【DRY-RUN】主 文 本件上告を棄却する 理 由 弁護人前野順一上告趣意書第一点は「重大な事実誤認を疑ふに足る顕著な事由あ ること。一、財物領得の意思と領得の事実原判決は本
主 文 本件上告を棄却する 理 由 弁護人前野順一上告趣意書第一点は「重大な事実誤認を疑ふに足る顕著な事由あ ること。一、財物領得の意思と領得の事実原判決は本件を以て被告人が他の二名と 共にAに暴行を加へ衣類等を強取したものと認定し之を認定する重要な証拠として 被告人B第一審相被告人C、同Dに対する検事の聴取書中原判決が認めた事実と同 趣旨の供述があることを挙げ其の他犯罪現場の位置、暴行の行はれた時の情況の一 端を証明すべき証言及被害者の供述とを傍証として居る。而して之れ等の傍証は一 として本件強盗の事実を証明すべき有力な直接のものでもなければ、又被告人Bそ のものがやつたということを推定する資料でもない。従て本件各共犯者本人の供述 のみが重要な証拠であるといはねばならぬ、右検事の聴取書を見ると、被告人の同 聴取書、四、私はその男を突き飛ばした、上衣とチヨツキとマフラーとを剥ぎ取つ た、五、そのとつたものを引揚げる途中でCに渡したといひ、相被告人Cは、四、 Eも私と一緒に一、二回殴つた、Eが上衣云々を剥がしたといひ、相被告人Dは四、 Eがチヨツキ云々を剥がしたといつて居る、叙上の供述は本件記録の全般と吾人の 経験則とに依り首肯し得ないものがある、凡そ事実の認定は事物の具体的経過と、 関係者の陳述とを綜合して、吾人の経験則に従ひ道理ある判断に依らなければなら ない、更に刑事被告事件に於ては先づ被疑者を拘禁し、司法警察官が之を訊問しそ の聴取書に基き検事が訊問する、それ等は総て強力な威圧の下に而も何等の防禦的 手段のない被疑者との間に行はれ、強度の不安の裡に訊問を受けるのである、その 事は公判廷に於て行はれるものとは全く趣を異にするものであることはいう迄もな い。本件は泥酔した被害者が泥酔した三人の為に暴行され、三人の中の一人は取つ た 、強度の不安の裡に訊問を受けるのである、その 事は公判廷に於て行はれるものとは全く趣を異にするものであることはいう迄もな い。本件は泥酔した被害者が泥酔した三人の為に暴行され、三人の中の一人は取つ た物を持ち逃げ去つた後、被告人Bがフラフラと歩いて居たので、被害者がつかま - 1 - へて交番に引張つて行きその際は何等の要領を得ないで釈放された、其の後で先づ 相被告人Cが挙げられたものであるという事実は動かし得ないところである、そこ で右Cが犯した事実は明瞭なところから被告人Bも共同でやつたであらうと推定せ られ乍ら司法警察官及検事に訊問されたであらうということも推察に難くない、そ んなことから司法警察官の聴取書が作成せられたので、その信憑力も必ずしも妥当 なものとはいひ得ない、それを前提とした検事の追及は相当強かつたことと想像せ ざるを得ない、又被告人の否定や、弁解も容易に容れられなかつたということは例 外のないことである、されば、相被告人Cは原審で証人として「被告人Bは殴つた と思ふが、剥がしはしなかつたと思ふ、自分が剥がしてCに持たせ、後自分がそれ を受取つて他にかくした」といひ、後更に裁判長の重ねての訊問に対しても「Eは マフラーやチョツキに手を出さなかつたと思ふ、私が取り、持つてくるよしに云つ たと記憶します」といつて、右聴取書とは異る陳述をして居るのである、即ち暴行 の事実は姑く措き少くとも財物領得の点について見れば、右Cが取つた後の処分に ついても何等の話合もなかつたことより推測して果して被告人Bが右財物を領得し たものと見るべきかは直ちに右検事の聴取書のみでは明瞭とはいひ得ない、況や共 犯者等は総て被疑者として拘禁中に於て供述したものであるに於てをや、更に領得 の意思について之を見るに被害者も三人の共犯者も非常に泥酔して居た事実は、被 害者が当時の事実につき 瞭とはいひ得ない、況や共 犯者等は総て被疑者として拘禁中に於て供述したものであるに於てをや、更に領得 の意思について之を見るに被害者も三人の共犯者も非常に泥酔して居た事実は、被 害者が当時の事実につき明瞭な記憶のないこと、比較的酔つて居なかつた相被告人 Cさへも同様記憶が明でないことより推測し得るのみならず、被告人Bは、泥酔中 の喧嘩なので、C等が去つた後、その辺りをフラフラして居た、そして被害者は寒 中裸にされたので酔も稍さめ、被告人を交番に連れて行つた、若し被告人がその時 検事聴取書末尾にあるように意識十分であり、財物強取の意思で、そんなことをし たのであつたならば、泥酔した被害者に引張られるなど考へられない、必ずや振り 切つて逃走した筈である、唯酔つ払ひの喧嘩が大きくなり、裸にする処迄いつた、 - 2 - そこであまり酔つて居ないCが財物を持つて逃げたというに止まり、泥酔者の被告 人にも領得につき意思決定乃至Cとの間の意思連絡があつたものと認められる何等 の証拠もない、又更に相被告人Cが領得した財物につき被告人Bは何等の関心も持 つて居なかつたことは記録上も推定し得るところであつて当時Cが持つて行つたこ とについても記憶に判つきりしていないそして亦それについての処分につき三人の 間に話合のあつたこともないこれ等の事実に徴するも被告人に財物領得の意思のな かつたことが明である。前にも述べたように原判決挙示の各証拠は拘禁中の三人の 供述のみを証拠としたもので、他の傍証なるものは少くとも被告人が財物を領得し たという事実については何等の傍証を為すものではない、左様な自白を採つて犯罪 を認定し処罪することは憲法が自白のみでは罰せられないという精神にも反するそ のことは本項の初めに述べたところよりも理由付けられるので茲に再述を省略する。 二、心神耗弱者であること。原判決は理由末 犯罪 を認定し処罪することは憲法が自白のみでは罰せられないという精神にも反するそ のことは本項の初めに述べたところよりも理由付けられるので茲に再述を省略する。 二、心神耗弱者であること。原判決は理由末尾で弁護人中野峯夫の「当時心神耗弱 者であつた」との主張に対し「被告人に対する検事の聴取書と原審証人Cの供述に 依り之を認め得ない」といつて居る検事の聴取書に依れば「どの位飲んだか正確に はわかりませんが酒五合焼酎一合ビール二、三本は飲んで居ります、時間をかけて 飲んで居りますので何も判らなくなる程酔つては居らず自分の行動については充分 判つて居るのであります」といい証人Cは「私は前後不覚になる程酔つては居りま せんでした、Eは私やDよりも酔つて居り前後不覚という程ではありませんがそれ に近い程酔つていました、Eは酒乱の様に思ひます」といつて居る、この二個の間 に矛盾がある、前者は行動が判つきり意識し得たといひ、後者は前後不覚に近い程 だつたという、正に正反対のことである。而も検事の聴取書を見ると、二人の共犯 者を同時に取調べ、この点については同様の形式で自分の行動は判つきりしたいと 供述が記載されて、自然的に流れ出た供述とも思はれない憾がある、而も亦被告人 の原審公判廷での供述でもわかるように、被告人は、病弱で酒、ビール、焼酎など - 3 - を混用すると二時間位で意識が不明となる、量は酒二合位、ビールはヂヨツキ二、 三杯、焼酎一、二杯の程度で泥酔するといつて居る、その夜の飲酒の状況は所謂梯 酒で相当多量に、而も混用して飲んだことも明である、検事の聴取書中「自分の行 動については充分判つて居る」と記載されて居るけれども、その調書の全体を通じ て果して、それが矛盾なきものと考へ得られないものがある、更に心神耗弱の状態 については前後不覚所謂意識不明の一歩前の状態であつて、若し前 充分判つて居る」と記載されて居るけれども、その調書の全体を通じ て果して、それが矛盾なきものと考へ得られないものがある、更に心神耗弱の状態 については前後不覚所謂意識不明の一歩前の状態であつて、若し前後不覚であつた ならばそれは犯意を阻却するものである、本件は証人Cのいう様に前後不覚に近い 泥酔状態であつて酒乱の状態になるのも亦それである、証拠の採用についても原判 決はすべて、重要な点は当時泥酔して居た被告人B相被告人C、D及被害者の供述 のみに依つて居る、財物領得の点にしろ心神耗弱の点にしろ断罪上重大な問題がそ んなあいまいな供述に依つて認められるということは全く重大な問題である、もつ としかりした者の証言供述に依つてのみ真実が発見せられるのである、私が被告人 Bにその際誰れか居なかつたかと聞いたところ、交番に行つたとき、自分の知つて 居るJという者がどうしたのかといつて来たように思うというので、その者をさが したところFマーケツトのJという者だつたことがわかつた、その者を調べれば当 時の状況少くとも被告人の泥酔の状況がわかると思はれる、私は本件で原審が挙げ る証拠では被告人が心神耗弱の状態でなかつたと認めたのは失当であると考へる」 というのである。 しかし原判決は被告人に対する検事の聴取書の外原審証人A同Gの各証言竝に巡 査H同I両名共同作成の捜査復命書及び第一審の共同被告人C同Dに対する検事の 聽取書を引用しこれ等各証拠と被告人に対する検事聴取書とを対照して判示事実を 認定したものであることは原判決理由により明らかである。按ずるに検事に対する 被告人の陳述と共同被告人の陳述とは別個に取あつかわれるべきものであつて、共 同被告人の検事に対する陳述は被告人の裁判外の自白と同一視すべき性質のもので - 4 - ないから共同被告人等に対する検事の聴取書竝に前記各証言等を引用 陳述とは別個に取あつかわれるべきものであつて、共 同被告人の検事に対する陳述は被告人の裁判外の自白と同一視すべき性質のもので - 4 - ないから共同被告人等に対する検事の聴取書竝に前記各証言等を引用して判示事実 を認定した原判決に対し、被告人の自白のみによつて事実を認定したという非難は 当を得ないものである、そして原判決の挙示した各証拠を綜合して判断すれば判示 事実を認めるに充分であり、且つ原審がこれ等証拠を採用したことについては何等 採証法則違背があつたことは認められないし検事聴取書に対する信憑力についての 論旨は畢竟事実誤認を主張することに帰し上告理由として採用することはできない ものである。次に論旨は原判決が示した説明によれば原判決の判断とは逆に被告人 は心神耗弱者であつたことを認められると主張するのであるが原判決のなした説明 に関し記録を調べて見れば原判決の示した判断は正当であつて所論の如き矛盾があ ることは認められない、そして原審において被告人は心神耗弱者でないことを判断 するに当つては刑事訴訟法第三百六十条第二項により其判断を示せば足りるのであ つてこれに対する証拠説明をする必要はないものである。従つて被告人は心神耗弱 者でなかつたと認めることについての証拠説明に対する非難は理由なきものである。 (大審院昭和二年(れ)第二六四号事件判決、同昭和八年(れ)第二一五号事件判 決参照) 第二点は「刑の量定著しく失当である、本件は酔つ払同志の喧嘩であつて少くと も被告人Bについては泥酔の状態もひどく財物を剥がしたことさへもよく知らない、 又被害者が交番迄連れて行くという程の事実である、強盗でなく心神耗弱の状態の 裡に行はれた暴行々為である、或は原審通りに認定するとしても事案の全体から、 又被告人Bが酒を飲まなければ真面目で未だ一度も間違をやつて居ない事実からし て三 程の事実である、強盗でなく心神耗弱の状態の 裡に行はれた暴行々為である、或は原審通りに認定するとしても事案の全体から、 又被告人Bが酒を飲まなければ真面目で未だ一度も間違をやつて居ない事実からし て三年の実刑は重過ぎる、私は刑の執行を猶予するを妥当と信ずる」というのであ る。 しかし量刑が不当であるということを上告理由とすることは日本国憲法の施行に 伴う刑事訴訟法の応急的措置に関する法律第十三条第二項により許されないもので - 5 - あるから論旨は採用しがたい。なお弁護人前野順一は釈明書と題する書面を提出し たが公判終結後に提出した不適法のものであるから採用することはできない。 よつて刑事訴訟法第四百四十六条により主文の如く判決する。 以上は裁判官全員一致の意見である。 検察官十蔵寺宗雄関与 昭和二十三年二月二十七日 最高裁判所第三小法廷 裁判長裁判官 長 谷 川 太 一 郎 裁判官 井 上 登 裁判官 庄 野 理 一 裁判官 島 保 裁判官河村又介は差支の為署名捺印することができない 裁判長裁判官 長 谷 川 太 一 郎 - 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