平成14特(わ)845 商法違反被告

裁判年月日・裁判所
平成15年4月30日 東京地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-5673.txt

判決文本文31,421 文字)

○ 東証・大証2部上場企業における株主の権利行使に関する利益供与事件について,当時の代表取締役に実行担当者等との間の共謀の成立が認められた事例平成14年特(わ)第845号商法違反被告事件判決 主文 被告人を懲役1年に処する。 この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。 訴訟費用は被告人の負担とする。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,鉄鋼の製造販売等を業とするA工業株式会社の代表取締役会長であったものであるが,同社総務部長であった弁論分離前の相被告人B,同社の次期代表取締役社長候補であった同Cと共謀の上,同社の1単位の株式の数(1000株)以上の株主であるDらに同社の第70回定時株主総会(平成12年6月28日開催)への出席・発言を差し控えさせるなどして同総会議事の円滑な進行に協力すること等への報酬やそのための経費等の趣旨で,平成12年6月12日,同社の株主総会対策を委嘱された弁論分離前の相被告人Eに対し,同社の計算において,東京都中央区a町b丁目c番d号所在の当時のF銀行G支店のEが管理する株式会社H名義の普通預金口座に現金525万円を振込入金し,もって,株主の権利の行使に関し財産上の利益を供与した。 (事実認定の補足説明) 1 弁護人は,Bが,Cと共謀してEに対し,判示のとおりの株主総会対策の報酬等の趣旨で,A工業の計算において,金525万円の利益を供与した事実は争わないものの,被告人は本件犯行当時,かかる利益供与の事実を認識しておらず,BやCとの間で共謀を遂げたことはない旨主張し,被告人も,同旨の供述をして 計算において,金525万円の利益を供与した事実は争わないものの,被告人は本件犯行当時,かかる利益供与の事実を認識しておらず,BやCとの間で共謀を遂げたことはない旨主張し,被告人も,同旨の供述をしているので,以下,当裁判所が判示の事実を認定した理由を補足して説明する。 2 証拠上明らかな前提事実(1) A工業は,静岡県浜松市に本社を置き,鉄鋼の製造販売等を業とする東証・大証2部上場企業であったところ,平成2年ころ,建設仮設鋼材のレンタルを業とするI株式会社の子会社となった。被告人は,もとIの取締役であったが,平成10年4月ころA工業に出向し,同年6月には代表取締役社長に就任した。 平成11年4月ころ,IがJなる会社に対し,いわゆる公開買い付けの方法で,保有していたA工業の株式を売却したために,A工業はJの子会社となり,同社から役員を受け入れた。被告人は,平成11年10月末ころ,A工業の資金調達等に関しJ側と対立し,代表権のない取締役に退いた。 しかし,その後,Jは,上記A工業株を買い付ける資金の調達がうまくいかず,その結果,Iから取得したA工業の株式が大量に仕手筋等に拡散して安定株主が存在しない状態になり,また,Jが実現可能性の乏しい第三者割当増資や新規事業を宣伝したことなども重なって,A工業株はその株価が激しく上下し,いわゆる仕手株として知られるようになり,一部の株式については暴力団関係者の手に渡る事態になった。このような状況の中,A工業は,業績の悪化もあって,一層の信用の失墜を招き,平成11年の秋ころ,一部の取引先や銀行から取引中止の申入れを受けるなどして,経営の危機に陥った。 (2) ところで,Cは,決済用カード事業等を行う会社を経営していた者であるが,上場企業を経営し,その信用力を得て自己の事業を拡張したいと考えるように 入れを受けるなどして,経営の危機に陥った。 (2) ところで,Cは,決済用カード事業等を行う会社を経営していた者であるが,上場企業を経営し,その信用力を得て自己の事業を拡張したいと考えるようになり,平成11年11月ころ,株式会社Kを経営して経営コンサルタントや企業間の合併,買収工作に携わっていたEと面識を持ち,Eに対して買収できそうな2部上場企業を紹介し,買収の仲介をして欲しい旨依頼した。Eは,知人からA工業を紹介されて買収に臨むこととし,平成12年2月10日ころ(以後,平成12年の出来事については,年号の表記を省略する。),Cと共に,被告人を含むA工業の役員らとの会議等を経て,同月中旬ころ,それぞれA工業との間で経営に協力する旨の委嘱契約を締結し,経営の参加に向けた準備を本格化させた。その後,E及びCは,数回にわたって,被告人らA工業の役員と会議を持ち,CのA工業の買収の方法等について検討を重ね,Cを第三者割当増資の引受け先として同人を安定株主とすることとし,さらに6月に開催される予定であった第70回定時株主総会(以下「本件株主総会」という。)において,CをA工業の代表取締役に選任し,Cが行っていた決済用カード事業も業務内容に含むようにA工業の定款を変更する方針を定めた。そして,被告人も,A工業を再建し,Cらの経営参画によりJの支配を排除する最後の機会であると考えて,Cとの提携に積極的に取り組むようになった。 Eは,このような会議の席等において,被告人らA工業の役員に対し,広島県呉市に存在する暴力団の関係者等悪名高い仕手筋がA工業の仕手戦に関わっているので自分たちが対応する旨告げた上,総会までは何が起こるか分からないので,会社から1人で帰らない,飲み屋で仕事の話はしないなどの注意をしていた。また,元柔道選手である部下のLをA 手戦に関わっているので自分たちが対応する旨告げた上,総会までは何が起こるか分からないので,会社から1人で帰らない,飲み屋で仕事の話はしないなどの注意をしていた。また,元柔道選手である部下のLをA工業の東京支社に詰めさせ,Jから派遣された役員等に対する仕手筋等からの抗議に備えていた。 (3) Cは,当初はA工業の資産を担保に入れて資金を調達した上,一株100円で新規に1000万株を発行し,これを全て一人で引き受ける意向であったが,Cの資金調達のためにA工業の資産を担保に入れる点や一株100円の発行価額については,被告人らA工業の経営陣から反対を受け,了承を得られる見込みがない状況にあった。そこで,C及びEは,4月8日,静岡県浜松市内のMホテルにおいて,被告人,B,取締役のN並びに監査役のOらJから派遣された役員以外のA工業の役員と会議を行い,その席で上記の資金調達の方針を撤回して発行価額を一株140円とすることで合意した上,Cが自前で資金を調達して500万株を引き受け,残余の500万株については,Eが経営する株式会社Pが引き受けることとなった。この会議の際には,Eから増資後の資金調達方法としてワラント債について説明があったほか,経営危機を招いたJから派遣された役員をA工業から追放することについても協議がなされた。もっとも,上記の1株140円という発行価額は,当時の株価に照らして極めて安価であったため,C及びEは,同月28日,A工業との間で,上記第三者割当増資について株主訴訟が起こされて新株発行価額が低廉に過ぎると判断された場合には裁判所の指摘した差額を支払う旨の合意書を作成していた。 (4) 上記のMホテルの会議の結果を踏まえて,同月11日,A工業において臨時役員会が開催され,Jの派遣取締役3名が退任することとなった上,Cが正式に 指摘した差額を支払う旨の合意書を作成していた。 (4) 上記のMホテルの会議の結果を踏まえて,同月11日,A工業において臨時役員会が開催され,Jの派遣取締役3名が退任することとなった上,Cが正式に代表取締役社長に就任するまでの間,被告人が代表取締役会長に就任し,本件株主総会の議長を務めることとなった。また,被告人やCらは,同月27日,全国紙等において,Cに対する第三者割当増資の実施及びCの決済カード事業との業務提携,さらに6月の本件株主総会でCが社長に就任する旨を発表した。 (5) ところで,A工業に対しては,本件以前より,仕手筋やそこから株式を取得した者らから新規事業の遅れやJの経営責任等についての抗議が寄せられていたところ,これについては,専ら総務部長のBが対応していた。2月ころには,暴力団関係者であるDらがA工業の株主として浜松市の本社でBと直接面談し,Jの責任について詰問するなどしていた。また,被告人が代表取締役に復帰した4月上旬ころには,新聞社の社主を名乗るQから取材の申込みなどがなされていたところ,4月27日の上記報道の後はCらに対する第三者株式増資についても質問等が寄せられるようになった。さらに5月10日には,Q,D及びA工業の株主を名乗る暴力団関係者であるRの3名が,A工業の東京支店に来訪した上,被告人やBに対し,新規の決済カード事業でA工業が再建できるのか,上記Pは安定株主としては不適格ではないかなどと詰問し,さらに,帰り際にもBを怒鳴りつけるなどした。 (6) C及びEに対する第三者割当増資は同月16日が入金期日とされていたところ,その前日,被告人に対し,B又はLを介して,Eから払込金の手当ができないとして6000万円の融資の申し込みがあった旨伝えられた。被告人は,上記第三者割当増資を無事に完了するために,これ いたところ,その前日,被告人に対し,B又はLを介して,Eから払込金の手当ができないとして6000万円の融資の申し込みがあった旨伝えられた。被告人は,上記第三者割当増資を無事に完了するために,これを受諾することとし,その旨をBに指示し,その結果,上記第三者割当増資に対する払込は無事に終了した。 もっとも,その直後,Bは,Dらが上記第三者割当増資に関して刑事告訴を検討しているなどと電話で告げられていた。 (7) Eは,被告人及びBからそれぞれ上記(5)の経緯の報告を受けていたところ,前記のとおり第三者割当増資の入金が終了したことから,本件株主総会のための株主対策に真剣に取り組むこととし,右翼関係者等の知り合いがおり,Qとも面識を有していたSに対し,A工業の第三者割当増資の入金は終わったが,肝心の株主総会を乗り切らなければならないとして,Qらを抑え込んでもらいたい旨依頼した。Sは,これを了承した上,右翼団体を主宰していたTに対し,Dらとの折衝を依頼し,その旨Eに報告した。 また,Eは,同月19日,Lを介して,Bから,Dらの名前を含む,注意を要するとされるA工業の株主の一覧表を入手した上,被告人らとSやTを引き合わせることとして,Bに対し,同月22日に被告人とEの事務所に来るように連絡し,さらにその際,Bに対し,株主総会対策の報酬や経費として500万円を請求した。 (8) 同月22日,Eの事務所を訪れた被告人は,Eから,Qらに対する対応を依頼している人物としてS及びTを紹介され,両名と名刺を交換した。Tは,一見して右翼や暴力団関係者のような風体であり,その名刺にはU同盟V塾塾長という肩書が記載されていた。 Eは,同月24日,A工業に対し,調査費名目で500万円の請求書を送付するとともに,S及びTにはLを介して100万円を交付した。Bは, あり,その名刺にはU同盟V塾塾長という肩書が記載されていた。 Eは,同月24日,A工業に対し,調査費名目で500万円の請求書を送付するとともに,S及びTにはLを介して100万円を交付した。Bは,6月12日,総務課の部下であるWを介して,Eが設立した株式会社であるH名義の判示銀行口座に対し,調査費名目の500万円に消費税名目の25万円を加えた合計金525万円を振込送金した。 (9) もっとも,A工業に対しては,5月26日,ある株主の代理人と称する者から上記(5)の第三者割当増資の発行価額が不当であるとして訴えを提起する旨の書面が送付されていた上,6月13日には,Rの代理人からも,同様の書面が送付されるに至った。SやTらは,本件株主総会に先立ち,Qらに対して株主総会で発言しないように求めたが,同人らからその確約を得ることができなかったため,本件株主総会に配下の者を約10名動員することとした。また,被告人らは,本件株主総会が荒れることを懸念して,浜松市内の警察署に警察官の臨場を要請するとともに,株主の一部が議長席に詰め寄る事態を想定して,議長席と一般株主席の間に書記席を設けた上,一般株主席の最前列を空席にすることとした。 なお,Cは,5月24日,Eと共に会食した際,Eから,暴力団関係者についてはSを使って押さえることにした旨知らされていた上,本件株主総会の前日,EからS及びTを紹介され,A工業からEに対し,株主対策として金員が供与されたであろうことを了解していた。 (10) 被告人は,本件株主総会の当日の朝,偶然同じホテルに宿泊していたTやその配下の暴力団風の男性数名を見かけて挨拶を交わした。Dらは,結局,本件株主総会に出席せず,被告人が議長を務める中,懸案であったカード事業に関する定款の一部変更に関する議案及びCの取締役選任に関する の配下の暴力団風の男性数名を見かけて挨拶を交わした。Dらは,結局,本件株主総会に出席せず,被告人が議長を務める中,懸案であったカード事業に関する定款の一部変更に関する議案及びCの取締役選任に関する議案は,いずれも株主から全く質問を受けることなく,原案通りに承認された。しかしながら,Tは,その配下10名と共に本件株主総会に出席した上,「議事進行」「異議なし」などと大声を上げて拍手を送るなどしており,その結果,一般株主の質問が遮られたりすることもあり,いわゆる与党側の総会屋が出席していることは,一見して明らかな状態であった。 3 検察官の主張とこれに対する判断(1) 検察官の主張検察官は,被告人とBが本件525万円の利益供与について具体的に共謀を遂げたと主張し,①4月8日のMホテルにおける会議の席で,Eは,A工業の株式の一部が仕手筋から暴力団に流れているので,今年の株主総会は非常に荒れるだろうが,是非無事に終了させなければならないので,金はかかるが,自分にまかせて欲しいと発言し,被告人,Cら出席した者全員がこれを了承した,②Bは,5月19日,A工業の決算発表を行うために浜松市の商工会議所に赴いた被告人に対し,自動車の中で,Eから株主総会対策の報酬として500万円の請求を受けた旨話したところ,被告人はこれを承諾し,Cの了承も取っておいた方がよいと言った,③5月22日,東京のEの事務所において,Eから,被告人とBに対し,株主総会対策費として500万円は承知してくれますねという話があり,被告人がこれを了承した,という事実経過が認められると主張する。そして,Bは,公判廷で,これらの事実があった旨供述している。そこで,以下Bのこれらの供述の信用性について検討する。 (2) Bの供述の信用性について(ア) まず,Bの供述は,具体的である する。そして,Bは,公判廷で,これらの事実があった旨供述している。そこで,以下Bのこれらの供述の信用性について検討する。 (2) Bの供述の信用性について(ア) まず,Bの供述は,具体的である上,全体としては,先に認定した証拠上明らかな事実関係とよく符合しているということができる。しかしながら,Bは,本件犯行において刑事訴追を受けていた者であり,A工業側において,本件犯行を積極的に主導したのが誰かという点は,情状に大きく影響を及ぼす事実であるから,その点において,Bは被告人及びCと利害が相反する立場にあったことが認められる。そして,Bの公判供述によると,Bは,Cから経営陣が交替した後には常務取締役に昇進させる旨告げられていたというのであって,本件株主総会の成否に被告人とは別の固有の利害関係を有していたことが認められる上,被告人は,当公判廷において,Bは勤務歴からすれば取締役になってもおかしくなかったが,器量に問題があると考えていたので,一貫してBの昇進に反対していた,JがA工業の実権を掌握していた当時においては,BはJ側について被告人と対立する立場にあった旨供述しており,被告人とBは,本件当時代表取締役と総務部長という関係にはあったものの,必ずしも円満な関係ではなく,相互に不信感をもつ間柄であったことがうかがわれる。 そうすると,Bの公判供述の信用性については慎重な検討を要するというべきであり,以下①ないし③の各供述について個別に検討する。 (イ) まず,①の供述についてみると,Eは,公判廷で,株主対策において,最悪の場合1票1議席を争って金がかかることになるかもしれないと述べたが,A工業の役員は黙って聞いていたので,これを了解したものと解釈したと供述している。Eは,本件犯行と対向犯の関係に立つ利益収受罪について刑事訴追を受けてい て金がかかることになるかもしれないと述べたが,A工業の役員は黙って聞いていたので,これを了解したものと解釈したと供述している。Eは,本件犯行と対向犯の関係に立つ利益収受罪について刑事訴追を受けていた者であるが,捜査段階から一貫した供述をしている上,その内容は,先に認定した証拠上明らかな事実関係とよく符合している。また,Eは,供述全般にわたって,殊更に被告人らA工業側に刑責を転嫁しようとする姿勢がみられず,記憶の曖昧な部分とそうでない部分,推測にわたる部分とそうでない部分とを区別して明確に供述しており,その供述態度は真摯なものといえる。そうすると,Eの供述は高度の信用性を有するものと認められ,Bの①の供述は,Eの供述と符合する限度において,一定の信用性を有するということができる。しかし,関係証拠を総合すれば,上記会議の主要議題はC及びEが一株140円の価額で1000万株を取得してA工業の経営に参加し,Jから派遣された役員をA工業から追放することを決めたというものであって,株主に対する対策は,Cらが第三者割当増資に対する払込を完了した後の仮定の話であり,いわば付加的なものに過ぎなかったことが認められるのであるから,Eは,正確にはEが法廷で供述した上記のとおりの発言をしたにとどまるものと認めるのが相当であり,Bの前記供述とはニュアンスが異なっているというべきである。これに対し,被告人,O及びNは,いずれも公判廷において,上記の会議の際に,株主対策に金がかかるという話を聞いた記憶はないと供述するが,被告人は,捜査段階では,この会議の際に株主対策の話がでたとして公判廷と矛盾する供述をしている上,前記の本件会議の主要議題と本件話題の仮定的,付加的な位置づけからすれば,N及びOはEのこの点に関する話を忘れてしまったと考えるのが相当であり,被告人 話がでたとして公判廷と矛盾する供述をしている上,前記の本件会議の主要議題と本件話題の仮定的,付加的な位置づけからすれば,N及びOはEのこの点に関する話を忘れてしまったと考えるのが相当であり,被告人らの供述が発言者であるEの供述の信用性に影響を与えるものとはいえない。 ところで,Bは,前記会議に続いて,被告人,N,Oとともにいた同じホテルのラウンジで,被告人らに対し,株主総会対策としてEに金を支払うことの了承を求め,被告人らはこれを承諾したという事実があったとも証言している。しかし,被告人,N,Oは,いずれもこのような話はなかったと明確に否定する供述をしている上,前記のとおり株主総会対策は仮定の話にすぎないものであるから,A工業の役員がこの時点で株主総会対策を行うことで合意したというのはやや唐突であり,不自然な印象がぬぐえない。これらの点に前記のB供述の一般的な問題点をも考慮すると,Bのこの部分の供述は信用性が乏しいというべきである。 そこで,Eの前記発言の本件共謀の成否に及ぼす意味についてみるに,4月8日の会議の主要議題は前記のとおりであって,Eの前記発言は仮定的,付加的な意味を持つに過ぎないものである上,E自身,金を使った株主対策を実際に行おうと考えたのは第三者割当増資に対する払込を終了した後のことであると供述しており,被告人らの株主総会に対する認識は,この時点ではいまだ希薄であったこともうかがえるのであるから,前記会議におけるEの発言と被告人らの対応をもって,Eと被告人らA工業の役員との間で,株主総会に対する対策として利益供与を行うことの謀議をとげたとまで認めるのは早計というべきであり,後にみるとおり,本件犯行の共謀に至る一つの過程とみるのが相当である。 (ロ) 次に,②の供述についてみると,被告人は,捜査段階から一貫して,Bと の謀議をとげたとまで認めるのは早計というべきであり,後にみるとおり,本件犯行の共謀に至る一つの過程とみるのが相当である。 (ロ) 次に,②の供述についてみると,被告人は,捜査段階から一貫して,Bとの間でこのようなやり取りがあったことを否定する供述をしている。また,この時に車を運転していたと思われるA工業社員のXは,公判廷において,運転に集中していたとはしながらも,車内の会話については一切覚えていない旨供述しており,その他,Bの②の供述を裏付ける証拠は存在しない。また,Bは,Cに対しては,5月23日に個別に株主対策費として500万円を出すことに対して了解を取り,N等の他の取締役に対しても,5月下旬の経営会議において,総会対策費として500万円を出金することを報告し,了承を得たと供述しているのであるが,Cは,捜査段階で,そのような話を聞いたことの明確な記憶を有していないと供述している上,Nは,公判廷で,上記事実を明確に否定する供述をしている。 以上の諸点に加え,Bには,本件株主総会の成否について被告人とは別の固有の利害関係があったことなど前記のB供述の一般的な問題点をも考慮すれば,5月19日にBが被告人に対して500万円を出金することへの了解を求めた点に関しては,Bの供述は信用性に乏しいというべきである。 (ハ) さらに,③の供述についてみると,Eは,公判廷で,これを否定し,既に500万円についてはBから承諾する旨の返事をもらっていたので,この時点であえて念押しする必要はなかったと思う旨,説得力のある供述をしており,前記のとおり,E供述には高い信用性が認められるのであるから,これと反するBの③の供述は,信用できないというべきである。 (3) 結論以上の検討の結果によれば,検察官の主張する各事情のうち,②及び③の事実は,いずれもこ い信用性が認められるのであるから,これと反するBの③の供述は,信用できないというべきである。 (3) 結論以上の検討の結果によれば,検察官の主張する各事情のうち,②及び③の事実は,いずれもこれを認めることができず,①の事実は,Eの供述と符合する限度においてこれを認めることができるものの,これをもって利益供与を行うことの共謀があったとまで解することはできないのであるから,被告人とBが本件525万円の利益供与について具体的に共謀を遂げたとする検察官の主張は理由がない。 4 被告人とBとの黙示の共謀について(1) 証拠上認められる間接事実ところで,被告人は,BやCと本件の共謀を遂げた事実はないと主張しているところ,その公判供述の内容を子細に検討すると,そのときどきの被告人の心情や認識,事実の評価については,捜査段階から理由なく変遷している部分もある上,客観的な事実関係や周囲の状況等に照らして疑問を差し挟むべき点もないではないが,これらの点を捨象した具体的な事実経緯については,捜査公判を通してほぼ一貫した供述をしており,自己に不利益な事実について率直に述べている部分も認められる。 そうすると,被告人の公判供述は,具体的な事実経緯については,概ね信用性を肯定できるところ,かかる被告人の公判供述に,前記の前提事実及び関係者の供述等の関係証拠を総合すれば,被告人とBとの間に,Eに対し,株主総会対策の報酬等の趣旨で金員を供与することの共謀があったことを推認させるものとして,以下のとおりの事実が認められる。 ア被告人は,2月か3月の某日,Eから,Jが放出した株の一部が暴力団関係者等に流れており,彼らがどういう形で攻撃を仕掛けてくるかわからないから,一人で帰るなとか飲み屋で仕事の話をするななどと様々な注意を受け,具体的な契約内容こそ知ら ,Jが放出した株の一部が暴力団関係者等に流れており,彼らがどういう形で攻撃を仕掛けてくるかわからないから,一人で帰るなとか飲み屋で仕事の話をするななどと様々な注意を受け,具体的な契約内容こそ知らなかったものの,EがA工業から報酬を得て暴力団等の特殊株主に対する対策を講ずる業務に従事しているのを認識した。 イ被告人は,4月8日のMホテルにおける会議において,Eから,今度の株主総会は荒れるかもしれないので,最悪の場合,一票一議席を争って金がかかることになるかもしれない旨聞いたが,特段異議を述べなかった。 ウ被告人は,4月11日A工業の唯一の代表取締役に就任するとともに,本件株主総会の議長を務めることになり,総会後はCに次ぐ副社長として経営陣に残ることが内定した。 エ被告人は,5月10日,Bとともに,暴力団関係者かその周辺の人物であってA工業の株主であるというD,Q,及びRと直接面会し,同人らからCやEと提携して本当にA工業は再建できるのかなどと詰問され,Bが怒鳴りつけられる場面を目撃したことにより,Dらによって本件株主総会が混乱させられる危険性を認識し,Eにその会談の様子を報告した。 オ被告人は,5月22日,Bとともに,Eの事務所で,右翼や暴力団関係者のような風体と肩書を持つSやTを紹介されて名刺交換をし,Eから彼らにD等の特殊株主対策を依頼している旨説明を受けた。被告人は,Eの事務所を出てBに対し,あんな連中に頼んだら金がかかるのではないかと尋ねたところ,Bから,Eの方で対処してもらっているので心配しないでくださいと言われ,そのまま引き下がった。 カ 5月24日,EからA工業に対し,本件500万円の請求書が送られ,6月12日,Bの指示によりA工業からEが経営する会社の口座に対し,消費税分を加えた525万円が振り込まれた。 引き下がった。 カ 5月24日,EからA工業に対し,本件500万円の請求書が送られ,6月12日,Bの指示によりA工業からEが経営する会社の口座に対し,消費税分を加えた525万円が振り込まれた。 キ被告人は,6月6日,Eとその部下で株主総会対策に当たっていたLを夜の食事に誘って接待し,その席でTの所属する右翼団体の規模を尋ね,1000人規模の団体らしいとの返答を聞いた。 ク被告人は,6月28日の本件株主総会当日,ホテルでTやその配下の暴力団風の男性数名と挨拶をかわし,彼らが総会に出席して「議事進行」,「異議なし」などと大声を上げて拍手を送るなどしているのを議長として目撃したが,そのことについてBやEに異議を述べなかった。 ケなお,被告人は,公判廷で,①4月8日のMホテルにおける会議において,Eから株主対策に金がかかるかもしれないと言われた記憶はない,②5月10日のDらとの会合において,Dらによって株主総会が混乱させられるとは思わなかった,③5月22日のEの事務所における会談後Bと話した際も,Tらが違法な株主総会対策を行うとまでは思っていなかったなどと,一部これらの認定と反する供述もしている。 しかし,①の点については,既にみたとおり,捜査段階から供述が変遷している上,信用性の高い前記Eの供述と対比すると,信用性が乏しいというべきである。 また,②の点については,前記の証拠上明らかな前提事実からすれば,代表取締役会長であり,かつ,本件株主総会の議長をすることになっていた被告人が,Dら暴力団関係者の株主と直接面談して,本件株主総会を混乱させられるという危惧感を全く持たなかったとはにわかに信じがたい上,現に,DらはBの発言に激昂してBを怒鳴りつけ,被告人が後日この会合の様子をEに報告した事実があるのであるから,被告人が,このと 乱させられるという危惧感を全く持たなかったとはにわかに信じがたい上,現に,DらはBの発言に激昂してBを怒鳴りつけ,被告人が後日この会合の様子をEに報告した事実があるのであるから,被告人が,このときDらによって本件株主総会が混乱させられる危険性を認識したと認めるのが相当である。 次に,③の点についてみると,Eの前記発言内容やTの人相,肩書からすれば,Tは,Dらの特殊株主が株主総会に出席して議事を攪乱することがないように活動していることは容易に察しがつくものである上,被告人が本件株主総会の議長であり,その進行に重大な関心を有していること,本件会合が本件株主総会の約1か月前と近接した時期に行われていること等の事情にも照らすと,被告人は,Tが本件株主総会において特殊株主が出席・発言しないように行動することを認識しながらこれを容認していたと認めることができる。 よって,①ないし③の被告人の公判供述は,いずれも信用することができないことになる。 (2) 検討そして,以上の事実を総合すれば,被告人は,5月22日の時点において,EがTらを使って株主総会対策を行うことを知り,BがEに対してそのための報酬や費用を会社の金で支払う意思があることを認識しながら,代表取締役としてこれを暗黙のうちに了承したものであり,その結果,BがEに対し本件525万円の利益供与をしたものと認められる。そうすると,被告人は,525万円という具体的な金額こそ認識していなかったものの,Bと共謀して本件利益供与に及んだと認めることができる。 (3) 弁護人の主張に対する判断弁護人は,Bは,4月28日,A工業とEが経営する株式会社Hとの間で,C及びEが第三者割当増資としてA工業に出資する金員のうち,その3パーセントにあたる金4200万円を仲介手数料としてEが経営する前 弁護人は,Bは,4月28日,A工業とEが経営する株式会社Hとの間で,C及びEが第三者割当増資としてA工業に出資する金員のうち,その3パーセントにあたる金4200万円を仲介手数料としてEが経営する前記会社に支払う旨の契約(以下,「本件仲介手数料契約」という。)を,必要な社内の稟議を得ることなく締結し,支払いをした事実があるのであるから,このような独断行動をとっていたBが,本件利益供与について被告人に相談をしていなかったとしても何ら不自然ではなく,被告人との間でBが本件利益供与について共謀した事実はないと主張している。 検討するに,この点に関するBと被告人,N及びOの各供述との間には食い違いがあり,本件仲介手数料契約について社内で稟議又は取締役会の承認を得た旨の客観的な証拠は存在しないこと,及び,前記のとおり,B供述の信用性には問題があることに照らすと,Bが,被告人やA工業の役員の了承を得ないまま,本件仲介手数料契約を締結して支払を行った可能性は否定できない。しかしながら,被告人とBは,前記のとおり,それぞれ独自の立場や利害関係こそあるものの,共通して,本件株主総会の運営に危機感をもち,その成否に重大な利害関係を有していたことは明らかである。そして,前記のとおり,被告人は,本件525万円という具体的な金額こそ認識していないものの,5月22日のEの事務所における会合の後,Bとの間で前記のとおりの会話をしている事実が認められるのである。そうすると,弁護人の指摘する事情は,被告人がBとの間で本件利益供与について共謀した事実に影響を及ぼす事情ではないと認められる。 その他,弁護人が主張する点を子細に検討しても,本件共謀の認定に影響を及ぼす事情は認められない。 5 結論以上のとおりであって,被告人が,本件犯行についてBとの間で共謀を遂げ と認められる。 その他,弁護人が主張する点を子細に検討しても,本件共謀の認定に影響を及ぼす事情は認められない。 5 結論以上のとおりであって,被告人が,本件犯行についてBとの間で共謀を遂げていた事実が認められ,また,証拠上明らかな前提事実によれば,BはCとの間で共謀を遂げていた事実も明らかであるから,判示の事実は優に認めることができる。 (量刑の理由) 1 本件は,東証・大証2部上場企業であるA工業の代表取締役であった被告人が,同社の次期社長候補のC及び同社総務部長のBと共謀の上,経営コンサルタント業をしていたEに対し,株主総会対策の報酬や経費等として525万円を供与したという利益供与の事案である。 2 被告人は,Bや他のA工業の役員らと共に,上場企業の信用を生かして自己の事業の拡大をもくろんでいたCに大量の自社株式を引き受けさせて本件会社の代表取締役社長に就任させることにより,当時安定株主不在のまま経営危機に陥っていたA工業を再建することを企図していたところ,同社の株主となっていた暴力団関係者等が上記再建方針に反対する姿勢を示していたため,同人らがCの同社取締役選任決議等が議案となっていた本件株主総会に出席してこれを妨害するのではないかと危惧し,BやCとともに,Eの助言のもと,右翼団体関係者等の力を借りてでも上記総会の円滑な進行を確保しようと考え,その工作費の支出として本件犯行に及んだものである。このように,本件犯行は,当時のA工業の代表取締役,総務部長等に加え,次期社長候補者をも関与した会社ぐるみの組織的犯行である上,その動機も被告人らの意図する人事等を一方的に実現しようとしたものにほかならず,犯情は悪質である。また,本件株主総会においては,当時のA工業の状況に照らせば,会社再建の方策のみならず,それまでのA工業の経営 被告人らの意図する人事等を一方的に実現しようとしたものにほかならず,犯情は悪質である。また,本件株主総会においては,当時のA工業の状況に照らせば,会社再建の方策のみならず,それまでのA工業の経営責任等に関する質問も予想されたところ,本件犯行の結果,Eを通じて10人以上の右翼団体関係者が本件株主総会に出席し,大声や拍手で議事の進行を促すなどして一般株主からの質問を封じてしまったのであり,株主総会における株主の正当な権利行使を現実に阻害した点において,本件犯行の結果は重大である上,A工業の財産から525万円という多額の金員がEに交付されることによって失われており,A工業に与えた財産的損害の点においてもその結果は軽視できない。さらに,本件犯行は,上場企業の経営者らによる不祥事ということで,新聞等で報道されて社会の耳目を集めたものである上,その影響もあってA工業は破産に至ってしまったものであり,本件犯行が社会に与えた影響も決して看過できない。 3 そして,被告人は,本件犯行当時,代表取締役という地位にあったところ,上記の再建方針が失敗した場合にはA工業を整理する可能性も十分にあったというのであって,自らが議長を務める本件株主総会の円滑な進行に対して,他の共犯者と同様に重大な利害を有していたことは明らかであり,その職責を考慮するとき,まさにA工業側の中心人物として本件犯行に臨んだものということができ,厳しい社会的非難を免れ得ない。 この点,被告人は,Cが社長に就任するまでの間,一時的に代表取締役を務めていた者であり,本件犯行について,自ら提案して積極的にこれを実現したものではなく,本件犯行を主導していたBやEから具体的に本件犯行の報告や相談を受けていたとも認められないのであって,その認識は概括的なものであったともいえる。 しかし,被告人は 積極的にこれを実現したものではなく,本件犯行を主導していたBやEから具体的に本件犯行の報告や相談を受けていたとも認められないのであって,その認識は概括的なものであったともいえる。 しかし,被告人は,本件株主総会に向けた株主対策のために金員を供与することを認識しながら,何ら反対したり異議を留めたりせず,これを了承して是認しているのであり,代表取締役である被告人のこのような姿勢が,実行犯であるBらに対する大きな精神的な援助となったことは疑いを容れる余地が無く,被告人は,本件犯行において,現実に多大な加功をしたものと認められる。 しかるに,被告人は,当公判廷において,本件犯行の責任を共犯者に転嫁し,自己の刑事責任を免れようとする姿勢に終始しているのであって,自己の行為の重大さを直視する姿勢に欠けており,真摯な反省の念を認めることは困難である。 そうすると,被告人の刑事責任は,本件犯行を実際に主導した他の共犯者との対比においても,同様に重いといわなけれならない。 4 しかし他方,上記のとおり,被告人が自ら積極的に本件犯行を企図したものではなく,その認識も概括的なものに止まっていること,本件株主総会に先立ち,A工業に対し,暴力団関係者等から執拗な圧力が加えられており,被告人らにおいて本件株主総会の運営に危機感を抱いたことは理解できないでもないこと,本件犯行について否認する姿勢に終始しながらも,法に触れるようなことがないように徹底管理すべきであったとして代表取締役としての責任を果たせなかったことについては,それなりに反省する姿勢を示していること,本件が新聞で報道されるなどして一定の社会的制裁を受けていること,被告人には前科はなく,本件犯行によって初めて身柄拘束を受けたこと,既に高齢である上,糖尿病や高血圧症等の持病を有していることなど被告人の 聞で報道されるなどして一定の社会的制裁を受けていること,被告人には前科はなく,本件犯行によって初めて身柄拘束を受けたこと,既に高齢である上,糖尿病や高血圧症等の持病を有していることなど被告人のために酌むべき事情も認められる。 5 以上の全ての事情を総合考慮すると,被告人については,懲役1年に処した上,主文掲記の期間その刑の執行を猶予するのを相当と判断した。 (求刑懲役1年)平成15年4月30日東京地方裁判所刑事第2部 裁判長裁判官杉山愼治裁判官横山泰造 裁判官蛯原意 ○ 東証・大証2部上場企業における株主の権利行使に関する利益供与事件について,当時の代表取締役に実行担当者等との間の共謀の成立が認められた事例平成14年特(わ)第845号商法違反被告事件判決 主文 被告人を懲役1年に処する。 この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。 訴訟費用は被告人の負担とする。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,鉄鋼の製造販売等を業とするA工業株式会社の代表取締役会長であったものであるが,同社総務部長であった弁論分離前の相被告人B,同社の次期代表取締役社長候補であった同Cと共謀の上,同社の1単位の株式の数(1000株)以上の株主であるD 式会社の代表取締役会長であったものであるが,同社総務部長であった弁論分離前の相被告人B,同社の次期代表取締役社長候補であった同Cと共謀の上,同社の1単位の株式の数(1000株)以上の株主であるDらに同社の第70回定時株主総会(平成12年6月28日開催)への出席・発言を差し控えさせるなどして同総会議事の円滑な進行に協力すること等への報酬やそのための経費等の趣旨で,平成12年6月12日,同社の株主総会対策を委嘱された弁論分離前の相被告人Eに対し,同社の計算において,東京都中央区a町b丁目c番d号所在の当時のF銀行G支店のEが管理する株式会社H名義の普通預金口座に現金525万円を振込入金し,もって,株主の権利の行使に関し財産上の利益を供与した。 (事実認定の補足説明) 1 弁護人は,Bが,Cと共謀してEに対し,判示のとおりの株主総会対策の報酬等の趣旨で,A工業の計算において,金525万円の利益を供与した事実は争わないものの,被告人は本件犯行当時,かかる利益供与の事実を認識しておらず,BやCとの間で共謀を遂げたことはない旨主張し,被告人も,同旨の供述をしているので,以下,当裁判所が判示の事実を認定した理由を補足して説明する。 2 証拠上明らかな前提事実(1) A工業は,静岡県浜松市に本社を置き,鉄鋼の製造販売等を業とする東証・大証2部上場企業であったところ,平成2年ころ,建設仮設鋼材のレンタルを業とするI株式会社の子会社となった。被告人は,もとIの取締役であったが,平成10年4月ころA工業に出向し,同年6月には代表取締役社長に就任した。 平成11年4月ころ,IがJなる会社に対し,いわゆる公開買い付けの方法で,保有していたA工業の株式を売却したために,A工業はJの子会社となり,同社から役員を受け入れた。被告人は,平成11年10月末ころ, 11年4月ころ,IがJなる会社に対し,いわゆる公開買い付けの方法で,保有していたA工業の株式を売却したために,A工業はJの子会社となり,同社から役員を受け入れた。被告人は,平成11年10月末ころ,A工業の資金調達等に関しJ側と対立し,代表権のない取締役に退いた。 しかし,その後,Jは,上記A工業株を買い付ける資金の調達がうまくいかず,その結果,Iから取得したA工業の株式が大量に仕手筋等に拡散して安定株主が存在しない状態になり,また,Jが実現可能性の乏しい第三者割当増資や新規事業を宣伝したことなども重なって,A工業株はその株価が激しく上下し,いわゆる仕手株として知られるようになり,一部の株式については暴力団関係者の手に渡る事態になった。このような状況の中,A工業は,業績の悪化もあって,一層の信用の失墜を招き,平成11年の秋ころ,一部の取引先や銀行から取引中止の申入れを受けるなどして,経営の危機に陥った。 (2) ところで,Cは,決済用カード事業等を行う会社を経営していた者であるが,上場企業を経営し,その信用力を得て自己の事業を拡張したいと考えるようになり,平成11年11月ころ,株式会社Kを経営して経営コンサルタントや企業間の合併,買収工作に携わっていたEと面識を持ち,Eに対して買収できそうな2部上場企業を紹介し,買収の仲介をして欲しい旨依頼した。Eは,知人からA工業を紹介されて買収に臨むこととし,平成12年2月10日ころ(以後,平成12年の出来事については,年号の表記を省略する。),Cと共に,被告人を含むA工業の役員らとの会議等を経て,同月中旬ころ,それぞれA工業との間で経営に協力する旨の委嘱契約を締結し,経営の参加に向けた準備を本格化させた。その後,E及びCは,数回にわたって,被告人らA工業の役員と会議を持ち,CのA工業の買収の 中旬ころ,それぞれA工業との間で経営に協力する旨の委嘱契約を締結し,経営の参加に向けた準備を本格化させた。その後,E及びCは,数回にわたって,被告人らA工業の役員と会議を持ち,CのA工業の買収の方法等について検討を重ね,Cを第三者割当増資の引受け先として同人を安定株主とすることとし,さらに6月に開催される予定であった第70回定時株主総会(以下「本件株主総会」という。)において,CをA工業の代表取締役に選任し,Cが行っていた決済用カード事業も業務内容に含むようにA工業の定款を変更する方針を定めた。そして,被告人も,A工業を再建し,Cらの経営参画によりJの支配を排除する最後の機会であると考えて,Cとの提携に積極的に取り組むようになった。 Eは,このような会議の席等において,被告人らA工業の役員に対し,広島県呉市に存在する暴力団の関係者等悪名高い仕手筋がA工業の仕手戦に関わっているので自分たちが対応する旨告げた上,総会までは何が起こるか分からないので,会社から1人で帰らない,飲み屋で仕事の話はしないなどの注意をしていた。また,元柔道選手である部下のLをA工業の東京支社に詰めさせ,Jから派遣された役員等に対する仕手筋等からの抗議に備えていた。 (3) Cは,当初はA工業の資産を担保に入れて資金を調達した上,一株100円で新規に1000万株を発行し,これを全て一人で引き受ける意向であったが,Cの資金調達のためにA工業の資産を担保に入れる点や一株100円の発行価額については,被告人らA工業の経営陣から反対を受け,了承を得られる見込みがない状況にあった。そこで,C及びEは,4月8日,静岡県浜松市内のMホテルにおいて,被告人,B,取締役のN並びに監査役のOらJから派遣された役員以外のA工業の役員と会議を行い,その席で上記の資金調達の方針を撤回し た。そこで,C及びEは,4月8日,静岡県浜松市内のMホテルにおいて,被告人,B,取締役のN並びに監査役のOらJから派遣された役員以外のA工業の役員と会議を行い,その席で上記の資金調達の方針を撤回して発行価額を一株140円とすることで合意した上,Cが自前で資金を調達して500万株を引き受け,残余の500万株については,Eが経営する株式会社Pが引き受けることとなった。この会議の際には,Eから増資後の資金調達方法としてワラント債について説明があったほか,経営危機を招いたJから派遣された役員をA工業から追放することについても協議がなされた。もっとも,上記の1株140円という発行価額は,当時の株価に照らして極めて安価であったため,C及びEは,同月28日,A工業との間で,上記第三者割当増資について株主訴訟が起こされて新株発行価額が低廉に過ぎると判断された場合には裁判所の指摘した差額を支払う旨の合意書を作成していた。 (4) 上記のMホテルの会議の結果を踏まえて,同月11日,A工業において臨時役員会が開催され,Jの派遣取締役3名が退任することとなった上,Cが正式に代表取締役社長に就任するまでの間,被告人が代表取締役会長に就任し,本件株主総会の議長を務めることとなった。また,被告人やCらは,同月27日,全国紙等において,Cに対する第三者割当増資の実施及びCの決済カード事業との業務提携,さらに6月の本件株主総会でCが社長に就任する旨を発表した。 (5) ところで,A工業に対しては,本件以前より,仕手筋やそこから株式を取得した者らから新規事業の遅れやJの経営責任等についての抗議が寄せられていたところ,これについては,専ら総務部長のBが対応していた。2月ころには,暴力団関係者であるDらがA工業の株主として浜松市の本社でBと直接面談し,Jの責任について詰 任等についての抗議が寄せられていたところ,これについては,専ら総務部長のBが対応していた。2月ころには,暴力団関係者であるDらがA工業の株主として浜松市の本社でBと直接面談し,Jの責任について詰問するなどしていた。また,被告人が代表取締役に復帰した4月上旬ころには,新聞社の社主を名乗るQから取材の申込みなどがなされていたところ,4月27日の上記報道の後はCらに対する第三者株式増資についても質問等が寄せられるようになった。さらに5月10日には,Q,D及びA工業の株主を名乗る暴力団関係者であるRの3名が,A工業の東京支店に来訪した上,被告人やBに対し,新規の決済カード事業でA工業が再建できるのか,上記Pは安定株主としては不適格ではないかなどと詰問し,さらに,帰り際にもBを怒鳴りつけるなどした。 (6) C及びEに対する第三者割当増資は同月16日が入金期日とされていたところ,その前日,被告人に対し,B又はLを介して,Eから払込金の手当ができないとして6000万円の融資の申し込みがあった旨伝えられた。被告人は,上記第三者割当増資を無事に完了するために,これを受諾することとし,その旨をBに指示し,その結果,上記第三者割当増資に対する払込は無事に終了した。 もっとも,その直後,Bは,Dらが上記第三者割当増資に関して刑事告訴を検討しているなどと電話で告げられていた。 (7) Eは,被告人及びBからそれぞれ上記(5)の経緯の報告を受けていたところ,前記のとおり第三者割当増資の入金が終了したことから,本件株主総会のための株主対策に真剣に取り組むこととし,右翼関係者等の知り合いがおり,Qとも面識を有していたSに対し,A工業の第三者割当増資の入金は終わったが,肝心の株主総会を乗り切らなければならないとして,Qらを抑え込んでもらいたい旨依頼した。Sは, 翼関係者等の知り合いがおり,Qとも面識を有していたSに対し,A工業の第三者割当増資の入金は終わったが,肝心の株主総会を乗り切らなければならないとして,Qらを抑え込んでもらいたい旨依頼した。Sは,これを了承した上,右翼団体を主宰していたTに対し,Dらとの折衝を依頼し,その旨Eに報告した。 また,Eは,同月19日,Lを介して,Bから,Dらの名前を含む,注意を要するとされるA工業の株主の一覧表を入手した上,被告人らとSやTを引き合わせることとして,Bに対し,同月22日に被告人とEの事務所に来るように連絡し,さらにその際,Bに対し,株主総会対策の報酬や経費として500万円を請求した。 (8) 同月22日,Eの事務所を訪れた被告人は,Eから,Qらに対する対応を依頼している人物としてS及びTを紹介され,両名と名刺を交換した。Tは,一見して右翼や暴力団関係者のような風体であり,その名刺にはU同盟V塾塾長という肩書が記載されていた。 Eは,同月24日,A工業に対し,調査費名目で500万円の請求書を送付するとともに,S及びTにはLを介して100万円を交付した。Bは,6月12日,総務課の部下であるWを介して,Eが設立した株式会社であるH名義の判示銀行口座に対し,調査費名目の500万円に消費税名目の25万円を加えた合計金525万円を振込送金した。 (9) もっとも,A工業に対しては,5月26日,ある株主の代理人と称する者から上記(5)の第三者割当増資の発行価額が不当であるとして訴えを提起する旨の書面が送付されていた上,6月13日には,Rの代理人からも,同様の書面が送付されるに至った。SやTらは,本件株主総会に先立ち,Qらに対して株主総会で発言しないように求めたが,同人らからその確約を得ることができなかったため,本件株主総会に配下の者を約10名動員する 面が送付されるに至った。SやTらは,本件株主総会に先立ち,Qらに対して株主総会で発言しないように求めたが,同人らからその確約を得ることができなかったため,本件株主総会に配下の者を約10名動員することとした。また,被告人らは,本件株主総会が荒れることを懸念して,浜松市内の警察署に警察官の臨場を要請するとともに,株主の一部が議長席に詰め寄る事態を想定して,議長席と一般株主席の間に書記席を設けた上,一般株主席の最前列を空席にすることとした。 なお,Cは,5月24日,Eと共に会食した際,Eから,暴力団関係者についてはSを使って押さえることにした旨知らされていた上,本件株主総会の前日,EからS及びTを紹介され,A工業からEに対し,株主対策として金員が供与されたであろうことを了解していた。 (10) 被告人は,本件株主総会の当日の朝,偶然同じホテルに宿泊していたTやその配下の暴力団風の男性数名を見かけて挨拶を交わした。Dらは,結局,本件株主総会に出席せず,被告人が議長を務める中,懸案であったカード事業に関する定款の一部変更に関する議案及びCの取締役選任に関する議案は,いずれも株主から全く質問を受けることなく,原案通りに承認された。しかしながら,Tは,その配下10名と共に本件株主総会に出席した上,「議事進行」「異議なし」などと大声を上げて拍手を送るなどしており,その結果,一般株主の質問が遮られたりすることもあり,いわゆる与党側の総会屋が出席していることは,一見して明らかな状態であった。 3 検察官の主張とこれに対する判断(1) 検察官の主張検察官は,被告人とBが本件525万円の利益供与について具体的に共謀を遂げたと主張し,①4月8日のMホテルにおける会議の席で,Eは,A工業の株式の一部が仕手筋から暴力団に流れているので,今年の株主総会は 官は,被告人とBが本件525万円の利益供与について具体的に共謀を遂げたと主張し,①4月8日のMホテルにおける会議の席で,Eは,A工業の株式の一部が仕手筋から暴力団に流れているので,今年の株主総会は非常に荒れるだろうが,是非無事に終了させなければならないので,金はかかるが,自分にまかせて欲しいと発言し,被告人,Cら出席した者全員がこれを了承した,②Bは,5月19日,A工業の決算発表を行うために浜松市の商工会議所に赴いた被告人に対し,自動車の中で,Eから株主総会対策の報酬として500万円の請求を受けた旨話したところ,被告人はこれを承諾し,Cの了承も取っておいた方がよいと言った,③5月22日,東京のEの事務所において,Eから,被告人とBに対し,株主総会対策費として500万円は承知してくれますねという話があり,被告人がこれを了承した,という事実経過が認められると主張する。そして,Bは,公判廷で,これらの事実があった旨供述している。そこで,以下Bのこれらの供述の信用性について検討する。 (2) Bの供述の信用性について(ア) まず,Bの供述は,具体的である上,全体としては,先に認定した証拠上明らかな事実関係とよく符合しているということができる。しかしながら,Bは,本件犯行において刑事訴追を受けていた者であり,A工業側において,本件犯行を積極的に主導したのが誰かという点は,情状に大きく影響を及ぼす事実であるから,その点において,Bは被告人及びCと利害が相反する立場にあったことが認められる。そして,Bの公判供述によると,Bは,Cから経営陣が交替した後には常務取締役に昇進させる旨告げられていたというのであって,本件株主総会の成否に被告人とは別の固有の利害関係を有していたことが認められる上,被告人は,当公判廷において,Bは勤務歴からすれば取締役に は常務取締役に昇進させる旨告げられていたというのであって,本件株主総会の成否に被告人とは別の固有の利害関係を有していたことが認められる上,被告人は,当公判廷において,Bは勤務歴からすれば取締役になってもおかしくなかったが,器量に問題があると考えていたので,一貫してBの昇進に反対していた,JがA工業の実権を掌握していた当時においては,BはJ側について被告人と対立する立場にあった旨供述しており,被告人とBは,本件当時代表取締役と総務部長という関係にはあったものの,必ずしも円満な関係ではなく,相互に不信感をもつ間柄であったことがうかがわれる。 そうすると,Bの公判供述の信用性については慎重な検討を要するというべきであり,以下①ないし③の各供述について個別に検討する。 (イ) まず,①の供述についてみると,Eは,公判廷で,株主対策において,最悪の場合1票1議席を争って金がかかることになるかもしれないと述べたが,A工業の役員は黙って聞いていたので,これを了解したものと解釈したと供述している。Eは,本件犯行と対向犯の関係に立つ利益収受罪について刑事訴追を受けていた者であるが,捜査段階から一貫した供述をしている上,その内容は,先に認定した証拠上明らかな事実関係とよく符合している。また,Eは,供述全般にわたって,殊更に被告人らA工業側に刑責を転嫁しようとする姿勢がみられず,記憶の曖昧な部分とそうでない部分,推測にわたる部分とそうでない部分とを区別して明確に供述しており,その供述態度は真摯なものといえる。そうすると,Eの供述は高度の信用性を有するものと認められ,Bの①の供述は,Eの供述と符合する限度において,一定の信用性を有するということができる。しかし,関係証拠を総合すれば,上記会議の主要議題はC及びEが一株140円の価額で1000万株を取得して られ,Bの①の供述は,Eの供述と符合する限度において,一定の信用性を有するということができる。しかし,関係証拠を総合すれば,上記会議の主要議題はC及びEが一株140円の価額で1000万株を取得してA工業の経営に参加し,Jから派遣された役員をA工業から追放することを決めたというものであって,株主に対する対策は,Cらが第三者割当増資に対する払込を完了した後の仮定の話であり,いわば付加的なものに過ぎなかったことが認められるのであるから,Eは,正確にはEが法廷で供述した上記のとおりの発言をしたにとどまるものと認めるのが相当であり,Bの前記供述とはニュアンスが異なっているというべきである。これに対し,被告人,O及びNは,いずれも公判廷において,上記の会議の際に,株主対策に金がかかるという話を聞いた記憶はないと供述するが,被告人は,捜査段階では,この会議の際に株主対策の話がでたとして公判廷と矛盾する供述をしている上,前記の本件会議の主要議題と本件話題の仮定的,付加的な位置づけからすれば,N及びOはEのこの点に関する話を忘れてしまったと考えるのが相当であり,被告人らの供述が発言者であるEの供述の信用性に影響を与えるものとはいえない。 ところで,Bは,前記会議に続いて,被告人,N,Oとともにいた同じホテルのラウンジで,被告人らに対し,株主総会対策としてEに金を支払うことの了承を求め,被告人らはこれを承諾したという事実があったとも証言している。しかし,被告人,N,Oは,いずれもこのような話はなかったと明確に否定する供述をしている上,前記のとおり株主総会対策は仮定の話にすぎないものであるから,A工業の役員がこの時点で株主総会対策を行うことで合意したというのはやや唐突であり,不自然な印象がぬぐえない。これらの点に前記のB供述の一般的な問題点をも考慮する 仮定の話にすぎないものであるから,A工業の役員がこの時点で株主総会対策を行うことで合意したというのはやや唐突であり,不自然な印象がぬぐえない。これらの点に前記のB供述の一般的な問題点をも考慮すると,Bのこの部分の供述は信用性が乏しいというべきである。 そこで,Eの前記発言の本件共謀の成否に及ぼす意味についてみるに,4月8日の会議の主要議題は前記のとおりであって,Eの前記発言は仮定的,付加的な意味を持つに過ぎないものである上,E自身,金を使った株主対策を実際に行おうと考えたのは第三者割当増資に対する払込を終了した後のことであると供述しており,被告人らの株主総会に対する認識は,この時点ではいまだ希薄であったこともうかがえるのであるから,前記会議におけるEの発言と被告人らの対応をもって,Eと被告人らA工業の役員との間で,株主総会に対する対策として利益供与を行うことの謀議をとげたとまで認めるのは早計というべきであり,後にみるとおり,本件犯行の共謀に至る一つの過程とみるのが相当である。 (ロ) 次に,②の供述についてみると,被告人は,捜査段階から一貫して,Bとの間でこのようなやり取りがあったことを否定する供述をしている。また,この時に車を運転していたと思われるA工業社員のXは,公判廷において,運転に集中していたとはしながらも,車内の会話については一切覚えていない旨供述しており,その他,Bの②の供述を裏付ける証拠は存在しない。また,Bは,Cに対しては,5月23日に個別に株主対策費として500万円を出すことに対して了解を取り,N等の他の取締役に対しても,5月下旬の経営会議において,総会対策費として500万円を出金することを報告し,了承を得たと供述しているのであるが,Cは,捜査段階で,そのような話を聞いたことの明確な記憶を有していないと供述してい 5月下旬の経営会議において,総会対策費として500万円を出金することを報告し,了承を得たと供述しているのであるが,Cは,捜査段階で,そのような話を聞いたことの明確な記憶を有していないと供述している上,Nは,公判廷で,上記事実を明確に否定する供述をしている。 以上の諸点に加え,Bには,本件株主総会の成否について被告人とは別の固有の利害関係があったことなど前記のB供述の一般的な問題点をも考慮すれば,5月19日にBが被告人に対して500万円を出金することへの了解を求めた点に関しては,Bの供述は信用性に乏しいというべきである。 (ハ) さらに,③の供述についてみると,Eは,公判廷で,これを否定し,既に500万円についてはBから承諾する旨の返事をもらっていたので,この時点であえて念押しする必要はなかったと思う旨,説得力のある供述をしており,前記のとおり,E供述には高い信用性が認められるのであるから,これと反するBの③の供述は,信用できないというべきである。 (3) 結論以上の検討の結果によれば,検察官の主張する各事情のうち,②及び③の事実は,いずれもこれを認めることができず,①の事実は,Eの供述と符合する限度においてこれを認めることができるものの,これをもって利益供与を行うことの共謀があったとまで解することはできないのであるから,被告人とBが本件525万円の利益供与について具体的に共謀を遂げたとする検察官の主張は理由がない。 4 被告人とBとの黙示の共謀について(1) 証拠上認められる間接事実ところで,被告人は,BやCと本件の共謀を遂げた事実はないと主張しているところ,その公判供述の内容を子細に検討すると,そのときどきの被告人の心情や認識,事実の評価については,捜査段階から理由なく変遷している部分もある上,客観的な事実関係や周囲 事実はないと主張しているところ,その公判供述の内容を子細に検討すると,そのときどきの被告人の心情や認識,事実の評価については,捜査段階から理由なく変遷している部分もある上,客観的な事実関係や周囲の状況等に照らして疑問を差し挟むべき点もないではないが,これらの点を捨象した具体的な事実経緯については,捜査公判を通してほぼ一貫した供述をしており,自己に不利益な事実について率直に述べている部分も認められる。 そうすると,被告人の公判供述は,具体的な事実経緯については,概ね信用性を肯定できるところ,かかる被告人の公判供述に,前記の前提事実及び関係者の供述等の関係証拠を総合すれば,被告人とBとの間に,Eに対し,株主総会対策の報酬等の趣旨で金員を供与することの共謀があったことを推認させるものとして,以下のとおりの事実が認められる。 ア被告人は,2月か3月の某日,Eから,Jが放出した株の一部が暴力団関係者等に流れており,彼らがどういう形で攻撃を仕掛けてくるかわからないから,一人で帰るなとか飲み屋で仕事の話をするななどと様々な注意を受け,具体的な契約内容こそ知らなかったものの,EがA工業から報酬を得て暴力団等の特殊株主に対する対策を講ずる業務に従事しているのを認識した。 イ被告人は,4月8日のMホテルにおける会議において,Eから,今度の株主総会は荒れるかもしれないので,最悪の場合,一票一議席を争って金がかかることになるかもしれない旨聞いたが,特段異議を述べなかった。 ウ被告人は,4月11日A工業の唯一の代表取締役に就任するとともに,本件株主総会の議長を務めることになり,総会後はCに次ぐ副社長として経営陣に残ることが内定した。 エ被告人は,5月10日,Bとともに,暴力団関係者かその周辺の人物であってA工業の株主であるというD,Q,及びRと 長を務めることになり,総会後はCに次ぐ副社長として経営陣に残ることが内定した。 エ被告人は,5月10日,Bとともに,暴力団関係者かその周辺の人物であってA工業の株主であるというD,Q,及びRと直接面会し,同人らからCやEと提携して本当にA工業は再建できるのかなどと詰問され,Bが怒鳴りつけられる場面を目撃したことにより,Dらによって本件株主総会が混乱させられる危険性を認識し,Eにその会談の様子を報告した。 オ被告人は,5月22日,Bとともに,Eの事務所で,右翼や暴力団関係者のような風体と肩書を持つSやTを紹介されて名刺交換をし,Eから彼らにD等の特殊株主対策を依頼している旨説明を受けた。被告人は,Eの事務所を出てBに対し,あんな連中に頼んだら金がかかるのではないかと尋ねたところ,Bから,Eの方で対処してもらっているので心配しないでくださいと言われ,そのまま引き下がった。 カ 5月24日,EからA工業に対し,本件500万円の請求書が送られ,6月12日,Bの指示によりA工業からEが経営する会社の口座に対し,消費税分を加えた525万円が振り込まれた。 キ被告人は,6月6日,Eとその部下で株主総会対策に当たっていたLを夜の食事に誘って接待し,その席でTの所属する右翼団体の規模を尋ね,1000人規模の団体らしいとの返答を聞いた。 ク被告人は,6月28日の本件株主総会当日,ホテルでTやその配下の暴力団風の男性数名と挨拶をかわし,彼らが総会に出席して「議事進行」,「異議なし」などと大声を上げて拍手を送るなどしているのを議長として目撃したが,そのことについてBやEに異議を述べなかった。 ケなお,被告人は,公判廷で,①4月8日のMホテルにおける会議において,Eから株主対策に金がかかるかもしれないと言われた記憶はない,②5月10日のDら ことについてBやEに異議を述べなかった。 ケなお,被告人は,公判廷で,①4月8日のMホテルにおける会議において,Eから株主対策に金がかかるかもしれないと言われた記憶はない,②5月10日のDらとの会合において,Dらによって株主総会が混乱させられるとは思わなかった,③5月22日のEの事務所における会談後Bと話した際も,Tらが違法な株主総会対策を行うとまでは思っていなかったなどと,一部これらの認定と反する供述もしている。 しかし,①の点については,既にみたとおり,捜査段階から供述が変遷している上,信用性の高い前記Eの供述と対比すると,信用性が乏しいというべきである。 また,②の点については,前記の証拠上明らかな前提事実からすれば,代表取締役会長であり,かつ,本件株主総会の議長をすることになっていた被告人が,Dら暴力団関係者の株主と直接面談して,本件株主総会を混乱させられるという危惧感を全く持たなかったとはにわかに信じがたい上,現に,DらはBの発言に激昂してBを怒鳴りつけ,被告人が後日この会合の様子をEに報告した事実があるのであるから,被告人が,このときDらによって本件株主総会が混乱させられる危険性を認識したと認めるのが相当である。 次に,③の点についてみると,Eの前記発言内容やTの人相,肩書からすれば,Tは,Dらの特殊株主が株主総会に出席して議事を攪乱することがないように活動していることは容易に察しがつくものである上,被告人が本件株主総会の議長であり,その進行に重大な関心を有していること,本件会合が本件株主総会の約1か月前と近接した時期に行われていること等の事情にも照らすと,被告人は,Tが本件株主総会において特殊株主が出席・発言しないように行動することを認識しながらこれを容認していたと認めることができる。 よって,①ないし③の被告 われていること等の事情にも照らすと,被告人は,Tが本件株主総会において特殊株主が出席・発言しないように行動することを認識しながらこれを容認していたと認めることができる。 よって,①ないし③の被告人の公判供述は,いずれも信用することができないことになる。 (2) 検討そして,以上の事実を総合すれば,被告人は,5月22日の時点において,EがTらを使って株主総会対策を行うことを知り,BがEに対してそのための報酬や費用を会社の金で支払う意思があることを認識しながら,代表取締役としてこれを暗黙のうちに了承したものであり,その結果,BがEに対し本件525万円の利益供与をしたものと認められる。そうすると,被告人は,525万円という具体的な金額こそ認識していなかったものの,Bと共謀して本件利益供与に及んだと認めることができる。 (3) 弁護人の主張に対する判断弁護人は,Bは,4月28日,A工業とEが経営する株式会社Hとの間で,C及びEが第三者割当増資としてA工業に出資する金員のうち,その3パーセントにあたる金4200万円を仲介手数料としてEが経営する前記会社に支払う旨の契約(以下,「本件仲介手数料契約」という。)を,必要な社内の稟議を得ることなく締結し,支払いをした事実があるのであるから,このような独断行動をとっていたBが,本件利益供与について被告人に相談をしていなかったとしても何ら不自然ではなく,被告人との間でBが本件利益供与について共謀した事実はないと主張している。 検討するに,この点に関するBと被告人,N及びOの各供述との間には食い違いがあり,本件仲介手数料契約について社内で稟議又は取締役会の承認を得た旨の客観的な証拠は存在しないこと,及び,前記のとおり,B供述の信用性には問題があることに照らすと,Bが,被告人やA工業の役員の があり,本件仲介手数料契約について社内で稟議又は取締役会の承認を得た旨の客観的な証拠は存在しないこと,及び,前記のとおり,B供述の信用性には問題があることに照らすと,Bが,被告人やA工業の役員の了承を得ないまま,本件仲介手数料契約を締結して支払を行った可能性は否定できない。しかしながら,被告人とBは,前記のとおり,それぞれ独自の立場や利害関係こそあるものの,共通して,本件株主総会の運営に危機感をもち,その成否に重大な利害関係を有していたことは明らかである。そして,前記のとおり,被告人は,本件525万円という具体的な金額こそ認識していないものの,5月22日のEの事務所における会合の後,Bとの間で前記のとおりの会話をしている事実が認められるのである。そうすると,弁護人の指摘する事情は,被告人がBとの間で本件利益供与について共謀した事実に影響を及ぼす事情ではないと認められる。 その他,弁護人が主張する点を子細に検討しても,本件共謀の認定に影響を及ぼす事情は認められない。 5 結論以上のとおりであって,被告人が,本件犯行についてBとの間で共謀を遂げていた事実が認められ,また,証拠上明らかな前提事実によれば,BはCとの間で共謀を遂げていた事実も明らかであるから,判示の事実は優に認めることができる。 (量刑の理由) 1 本件は,東証・大証2部上場企業であるA工業の代表取締役であった被告人が,同社の次期社長候補のC及び同社総務部長のBと共謀の上,経営コンサルタント業をしていたEに対し,株主総会対策の報酬や経費等として525万円を供与したという利益供与の事案である。 2 被告人は,Bや他のA工業の役員らと共に,上場企業の信用を生かして自己の事業の拡大をもくろんでいたCに大量の自社株式を引き受けさせて本件会社の代表取締役社長に就任させるこ 益供与の事案である。 2 被告人は,Bや他のA工業の役員らと共に,上場企業の信用を生かして自己の事業の拡大をもくろんでいたCに大量の自社株式を引き受けさせて本件会社の代表取締役社長に就任させることにより,当時安定株主不在のまま経営危機に陥っていたA工業を再建することを企図していたところ,同社の株主となっていた暴力団関係者等が上記再建方針に反対する姿勢を示していたため,同人らがCの同社取締役選任決議等が議案となっていた本件株主総会に出席してこれを妨害するのではないかと危惧し,BやCとともに,Eの助言のもと,右翼団体関係者等の力を借りてでも上記総会の円滑な進行を確保しようと考え,その工作費の支出として本件犯行に及んだものである。このように,本件犯行は,当時のA工業の代表取締役,総務部長等に加え,次期社長候補者をも関与した会社ぐるみの組織的犯行である上,その動機も被告人らの意図する人事等を一方的に実現しようとしたものにほかならず,犯情は悪質である。また,本件株主総会においては,当時のA工業の状況に照らせば,会社再建の方策のみならず,それまでのA工業の経営責任等に関する質問も予想されたところ,本件犯行の結果,Eを通じて10人以上の右翼団体関係者が本件株主総会に出席し,大声や拍手で議事の進行を促すなどして一般株主からの質問を封じてしまったのであり,株主総会における株主の正当な権利行使を現実に阻害した点において,本件犯行の結果は重大である上,A工業の財産から525万円という多額の金員がEに交付されることによって失われており,A工業に与えた財産的損害の点においてもその結果は軽視できない。さらに,本件犯行は,上場企業の経営者らによる不祥事ということで,新聞等で報道されて社会の耳目を集めたものである上,その影響もあってA工業は破産に至ってしまった においてもその結果は軽視できない。さらに,本件犯行は,上場企業の経営者らによる不祥事ということで,新聞等で報道されて社会の耳目を集めたものである上,その影響もあってA工業は破産に至ってしまったものであり,本件犯行が社会に与えた影響も決して看過できない。 3 そして,被告人は,本件犯行当時,代表取締役という地位にあったところ,上記の再建方針が失敗した場合にはA工業を整理する可能性も十分にあったというのであって,自らが議長を務める本件株主総会の円滑な進行に対して,他の共犯者と同様に重大な利害を有していたことは明らかであり,その職責を考慮するとき,まさにA工業側の中心人物として本件犯行に臨んだものということができ,厳しい社会的非難を免れ得ない。 この点,被告人は,Cが社長に就任するまでの間,一時的に代表取締役を務めていた者であり,本件犯行について,自ら提案して積極的にこれを実現したものではなく,本件犯行を主導していたBやEから具体的に本件犯行の報告や相談を受けていたとも認められないのであって,その認識は概括的なものであったともいえる。 しかし,被告人は,本件株主総会に向けた株主対策のために金員を供与することを認識しながら,何ら反対したり異議を留めたりせず,これを了承して是認しているのであり,代表取締役である被告人のこのような姿勢が,実行犯であるBらに対する大きな精神的な援助となったことは疑いを容れる余地が無く,被告人は,本件犯行において,現実に多大な加功をしたものと認められる。 しかるに,被告人は,当公判廷において,本件犯行の責任を共犯者に転嫁し,自己の刑事責任を免れようとする姿勢に終始しているのであって,自己の行為の重大さを直視する姿勢に欠けており,真摯な反省の念を認めることは困難である。 そうすると,被告人の刑事責任は,本件犯行を し,自己の刑事責任を免れようとする姿勢に終始しているのであって,自己の行為の重大さを直視する姿勢に欠けており,真摯な反省の念を認めることは困難である。 そうすると,被告人の刑事責任は,本件犯行を実際に主導した他の共犯者との対比においても,同様に重いといわなけれならない。 4 しかし他方,上記のとおり,被告人が自ら積極的に本件犯行を企図したものではなく,その認識も概括的なものに止まっていること,本件株主総会に先立ち,A工業に対し,暴力団関係者等から執拗な圧力が加えられており,被告人らにおいて本件株主総会の運営に危機感を抱いたことは理解できないでもないこと,本件犯行について否認する姿勢に終始しながらも,法に触れるようなことがないように徹底管理すべきであったとして代表取締役としての責任を果たせなかったことについては,それなりに反省する姿勢を示していること,本件が新聞で報道されるなどして一定の社会的制裁を受けていること,被告人には前科はなく,本件犯行によって初めて身柄拘束を受けたこと,既に高齢である上,糖尿病や高血圧症等の持病を有していることなど被告人のために酌むべき事情も認められる。 5 以上の全ての事情を総合考慮すると,被告人については,懲役1年に処した上,主文掲記の期間その刑の執行を猶予するのを相当と判断した。 (求刑懲役1年)平成15年4月30日東京地方裁判所刑事第2部 裁判長裁判官杉山愼治裁判官横山泰造 裁判官蛯原意 裁判官横山泰造 裁判官蛯原意 主文 理由 事実 争点 判断

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る