令和3(ネ)10084 特許権侵害差止等請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
令和5年11月16日 知的財産高等裁判所 4部 判決 控訴棄却 東京地方裁判所 平成30(ワ)1130
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判決文本文24,339 文字)

1令和5年11月16日判決言渡令和3年(ネ)第10084号 特許権侵害差止等請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成30年(ワ)第1130号)口頭弁論終結日 令和5年8月24日判決5 控訴人兼被控訴人 日本カーバイド工業株式会社(以下「第1審原告」という。) 同訴訟代理人弁護士 黒田健二10同 吉村 誠同訴訟代理人弁理士 松本 孝 被控訴人兼控訴人 スリーエムジャパンイノベーション株式会社(以下「第1審被告3Mジャパン」という。)15 被控訴人兼控訴人 スリーエムジャパンプロダクツ株式会社(以下「第1審被告3Mジャパンプロダクツ」という。) 20上記両名訴訟代理人弁護士 大野聖二同 小林英了同 大野浩之同 木村広行主文251 第1審原告の本件控訴を棄却する。 22 第1審被告らの本件控訴をいずれも棄却する。 3 控訴費用は、第1審原告の控訴に関する部分は第1審原告の、第1審被告らの控訴に関する部分は第1審被告らの各負担とする。 事実及び理由5(略語は、別に定めるもののほか、原判決の例による。)第1 事案の要旨本件は、発明の名称を「印刷された再帰反射シート」とする本件特許(特許第4466883号)の特許権者である第1審原告が、第1審被告らによる反射シートの製造販売等が特許権を侵害すると主張して、損害賠償等を請求する10事案である。 第2 当事者の求めた裁 許(特許第4466883号)の特許権者である第1審原告が、第1審被告らによる反射シートの製造販売等が特許権を侵害すると主張して、損害賠償等を請求する10事案である。 第2 当事者の求めた裁判1 第1審原告の原審における請求(1) 主位的請求(ただし、後述のとおり当審において減縮されている。)第1審被告らは、第1審原告に対し、連帯して、106億7874万601500円及びうち1億円に対する平成30年2月3日から、うち105億7674万6000円に対する令和元年10月29日から、うち200万円に対する令和2年1月21日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 予備的請求20ア 第1審被告3Mジャパンは、第1審原告に対し、15億0200万円及びこれに対する令和2年1月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 イ 第1審被告3Mジャパンプロダクツは、第1審原告に対し、15億0200万円及びこれに対する令和2年1月21日から支払済みまで年5分25の割合による金員を支払え。 3【請求の法的根拠】(1) 主位的請求・ 主請求:不法行為に基づく損害賠償請求・ 附帯請求:遅延損害金請求(起算日の平成30年2月3日は訴状送達日の翌日、同じく令和元年10月29日及び令和2年1月21日はいずれも5訴え変更申立書送達日の翌日、利率は改正前民法所定)(2) 予備的請求・ 主請求:不当利得返還請求・ 附帯請求:遅延損害金請求(起算日は訴え変更申立書送達日の翌日、利率は改正前民法所定)102 原審の判断及び控訴の提起原審は、第1審被告製品(1)についてのみ本件特許の技術的範囲に属する(第1審被告製品(2)、(3)は非充足)とした上で、特許無効の 率は改正前民法所定)102 原審の判断及び控訴の提起原審は、第1審被告製品(1)についてのみ本件特許の技術的範囲に属する(第1審被告製品(2)、(3)は非充足)とした上で、特許無効の抗弁を全て排斥し、第1審被告製品(1)に係る損害15億5344万4548円及びその遅延損害金の連帯支払を第1審被告らに命ずる限度で、第1審原告の請求を一部認容す15る判決をした。これに対し、第1審原告は、下記(1)イのとおりに請求を減縮の上、その限度の敗訴部分を不服として下記(1)のとおり控訴し、第1審被告らはその敗訴部分を不服として下記(2)のとおり控訴した。 【控訴の趣旨】(1) 第1審原告の控訴の趣旨20ア 原判決を次のとおり変更する。 イ 第1審被告らは、第1審原告に対し、連帯して、66億5544万4548円及びうち1億円に対する平成30年2月3日から、うち65億5544万4548円に対する令和元年10月29日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 25(2) 第1審被告らの控訴の趣旨 4ア 原判決中、第1審被告らの敗訴部分を取り消す。 イ 上記部分につき、第1審原告の請求をいずれも棄却する。 第3 前提事実、本件発明の概要1 前提事実は、原判決の第2の1(3頁~)に記載するとおりであるから、これを引用する。ただし、第2の1(4)オの項(その末尾は8頁12行目)の次に5行を改め次のとおり加える。 「カ 第1審被告3Mジャパンほか1名は、令和2年2月13日、本件特許の無効審判の請求をした(無効2020-800013号)。これに対し、第1審原告は、令和3年2月5日、本件特許の請求項1~4を訂正することを求める訂正の請求をした(以下、その訂正を「本件訂正」といい、本件訂正後の1 した(無効2020-800013号)。これに対し、第1審原告は、令和3年2月5日、本件特許の請求項1~4を訂正することを求める訂正の請求をした(以下、その訂正を「本件訂正」といい、本件訂正後の10発明を「本件訂正発明」という。)。(甲95の1~3、乙79)キ 特許庁は、令和3年6月16日、本件訂正を認めた上、請求項1、2に係る本件訂正後の発明に係る特許を無効とする旨の審決をした。第1審原告が同審決の取消しを求める訴訟を知財高裁に提起(当庁令和3年(行ケ)第10085号)したところ、同裁判所は、令和4年10月31日、審決を取り消15す旨の判決を言い渡した。第1審被告らがこれを不服として最高裁に上告受理申立てをしたが、令和5年6月8日に不受理決定がされた。その結果、上記無効審判事件は再び特許庁に係属した状態となっており(特許法181条2項前段)、本件訂正の最終的な帰結は定まっていない。(乙77)」2 本件発明の概要20(1) 本件発明に係る特許請求の範囲の記載ア 請求項1(本件発明1)「少なくとも多数の反射素子と保持体層からなる反射素子層、および、反射素子層の上層に設置された表面保護層からなる再帰反射シートにおいて、反射素子の反射側面上、または保持体層と表面保護層の間に印刷層が25設置されており、該印刷層の印刷領域が独立した領域をなして繰り返しの 5パターンで設置されており、連続層を形成せず、該独立印刷領域の面積が0.15mm²~30mm²であり、該印刷層は、白色の有機顔料、白色または黄色の無機顔料、蛍光染料、および蛍光増白剤のうちの一以上の着色剤を含有することを特徴とする印刷された再帰反射シート。」イ 請求項2(本件発明2)5「上記反射素子が三角錐型キューブコーナー再帰反射素子で 、蛍光染料、および蛍光増白剤のうちの一以上の着色剤を含有することを特徴とする印刷された再帰反射シート。」イ 請求項2(本件発明2)5「上記反射素子が三角錐型キューブコーナー再帰反射素子である請求項1記載の印刷された再帰反射シート。」(2) 本件発明の構成要件の分説ア 請求項1(本件発明1)1A 少なくとも多数の反射素子と保持体層からなる反射素子層、および、10反射素子層の上層に設置された表面保護層からなる再帰反射シートにおいて、1B 反射素子の反射側面上、または保持体層と表面保護層の間に印刷層が設置されており、1C 該印刷層の印刷領域が独立した領域をなして繰り返しのパターン15で設置されており、連続層を形成せず、1D 該独立印刷領域の面積が0.15mm²~30mm²であり、1E 該印刷層は、白色の有機顔料、白色または黄色の無機顔料、蛍光染料、および蛍光増白剤のうちの一以上の着色剤を含有する1F ことを特徴とする印刷された再帰反射シート。 20イ 請求項2(本件発明2)2A 上記反射素子が三角錐型キューブコーナー再帰反射素子である2B 請求項1記載の印刷された再帰反射シート。 (3) 本件訂正発明に係る特許請求の範囲の記載(下線部が訂正部分である。)ア 請求項125「少なくとも多数の反射素子と保持体層からなる反射素子層、および、反 6射素子層の上層に設置された表面保護層からなる再帰反射シートにおいて、反射素子層にポリカーボネート樹脂を用い、表面保護層に(メタ)アクリル樹脂を用い、保持体層と表面保護層の間に印刷層が保持体層と表面保護層に接して設置されており、該印刷層の印刷領域が独立した領域をなして繰り返しのパターンで設置されており、連続層を形成せず、該独立印 ル樹脂を用い、保持体層と表面保護層の間に印刷層が保持体層と表面保護層に接して設置されており、該印刷層の印刷領域が独立した領域をなして繰り返しのパターンで設置されており、連続層を形成せず、該独立印5刷領域の面積が0.15mm²~30mm²であり、該印刷層は、白色の無機顔料として酸化チタンを含有することを特徴とする印刷された再帰反射シート。」イ 請求項2「少なくとも多数の反射素子と保持体層からなる反射素子層、および、反10射素子層の上層に設置された表面保護層からなり、上記反射素子が三角錐型キューブコーナー再帰反射素子である再帰反射シートにおいて、反射素子層にポリカーボネート樹脂を用い、表面保護層に(メタ)アクリル樹脂を用い、保持体層と表面保護層の間に印刷層が保持体層と表面保護層に接して設置されており、該印刷層の印刷領域が独立した領域をなして繰り返15しのパターンで設置されており、連続層を形成せず、該独立印刷領域の面積が0.15mm²~30mm²であり、該印刷層の厚みは、0.5~10μmであり、該印刷層は、白色の酸化チタンを含有することを特徴とする印刷された再帰反射シート。」(4) 本件発明の明細書の記載は原判決第3の(66頁~)に記載のとおりであ20り、その技術的特徴は次のとおりである(原判決と同旨だが再掲する。)。 すなわち、本件発明は、道路標識、工事標識等の標識類、自動車やオートバイ等の車両のナンバープレート類等において有用な三角錐型キューブコーナー再帰反射素子によって構成されるキューブコーナー型再帰反射シートについて、新規な構造、特にその一部に色調改善用の印刷層を設けたことを特25徴とするものに関するものである。 7従来から、入射した光を光源に向かって反射する再帰反射シートは、上記 ついて、新規な構造、特にその一部に色調改善用の印刷層を設けたことを特25徴とするものに関するものである。 7従来から、入射した光を光源に向かって反射する再帰反射シートは、上記利用分野で広く利用されており、中でも三角錐型反射素子などのキューブコーナー型再帰反射素子の再帰反射原理を利用したキューブコーナー型再帰反射シートは、従来のマイクロ硝子球を用いた再帰反射シートに比べて、光の再帰反射効率が格段に優れており、年々用途が拡大しつつあった。 5他方で、三角錐型キューブコーナー再帰反射シートのうち、反射素子の反射側面に蒸着層が設置されている「蒸着型」三角錐型キューブコーナー再帰反射シートは、その再帰反射素子の性質から、金属の色の影響を受けて、外観が暗くなってしまうという欠点を有している。そこで、三角錐型キューブコーナー再帰反射シートの色相を改善するために、その一部に連続した印刷10層を設ける試みもされてきたが、印刷層は、反射素子とも表面保護層とも密着性がやや劣り、また、その層自体の耐候性が劣るため、耐候性試験においてフクレが生じたり、吸水したりしやすいという欠点を有しており、三角錐型キューブコーナー再帰反射シートに連続した印刷層を設置した場合、印刷層の周辺の密着性が劣り、耐候性や耐水性が劣るという欠点を有していた。 15そこで、本件発明は、三角錐型キューブコーナー再帰反射シートの色相の改善という課題解決のために、反射素子層又は表面保護層に、色相を明るくしながら隠蔽性も得られる白色の無機顔料(酸化チタン)等の着色剤を含有する印刷層を設けて、さらに、当該印刷層とこれを挟む2層との密着性及び印刷層自体の耐候性が劣るために生じるフクレや吸水の改善という課題解決20のために、印刷層の印刷領域を独立させて連続層を形 有する印刷層を設けて、さらに、当該印刷層とこれを挟む2層との密着性及び印刷層自体の耐候性が劣るために生じるフクレや吸水の改善という課題解決20のために、印刷層の印刷領域を独立させて連続層を形成させず、かつ、印刷領域の面積を0.15mm²以上とすることで色相の改善等を容易にし、30mm²以下とすることで層間密着強度を高めようとしたものであり、この点に技術的特徴があると認められる。 第4 争点及び争点に関する当事者の主張251 争点 8本件の主な争点は以下のとおりである。なお、争点2の無効理由4-2、争点5、6は、当審における新主張である。 (1) 争点1:第1審被告製品の本件発明の技術的範囲の属否(2) 争点2:本件特許の無効の抗弁ア 無効理由1:サポート要件違反5イ 無効理由2:実施可能要件違反ウ 無効理由3:明確性要件違反エ 無効理由4-1:乙6発明(原審で主張したもの)に基づく新規性・進歩性欠如オ 無効理由4-2:乙6発明A~C(当審で新たに主張したもの)に基づ10く新規性・進歩性欠如カ 無効理由5-1:乙16発明1に基づく新規性・進歩性欠如キ 無効理由5-2:乙16発明2に基づく新規性・進歩性欠如ク 無効理由6:乙17発明に基づく進歩性欠如ケ 無効理由7:乙18発明に基づく進歩性欠如15(3) 争点3―1:損害論(特許法102条2項の適用)(4) 争点3-2:損害論(特許法102条3項の適用)(5) 争点3-3:消滅時効の抗弁(6) 争点4:不当利得返還請求権(7) 争点5:訂正の再抗弁20(8) 争点6:本件訂正発明に係る特許無効の再々抗弁(無効理由8~16)2 争点に関する当事者の主張 時効の抗弁(6) 争点4:不当利得返還請求権(7) 争点5:訂正の再抗弁20(8) 争点6:本件訂正発明に係る特許無効の再々抗弁(無効理由8~16)2 争点に関する当事者の主張(1) 争点1~4(争点2の無効理由4-2を除く。)に関する当事者双方の主張は、原判決第2の3(9頁~)のとおりであるから、これを引用する。 (2) 争点2の無効理由4-2、争点5、6に関する当事者双方の主張の要旨は、25別紙「当審における新主張」のとおりである(後述のとおり、これらの主張 9はいずれも実体判断を要しないこととなったので、詳細は割愛する。)。 第5 当裁判所の判断1 争点1(第1審被告製品の本件発明の技術的範囲の属否)について当裁判所も、原判決と同様、第1審被告製品(1)は本件発明の構成要件を充足し、その技術的範囲に属するが、第1審被告製品(2)、(3)は本件発明の技術的5範囲に属しないと判断する。 第1 審被告製品(1)と同(2)、(3)で結論を分けることとなったのは、第1審被告製品の印刷層を構成する各ライン状パターン(本件発明の「独立印刷領域」に相当)の面積が、構成要件1D所定の0.15mm²~30mm²であるといえるか(争点1-3)の判断の違いによるものである。この点を含む理由の詳細10は、下記のとおり当審における双方の補充的主張に対する判断を加えるほか、原判決の第3の2(73頁~)に記載のとおりであるから、これを引用する。 (1) 第1審被告製品(2)、(3)関係ア 第1審原告の補充的主張原判決は、第1審被告製品(2)について、シート端部の印刷領域を除く内15部の印刷領域の面積が「0.15mm²~30mm²」の範囲に属さないから構成要件1Dを充足しないと判断したが、第1審原 原判決は、第1審被告製品(2)について、シート端部の印刷領域を除く内15部の印刷領域の面積が「0.15mm²~30mm²」の範囲に属さないから構成要件1Dを充足しないと判断したが、第1審原告は、シート端部の印刷領域を除く内部の印刷領域の面積については争っていない。第1審被告製品(2)の「シート端部の印刷領域」の面積は「0.15mm²~30mm²」であるから、本件発明の構成要件1D及び2B’を充足すると主張してい20るのである 。原判決別紙「被告製品の構成」記載の第1審被告製品(2)の一例とされている図(原判決134頁)では、シート左端部の印刷領域は●●●●●●●あり、「0.15mm²~30mm²」の範囲に含まれている。 イ 上記主張に対する当審の判断第1審被告製品(2)の各ライン状パターンの面積は●●●●●●●に設25計されているのであり(原判決別紙「被告製品の構成」記載の構成要件2 10d参照)、実際に使用するに当たって必要とされる長さにシートを切断した結果、印刷領域も一部カットされるにすぎないのであって、当該切断された部分の端部の印刷領域が本来の設計上の面積より小さい●●●●●●●であるからといって、第1審被告製品(2)が構成要件1Dを充足し、本件発明の技術的範囲に属するということはできない。上記のような切断さ5れた部分の端部の印刷領域の面積が上記のとおりであることのみによって、本件発明が意図する耐候性、耐水性に優れ、色相の改善された再帰反射シートが実現されるともいえない。 (2) 第1審被告製品(1)関係ア 第1審被告らの補充的主張10(ア) 第1審被告製品は少なくとも、●●●●(第1審被告製品(1))~●●●●●●●(第1審被告製品(2)、(3))のいずれの印刷領域の面積範 (1)関係ア 第1審被告らの補充的主張10(ア) 第1審被告製品は少なくとも、●●●●(第1審被告製品(1))~●●●●●●●(第1審被告製品(2)、(3))のいずれの印刷領域の面積範囲も自由に取り得るのであり、第1審被告製品(1)は、構成要件1Dが定める層間密着強度を高めることが可能な印刷層の面積の上限である30mm²を超え得るものであり、同要件を充足するものではない。 15(イ) 本件明細書【0012】でも記載されているように、本件発明では、「印刷層」が設けられているために、①反射素子とも表面保護層とも密着性が劣り、②耐候性が劣るとの課題を解決するものとされている。これに対し、第1審被告製品(1)では、印刷層として、密着性、耐候性に優れた●●●●●●●●を含むインクが用いられており(乙49、82、2083)、「印刷層」が設けられていることにより密着性が劣るとか、耐候性が劣るとかいった事情は存在しない(乙45)。よって、第1審被告製品(1)は、上記①及び②をいずれも満たすものではないから、本件発明の「印刷層」に該当しない。 イ 上記主張に対する当審の判断25まず、上記(ア)については、「面積範囲を自由に取り得る」としても、 11現実の第1審被告製品(1)の印刷領域が●●●●●であることに何ら変わりはなく、第1審被告らの主張は採用できない。 また、上記(イ)については、第1審被告が援用する耐候性試験の結果も、第1審被告製品(1)が、連続した印刷層を設置した場合に比べて、経時的な劣化を生じさせるものではないことまでを明らかにするものでは5ない。そうすると、第1審被告製品(1)においても、反射素子の反射側面上又は保持体層と表面保護層の間に印刷層が設置されることで、密着性と耐候性において課題 はないことまでを明らかにするものでは5ない。そうすると、第1審被告製品(1)においても、反射素子の反射側面上又は保持体層と表面保護層の間に印刷層が設置されることで、密着性と耐候性において課題が生ずることに変わりはないと解される。その課題の解決のために、密着性、耐候性に優れた●●●●●●●●を含むインクを用いるという手段が採用されているとしても、独立印刷領域の面積を一定10の範囲にするという本件発明の解決手段を併用する意義が失われるものではない。 第1審被告らの上記主張はいずれも採用できない。 2 争点2(本件特許の無効の抗弁)について(1) 当裁判所も、原判決と同様、本件特許の無効の抗弁はいずれも採用できな15いものと判断する。その理由は、下記のとおり当審における第1審被告らの補充的主張に対する判断を加えるほか、原判決の第3の3(83頁~)に記載のとおりであるから、これを引用する。 (2) 無効理由1(サポート要件違反)についてア 第1審被告らの補充的主張(第1審原告は、この主張は原審におけるも20のと異なっており、時機に後れて提出されたものであると主張するが、訴訟の完結を遅延するものとまでは認められない。)。 (ア) 印刷層が連続層を形成するパターンや連続層を形成しないパターンには、様々な態様が考えられるところ、印刷領域の間隔等も層間密着強度に影響を与えるのであるから、単に印刷領域が連続層を形成していな25いというだけで、連続層を形成している場合と比較してより密着性が高 12いシートになるということはできないはずである。したがって、「連続層を形成している場合」と比較して「より密着性が高いシート」を提供することが課題であるかのような原判決の判断は、サポート要件の判断の前提となる課題の認定 ことはできないはずである。したがって、「連続層を形成している場合」と比較して「より密着性が高いシート」を提供することが課題であるかのような原判決の判断は、サポート要件の判断の前提となる課題の認定において誤っている。 (イ) 本件発明の印刷層は、表面保護層などとの密着性が劣らず、印刷層に5フクレが生じる課題が生じない印刷層を除外していない。本件発明の課題が生じない印刷層の場合には、本件発明により印刷層のフクレを防止して課題を解決することにはならず、そのような印刷層を除外しない本件発明は、サポート要件違反である。 イ 上記主張に対する当審の判断10まず、上記(ア)に関し、本件明細書(【0002】~【0004】、【0008】、【0009】【0012】~【0015】)の記載に鑑みれば、本件発明の課題は、三角錐型キューブコーナー再帰反射シートや蒸着型三角錐型キューブコーナー再帰反射シート等で色相を改善するために連続した印刷層を設けた場合における耐候性や耐水性に劣るという従来技術におけ15る欠点を、非常に簡単で安価な方法で解決し、色相の改善された再帰反射シートを提供するものであるといえる。印刷領域を連続させるか独立させるかの違い以外の条件が上記課題の解決に影響を及ぼし得ることは否定できないものの、そうした条件と影響を網羅することまでサポート要件の要求するところではない。当業者であれば、本件特許の特許請求の範囲と明20細書の記載とを対比し、上記課題の解決に資する発明として本件発明が記載されていると認識できるものと解される。 次に、上記(イ)に関し、再帰反射シートに設置される印刷層の密着性や耐候性については、様々なレベルのものが想定されるにせよ、経時的に劣化することさえない印刷層を形成することが周知であったと認めるに足り 、上記(イ)に関し、再帰反射シートに設置される印刷層の密着性や耐候性については、様々なレベルのものが想定されるにせよ、経時的に劣化することさえない印刷層を形成することが周知であったと認めるに足り25る証拠はない(上記耐候性試験の結果もこれを証するものでないことは前 13述のとおりである。)。第1審被告らの上記指摘は、経時的な劣化が生じない印刷層を前提とするものであるが、経時的な劣化が生じる印刷層を前提とすれば、上記課題を解決することができるといえるから、本件発明がサポート要件違反であるとはいえない。 第1審被告らの上記主張はいずれも採用できない。 5(3) 無効理由4-2(乙6発明A~Cに基づく新規性・進歩性欠如)について無効理由4-2に係る第1審被告らの当審における新主張は、以下に述べるとおり、民事訴訟法157条1項所定の時機に後れた攻撃防御方法の提出に当たるものとして、却下することとする。 すなわち、第1審被告らは、原審において、乙6発明を、原判決27頁1107行目から28頁9行目までのとおりに特定し、これを前提に、本件発明との一致点、相違点、相違点に関する容易想到性等の詳細な主張を行い、第1審原告がこれに反論を加え、主張立証を尽くしてきたところである。ところが、第1審被告らは、当審に至って、同じ文献(乙6)に記載されている発明を再構成し、全く新しい無効理由を提出するに至ったものであり、この主15張が原審において提出できなかった又はこれを困難とする事情も特にうかがわれない。当審において、新たにこの点の審理を行った場合、訴訟の完結を遅延させることも明らかである。 よって、第1審被告らの上記主張の却下を求める第1審原告の申立ては理由がある。 20(4) 無効理由5-1(乙16発明 の審理を行った場合、訴訟の完結を遅延させることも明らかである。 よって、第1審被告らの上記主張の却下を求める第1審原告の申立ては理由がある。 20(4) 無効理由5-1(乙16発明1に基づく新規性・進歩性欠如)についてア 第1審被告らの補充的主張乙16発明1と本件発明との相違点3(本件発明は、印刷領域が独立した領域をなして繰り返しのパターンで設置されており、連続層を形成せず、該独立印刷領域の面積が0.15mm²~30mm²であるのに対し、乙1625発明1は当該構成を有さないこと)について、原判決は、乙16の段落【0 14015】には、プリントパターンを「ライン」ではなく「ドット」の繰り返しにした上で、更に当該ドットの面積を所定の範囲とすることにより密着性及び耐候性が向上することは記載も示唆もされていないと判断したが、乙16の段落【0015】や【0037】には、プリントする際にドットを用いることが示されている。そうすると、乙16の図9の説明部分に5ドットの記載がないとしても、当業者であれば、図9のプリントパターンをドットによって形成することは極めて容易である。 そして、ドットとして印刷する際に間隔を設けて印刷することが技術常識であることは、乙8の1~乙15に加え、乙26の1及び乙26の2等を用いて主張しているとおりである 。さらに、本件発明1における独立印10刷領域の面積は「0.15mm²~30mm²」という極めて広範な範囲である。この面積範囲にあるドットの直径は0.43mm から6.18mm までの範囲にあることになるが、この範囲にあるドットを採用することは適宜なし得る設計事項にすぎない。 イ 上記主張に対する当審の判断15乙16の図9のプリントパターン20がドットであるとは記 での範囲にあることになるが、この範囲にあるドットを採用することは適宜なし得る設計事項にすぎない。 イ 上記主張に対する当審の判断15乙16の図9のプリントパターン20がドットであるとは記載されておらず、当該プリント模様が「繰り返しのパターン」で設置されることについても記載されていない。プリントパターンをライン(連続層を形成)からドット(独立した領域)に変更すること、ドットの直径を適宜の範囲で選択することそれ自体が技術的には容易であるとしても、そのような変更20を行うべき動機付けが見当たらない以上、本件発明の構成1C、1Dを得ることが容易想到であったとはいえない。 (5) 無効理由6(乙17発明に基づく進歩性欠如)についてア 第1審被告らの補充的主張原判決は、本件発明と乙17発明の相違点1として、乙17発明の「グ25ラフィックパターン76」(印刷層の印刷領域)が、独立した領域をなして 15繰り返しのパターンで設置されており、連続層を形成しないものかが不明である旨認定するが、下記に示す乙17の図3では、グラフィックパターン76は再帰反射製品の一部のみを覆っており、「不連続」の場合を示していることは明らかである。 5イ 上記主張に対する当審の判断乙17の図3において、グラフィックパターン76が再帰反射製品の一部のみを覆っていること自体は、第1審被告らの主張するとおりである。 しかしながら、断面図である図3から、グラフィックパターン76の平面構成を認識することは不可能であり、これが「繰り返しのパターン」で10あるか、「連続層を形成していない」かどうかなどは不明というほかない。 そして、乙17の他の記載を含めて、上記グラフィックパターンを相違点1に係る本件発明の り、これが「繰り返しのパターン」で10あるか、「連続層を形成していない」かどうかなどは不明というほかない。 そして、乙17の他の記載を含めて、上記グラフィックパターンを相違点1に係る本件発明の構成とすることの動機付けがあるとも認められない。 そうすると、本件発明と乙17発明とでは、原判決の認定したとおりの相違点1が認められ、かつ、当業者が、相違点1に係る本件発明の構成1C15を容易に想到し得たということもできない。 (6) 無効理由7(乙18発明に基づく進歩性欠如)の有無についてア 第1審被告らの補充的主張(ア) 原判決は、本件発明と乙18発明との相違点として、乙18発明は「印刷領域が独立した領域をなして繰り返しのパターンで設置されており、20連続層を形成せず・・・該印刷層は、白色の有機顔料、白色・・・の無機顔料・・・のうちの一以上の着色剤を含有する」構成を有するか不明である点を挙げるが、乙23には、乙18発明の再帰反射材に日中にお 16ける白の外観を与えるために、上記相違点に係る構成を採用することの技術的思想が開示されている。そして、この構成を採用するに当たり、独立印刷領域の面積を本件発明の範囲にすることは設計事項ないし周知技術にすぎない。 (イ) 原判決は、乙18発明と乙15発明との組合せについて、乙15には、5交通標識の表面を灰色Aとするために黒色の六角形を繰り返しのパターンで設置した印刷層を設けることが記載されているから、白色顔料等を含有させる動機付けはない旨判示する。 しかし、乙18発明の再帰反射材において、日中における白の外観を有するものが求められており、これは普遍的な課題であるところ、再帰10反射材の全面を着色すれば、そもそも、光が反射素子に至らず、再帰反射することがなく 再帰反射材において、日中における白の外観を有するものが求められており、これは普遍的な課題であるところ、再帰10反射材の全面を着色すれば、そもそも、光が反射素子に至らず、再帰反射することがなくなるため、乙6や乙23、乙24、乙70に示されているように、再帰反射材の表面に白色を印刷する際には、十分な再帰反射を実現するために、光を透過する印刷されない部分を一定の割合で残す必要があることが技術常識として知られていた。 15そして、ドイツの規格(乙15)として、被覆率60%の六角形の「Raster」を用いることが周知であり、これが十分な再帰反射を実現する構成であることは当業者が当然理解しているのであるから、再帰反射材において、日中における白の外観を有するものとするため、白色に着色するに当たり、十分な再帰反射を実現するために、乙15に開示され20た被覆率60%の六角形の「Raster」を採用することとし、その際に下図の黒色部分(白色部分は光を透過させる印刷されていない部分である。)を白の有機顔料又は無機顔料の着色剤(周知技術3)を用いた印刷とすることは容易である。 17 イ 上記主張に対する当審の判断まず、上記ア(ア)で援用する乙23は原審で既に提出されていた証拠であり、これを乙18発明と組み合わせて新たな無効理由として主張することは、時機に後れた攻撃防御方法の提出として却下を免れない。 5次に、上記ア(イ)について、再帰反射材において日中における白の外観を有するものを求めることが、第1審被告のいうような「普遍的な課題」とまで認めるに足りる証拠はない上、少なくとも乙15には、印刷層を灰色Aにするための印刷(黒のスクリーンインキによって印刷された六角形の周囲に白色部分が存在し黒色部分の網羅率が60%とする な課題」とまで認めるに足りる証拠はない上、少なくとも乙15には、印刷層を灰色Aにするための印刷(黒のスクリーンインキによって印刷された六角形の周囲に白色部分が存在し黒色部分の網羅率が60%とする。)が開示さ10れているのであり、黒のスクリーンインキに白色顔料等を含有させる動機付けはない。 第1審被告らの上記主張はいずれも採用できない。 3 争点3―1(損害論・特許法102条2項の適用)について当裁判所も、特許法102条2項を適用して算定される第1審原告の損害額15は、原判決と同様、15億5344万4548円(下記計算式参照)であると認める。その理由は、当審における双方の補充的主張に対する判断を下記のと 18おり加えるほか、原判決の第3の4(115頁~)並びに原判決別紙「売上高・経費一覧表」及び「損害額一覧表」のとおりであるから、これを引用する。 【計算式】A 第1審被告らの売上高合計 ●●●●●●●●●●●●●A1 第1審被告3Mジャパン分 ●●●●●●●●●●●●●5A2 第1審被告3Mジャパンプロダクツ分 ●●●●●●●●●●●●B 控除すべき経費合計 ●●●●●●●●●●●●●B1 第1審被告3Mジャパン分 ●●●●●●●●●●●●B2 第1審被告3Mジャパンプロダクツ分 ●●●●●●●●●●●●C 第1審被告らが本件特許権の侵害により得た利益(限界利益)の額10A-B=17億6527万7897円D 推定覆滅割合 2割E 推定される第1審原告の損害額C×(1-D)=14億1222万2317円F 弁護士費用 1億4122万2231円15G 損害合計額 E+F=15億5344 割E 推定される第1審原告の損害額C×(1-D)=14億1222万2317円F 弁護士費用 1億4122万2231円15G 損害合計額 E+F=15億5344万4548円【当審における双方の補充的主張に対する判断】(1) 第1審原告の補充的主張についてア 第1審原告は、計算鑑定書の別表において、①対象期間における原反ロールの購入面積が第1審被告製品(1)の販売面積よりも大きかったり、②原20反ロールの購入面積と第1審被告製品(1)の販売面積が一致するデータが多かったりするなどといった不自然な結果が記載されていると指摘する。 しかし、①については、加工する際の歩留まりやロス、仕損じがあることを考えれば、原反ロールの購入面積よりも販売面積が小さくなることは何ら不自然ではない。②についても、計算鑑定書は、第1審被告製品(1)の品25番毎の原反ロールの月毎の面積について、●●●●●●●●●●●●●● 19●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●のであり(計算鑑定書19頁)、基準量が1であるとき(例えば、原反ロールを特段加工することなく転売する場合)、原反ロールの購入面積と第1審被告5製品(1)の販売面積が一致したとしても何ら不自然ではない。第1審原告は、計算鑑定の結果が、第1審被告らが提出する調査報告書(乙58)や製品説明書(乙1)の売上高等のデータと異なることも指摘するが、計算鑑定人が中立的な立場からその職責において計算を行ったものであり、第1審被告らの提出する資料と一部データが異なるとしても、そのことから10信用性が 売上高等のデータと異なることも指摘するが、計算鑑定人が中立的な立場からその職責において計算を行ったものであり、第1審被告らの提出する資料と一部データが異なるとしても、そのことから10信用性が失われるものでもない。 また、第1審原告は、信用調査会社による競合会社の動向調査の結果である甲88を提出して第1審被告らの売上高等について独自の主張をするが、外部の調査会社による調査結果にすぎず、その調査結果の信用性が高いことを認めるに足りる的確な証拠はない。 15イ 第1審原告は、第1審原告製品の販売価格には第1審被告製品(1)の●●●●のものがあることを指摘して、原判決の判断の前提には誤りがあり、推定覆滅事由が認められないと主張する。しかし、そのような販売価格の製品があることは、仮に第1審被告製品(1)が販売されなかった場合に、かえって第1審原告製品の販売の可能性を減少させるにすぎず、むしろ推定20覆滅を肯定する事情であるにすぎない。 (2) 第1審被告らの補充的主張についてア 第1審被告らは、限界利益の算定上、原判決別紙「売上高・経費一覧表」の番号6~8、11~14は第1審被告製品(1)の製造販売に直接関連して追加的に必要になった経費であるから控除されるべきであると主張す25る。しかし、管理部門の人件費や交通・通信費等は、通常、侵害品の製造 20販売に直接関連して追加的に必要になった経費には当たらないというべきであり、上記各経費を控除の対象とすることは相当でない。 イ 第1審被告らは、第1審被告らの利益額の90%又は少なくとも77%の推定覆滅を認めるべきであると主張する。しかし、その指摘する根拠とする理由(第1審被告製品(1)に耐候性等の本件発明の作用効果が確認で5きないこと、設計変更が容易であるこ 又は少なくとも77%の推定覆滅を認めるべきであると主張する。しかし、その指摘する根拠とする理由(第1審被告製品(1)に耐候性等の本件発明の作用効果が確認で5きないこと、設計変更が容易であること、第1審被告らの営業努力・ブランド力・売上シェア等)については、本件証拠上、その事実が認められないか、仮に認められたとしても、原判決が認定した限度を超えて特許法102条2項の推定を覆すに足りるものではない。 (3) 以上のとおり、第1審原告及び第1審被告らの上記各主張はいずれも採10用できない。 4 争点3-2(損害論・特許法102条3項の適用)について第1審被告製品(1)に係る第1審被告らの合計売上高は、上記3【計算式】Aのとおり、●●●●●●●●●●●●●(=①)である。 そして、これに適用すべき実施料率として、第1審原告は30%(=②)、第151審被告らは0.1%を、それぞれ主張するところ、仮に第1審原告の主張する実施料率をそのまま適用したとしても、 特許法102条3項に基づいて推定される損害額は●●●●●●●●●●●●(=①×②)にとどまり、上記3で示した同条2項によって推定される損害額14億1222万2317円を下回る。 したがって、本件において弁論主義の制約下で実際に適用すべき具体的な実施20料率を判断するまでもなく、同条3項の推定を本件に用いる意味はない。上記3で示した金額をもって、第1審原告の損害額と認めることとなる。 5 争点3-3(消滅時効の抗弁)について(1) 第1審被告らは、第1審原告は、遅くとも平成24年5月9日までには、第1審被告製品(1)が本件発明の技術的範囲に属するという客観的事実を認25識したといえ、「損害及び加害者」を知っていたと主張する。 21(2) そこで 24年5月9日までには、第1審被告製品(1)が本件発明の技術的範囲に属するという客観的事実を認25識したといえ、「損害及び加害者」を知っていたと主張する。 21(2) そこで検討するに、前提事実(原判決3頁~)に加え、証拠(甲142、証人Aのほか、後掲証拠)及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。 ア 第1審原告は、平成3年に再帰反射シートを販売する事業を開始したところ、その直後に米国3Mから、同社が有する再帰反射シートに関する特5許権の侵害であるとの警告状が送付されてきた。その後、第1審原告は、米国3Mが有する上記特許に抵触する再帰反射シートは販売しないことに同意する旨の和解契約を米国3Mと締結したが、第1審原告が上記特許に抵触しないと認識して販売して改良製品を巡って、米国3Mは再び特許侵害の警告状を送付してきた。 10イ 平成6年3月、米国3Mは米国ミネソタ地区連邦地方裁判所に上記和解契約違反を理由とする訴訟を提起した。第1審原告はこれに応訴するとともに、同年7月、米国3Mを被告として、特許権侵害差止請求権の不存在確認等を求める訴訟を東京地方裁判所に提起し、さらに同年12月には、我が国の特許庁において、米国3Mの上記特許の無効審判請求をした。 15また、第1審原告は、再帰反射シートの販売事業を欧州各国で展開していたことから、米国3Mを相手に上記特許権の侵害の不存在確認を求める訴訟を、ドイツ、フランス、イタリア、スウェーデン、スイス及びオーストリアに、欧州における対応特許の無効訴訟等を、ドイツ、フランス、イタリア、スウェーデン及びスイスに提起させざるを得なくなった。 20さらに、平成11年7月に米国3Mは、別の特許に基づき、第1審原告ほかに対する特許権侵害訴訟を英国で提 、ドイツ、フランス、イタリア、スウェーデン及びスイスに提起させざるを得なくなった。 20さらに、平成11年7月に米国3Mは、別の特許に基づき、第1審原告ほかに対する特許権侵害訴訟を英国で提起するなど、両者の特許紛争は泥沼化の様相を呈していた。 ウ 平成15年3月、第1審原告と米国3Mは、上記2つの特許に関する訴訟を和解により終結させた。10年以上に及んだ特許紛争は一応の収束に25至ったが、この間、第1審原告は、訴訟関与のための人的負担や訴訟代理 22人費用など多額の金銭的負担を強いられ、平成6年から平成14年までの代理人費用だけで●●●●以上を費やした。これは、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●エ 第1審原告にとって、上記の各訴訟等は、基本的に米国3Mの主張する5特許権侵害を争うという防衛的な立場で戦ったものであったが、本件特許に対応する本件欧州特許のドイツ3Mによる被疑侵害行為を把握したことから、平成23年3月、第1審原告は、ドイツのマンハイム地方裁判所にドイツ侵害訴訟を提起した。これに対し、ドイツ3Mは、同年7月に本件欧州特許に関するドイツ無効訴訟をドイツ連邦特許裁判所に提起した。 10オ 第1審原告が、上記反転攻勢に転じる際、訴訟の場としてドイツ1国だけを選んだのは、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●からである。 ところで、ドイツにおける上記各訴訟の係属中の平成24年1月19日、15第1審原告は、代理人を通じて、米国3Mからのレターに対する回答として、同社に対し、製品の販売が特許侵害に当たると ある。 ところで、ドイツにおける上記各訴訟の係属中の平成24年1月19日、15第1審原告は、代理人を通じて、米国3Mからのレターに対する回答として、同社に対し、製品の販売が特許侵害に当たるとしてライセンス料1億ドルを求める旨を記載し、別紙に第1審原告の特許の一覧として本件特許の特許番号が記載されたファイルを添付した英文メールを送信した(乙41、43)。しかし、第1審原告として、ドイツ侵害訴訟及びドイツ無効訴20訟が決着をみるか、又は山を越えたという状況になるまでは、他国の裁判所にまで戦線を拡大するという考えはなかった。 カ 第1審原告は、上記のとおり、基本的にはドイツにおける訴訟に注力していたものであるが、日本の代理人から、米国3Mにプレッシャーをかける意味で追加の手段を用意しておいた方がよいとの助言があった。そのよ25うな中、たまたま、米国3Mの代理店から第1審被告らの取り扱う製品の 23サンプルを入手することが可能となったため、第1審原告は、将来的に利用する可能性がある証拠の保全の趣旨で、平成23年10月26日までに、日本国内の市場において、第1審被告製品(1)のうち品番2930シリーズと品番3930シリーズのサンプル品を入手し、これに基づいて「サンプル採取に関する事実実験公正証書」を作成した(甲15、16)。ここで行5われたのは、箱・外観の確認、コンポーネント数の確認、乱数抽出によるサンプリング位置の決定、サンプリング(カット)、封印であり、サンプル品の構造の分析までは行われなかった。 なお、第1審被告製品(1)のうち品番3930シリーズとドイツ侵害品は、いずれも米国から輸入した原反ロールを用いて製造されたものであり、外10観、製品番号(「3930」)、生産国、生産者が同一であった(乙40 告製品(1)のうち品番3930シリーズとドイツ侵害品は、いずれも米国から輸入した原反ロールを用いて製造されたものであり、外10観、製品番号(「3930」)、生産国、生産者が同一であった(乙40、42)。もっとも、第1審被告製品(1)のうち、甲16で公証した製品番号「HIP2930」という製品は、ドイツ被疑侵害品の製品番号(3930)と製品番号が異なっており、甲15で公証した製品番号「3930」という第1審被告製品(1)については、ドイツ被疑侵害品とは商品名が異なって15いた。 この頃、第1審被告らは、第1審被告旧製品から第1審被告新製品への切替えを行い、印刷層の印刷領域の面積が本件発明の構成要件1D所定の面積を超えるものとなった(乙39、58、69)。 キ その後のドイツ侵害訴訟及びドイツ無効訴訟の経緯は、引用に係る原判20決の第2の1(4)〔7頁~〕のとおりであるが、ドイツ侵害訴訟については、特許権侵害を認める第1審判決(平成24年1月)を経て、平成29年2月に侵害判断を是認する第2審判決が出され、平成30年3月のドイツ最高裁決定によりこれが確定した。ドイツ無効訴訟については、本件欧州特許を無効とする第1審判決(平成24年9月)が出されたものの、平成2257年4月、同特許の有効性を認めて第1審判決を変更する最高裁判決が出 24され、同特許の有効性は維持されることが確定した。 ク 以上の経緯で、ドイツ無効訴訟が決着し、ドイツ侵害訴訟は山を越えた平成29年頃、第1審原告として、ドイツ以外の国における新たな侵害訴訟の提起が現実的な選択肢としてようやく検討の俎上に乗る状況になったことから、上記カのサンプル品の構造の分析を行い、この頃、同製品と5ドイツ侵害品の構成が同一であることを認識した(甲17、 害訴訟の提起が現実的な選択肢としてようやく検討の俎上に乗る状況になったことから、上記カのサンプル品の構造の分析を行い、この頃、同製品と5ドイツ侵害品の構成が同一であることを認識した(甲17、18、28)。 (3) 以上の認定事実を踏まえて検討するに、第1審原告は、特許権侵害の証拠を保全するために、日本国内の市場においてサンプル品を入手し、平成23年10月26日までに「サンプル採取に関する事実実験公正証書」まで作成していることからすると、通常の経験則においては、当該サンプル品の構造10の分析もせずに放置していたとは考え難い状況とも考えられる。しかし、本件においては、第1審被告として、ドイツ侵害訴訟とドイツ無効訴訟に注力せざるを得ない状況で、かつて、多数の国で泥沼化した特許訴訟を同時並行的に遂行し、そのコストは経営に悪影響を及ぼすようなものであったという経験を踏まえ、ドイツ以外の国で新たな訴訟等を提起する選択肢は事実上な15かったことが認められる。このような状況で、将来使用するかもしれない証拠の保全だけにとどめ、その構造の分析はあえて行わなかったという第1審原告の行動は、何ら不自然なものではなく、以上の趣旨を述べる証人Aの証言は、信用に足りるものといえる。 (4) 第1審被告製品(1)のうち品番3930シリーズとドイツ侵害品の再帰反20射シートは、いずれも米国3Mから輸入した原反ロールを用いて製造されたものであり、その外観が同一である(上記(2)カ)。しかし、第1審被告らは、第1審被告製品(1)の品番を変更せずに構成の変更を行っている事実もあり(上記(2)カ、証人A8頁)、原反ロールの生産者、生産国、品番が同一であるからといって、その構成が同一であるとは即断できない状況があったとい25える。そうすると、サンプルの っている事実もあり(上記(2)カ、証人A8頁)、原反ロールの生産者、生産国、品番が同一であるからといって、その構成が同一であるとは即断できない状況があったとい25える。そうすると、サンプルの構造の分析に至らない外観の同一性のみから、 25第1審原告において、上記サンプルが本件特許を侵害する侵害品であることの認識まで有していたと推認することはできない。 また、第1審被告らは、第1審原告が、平成24年1月19日に米国3Mに対してライセンス料を求めるメールを送信したこと(上記(2)オ)を指摘し、これは警告書に該当し、過去分の損害賠償を請求するものであると主張する。 5しかし、同メールは、侵害行為の具体的な場所(国)、時期等を特定して、特許権の侵害の具体的な事実を明らかにするものではなく、むしろ、当時係属中のドイツ侵害訴訟を背景に、世界各国で販売されている同種製品についても、第1審原告の特許権を侵害している可能性があるという程度の認識を基礎として、世界規模での抜本的な紛争解決の観点から、包括的なライセンス10オファーを行ったにすぎないと考えるのが自然である。第1審原告が、この時点で第1審被告らによる我が国における特許権侵害の事実を認識していたと推認させる間接事実としては不十分といわざるを得ない。 ところで、第1審原告は、信用調査会社に依頼し、第1審被告らを含む競合会社の市場における動向を調査させ、同信用調査会社は平成27年3月615日付けで調査報告書を提出した事実が認められるが(甲88)、これも、消滅時効の起算日に関する第1審被告らの主張を基礎づけるようなものとはいえない。 (5) 以上の認定判断によれば、第1審原告が、第1審被告製品に係る第1審被告らによる本件特許権の侵害を認識したのは、平成23年に 日に関する第1審被告らの主張を基礎づけるようなものとはいえない。 (5) 以上の認定判断によれば、第1審原告が、第1審被告製品に係る第1審被告らによる本件特許権の侵害を認識したのは、平成23年に入手したサンプ20ル品の構造の分析を行った平成29年頃であると認められ、その後3年を経過する前の平成30年1月に本件訴訟を提起していることが明らかである。 消滅時効の完成をいう第1審被告らの主張は理由がない。 6 その他の争点について(1) 争点4に係る不当利得返還請求は、第1審被告らが主張する消滅時効の25抗弁が認められた場合のための予備的請求であるから、消滅時効が認められ 26ない以上、判断を要しない。 (2) 争点5(訂正の再抗弁)及び争点6(本件訂正発明に係る特許無効の再々抗弁)については、争点2の本件特許の無効の抗弁(無効理由1~7)が全部認められない以上、判断を要しない。 (3) なお、本件訂正については、近いうちにこれが認められる可能性が相当程5度あると考えられることから、念のため、本件訂正発明を前提としても、第1審被告製品(1)が本件特許の技術的範囲に属することの説明をしておく。 本件訂正発明(請求項1)は、本件発明1の構成に加え、①反射素子層にポリカーボネート樹脂を用いる構成、②表面保護層に(メタ)アクリル樹脂を用いる構成、③印刷層が保持体層と表面保護層に接して設置する構成、④10印刷層は白色無機顔料として酸化チタンを含有する構成を加えており、本件訂正発明(請求項2)は、上記①~④のほか、⑤印刷層の厚みが0.5~10μmとの構成も加えている。 証拠(甲17、18、28、乙1、46、49)及び弁論の全趣旨によれば、第1審被告製品(1)は、上記①~⑤の各構成を備えており、 、⑤印刷層の厚みが0.5~10μmとの構成も加えている。 証拠(甲17、18、28、乙1、46、49)及び弁論の全趣旨によれば、第1審被告製品(1)は、上記①~⑤の各構成を備えており、第1審被告15らは、第1審原告主張の訂正の再抗弁に対する認否・反論においても、本件訂正によって加わった上記構成により第1審被告製品が本件特許の技術的範囲に属しなくなったという趣旨の主張はしていない。 したがって、仮に本件訂正を認める審決が確定することになっても、本件の判断に影響を及ぼすものではない(特許法104条の4第3号の主張制限20の適用を待つまでもない。)。 第6 結論以上によれば、第1審原告の本件控訴及び第1審被告らの本件各控訴はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第4部25 27 裁判長裁判官宮 坂 昌 利 裁判官5岩 井 直 幸 裁判官頼 晋 一 10 28(別紙)当審における新主張 1 争点2(本件特許の無効の抗弁)の無効理由4-2(乙6発明A~Cに基づく新規性・進歩性欠如)5【第1審被告らの主張】原判決の判断を受けて、乙6から認定できる発明につき整理するに、乙6には、「ナンバープレートとして使用される反射性プレート」として、次の乙6発明A~Cが記載されている。本件発明1及び本件発明2は、これら乙6に記載された各発明と同一 できる発明につき整理するに、乙6には、「ナンバープレートとして使用される反射性プレート」として、次の乙6発明A~Cが記載されている。本件発明1及び本件発明2は、これら乙6に記載された各発明と同一か、同発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明を10することができたものである。したがって、本件特許は、特許法29条1項又2項の規定に反するものとして、特許無効審判により無効にされるべきものである。 (1) 乙6発明A「 ナンバープレートして使用される反射性プレートであって、15反射性プレートは、本体プレートを備え、前表面が一般的に平滑であり、その裏側は三角錐に形成された複数の反射素子を有し、かつ、反射層でコートされ、さらに、反射性プレートの前表面上に文字または数字などの記号が刻印され、表面に押し出され、又は施され、三角錐に形成された反射素子は逆さにした三角錐の形状を有し、20記号は、記号を含まない前表面の色とは異なる色になり、記号を含まない前表面を、日中、白く見えるようにするため、本体プレートの前表面には、グリッドパターン(格子パターン)又はスクリーンパターンの複数の白いドットが白色顔料で印刷され、グリッド(格子)は、反射光が所定の割合で透過するように作成される、25反射性プレート。」 29(2) 乙6発明B「 ナンバープレートして使用される反射性プレートであって、反射性プレートは、本体プレートを備え、前表面が一般的に平滑であり、その裏側は三角錐に形成された複数の反射素子を有し、かつ、反射層でコートされ、三角錐に形成された反射素子は逆さにした三角錐の形状を有し、5本体プレートの前方の表面全体が、印刷された透明なフィルムを接着又は結合して被覆される、反射性プレート。」 射層でコートされ、三角錐に形成された反射素子は逆さにした三角錐の形状を有し、5本体プレートの前方の表面全体が、印刷された透明なフィルムを接着又は結合して被覆される、反射性プレート。」(3) 乙6発明C「 ナンバープレートして使用される反射性プレートであって、10反射性プレートは、本体プレートを備え、前表面が一般的に平滑であり、その裏側は三角錐に形成された複数の反射素子を有し、かつ、反射層でコートされ、三角錐に形成された反射素子は逆さにした三角錐の形状を有し、日中、白く見えるようにするため、本体プレートの前表面には、グリッドパターン(格子パターン)又はスクリーンパターンの複数の白いドットが白15色顔料で印刷され、グリッド(格子)は、反射光が所定の割合で透過するように作成される、本体プレートの前方の表面全体が層16で被覆された、反射性プレート。」【第1審原告の主張】20第1審被告らの上記主張は、時機に後れた攻撃防御方法の提出に当たり、却下されるべきである。 2 争点5(訂正の再抗弁)【第1審原告の主張】(1) 第1審原告は、上記第3の1(原判決の引用補正部分)、2(3)のとおり、本25件発明の特許請求の範囲の訂正(本件訂正)を求める訂正請求をした。 30(2) 本件訂正によって、第1審被告ら主張の無効理由1~7が認められないことは一層明らかとなった。 (3) 第1審被告製品は、本件訂正発明の技術的範囲に属する。 【第1審被告らの主張】第1審原告の主張(1)は認め、同(2)、(3)は争う。なお、第1審被告製品が本5件訂正発明の技術的範囲に属さないと解すべき理由は、本件発明について述べたところと同様である。 3 争点6(本件訂正発明に係る特 (1)は認め、同(2)、(3)は争う。なお、第1審被告製品が本5件訂正発明の技術的範囲に属さないと解すべき理由は、本件発明について述べたところと同様である。 3 争点6(本件訂正発明に係る特許無効の再々抗弁〔無効理由8~16〕)【第1審被告らの主張】本件訂正発明を前提としても、本件特許には以下の無効理由がある。 10(1) 無効理由8:サポート要件違反(2) 無効理由9:実施可能要件違反(3) 無効理由10:明確性要件違反(4) 無効理由11:乙6発明A~Cに基づく新規性・進歩性欠如(5) 無効理由12:乙16発明に基づく進歩性欠如15(6) 無効理由13:乙17発明に基づく進歩性欠如(7) 無効理由14:乙18発明に基づく進歩性欠如(8) 無効理由15:乙23発明に基づく進歩性欠如(9) 無効理由16:乙70発明に基づく進歩性欠如【第1審原告の主張】20争う。

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