主文 1 控訴人らの本件各控訴をいずれも棄却する。 2 控訴費用は控訴人らの負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人らの請求をいずれも棄却する。 第2 事案の概要(略称等は、原則として原判決の表記に従う。) 1 青森県内に居住して生活保護法に基づく生活扶助を受給していた被控訴人らは、平成25年から平成27年にかけて行われた、厚生労働大臣による「生活 保護法による保護の基準」(昭和38年厚生省告示第158号。保護基準)中の生活扶助基準(別表第1)の改定(本件保護基準改定)を理由として、所轄の福祉事務所長らから、それぞれ、原判決別紙処分一覧表1及び2のとおり生活扶助の支給額を変更する旨の保護変更決定(本件各処分)を受けた。 本件は、被控訴人らが、本件保護基準改定が憲法25条、生活保護法1条、 3条、8条2項等に違反するものであるなどと主張して、控訴人らに対し、本件各処分の取消しを求める事案である。 原審が、本件保護基準改定は生活保護法3条、8条2項に違反する違法なものであり、これを根拠とする本件各処分もまた違法であるとして、本件各処分を取り消したところ、これを不服として控訴人らが控訴した。 2 関係法令等の定め等、前提事実は原判決「事実及び理由」第2の2及び3のとおりであるから、これらを引用する。 3 争点及びこれに関する当事者の主張は、次のとおり当審における控訴人らの主張を付加するほかは、原判決「事実及び理由」第3のとおりであるから、これを引用する。 控訴人らは、当審において、当初は、原判決「事実及び理由」第3のとおり の控訴人らの主張を維持したうえで、要旨、① は、原判決「事実及び理由」第3のとおりであるから、これを引用する。 控訴人らは、当審において、当初は、原判決「事実及び理由」第3のとおり の控訴人らの主張を維持したうえで、要旨、①本件保護基準改定に際しては専門技術的かつ政策的な見地から厚生労働大臣に広範な裁量権が認められることから、この裁量を審査する際の審査手法として判断過程審査の判断枠組みは適切でないこと、②仮に同枠組みを用いるとしても、基準部会等の専門機関による審議検討を経るか否かは上記裁量の問題であり、この審議検討を経ずにデフ レ調整が行われたとしても直ちに専門的知見との整合性に欠けるとはいえないことや、デフレ調整に係る同大臣の判断が専門機関の示した見解や従前の取扱いと整合する内容であって合理性が認められることなどから、本件保護基準改定に関する最低限度の生活の具体化に係る同大臣の判断の過程及び手続に過誤、欠落は認められず、同大臣に付与された裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があ るとは認められないなどと主張したものの、令和7年9月9日の当審第7回口頭弁論期日において、同年6月27日最高裁判決(最高裁令和5年(行ヒ)第397号、第398号同7年6月27日第三小法廷判決、最高裁令和6年(行ヒ)第170号同7年6月27日第三小法廷判決)が示した理由に反する主張をするものではないと述べ、同理由に反する従前の主張をすべて撤回した。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も、原審と同じく、本件保護基準改定は生活保護法3条、8条2項に違反する違法なものであり、これを根拠とする本件各処分もまた違法であるからこれらを取り消すのが相当であると判断する。その理由は次のとおりである。 2 当裁判所が認定する事実関係等は、原判決61頁10行目「生活扶助相当支出 とする本件各処分もまた違法であるからこれらを取り消すのが相当であると判断する。その理由は次のとおりである。 2 当裁判所が認定する事実関係等は、原判決61頁10行目「生活扶助相当支出額」の次に「(消費支出額から家賃、医療等の生活扶助に相当しないものを除いたもの。以下同じ。)」を加え、同頁20行目「適当されていた」を「適当とされていた」に、64頁13行目「平成20年」から22行目「据え置くこととされた」までを「平成20年頃から平成23年頃にかけて、リーマンシ ョックに端を発する世界的な金融危機が我が国の実体経済に大きな影響を及 ぼし、物価が下落するとともに、賃金、家計消費がいずれも下落した。そのような中で、平成20年度から平成24年度までの生活扶助基準について水準均衡方式による改定は行われず、生活扶助基準は据え置かれた」にそれぞれ改めるほかは、原判決「事実及び理由」第4の1のとおりであるから、これを引用する。 3 争点に対する判断(1) 判断枠組み生活保護法3条によれば、同法により保障される最低限度の生活は、健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならないところ、同法8条2項によれば、保護基準は、要保護者(法による保護を必要とする 者をいう。)の年齢別、性別、世帯構成別、所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであって、かつ、これを超えないものでなければならない。これらの規定にいう最低限度の生活は、抽象的かつ相対的な概念であって、その具体的な内容は、その時々における経済的・社会的条件、一般的な国民生活の状況等との 相関関係において判断決定されるべきものであり、同条1項の委任を受けた厚生労働大臣がこれ な概念であって、その具体的な内容は、その時々における経済的・社会的条件、一般的な国民生活の状況等との 相関関係において判断決定されるべきものであり、同条1項の委任を受けた厚生労働大臣がこれを保護基準において具体化するに当たっては、国の財政事情を含めた多方面にわたる複雑多様な、しかも高度の専門技術的な考察とそれに基づいた政策的判断を必要とするものである。 そうすると、厚生労働大臣は、生活扶助基準を改定するに当たり、それに より基準生活費を減額されることとなる被保護者の期待的利益についての配慮の要否等を含め、上記のような専門技術的かつ政策的な見地からの裁量権を有しているものというべきであり、本件保護基準改定は、その判断に上記見地からの裁量権の範囲の逸脱又はその濫用がある場合に、生活保護法3条、8条2項に違反して違法となるものと解される。そして、生活扶助基準の改 定の要否の判断の前提となる最低限度の生活の需要に係る評価や被保護者の 期待的利益についての配慮は、上記のような専門技術的な考察に基づいた政策的判断であるところ、これまでも生活扶助基準の改定に際しては、専門家により構成される合議制の機関等により、各種の統計や資料等に基づく専門技術的な検討がされてきたところである。これらの経緯等に鑑みると、厚生労働大臣の上記の裁量判断の適否に係る裁判所の審理においては、主として 本件保護基準改定に至る判断の過程及び手続に過誤、欠落があるか否か等の観点から、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性の有無等について審査されるべきものと解される(以上につき、最高裁平成22年(行ツ)第392号、同年(行ヒ)第416号同24年2月28日第三小法廷判決・民集66巻3号1240頁、最高裁平成22年(行ヒ)第 て審査されるべきものと解される(以上につき、最高裁平成22年(行ツ)第392号、同年(行ヒ)第416号同24年2月28日第三小法廷判決・民集66巻3号1240頁、最高裁平成22年(行ヒ)第 367号同24年4月2日第二小法廷判決・民集66巻6号2367頁、最高裁令和5年(行ヒ)第397号、第398号同7年6月27日第三小法廷判決、最高裁令和6年(行ヒ)第170号同7年6月27日第三小法廷判決参照)。 (2) デフレ調整に係る厚生労働大臣の判断について ア控訴人らは、厚生労働大臣がデフレ調整をすることとした理由について、平成20年以降の経済情勢により生じた生活扶助基準の水準と一般国民の生活水準との間の不均衡を是正することとしたものである旨説明するところ、上記引用に係る原判決の事実関係等によれば、平成19年報告書において、生活扶助基準額が第1・十分位(一般低所得世帯)における生 活扶助相当支出額より高い状態にある旨の指摘があったほか、平成20年頃から平成23年頃にかけて、リーマンショックに端を発する世界的な金融危機が我が国の実体経済に大きな影響を及ぼし、物価が下落していただけでなく、賃金、家計消費がいずれも下落していたというのである。そのような中で、平成20年度から平成24年度までの生活扶助基準について 水準均衡方式による改定が行われなかったことからすると、厚生労働大臣 が、本件保護基準改定当時、生活扶助基準の水準と一般国民の生活水準との間に不均衡が生じていると判断したことにつき、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性に欠けるところがあるとはいい難い。 イ控訴人らは、現時点において、厚生労働大臣が物価変動率のみを直接の 指標として基準生活費を一律に減ずることと 値等との合理的関連性や専門的知見との整合性に欠けるところがあるとはいい難い。 イ控訴人らは、現時点において、厚生労働大臣が物価変動率のみを直接の 指標として基準生活費を一律に減ずることとした理由について、平成15年中間取りまとめにおいて消費者物価指数の伸びも改定の指標の一つとして用いることも考えられるとされていたこと等を踏まえ、消費そのものではなく、物価変動率を指標として用いた旨説明しているところ、生活扶助基準の改定方式につき、生活保護法その他の法令には何らの定めもなく、 同大臣に専門技術的かつ政策的な見地からの裁量権が認められることからすれば、生活扶助基準の改定の際にどのような指標を用いるかについても、同大臣の裁量判断に委ねられているものということができる。 もっとも、生活保護法8条2項は、保護基準は、保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすものとすべき旨を規 定しているところ、ここにいう「最低限度の生活の需要を満たす」とは、生活扶助については、最低限度の消費水準を保障することを意味するものとして理解されてきたものである。昭和58年意見具申を踏まえて昭和59年度以降採用されてきた水準均衡方式も、当時の生活扶助基準が、一般国民の消費実態との均衡上、最低限度の消費水準を保障するものとしてほ ぼ妥当なものとなったとの評価を前提として、一般国民の消費動向を踏まえると同時に、前年度までの一般国民の消費実態との調整を図る方式により生活扶助基準を改定していくことによって、一般国民の消費実態との関係において妥当な生活扶助の水準を維持しようとするものである。 これに対し、物価は、これが変動すれば消費者の消費行動に一定の影響 が及ぶとは考えられるものの、飽くまで消費と関連付けられる諸要素の において妥当な生活扶助の水準を維持しようとするものである。 これに対し、物価は、これが変動すれば消費者の消費行動に一定の影響 が及ぶとは考えられるものの、飽くまで消費と関連付けられる諸要素の一 つにすぎず、物価変動が直ちに同程度の消費水準の変動をもたらすものとはいえない。この点は、昭和58年意見具申においても、賃金や物価は、そのままでは消費水準を示すものではないので、参考資料にとどめるべきものとされているところである。平成15年中間取りまとめでは、生活扶助基準の改定方式の在り方に関し、改定の指標についても検討が必要であ るとされ、例えば、消費者物価指数の伸びを改定の指標の一つとして用いることも考えられるとされているが、これも、物価変動率を考え得る指標の一つとして例示し、その検討の必要性に言及したにすぎないものと解される。平成25年報告書にも、平成25年検証の結果を踏まえて生活扶助基準の見直しを検討する際に、他に合理的説明が可能な経済指標を総合的 に勘案する場合があり得ることを前提とする記載があるところ、ここにいう経済指標に物価変動率が含まれるとしても、それは総合的に勘案する指標の一つに位置付けられているにすぎないし、平成25年報告書も、これを勘案する場合にはその根拠を明確に示すべきことを求めている。現に、本件保護基準改定前において、物価変動率のみを直接の指標として生活扶 助基準の改定がされたことはなかったものである。 以上によれば、物価変動率は、生活扶助基準の改定の際の指標の一つとして勘案することが直ちに許容されないものとはいえないとしても、それだけでは消費実態を把握するためのものとして限界のある指標であるといわざるを得ない。そうすると、上記アの不均衡を是正するために物価変 動率のみを直接の指標 れないものとはいえないとしても、それだけでは消費実態を把握するためのものとして限界のある指標であるといわざるを得ない。そうすると、上記アの不均衡を是正するために物価変 動率のみを直接の指標として基準生活費の改定率を定めることが、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性を有するものというためには、上記限界を踏まえてもなお物価変動率のみを直接の指標とすることが合理的であることにつき、物価と最低限度の消費水準との関係や、従来の水準均衡方式による改定との連続性、整合性の観点を含め、 専門的知見に基づいた十分な説明がされる必要があるというべきである。 しかるに、控訴人らは、平成15年中間取りまとめにおいて、消費者物価指数の伸びも改定の指標の一つとして用いることも考えられるとされていたこと等を挙げて、物価変動率のみを直接の指標として用いても専門的知見と整合しないものではないなどと説明するにすぎず、上記アの不均衡を是正するために物価変動率のみを直接の指標として用いることが合 理的であることについて、専門的知見に基づいた十分な説明がされていると認めることはできない。上記のとおり、平成15年中間取りまとめは、消費者物価指数の伸びを指標とすることについての検討の必要性に言及したものにすぎないし、平成25年報告書にも、厚生労働省において他に合理的説明が可能な経済指標を総合的に勘案する場合もあり得ることを 前提とする記載があるにすぎない。そして、物価変動率を指標とすることが、一般論としては専門的知見と整合しないものではないからといって、それまで水準均衡方式によって改定されてきた生活扶助基準を、物価変動率のみを直接の指標として改定することが直ちに合理性を有するものということにはならないところ、上記アの不均 のではないからといって、それまで水準均衡方式によって改定されてきた生活扶助基準を、物価変動率のみを直接の指標として改定することが直ちに合理性を有するものということにはならないところ、上記アの不均衡を是正するために物価変動 率のみを直接の指標として用いることについて、基準部会等による審議や検討が経られていないなど、その合理性を基礎付けるに足りる専門的知見があるとは認められない。 そうすると、デフレ調整における改定率の設定については、上記アの不均衡を是正するために物価変動率のみを直接の指標として用いたことに 専門的知見との整合性を欠くところがあり、この点において、デフレ調整に係る厚生労働大臣の判断の過程及び手続には過誤、欠落があったと認めるのが相当である。 なお、上記引用に係る原判決の事実関係等によれば、平成29年報告書において、本件保護基準改定後の夫婦子1人世帯における生活扶助基準額 が第1・十分位(一般低所得世帯)の生活扶助相当支出額とおおむね均衡 することが確認されたと評価されているが、デフレ調整において物価変動率のみを直接の指標として用いた厚生労働大臣の判断には、従来の水準均衡方式における改定との連続性等の点において専門的知見との整合性を欠くところがあったというべきことは上記説示のとおりであって、デフレ調整が基準生活費を一律に4.78%も減ずるものであり、生活扶助を受 給していた者の生活に大きな影響を及ぼすものであることも考慮すると、本件保護基準改定後に行われた平成29年検証の結果によって、デフレ調整に係る同大臣の判断の過程及び手続に過誤、欠落があったとの上記評価が左右されることはない。 ウ小括 したがって、本件保護基準改定は、物価変動率のみを直接の指標としてデフレ調整をする 係る同大臣の判断の過程及び手続に過誤、欠落があったとの上記評価が左右されることはない。 ウ小括 したがって、本件保護基準改定は、物価変動率のみを直接の指標としてデフレ調整をすることとした点において、厚生労働大臣の判断の過程及び手続に過誤、欠落があり、同大臣の判断に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があったものと認められるから、生活保護法3条、8条2項に違反して違法である。 (3) まとめ以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、本件保護基準改定は違法であって、これを根拠に行われた本件各処分もまた違法であるから、本件各処分をいずれも取り消すのが相当である。 第4 結論 よって、本件各処分をいずれも取り消した原判決は相当であり、控訴人らの本件各控訴はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 仙台高等裁判所第2民事部裁判長裁判官大嶋洋志 裁判官本多幸嗣 裁判官吉岡正智
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