- 1 -平成30年3月14日判決言渡し名古屋高等裁判所平成28年(行コ)第90号懲戒免職処分取消等請求控訴事件(原審・名古屋地方裁判所平成27年(行ウ)第16号) 主文 1 原判決を取り消す。 2 処分行政庁が控訴人に対し平成22年12月22日付けでした免職処分を取り消す。 3 処分行政庁が控訴人に対し平成22年12月22日付けでした退職手当支給制限処分を取り消す。 4 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。 事実 及び理由第1 控訴の趣旨主文同旨第2 事案の概要 1 本件は,被控訴人の職員で,長期間の無断欠勤を理由に平成22年12月22日付けで懲戒免職処分(以下「本件免職処分」という。)及び退職手当支給制限処分(以下「本件支給制限処分」といい,本件免職処分と併せて「本件各処分」という。)を受けた控訴人が,被控訴人に対し,本件各処分の取消しを求める事案である。 原審は,控訴人の請求をいずれも棄却し,これを不服とする控訴人が,本件控訴を提起した。 2 前提事実,主な争点及び当事者の主張は,次のとおり補正するほか,原判決「事実及び理由」第2の2及び3に記載のとおりであるから,これを引用する。 なお,当審の第1回弁論準備手続期日において,受命裁判官が,双方に対して,「いわゆる「新型うつ」についての議論を踏まえた「うつ病」- 2 -の捉え方」につき主張を補充するよう求めたが,控訴人は,控訴人の本件無断欠勤が「新型うつ」の状況下でなされたものであるとの明示的な主張をしなかった。 原判決8頁2行目の後に,行を改め次のとおり加える。 「 A医師は,控訴人に4回面接をし,本人の供述を丹 の本件無断欠勤が「新型うつ」の状況下でなされたものであるとの明示的な主張をしなかった。 原判決8頁2行目の後に,行を改め次のとおり加える。 「 A医師は,控訴人に4回面接をし,本人の供述を丹念に聞き取った上で,診断結果報告書(甲8)において,控訴人が,仕事を忌避する気持が強くなり,自分を無用の人間と考える「自己価値の退縮」が生じ,そもそも思考が湧いてこない「思考の制止」が生じており,これらうつ病に特徴的な症状をとらえてうつ病であると診断している。これを否定した原判決は,認知や記憶の障害の有無を択一的に捉えるのみで,その程度を問題としておらず,また,事実の記憶と心情の記憶との区別を問題としておらず,極めて粗雑な認定である。 原判決は,平成22年7月後半以降,当日申請の休暇の取得が急に増えたという事情があったとしても,控訴人の以前からの行動様式や勤労意欲の低下と整合的に理解することができるなどとしたが,控訴人は,平成21年度以前に休暇を取る場合には,ごく一部の例外を除いて,通院等のために当日申請によって時間単位の休暇を取得することはあったが,いったん出勤し,朝8時に休暇を申請して帰るという行動とは全く異なるものである。控訴人は,平成22年6月から8月にかけて,出勤後当日届出で休暇を取得して職場を去るという行動をとるようになり,当日届出の休暇取得を頻繁に行うようになった平成22年7月後半の時点での控訴人の精神状態はかなり悪化していたと推測されるが,それでもきちんと職場に行って,休暇届の手続をして休むという最低限の手続,最低限の規範を遵守することができていた。 にもかかわらず,同年8月17日,控訴人は,いつもより30分ほど早い朝7時頃には職場に出勤していながら,その場にいたくないと- 3 -いう気持ちで頭がいっぱいになって, することができていた。 にもかかわらず,同年8月17日,控訴人は,いつもより30分ほど早い朝7時頃には職場に出勤していながら,その場にいたくないと- 3 -いう気持ちで頭がいっぱいになって,何も考えられなくなり,午前8時まで待つことができず,それまでの行動パターンとしてあった規範意識が全く吹き飛んでしまい,休暇届を出すという最低限の手続も踏まずに突発的に職場を出て行方不明となった。わざわざ職場に赴いた上で,何の届出もせず,事後的な処理もせず失踪するという行為は,控訴人のそれまでの生活様式や行動様式からして「衝動的で了解しがたい」ものというべきであり,8月17日の控訴人の行動は,今までの行動パターンと明らかに違って了解不可能である旨結論付けているA医師の診断は(甲8の8~11頁,乙26の11頁),極めて説得的である。 A医師は,DSMの診断基準によっても,控訴人は大うつ病性障害に該当すると明確に述べている。控訴人は,DSM-Ⅳの大うつ病エピソードの診断基準に記載された9つの症状のうち,の「抑うつ気分」,の「興味,喜びの減退」,の「睡眠障害」,の「精神運動性の焦燥または制止」,の「易疲労性,または気力の減退」,の「無価値観(自己価値の退縮)」,の「思考力や集中力の減退,または決断困難」という症状を有しており,また,必須症状のうち,及びの両方か,少なくともはあったから,本件無断欠勤当時,控訴人がうつ病を発症しており,うつ病による判断能力の著しい低下又は喪失を来していたことは明らかであり(甲10の4頁,乙26の17頁,60頁),これを否定した原判決は誤っている。 仮に,医師による解釈の違いにより,控訴人がDSM-Ⅳの大うつ病エピソードの診断基準に基づいたうつ病という類型自体に該当するとはいえなかったとしても 0頁),これを否定した原判決は誤っている。 仮に,医師による解釈の違いにより,控訴人がDSM-Ⅳの大うつ病エピソードの診断基準に基づいたうつ病という類型自体に該当するとはいえなかったとしても,控訴人が,うつ病に特徴的な複数の症状を示すうつ状態にあり,平成22年8月17日の朝,焦る気持ちが募り,その場にいたくないという気持ちで頭がいっぱいになって何も考- 4 -えられなくなり,とにかくその場から離れたいという異常な精神状態になって失踪したことは動かしがたい事実であり,本件無断欠勤当時,控訴人は,通常の公務員や控訴人が普段有していた判断能力に比べ,状況を切り開く能力,判断能力が減弱し,最低限の手続を履践して職場を離れるという公務員の規範意識が喪失してしまい,正常な状況把握と適切な判断ができない状態にあった。」原判決8頁3行目冒頭から10行目末尾までを次のとおり改める。 「本件無断欠勤前の控訴人の勤務状況に対する職場の対応厚生労働省は「労働者の心の健康の保持増進のための指針」を定め,職場におけるメンタルヘルスを推進しており,本件のようにメンタルヘルス不調に陥る労働者が出た場合に,早期発見と適切な対応を図ることが必要であるため,同指針は「メンタルヘルスケアにおいては,ストレス要因の除去又は軽減や労働者のストレス対処などの予防策が重要であるが,これらの措置を実施したにもかかわらず,万一,メンタルヘルス不調に陥る労働者が発生した場合は,その早期発見と適切な対応を図る必要がある。」としている(甲29の24頁)。その中でも労働者のすぐ近くにいる管理監督者の役割は重要であり,「管理監督者は,日常的に,労働者からの自発的な相談に対応するよう努める必要があ」り,また,「強度の心理的負荷を伴う出来事を経験した労働者,その他特に個 すぐ近くにいる管理監督者の役割は重要であり,「管理監督者は,日常的に,労働者からの自発的な相談に対応するよう努める必要があ」り,また,「強度の心理的負荷を伴う出来事を経験した労働者,その他特に個別の配慮が必要と思われる労働者から,話を聞き,適切な情報を提供し,必要に応じ事業場内産業保健スタッフ等や事業場外資源への相談や受診を促すよう努めるもの」とされている(甲29の25頁)。同指針を踏まえた管理監督者による部下への接し方の取組内容としては「いつもと違う」部下に早く気づくことが大切だとされている(甲29の14頁)。「いつもと違う」という感じを持つのは,部下がそれまでに示してきた- 5 -行動様式からズレた行動をするからであり,「いつもと違う」部下の様子の具体例としては「遅刻,早退,欠勤が増える。」が挙げられている(甲29の14頁)。 本件無断欠勤が始まる直前約1か月間の控訴人の休暇取得状況は,頻度が高いだけではなく,その経緯も特殊なものであり,控訴人は,通常どおり退庁時刻まで勤務する意思で出勤したにもかかわらず,何か急用ができたわけでもないのに,始業前にそこにいることが嫌になり耐えられなくなり,アイシステム(愛知県職員ポータルサイトシステムの総務事務システムの通称)が使える午前8時まで待って当日届出により休暇を取得して退庁するということを繰り返していた。 また,控訴人は,勤務中に寝てしまうということが何度かあり(甲11の6頁),本件無断欠勤当時,農政課長として控訴人を管理監督すべき立場にあったB(以下「B課長」という。)も,控訴人が勤務中に居眠りをしているのを現認している(乙27の36頁)。 このように,控訴人は,本件無断欠勤直前に,いつもとは違う,メンタルヘルスの不調を疑うべき明瞭な兆候を出しており,管理監督者がその が勤務中に居眠りをしているのを現認している(乙27の36頁)。 このように,控訴人は,本件無断欠勤直前に,いつもとは違う,メンタルヘルスの不調を疑うべき明瞭な兆候を出しており,管理監督者がその異常性に気付かないはずがない。被控訴人は,このような,「いつもと違う」控訴人の行動に気付き,メンタルヘルスの不調を早期発見し,控訴人から話を聞き,適切な情報を提供し,必要に応じ事業場内産業保健スタッフ等や事業所外資源への相談や医療機関の受診を促すよう努めるべきであるのに,これを怠った。控訴人のメンタルヘルスの不調は,それによって重篤となり,判断能力が著しく低下ないし喪失し,それまでにはあった,休暇届を出して休むという最低限の手続を履践するという規範意識すらなくなり,届出すらせずに職場から遁走して行方不明となり,以後,無断欠勤す- 6 -るに至ったものであるから,仮に控訴人がうつ病に該当するとはいえなかったとしても,控訴人の帰責性は減じられるべきである。」原判決8頁14行目の「本件無断欠勤」から15行目の「にある。」までを次のとおり改める。 「控訴人は,本件無断欠勤当時,重篤なうつ病に陥っており,また,重篤でないとしてもうつ病に陥り,あるいは診断名としてのうつ病そのものに該当しないとしても,うつ病の症状をいくつか有するうつ状態にあったのであって,通常の公務員や控訴人が普段有していた判断能力に比べれば判断能力が低下し,自分の置かれている状況や自分の行動の引き起こす結果の予測もできず,正常な状況把握と適切な判断ができない精神状態にあったのであるから,全く精神状態に異常がない者が起こした行為と比較し,責任非難の度合いは,低下ないし消滅するというべきである。」原判決9頁18行目の後に行を改め次のとおり加える。 「控訴人は,原判決 あるから,全く精神状態に異常がない者が起こした行為と比較し,責任非難の度合いは,低下ないし消滅するというべきである。」原判決9頁18行目の後に行を改め次のとおり加える。 「控訴人は,原判決が,無断欠勤中の控訴人の状態について,認知や記憶に障害が生じていたとは考え難い旨認定したことを,極めて粗雑な認定であると論難しているが,控訴人が,原審における本人尋問において,無断欠勤中の行動などについて相当程度具体的な供述をしていることは動かし難い事実である。また,無断欠勤中の心情について,「考えると落ち込むので,自分で考えることを辞めていたのだと思う。」とか,「後になって考えてみると「自分で自分に保険をかけていた」のだと思う。」(甲8,乙25の72頁)などと述べているところ,そこで述べられている思考は,仕事から逃げて無断欠勤を続けている者として一般的かつ正常な思考というべきものであって,このことからも無断欠勤中の控訴人の認知や記憶に障害が生じていたとは考え難い旨認定した原判決は何ら粗雑なものではなく,その判示に誤- 7 -りが存しないことは明らかである。 控訴人は,欠勤中の行動内容について,「スーパーのゲームコーナーやゲームセンターで時間をつぶしていた。ゲームはそれなりに楽しめていたが,長くは続けられず30分程度で嫌になった。」とか,「パチンコもやった。」とか「飲みにも行った・・・週に4-5日だったのが2-3日になった。」とか,「食事は1日1食程度,Cなどで食べていた。」とか,「昼間は暑かったので,スーパーなど涼しい場所を探して過ごしていた。」と陳述するなど(甲8,11,乙5の43頁,乙25の72頁,103頁)相当に明確かつ具体的な記憶があることを自ら認めており,ネットカフェに宿泊した事実についても,「22時頃にネットカフェに いた。」と陳述するなど(甲8,11,乙5の43頁,乙25の72頁,103頁)相当に明確かつ具体的な記憶があることを自ら認めており,ネットカフェに宿泊した事実についても,「22時頃にネットカフェに入り,4-5時間の睡眠は取っていた。」と(甲8の5頁),入店時間や店内での睡眠時間まで具体的に記憶をしており,かかる観点からも,控訴人の主張が失当であることは明らかである。 控訴人は,以前から当日申請による日単位の休暇申請を為していた(乙10,11)から,この点を「以前からの行動様式」ないし「勤労意欲の低下」を明らかにする一つの事実として適示する原判決が正しいものであることは明らかである。 D医師も,控訴人が「平成22年8月17日に初めて無断欠勤する以前から,当日届出の有給休暇や早退が増えているという事実や,いったん出勤した後に届出をして有給休暇をとるといった奇異な勤務態度からは,無断欠勤が了解しがたいというより,むしろそれらの行為の延長上に無断欠勤があったものと了解的に理解し得る。」と指摘しているとおり(乙13,25の158頁),控訴人の無断欠勤は,控訴人の性格・性癖ないし,単に仕事から逃避したいというわがままな気持ちに起因するものであったことが明らかなのである。 - 8 -DSM-Ⅳを用いた診断は,精神医学の分野で客観的な手法として実施されており,D医師は,この方法によれば,控訴人は何らの精神疾患にも罹患していないと結論付けている(乙13)。控訴人は,A医師がDSMによるとうつ病の「発症が」が否定されるなどとは述べていないとか,DSMに準拠すると「重度のうつ病」には罹っていなかったという見解を述べていると主張するが,A医師は,DSMの診断基準に依拠すれば控訴人がうつ病に罹患していたという確実な根拠は見当たらない旨,明確に SMに準拠すると「重度のうつ病」には罹っていなかったという見解を述べていると主張するが,A医師は,DSMの診断基準に依拠すれば控訴人がうつ病に罹患していたという確実な根拠は見当たらない旨,明確に述べているのであり(甲10,乙25の84頁,86頁,乙26の60~61頁),本件無断欠勤当時,控訴人がうつ病に罹患していなかったことは明らかである。 なお,控訴人は,「仮にうつ病ではなかったとしても,うつ病の症状をいくつか示しており,正常な状況把握と適切な判断ができない精神状態にあった。」と主張しているが,本件ではそのような事実の存在も認められない。」原判決9頁21行目の後に行を改め次のとおり加える。 「 厚生労働省が「労働者の心の健康の保持増進のための指針」を策定していること,同指針(甲29)に控訴人が指摘する記載が存することは認め,その余は争う。そもそも控訴人は,何らの精神疾患にも罹患していないのであるから,上記指針は本件とは無関係である。 この点,控訴人は,自らがうつ病に罹患していたなどと主張しているが,D医師が,A医師の意見書(甲8)記載の事実関係を検討した上で,それらの事実を以てしても控訴人がうつ病に罹患していたとの事実は認められないと判断していること, 控訴人は本件無断欠勤の前までに一度として精神科に自発的に通院した事実はなく,懲戒免職を申し渡された後に弁護士に相談した際に「診断書を付けろ」といった訴訟戦略を見据えた助言を受けて初めて精神科を受診したこと,- 9 -少なくともA医師の診察を受けた時点では,うつ病の症状は一切なかったことなどの事実からしても,控訴人がうつ病に罹患したという客観的な証拠など一切存在していないことは明らかというべきである。 控訴人が平成22年4月以降,継続的に当日の休暇申請 症状は一切なかったことなどの事実からしても,控訴人がうつ病に罹患したという客観的な証拠など一切存在していないことは明らかというべきである。 控訴人が平成22年4月以降,継続的に当日の休暇申請をしていたこと(平成22年4月から同年6月18日までの間に控訴人が当日の休暇申請をする日が少なからず存したこと,同月25日や同年7月20日にも同様に当日の休暇申請をしたこと,その後も同様に1か月強の間に10回程度,当日の休暇申請をしたこと)は認めるが,かかる行動は,控訴人の一種の性癖とみるほうが相当である。控訴人が勤務中に寝てしまうということが何度かあったことは事実であるが,B課長が控訴人の居眠りを現認したのは一度のみであるところ,勤務時間中に居眠りをすることの是非は別論として,勤務時間中に一度居眠りをすることなど,世上,希なことではなく,ごくごく一般的な事象であることは明らかである。 本件無断欠勤当時,控訴人はいかなる精神疾患にも罹患していなかったから,何らかの精神疾患に罹患していたことを前提とする控訴人の主張は誤っている。その点を暫く措くとしても,無断欠勤を始める直前の控訴人の態度,行動には何らの変化も存しておらず,上記のとおり,当日の休暇申請という行動も,それまでと同様の行動に過ぎない。 控訴人は現在まで独身の身であるが,A医師作成の意見書によれば,控訴人は,若い時から母親から忠告を受けると反発して家出をし,愛知県職員として相当額の給与を得ていながら,借金をため込み,最後は母親に借金の穴埋めをさせるなど,マザコン的な行動が明白に認められるのであり,このような控訴人の行動は,まさに自己愛性人格障害に親和性が極めて強い自己中心的行動であり,今回の長期無断欠勤- 10 -もその延長線上にある行動であることは明白で,いわゆるマ られるのであり,このような控訴人の行動は,まさに自己愛性人格障害に親和性が極めて強い自己中心的行動であり,今回の長期無断欠勤- 10 -もその延長線上にある行動であることは明白で,いわゆるマザコンないし過保護と深く関係している行動であり,これを精神病であるなどとして免責することは,県民の血税を違法不当に支出させる結果を生むものとなるから,被控訴人は断じて認めることはできない。」原判決9頁22行目の後に行を改め次のとおり加える。 「 前記のとおり,本件無断欠勤当時,控訴人がうつ病に罹患していなかったことは明らかであるし,控訴人がうつ病の症状をいくつか示しており正常な状況把握と適切な判断ができない精神状態にあったというような事実の存在も認められない。」第3 当裁判所の判断 1 当裁判所は,控訴人の請求にはいずれも理由があると判断する。その理由は,以下のとおりである。 2 認定事実前提事実,甲5~12,14,18~20,24,28,乙1~7,9~12,16,25~27(枝番のあるものは特記しない限り枝番を含む。以下同じ。)及び原審控訴人本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。 控訴人の経歴控訴人は,昭和27年8月●日に出生し,高校卒業後,農業技術大学校に進学し2年間学んで卒業した後,昭和48年4月に愛知県職員として採用された。 控訴人は,農業技術改良普及員の資格を有しており,同じ資格を有する愛知県職員であり技監として勤め上げた父の影響もあって,仕事を通じて農業の普及,発展に役立つことに生甲斐を感じながら,事務職として勤務し,主として農林水産業務を担当していた。 控訴人は,県庁経済流通課,E農林水産事務所経済課,F農林水産- 11 -事務所経済課,G農林水産事務所経済課, に生甲斐を感じながら,事務職として勤務し,主として農林水産業務を担当していた。 控訴人は,県庁経済流通課,E農林水産事務所経済課,F農林水産- 11 -事務所経済課,G農林水産事務所経済課,H家畜保健衛生所での勤務を経て,平成14年4月から4年間,H事務所(H農林水産事務所)農政課で主任主査として農地調整や農村対策等の仕事を担当し,平成18年4月から2年間,E農林水産事務所総務課で主任主査として総務・経理・契約の仕事を担当し,平成20年4月の異動を迎えた。 平成20年4月の異動ア控訴人は,平成20年4月にE農林水産事務所総務課からI事務所(I農林水産事務所)農政課に主任主査として異動し,農地調整・農村対策グループに所属し,主として農地転用許可事務等を担当した。農地転用を担当したのは2年ぶりであったが,控訴人は,従来から農地の転用によって守られるべき農地が失われていくと考えており,自己の意に沿わない判断を迫られることとなった。しかも,後記認定にかかる農地転用違反事件については,控訴人は,転用許可自体には関与しなかったものの,関連する手続に途中から関与し,その際,既に定められていた方針に疑問を持ち上司に意見具申をしたが,上司や同僚に自分の考えに理解を示す者は全くおらず,従来の方針どおり手続を進めるほかなかった。 イ平成21年2月頃,豊田市内の農地が不正に転用されたという農地法違反事件が新聞等でスクープされ,同年8月3日に豊田市の農政課長始め4名が,農地法違反,虚偽申請の疑いで書類送検された(以下「農地転用違反事件」ともいう。)。同事件の捜査のために,同年5月28日に愛知県警察がI事務所に家宅捜索に入った日の朝,控訴人は,朝5時頃に上司からの電話で出勤を指示されて,午前7時頃,職場で最も早く登庁し,警察官から捜索差押 )。同事件の捜査のために,同年5月28日に愛知県警察がI事務所に家宅捜索に入った日の朝,控訴人は,朝5時頃に上司からの電話で出勤を指示されて,午前7時頃,職場で最も早く登庁し,警察官から捜索差押令状を示されて,会議室を準備して,そこに書類を運び入れるよう指示され,会議室に十数箱の書類を運び込み,警察官から具体的な内容に立ち入った- 12 -質問を受けた。控訴人は,前記のとおり,この件についての処理方針に疑問を持っていたが,その立場上そのことを警察官に述べることはできず,ただ書類を指差しする姿を撮影されるなどして捜査に協力することを余儀なくされ,その後の個別の事情聴取の対象にはならなかったが,新聞報道等により農地転用許可事務が世間の耳目を集めていることから,精神的な負担を感じていた。 ウこの農地転用違反事件による家宅捜索を受けて以降,控訴人は,市町村の担当者や農地転用許可申請者及びその代理人である行政書士等との面談(基本的には2人,場合によっては3人以上で応対しており,控訴人が発言することは少なかったが,控訴人が応答するときもあった。)やその準備等のために割く時間が増え,また,毎月開催される愛知県農業会議への農地転用許可に係る諮問の準備(想定問答の作成。資料作りも含む。)にも時間を割いていた。ただし,控訴人が残業申告をすることは,ほとんどなかった(乙7)。 エ控訴人は,期限のある仕事の期限を守れないことがあり,電気通信事業者から農地に電気通信設備を設置しようとする事前の届出書が提出されていたのに,届出書を受領した旨の回答書の作成・送付事務を遅らせ,年休を取って,回答書を該当事業者まで直接持参し,処理の遅れを謝罪したこともあった。 控訴人の上司は,控訴人に対し,現在の与えられた仕事をきちんとこなすために,仕事を一人で抱 ・送付事務を遅らせ,年休を取って,回答書を該当事業者まで直接持参し,処理の遅れを謝罪したこともあった。 控訴人の上司は,控訴人に対し,現在の与えられた仕事をきちんとこなすために,仕事を一人で抱え込まず,困った時はグループの職員,班長に相談するようアドバイスしており,農政課の農地調整・農村対策グループ内での控訴人と同僚や上司とのコミュニケーションは円滑に行われていた。 オ控訴人は,県庁に入るときから56歳まで働けばよいと考えていたし,55歳頃から元気が出なくなっていたことから,転勤を控え- 13 -た平成22年初め頃には退職を考えていたが,意に沿わない転用許可の職場を離れ,希望する職務を担当できれば定年まで勤務してもよいと考えるに至った。そこで,人事異動のヒアリング(個人面談)において,上司に対し,「農地転用許可事務を担当しているが,新聞報道された仕事であり,日頃のプレッシャーも増している。とにかく今の(農地転用の)仕事から変わりたい。」,「できれば食品表示の仕事にかわりたい。(理由:表示の仕事は経済流通課で経験があり,制度が変わっているが,対応出来る。)」との希望を表明していた(乙1の3の別紙4「平成21年度自己申告シートⅠ」,乙25の128頁「平成21年度自己申告シートⅡ」)。 平成22年4月の異動から本件無断欠勤の開始までア控訴人は,上記の希望は容れられず,平成22年4月からH事務所(H農林水産事務所)農政課に主任主査として異動するよう命じられ,園芸農産・畜産グループに所属し,同年度に新規に開拓された「戸別所得補償制度モデル対策に関すること,及び,同モデル対策支援チームに関すること」の主担当になった。 イ戸別所得補償制度は,平成22年度から新規に開拓された事業であり,以前から転作や生産調整に疑問を抱いて 制度モデル対策に関すること,及び,同モデル対策支援チームに関すること」の主担当になった。 イ戸別所得補償制度は,平成22年度から新規に開拓された事業であり,以前から転作や生産調整に疑問を抱いていた控訴人は,今回の異動で転作の仕事を担当することになったことに失望した。しかも,I事務所時代に農地転用違反事件に関連する手続において,控訴人の意見に全く理解を示さなかった同僚の1人も同時期に同じ課に転勤している上,新しい職場では,同僚と仕事のことで話をする機会はほとんどなかったことから,思うように仕事を進めることができず,転勤せずに仕事をやめておけばよかったと後悔することがあった。このような状況の中で,控訴人は,上司が作成を命じた資料につき,本来出先の事務所ではなく本庁において作成すべきもの- 14 -ではないかと疑問に思い,そのような仕事をさせられることをむなしく思っていた上,いったん作成したものの作り直しを命じられるなどしたため,仕事に嫌気がさした。また,勤務時間中,上司に斜め後ろから常時監視されていると感じたりするようになり,職場において,日々緊張し続けるようになった。 控訴人は,以前から,飲酒して就寝するなどして,毎朝午前3時頃には目が覚めるという早朝覚醒が続いており,日中眠くなることもあり,仕事中に居眠りをし,B課長がそれを現認したこともあった。この頃,控訴人は,思考力が低下し,仕事を一生懸命やっても,頭の中でそれを整理してまとめることができず,メモを取ってもメモが役にたたないこともあった。控訴人は,上記のように仕事の内容に自己の考えに沿わない不当なものと考えるものがある上,自己の考えを述べても理解する者がいなかったことから,自分は職場で役に立たない不要な人間であり,自分などいなくても仕事は回っていくと感じ,次第に仕 己の考えに沿わない不当なものと考えるものがある上,自己の考えを述べても理解する者がいなかったことから,自分は職場で役に立たない不要な人間であり,自分などいなくても仕事は回っていくと感じ,次第に仕事が嫌になり,職場にいることが耐えられず,逃げ出したい気持ちになっていった。ただし,控訴人は,始業時刻ぎりぎりに行くと出勤自体をやめてしまうおそれがあると考え,そういうことが起きないように,通常の始業時刻である午前8時45分よりも早めに職場に出勤していた。 ウ控訴人は,平成22年6月25日に,当日届出の1日単位の休暇を取得した。それまで,控訴人が当日届出の1日単位の休暇を取得することは例外的なことであったが,控訴人は,その後,7月23日,26日,27日,28日,29日,8月4日,12日,13日,16日と,短期間の間に,当日届出の1日単位の休暇を9日も立て続けに取得した(なお,控訴人は,このほか7月20日と22日にも1日単位の休暇を取得しているが,乙10によれば,7月20日- 15 -の休暇届出日は同月16日,7月22日の休暇届出日は同月21日であり,当日届出ではなかった。)。 職員が休暇(年次休暇・有給休暇)を取得する場合は,事前にアイシステムで申請し,上司の了解を得ることになっているが,急病や急用のためやむを得ず休暇を取得する場合は,電話連絡等で了解を得て,アイシステムへは代理申請でも可とされている。しかし,上記9日のうち控訴人が代理申請で休暇を取得したのは7月23日と29日のみで,7月26日,27日,28日,8月4日,12日,13日,16日は,いずれも当日の朝は1日仕事をするつもりで1時間余りの通勤時間をかけて午前7時台にいったん出勤しながら,気持ちが非常に焦って落ち着かず,職場にいたたまれなくなり,パソコンを開いてメール ,16日は,いずれも当日の朝は1日仕事をするつもりで1時間余りの通勤時間をかけて午前7時台にいったん出勤しながら,気持ちが非常に焦って落ち着かず,職場にいたたまれなくなり,パソコンを開いてメールチェックをして必要なメールの返信を行った後,アイシステムが使えるようになる午前8時まで待って自身でパソコンのアイシステムに登録をし,班長であるJ課長補佐(以下「J補佐」という。)の許可をもらって職場を離れるという,特異な休暇申請を続けていた。 エ J補佐は,控訴人のこのような特異な休暇の取得申請に接しても,その理由等を確認したり,控訴人が休暇を取ることによる仕事上の支障の有無について話題にしたりすることはなく,したがって,控訴人の置かれていた上記のような精神状況を確認しないままに,漫然と休暇取得の許可を与え,控訴人が上記のような特異な休暇申請をし続けていることについて,上司であるB課長に報告することもしなかった。 オ欠勤を開始した同年8月17日には,控訴人は,いつもより1本早い電車で職場に出勤してパソコンを開いたものの,落ち着かない気持ち,焦る気持ちがそれまでよりもはるかに強くなり,その場に- 16 -いたくないという気持ちで頭がいっぱいになって何も考えられなくなり,それまではアイシステムが使えるようになる午前8時まで待って休暇届出をするという最低限の手続を踏むことができていたのに,この日は午前8時まで職場で待つことすらできず,休暇届の手続をしないままに職場を離れてしまい,気が付いたら電車に乗っていた。 控訴人の無断欠勤中の状況ア控訴人は,その後,職場にも母にも連絡することなく,スーパーのゲームコーナーやゲームセンターなどで時間をつぶし,夜はネットカフェで睡眠をとるなどして過ごし,携帯電話にも一切出なかった。被 況ア控訴人は,その後,職場にも母にも連絡することなく,スーパーのゲームコーナーやゲームセンターなどで時間をつぶし,夜はネットカフェで睡眠をとるなどして過ごし,携帯電話にも一切出なかった。被控訴人の職場では,何の連絡もなく始業開始時にいない控訴人を心配して庁舎内をくまなく探し回り,守衛室で当日午前7時19分に控訴人が農政課の火器予防点検簿を受け取ったことを確認するなどし,控訴人と同じマンションに居住する控訴人の母とも連絡を取った。B課長とJ補佐は,同年8月21日の土曜日の午前中,控訴人から話を聞くために,控訴人の母に教えられた行きつけの耳鼻咽喉科医院付近で待機していたが,控訴人は,自動車で同医院に出かけたものの,B課長とJ補佐を見かけたため,顔を合わせるのを避けるために受診を取り止め,自動車を駐車場に置いたまま,その場を離れた。課長らは,控訴人と会えなかったが,同医院の近くに駐車された控訴人の車を発見して張り紙をして連絡を求めた。控訴人は,その後駐車場に戻ったが,張り紙には応答しなかった。控訴人の母は,控訴人を探しても見つからなかったため,同年8月26日に警察に家出人届を出した。その後,控訴人が自車の前方バンパーに擦過傷を生じさせる物損事故を起こしたことが判明し,B課長と控訴人の母が警察に事情を聞きに行ったものの,控訴人の行方- 17 -はわからなかった。 イ控訴人は,後日,当時の状況について,ゲームはそれなりに楽しめていたが,長くは続けられず30分程度で嫌になった。パチンコもやったが集中力がなかった。飲みにも行ったが頻度は減り,週に4-5日だったのが2-3日になった。食事は1日1食程度,Cなどで食べ,午後10時頃にネットカフェに入り,4-5時間の睡眠は取っていた。入浴は週に1回程度銭湯で済ませ,昼間は暑かったの 減り,週に4-5日だったのが2-3日になった。食事は1日1食程度,Cなどで食べ,午後10時頃にネットカフェに入り,4-5時間の睡眠は取っていた。入浴は週に1回程度銭湯で済ませ,昼間は暑かったので,スーパーなど涼しい場所を探して過ごしていたなどと述べ,また,当時の精神状態について,無断欠勤開始前と同様に思考が停止していた,考えると落ち込むので,自分で考えるのをやめていたのだと思う,思考が停止していた状態から回復するのに3か月ほどかかった,頭の中が停止しており,漫画喫茶のような閉鎖空間で何も考えられずにいることが良かった等と,振り返っている。 ウ控訴人は,同年10月25日頃,所持金がなくなり,換金できる物を探すために家に戻り,疲れて寝ていたところを母に発見され,同月26日,母に連れられてH事務所に登庁した。 3 本件無断欠勤開始前の控訴人の勤務状況と被控訴人の対応に対する当裁判所の判断前記認定のとおり,控訴人は,アルコールの影響もあって,午前3時頃に目が覚めるという早朝覚醒が続いており,仕事中に居眠りをし,B課長がそれを現認したこともあったところ,本件無断欠勤開始直前の頃の控訴人は,思考力が低下して考えがまとまらず,仕事が思うように進まないことに悩み,自分は職場で役に立たない不要な人間であると感じ,職場にいることが耐えられない精神状態になっていた。 控訴人は,平成22年6月25日の朝,いったん職場に出勤後に,当日の1日単位の休暇申請をして職場を離れるという方法で休暇を取- 18 -得したのを皮切りに,本件無断欠勤を開始するまでの1か月強の間に,合計9日の当日申請の1日単位の休暇を取得しており,このうち代理申請の7月23日と29日を除く26日,27日,28日,8月4日,12日,13日,16日は,いずれも当日の朝,仕事を の1か月強の間に,合計9日の当日申請の1日単位の休暇を取得しており,このうち代理申請の7月23日と29日を除く26日,27日,28日,8月4日,12日,13日,16日は,いずれも当日の朝,仕事をするつもりでいったん出勤しながら,職場にいたたまれなくなり,アイシステムが使えるようになる午前8時まで待って自身でパソコンのアイシステムに登録し,班長のJ補佐の許可をもらって職場を離れるという,非常に奇異な休暇申請をし続けていた。 厚生労働省が職場におけるメンタルヘルスを推進するために定める「労働者の心の健康の保持増進のための指針」では,メンタルヘルスケアにおいてはストレス要因の除去又は軽減や労働者のストレス対処などの予防策が重要であるが,万一,職場でメンタルヘルス不調に陥る労働者が発生した場合は,その早期発見と適切な対応を図る必要があり,管理監督者は,日常的に,労働者からの自発的な相談に対応するよう努める必要があり,強度の心理的負荷を伴う出来事を経験した労働者,その他特に個別の配慮が必要と思われる労働者から,話を聞き,適切な情報を提供し,必要に応じ事業場内産業保健スタッフ等や事業場外資源への相談や受診を促すよう努めるものとしている(甲29の24~25頁)。同指針を踏まえた管理監督者による部下への接し方の取組内容としては「いつもと違う」部下に早く気づくことが大切だとされているところ,「遅刻,早退,欠勤が増える。」は,「いつもと違う」部下の様子の具体例の最初に挙げられている(甲29の14頁)。 控訴人が朝出勤していながら特に急用もないのに当日申請で1日単位の休暇を申請することは,それまでには全くなかったことであり(乙10,11,原審控訴人本人),本件無断欠勤が始まる直前約1か月強の間の控訴人の上記のような休暇取得状況は,頻度だけで 申請で1日単位の休暇を申請することは,それまでには全くなかったことであり(乙10,11,原審控訴人本人),本件無断欠勤が始まる直前約1か月強の間の控訴人の上記のような休暇取得状況は,頻度だけではなく,- 19 -その経緯も,控訴人のそれまでの行動様式とズレており,「いつもとは違う」特異なものであり,控訴人はメンタルヘルスの不調を疑うべき明瞭な兆候を発していたといえ,このころから控訴人は,うつ病ないしそれに類似する精神の病気に罹患していたものと認められる。被控訴人は,上記のような控訴人の特異な行動に気付いてメンタルヘルスの不調を早期発見し,控訴人から話を聞き,適切な情報を提供し,必要に応じ事業場内産業保健スタッフ等や事業所外資源への相談や医療機関の受診を促すよう努めるべきであったといえ,そのようにしていれば,控訴人が当時上記2イ,ウのような精神状況にあり,うつ病ないしそれに類似する精神の病気に罹患していたことを確認することができ,平成22年8月17日に控訴人が休暇届も出さずに突然職場から遁走するなどという事態になることは避けられた可能性が極めて高い。 それにもかかわらず,J補佐は,控訴人に話を聞いて控訴人が特異な休暇申請を続けている理由等を確認することをせず,上司であるB課長に対し,控訴人が特異な休暇申請をし続けていることを報告することもなかった。そのため,控訴人のメンタルヘルスの不調を早期に発見する機会は失われ,これを改善する手続が講じられないまま推移し,控訴人は,ついに同年8月17日の朝,その場にいたくないという気持ちで頭がいっぱいになって何も考えられなくなり,休暇届を出して休むという最低限の手続を履践するという規範意識すら喪失させ,休暇届すら出さずに職場を離れて行方不明となり,以後,無断欠勤をするに至った。本件 がいっぱいになって何も考えられなくなり,休暇届を出して休むという最低限の手続を履践するという規範意識すら喪失させ,休暇届すら出さずに職場を離れて行方不明となり,以後,無断欠勤をするに至った。本件無断欠勤当時,控訴人は,通常の公務員や控訴人が普段有していた判断能力に比べ,状況を切り開く能力,判断能力が減弱し,最低限の手続を履践して職場を離れるという公務員の規範意識が喪失してしまい,正常な状況把握と適切な判断ができない状態に- 20 -あったといえる。 このように,控訴人がうつ病ないしそれに類似する精神の病気に罹患していたことからして,その行為への帰責性は減じられるべきである。 被控訴人の主張についてア被控訴人は,控訴人の無断欠勤は,控訴人の性格・性癖ないし,単に仕事から逃避したいというわがままな気持ちに起因するもので,本件無断欠勤を始める直前の控訴人の態度,行動には何らの変化も存しておらず,当日の休暇申請という行動も,それまでと同様の行動に過ぎないと主張する。 被控訴人の上記主張は,本件無断欠勤とその前の1か月間に行われた当日申請の休暇取得との比較をその有力な根拠としており,本件無断欠勤前1か月程度の間に控訴人の精神状態に異常がなかったことを前提として初めて成り立つ立論である。しかし,控訴人が朝出勤していながら特に急用もないのに当日申請で1日単位の休暇を申請して職場を離れるなどということは,平成22年6月25日より前には全くなかったことであり,それが僅か1か月足らずの間に少なくとも7回も繰り返されたことも,後記で説示するとおりの控訴人の当時の職場や仕事に対する心情等に照らすと,控訴人は既に本件無断欠勤の1か月程度前から精神に変調を来し,それが悪化して本件無断欠勤に至ったと認めるのが相当である。したが 記で説示するとおりの控訴人の当時の職場や仕事に対する心情等に照らすと,控訴人は既に本件無断欠勤の1か月程度前から精神に変調を来し,それが悪化して本件無断欠勤に至ったと認めるのが相当である。したがって,被控訴人の上記主張は,本件無断欠勤前の控訴人の精神状態に対する誤った認識を前提とするものであって,採用できない(なお,当事者双方はともに,控訴人の精神状態に関する意見書を提出しているところ,双方の意見書の見解が異なる理由も,主として本件無断欠勤が始まる前の控訴人の精神状態を既に変調を来していたと見るか- 21 -否かにかかるものと評価できる。上記の説示は,控訴人の依拠するA医師の意見書に沿うものである。他方,被控訴人の依拠するD医師の意見書は,当該時期における控訴人の精神状態には特に問題がなかったことを当然の前提とするものであるが,その根拠となるべき具体的考察は何ら示されておらず,到底採用できない。)。 しかも,「当日になって急に休む。」は,愛知県の「メンタルヘルス支援の手引き」(乙8)においても,管理監督者が気づく職員の変化の例の冒頭に掲げられている例であって,このような奇異な休暇申請がその後立て続けに繰り返されたにもかかわらず,そのサインを放置し,不服申立てがされた以降もこれを看過している被控訴人の責任は重いというべきである。 イ被控訴人は,本件無断欠勤当時,控訴人はいかなる精神疾患にも罹患しておらず,正常な判断能力を有しており,控訴人一人では対処できないほどに借金が膨らんだが,控訴人の母に相談できず,無責任な浪費の後始末がつかずに逃げ出したというのが本件無断欠勤の真の原因であると主張する。 しかし,本件無断欠勤前において,控訴人は,借金の返済を滞らせてはおらず,この件を母に相談しなければならないような状況に つかずに逃げ出したというのが本件無断欠勤の真の原因であると主張する。 しかし,本件無断欠勤前において,控訴人は,借金の返済を滞らせてはおらず,この件を母に相談しなければならないような状況にもなかったから(甲20,24),無断欠勤の原因は借金ではない。 控訴人は,前記認定のとおり,平成20年以降担当した職務が自己の意に反するものであった上,自己の述べた意見が上司や同僚に全く理解されなかったこともあって,退職も考慮していたものの,転勤を機に希望する職務を担当することができるものと期待して思い止まっていた。しかし,平成22年4月の異動後の職務は以前にも増して自己の意に反するものであり,初めて担当する職務であったことから戸惑うことも多い中で,仕事について相談できる相手が- 22 -少なく,上司の命ずる仕事には不要と思えるものもあり,思うように仕事を進められないと悩み,思考力が低下し,仕事を一生懸命やっても,頭の中でそれを整理してまとめることができず,前任地以来の経緯からして,自分は職場で役に立たない不要な人間であると感じ,緊張し,いたたまれない思いがしていた。控訴人は,それでも,始業時刻ぎりぎりに行くと出勤自体をやめてしまうおそれがあると考えて,始業時刻よりも早めに職場に出勤していたところ,次第に職場にいることが耐えられない精神状況になって,平成22年6月25日の出勤後に当日申請の1日単位の休暇を取得したのを皮切りに,本件無断欠勤開始までの約1か月強の間に,出勤しては当日申請の1日単位の休暇を取得して逃げるように職場を離れるという奇異な行動を頻繁に繰り返しており,このことは,この時期から控訴人の精神状況に異変が生じていたことを示しているから(甲8,10,乙26),被控訴人の上記主張は採用できない。 この精神状況の異変の兆 奇異な行動を頻繁に繰り返しており,このことは,この時期から控訴人の精神状況に異変が生じていたことを示しているから(甲8,10,乙26),被控訴人の上記主張は採用できない。 この精神状況の異変の兆候に対し,メンタルヘルスケアの観点から被控訴人がなすべき対処が何らなされないまま,控訴人の精神状況は悪化し,うつ病ないしそれに類似する精神の病気により正常な状況把握と適切な判断ができない状態に陥り,控訴人は,休暇届出をして休むという最低限の手続をとることもできなくなって,本件無断欠勤に至ったものである。 4 本件免職処分の違法性本件免職処分は,正当な理由なく47日間にわたって勤務を欠いたこと(本件無断欠勤)のみを処分理由とするものであって,被控訴人もその余の事由(例えば,業務に対する具体的な支障等)を主張するものではない。 しかし,被控訴人は,前記認定説示のとおり,無断欠勤に至る前に控- 23 -訴人が発していた精神状態の不調を疑うべき明瞭な兆候を見逃し,とるべき適切な対応をとらなかった上,本件無断欠勤後も控訴人の精神状態を正しく認識しないまま,控訴人の欠勤日数のみをことさら重大視して本件免職処分を行ったものというべきであり,その判断の基礎になる事実に対する評価において明白に合理性を欠くことにより,その判断が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことは明らかであるから,裁量権の範囲を逸脱又は濫用した違法なものである。 よって,控訴人による本件免職処分の取消請求には理由がある。 5 本件支給制限処分の違法性本件支給制限処分は,本件免職処分が適法であることを前提になされたものであるが,上記4において述べたとおり,本件免職処分に裁量権の範囲を逸脱濫用した違法性があって取り消されるべきものである以上,これを前提とする本件支給 件免職処分が適法であることを前提になされたものであるが,上記4において述べたとおり,本件免職処分に裁量権の範囲を逸脱濫用した違法性があって取り消されるべきものである以上,これを前提とする本件支給制限処分も違法であるから,その取消請求にも理由がある。 6 結論以上によれば,控訴人の本件各請求はいずれも理由があるから認容すべきところ,これと結論の異なる原判決は失当であるから取り消すこととし,主文のとおり判決する。 名古屋高等裁判所民事第4部 裁判長裁判官藤山雅行 裁判官水谷美穂子 - 24 - 裁判官金久保茂
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