平成12(ワ)111 損害賠償請求

裁判年月日・裁判所
平成14年9月24日 広島地方裁判所
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判決文本文14,405 文字)

主文 1 被告は,原告に対し,297万円及びこれに対する平成11年4月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用はこれを5分して,その4を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。 4 この判決は,第1項に限り仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求被告は,原告に対し,1500万円及びこれに対する平成11年4月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,被告が経営する形成外科医院で二重瞼,鼻及び下顎の美容整形手術を受けた原告が,手術後の二重瞼の幅が左右非対称で,縫合部が化膿しはんこんが生じた,鼻に挿入したプロテーゼが動き鼻線が曲がった,下顎に違和感や痺れが残り,しわが生じたとして,被告に対し,診療契約上の債務不履行ないし不法行為に基づき,手術費用,慰謝料及び逸失利益等の損害賠償並びに不法行為の日(最終の手術の日)である平成11年4月26日から支払済みまでの遅延損害金の支払を請求している事案である。 1 争いのない事実等(1) 当事者原告は,昭和41年10月3日生まれの女性であり,被告は,Aの名称で形成外科医院(以下「被告医院」という。)を経営し,美容整形手術を行っている医師である。 (2) 第1回手術原告は,平成10年12月15日に被告医院に赴き,以前別の病院で美容整形手術により形成した二重瞼の再手術について被告に相談したところ,被告から鼻と下顎の手術も勧められ,同月24日に再度被告に相談した上,二重瞼,鼻及び下顎の美容整形手術を受けることとした。 原告は,平成11年1月14日,被告によって,切開法(眼瞼皮膚を切開し,皮膚と と下顎の手術も勧められ,同月24日に再度被告に相談した上,二重瞼,鼻及び下顎の美容整形手術を受けることとした。 原告は,平成11年1月14日,被告によって,切開法(眼瞼皮膚を切開し,皮膚と瞼板を直視下に縫合し癒着させる方法)による二重瞼の形成手術,鼻骨の骨膜上にプロテーゼを挿入する隆鼻手術,下顎の骨を切除してプロテーゼを下顎に挿入する下顎形成手術(以下「第1回手術」という。)を受けた。 (3) 第2回手術原告は,平成11年3月20日,被告によって,第1回手術後の二重瞼と鼻の修正手術(以下「第2回手術」という。)を受けた。 (4) 第3回手術原告は,平成11年4月26日,被告によって,再び鼻の修正手術(以下「第3回手術」といい,第1回ないし第3回手術を併せて「本件手術」という。)を受けた。 2 争点及び当事者の主張(1) 本件手術に関する違法性(原告の主張)ア美容整形手術の特殊性美容整形手術は,美しくありたいと願う患者の主観的願望を満足させるために行われるものであり,医学的見地からの必要性が他の医療行為と比べて乏しく,緊急性がほとんどの場合認められないという特殊性を有することから,美容整形手術を実施する医師は,当該手術の要否及び適否を慎重に判断し,また,手術を実施するに当たっては,当該患者の体質,患部の状態などについて十分な事前の検査を行い,医師としての高度の専門的見地から,当該手術の時期,方法,程度,範囲などを十分検討して,手術を実施すべき義務があり,さらに,手術を行う際も,術後の状態にも十分慎重な配慮をしながら事後の手術の進行,治療方法等を選択すべき義務がある。また,美容整形手術を希望する患者は,自己の容姿に強い関心と希望を持っており,一般人からすればさ細と思われる容 後の状態にも十分慎重な配慮をしながら事後の手術の進行,治療方法等を選択すべき義務がある。また,美容整形手術を希望する患者は,自己の容姿に強い関心と希望を持っており,一般人からすればさ細と思われる容姿のことも気にするのが一般的であるし,特に,人の印象を決定付ける重要な部分である顔に美容整形手術を施す場合には,患者の希望に沿うように検査,手術方法の選択を慎重に行った上,術後に傷こんや神経症状を残存させないよう慎重に手術を行う義務がある。 また,上記のような美容整形手術の特殊性にかんがみれば,説明義務についても一般医療行為以上に厳しい注意義務が課せられるというべきであり,手術を希望する患者に対して,あえて美容整形手術をするという意思決定が誤解なく行われるように,手術の結果予想される事態について必要十分な説明を行い,その理解と納得を得ておくことが必要である。とりわけ,原告のような若い女性が美容整形手術を受ける場合,実際に手術を受けるかどうかを決断するに際して,手術後に傷こんや神経症状が残るか否か,残るとすればどの程度のものになるかが最大の関心事であることは明らかであるから,被告は,本件美容整形手術を行うに際して,事前に二重瞼,鼻及び下顎の手術後における傷こんや神経症状の残存の可能性とその程度について十二分に説明する義務がある。 イ二重瞼の手術について(ア) 二重瞼の左右非対称及び傷こんの発生と残存被告は,切開法による二重瞼の手術を行うに当たり,二重瞼の幅に左右非対称が生じるのを防ぐため,左右の眼瞼のバランスに注意して切開線を決定し,手術中あるいは手術の最後に左右の眼瞼の形を十分確認し,皮膚の縫合固定を完了した時点で患者自身に鏡を使って見せるなどして,二重瞼の形,大きさ,左右差を確認すべきである。そして,切 て切開線を決定し,手術中あるいは手術の最後に左右の眼瞼の形を十分確認し,皮膚の縫合固定を完了した時点で患者自身に鏡を使って見せるなどして,二重瞼の形,大きさ,左右差を確認すべきである。そして,切開後皮膚と瞼板を縫合固定する場合には,2か所以上で固定すべきである。ところが,被告は,第1回手術の際に,二重瞼の左右のバランスを注意深く確認せず,皮膚と瞼板を縫合固定した後に原告にこれを確認させることもせず,皮膚と瞼板の縫合固定を1か所しか行わなかったことから,原告の二重瞼の幅に左右非対称を生じさせた。仮に上記左右非対称の程度が少ないとしても,美容整形手術を受ける患者であった原告にしてみれば,看過し難い重大な欠陥に当たるものである。 さらに,被告は,傷こんが残存しないように慎重に切開部分の皮膚を縫合すべきであり,かつ,感染症にり患しないよう措置する義務がある。 ところが,被告は,上記義務を怠り,粗雑な縫合をしたため,原告の両眼頭に手術こんを残しただけでなく,抜糸後も縫合部から糸くずが出てくる状態を生じさせて原告の右上眼瞼を化膿させ,原告の両眼瞼上にはんこんを生じさせた。 (イ) 説明義務違反被告は,二重瞼の手術に際し,手術の具体的内容,及びその結果はんこんが残るおそれがあることや,二重瞼の幅に左右非対称が生じるおそれがあること等の後遺症状の可能性について原告に説明すべきであったのに,これを怠り,原告に対して,「切開方法で」行うとの説明を行うにとどまった。 ウ鼻の手術について(ア) プロテーゼの動揺,鼻線の曲がり被告は,患者の鼻にプロテーゼを挿入する隆鼻手術に当たっては,手術後患者の鼻が斜めに曲がったり,鼻に挿入したプロテーゼが動いたりしないように手術すべきであり,そのため 動揺,鼻線の曲がり被告は,患者の鼻にプロテーゼを挿入する隆鼻手術に当たっては,手術後患者の鼻が斜めに曲がったり,鼻に挿入したプロテーゼが動いたりしないように手術すべきであり,そのためには,プロテーゼを鼻骨の骨膜下に挿入すべきである。 ところが,被告は,プロテーゼを挿入する位置を誤り,鼻骨の骨膜上に挿入したため,原告の鼻に挿入されたプロテーゼが鼻根部の左から鼻突部の右に向けて偏位し,鼻全体がカーブする形になり,また,鼻突部に手を触れると鼻突部のプロテーゼが動くような状態を生じさせた。 (イ) 説明義務違反被告は,鼻の手術に際し,プロテーゼを鼻骨の骨膜上に挿入する方法を講じること,及び,そのような方法を講じるとプロテーゼが固定されないために動いたり,偏位するおそれがあることを原告に説明すべきであったのに,これを怠り,原告に対して上記説明を全く行わず,鼻骨を削らずにプロテーゼを挿入する旨の説明を行うにとどまった。 エ下顎の手術について(ア) おとがい神経の損傷,プロテーゼの挿入位置の誤り被告は,下顎の形成手術を行うに当たっては,下顎周辺のおとがい神経を損傷しないよう注意する義務があり,また,下顎にプロテーゼを挿入する際には,はんこんを形成させないように注意した上,プロテーゼを下顎の下縁ぎりぎりに挿入すべき義務がある。 ところが,被告は,上記義務を怠り,下唇から下顎にかけての皮膚を剥離したり下顎の骨を削る際におとがい神経を損傷し,原告に下顎全体の痺れを生じさせ,言葉を話しにくい状態にさせた。また,プロテーゼを誤って下顎の下縁よりも上部に挿入し,口唇内前庭部の切開箇所の不適切な縫合を行ったため,原告が口唇及び頬に力を入れるとプロテーゼが浮くような状態となり,顎 を話しにくい状態にさせた。また,プロテーゼを誤って下顎の下縁よりも上部に挿入し,口唇内前庭部の切開箇所の不適切な縫合を行ったため,原告が口唇及び頬に力を入れるとプロテーゼが浮くような状態となり,顎にしわが寄り,違和感を感じるという状態を生じさせた。 (イ) 説明義務違反被告は,下顎の形成手術に際し,おとがい神経が集中している下顎の骨を削除する手術であるため,おとがい神経を損傷するおそれもあること,プロテーゼを挿入した後に違和感が生じるおそれがあることを十分に説明すべきであったのに,これを怠り,原告に対して上記説明を全く行わず,「顎の先端が丸くて広い状態になってしゃくれているので,この丸くなっているところを部分的に削って細くし,シリコンを入れて形をよくしよう。」と勧めただけであった。 (被告の主張)ア二重瞼の手術について(ア) 二重瞼の左右非対称及び傷こんの発生と残存手術後の原告の二重瞼の幅は左右とも同じである。 さらに,眼頭の手術痕は術後日時の経過により目立たなくなるものであるし,術後3週間が経過した時点で,原告の眼瞼に化膿は全く見られなかったのであるから,その後眼瞼に生じた化膿は被告の手術手技の誤りや手術による汚染を原因とするものではない。 (イ) 説明義務違反そもそも原告の二重瞼の幅に左右非対称は生じていない。また,被告は手術後両眼頭に手術こんが残ること,上記手術こんは術後日時の経過により目立たなくなることを手術前に原告に説明している。 イ鼻の手術について(ア) プロテーゼの動揺,鼻線の曲がり一般的な隆鼻手術では,鼻骨の骨膜下にプロテーゼを挿入するが,鷲鼻の場合には鼻骨を削って平らにしない限り,骨膜下にプロテーゼを挿 術について(ア) プロテーゼの動揺,鼻線の曲がり一般的な隆鼻手術では,鼻骨の骨膜下にプロテーゼを挿入するが,鷲鼻の場合には鼻骨を削って平らにしない限り,骨膜下にプロテーゼを挿入しても美しくならない。そのため,鷲鼻の患者が鼻骨を削ることを承諾しない場合には骨膜上にプロテーゼを挿入する。原告は鷲鼻であったから,鼻骨を削ってプロテーゼを挿入する方法を説明したところ,鼻骨を削ることを承諾せず,そのままの状態でプロテーゼを挿入することを希望したので,骨膜上にプロテーゼを挿入したものである。骨膜上にプロテーゼを挿入しても,手で触って動かそうとしない限り動かず,動いてもまた元の位置に戻るため,美容的にも,生活上も問題はない。実際,原告の鼻にはプロテーゼがまっすぐに挿入されているのであるから,何ら問題はない。 (イ) 説明義務違反被告は原告に対し,上記のとおりの説明を行い,原告の希望に従って骨膜上にプロテーゼを挿入したのであり,手術の結果美容的にも生活上も問題はないのであるから,説明義務違反はない。 ウ下顎の手術について(ア) おとがい神経の損傷,プロテーゼの挿入位置の誤り手術後に下顎が腫れているとき,痺れが多少現れることはあるが,時間の経過とともに消失する。原告は,被告が手術によっておとがい神経を損傷したと主張するが,第1回手術でおとがい神経を損傷することはない。もし,神経を損傷したとすれば,術後直ちに下顎部全体が感覚を失うはずである。また,原告は下顎の痺れのため言葉が話しにくいと主張するが,おとがい神経は下顎部の感覚神経であり,下唇が無感覚になっても普通に話すことができるはずであるから,おとがい神経の損傷と言語障害とは全く関係がない。しかも,原告が下顎の痺れを訴えたのは当初だ るが,おとがい神経は下顎部の感覚神経であり,下唇が無感覚になっても普通に話すことができるはずであるから,おとがい神経の損傷と言語障害とは全く関係がない。しかも,原告が下顎の痺れを訴えたのは当初だけで,その後の受診においてはそのような訴えはなかった。 また,下顎の先端にプロテーゼを挿入するのは,下顎が小さい場合にこれを普通の大きさにするためであるが,原告のように下顎が大きくてしゃくれている場合には,下顎の先端にプロテーゼを挿入すると,下顎が更に大きく見えることとなって意味がない。被告は,原告の下顎骨を切除してもしゃくれた感じが取れないことから,これを矯正するため,プロテーゼを下唇から下顎先端にかけての中間部に意図的に挿入したものである。実際,このようなプロテーゼ挿入によって原告の下顎は手術前よりもすっきりと見えるようになっており,目的を達している。 (イ) 説明義務違反そもそも,第1回手術によっておとがい神経を損傷することはないし,プロテーゼの挿入位置にも問題はないのであるから,原告の主張に係る説明義務違反はない。なお,被告は,下顎の手術で骨を切除する場合には,頭蓋骨の実物を患者に見せ,下顎骨の切除部位を明示している。 (2) 損害(原告の主張)ア被告に対する手術等費用 138万円原告は,被告に対し,二重瞼形成手術費用42万円,下顎形成手術費用60万円,隆鼻手術費用30万円,麻酔費用5万円,薬剤費用1万円を支払った。 イ B美容形成外科における手術等費用 145万5050円原告は,本件手術による後遺症状の治療のために,平成12年1月15日以降,B美容形成外科において修復手術を受け,上記手術等費用を支払った。 ウ休業損害 315万0666円原告は, 原告は,本件手術による後遺症状の治療のために,平成12年1月15日以降,B美容形成外科において修復手術を受け,上記手術等費用を支払った。 ウ休業損害 315万0666円原告は,本件手術を受ける前は,英会話学校の営業の契約社員として勤務し始めたばかりであったところ,第1回手術後の眼瞼の腫れ等により,外出できなくなった上,精神的に落ち込んだために勤務できず,全く給与を得ることなく平成11年1月末頃に退職してしまった。 また,同年11月17日から,学校法人C専門学校にパソコンの講師として勤務し始めたものの,下顎が痺れていることから話す言葉がはっきりせず,生徒から聞き取りにくいという苦情が生じたため,原告はこの勤務先をも同年12月22日付けで退職せざるを得なくなった。 平成11年2月から同年12月末まで(同年11月17日から同年12月22日までの1か月間を除く)の休業損害は,賃金センサス(平成9年女子労働者学歴計30歳~34歳平均年収)により算定すると,315万0666円(378万0800円÷12×10)となる。 エ後遺症による逸失利益 2142万7740円原告は,下顎がいつも痺れて重い感じがする上,就職しても下顎の痺れのために大きなはっきりした声で話せないために勤務が継続できず,今後の就職活動も困難な状況にある。このような後遺症状は,労働基準監督局長通牒(昭和32・7・2基発第551号)の別表「後遺障害別等級表・労働能力喪失率」表9級10号の「神経系統の機能又は精神に障害を残し,服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」に該当する。 これを基礎にして原告の逸失利益をライプニッツ方式により中間利息を控除して算出すると,2142万7740円(378万0800円×35/10 る労務が相当な程度に制限されるもの」に該当する。 これを基礎にして原告の逸失利益をライプニッツ方式により中間利息を控除して算出すると,2142万7740円(378万0800円×35/100×16.1929)となる。 オ慰謝料 800万円(ア) 原告は,第1回手術の後,右眼瞼が化膿する等の症状が生じたため,被告医院において平成11年2月24日から3月17日まで通院してこれらの治療を受けた上,同年3月20日及び4月26日には修復手術を受け,同年6月29日まで治療を継続した。さらに,これらの症状が悪化したため,B美容形成外科やDクリニックに通院したり,下顎の治療のためにE病院に通院し,また本件後遺症状のためうつ状態に陥り,その治療のためにF内科に通院するなどしたのであって,これらからすれば,通院慰謝料は200万円とするのが相当である。 (イ) 原告の現在の後遺症状は,前記労働基準監督局長通牒の別表「後遺障害別等級表・労働能力喪失率」表9級に該当するものであることからすれば,後遺症慰謝料は600万円とするのが相当である。 カ弁護士費用 300万円(被告の主張)原告の主張ア(被告に対する手術等費用及びその内訳)については認めるが,その余は争う。 第3 争点に対する判断 1 事実経過証拠(甲2ないし7,9ないし11,13,16,乙1ないし3,証人G(書面尋問),原告本人,被告本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) 第1回手術ア原告は,平成7年ころHクリニックにおいて二重瞼の形成手術を受けていたところ,二重瞼にゆるみがあり,また,二重幅が小さくアイラインが書きにくいため,このゆるみを取って目を大きく見せたいと考え,平成10年12月15日,初めて被告 クにおいて二重瞼の形成手術を受けていたところ,二重瞼にゆるみがあり,また,二重幅が小さくアイラインが書きにくいため,このゆるみを取って目を大きく見せたいと考え,平成10年12月15日,初めて被告医院を訪れ,カウンセリングを受けた。 原告は,被告に対し,従前手術によって形成していた二重瞼のゆるみを取って目を大きく見せたいとの要望を述べたところ,被告は,従前の手術のように糸で固定して形成した二重瞼がゆるんでいる場合には,再び糸で固定しても再度ゆるみやすいことが多いので,眼瞼皮膚を切開して皮膚と瞼板を癒着させる方法(切開法)によるのがよい旨の説明を行った。 さらに,被告は,原告が鷲鼻であることから,これを修正し,また下顎の先端が丸くて広い状態になっていることから,下顎骨を部分的に削って細くし,プロテーゼを入れて形を良くするとイメージが変わるであろうと述べた。 イ原告は,平成10年12月24日,再び被告医院を訪れ,手術内容についてカウンセリングを受けた。原告は,二重瞼は普通の幅にしてほしい,鼻骨を削るのは不安なので,鼻骨を削らずにプロテーゼを挿入してほしいとの要望を述べた。被告は原告の上記要望を受けて,二重瞼の形は普通型(眼頭から末広がりに二重幅が広がる形),鼻の手術は鼻骨を削らずにプロテーゼを挿入する方法によることを説明した。原告はこれを了承し,二重瞼,鼻及び下顎の手術を被告医院で受けることとした。 ウ平成11年1月14日,被告は原告に対し,全身麻酔下で第1回手術を施行した。 (ア) 被告は,原告の二重瞼の形成に当たり,原告の眼頭から眼尻にかけて,予定していた二重のライン上の皮膚を切開し,内部の組織をはがした後,皮膚と瞼板を癒着させるために1か所を糸で固定し,切開部分を7針ほど縫合した。 (イ 成に当たり,原告の眼頭から眼尻にかけて,予定していた二重のライン上の皮膚を切開し,内部の組織をはがした後,皮膚と瞼板を癒着させるために1か所を糸で固定し,切開部分を7針ほど縫合した。 (イ) 被告は,原告の鼻に対し,鼻骨の骨膜上にプロテーゼを挿入する方法で隆鼻手術を施行した。 通常の隆鼻手術においては,プロテーゼを鼻骨の骨膜下に挿入する方法が行われており,鼻骨の骨膜上にプロテーゼを挿入した場合には,手術後,鼻に触れると挿入したプロテーゼが動く状態となる。また,鼻線が左右非対称となり曲がりやすく,原告の場合も,鼻根部から鼻突部にかけて,鼻線が左から右に偏位している。 (ウ) 被告は,原告の下顎に対し,下顎口腔内の下歯から1センチメートルほど下(前庭部)にある粘膜部分を切開して,そこから手術器具を挿入して下顎の骨を切除し,プロテーゼを下唇と下顎先端の中間部に挿入した上で,切開部分を縫合した。そのため,口唇や頬に力を入れるとプロテーゼが浮いて顎にしわが寄り,また切開部を縫合した所に袋状の膜(はんこんによる突っぱり)が生じ,そこに食物残滓がたまって不快感があり,さらに違和感をも生じさせている。 通常下顎にプロテーゼを挿入する場合には,下顎口腔内のもっと下の位置(下唇の内側に近い位置)の粘膜部分を切開した上,プロテーゼを下顎骨に密着させて挿入する方法が行われている。 (エ) 被告は,前記2度のカウンセリングの際及び第1回手術の前に,原告に対し,上記のように鼻と下顎の手術について通常行われているのとは異なる方法を採ること,その内容及び結果についての説明を行わなかった。 エ原告は,平成11年1月21日に被告医院において抜糸を行い,同年2月3日に経過観察のため受診した。その際,原告は,鼻が斜めに曲がっ を採ること,その内容及び結果についての説明を行わなかった。 エ原告は,平成11年1月21日に被告医院において抜糸を行い,同年2月3日に経過観察のため受診した。その際,原告は,鼻が斜めに曲がって腫れており,手で鼻に触れると挿入したプロテーゼが動く状態であり,下顎に違和感を感じていたので,これらについて被告に尋ねたところ,被告は,腫れが引けば治るがそれまでもう少し時間がかかると述べた。 オ原告は,平成11年2月14日に被告医院で受診し,右上眼瞼が化膿していると訴えた。被告は,原告の右上眼瞼に化膿を認め,眼軟こう,点眼薬,抗生剤等を処方した。以後,原告は,同年3月3日,11日,15日に上記化膿部分の治療のため受診し,被告はその度に抗生剤等を処方し,同月17日に上記化膿部分は治ゆした。 (2) 第2回手術ア原告は,同月15日及び17日に被告医院で受診した際にも,鼻が曲がって腫れており,手で鼻に触るとプロテーゼが動く旨訴えた。これに対し,被告は,鼻のプロテーゼが動くことは問題ない旨説明し,鼻の曲がりについては,鼻骨を削らずにプロテーゼの形を修正する手術をアフターケアとして無料で行うことを提案し,原告はこれを了承した。 さらに,同月20日の第2回手術の前に,原告は,二重瞼の形について,普通型よりも眼頭の二重幅が大きい並行型(目頭部分の二重幅が他の部分と同じ幅である型)にしたいと考え,並行型の二重瞼が写っている雑誌の写真を持参して,自己の二重瞼を並行型に修正してほしい旨申し出た。被告は,並行型の二重瞼を形成するには新たに眼頭切開を行う必要があり,追加料金として12万円必要であること,眼頭切開を行うと手術こんが残るが,術後日時の経過により徐々に目立たなくなることを説明したところ,原告はこれを了承し,鼻の修正手術とと 眼頭切開を行う必要があり,追加料金として12万円必要であること,眼頭切開を行うと手術こんが残るが,術後日時の経過により徐々に目立たなくなることを説明したところ,原告はこれを了承し,鼻の修正手術とともに上記二重瞼の手術を受けることとした。 イ平成11年3月20日,被告は原告に対し,眼頭を切開して,並行型の二重瞼を形成し,さらに鼻のプロテーゼの形を修正する第2回手術を施行した。 ウ原告は,同月27日に被告医院において抜糸を行い,同月31日に経過観察のため被告医院を訪れ受診した。 (3) 第3回手術ア原告は,平成11年4月7日に被告医院で受診した際,第2回手術後も鼻が曲がっており,手で触れるとプロテーゼが動くと訴えた。被告は,経過を見てどうしても気になるようであればもう一度アフターケアとして無料で修正手術を行うことを提案した。そこで,原告は,もう一度鼻の修正手術を受けることとした。 イ平成11年4月26日,被告は原告に対し,鼻のプロテーゼの形を再度修正する第3回手術を施行し,同年5月10日に抜糸を行った。 ウ原告は,平成11年6月29日に被告医院を訪れ受診したのを最後に,その後被告医院へ全く通院しなくなった。 (4) B美容形成外科における再手術原告は,広島市内のB美容形成外科において,平成12年1月15日に診察を受け,両上瞼のはんこん及び左右非対称,鼻の変形,下顎の知覚異常及び下顎手術のため生じた口腔内切開部の縫合こんへの食物残滓の残留による不快感等を訴え,同年3月21日及び同年4月7日に,二重瞼の修正手術,鼻のプロテーゼ抜去及び新たなプロテーゼの挿入手術,下顎のプロテーゼ抜去及び修正手術を受け,手術等費用として145万5050円を支払った。 2 争点(1)についてア二重瞼の手術 の修正手術,鼻のプロテーゼ抜去及び新たなプロテーゼの挿入手術,下顎のプロテーゼ抜去及び修正手術を受け,手術等費用として145万5050円を支払った。 2 争点(1)についてア二重瞼の手術について(ア) 原告は,二重瞼の手術において,左右の眼瞼のバランスを十分確認して二重瞼の左右非対称を生じさせないようにすべきであり,皮膚と瞼板の縫合固定は2か所以上で行うべきであり,また切開創は術後に傷こんが残存しないよう慎重に縫合し,感染症にり患させないようにすべきであったが,被告はこれらの注意義務を怠った旨主張する。 しかし,乙1中の第1回及び第2回手術後の写真及びB美容形成外科における修正手術前の写真(甲6の1ないし4)によっても,原告には少なくとも一般人が社会生活上気に留めるような二重瞼の左右非対称やはんこんが生じたとは認められない。甲3,13(B美容形成外科の診療録)及び同外科で原告の修正手術を行った医師であるG証人に対する書面尋問結果中には,原告の眼瞼に左右の非対称やはんこんがあったとする記載や陳述があり,原告は同外科で上眼のはんこん形成術を受けたことが認められるが,非対称やはんこんの程度は明らかでなく,上記の各写真に照らしても,それらは一般人が社会生活上気に留める程度のものであったと認めることはできない。 (イ) 原告は,抜糸後縫合部から4,5回糸が出てきたと供述し,縫合が粗雑であったため原告の右上眼瞼を化膿させたと主張するが,抜糸後縫合部から4,5回も糸が出てくるということは通常考え難く,原告の供述のみからそのような事実は認定し難いし,また,原告の右上眼瞼が化膿したのは平成11年2月14日ころ以降であり,第1回手術の1か月後であることから,これが縫合不全等被告の手術手技の誤りによるものであるとはにわかに認 な事実は認定し難いし,また,原告の右上眼瞼が化膿したのは平成11年2月14日ころ以降であり,第1回手術の1か月後であることから,これが縫合不全等被告の手術手技の誤りによるものであるとはにわかに認め難い。 (ウ) 皮膚を切開した後瞼板に縫合固定する方法については,成書によれば通常は2か所ないし3か所で固定するとされているが(甲11),被告は脂肪が少ない場合1か所で固定する方法を採ることも多く,それでも特に不都合は生じていないというのであり(被告本人),本件においても1か所で縫合固定したことが原告の生理的身体的機能に何らかの悪影響を及ぼしたとは認められない。したがって,1か所で縫合固定したのが不適切な処置であったということもできない。 (エ) そうしてみると,二重瞼の手術について施術上の過失があったということはできない。 (オ) さらに,上記のとおり原告には一般人が社会生活上気に留めるような二重瞼の左右非対称やはんこんが生じたといえず,またその程度にまで至らない微妙な左右非対称やわずかなはんこんについてまで説明義務があるとはいえないから,それらについての被告の説明義務違反が問題となる余地はない。 イ鼻の手術について通常の隆鼻手術においては骨膜下にプロテーゼを挿入する方法が採られており,骨膜上にプロテーゼを挿入するという本件手術の方法は,通常成書にも記載されていない特殊な手術方法である。しかもこの方法によると,手で鼻に触れるとプロテーゼが動く状態となり,また鼻線が左右非対称となり曲がりやすく,現に原告の場合も鼻根部から鼻突部にかけて鼻線が左から右へ偏位している。このような結果は,美容整形手術を受ける者にとって通常不快感,嫌悪感を抱くものであることが明らかである。したがって,このような方法による隆鼻手術を行うこと 鼻突部にかけて鼻線が左から右へ偏位している。このような結果は,美容整形手術を受ける者にとって通常不快感,嫌悪感を抱くものであることが明らかである。したがって,このような方法による隆鼻手術を行うことは,それが一般に成書で認められていない特殊な手術方法であること及びそれによる上記のような結果について十分患者に説明して,その納得を得た上で施行した場合でない限り,違法というべきである。 本件において被告は,原告に対し上記のような説明を全く行っていないから,隆鼻手術は違法であり,被告には施術上の過失があったと認められ,不法行為責任を負う。 ウ下顎の手術について(ア) 原告の主張する下顎の痺れ及び下顎周辺の神経の損傷については,原告が自覚症状としての痺れを訴えるのみで,その程度も神経損傷をうかがわせるような激しいものとは認め難いし,これらの原因を裏付ける他覚的所見がなく(G医師も単に原告の愁訴からおとがい神経損傷の可能性を推測するのみであるし(甲3,13,16,証人Gに対する書面尋問の結果),E病院の診断書(甲12)も同様と考えられる。),本件手術によって原告の下顎周辺の神経が損傷されたと認めるに足りるまでの証拠はないというほかない。 (イ) しかし,通常下顎にプロテーゼを挿入する場合には,下唇の内側に近い位置の粘膜部分を切開した上,プロテーゼを下顎骨に密着させて挿入する方法が採られており,下顎口腔内の下歯から1センチメートルほど下の粘膜部分を切開して,プロテーゼを下顎骨に密着させずにより上部に挿入するという本件手術の方法は,通常成書にも記載されていない特殊な方法である。しかも,この方法によったため,原告の場合,口唇や頬に力を入れるとプロテーゼが浮いて顎にしわが寄る状態になり,また切開部が通常の方法によるときよりも上部で 常成書にも記載されていない特殊な方法である。しかも,この方法によったため,原告の場合,口唇や頬に力を入れるとプロテーゼが浮いて顎にしわが寄る状態になり,また切開部が通常の方法によるときよりも上部であるため,縫合した所に袋状の膜(はんこんによる突っぱり)が生じて,そこに食物残滓がたまるし,違和感をも生じさせるというのである。したがって,前記の隆鼻手術と同様,このような方法による下顎手術を行うことは,それが一般に成書で認められていない特殊な手術方法であること及びそれによる上記のような結果について十分患者に説明して,その納得を得た上で施行した場合でない限り,違法というべきである。 本件において被告は,原告に対し上記のような説明を全く行っていないから,下顎手術は違法であり,被告には施術上の過失があったと認められ,不法行為責任を負う。 3 争点(2)について(1) 被告に対する手術等費用本件においては,鼻及び下顎の手術が違法であって,それらについてのみ不法行為責任が認められるから,被告に対する手術費用のうち,鼻及び下顎の手術に関して原告が支払った費用が損害と認められる。そして,麻酔費用及び薬剤費用は二重瞼の手術においても必要であるから,鼻及び下顎の手術費用としての損害額は90万円である(この金額については当事者間に争いがない。)。 (2) B美容形成外科における手術等費用原告がB美容形成外科において修正手術を受け支払った手術費用145万5050円のうち,鼻と下顎の修正手術に要した費用が損害と認められる。そして,被告による手術においては,鼻と下顎の手術費用が全手術費用138万円のうち90万円であったこと,B美容形成外科での手術内容等を勘案すると,原告がB美容形成外科に支払った費用の約6割に当たる87万円をもって よる手術においては,鼻と下顎の手術費用が全手術費用138万円のうち90万円であったこと,B美容形成外科での手術内容等を勘案すると,原告がB美容形成外科に支払った費用の約6割に当たる87万円をもって,鼻及び下顎の手術費用としての損害と認めるのが相当である。 (3) 休業損害及び後遺症による逸失利益前記の鼻及び下顎の違法な手術による症状は,鼻のプロテーゼが動く状態,鼻線の曲がり,下顎のしわや違和感等に尽きるのであって,いずれも就労に影響を及ぼすようなものとはいい難く,それらの症状によって原告が就労を阻害されたと認めることはできない。したがって,休業損害及び後遺症による逸失利益の主張は理由がない。 (4) 慰謝料鼻及び下顎の違法な手術によって原告の被った精神的苦痛に対する慰謝料としては,それらの手術は被告が勧めたものであること,手術内容及びその結果,原告は,被告において2度の修正手術を受け,さらに状態の改善を得るためB美容形成外科において鼻と下顎のプロテーゼを抜去する修正手術を受けることを余儀なくされたこと等諸般の事情をしんしゃくすると,80万円とするのが相当である。 なお,上記の違法な手術によって後遺症状まで残ったとは認められないから,後遺症慰謝料は認められない。 (5) 弁護士費用本件事案の内容等を考慮すると,被告の不法行為と相当因果関係のある損害として被告に負担させるべき弁護士費用の額は,40万円が相当である。 第4 結論以上によれば,原告の請求は,被告に対し損害賠償金297万円及びこれに対する平成11年4月26日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 広島地方 対する平成11年4月26日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 広島地方裁判所民事第3部裁判長裁判官山垣清正裁判官田中一隆裁判官武林仁美

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