- 1 - 主文 原決定を破棄し、原々決定に対する抗告を棄却する。 抗告手続の総費用は相手方の負担とする。 理由 抗告代理人福島政幸の抗告理由について 1 相手方は、子ども・子育て支援法(以下「法」という。)29条1項に規定する特定地域型保育事業者(以下、単に「保育事業者」という。)として同項に規定する特定地域型保育(以下、単に「保育」という。)を行っている。 本件は、抗告人が、抗告人の相手方に対する金銭債権を表示した債務名義(熊谷簡易裁判所令和4年(ノ)第22号事件の執行力のある調停調書)による強制執行として、相手方の第三債務者熊谷市に対する原々決定別紙差押債権目録記載の債権(以下「本件被差押債権」という。)の差押えを求める申立て(以下「本件申立て」という。)をした事案である。 2 原審は、要旨次のとおり判断して、本件申立てを認容した原々決定を取り消し、本件申立てを却下した。 本件被差押債権が差し押さえられた場合、法17条の規定によって差押えが禁止されている「子どものための教育・保育給付を受ける権利」の一つである保護者の地域型保育給付費の支給を受ける権利(法29条1項)が差し押さえられたのと同様の結果となり、法17条の趣旨に反する事態が生ずることとなるから、本件被差押債権は、同条にいう「子どものための教育・保育給付を受ける権利」に当たり、差押えが禁止されたものと解するのが相当である。 3 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次令和6年(許)第12号債権差押命令に対する執行抗告審の取消決定等に対する許可抗告事件令和7年3月19日第二小法廷決定- 2 -のとおりである。 ⑴ 法は、子ど きない。その理由は、次令和6年(許)第12号債権差押命令に対する執行抗告審の取消決定等に対する許可抗告事件令和7年3月19日第二小法廷決定- 2 -のとおりである。 ⑴ 法は、子ども・子育て支援給付その他の子ども及び子どもを養育している者に必要な支援を行うことなどをその目的としており(1条)、市町村において、保護者(6条2項)に対し、子ども(同条1項)のための教育・保育給付を受ける資格を有することなどについての認定を行うものとした上(20条。以下、この認定に係る子どものうち23条4項に規定する満三歳未満保育認定子ども及び20条4項に規定する教育・保育給付認定保護者をそれぞれ「認定子ども」及び「認定保護者」という。)、認定子どもが保育事業者から保育を受けた場合には、市町村が、子どものための教育・保育給付の一つとして、当該認定子どもに係る認定保護者に対し、29条1項に規定する満三歳未満保育認定地域型保育に要した費用(以下、単に「保育費用」という。)について、所定の地域型保育給付費を支給する旨を定めている(11条、29条1項)。 他方で、法は、上記の場合において、市町村は、上記認定子どもに係る認定保護者が上記保育事業者に支払うべき保育費用について、地域型保育給付費として当該認定保護者に支給すべき額の限度において、当該認定保護者に代わり、当該保育事業者に支払うことができる旨(29条5項)、この支払があったときは、当該認定保護者に対して地域型保育給付費の支給があったものとみなす旨(同条6項)、市町村は、保育事業者から地域型保育給付費の請求があったときは、所定の基準に照らして審査の上、支払うものとする旨(同条7項)をそれぞれ定めている。これらの規定は、地域型保育給付費に相当する額の金員が確実に保育費用に充てられるようにするととも 求があったときは、所定の基準に照らして審査の上、支払うものとする旨(同条7項)をそれぞれ定めている。これらの規定は、地域型保育給付費に相当する額の金員が確実に保育費用に充てられるようにするとともに、認定保護者の事務的・経済的負担の軽減を図るなどの趣旨から、市町村が、認定保護者に対する地域型保育給付費の支給をせずに、保育事業者に対し、上記の金員を直接支払う制度(以下「直接支払制度」という。)を定めたものと解される。そして、このような直接支払制度の趣旨に加え、法29条7項が「市町村は、特定地域型保育事業者から地域型保育給付費の請求があったときは、(中略)支払うものとする。」と規定していることに照らすと、直接支払制度の下- 3 -において、保育事業者は、市町村に対し、上記の金員の支払を求める債権(以下「保育事業者債権」という。)を有するものと解するのが相当である。 ⑵ その上で、保育事業者債権が、法17条にいう「子どものための教育・保育給付を受ける権利」に当たるか否かを検討する。 法の上記目的に照らすと、法17条が地域型保育給付費の支給を受ける権利の差押え等を禁止しているのは、認定子どもに係る認定保護者が地域型保育給付費の支給を現実に受けることができるようにして、当該認定子ども及び当該認定保護者の保護を図る趣旨によるものであって、保育事業者の保護を図る趣旨によるものではないと解される。また、地域型保育給付費に相当する額の金員が確実に保育費用に充てられるようにするという直接支払制度の上記趣旨からすると、保育事業者債権について、当該保育事業者の債権者がこれを差し押さえ、取り立てるなどしても、当該保育事業者は、当該保育事業者債権に相当する額の保育費用を認定保護者に対して請求することはできないと解されるから、法17条の上記趣旨に反する事態が生 者がこれを差し押さえ、取り立てるなどしても、当該保育事業者は、当該保育事業者債権に相当する額の保育費用を認定保護者に対して請求することはできないと解されるから、法17条の上記趣旨に反する事態が生ずるものではない。 以上によれば、保育事業者債権は、法17条にいう「子どものための教育・保育給付を受ける権利」に当たらないというべきである。したがって、原審が、本件被差押債権は、「子どものための教育・保育給付を受ける権利」に当たり、差押えが禁止されると判断したことには、法令の解釈適用を誤った違法がある。そして、その他に保育事業者債権に対して強制執行をすることができないと解すべき理由はないから、原審の判断の上記違法は裁判に影響を及ぼすことが明らかである。 4 以上のとおりであるから、上記の趣旨をいう論旨は理由があり、その余の論旨について判断するまでもなく、原決定は破棄を免れない。そして、以上に説示したところによれば、本件申立てを認容した原々決定は正当であるから、原々決定に対する相手方の抗告を棄却することとする。 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。なお、裁判官尾島明の補足意見がある。 - 4 -裁判官尾島明の補足意見は、次のとおりである。 1 私は、債権者(抗告人)が、債務者(相手方)である保育事業者の第三債務者熊谷市に対して有する原々決定別紙差押債権目録記載の債権(保育事業者債権)の差押えをすることができるとする法廷意見に賛同するものであるが、そのように考える理由を補足的に述べることとする。 2 本件で問題になるのは、第1に抗告人が差押えを求めている相手方の熊谷市に対する債権が存在するか否か、第2に同債権が存在するとした場合に、これが法17条の規定により差押えができないものに当たるか否かである。 3 まず、法2 1に抗告人が差押えを求めている相手方の熊谷市に対する債権が存在するか否か、第2に同債権が存在するとした場合に、これが法17条の規定により差押えができないものに当たるか否かである。 3 まず、法29条の仕組みの下で保育事業者の市町村に対する債権が存在するか否かについて検討する。 本件においては保育事業者債権の差押えが禁止されるか否かが争点であることから、法廷意見のように、保育事業者債権の法的性質等をこれ以上明らかにするような検討をするまでもなく結論を導くことができるのであるが、私は、法29条の文言から、次のように解することができるのではないかと考えている。福祉関係の法律は、多くの関係者(本件の場合でいえば、市町村、保育事業者及び保護者あるいはこれらの者の債権者など)の利害に関わることから、その実務的な運営が合理的で分かりやすく、しかも確実になるよう、まず規定内容が文理上明確であることが要請されるというべきである。そして、子ども・子育て支援法は、その適用対象を画するため、種々の厳密な定義規定を置いているところ、法29条の規定をその文言に従って読むと、次のように解釈することになるのではないかと思われる。 法29条は、地域型保育給付費の支給等の仕組みに関する規定である。地域型保育給付費は、認定子どもが保育事業者から特定地域型保育を受けたときに、その保育費用についての支援をするため、市町村が認定保護者に対し、一定の手続を経て支給するものである(同条1項から4項まで)。 認定子どもが保育事業者から満三歳未満保育認定地域型保育を受けたときは、認定保護者には保育事業者との契約に基づく保育費用を支払う義務が生ずるのである- 5 -が、市町村は、法29条5項の規定に基づき、同保育費用について、地域型保育給付費として当該認定保護者に支給すべき額の限度 には保育事業者との契約に基づく保育費用を支払う義務が生ずるのである- 5 -が、市町村は、法29条5項の規定に基づき、同保育費用について、地域型保育給付費として当該認定保護者に支給すべき額の限度において、認定保護者に代わり、保育事業者に支払うことができる。 法29条5項は、法3条1項各号に掲げる責務を有する市町村が、保育に係る契約の当事者ではないものの、認定保護者に代わって、地域型保育給付費として保護者に支給すべき額の限度で保育費用を保育事業者に支払う権限を有することを認めた規定であるが、この規定があることによって直ちに保育事業者の市町村に対する債権が発生するわけではない。法29条5項の規定による支払があったときは、その支払額について保育事業者の認定保護者に対する保育費用の支払請求権が消滅することになるので、同条1項の規定により市町村から認定保護者に対して地域型保育給付費を支給する必要がなくなることから、同条6項の規定により、認定保護者に対する地域型保育給付費の支給があったものとみなすこととされている。 法29条7項は、保育事業者が認定保護者から保育費用の支払を受けることなく、本来は認定子どもが保育を受けたときに同条1項の規定により認定保護者に対して市町村が支給することとされている地域型保育給付費を保育事業者が市町村に請求して受領できるようにすることが、保育事業者、認定保護者及び市町村のいずれの当事者にとっても便宜であることから設けられた規定であると解される。そうすると、同条7項の規定を置くことにより、保育事業者による請求と市町村による審査を経て、保育事業者の市町村に対する地域型保育給付費の支払債権(保育事業者債権)が発生することとしたものと解するのが相当である。 上記のように、特定地域型保育に関連して市町村が保育事業者に対して支 査を経て、保育事業者の市町村に対する地域型保育給付費の支払債権(保育事業者債権)が発生することとしたものと解するのが相当である。 上記のように、特定地域型保育に関連して市町村が保育事業者に対して支払うものについては、法29条5項と同条7項の両方に規定が置かれていることになるが、それらの規定の文言上は、同条5項の規定により支払うものは保育費用であり、同条7項の規定により支払うものは地域型保育給付費であると明確に区別されているといわざるを得ない。このことが規定の解釈を困難にし、同種の仕組みを採用する福祉関係の規定の解釈について、様々な下級審裁判例や学説が現れる原因に- 6 -なっているように思われる。 4 上記3のように法29条7項の規定により保育事業者から市町村に対して地域型保育給付費の支払債権が発生すると整理すると、次に、これが法17条の規定により差押禁止債権になるか否かが問題になる。 法17条は、「子どものための教育・保育給付を受ける権利」は差し押さえることができない旨規定しているところ、地域型保育給付費の支給は、法11条の規定により、子どものための教育・保育給付の一つであるとされている。 法29条が制度の仕組みを定める地域型保育給付費につき、市町村から認定保護者に交付することを「支給」とし(同条1項)、市町村から保育事業者に交付することを「支払」として(同条7項)用語を区別しているといえるのであれば、法17条、11条が差押禁止にしているのは、地域型保育給付費の「支給」を受ける権利であるから、保育事業者から市町村に対して法29条7項の規定により発生する債権は、法17条の差押債権に当たらないと文言上いえるのであるが、子ども・子育て支援法の諸規定が厳密に「支給」と「支払」とを区別していると断言する根拠はない。したがって、保育事業者 定により発生する債権は、法17条の差押債権に当たらないと文言上いえるのであるが、子ども・子育て支援法の諸規定が厳密に「支給」と「支払」とを区別していると断言する根拠はない。したがって、保育事業者から市町村に対して法29条7項の規定により発生する債権が法17条によって差押えが禁止されているか否かは、更に規定の趣旨、目的等を勘案して解釈しなければならないことになる。 子ども・子育て支援法は、子ども・子育て支援給付その他の子ども及び子どもを養育している者に必要な支援を行うことなどをその目的としており(1条)、また、「子ども・子育て支援」の定義は、「国若しくは地方公共団体又は地域における子育ての支援を行う者が実施する子ども及び子どもの保護者に対する支援をいう」としている(7条1項)。そうすると、法29条が制度を定める地域型保育給付費も、子ども及び子どもの保護者に対する支援をするためのものであり、法17条が地域型保育給付費の支給を受ける権利は譲り渡し、担保に供し、又は差し押さえることができないとしているのも、保護者の受給権を保護するためのものであって、保育事業者の保護は同条の規定の対象外であるといわざるを得ない。保育事業- 7 -者の経営に支障がないようにするためにも差押禁止債権の範囲を定めているというのであれば、保育事業者の認定保護者に対する保育費用債権について差押禁止としないでおいて、保育事業者が市町村に請求することによって取得することになる地域型保育給付費の支払を受ける権利については差押禁止にすることは、制度としての整合性を欠くこととなろう。 また、保育事業者の市町村に対する地域型保育給付費の支払債権が保育費用の支払を認定保護者から受けることに代わるものとして法定されたものであることからすると、同債権が差し押さえられ、債権者がこれを また、保育事業者の市町村に対する地域型保育給付費の支払債権が保育費用の支払を認定保護者から受けることに代わるものとして法定されたものであることからすると、同債権が差し押さえられ、債権者がこれを取り立てた場合には、認定保護者は保育事業者に地域型保育給付費と同額の保育費用を支払ったことになるというべきであって、保護者の受給権の保護に欠けるところはないといえる。 したがって、法29条7項の規定により保育事業者が市町村に請求することによって取得することになる地域型保育給付費の支払を受ける権利は、法17条の規定による差押禁止の対象にはならないというべきである。 5 なお、私は、法29条の規定は、文言上は上記3のように整理するのが相当であると考えるが、市町村が同条5項の規定により支払うものが保育費用であり、同条7項の規定により発生し支払うものが地域型保育給付費であるとされた理由は明らかでない。もっとも、法廷意見や上記4のとおり、債権者が保育事業者債権として差し押さえて取り立てたものが地域型保育給付費であるとしても、保育事業者が同債権額相当の保育費用を別途認定保護者に対して請求することは、明文の規定はないものの、できないと解すべきである。 また、例えば、⑴認定子どもが保育を受けたときの、保育事業者の認定保護者に対する保育費用債権、保育事業者の市町村に対する法29条7項の規定により発生する債権及び認定保護者の市町村に対する地域型保育給付費債権の相互の関係をどのように理解するのか、⑵保育事業者の債権者が市町村に対する保育事業者債権を差し押さえた後に、認定保護者が保育事業者に対して保育費用を支払ってしまうとどのような法律関係になるのか(また、認定保護者が市町村に対して地域型保育給- 8 -付費を請求した場合に、上記差押えの効力はどうなるのか)、⑶ 保護者が保育事業者に対して保育費用を支払ってしまうとどのような法律関係になるのか(また、認定保護者が市町村に対して地域型保育給- 8 -付費を請求した場合に、上記差押えの効力はどうなるのか)、⑶保育事業者の債権者Aが保育事業者債権を差し押さえ、同債権者Bが認定保護者に対する保育費用債権を差し押さえるといった事態も想定できるが、そのような場合に、一方の債権者が他方の債権者より先に被差押債権を取り立てることができるのか、これができるとするとその後の法律関係はどうなるのかなどと派生する様々な問題があり得るが、本件は、保育事業者の市町村に対する債権(保育事業者債権)の差押えが禁止されるか否かだけが争点であるから、それらの派生問題についてまで検討し、判断する必要がなく、それらは今後生ずるかもしれない事案における審理に委ねられることになる。 (裁判長裁判官尾島明裁判官三浦守裁判官草野耕一裁判官岡村和美)
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