- 1 -平成22年3月15日判決言渡平成18年(行ウ)第183号遺族補償年金等不支給処分取消請求事件 主文 1 川口労働基準監督署長が平成17年7月27日付けで原告に対してした労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭料を支給しない旨の処分を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実 及び理由 第1 請求主文同旨第2 事案の概要原告は,夫であり,株式会社P1(以下「本件会社」という。)P2事業所業務課物流係係長として勤務していたP3の死亡が,業務に起因するものであるとして,労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づく遺族補償給付及び葬祭料の支給を請求した。川口労働基準監督署長(以下「処分行政庁」という。)は,平成17年7月27日付けで原告に対し,これを支給しない旨の処分をした(以下「本件処分」という。)。 本件は,原告が,本件処分の取消を求める事案である。 1 前提事実(争いのない事実,後掲証拠及び弁論の全趣旨による認定事実)(1) P3(昭和▲年▲月▲日生)は,原告と昭和61年10月12日に結婚し,長女(昭和▲年▲月生),次女(平成▲年▲月生)の2人の子がいた。 P3は,P4株式会社等での勤務を経て,平成4年7月1日,本件会社に採用され,神奈川県海老名市所在のP5事業所物流係等での勤務を経て,平成10年9月,埼玉県川口市所在のP2事業所に異動,物流課管理係で勤務- 2 -し,平成11年7月からは,P2事業所物流課管理係長として勤務していた。 物流課管理係は,平成13年の組織変更により,業務課物流係となった。 (乙4,9,15)P3は,原告,2人の子,原告の両親とともに 成11年7月からは,P2事業所物流課管理係長として勤務していた。 物流課管理係は,平成13年の組織変更により,業務課物流係となった。 (乙4,9,15)P3は,原告,2人の子,原告の両親とともに,神奈川県茅ヶ崎市所在の自宅で生活しており,P5営業所勤務時は,自動車で1時間の通勤時間であった。P2事業所に異動後は,家族と離れ,埼玉県川口市所在の本件会社の単身赴任者用借上げマンションに単身居住し,徒歩で10~15分又は自転車で約5分かけて通勤していた。 (2) 本件会社は,パン,洋菓子等の製造販売を業とする大手食品メーカーである。平成14年7月当時にP3が所属していたP2事業所は,管理課,市場開発課,営業1課・2課,業務課の5つの課に,業務課は商品管理係と物流係に分かれ,社員数は,正社員33名,準社員(パート,アルバイト)117名の合計150名であった。物流係の正社員はP3を含め3名であった。 かつてP3が所属していたP5事業所は,同月当時は,営業1課・2課,事務管理課,業務課の4つの課に分かれ,業務課は商品管理係と物流係(平成8年当時は物流課物流係)に分かれていた。(乙4,12)(3) P3は,小児喘息の既往があり,一旦は寛解していたが,昭和55年(19歳)ころ,気管支喘息(以下「喘息」という。)を発症した。平成6年(33歳)ころまでの喘息の病状は,週1回程度,吸入薬を使用する程度であり,発作というほどのこともなく,軽症であった。P3の喘息は,平成13年12月の血液検査で,ダニ,ハウスダスト,ネコジョウヒ,イヌジョウヒ等に抗原特異的なIgEの強い反応が認められており,アレルギーが関与した喘息であった。(甲32,48,49,乙5,34,48)(4) P3は,平成▲年▲月▲日午後4時ころ,単身居住していたマンション前通路で倒れてい Eの強い反応が認められており,アレルギーが関与した喘息であった。(甲32,48,49,乙5,34,48)(4) P3は,平成▲年▲月▲日午後4時ころ,単身居住していたマンション前通路で倒れていたのを隣人に発見されたが既に死亡しており,その直後,心筋梗塞を直接死因として死亡したと検案された。しかし,P3は,喘息発作- 3 -により心臓停止に至り死亡したものである(以下「本件喘息死」という。)。 P3は,死亡時,41歳であった。(甲48,51,55,乙48,56)(5) 原告は,P3の死亡が業務上の事由によるものであるとして,平成16年7月26日,遺族補償給付及び葬祭料の支給を請求したが,処分行政庁は,平成17年7月27日,本件処分をした。原告は,同年9月1日,審査請求をしたが,埼玉労働者災害補償保険審査官は,同年12月9日,これを棄却した。原告は,同月21日,再審査請求をしたが,3か月を経過しても裁決がなかったので,平成18年4月21日,本件訴えを提起した。 2 争点及び当事者の主張本件喘息死の業務起因性(原告の主張)(1) 業務起因性判断の枠組み最高裁判所は,脳・心臓疾患の事例において,①被災労働者が従事した当該業務が同人の素因又は基礎疾患をその自然経過を超えて増悪させる要因となりうるものと認められること,②被災労働者の素因又は基礎疾患があり,これが増悪して発症した場合,被災労働者の素因又は基礎疾患が当該業務に従事する以前に確たる発症因子がなくても自然経過により発症する寸前にまで進行していたとは認められないこと,③被災労働者の従事した当該業務以外にその素因又は基礎疾患をその自然経過を超えて増悪させる要因となる確たる発症因子が認められないことという3要件を総合的に検討して業務起因性の存否を判断することを判示した 労働者の従事した当該業務以外にその素因又は基礎疾患をその自然経過を超えて増悪させる要因となる確たる発症因子が認められないことという3要件を総合的に検討して業務起因性の存否を判断することを判示した。 業務による過労・ストレスと喘息の発症,増悪,重積発作との関係についても同様に考えられる。なお,喘息死にあっては,基礎疾病たる喘息の発症,増悪が外見的に明らかな形で進行する。したがって,過労・ストレスと喘息死との相当因果関係を考慮するにあたっては,発症,増悪,喘息死に至る長期間の過程における業務と症状の推移を総合的に検討したうえ,業務が喘息- 4 -死の原因となる蓋然性が認められるかの判断がされるべきである。 (2) 喘息の発症,増悪並びに喘息死と過労・ストレスとの関係喘息の発症,増悪,喘息死と過労・ストレスとの関係を肯定する多くの医学的知見があり,否定する医学的知見はない。喘息の発症のメカニズムとして,アレルギー,炎症,自律神経,精神・神経因子が統合的に理解されるようになってきている。社団法人日本アレルギー学会喘息ガイドライン専門部会監修の喘息予防・管理ガイドライン(以下「ガイドライン」という。)2006は,ストレスの増悪因子としての位置づけに重要度を与え,過労を独立の増悪因子として取り上げ,成人喘息死について,ガイドライン2003同様,死亡に至る発作の誘因として気道感染,次いで過労・ストレスが3大誘因であるとする。過労・ストレスが喘息の増悪をもたらすことは呼吸器の臨床医には確立した知見といえる。 (3) 業務の過重性ア長時間労働P3の労働時間は,少なくとも次のように認定するのが相当である。①出勤時刻はタイムカードに打刻した時間,②退勤時刻は,引継ぎに少なくとも30分を要したのであり,通常(メール等で退勤時刻を知ら 働P3の労働時間は,少なくとも次のように認定するのが相当である。①出勤時刻はタイムカードに打刻した時間,②退勤時刻は,引継ぎに少なくとも30分を要したのであり,通常(メール等で退勤時刻を知らせていないとき),昼勤は午後10時30分,夜勤は午前10時30分,③休憩時間は30分,④トラブルの処理で,通常の退勤時刻以降2時間の時間外労働し,退勤時刻が昼勤翌日午前1時,夜勤午後1時となる日が,各月2回程度あるので,各月の合計労働時間に5時間を増加する。そうすると,本件喘息死前6か月における1か月当たりの労働時間は次のとおりとなる。 発症前月数実労働日数週40時間超の時間外労働時間数月平均時間外労働時間数1か月 20日 84時間32分84時間32分- 5 -2か月3か月4か月5か月6か月20日22日22日21日21日91時間21分96時間41分100時間52分97時間40分89時間48分87時間56分90時間51分93時間21分94時間13分93時間29分分未満切り上げP3の生活実態は,午前10時出勤,午前1時に帰宅するまで仕事し,単身赴任で,生活リズムがバラバラで,朝食は食べていなかった。P3は,喘鳴がありDLV(分離肺換気)を受けるも症状改善がみられず入院となったが,仕事が忙しいことを理由に入院に抵抗し,入院後も,同様の理由で退院を希望して5日間で退院 ,朝食は食べていなかった。P3は,喘鳴がありDLV(分離肺換気)を受けるも症状改善がみられず入院となったが,仕事が忙しいことを理由に入院に抵抗し,入院後も,同様の理由で退院を希望して5日間で退院した。P3について,同僚らは,とにかくずっと働いていた,トラブルを処理するまで退勤せず,いつも会社にいる状態であったとする。P3は,朝から晩まで仕事をし,休日でも会社に顔を出し,亡くなる前1か月は休みもとらず業務を遂行していた。 P3の真実の労働時間は,①出勤時刻はタイムカードに打刻した時間,②退勤時刻は,通常(メール等で退勤時刻を知らせていないとき)昼勤午前0時,夜勤午後0時,③休憩時間は各出勤日30分と考えるのが相当である。すると,死亡前6か月の1か月当たりの労働時間は次のとおりとなる。 発症前月数実労働日数週40時間超の時間外労働時間数月平均時間外労働時間数1か月2か月3か月20日20日22日105時間02分112時間19分121時間17分105時間02分108時間40分112時間52分- 6 -4か月5か月6か月22日21日21日123時間32分118時間50分111時間01分115時間32分116時間12分115時間20分分未満切り上げイ夜勤交代制勤務の質的過重性P3の勤務は,恒常的時間外勤務が組み込まれた夜勤交代制勤務であった。 交代制勤務の反生理性に関する文献は,交代 分未満切り上げイ夜勤交代制勤務の質的過重性P3の勤務は,恒常的時間外勤務が組み込まれた夜勤交代制勤務であった。 交代制勤務の反生理性に関する文献は,交代制勤務が,労働者に身体的,精神的な悪影響を与えること,具体的には,夜勤によって,①生体リズムの位相逆転により諸生理機能の乱れが日常的に反復されること,②生体リズムの作用と環境刺激により睡眠の量・質が低下して睡眠不足となること,③食事時刻が不整となること等から,労働者の疲労の蓄積が進み慢性疲労状態が形成されて,心身に悪影響が生じるとする。 夜勤・交代勤務は,有害な影響を防ぐために一定の基準に従って実施すべきであり,基準を逸脱する交代制勤務は過重性を有する。P3の夜勤交代制勤務は,夜勤交代制勤務に関する医学的知見としては信用性が高い産業衛生学会意見書の基準を逸脱しており,過重なものであった。 (4) P3の基礎疾患が,確たる発症の危険因子がなくても,その自然経過により発症する直前にまで進行していたとは認められないことP3は,夜勤交代制の始まった平成6年ころ以降,健常者にとって量的・質的に過重な業務に従事し,平成10年4月以降,平成13年2月の入院時を除いて通院目的で取得した年休もない。そこで,P3の喘息は,平成7年に中等度持続型ないし重症持続型であったが,「基礎疾患を有していても通常の業務を支障なく遂行することができる程度の健康状態にある者」であった。 以上によれば,P3の喘息は,その自然経過により致死的な喘息発作を発- 7 -症する直前まで進行していたとはいえない。 (5) P3に他に確たる発症因子はないことアアレルゲン吸入アレルギーが喘息増悪に関与する場合,季節性の病状変化や掃除などによる環境からのアレルギー抗原曝 まで進行していたとはいえない。 (5) P3に他に確たる発症因子はないことアアレルゲン吸入アレルギーが喘息増悪に関与する場合,季節性の病状変化や掃除などによる環境からのアレルギー抗原曝露がみられ,ダニ・ホコリが関与するアレルギー性の喘息増悪は,夏から秋に増悪することが多い。P3の喘息発作の経過上,季節性の変化や環境曝露は看取できない。 イ喫煙P3は17歳(昭和53年)ころから喫煙を続けていたのに,平成6年まで喘息増悪がなく,その他喘息増悪に喫煙が関与した根拠はない。 ガイドラインに喫煙が喘息の増悪因子になり得るとの指摘があるが,喫煙の影響は,喫煙の感受性が個体により異なるので,個別の影響の検討が必要である。P3は,亡くなる前年でも気流閉塞の程度が正常近くまで改善する可逆性を持っていたから,P3の肺機能の低下性を喫煙が促進していた事実は確認できない。 ウ肥満肥満について,ガイドライン2006で増悪因子とされたが,欧米からの報告で問題とされる肥満はBMI30以上であることが多い。P3は,BMI25~27程度の肥満であり,肥満が経年的に悪くなっている事実もなく,肥満が喘息増悪に関与した可能性は低い。 エ吸入ステロイド治療P3は,吸入ステロイドが不足し,吸入ステロイド治療の中断のような状態が生じ,喘息死の一因になった可能性は否定できない。しかし,P3は,時間的制約の中で診療機会の確保に努力して,頻回に医療機関を受診し,当時としては標準的な治療を続けていた。今日の基準では吸入ステロイドの不足がみられたとしても,当時の標準的治療を受けていた以上,そ- 8 -れは医学が未発達であったことを意味するにとどまる。当時の医療状況から当然起こりうる喘息治療中の吸入ステロイドの不足・中断をもって過労と喘息死との因 当時の標準的治療を受けていた以上,そ- 8 -れは医学が未発達であったことを意味するにとどまる。当時の医療状況から当然起こりうる喘息治療中の吸入ステロイドの不足・中断をもって過労と喘息死との因果関係が中断されるものではない。難治性の疾患につき現代医学で対処し得ない事態が発生した場合と同様に評価すべきである。 オ短時間作用性β刺激吸入薬の多用一般的に薬物の用量は安全性を考慮して決められ,限度量を超えても直ちに副作用出現とはならない。吸入β刺激薬の多用は,副作用死の問題ではなく,喘息のコントロールの悪化,病院受診の遅れ,気道過敏性を高め喘息の増悪をもたらす問題として理解することが一般的である。 P3には,気道炎症を抑える薬剤が併用され,休日や勤務間の時間に適切な受診がなされていた(本件喘息死当日午前11時30分に受診した。)。 以上より,P3の短時間作用性β刺激薬の多用が「確たる原因」となり,P3の喘息が増悪して,死亡に至ったとはいえない。 (6) 結論P3が本件喘息死に至るまで従事していた長時間・夜勤交代制の勤務は,基礎疾病たる喘息の症状をその自然経過を超えて増悪させるものであった。 P3は,過重な日常業務を治療を受けながらも支障なく遂行しており,基礎疾病たる喘息は,自然増悪により発症する直前にまで至っていなかった。本件喘息死に至る業務以外の確たる要因は認められない。 そこで,業務による負荷が,喘息をその自然経過を超えて増悪させ致死的な喘息発作を発症させたといえ,本件喘息死には,業務起因性が認められる。 (被告の主張)(1) 業務起因性の判断枠組み基礎疾患である喘息の増悪と業務との間に相当因果関係が認められるには,①業務による負荷が,当該労働者と同程度の年齢・経験等を有し,通常の業- 9 -務を支障 (1) 業務起因性の判断枠組み基礎疾患である喘息の増悪と業務との間に相当因果関係が認められるには,①業務による負荷が,当該労働者と同程度の年齢・経験等を有し,通常の業- 9 -務を支障なく遂行することができる程度の健康状態にある者にとり,基礎疾患をその自然的経過を超えて著しく増悪させ得る程度のものであると認められること(危険性の要件),②業務による負荷が,その他の業務外の要因(当該労働者のリスクファクター等)に比して相対的に有力な原因となって,基礎疾患を増悪させたと認められること(現実化の要件)が必要である。 (2) 過労やストレスが喘息を増悪させるとの確固たる根拠はないことストレスについては,激しい感情表現とストレスが喘息の増悪因子となり,過労については,心理的因子の検討との関係で,疲労感,多忙感が喘息症状の悪化と関連し得るとの報告があるものの,確固たる科学的,医学的所見は見当たらない。過労等が喘息を増悪させる旨の論文等は,いずれも科学的,医学的根拠が乏しい。 (3) P3の業務には喘息を増悪させる危険性が認められないことア労働時間P2事業所では,日勤担当時間午前10時~午後10時,夜勤担当時間午後10時~午前10時であった。大きなトラブルがなければ,日勤は午後9時ころ,夜勤は午前9時ころ退勤していた。休憩時間は60分であった。休日は,年間111日,月に9,10日であった。 タイムカードやシフト表に加え,元同僚らの供述を考慮して次のとおり労働時間を推定する。始業時間は,労働契約上の始業時で労働時間を推定する。遅刻した時間は,労働時間から除く。終了時間は,トラブルがなければ,交代者の出勤より1,2時間早く退勤でき,本件喘息死直前に大きなトラブルはなかった。そこで,昼勤は午後10時,夜勤は午前10時まで 遅刻した時間は,労働時間から除く。終了時間は,トラブルがなければ,交代者の出勤より1,2時間早く退勤でき,本件喘息死直前に大きなトラブルはなかった。そこで,昼勤は午後10時,夜勤は午前10時まで勤務したと推定し,責任者又は副責任者であった場合,引継時間も加えて終業時間を算出する。業務引継ぎは,昼勤と夜勤の,責任者間,副責任者間で10分程度行われた。責任者又は副責任者であった日(シフト表のない3月以前は,責任者又は副責任者とする。)のうち,引継ぎに30分- 10 -要した本件喘息死の前日,前々日以外は,引継時間10分を労働時間に含める。以上によれば,死亡前6か月の労働時間は次のとおりとなる。 発症前月数実労働日数週40時間超の時間外労働時間数月平均時間外労働時間数1か月2か月3か月4か月5か月6か月20日20日22日22日21日21日54時間42分65時間47分73時間49分72時間02分68時間11分65時間00分54時間42分60時間14分64時間46分66時間35分66時間54分66時間35分分未満切り上げどのような健康状態においても人にとって1日7~8時間の睡眠が最も健康とされる。P3は,仮に通勤,食事,入浴等に4.3時間使ったとしても,業務による疲労を回復する1日7~8時間の睡眠等が確保できた状態であったから,業務が疲労を蓄積させ 1日7~8時間の睡眠が最も健康とされる。P3は,仮に通勤,食事,入浴等に4.3時間使ったとしても,業務による疲労を回復する1日7~8時間の睡眠等が確保できた状態であったから,業務が疲労を蓄積させるものとはいえない。 イ交代制勤務交代制勤務が日常業務としてスケジュールどおり実施されている場合に受ける負荷は日常生活で受ける負荷の範囲内と考えられる。勤務シフトが1か月単位で作成され,スケジュールどおり実施されているので,日常生活で受ける負荷の範囲内と評価でき,同年齢の同僚労働者に比しても深夜労働が多いとはいえず,特に過重な業務であったとは認められない。 (4) 本件喘息死は,業務外の要因により喘息を増悪させた結果であること業務外の要因であるアレルゲン吸入,喫煙,肥満,吸入ステロイド薬の治療の不足,短時間作用性β2刺激吸入薬の多用が喘息を増悪させた。 アアレルゲン吸入- 11 -アトピー型喘息では,病因アレルゲン曝露は気道に炎症を惹起し,気道過敏性の亢進と気道狭窄反応を示し,病因のアレルゲン回避・除去,減感作療法などが有効性を示す。P3が単身赴任中であったことからも,アレルゲン除去が十分に行われていなかった可能性が高い。 イ喫煙喫煙は,肺機能の低下を進行させ,喘息症状の重症度を上げ,吸入ステロイド薬の効果を減弱させたり,テオフィリンクリアランスを上昇させる等,喘息治療に対する反応を低下させることにより,喘息を重症化させる。 P3は,喫煙を始めた17歳から本件喘息死まで約24年間,1日約20~40本の喫煙を継続したから,これが喘息を増悪させた。 ウ肥満GINA(GLOBALINITIATIVEFORASTHMA)2002日本語版,ガイドライン2006に,BMIが高いほど喘息発病のリスクが高い,肥満が これが喘息を増悪させた。 ウ肥満GINA(GLOBALINITIATIVEFORASTHMA)2002日本語版,ガイドライン2006に,BMIが高いほど喘息発病のリスクが高い,肥満が喘息患者の呼吸器症状を悪化させ,QOLを低下させる可能性がある旨記載されている。P3の肥満が喘息を悪化させた可能性は否定できない。 エ気道感染感冒(風邪)は,喘息の増悪因子であるとともに死亡に至る発作の誘因として最も多いものである。P3は,本件喘息死のおよそ1週間前,風邪である旨原告に述べ,本件喘息死当日にも,風邪を理由にP6医院で診察を受けており,風邪によって喘息が増悪したとも考えられる。 オ吸入ステロイド治療P3の喘息治療には,吸入ステロイド治療が絶対的に不足していた。平成13年2月22日(P7病院退院日)~同年10月4日の277日間の処方は,フルカチゾン投与量を200μ/日として合計220.5日分であった。同月5日~平成▲年▲月▲日(本件喘息死当日)の▲日間の処方は,1日400μとして208日分であった。ストメリンDに含まれるデ- 12 -キサメサゾンは,吸入ステロイドとして換算しないのが一般的である。ステロイド投与量は,P3の喘息が重症持続型であったから,フルチカゾン400~800μ/日が必要であり,吸入治療や点滴治療を受けていた実態からは,800μ/日の投与,必要に応じて経口ステロイド薬の追加が必要であった。 平成14年5月7日~本件喘息死当日の▲日間は,吸入ステロイドに70日分の不足があったから,急速に吸入量が不足し重篤な発作を誘発した可能性がある。 カ短時間作用型β2刺激薬の多用短時間作用型β2刺激吸入薬の常用による喘息のコントロール,頻回使用は気道炎症を悪化,喘息を増悪させ,喘息死のリスクを高 し重篤な発作を誘発した可能性がある。 カ短時間作用型β2刺激薬の多用短時間作用型β2刺激吸入薬の常用による喘息のコントロール,頻回使用は気道炎症を悪化,喘息を増悪させ,喘息死のリスクを高める可能性がある。短時間作用型β2刺激吸入薬の過剰使用が喘息死に関与した。 (6) 結論業務による過労・ストレスが致死的喘息発作を起こし,本件喘息死に至ったことを認めるに足りる科学的,医学的な証拠はない。 P3は,アトピー型喘息で,小児喘息の既往があり,19歳時に再発し,平成7年以降,喘息のため医療機関を数多く受診し,発作を繰り返した。喘息増悪には,アレルゲン吸入,気道感染,喫煙が関与し,業務は関係していない。P3は,喘息死の危険因子7項目のうち,救急外来受診歴,ステロイドの全身投与,吸入ステロイド薬が不十分,短時間作用性β2刺激薬の過剰,治療は自己判断に頼っていたの5項目に該当し,これらは業務と関連性がない。 以上によれば,本件喘息死には,業務起因性が認められない。 第3 当裁判所の判断 1 業務起因性判断の枠組み労災保険法に基づく保険給付は,労働者の業務上の死亡等について行われる- 13 -のであり(同法7条1項1号),労働者の死亡等を業務上のものと認めるためには,業務と死亡等との間に相当因果関係が認められることが必要である(最高裁昭和51年11月12日第二小法廷判決・裁判集民事119号189頁参照)。そして,労災保険制度が,労働基準法上の危険責任の法理に基づく使用者の災害補償責任を担保する制度であることからすれば,上記の相当因果関係を認めるためには,当該死亡等の結果が,当該業務に内在する危険が現実化したものであると評価し得ることが必要である(最高裁平成8年1月23日第三小法廷判決・裁判集民事178号83頁,最高裁 当因果関係を認めるためには,当該死亡等の結果が,当該業務に内在する危険が現実化したものであると評価し得ることが必要である(最高裁平成8年1月23日第三小法廷判決・裁判集民事178号83頁,最高裁平成8年3月5日第三小法廷判決・裁判集民事178号621頁参照)。 前記前提事実のとおり,P3の死因は,本件喘息死であった。上述の理は,労働基準法施行規則35条別表第1の2第9号の「その他業務に起因することの明らかな疾病」の認定においても,当然に妥当するものである。そうすると,本件喘息死が本件会社におけるP3の業務に内在する危険が現実化したものと評価できるかを,経験則及び科学的知見に照らして,検討することになる。 この検討に当たっては,前記前提事実のとおり,P3は喘息を基礎疾患として有していたところ,喘息を増悪させて本件喘息死に至ったものであるから,この喘息の増悪が,業務上の過重負荷によりその自然の経過を超えたものであったといえるかという観点から,検討を加えることになる。 2 喘息に関する医学的知見(甲54,乙48,49,56,58,後掲各証拠,弁論の全趣旨)(1) 定義等成人喘息は気道の慢性炎症と種々の程度の気道狭窄と気道過敏性の亢進,臨床的には繰り返し起こる咳,喘鳴,呼吸困難で特徴づけられる。気道狭窄は,自然に又は治療により可逆性を示す。気道炎症には,好酸球,T細胞,マスト細胞などの炎症細胞,気道上皮細胞,線維芽細胞をはじめとする気道構成細胞,種々の液性因子が関与する。持続する気道炎症は,気道傷害とそ- 14 -れに引き続く気道構造の変化(リモデリング)を惹起し,非可逆性の気流制限をもたらし,気道過敏性を亢進させる。 (2) 病型喘息は,アトピー型と非アトピー型に分類できる。アトピー型は環境アレルゲンに対する特異 構造の変化(リモデリング)を惹起し,非可逆性の気流制限をもたらし,気道過敏性を亢進させる。 (2) 病型喘息は,アトピー型と非アトピー型に分類できる。アトピー型は環境アレルゲンに対する特異的IgE抗体が存在するものである。アトピー型喘息では病因アレルゲン曝露は気道に炎症を惹起して,気道過敏性の亢進と気道狭窄反応を示し,病因アレルゲン回避・除去,減感作療法等が有効性を示す。 (3) 重症度と発作強度分類喘息の重症度は,軽症間欠型(ステップ1),軽症持続型(ステップ2),中等症持続型(ステップ3),重症持続型(ステップ4)に分類される。症状の頻度で簡略化すると,症状が毎週ではないのがステップ1,毎週だが毎日ではないのがステップ2,毎日ではあるが日常生活に支障を来さないのがステップ3,毎日で日常生活に支障を来すのがステップ4である。 (4) 増悪因子等(甲3,17~25,27~29,31,42,48,51,54,55,乙48,49,51,55,56)アガイドライン,GINA2002日本語版喘息増悪因子には,アレルゲン,大気汚染物質,呼吸器感染,運動及び過換気,気象変化,食物・食品添加物,アルコール,薬物,激しい感情表現とストレス,その他の喘息増悪因子(過労等)がある(ガイドライン2003,2006)。喫煙,刺激物質(煙,臭気,水蒸気等),妊娠,肥満,過労も増悪因子である(ガイドライン2006)。 喫煙は,喘息患者の肺機能の低下性を促進し,喘息治療に対する反応性を低下させることにより,喘息発症には関与していないとしても,喘息を重症化させる要因であることには違いない(GINA2002日本語版)。 吸入性β2刺激薬のレギュラーユースによる喘息のコントロールは喘息を増悪させる可能性がある。吸入性β2刺激薬の頻回使用は気 を重症化させる要因であることには違いない(GINA2002日本語版)。 吸入性β2刺激薬のレギュラーユースによる喘息のコントロールは喘息を増悪させる可能性がある。吸入性β2刺激薬の頻回使用は気道炎症を悪- 15 -化させ,喘息を増悪させて,喘息死のリスクを高める可能性がある(ガイドライン2003,2006)。 死亡に至る発作の誘因としては気道感染が最も多く,次いで,ストレス,過労で,これらが三大誘因である。他に薬剤の中止,β2刺激薬の過剰使用,ステロイド薬の中止等がある(ガイドライン2003,2006)。 喘息の心身症的側面の特徴として,心理社会的ストレスが,喘息の悪化因子又は発症因子の一つとなっている場合がある。この場合,生活上のライフイベントの変化(離婚,転居,就職等)や日常生活のストレス(職場等での対人関係の問題,慢性の勉学,仕事の負担等)が疾患の発症や再燃に先行してみられる,心理状態(不安,緊張,怒り,抑うつ等)と症状の増減との間に密接な相関が認められる(ガイドライン2006)。 一般にストレスをストレスとして認知せず,何事もなかったかのように振舞い,ストレスに対して適切に対処していないものに重症化・難治化が見られやすく,ステロイド薬の離脱が困難になるものが多く,喘息死を招くことも少なくない(ガイドライン2003)。 イ P8病院院長・呼吸器内科長P9(以下「P9医師」という。)の増悪因子に関する意見過労やストレスは喘息を増悪させ,喘息死の原因となりうる。過労やストレスが喘息の増悪に関与することは臨床的によく観察される。過労やストレスが喘息に影響を及ぼす仕方がいくつかあることが,さまざまな動物実験を含む基礎的研究で明らかにされ,臨床研究においても,ストレスと過労が喘息の発症や増悪に影響を及ぼすことが知ら される。過労やストレスが喘息に影響を及ぼす仕方がいくつかあることが,さまざまな動物実験を含む基礎的研究で明らかにされ,臨床研究においても,ストレスと過労が喘息の発症や増悪に影響を及ぼすことが知られている。労働による疲労・過労は,喘息増悪の原因となることは様々な研究から明らかである。 喘息死に至る発作の原因について,ガイドラインに,気道感染,過労・疲労,心因・ストレス,ステロイド薬の中止,減量等が記載され,もとになった報告は,喘息死の原因として,疲労・過労,心因・ストレスの関与- 16 -が大きいことを指摘している。疲労・過労やストレスが免疫力,抵抗力を弱め,気道感染の原因となることはよく知られており,過労やストレスが気道感染症を引き起こし,喘息増悪となることは明らかである。 ガイドライン2003によれば,生活リズムの崩れやゆとりのない生活が喘息の発症と経過に関与する等とされ,過労やストレスが喘息の発病と増悪双方に関与するものと考えられる。 喫煙の喘息増悪への影響に関しては,喫煙の感受性が個体により異なるので,個別の影響について検討が必要である。また,一般的に喘息と肥満とを関連づけた記述はなく,肥満が喘息増悪のリスクという根拠はない。 ウ P10センター長・呼吸器内科教授P11(以下「P11医師」という。)の増悪因子に関する意見ガイドライン2003,GINA2002日本語版では,増悪因子として,ストレスは,情動的,心理的ストレスとしてあげられているが,過労との関連では取り上げられていない。過労やストレスは,喘息のアレルギー性気道炎症を誘発し,喘息発作を起こすことに殆ど関与しない。 ガイドライン2003で,喘息発症後に加わる心理社会的因子としてあげているのは,不安や悲観,意欲の低下や不満,怒り,抑うつ等であり,気道 気道炎症を誘発し,喘息発作を起こすことに殆ど関与しない。 ガイドライン2003で,喘息発症後に加わる心理社会的因子としてあげているのは,不安や悲観,意欲の低下や不満,怒り,抑うつ等であり,気道炎症への関与は間接的と考えられる。過労やストレスは,患者にとって,より病気が重症になったと感じさせる因子であることは否定しないが,死亡への関与は乏しい。過労やストレスが喘息を増悪させ,喘息死の原因となりうるとするいくつかの論文は,科学的根拠が十分とはいえない。 喘息死の可能性が高い患者として,GINA(GLOBALINITIATIVEFORASTHMA)2002日本語版は,①致死的発作の既往,②過去1年間の入院又は救急外来受診歴,③ステロイド薬の全身投与,④吸入ステロイド薬の投与をしていない,⑤短時間作用性β2刺激薬の過剰投与,⑥精神疾患,⑦喘息薬物投与計画に従わない患者との7- 17 -項目を挙げる。ガイドラインでも同様の指摘がある。これらは科学的根拠が示された論文に基づいており,過労やストレスが挙がっていないのは,喘息死の原因とするには科学的根拠が乏しいためである。 エその他の増悪因子に関する医学的知見(甲17~31,42)過労・ストレスが喘息の増悪因子であるとする多くの医学的文献等がある。それらによると,ストレスが感染に対する抵抗性や免疫能を低下させ,過労・ストレスが喘息をもたらすことは広く知られている。過労・ストレスが喘息の増悪をもたらすメカニズムとして,人間の持つホメオスターシス(平衡状態)を過労・ストレスが不安定にすることによって,喘息の発症,増悪がもたらされるとする文献がある。動物実験の結果では,拘束ストレス後に抗原吸入時の気道反応が増強され,致死率が高くなった。成人喘息患者80名に面接調査を行った結果では, とによって,喘息の発症,増悪がもたらされるとする文献がある。動物実験の結果では,拘束ストレス後に抗原吸入時の気道反応が増強され,致死率が高くなった。成人喘息患者80名に面接調査を行った結果では,発症後に,症状の軽快,増悪とストレスの増減が一致する症例が,医師(心身医学会認定医)の判定で約88%,患者の回答で約60%であった。 (5) 治療(甲43,44,48,乙49,58)抗喘息薬は,長期管理薬(長期管理のために継続的に使用する薬剤)と発作治療薬(喘息発作治療のために短期的に使用する薬剤)の2種類に大別して使用すべきである。 ア長期管理薬(コントローラー)喘息の長期管理薬は,抗炎症薬と長時間作用性気管支拡張薬に分けられ,最も強力な長期管理薬は副腎皮質ステロイド薬(以下「ステロイド薬」という。)であり,吸入,経口的に用いられる。長期管理薬は,喘息病態の研究の進歩と新薬の開発に伴い,種々の異なる作用機序の薬剤が登場してきた。作用機序に基づいて,次のように分類される。 ① ステロイド薬現在の喘息治療における最も効果的な抗炎症薬である。静注薬や筋注- 18 -薬,経口薬に比べて,吸入薬は圧倒的に副作用が少ない。喘息の長期管理薬としてのステロイド薬は吸入薬が基本であり,経口薬は吸入薬を最大限に使用しても管理ができない場合に初めて選択される。ステップ2以上では,吸入ステロイド薬が,長期管理薬の中の第一選択薬と位置づけられる。中等症持続型から重症持続型の喘息の場合の,吸入ステロイド薬の推奨量は,フルカチゾン換算で,200~800μg/日である。 ② テオフィリン徐放製剤テオフィリン薬は気管支拡張薬として喘息治療に用いられてきたが,作用時間の長い徐放薬の出現後,喘鳴や呼吸困難等の喘息症状の出現を持続的に抑制する目的で g/日である。 ② テオフィリン徐放製剤テオフィリン薬は気管支拡張薬として喘息治療に用いられてきたが,作用時間の長い徐放薬の出現後,喘鳴や呼吸困難等の喘息症状の出現を持続的に抑制する目的で,長期管理薬として使用されるようになった。 ③ 長時間作用性β2刺激薬β2刺激薬は気管支拡張薬で,気道平滑筋を弛緩させ,線毛運動による気道分泌液の排泄を促す。吸入,貼付,経口,注射で投与される。長期管理薬としてのβ2刺激薬は長時間作用性薬剤のみである。長期管理薬として用いるときは抗炎症作用のある薬剤との併用が必要である。キシナホ酸サルメテロール以外の,従来からある吸入薬は短時間作用性に分類され,長期管理薬としては位置付けられていない。 ④ 抗アレルギー薬I型アレルギー反応に関与する化学伝達物質の遊離及び作用を調節するすべての薬剤及びTh2サイトカイン阻害薬を一括し,「抗アレルギー薬」と呼称する。作用機序に従い,ロイコトリエン受容体拮抗薬,メディエーター遊離抑制薬,ヒスタミンH1ー拮抗薬,トロンボキサンA2合成阻害薬・拮抗薬,Th2 サイトカイン阻害薬がある。 ロイコトリエン受容体拮抗薬は,喘息症状,呼吸機能,頻用の吸入β2刺激薬の吸入回数,気道炎症,気道過敏性,吸入ステロイド薬使用量の減量,喘息増悪回数及び患者QOLを有意に改善させる。特に中~高- 19 -用量の吸入ステロイド薬を使用しても喘息が完全にコントロールされない症例に対し,ロイコトリエン受容体拮抗薬追加投与は吸入ステロイド薬を倍量にした場合と同等であることにより,吸入ステロイド薬に併用する薬剤として有用である。 イ発作治療薬短時間作用性β2刺激薬の吸入薬は,発作治療薬と位置づけられる。吸入療法は経口薬と同等以上の気管支拡張作用を示すが,心血管系の刺激作 ロイド薬に併用する薬剤として有用である。 イ発作治療薬短時間作用性β2刺激薬の吸入薬は,発作治療薬と位置づけられる。吸入療法は経口薬と同等以上の気管支拡張作用を示すが,心血管系の刺激作用,骨格筋の振戦,低カリウム血症等の副作用は少ない。頓用回数増加はコントロールの悪化とみなしてよい。吸入β2刺激薬の使用回数が,1日5回以上になれば治療のステップアップ(長期管理薬の強化)を検討する。 短時間作用性β2刺激薬は,薬物としての安全性については極めて例外的な症例以外はまず問題ない。 短時間作用性β2刺激薬の定期的な使用は,耐性をもたらしたり,過剰使用は喘息死のリスクを高めるが,直接的な死因より,気道炎症の悪化,気道過敏性の亢進,喘息の重症化,急激な発作の悪化や受診の遅れ等を通じ,間接的な要因となっている可能性が大きい。 3 P3の喘息及び健康の状況等(後掲各証拠,弁論の全趣旨)(1) P3の一般的な健康状況等(甲49,乙6~9,33,51,証人P12,原告本人)平成14年4月19日の健康診断で総合判定A(異常なし),平成13年9月5日の健康診断で内科診察判定G(今まで通り治療を続けて下さい。),上部消化管検査判定C(日常生活に注意し,経過観察を要する。)便検査E等で,肥満傾向ありと指摘され,総合判定Gとされた。 日本肥満学会では,BMI(bodymassindex)(体重/身長×身長)が25以上を肥満としており,P3のBMIは,平成4年6月22日21.7(身長166cm,体重60kg),同年12月7日24.9(身長167cm,- 20 -体重69.5kg),平成8年3月5日25.9(身長166.7cm,体重72.0kg),平成10年10月7日27.7(身長167.2cm,体重77. 5kg),平成14年4月1 7cm,- 20 -体重69.5kg),平成8年3月5日25.9(身長166.7cm,体重72.0kg),平成10年10月7日27.7(身長167.2cm,体重77. 5kg),平成14年4月19日27.3(身長166.5cm,体重75.7kg)と経過していた。 P3は,17歳時(昭和53年)ころから本件喘息死に至るまで,たばこを1日に15~20本吸っていた。 P3の茅ヶ崎の自宅は平成2年に建築され,P3の利用する部屋の床はフローリングであった。排気ガスや粉塵が多い地域ではない。自宅では,P3の単身赴任後に,1年半程度,子ども部屋でハムスター1匹を飼ったことがあったが,空気清浄機を作動させていた。原告は,自宅の掃除を毎日念入りに行い,花粉の多い春先の2週間ほどを除き,週に1回布団干しを行っていた。 P3は,P2事業所に異動後,単身で居住していた川口市のマンションの部屋を掃除機で掃除していた。 (2) P3の喘息の病状及び治療の経過(甲32~38,48,49,51,55,乙5,34~46,48,56,62~65)P3の喘息は,平成6年ころから悪化し始め,平成7年8月以降,喘息発作の治療が増え,中等症持続型又は重症持続型といってよい状態で,喘息発作のコントロールが年々悪化していった。P3は,同年7月3日,P13医院で受診して以降,本件喘息死に至るまで,P7病院,P14医院,P15病院,P6医院,P16クリニック,P17医院,P18クリニック,P19病院で喘息の診療を受けた。通院回数は,平成6年5回,平成7年14回,平成8年25回,平成9年20回,平成10年31回,平成11年26回,平成12年26回,平成13年41回,平成14年16回で,喘息の通院回数としては多かった。 P3は,平成13年2月18日午後6時40分~同 回,平成9年20回,平成10年31回,平成11年26回,平成12年26回,平成13年41回,平成14年16回で,喘息の通院回数としては多かった。 P3は,平成13年2月18日午後6時40分~同月22日の4日間,P- 21 -7病院で喘息発作により入院治療した。この入院の際,P3は,入院に抵抗し,仕事が忙しいことを理由に退院希望したために退院となった。P3は,喘息発作のために仕事を休んだことはほとんどなかった。 P3は,平成7年ころから,受診のたびに,喘息,呼吸困難を認められることが多く,短時間作用性β2刺激薬の吸入処置を受けた。平成10年ころからは短時間作用性β2刺激薬の吸入処置に加え,ネオフィリンとステロイド剤の点滴処置を受けることが多くなった。平成13年以降のステロイド剤の点滴処置回数は,入院時を除き12回に及んだ。 P3のステロイド吸入薬の使用量は,処方が始まった平成8年5月から本件喘息死まで,フルカチゾン換算で1日平均198μgであった。本件喘息死から遡って1年ごとにみると次のとおりである。 平成8年8月~平成9年7月 1日平均52.8μg平成9年8月~平成10年7月 1日平均105.5μg平成10年8月~平成11年7月 1日平均152.4μg平成11年8月~平成12年7月 1日平均197μg平成12年8月~平成13年7月 1日平均248.5μg平成13年8月~平成14年7月 1日平均429μg平成14年3月8日以降同年▲月▲日(本件喘息死当日)までの▲日間に,同年3月8日フルタイド200ロタディスク(フルカチゾン800μg/1枚)30枚,同年6月13日フルタイド200ロタディスク14枚の処方がされたから,1日平均フルカチゾン243μgになる。 P3には,発作が起きたときに使用するための ク(フルカチゾン800μg/1枚)30枚,同年6月13日フルタイド200ロタディスク14枚の処方がされたから,1日平均フルカチゾン243μgになる。 P3には,発作が起きたときに使用するための,多種類の短時間作用性β2刺激薬が,多量に処方されていた(ストメリンDは,ステロイド,β刺激薬,抗コリン薬の3種薬である。)。P3は,短時間作用性β2刺激薬を,発作が起きたときに限定して使用していた。処方されたのは,平成13年は,サルタノール14本とストメリンD24本,平成14年は7か月間でサルタ- 22 -ノール4本,メプチンエア4本,アロテック3本,ストメリンD22本であった。平成14年のストメリンDの量は死亡前7か月で,1日平均0.405mg,8.80吸入に相当し,1日最大8吸入とされる限度を超え,その他の薬剤も含め,選択的β2受容体刺激薬の投与が過剰であった。なお,ストメリンDとサルタノールが,重複して処方されたことはなかった。 このほか,P3には,平成13年10月5日以降,喘息の長期管理薬であるロイコトリエン受容体拮抗薬のオノンが定期的に処方され,平成14年5月4日以降は,本件喘息死までの日数分に足りる量が処方されていた。同時期に,喘息の長期管理薬であるテオフィリン徐放製剤のテオドールも十分に処方されていた。 P3は,処方された薬をきちんと服用していた。 (3) 本件喘息死前の風邪(乙5,38,56)P3は,本件喘息死の4,5日前に,電話で,原告に対し,「風邪を引いて具合が悪い,喘息っぽい。」と述べた。 P3は,平成▲年▲月▲日,P6医院に受診した。身体状況は,顔貌所見に特記なく,口唇部チアノーゼ所見,眼窩結膜の貧血所見及び通常呼吸音の喘鳴所見は認められなかった。P3の自覚症状として,やや風邪気味で鼻水が出るとの 月▲日,P6医院に受診した。身体状況は,顔貌所見に特記なく,口唇部チアノーゼ所見,眼窩結膜の貧血所見及び通常呼吸音の喘鳴所見は認められなかった。P3の自覚症状として,やや風邪気味で鼻水が出るとの訴えたところ,急性上気道炎と診断された。ストメリンDを1本,テオドールを3錠14日分,オノンを2カプセル14日分等の処方を受けた。 4 P3の業務(後掲各証拠,弁論の全趣旨)(1) P2事業所におけるP3の業務の概要(甲50,乙8~13,証人P12)P3が,平成10年9月から配属されていたP2事業所業務課物流係(その前身である物流課管理係を含む。)の主な業務内容は,パン等を製造しているP20工場,P21工場,P22工場,P23工場からP2事業所へのパン等の商品運搬車両(交流便)の運行管理,商品の入荷時間及び数量確認,- 23 -コンビニエンスストアやスーパーマーケットへの商品出荷車両(配送交流便)の管理,積載量の調整,商品の納品先への到着時間の調整であった。4工場からP2事業所への商品の運搬(交流便)及び出荷後の各納品先への配送は,運送会社(平成14年当時は,P24,P25,P26の3社,運転手50名以上)に委託されていた。業務課商品管理係の業務は,4工場から運ばれる商品の受入れ,仕分けであった。 P3は,上記物流係の業務に従事し,また,係長として①部下の教育,②物流経費の管理,コストダウンのための改善策の考案,③業務課の仕事の流れについての改善策の考案,④配送ルートの考案やルート変更等の改善策の考案,⑤運送業者との折衝,運賃交渉等の業務も行っていた。 (2) P2事業所における具体的な作業内容(甲50,乙7~11,13,証人P27,同P12)商品はスーパーマーケット等の店舗向けの一般商品とコンビニエンスストア用商品に分 務も行っていた。 (2) P2事業所における具体的な作業内容(甲50,乙7~11,13,証人P27,同P12)商品はスーパーマーケット等の店舗向けの一般商品とコンビニエンスストア用商品に分かれていた。コンビニエンスストア用商品は,コンビニエンスストアのセンターに配送され,一般商品は各店舗へ配送された。平成14年当時の配送先は,一般商品が1000か所以上,コンビニエンスストアのセンターが約20か所だった。 物流係の主な作業内容は,以下のとおりである。P2事業所は,4工場から,1日に何便かに分けて入荷したパン等を,出荷先である多数のコンビニエンスストアやスーパーマーケットへ出荷していたため,物流において欠品,納品遅れ,誤配,人員不足,工場の生産トラブルといったトラブルが発生することがあった。P3は,勤務中にこれらのトラブルが発生すると,その処理のため,トラブル解消まで居残って勤務していた。 ① 各工場とP2事業所間の交流便の管理,出発,到着時間の管理物流の運転手や下請運送業者の運転手の欠員が生じた人員不足のトラブルが生じた場合には,配送のシフト管理調整を行う必要があった。 - 24 -② 出荷後の配送管理,納品先への到着時間の管理,調整③ ドライバーとの配送ルート,コースの確認,渋滞情報の提供④ 各工場の生産状況の確認工場の生産トラブルで商品の生産が不足すると,配送先に連絡するとともに代替品で対応する必要があった。 ⑤ 工場からの商品入荷状況,仕分け状況の確認⑥ 納品先からのクレーム(商品が予定時刻に届かない等)受付,対応出荷先に注文の商品が納入されていない欠品のときには,お詫びの電話を入れ,伝票を修正し,直ちに別便で配送したり,その商品のないときは代替品を配送しなければならなかった。道路の渋滞等によ 付,対応出荷先に注文の商品が納入されていない欠品のときには,お詫びの電話を入れ,伝票を修正し,直ちに別便で配送したり,その商品のないときは代替品を配送しなければならなかった。道路の渋滞等により納品が遅れた場合,クレーム対応を行い,居残って納品されたことを確認する必要があった。出荷先がコンビニエンスストアの場合,その配送センターの仕分けが遅れるため,とりわけ厳しい対応が求められた。 誤配したときは,配送車両を戻らせ回収させ,正しい配送先へ配送指示をする必要があった。仕分けミスは,多いときは1日に10件以上生じた。 ⑦ トラブルにより出荷時間が遅れた場合の納品先への連絡⑧ トラブル時の仕分け作業等の手伝い,営業への応援要請⑨ P5事業所から送信される業務連絡書による配送コース別積載数の確認,箱数がトラックに積めないと判断した場合は運送業者へ増便の手配⑩ 生産が遅れているコンビニエンスストア商品を,P20工場まで車でとりに行くこともあった。1か月に3~6回くらいあった。 ⑪ 配送が遅れている商品について,配送中のトラックと合流して商品を引き渡したり,直接納入先に配送する。 ⑫ 経費管理,改善の取組み(3) P2事業所における業務課の勤務シフト一本化(乙13)業務課は商品管理係と物流係が別にシフトを組んでいたが,要員配置の効- 25 -率化のため,平成14年2,3月ころから,係の枠を外し,シフトで決められた担当業務を各自が行う勤務シフトの一本化が始まった。 P3が,平成14年4月1日~同年▲月▲日(本件喘息死の前日)の間に担当した業務別回数(シフト変更は考慮していない。)は,日勤責任者26回,夜勤責任者23回,日勤副責任者5回,夜勤副責任者8回,日勤副責任者(オペレーション担当)2回,日勤フリー14回,夜勤フリ に担当した業務別回数(シフト変更は考慮していない。)は,日勤責任者26回,夜勤責任者23回,日勤副責任者5回,夜勤副責任者8回,日勤副責任者(オペレーション担当)2回,日勤フリー14回,夜勤フリー3回等であり,業務の内容は次のとおりであった。 ① 日勤・夜勤の責任者主に物流係の業務に従事し,オペレーション役として,仕分け場を含めた作業全体の進捗状況を常に確認する業務。コンビニエンスストア関係のオペレーションの補助も行う。 ② 日勤・夜勤の副責任者商品の受入れ,仕分け作業全体を仕切る業務。仕分け作業の要員配置,仕分けシミレーション,商品入荷の確認,仕分け状況の確認,準社員の仕分け作業員への指示,各工場の生産状況の確認である。状況により仕分け,出荷の応援も行う。 ③ 副責任者(オペレーション担当)コンビニエンスストア関係のオペレーション業務(電算室において主にコンピュータ作業)。P5事業所から送られてきたデータの加工,仕入れ伝票や店札(パン箱に貼るラベル),手仕分け用の仕分け表など帳票類の打ち出し,積付表(センター別にコンビニ各店舗の商品箱数が記載してあるもの)の準備,コンビニの各センターへFAX送信を行う。オペレーション業務終了後,副責任者の補助で仕分け作業を行う。 ④ フリー日勤のフリーは,デスクワークや仕分け作業の手伝いを行う。トラブル時には一部要員として対応する。夜勤のフリーは,平成14年4月のみで,- 26 -シフト一本化による業務指導や状況確認のためのシフトであった。 (4) P2事業所における労働時間等(甲11,39,49,乙7~10,14,15,18,19,21,証人P12,原告本人)ア P3は,夜勤交代制勤務であり,夜勤と日勤の割合は概ね同じであった。 所定勤務時間としては,日勤が午前1 等(甲11,39,49,乙7~10,14,15,18,19,21,証人P12,原告本人)ア P3は,夜勤交代制勤務であり,夜勤と日勤の割合は概ね同じであった。 所定勤務時間としては,日勤が午前10時~午後7時,夜勤が午後10時~翌日午前7時であった。しかし,実際は,P2事業所が24時間連続操業であったため,1日2交代制で,日勤が午前10時~午後10時,夜勤が午後10時~翌日午前10時(又は午後11時~午前11時)が,実態としての勤務時間であった。トラブルがなければ,日勤の場合午後9時ころ,夜勤の場合午前9時ころ退勤できることもあったが,トラブルがあった場合,日勤では翌日の午前1時ころになることもあった。商品の入荷遅れ等のトラブルは,月に1~3回あり,商品をP20工場まで車でとりに行くことも,月に3~6回くらいあった。 P3は,午前10時より早く出勤することもあったが,その場合には,日報を見て仕分け量を確認する等の業務を行っていたほか,喫煙所に行ってたばこを吸うこともあった。 休憩時間は,就業規則上60分と規定されていたが,1時間まとめて確保されてはいなかった。P3は,食事に10分程度かけていたほか,喫煙所に1日5,6回行って喫煙していたが,携帯電話で呼び出されれば直ちに業務に戻らなければならなかった。 P3は,次のシフトの担当者との間の引継ぎを,メモ等ではなく,直接口頭で行うことが多く,10~30分程度時間をかけて行った。また,P3は,シフトが責任者でなかった場合も,責任者が退勤するまで帰宅することなく業務を行った。 休日は,年間111日,月に9,10日であり,P3は,事前の希望が反映されたシフト表通り月8日~10日の休暇及び年末,夏季休暇をとっ- 27 -ていたが,それ以外に有給休暇を取ることはなかった。 P ,年間111日,月に9,10日であり,P3は,事前の希望が反映されたシフト表通り月8日~10日の休暇及び年末,夏季休暇をとっ- 27 -ていたが,それ以外に有給休暇を取ることはなかった。 P3は,P2事業所への異動後,茅ヶ崎の自宅には,月に1度程度しか帰ることはできなかった。帰るのは,主として2連休前の夜勤明けの日であったが,帰宅時間は夕刻以降であり,夜勤明けの日に帰宅できず,パン配送のトラックに乗せてもらい翌日の午前中帰宅したことも何回かあった。 イ以上によれば,P3の労働時間について,出勤時刻をタイムカード打刻時間とし,休憩時間を30分とし,退勤時刻について,トラブル処理,引継ぎに要した時間を含め,平均して昼勤務は午後10時30分,夜勤務は午前10時30分として計算するのが相当である。平成14年7月26日は,P3が,同月27日の午前0時14分に「パンが来なくて帰れない」,同日午前0時32分に「終わり次第電話する」と携帯電話のメール送信をしていること,同日は,P3が,午後11時13分に「今終わった」と携帯電話でメール送信をしていること,同月28日午後11時37分に「今仕事が終わった」と携帯電話でメール送信をしていることから,これらの時刻を退勤時刻と認めるのが相当である。そうすると,本件喘息死前6か月のP3の労働時間は,別紙労働時間集計表及び次のとおり認定できる。そして,P2事業所に異動してからのP3の労働時間の状況は,本件喘息死前6か月以前も,これらと同様であったと認めるのが相当である。 発症前月数実労働日数週40時間超の時間外労働時間数月平均時間外労働時間数1か月2か月3か月4か月5か月20日20日 日数週40時間超の時間外労働時間数月平均時間外労働時間数1か月2か月3か月4か月5か月20日20日22日22日21日79時間32分86時間21分91時間41分95時間52分88時間30分79時間32分82時間57分85時間52分88時間22分88時間24分- 28 -6か月 21日 85時間48分87時間58分分未満切り上げ(5) 本件喘息死前の業務(甲11,14,乙21)本件喘息死前1週間は,工場の稼働能力を超え,生産が追いつかず,商品であるパンがP2事業所に届かないという大きなトラブルが生じ,これが3,4日続いたため,社員全員の長時間勤務が続いたことがあった。P3も,このトラブル処理のために長時間勤務を行った。 別紙労働時間集計表によれば,P3の本件喘息死前1週間の労働時間は,平成14年7月28日(昼勤務)13時間9分,同月27日(昼勤務)12時間50分,同月26日(昼勤務)14時間19分,同月25日(休日),同月24日(昼勤務)11時間52分,同月23日(昼勤務)12時間24分,同月22日(昼勤務)12時間17分で,総労働時間は76時間51分(時間外労働時間36時間51分)であった。 同年7月26日の終業時間(同月27日午前0時32分)は,「終わり次第電話する」との業務中におけるP3のメール送信時刻による認定で,実際の労働時間は,14時間19分よりも多く 51分)であった。 同年7月26日の終業時間(同月27日午前0時32分)は,「終わり次第電話する」との業務中におけるP3のメール送信時刻による認定で,実際の労働時間は,14時間19分よりも多く,本件喘息死前1週間の労働時間は,上記の76時間51分を超えていた。 (6) P5事業所におけるP3の労働状況(甲49,乙4,5,15,証人P28,同P12,原告本人)P3は,平成4年に勤務先のP4が倒産した後,同年7月1日に,本件会社P5事業所物流課で勤務を始めた。平成5年7月ころ,P3は,夜勤交代制勤務となり,平成10年9月,P2事業所に異動するまで,P5事業所で物流係として夜勤交代制の勤務についていた。 P5事業所の業務量をP2事業所のそれと比べると,配送先の店舗は若干少なく,出荷される箱の数は多く,配送ルートの距離は大差がなかった。 P5事業所は24時間連続操業であったため,実質的には1日2交代制で- 29 -あった。P3の勤務内容及び労働時間は,上記認定のP2事業所におけるものとほぼ同様であった。 5 夜勤交代制勤務の過重性に関する医学的知見(甲3~6,弁論の全趣旨)(1) 生理リズムの乱れ人間には約24時間の生理的な昼夜リズムがあり,昼間が活動期,夜間は休息(睡眠)期にあたる。深夜や早朝帯に起きて働くと,生理機能の大きな低下に抗していかなければならず,生理リズムは乱れる。そのため,深夜や早朝帯では,昼間と同じ条件で仕事を行っても,疲労は大きく進み,心身に多面的な影響が及ぶ。夜勤生活を何日繰り返しても生理的な逆転(生理的な適応)は起こらず,夜勤を続ける限り生理的な乱れも続く。日常的に夜業期ごとに生活リズム位相の調整不良が反復されることが,結局は健康障害の原因となると考えられる。 (2) 睡眠の質,量の不足 的な適応)は起こらず,夜勤を続ける限り生理的な乱れも続く。日常的に夜業期ごとに生活リズム位相の調整不良が反復されることが,結局は健康障害の原因となると考えられる。 (2) 睡眠の質,量の不足昼眠の疲労回復力は夜眠と比べて明らかに劣る。昼間,寝にくいのは睡眠環境が悪い(うるさい,明るい,暑い等)ことと,生理リズムが活動期に当たるためである。最近の睡眠脳波研究でも,昼間は,寝つくまでに時間(入眠潜時)を要したり,深睡眠(徐波睡眠)が出現し難い,途中覚醒が多い等,夜間と比べて睡眠の質が悪いことがわかってきた。また,昼眠は持続時間も短い。つまり,夜勤者の睡眠は質・量ともに不足がちとなる。夜勤で疲労が大きく進み,昼眠だけでは夜勤疲労の回復は不十分に終わる。 (3) 社会生活との調整交代勤務に就労すれば,生活フェーズが大幅なズレを起こすため,社会生活上の不利を被るだけでなく,家族生活や社会生活で起こるこのズレを修正しようとする調整努力が,結果的に負担を強めてしまう関係がある。 (4) 健康に対する影響夜勤交代制勤務によって生活周期の混乱が生じるだけでなく,従事労働者- 30 -の健康に有害な影響が及ぶ。交代勤務に伴う健康障害として,消化器疾患が顕著であるし,呼吸器疾患,腰痛等の運動器の疾患及び各種の神経系症状の進展等があり,一般的健康状態の低下,過労による疾患の誘発等がある。肺結核,喘息,慢性気管支炎,糖尿病,甲状腺機能異常,腎障害,てんかん,高血圧症,運動器障害等多岐にわたる疾患について,夜勤・交代勤務,それによる睡眠不足と蓄積疲労状態が特定の症状を増悪させる要因として働く。 (5) 日本産業衛生学会「夜勤・交代制勤務に関する意見書」(甲3)日本産業衛生学会の交代勤務委員会は,昭和53年5月,当時の労働省に対し,「 疲労状態が特定の症状を増悪させる要因として働く。 (5) 日本産業衛生学会「夜勤・交代制勤務に関する意見書」(甲3)日本産業衛生学会の交代勤務委員会は,昭和53年5月,当時の労働省に対し,「夜勤・交代制勤務に関する意見書」(以下「日本衛生学会意見書」という。)を提出し,その中で,夜勤・交代制勤務に伴う健康障害等の労働衛生学的な問題点を指摘している。日本衛生学会意見書は,やむをえず交代制勤務を採用する場合,深夜業・交代制勤務の有害な影響をできるだけ少なくし,健康で文化的な生活条件に近づけるために,次のような労働時間基準と勤務編成基準に従った交代制勤務を実施すべきであるとし,これらの各項目を交代制勤務の最低の基準(以下「日本産業衛生学会基準」という。)とし,これを満たす勤務制度への移行を図る必要があるとしている。 ① 交代勤務による週労働時間は,通常週で40時間を限度とし,その平均算出時間は2週間とする。時間外労働は原則として禁止し,予測できない臨時的理由に基づくものに限り,年間150時間程度以下とすべきである。 ② 深夜業に算入する時間は,現行の午後10時~午前5時の規定を更に拡張し,午後9時から午前6時までを当面目標として再検討すべきである。 ③ 深夜業を含む労働時間は,1日につき8時間を限度とする。作業負担が身体的及び精神神経的に軽度な断続的勤務に関しては,拘束12時間まで延長することができるものとするが,その場合は,この勤務が連続しないようにする。 ④ 作業の性質に応じて,一連続作業時間と休憩時間を適切なものとする。 - 31 -食事休憩時間は,十分な食後休養がとられるように,少なくとも45分以上を確保しなければならない。 ⑤ 深夜業を含む勤務では,勤務時間内の仮眠休養時間を,拘束8時間について少なくとも連続2時間以上 食事休憩時間は,十分な食後休養がとられるように,少なくとも45分以上を確保しなければならない。 ⑤ 深夜業を含む勤務では,勤務時間内の仮眠休養時間を,拘束8時間について少なくとも連続2時間以上確保することが望ましい。 ⑥ 深夜勤務は原則毎回1晩のみに止めるようにし,やむをえない場合でも2~3夜の連続に止めるべきである。身体的又は精神的に負担の著しい勤務にあっては,深夜勤務の連続を禁じなければならない。 ⑦ 各勤務時間の間隔は原則として16時間以上とし,12時間以下となることは厳に避けなければならない。やむをえず16時間以下となるときも,連日にわたらないようにする。深夜勤務後には24時間以上の勤務間隔をおき,できるだけ夜勤明け日の次に休日が続くようにする。 ⑧ 月間の深夜業を含む勤務回数は8回以下とすべきである。 ⑨ 年次有給休暇を除く年間休日数は,平均週休2日に国民の祝祭日を加えた日数を常日勤者なみに確保する。各休日は一暦日を含むものとし,休日1日の場合は一暦日を含む連続36時間以上,休日2日は連続60時間以上とする。休日から休日までの間隔は最大7日以内とする。交代周期内で休日を含めた余暇配分が一部に偏ることは避けなければならない。 ⑩ 年次有給日数は,交代勤務に配置される初年度から年間4週間相当以上とする。その完全な取得ができ,欠勤者の生じたための連勤が避けられるよう,適切な数の予備要員の配置が義務づけられていなければならない。 ⑪ 週末に該当する休日日数の増加を図り,特に週末休日が連休となる回数を増やすことが望ましい。 ⑫ 融通性のある交代制勤務の導入に努めるべきである。特に,各人の休養,保健,その他生活上の必要に応じて,各勤務ごとの実働時間や夜勤の頻度又は連続日数を調整できるように勤務編成上措置することが望ましい。こ 性のある交代制勤務の導入に努めるべきである。特に,各人の休養,保健,その他生活上の必要に応じて,各勤務ごとの実働時間や夜勤の頻度又は連続日数を調整できるように勤務編成上措置することが望ましい。これにあわせて,地域の生活条件,通勤条件を考慮して交代時刻の改善や個- 32 -別の調整をはかる必要がある。 6 P3の喘息増悪に関する医師の意見(1) P9医師の意見(甲48,51,55)ア P3の病状経過について経年的な喘息の状態からは,夜勤交代勤務開始とともに喘息が再燃し,頻回の通院治療にかかわらず,平成10年の転勤後に発作がさらに悪化し,受診回数が増えた経過が窺える。中等症持続型から重症持続型の喘息が数年間続いた後に喘息死となったと推測される。 多くの喘息発作での救急受診がありながら,喘息発作での入院治療は,本件喘息死の前年,平成13年2月18日午後6時40分~同月22日の4日間の1回のみである。多くの喘息患者は休業し,また,仕事を遂行する上で半数近くは支障をきたす一方,P3のように,勤務制限もないまま発作に耐えて日常業務に従事する患者も,日常臨床ではよく経験する。 イ喘息増悪の原因についてP3が平成6年に喘息を再燃させ経年的に喘息が増悪したのは,業務の変更や転勤・単身赴任等を節目に悪化している様子から,夜勤交代勤務,深夜遅くまでの長時間労働,現場係長としてトラブルに対する責任,単身赴任等複合した要因に起因する過労,疲労,ストレスが関与している。P3は,過労により,基礎疾患である喘息を増悪させ,喘息死に至る発作の原因となったと判断する。 ダニ,ホコリが関与するアレルギー性の喘息増悪は,通年性ではあるが,夏から秋にかけて増悪することが多いところ,P3の喘息発作の経過に季節性の変化や環境曝露は窺われない。何らか なったと判断する。 ダニ,ホコリが関与するアレルギー性の喘息増悪は,通年性ではあるが,夏から秋にかけて増悪することが多いところ,P3の喘息発作の経過に季節性の変化や環境曝露は窺われない。何らかのアレルゲン暴露が,平成6年~平成14年の喘息死までに増加した事実は認められない。アレルギーによって,P3の喘息の経年的な増悪は説明できない。 P3の喫煙歴,喫煙による経年的な肺機能低下の有無,喘息治療の反応- 33 -性をどのように低下させたのか等が具体的に明らかにならなければ,喫煙が喘息を増悪させたのか不明である。P3は,昭和53年ころから喫煙を続けていたのに平成6年までは喘息増悪がない。本件喘息死の前年において,P3の肺機能の低下は軽度であり,喫煙が肺機能低下を促進した事実は確認できない。P3の喫煙により喘息増悪を招いたという根拠はない。 P3の肥満はごく軽度のものであり,喘息悪化に関与した可能性は低い。 P3のステロイド吸入薬の使用量はフルチカゾン換算で1日平均198μgであり,重症持続型に推奨される400~800μgに比べ十分量ではないが,基本治療は行われていた。平成14年3月以降は1日平均200μg程度であり,フルカチゾンの処方量不足がみられる。しかし,この間,ステロイド薬デキサメサゾンが含まれるスメトリンD22本が併用され,吸入ステロイドとしての効能がある。また,平成13年10月以降は,長期管理薬であるロイコトリエン拮抗薬のオノン1日4カプセルが処方され,吸入薬やテオドール等と併用されていることを考慮すると,重症喘息患者に対する同年時点での基本的な喘息治療がなされていた。 短時間作用性β刺激薬の多用はあるが,単独使用ではなく,吸入ステロイド剤等の気道炎症を抑える薬剤が併用されていた。P3が,短時間作用性β刺激薬多 する同年時点での基本的な喘息治療がなされていた。 短時間作用性β刺激薬の多用はあるが,単独使用ではなく,吸入ステロイド剤等の気道炎症を抑える薬剤が併用されていた。P3が,短時間作用性β刺激薬多用により気道過敏性を高めたとしても,それで喘息死を招いたとはいえない。 P3が闘病していた平成6年~平成14年は,喘息の診断管理について医療関係者に十分なコンセンサスはなく,喘息の理解不足が,医師及び患者にあってもやむを得ない。この間,医療機関に頻回に受診し,ステロイド吸入などの喘息に対する基本的な治療は継続していた。治療の問題が,P3の喘息を自然経過を超えて悪化させたと評価することはできない。 (2) P11医師の意見(乙48,56,59)ア P3の喘息の状態- 34 -喘息は通年性で,発作は抑えられておらず,主治医がおらず,薬物治療計画がなされず,治療の主体をなすべき吸入ステロイド薬の投与は不十分で,過量の短時間作用性β2刺激薬を吸入し依存している。 入院歴が1回であり,おおむね仕事ができたことからは中等症持続型喘息と考えられるが,極量の倍量以上の短時間作用性β2刺激薬を使用せざるを得なかったと考えれば,重症持続型とも考えられる。 イ P3の喘息の増悪原因P3は,発病の個体因子として,①遺伝的要因,②アレルギー素因,③気道過敏性を有しており,環境因子として,①アレルゲン,②ウイルス性気道感染症,③喫煙等が関与したものと推測される。喘息発作の増悪因子としては,①アレルゲン,②大気汚染,③呼吸器感染症,④喫煙等が関係したと推定される。 アレルゲンは喘息の症状の増悪因子としても重要である。ダニ,ハウスダストは人が生活する限り身の回りに発生し,徹底的に掃除をした場合でも環境アレルゲンの完全な除去は困難である。この結果多 される。 アレルゲンは喘息の症状の増悪因子としても重要である。ダニ,ハウスダストは人が生活する限り身の回りに発生し,徹底的に掃除をした場合でも環境アレルゲンの完全な除去は困難である。この結果多くの喘息患者は通年発作に見舞われる。P3には複数のアレルゲン関与があり,各種アレルゲン吸入が喘息増悪に関与したことが十分考えられる。 喫煙が増悪因子であることに疑問の余地はなく,P3の喘息を増悪させたことはゆるぎない事実と考えるべきである。 P3のBMIは,軽度とはいえ肥満の範疇に入ることは確かであり,喘息を悪化させた可能性は否定できない。 吸引ステロイド量が十分でなく,本件喘息死前1,2か月の処方量が不足だった。重症持続型であったから,フルチカゾン1日400~800μgが必要であった。実際の処方は,平成13年10月5日以前は200μg/日,その後は400μg/日であった。吸入治療や点滴治療を受けていた実態(平成13年20回,平成14年5回)からは,800μg/日- 35 -の投与が必須であり,さらに必要に応じて経口ステロイド薬の追加が必要であった。フルカチゾン400μg/日としてみても,平成14年3月8日に60日分が処方された後は,同年6月13日に14日分の処方があるのみで,同年3月8日の処方が切れる同年5月7日~本件喘息死の▲日に対し70日分の不足がある。また,ガイドラインの喘息死の危険因子として,ステロイド薬の減量や中止という記載があり,同年5月以降の吸入量の急速な不足で重篤な発作を誘発した可能性がある。 平成6年以降,メプチンエア,サルタノール,ベロテックエアゾル,ストメリンDなどの短時間作用性β刺激薬が継続して大量に投与されていた。 ストメリンDは,1か月の使用可能な最大量3本なのに,平成14年は,7か月で22本処方 エア,サルタノール,ベロテックエアゾル,ストメリンDなどの短時間作用性β刺激薬が継続して大量に投与されていた。 ストメリンDは,1か月の使用可能な最大量3本なのに,平成14年は,7か月で22本処方された。特に,同年6月21日,同月29日に各3本,同年7月29日に1本と,短期間に大量の処方がされた。サルタノールの月に1本を超えた使用は喘息死の危険があるとされ,ストメリンDを除いても危険量に該当する。ストメリンDとサルタノールインヘラーは重複して吸入されたと考えると,死亡の直接原因といってよいほど危険であった。 P3の病状で,喘息を悪化させ喘息死に至らした因子の全体像を考えると,定まった主治医による喘息治療計画の欠如,喘息に対する理解の不足,その結果としての吸入ステロイド薬の不足,ステロイド薬の間歇的な全身投与,短時間作用性β2刺激薬の過剰吸入,喘息としての持続的なアレルゲン吸入,喫煙の継続等が喘息を悪化させた主因であって,過労や仕事に伴うストレスの関与は相対的に小さい。 7 検討以上の認定事実及び前記前提事実に基づき,本件喘息死に至るまでのP3の喘息の増悪が,業務上の過重負荷によりその自然の経過を超えたものといえるかを検討する。 (1) 喘息の増悪と,過労・ストレスとの関係について- 36 -過労・ストレスが喘息の増悪因子となることを肯定する医学的見解が多数存在する一方で,これらが喘息の増悪因子となることを積極的に否定する医学的見解は存在しないのであり,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信が必要である相当因果関係の証明という観点からは,過労・ストレスは,喘息の増悪因子であると認めることができる。P11医師の見解は,喘息の増悪との因果関係について,自然科学的な意味での証明がないという意見であり,上記の相当因果関 という観点からは,過労・ストレスは,喘息の増悪因子であると認めることができる。P11医師の見解は,喘息の増悪との因果関係について,自然科学的な意味での証明がないという意見であり,上記の相当因果関係の証明が尽くされているかという観点からの上記判断を左右するものではない。 (2) 業務の過重性についてP3の本件会社での業務内容を見ると,運行管理・調整,クレーム受付・対応・調整,運送業者との折衝,配送ルートの改善策の考案,部下の教育等多岐にわたるものであり,単調,規則的な業務内容ではないことを,まず指摘しなければならない。その上,トラブル発生の際には,その解消まで居残って処理をしなければならず,その際には,自ら車で工場まで商品を取りに行ったり,直接納入先に配送しなければならないこともある等のさらなる負担が生じることもあり得るのであり,その結果として,まとまった休憩時間も確保されないで,精神的なストレスの生じ得る,かつそれに伴う肉体的な負担が大きな業務であったと評価することができる。 さらに,認定可能なP3の本件喘息死以前の6か月の法定時間外労働時間は,月に79時間32分~95時間52分,月平均87時間58分と非常に長時間である。その前の段階も,この6か月間と同様の業務形態なのであり,遅くともP2営業所に異動になった平成10年9月以降は,恒常的に上記のような慢性的な長時間勤務を余儀なくされていたと認めるべきであり,P3の業務は,労働時間だけでも,相当程度に過重なものであったといえる。 その上,P3の業務は,夜勤交代制勤務であり,本件喘息死前6か月をみても,ほぼ全ての勤務が深夜に及び,夜勤の割合は約半分に及んでいたこと- 37 -は,P3の業務の過重性を論じる上では,看過できない事情である。P3の夜勤交代制勤務は,深夜業・交代 死前6か月をみても,ほぼ全ての勤務が深夜に及び,夜勤の割合は約半分に及んでいたこと- 37 -は,P3の業務の過重性を論じる上では,看過できない事情である。P3の夜勤交代制勤務は,深夜業・交代制勤務の有害な影響をできるだけ少なくし,健康で文化的な生活条件に近づけるための交代制勤務の最低の基準であるとする日本産業衛生学会基準の12項目のうち,少なくとも,①交代勤務による週労働時間は,通常週において40時間を限度とすること等,③深夜業を含む労働時間は,1日につき8時間を限度とすること等,④食事休憩時間は,十分な食後休養がとられるよう少なくとも45分以上を確保しなければならないこと等,⑤深夜業を含む勤務では,勤務時間内の仮眠休養時間を拘束8時間について少なくとも連続2時間以上確保することが望ましいこと,⑥深夜勤務は原則毎回1晩のみにとどめるようにし,やむをえない場合でも2~3夜の連続にとどめるべきであること等,⑦各勤務時間の間隔は原則として16時間以上とし,12時間以下となることは厳に避けなければならないこと等,⑧月間の深夜業を含む勤務回数は8回以下とすべきことという7項目において,逸脱する態様であった。夜勤交代制勤務は,医学的知見によれば,深夜に起きて働くことにより生理リズムを乱し,睡眠の質・量ともに不足がちになること,交代勤務による家族生活等でのズレを修正しようとする調整努力が負担を強めてしまうこと等から,疲労を蓄積させ,呼吸器疾患等の症状を進展させる要因となる。そうすると,P3の業務は,夜勤交代制勤務という観点からも,相当程度に過重なものであったというべきである。 以上によれば,P3の業務は,質,量ともに,通常人にとっても過重なものであり,これが慢性的に継続していたものと評価するだけの十分な根拠があるといわなければならない。 のであったというべきである。 以上によれば,P3の業務は,質,量ともに,通常人にとっても過重なものであり,これが慢性的に継続していたものと評価するだけの十分な根拠があるといわなければならない。 (3) 他の考えられる原因等についてアアレルゲン吸入P3の喘息は,ダニ,ハウスダスト等に抗原特異的なIgEの強い反応が認められるアレルギーが関与した喘息であるから,ダニ,ハウスダスト- 38 -等のアレルゲン吸入により増悪するものと考えられ,これらのアレルゲンを完全に排除することは不可能であるから,増悪の1つの要因であった可能性は否定できない。 しかし,P3の喘息が増悪した平成6年以降に,P3の周囲でアレルゲンが増加したような事情は認められず,平成10年9月からの単身赴任後も,部屋の掃除を行っていたから,周囲でアレルゲンが特段増加したと認めるだけの根拠は存しない。そこで,P3の喘息増悪とアレルゲン吸入との相関関係があるとはいえず,アレルゲン吸入が,P3の喘息増悪に大きく影響したとは認められない。 イ喫煙喫煙は,喘息の増悪因子である。そして,P3は,17歳のころから,たばこを1日に15~20本吸っていたから,喫煙が増悪の1つの要因であった可能性は否定できない。 しかし,喫煙が喘息を増悪させる理由に,喘息患者の肺機能の低下性の促進があるところ,本件喘息死の前年において,P3の肺機能の低下は軽度であり,喫煙が肺機能低下を促進した事実は確認できない。また,P3は,17歳であった昭和53年ころから継続して喫煙してきたのに,P3の喘息は,平成6年に至るまで増悪していなかったから,喫煙とP3の喘息増悪との相関関係を認めるだけの根拠は乏しい。そうすると,喫煙が,P3の喘息増悪に大きく影響したものとは認められない。 ウ肥満 の喘息は,平成6年に至るまで増悪していなかったから,喫煙とP3の喘息増悪との相関関係を認めるだけの根拠は乏しい。そうすると,喫煙が,P3の喘息増悪に大きく影響したものとは認められない。 ウ肥満肥満は喘息の増悪因子である。肥満とは,BMIが25以上である場合をいい,P3のBMIは,平成4年6月22日に21.7だったのが,平成8年3月5日に25.9,平成10年10月7日に27.7,本件喘息死の直近の平成14年4月19日は27.3であり,肥満であった。 しかし,上記数値を見ると,P3の肥満は,軽度であったというべきで- 39 -あり,これが,P3の喘息増悪に大きく影響したとは考え難い。 エ気道感染P3は,本件喘息死の4,5日前に,原告に対し,風邪である旨述べており,本件喘息死当日にも,P6医院で受診した際,やや風邪気味である旨訴え,急性上気道炎と診断された。そして,喘息死に至る発作の誘因として最も多いのが気道感染であることからは,この気道感染が,本件喘息死の要因の一つになった可能性もある。 オ吸入ステロイドの不足平成14年3月以降,P3の喘息の治療に,吸入ステロイドが十分ではなかったことが,本件喘息死の要因の1つになった可能性は否定できない。 しかし,P3は頻回に喘息の通院治療を受けており,平成13年10月5日以降は,長期管理薬であるロイコトリエン受容体拮抗薬のオノン1日4カプセルが処方され,吸入薬やテオドール等と併用されて服用しており,吸入ステロイドとしての効能があるスメトリンDも併用されており,重症喘息患者に対する当時の基本的な喘息治療がなされていた。そして,ロイコトリエン受容体拮抗薬は,喘息症状,呼吸機能,頻用の吸入β2刺激薬の吸入回数,気道炎症,気道過敏性,吸入ステロイド薬使用量の減量,喘息増悪回 する当時の基本的な喘息治療がなされていた。そして,ロイコトリエン受容体拮抗薬は,喘息症状,呼吸機能,頻用の吸入β2刺激薬の吸入回数,気道炎症,気道過敏性,吸入ステロイド薬使用量の減量,喘息増悪回数及び患者QOLを有意に改善させる上,ロイコトリエン受容体拮抗薬追加投与は吸入ステロイド薬を倍量にした場合と同等である。 以上の事情を考慮すれば,吸入ステロイドが十分でなかったことが,本件喘息死に大きく影響したとまではいえない。 カ短時間作用性β2刺激吸入薬の多用平成14年1月から本件喘息死までの7か月間に,P3に処方されたストメリンDの量は,1日平均0.405mg,8.80吸入に相当し,1日最大8吸入とされる限度を超え,その他の薬剤(サルタノール4本,メプチンエア4本,アロテック3本)を含め,短時間作用性β2刺激薬の投与が- 40 -過剰であった。 短時間作用性β2刺激薬の定期的な使用は,気道炎症の悪化,気道過敏性の亢進,喘息の重症化,急激な発作の悪化や受診の遅れなどを通し,死亡の間接的な要因となる可能性が大きく,また,P11医師の意見によれば,サルタノールは月に1本を超えて使用すると喘息死の危険があり,ストメリンDとサルタノールインヘラーは重複して吸入されると,死亡の直接原因といってよいほどに危険である。 しかし,同期間に,P3は,頻回に通院治療を受け,喘息の長期管理薬であるロイコトリエン受容体拮抗薬のオノン,テオフィリン徐放製剤のテオドールが十分に処方され,きちんと服用していたから,受診の遅れはなく,気道炎症の悪化,気道過敏性の亢進,喘息の重症化,急激な発作の悪化に対する治療もなされていたといえるから,本件喘息死の間接的な要因である可能性が大きいとはいえない。 また,短時間作用性β2刺激薬の安全性は極めて例外的な 性の亢進,喘息の重症化,急激な発作の悪化に対する治療もなされていたといえるから,本件喘息死の間接的な要因である可能性が大きいとはいえない。 また,短時間作用性β2刺激薬の安全性は極めて例外的な症例以外はまず問題ないと認められるところ,同期間に,ストメリンDの1日平均量が限度を大きく超えているわけではないこと,サルタノールは月に1本を超えていないこと,ストメリンDとサルタノールは重複して処方されていたわけではなく,P3が重複して吸入したとは認められないことから,同期間の短時間作用性β2刺激薬の過剰投与が,本件喘息死の直接原因ということはできない。 (4) 業務の過重性と本件喘息死との相当因果関係P3には,基礎疾患としての喘息があり,P3の業務が,その自然的経過を超えて増悪させる危険を有するものだったか否かを論じなければならない。 そうすると,第1に指摘できるのは,P3の喘息の症状と,P3が従事した業務との間には,密接な関連があることである。P3の喘息は,昭和55年の喘息発症から平成6年ころまでは,発作というほどのことはなく,軽症の- 41 -状態であった。P3の喘息は,同年ころから悪化し始めたのであるが,これは,夜勤交代制業務という恒常的に過重性を認めなければならない態様の業務に就いてから約1年が経過した時期にあたる。さらに,平成7年8月以降には,P3の喘息は,中等症持続型又は重症持続型といってよい状態になり,頻回の通院治療にかかわらず,喘息発作のコントロールが年々悪化していった。そして,平成10年以降に発作がさらに悪化したが,この間,P3は,上記のとおりの過重な業務に恒常的に継続して従事し,しかも,同年9月からは,P2事業所への異動及びこれに伴う単身赴任生活という,ストレスを加重させる要素も加わっていたものであ たが,この間,P3は,上記のとおりの過重な業務に恒常的に継続して従事し,しかも,同年9月からは,P2事業所への異動及びこれに伴う単身赴任生活という,ストレスを加重させる要素も加わっていたものである。そして,さらに平成13年2月には,入院加療に抵抗し,仕事を休めないことを理由に4日で退院したという状況にもあったのであり,業務のストレスに応じて,P3の喘息の症状は,重症化しつつあったといわなければならない。このように,過重な業務の経過と喘息の増悪の経過との相関関係が認められることによれば,慢性的に過重な業務に継続して就いていたことによる過労・ストレスの蓄積により,それまで発作がなかった状態であったP3の喘息が悪化に向かい,中等症持続型又は重症持続型といってよい状態になり,重症化していったものと推認することができるのである。 そして,本件喘息死前6か月には,P3の法定時間外労働時間が1か月79時間32分~95時間52分,月平均87時間58分という非常に長時間の労働に従事し,このような長時間労働は,この前の時点でも同様であったと認められ,さらに加えて,本件喘息死前1週間には,大きなトラブルが生じ,これが3,4日続いたために,社員全員の長時間勤務が続いたことがあり,この1週間の総労働時間は76時間51分(時間外労働時間36時間51分)を超える相当長時間で,日をまたぐ勤務もあり,上記トラブルは,社員全員の長時間勤務が続く大きなトラブルで,その処理に責任を持たなければならない立場(物流係長)のP3の業務負荷は,肉体的にはもとより,精- 42 -神的な緊張を強いられるという意味でも,相当大きいものであったから,本件喘息死直前のP3の業務は,身体的にも,精神的にも負荷の大きい極めて過重なものであったと評価することができる。してみると,この業務 的な緊張を強いられるという意味でも,相当大きいものであったから,本件喘息死直前のP3の業務は,身体的にも,精神的にも負荷の大きい極めて過重なものであったと評価することができる。してみると,この業務の過重性が,P3の喘息増悪に大きく影響し,本件喘息死にまで至ったものと推認することは,十分に可能であるといわなければならない。 一方で,アレルゲン,喫煙習慣,軽度の肥満等の事情が,P3の喘息の症状に影響を与えなかったとまではいえないし,増悪吸入ステロイドが十分ではなかったこと,短時間作用性β2吸入薬の多用による間接的な影響が,P3の喘息を増悪させた可能性は否定できない。本件喘息死の4,5日前の気道感染が,P3の本件喘息死の誘因となった可能性もまた,否定することはできない。しかしながら,上記判断のとおり,P3が元来持っていた基礎疾患が,業務上の質,量ともに過重な負担により重症化し,本件喘息死に近接する過程で,業務上の負担がさらに増加して,本件喘息死に至ったという経緯に鑑みれば,P3の喘息増悪から本件喘息死に至る過程での過重な業務上の負担があったことにより,P3の喘息は,その自然の経過を超えて増悪して,本件喘息死に至ったものと評価することが相当なのであり,業務に内在する危険が現実化したものとして,業務と本件喘息死との間に相当因果関係があることを認めることができると解すべきである。 以上から,本件喘息死に,業務起因性が認められるという結論になる。 第4 結論以上によれば,本件喘息死は,業務に起因すると認められ,これが業務に起因するものでないことを前提とする本件処分は違法であり,取消を免れない。 よって,本件処分の取消を求める原告の請求は理由があるのでこれを認容することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第36部 主文 本件処分の取消を求める原告の請求は理由があるのでこれを認容することとし,主文のとおり判決する。 理由 とを前提とする本件処分は違法であり,取消を免れない。 東京地方裁判所民事第36部 裁判長裁判官渡邉弘 裁判官田中一隆 裁判官丹下将克
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