平成26(行ウ)53 生活保護基準引下げに基づく保護費変更(減額)処分取消請求事件

裁判年月日・裁判所
令和5年10月2日 広島地方裁判所
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判決文本文38,055 文字)

- 1 - 主 文 1 別紙処分一覧表の「処分行政庁」欄記載の各処分行政庁が同「処分の名宛人」欄記載の各原告(原告番号9及び別紙原告目録2記載の原告らを除く。)に対して同「処分日」欄記載の各日付けでした生活保護法25条2項に基づく保護変更決定をいずれも取り消す。 2 原告番号9の訴えを却下する。 3 訴訟費用は、これを63分し、その42を被告広島市の、その6を被告呉市の、その2を被告尾道市の、その9を被告福山市の、その1を被告東広島市の、その2を被告府中町の各負担とし、その余を原告番号9の負担とする。 4 本件訴訟のうち別紙原告目録2記載の原告らの請求に関する部分は、同目録 の「年月日」欄記載の各日に同原告らの死亡により終了した。 事実及び理由 第1 請求 1 別紙原告目録1記載の原告ら(原告番号9を除く。)の請求主文第1項と同旨 2 原告番号9の請求広島市東福祉事務所長が原告番号9に対して平成25年7月3日付けでした昭和29年社発第382号厚生省社会局長通知に基づく保護変更措置を取り消す。 第2 事案の概要 1 事案の骨子本件は、広島県内に居住し、それぞれ生活保護を受けていた原告らが、平成25年厚生労働省告示第174号(甲全1、乙3)による「生活保護法による保護の基準」の改定(以下「平成25年改定」という。)に伴い、各福祉事務所長からそれぞれ生活扶助の支給額を減額する内容の保護変更決定(外国人であ る原告番号9については昭和29年社発第382号厚生省社会局長通知(乙個- 2 - 2)(以下「昭和29年通知」という。)に基づく保護変更措置)を受けたことにつき、平成25年改定は憲法25条を具体化した生活保護法8条等に反し、上記各保護変更決定等は違法であ 乙個- 2 - 2)(以下「昭和29年通知」という。)に基づく保護変更措置)を受けたことにつき、平成25年改定は憲法25条を具体化した生活保護法8条等に反し、上記各保護変更決定等は違法であると主張して、その取消しを求める事案である。 なお、別紙原告目録2記載の原告らは、本件訴訟を提起した後、同目録の 「年月日」欄記載の各日に死亡した(後記4⑶)ところ、保護を受ける権利は一身専属であり、本件訴訟のうち同原告らに係る部分については、その死亡と同時に当然に終了したものと解される(主文第4項においてその旨を宣言した。)。 2 法令等の定め ⑴ 生活保護法ア基準及び程度の原則保護は、厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者(保護を必要とする状態にある者をいう(6条2項参照)。以下同じ。)の需要を基とし、そのうち、その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補 う程度において行うものとされ(8条1項)、上記基準は、要保護者の年齢別、性別、世帯構成別、所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであって、かつ、これを超えないものでなければならないとされる(同条2項)。 イ保護の種類 保護の種類は、生活扶助、教育扶助、住宅扶助、医療扶助、介護扶助、出産扶助、生業扶助及び葬祭扶助とされ(11条1項)、このうち生活扶助は、困窮のため最低限度の生活を維持することのできない者に対して、①衣食その他日常生活の需要を満たすために必要なもの及び②移送の範囲内において行われる(12条)。 ⑵ 「生活保護法による保護の基準」(乙1)- 3 - 生活保護法8条1項に規定する基準として、「生活保護法による保護の基準」(昭和38年厚生省告示第 において行われる(12条)。 ⑵ 「生活保護法による保護の基準」(乙1)- 3 - 生活保護法8条1項に規定する基準として、「生活保護法による保護の基準」(昭和38年厚生省告示第158号)(以下「保護基準」という。)が定められている。 保護基準は、全国の市町村を1級地-1、1級地-2、2級地-1、2級地-2、3級地-1及び3級地-2の6区分の級地に分類した上で(保護基 準別表第9)、各級地に応じて定められ(保護基準別表第1等)、当該市町村内に居住する各被保護世帯に適用される。 ⑶ 生活扶助基準(保護基準別表第1)ア生活扶助の基準は、保護基準別表第1の生活扶助基準に定めるところによるとされ、生活扶助基準は、衣食等の日常生活に必要な基本的かつ経常 的経費についての最低生活費を定めている。 生活扶助は、基準生活費と加算に大別される。このうち基準生活費は、世帯を単位として算定され、その額は、個人単位で消費される経費(飲食費、被服費等)に対応する基準として年齢別に定められた第1類の表に定める個人別の額を合算した額(以下「第1類費」という。)と、世帯全体 としてまとめて支出される経費(光熱水費、家具什器費等)に対応する基準として世帯人員数別に定められた第2類の表に定める世帯別の額(以下「第2類費」という。)との合計額とされる。また、加算は、基準生活費において配慮されていない個別的な特別需要を補塡することを目的として設けられている。 イ生活扶助基準は、標準世帯(現在は33歳、29歳、4歳の3人世帯)の最低生活に要する費用を生活扶助基準の「水準」(高さ)として設定した上、その最低生活費を第1類費と第2類費に分解し、さらに、年齢階級別、世帯人員別及び級地別に、標準世帯との最低生活費の差を踏まえて設 最低生活に要する費用を生活扶助基準の「水準」(高さ)として設定した上、その最低生活費を第1類費と第2類費に分解し、さらに、年齢階級別、世帯人員別及び級地別に、標準世帯との最低生活費の差を踏まえて設定された指数を適用して分解する(これらの標準世帯の基準額を分解する 過程を「展開」という。)ことによって、あらゆる世帯に適用可能な基準- 4 - として設定されている。 (乙21) 3 平成25年改定に至った経緯等本件で問題となっている生活扶助の支給額の減額は、生活扶助基準を見直した平成25年厚生労働省告示第174号(甲全1、乙3)による保護基準の改 定(平成25年改定)に伴うものであるところ、掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、同改定に至った経緯等について、以下のとおり認められる。 ⑴ 生活扶助基準の改定方式の推移ア生活扶助基準の改定方式については、これまで、「マーケットバスケット方式」(最低生活を営むために必要な飲食物費、衣類費、家具什器費、 入浴料といった個々の品目を一つ一つ積み上げて最低生活費を算出する方式)、「エンゲル方式」(栄養審議会の答申に基づく栄養所要量を満たし得る食品を理論的に積み上げて計算し、別に低所得世帯の実態調査から、当該飲食物費を支出している世帯のエンゲル係数の理論値を求め、これから逆算して総生活費を算出する方式)、「格差縮小方式」(政府経済見通 しにおける個人消費の伸び率に格差縮小分を上乗せし、一般国民の消費水準の伸び率以上に生活扶助基準を引き上げ、結果的に一般国民と被保護世帯との消費水準の格差を縮小させようとする方式)が採られていた。 (乙7の2)イ厚生省(当時)の審議会である中央社会福祉審議会が昭和58年12月 に取りまとめた「生活扶助基準及び加算のあり方に 消費水準の格差を縮小させようとする方式)が採られていた。 (乙7の2)イ厚生省(当時)の審議会である中央社会福祉審議会が昭和58年12月 に取りまとめた「生活扶助基準及び加算のあり方について(意見具申)」(以下「昭和58年意見具申」という。)は、生活保護において保障すべき最低生活の水準は一般国民の生活水準との関連において捉えられるべき相対的なものであるなどとした上、①現在の生活扶助基準は、一般国民の消費実態との均衡上ほぼ妥当な水準に達しているが、国民の生活水準は今後 も向上すると見込まれるため、生活扶助基準の妥当性についての検証を定- 5 - 期的に行う必要がある、②生活扶助基準の改定に当たっては、当該年度に想定される一般国民の消費動向を踏まえると同時に、前年度までの一般国民の消費水準との調整が図られるよう適切な措置をとることが必要であり、また、当該年度に予想される国民の消費動向に対応する見地から、政府経済見通しの民間最終消費支出の伸びに準拠することが妥当であり、賃金や 物価は、そのままでは消費水準を示すものではないので、その伸びは参考資料にとどめるべきであるとした。 (乙8)ウ昭和58年意見具申を受けて、昭和59年以降の生活扶助基準の改定は、当該年度に想定される一般国民の消費動向を踏まえると同時に前年度まで の一般国民の消費実態との調整を図る「水準均衡方式」によって行われている。 (乙7の2)⑵ 生活扶助基準に関する専門家による検証等ア生活保護制度の在り方に関する専門委員会による検証 我が国では、バブル景気の終焉後、1990年代を通じて長期間景気が低迷し、その間、賃金、物価及び家計消費がいずれも継続的に下落するデフレ状況となった。このような社会経済情勢の下、平成15年6 我が国では、バブル景気の終焉後、1990年代を通じて長期間景気が低迷し、その間、賃金、物価及び家計消費がいずれも継続的に下落するデフレ状況となった。このような社会経済情勢の下、平成15年6月、財務省の審議会である財政制度等審議会の建議において、生活扶助基準及び加算の引下げ、廃止等の検討が必要であるなどとされ、厚生労働省 の審議会である社会保障審議会においても、生活保護制度につき、他の社会保障制度との関係等にも留意しつつ、その在り方についてより専門的に検討していく必要があるなどとされた。また、同月27日には「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003」が閣議決定され、その中で、生活保護について、物価、賃金動向、社会経済情勢の変化等と の関係を踏まえた見直しが必要であるなどとされた。このような状況を- 6 - 踏まえて、社会保障審議会は、同年7月、保護基準の在り方を始めとする生活保護制度全般について議論することを目的として、同審議会福祉部会内に「生活保護制度の在り方に関する専門委員会」(以下「専門委員会」という。)を設置した。 (乙12の1、2) 専門委員会においては、生活扶助基準の在り方等に関して、生活扶助基準の改定を賃金や物価等に基づいて行うことについても議論された。 その中で、物価を指標として生活扶助基準の改定を行うことは、一般国民の生活水準との相対性を確保することを目的とした水準均衡方式から相当外れることになるため慎重に行う必要がある旨の意見があった一方 で、生活保護費の財源が租税であることや社会の公平感(消費者物価指数や賃金が下がっているのに生活扶助基準は変わらないことへの率直な疑問)等からすると賃金や物価等を指標とすることは国民に分かりやすいなどとする意見もあった。 (甲全4 や社会の公平感(消費者物価指数や賃金が下がっているのに生活扶助基準は変わらないことへの率直な疑問)等からすると賃金や物価等を指標とすることは国民に分かりやすいなどとする意見もあった。 (甲全42) 専門委員会は、平成15年12月、「生活保護制度の在り方についての中間取りまとめ」(乙13。以下「平成15年中間取りまとめ」という。)を公表した。 平成15年中間取りまとめは、同年8月以来の生活保護制度における最低生活保障の体系と生活保護基準の在り方についての議論を踏まえ、 生活保護制度の見直しをにらみつつ、専門委員会の生活扶助基準についての考え方をさしあたり示したものである。その中には、①生活扶助基準の評価については、昭和58年意見具申において、当時の基準が一般国民の消費実態との均衡上、ほぼ妥当な水準に達しているとの評価がされたところであるが、今般、「生活保護において保障すべき最低限度の生 活水準は一般国民の生活水準との関連において捉えられるべき相対的な- 7 - ものであり、具体的には、年間収入階級の第1・十分位(調査対象者を年間収入額順に十等分した場合に最も収入額の低いグループ)の世帯の消費水準に着目することが適当である」との考えに基づき、第1・十分位の世帯の消費水準と生活扶助基準額との比較をしたところ、後者が高いとの結果となった、②生活扶助基準の改定方式の在り方については、 昭和59年度以降、一般国民生活における消費水準との比較において相対的なものとして設定する観点から毎年度の政府経済見通しの民間最終消費支出の伸びを基礎とする改定方式がとられてきたが、最近の経済情勢が同方式を採用した当時と異なることから、例えば5年に一度の頻度で生活扶助基準の水準について定期的に検証を行うことが必要であり、 消費支出の伸びを基礎とする改定方式がとられてきたが、最近の経済情勢が同方式を採用した当時と異なることから、例えば5年に一度の頻度で生活扶助基準の水準について定期的に検証を行うことが必要であり、 また、定期的な検証を行うまでの毎年の改定については、国民にとって分かりやすいものとすることが必要なので、例えば年金の改定と同じように消費者物価指数の伸びも改定の指標の一つとして用いることなども考えられるなどの指摘がある。 専門委員会は、平成16年12月、「生活保護制度の在り方に関する専 門委員会報告書」(乙4。以下「平成16年報告書」という。)を公表した。平成16年報告書のうち、生活扶助基準の在り方に関する部分の概要は以下のとおりである。 a 水準均衡方式を前提とする手法により、勤労3人世帯の生活扶助基準について、低所得世帯の消費支出額との比較において検証・評価し た結果、その水準は基本的に妥当であったが、今後、生活扶助基準と一般低所得世帯の消費実態との均衡が適切に図られているか否かを定期的に見極めるため、全国消費実態調査等を基に5年に一度の頻度で検証を行う必要がある。また、その検証に際しては、地域別、世帯類型別等に分けるとともに、調査方法及び評価手法についても専門家の 知見を踏まえることが妥当である。 - 8 - b 生活扶助基準は、世帯人員数分を単純に足し上げて算出される第1類費と世帯規模の経済性(スケールメリット)を考慮し世帯人員数に応じて設定されている第2類費とを合算する仕組みが採用されているため、世帯の人数が増すにつれ第1類費の比重が高くなり、生活扶助基準額は多人数になるほど割高になるなど、世帯人員別にみると必ず しも一般低所得世帯の消費実態を反映したものとなっていない。そこで、生活扶助基 人数が増すにつれ第1類費の比重が高くなり、生活扶助基準額は多人数になるほど割高になるなど、世帯人員別にみると必ず しも一般低所得世帯の消費実態を反映したものとなっていない。そこで、生活扶助基準の設定及び算出方法については、第2類費の構成割合や多人数世帯の換算率に関する見直し等を行う必要がある。 c 現行の級地制度については昭和62年度から最大格差22.5%、6区分制とされているが、現在の一般世帯の生活扶助相当消費支出額 をみると地域差が縮小傾向にあるため、級地制度全般について見直しを検討する必要がある。 イ生活扶助基準に関する検討会による検証平成16年報告書において、生活扶助基準と一般低所得世帯の消費実態との均衡が適切に図られているか否かを定期的に見極めるため全国消 費実態調査等を基に5年に一度の頻度で検証を行う必要があるとされたこと(前記アa)に加え、平成18年7月に閣議決定された「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2006」では、生活扶助基準について、低所得世帯の消費実態等を踏まえた見直し等を行うこととされたことから、平成19年、生活扶助基準の見直しについて学識経験者等に よる専門的な分析・検討を行うための「生活扶助基準に関する検討会」(以下「生活扶助基準検討会」という。)が設置された。 生活扶助基準検討会は、同年10月19日から同年11月30日までの間に5回の会議を開催し、平成16年の全国消費実態調査の特別集計結果に基づき、①水準の妥当性(生活保護を受給していない低所得世帯 における消費実態との均衡が適切に図られているかどうか)、②体系の妥- 9 - 当性(生活扶助基準において第1類費と第2類費の合算によって算出される基準額が消費実態を反映しているかどうか)、③地域差の妥当性 態との均衡が適切に図られているかどうか)、②体系の妥- 9 - 当性(生活扶助基準において第1類費と第2類費の合算によって算出される基準額が消費実態を反映しているかどうか)、③地域差の妥当性(級地による基準額の較差が地域間における生活水準の差を反映しているかどうか)等の評価及び検証を行った。 (乙5、乙14の1、2) 生活扶助基準検討会は、平成19年11月、「生活扶助基準に関する検討会報告書」(乙5。以下「平成19年報告書」という。)を公表した。 その概要は以下のとおりである(平成19年報告書においてされている検証を、以下「平成19年検証」という。)。 a 生活扶助基準の水準については、夫婦子1人の勤労3人世帯の平均 の生活扶助基準額(15万0408円)は、それらの世帯の第1・十分位における生活扶助相当支出額(14万8781円)よりもやや高めとなっており、単身世帯(60歳以上の場合)の平均の生活扶助基準額(7万1209円)は、それらの世帯の第1・十分位における生活扶助相当支出額(6万2831円)よりも高めとなっている。 生活扶助基準額は、これまで第1・十分位の消費水準と比較することが適当とされてきたが、①第1・十分位の消費水準は、平均的な世帯の消費水準に照らして相当程度に達していること、②第1・十分位に属する世帯における必需的な耐久消費財の普及状況は、平均的な世帯と比べて大きな差はなく、また、必需的な消費品目の購入頻度は、 平均的な世帯と比較してもおおむね遜色ない状況にあることから、今回、これを変更する理由はないと考える。 b 生活扶助基準の体系に関する評価及び検証に当たっては、世帯構成等が異なる生活保護受給者の間において実質的な給付水準の均衡が図られる体系としていくべきとの観点から行い、その 理由はないと考える。 b 生活扶助基準の体系に関する評価及び検証に当たっては、世帯構成等が異なる生活保護受給者の間において実質的な給付水準の均衡が図られる体系としていくべきとの観点から行い、その上で、必要な見直 しを行っていくことが必要である。 - 10 - 世帯人員別、年齢階級別の生活扶助基準額を消費実態と比較したところ、①第1・五分位における世帯人員別の生活扶助相当支出額と比較すると、生活扶助基準額は、世帯人員4人以上の多人数世帯に有利であり、世帯人員が少ない世帯に不利になっている実態が見られ、②単身世帯の第1~3・五分位における年齢階級別の生活扶助相当支出 額と比較すると、60歳未満では生活扶助基準額が相対的にやや低めである一方、70歳以上では生活扶助基準が相対的にやや高めであるなど、消費実態からややかい離している。 c 地域差の比較においては、現行の級地制度における地域差を設定した当時である昭和59年の消費実態と直近の平成16年の消費実態を 比較すると、地域差が縮小している傾向がみられる。 ウ平成19年報告書発表後の生活扶助基準の据置き等平成19年報告書において、平成16年度の生活扶助基準額は、一般低所得世帯の生活扶助相当支出額に比べて高いなどとする検証結果が示されたことから、厚生労働大臣は、生活扶助基準を消費実態に適合させ る方向での見直しを検討したが、原油価格の高騰が消費に与える影響等を見極めるため、平成20年度の生活扶助基準は据え置くこととし、さらに、平成20年2月以降の生活関連物資を中心とした物価上昇が国民の家計へ大きな影響を与えている上、同年9月以降の世界的な金融危機が実体経済に深刻な影響を及ぼしており、国民の将来不安が高まってい る状況にあるとして、平成21年度の生 心とした物価上昇が国民の家計へ大きな影響を与えている上、同年9月以降の世界的な金融危機が実体経済に深刻な影響を及ぼしており、国民の将来不安が高まってい る状況にあるとして、平成21年度の生活扶助基準も引き続き据え置くこととした。その後も、厚生労働大臣は、国民生活の安心が優先されるべき状況にあるなどとして、平成22年度、平成23年度及び平成24年度の生活扶助基準も据え置いた。 (乙7の1、乙15、乙61~65) 平成20年以降、①一般勤労者世帯の賃金は、事業所規模5人以上の- 11 - 調査産業計の1人平均月間現金給与総額で減少傾向にあり、②総務省が公表している消費者物価指数(以下「総務省CPI」という。)は平成21年から平成23年まで3年連続で前年比がマイナスとなり、③全国勤労者世帯の家計消費支出の名目値も平成21年から平成23年まで3年連続で前年比がマイナスとなるなど、賃金、物価及び家計消費がいずれ も継続的に下落するデフレ状況となった。このような社会経済情勢を背景として、生活保護受給者数は平成23年7月に過去最高の205万人に達し、その後も引き続き増加していった。 (乙6、乙11)エ生活保護基準部会による検証 平成16年報告書において5年に一度の頻度で生活扶助基準の水準を検証する必要がある旨の指摘がされ、これを受けて平成19年検証が行われたことなどを踏まえ、平成23年2月、学識経験者による専門的かつ客観的な検証を行うことを目的として、社会保障審議会の下に常設部会として生活保護基準部会(以下「基準部会」という。)が設置された。 (乙6、乙22)基準部会は、平成21年全国消費実態調査の特別集計等のデータを用いて、国民の消費動向、特に一般低所得世帯の生活実態を勘案しながら、 「基準部会」という。)が設置された。 (乙6、乙22)基準部会は、平成21年全国消費実態調査の特別集計等のデータを用いて、国民の消費動向、特に一般低所得世帯の生活実態を勘案しながら、生活扶助基準と一般低所得世帯の消費実態との均衡が適切に図られているか否かなどについて検証を行うこととし、その際、年齢階級別、世帯 人員別及び級地別に生活扶助基準額と消費実態のかい離を詳細に分析し、様々な世帯構成に展開するための指数について検証を行った。 具体的には、生活扶助基準と対比する一般低所得世帯として第1・十分位層を設定し、第1・十分位の世帯の生活扶助相当支出を用いて指数(消費実態の指数)を算出した上で、様々な世帯構成の基準額を算出す る際に基本となる年齢、世帯人員及び地域別の基準額が第1・十分位の- 12 - 消費実態を十分反映しているかについてより詳細な検証を行うこととし、その際、仮に第1・十分位の全ての世帯が生活保護を受給した場合の1世帯当たりの平均受給額が不変となるようにして、年齢、世帯人員体系及び級地の基準額の水準への影響を評価する方法を採用した。なお、基準部会は、第1・十分位の世帯を比較対象とした理由として、①生活扶 助基準を国民の健康で文化的な最低限度の生活水準として考えた場合、指数を全分位の所得階層(全世帯)あるいは中位所得階層(第3・五分位)等から算出することも可能であるが、これまでの検証に倣い、生活保護受給世帯と隣接した一般低所得世帯の消費実態を用いることが今回の検証では現実的であると判断したこと、②第1・十分位の平均消費水 準は、中位所得階層の約6割に達していること、③国民の過半数が必要であると考えている必需的な耐久消費財について、第1・十分位に属する世帯における普及状況は、中位所 ②第1・十分位の平均消費水 準は、中位所得階層の約6割に達していること、③国民の過半数が必要であると考えている必需的な耐久消費財について、第1・十分位に属する世帯における普及状況は、中位所得階層と比べておおむね遜色なく充足されている状況にあること、④分散分析等の統計的手法により検証したところ、各十分位間のうち、第1・十分位と第2・十分位の間におい て消費が大きく変化しており、他の十分位の世帯に比べて消費の動向が大きく異なると考えられること等を挙げている。 (乙6)基準部会は、平成25年1月18日、前記の検証(以下「平成25年検証」という。)に関する「社会保障審議会生活保護基準部会報告書」 (甲全3、乙6。以下「平成25年報告書」という。)を発表した。その概要は以下のとおりである。 a 年齢階級別(第1類費)の基準額の水準については、年齢階級別の生活扶助基準額による指数と第1・十分位の消費実態による指数を比べると、各年齢階級間の指数にかい離が認められた。 また、世帯人員別(第1類費及び第2類費)の基準額の水準につい- 13 - ては、第1類費及び第2類費のいずれについても、世帯人員別の生活扶助基準額による指数と第1・十分位の消費実態による指数を比べると、世帯人員が増えるにつれてかい離が拡大する傾向が認められた。 さらに、級地別の基準額の水準をみると、生活扶助基準額の地域差よりも消費実態の地域差の方が小さくなっていると認められた。 b これらの検証結果を踏まえ、年齢階級別、世帯人員別、級地別の指数を反映した場合の影響を検証すると、世帯員の年齢、世帯人員、居住する地域の組み合わせにより、各世帯への影響は様々である。 c 厚生労働省において生活扶助基準の見直しを検討する際には、本報告書の 数を反映した場合の影響を検証すると、世帯員の年齢、世帯人員、居住する地域の組み合わせにより、各世帯への影響は様々である。 c 厚生労働省において生活扶助基準の見直しを検討する際には、本報告書の評価、検証の結果を考慮し、その上で他に合理的説明が可能な 経済指標等を総合的に勘案する場合は、それらの根拠についても明確に示されたい。なお、その際には現在生活保護を受給している世帯及び一般低所得世帯への見直しが及ぼす影響についても慎重に配慮されたい。 d 今般、生活扶助基準の見直しを具体的に検討する際には、現在生活 保護を受給している世帯及び一般低所得世帯、とりわけ貧困の世代間連鎖を防止する観点から、子どものいる世帯への影響にも配慮する必要がある。 ⑶ 平成25年改定の実施ア厚生労働大臣は、①基準部会における平成25年検証の結果に基づき、 第1・十分位の世帯の消費実態と生活扶助基準の年齢別、世帯人員別及び居住地域別の較差を是正するとともに、②近年デフレ傾向が続いてきた中、生活扶助基準額が据え置かれてきたことを踏まえ、消費者物価指数の近年の動向を勘案した生活扶助基準の改定(平成25年改定)を行うこととした。その具体的な内容は以下のとおりである。 年齢階級別、世帯人員別及び級地別の較差を是正するための見直し- 14 - 平成25年検証の結果、年齢階級別、世帯人員別及び級地別のいずれにおいても、生活扶助基準額による各指数の分布と一般低所得世帯(第1・十分位世帯)の消費実態による各指数の分布との間にかい離が認められたことから、厚生労働大臣は、これらの較差(ゆがみ)を是正することとした(以下、平成25年改定に係る生活扶助基準の見直しのうち 上記較差の是正を目的とする部分を「ゆがみ調整」という。)。 られたことから、厚生労働大臣は、これらの較差(ゆがみ)を是正することとした(以下、平成25年改定に係る生活扶助基準の見直しのうち 上記較差の是正を目的とする部分を「ゆがみ調整」という。)。 具体的には、①第1類費基準額について、各年齢階級間の基準額の差を小さくする、②第1類費基準額の逓減率(世帯人員が1人増加するごとに第1類費基準額の合計額に乗じる割合)について、世帯人員の増加に応じた逓減割合を大きくする、③第2類費基準額について、世帯人員 の増加に応じた各世帯人員別の基準額の増額の幅を大きくする、④第1類費及び第2類費の基準額について、それぞれ各級地間の基準額の差を小さくするように調整するなどの見直しがされた。 もっとも、厚生労働大臣は、ゆがみ調整を行うに当たり、政策的な判断として、基準部会における平成25年検証の結果をそのまま反映させ るのではなく、一律に(増額方向、減額方向共に)2分の1のみ反映させることとした(以下、このような処理を「2分の1処理」という。)。 物価の動向を勘案した見直し前記⑵イ及びウのとおり、平成19年報告書においては生活扶助基準の基準額が一般低所得世帯の消費実態と比較して高いなどの検証結果が 示されていたが、当時の社会経済情勢等から生活扶助基準が据え置かれる状況が続き、その間においても、賃金、物価及び家計消費はいずれも下落するデフレ状況が継続していた。これについて、厚生労働大臣は、生活保護受給世帯の可処分所得が実質的に増加したと評価することができるとして、平成20年から平成23年までの物価変動を生活扶助基準 に反映させる生活扶助基準の改定を行うこととした(以下、平成25年- 15 - 改定に係る生活扶助基準の見直しのうち上記物価変動を勘案して行われた部分を「デフ の物価変動を生活扶助基準 に反映させる生活扶助基準の改定を行うこととした(以下、平成25年- 15 - 改定に係る生活扶助基準の見直しのうち上記物価変動を勘案して行われた部分を「デフレ調整」という。)。デフレ調整における平成20年から平成23年までの物価変動率の具体的な算出方法は後記⑷のとおりであり、これにより算出された物価変動率-4.78%に相当する生活扶助基準の引下げを行うこととした。 その他の措置ゆがみ調整及びデフレ調整を行うことにより生活扶助基準額が大幅に減額になる世帯が生ずることが見込まれたため、厚生労働大臣は、激変緩和措置として、現行の生活扶助基準からの増減額の幅が各10%を超えないように調整し、かつ、生活扶助基準の改定を平成25年度から3 年間かけて段階的に実施することとした。 (甲全127、甲全185、乙16、乙17、乙20、乙55)イ以上により、平成25年8月、生活扶助基準について平成25年改定が行われ、さらに、平成26年及び平成27年にも順次改定が行われた(以下、3年間にわたるこれらの改定を併せて「本件保護基準改定」という。)。 ⑷ デフレ調整における物価変動率の算出方法ア消費者物価指数について(乙26~28)一般に、「物価」とは、商品の価格を総合的、平均的にみたものをいい、「物価指数」とは、物価の変動を表示する統計数字である。 そして、物価指数は、「品目」と呼ばれる最小単位の価格指数を、各品 目のウエイト(支出全体に占める各品目の支出金額の割合)で加重平均することにより算出される。具体的には、①互いに性質の似通った商品又はサービスを「品目」としてグルーピングし、その取引金額シェアから加重ウエイトを計算する、②各品目に属する商品等の価格の動きを代表す ることにより算出される。具体的には、①互いに性質の似通った商品又はサービスを「品目」としてグルーピングし、その取引金額シェアから加重ウエイトを計算する、②各品目に属する商品等の価格の動きを代表するような商品等をピックアップして、その価格を継続的に調査し、 「品目指数」を作成する、③個々の品目指数を当該品目のウエイトで加- 16 - 重平均して「総平均」を算出する、という手順がとられている。個々の商品等の品目指数にそれぞれの取引量に応じたウエイトをつけて平均する加重平均がされるのは、ある品目の指数の変化率が大きくても、その品目の取引金額が小さければ物価の変動に与える影響は必ずしも大きくないことなどから、商品等の価格の平均的な変動を正しく測定するため である。 消費者が購入する財及びサービスの物価の動きを示す指数である消費者物価指数(ConsumerPriceIndex)は、全国の世帯が購入する財及びサービスの価格変動を総合的に測定し、物価の変動を時系列的に測定するものである。すなわち、消費者物価指数は、家計の消費構造を一定のも のに固定し、これに要する費用が物価の変動によってどう変化するかを指数値で示したものであって、消費者が購入する財とサービスの種類、品質及び購入数量の変化を伴った生計費の変化を測定するものではない。 イ総務省CPIの算出方法(乙26~28、乙75)総務省が公表している消費者物価指数である総務省CPIは、指数の 計算の対象とする品目(以下「指数品目」という。)を選定し、家計調査(総務省統計局が、国民生活における家計収支の実態を把握するために、一般国民の家計上の支出、収入、貯蓄等を調査するもの)により家計の消費支出全体に当該品目の支出額が占める割合(以下「支出割合」という。 務省統計局が、国民生活における家計収支の実態を把握するために、一般国民の家計上の支出、収入、貯蓄等を調査するもの)により家計の消費支出全体に当該品目の支出額が占める割合(以下「支出割合」という。)を算出した上、指数品目の基準年の価格指数と比較年の価格指数に 支出割合をウエイトとしてそれぞれ加重平均し、基準年の指数を100として比較年の物価を指数化することで算出される。なお、総務省CPIでは、基準年のウエイトで加重平均をするラスパイレス式が採用されている。 総務省CPIでは、新たな財及びサービスの出現や嗜好の変化等によ る消費構造の変化を反映させるため、5年に一度、指数品目とウエイト- 17 - を見直しており、平成17年及び平成22年にもその見直しが行われた。 ウデフレ調整における手法(乙20、乙29、乙30)厚生労働大臣は、物価下落による生活保護受給世帯の実質的な可処分所得の増加分を明らかにするため、消費者物価指数の変動率を算出することとし、その際、消費者物価指数の算出の際の指数品目を、総務省C PIの指数品目のうち家賃等の生活扶助以外の他の扶助で賄われる品目及び自動車関係費、NHK受信料、大学授業料、幼稚園保育料等の生活保護受給世帯において支出することが想定されていない品目を除いたもの(以下、除外後の品目を「生活扶助相当品目」という。)とした。また、変動率を算出する期間を平成20年から平成23年までとした上で、平 成20年の価格指数及び平成23年の価格指数を平成22年のウエイトで加重平均することで、消費者物価指数を算出することとし、その際のウエイトは、被保護世帯の生活実態を明らかにするための調査である厚生労働省の社会保障生計調査の結果ではなく、一般国民の家計収支実態を明らかにするための調 、消費者物価指数を算出することとし、その際のウエイトは、被保護世帯の生活実態を明らかにするための調査である厚生労働省の社会保障生計調査の結果ではなく、一般国民の家計収支実態を明らかにするための調査である総務省の家計調査の結果を用いて算出 した(この方法で算出される消費者物価指数を、以下「生活扶助相当CPI」といい、厚生労働大臣がデフレ調整の基となる物価変動率を算定するために採用した上記の手法を、以下「本件手法」という。)。 以上の結果、平成20年の生活扶助相当CPIは104.5、平成23年の生活扶助相当CPIは99.5とされ、平成20年から平成23 年までの変動率は-4.78%(≒(99.5―104.5)÷104. 5)とされた。 4 原告らに関する個別の事実関係原告らに関する以下の事実は、当事者間に争いがなく、若しくは、掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められ、又は、当裁判所に顕著である。 ⑴ア原告番号9を除く原告らは、それぞれ生活保護法に基づく生活保護を受- 18 - けていたところ、別紙処分一覧表の「処分行政庁」欄記載の各処分行政庁から、同「処分日」欄記載の各日付けで、それぞれ生活扶助費の減額を内容とする生活保護法25条2項に基づく保護変更決定を受けた。 イ韓国籍の外国人である原告番号9(乙個1)は、昭和29年通知に基づく生活保護措置を受けていたところ、広島市東福祉事務所長から、平成2 5年7月3日付けで、生活扶助費の減額を内容とする保護変更措置を受けた。 ウ前記ア及びイの各保護変更決定等により、原告らの生活扶助費の額は、別紙処分一覧表の「生活扶助費の額」欄のうち「改定前」欄記載の各金額から、同「改定後」欄記載の各金額に減ぜられた。その減額幅は同「差額」 欄記載のとおり 定等により、原告らの生活扶助費の額は、別紙処分一覧表の「生活扶助費の額」欄のうち「改定前」欄記載の各金額から、同「改定後」欄記載の各金額に減ぜられた。その減額幅は同「差額」 欄記載のとおりである。 ⑵ア原告らは、平成25年8月30日又は同年9月17日、前記⑴の各保護変更決定等についてそれぞれ審査請求をしたが、これらの日から50日を経過した後も裁決はされなかった。 イ原告らは、平成26年11月21日、本件訴訟を提起した。 ⑶ 別紙原告目録2記載の原告らは、同目録の「年月日」欄記載の各日にそれぞれ死亡した。 第3 争点及びこれに関する当事者の主張本件の争点は、平成25年改定の適法性(平成25年改定が厚生労働大臣の裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものといえるか)であり、具体的には、 主に以下の各事項について争われている。これらに関する当事者の主張は、別紙当事者の主張のとおりである。 1 生活扶助基準の改定の適否に関する判断枠組み 2 ゆがみ調整について⑴ 生活保護受給世帯を含む第1・十分位層(世帯)の消費支出を比較対象と したことの適否- 19 - ⑵ 2分の1処理を行ったことの適否 3 デフレ調整について⑴ 基準部会等の専門機関による審議検討を経ていないことの適否⑵ 物価変動を指標として生活扶助基準の改定を行ったことの適否⑶ 物価変動率の算定方法(本件手法)の適否 ア生活扶助相当品目を対象としたことの適否イ算定期間を平成20年から平成23年までとしたことの適否ウ一般国民全体を調査対象とする家計調査により算出されたウエイトを用いたことの適否エ平成22年のウエイトを用いたことの適否 ⑷ 算定された物価変動率-4.78%をもってデフレ調整分の改定 一般国民全体を調査対象とする家計調査により算出されたウエイトを用いたことの適否エ平成22年のウエイトを用いたことの適否 ⑷ 算定された物価変動率-4.78%をもってデフレ調整分の改定率としたことの適否第4 当裁判所の判断 1 生活扶助基準の改定の適否に関する判断枠組み⑴ア生活保護法により保障される最低限度の生活は、健康で文化的な生活水 準を維持することができるものでなければならず(同法3条)、また、保護基準は、要保護者の年齢別、性別、世帯構成別、所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであって、かつ、これを超えないものでなければならない(同法8条2項)。もっとも、これらの規定にいう最低限度の生活は、抽象的かつ相 対的な概念であって、その具体的な内容は、その時々における経済的及び社会的条件、一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断し決定されるべきものであり、これを保護基準において具体化するに当たっては、高度の専門技術的な考察とそれに基づいた政策的判断を必要とするものである(最高裁昭和57年7月7日大法廷判決・民集36巻7号1235頁 参照)。したがって、保護基準中の生活扶助基準に係る部分を改定するに際- 20 - し、要保護者の最低限度の生活の需要を満たすとともにこれを超えないものであるか否か及び改定後の生活扶助基準の内容が健康で文化的な生活水準を維持することができるものであるか否かを判断するに当たっては、厚生労働大臣に上記のような専門技術的かつ政策的な見地からの裁量権が認められるものというべきである。 イまた、生活扶助基準を引き下げる改定は、改定前の生活扶助基準による生活扶助費が支給されることを前提として現に生活設 門技術的かつ政策的な見地からの裁量権が認められるものというべきである。 イまた、生活扶助基準を引き下げる改定は、改定前の生活扶助基準による生活扶助費が支給されることを前提として現に生活設計を立てていた被保護者に関しては、保護基準によって具体化されていたその期待的利益の喪失をきたす側面があることも否定し得ないところである。そうすると、厚生労働大臣は、生活扶助基準の引下げの必要性を踏まえつつ、被保護者の このような期待的利益についても可及的に配慮するため、その引下げの具体的な方法等について、激変緩和措置を講ずること等を含め、上記のような専門技術的かつ政策的な見地からの裁量権を有しているものというべきである。 ⑵ したがって、生活扶助基準を引き下げる改定は、①要保護者の最低限度の 生活の需要を超えないために当該改定を行う必要があり、改定後の生活扶助基準の内容が健康で文化的な生活水準を維持することができるものであるとした厚生労働大臣の判断に前記⑴アの見地からの裁量権の範囲の逸脱又はその濫用がある場合、あるいは、②当該改定に際して激変緩和等の措置を講ずることの要否や現に採用した措置が相当であるとした同大臣の判断に同イの 見地からの裁量権の範囲の逸脱又はその濫用がある場合に、生活保護法3条、8条2項に違反して違法となるというべきである。 そして、生活扶助基準の引下げの要否の前提となる最低限度の生活の需要に係る評価が前記⑴アのような専門技術的な考察に基づいた政策的判断であって、生活扶助基準の改定に当たってはこれまでも各種の統計や専門家の作 成した資料等に基づいた検討がされてきた経緯等に鑑みると、同大臣の上記- 21 - ①の裁量判断の適否に係る裁判所の審理においては、主として生活扶助基準を引き下げる当該 計や専門家の作 成した資料等に基づいた検討がされてきた経緯等に鑑みると、同大臣の上記- 21 - ①の裁量判断の適否に係る裁判所の審理においては、主として生活扶助基準を引き下げる当該改定に至る判断の過程及び手続に過誤、欠落があるか否かなどの観点から、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性の有無等について審査されるべきものと解される。また、当該改定が生活扶助基準の引下げを内容とするものであることに鑑みると、厚生労働 大臣の上記②の裁量判断の適否に係る裁判所の審理においては、当該改定に基づく生活扶助額の減額が被保護者の期待的利益の喪失を通じてその生活に看過し難い影響を及ぼすか否かなどの観点から、当該改定の被保護者の生活への影響の程度やそれが上記の激変緩和措置等によって緩和される程度等について上記の統計等の客観的な数値等との合理的関連性等を含めて審査され るべきものと解される(最高裁平成24年2月28日第三小法廷判決・民集66巻3号1240頁、最高裁同年4月2日第二小法廷判決・民集66巻6号2367頁参照)。 ⑶ これに対し、原告らは、従前の生活扶助基準を引き下げる場合には、生活保護法3条、8条2項、56条並びに社会権規約2条1項、9条及び11条 により導かれる制度後退禁止原則の要請から、厚生労働大臣の裁量判断の適否についての審査及び判断はより厳格に行われるべきである旨主張する。 しかし、生活保護法は、8条2項において、保護基準が所定の諸要素を考慮した最低限度の生活の需要を超えるに至った場合にはこれが引き下げられる場合があることを予定しているものと解されるから、同法が制度後退禁止 原則を定めているということはできない。また、社会権規約の各締約国に、立法措置等により同規約において認 これが引き下げられる場合があることを予定しているものと解されるから、同法が制度後退禁止 原則を定めているということはできない。また、社会権規約の各締約国に、立法措置等により同規約において認められる権利の完全な実現を達成するために行動をとることを求める同規約2条1項は、同規約の各規定が定める権利が各締結国の社会政策による保護に値するものであることを確認し、各締結国がその実現に向けて積極的に社会政策を推進すべき政治的責任を負うこ とを宣明するにとどまるものと解されるから、同規約の規定から制度後退禁- 22 - 止原則が導かれるものということはできない。 よって、原告らの上記主張は採用できない。 2 ゆがみ調整について⑴ 生活保護受給世帯を含む第1・十分位層(世帯)の消費支出を比較対象としたことの適否について ア平成25年検証は、国民の消費動向、特に一般低所得世帯の生活実態を勘案しながら、生活扶助基準と一般低所得世帯の消費実態との均衡が適切に図られているか否かなどについて検証を行うこととしたものであり、具体的には、生活扶助基準と対比する一般低所得世帯として第1・十分位層を設定した上、年齢階級別、世帯人員別及び地域別の基準額が第1・十分 位の消費実態を反映しているかについて検証を行ったものである(前記第2の3⑵エ)。そして、厚生労働大臣は、この検証の結果を踏まえてゆがみ調整を行っている。 これについて、原告らは、最下位層である第1・十分位の消費支出を比較対象とすることは、保護基準を際限なく引き下げていくことにつな がる旨主張する。 しかし、前記第2の3⑵エ、及び同⑶アによれば、ゆがみ調整は、生活保護受給世帯間の公平を図るために、生活扶助基準の展開部分についての指数(標準世帯と他の様 とにつな がる旨主張する。 しかし、前記第2の3⑵エ、及び同⑶アによれば、ゆがみ調整は、生活保護受給世帯間の公平を図るために、生活扶助基準の展開部分についての指数(標準世帯と他の様々な世帯(年齢階級別、世帯人員別及び級地別)との相違に伴う最低生活に要する費用の相違を表した数値) を適正化しようとするものであり、生活扶助基準額の水準を一般低所得世帯(第1・十分位)の消費支出と比較することにより上記水準を改定しようとするものではないと解される。そして、上記指数の適正化を図るに当たり、生活保護受給世帯と生活様式や消費実態が近いと考えられる低所得世帯(第1・十分位世帯)を比較対象とし、その年齢階級別、 世帯人員別及び級地別の消費構造による指数の分布を参照することは、- 23 - 比較対象の設定に関して平成25年報告書が挙げる理由(前記第2の3⑵エ)も併せ考慮すると、合理性が認められるというべきである。 また、原告らは、平成25年検証において比較対象である第1・十分位層(世帯)から生活保護受給世帯が除外されなかったことは、「比較する二つの集団が比較の対象とする要因に関しては厳密に区別されなけれ ばならない」という統計学上の原則から逸脱するとも主張する。 しかし、前記第2の3⑵エ及び前記のとおり、ゆがみ調整は、生活保護受給世帯間の公平を図ることを目的に、生活扶助基準の展開部分についての指数を適正化するため、平成21年全国消費実態調査の第1・十分位のデータを使用して、その消費実態の年齢階級別、世帯人員 別及び級地別の各指数(消費実態による指数)の分布と、それらの全ての世帯が生活保護を受給した場合の生活扶助基準額の年齢階級別、世帯人員別及び級地別の各指数(生活扶助基準額による指数)の分布を比較 別及び級地別の各指数(消費実態による指数)の分布と、それらの全ての世帯が生活保護を受給した場合の生活扶助基準額の年齢階級別、世帯人員別及び級地別の各指数(生活扶助基準額による指数)の分布を比較してそのかい離の有無等を確認し、これを是正したものであるから、その比較に際して一般低所得世帯(第1・十分位)から生活保護受給世帯 を除外しなければ統計上の正当性を欠くということにはならないというべきである。そして、第1・十分位層(世帯)から生活保護受給世帯を除外しないことにより、その消費実態の把握に関し、上記のようなゆがみ調整の目的との関係で支障が生ずるとも解されない。 イよって、原告らの上記主張は採用できず、生活保護受給世帯を含む第 1・十分位層(世帯)の消費支出を比較対象としたことについて、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性を欠くということはできない。 ⑵ 2分の1処理を行ったことの適否についてア厚生労働大臣は、ゆがみ調整を行うに当たり、基準部会における平成2 5年検証の結果をそのまま反映させるのではなく、一律に(増額方向、減- 24 - 額方向共に)2分の1のみ反映させる2分の1処理をしている。これについて、被告らは、平成25年検証の結果をそのまま反映させると、子どものいる世帯への影響が大きいことは明らかであり、激変緩和措置の一つとして2分の1処理を行った旨の説明をしている。 イ基準部会における検証結果等は、厚生労働大臣の判断を法的に拘束する ものではなく、生活扶助基準の改定に当たっての考慮要素として位置付けられるべきものである(前掲最高裁平成24年4月2日第二小法廷判決参照)。したがって、厚生労働大臣が平成25年検証を踏まえて生活扶助基準の改定を行う場合に、その検証結 たっての考慮要素として位置付けられるべきものである(前掲最高裁平成24年4月2日第二小法廷判決参照)。したがって、厚生労働大臣が平成25年検証を踏まえて生活扶助基準の改定を行う場合に、その検証結果をどのような形で反映するかについては、同大臣の専門技術的かつ政策的な見地からの裁量判断に委ねられてい るというべきところ、平成25年報告書は、生活扶助基準の見直しを検討する際には、現在保護を受給している世帯及び一般低所得世帯、とりわけ貧困の世代間連鎖を防止する観点から、子どものいる世帯への影響にも配慮する必要があるとするとともに(前記第2の3⑵エd)、平成25年検証の結果をそのまま生活扶助基準に反映した場合の影響を世帯構成ごとに みると、夫婦と18歳未満の子1人世帯では-8.5%、夫婦と18歳未満の子2人世帯では-14.2%、母親と18歳未満の子1人の母子世帯では-5.2%となるなど、特に子どものいる世帯への影響が大きくなることを指摘している(乙6・7~8頁)。 そうすると、ゆがみ調整を行うに当たり、政策的な見地から、激変緩和 措置として平成25年検証の結果を2分の1のみ反映させたことは、被保護者、とりわけ子どものいる世帯の期待的利益や生活への影響等の観点からの配慮をしたものとして、合理性を有するということができる。 ウこれに対し、原告らは、ゆがみ調整により増額される世帯に関しても平成25年検証の結果を2分の1のみ反映することで増額の幅を圧縮したこ とは、恣意的かつ不合理である旨主張する。 - 25 - しかし、生活扶助基準と一般低所得世帯の消費実態との均衡が適切に図られているか否かなどについて検証するため、年齢階級別、世帯人員別及び級地別に生活扶助基準額と消費実態のかい離を分析し、様々な世帯構成に展 、生活扶助基準と一般低所得世帯の消費実態との均衡が適切に図られているか否かなどについて検証するため、年齢階級別、世帯人員別及び級地別に生活扶助基準額と消費実態のかい離を分析し、様々な世帯構成に展開するための指数について検証を行うという平成25年検証の目的(前記第2の3⑵エ)に照らせば、その検証結果は生活扶助基準額の水 準の適否とは直接の関係を有するものではないというべきであり、同検証の結果増額が相当とされた世帯について、そこで示された増額幅をそのまま反映させなければ健康で文化的な生活水準を維持することができない状態にあることを意味するものではないというべきである。 また、平成25年検証により明らかとなった年齢階級別、世帯人員別及 び級地別の生活扶助基準額と一般低所得世帯の消費実態のかい離を解消するに当たり、減額方向については平成25年検証の結果を2分の1の限度で反映させる一方、増額方向については上記結果をそのまま反映させるというように、異なる比率で反映させることとした場合には、上記かい離の解消の程度が区々となり、このことは、生活保護受給世帯間の公平を図る というゆがみ調整の目的とは必ずしも整合しないものということができる。 そうすると、ゆがみ調整によって減額となる世帯に対する激変緩和措置として平成25年検証の結果を2分の1のみ反映させることとし、その際、増額となる世帯についてもこれと異なる扱いとはせずに、一律に2分の1のみ反映させることとして、全体につき一定の割合により上記かい離の解 消を図ったことには、相応の合理性があるというべきである。 エそうすると、ゆがみ調整を行うに当たり2分の1処理をしたことに係る厚生労働大臣の判断に、裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるということはできない。 ⑶ 小括 があるというべきである。 エそうすると、ゆがみ調整を行うに当たり2分の1処理をしたことに係る厚生労働大臣の判断に、裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるということはできない。 ⑶ 小括 以上に加えて、ゆがみ調整の違法性に関する原告らのその他の主張を考慮- 26 - しても、基準部会による平成25年検証の結果やこれを踏まえてゆがみ調整を行った厚生労働大臣の判断が、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性を欠いているということはできない。 3 デフレ調整について⑴ 基準部会等の専門機関による審議検討を経ていないことの適否について ア厚生労働大臣は、平成25年改定においてゆがみ調整を行うことに関しては、基準部会による審議検討(平成25年検証)を経て、その検証結果を踏まえた判断をしているのに対し、デフレ調整を行うことに関しては、基準部会その他の専門機関による審議検討を経ることなくその判断をしている。 これについて、原告らは、厚生労働大臣が保護基準を改定するに当たっては基準部会等の専門機関における検討を踏まえることが強く要請され、これに依拠しない判断が行われる場合には、いかなる「高度の専門技術的な考察」が行われたのかという観点から、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性がとりわけ厳格に審査されなければな らない旨主張する。 イ確かに、生活保護法の制定過程において、保護の範囲、方法等が法律で具体的に定められていないことが問題視されたのに対し、厚生省(当時)は、保護基準は合理的な基礎資料によって算定されるべきものであり、その資料は社会保障制度審議会の最低限度の生活の水準に関する調査研究に よって得られるべきことを説明し、かつ、社会事業審議会に部会を設 護基準は合理的な基礎資料によって算定されるべきものであり、その資料は社会保障制度審議会の最低限度の生活の水準に関する調査研究に よって得られるべきことを説明し、かつ、社会事業審議会に部会を設け実際の運用に当たり部会の検討結果の趣旨を生かすことを言明して了解を得たという経緯があったことが認められ(甲全15)、その後、生活扶助基準の改定を水準均衡方式により行うことは厚生省の審議会である中央社会福祉審議会が取りまとめた昭和58年意見具申を踏まえて決定されている (前記第2の3⑴ウ)ほか、専門委員会が取りまとめた平成16年報告書- 27 - は、5年に一度の頻度で生活扶助基準の水準を検証するに際し、調査方法及び評価手法について専門家の知見を踏まえることが妥当であるとし(同⑵アa)、これを受けて、平成19年には学識経験者等による生活扶助基準検討会において生活扶助基準の検証が行われ、平成23年には学識経験者による基準部会において生活扶助基準の検証が行われていること(同イ、 エ)などからすれば、生活扶助基準の改定は、専門家により構成された審議会等による審議検討の結果を踏まえて行うことが通例となっているということができる。 ウしかし、厚生労働大臣が生活扶助基準を改定するに当たり、基準部会等の専門機関による審議検討を経ることを義務付ける法令上の根拠は見当た らないから、上記審議検討を経ていないことをもって直ちに同大臣の判断の違法性が基礎付けられるものではない。 また、厚生労働大臣の判断が、これに先立つ専門機関による審議検討の結果に依拠したものである場合には、一般的に、上記審議検討の結果には専門性に加えて客観性や中立性が一定程度備わっていることが期待できる ほか、その内容が報告書等の形で取りまとめられることで審 結果に依拠したものである場合には、一般的に、上記審議検討の結果には専門性に加えて客観性や中立性が一定程度備わっていることが期待できる ほか、その内容が報告書等の形で取りまとめられることで審議検討の過程等が明らかになり、これに基づく事後の審査が可能となるのに対し、基準部会等の専門機関による審議検討を経ることなく同大臣の判断が行われた場合には、必ずしも上記のような事情がないことから、同大臣の判断の過程及び手続における過誤、欠落の有無等に関する審理の手法に自ずと差異 が生ずるということはできる。しかし、上記のいずれの場合であっても、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性の有無等を審査して、厚生労働大臣の判断に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるか否かを判断すべきことに変わりはないから、基準部会等の専門機関による審議検討を経ていないことを理由として、上記の審査をより厳格に 行うことが求められるものと解する根拠はないというべきである。 - 28 - エよって、原告らの上記主張は採用できず、デフレ調整の適否についても、前記1で説示した判断枠組みに従って以下検討する。 ⑵ 物価変動を指標として生活扶助基準の改定を行ったことの適否についてア被告らの説明によれば、平成19年検証の結果、生活扶助基準の水準は一般低所得世帯の消費実態と比較して高いとされ、また、世界金融危機に よって賃金、物価、家計消費等が落ち込み、一般国民の消費水準が下落する一方、平成20年以降、経済動向を踏まえた生活扶助基準の減額改定が行われずに据え置かれてきた結果、生活保護受給世帯の可処分所得が相対的、実質的に増加した(生活扶助基準の水準が実質的に引き上げられた)と評価することができる状況となったことから、これにより生じた生 行われずに据え置かれてきた結果、生活保護受給世帯の可処分所得が相対的、実質的に増加した(生活扶助基準の水準が実質的に引き上げられた)と評価することができる状況となったことから、これにより生じた生活保 護受給世帯と一般国民との間の不均衡の是正を図るため、同年以降の物価変動を生活扶助基準の水準に反映させるデフレ調整を行うこととしたという。 イこれについて、原告らは、生活扶助基準の改定方式として昭和59年以降採用されている水準均衡方式の下では、物価を指標にして生活扶助基準 を改定することはできない旨主張する。 しかし、生活扶助基準の改定については、その方式に関する法令上の定めがなく、厚生労働大臣に専門技術的かつ政策的な見地からの裁量権が認められているものと解されるから、昭和59年以降は水準均衡方式が採用されてきたという経緯があるとしても、同方式と異なる方式により生活扶 助基準の改定を行うことがおよそ許されないものと解すべき理由はない。 また、水準均衡方式を採用すべきものとした昭和58年意見具申は、生活保護において保障すべき最低生活の水準は一般国民の生活水準との関連において捉えられるべきものであることを前提に、国民の生活水準が今後も向上することからすれば、生活扶助基準の改定に当たっては、政府経済見 通しの民間最終消費支出の伸びに準拠することが妥当であり、そのままで- 29 - は消費水準を示すものではない賃金や物価の伸びは参考資料にとどめるべきであるとしているものであって(前記第2の3⑴イ)、物価の動向を考慮して生活扶助基準の改定を行うこと自体を排斥する趣旨ではないというべきである。また、平成15年中間取りまとめは、生活扶助基準の水準の改定については消費者物価指数の伸びも改定の指標の一つとして用いること 生活扶助基準の改定を行うこと自体を排斥する趣旨ではないというべきである。また、平成15年中間取りまとめは、生活扶助基準の水準の改定については消費者物価指数の伸びも改定の指標の一つとして用いること なども考えられるとしているところである(前記第2の3⑵ア)。 以上によれば、物価変動を指標として生活扶助基準の改定を行うことはできないとする原告らの主張は採用できない。 ⑶ 物価変動率の算定方法(本件手法)の適否についてア生活扶助相当品目を対象としたことの適否について 被告らの説明によれば、平成25年当時、生活扶助による支出が想定される品目の価格指数及びウエイトを網羅した信頼性の高い客観的なデータとしては総務省CPIしかなかったが、その指数品目には、家賃、教育費、医療費、自動車関係費、NHK受信料等の生活扶助による支出がおよそ想定されない品目が多数含まれており、生活保護受給世帯の可 処分所得の相対的、実質的な増加の程度を把握するためには、これらを含めて算定することは相当ではないと考えられたため、「生活扶助において捕捉され得るか否か」という客観的かつ明確な基準に従って選択した品目を除外し、生活扶助相当品目を対象として消費者物価指数を算定することとしたという。 厚生労働大臣が生活保護受給世帯の物価変動率を算定するに当たり生活扶助相当品目を対象としたことに関する被告らの上記説明の内容に、特段不合理な点はないというべきである。 原告らは、生活保護受給世帯は食費や水道光熱費等の生活必需品のウエイトが一般世帯と比較して高いところ、生活扶助相当CPIは一般世 帯における各品目別ウエイトを用いていることから、生活保護受給世帯- 30 - の消費実態に沿わないウエイトが用いられているといえる上、対象から 高いところ、生活扶助相当CPIは一般世 帯における各品目別ウエイトを用いていることから、生活保護受給世帯- 30 - の消費実態に沿わないウエイトが用いられているといえる上、対象から一部の品目を除外することにより、生活必需品以外の教養娯楽費等のウエイトが相対的に高まることになるため、生活保護受給世帯の消費生活実態を無視することになる旨主張する。しかし、生活保護受給世帯の物価変動率を算定するに当たり、生活保護受給世帯が生活扶助費から支出 することが想定される品目である生活扶助相当品目を対象とするという方法自体が特段不合理ではないことは前記のとおりであり、生活扶助相当品目を対象とすることにより特定の品目のウエイトが相対的に大きくなって、総務省CPIを用いた場合の物価下落率よりも大きな数値が算出される結果が生じたとしても、そのことをもって生活保護受給世帯 の物価変動率の算定方法として不合理であるということはできないから、原告らの上記主張は採用できない。 イ算定期間を平成20年から平成23年までとしたことの適否について被告らの説明によれば、厚生労働大臣が物価変動率の算定の始期を平成20年としたのは、平成19年検証において生活扶助基準が一般低所 得世帯の消費実態と比較して高いとの見解が示されながら、平成20年以降同検証に基づく減額改定が行われなかったという経緯の下で、デフレ調整の目的が、同年以降のデフレ傾向によって拡大した生活扶助基準の水準と一般国民の消費実態との不均衡を是正することにあったためであるという。 生活扶助基準の改定を行うに際し、いつからいつまでの物価変動率を基に検討を行うかについては種々の考え方があり得るところであり、原告らが主張するように、生活扶助基準額が平成16年以降据え置か 生活扶助基準の改定を行うに際し、いつからいつまでの物価変動率を基に検討を行うかについては種々の考え方があり得るところであり、原告らが主張するように、生活扶助基準額が平成16年以降据え置かれていたことから、その算定の始期を同年から平成19年検証が行われた平成19年までのいずれかの年とすることも考えられるところではあるが、 厚生労働大臣が始期を平成20年としたことについての被告らの上記説- 31 - 明が直ちに不合理であるということはできない。 また、証拠(乙48、乙49、乙50の4)及び弁論の全趣旨によれば、生活扶助相当CPIの算定の基礎となる総務省CPIは、平成23年のデータが平成24年1月27日に、平成24年のデータが平成25年1月25日にそれぞれ公表されたこと、平成25年度予算の政府案は 平成25年1月29日に閣議決定されたことが認められる。そうすると、デフレ調整を行うに当たり、平成24年の総務省CPIのデータを用いることは事実上困難であったということができ、平成25年度予算の政府案策定の時点で最新のデータであった平成23年の総務省CPIのデータを用いることとして、同年を物価変動率の算定の終期としたことに は、合理性があるということができる。 原告らは、平成20年は世界的な原油価格や穀物価格の高騰等が理由で一時的に物価が高騰した年次であり、このような特別の事情のある年を基準時点とすれば物価の変化率は著しく過大に算出されることを指摘して、同年を物価変動率の算定の始期としたことに統計上の正当性はな い旨主張する。しかし、平成20年以降のデフレ傾向によって拡大した生活扶助基準の水準と一般国民の消費実態との不均衡を是正するためにその物価変動率を算定するに当たり、平成20年を始期としたことが不 い旨主張する。しかし、平成20年以降のデフレ傾向によって拡大した生活扶助基準の水準と一般国民の消費実態との不均衡を是正するためにその物価変動率を算定するに当たり、平成20年を始期としたことが不合理といえないことは前記のとおりであり、同年を始期とすることによりそれ以前の年を始期とした場合と比べて物価下落率が大きくなる結 果が生じたとしても、そのことをもって平成20年以降のデフレ傾向の影響を測る物価変動率を算定する方法として不合理であるということはできないから、原告らの上記主張は採用できない。 ウ一般国民全体を調査対象とする家計調査により算出されたウエイトを用いたことの適否について 被告らの説明によれば、家計調査は、一般国民全体を対象とするもの- 32 - ではあるが、調査対象世帯の選定方法も含め、統計資料としての精度が高いだけではなく、家計上の支出(詳細な品目ごとの支出額)等の把握を目的とした調査であるから、生活扶助相当CPIの算定に用いられる各品目のウエイトを把握するのに最も適したデータであるといえるのに対し、社会保障生計調査は、生活保護受給世帯を対象とするものではあ るが、調査世帯の選定において地域等による偏りが生じる可能性があることや、サンプル数が必ずしも多くないこと等を踏まえると、生活保護受給世帯全体の家計支出の状況を推測する精度に一定の限界がある上、社会保障生計調査は、生活保護受給世帯の「生活実態」を把握する調査であって、生活保護受給世帯の詳細な支出先や支出額を把握するもので はないから、調査の手法としても、個別品目の消費支出の割合等を正確かつ詳細に記載させるための措置が講じられておらず、その調査結果を分析しても、家計調査のように詳細な品目ごとのウエイトは把握できないこと、また、 調査の手法としても、個別品目の消費支出の割合等を正確かつ詳細に記載させるための措置が講じられておらず、その調査結果を分析しても、家計調査のように詳細な品目ごとのウエイトは把握できないこと、また、家計調査には収入階層別のウエイトのデータもあるが、これについてはいくつかの品目をまとめた「類」レベルでのウエイトの データのみが存在し、品目別のウエイトのデータは存在しないことから、一般国民全体を調査対象とする家計調査により算出されたウエイトを用いる判断をしたという。 確かに、証拠(乙75~77、乙93)及び弁論の全趣旨によれば、家計調査と社会保障生計調査には、被告らが指摘する上記のような調査 対象世帯の選定方法や調査の手法、ウエイトを把握し得る品目のレベル等についての違いがあることが認められるから、厚生労働大臣が物価変動率を算定するに当たり一般国民全体を調査対象とする家計調査により算出されたウエイトを用いたことには一定の合理性があるといえる。 原告らは、生活保護受給世帯は一般世帯よりも消費支出額の絶対額が 低く、その支出構造にも一般世帯とは異なる特徴があるため、生活保護- 33 - 受給世帯の消費実態に即したウエイトに基づいて計算しなければ、デフレ傾向によって生活保護受給世帯の可処分所得が実質的にどれだけ変化したのかを明らかにすることはできない旨主張する。確かに、生活扶助相当品目(生活扶助による支出がおよそ想定されない品目を除いた品目)の価格指数及びウエイトを用いて生活扶助相当CPIを算出し、これに より物価変動率を算定するという厚生労働大臣の採用した手法の下では、生活保護受給世帯の消費実態により即したウエイトを用いることが望ましいということができる。しかし、社会保障生計調査のデータや家計調査のうち収入階 を算定するという厚生労働大臣の採用した手法の下では、生活保護受給世帯の消費実態により即したウエイトを用いることが望ましいということができる。しかし、社会保障生計調査のデータや家計調査のうち収入階層別のウエイトがデフレ調整の基となる物価変動率の算定に用いるものとして必ずしも適切でないとした厚生労働大臣の判断が 特段不合理でないことは前記のとおりであり、原告らの上記主張は採用できない。 エ平成22年のウエイトを用いたことの適否について被告らの説明によれば、平成25年当時、家計調査によるウエイトのデータとしては、平成17年以前のものと平成22年のものが存在した ところ、厚生労働大臣は、国民の消費の内容は経時的に変化することから、現実の消費実態を反映した物価指数を算定するためには、物価指数の算定時点に可能な限り近接した時点の消費の構造を示すデータを用いるのが相当と考え、平成20年から平成23年までの物価変動率を算定するに当たり、平成22年のウエイトを用いることとしたという。 厚生労働大臣が物価変動率を算定するに当たり平成22年のウエイトを用いたことに関する被告らの上記説明の内容に、特段不合理な点はないというべきである。 原告らは、平成20年から平成23年までの間の生活扶助相当CPIの変動率(-4.78%)においては、テレビ1品目の寄与度が顕著に 大きく、その理由として、平成22年のテレビのウエイトが異常に大き- 34 - いことが挙げられるところ、その背景には、家電エコポイント制度の開始や地上デジタル放送への移行に備えた需要増加という特殊事情があったから、このような特殊事情のある平成22年のウエイトを採用して上記変動率を算出したことには統計上の正当性がない旨主張する。しかし、平成20年から平 放送への移行に備えた需要増加という特殊事情があったから、このような特殊事情のある平成22年のウエイトを採用して上記変動率を算出したことには統計上の正当性がない旨主張する。しかし、平成20年から平成23年までの物価変動率を算定するに当たり平成2 2年のウエイトを用いるという方法自体が特段不合理ではないことは前記のとおりであり、同年のウエイトを用いることでテレビの寄与度が大きくなって、上記方法により算出された物価下落率が大きなものとなる結果が生じたとしても、そのことをもって平成20年から平成23年までの間の物価変動率を算定する方法として不合理であるということは できない。なお、原告らは、平成20年を基準年、平成23年を比較年として物価変動率を算定するに当たり平成22年をウエイトの参照年とすることには統計的正当性がない旨の主張もしているが、一定期間の物価変動率を算定するに当たり、当該期間のいずれの時点のウエイトを参照するかについては種々の考え方があり得るところであり、同年のウエ イトを参照することが統計学的に明らかな誤りであるということはできない。 ⑷ 算定された物価変動率-4.78%をもってデフレ調整分の改定率としたことの適否についてア物価の下落と可処分所得の増加等との関係について 前記⑵及び⑶において説示したところによれば、厚生労働大臣が、平成25年改定を行うに当たり、デフレ調整として、物価変動を指標とした生活扶助基準の改定を行うこととし、その基となる物価変動率を算定する方法として本件手法を採用したことについて、そのこと自体が合理性を欠いているということはできない。また、本件手法に従い算出され た変動率-4.78%という数値に誤りがあることもうかがわれない。 - 35 - もっとも ついて、そのこと自体が合理性を欠いているということはできない。また、本件手法に従い算出され た変動率-4.78%という数値に誤りがあることもうかがわれない。 - 35 - もっとも、保護は、厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし、そのうち、その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うものとされ(生活保護法8条1項)、上記基準は、要保護者の年齢別、性別、世帯構成別、所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満た すに十分なものであって、かつ、これを超えないものでなければならないとされている(同条2項)。上記の「最低限度の生活の需要」は、基本的には生活保護受給世帯が健康で文化的な生活水準を維持するために必要とする費用の額又は水準によって測られるべきものであると考えられることからすれば、物価変動を指標として生活扶助基準の改定を行う場 合には、物価変動が上記の費用の額又は水準にいかなる影響を及ぼすのかといった観点から、専門技術的な考察に基づいた判断がされる必要があるものといわなければならない。 すなわち、生活扶助基準が据え置かれている中で物価の下落が生じた場合、一般論としては、被告らの主張するとおり、生活保護受給世帯の 可処分所得が相対的、実質的に増加した(生活扶助基準の水準が実質的に引き上げられた)と評価することができる。そして、これにより生活扶助基準が最低限度の生活の需要を超える状態に至っているとすれば、これを引き下げることも検討されなければならないものといえる。しかし、物価が下落すればその下落率と同じ割合で生活保護受給世帯の可処 分所得が増加し、生活扶助基準の水準が実質的に引き上げられたと直ちに評価できるのかは必 されなければならないものといえる。しかし、物価が下落すればその下落率と同じ割合で生活保護受給世帯の可処 分所得が増加し、生活扶助基準の水準が実質的に引き上げられたと直ちに評価できるのかは必ずしも明らかでない。これについては、昭和58年意見具申においても、物価はそのままでは消費水準を示すものではないと指摘されていたところである(前記第2の3⑴イ)。 また、物価が変動すると、消費者の消費行動にも影響を及ぼし、家計 の消費構造も変化し得るものと考えられるが、消費者物価指数は、家計- 36 - の消費構造を一定のものに固定し、これに要する費用が物価の変動によってどう変化するかを指数値で示すものであり、消費者が購入する財とサービスの種類、品質及び購入数量の変化を伴った生計費の変化を測定するものではないとされている(同⑷ア)。そうすると、一定期間における消費者物価指数の変動が直ちに生活費総額の変動と評価でき、ひい ては可処分所得額の変動と評価できるのかも、必ずしも明らかでないといえる。 さらに、一般に、消費構造は所得水準によって異なり、所得の低い層では食品等の生活必需品の割合が高まる一方で、奢侈品の割合は低くなるとされる(甲全163・12頁)ところ、生活必需品以外の品目につ いて物価の下落がみられたとしても、生活保護受給世帯の消費品目の物価が同様に下落するものではなく、その可処分所得が増加したとは評価し得ないこともあることは容易に想定される。 そして、平成25年改定がされる以前において、生活扶助基準は平成16年から据え置かれていた(乙10)ところ、これを改定する際の改 定率を検討するに当たり、生活保護受給世帯の実質的な可処分所得の増加分を考慮するとしても、平成20年から平成23年までの期間における物価 え置かれていた(乙10)ところ、これを改定する際の改 定率を検討するに当たり、生活保護受給世帯の実質的な可処分所得の増加分を考慮するとしても、平成20年から平成23年までの期間における物価下落率が、据え置かれていた改定前の生活扶助基準の下における可処分所得の増加分をそのまま表すものとして扱うことができるのかは明らかでない。 加えて、本件手法において用いられたウエイトは、生活保護受給世帯の消費実態に即した物価変動率を算定するためのものとして不合理なものとまではいえないが、使用できるデータの制約等のためその正確性や信頼性には限界があったものといわざるを得ないことは先に説示したとおりであり(前記⑶ウ)、これにより算定された物価変動率が、「最低 限度の生活の需要を満たすに十分なものであって、かつ、これを超えな- 37 - い」ものであるべき生活扶助基準の水準の実質的な引上げ分を表す数値として適当であるのかは明らかではない。 イ平成20年から平成23年までの期間における生活扶助相当CPIの変動と生活保護受給世帯の可処分所得の変動との関係について一般世帯と生活保護受給世帯の消費性向の違いに関しては、平成22 年の社会保障生計調査と同年の家計調査の各結果の分析を行った研究者により以下の点が指摘されている(甲全113)。 a 一般世帯(2人以上の世帯)の消費支出額に比べて、生活保護受給世帯(全世帯)の消費支出額は6割程度にとどまる。 b 消費支出額全体に占める各費目の構成比は、「食料」、「住居」、「光 熱・水道」、「家具・家事用品」、「被服及び履物」については生活保護受給世帯の方が一般世帯より支出割合が高く、特に、「食料」費の支出割合は、一般世帯が25.4%であるのに対して生活保護受給世帯は30. 水道」、「家具・家事用品」、「被服及び履物」については生活保護受給世帯の方が一般世帯より支出割合が高く、特に、「食料」費の支出割合は、一般世帯が25.4%であるのに対して生活保護受給世帯は30.0%と高くなっている。 他方、「保健医療」、「交通・通信」、「教育」、「教養娯楽」、「その他の 消費支出」については生活保護受給世帯の方が一般世帯より支出割合が低く、特に、「教養娯楽」費の支出割合は、一般世帯が11.5%であるのに対して生活保護受給世帯は6.4%と低くなっている。また、「教養娯楽」の品目のうち「教養娯楽用耐久財」の中の「PC・AV機器」への支出額は、一般世帯が4043円であるのに対して生活保 護受給世帯は737円にとどまる。 また、本件手法により算定された物価変動率が-4.78%となったことの背景事情等に関し、研究者により以下の点が指摘されている(甲全163、甲全164)。 a 平成20年から平成22年(本件手法におけるウエイトの参照年) までの生活扶助相当CPIの変化率(-4.29%)に対する寄与度- 38 - をみると、「教養娯楽用耐久財」(-2.72%)の寄与度が際立って大きい。なお、「教養娯楽用耐久財」のうち「テレビ」の変化率は-1. 59%、「パソコン(ノート型)」の変化率は-0.56%である。 b 家計調査により算出されたテレビのウエイトは、平成17年が37であったのに対し、平成22年は97となっている。このようにテレ ビのウエイトが大幅に増大したことは、総務省「消費者物価指数年報平成23年」にも記載されており、当時からよく知られていた事象であった。 この時期のテレビの消費支出増大の背景は、家電エコポイント制度の開始や地上デジタル放送への移行に備えた需要増加であると指摘さ 3年」にも記載されており、当時からよく知られていた事象であった。 この時期のテレビの消費支出増大の背景は、家電エコポイント制度の開始や地上デジタル放送への移行に備えた需要増加であると指摘さ れており、テレビのウエイトの増大がテレビの価格下落と相まって消費者物価指数を大きく押し下げたことは、内閣府「経済財政白書平成24年版」においても記述されている。 c 生活保護受給世帯が家電エコポイント制度の影響を受けてテレビを買い替える行動をとるとはあまり想像できず、また、地上デジタル放 送の移行の際に、生活保護受給世帯には無料チューナーが配布されるという施策がとられていたから、この時期のテレビのウエイトの増加は、生活保護受給世帯が経験した消費支出の増加ではないと考えられる。 なお、平成21年から平成22年に家電エコポイント制度や地上デジ タル放送への移行に伴う需要増加が発生し、平成22年のテレビのウエイトが高まったことは、内閣府の「平成24年度年次経済財政報告」(甲全191)や総務省統計局の「家計調査年報(家計収支編)平成23年」(甲全193)にも記載されている。 さらに、原告らは、生活保護受給世帯は食費や水道光熱費等の生活必 需品の購入費の負担が重くのしかかった状態で日々の生活をすることを- 39 - 余儀なくされており、そのような中で、一般世帯のように生活必需品以外の品目(教養娯楽費等)に対する支出をする余裕はほとんどなく、教養娯楽費に含まれるテレビ、パソコン等や家具・家事用品費に含まれる冷蔵庫、自動炊飯器、洗濯機等を所有している場合でも、他人から中古品を無償で譲り受けたり、リサイクルショップ等で格安品を購入した後、 長年にわたり買い替えることなく同じ物を使用し続けたりしていることを指摘してい 、洗濯機等を所有している場合でも、他人から中古品を無償で譲り受けたり、リサイクルショップ等で格安品を購入した後、 長年にわたり買い替えることなく同じ物を使用し続けたりしていることを指摘している。生活保護受給世帯において上記のような実態があることは想像に難くなく、現に、原告番号1、同38及び同48は、各本人尋問においてこれに沿う供述をしている。 以上のことに照らせば、本件手法により算定された平成20年から平 成23年までの期間における物価変動率が-4.78%となったことには、テレビの下落率が相当程度寄与しており、これは、一般国民全体を調査対象とする家計調査により算出された平成22年のテレビのウエイトが大きなものとなっていたこと(さらに、一定品目を除外した生活扶助相当品目を対象とすることにより、そのウエイトが一層増幅されたこ と)が主な要因であると考えられるところ、その背景には地上デジタル放送への移行等の特殊事情による需要の増加があったが、生活保護受給世帯においては、一般世帯ほどのテレビの需要の増加はなかった可能性が高いということができる。すなわち、テレビの下落率が大きかったとしても、生活保護受給世帯の消費品目の物価変動率がこれに見合った下 落率となり、これに伴い生活保護受給世帯の可処分所得について同率の増加があったとみることには、なお疑問を差し挟む余地があるというべきである。そして、消費者物価指数のうち平成20年から平成23年までの間で下落率が大きいものには、テレビ以外にも、生活保護受給世帯が必ずしも一般的な販売価格で購入又は買替えをするとは限らない家 具・家事用品費、教養娯楽費等があること(甲全112)からすれば、- 40 - テレビ以外の品目に関しても、同様に、その下落率が直ちに生活保護受 格で購入又は買替えをするとは限らない家 具・家事用品費、教養娯楽費等があること(甲全112)からすれば、- 40 - テレビ以外の品目に関しても、同様に、その下落率が直ちに生活保護受給世帯の可処分所得の増加率に結び付かないものがあった可能性がある。 ウ本件手法により算定された物価下落率に見合った可処分所得の増加の有無についてそうすると、本件手法によれば平成20年から平成23年までの期間に おける生活扶助相当CPIの変動率が-4.78%であったとの結果が導かれたとしても、厚生労働大臣がデフレ調整を行うに当たっては、ここで示された下落率が直ちに改定前の生活扶助基準の下における生活保護受給世帯の可処分所得の相対的、実質的な増加分(生活扶助基準の水準の実質的な引上げ分)と評価できるのか、また、上記の数値が、生活扶助基準の 水準が「最低限度の生活の需要」を超えることとなった程度(生活扶助基準の引下げを要する幅)を表すものと評価できるのかなどについて、前記アのような観点、前記イのような事情も踏まえた専門技術的な評価、検証を行った上で、デフレ調整分の改定率を定める必要があったというべきである。しかしながら、物価変動率が「生活保護受給世帯が健康で文化的な 生活水準を維持するために必要とする費用の額又は水準」に及ぼす影響について、専門技術的な考察がされたことはうかがわれない。また、厚生労働大臣が、一般国民を対象とする家計調査により算出され、かつ、前記のような特殊な事情のある平成22年のウエイトを用いるなどの手法(本件手法)によって物価変動率を算定する過程で、前記イのような生活保護受 給世帯と一般世帯との消費実態の違い等を踏まえた調整を行ったことはうかがわれず、-4.78%という数値の中にこのような事情が織り込 によって物価変動率を算定する過程で、前記イのような生活保護受 給世帯と一般世帯との消費実態の違い等を踏まえた調整を行ったことはうかがわれず、-4.78%という数値の中にこのような事情が織り込まれているとも解されない。なお、原告らの求釈明に対し、被告らは、平成25年改定に際し「被保護世帯の電化製品の消費実態についての調査」を実施していない旨回答しているところである。 したがって、本件手法により算定された物価変動率である-4.78%- 41 - をもってそのままデフレ調整による改定率とした厚生労働大臣の判断は、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性を欠くものというほかない。 なお、被告らは、①平成19年検証において確認された生活扶助基準と一般低所得世帯との不均衡や、平成20年以降の物価、賃金、家計消費等 の落込みにより生活水準が厳しくなっていた一般国民とこれにより生活扶助水準の実質的な引上げが生じていた生活保護受給世帯との不均衡の是正の必要性があったことからすれば、改定率を本件手法で算定された-4. 78%とするのは相当であった旨、②平成29年に基準部会が行った生活扶助基準に関する検証の結果、本件保護基準改定(平成25年改定のほか、 平成26年及び平成27年に行われた改定を含む。この3回の改定によって、4.78%の引下げが完了した。)後の生活扶助基準の水準が一般低所得世帯(第1・十分位世帯)の消費実態とおおむね均衡することが確認されたと評価されていること(乙68)からすれば、デフレ調整に関する厚生労働大臣の判断には統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的 知見との整合性に欠けるところはない旨、③平成16年以降、生活扶助基準額が基本的に据え置かれていたところ、全国消費実態調 厚生労働大臣の判断には統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的 知見との整合性に欠けるところはない旨、③平成16年以降、生活扶助基準額が基本的に据え置かれていたところ、全国消費実態調査によれば、夫婦子1人世帯(第1・十分位)の生活扶助相当支出額が、平成16年から平成21年にかけて約11.6%、平成16年から平成26年にかけて約8.2%下落していることからすれば、上記の厚生労働大臣の判断につい て、裁量権の範囲の逸脱又はその濫用は認められない旨主張する。 しかしながら、①については、当該不均衡の是正の必要性をもって-4. 78という数字が合理的専門的な裏付けのある数値となるものではない。 また、②及び③については、上記説示のとおり生活扶助基準の改定に関する厚生労働大臣の判断が統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門 的知見との整合性を欠くものと認められる以上、仮に、改定後の生活扶助- 42 - 基準の水準が一般低所得世帯の消費実態とおおむね均衡したことが確認され、あるいは平成16年からの生活扶助相当支出額の下落率がデフレ調整による改定率よりも大きいとしても、そのことによって、上記判断における上記の欠缺が治癒されることになるものではない。したがって、被告らの主張はいずれも採用しない。 ⑸ 小括よって、デフレ調整を行った厚生労働大臣の判断の過程及び手続には過誤、欠落があったというべきである。そして、仮にこのような過誤、欠落がなければ、デフレ調整分として生活扶助基準を4.78%引き下げるという判断には至らなかったものといえる。 以上の次第で、デフレ調整として生活扶助基準を4.78%引き下げるという厚生労働大臣の判断は、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものであり、生活保護法3条、8条 なかったものといえる。 以上の次第で、デフレ調整として生活扶助基準を4.78%引き下げるという厚生労働大臣の判断は、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものであり、生活保護法3条、8条2項に違反して違法であるというべきである。 4 本件の各請求について⑴ 別紙原告目録1記載の原告ら(原告番号9を除く。)について 前記3で説示したとおり、平成25年改定には、デフレ調整分として生活扶助基準を4.78%引き下げることとした点において違法があり、これに基づいて別紙原告目録1記載の原告ら(原告番号9を除く。)に対してされた各保護変更決定はいずれも違法であるというべきであるから、その取消しを求める同原告らの請求には理由がある。 ⑵ 原告番号9について他方、外国人であり昭和29年通知に基づく生活保護措置を受けていた原告番号9は、広島市東福祉事務所長から受けた生活扶助費の減額を内容とする保護変更措置の取消しを求めているが、同措置は、昭和29年通知に基づく行政措置として行われたものであり、生活保護法その他の法律に基づいて 原告番号9の権利義務を形成し又はその範囲を確定するものではないから、- 43 - 抗告訴訟の対象となる行政処分には当たらない。 よって、原告番号9の訴えは不適法である(ただし、原告番号9に関しても、昭和29年通知の趣旨に従い、生活保護法に基づく保護の決定実施の取扱いに準じた措置が講じられるべきである。)。 5 結論 よって、主文のとおり判決する。 広島地方裁判所民事第2部 裁判長裁判官大浜寿美 裁判官財賀理行 裁判官森谷謙太 裁判長 裁判官 大浜寿美 裁判官 財賀理行 裁判官 森谷謙太

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