主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告は,原告に対し,419万2570円及びこれに対する平成13年2月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は,被告に雇用されていて退職した原告が,被告に対し,退職金432万6200円及び特別退職金489万7770円の合計922万3970円から原告が既に退職金として受領している503万1400円を控除した419万2570円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成13年2月28日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案であり,被告は,原告に適用される退職金規定により計算した退職金は支払済みであるとして争っている。 2 争いのない事実(1) 被告は,土木一式工事,建築一式工事を業務目的とする株式会社であり,原告は,平成2年1月5日,年俸制の給与で被告に雇用された。 (2) 被告の就業規則50条は,「従業員の退職金に関する事項は,別に定める退職金規定による。」と規定しており,原告入社当時の退職金規定は,昭和49年7月1日改正の「退職金支給規定」(以下「旧退職金規定」という。)であった。 (3) 旧退職金規定3条は,退職金の計算方法について,「1.退職金は,退職又は解雇された当時の基礎額に,別表1に定める支給乗率を乗じて算出する。2.前1項でいう基礎額とは,月給社員の場合は基本給とする。但し,給与が年俸制で定められている者の基礎額は別に定める。」と規定していた。 (4) 旧退職金規定を受けた「年俸制従業員の退職金算定基礎額に関する内規」(以下「旧内規」という。)は,年俸者の退職金基礎額について,「年俸総額÷18×0.8」とすると定めていた。 (5) た。 (4) 旧退職金規定を受けた「年俸制従業員の退職金算定基礎額に関する内規」(以下「旧内規」という。)は,年俸者の退職金基礎額について,「年俸総額÷18×0.8」とすると定めていた。 (5) 旧退職金規定8条は,特別退職金の支給について,「1.第5条第(1)項:甲欄適用の事由により退職する者に対しては,第3条により算出した退職金のほか,特別退職金を支給する。2.特別退職金は,退職当時における基礎額(略)に別表2に定める支給乗率を乗じて算出した額とする。」と規定していた。 (6) 原告は,平成12年5月9日,満63歳の定年により,在職10年4か月で,被告を退職した。 (7) 原告は,被告から,503万1400円を退職金として既に受領している。 3 争点(1) 新退職金規定及び新内規の適用の有無ア被告の主張(ア) 被告は,平成3年10月1日,就業規則の定年条項について,従前の「第24条(定年) 従業員の定年は満58歳とし,定年に達した日の翌日から従業員としての身分を失う。但し,本人が希望した場合は定年後,改めて嘱託として雇用することができる。」との規定を「第19条(定年) 従業員の定年は満60歳とし,定年に達した日の翌日から従業員としての身分を失う。但し定年後改めて嘱託として再雇用することがある。」と改正した。 また,同改正に伴い,旧退職金規定の改正も行い,「第12条(定年延長に伴う退職金の取扱い) 1.平成3年10月1日付定年が58歳から60歳に延長することに伴い,退職金は58歳時の基礎額,並びに勤続年数にて計算し,退職日まで据置くものとする。2.措置に対する利率は年利5.5%で計算する。3.満58歳以上で自己都合退職するときは定年扱いとする。」との規定を追加し,同時に,旧内規を改正し,年俸者の退職金基礎額の算定について,「(基 とする。2.措置に対する利率は年利5.5%で計算する。3.満58歳以上で自己都合退職するときは定年扱いとする。」との規定を追加し,同時に,旧内規を改正し,年俸者の退職金基礎額の算定について,「(基本給+資格給)×年倍率÷(12ヶ月+5ヶ月)×0.9」の算式によることとした(以下「新内規」という。)が,同改正の算式による金額が,平成3年9月30日現在の算定基礎額より下回る場合は,その額を保障するとした。 そして,以上の改正について,従業員の意見を聴取し,従業員代表A(当時被告の全従業員が加入している工友会の会長職にあった者)による改正に異議のない旨の意見書を添付して改正された就業規則を労働基準監督署に届け出,また,改正内容については,各部門長で構成された「事業本部会議」と各職場長で構成された「職場連絡協議会」の席上で内容説明とともに関係書面が交付され,各職場ごとに口頭伝達若しくは書面の写しを配布して,周知がなされた。 なお,原告は,前記改正当時,開発部長であり,「事業本部会議」と「職場連絡協議会」のメンバーとして,両方若しくは一方の会議において,改正内容につき書面の交付と説明を受け,承知している。 (イ) 平成3年10月1日の旧退職金規定の改正は,58歳から60歳への定年延長に伴うものであり,退職金の計算に当たり58歳時の基礎額並びに勤続年数で計算することは,定年60歳までの2年間につき考慮しないことになり,一見不利益であるが,58歳から2年間延長して在籍できる利益と比較すると,総体的に従業員にとって利益である。しかも,定年延長を拒否し,従来の58歳定年で退職を希望する従業員については,「満58歳以上で自己都合退職するときは定年扱いとする」としており,従業員にとって従前の利益は何ら損なわれていない。また,内規による年俸社員の基礎額算定 58歳定年で退職を希望する従業員については,「満58歳以上で自己都合退職するときは定年扱いとする」としており,従業員にとって従前の利益は何ら損なわれていない。また,内規による年俸社員の基礎額算定方式を変更したが,この変更は,従前の算定方式が,基本給,資格給のほか,役職給と資格手当,通勤手当等の諸手当も含んだ年俸総額を基にしたもので,そもそも不合理であって,基本給のみを基礎額とする月給制従業員との間で不公平な扱いとなっていたものを是正するためであり,全従業員の立場からして合理的でかつ必要なものであったのであり,しかも,変更後の方式により基礎額が下回る従業員には,従前の額が保障されており,この点からも不利益はない。 (ウ) 被告は,平成9年4月1日,就業規則の定年条項について,前記19条を「第19条(定年) 従業員の定年は満60歳とし,定年に達した日の翌日から従業員としての身分を失う。但し別の定めによりこれを延長することがある。2.定年後改めて嘱託として再雇用することがある。」と改正した。 また,退職金規定も,前記12条を「第12条(定年延長に伴う退職金の取扱い) 1.平成3年10月1日付定年が58歳から60歳に延長することに伴い,退職金は58歳時の基礎額,並びに勤続年数にて計算し,退職日まで据置くものとする。又,定年を延長し60歳を超えるときも同様とする。2.据置期間(満58歳に達した日の属する月から定年に達する日の属する月の前月までの期間をいう)に対する利率は別の定めによる。但し,60歳定年を延長する期間は適用しない。3.満58歳以上で自己都合退職するときは定年扱いとする。」と改正した(以下「新退職金規定」という。)。 そして,以上の改正について,従業員の意見を聴取し,従業員代表C(当時の工友会会長)から特に異議のない旨の意見書を 都合退職するときは定年扱いとする。」と改正した(以下「新退職金規定」という。)。 そして,以上の改正について,従業員の意見を聴取し,従業員代表C(当時の工友会会長)から特に異議のない旨の意見書を取得し,それを添付して就業規則の届出をし,また,周知については,各担当役員,各部門長で構成された「支店長会議」の席上,改正内容の説明をして,出席者において各職場へ持ち帰り,従業員に伝達周知されている。 なお,原告は,前記改正当時,営業第2副本部長であり,「支店長会議」のメンバーとして会議に出席し,改正内容の説明を受け,承知している。 (エ) 平成9年4月1日の改正は,更に定年を延長できるとした改正にすぎず,従業員に何ら不利益を与えるものではない。なお,この改正の適用を受け,定年延長の利益を受けたのは,現時点では原告のみである。新退職金規定においては,60歳を超えた期間は据置期間に算入されないこととされた。この点一見不利益であるが,60歳を超えて定年が延長されることの条件にすぎず,従前と比べて不利益に変更したものではなく,特に定年延長の利益を享受し得る従業員に対する制限であって,合理的なものである。しかも,この点において異論ある従業員は,定年延長せず退職したとしても,従前の利益は守られるので,何ら不利益はない。 (オ) 以上によれば,平成12年5月9日に退職した原告に適用されるのは,平成9年4月1日改正の新退職金規定である。 イ原告の主張(ア) 被告主張の退職金規定及び内規の改正については,被告において,従業員の過半数を代表する者の意見聴取,労働基準監督署への届出,従業員に対する周知を欠いており,有効な改正があったということはできない。工友会は,被告と関連グループによって作られた,会員相互の親睦と互助並びに勤労の福祉を図るとともに会社の福利厚 督署への届出,従業員に対する周知を欠いており,有効な改正があったということはできない。工友会は,被告と関連グループによって作られた,会員相互の親睦と互助並びに勤労の福祉を図るとともに会社の福利厚生活動を担うことを目的とするいわゆる親睦団体であって,労働条件の変更に関して労働者の意見を集約する機能を有していない。原告は,退職金規定の交付はもちろん提示を受けたこともなく,説明を受けたこともない。以上によれば,新退職金規定及び新内規への改正は有効になされておらず,原告に適用されるのは旧退職金規定及び旧内規である。 (イ) 旧退職金規定及び旧内規を適用した結果と,新退職金規定及び新内規を適用した結果を比較すると,被告主張と原告主張の退職金基礎額の差は8万7692円であり,退職金金額は490万8381円もの大きな差を生じ,原告の既得権を著しく奪うものであって,労働者に極めて不利益な内容となっている。原告が新退職金規定の周知を受けていたならば,60歳以上は退職金がつかないから,定年延長は望まず,60歳で退職していた。定年制の延長は,国の労働行政の推進の過程で,公共職業安定所からの勧告でもあるが,これは,社会的経済的要請による経済秩序全体の変化であり,企業及び労働者ともに変化するものであって,労働者に利益というものではなく,利益を論ずるのであれば,企業にも利益である。したがって,新退職金規定及び新内規への改正は,一方的不利益変更として無効である。 (2) 原告が請求し得る退職金及び特別退職金の額ア原告の主張(ア) 原告の退職金基礎額は,旧内規に基づき,「年俸総額÷18×0.8」で算定されるものであり,原告が60歳から61歳であった平成10年4月1日から平成11年3月31日までの年俸は1102万円であるから,原告の退職金基礎額は,48万977 ,「年俸総額÷18×0.8」で算定されるものであり,原告が60歳から61歳であった平成10年4月1日から平成11年3月31日までの年俸は1102万円であるから,原告の退職金基礎額は,48万9777円(1102万円÷18×0.8)である。 被告は,前職分勤続給の控除を主張するが,旧内規の文言からいって,前職分勤続給を控除することが算式となっていないことは明白である。なお,被告は,被告が中央信託銀行と締結した「適格年金事務手続きによる覚書」に基づく適格年金を退職金支給の根拠とすべきと解釈しているが,同覚書は,被告と中央信託銀行との間で退職金の原資について取り決めたものであって,労働者との合意を定めたものではなく,労働者から見れば会社の内部文書にすぎないものである。労働者には退職金が支払われるのであって,被告と中央信託銀行との間の覚書による退職金の原資の運用とは関わりのないことである。 (イ) 退職金の支給乗率は,別紙の別表1の定年退職等の場合に適用される甲欄によれば,勤続年数満10年が8.4,満11年が9.7であるので,10年4か月の場合は,8.833(8.4+(9.7-8.4)×4/12)となり,原告の退職金は432万6200円(48万9777円×8.833)となる。 (ウ) 特別退職金の支給乗率は,別紙の別表2によれば,勤続年数が10年以上15年未満の者は,定年退職の5条①号の場合は10.0か月であるので,原告の特別退職金は489万7770円(48万9777円×10.0)となる。 (エ) 原告の退職金432万6200円及び特別退職金489万7770円の合計922万3970円から原告が既に受領している503万1400円を控除すると419万2570円が未払である。 (オ) 被告は,原告が平成10年10月1日以降は,月給社員となったのであるか 70円の合計922万3970円から原告が既に受領している503万1400円を控除すると419万2570円が未払である。 (オ) 被告は,原告が平成10年10月1日以降は,月給社員となったのであるから,年俸制従業員としての主張を維持できないと主張する。 しかし,原告は,平成2年1月5日,被告に入社し,平成10年9月30日までの8年9か月を年俸制従業員として,同年10月1日から平成12年5月9日まで1年7か月を月給社員として労働したものであり,身分変更があったとしても,少なくとも年俸制従業員として勤務した期間は,既得権として保障されなければならない。 そうすると,平成2年1月5日から平成10年9月30日までの年俸制従業員として勤務した期間の退職金は,勤続年数が8年9か月,退職金基礎額は,前記48万9777円,支給乗率は,別紙の別表1の定年退職等の場合に適用される甲欄によれば,勤続年数満9年が7.4,満8年が6.4であるので,8年9か月の場合は,7.15(6.4+(7.4-6.4)×9/12)となるので,350万1905円(48万9777円×7.15)となる。 また,特別退職金は,支給乗率が,別紙の別表2によれば,勤続年数が5年以上10年未満の者は,定年退職の5条①号の場合は7.0か月であるので,342万8439円(48万9777円×7.0)となる。 したがって,原告の年俸制従業員としての退職金と特別退職金の合計は,693万0344円(350万1905円+342万8439円)となる。 また,平成10年10月1日から平成12年5月9日までの月給社員として勤務した期間の退職金は,勤続年数が1年7か月,退職金基本給は,28万1650円,支給乗率は,別紙の別表1の定年退職等の場合に適用される甲欄によれば,勤続年数満2年が1.0,満1年が0.5 員として勤務した期間の退職金は,勤続年数が1年7か月,退職金基本給は,28万1650円,支給乗率は,別紙の別表1の定年退職等の場合に適用される甲欄によれば,勤続年数満2年が1.0,満1年が0.5であるので,1年7か月の場合は,0.792(0.5+(1.0-0.5)×7/12)となるので,22万3066円(28万1650円×0.792)となる。 また,特別退職金は,支給乗率が,別紙の別表2によれば,勤続年数が3年未満の者は,定年退職の5条①号の場合は2.0か月であるので,56万3300円(28万1650円×2.0)となる。 したがって,原告の月給社員としての退職金と特別退職金の合計は,78万6366円(22万3066円+56万3300円)となる。 以上によれば,原告の年俸制従業員としての退職金と特別退職金並びに月給社員としての退職金と特別退職金の合計は771万6710円(693万0344円+78万6366円)となり,旧退職金規定12条により,100円未満の端数は切上げとなるので,少なくとも771万6800円が退職金として保障されるべきである。 イ被告の主張(ア) 新退職金規定によれば,定年延長者である原告の退職金は,58歳時の基礎額並びに勤続年数にて計算し,退職日まで据え置かれ,また,新内規により,退職金算定基礎額については,「(基本給+資格給)×年倍率÷(12か月+5か月)×0.9」により算定される。 (イ) 退職金は信託銀行と契約した退職年金規定によって支払われるものであり,原告のような中途入社者については,「適格年金事務手続きによる覚書」にあるように,「基本給算定時に前職分の勤続給を基本給部分より控除し又,換算勤続年数も除いて登録するものとする」扱いがされており,かかる扱いは,原告入社以前から慣行として行われていたもので る覚書」にあるように,「基本給算定時に前職分の勤続給を基本給部分より控除し又,換算勤続年数も除いて登録するものとする」扱いがされており,かかる扱いは,原告入社以前から慣行として行われていたものであって,原告の前職分勤続給は,1年500円の割合により,前職分在籍期間29年として,1万4500円(500円×29年)となる。 (ウ) したがって,中途入社者について,「基本給」は前職分給与を控除した後の金額を意味し,原告の58歳時の基本給(ただし,前職分の勤続給を控除)は,26万3300円(基本給27万7800円-前職分勤続給1万4500円)となる。 (エ) 被告の年俸制従業員の基本年俸は,基本給と資格給の計に人事考課によるランク倍率を乗じて算定することになっており,原告の退職金基礎額は,58歳時の基本給(ただし,前職分の勤続給を控除)26万3300円,資格給19万7000円,人事考課によるランクBのランク倍率16.5に基づき,新内規により算定すると,40万2086円((26万3300円+19万7000円)×16.5÷(12か月+5か月)×0.9)となる。 なお,新内規によれば,新内規の方式による金額が旧内規の算定基礎額より下回る場合は,その額を保障するとされているが,原告の前職分勤続給は,前記のとおり1万4500円(500円×29年)であり,これを年俸換算すると,前記年倍率16.5を掛けて23万9250円(1万4500円×16.5)となり,平成3年9月時点での原告の年俸920万円から前職分勤続給23万9250円を控除することになる。そうすると,原告の平成3年9月30日現在の旧内規による退職金基礎額は,39万8256円((920万円-23万9250円)÷18×0. 8)となり,新内規の方式による金額40万2086円の方が上回るから,同額が適 告の平成3年9月30日現在の旧内規による退職金基礎額は,39万8256円((920万円-23万9250円)÷18×0. 8)となり,新内規の方式による金額40万2086円の方が上回るから,同額が適用されることになる。 (オ) 原告の58歳時(平成7年5月9日)の勤続年数は5年4か月であり,定年退職した原告の退職金の支給乗率は,別紙の別表1の甲欄によれば,勤続年数満5年4か月の場合は,3.733(3.4+(4.4-3.4)×4/12)であって,原告の退職金は150万0987円(40万2086円×3.733)となる。 (カ) 定年退職した原告の特別退職金の支給乗率は,別紙の別表2によれば,勤続年数が5年4か月の場合は7.0か月であるので,原告の特別退職金は281万4602円(40万2086円×7.0)となる。 (キ) したがって,原告の退職金150万0987円と特別退職金281万4602円の合計額は431万5589円であり,原告が既に受領済みの額は503万1400円であるから,全額支払済みである。 (ク) 旧退職金規定は,58歳定年を前提としたものであり,定年が延長されたからといって自動的に延長分も含め適用されるものではなく,原告の主張は根本的に誤っているものであるが,仮に,原告が主張するとおり,旧退職金規定及び旧内規が63歳の定年時において適用されるとすると,その退職金の額は以下のとおりとなる。 すなわち,原告は,退職時は役職者でなく,月給制の従業員で,その基礎額は基本給となる(旧退職金規定3条)。ただし,前記のとおり,原告のような中途入社者は,前職分にかかる勤続給を基本給から控除することになっているので,基礎額は,26万7150円(基本給28万1650円-前職分勤続給1万4500円)となる。 そして,退職金の支給乗率は,勤続年数が1 ,前職分にかかる勤続給を基本給から控除することになっているので,基礎額は,26万7150円(基本給28万1650円-前職分勤続給1万4500円)となる。 そして,退職金の支給乗率は,勤続年数が10年4か月の場合,8.833(8.4+(9.7-8.4)×4/12)であるから,原告の退職金は,235万9735円(26万7150円×8.833)となる。 また,特別退職金の支給乗率は,勤続年数が10年4か月の場合,10.0か月であるので,原告の特別退職金は,267万1500円(26万7150円×10.0)となる。 したがって,仮に旧退職金規定及び旧内規が63歳の定年時において適用されるとしても,原告の退職金235万9735円と特別退職金267万1500円の合計額は503万1235円であり,原告が既に受領済みの額503万1400円の方が上回っている。 第3 判断 1 争点(1)(新退職金規定及び新内規の適用の有無)について(1) 前記争いのない事実に後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。 ア被告の就業規則50条は,「従業員の退職金に関する事項は,別に定める退職金規定による。」と規定しているところ(甲1,4の2,5の2,6の2),昭和49年7月1日改正の原告入社当時の旧退職金規定3条は,退職金の計算方法について,「1.退職金は,退職又は解雇された当時の基礎額に,別表1に定める支給乗率を乗じて算出する。2.前1項でいう基礎額とは,月給社員の場合は基本給とする。但し,給与が年俸制で定められている者の基礎額は別に定める。」と規定し(乙2),旧退職金規定を受けた旧内規は,年俸者の退職金基礎額について,「年俸総額÷18×0.8」の算式で算定した金額とすると定めていた。 イまた,旧退職金規定8条は,特別退職金の支給につ 規定し(乙2),旧退職金規定を受けた旧内規は,年俸者の退職金基礎額について,「年俸総額÷18×0.8」の算式で算定した金額とすると定めていた。 イまた,旧退職金規定8条は,特別退職金の支給について,「1.第5条第(1)項:甲欄適用の事由により退職する者に対しては,第3条により算出した退職金のほか,特別退職金を支給する。2.特別退職金は,退職当時における基礎額(略)に別表2に定める支給乗率を乗じて算出した額とする。」と規定していた(乙2)。 ウ被告は,平成3年10月1日,就業規則の定年条項について,従前の「第24条(定年) 従業員の定年は満58歳とし,定年に達した日の翌日から従業員としての身分を失う。但し,本人が希望した場合は定年後,改めて嘱託として雇用することができる。」との規定を「第19条(定年) 従業員の定年は満60歳とし,定年に達した日の翌日から従業員としての身分を失う。但し定年後改めて嘱託として再雇用することがある。」と改正した(甲6の1,2,乙4,5,12)。 エ被告は,上記改正に伴って,旧退職金規定の改正も行い,「第12条(定年延長に伴う退職金の取扱い) 1.平成3年10月1日付定年が58歳から60歳に延長することに伴い,退職金は58歳時の基礎額,並びに勤続年数にて計算し,退職日まで据置くものとする。2.措置に対する利率は年利5.5%で計算する。3.満58歳以上で自己都合退職するときは定年扱いとする。」との規定を追加し,同時に,旧内規を改正し,「年俸者の退職金基礎額は,平成3年9月30日現在「年俸総額÷18×0.8」の算式で算定した金額となっているが,これには諸手当の総額を含み不合理であるので,下記の算式に改正し,以降その金額が平成3年9月30日現在の算定基礎額により下廻る場合は,経過措置としてその額を保証する。」と 定した金額となっているが,これには諸手当の総額を含み不合理であるので,下記の算式に改正し,以降その金額が平成3年9月30日現在の算定基礎額により下廻る場合は,経過措置としてその額を保証する。」と規定し,年俸者の退職金基礎額について,「(基本給+資格給)×年倍率÷(12ヶ月+5ヶ月)×0. 9」の算式で算定するものとした(甲2)。 オ旧退職金規定及び旧内規の上記改正については,当時工友会の代表であったAが,平成3年9月27日,被告の従業員代表として,同意した(乙7)。 工友会は,被告並びに関連グループ各社に所属する社員を会員とし,会員相互の親睦と互助,並びに勤労の福祉向上を図るとともに,会社の福利厚生活動を担うことを目的とする会であり,入社した日をもって入会したものとされ,社員の身分を喪失した日をもって退会とされるものである(甲11,12)。 被告としては,被告には労働組合がないので,従業員の団体である工友会の代表者の同意をもって従業員代表としての同意を得たものと考えたものである(証人B,乙12)。 そして,改正内容については,各部門長で構成された「事業本部会議」と各職場長で構成された「職場連絡協議会」の席上で内容説明とともに関係書面が交付され,各職場ごとに口頭伝達若しくは書面の写しを配布して,周知がなされた。原告は,前記改正当時,開発部長であり,「事業本部会議」と「職場連絡協議会」のメンバーであり,両方若しくはいずれかの会議において,改正内容につき書面の交付と説明を受け,承知している(証人B,乙12,17)。 カ平成3年10月1日の旧退職金規定の改正は,58歳から60歳への定年延長に伴うものであり,退職金の額が58歳時の基礎額並びに勤続年数で計算した額に据え置かれることになるが,定年が2年間延長されるのであり,しかも,定年延長 職金規定の改正は,58歳から60歳への定年延長に伴うものであり,退職金の額が58歳時の基礎額並びに勤続年数で計算した額に据え置かれることになるが,定年が2年間延長されるのであり,しかも,定年延長を拒否し,従来の58歳定年で退職を希望する従業員については,「満58歳以上で自己都合退職するときは定年扱いとする。」としており,従業員にとって従前の利益は何ら損なわれておらず,また,内規による年俸社員の退職金基礎額の算定方式も変更されているが,変更後の方式により基礎額が下回る従業員には,従前の額が保障されているのであるから,これらの変更をもって不利益変更ということはできない。 キ被告は,平成9年4月1日,就業規則の定年条項について,前記19条を「第19条(定年) 従業員の定年は満60歳とし,定年に達した日の翌日から従業員としての身分を失う。但し別の定めによりこれを延長することがある。2.定年後改めて嘱託として再雇用することがある。」と改正した(甲4の1,2,乙9)。 ク被告は,上記改正に伴って,前記退職金規定も改正し,前記12条を「第12条(定年延長に伴う退職金の取扱い) 1.平成3年10月1日付定年が58歳から60歳に延長することに伴い,退職金は58歳時の基礎額,並びに勤続年数にて計算し,退職日まで据置くものとする。又,定年を延長し60歳を超えるときも同様とする。2.据置期間(満58歳に達した日の属する月から定年に達する日の属する月の前月までの期間をいう)に対する利率は別の定めによる。但し,60歳定年を延長する期間は適用しない。3.満58歳以上で自己都合退職するときは定年扱いとする。」と改正した(乙1)。 ケ上記退職金規定の改正については,当時工友会の代表であったCが,平成9年3月28日,被告の従業員代表として,同意した(乙11)。 己都合退職するときは定年扱いとする。」と改正した(乙1)。 ケ上記退職金規定の改正については,当時工友会の代表であったCが,平成9年3月28日,被告の従業員代表として,同意した(乙11)。 そして,その改正内容については,各担当役員,各部門長で構成された「支店長会議」の席上,改正内容の説明がされ,出席者において各職場へ持ち帰り,従業員に伝達周知したものであり,原告は,当時,営業第2副本部長であり,「支店長会議」のメンバーとして会議に出席しており,改正内容の説明を受けている(証人B,乙12,17)。 コ平成9年4月1日の改正は,60歳の定年を更に延長できるものとし,これに伴い,60歳定年を更に延長する期間は,年5.5パーセントで利率を計算する据置期間に算入しないこととしたものである(なお,据置期間に対する利率についても,別の定めによるものと改められたが,この別の定めを認めるに足りる証拠はなく,従前の据置期間に対する利率である年5.5パーセントがそのまま維持されたものと認めるのが相当である。)が,60歳を超えて更に定年が延長されるという利益を享受する者に対してのみ,定年延長を条件として定年延長期間を据置期間に算入しないこととしたものにすぎず,従業員にとって従前の利益は何ら損なわれておらず,従前と比べて不利益に変更されたものということはできない。 サ以上によれば,被告における旧退職金規定及び旧内規から新退職金規定及び新内規への改正は,不利益変更ということはできず,従業員に対する周知も行われていると認めることができ,平成12年5月9日に退職した原告に適用されるのは,平成9年4月1日改正の新退職金規定と平成3年10月1日改正の新内規であると認めることができる。 シこれに対し,原告は,被告主張の退職金規定及び内規の改正については,被告に 原告に適用されるのは,平成9年4月1日改正の新退職金規定と平成3年10月1日改正の新内規であると認めることができる。 シこれに対し,原告は,被告主張の退職金規定及び内規の改正については,被告において,従業員の過半数を代表する者の意見聴取,労働基準監督署への届出,従業員に対する周知を欠いており,有効な改正があったということはできない旨主張し,原告本人は,就業規則の改正については,平成3年10月1日の改正の際には「事業本部会議」及び「職場連絡協議会」で,平成9年4月1日の改正の際には「支店長会議」で説明されたが,退職金規定の改正についてはそのような会議において説明されたことはない旨,その主張に沿った供述及び陳述(甲7ないし9)をする。 しかし,乙17の添付資料によれば,平成3年10月1日の改正の際,「事業本部会議」で報告された定年延長に伴う退職金規定の改正について,その後の「職場連絡協議会」で発表されたことが明らかであって,原告の供述及び陳述は,前掲証拠に照らし採用することができない。 そして,旧退職金規定及び旧内規から新退職金規定及び新内規への改正が不利益変更ということができない以上,その改正内容の従業員に対する周知は,改正内容が使用者の内部的取扱基準であることを超えて,労働者に対する客観的な準則たらしめるための効力発生要件ということができるが,従業員の過半数を代表する者の意見聴取及び労働基準監督署への届出は,効力発生要件と解することはできない。 また,原告は,旧退職金規定及び旧内規を適用した結果と,新退職金規定及び新内規を適用した結果を比較すると,被告主張と原告主張の退職金基礎額の差は8万7692円であり,退職金金額は490万8381円もの大きな差を生じ,原告の既得権を著しく奪うものであって,労働者に極めて不利益な内容となってい 比較すると,被告主張と原告主張の退職金基礎額の差は8万7692円であり,退職金金額は490万8381円もの大きな差を生じ,原告の既得権を著しく奪うものであって,労働者に極めて不利益な内容となっている旨主張する。 しかし,原告が主張する既得権とは,旧退職金規定及び旧内規が前提としていた58歳の定年が原告のように63歳まで延長された場合であっても,その延長期間を含めた在職期間に基づいて,旧退職金規定及び旧内規によって退職金が計算されることが当然の権利であるとするものであるが,58歳の定年を前提とする旧退職金規定及び旧内規によって,かかる計算方法による退職金受給権が既得権として保障されていたものと認めることはできない。旧退職金規定及び旧内規から新退職金規定及び新内規への改正が不利益変更ということができないことは既に説示したとおりである。 2 争点(2)(原告が請求し得る退職金及び特別退職金の額)について(1) 新退職金規定によれば,定年延長者である原告の退職金は,58歳時の基礎額並びに勤続年数にて計算し,60歳までの据置期間は年5.5パーセントの利息を付した上で,退職日まで据え置かれ,また,新内規によれば,年俸者の退職金基礎額については,「(基本給+資格給)×年倍率÷(12か月+5か月)×0.9」により算定される。 (2) ところで,基本給の計算において,被告は,中途入社者については,「適格年金事務手続きによる覚書」(乙15)にあるように,「基本給算定時に前職分の勤続給を基本給部分より控除し又,換算勤続年数も除いて登録するものとする」扱いが,原告入社以前から慣行として行われていた旨主張する。 しかし,乙15は,被告と中央信託銀行との間の覚書であり,これによって,被告の退職金規定が定める「基本給」の内容を修正するような労使慣行があったと 原告入社以前から慣行として行われていた旨主張する。 しかし,乙15は,被告と中央信託銀行との間の覚書であり,これによって,被告の退職金規定が定める「基本給」の内容を修正するような労使慣行があったとまで認めるには足りず,証人Bの証言,乙18の1ないし3も,過去に被告を退職した者について,前職分の勤続給を基本給部分より控除して退職金を計算していたというに留まり,かかる計算方法が労使慣行となっていたものとまで認めるには足りない。 (3) 乙12ないし14,弁論の全趣旨によれば,原告の58歳時の前職分勤続給を控除しない基本給は,27万7800円,資格給は,19万7000円,年倍率は,人事考課によるランクBのランク倍率16.5であり,これに基づき算定すると,原告の退職金基礎額は,41万4751円((27万7800円+19万7000円)×16.5÷(12か月+5か月)×0.9)となる。 ところで,前記のとおり,新内規によれば,新内規の方式による算定基礎額が旧内規の方式による算定基礎額より下回る場合は,旧内規による基礎額を保障するとされているところ,旧内規によれば,年俸者の退職金基礎額は,「年俸総額÷18×0.8」により算定されるのであり,乙19によれば,原告の平成3年9月30日現在の年俸額は920万円と認めることができるから,これに基づき,同日現在の旧内規による原告の退職金基礎額を算定すると,40万8888円(920万円÷18×0.8)となる。 そうすると,新内規による基礎額41万4751円の方が旧内規による基礎額40万8888円を上回るから,新内規による基礎額41万4751円が適用されることになる。 (4) 平成2年1月5日に雇用された原告の58歳時(平成7年5月10日)の勤続年数は5年4か月であり,乙1によれば,定年退職した原告の退職金 規による基礎額41万4751円が適用されることになる。 (4) 平成2年1月5日に雇用された原告の58歳時(平成7年5月10日)の勤続年数は5年4か月であり,乙1によれば,定年退職した原告の退職金の支給乗率は,別紙の別表1の甲欄により,勤続年数満5年4か月の場合は,3.733(3.4+(4.4-3.4)×4/12)と認められるから,原告の退職金は154万8265円(41万4751円×3.733)となる。 (5) また,乙1によれば,定年退職した原告の特別退職金の支給乗率は,別紙の別表2により,勤続年数が5年4か月の場合は7.0か月であると認められるから,原告の特別退職金は290万3257円(41万4751円×7.0)となる。 (6) そして,原告の退職金154万8265円と特別退職金290万3257円の合計額445万1522円につき,58歳から60歳までの2年間の据置期間についての年5.5パーセントの複利による利息を付加すると,495万4655円(445万1522円×1.055×1.055)となる。 (7) そうすると,原告が被告から退職金として既に受領済みの額が503万1400円であることは当事者間に争いがないから,原告が受領すべき退職金及び特別退職金は全額支払済みであると認めることができる。 第4 結論以上によれば,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第1部裁判官橋本昌純(別紙「別表1」省略)
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