主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求の趣旨 1 被告は、原告に対し、10万円及びこれに対する令和5年4月12日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 2 被告は、原告に対し、10万円及びこれに対する令和6年5月16日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 本件は、原告が2度にわたり被告に普通預金口座開設を申し込んだが、被告がいずれも拒絶したことについて、各拒絶は過去に原告が暴力団員であったことを理由にされたものであり、原告を不当に差別し、人格権を侵害すると主張して、民法709条に基づき、各拒絶についてそれぞれ慰謝料10万円ずつ及びこれに対する各不法行為日(各拒絶日である令和5年4月12日と令和6年5月16日)から支払済みまで民 法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実(争いがないか、括弧内の証拠等より認められる事実)⑴ 当事者ア原告は過去に暴力団員であった者である。 イ被告は、銀行業を営む者である。 ⑵ 事実経過ア原告は、令和5年4月12日、被告水戸支店において、就労先から給与振り込みを受けたり、生活費を決済したりすることを目的として、普通預金口座の開設を申し込んだ(甲1。以下「本件申込み1」。)。被告は、同日、本件申込み1を拒絶した(以下「本件拒絶1」という。)。 イ茨城県警察本部刑事部組織犯罪対策課長は、調査嘱託に対し、令和5年10月 23日付けで、原告が平成29年6月まで暴力団員であったことは把握しているが、同月に所属していた暴力団から離脱したことを把握しており、それ以 織犯罪対策課長は、調査嘱託に対し、令和5年10月 23日付けで、原告が平成29年6月まで暴力団員であったことは把握しているが、同月に所属していた暴力団から離脱したことを把握しており、それ以降、原告が暴力団員として活動していた事実は把握していない旨回答した(甲7。以下「本件回答」という。)。 ウ原告は、本件回答を受けて、令和5年11月7日、被告に対し、本件申込み1 と同じ目的で改めて普通預金口座の開設を申し込んだ(以下「本件申込み2」という。)。 被告は、原告に対し、普通預金口座開設の条件として、①原告が、勤務先からの給与受取等、日常生活での利用を目的として預金口座の開設を申し込むこと、暴力団を離脱していること、勤務先を離職した場合、預金口座が開設目的に反するような口座の利用を行った場合、その他警察庁による「暴力団離脱者の口座開設支援策」の趣旨 に照らして不適切と被告が判断する行動・行為が認められた場合には、被告より、この預金口座の取引が停止され、または通知によりこの預金口座が解約されても何ら異議を述べないことを内容とする「誓約書」(乙6の1。以下「本件誓約書」という。)を作成して被告に提出すること、②原告、雇用主及び被告間で、被告が、雇用主に対し、口座開設時に際して原告が雇用主において就労している事実を証する書類の提出、 原告の就労状況や原告が離職した場合には離職に至った経緯や理由の報告を求めることができ、雇用主は直ちにこれに応じること、原告は、雇用主が被告に対し、上記書類の提出や報告をすることについて同意することを内容とする「情報提供に係る合意書」(乙6の2。以下「本件合意書」という。)を提出するよう求めた(以下、上記①②の条件を「本件条件」という。)。 双方訴訟代理人を通じて交渉が行われたが、被 内容とする「情報提供に係る合意書」(乙6の2。以下「本件合意書」という。)を提出するよう求めた(以下、上記①②の条件を「本件条件」という。)。 双方訴訟代理人を通じて交渉が行われたが、被告は、令和6年5月16日、本件申込み2を拒絶した(以下「本件拒絶2」といい、本件拒絶1と併せて「本件各拒絶」という。)。 ⑶ 暴力団離脱者の口座開設支援について(甲6。以下「本件支援策」という。)政府は、平成29年12月、再犯の防止等の推進に関する法律(以下「再犯防止推 進法」という。)に基づく再犯防止推進計画を定め、これを受けて、警察庁は、令和4 年2月1日、同計画に基づく暴力団員の社会復帰推進の支援策として、暴力団から離脱した者が、就労先から給与を受け取るための預貯金口座の開設を申し込んだ場合において、過去に暴力団員であったことを理由に排除されることがないよう、暴力団からの離脱者の預貯金口座の開設に向けた支援策(本件支援策)を策定した。金融機関に対しては、同日、金融庁から一般社団法人全国銀行協会等を通じて周知された。(甲 4、6) 2 争点及び当事者の主張⑴ 本件拒絶1の違法性及び過失について(争点1)(原告の主張)本件拒絶1は、原告が過去に暴力団員であったことを理由に行われたものであると ころ、過去に暴力団員だったという属性は、自らの意思で克服できないものであること、銀行業務には公共性があり(銀行法1条)、被告は、反社会的勢力の排除に関する規定(乙1。以下「本件規定」という。)により、第2条各号の場合(暴力団員や、暴力団員でなくなった時から5年を経過しない者が取引を申し込んだ場合はこれに含まれる。)のいずれにも該当しない場合には取引を開始する旨を公表して自ら契約の 自由を制限しているが、原告は 員や、暴力団員でなくなった時から5年を経過しない者が取引を申し込んだ場合はこれに含まれる。)のいずれにも該当しない場合には取引を開始する旨を公表して自ら契約の 自由を制限しているが、原告は本件規定第2条各号の場合のいずれにも該当しないこと、本件拒絶1により、原告は就職の機会が奪われ、光熱費等の支払いに関して口座振替等ができない不利益を被るのであり、暴力団離脱者への口座開設の拒絶は、暴力団離脱者の社会復帰促進を支援する政府の方針に反し、ひいては、再犯防止推進法の目的である国民が犯罪による被害を受けることを防止し、安全で安心して暮らせる社 会の実現を阻害することなどからすれば、本件拒絶1は、社会的に許容しうる限度を超えて原告を不合理に差別して原告の人格権を侵害するものであり、違法である。 そして、被告は、本件申込み1に対して、原告に暴力団離脱者であることの説明の機会を与えることなく本件拒絶1を行ったのであるから、被告には本件拒絶1について過失がある。 (被告の主張) 否認ないし争う。被告は、本件申込み1を受けて行内の信用情報と照合したところ、原告がA(指定暴力団)の構成員(幹部)であり、複数回の逮捕歴を有する者であることを確認したため、反社会的勢力を金融取引から排除する社会的要請に則って本件拒絶1をしたのであり、原告が過去に暴力団員であったことを理由として本件拒絶1をしたものではない。 また、本件拒絶1をした時点で、原告が暴力団離脱者であることを把握することは不可能であったし、原告に対して暴力団離脱者であることの説明を求めることが容易であったとも、その義務があったともいえない。 ⑵ 本件拒絶2の違法性(争点2)(原告の主張) 本件拒絶2は、原告を暴力団員でないことを認識しながら、原告が ことの説明を求めることが容易であったとも、その義務があったともいえない。 ⑵ 本件拒絶2の違法性(争点2)(原告の主張) 本件拒絶2は、原告を暴力団員でないことを認識しながら、原告が過去に暴力団員であったことを理由に行われたものである。 茨城県警は、原告の暴力団からの離脱時期を明示した上で直接離脱の認定を行い、その後も暴力団員として活動した事実は把握していない旨回答しているのであり(本件回答)、被告が設定した本件条件は、リスク低減の目的達成に対して過度な要求で ある。また、雇用主についてのコンプライアンス上の問題点の懸念は、原告が暴力団から離脱していることに関連性がない。 原告は、被告の求める本件誓約書と本件合意書の作成自体には応じる考えであったのであり、本件拒絶2は、本件拒絶1で原告の指摘した事情も相まって、社会的に許容しうる限度を超えて原告を不合理に差別して原告の人格権を侵害するものであり、 違法である。 (被告の主張)否認ないし争う。本件拒絶2も、原告が過去に暴力団員であったことを理由として行ったものではない。 被告は、本件支援策の内容及び本件支援策を受けて提唱された実務上の対応を踏ま え、元暴力団員という原告の顧客属性を踏まえた場合に想定されるリスクを考慮しつ つ、リスク低減措置を導入して当該リスクを許容範囲内に抑えることを条件として本件申込み2を応諾するべく、本件条件を設定した。本件条件は、本件支援策を受けて提唱された実務上の対応そのものである。 しかし、原告の就労先である株式会社B(以下「B」という。)が労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(以下「労働者派遣法」とい う。)に違反している可能性が払拭できず、就労先による中長期的な雇用の安定性や 以下「B」という。)が労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(以下「労働者派遣法」とい う。)に違反している可能性が払拭できず、就労先による中長期的な雇用の安定性や被告への定期的な報告・情報連携の実現化の可能性の観点から、被告とBが信頼関係を構築することは困難であるし、被告がBと本件合意書を取り交わすことはコンプライアンス上不適切である。被告は、本件条件が充足されず、本件支援策に基づく対応又はこれに準じた対応と整理することができないものと判断して本件申込み2を拒 絶した。 以上のとおり、本件条件の設定及び本件条件を充足しないとの判断は合理性があるというべきである。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実(前提事実、括弧の証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実) ⑴ 本件拒絶1についてア被告は、①平成▲年▲月▲日付けのC新聞における、指定暴力団A系組員である「Ⅾ」という人物(当時の年齢は44歳、住所は水戸市ab丁目)が恐喝未遂の容疑により同日▲日に逮捕された旨の報道及び②平成▲年▲月▲日付けのC新聞における、指定暴力団A系幹部である「Ⅾ」という人物(当時の年齢は46歳、住所は水 戸市ab丁目)が逮捕監禁致傷及び恐喝未遂の容疑により同年▲月▲日に逮捕された旨の報道を踏まえ、これらの報道に係る「Ⅾ」という人物の情報を行内の信用情報として登録していた(乙2の1、乙2の2。上記の登録に係る情報を「本件登録情報」という。)。 イ被告は、本件申込み1に当たり原告から提出された事前受付表(甲1)に記載 された氏名、住所及び生年月日等の情報を、行内の信用情報と照合したところ、本件 登録情報と相当程度一致していることを確認した。被告は、原告がA(指定暴力団)の構成員で複数回 )に記載 された氏名、住所及び生年月日等の情報を、行内の信用情報と照合したところ、本件 登録情報と相当程度一致していることを確認した。被告は、原告がA(指定暴力団)の構成員で複数回の逮捕歴を有する者であると判断し、令和5年4月12日、本件拒絶1を行った。 ウ原告は、事前受付書に、勤務先を「E」と記載し、同社から給与振込みを受けることを目的として口座開設を申し込む旨記載していたが、実際には、当時の勤務先 は同社ではなかった。(乙8)⑵ 本件拒絶2についてア被告は、本件申込み2を受け、本件条件が充足され、本件支援策に基づく対応又はこれに準じた対応を行うことものと整理できる場合には、特段の支障がない限り、本件申込み2を応諾する方針として原告と交渉に当たった。 イ原告訴訟代理人は、令和6年3月21日、被告訴訟代理人に対し、原告が、Bに就職できた旨連絡した。Bは、後記2⑵の協賛企業ではなく、被告訴訟代理人が同社を調査したところ、同社が人材派遣業を行っているのに、労働者派遣法5条1項に基づく労働者派遣事業の許可を得ていない疑いが生じ、同年4月15日、原告訴訟代理人に確認を求めたところ、原告訴訟代理人は、Bが上記許可を得ていない旨回答し た。被告訴訟代理人が、同月24日、原告訴訟代理人に対し、Bにおける就労形態等を整理し、その法的見解を示すよう要請したが、原告訴訟代理人は、同月25日、Bからの聞き取り調査となると協力は得られず、同社と原告との関係が悪くなる可能性もあるとして、要請には応じられない旨回答した。 被告は、上記交渉経過を踏まえて、Bが労働者派遣法に違反している可能性が払拭 できず、就労先による原告への中長期的な雇用の安定性や被告への定期的な報告・情報連携の実現可能性の観点から、このよう 被告は、上記交渉経過を踏まえて、Bが労働者派遣法に違反している可能性が払拭 できず、就労先による原告への中長期的な雇用の安定性や被告への定期的な報告・情報連携の実現可能性の観点から、このような企業とは信頼関係を構築することが困難である、Bと本件合意書を取り交わすことにはコンプライアンス上問題がある、その結果、本件申込み2については、本件条件が充足されず、本件支援策に基づく対応又はこれに準じた対応と整理することができないと判断して、これを拒絶した(本件拒 絶2)。(乙11~16) 2 本件支援策の策定及び実務上の対応⑴ 金融庁は、主要行等向けの総合的な監督指針を定め、金融機関に対して反社会的勢力を金融取引から排除するよう求めており、被告においても、反社会的勢力排除に係る規定(本件規定)により、暴力団員や暴力団から離脱して5年を経過しない者等との取引を拒絶する旨を定め、その旨公表している。 国家公安委員会が令和5年12月に公表した犯罪収益移転危険度調査書では、「顧客の属性と危険度」という項目において、「暴力団等」を取引の危険度に影響を与える顧客の属性の一つとして特定した上で、「匿名・流動型犯罪グループ」が暴力団と協調等して犯罪を行っているという事例があるとの報告がされており、この「匿名・流動型犯罪グループ」を示す図には、同グループの構成員には「元暴力団」も含まれる旨 が記載されている(乙1、4、17[55~56頁])。 ⑵ 本件支援策は、暴力団の壊滅のためには、暴力団員を一人でも多く暴力団から離脱させ、その社会復帰を促すことが重要であるとの認識の下、暴力団から離脱した者の社会復帰支援として策定されたものである。本件支援策において、①支援対象者は、警察により、暴力団から離脱していること、警察又は都道府県 会復帰を促すことが重要であるとの認識の下、暴力団から離脱した者の社会復帰支援として策定されたものである。本件支援策において、①支援対象者は、警察により、暴力団から離脱していること、警察又は都道府県暴力追放推進セン ター(以下「都道府県センター」という。)の支援により協賛企業(都道府県センターの暴力団排除の取組を理解し、各センターの協賛企業として登録されている事業所をいう。協賛企業は、登録に際し、暴力団関係企業ではないことを確認済みである。甲9[249頁]、乙19[60頁])に就労していること、離脱者及び協賛企業が警察等の行う取組に同意していること、支援が妥当でない事情がないことが確認された者 であるとし、②口座開設時の対応要領として、警察又は都道府県センターが、支援対象者に、雇用主(協賛企業)に対して金融機関への同行及び就労状況等の説明、金融機関から求められた場合における就労事実等を証する書面(例:就労証明書)の作成・交付を依頼すること等を教示すること、支援対象者が協賛企業及び都道府県センターとともに金融機関に赴き、必要事項を説明した上で口座開設を申し込むこと、金融機 関から求めがあった場合、都道府県センター及び協賛企業が支援対象者の就労事実等 を証する書類を作成・交付することなどを定め、③口座開設後の対応要領として、警察及び都道府県センターが、通常の活動を通して、支援対象者が暴力団に復帰していないかなどの把握を行うこと、金融機関から警察に対して、暴力団員等の該当性に関する照会がなされた場合には、その都度、必要性を判断した上で回答すること、支援対象者、協賛企業及び金融機関が合意した場合において、支援対象者が離職したとき に協賛企業から金融機関への情報提供が行われることなどを定めている。(甲6[別紙1]) した上で回答すること、支援対象者、協賛企業及び金融機関が合意した場合において、支援対象者が離職したとき に協賛企業から金融機関への情報提供が行われることなどを定めている。(甲6[別紙1])⑶ 本件支援策を受けて提唱された実務上の対応東京3弁護士会暴力団離脱支援プロジェクトチーム所属の弁護士が執筆した「暴力団「離脱者」に対するリスクベース・アプローチと金融機関の実務対応」という論稿 (乙18。以下「本件論稿」という。)では、新規口座開設の検討対象となる者を、暴力団から脱会した事実が認められる者(「脱会者(元暴力団員)」)の中で、暴力団と決別し、更生を図っていると評価される者(「離脱者」)と定義し、「離脱者」は、元暴力団員と比較すると、今後違法な活動を行い、その収益をローンダリングする可能性は相当程度低いものの、口座開設申込時点において暴力団からの「離脱者」は、当該金 融機関との関係で取引等はなく、信頼関係も醸成されているわけではないことからすると、マネロン・テロ資金供与のリスクが相対的に低い者と同等のリスク評価をすることには若干の躊躇を覚えるとした上、「離脱者」に対して口座開設を行うにしても、万一、同人が暴力団員に戻ってしまった場合には、もはやマネー・ローンダリングやテロ資金供与のリスクは暴力団員(反社会的勢力)と何ら異ならず、暴力団に戻った とはいえなくとも、一定期間、金融機関からはもちろん、就労先、警察等からも連絡が取れない状態が継続した場合や、反社会的行為を行ったり、金融機関との信頼関係を著しく損なう行動をしたりした場合には、マネー・ローンダリングやテロ資金供与の蓋然性が、元暴力団員という属性も相まって飛躍的に高まるといわざるを得ないから、「離脱者」からの口座開設申込に対しては、リスクベース・アプロー たりした場合には、マネー・ローンダリングやテロ資金供与の蓋然性が、元暴力団員という属性も相まって飛躍的に高まるといわざるを得ないから、「離脱者」からの口座開設申込に対しては、リスクベース・アプローチに基づくリ スク低減措置を講じる必要がある旨を指摘している。 そして、本件論稿は、具体的リスク低減措置として、金融機関が、預金口座の開設を申し込んだ「離脱者」から誓約書(現在暴力団員等の反社会的勢力に該当せず、将来においても所属しないことを表明し、開設口座用途の限定を承諾すること、定期的に就労状況を報告し、離職した場合にはその後の就労状況や収入に関する情報を報告すること、誓約事項に反した場合には一方的に口座を解約されることに異議を述べな いことなどを内容とするもの)や、「離脱者」、就労先及び金融機関間の三者合意書(金融機関が求めた場合に、就労先は、「離脱者」の就労状況を証する書類を提出し、就労状況の報告に応じるものとし、「離脱者」が離職したら、離職に至った経緯や理由を就労先が報告することを三者間で合意する内容のもの)を取得することを提唱している。 3 争点1(本件拒絶1の違法性及び過失)について ⑴ 前記認定事実1⑴のとおり、本件拒絶1は、原告から提出された事前受付表に記載された氏名、住所及び生年月日等の情報を行内の信用情報と照合したところ、本件登録情報と相当程度一致していたことから、原告が指定暴力団の構成員で逮捕歴を有する者であることを確認したためであると認められる。そして、原告が暴力団から離脱して5年経過した者であることは、本件回答によって被告に明らかになった事実 であり、本件拒絶1の時点では上記事実は明らかになっていなかったから、被告は、反社会勢力を金融取引から排除するとの要請に基づき、本件拒絶1を ることは、本件回答によって被告に明らかになった事実 であり、本件拒絶1の時点では上記事実は明らかになっていなかったから、被告は、反社会勢力を金融取引から排除するとの要請に基づき、本件拒絶1を行ったものと認められる。 ⑵ 原告は、①本件拒絶1は、原告が過去に暴力団員であったことを理由に行われたものであるところ、過去に暴力団員だったという属性は自らの意思で克服できない ものであること、②銀行業務には公共性があり(銀行法1条)、被告は本件規定第2条各号に該当しない場合には取引を開始する旨公表して自ら契約の自由を制限していること、③本件拒絶1により、原告は就職の機会が奪われ、光熱費等の支払いに関して口座振替等ができない不利益を被るのであり、暴力団離脱者への口座開設の拒絶は、暴力団離脱者の社会復帰促進を支援する政府方針に反し、ひいては再犯防止推進法の 目的を阻害することなどからすれば、本件拒絶1は、社会的に許容しうる限度を超え て原告を不合理に差別して原告の人格権を侵害するものであり、違法であるとし、さらに、④被告は、本件申込1に対して、原告に暴力団離脱者であることの説明の機会を与えることなく本件拒絶1を行った過失がある旨主張する。 しかしながら、①について、本件拒絶1が、原告が過去に暴力団員であったことを理由とするものではないことは前記説示のとおりであり、原告の主張は前提を欠く。 ②については、銀行法には、銀行業務に公共性がある旨の規定(銀行法1条)が存するものの、本来的には、銀行には顧客との取引を行うか否か判断する契約の自由があり、上記規定があることから、被告が、普通預金口座申込みがあればこれに応諾する義務があると解することはできない。また、本件規定も、反社会的勢力との取引を排除するべく、第2条各号(暴力 契約の自由があり、上記規定があることから、被告が、普通預金口座申込みがあればこれに応諾する義務があると解することはできない。また、本件規定も、反社会的勢力との取引を排除するべく、第2条各号(暴力団員や、暴力団員でなくなった時から5年を経過し ない者など)に該当する者との取引を拒絶する旨を定めるものであるが(乙1)、被告がこれに該当しない者とは取引を行うことを定めて、自ら契約の自由を制限したものと解することもできない。原告は、札幌地方裁判所平成14年11月11日判決に照らして本件拒絶1が違法である旨の主張もするが、同判決は、公衆企業を運営する私企業が、外国人であることを理由として入浴拒否をした事案に係るものであり、本件 とは事案を異にし、適切ではない。 ③については、本件拒絶1により原告の就職の機会が奪われたという関係性は認められない上、被告が本件拒絶1をした時点では、被告において原告が暴力団から離脱して5年経過した者であるか明らかになっていなかったこと、本件支援策も暴力団から離脱して5年経過した者であることをもって直ちに支援対象者とするものではな いこと、他方で、被告には反社会的勢力との取引の排除が要請されていることに照らせば、本件拒絶1が、政府方針に反するないし再犯防止推進法の目的を阻害するということはできない。 ④については、被告が、本件拒絶1当時、原告が暴力団から離脱して5年経過した者であったことを気付く契機があったとは認められない上、行内の信用情報と照合し て原告を暴力団員と確認したのであれば、反社会的勢力との取引排除の要請から原告 との取引を拒絶すべき立場にあったというべきであり、原告に暴力団を脱退した者か否かを説明させる機会を与えるべき法的義務があったとは解されない。 したがって、原告 の取引排除の要請から原告 との取引を拒絶すべき立場にあったというべきであり、原告に暴力団を脱退した者か否かを説明させる機会を与えるべき法的義務があったとは解されない。 したがって、原告の上記主張は、いずれも採用することができない。 ⑶ 以上によれば、本件申込み1に対して、被告が拒絶したこと(本件拒絶1)には違法性も過失もない。 4 争点2(本件拒絶2の違法性)について⑴ア前提事実及び前記認定事実1⑵のとおり、茨城県警察本部刑事部組織犯罪対策課長から本件回答があったことを受けて、原告から改めて普通預金口座開設申込み(本件申込み2)がされたのに対し、被告は、原告に対して、本件誓約書と本件合意書の提出を求めているところ(本件条件)、東京3弁護士会暴力団離脱支援プロジェ クトチーム所属の弁護士による、本件支援策の実務上の対応を記した本件論稿においても、暴力団からの「離脱者」(暴力団から脱会した事実が認められる者(「脱会者(元暴力団員)」)の中で、暴力団と決別し、更生を図っていると評価される者)であっても、リスクベース・アプローチに基づくリスク低減措置を講じる必要がある旨の指摘がされ、具体的には、「離脱者」からの誓約書の提出や、「離脱者」、就労先及び金融機 関間の三者合意書を取得することが提唱されているのであり(前記2⑶)、被告が設定した本件条件は、本件論稿で提唱された実務上の対応に沿ったものであったいえる。 そして、本件支援策では後記イのとおり暴力団から離脱している者の口座開設申込みに対して就労先と金融機関とが適切に連携協力することが予定されていることや、上記2⑴のとおり近時の国家公安委員会作成の報告書において元暴力団という属性 の危険性について言及されていることに照らして、本件論稿で提唱された実務上の 連携協力することが予定されていることや、上記2⑴のとおり近時の国家公安委員会作成の報告書において元暴力団という属性 の危険性について言及されていることに照らして、本件論稿で提唱された実務上の対応は合理性があり、これに沿って設定された本件条件もまた合理性があるといえる。 イまた、本件支援策は、警察から暴力団から離脱している者を直ちに支援対象者とするのでなく、暴力団から離脱している者のうち、協賛企業で就労し、協賛企業も警察等が行う取組に同意していることも要件とするものであり、口座開設時及び口座 開設後の対応要領においても、就労先が支援対象者とともに金融機関に口座開設の申 し込みをする、金融機関の求めがあれば支援対象者の就労状況や支援対象者が離職した場合には情報提供をすることなどを定めていること(前記2⑵)からすれば、本件支援策では、支援対象者が就労先(なお、就労先が協賛企業であれば暴力団関係企業ではないことが確認されている。)で安定的に稼働し、就労先から金融機関に対して適時適切に支援対象者の就労状況等に関する報告や情報提供をするなどして、支援対 象者が再び反社会的勢力との関わりをもたず、開設された預金口座が反社会的勢力により使用されることのないよう、就労先と金融機関とが適切に連携協力をすることが予定されているといえる。 しかるところ、原告の就労先であるBは協賛企業ではなく、人材派遣業を行っているが労働者派遣法の許可を得ておらず、同社が労働者派遣法に違反している可能性が 払拭できないこと、被告訴訟代理人が、Bにおける就労形態等を整理し、その法的見解を示すよう要請したが、原告訴訟代理人は、Bからの聞き取り調査となると協力は得られず、同社と原告との関係が悪くなる可能性もあるとして、要請には応じられない旨回答し る就労形態等を整理し、その法的見解を示すよう要請したが、原告訴訟代理人は、Bからの聞き取り調査となると協力は得られず、同社と原告との関係が悪くなる可能性もあるとして、要請には応じられない旨回答したこと(前記1⑵)からすれば、原告がBにおいて安定的に稼働し、同社から被告に対して適時適切に原告の就労状況等について報告や情報提供するなどの 連携協力が得られないおそれがあるといわざるを得ないし、労働者派遣法違反の疑いが払拭できないBと本件合意書を取り交わすことにコンプライアンス上の問題があると判断したことも首肯できるというべきである。もとより、就労先が協賛企業ではないことの一事をもって口座開設が妨げられるものではないと考えられるものの(本件論稿[24頁])、就労先に上記おそれないし問題があると認められる本件において、 被告が、本件条件が充足されず、本件支援策に基づく対応又はこれに準じた対応と整理することができないと判断したことには、合理性があるといえる。 ⑵ 原告は、①被告は、原告を暴力団員でないことを認識しながら、原告が過去に暴力団員であったことを理由に本件拒絶2をした、②茨城県警は、原告の暴力団からの離脱時期を明示した上で、直接離脱の認定を行い、その後も暴力団員として活動し た事実は把握していない旨回答しているのであり(本件回答)、本件条件は、リスク低 減の目的達成に対して過度な要求であるし、コンプライアンス上の問題点の懸念は原告が暴力団から離脱していることに関連性がない、③原告は、本件誓約書と本件合意書の作成自体には応じる考えであったとして、本件拒絶1で原告が指摘した事情も相まって、本件拒絶2が、社会的に許容しうる限度を超えて原告を不合理に差別して原告の人格権を侵害するものであり、違法である旨主張する。 応じる考えであったとして、本件拒絶1で原告が指摘した事情も相まって、本件拒絶2が、社会的に許容しうる限度を超えて原告を不合理に差別して原告の人格権を侵害するものであり、違法である旨主張する。 しかしながら、①については、本件拒絶2が、原告が過去に暴力団員であることを理由に行われたものではないことは、既に説示したとおりである。 ②については、茨城県警察本部刑事部組織犯罪対策課長からの本件回答は、原告が平成29年6月まで暴力団員であったことは把握しているが、同月に所属していた暴力団から離脱したことを把握しており、それ以降、原告が暴力団員として活動してい た事実は把握していない旨のものにとどまり、原告が本件支援策における支援対象者であることを明らかにしたものとまでは解されない上、本件支援策を受けた実務上の対応として、暴力団からの「離脱者」であってもリスクベース・アプローチに基づくリスク低減措置を講じる必要がある旨の指摘がされ、具体的措置として誓約書や三者合意書を取得することが提唱されていること、就労先と金融機関とが適切に連携協力 をすることが予定されていることは既に説示したとおりであり、本件条件が過剰であるとはいえないし、就労先のコンプライアンス上の問題は関連性がないともいえない。 ③については、原告はBとの関係悪化を懸念して被告訴訟代理人からの要請に応じていないのであり、上記主張には疑問がある上、仮にBが本件合意書の作成に応じたとしても、その作成目的である同社と被告との適切な連携協力が期待できると評価す ることは困難である。 したがって、原告の上記主張は、いずれも採用することができない。 ⑶ 以上によれば、本件申込み2に対して、被告はこれを拒絶したこと(本件拒絶2)には違法性がない。 5 まとめ 本件 したがって、原告の上記主張は、いずれも採用することができない。 以上によれば、本件申込み2に対して、被告はこれを拒絶したこと(本件拒絶2)には違法性がない。 まとめ 本件各拒絶は、いずれも原告が過去に暴力団員であったことを理由にされたものではなく、原告を不当に差別し、社会的に許容し得る限度を超えて原告の人格権を侵害したものとはいえないから、不法行為には該当せず、原告の請求は理由がない。 そして、原告が他に種々主張する点を検討しても、以上の認定、判断は左右されない。 よって、主文のとおり判決する。 水戸地方裁判所民事第2部 裁判長裁判官佐々木健二 裁判官野内謙志 裁判官井上かれん
▼ クリックして全文を表示