を受けた後,より軽度の管理区分に変更された者はいない。 イ合併症等の決定手続について別紙9原告等の個別事情の各原告等の「2 管理区分決定及び合併症等の認定」記載のとおり,原告等のうち一部の者は,続発性気管支炎又は原発性肺がんに罹患したことを理由とする療養・休業補償給付の支給決定を受け,あるいは,原発性肺がんに罹患した旨の診断を受け,また,じん肺により死亡したことを理由とする遺族補償給付の支給決定がされている。 原告等のうち法定合併症の罹患を理由とする休業補償給付等支給決定を受けた者は,療養開始から1年6か月経過後は,所轄労働基準監督署長に対し,毎年,傷病の名称,部位及び状態を記載した報告書を,これらの事項に関する医師の診断書を添えて提出している(労災保険法施行規則19条の2)。 原告等の中で法定合併症の罹患を理由とする休業補償給付等支給決定を受けた後,その支給を中止された者はいない。 管理区分決定の証拠としての評価じん肺法は,じん肺に関し,適正な予防及び健康管理その他必要な措置を講ずることにより,労働者の健康の保持その他福祉の増進に寄与することを目的とするものであり(同法1条),本来,じん肺法による管理区分の決定によって,債務不履 ,適正な予防及び健康管理その他必要な措置を講ずることにより,労働者の健康の保持その他福祉の増進に寄与することを目的とするものであり(同法1条),本来,じん肺法による管理区分の決定によって,債務不履行責任による損害を立証することを想定しているものではない。 しかしながら,じん肺法の管理区分制度は,管理1はじん肺の所見のないものとし,じん肺の所見がある者については管理2ないし4に区分し(同法4条2項),その区分に従って事業者が実施すべき健康診断の内容を定め(同法7条ないし9条の2),また,管理2又は管理3イである労働者について,事業者は,粉じんにさらされる程度を低減させるため,就業場所の変更,粉じん作業に従事する作業時間の短縮その他の適切な措置を講ずるように努めなければならないとされている(同法20条の3)など,管理区分によって事業者に課される義務が区分されていることからして,管理区分制度においては,当該労働者の客観的状況を正確に把握して管理区分の決定が行われることが必要とされていることは明らかである。そして,管理区分の決定手続は,じん肺法及び同法施行規則並びにじん肺診査ハンドブックに定められ,その具体的内容は前提事実記載のとおりであって,健康診断の実施方法及び判定方法が具体的 に定められており,また,その過程に複数の医師を関与させ,一般の医師によるじん肺健康診断の段階に加え,相当な学識経験を有する医師のうちから任命された地方じん肺診査医の診断・診査の段階でも,医学的な観点からの検討を経ることとされている。また,管理区分制度は,その判定に用いられるじん肺診査ハンドブックについて数度の改訂を経て,その時点での知見や研究成果を踏まえたものへと改められつつ(甲A9,乙43,弁論の全趣旨),じん肺法が昭和35年に施行されて以降, その判定に用いられるじん肺診査ハンドブックについて数度の改訂を経て,その時点での知見や研究成果を踏まえたものへと改められつつ(甲A9,乙43,弁論の全趣旨),じん肺法が昭和35年に施行されて以降,50年以上運用されてきている。 このような管理区分制度の目的,決定手続の内容,運用状況等に照らすと,管理区分制度における管理区分の決定手続は,じん肺罹患の有無及びその病状の程度を判断する方法として一般的な合理性を有するものと評価することができるから,その手続に従って決定された管理区分の決定についても,当該対象者のじん肺の罹患の有無及びその程度を適切に評価した結果であることにつき高度の信用性を有すると認めることができる。したがって,管理区分の決定がされた場合には,当該管理区分に相当するじん肺に罹患している事実が強く推認されるものといえ,これを覆すに足りる反証がされない限り,当該事実を認めるのが相当である。 じん肺罹患の有無及びその程度を判断するに当たっての胸部CT写真の評価被告らは,原告等の多くについて,胸部CT写真を考慮した結果,じん肺罹患の事実がない,あるいは,より軽度のじん肺に罹患しているにすぎない旨主張する。 そこで,個々の原告等について検討する前提として,以下,じん肺罹患の有無及びその程度を判断するに当たっての胸部CT写真の位置付けについて検討する。 ア先に認定したとおり,管理区分の決定手続は,じん肺法及び同法施行規則並びにじん肺診査ハンドブックなどに詳細に定められている。そこでは,対象者のエックス線写真(直接撮影による胸部全域のエックス線写真)の像を4段階の型に区分し, その結果を踏まえて管理区分を決定すると定められている一方,胸部CT写真については直接言及されていない。 イしかしながら,先 よる胸部全域のエックス線写真)の像を4段階の型に区分し, その結果を踏まえて管理区分を決定すると定められている一方,胸部CT写真については直接言及されていない。 イしかしながら,先に認定したとおり,エックス線写真は,3次元的な胸部の構造を2次元で投影したものであり,正画像では前後方向に重なりあった画像となり,フィルムの持つ特性として濃度分解能(コントラスト分解能)にも限界がある一方,CT写真は重なり像ではなくスライス像であること,濃度分解能が高いことから,血管影と区別して粒状影,不整形陰影,線維化に伴う気腫化などの病変を検出するのに有用である。その結果,特にじん肺所見の有無の判断,すなわち12階尺度における0/1と1/0の境界領域の診断において,胸部CT写真が有用である旨指摘されている。 管理区分の決定に用いられる標準フィルムにはCT写真は取り入れられていなかったものの,平成23年に整備された標準写真集については,①標準画像を選定する際にCT写真も勘案されていること,②症例の少ない型等,胸部エックス線写真のみでは医師間の判断のばらつきが大きくなる可能性が想定されるものについて参考とする趣旨から胸部CT写真が掲載されていることなどに照らせば,標準フィルム整備後にCT撮影が普及してきたことも踏まえ,現時点においては,管理区分の決定手続上も,じん肺罹患を判断するに当たってのCT写真の有用性自体は肯定されているといえる。 ウもっとも,先に認定したとおり,CT写真は,不連続性の横断面による部分的な情報の欠落が存在し,また,その使用機種や撮影条件等によってその画像の表現が異なるものとなり,適切な条件を設定しないと粒状影等が画像上に映し出されないこともあり得るところ,エックス線写真については,じん肺診査ハンドブックなどにお 使用機種や撮影条件等によってその画像の表現が異なるものとなり,適切な条件を設定しないと粒状影等が画像上に映し出されないこともあり得るところ,エックス線写真については,じん肺診査ハンドブックなどにおいて,じん肺の診断をするに当たり最も望ましい装置・撮影条件等や,デジタル写真 を用いる場合の撮影条件又は画像処理条件等が指定されているのに対し,胸部CT写真については,装置,撮影条件(スライス厚の設定など),保存方法,モニターの性能及び条件などにつき統一的なルールが策定されるには至っていない(標準写真集の電子媒体版に収録されている胸部CT写真もどのような条件で撮影・保存されたものであるのか明らかになっていない。)。また,前記認定のとおり,胸部CT写真においても,血管影かじん肺による粒状影か否かの区別は,当該粒状影の色(濃度),形及び出現箇所などを基に,読影する各医師の評価的な判断によるところが多分にあるというべきである。 エ以上検討したように,CT写真については,じん肺罹患を判断するに当たって,有用性があるものの,問題点もあり,また,数度の改訂を経ている管理区分の決定手続においても,基本的にはエックス線写真によってじん肺罹患の有無等を判断するという手法に変更はなく,類型的に胸部エックス線写真のみでは医師間の判断のばらつきが大きくなる可能性が想定される場合について参考としてCT写真を用いることとされていることからすると,現時点においては,CT写真の読影の結果は,エックス線写真のみでは医師間の判断のばらつきが大きくなる可能性がある場合における調整的な資料としての意義が認められているというべきである。したがって,相当な条件等によって撮影されたCT写真の読影結果は,管理区分の決定に対する反証として常に大きな証拠価値を有するものであると る調整的な資料としての意義が認められているというべきである。したがって,相当な条件等によって撮影されたCT写真の読影結果は,管理区分の決定に対する反証として常に大きな証拠価値を有するものであるとまではいえないものの,類型的に,エックス線写真の読影結果について医師間の判断のばらつきが大きくなる可能性がある事案について,CT写真を使用することなく,エックス線写真のみを資料として決定された管理区分の決定に対する反証としては,相当程度の証明力を有するものと解するのが相当である。 そして,先に認定したように神岡鉱山は遊離けい酸含有率が比較的低い鉱山であるところ,遊離けい酸含有率が低い粉じんを吸入した場合のじん肺(混合粉じん性じん肺あるいは非典型けい肺と分類される。)のエックス線写真上に顕出する粒状影の特徴は,通常のけい肺に比べて淡く,濃度が低くなるため,原告等に認められる粒状影も比較的薄く淡いものが多いという特徴がある(証人C1医師)。このため,エックス線写真による読影では血管影と粒状影との区別が困難な場合がある。標準写真集においても,別紙5標準写真集一覧表に記載のとおり,陰影の種類がその他の陰影に分類されているエックス線写真にはいずれもCT写真が添付されている。これらの点からすると,神岡鉱山において粉じんを吸入したことによるじん肺の罹患の有無及びその程度の判定は,類型的に,胸部エックス線写真のみでは医師間の判断のばらつきが大きくなる可能性が想定される場合に該当すると認められる。 したがって,原告等が最新の管理区分の決定を受けるまでに当該決定の資料としてCT写真が使用されていない場合においては,CT写真の読影結果は,当該管理区分の決定に対する反証として相当程度の証明力を有することになる。 個々の原告等についての判断 決定の資料としてCT写真が使用されていない場合においては,CT写真の読影結果は,当該管理区分の決定に対する反証として相当程度の証明力を有することになる。 個々の原告等についての判断ア ①原告A26,亡B1,原告A27,原告A21,原告A24,原告A1,原告A15,原告A28(以下「原告A26ら」という。),②原告A29,原告A2,原告A30,原告A16,原告A3,原告A31,原告A4,原告A32(以下「原告A29ら」という。),③原告A33,原告A34,原告A22,原告A35,原告A36(以下「原告A33ら」といい,原告A26ら,原告A29ら及び原告A33らを併せて「原告等(CT関係)」という。)について原告等(CT関係)は,別紙1管理区分等一覧表記載のとおり,いずれも管理2(胸部エックス線写真の像は第1型)の管理区分の決定を受けているが,被告ら は,C2医師らの鑑定意見を根拠に,原告等(CT関係)の胸部エックス線写真の像は第0型であり,じん肺に罹患しているとは認められない旨主張する。 C2医師らの鑑定意見の詳細は別紙8C2医師らの鑑定意見に記載のとおりであり,①原告A26らについて,いずれも最新の胸部エックス線写真の小陰影の区分が0/1であり,最新の胸部CT写真にじん肺に相応する陰影は認められないとして,じん肺所見なし(0/0)と判断し,②原告A29らについては,いずれも最新の胸部エックス線写真の小陰影の区分が0/0である上,最新の胸部CT写真にじん肺に相応する陰影は認められないとして,じん肺所見なし(0/0)と判断し,③原告A33らについては,いずれも最新の胸部エックス線写真の小陰影の区分が0/1であり,最新の胸部CT写真にごくわずかに粒状影が認められるが,第1型には至らないとして,第0型(0 )と判断し,③原告A33らについては,いずれも最新の胸部エックス線写真の小陰影の区分が0/1であり,最新の胸部CT写真にごくわずかに粒状影が認められるが,第1型には至らないとして,第0型(0/1)と判断している。。 まず,C2医師らによる上記意見のうち胸部エックス線写真の読影結果について検討すると,C2医師らによる原告等(CT関係)の胸部エックス線写真の読影結果が管理区分決定手続における読影結果と異なるというだけでは,上記において説示した管理区分の決定の高度の信用性を合理的に疑わせるに足るものではないというべきである。 次に,C2医師らが,原告等(CT関係)の胸部CT写真にじん肺に相応する陰影がない,あるいは,ごくわずかな陰影しかないことから,第1型ではないと判断している点について検討する。 a 原告等(CT関係)が最新の管理区分の決定を受けた日は,それぞれ別紙1管理区分等一覧表の最新管理区分決定日欄記載の日であるところ,いずれの原告等(CT関係)についても平成23年3月に標準写真集が整備されるより以前であり,その管理区分の決定にはCT写真は使用されていないものと認められる。 したがって,神岡鉱山において粉じんを吸入した原告等(CT関係)の胸部エックス線写真の像が第0型か第1型かは,類型的に,医師による判断にばらつきが生じ得る場合であり,最新の管理区分決定を受けるまでに管理区分の決定の資料としてCT写真が使用されていない場合に該当するから,相当な条件等によって撮影されたCT写真の読影結果は,管理区分決定に対する反証として相当程度の証明力を有し得ることになる。 b そこで,C2医師らが読影した原告等(CT関係)の胸部CT写真について検討すると,検討対象とした肺野条件の胸部CT写真は,原告A26らのう る反証として相当程度の証明力を有し得ることになる。 b そこで,C2医師らが読影した原告等(CT関係)の胸部CT写真について検討すると,検討対象とした肺野条件の胸部CT写真は,原告A26らのうち,原告A26については,平成23年1月19日にナチュラルクリニック21おいて肺がん,肺結核の所見の有無を調べるために撮影された29枚のCT写真であり(乙B1の1の2,1の2),亡B1については,平成15年2月4日に飛騨市民病院(当時の名称は神岡町病院)において撮影された39枚のCT写真であり(乙B4の1の2,4の2),原告A27については,平成23年2月4日にナチュラルクリニック21において肺がん,肺結核の所見の有無を調べるために撮影された29枚のCT写真であり(乙B16の1の2,16の2),原告A21については,平成23年1月4日にナチュラルクリニック21おいて肺がん,肺結核の所見の有無を調べるために撮影された29枚のCT写真であり(乙B17の1の2,17の2),原告A24については,平成23年1月12日にナチュラルクリニック21において肺がん,肺結核の所見の有無を調べるために撮影された29枚のCT写真であり(乙B21の1の2,21の2),原告A1については,平成22年1月12日にナチュラルクリニック21において肺がん,肺結核の所見の有無を調べるために撮影された29枚のCT写真であり(乙B23の1の3,23の2の2),原告A1 5については,平成23年1月17日にナチュラルクリニック21において肺がん,肺結核の所見の有無を調べるために撮影された29枚のCT写真であり(乙B24の1の2,24の2),原告A28については,平成23年2月28日に高山赤十字病院において撮影された59枚のCT写真である(乙B38の1の2,38の2)。 に撮影された29枚のCT写真であり(乙B24の1の2,24の2),原告A28については,平成23年2月28日に高山赤十字病院において撮影された59枚のCT写真である(乙B38の1の2,38の2)。 また,原告A29らのうち,原告A29については,平成21年2月4日にナチュラルクリニック21において肺がん,肺結核の所見の有無を調べるために撮影された29枚のCT写真であり(乙B13の1の3,13の2),原告A2については,平成22年7月29日に高山赤十字病院において撮影された59枚のCT写真であり(乙B28の1の2,28の2),原告A30については,平成22年10月5日に高山赤十字病院において撮影された60枚のCT写真であり(乙B29の1の2,29の2),原告A16については,平成22年1月19日に高山赤十字病院において撮影された60枚のCT写真であり(乙B30の1の2,30の2),原告A3については,平成22年9月27日に高山赤十字病院において撮影された59枚のCT写真であり(乙B31の1の2,乙B31の2),原告A31については,平成22年8月11日に高山赤十字病院において撮影された59枚のCT写真であり(乙B34の1の2,34の2),原告A4については,平成22年9月10日に高山赤十字病院において撮影された59枚のCT写真であり(乙B35の1の2,35の2),原告A32については,平成23年3月29日に飛騨市民病院において撮影された42枚のCT写真である(乙B36の1の2,36の2)。 そして,原告A33らのうち,原告A33については,平成23年1月12日にナチュラルクリニック21において肺がん,肺結核の所見の有無を確認するために撮影された29枚のCT写真であり(乙B10の1の2,10の2),原告A34については,平成22年 ,平成23年1月12日にナチュラルクリニック21において肺がん,肺結核の所見の有無を確認するために撮影された29枚のCT写真であり(乙B10の1の2,10の2),原告A34については,平成22年7月29日に高山赤十字病院において撮影された59枚の CT写真であり(乙B11の1の2,11の2),原告A22については,平成10年3月31日に神岡鉱山病院において撮影された4枚のCT写真であり(乙B18の1の2,18の3),原告A35については,平成22年8月31日に高山赤十字病院において撮影された59枚のCT写真であり(乙B19の1の2,19の2),原告A36については,平成22年8月25日に高山赤十字病院において撮影された59枚のCT写真である(乙B26の1の2,26の2)。 上記によれば,亡B1及び原告A22を除き,C2医師らが読影した原告等(CT関係)の胸部CT写真は,撮影目的や撮影枚数が異なるものの,いずれも相応の規模及び設備を有する病院において,肺がん所見の有無等何らかの医学上の理由があって撮影されたものであり,その撮影枚数(スライス厚)にも極端な違いはなく,いずれも肺野条件で撮影されたものであり,証拠上,その設備や撮影技術等が不適切なものであったことを窺わせる事情は認められないこと(C2医師ら及びC1医師も,上記各胸部CT写真の撮影条件等が不適切であり,粒状影の有無を当該CT写真から読影するには適さない旨の指摘はしていない。)などからすれば,相当な条件等によって撮影されたCT写真であると認められる。なお,C1医師は,別紙7C1医師の鑑定意見記載のとおり,原告A34の平成22年7月29日撮影の胸部CT写真について,縦隔条件と肺野条件の中間のようなものになっており,粒状影が非常に見にくい条件となっていると述べている 7C1医師の鑑定意見記載のとおり,原告A34の平成22年7月29日撮影の胸部CT写真について,縦隔条件と肺野条件の中間のようなものになっており,粒状影が非常に見にくい条件となっていると述べているが,上記胸部CT写真は撮影条件としては肺野条件で撮影されたものであり(乙B11の1の2),また,C1医師自身,読影に適さないとまでは指摘していないことなどから,相当な条件等によって撮影されたCT写真であると認められる。 c 亡B1のCT写真について,C1医師は,別紙7C1医師の鑑定意見記載のとおり,亡B1の平成15年2月4日撮影の胸部CT写真(乙B4の1の2)は,気管支 陰影が二重になっており,ぶれて写っていることから,呼吸がしっかりと止まっておらず,粒状影のような微細な陰影について,具体的に指摘するには適さないものであると適切な指摘している。この点について,被告らは,上記CT写真が読影に適するものであることについて何らの説明もしていないので,亡B1の上記CT写真については,相当な条件等によって撮影されたCT写真であると認めることはできない。 そうすると,亡B1については,管理区分の決定に基づき管理2に相当するじん肺に罹患していると推認されることに対する反証は認められないことになるから,同人は管理2に相当するじん肺に罹患していると認められる。 d 原告A22のCT写真はその撮影枚数が他の原告等のCT写真と比較して極端に少なく(スライス厚は厚い。),このような条件によって撮影されたCT写真の読影によって胸部内の粒状影の有無等がどの程度正確に把握できるのか疑問があるところ,被告らは,この点についての説明を何らしていないので,原告A22のCT写真については,相当な条件等によって撮影されたCT写真であると認めることはできない。 に把握できるのか疑問があるところ,被告らは,この点についての説明を何らしていないので,原告A22のCT写真については,相当な条件等によって撮影されたCT写真であると認めることはできない。 そうすると,原告A22については,管理区分の決定に基づき管理2に相当するじん肺に罹患していると推認されることに対する反証は認められないことになるから,同人は管理2に相当するじん肺に罹患していると認められる。 なお,原告らは,C1医師の鑑定意見を根拠として原告A22は管理区分の決定を超えて管理3イ相当のじん肺に罹患している旨の主張をしている。原告A22の最新の管理区分決定日は昭和54年2月とかなり以前であり,その後に,じん肺の症状が進んだ可能性もあるが,原告A22の最新の胸部エックス線写真(平成22年8月31日撮影。乙B18の1の1)について,C1医師がその粒状影について第2型(2/2)と読影するのに対し,C2医師らは,第0型(0/1)と読影しており,その 評価は分かれており,C1医師の鑑定意見によって原告A22が管理区分の決定を超えて管理3イ相当のじん肺に罹患していたと認めるには足りない。 eC2医師らは,上記したように,原告A26ら及び原告A29らの胸部CT写真にはじん肺に相応する陰影は認められないとし,原告A33らの胸部CT写真にはごくわずかに粒状影が認められるが,第1型には至らないとしている。これに対し,C1医師は,別紙7C1医師の鑑定意見記載のとおり,原告等(CT関係)の胸部CT写真には,第1型あるいはそれ以上に相当する粒状影が認められるとしている。 先に指摘したように,CT写真の読影についても,血管影かじん肺による粒状影か否かの区別は,当該粒状影の色(濃度),形及び出現箇所などを基に読影する必要があり,読影する医師の められるとしている。 先に指摘したように,CT写真の読影についても,血管影かじん肺による粒状影か否かの区別は,当該粒状影の色(濃度),形及び出現箇所などを基に読影する必要があり,読影する医師の評価的な判断によるところが多分にあり,医師によって判断が異なることはあり得るところではある。C2医師らも,C1医師も,いずれも相当数のじん肺患者を診察し,管理区分の決定手続にも長く携わっており,それぞれ十分な技量と見識を身に付けている医師であるところ,C2医師らは,管理区分の決定手続についてCT写真を積極的取り入れる立場にあり,一方,C1医師は,管理区分の決定は,じん肺診査ハンドブックに従ってエックス線写真の読影によって決められるとして,CT写真を管理区分の決定において重要視しない立場にある(証人C2医師,証人C1医師)。そして,その立場の違いから,管理区分の決定との関係から胸部CT写真を読影することに関する経験については,C2医師らとC1医師との間には有為的な差があると認められ,C2医師らは,胸部CT写真の読影によって,血管影とじん肺による粒状影とを区別すること等を意識的に行っており,CT写真において粒状影のように見える画像があっても,血管影を追っていき,粒状影のように見える影が血管影と重なっているか否かによって区別できる等と合理的な指摘をしており(証人C2医師),CT写真の読影結果については,C 2医師らの読影結果に信用性を認めることができる(なお,C2医師らの鑑定意見は,被告らの依頼に基づくものではあるが,別紙8C2医師らの鑑定意見記載のとおり,管理区分においては第2型とされている原告A19について第4型相当であると原告らに有利な意見を述べるなどしており,C2医師らが医学的見地を離れて,被告らに有利な意見を述べているとは認め 載のとおり,管理区分においては第2型とされている原告A19について第4型相当であると原告らに有利な意見を述べるなどしており,C2医師らが医学的見地を離れて,被告らに有利な意見を述べているとは認められない。)。 fC2医師らの原告等(CT関係)(ただし,亡B1及び原告A22を除く。以下同じ。)の胸部CT写真の読影結果に照らせば,管理区分の決定に際しエックス線写真の読影によって粒状影であると認められたものが,粒状影ではなく血管影などであった可能性が高いといえる。 そして,別紙3エックス線写真像の分類に記載のとおり,第1型と判定されるためには,両肺野にじん肺による粒状影又は不整形陰影が少数あることが必要とされているのであって,先に認定したように原告等(CT関係)について相当数撮影された胸部CT写真にじん肺による粒状影が認められないか,認められる場合もごくわずかでしかないという読影結果からすれば,原告等(CT関係)の両肺野にじん肺による粒状影又は不整形陰影が認められるとして,管理2と決定されたことの信用性に合理的な疑いを生じさせるといわざるを得ない。 g 原告等(CT関係)のうち多くの者については,管理区分の決定手続において肺機能障害があるとされ,あるいは続発性気管支炎に罹患していると認められている。 管理区分の決定手続において,肺機能障害があることが管理2と決定するための要件とはされておらず,肺機能障害があると認められるからといって,胸部CT写真の読影によって生じた合理的な疑いを払拭して,原告等(CT関係)が管理2に相当するじん肺に罹患していると認めることはできない(管理1に至らない程度の胸部内の線維結節性変化によっては,肺機能障害が生じないとはいえない。)。 続発性気管支炎については,管理区分制度においては,じ 罹患していると認めることはできない(管理1に至らない程度の胸部内の線維結節性変化によっては,肺機能障害が生じないとはいえない。)。 続発性気管支炎については,管理区分制度においては,じん肺と合併した肺結核その他のじん肺の進展経過に応じてじん肺と密接な関係があると認められる疾病である合併症とされており,続発性気管支炎と認定されるためには少なくとも管理2と決定されていることが必要とされている。しかしながら,続発性気管支炎は,医学上の病名ではなく,法律上の概念であって,続発性気管支炎に罹患していると認められるためには管理2以上の決定を受ける必要があるとされているのも,じん肺法上の要件であり,医学的にみて,続発性気管支炎に類する症状(1年のうち3か月以上毎日のように咳と痰がある)がある以上は,管理2に相当するじん肺に罹患しているといえるわけではない。 そうすると,原告等(CT関係)に肺機能障害がある者や,続発性気管支炎の認定を受けている者があることを考慮しても,先に指摘した,原告等(CT関係)が管理2に相当するじん肺に罹患していると認めることについての合理的な疑いを払拭することはできない。 したがって,原告等(CT関係)が,管理区分の決定どおり管理2に相当するじん肺に罹患していると認めることはできない。 h もっとも,先に指摘したように,CT写真にも問題点はあり,CT写真によってじん肺罹患を診断するに当たっての適切な装置,撮影条件(スライス厚の設定など),保存方法,モニターの性能及び条件などの統一的なルールが未だ策定されておらず,その条件によって胸部内にある粒状影がどの程度写し出されるかが左右される面があることからすると,CT写真上,粒状影が写っていないか,写っていてもごくわずかであるという読影結果から,原告等(CT関 ,その条件によって胸部内にある粒状影がどの程度写し出されるかが左右される面があることからすると,CT写真上,粒状影が写っていないか,写っていてもごくわずかであるという読影結果から,原告等(CT関係)にはそれを超える粒状影が存在しないということはできない。 これに加えて,原告等(CT関係)が長期間にわたって粉じん作業に従事し,粉じんにさらされていたこと,管理区分決定手続によって,幾度も管理区分2以上の決定を受け,肺機能障害の認定や,続発性気管支炎に罹患していると認められていることなどを踏まえると,原告等(CT関係)の胸部エックス線写真上に認められる陰影が全て血管影ということまでは考えられず,原告等(CT関係)については,上記のとおり管理2相当のじん肺に罹患していたとまではいえないものの,粉じんを吸入したことによって一定程度の線維結節性変化が生じていると認めるのが相当である。 i なお,原告らは,原告等(CT関係)のうち,原告A21,原告A24及び原告A1については,C1医師の鑑定意見を根拠として管理区分決定を超えて管理3イ相当のじん肺に罹患している旨主張するものと解されるが,上記に判示したところによれば採用できない。 イ原告A18について原告A18は,管理2の管理区分決定を受けているが,最新の胸部エックス腺写真の小陰影の区分が第2型(2/2又は2/1)であること,同人にじん肺による著しい肺機能障害がないことについては,当事者間で争いがなく,管理3イ相当のじん肺に罹患していると認められる。 ウ原告A14について原告A14については,管理3イ(胸部エックス線写真の像は第2型)の管理区分の決定を受けているが,被告らは,C2医師らの鑑定意見を根拠に,胸部エックス線写真の像は第1型であり,管理2相当のじん肺に 原告A14については,管理3イ(胸部エックス線写真の像は第2型)の管理区分の決定を受けているが,被告らは,C2医師らの鑑定意見を根拠に,胸部エックス線写真の像は第1型であり,管理2相当のじん肺にすぎない旨主張する。 別紙1管理区分等一覧表記載のとおり,原告A14が最新の管理区分の決定を受けたのは平成21年12月7日であり,平成23年3月に標準写真集が整備されるより以前であり,その管理区分の決定にはCT写真は使用されていないものと認められ る。したがって,相当な条件等によって撮影されたCT写真の読影結果は,管理区分決定に対する反証として相当程度の証明力を有し得ることになる。 C2医師らが読影した原告A14の胸部CT写真は,平成20年9月7日に高山赤十字病院において撮影された34枚のCT写真であり(乙B9の1の2,9の2),先に検討した原告等(CT関係)のCT写真と同じく相当な条件等によって撮影されたものと認められる。 C2医師らのCT写真の読影結果は,別紙8C2医師らの鑑定意見に記載のとおり,少数の粒状影のみが認められ,第2型には至らないとして,第1型(1/1)と判断している。先に検討したようにC2医師らのCT写真の読影結果については信用性が認められることからすると,管理区分の決定に際しエックス線写真の読影によって粒状影であると認められたものは,粒状影ではなく血管影などであった可能性が高いといえ,原告A14が管理3イに相当するじん肺に罹患していることについての合理的な疑いを生じさせるものである。 原告A14は,別紙9原告等の個別事情記載のとおり,法定合併症として続発性気管支炎及び原発性肺がんの労災認定を受けている。しかしながら,先に検討したところからすれば,続発性気管支炎との認定を受けているからといって,管理3イに相 個別事情記載のとおり,法定合併症として続発性気管支炎及び原発性肺がんの労災認定を受けている。しかしながら,先に検討したところからすれば,続発性気管支炎との認定を受けているからといって,管理3イに相当するじん肺に罹患しているとはいえない。また,原発性肺がんについても,じん肺法上,管理2以上の決定を受けていれば合併症として認められ,管理3イであることが認定の要件となっているものではなく,また,医学的にみて,原発性肺がんの症状がある以上は,管理3イに相当するじん肺に罹患しているといえるわけではない。原告A14が続発性気管支炎及び原発性肺がんと認定されていることをもって,同人が管理3イに相当するじん肺に罹患していることについての合理的な疑いを払拭することはできない。 したがって,原告A14については,管理3イ相当のじん肺に罹患していると認めることはできず,管理2相当のじん肺に罹患していると認められるにとどまる。 エ原告A19及び亡B2について原告A19及び亡B2については,いずれも管理2の管理区分決定を受けているが,①最新の胸部エックス腺写真の読影の結果,大陰影A(陰影が一つの場合には,その最大径が1㎝を超え5㎝までのもの。数個の場合には,個々の影が1㎝以上で,その最大径の和が5㎝を超えないもの。(大陰影の大きさが一側の肺野の3分の1を超えるものではない。))がみられること,②著しい肺機能障害がないことについては当事者間で争いがない。したがって,同人らについては,管理3ロ相当のじん肺に罹患していることが認められる。 オ原告A20,原告A37及び原告A17について原告A20,原告A37及び原告A17は,管理2の管理区分決定を受けており,同人らが管理2相当のじん肺に罹患していた事実は,当事者間で争いがなく認めら 原告A20,原告A37及び原告A17について原告A20,原告A37及び原告A17は,管理2の管理区分決定を受けており,同人らが管理2相当のじん肺に罹患していた事実は,当事者間で争いがなく認められる。 カ原告A23について 原告A23は管理2の管理区分決定を受けているが,被告らは,C2医師らの鑑定意見を根拠に,じん肺への罹患を否定する。C2医師らの鑑定意見は,別紙8C2医師らの鑑定意見に記載のとおりであるが,原告A23の最新の胸部エックス線写真及び胸部CT写真では不整形陰影が全肺に多数認められるが,じん肺の所見として典型的ではなく,じん肺の進行経過としても早すぎる点で典型的ではない上,じん肺以外の疾患の関与が強く疑われるため,間質性肺炎を含めた他の疾患(自己免疫疾患等)との鑑別を要するというものである。 そこで検討すると,証拠(甲B20の3,乙B20の2)によれば,原告A23は,昭和53年から昭和61年にかけて継続的に神岡鉱山病院で検査を受け,昭和53年から昭和55年まで第0型(0/1)の判定を受けたが,昭和54年7 月1日には第1型(1/0)と判定され,昭和58年6月15日には第1型(1/1),昭和61年6月18日には第1型(1/2)と判定されていること,被告らを退職した後も,平成17年7月20日,平成19年1月9日及び平成23年1月7日撮影の胸部エックス線写真についていずれも粒状影につき1/1との診断をされていることが認められる。 このように複数の医師によって繰り返し,管理区分決定と同じ判定がされていることに照らせば,C2医師らの鑑定意見のみから直ちに管理区分決定の内容や手続を合理的に疑わせるに足るものではないというべきである。したがって,原告A23については,管理2相当のじん肺に罹患して ることに照らせば,C2医師らの鑑定意見のみから直ちに管理区分決定の内容や手続を合理的に疑わせるに足るものではないというべきである。したがって,原告A23については,管理2相当のじん肺に罹患していることが認められる。 原告らは,C1医師の胸部エックス線写真の読影結果を根拠に,原告A23が管理3イ相当のじん肺に罹患している旨主張するものと解されるが,これを裏付ける証拠はC1医師の意見しかなく(C2医師らは,上記エックス線写真について異なる読影結果を述べている。),原告A23が最新の管理区分決定を受けた日が昭和61年8月30日(別紙1管理区分等一覧表)とかなり以前であることを考慮しても,管理区分の決定を超えた程度のじん肺に罹患していると認めるには足りない。原告らの主張は採用できない。 キ亡B3について亡B3は,管理2の管理区分決定を受けていたが,最新の胸部エックス腺写真の小陰影の区分が第2型であること,同人にじん肺による著しい肺機能障害がないことという限度では当事者間に争いがなく認められる。したがって,亡B3については,管理3イ相当のじん肺に罹患していたことが認められる。 原告らは,C1医師の胸部エックス線写真の読影結果に基づき管理3ロ又は管理4相当のじん肺に罹患している旨主張するものと解されるが,これを裏付ける証拠 はC1医師の鑑定意見しかなく(C2医師らはこれと異なる意見を述べている。),亡B3が最新の管理区分決定を受けた日が平成3年12月17日(別紙1管理区分等一覧表)とかなり以前であることを考慮しても,管理区分の決定を超えた程度のじん肺に罹患していると認めるには足りない。原告らの主張は採用できない。 ク亡B4について亡B4は,管理2の管理区分決定を受けており,少なくとも同人が管理2相当 分の決定を超えた程度のじん肺に罹患していると認めるには足りない。原告らの主張は採用できない。 ク亡B4について亡B4は,管理2の管理区分決定を受けており,少なくとも同人が管理2相当のじん肺に罹患しているという限度では,当事者間で争いがなく認められる。 原告らは,C1医師の胸部エックス線写真の読影結果に基づき亡B4が管理3相当のじん肺に罹患していた旨主張するものと解されるが,これを裏付ける証拠はC1医師の鑑定意見しかなく(C2医師らはこれと異なる意見を述べている。),最新の管理区分決定を受けた日が平成22年3月19日であること(別紙1管理区分等一覧表)などを踏まえると,原告らの主張は採用できない。 ケ亡B5について亡B5は,管理3イの管理区分決定を受けており,同人が管理3イ相当のじん肺に罹患していた事実は,当事者間で争いがなく認められる。 以上によれば,各原告等が罹患しているじん肺等の程度については,別紙認容額等一覧表の「じん肺等」欄記載のとおりである。 3 じん肺による健康被害・合併症等の有無)について続発性気管支炎の罹患についてア労災保険給付の支給決定の証拠としての評価前提事実において認定したとおり,管理区分手続上,管理2又は3の決定を受け,法定合併症の認定を受けていない者から労災保険給付支給の請求があった場合,労働基準監督署において,管理区分決定通知書又はその写し,粉じん職歴,管理区分,決 定の根拠となったじん肺健康診断結果等を確認し,合併症に係る審査を行うとされ,この場合には,原則として地方じん肺診査医の意見に基づいて判定することとされている。また,管理区分手続上,管理2又は3とされ,法定合併症の認定を受けた者から請求があった場合は,上記と同様の事項を確認し の場合には,原則として地方じん肺診査医の意見に基づいて判定することとされている。また,管理区分手続上,管理2又は3とされ,法定合併症の認定を受けた者から請求があった場合は,上記と同様の事項を確認し,健康診断を行った日に当該合併症が発病したものとみなすとされているが,この場合には,管理区分手続上,一般の医師と地方じん肺診査医による法定合併症への罹患の有無に係る判断が示されている。 このように法定合併症による労災保険給付の支給決定には,その過程に複数の医師が関与して医学的な観点からの検討を経て判定されている。そして,その判定に用いられるじん肺診査ハンドブックには,法定合併症の詳細な要件・認定手続が定められ,数度の改訂を経て,その時点での知見や研究成果を踏まえたものへと改められており,管理区分の決定と同様,一般的に医学的な合理性を有するものというべきである。 このような手続に照らすと,合併症による労災保険給付の支給決定がされたという事実は,当該法定合併症の罹患を強く推認させるというべきであり,当該推認を覆すに足りる反証がなされない限り,支給決定の時点での法定合併症への罹患の事実を認めるのが相当である。 イ個々の原告等に係る認定前記認定のとおり,原告等のうち別紙1管理区分等一覧表の「法定合併症」欄に続発性気管支炎と記載されている者(原告等(続発性気管支炎))は,いずれも,続発性気管支炎の罹患により療養・休業補償給付支給決定を受けている。また,原告等(続発性気管支炎)については,療養開始から1年6か月を経過した後は,毎年の定時報告として,医師の診断書等を提出しているが (労働災害補償保険法施行規則19条の2),現在まで労災保険給付の支給が中止された者はおらず,原告等(続発性気管支炎)については,支給決定を受けた時点から 医師の診断書等を提出しているが (労働災害補償保険法施行規則19条の2),現在まで労災保険給付の支給が中止された者はおらず,原告等(続発性気管支炎)については,支給決定を受けた時点から現在に至るまで,継続的に続発性気管支炎に罹患していることが推認される。 これに対して,被告らは,C2医師らの鑑定意見を根拠として,続発性気管支炎の認定のための要件として,3か月以上間を空けて2回以上の喀痰検査を行わなければ,客観的に3か月以上毎日のように咳と痰があることは確認できないが,原告等(続発性気管支炎)についてこれに従った検査はされていない旨主張する。 a そこで検討するに,上記のとおり,じん肺診査ハンドブックの内容は一般的に医学的な見地から合理性を有するといえる上,続発性気管支炎は医学上の疾病ではなく,じん肺法上の概念であるから,続発性気管支炎への罹患の判定においては,具体的な患者の状態が,じん肺診査ハンドブックに規定する続発性気管支炎の診断基準を満たすか否かという点が重要である。 b じん肺診査ハンドブックは,精密検査を必要とする者について,問診で実施される胸部臨床検査の自覚症状の調査において「1年のうち3か月以上毎日のように咳と痰がある」と認められた者で自覚症状・他覚的所見等から罹患が疑われる者としているところ,「1年のうち3か月以上毎日のように咳と痰がある」ことを確認するため,被告らが主張するように喀痰検査を,最低3か月以上間隔を空けて2回以上実施する必要があるとは定めておらず,また,労災保険給付の支給決定手続において,そのような検査を必要とする運用も全国的には行われていない(別紙9原告等の個別事情記載のとおり原告等(続発性気管支炎)が,最低3か月以上間隔を空けて2回以上喀痰検査を実施していないことは明らかであるが, うな検査を必要とする運用も全国的には行われていない(別紙9原告等の個別事情記載のとおり原告等(続発性気管支炎)が,最低3か月以上間隔を空けて2回以上喀痰検査を実施していないことは明らかであるが,特段問題とされることなく,労災保険給付の支給決定がされている。)。そもそも,「1年のうち合計して3か月以上毎日のよ うに咳と痰がある。」ことを,完全に客観的に確認することは極めて困難であり(3か月以上間隔を空けて喀痰検査をしたとしても,各検査の間に同様の症状であったことは客観的に裏付けられない。),結局は,患者の自覚症状をもとに診断しなければならない部分があるといえる。 c これらの事情に照らせば,じん肺診査ハンドブックは,問診等に基づき,「1年のうち3か月以上毎日のように咳と痰がある」と認められる患者については,必ずしも複数回の喀痰検査を行わなくとも,続発性気管支炎と認定し得るものとしているというべきであるから,上記被告らの主張は,採用することができない。 また,被告らは,原告等(続発性気管支炎)について,喀痰細菌検査が実施されておらず,抗生剤も処方されていない,あるいは,マクロライド系抗生剤の少量長期処方が継続されている一方で,異なる種類の抗生剤の上乗せ処方がほとんどされておらず,担当医が患者の気道感染のコントロールに苦慮していたとは考え難く,続発性気管支炎が治癒していたのか,あるいは,そもそも罹患していなかったと考えられる旨主張する。 しかしながら,証拠(甲A77,80,87,92,100,証人C1医師)及び弁論の全趣旨によれば,続発性気管支炎の治療については統一的な治療方針があるわけではないこと,医師ごとに治療方針が異なり得ること,対症療法が中心となり,抗生剤の投与が必須とはいえないこと,マクロライド系抗生剤の効果に ば,続発性気管支炎の治療については統一的な治療方針があるわけではないこと,医師ごとに治療方針が異なり得ること,対症療法が中心となり,抗生剤の投与が必須とはいえないこと,マクロライド系抗生剤の効果についても評価が分かれることが認められ,これらの事情に照らせば,被告らが指摘する点は,原告等(続発性気管支炎)が続発性気管支炎に罹患しているとの推定を覆すには不十分である。 しかも,先に認定したとおり,いずれの原告等(続発性気管支炎)も,療養開始から1年6か月を経過した後は,毎年の定時報告として,医師の診断書等を提出してお り,その中で喀痰検査がされているが,労災保険給付の支給が中止されていないことからしても,原告等(続発性気管支炎)に関する検査結果はいずれも続発性気管支炎の診断基準を満たしているものというべきであるから,被告らの指摘する事情を考慮したとしても,上記認定を覆せない。 以上に述べたところによれば,原告等(続発性気管支炎)のうち,亡B1,原告A18,原告A14,原告A19,原告A20,亡B2,原告A22,原告A23,亡B3,亡B4,原告A37,原告A17及び亡B5については,いずれも労災保険給付の支給決定を受けた時点で続発性気管支炎に罹患し,現在も罹患していると認めるのが相当である。 他方で,原告等(続発性気管支炎)のうちその余の者らは,前記判示のとおり,いずれも管理2相当のじん肺に罹患しているとは認められないため,続発性気管支炎に罹患しているとはいえない。もっとも,同人らについては,続発性気管支炎に係るそれ以外の診断基準は満たしており,前記判示のとおり,粉じんを吸入したことによって一定程度の線維結節性変化が生じていることに照らせば,それに伴う続発性気管支炎に類する症状が生じていると認めることができる。 基準は満たしており,前記判示のとおり,粉じんを吸入したことによって一定程度の線維結節性変化が生じていることに照らせば,それに伴う続発性気管支炎に類する症状が生じていると認めることができる。 原発性肺がんの罹患について原告A14,亡B2,亡B3及び亡B4がじん肺の法定合併症である原発性肺がんに罹患し,あるいは,死亡時まで罹患していたことについては,被告らは積極的に争っておらず,関係証拠(甲B9の4・9・13,15の9・10,27の3・4,37の4・9・10,乙B27の2の3,乙B37の2の4)に照らしても上記原告等が原発性肺がんに罹患していたと認められる。 なお,被告らは,上記原告等の喫煙歴の影響を指摘するが,後述のとおり,それは過失相殺等で考慮されるべき事情である。 じん肺死についてア亡B1について亡B1については,管理2の管理区分決定及び続発性気管支炎に罹患したことを理由とする療養・休業補償支給決定を受けており,その後,じん肺を原因として死亡したものとして遺族補償給付の支給決定がされている。これらの事実に照らせば,同人が,じん肺を原因として死亡したものであることが認められる。 被告らは,48年間に及ぶ喫煙歴が影響している旨主張するが,上記労災保険給付支給決定による推認を覆すに足りる事実とはいえず,被告らの主張は採用できない。 イ亡B2,亡B3及び亡B4について亡B2,亡B3及び亡B4は,上記のとおり,じん肺の合併症である原発性肺がんに罹患していたものであり,その後,じん肺を原因として死亡したものとして遺族補償給付の支給決定がされている。かかる事実に照らせば,同人らがじん肺による肺がんを原因として死亡したものであることが認められる。 被告らは,亡B3について,診療を受 して死亡したものとして遺族補償給付の支給決定がされている。かかる事実に照らせば,同人らがじん肺による肺がんを原因として死亡したものであることが認められる。 被告らは,亡B3について,診療を受けていた担当医の過失によって肺がん罹患が発覚しなかったものであり,肺がん罹患と同人の死亡との間に相当因果関係が認められない旨主張する。 しかしながら,同医師の上記過失を認めるに足りる証拠はない。また,亡B3が罹患していた肺がんは同人を死に至らしめる危険性の高い疾病であり,それが被告らの安全配慮義務違反及びそれを原因とするじん肺に起因して生じたものである以上,仮に被告らの主張するように当該病院の過失によって肺がんの発見が遅れたのだとしても,相当因果関係は否定されない。 ウ亡B5について 亡B5は,オージキンリンパ腫によって死亡し,遺族補償給付の支給決定はされていない。 原告らは,直接の死因はオージキンリンパ腫であっても,じん肺のために肺がひどく悪化していたため,リンパ腫の治療に必要な薬を十分に投与することができなかったとして,じん肺死であると主張しているが,じん肺のために十分な投薬ができなかったという点に関しては,原告A13が担当医師から説明を受けたという旨の陳述書(甲43の9)しかなく,医学的な裏付けはなく,また,同陳述書によれば,担当医師は「じん肺でなくなったとは言いませんが」と述べていたというのであるから,同陳述書によっても,亡B5がじん肺を原因として死亡したと認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。 したがって,原告らの上記主張は,採用することができない。 以上によれば,各原告等のうち,別紙認容額等一覧表の「法定合併症等」欄に記載のある者については,同欄記載の法定合併症等に罹患しており, したがって,原告らの上記主張は,採用することができない。 以上によれば,各原告等のうち,別紙認容額等一覧表の「法定合併症等」欄に記載のある者については,同欄記載の法定合併症等に罹患しており,同表の「じん肺死」欄に記載のある者については,じん肺が原因で死亡したものである。 なお,原告らは,平成26年1月30日の第24回口頭弁論期日において,原告等がじん肺及びその合併症に罹患していることに係る証拠を提出したところ,これに対し,被告らは,時機に後れた攻撃防御方法に当たり,却下すべきであると主張する。しかし,上記各証拠の有無によって,先に判示した結論が異なるものではなく,同期日において弁論終結をしていること(当裁判所に顕著な事実)からすると,これにより訴訟の完結を著しく遅延させたものでもないから,時機に後れた攻撃防御方法とは認められない。 の有無)について 被告らは,原告等が労災保険給付等を相当程度受給していることを,慰謝料額算定の上で十分考慮するべきである旨主張する。 そこで,この点について検討すると,別紙11労災保険給付等一覧表記載のとおり,同表記載の原告等について,「受給額」欄記載の額が,「補償給付等」欄記載の給付として支払われたことが認められる。 労災保険給付等は,特定の損害について必要額を填補するために支給されるものであるから,休業補償等によってじん肺に罹患して休業せざるを得なくなったことに伴う休業損害や,遺族補償等によってじん肺によって死亡した原告等が被った逸失利益等の財産的損害は,労災保険給付等を支給されることにより一定程度填補されたものと認められる。 原告らの本件における請求は,生命,身体,人格及び財産等一切に生じた損害を慰謝料に含ませて慰謝料名目で総額として包括的に請求するいわゆ を支給されることにより一定程度填補されたものと認められる。 原告らの本件における請求は,生命,身体,人格及び財産等一切に生じた損害を慰謝料に含ませて慰謝料名目で総額として包括的に請求するいわゆる包括的一律請求であり,財産的損害を被ったことも慰謝料の一事情としているのであるから,上記のように原告等が被った財産的損害が労災保険給付等によって一定程度で填補されて減少している以上,その事実は慰謝料額を減額する一事情として斟酌するのが相当である。 5 争点2 (損害額)について これまでに述べたように,じん肺の基本的な病像,特に線維増殖性変化に伴う病変は進行性,不可逆性のものであって,それが重篤化して死に至る転帰を辿る場合もあり,その精神的・肉体的苦痛は大きいといえる。そして,管理区分制度の趣旨等に鑑みると,損害額は,基本は管理区分に応じて評価すべきであるが,法定合併症に罹患し,さらにはじん肺死した場合の損害は,管理区分相当のじん肺に罹患しているのみの場合と比べて質的に異なるものといえること(なお,原発性肺がんは, 他の法定合併症に比して死に至る危険が高いというべきであるから,他の合併症とは区別して考えるべきである。),他方で,合併症がある場合及びじん肺死した場合については労災保険給付等が支給されていることも考慮(療養・休業補償給付等支給決定日の違い等から原告等が支給を受けた給付額には違いがあるが,原告らの請求がじん肺に罹患したことを理由とする包括的一律請求であることから,労災保険給付を受けたことによる考慮も,給付額による個別的な考慮ではなく,合併症等の場合には労災保険給付によって財産的損害が一定程度填補される制度となっていること自体を考慮するものとする。)すると,原告等の損害額(慰謝料)は,次のとおり評価すべきで 個別的な考慮ではなく,合併症等の場合には労災保険給付によって財産的損害が一定程度填補される制度となっていること自体を考慮するものとする。)すると,原告等の損害額(慰謝料)は,次のとおり評価すべきである。なお,原告等には,肺機能障害があると認められている者もあるが,管理区分制度において肺機能障害があること自体は合併症とされておらず,療養を要する障害ともされていないことから,包括的一律請求である本件においては,肺機能障害の有無によって原告等の損害額に差を設けないものとした。 ア管理2で合併症がない場合 900万円イ管理2で合併症(原発性肺がんを除く。)がある場合 1300万円ウ管理3で合併症がない場合 1400万円エ管理3で合併症(原発性肺がんを除く。)がある場合 1800万円オ原発性肺がんの罹患 2300万円カじん肺死 2500万円前記判示のとおり,原告等(CT関係)については,管理2相当のじん肺に罹患するに至っているとまでは認められないものの,粉じんの影響による肺の線維化が生じており,今後じん肺の症状が顕れる可能性が否定できないことなどに照らすと,このような人体への被害や具体的な健康被害については,損害が発生しているということができ,これを評価すると,続発性気管支炎に類する症状が生じていない者については350万円,同症状が生じている者については500万円と認めるのが相当である。 以上によれば,各原告等に生じた上記損害額(慰謝料額)は,別紙認容額等一覧表の「慰謝料(過失相殺前)」欄に記載のとおりであると認められる。第 0万円と認めるのが相当である。 以上によれば,各原告等に生じた上記損害額(慰謝料額)は,別紙認容額等一覧表の「慰謝料(過失相殺前)」欄に記載のとおりであると認められる。第 8 争点3(被告らが連帯責任を負うか否か)についての当裁判所の判断 これまでに判示したところによれば,原告等のうち,被告ら双方の下(下請会社も含む。)で粉じん作業に従事した原告A26,亡B1,原告A18,原告A14,原告A27,原告A21,原告A15,原告A36,亡B3,原告A4,原告A28及び原告A17(以下「原告等(被告ら勤務)」という。)に対しては,被告らが原告等(被告ら勤務)を粉じん作業に従事させていた期間,すなわち被告三井金属が昭和61年6月30日までの期間について,被告神岡鉱業が同年7月1日以降の期間について,それぞれ安全配慮義務を負っており,これを尽くしていなかったものと評価される。 他方で,その余の原告等(以下「原告等(三井金属勤務)」という。)は,被告神岡鉱業の従業員となる前に退職しているから,同人らに対しては,被告三井金属のみが安全配慮義務を負い,これを尽くしていなかったものと評価される。 原告らは,被告神岡鉱業の実質は被告三井金属の神岡鉱業所というべき存在であり,両者は,実質的に同一の存在であるから,原告等(三井金属勤務)を含む原告等のじん肺罹患についての債務不履行責任を共同して負う旨主張する。 しかしながら,仮に原告らが指摘するとおり,被告三井金属が被告神岡鉱業を分離して神岡鉱山を経営させてきたこと,被告三井金属が被告神岡鉱業の株式を全て保有していること,被告三井金属の従業員が被告神岡鉱業の役員に就任していることなどが認められるとしても,これらをもって被告神岡鉱業の法人格を否定することはできず,被 井金属が被告神岡鉱業の株式を全て保有していること,被告三井金属の従業員が被告神岡鉱業の役員に就任していることなどが認められるとしても,これらをもって被告神岡鉱業の法人格を否定することはできず,被告らが実質的に同一の存在であるということはできない。 したがって,被告らが実質的に同一の存在であることを理由に債務不履行責任を共同して負うと解することはできない。 また,原告らは,民法719条1項後段の類推適用により,原告等のじん肺罹患について連帯して債務不履行責任を負うべきである旨主張するため,以下,この点について検討する。 民法719条1項後段は,被害者の救済を図るため,複数の加害者につき,それぞれ因果関係以外の点では独立の不法行為の要件が具備されている場合において,被害者に生じた損害が加害者らの行為のいずれか又はこれが競合して発生したことは明らかであるが,現実に発生した損害の一部又は全部がそのいずれによってもたらされたかを特定することができないときには,発生した損害と加害者らの各行為との因果関係の存在を推定する規定であり,この場合には,加害者らの側で自己の行為と発生した損害との間の一部又は全部に因果関係がないことを主張,立証しない限り,その責任の一部又は全部を免れることができないことになる。 そして,本件は,契約上の付随義務の不履行に基づく責任が問題となっている事案であるが,その債務は,いずれも債権者の生命又は身体を保護することを目的とするものであり,因果関係以外の点で債務不履行に基づく損害賠償責任の要件を充足する場合であって,かつ,債権者を救済する必要のあることは不法行為の場合と異ならない。 したがって,本件における債務不履行に基づく損害賠償責任についても,民法719条1項後段を類推適用するのが相当 る場合であって,かつ,債権者を救済する必要のあることは不法行為の場合と異ならない。 したがって,本件における債務不履行に基づく損害賠償責任についても,民法719条1項後段を類推適用するのが相当である。 以上を前提に,以下,本件について検討する。 ア前記認定のとおり,原告等(被告ら勤務)は,それぞれ,被告ら又はその下請会社との間で雇用契約を締結し,粉じん作業に従事していたものであり,被告三井金属が昭和61年6月30日まで,被告神岡鉱業が同年7月1日からの期間につ いて,それぞれ安全配慮義務を尽くしていなかったものと評価される。そして,これまでに判示したところによれば,被告らの各安全配慮義務違反は,じん肺への罹患(管理2相当のじん肺にまで至らない肺の線維化を含む。),続発性気管支炎や原発性肺がんなどの合併症(肺の線維化に伴う続発性気管支炎に類する症状も含む。),これらを原因とする死亡などの損害を,単独あるいは相互に影響し合ってもたらし得るような危険性を有している。そして,弁論の全趣旨によれば,原告等(被告ら勤務)については,被告ら(その下請会社を含む。)以外の使用者の下で粉じん作業に従事した職歴はないのであるから,本件においては,原告等(被告ら勤務)に生じた損害が被告らの安全配慮義務違反のいずれか又はこれが競合して発生したことは明らかであるものの,現実に発生した損害の一部又は全部がそのいずれによってもたらされたかを特定することができない場合に当たるというべきである。 したがって,民法719条1項後段の類推適用に基づき,先に認定した原告等(被告ら勤務)の被った損害と,被告らの各安全配慮義務違反との間の因果関係が推定されるものというべきであり,これに対し,被告らは,自らの債務不履行だけでは症状発現の客観的危険性が 先に認定した原告等(被告ら勤務)の被った損害と,被告らの各安全配慮義務違反との間の因果関係が推定されるものというべきであり,これに対し,被告らは,自らの債務不履行だけでは症状発現の客観的危険性があるとまではいえない事実や,自己の寄与の程度の主張及び立証をしていない。 以上によれば,被告らは,原告等(被告ら勤務)の被った損害について連帯して賠償する責任を負う。 イ次に原告等(三井金属勤務)については,被告神岡鉱業に安全配慮義務違反の事実はなく,債務不履行行為自体がないため,民法719条1項後段を類推適用する前提を欠く。したがって,被告三井金属のみが損害賠償債務を負うものであり,被告神岡鉱業は損害を賠償する責任を負わない。 第9 争点4(過失相殺の有無)についての当裁判所の判断 喫煙による過失相殺の有無)について証拠(乙218ないし220,221の2,222の2,223の2,224の2,225の2,226の2,227の2,228の2,229ないし233,234の2,235,236の2)によると,平成14年10月1日に厚生労働省「肺がんを併発するじん肺の健康管理等に関する検討会」が公表した「肺がんを併発するじん肺の健康管理等に関する報告書」では,じん肺有所見者群の肺がんリスクの上昇をすべて喫煙による影響とすることはできないものの,一定程度の喫煙の影響が確認されていること,その他の研究及び文献においても,喫煙と肺がんとの関係を肯定するものが多数存在していることが認められ,これらの事情からすれば,喫煙が肺がん発症の危険性を相当程度高めるものであるという知見が確立しているというべきである。 そして,原告等は,いずれも管理2以上の管理区分決定を受けており,喫煙に係る知見が上記のとおり相当程度確立し がん発症の危険性を相当程度高めるものであるという知見が確立しているというべきである。 そして,原告等は,いずれも管理2以上の管理区分決定を受けており,喫煙に係る知見が上記のとおり相当程度確立していることに照らせば,原告等に対しては,少なくとも上記管理区分決定の前提となったじん肺健康診断において医師から禁煙指導がされていると認めるのが相当である。 このような事実関係のもとでは,管理2以上の管理区分決定を受けた後も,比較的長期間にわたって多量に喫煙し,その後,原発性肺がんを発症した者については,その損害を,被告らに全部賠償させるのは公平の見地から相当でなく,賠償額の算定に当たっては,民法418条を類推適用して,当該原告等の喫煙歴を考慮するのが相当であるというべきである一方,喫煙自体は嗜好として許容されていることからして,管理2以上の決定を受ける前に喫煙歴がある,あるいは,決定を受けた後に短期間の喫煙歴があるという事実のみをもって,賠償額を減額するのは相当ではない。 そして,管理区分決定後の喫煙期間及び喫煙量と,肺がん発症との具体的な相関性を 認定することはできないものの,上記認定した喫煙に係る知見等を踏まえると,管理2以上の管理区分決定を受けた後も,比較的長期間にわたって多量に喫煙し,その後,原発性肺がんを発症した者については,一律に損害額の1割を減額するのが相当である。 なお,証拠(乙115ないし126,181,185,187,188,証人C1医師,証人C2医師)によると,喫煙が肺機能障害に影響を及ぼすことを肯定する文献が多数存在していることは認められるが,先に検討したように本件においては肺機能障害の有無を損害額算定の要因として考慮していないので,喫煙が肺機能障害に与える影響による過失相殺を検討する必要はない。 多数存在していることは認められるが,先に検討したように本件においては肺機能障害の有無を損害額算定の要因として考慮していないので,喫煙が肺機能障害に与える影響による過失相殺を検討する必要はない。 原発性肺がんに罹患したと認められる原告A14,亡B2,亡B3及び亡B4のうち,亡B3を除く者については,別紙12過失相殺一覧表の各自の欄の「証拠」欄記載の証拠によって,「喫煙時期」欄記載の各期間に,1日平均して「1日当たりの平均喫煙本数」欄記載の本数を喫煙していたことが認められる。そして,同表の「初回管理区分決定日」欄記載の日に,管理2以上の管理区分決定を受けていることからすると,原告A14及び亡B2は,管理2以上の管理区分決定を受けた後も,比較的長期間にわたって多量に喫煙していた者というべきであるから,それぞれについて,損害額の1割を減額すべきことになる。一方で,それ以外の原告等については,喫煙を理由に損害額の減額をすべきではない。 2 争点4 (マスク不着用による過失相殺の有無)について前記判示のとおり,防じんマスクを着用して作業をすると,打合せ等に支障が出たり,作業中息苦しさを伴うなど,常時着用するには困難な事情があったことが認められる。その上,原告等がじん肺罹患防止のために,防じんマスクを常時着用することがとりわけ重要であるということについて十分認識しておらず,その要因として,被 告らの定期的・計画的な安全衛生教育の実施や指導の徹底が不十分であったこともあることに照らすと,原告等が,上記事情を理由として作業中にやむを得ず防じんマスクを着用しなかったことをもって,損害の減額事由として考慮することは相当でないというべきである。被告らは,保安係員等保安を指導・監督すべき地位にあった原告等については,他の原告等と異なり, じんマスクを着用しなかったことをもって,損害の減額事由として考慮することは相当でないというべきである。被告らは,保安係員等保安を指導・監督すべき地位にあった原告等については,他の原告等と異なり,過失相殺をすべきであると主張している。確かに,原告等のうちには,鉱山での安全管理などの業務を行う責任者となるための資格であって国家資格である保安技術職員の資格を取得し,保安係員に選任等された者がいる(乙27,237)。これらの者は保安技術職員の資格を取得している以上,防じんマスクの重要性を十分に理解していたといえるから,資格取得後の防じんマスクの不着用が原因でじん肺に罹患したのであれば,損害の公平な負担のために過失相殺をすべきであると言い得る。しかしながら,上記国家資格を取得した者も,その資格を取得する前に相当年数の粉じん作業に従事しており(別紙9原告等の個別事情),本件証拠上,これらの者がじん肺に罹患したことの原因が,国家資格取得前に従事した粉じん作業であるのか,同資格取得後に従事した粉じん作業であるのか,あるいは両者の複合によるものなのかは,いずれとも確定することはできない。そうすると,これらの者がじん肺に罹患した原因が国家資格取得前の粉じん作業にある可能性も否定することはできないから,上記国家資格を取得していたことを理由に過失相殺を認めるのは相当でない。したがって,被告らの主張は採用することができない。 3 以上によれば,原告等のうち別紙認容額等一覧表の「過失相殺の有無」欄に有(1割)と記載のある者については,同人に係る損害額の1割が減額される。 第10 争点5(消滅時効の成否)について 消滅時効の起算点はいつか)について 雇用契約上の付随義務としての安全配慮義務の不履行に基づく損害賠償請求権の消滅時効期 。 第10 争点5(消滅時効の成否)について 消滅時効の起算点はいつか)について 雇用契約上の付随義務としての安全配慮義務の不履行に基づく損害賠償請求権の消滅時効期間は,民法167条1項により10年と解され,同消滅時効は,同法166条1項により,損害賠償請求権を行使し得る時から進行するものと解される。そして,一般に,安全配慮義務違反による損害賠償請求権は,その損害が発生した時に成立し,同時にその権利を行使することが法律上可能となるというべきである。そこで,以下,損害が発生したと評価できる時期について検討する。 アまず,じん肺に罹患した事実は,その旨の行政上の決定(管理区分決定)がなければ通常認め難いから,じん肺に罹患したことによる損害は,じん肺の所見がある旨の最初の管理区分決定を受けた時に少なくとも損害の一端が発生したものということができる。しかしながら,その後のじん肺の病状進行について現在の医学では確定できないというじん肺の病変の特質に鑑みると,管理2から管理4の各管理区分決定に相当する病状に基づく各損害には,質的に異なるものがあるといわざるを得ず,重い管理区分決定に相当する病状に基づく損害は,その決定を受けた時に発生し,その時点からその損害賠償請求権を行使することが法律上可能となるものというべきである。 したがって,雇用者の安全配慮義務違反によりじん肺に罹患したことを理由とする損害賠償請求権の消滅時効は,最終の管理区分決定を受けた時(最重症の管理区分の決定を初めて受けた時)から進行するものと解するのが相当である(最高裁平 イこのことは,じん肺によって死亡した場合についても当てはまるというべきであり,じん肺によって死亡した場合の損害については,死亡の時から損害賠償請求権の消滅時効が進 が相当である(最高裁平 イこのことは,じん肺によって死亡した場合についても当てはまるというべきであり,じん肺によって死亡した場合の損害については,死亡の時から損害賠償請求権の消滅時効が進行すると解するのが相当である。なぜなら,その者が管理区分決定を受けている場合であっても,その後,じん肺を原因として死亡するか否か,その蓋然 性は医学的にみて不明である上,その損害は,管理2から管理4に相当する病状に基づく各損害とは質的に異なるものと解されるからである。したがって,死亡による損害は,その者が死亡した時に発生し,その時点からその損害賠償請求権の消滅時効が進行すると解するのが相当である。 ウそして,管理2又は管理3の行政上の決定を受け,その後,法定合併症に罹患していると認められた者については,合併症に罹患したことによる損害については,その認定を受けた時(労災認定を受けた時又はじん肺管理区分決定通知書において法定合併症の罹患が明らかにされた時のいずれか早い時点)から損害賠償請求権の消滅時効が進行すると解するのが相当である。なぜなら,その者が管理区分決定を受けている場合であっても,その後,法定合併症に罹患するか否か,その蓋然性は医学的にみて不明である上,法定合併症に罹患すると療養の対象とされ,労災保険給付が支給されているなど,同じ管理区分であっても,じん肺法又は労災保険法上の扱いが異なることからして,管理2から管理4に相当する病状に基づく各損害とは質的に異なるものと解されるからである。したがって,法定合併症に罹患したことによる損害は,その認定を受けた時(労災認定を受けた時又はじん肺管理区分決定通知書において法定合併症の罹患が明らかにされた時のいずれか早い時点)に発生し,その時点からその損害賠償請求権の消滅時効が進行 る損害は,その認定を受けた時(労災認定を受けた時又はじん肺管理区分決定通知書において法定合併症の罹患が明らかにされた時のいずれか早い時点)に発生し,その時点からその損害賠償請求権の消滅時効が進行すると解するのが相当である。 エまた,前記判示のとおり,原告等(CT関係)は,管理2相当の管理区分決定を受けたものの,管理2相当のじん肺に罹患しているとまで認めることはできない一方で,粉じんによる肺の線維結節性変化が一定程度生じている。そして,そのうちの一部の者については,かかる肺の線維結節性変化に伴い続発性気管支炎に類する症状を呈している。 上記粉じんによる肺の線維結節性変化については,行政上の認定(管理区分決定)を受けることによって初めて粉じんの吸入との関連性が認められたものであり,それがなければ粉じん吸入との関連性は通常認め難いから,管理2相当の管理区分決定を受けた時に損害が発生したものと解するのが相当である。 また,続発性気管支炎に類する症状については,単に粉じんによる肺の線維結節性変化が生じている状態との比較において,その健康被害の程度が大きく,質的に異なる程度に至っているということができる。そして,続発性気管支炎に類する症状に基づく損害が発生したといえるのは,続発性気管支炎の決定に相当する症状が発現したときであるが,これは事後的な行政上の決定(労災認定を受けた時又はじん肺管理区分決定通知書において法定合併症の罹患が明らかにされた時のいずれか早い時点)がなければ通常は認定し得ず,かかる行政上の決定を受けた時に損害が発生したと解するのが相当である。 オ原告ら及び被告らは,上記と異なる主張をしているが,いずれも採用することはできない。 カ以上を総合すると,本件損害賠償請求権の消滅時効は,①最終の管理 したと解するのが相当である。 オ原告ら及び被告らは,上記と異なる主張をしているが,いずれも採用することはできない。 カ以上を総合すると,本件損害賠償請求権の消滅時効は,①最終の管理区分決定を受けた時(最重症の管理区分の決定を初めて受けた時),②最終の行政上の決定を受けた後にじん肺法に定める法定合併症(これに類する症状も含む。以下同じ。)に罹患した場合は,法定合併症の行政上の認定を受けた時(労災認定を受けた時又はじん肺管理区分決定通知書において法定合併症の罹患が明らかにされた時のうちいずれか早い時点),又は,③じん肺を原因として死亡した場合は,死亡時を起算点として進行すると解するのが相当である。 前記認定のとおり,原告等が①最終の管理区分決定を受けた日は,別紙1管理区分等一覧表の「初回管理区分決定日」欄記載の日(ただし,原告A14については 平成21年12月7日,亡B5については昭和54年3月7日である。)であり,②法定合併症の行政上の認定を受けた日は,同表「療養・休業補償給付等支給決定日」欄記載の日であり,③じん肺を原因として死亡した日は,同表「死亡日」欄記載の日である(ただし,亡B5を除く。)。 そうすると,原告A1,原告A2,原告A3及び原告A4(以下「原告A1ら」という。)については,最終の管理区分決定あるいは法定合併症の行政上の認定を受けてから本件各訴訟を提起するまでに10年を経過しており,消滅時効が完成している。 他方で,それ以外の原告らについては,消滅時効期間は経過しておらず,消滅時効は完成していない。 2 被告らの消滅時効の援用が権利の濫用に該当するか否か)について被告らは,本件各事件の第1回口頭弁論期日において,消滅時効期間が経過している原告A1らに対し,上記消滅時効を援 いない。 2 被告らの消滅時効の援用が権利の濫用に該当するか否か)について被告らは,本件各事件の第1回口頭弁論期日において,消滅時効期間が経過している原告A1らに対し,上記消滅時効を援用する旨の意思表示をしている(当裁判所に顕著な事実)。 これに対し,原告らは,被告らがこれを援用することは権利の濫用に当たり,許されない旨主張し,その理由として,①専門的知識がない原告等において,損害賠償請求権が存することを認識することは極めて困難であったこと,②原告等がじん肺に関する十分な知識を持ち得なかったのは,被告らのじん肺教育の欠如等の義務懈怠によるものであり,また,被告らは,原告等に対して,管理区分決定の通知をしなかったことから権利行使が困難であったこと,③じん肺の被害が悲惨かつ深刻であり,救済の必要性が極めて高いことなどをあげる。 そこで検討するに,損害賠償請求権の消滅時効の援用が権利の濫用に当たるというには,債権者が訴え提起その他権利行使や時効中断のための措置を講じることを債務者において妨害等し,又は,妨害する結果となる行為に出た場合など,債務者が 消滅時効を援用することが社会的に許容された限界を逸脱するものとみられる場合に限られるものと解するのが相当である。 これを本件についてみると,①については,原告A1らが専門知識に欠けていた面があったとしても,証拠(甲B23の4・9,28の4・9,31の4・9,35の4・9)によると,遅くとも,原告A1は,続発性気管支炎の合併症の認定を受けた平成9年に,原告A2は,昭和59年の健康診断の結果,管理2の決定を受けたことを聞いた時に,原告A3は,昭和59年頃に管理2の決定を受けたことを聞いた時に,原告A4は,平成6年頃に,それぞれじん肺又は続発性気管支炎に罹患している 9年の健康診断の結果,管理2の決定を受けたことを聞いた時に,原告A3は,昭和59年頃に管理2の決定を受けたことを聞いた時に,原告A4は,平成6年頃に,それぞれじん肺又は続発性気管支炎に罹患していることを認識したことが認められ,上記時期から消滅時効が完成するまでは相当期間があり,時効完成までの間に,原告A1らが時効中断の措置を講ずることが特に困難であったと認めるに足りる証拠はない。また,②の点についても,被告らがじん肺教育を徹底していなかったことは,被告らの安全配慮義務違反を構成する事実ではあっても,これをもって,被告らにおいて,原告A1らが訴え提起その他権利行使や時効中断のための措置を講じることを妨げたとまではいえず,他に被告らが原告A1らの訴え提起その他権利行使や時効中断のための措置を講じることを積極的に妨げたような事実を認めるに足りる証拠はない。③についても,基本的には被告らの時効援用権の行使が濫用に当たることを基礎づけるに足る事実とはいえない。 以上によると,被告らにおいて,原告A1らの損害賠償請求権について消滅時効を援用することが,権利の濫用に当たるということはできない。 3 以上によれば,原告A1らの損害賠償請求権は,いずれも時効消滅している。 第11 弁護士費用及び遅延損害金 1 弁護士費用原告らが,その訴訟代理人らの弁護士に本件各事件の訴訟遂行を委任したことは明らかであるところ,本件各事件の訴訟の難易度,審理の経過,認容額等の事情を考慮 すると,原告らが訴訟代理人に支払うべき弁護士費用のうち,別紙認容額等一覧表の「弁護士費用」欄記載の金額が被告らの債務不履行と相当因果関係にある損害であると認めるのが相当である。 2 遅延損害金安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償債務は, 一覧表の「弁護士費用」欄記載の金額が被告らの債務不履行と相当因果関係にある損害であると認めるのが相当である。 2 遅延損害金安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償債務は,期限の定めのない債務であるから,民法412条3項により,債権者から履行の請求を受けたときに遅滞に陥ると解すべきである。 そうすると,遅延損害金の起算日は,基本的には被告らに本件各訴状が送達された日の翌日となり,甲事件が平成21年6月20日,乙事件が平成22年9月28日であることが記録上明らかである。もっとも,原告等が本件各事件の訴訟の途中に法定合併症の行政上の認定を受けた場合,あるいは,じん肺を原因として死亡した場合には,前記判示のとおり,それぞれ,その時点において新たに損害が発生したものと評価される。これらの損害に係る請求についても,当初の包括的一律請求に含まれていると解されるものの,各訴状送達時点では,損害が発生していないから,履行遅滞に陥っているということはできず,各損害が発生した日の翌日が遅延損害金の起算日となるものと解される。以上によれば,各原告の損害賠償請求権に係る遅延損害金の起算日は,それぞれ,別紙認容額等一覧表の「遅延損害金起算日」欄記載の各日である。 第12 結論以上によれば,原告らの請求は,別紙認容額等一覧表の「原告」欄記載の各原告のうち,同表「被告」欄に被告らと記載のある者については,それぞれ,被告らに対し,同表「認容額」欄記載の各金員及びこれに対する同表「遅延損害金起算日」欄記載の各日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度 で,また,同表「被告」欄に被告三井金属と記載のある者については,それぞれ,被告三井金属に対し,同表「認容額」欄記載の各金員及びこれに対する同表「遅延 よる遅延損害金の連帯支払を求める限度 で,また,同表「被告」欄に被告三井金属と記載のある者については,それぞれ,被告三井金属に対し,同表「認容額」欄記載の各金員及びこれに対する同表「遅延損害金起算日」欄記載の各日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。一方,原告A1らの請求にはいずれも理由がない。 よって,原告A1らを除く原告らの請求を上記の限度でそれぞれ認容してその余をいずれも棄却し,原告A1らの請求をいずれも棄却する。仮執行の免脱宣言については相当ではないので付さないものの,仮執行宣言は本判決送達後10日を経過したときにできることとして,主文のとおり判決する。 岐阜地方裁判所民事第1部 裁判長裁判官唐木浩之 裁判官平山俊輔 裁判官林敦子

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