- 1 -令和4年1月18日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成30年第3020号国家賠償等請求事件(以下「甲事件」という。)平成30年第3021号損害賠償請求事件(以下「乙事件」という。)口頭弁論終結日令和3年8月30日判決 甲事件原告・乙事件原告 B甲事件被告国(以下「被告国」という。)甲事件被告愛知県(以下「被告県」という。) 乙事件被告 D(以下「被告D」という。)乙事件被告 E(以下「被告会社」という。)同代表者代表取締役 F 主文 1 被告国は,平成28年10月7日に取得した原告の指紋,DNA型及び顔写真の各データを抹消せよ。 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求の趣旨 1 甲事件⑴ 被告国は,原告に対し,550万円及びこれに対する平成30年2月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 ⑵ 被告県は,原告に対し,550万円及びこれに対する平成30年2月28 - 2 -日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 ⑶ 主文第1項に同旨⑷ 被告国は,平成28年10月7日に取得した原告所有の携帯電話のデータを抹消せよ。 2 乙事件 被告D及び被告会社は,原告に対し,連帯して1100万円及びこれに対する平成28年10月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の要旨⑴ 甲事件 本件は,建設中の 告に対し,連帯して1100万円及びこれに対する平成28年10月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の要旨⑴ 甲事件 本件は,建設中のマンション(以下「本件マンション」という。)の近隣に住む原告が,その建設に反対し,本件マンションを建設する被告会社の従業員である被告Dに暴行を加えた(以下「本件暴行事件」という。)として逮捕,勾留,起訴等されたものの,無罪判決を受けて確定したとして,①被告県に対し,愛知県q 警察署(以下「q 警察署」という。)の警察官が職務上の法的 義務に違背して違法な逮捕,取調べ及び捜索差押えを行い,原告に精神的苦痛を与えたと主張して,国家賠償法1条1項に基づき550万円(慰謝料500万円及び弁護士費用50万円)及びこれに対する本件暴行事件の無罪判決が確定した平成30年2月28日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法(以下「改正前民法」という。)所定の年5分の割合に よる遅延損害金の支払を求め,②被告国に対し,名古屋地方検察庁の検察官が本件暴行事件につき要件を満たさない違法な勾留請求及び勾留期間延長請求を行い,さらに有罪判決を得る可能性が乏しいにもかかわらず本件暴行事件につき公訴を提起したことにより,原告に精神的苦痛を与えたと主張して,国家賠償法1条1項に基づき550万円(慰謝料500万円及び弁護士費用 50万円)及びこれに対する本件暴行事件の無罪判決が確定した平成30年 - 3 -2月28日から支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,本件暴行事件に係る捜査の際に取得された原告の指紋,DNA型,顔写真及び原告所有の携帯電話の各データを無罪判決確定後も保有し続けることは原告の の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,本件暴行事件に係る捜査の際に取得された原告の指紋,DNA型,顔写真及び原告所有の携帯電話の各データを無罪判決確定後も保有し続けることは原告のプライバシー権を侵害するものであると主張して,人格権に基づき原告の指紋,DNA型,顔写真及び原告所有の携帯 電話の各データの抹消を求める事案である。 ⑵ 乙事件本件は,原告が,本件暴行事件について,何ら暴行を加えていないにもかかわらず,被告Dが,原告から暴行されたと虚偽の被害を訴えたため,逮捕,勾留,起訴され,長期間にわたり身柄拘束を受けるなどし,精神的苦痛を被 ったと主張して,被告Dに対しては民法709条に基づき,被告会社に対しては民法715条1項に基づき,連帯して1100万円(慰謝料1000万円及び弁護士費用100万円)及びこれに対する不法行為の日である平成28年10月7日から支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実以下の事実は,当事者間に争いがないか,文中掲記の各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定することができる。 ⑴ 当事者等ア原告は,名古屋市q 区内の鉄筋コンクリート造・地上15階建のマンシ ョン(本件マンション)の北側に所在する土地に肩書地を有する住民である(甲11)。原告は,薬剤師の資格を有し(甲12),薬局3店舗を経営していた(弁論の全趣旨)。 原告は,かねてより,近隣住民と共に,本件マンションの建設工事に対する反対運動を行っていた(弁論の全趣旨)。 イ被告会社は,建築工事の施工等を目的とする株式会社であり,本件マン - 4 -ションの施工業者である(弁論の全趣旨)。被告Dは,被告会社の従業員であり, ていた(弁論の全趣旨)。 イ被告会社は,建築工事の施工等を目的とする株式会社であり,本件マン - 4 -ションの施工業者である(弁論の全趣旨)。被告Dは,被告会社の従業員であり,本件マンションの建設工事現場(以下「本件工事現場」という。)において現場責任者として従事していた際,本件暴行事件に係る暴行を受けたと被害を訴えた者である(争いがない事実)。 ⑵ 本件暴行事件に係る捜査の経過 ア捜査の端緒(乙A1,弁論の全趣旨)q 警察署の警察官であったG(以下「G警察官」という。)及び同警察署の警察官であったH(以下「H警察官」といい,G警察官と併せて「G警察官ら」という。)は,同警察署地域デスクからの指令を受けて,平成28年10月7日午前8時58分頃,名古屋市q 区r 町s 丁目t 番地Ur 店東 側路上に臨場した。G警察官らは,同所の東側にある本件工事現場周辺に地域住民と思われる男女合わせて6名ほどが集まっているのを確認したため,通報者を確認すべく本件工事現場周辺を確認していたところ,被告Dから,本件暴行事件に関し,要旨,以下のような被害申告を受けた。 同日午前8時40分頃,本件工事現場西側出入口からダンプカー(以下 「本件ダンプカー」という。)が道路に出ようとした際,原告がその進行を妨害しようとしたため,これを制止したところ,原告が,「警察でもどこでも電話しろ」と大声で叫びながら近づき,突然,両腕を思いっきり突き出し,私の両胸を押して突き飛ばした。そのせいで,本件工事現場西側出入口から道路に出ようとしていた本件ダンプカーの側面に背中をぶつけた。 イ現行犯人逮捕(乙A1,弁論の全趣旨)G警察官らは,本件暴行事件に関する被告Dの被害申告を受け,①本件工事現場西側出入口付近に設置され していた本件ダンプカーの側面に背中をぶつけた。 イ現行犯人逮捕(乙A1,弁論の全趣旨)G警察官らは,本件暴行事件に関する被告Dの被害申告を受け,①本件工事現場西側出入口付近に設置された防犯カメラ(以下「本件防犯カメラ」という。)の映像の確認,②本件暴行事件の現場直近で交通整理をしており,本件暴行事件を目撃したと述べる警備員のI(以下「警備員I」という。) からの事情聴取,③原告からの事情聴取をそれぞれ実施した。その上で, - 5 -H警察官は,平成28年10月7日午前9時20分,原告方西側歩道上において,原告を暴行罪により現行犯人逮捕した(以下「本件現行犯人逮捕」という。)。なお,G警察官らは,本件現行犯人逮捕に先立ち,本件暴行事件を目撃したとされる近隣住民等からの事情聴取を実施していない。 本件現行犯人逮捕に係る被疑事実は,要旨,原告が,同日午前8時42 分頃,本件工事現場西側歩道上において,被告Dに対し,「警察でも,どこでも電話しろ」などと,大声で叫び,同人の両胸を両手の手のひらで1回突き,本件工事現場から出ようとする徐行中の本件ダンプカーの側面に同人の背中を接触させる暴行を加えたというものである(以下,この事実を「本件逮捕被疑事実」という。)。 ウ原告の指紋の採取,顔写真の撮影等(弁論の全趣旨)q 警察署の警察官は,平成28年10月7日,原告の承諾を得て,原告の指紋及び口腔内細胞(DNA型)を採取した。原告の指紋及びDNA型の各データは,現在,警察庁に保管されている。さらに,q 警察署の警察官は,同日,原告から原告所有の携帯電話(以下「本件携帯電話」という。) の任意提出を受け,これを領置した。q 警察署の警察官は,本件携帯電話からデータを抽出し,印字した上で検察庁に送付 警察官は,同日,原告から原告所有の携帯電話(以下「本件携帯電話」という。) の任意提出を受け,これを領置した。q 警察署の警察官は,本件携帯電話からデータを抽出し,印字した上で検察庁に送付する手続をした。そのデータは,現在,刑事事件の記録に綴られて,名古屋地方検察庁で保管されている。また,q 警察署の警察官は,同日,原告の承諾を得て,原告の顔写真を撮影した。同顔写真のデータは,現在,警察庁に保管されている(以 下,原告の指紋,DNA型,原告の顔写真及び本件携帯電話の各データを併せて「本件各データ」という。)。 エ勾留請求(乙A2,A6)名古屋地方検察庁の検察官であったJ(以下「J検察官」という。)は,平成28年10月8日,名古屋簡易裁判所の裁判官に対し,勾留請求(以 下「本件勾留請求」という。)を行った。 - 6 -本件勾留請求に係る被疑事実は,本件逮捕被疑事実(暴行)から,以下のとおり,傷害の被疑事実に変更された。すなわち,本件勾留請求に係る被疑事実は,要旨,原告が,同月7日午前8時42分頃,本件工事現場西側歩道上において,被告Dに対し,「警察でも,どこでも電話しろ」などと,大声で叫び,同人の両胸を両手の手のひらで1回突き,本件工事現場から 出ようとする徐行中の本件ダンプカーの側面に同人の背中を接触させる暴行を加え,同人に同日受傷,全治1週間の左背部打撲の傷害を負わせたというものである(以下,この事実を「本件勾留被疑事実」という。)。 名古屋簡易裁判所の裁判官は,同月8日,本件勾留被疑事実により勾留状を発付した(以下「本件勾留」という。)。 なお,原告の弁護人ら(同弁護人らは,本訴においても原告の訴訟代理人となっている。)は,同日,本件勾留の裁判に対し準抗告を行ったが,名 より勾留状を発付した(以下「本件勾留」という。)。 なお,原告の弁護人ら(同弁護人らは,本訴においても原告の訴訟代理人となっている。)は,同日,本件勾留の裁判に対し準抗告を行ったが,名古屋地方裁判所は,同月9日,同準抗告を棄却した。 オ原告に対する取調べ(弁論の全趣旨)q 警察署の警察官であったK(以下「K警察官」という。)は,本件現行 犯人逮捕の当日である平成28年10月7日から同月13日までの間に,原告に対する取調べを4回実施した。また,q 警察署の警察官であったL(以下「L警察官」といい,K警察官と併せて「L警察官ら」という。)は,同月17日及び18日,原告に対する取調べを実施した(以下,L警察官らによる原告に対する取調べを「本件各取調べ」という。)。 カ勾留期間延長請求(甲14,乙A2,弁論の全趣旨)名古屋地方検察庁の検察官であったM(以下「M検察官」という。)は,平成28年10月17日,名古屋地方裁判所の裁判官に対し,本件暴行事件について勾留期間延長請求(以下「本件勾留期間延長請求」といい,本件勾留請求と併せて「本件勾留請求等」という。)を行った。名古屋地方裁 判所の裁判官は,同日,本件勾留を同月18日から同月21日まで4日間 - 7 -延長する旨の勾留期間延長決定(以下「本件勾留期間延長決定」という。)を行った。 なお,原告の弁護人らは,同月17日,本件勾留期間延長決定に対し準抗告を行ったが,名古屋地方裁判所は,同日,同準抗告を棄却した。 キ捜索差押え(甲31,弁論の全趣旨) q 警察署の警察官は,名古屋簡易裁判所の裁判官に対し,原告方,原告の経営する薬局3店舗及び原告使用の自動車に対する捜索差押許可状の発付をそれぞれ請求し,名古屋簡易裁判所の裁判 全趣旨) q 警察署の警察官は,名古屋簡易裁判所の裁判官に対し,原告方,原告の経営する薬局3店舗及び原告使用の自動車に対する捜索差押許可状の発付をそれぞれ請求し,名古屋簡易裁判所の裁判官は,平成28年10月18日,これらに対する捜索差押許可状を発付した(以下「本件各捜索差押許可状」という。)。 q 警察署の警察官らは,同月20日,これらに対する捜索差押え(以下「本件各捜索差押え」といい,本件現行犯人逮捕及び本件各取調べと併せて「本件現行犯人逮捕等」という。)を実施した。本件各捜索差押許可状において,差し押さえるべき物とされた物は,原告の犯行動機,生活状況を明らかにする日記,カレンダー,携帯電話等である。 なお,本件各捜索差押えにより差し押さえられた物はない。 ⑶ 本件暴行事件に係る公判の経過ア公訴の提起(甲4)M検察官は,平成28年10月21日,名古屋地方裁判所に,原告を暴行罪で起訴した(以下「本件公訴の提起」といい,本件公訴の提起により 同裁判所に係属した事件を「本件暴行被告事件」という。)。 本件暴行被告事件に係る公訴事実は,要旨,原告が,同月7日午前8時42分頃,本件工事現場西側歩道上において,被告Dに対し,その胸を両手で突き飛ばしてその背中を徐行中の本件ダンプカーの側面に接触させる暴行を加えたというものである(以下,この事実を「本件公訴事実」とい う。)。 - 8 -イ保釈許可決定(甲15)原告の弁護人らは,平成28年10月21日,本件暴行被告事件について保釈の請求を行った。名古屋地方裁判所の裁判官は,同日,保釈保証金を200万円と定め,原告の保釈を許可する決定をした。 ウ本件暴行被告事件における証拠調べの経過 平成29年3月14日の第2回公判 請求を行った。名古屋地方裁判所の裁判官は,同日,保釈保証金を200万円と定め,原告の保釈を許可する決定をした。 ウ本件暴行被告事件における証拠調べの経過 平成29年3月14日の第2回公判期日において,被告D及び警備員Iに対する各証人尋問が実施され(甲5,6),同年6月15日の第3回公判期日において,原告に対する被告人質問が実施された(甲17)。 また,名古屋地方裁判所は,東京歯科大学法歯学・法人類学講座教授であるN(以下「N教授」という。)に対し,本件防犯カメラの映像に関し鑑 定嘱託を行った。N教授は,同年10月2日,これについて鑑定書(以下「N鑑定」という。)を作成し(甲7),さらに,同年11月21日の第4回公判期日において,N教授に対する証人尋問が実施された(甲13)(以下,同証人尋問におけるN教授の証言とN鑑定を併せて「N鑑定等」という。)。 エ無罪判決 平成29年12月21日,論告・弁論が行われ,結審した(弁論の全趣旨)。そして,名古屋地方裁判所は,平成30年2月13日,原告に対し,無罪判決(以下「本件無罪判決」という。)を言い渡した(甲8)。本件無罪判決は,同月28日に確定した(弁論の全趣旨)。 3 争点 ⑴ 甲事件ア本件現行犯人逮捕等の違法性(争点1)イ本件勾留請求等及び本件公訴の提起の違法性(争点2)ウ原告の損害及び損害額(争点3)エ原告の被告国に対する本件各データの抹消請求の可否(争点4) ⑵ 乙事件 - 9 -ア被告Dが原告に突き飛ばされたかのように装い,その旨の虚偽供述をしたか(争点5)イ原告の損害及び損害額(争点6) 4 争点に関する当事者の主張⑴ 争点1(本件現行犯人逮捕等の違法性)について (原告の主張) ように装い,その旨の虚偽供述をしたか(争点5)イ原告の損害及び損害額(争点6) 4 争点に関する当事者の主張⑴ 争点1(本件現行犯人逮捕等の違法性)について (原告の主張)本件現行犯人逮捕等は,いずれも,以下のとおり,国家賠償法上違法である。 ア国家賠償法上の違法性の判断基準国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員 が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するものである。したがって,公務員による公権力の行使が国家賠償法上違法といえるためには,当該公務員の公権力の行使が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背したかどうかにより判断されなければなら ない。換言すれば,当該公務員が具体的状況の下で,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と当該行為を行ったと認め得るような事情がある場合には,公務員による当該公権力の行使は,国家賠償法上違法となると解すべきである。 イ本件現行犯人逮捕の違法性 本件現行犯人逮捕は,本件現行犯人逮捕の時点において,原告は「現行犯人」(刑事訴訟法212条1項)に当たらず,また,罪証隠滅のおそれや逃亡のおそれといった逮捕の必要性が認められないにもかかわらずなされたものであり,違法である。 a 現行犯人性について ⒜ 現行犯人逮捕が,令状主義の例外であることからすれば,「現行犯 - 10 -人」の要件を満たしているかどうかは,逮捕者の単なる主観では足りず,逮捕時点における具体的な状況に基づいて客観的に判断されなければならない。 ⒝ この点について,現行犯人逮捕手続書(乙A1)によれば,H警察官が原告から事情聴取を ,逮捕者の単なる主観では足りず,逮捕時点における具体的な状況に基づいて客観的に判断されなければならない。 ⒝ この点について,現行犯人逮捕手続書(乙A1)によれば,H警察官が原告から事情聴取をしたところ,原告は「歩道を歩いていた ら現場監督の人が抱きかかえるような感じで,私の行く手を遮ってきたので振り払っただけだ」と供述し,被告Dの被害申告や警備員Iの供述と食い違う供述をしている。そうすると,G警察官らにおいては,原告の供述と被告Dの被害申告を突き合わせて相互に確認するとともに,客観的証拠である本件防犯カメラの映像を注意深く 確認することが求められていたというべきである。 この点,本件防犯カメラは原告の背後に設置されており,本件防犯カメラの映像を見ても,原告が両腕を突き出し,被告Dの両胸を押して突き飛ばした様子を確認することはできない。むしろ,この映像をよく見れば,原告は,自分を両腕で抱え込むようにしてきた 被告Dから逃れるために,右側に体をひねりながら右足を後方に下げており,前方に力を加えていないことや原告が左手に携帯電話を持っており,原告が被告Dの両胸を両手の手のひらで突くことはできないということを確認することができる。そして,これらの点からすると,本件防犯カメラの映像は,原告の上記供述と矛盾する点 はなく,他方,本件防犯カメラの映像から被告Dの被害申告に係る暴行の事実があると判断することはできないのに,G警察官らは,原告の上記供述を被告Dに対する暴行の一部を認めているものと曲解した上で,原告の供述と被告Dの被害申告を相互に突き合わせて確認したり,本件防犯カメラの映像をコマ送りにして確認するなど の精査をすることなく,被告Dの被害申告や警備員Iの供述を鵜呑 - 11 -みにし,本件現 Dの被害申告を相互に突き合わせて確認したり,本件防犯カメラの映像をコマ送りにして確認するなど の精査をすることなく,被告Dの被害申告や警備員Iの供述を鵜呑 - 11 -みにし,本件現行犯人逮捕に踏み切った。 また,G警察官らは,原告とともに本件マンションの反対運動をしていた近隣住民からの事情聴取すら実施しなかった。 ⒞ このように,本件現行犯人逮捕は,G警察官らにおいて,原告の供述と被告Dの被害申告を相互に突き合わせて確認するとともに客 観的証拠である本件防犯カメラの映像を十分に精査したりすることもなく,また,近隣住民からの事情聴取すら行わず,被告Dや警備員Iの各供述を鵜呑みにしてなされたものであり,原告が「現行犯人」に当たることが,逮捕時点における具体的な状況に基づいて客観的に判断されたとはいえず,原告は「現行犯人」に当たらない。 b 逮捕の必要性について⒜ 次に,現行犯人逮捕は,身体拘束という著しい人権侵害を伴うものである以上,それが許容されるには,被逮捕者が「現行犯人」に当たることのほか,罪証隠滅のおそれや逃亡のおそれなど,逮捕の必要性が認められることが不可欠となる。 ⒝ この点,G警察官らは,本件暴行事件の現場で被告Dや警備員Iからの事情聴取を行っているし,本件防犯カメラという客観的証拠も存在するのであるから,原告が被告Dや警備員Iを脅して,自己に有利な供述をさせる可能性は極めて低い。また,原告は自宅で家族と共に生活し,薬局3店舗を経営する経営者であるから,逃亡す る可能性も極めて低い。 これに対し,被告県は,本件現行犯人逮捕の際に原告が任意出頭の要請を拒んだことを逃亡のおそれを基礎づける一事情として主張する。しかしながら,原告は,本件現行犯人逮捕に先立ち,H警察官から い。 これに対し,被告県は,本件現行犯人逮捕の際に原告が任意出頭の要請を拒んだことを逃亡のおそれを基礎づける一事情として主張する。しかしながら,原告は,本件現行犯人逮捕に先立ち,H警察官から任意出頭を求められたことはない。原告は,本件暴行事件の 現場付近でH警察官と話した後,出勤時刻である午前9時10分に - 12 -間に合わせるために,白衣を取りに自宅の方へ歩いて向かったところ,H警察官が原告の後をついてきたため,H警察官に対し,9時半から薬局を開かなければならない,薬局の午前の部が終わった後,12時半から13時の間には,必ず自ら警察に出頭する旨伝えた。 そうしたところ,G警察官がその場に現れ,いきなりH警察官に対 し,原告を現行犯人逮捕するよう指示したのであって,G警察官らは,原告に任意出頭を求めることなく,本件現行犯人逮捕に踏み切ったものである。 ⒞ したがって,原告には,罪証隠滅のおそれや逃亡のおそれが認められず,本件現行犯人逮捕の必要性は認められない。 c 以上のとおり,本件現行犯人逮捕は,現行犯人逮捕の要件を満たさずになされたものであり,違法である。 そして,G警察官らは,現行犯人逮捕の要件を満たさないことが明らかであるにもかかわらず,本件現行犯人逮捕を行ったものであり,公務員として職務上通常尽くすべき注意義務を怠ったといえる。したがって, 本件現行犯人逮捕を行ったことは,国家賠償法上違法である。 ウ本件各取調べの違法性L警察官らは,本件各取調べの中で,原告に対し,「防犯カメラの画像に,お前がDさん(被害者)の胸を突いている様子がはっきり写っている」と何度も告げた。これに対し,原告が「だったら,防犯カメラの画 像を見せて欲しい」と頼んでも,決して本件防犯カメラの映像を に,お前がDさん(被害者)の胸を突いている様子がはっきり写っている」と何度も告げた。これに対し,原告が「だったら,防犯カメラの画 像を見せて欲しい」と頼んでも,決して本件防犯カメラの映像を見せようとはせず,ただ,上記の言葉を繰り返すのみであった。以上の言動は,原告をして「ひょっとしたら,自分の記憶に無いだけで,Dさん(被害者)の胸を突いたのかもしれない」と思い込ませ,心理的なプレッシャーをかけることにより,自白を強要しようとしたものにほかならず,違 法である。 - 13 -なお,被告県は,原告は,平成28年10月18日に実施された取調べにおいて,「こんなことになるんだったら,思いっきり殴っておけばよかった」旨供述しており,このような供述からすると原告に心理的なプレッシャーがかかっていたとは考えられない旨主張する。しかし,同取調べにおいて,原告が上記のような発言をした事実はない。 そして,上記のような明らかに行き過ぎた違法な取調べを行ったL警察官らは,公務員として職務上通常尽くすべき注意義務を怠ったものといえる。したがって,本件各取調べは国家賠償法上違法である。 エ本件各捜索差押えの違法性本件各捜索差押えは,延長後の勾留期間満了日の前日(平成28年1 0月20日)に行われているところ,本件暴行事件の証拠を差し押さえる必要が本当にあったのであれば,より早期に捜索差押えが行われていたはずである。実際,原告方及び薬局3店舗のいずれにおいても,q 警察署の警察官らは,積んである書類をぱらぱらめくったり,いったんはパソコンを持ち帰ろうとしたものの,結果としては何も差し押さえるこ とはなかった。そもそも,この段階では,本件防犯カメラの映像も提出され,被告D及び警備員Iのそれぞれについて,警察 いったんはパソコンを持ち帰ろうとしたものの,結果としては何も差し押さえるこ とはなかった。そもそも,この段階では,本件防犯カメラの映像も提出され,被告D及び警備員Iのそれぞれについて,警察及び検察庁での取調べも終えられていた。そうすると,それ以上,他に差し押さえるべき証拠を想定することはできない。 そうであるとすれば,本件各捜索差押えは,必要性の要件を満たさな いにもかかわらず行われたものであり,違法である(なお,q 警察署の警察官が必要性の要件を満たさないにもかかわらず本件各捜索差押えを行ったのは,原告の妻ら家族に圧力をかけ原告に罪を認めさせようという意図があったことを推認させる。)。 q 警察署の警察官は,以上のように必要性の要件を満たさないにもか かわらず本件各捜索差押えを行ったものであり,公務員として職務上通 - 14 -常尽くすべき注意義務を怠ったといえる。したがって,本件各捜索差押えを行ったことは,国家賠償法上違法である。 (被告県の主張)本件現行犯人逮捕等は,いずれも適法に行われたものであり,国家賠償法上違法の評価を受ける余地はない。 ア本件現行犯人逮捕について判断枠組み現行犯人逮捕が国家賠償法上違法の評価を受けるためには,単に,刑事訴訟法上必要とされる要件が欠如しているというだけでなく,警察官が現行犯人逮捕の時までに収集した証拠資料を総合勘案して,現行犯人 逮捕の要件が欠如していることが明らかであるにもかかわらず,あえて現行犯人逮捕をしたと認められる事情が存在することを要すると解すべきである。 本件現行犯人逮捕の適法性a 現行犯人性 まず,以下の事情によれば,原告が「現行犯人」に当たることは明らかである。すなわち,被告Dから,原告が両腕 ることを要すると解すべきである。 本件現行犯人逮捕の適法性a 現行犯人性 まず,以下の事情によれば,原告が「現行犯人」に当たることは明らかである。すなわち,被告Dから,原告が両腕を思いっきり突き出し,私の両胸を押して突き飛ばした旨の被害申告を受けたG警察官が,本件防犯カメラの映像を確認したところ,本件防犯カメラに被告Dの被害申告の内容と矛盾がない状況が記録されていることが確認できた。 また,警備員Iからも被告Dの被害申告と同旨の供述が得られた。他方,原告からは「歩道を歩いていたら現場監督の人が抱きかかえるような感じで,私の行く手を遮ってきたので振り払っただけだ」との供述が得られたものの,本件防犯カメラの映像から,原告の主張する事実に沿う状況を確認することはできなかった。 G警察官らは,本件防犯カメラの映像から原告が被告Dを突き飛ば - 15 -したと認められる状況を確認することができたことに加え,進行する本件ダンプカーに巻き込まれる等の危険があった点を考慮すれば,被告Dが自ら後方へ倒れ込み本件ダンプカーに接触するような行動をとるとは考え難いことなどを踏まえ,被告Dや警備員Iの各供述には信用性があると判断したものであり,原告が「現行犯人」に当たること は明らかである。 b 逮捕の必要性また,現行犯人逮捕については,刑事訴訟法において特にその必要性に関する規定が存在しないことから,現行犯人逮捕について逮捕の必要性の有無は問題とならないというべきである。 仮に逮捕の必要性が要求されるとしても,原告は,任意同行の要請を拒否し,犯行時の状況について被告Dや警備員Iと異なる供述をしたまま,本件工事現場から立ち去ったのであり,このような状況からすると,被告Dや警備員Iに圧力をかけ,もし ても,原告は,任意同行の要請を拒否し,犯行時の状況について被告Dや警備員Iと異なる供述をしたまま,本件工事現場から立ち去ったのであり,このような状況からすると,被告Dや警備員Iに圧力をかけ,もしくは懇願するなどして,供述を曲げさせたり,本件暴行事件の目撃者に依頼して虚偽の目撃供 述を作り出すなどの罪証隠滅のおそれのほか,行方をくらませるといった逃亡のおそれを否定することはできず,明らかに逮捕の必要性がなかったものとはいえないのであるから,逮捕の必要性が認められることは明らかである。 以上によれば,本件現行犯人逮捕は適法であり,現行犯人逮捕の要件 が欠如していることが明らかであるにもかかわらず,あえて現行犯人逮捕をしたと認められる事情は存在しない。したがって,本件現行犯人逮捕が国家賠償法上違法の評価を受ける余地はない。 イ本件各取調べについてL警察官らは,原告から何度も本件防犯カメラの映像を見せてほしい 旨申し立てられたことから,原告に対し,本件防犯カメラの映像に被告 - 16 -Dの被害状況が記録されていること,捜査段階では原告にその映像を見せることはできないことを説明したことはあるが,「お前」や「はっきり写っている」などと発言したことはない。 また,原告は,本件暴行事件の捜査において,取調べを拒否していない。さらに,原告は,平成28年10月18日に実施された取調べにお いて,「私を押しのけようとしたDさんの両腕を振り払っただけだ。」「Dさんの,両胸を突き飛ばしたりはしてないし,ましてや,トラックにぶつけてやろうとなんて考えもしなかった。」「Dさんは,わざとトラックにぶつかったんじゃないか。」「こんなことになるんだったら,思いっきり殴っておけばよかった。」などと供述しているところ,このよ にぶつけてやろうとなんて考えもしなかった。」「Dさんは,わざとトラックにぶつかったんじゃないか。」「こんなことになるんだったら,思いっきり殴っておけばよかった。」などと供述しているところ,このような供述 内容は,心理的プレッシャーがかかっている人物の発言として不自然である。 以上によれば,本件各取調べにおいて,L警察官らが原告に心理的なプレッシャーをかけて自白を強要しようとした事実が認められないことは明らかである。本件各取調べは,いずれも適正に行われたものであり, 国家賠償法上違法の評価を受ける余地はない。 ウ本件各捜索差押えについて本件各捜索差押えは,原告が主張するように,その必要もないのに行ったものではない。 すなわち,本件暴行事件に係る捜査を担当した警察官は,原告が取調 べに対し,犯行状況はもとより,犯行に至る経緯,動機すら供述していないことから,原告の生活状況や犯行動機,さらには共犯者の有無を裏付ける各種資料を入手し,事案の真相を解明する必要を認めたものの,処罰をおそれる原告が任意捜査に応じて各種資料を提出するとは到底考え難く,原告の自宅及び関係箇所の捜索差押えを実施する必要があるも のと判断した。そして,その前提として,原告の関係先すなわち捜索差 - 17 -押えを行うべき場所を特定するための捜査(原告が経営する薬局の法人登記及び薬局開設の許可事実に関する捜査等)を実施する必要を認めたが,官公庁が閉庁日であったため,q 警察署の警察官は,上記捜査を平成28年10月11日に着手した後,同月18日,名古屋簡易裁判所の裁判官に対し,捜索差押許可状の請求を行い,本件各捜索差押許可状の 発付を受けた。 q 警察署の警察官は,原告の犯行動機,共犯者の有無等が把握されていないこと 同月18日,名古屋簡易裁判所の裁判官に対し,捜索差押許可状の請求を行い,本件各捜索差押許可状の 発付を受けた。 q 警察署の警察官は,原告の犯行動機,共犯者の有無等が把握されていないことから,関係箇所の捜索を同時に行わなければ,共犯者等に原告の犯行動機等を裏付ける証拠を隠滅されるおそれがあると認め,関係箇所に対する捜索を同時に行うため,所要の人員が確保できた同月20 日に本件各捜索差押えを実施したものであり,あえて勾留期間満了日間近をねらって本件各捜索差押えを実施したわけではない。 以上によれば,本件各捜索差押えは,いずれも適法に行われたものであり,国家賠償法上違法の評価を受ける余地はない。 ⑵ 争点2(本件勾留請求等及び本件公訴の提起の違法性)について (原告の主張)本件勾留請求等及び本件公訴の提起は,いずれも,以下のとおり,国家賠償法上違法である。 ア本件勾留請求等についてまず,原告には,本件勾留被疑事実について「罪を犯したことを疑う に足りる相当な理由」(刑事訴訟法60条1項柱書)が存在しない。 すなわち,原告は,本件暴行事件に係る犯行を当初から否認していたところ,原告の供述は,被告Dや警備員Iの各供述と真っ向から対立している状況にあった。そして,本件防犯カメラは原告の背後に設置されており,本件防犯カメラの映像を見ても,原告が両腕を突き出し,被告 Dの両胸を押して突き飛ばした様子を確認することはできない。むしろ, - 18 -この映像をよく見れば,原告は,自分を両腕で抱え込むようにしてきた被告Dから逃れるために,右側に体をひねりながら右足を後方に下げており,前方に力を加えていないこと,被告Dの倒れ方が不自然であることは明らかであった。また,被告Dは,当初負傷したと むようにしてきた被告Dから逃れるために,右側に体をひねりながら右足を後方に下げており,前方に力を加えていないこと,被告Dの倒れ方が不自然であることは明らかであった。また,被告Dは,当初負傷したと供述していたにもかかわらず,特に痛がるそぶりを見せず,そのまま現場監督の仕事を 続けていた。さらに,被告Dが提出した診断書(以下「本件診断書」という。)には「左背部打撲」と記載されていたところ,本件防犯カメラの映像によれば,仮に被告Dの体が本件ダンプカーに接触していたとしても,その部位は左背部ではなく右背部であることは明らかであり,本件診断書は本件防犯カメラの映像と矛盾する。 これらの事情によれば,被告Dや警備員Iの各供述には信用性がなく,原告に本件勾留被疑事実について「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」があったとはいえないことは明らかである。 また,原告には,本件暴行事件について勾留の理由及び必要性があったとはいえない。 a まず,原告には定まった住居があり,刑事訴訟法60条1項1号の要件には当たらない。 b 罪証隠滅のおそれ(刑事訴訟法60条1項2号)について次に,本件暴行事件については,客観的証拠として本件防犯カメラの映像が存在するところ,本件防犯カメラの映像は,本件現行犯人逮 捕の時点で,被告会社から警察に任意提出されており,この点に対する証拠隠滅の可能性は考えられない。また,被告Dや警備員Iに対しては,本件暴行事件の当日に事情聴取が行われ,供述調書が作成されている。したがって,これらの者を威迫して,自己に有利な証拠を作出するといった実効性も存在しない。以上の事情によれば,原告には, 本件暴行事件について「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」 - 19 -があったとはい して,自己に有利な証拠を作出するといった実効性も存在しない。以上の事情によれば,原告には, 本件暴行事件について「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」 - 19 -があったとはいえない。 c 逃亡のおそれ(刑事訴訟法60条1項3号)についてそして,原告は,薬局3店舗を経営している者であるところ,原告がいなくなれば店を開くことも困難となり,たちまち経営が成り立たなくなって,従業員らも職を失うことになる。その上,原告には,義 母や妻,長女らという同居の家族がおり,家族を残して逃亡することは考えられない。以上に加え,本件がもともと不起訴かせいぜい略式起訴になる程度の軽微な事案であることも考慮すると,原告に「逃亡すると疑うに足りる相当な理由」があったとはいえない。 d 以上によれば,原告には,勾留の理由があったとはいえず,勾留の 必要性についても認められない。 さらに,本件暴行事件について,勾留期間を延長する「やむを得ない事由」(刑事訴訟法208条2項)があったともいえない。 すなわち,本件暴行事件の事案は極めて単純であり,関係者も原告,被告D,警備員Iの3名と少数である。重要参考人とされる人物も特に いない。そうであるとすれば,本件暴行事件について勾留期間を延長することが客観的に見て真にやむを得ないと認められる場合には当たらない。 この点,被告国は,検察官による警備員Iの取調べを行う必要があったと主張する。確かに警備員Iの取調べは,本件勾留期間延長決定がな された直後の平成28年10月18日に行われているものの,本件防犯カメラの映像の精査が本件暴行事件の当日である同月7日に,検察官による被告Dの取調べが同月13日に,それぞれ行われていることからすれば,仮にこれらを踏まえて検察官に 日に行われているものの,本件防犯カメラの映像の精査が本件暴行事件の当日である同月7日に,検察官による被告Dの取調べが同月13日に,それぞれ行われていることからすれば,仮にこれらを踏まえて検察官による警備員Iの取調べを行う必要があったとしても,同月14日にはこれを実施することが可能であった。 また,被告国は,医師からの事情聴取の必要があったと主張するが,そ - 20 -もそも捜査機関において本件防犯カメラの映像の精査を行ったのであれば,被告Dの提出した本件診断書の記載と実際に被告Dが本件ダンプカーに接触した可能性のある箇所とが異なることは明らかであるところ,その時点で,傷害罪での起訴は難しいと判断できたはずである。そうであるとすれば,医師からの事情聴取は,不要な捜査であると言わざるを 得ない。 以上によれば,本件暴行事件について勾留期間を延長する「やむを得ない事由」があったといえないことは明らかである。 以上のとおり,J検察官及びM検察官は,勾留の要件,勾留期間延長の要件を満たさないことが明らかであるにもかかわらず,本件勾留請求 等を行ったものであり,公務員として職務上通常尽くすべき注意義務を怠ったといえる。したがって,本件勾留請求等を行ったことは,国家賠償法上違法である。 イ本件公訴の提起について判断枠組み 公訴の提起については,検察官が事案の性質上当然なすべき捜査を怠るなど適切な証拠収集に努めず,不十分な証拠資料によって安易に犯罪の嫌疑を認定したり,あるいは収集された証拠に対し合理性を肯定し得ないような評価を下して事実を誤認するなどして,有罪判決を得る可能性が乏しいにもかかわらず公訴を提起した場合には,検察官が公務員と して職務上通常尽くすべき注意義務を怠ったものといえ,国家 得ないような評価を下して事実を誤認するなどして,有罪判決を得る可能性が乏しいにもかかわらず公訴を提起した場合には,検察官が公務員と して職務上通常尽くすべき注意義務を怠ったものといえ,国家賠償法上違法になると解すべきである。 本件についてa 本件においては,本件防犯カメラの映像が唯一の客観的証拠であるところ,本件防犯カメラは原告の背後に設置されていたため,本件防 犯カメラの映像を見ても,原告が両腕を突き出し,被告Dの両胸を押 - 21 -して突き飛ばした様子を確認することはできない。むしろ,この映像をよく見れば,原告は,自分を両腕で抱え込むようにしてきた被告Dから逃れるために,右側に体をひねりながら右足を後方に下げており,前方に力を加えていないことは明らかであった。 M検察官は,本件暴行事件について公訴を提起するかどうかを判断 するに当たり,本件防犯カメラの映像をコマ送りにするなどして注意深く検討すれば,原告が被告Dに対する暴行を行っていないことを容易に判断することができたはずである。また,仮に百歩譲って検察官においてこれができなかったとしても,科学捜査研究所や外部の専門家に本件防犯カメラの映像に係る画像鑑定を依頼すれば,本件暴行事 件に係る暴行の事実がなかったことは容易に判明したはずである。 b また,被告D及び警備員Iは,捜査段階において,原告が両手をパーにして自分を突き飛ばした旨供述しているが,本件防犯カメラの映像を注意深く検討すれば,原告が左手に携帯電話を持っていたことを比較的容易に確認することができるのであり,被告Dや警備員Iの各 供述は,この点で,本件防犯カメラの映像と矛盾する。さらに,被告Dは「左背部打撲」の本件診断書を提出しているが,本件防犯カメラの映像によれば,仮に ことができるのであり,被告Dや警備員Iの各 供述は,この点で,本件防犯カメラの映像と矛盾する。さらに,被告Dは「左背部打撲」の本件診断書を提出しているが,本件防犯カメラの映像によれば,仮に被告Dの体が本件ダンプカーに接触していたとしても,その部位は左背部ではなく右背部であることは明らかであり,本件診断書は本件防犯カメラの映像と矛盾する。 このように被告Dや警備員Iの各供述には客観的証拠と矛盾する点が多数存在するのであり,同人らの供述を信用することはできないはずであった。そうであるにもかかわらず,M検察官は,同人らの各供述を鵜呑みにして本件公訴事実が存在すると判断したものである。 以上のとおり,M検察官は,本件防犯カメラの映像を注意深く検討す ることを怠り,科学捜査研究所あるいは外部の専門家に鑑定を依頼する - 22 -こともしなかった結果,暴行の事実がなかったと判断することができず,さらに,被告Dや警備員Iの各供述の信用性の判断も誤り,本件公訴の提起に至ったものである。そうすると,M検察官は,不十分な証拠資料によって安易に犯罪の嫌疑を認定したり,あるいは収集された証拠に対し合理性を肯定し得ないような評価を下して事実を誤認するなどして, 有罪判決を得る可能性が乏しいにもかかわらず公訴を提起したものであり,公務員として職務上通常尽くすべき注意義務を怠ったものといえる。 したがって,本件公訴の提起は,国家賠償法上違法である。 (被告国の主張)本件勾留請求等及び本件公訴の提起は,いずれも適法に行われたものであ り,国家賠償法上違法の評価を受ける余地はない。 ア国家賠償法上の違法性の判断基準について検察官がした勾留請求,勾留期間延長請求及び公訴の提起が国家賠償法上違法であるというため あ り,国家賠償法上違法の評価を受ける余地はない。 ア国家賠償法上の違法性の判断基準について検察官がした勾留請求,勾留期間延長請求及び公訴の提起が国家賠償法上違法であるというためには,検察官の証拠の評価についての判断が,個人差を考慮に入れても,なおかつ行きすぎで,経験則・論理則からして到 底その合理性を肯定することができないという程度に達している必要があると解すべきである。 イ本件勾留請求等について原告には,以下に述べるとおり,本件勾留被疑事実について「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」が存在する。 すなわち,本件勾留請求の時点において,被告Dが原告から暴行を受けた状況について供述し,原告から暴行を受けたことにより負傷した事実に関し,本件診断書も提出していた。さらに,警備員Iも被告Dと同旨の供述をしており,本件防犯カメラの映像も同人らの供述内容に沿うものであった。以上の事情からすると,本件勾留被疑事実については, 具体的根拠に基づいて犯罪の嫌疑が一応是認することができる程度の理 - 23 -由があるといえるのであるから,本件勾留請求の際,原告には「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」があったことは明らかである。 また,以下に述べるとおり,原告には,勾留の理由及び勾留の必要性があったことは明らかである。 すなわち,原告は,本件暴行事件に係る犯行を否認し,被告Dや警備 員Iと異なる供述をしていた。また,本件暴行事件の発生当時,周囲には原告と共に本件マンションの建設工事に反対する近隣住民らがいた。 そうすると,原告が被告Dや警備員Iといった関係者に働きかけて供述を曲げさせたり,上記近隣住民らに依頼して虚偽の目撃供述など反対証拠を作出したりするなど,犯行状況のみならず, する近隣住民らがいた。 そうすると,原告が被告Dや警備員Iといった関係者に働きかけて供述を曲げさせたり,上記近隣住民らに依頼して虚偽の目撃供述など反対証拠を作出したりするなど,犯行状況のみならず,犯行に至る経緯,動機 等の罪体又は重要な情状事実について「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」が認められた。 また,原告が本件暴行事件に係る犯行を否認していたことに加え,本件暴行事件が徐行中の本件ダンプカーに被告Dを接触させたという危険な態様で行われたものであり,重い刑事処分を受けるおそれもあったこ となどからすると,刑責を免れるために行方をくらますなど「逃亡すると疑うに足りる相当な理由」も認められた。 以上によれば,原告について,勾留の理由が認められることは明らかであり,また,勾留の必要性が認められることも明らかである。 さらに,以下に述べるとおり,本件勾留期間延長請求についても,勾 留期間を延長する「やむを得ない事由」が認められることは明らかである。 すなわち,本件勾留期間延長請求時における捜査状況によれば,本件勾留被疑事実に係る嫌疑を払拭させる事情は存在せず,一方,依然として原告は犯行を否認していたところ,その時点までに,本件防犯カメラ の映像の精査,検察官による被告Dの取調べ,原告の取調べ等の捜査を - 24 -行っていたものの,その後も,検察官による警備員Iの取調べや被告Dの負傷状況について医師からの事情聴取,これらを踏まえた原告の取調べ等の所要の捜査を行う必要があり,これらの捜査を行わなければ,起訴・不起訴等の決定をすることが困難な状況にあった。以上の事情によれば,本件勾留について,勾留期間を延長する「やむを得ない事由」が あったことは明らかである。 以上によれば,本件勾留請 ,起訴・不起訴等の決定をすることが困難な状況にあった。以上の事情によれば,本件勾留について,勾留期間を延長する「やむを得ない事由」が あったことは明らかである。 以上によれば,本件勾留請求等については,いずれも適法に行われたものであり,検察官の証拠の評価についての判断が,個人差を考慮に入れても,なおかつ行きすぎで,経験則・論理則からして到底その合理性を肯定することができないという程度に達しているとはいえないことは 明らかであるから,国家賠償法上違法の評価を受ける余地はない。 ウ本件公訴の提起について以下に述べる証拠関係を総合勘案すれば,本件公訴事実については合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑が存在していたことが明らかである。 まず,被告Dは,原告が「警察でも,どこでも電話しろ」と大声で叫びながら近づき,突然,両腕を思いっきり突き出し,私の両胸を押して突き飛ばした旨供述していたところ,この供述には,十分な信用性が認められた。すなわち,本件防犯カメラは原告の背後に設置されていたため,本件防犯カメラの映像から,原告の両手の動きを確認することはで きないものの,本件防犯カメラには,再三にわたり本件ダンプカーの方に近づこうとする原告を被告Dが阻止しようとする中で,原告と被告Dが向かい合ってもみ合うような状況があった後,被告Dが前方から何らかの衝撃を受けて後ろによろめき,本件ダンプカーに接触した状況が記録されており,被告Dの供述内容とよく整合していた。さらに,警備員 Iも被告Dと同旨の供述をしていた上,被告Dの供述は当初から一貫し - 25 -ており,具体的かつ明確なもので不自然な点も見受けられなかった。 加えて,原告は,本件暴行事件に係る犯行を否認していたものの,その供述には, た上,被告Dの供述は当初から一貫し - 25 -ており,具体的かつ明確なもので不自然な点も見受けられなかった。 加えて,原告は,本件暴行事件に係る犯行を否認していたものの,その供述には,被告Dの供述と一部合致するような部分も存在した。 以上のとおり,本件公訴事実については合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑が存在していたのであるから,検察官の証拠の評価に ついての判断が,個人差を考慮に入れても,なおかつ行きすぎで,経験則・論理則からして到底その合理性を肯定することができないという程度に達しているといえないことは明らかであり,本件公訴の提起が国家賠償法上違法の評価を受ける余地はない。 ⑶ 争点3(原告の損害及び損害額)について (原告の主張)ア本件現行犯人逮捕等による原告の損害原告は,本件現行犯人逮捕によって身体の自由を侵害され,本件各取調べによって自白を強要されそうになった。また,本件各捜索差押えによってプライバシーを侵害された。これらによる原告の精神的苦痛を金銭に換 算すると500万円を下らない。また,上記各違法行為との間に相当因果関係を有する弁護士費用の額は50万円が相当である。 イ本件勾留請求等及び本件公訴の提起による原告の損害原告は,本件勾留請求等により身体を拘束されたことで,家族や仕事に対する不安を抱え,質素な食事に耐え入浴もままならない状況を強いられ た。保釈に際しては保釈保証金200万円の納付を余儀なくされ,保釈後も行動の自由を制限された。原告は,本件公訴の提起により,無罪判決を受けるまでの1年4か月にわたり,家族や仕事,社会的信用を全て失うのではないかという不安に苦しめられた。このような原告の精神的苦痛を金銭に換算すると500万円を下らない。また,上記 より,無罪判決を受けるまでの1年4か月にわたり,家族や仕事,社会的信用を全て失うのではないかという不安に苦しめられた。このような原告の精神的苦痛を金銭に換算すると500万円を下らない。また,上記各違法行為との間に相 当因果関係を有する弁護士費用の額は50万円が相当である。 - 26 -(被告県及び被告国の主張)否認し争う。 ⑷ 争点4(原告の被告国に対する本件各データの抹消請求の可否)について(原告の主張)ア自己情報コントロール権 個人情報は,①「個人の道徳的自律の存在に直接かかわる情報」と②「個人の道徳的自律に直接かかわらない個別的情報」とに区別される。前者の情報については,その意思に反した情報の取得・利用は直ちにプライバシー侵害を構成するものであり,後者の情報についても,これらの情報が悪用または集積されるならば,個人の自律的生存に影響を及ぼすことになる のであるから,自己に関する情報の収集・管理・利用・開示・提供のすべてについて,原則として本人の意に反してはならない。このように,自己に関する情報の収集・管理・利用・開示・提供のすべてをコントロールする権利を,自己情報コントロール権といい,これは,憲法13条により保障されているというべきである。 イ本件各データの要保護性の程度本件各データは,いずれも,それ自体思想・信条や疾病に直接結びつく情報や個人の私生活の核心領域に属する情報のような,秘匿性の程度が極めて高いものとはいい難いものの,指紋及びDNA型については検索性を有するという点において,携帯電話のデータについては,通信の秘密(憲 法21条2項)に関連するものであるという点で,顔写真については,その撮影や利用が肖像権としてかねてより私法上保護されてきたもので という点において,携帯電話のデータについては,通信の秘密(憲 法21条2項)に関連するものであるという点で,顔写真については,その撮影や利用が肖像権としてかねてより私法上保護されてきたものであって自己のアイデンティティの一部をなすものであるという点で,住所や氏名等人が社会生活を営む上で一定の範囲の他者には当然開示されることが予定されている個人識別情報とは,明らかに性質の異なるものである。そ の意味で,本件各データは,少なくとも中程度の要保護性を有するものと - 27 -いうべきである。 本件各データは,本件暴行事件の捜査のために取得されたものであるところ,本件暴行事件については無罪判決が確定し,刑事手続が終了したことにより,本件各データを保持する目的もその時点で失われたことになる。 無罪判決確定後も指紋等の情報を保持し続けることは,当初の目的とは異 なる,将来の犯罪捜査,刑事訴追に備えるというものであると考えられるところ,情報保有の目的変更が直ちに違憲・違法となるものではないとしても,①当初の目的による個人情報取得の授権とは別に,目的変更を認める明文の法律上の根拠が必要であり,さらに,②当該情報を取得した当初の目的と同等の重要性を持つ目的のために,必要かつ合理的な措置である 場合に限り,許容されているものと解すべきである。そして,これらの要件を満たさないにもかかわらず,本件各データを保有し続けることは,憲法13条によって保障されたプライバシー権ないし自己情報コントロール権を侵害し,違憲となると解すべきである。 ウ本件においては,上記①②の要件のいずれも満たさない。 すなわち,本件のように,無罪判決が確定したにもかかわらず,本件各情報を保有し続けることについて,これを認める明文の法律上の根拠が ウ本件においては,上記①②の要件のいずれも満たさない。 すなわち,本件のように,無罪判決が確定したにもかかわらず,本件各情報を保有し続けることについて,これを認める明文の法律上の根拠が存在しない。また,本件のように無罪判決が確定した場合,重大事件の再犯のおそれがなく,本件各データを保有し続けることが必要かつ合理的な措置であるということはできない。 エそうすると,本件各データを保有し続けることは,憲法13条により保障されたプライバシー権ないし自己情報コントロール権を不当に侵害するものであり,原告は,人格権に基づき本件各データの抹消を求めることができる。 (被告国の主張) ア原告が,本件各データの抹消を求める根拠として主張する自己情報コン - 28 -トロール権は,憲法13条により個人の人格的権利として具体的に保障されるものではなく,被告国に対し本件各データの抹消等の積極的な作為を求める権利が保障されているとみる余地はない。 イまた,本件各データの取得は,適法な手続に基づいて行われたものであり,違法なものではない。 そして,本件各データのうち指紋,顔写真及びDNA型の各データ(以下「本件3データ」という。)は,警察法及び警察法施行令の委任を受けて定められた,指掌紋取扱規則(平成9年国家公安委員会規則第13号)(以下「指掌紋規則」という。),DNA型記録取扱規則(平成17年国家公安委員会規則第15号)(以下「DNA型規則」という。),被疑者写真の管理 及び運用に関する規則(平成2年国家公安委員会規則第9号)(以下「写真規則」といい,指掌紋規則,DNA型規則と併せて「指掌紋規則等」という。)に基づき,犯罪捜査に資することを目的として管理,運用されているものである。そして,行政機関 安委員会規則第9号)(以下「写真規則」といい,指掌紋規則,DNA型規則と併せて「指掌紋規則等」という。)に基づき,犯罪捜査に資することを目的として管理,運用されているものである。そして,行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第58号)(以下「行政機関個人情報保護法」という。),指掌 紋規則等により,同利用目的外の利用が制限されている上,その漏えい,滅失又は毀損を防止するために必要な措置を講ずるものとされ,濫用的利用に対する刑罰等の担保措置の規定が設けられていることから,これらの法令に不備があるとはいえず,また,目的外使用や漏えいの具体的な危険が生じているという事態も認められない。 さらに,本件携帯電話のデータについては,現在,刑事裁判の記録に綴られて保管されているところ,検察官は刑事確定訴訟記録及びその記録に係る裁判所不提出記録を保管期間満了まで保管しなければならないから,携帯電話のデータを抹消することは不可能である。 ウ以上によれば,本件各データの抹消請求が認められる余地はない。 ⑸ 争点5(被告Dが原告に突き飛ばされたかのように装い,その旨の虚偽供 - 29 -述をしたか)について(原告の主張)ア被告Dは,本件マンションの建設工事に対する原告の執拗な反対運動を阻止するために,原告に突き飛ばされたかのように装い,その旨の虚偽供述をしたものである。 イこのことを裏付ける事情として,以下の事情が存在する。 まず,N鑑定等は,本件防犯カメラの映像上確認することができる被告Dの一連の動きについて,被告Dが原告から突き飛ばされたとするには不自然な点が多数存在することを指摘する。このようなN鑑定等の結果によれば,被告Dが原告の暴行によってではなく自ら倒れた可能性が 告Dの一連の動きについて,被告Dが原告から突き飛ばされたとするには不自然な点が多数存在することを指摘する。このようなN鑑定等の結果によれば,被告Dが原告の暴行によってではなく自ら倒れた可能性が 極めて高い。 次に,本件暴行事件発生前の原告及び被告Dの動きを見ると,どの場面を切り取っても,相手の体に自分の体を接触させているのは,原告の方ではなく,被告Dであることが確認できる。そして,そのような状況からすると,被告Dにおいては,本件マンションの建設工事に対する反 対運動を行っていた原告を陥れるための被害の偽装を実行に移そうと,執拗な制止行為におよび,それにたまりかねた原告が制止行為を振り払おうとする機会をうかがっていたとしか考えられない。 この点,被告Dは,本件暴行被告事件の公判で行われた証人尋問において,原告に突き飛ばされた直後に,どこに手を突けばよいかを確認す るために意識的に本件ダンプカーを確認し,側面に手を突けば大丈夫だと思った旨証言するが,いきなり両手で両胸を突かれたという被告Dの証言を前提とする限り,そのようなことを考える余裕があったのは不自然である。そのようなことを考える余裕があったことは,むしろ被告Dにおいて,事前に被害を偽装する機会をうかがっていたことを推認させ るものである。また,本件防犯カメラの映像によれば,被告Dは,本件 - 30 -暴行事件の後,臨場した警察官と話をしている際,本件防犯カメラの方を指さした状況を確認することができる。これは,被告Dが本件防犯カメラの存在を意識していたことを示す事情であり,被告Dにおいて,事前に被害を偽装する機会をうかがっていたことを推認させるものといえる。 そして,本件防犯カメラの映像を見ても,被告Dの背中が本件ダンプカーに接触して とを示す事情であり,被告Dにおいて,事前に被害を偽装する機会をうかがっていたことを推認させるものといえる。 そして,本件防犯カメラの映像を見ても,被告Dの背中が本件ダンプカーに接触しているようには見えないし,仮に被告Dの背中が本件ダンプカーに接触していたとしても,その部位は体の右側であるとしか考えられない。それなのに,被告Dが提出した本件診断書の診断は左背部打撲となっており,本件防犯カメラの映像と矛盾する。このような矛盾が 生じるのは,被告Dが怪我などしていないのに怪我をしたかのように装ったからであると考えざるを得ない。 この点,被告Dは,本件暴行事件の後,平成28年10月中に2回目,11月初旬ないし中旬頃に3回目の通院をしたというのであり,このような通院経過は全治1週間の左背部打撲の治療としては過剰であり,不 自然である。また,本件暴行事件の当夜,同僚と酒を飲みに行っているところ,こうした行動も,本件暴行事件により負傷した者の行動としては不自然である。このように,被告Dの受傷の事実については,その治療の経過や受傷当日の行動に不自然な点がみられるのであり,このことは,被告Dが怪我などしていないのに怪我をしたかのように装ったこと を推認させるものである。 また,被告Dは,本件本人尋問において,原告から突き飛ばされた場面について,一瞬の出来事であり,手元が見えていたかどうかというのははっきり分からない旨供述する。被告Dは,原告の手元がはっきり見えていないにもかかわらず,G警察官らに対し,原告が両手を思いっき り突き出し,被告Dの両胸を押して突き飛ばしたなどと誇張・歪曲した - 31 -被害申告を行っている。このことは,被告Dが,本件マンションの建設に対する反対運動をしていた原告を陥れよう り突き出し,被告Dの両胸を押して突き飛ばしたなどと誇張・歪曲した - 31 -被害申告を行っている。このことは,被告Dが,本件マンションの建設に対する反対運動をしていた原告を陥れようと考えていたからにほかならない。 ウ被告D及び被告会社の主張に対してこれに対し,被告D及び被告会社は,被告Dの本人尋問に基づき,被 告Dが原告に突き飛ばされたかのように装い,その旨の虚偽供述をしたことを否定する。 しかしながら,被告Dは,本件暴行被告事件で行われた証人尋問において,原告が被告Dを突き飛ばした際の状況に関し次々と証言を変遷させており,本件無罪判決においても「証言の信用性を一定程度損なわせ るものといえる」との評価がなされている。また,本件本人尋問においても,背中を本件ダンプカーに打ち付けたことにより生じたという怪我について,痛みの有無や痛みを感じた部位,痛みの移り変わりの状況,病院へ行こうと思った時点,警察官や医師への説明内容等に関し「記憶にない」と曖昧な供述を繰り返しているところ,このような被告Dの供 述態度からすると,被害の偽装を否定する被告Dの供述の信用性は極めて低いと言わざるを得ない。 また,被告D及び被告会社は,被告Dの後方に存在していた本件ダンプカーが大型トラックであり,ひとつ間違えれば,重大な死傷結果が生じていたかもしれない状況であったことからすると,被告Dにおいて, あえて自ら本件ダンプカーに接触するようなことをするとは考えられないと主張する。 しかしながら,進行するダンプカーに巻き込まれる危険を回避する形で被害を偽装することは十分に可能なのであって,被告D及び被告会社の上記主張は,その前提を誤っている。 さらに,被告D及び被告会社は,三次元コンピューターグ に巻き込まれる危険を回避する形で被害を偽装することは十分に可能なのであって,被告D及び被告会社の上記主張は,その前提を誤っている。 さらに,被告D及び被告会社は,三次元コンピューターグラフィック - 32 -技術を用いた三次元空間内で仮想的な立体物を構築する3Dモデリングという手法によって本件防犯カメラの映像を解析したとする法科学鑑定研究所株式会社の鑑定書(乙C1)を提出し,同鑑定書に基づき,被告Dが本件ダンプカーに衝突したのは,突き飛ばされたように装ったからではなく,原告が腕組みをしながら胸部を突き出し前傾体勢になりなが ら前進するという行為によって被告Dの胸部付近に押す力が働いたからである旨主張するが,同鑑定書には,防犯カメラ映像の鑑定に必要不可欠な解剖学的な視点が完全に欠落しているなどの重大な欠陥があり,およそ信用することができない。 エこれらの事情によれば,被告Dにおいては,原告に突き飛ばされたかの ように装い,その旨の虚偽供述をしたとしか考えられない。 (被告D及び被告会社の主張)ア被告Dは,原告に突き飛ばされたかのように装い,その旨の虚偽供述をしていない。本件本人尋問における供述のとおり,被告Dは,原告が「邪魔だ,どけ。」と言いながら前に出てきた直後に,自身の胸の辺りに衝撃を 受け,これによって,後方によろめき,本件ダンプカーに接触したものである。 イ被告Dの上記供述は,以下の理由により信用することができる。 まず,本件防犯カメラの映像によれば,原告が被告Dに対して体当たりをするなどしたことにより被告Dが後ろによろめいていることは明ら かである。そして,被告Dの後方を進行していた本件ダンプカーが大型トラックであり,ひとつ間違えれば,重大な死傷結果が生じていたかもし などしたことにより被告Dが後ろによろめいていることは明ら かである。そして,被告Dの後方を進行していた本件ダンプカーが大型トラックであり,ひとつ間違えれば,重大な死傷結果が生じていたかもしれない状況であったことを踏まえると,被告Dにおいて,あえて自ら本件ダンプカーに接触するようなことをするとは考えられない。 なお,この点については,本件無罪判決でも,「被告人は何らかの動き をして右足を後方へ下げ,Dは何らかの衝撃を受けて後ろによろめいて, - 33 -本件ダンプカーの右側面に接触した(なお,弁護人は,後述の鑑定結果を踏まえて,Dが自ら本件ダンプカーの方へ倒れた疑問を呈しているが,進行する本件ダンプカーに巻き込まれる危険があったことも考慮すれば,そのような事態は考え難い。)」と指摘されている。 さらに,三次元コンピューターグラフィック技術を用いた三次元空間 内で仮想的な立体物を構築する3Dモデリングという手法によって本件防犯カメラの映像を解析したとする法科学鑑定研究所株式会社の鑑定書は,被告Dが本件ダンプカーに衝突したのは,突き飛ばされたように装ったものではなく,原告が腕組みをしながら胸部を突き出し前傾体勢になりながら前進するという行為によって被告Dの胸部付近に押す力が働 いたからである旨指摘しており,上記被告Dの供述を裏付けるものである。 ウこれらの事情によれば,被告Dの上記供述は信用することができ,被告Dが原告に突き飛ばされたかのように装い,その旨の虚偽供述をしたという事実は認められない。 ⑹ 争点6(原告の損害及び損害額)について(原告の主張)原告は,被告Dの不法行為により,それまでの平穏な生活が一変し,甚大な精神的苦痛を被った。上記精神的苦痛を金銭に換算すると1000 ⑹ 争点6(原告の損害及び損害額)について(原告の主張)原告は,被告Dの不法行為により,それまでの平穏な生活が一変し,甚大な精神的苦痛を被った。上記精神的苦痛を金銭に換算すると1000万円を下ることはない。また,上記不法行為と相当因果関係を有する弁護士費用の 額は100万円が相当である。 (被告D及び被告会社の主張)否認し争う。 第3 当裁判所の判断 1 事実経過の概要 前記前提事実及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 - 34 -⑴ 原告の自宅の南側道路を挟んだ向かい側に,数十年前からO株式会社(以下「O」という。)の社員のために,3階建の女子寮1棟及び地下1階・地上4階建の男子寮3棟が建てられていたところ,平成27年3月末までに同各寮がすべて取り壊され,その後はしばらく,その敷地(以下「本件土地」という。)は更地となっていた。P株式会社(以下「P」という。)は,同年9 月,Oから本件土地を買い受け,同年10月末,15階建分譲マンションである本件マンションを建設するとの計画を立てた。本件土地周辺は,低層住宅が建ち並ぶ閑静な住宅地域である。 本件土地西側の片側1車線の都市計画道路につき,かつて片側2車線に拡幅する計画があり,両サイドが近隣商業地域に指定された。本件土地の道路 側部分については,この近隣商業地域に含まれている。他方,道路と反対側部分については,第2種中高層住居専用地域に指定されている。その後,道路の拡幅計画は廃止されたものの,近隣商業地域の指定のみが残った。そのため,本件マンションは,道路側を15階建とし,道路の反対側を6階建とする,高さの異なる2つの部分で一棟をなす構造を持つものとして計画され た。 そのため,原告を含む本件マンションの 。そのため,本件マンションは,道路側を15階建とし,道路の反対側を6階建とする,高さの異なる2つの部分で一棟をなす構造を持つものとして計画され た。 そのため,原告を含む本件マンションの近隣住民は,低層住宅が建ち並ぶ地域に15階建のマンションが建設されることになり,良好な住環境が破壊されるのではないかとの危惧感を抱いた。 ⑵ P及び施工業者である被告会社は,平成27年11月12日,同月24日 及び同年12月11日に全体説明会を,平成28年1月28日,同月29日及び同年2月1日に個別説明会を開催したが,原告ら近隣住民が納得できる説明会とはならなかった。 ⑶ Pは,平成28年4月15日,本件マンションの建築確認申請を行い,同年5月31日,建築確認済証の交付を受け,その後,Pから請け負った被告 会社が本件マンションの建設工事を開始した。 - 35 -⑷ 原告ら近隣住民は本件工事現場周辺に赴くなどし,本件マンションが建設されることによる生活利益の侵害を訴え,説明を求めるなどしたが,他方で,被告会社は原告ら近隣住民の言動が危険であるとして工事妨害を止めるよう求めるなど,本件マンション建設を巡って対立していった。 ⑸ 原告ら近隣住民は,平成28年8月10日,名古屋地方裁判所に対し,1 5階建の本件マンションの建設は,日照権侵害,圧迫感,風害,工事による騒音・振動・粉じん等の被害をもたらすとして,7階以上の建設工事の差止めを求める仮処分を申し立てた。 ⑹ 原告は,平成28年10月7日午前9時20分,H警察官により,本件暴行事件を理由に本件現行犯人逮捕をされた。原告は,同日,その承諾に基づ き,原告の指紋及び口腔内細胞(DNA型)を採取され,顔写真を撮影された。さらに,原告は,同日,q 警察署の警察官に対 暴行事件を理由に本件現行犯人逮捕をされた。原告は,同日,その承諾に基づ き,原告の指紋及び口腔内細胞(DNA型)を採取され,顔写真を撮影された。さらに,原告は,同日,q 警察署の警察官に対し,本件携帯電話を任意提出した。 ⑺ J検察官は,平成28年10月8日,本件勾留請求を行った。 ⑻ 原告は,K警察官から平成28年10月7日から同月13日までの間に4 回,L警察官から同月17日及び同月18日に本件各取調べを受けた。 ⑼ M検察官は,平成28年10月17日,本件勾留期間延長請求を行い,原告の勾留は同月21日まで延長された。 ⑽ q 警察署の警察官は,平成28年10月18日,本件各捜索差押許可状の発付を受け,同月20日,本件各捜索差押えを行った。 ⑾ M検察官は,平成28年10月21日,本件公訴の提起を行った。原告は,同日,保釈許可決定を受けた。 ⑿ 本件暴行被告事件について,平成29年3月14日の第2回公判期日において,被告D及び警備員Iに対する各証人尋問が実施され,同年6月15日の第3回公判期日において,原告に対する被告人質問が実施された。そして, N教授は,同年10月2日,N鑑定を作成し,同年11月21日の第4回公 - 36 -判期日において,N教授に対する証人尋問が実施された。 ⒀ 本件暴行被告事件は,平成29年12月21日,論告・弁論が行われ,結審した。名古屋地方裁判所は,平成30年2月13日,本件無罪判決を言い渡し,同判決は,同月28日に確定した。 2 本件暴行被告事件における証拠及び本件無罪判決の概要 ⑴ 被告Dの供述及び証言内容等ア被告Dの被害申告の内容(乙A1)被告Dは,本件現行犯人逮捕に先立ち,G警察官らに対し,要旨,以下のとおりの被害申告をした。 平 判決の概要 ⑴ 被告Dの供述及び証言内容等ア被告Dの被害申告の内容(乙A1)被告Dは,本件現行犯人逮捕に先立ち,G警察官らに対し,要旨,以下のとおりの被害申告をした。 平成28年10月7日午前8時40分頃,本件ダンプカーが本件工事現 場西側出入口から道路に出ようとした際,本件マンションの建設工事に反対している住民の原告が「どけ,どけ,邪魔だ」と言って近づいてきたため,危ないと思い,両腕を広げて原告を制止した。しかし,原告が制止を振り切ろうとしたため,原告に対し,「これ以上やるなら警察を呼びますよ」と言ったところ,原告が「警察でもどこでも電話しろ」と大声で叫びなが ら近づき,突然,両腕を思いっきり突き出し,私の両胸を押して突き飛ばした。そのせいで私は,本件工事現場西側出入口から道路に出ようとしていた本件ダンプカーの側面に背中をぶつけた。 イ被告Dによる犯行再現(乙A17)被告Dは,平成28年10月7日午前9時50分頃から同日午前9時5 2分頃までの間,本件暴行事件の現場において,その被害状況の再現を行った。その内容は,要旨,以下のとおりである。 まず,①被告Dは,原告に扮する模擬被疑者(両手を腰の部分まで下げ,手には何も持っていない状態)を本件工事現場西側出入口の右隅に立たせた上で,その前に両手を左右に広げた状態で立ち,被告Dが本件ダンプカ ーの進行を妨げようとする原告の前に立ちふさがった状況を再現した。次 - 37 -に,②被告Dは,①と同じ状態の模擬被疑者を本件工事現場西側出入口の中央付近まで移動させた上で,その前に両手を左右に広げた状態で立ち,本件ダンプカーの進行を妨げようとする原告の前に立ちふさがった状況を再現した。その後,③被告Dは,再度,①と同じ状態の模擬 出入口の中央付近まで移動させた上で,その前に両手を左右に広げた状態で立ち,本件ダンプカーの進行を妨げようとする原告の前に立ちふさがった状況を再現した。その後,③被告Dは,再度,①と同じ状態の模擬被疑者を本件工事現場西側出入口の右隅に移動させ,その前に左右に広げた両手を模擬 被疑者の方に向けた状態で立ち,原告を安全な所へ誘導し,本件ダンプカーを車道に出そうとした状況を再現した。そして,④被告Dは,何も持っていない模擬被疑者の両手を前に突き出させ,その両手の手のひらが自身の胸に触れる状態で模擬被疑者の前に立ち,被告Dが模擬被疑者に両胸を突き飛ばされた状況を再現した。その際,被告Dの後方には,進行中の本 件ダンプカーに扮する模擬車両が配置され,被告Dの背中が模擬車両の右側方に接触している状態であった。 ウ本件診断書の提出(乙A3,弁論の全趣旨)被告Dは,平成28年10月7日,医療機関を受診し,全治1週間の左背部打撲の診断を受け,本件診断書をq 警察署に提出した。 エ本件現行犯人逮捕後の被告Dの警察官に対する供述内容(乙A3)被告Dは,平成28年10月7日,q 警察署の警察官に対し,要旨,以下のとおり供述した。 本件暴行事件の当日,本件ダンプカーが本件工事現場から出ようとしていたため,「ダンプカーが出ます,どいてください」と言いながら,本件工 事現場から出てくる本件ダンプカーを誘導していると,自身の後方にいた原告が,「どけ,どけ,邪魔だ」と言って近づいてくるので,原告の方を振り返り,原告を制止した。原告は,それでも制止を振り切ろうとしてくるので,本件ダンプカーの側方で「これ以上やるなら警察を呼びますよ」と言ったところ,自身の前方にいた原告は,怒ったようで,「警察でも,どこ でも電話しろ」と大 それでも制止を振り切ろうとしてくるので,本件ダンプカーの側方で「これ以上やるなら警察を呼びますよ」と言ったところ,自身の前方にいた原告は,怒ったようで,「警察でも,どこ でも電話しろ」と大声で叫びながら,私の方に近づくと,突然,両手で私 - 38 -の両胸を押すように突き飛ばした。突き飛ばされた際に,私の後方を出入口から出てきた本件ダンプカーが走行していたため,私は本件ダンプカーの荷台部分の右側方に背中を強打し,本件診断書のとおり,全治1週間の左背部打撲の傷害を負った。本件ダンプカーと背中が接触したが,体勢が崩れただけで倒れることもなく,すぐに本件ダンプカーから離れることが できた。 突き飛ばされた私が,体勢を整えながら,原告に対し,「Bさん,手を出したらいかんわ」と言うと,原告は,私を救助することもなく,何も言わずにその場から離れていき,その先の歩道上で電話をしだした。 オ被告Dの検察官に対する供述内容(乙A7) 被告Dは,平成28年10月13日,名古屋地方検察庁において,要旨,以下のとおり供述した。 本件暴行事件があった日も,ダンプカーが本件工事現場に出入りし始める少し前の午前8時25分頃,本件工事現場に行った。すると,いつものように原告を含め,建設工事に反対する6人くらいの住民が本件工事現場 出入口前の歩道付近に集まっていた。午前8時30分頃から本件工事現場へのダンプカーの出入りが始まったところ,原告らはいつもと同じように出入口前の歩道を行ったり来たりし,あるいは出入口前の歩道上に立ち止まったりしてダンプカーの出入りを妨害したので,私や警備員が原告らに「ダンプカーが通るので,危ないからどいてください」と声をかけ,両手を 広げて制止したり,出入口脇に誘導したりした。しかし,原告 ったりしてダンプカーの出入りを妨害したので,私や警備員が原告らに「ダンプカーが通るので,危ないからどいてください」と声をかけ,両手を 広げて制止したり,出入口脇に誘導したりした。しかし,原告らは「じゃまだ,どけ」とか「歩道を通って何が悪い」と文句を言っていた。 そうしているときに,本件工事現場の敷地内で土を積んだ本件ダンプカーが出入口から出ようとしていた。このときも,原告は出入口前の歩道上に立ち止まったりして本件ダンプカーが道路へ出ようとするのを妨害し ようとしていたので,原告に「ダンプカーが出ますよ,危ないからどいて - 39 -ください」と声を掛け,両手を広げ,出入口脇に誘導した。原告を出入口脇に誘導した後,出入口から出ようとしていた本件ダンプカーの運転手に「出てください」と手で合図をしたところ,本件ダンプカーは,それに従って本件工事現場の敷地から歩道の方へゆっくりと出てきた。すると,一旦出入口脇にどいていた原告が,本件工事現場の敷地から歩道へ出てきた本 件ダンプカーの方に近づいてその進行を妨害しようとした。その動きを見て私は,本件ダンプカーの方から私の後ろの方にいた原告に体を向け,原告に「危ないですよ,ダンプカーに近づかないでください」と声を掛けた。 しかし原告はそれでも本件ダンプカーの方に近づこうとしたので,私は自分の両手を広げ,原告が本件ダンプカーの方に近づかないように制止した。 そうしたところ,原告は「邪魔だ,どけどけ」と言って私の制止を無視して本件ダンプカーの方に近づこうとした。このとき,原告は両手で腕組みをして本件ダンプカーに近づこうとしており,私は原告の前に立って両手を左右に広げ,これを制止しようとした。原告と私は正面から向き合い,お互いの体が接触している状態であった。私の背後を本件ダ で腕組みをして本件ダンプカーに近づこうとしており,私は原告の前に立って両手を左右に広げ,これを制止しようとした。原告と私は正面から向き合い,お互いの体が接触している状態であった。私の背後を本件ダンプカーが本 件工事現場の敷地から歩道を通って車道の方へゆっくりと動いていくのがそのエンジン音から感じられたが,原告は,あくまでも本件ダンプカーの方に近づこうとしたので,「これ以上やるなら警察呼びますよ」と言った。 すると,原告は,「警察でもどこでも電話しろ」と大声で叫びながら,突然,原告の正面に立って制止していた私の胸の辺りを両手で強い力で突き飛 ばしてきた。私はまさか両手で突き飛ばされるとは思っていなかったので,両手で突き飛ばされたことによって後ろの方へバランスを崩し,そのまま私の背後を進行していた本件ダンプカーの方へ倒れそうになった。私は,エンジン音で本件ダンプカーが動いているのが分かったので,このまま本件ダンプカーの方へ倒れこんだら非常に危険だと咄嗟に判断し,自分の両 手を上に上げて本件ダンプカーの車体に後ろ向きで両手を突こうとした。 - 40 -ところが,原告から強い力で突き飛ばされたので,突き飛ばされた勢いで自分の背中を,動いていた本件ダンプカーの車体に打ち付けてしまった。 幸いにも倒れ込まずにすんだが,私は原告に対して「手を出したらいかんわ」とすぐに抗議し,持っていた携帯電話で警察に通報した。本件ダンプカーに背中を打ち付け,痛みを感じたので,病院に行って診察を受けた ところ,全治1週間の左背部打撲という診断を受けた。 カ公判廷における被告Dの証言内容(甲5)被告Dは,本件暴行被告事件の第2回公判期日において,本件暴行事件に係る被害を受けた際の状況について,要旨,以下のとおり証言した。 断を受けた。 カ公判廷における被告Dの証言内容(甲5)被告Dは,本件暴行被告事件の第2回公判期日において,本件暴行事件に係る被害を受けた際の状況について,要旨,以下のとおり証言した。 主尋問における証言内容 本件ダンプカーが本件工事現場から出ようとしたとき,原告が目の前に立って本件ダンプカーの進行を妨害したので,私は,両腕を左右に広げて原告の前に立ち,本件ダンプカーを本件工事現場から出るように誘導した。最初は,原告を背にして,本件ダンプカーに出るように合図をしたが,その後,原告が前に出ようとしたので,対面して,両手を広げ て,本件ダンプカーが本件工事現場から出るのを邪魔できないような体勢をとった。ところが,原告がそれでも前に出て来たため,危ないからやめてくださいと何度も声をかけた。 その後も原告が前に出ようとしたため,広げていた両手を,体の前方に動かし,原告が両サイドに行けないような形をとった。その際,原告 と私の体は,ほぼ密着している状態であった。原告は,腕組みをした状態で前に前に出ようとしてきたところ,原告に対し,危ないですからやめてくださいと言った。これに対し,原告は,邪魔だ,どけ,と怒った状態で大声で叫んだ。原告はなおも前に前に出ようとしてきたため,やめてくださいと言ったところ,原告から,いきなり両手(携帯電話を持 っていた左手と右手の手のひら)で胸の上のほうを,後ろによろけるぐ - 41 -らい強く突かれた。このままだと後ろに転倒すると思った私は,右足を後ろに下げて,何とか転倒しないような体勢をとった。その際,後方を進行してくる本件ダンプカーに巻き込まれないようにするには,本件ダンプカーのボディに手をつけば大丈夫だと考え,両手を広げて,本件ダンプカーの車体に手を突こう しないような体勢をとった。その際,後方を進行してくる本件ダンプカーに巻き込まれないようにするには,本件ダンプカーのボディに手をつけば大丈夫だと考え,両手を広げて,本件ダンプカーの車体に手を突こうとした。そうしたところ,本件ダンプカー の右側面に右の背中の上の辺りをぶつけることとなった。 本件ダンプカーにぶつけたことで,右の背中にじんじんとするような痛みを感じたが,その後,全体的に痛みが広がり,最終的には左の方に痛みを感じるようになった。本件暴行事件の当日の午前11時頃,病院に行き,左背部打撲の診断を受けた。 反対尋問における証言内容原告が私を突き飛ばした際,原告が左手に携帯電話を持っていたことについては,当時からそのような主観を持っていた。原告が私を両手で突き飛ばした際,腕組みをほどいていたかどうかについては,今ははっきりとしない。また,原告が私を突き飛ばした際,その両手がパーの状 態であったかどうかについてもはっきりとした記憶はなく,もしかしたら手の甲の部分で押されたのかもしれない。 ⑵ 警備員Iの供述及び証言内容ア本件現行犯人逮捕に先立つ警備員Iの供述内容(乙A1)警備員Iは,本件現行犯人逮捕に先立ち,G警察官に対し,要旨,以下 のとおり供述した。 本件ダンプカーの通行を妨げようとした原告を被告Dが制止した。その際,原告が「警察でも,どこでも電話しろ」と怒鳴りながら,両手で被告Dを突き飛ばした。突き飛ばされた被告Dが,本件工事現場から出てきた本件ダンプカーの側面にぶつかった。 イ本件現行犯人逮捕後の警備員Iの警察官に対する供述内容(乙A4) - 42 -警備員Iは,平成28年10月7日,q 警察署の警察官に対し,要旨,以下のとおり供述した。 本件暴行事 イ本件現行犯人逮捕後の警備員Iの警察官に対する供述内容(乙A4) - 42 -警備員Iは,平成28年10月7日,q 警察署の警察官に対し,要旨,以下のとおり供述した。 本件暴行事件の当日も,いつものように午前8時から勤務についていた。 本件マンションの建設工事に反対している住民が午前8時半頃から午前9時半頃までの間,ダンプカー等の出入りを邪魔してくるので,その対応 を含め,交通整理やダンプカーの誘導を本件工事現場西側出入口前で行っていた。この時間帯は,住民とのトラブルを避けるため,被告Dも一緒に本件工事現場西側出入口付近の歩道上に立ち,交通整理や誘導を補助してくれていた。 すると,原告を含めた6名くらいの住民が本件工事現場西側出入口付近 に立ちはだかり,作業を妨害してきた。私は,安全の確保をしなければならないと思い,住民に移動するように指示した。原告以外の住民は,その場から離れたが,原告は,その後も動こうとしなかった。そこで,被告Dが原告の対応をしてくれた。被告Dは,原告に向かい合うようにして立ち,両手を広げて原告が本件工事現場の出入口前に出て行かないように制止 しながら,本件工事現場から出てくる本件ダンプカーを誘導していた。その後,原告は,被告Dを避けて,本件ダンプカーの前に立ちはだかろうとした。原告の接近に気づいた被告Dが,手を広げて原告を制止したところ,原告はその制止を振り切ろうとしていた。被告Dは,原告を注意するなどし,本件ダンプカーが通れるように必死に制止していた。そして,被告D が原告をやっとの思いで,移動させ,本件ダンプカーの通り道を確保し,本件ダンプカーが被告Dの後ろを通過しようとしたところ,本件ダンプカーの騒音等で何を言ったかは聞き取れなかったが,突然,原告が大声で叫んだ やっとの思いで,移動させ,本件ダンプカーの通り道を確保し,本件ダンプカーが被告Dの後ろを通過しようとしたところ,本件ダンプカーの騒音等で何を言ったかは聞き取れなかったが,突然,原告が大声で叫んだ。原告は,何かを叫ぶのと同時に,両手を思いっきり突き出して,被告Dの両胸を両手で突き飛ばした。被告Dは,突き飛ばされた際,後方を 通過していた本件ダンプカーの側面に背中をぶつけてよろけた。原告は, - 43 -手加減なしに突き飛ばした様に見えたので,被告Dは相当な勢いで本件ダンプカーに背中を打ち付けたに違いない。被告Dは,何とか体勢を立て直し,ふらふらとしながらもその場で携帯電話を取り出し警察に通報した。 私は,このような状況を,原告と被告Dがいた位置から3メートルくらい離れた位置に立って見ていた。なお,私の視力は,両眼とも0.7であ る。 ウ公判廷における警備員Iの証言内容(甲6)本件暴行事件の当日は,午前8時25分頃から本件工事現場西側出入口を開けて,工事車両が来るのを待っていた。そして,午前8時30分頃になると,ダンプカーが本件工事現場から出入りし始めたところ,原告が妨 害するため,ダンプカーが本件工事現場から出入りすることができないということがあり,被告Dが,原告の対応をしていた。 その後,本件工事現場から本件ダンプカーが出て行く際,双方が向かい合った状態で,原告が,被告Dの肩の下あたりを両手で突いたのを目撃した。そのときの原告と被告Dとの距離は,1メートルぐらいであったと思 う。また,原告が両手で被告Dを押した際,原告の両手は平手であったように見えた。原告から押された被告Dは,その後,自分の体を支えられずにそのまま後ろに倒れていって,本件ダンプカーに当たった。本件ダンプカーに接触した箇所は, Dを押した際,原告の両手は平手であったように見えた。原告から押された被告Dは,その後,自分の体を支えられずにそのまま後ろに倒れていって,本件ダンプカーに当たった。本件ダンプカーに接触した箇所は,背中のやや右側であった。 原告が本件暴行事件の当時,携帯電話を手に持っていたかどうかについ ては,記憶がない。また,被告Dが両腕で原告の行動を阻止しようと抱きかかえるようにしたというような場面についても,見た記憶はない。さらに,原告が被告Dの胸を突いたところは目撃したが,その前に腕を組んでいたか下ろしていたかについても記憶がない。 ⑶ 原告の供述内容 ア本件現行犯人逮捕に先立つ原告の供述内容(乙A1) - 44 -原告が,本件現行犯人逮捕に先立ち,H警察官に供述した内容は,要旨,以下のとおりである。 歩道を歩いていたら現場監督の人が抱きかかえるような感じで,私の行く手を遮ってきたので振り払っただけだ。 イ本件現行犯人逮捕後,本件勾留請求前の原告の供述内容(乙A8) 原告が,本件現行犯人逮捕後の検察庁における弁解録取手続の際に供述した内容は,要旨,以下のとおりである。 被告Dの両胸を両手の手のひらで1回突いた覚えはない。私が本件工事現場付近にいたところ,被告Dが,私の両腕を被告Dの腕か手のひらで押さえつけてきたので,私が両腕を前だったか上の方に突き出した。そうし たところ,被告Dが後ろによろけて,本件ダンプカーの側面に背中を接触させた覚えである。ただ,この現場に,防犯カメラがあり,そこに私が被告Dの両胸を両手で1回突いている状況が,もし撮影されているのであれば,私がそのような行為をしたのだと思うが,なぜそのような行為をしたのか思い出せない。 ウ原告の検察官に対する供述内容 告Dの両胸を両手で1回突いている状況が,もし撮影されているのであれば,私がそのような行為をしたのだと思うが,なぜそのような行為をしたのか思い出せない。 ウ原告の検察官に対する供述内容(乙A9)原告は,平成28年10月19日,名古屋地方検察庁の検察官に対し,要旨,以下のとおり供述した。 本件勾留被疑事実については,被告Dの胸を両手で突き飛ばした記憶はなく,振り払っただけである。私は,本件マンションの建設工事に反対し ており,他の近隣住民と一緒に反対運動をしていた。毎朝,本件工事現場西側出入口付近の歩道に,私を含め近隣住民が集まり,工事の状況を監視し,本件工事現場で生じる粉じんのことについて被告Dら工事関係者に苦情を申し入れたりしていた。 本件暴行事件の当日も,本件工事現場西側出入口付近に近隣住民と集ま り,工事の監視等をしていた。そのとき,本件ダンプカーが本件工事現場 - 45 -西側出入口から歩道に出てこようとした。私は,嫌がらせの気持ちから本件ダンプカーの方に近づこうとしたが,被告Dが私と本件ダンプカーの間に入って,私を止めようとした。このときに,私と被告Dは,お互いに体と体が接触するような状態であったが,私は,自分を止めようとした被告Dを両手で振り払う動作をした。そうしたところ,被告Dは,後ろの方に よろけて,被告Dの背後を徐行中だった本件ダンプカーの側面に被告Dの背中付近がぶつかってしまった。その後,被告Dは,携帯電話で警察に電話をしていた。 エ公判廷における原告の供述内容(甲17)原告は,本件暴行被告事件の第3回公判期日で実施された被告人質問に おいて,要旨,以下のとおり供述した。 本件暴行事件の当日,本件工事現場から出入りするダンプカーの進行を邪魔した 原告は,本件暴行被告事件の第3回公判期日で実施された被告人質問に おいて,要旨,以下のとおり供述した。 本件暴行事件の当日,本件工事現場から出入りするダンプカーの進行を邪魔したことは一度もない。本件ダンプカーが本件工事現場から出ようとする際,被告Dは,歩道上にいた私の前に立ちはだかり,本件ダンプカーの運転手に対し,手で出るように合図をしていた。その際,私は腕を組ん だ状態で,左手に携帯電話を持っていた。被告Dが私に体を寄せて来るため,私は,それを避けるように,南側にいる近隣住民の方に向かって歩き出した。被告Dがなおも私の前に立ちはだかるので,私は反転して北の方に向かって歩き出した。すると,被告Dは,その後も,両手を広げ,私を追いかけるように体を接触させてきた。私はまた反転しようとしたが,被 告Dにブロックされ,私と被告Dとは正対する形になった。なお,本件暴行事件よりも前に,被告Dが私に体を接触させてきたことはない。 私は,被告Dと正対した形になった後,それを避けるために左の方に歩き出したところ,被告Dは,私に体を寄せて,私を抱きかかえるようにしてきた。私は,そのときも携帯電話を持った左手を上の状態にして腕組み をしていた。被告Dが私の体を抱きかかえた際,私は,かなりの圧力を感 - 46 -じたため,そこから逃れるために,体を右の方にひねり,右足を1歩下げた。そして,体をひねると同時くらいに,腕がほどけて,右腕は下に下がった。その際,右手,左手の手首から先の部分や持っていた携帯電話が被告Dの胸に接触したことはない。 警察の取調べにおいて,警察官から,私が被告Dの胸を突いたというの が防犯カメラに映っているというふうに何度も言われたが,検察庁の取調べでは,はっきりとは映っていないと言 触したことはない。 警察の取調べにおいて,警察官から,私が被告Dの胸を突いたというの が防犯カメラに映っているというふうに何度も言われたが,検察庁の取調べでは,はっきりとは映っていないと言われた。なお,警察でも検察庁でも,本件防犯カメラの映像を見せてはもらえなかった。 ⑷ 本件防犯カメラの映像についてア本件防犯カメラの内容 q 警察署の警察官は,平成28年10月7日,本件防犯カメラの映像の解析を行った。本件防犯カメラには,要旨,以下のような状況が記録されている(なお,以下の時刻は,いずれも,平成28年10月7日のそれを示す。)(甲19,乙A5)。 a 午前8時31分55秒原告が本件工事現場西側出入口前に他 の近隣住民と共に立っている状況。 b 午前8時38分8秒原告が本件工事現場西側出入口前に立ち,本件工事現場方面に向けて携帯電話をかざす状況。なお,原告の前方において,ダンプカーが本件工事現場西 側出入口から出庫しようとしている。 c 午前8時38分42秒原告が,本件工事現場西側出入口から出庫しようとするダンプカーの前を横切る状況。 d 午前8時41分53秒本件ダンプカーが本件工事現場西側出 入口から出庫しようとする際,原告が - 47 -腕組をして同出入口の片隅に立っている状況。 e 午前8時41分55秒本件ダンプカーが本件工事現場西側出入口から出庫しようとする際,同出入口の片隅に立つ腕組みをした原告の前 に,被告Dが原告に背を向けて立ちはだかる状況。 f 午前8時41分58秒被告Dが本件ダンプカーを車道の外に誘導しようとしている際,腕組みをした原告が,被告Dの後方から右斜め前 方に動き出す状況。 g 午前8時41分59秒腕 f 午前8時41分58秒被告Dが本件ダンプカーを車道の外に誘導しようとしている際,腕組みをした原告が,被告Dの後方から右斜め前 方に動き出す状況。 g 午前8時41分59秒腕組みをした原告が本件ダンプカーの前を横切ろうしているところを,被告Dが制止しようとする状況。 h 午前8時42分0秒腕組みをした原告が本件工事現場西側 出入口前の歩道上の中央付近を歩いているところを,被告Dが制止しようとする状況。 i 午前8時42分2秒腕組みをした原告が本件工事現場西側出入口前の歩道上を歩いているところ を,被告Dが原告の方に背を向けて制止しようとする状況。 j 午前8時42分3秒両手を広げた被告Dが,腕組みをした原告の方を向いて,本件工事現場西側出入口の片隅に誘導しようとする状況。 k 午前8時42分5秒両手を広げた被告Dが,本件工事現場 - 48 -西側出入口の片隅で,腕組みをした原告の前に正対して立ちはだかる状況。 なお,その際,本件ダンプカーが同出入口から歩道上に出庫しようとしている。 l 午前8時42分10秒両手を広げた被告Dが,腕組みをした原告の前に立ち,本件ダンプカーの方を向いている状況。なお,原告の右隣りから,日傘をさした女性が本件工事現場西側出入口前の歩道を横切ろうと している。 m 午前8時42分16秒本件工事現場西側出入口から本件ダンプカーが歩道上に出ようとする際,同出入口の片隅で腕組みをした原告の前に,両腕を広げた被告Dが,原告に正 対して立ちはだかる状況。 n 午前8時42分17秒本件工事現場西側出入口から本件ダンプカーが歩道上に出ようとする際,両腕を広げた被告Dの前から,腕組みをした原告が,本件ダ 原告に正 対して立ちはだかる状況。 n 午前8時42分17秒本件工事現場西側出入口から本件ダンプカーが歩道上に出ようとする際,両腕を広げた被告Dの前から,腕組みをした原告が,本件ダンプカーの方に向 けて,左斜め前方に前進しようとする状況。その後,被告Dが,腕組みをした原告の前に正対し,広げた両腕をやや前方に移動させ,原告の体を抱え込むような体勢をとった状況。 o 午前8時42分18秒両腕で原告を抱え込むような体勢をと - 49 -った被告Dと腕組みをした原告とが体を接着させて正対する状況。その後,被告Dに抱えられる形となった原告の体が右側に少し回転するとともに腕組みをした腕が上昇した後,被告Dの体 が後方に移動する状況。なお,その後,原告の右足が後方に下がっている。 p 午前8時42分19秒本件工事現場西側出入口から車道に向けて徐行中の本件ダンプカーの側面に被告Dの右背中付近が接触している状 況。なお,その際,被告Dは,両腕を上方に挙げて,原告の方を向いており,原告は,その前で腕組みをほどいた状態で立っている。その後,被告Dは原告の方に歩み寄っている。 本件防犯カメラにおいては,1秒間の再生に5枚の静止画像が用いられているところ,別紙(別紙添付省略)は,午前8時42分16秒から午前8時42分18秒までのすべての静止画像を抽出したものである(以下,画像1ないし20をそれぞれ番号順に「静止画像1」ないし「静止画像20」といい,これらを併せて「本件各静止画像」という。)。 イ N鑑定等の内容(甲7,13)N鑑定における嘱託事項N鑑定における嘱託事項は,要旨,本件防犯カメラの映像に映る原告の頭頚部の位置関係,原告の肘関節,肩関節の各動きの 。)。 イ N鑑定等の内容(甲7,13)N鑑定における嘱託事項N鑑定における嘱託事項は,要旨,本件防犯カメラの映像に映る原告の頭頚部の位置関係,原告の肘関節,肩関節の各動きの中から,①左右の腕ないし手の交差を解いてから両手を前方に突き出したという動きや ②左右の腕ないし手を交差させたまま両手を前方に突き出したという動 - 50 -きを観察することができるか,というものである。 N鑑定等の内容a 上記①の場合について,左右の腕ないし手の交差を解いてから両手を前方に突き出す場合,その背面では,屈曲した肘関節が体幹の側方に位置し,その後,上腕部が上がり,肘関節が前方へと消えていく状 況とともに,頚部も前傾して体重全体が前方へ進んでいく状況が確認できなければならないが,そのような状況を本件各静止画像から確認することはできない。また,上記②の場合については,そもそも左右の腕ないし手を交差させたまま両手を前方に突き出すこと自体人体解剖学的に困難である。 b また,静止画像12と13の2枚の画像を見れば,撮影間隔は5分の1秒であり,この間に原告はその右腕で被告Dの左腕を水平位置にあげてから(静止画像12),その次には,自らの右腕を自らの体幹横につけている(静止画像13)。つまり,原告の右腕は,前方から下げられたのであって,後方への力は働いているが,この間に,前方に押 す力は一切働いていないことになる。一方,組んでいる腕を前方に挙げた静止画像11及び12では,原告の体長が短くなっているところ,これは,腰を後方に引いているからだと考えられる。つまり,腕を抜くためにここでも力は後方に引かれていると考えられる。前方への力があるとすれば,組んでいる腕を前方に水平上にしたときに押された も れは,腰を後方に引いているからだと考えられる。つまり,腕を抜くためにここでも力は後方に引かれていると考えられる。前方への力があるとすれば,組んでいる腕を前方に水平上にしたときに押された ものが考えられるが,この力で被告Dが後方に突き倒されるというのには疑問が残る。 さらに,肩関節が最も顕著に運動している静止画像12では,肩関節は内側に回旋しているところ,これは,単純に腕を組んでいる状態で抱きかかえられた場合に,それを外す際の後方観に合致する。静止 画像12の後方観から,上腕と前腕を前方に突き出す動きを確認する - 51 -ことはできない。仮に静止画像12の後方観で上腕と前腕を前方に突き出だしたと仮定すると,肩関節を挙上している状態から一度上腕を後方に戻し,そこから再び上腕と前腕を前方に突き出して被告Dを押し,すぐに上腕を体幹横に戻すという行為をしなければならないが,そのような一連の行為を5分の1秒で行うことは不可能である。 c なお,本件各静止画像から確認できる被告Dの動きには,以下のような不自然な点が見られる。 まず,制止画像12によれば,被告Dの膝関節は屈曲状態にあることから重心も低く,つま先も原告に向いていることから,姿勢は前方からの力に対抗している姿勢であり,このような姿勢で後方に下がっ ていくとは考え難い。また,制止画像14によれば,被告Dの両足のかかとが浮いている状況が確認でき,被告Dの重心は前にあると考えられるところ,前方から力が加わった際の状況としては不自然である。 そして,静止画像14及び15によれば,前記のとおり,被告Dの下半身は安定した状態にあるのに,上半身だけが,両腕が上に挙がり不 安定な体勢が作られている点は不自然である。さらに,静止画像12ないし16または13 及び15によれば,前記のとおり,被告Dの下半身は安定した状態にあるのに,上半身だけが,両腕が上に挙がり不 安定な体勢が作られている点は不自然である。さらに,静止画像12ないし16または13ないし17は1秒間の状況をコマ送りに撮影されたものであるところ,これらをみると被告Dの両腕が明らかにスローモーション的に挙がっており,不自然である。 ⑸ 本件無罪判決の内容(甲8) ア本件無罪判決は,被告Dと原告とが体を接着させた直後,原告は何らかの動きをして右足を後方へ下げ,被告Dは何らかの衝撃を受けて後ろによろめいて,本件ダンプカーの右側面に接触したと認定しつつ,要旨,以下のとおり判示して,原告が両手で被告Dの胸を1回強く突き,その背中を徐行中の本件ダンプカーの側面に接触させたという事実を認めるに足りる 証拠はなく,本件公訴事実については犯罪の証明がないとして,原告を無 - 52 -罪とした。 イすなわち,被告Dは,原告から両手で胸を突かれた旨証言するが,その具体的状況に関し曖昧な証言をするにとどまっている。被告Dの視認条件を検討すると,被告Dの証言によれば,被告Dは,再三の制止にもかかわらず本件ダンプカーの方へ前進を続ける原告を身を挺して止めようと考え ていたことからすると,原告の前進を止めることに意識を向けていたと認められ,被告Dには,原告の両腕の動きを注意して見るだけの余裕がなかったと考えるべきであり,被告Dが,上記のとおり,原告の両腕の状態等について曖昧な内容の証言をするにとどまっていることも併せると,両手で胸を突かれたとの証言には被告Dの推測に基づいた内容が含まれている とみるべきである。 そして,被告Dは,現場に臨場した警察官に対し,原告が,突然,両腕を思いっきり突きだし,自分の両胸 で胸を突かれたとの証言には被告Dの推測に基づいた内容が含まれている とみるべきである。 そして,被告Dは,現場に臨場した警察官に対し,原告が,突然,両腕を思いっきり突きだし,自分の両胸を押して突き飛ばしたと説明しているが,本件防犯カメラの映像上では,少なくとも原告が組んだ両腕をほどいた様子は認められないし,原告と被告Dとの体の接着はそれなりの勢いを 伴って生じたことも考えられ,被告Dの受けた衝撃が,原告の組んだ両腕がその意図によらずに被告Dに接触したことによって生じたとも考えられる。そうすると,再三の注意にもかかわらず本件ダンプカーの方に前進しようとする原告の言動を見た被告Dが,何かあれば警察に通報しようとの考えを有したまま何らかの衝撃を受けたことで原告から両胸を両手で突か れたものと誤認した可能性を否定することはできない。 また,本件防犯カメラは,原告の後方に設置されていたため,本件防犯カメラの映像に,原告の両手の動き自体は記録されておらず,被告Dの証言の核心部分である原告から両手で胸を突かれたとの証言の信用性を高めるだけの整合性があるということはできない。 さらに,警備員Iの証言についても,原告が被告Dを両手で突いた場面 - 53 -に関し,被告Dと原告との距離が1メートルくらいあったとする点は前提とする事実関係を異にしている。また,警備員Iは,原告が被告Dの胸を突いた瞬間については目撃したと述べるものの,その前後に目撃したものは覚えておらず,原告の暴行を目撃したきっかけすら明確に述べることができていない。そうすると,警備員Iの証言の信用性には疑問があり,そ の内容も被告Dの証言と整合しているとはいえない。 他方,原告は,被告Dに暴行を加えたことを一貫して否定し,被告Dからその できていない。そうすると,警備員Iの証言の信用性には疑問があり,そ の内容も被告Dの証言と整合しているとはいえない。 他方,原告は,被告Dに暴行を加えたことを一貫して否定し,被告Dからその両腕を自身の左右から背面へ回し込むようにされたときに自身の両腕にかなりの圧力を感じたことからそこから逃れようと,反射的に体を右の方にひねり,右足を一歩後ろに下げただけであると供述する。これらの 供述には,本件ダンプカーの方へ近づこうとしたことはないなど本件防犯カメラの映像と明らかに整合しない内容も認められるが,被告Dによる再三の制止にもかかわらず本件ダンプカーの方へ前進した原告の行動と被告Dの両胸を手で突くという行動とは必ずしも結びつくものではなく,被告Dに腹を立ててその胸を突いたものとしか考えられないといえる程の事情 ではない。 3 争点1(本件現行犯人逮捕等の違法性)及び争点2(本件勾留請求等及び本件公訴の提起の違法性)について⑴ 本件現行犯人逮捕についてア判断 現行犯人性被告Dは,本件現行犯人逮捕に先立ち,G警察官らに対し,本件ダンプカーの進行を妨害する原告を制止すると,原告が「警察でもどこでも電話しろ」と大声で叫びながら近づき,突然,両腕を思いっきり突き出し,私の両胸を押して突き飛ばし,これによって,徐行中の本件ダンプ カーの側面に背中をぶつけた旨申告したところ(前記2⑴ア),この供述 - 54 -は,警備員Iの供述内容(前記2⑵ア)とよく整合する。 また,本件防犯カメラは原告の背後に設置されており,本件防犯カメラの映像を見ても,原告が両腕を突き出し,被告Dの両胸を押して突き飛ばした様子を確認することはできないものの,原告が本件工事現場西側出入口前方の歩道を往復し,本件ダン に設置されており,本件防犯カメラの映像を見ても,原告が両腕を突き出し,被告Dの両胸を押して突き飛ばした様子を確認することはできないものの,原告が本件工事現場西側出入口前方の歩道を往復し,本件ダンプカーの進行を妨害する状況や それを被告Dが制止する状況を確認することができ(前記2⑷ア),この点は,被告Dの被害申告や警備員Iの供述とよく整合する。さらに,本件暴行事件に係る被害状況についても,本件防犯カメラの映像によれば,被告Dに抱えられる形となった原告の体が右側に少し回転するとともに腕組みをした腕が上昇した後,被告Dの体が後方に移動する状況を 確認することができる(前記2⑷アo,静止画像11及び12)。そして,このような状況からすると,少なくとも原告の何らかの動作により被告Dに力が加わり,これによって被告Dの体が後方に移動したように見えるのであって,少なくともその限度においては,被告Dの被害申告や警備員Iの供述の信用性を補強するものと評価できる。 以上の事情に加え,原告自身においても,歩道を歩いていたら被告Dが抱きかかえるような感じで,私の行く手を遮ってきたので振り払っただけである旨供述し(前記2⑶ア),被告Dと原告との間で道路の通行を巡るトラブルがあったこと自体は認めていたことからすると,原告が「現行犯人」に当たらないと認めることはできない。 逮捕の必要性原告が本件暴行事件に係る犯行を否認していたこと(前記2⑶ア),原告がかねてより近隣住民と共に本件マンションの建設工事に対する反対運動を行っていたこと(前記前提事実⑴ア)などの事情に加え,被告Dや警備員I等の事件関係者から詳細な取調べが未了であるといった本件 現行犯人逮捕の時点での証拠の収集状況を踏まえれば,本件現行犯人逮 - 55 (前記前提事実⑴ア)などの事情に加え,被告Dや警備員I等の事件関係者から詳細な取調べが未了であるといった本件 現行犯人逮捕の時点での証拠の収集状況を踏まえれば,本件現行犯人逮 - 55 -捕の時点において,被告Dや警備員Iに対して働きかけを行ったり,近隣住民との間で口裏合わせを行ったりするなどの罪証隠滅のおそれがあったと認められる。 また,G警察官は,本件証人尋問において,本件現行犯人逮捕に先立ちH警察官が原告に任意出頭を求めたが,原告がこれを拒否した旨証言 する。原告は,H警察官から任意出頭を求められた事実を明確に否定するものの(原告本人,甲38),本件工事現場西側出入口付近でH警察官と話した後,出勤時刻である午前9時10分に間に合わせるために白衣を取りに自宅の方に歩いて向かったこと自体は認めているし(原告本人,甲38),現に本件現行犯人逮捕が原告方西側歩道上において行われてい ること(前記前提事実⑵イ)からすると,少なくとも,原告が本件暴行事件の後に本件暴行事件の現場を離れたことは認められる。この事実に加え,前記のとおり,原告が本件暴行事件に係る犯行を否認していること等を踏まえると,たとえ仕事が終わった後に原告の方からq 警察署に出頭する旨を原告がG警察官らに伝えていたとしても,本件現行犯人逮 捕の時点では,原告において,逃亡のおそれがなかったということはできない。 以上の事情によれば,本件現行犯人逮捕につき,逮捕の必要性がなかったとはいえない。 以上によれば,本件現行犯人逮捕につき,刑事訴訟法上必要とされる 要件が欠如していたとは認められず,本件現行犯人逮捕が国家賠償法上違法の評価を受ける余地はない。 イ原告の主張について現行犯人性についてa 主張の要旨 必要とされる 要件が欠如していたとは認められず,本件現行犯人逮捕が国家賠償法上違法の評価を受ける余地はない。 イ原告の主張について現行犯人性についてa 主張の要旨 これに対し,原告は,本件現行犯人逮捕は,被告Dや警備員Iの各 - 56 -供述を鵜呑みにしてなされたものであり,原告が「現行犯人」に当たることが,逮捕時点における具体的な状況に基づいて客観的に判断されたとはいえず,原告は「現行犯人」に当たらないと主張する。そして,G警察官らにおいて被告Dや警備員Iの各供述を鵜呑みにしていたことを基礎づける事情として,①原告の供述と被告Dの被害申告を 相互に突き合わせて確認するとともに客観的証拠である本件防犯カメラの映像を十分に精査したりすることもなく,また,②近隣住民からの事情聴取すら行わなかったことを主張する。 b 原告の①の主張について原告の①の主張に関し,原告は,本件防犯カメラの映像をよく見れ ば,原告は,自分を両腕で抱え込むようにしてきた被告Dから逃れるために,右側に体をひねりながら右足を後方に下げており,前方に力を加えていないことや原告が左手に携帯電話を持っており,原告が被告Dの両胸を両手の手のひらで突くことはできないということを確認することができ,これらの点からすると,本件防犯カメラの映像は, 原告の上記供述と矛盾する点はなく,他方,本件防犯カメラの映像から被告Dの被害申告に係る暴行の事実があると判断することはできなかったはずであると指摘する。 確かに本件防犯カメラの映像を見ると,原告の右足が後方に下がっている状況を確認することができる(前記2⑷アo,静止画像12 及び13)。しかしながら,他方,原告の右足が後方に下がる前に,被告Dに抱えられる形となった原 見ると,原告の右足が後方に下がっている状況を確認することができる(前記2⑷アo,静止画像12 及び13)。しかしながら,他方,原告の右足が後方に下がる前に,被告Dに抱えられる形となった原告の体が右側に少し回転するとともに腕組みをした腕が上昇した後,被告Dの体が後方に移動する状況も確認できるのは前記のとおりである。そして,この状況と併せてみれば,原告の右足が後方に下がっているのは,原告の何らかの動作により被 告Dに加わった力が,その反動により原告に対しても衝撃を与えたか - 57 -らであると解釈することもできるのであって,原告の右足が後ろに下がったという事実によって本件逮捕被疑事実の存在が直ちに否定されるものとみることはできない。また,確かに本件防犯カメラの映像によれば,本件暴行事件の前,原告が本件工事現場方面に向けて携帯電話をかざす状況を確認することができ(前記2⑷アb),その後,原 告が同携帯電話をポケット等にしまった状況を確認できないことからすると,本件暴行事件の際,原告は,左手に携帯電話を持っていたと考えられる。しかし,この事情が,被告Dの被害申告の内容の信用性を完全に否定するものとはいえない。そして,本件防犯カメラの映像は,本件ダンプカーの進行を妨害しようとする原告を被告Dが制止し ていた状況が映されているという点で,被告Dや警備員Iの各供述とよく整合し,また,本件暴行事件に係る被害状況についても,少なくとも原告の何らかの動作により被告Dに力が加わり,これによって被告Dの体が後方に移動することになった可能性があるという点で,被告Dや警備員Iの各供述と整合することは前記のとおりである。 以上によれば,原告の①の主張は採用することができない。 c 原告の②の主張について次に, なった可能性があるという点で,被告Dや警備員Iの各供述と整合することは前記のとおりである。 以上によれば,原告の①の主張は採用することができない。 c 原告の②の主張について次に,原告の②の主張について検討するに,現行犯人逮捕の判断には緊急性が求められるから,その判断のための捜査には自ずから限界があるといわなければならない。本件においても,前記⑴アのとお り,原告が本件暴行事件の現場から立ち去った状況が認められるのであり,本件現行犯人逮捕を行うべき緊急性は高かったというべきである。 G警察官らは,そのような緊急性が求められる状況の下で,被害者とされる被告Dからの事情聴取はもとよりのこと,原告自身からの事 情聴取や警備員Iからの事情聴取に加え,本件暴行事件の客観的証拠 - 58 -である本件防犯カメラの映像の確認といった捜査を実施している。そして,これらの捜査によって得られた各証拠を踏まえて検討すれば,原告が「現行犯人」に該当すると判断できることは前記のとおりであるところ,G警察官らにおいて,本件現行犯人逮捕の際,本件マンションの建設工事に対する反対運動をしていた近隣住民からの事情聴取 を実施しなかったからといって,そのことが直ちに逮捕の違法に結びつくものではないというべきである。 したがって,原告の②の主張は採用することができない。 逮捕の必要性についてa さらに,原告は,本件現行犯人逮捕が逮捕の必要性がないのになさ れたものであると主張し,これを基礎づける事情として,①G警察官らは,本件現行犯人逮捕の際,既に被告Dや警備員Iからの事情聴取を行っており,本件防犯カメラの映像という客観的証拠も存在するのであるから,原告が,被告Dや警備員Iを脅して,自己に有利な供述をさせる可 は,本件現行犯人逮捕の際,既に被告Dや警備員Iからの事情聴取を行っており,本件防犯カメラの映像という客観的証拠も存在するのであるから,原告が,被告Dや警備員Iを脅して,自己に有利な供述をさせる可能性は極めて低いこと,また,②原告は自宅で家族と共に 生活し,薬局3店舗を経営する経営者であるから,逃亡する可能性も極めて低いことを指摘する。 b しかしながら,本件防犯カメラの映像は,原告の背後から本件暴行事件の状況を撮影したものであり,本件暴行事件の状況を明確に記録するものではなかったし,本件現行犯人逮捕の時点で,被告Dや警備 員Iから,本件暴行事件に至る経緯や被害の態様等について詳細な事情聴取が行われていなかったこと等の事情を踏まえれば,原告の①の主張は採用することができない。 また,前記⑴アに適示した事情を踏まえて検討すれば,たとえ原告が自宅で家族と共に生活し,薬局3店舗を経営する経営者であるこ とを踏まえても,原告について逃亡のおそれが全くなかったとまでい - 59 -うことはできない。そうすると,本件現行犯人逮捕について逮捕の必要性がないとは認められず,原告の②の主張も採用することができない。 ⑵ 本件各取調べについてア原告の主張 原告は,本件各取調べは,原告をして「ひょっとしたら,自分の記憶に無いだけで,Dさん(被害者)の胸を突いたのかもしれない」と思い込ませ,心理的なプレッシャーをかけることにより,自白を強要しようとしたものにほかならず,違法である旨主張する。そして,そのような違法な取調べの具体的な内容として,L警察官らは,本件各取調べの中で,原告に 対し,「防犯カメラの画像に,お前がDさん(被害者)の胸を突いている様子がはっきり写っている」と何度も告げ,これに対し,原告が べの具体的な内容として,L警察官らは,本件各取調べの中で,原告に 対し,「防犯カメラの画像に,お前がDさん(被害者)の胸を突いている様子がはっきり写っている」と何度も告げ,これに対し,原告が「だったら,防犯カメラの画像を見せて欲しい」と頼んでも,決して本件防犯カメラの映像を見せようとはせず,ただ,上記の言葉を繰り返すのみであった旨主張し,本件本人尋問においても,それに沿う供述をする。 イ判断しかしながら,L警察官らは,本件証人尋問において,本件各取調べの中で,原告を「お前」と呼んだことを明確に否定する。また,原告が本件暴行事件に係る犯行を否認している段階では,本件防犯カメラの映像を呈示しないというq 警察署の捜査方針に従い,原告から本件防犯カメラの映 像を見せてほしい旨申し立てられた際には,これを見せることはできない旨説明し,また,本件防犯カメラの映像の内容について原告から説明を求められた際には,事件の状況を撮影したものである旨抽象的な説明をしたにとどまる旨証言する。 q 警察署の上記のような捜査方針は,否認段階の原告に本件防犯カメラ の映像を呈示することで捜査に対する対抗策を採られることを防止すると - 60 -いう目的に出たものであると考えられるところ,そのような目的自体合理性が認められるものであり,このような捜査方針に基づく上記対応が不自然であるとはいえない。さらに,原告は,本件暴行被告事件の被告人質問において,上記の点に関する不満を供述しているものの(前記2⑶エ),原告は,本件本人尋問において,接見に来た弁護人に対し,上記のような取 調べについて何ら苦情を申し立てたことはないと認めているのである。そして,現に,原告が一貫して本件暴行事件に係る犯行を否認し続けていたことからすれば て,接見に来た弁護人に対し,上記のような取 調べについて何ら苦情を申し立てたことはないと認めているのである。そして,現に,原告が一貫して本件暴行事件に係る犯行を否認し続けていたことからすれば,L警察官らにおいて,原告の主張するような取調べを行った事実を認めることはできないし,仮にこれがあったとしても,それにより,原告において,本件各取調べが違法になるほどの心理的プレッシャ ーが生じたと認めるには足らない。少なくとも防犯カメラの映像は客観的かつ事後的に変容が加えられるものではなく,共犯者の取調べの場合における切り違え尋問のように,他方の共犯者が捜査官の働きかけにより客観的な事実と異なる供述を行うおそれがある場合と本件とは異なるのであり,被疑者が被る心理的プレッシャーの程度も大きく異なるというべきである から,切り違え尋問の場合と同視することはできない。 ウ以上によれば,本件各取調べについて,原告の主張するような違法は認められず,本件各取調べが国家賠償法上違法の評価を受ける余地はない。 ⑶ 本件各捜索差押えについてア判断 本件各捜索差押許可状において,差し押さえるべき物とされた物は,原告の犯行動機,生活状況を明らかにする日記,カレンダー,携帯電話等であるところ(前記前提事実⑵キ),本件暴行事件が,かねてより本件マンションの建設工事に反対していた原告と本件マンションの建設工事を行う被告会社の従業員である被告Dとの間で発生したものであり,偶発的に生じ た事件ではなく,背景を伴った事件であると捉えられ得ること,原告が本 - 61 -件暴行事件に係る犯行を否認していたことからすると,本件暴行事件の背景事情等を明らかにすべき必要性があったといえる。そして,上記のような原告の供述状況等に照らせば, と,原告が本 - 61 -件暴行事件に係る犯行を否認していたことからすると,本件暴行事件の背景事情等を明らかにすべき必要性があったといえる。そして,上記のような原告の供述状況等に照らせば,原告において任意に本件各捜索差押えに係る差押目的物を提出するものとは考え難く,強制捜査によってこれらの物件を取得すべき必要性があったといえる。そうすると,本件各捜索差押 えは,いずれも必要性の要件を欠いていたとは認められず,国家賠償法上違法の評価を受ける余地はない。 イ原告の主張についてこれに対し,原告は,本件各捜索差押えは,必要性の要件を満たさないにもかかわらず行われたものであると主張する。そして,これを基礎 づける事情として,①本件暴行事件の証拠を差し押さえる必要が本当にあったのであれば,より早期に捜索差押えが行われていたはずであること,②q 警察署の警察官らは,原告方及び薬局3店舗のいずれにおいても,積んである書類をぱらぱらめくったり,いったんはパソコンを持ち帰ろうとしたものの,結果としては何も差し押えることはなかったこと を指摘する。 しかしながら,上記①の点について,被告県は,本件各捜索差押えが勾留期間満了日の前日となったことに関し,捜索すべき場所の特定に係る捜査に時間を要したことに加え,関係箇所に対する捜索を同時に行うための人員を確保する必要を考慮した結果に過ぎないと主張する。この ような主張を排斥するに足りる証拠はなく,本件勾留期間満了日の前日に本件各捜索差押えが行われたことから,直ちに本件各捜索差押えの必要性がなかったということはできない。 また,上記②の点についても,そもそも捜索差押えは被疑事実に関係があると思料される物件の取得を目的とするものであり,差し押さえる べき物が必ず えの必要性がなかったということはできない。 また,上記②の点についても,そもそも捜索差押えは被疑事実に関係があると思料される物件の取得を目的とするものであり,差し押さえる べき物が必ず捜索すべき場所に存在するとは限らない。本件各捜索差押 - 62 -えにおいて,差し押さえるべき物がなかったとして何らの物件も差し押さえられなかったとしても,そのことから,直ちに本件各捜索差押えの必要がないということはならない。そして,q 警察署の警察官らによる本件各捜索差押えの状況が原告の主張するとおりであったと認めるに足りる証拠はないし,また,原告の主張によってもパソコンを持ち帰ろう とはしているのであるから,q 警察署の警察官において,およそ必要性のない捜索差押えを行っていたものとはいえず,原告の上記主張は採用することができない。 ⑷ 本件勾留請求等についてア判断 勾留請求及び勾留期間延長請求は,刑事事件において無罪判決がなされたというだけで直ちに違法となるものではなく,当該請求の時点において,捜査により現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案して,刑事訴訟法上の要件を欠くことが明らかであるにもかかわらずあえて当該請求をしたと認め得るよ うな事情がある場合に限り,国家賠償法上違法の評価を受けるものと解するのが相当である。 犯罪の嫌疑本件勾留請求の時点までに,被告Dの警察官調書が作成されていたところ,被告Dは,自身の後方にいた原告が本件ダンプカーの進行を妨害 しようと前に出て来たため,原告の方を振り返り,原告を制止したところ,原告が,突然,両手で自身の胸を押すようにして突き飛ばしてきた,突き飛ばされた際に,自身の後方を本件ダンプカーが走行していた しようと前に出て来たため,原告の方を振り返り,原告を制止したところ,原告が,突然,両手で自身の胸を押すようにして突き飛ばしてきた,突き飛ばされた際に,自身の後方を本件ダンプカーが走行していたため,本件ダンプカーの荷台部分のところに背中を強打したなどと供述するところ(前記2⑴エ),これらの供述は,同じく本件勾留請求の時点までに 作成された警備員Iの供述調書(前記2⑵イ)の内容とよく整合する。 - 63 -また,本件防犯カメラの映像を見れば,原告が本件工事現場西側出入口前方の歩道を往復し,本件ダンプカーの進行を妨害する状況やそれを被告Dが制止する状況を確認することができることは前記のとおりであり,この点は,被告Dや警備員Iの上記各供述とよく整合する。さらに,本件暴行事件に係る被害状況についても,前記のとおり,本件防犯カメラ の映像によれば,少なくとも原告の何らかの動作により被告Dに力が加わり,これによって被告Dの体が後方に移動したように見えることが認められ,この点も被告Dや警備員Iの上記各供述の信用性を補強するものと評価することができる。 さらに,被告Dが本件暴行事件に係る暴行により全治1週間の左背部 打撲の傷害を負ったという点についても,確かに同受傷部位が本件防犯カメラの映像から確認できる本件ダンプカーとの接触部位と整合しない点はあるとしても,同受傷については本件診断書による裏付けが存在し(前記2⑴ウ),同受傷が本件暴行事件に係る暴行以外の原因によって生じたことをうかがわせる証拠はなかったことからして,相応の嫌疑があ ったというべきである。そうすると,本件勾留請求の時点において,原告には本件勾留被疑事実につき,「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」がなかったとはいえない。 勾留の理由及 疑があ ったというべきである。そうすると,本件勾留請求の時点において,原告には本件勾留被疑事実につき,「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」がなかったとはいえない。 勾留の理由及び必要性そして,本件暴行事件に係る犯行を否認しているという原告の供述状 況や前述した原告と被告D及び被告会社との関係性,いまだ本件暴行事件に至る経緯等について,被告Dや警備員I等に対する詳細な取調べが行われていないといった本件勾留請求時点までの証拠の収集状況等に照らせば,原告には,本件暴行事件につき罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があることを否定することはできない。さらに,これらの事 情に加え,原告が本件現行犯人逮捕に際し,本件暴行事件の現場を立ち - 64 -去ったとの事実も併せ考慮すれば,逃亡すると疑うに足りる相当な理由があることも否定することはできず,勾留の必要性もなかったとは認められない。 勾留期間を延長する「やむを得ない事由」被告国は,本件勾留期間延長請求の時点までに,本件防犯カメラの映 像の精査,検察官による被告Dの取調べ,原告の取調べ等の捜査を行っていたものの,その後も,検察官による警備員Iの取調べや被告Dの負傷状況について医師からの事情聴取,さらには,これらを踏まえた原告の取調べ等所要の捜査を行う必要があったと主張する。本件勾留期間延長請求の時点までに,被告Dに対する詳細な検察官取調べが行われてお り(前記2⑴オ),また,原告に対する取調べも複数回実施されていた(前記前提事実⑵オ,前記2⑶ウ)ところ,これらの各供述の信用性を検討する上では,警備員Iに対し,詳細な取調べを実施する必要があったといえる。また,本件防犯カメラの映像から確認できる被告Dと本件ダンプカーの接触状況と 前記2⑶ウ)ところ,これらの各供述の信用性を検討する上では,警備員Iに対し,詳細な取調べを実施する必要があったといえる。また,本件防犯カメラの映像から確認できる被告Dと本件ダンプカーの接触状況と本件診断書に記載された受傷部位とに食い違いがあ ることからすると,原告を傷害の事実で起訴するかどうかを検討するに当たっては,本件診断書の信用性に関し医師からの事情聴取を行う必要性は高かったといえる。そうであるとすれば,本件勾留について勾留期間を延長する「やむを得ない事由」がなかったと認めることはできない。 以上によれば,J検察官において本件勾留被疑事実について勾留の要 件が存在するとして本件勾留請求を行い,M検察官において勾留期間を延長する「やむを得ない事由」が存在するとして本件勾留期間延長請求を行った点について,刑事訴訟法上の要件を欠くことが明らかであるにもかかわらずあえて当該請求をしたと認め得るような事情があるとは認められず,本件勾留請求等が国家賠償法上違法の評価を受ける余地はな い。 - 65 -イ原告の主張について犯罪の嫌疑についてa これに対し,原告は,①本件暴行事件に係る犯行を当初から否認する原告の供述は,被告Dや警備員Iの各供述と真っ向から対立している状況にあったこと,②本件防犯カメラの映像を丁寧に確認すれば, 原告が前方に力を加えておらず,むしろ腰を後ろに引き,体を右方向にひねるとともに右足を一方後ろに下げていること,被告Dの倒れ方が不自然であることは明らかであったこと,③被告Dは負傷したと供述していたにもかかわらず,特に痛がるそぶりを見せることなく,そのまま現場監督の仕事を続けていたこと,④被告Dの提出した本件診 断書には「左背部打撲」と記載されていたところ,本件防犯カメ と供述していたにもかかわらず,特に痛がるそぶりを見せることなく,そのまま現場監督の仕事を続けていたこと,④被告Dの提出した本件診 断書には「左背部打撲」と記載されていたところ,本件防犯カメラの映像によれば,仮に被告Dの体が本件ダンプカーに接触していたとしても,その部位は左背部ではなく右背部であることが明らかであることなどを指摘して,原告には,本件勾留被疑事実について「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」があったとはいえないことは明ら かであると主張する。 b しかしながら,上記①の点については,原告が本件暴行事件に係る犯行を当初から否認しており,その供述が被告Dや警備員Iの各供述と真っ向から対立しているとしても,被告Dや警備員Iの各供述に加え,本件防犯カメラの映像等によれば,原告において本件勾留被疑事 実に係る罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がなかったとは認められないことは,前記のとおりである。そして,上記②の点についても,本件防犯カメラの映像を見れば,原告の右足が後方に下がった状況が確認できる一方で,その前に,被告Dに抱えられる形となった原告の体が右側に少し回転するとともに腕組みをした腕が上昇した後, 被告Dの体が後方に移動する状況も確認することができ,この点も踏 - 66 -まえて検討すれば,原告の右足が後方に下がっているのは,原告の何らかの動作により被告Dに加わった力が,その反動により原告に対しても衝撃を与えたからであると解釈することもできることは前記のとおりであり,原告の右足が後ろに下がったという事実が本件勾留被疑事実の存在を全く否定するものとみることはできない。また,本件防 犯カメラの映像を確認しても,被告Dの倒れ方が一見して不自然であるとまでは読み取ることはできない。さ ったという事実が本件勾留被疑事実の存在を全く否定するものとみることはできない。また,本件防 犯カメラの映像を確認しても,被告Dの倒れ方が一見して不自然であるとまでは読み取ることはできない。さらに,上記③④の点についても,前記のとおり,被告Dが「左背部打撲」の傷害を負ったことについては本件診断書による裏付けがある上,その受傷の原因としては,本件暴行事件の他に考えられることはなかったこと,被告Dの傷害が 重傷というものではなかったこと,傷害を負った者が直接受傷した部位のみならず,関連痛等の他の部位に痛みを訴えることは一般にあり得ること等に照らせば,本件勾留請求に係る被疑事実に傷害の事実を加えたことに違法があるとは認められない。したがって,原告の上記主張は,いずれも採用することができない。 勾留の理由及び必要性についてa 次に,原告は,①本件暴行事件については,本件防犯カメラの映像が存在するところ,本件防犯カメラの映像については,本件現行犯人逮捕の時点で,被告会社から警察に任意提出されており,この点に対する証拠隠滅の可能性は考えられないこと,被告Dや警備員Iに対し ては,本件暴行事件の当日に事情聴取が行われ,供述調書が作成されていることからすると,原告には罪証隠滅のおそれはなく,②さらに,原告が薬剤師の資格を有し薬局3店舗を経営している者であること,原告には義母や妻,長女らという同居の家族がいること,本件がもともと不起訴かせいぜい略式起訴になる程度の軽微な事案であることか らすると,原告には,逃亡のおそれはないと主張する。 - 67 -b しかしながら,上記①の点については,確かに本件防犯カメラの映像が被告会社から任意提出され,さらに,被告Dや警備員Iについて供述調書が作成されているとして ないと主張する。 - 67 -b しかしながら,上記①の点については,確かに本件防犯カメラの映像が被告会社から任意提出され,さらに,被告Dや警備員Iについて供述調書が作成されているとしても,原告が本件暴行事件に係る犯行を否認している状況の下では,原告の供述を踏まえ,本件暴行事件に至る経緯や原告の行為態様等について,さらに被告Dや警備員Iに対 する詳細な取調べを実施する必要があったと考えられるところ,これらの者にする働きかけによる罪証隠滅のおそれを否定することはできない。また,本件暴行事件については,本件マンションの建設に反対する近隣住民も目撃していたと考えられるところ,これらの者との口裏合わせによる罪証隠滅のおそれも否定することはできない。そして, 上記②の点についても,本件勾留被疑事実は,被告Dの両胸を両手の手のひらで突き,徐行中の本件ダンプカーに接触させるというものであり(前記前提事実⑵エ),その状況下における態様は必ずしも軽微とはいい難いものであるし,本件現行犯人逮捕の際に原告がその場を立ち去ったという事情も併せ考えれば,原告が薬剤師の資格を有し薬局 3店舗を経営している者であること,原告には同居の家族がいることなど原告の指摘する事情を踏まえて検討しても,逃亡のおそれがないとまではいえない。したがって,原告の上記主張は,いずれも採用することができない。 勾留期間を延長する「やむを得ない事由」 a さらに,原告は,本件暴行事件について勾留期間を延長することについて「やむを得ない事由」があったとはいえないことは明らかであると主張する。そして,それを基礎づける事情として,①本件勾留被疑事実は極めて単純であり,関係者も少数であること,②本件防犯カメラの映像の精査が本件暴行事件の当日である平成2 えないことは明らかであると主張する。そして,それを基礎づける事情として,①本件勾留被疑事実は極めて単純であり,関係者も少数であること,②本件防犯カメラの映像の精査が本件暴行事件の当日である平成28年10月7日 に,検察官による被告Dの取調べが同月13日にそれぞれ行われてい - 68 -ることからすれば,仮にこれらを踏まえて検察官による警備員Iの取調べを行う必要があったとしても,同月14日にはこれを実施することが可能であったこと,③医師からの事情聴取という点についても,そもそも検察官において本件防犯カメラの映像の精査を行ったのであれば,被告Dの提出した本件診断書の記載と実際に被告Dが本件ダン プカーに接触した可能性のある箇所とが異なることは明らかであり,医師からの事情聴取は,不要な捜査であったことを指摘する。 b しかしながら,上記①の点については,本件の関係者が比較的少数であるとしても,本件暴行事件に係る犯行を原告が否認している状況の下では,原告から詳細な取調べを実施した上で,それを踏まえて更 に被告Dや警備員Iに対し詳細な取調べを実施する必要があるほか,それらによって得られた供述を本件防犯カメラの映像等と比較するといった捜査を要するのであり,必ずしも単純な事案であるということはできない。また,上記②の点についても,たとえ被告Dに対する取調べが同月13日に終了していたとしても,直ちに警備員Iに対する 取調べを実施することができるとは限らず,検察官による警備員Iの取調べが本件勾留期間延長決定の直後の同月18日に行われていることからすると,捜査機関において捜査の懈怠があったということはできない。さらに,上記③についても,被告Dの傷害の事実について,本件診断書が存在し,受傷部位と同診断書の記載に矛盾がある 行われていることからすると,捜査機関において捜査の懈怠があったということはできない。さらに,上記③についても,被告Dの傷害の事実について,本件診断書が存在し,受傷部位と同診断書の記載に矛盾があるとすれ ば,医師から直接事情を聴取する必要があることは明らかである。以上によれば,原告の上記主張は,いずれも採用することができない。 ⑸ 本件公訴の提起についてア判断刑事事件において無罪の判決が確定したというだけで直ちに公訴の提 起が違法となるということはなく,その提起時において,検察官が現に - 69 -収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があれば,公訴の提起は違法性を欠くものと解すべきである(最高裁昭和49年第419号同53年10月20日第二小法廷判決・民集32巻7号1367頁,最高裁昭和59年第103号平成元年6月29日第一 小法廷判決・民集43巻6号664頁参照)。 被告Dは,本件公訴の提起の時点までに,検察官に対し,本件ダンプカーが本件工事現場から出てくるのを妨害しようとしていた原告を制止しようとしたところ,原告がそれでも制止を振り切ろうとしてくるので,原告に対し,「これ以上やるなら警察呼びますよ」と言うと,自身の前方 にいた原告は,怒ったようで,「警察でも,どこでも電話しろ」と大声で叫びながら,突然,両手で私の胸を押すようにして突き飛ばしてきた,突き飛ばされた際に,私の後方を出入口から出てきた本件ダンプカーが走行していたため,本件ダンプカーの荷台部分のところに背中を強打した旨供述しており(前記2⑴オ),警備員Iにおいても,被告Dの供述内 容と整合する供述をしていた(前記2⑵イ)。そして,本 ーが走行していたため,本件ダンプカーの荷台部分のところに背中を強打した旨供述しており(前記2⑴オ),警備員Iにおいても,被告Dの供述内 容と整合する供述をしていた(前記2⑵イ)。そして,本件防犯カメラの映像を見れば,原告が本件工事現場西側出入口前方の歩道を往復し,本件ダンプカーの進行を妨害する状況やそれを被告Dが制止する状況を確認できることは前記のとおりであり,この点は,被告Dや警備員Iの上記各供述とよく整合する。さらに,本件暴行事件に係る被害状況につい ても,前記のとおり,本件防犯カメラの映像によれば,少なくとも原告の何らかの動作により被告Dに力が加わり,これによって被告Dの体が後方に移動したように見えることが認められ,この点も被告Dや警備員Iの上記各供述の信用性を補強するものと評価することができる。 以上の証拠構造に照らせば,本件公訴の提起の時点において,検察官 が現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得 - 70 -た証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があったといえるのであるから,M検察官による本件公訴の提起が国家賠償法上違法の評価受ける余地はない。 イ原告の主張についてこれに対し,原告は,①M検察官は,本件防犯カメラの映像をよく見 れば,原告は,自分の両腕を抱え込むようにしてきた被告Dから逃れるために,右側に体をひねりながら右足を後方に下げており,前方に力を加えていないことは明らかであったのに,本件防犯カメラの映像を注意深く検討することを怠り,また,科学捜査研究所あるいは外部の専門家に鑑定を依頼することもしなかった結果,暴行の事実がなかったと判断 することができず,さらに,②被告Dや警備員Iの各供述の信用性の判断も誤り,本件 り,また,科学捜査研究所あるいは外部の専門家に鑑定を依頼することもしなかった結果,暴行の事実がなかったと判断 することができず,さらに,②被告Dや警備員Iの各供述の信用性の判断も誤り,本件公訴の提起に至ったものであり,これらの点を踏まえると,本件公訴の提起は国家賠償法上違法であると主張する。 しかしながら,上記①の点については,本件防犯カメラの映像を見れば,原告の右足が後方に下がる前に,被告Dに抱えられる形となった原 告の体が右側に少し回転するとともに腕組みをした腕が上昇した後,被告Dの体が後方に移動する状況も確認することができるところ,この点も踏まえて検討すれば,原告の何らかの動作により被告Dに加わった力が,その反動により原告に対しても衝撃を与えたからであると解釈することもできることは前記のとおりであり,さらに,本件無罪判決におい ても,被告Dと原告とが体を接着させた直後,原告は何らかの動きをして右足を後方へ下げ,被告Dは何らかの衝撃を受けて後ろによろめいて,本件ダンプカーの右側面に接触したと認定されている上,原告本人尋問において,原告は,被告Dに「抱きかかえられたのと,私がそこから逃れようとする力が,多分弾けたんだと思います。お互いに1歩ずつ,そ の力によって下がったんだと思います。」と述べており(原告本人54頁), - 71 -被告Dと原告の互いの動作による力が反発し合って互いが後退したことを認めていると評価できる供述をしていることにも照らせば,原告の右足が後ろに下がったという事実が本件公訴事実の存在を全く否定するものとみることはできない。以上に加え,前記アで述べたことに照らせば,M検察官において,被告Dの供述が本件防犯カメラの映像によって 裏付けられていると判断したことが不合理である を全く否定するものとみることはできない。以上に加え,前記アで述べたことに照らせば,M検察官において,被告Dの供述が本件防犯カメラの映像によって 裏付けられていると判断したことが不合理であるということはできないし,また,科学捜査研究所や外部の専門家に本件防犯カメラの映像に係る画像鑑定等を依頼しなかった点についても不合理であるということはできない。 また,上記②の点について,原告は,M検察官が被告Dや警備員Iの 各供述を鵜呑みにして本件公訴事実が存在すると判断したことを基礎づける事情として,被告D及び警備員Iが捜査段階において原告が両手をパーにして自分を突き飛ばした旨供述しているが,本件防犯カメラの映像を注意深く検討すれば,原告が左手に携帯電話を持っていたことを比較的容易に確認することができたこと,被告Dの提出した本件診断書の 記載と実際に被告Dが本件ダンプカーに接触した可能性のある箇所とが異なること等を指摘する。この点,確かに,本件防犯カメラの映像を確認すれば,原告は本件暴行事件当時,片手に携帯電話を所持していることが確認できるところ,両手をパーにして自分を突き飛ばした旨の被告Dや警備員Iの各供述は,その点で本件防犯カメラの映像と矛盾する。 しかしながら,被告Dを突き飛ばした際に原告が携帯電話を片手に所持していたかどうかについては,本件暴行事件が一瞬の出来事であったこと,被告Dにおいては本件暴行事件の直前,徐行する本件ダンプカーの状況に目を配らせており,原告が片手に何かを所持していたかについて意識が向かっていなかった可能性があることなどからすれば,M検察官 において,この点についての矛盾が被告Dや警備員Iの各供述全体の信 - 72 -用性を否定するものではないと判断したとしても,不合理である かった可能性があることなどからすれば,M検察官 において,この点についての矛盾が被告Dや警備員Iの各供述全体の信 - 72 -用性を否定するものではないと判断したとしても,不合理であるとはいえない。また,被告Dの提出した本件診断書の記載と実際に被告Dが本件ダンプカーに接触した可能性のある箇所とが異なる点についても,M検察官においては,そのような矛盾を踏まえた上で,傷害罪で起訴することはせず,他方で,上記矛盾が被告Dの供述全体の信用性を損なわせ るものとまでは評価せずに本件公訴の提起に至ったものと解されるが,そのような判断が不合理であるとまではいえない。 ⑹ 小括以上によれば,本件現行犯人逮捕等,本件勾留請求等及び本件公訴の提起は,いずれも国家賠償法上違法であるとは認められない。そうすると,争点 3について判断するまでもなく,原告の被告国及び被告県に対する各国家賠償請求は,いずれも認められない。 4 争点5(被告Dが原告に突き飛ばされたかのように装い,その旨の虚偽供述をしたか)について争点4に先立ち,争点5を判断する。 ⑴ 判断ア被告Dは,被告本人尋問において,①本件工事現場から出ようとする本件ダンプカーの進行を妨害しようとする原告に対し,「危ないのでやめてください」と言いながら両手を広げて制止しようとしたところ,原告から「邪魔だ,どけ」と言われ,その後,自身の胸の辺りに衝撃を受けてよろめい た,②その後,後ろに倒れるとまずいと思い,右足を後ろに引いて踏ん張り,本件ダンプカーに巻き込まれないようにするために,本件ダンプカーの側面に手を突いた,③本件暴行事件は一瞬の出来事であり,原告の手元付近をはっきり確認することができていたかは記憶に無いが,気も動転しており,胸の辺りに衝撃 まれないようにするために,本件ダンプカーの側面に手を突いた,③本件暴行事件は一瞬の出来事であり,原告の手元付近をはっきり確認することができていたかは記憶に無いが,気も動転しており,胸の辺りに衝撃を受けたので両手で押されたのだろうと思い,G 警察官らに対し,原告から両手で胸を押された旨申告した,④本件暴行被 - 73 -告事件の際の証人尋問では,当初,原告が左手に携帯電話を持ち,右手の手のひらで胸を押された旨証言したが,その後,本件防犯カメラの映像を示され,弁護人からの尋問を受ける中で,原告が腕組みをしていることが分かったため,尋問の後半では,腕組みをした原告から,原告の手の甲の部分で胸のあたりを押された旨証言を変遷させた等と供述する。 イこの点について,前記のとおり,本件防犯カメラの映像によれば,被告Dに抱えられる形となった原告の体が右側に少し回転するとともに腕組みをした腕が上昇した後,被告Dの体が後方に移動する状況を確認することができる。そして,このような状況からすると,少なくとも原告の何らかの動作により被告Dに力が加わり,これによって被告Dの体が後方に移動 することになったという可能性があることは認められる。また,徐行中であったとはいえ,進行中の本件ダンプカーに接触することは危険性の高い行為であると考えられるところ,本件工事現場の現場監督であった被告Dにおいて,あえてそのような危険な行為を行うとは考え難い。以上に加え,本件暴行事件の当時,原告と被告Dとは接着した状態で正対しており(前 記2⑷アo,静止画像12),原告の手元を十分に確認できるほどの間隙が原告と被告Dとの間にあったとは考えられないこと,被告Dにおいては徐行中の本件ダンプカーに向かって進行する原告を制止することに意識を集中させてお 画像12),原告の手元を十分に確認できるほどの間隙が原告と被告Dとの間にあったとは考えられないこと,被告Dにおいては徐行中の本件ダンプカーに向かって進行する原告を制止することに意識を集中させており,原告の手元を十分に確認するほどの余裕がなかったと考えられること,被告Dが後方にバランスを崩した後,原告の方を見た際, 原告が腕組みをほどいた状態で立っていたこと(前記2⑷アp,制止画像16ないし18)等を踏まえると,原告の何らかの動作により被告Dに力が加わったために,被告Dが,原告から両手で突き飛ばされたものと推測し,その旨の被害申告をするに至ったという可能性を排斥することはできない。そして,他に被告Dが原告に突き飛ばされたかのように装い,そ の旨の虚偽供述をしたことを認めるに足りる証拠はない。 - 74 -⑵ 原告の主張についてア N鑑定等に基づく主張これに対し,原告は,N鑑定等の内容からすると,被告Dは,原告からの衝撃を受けた際,故意に本件ダンプカーに接触した可能性が極めて高いと主張する。 すなわち,N鑑定等は,①静止画像12によれば,被告Dの膝関節は屈曲状態にあることから重心も低く,つま先も原告に向いていることから,姿勢は前方からの力に対抗している姿勢であり,このような姿勢で後方に下がっていくとは考え難い,②静止画像14によれば,被告Dの両足のかかとが浮いている状況が確認でき,被告Dの重心は前にあると 考えられるところ,前方から力が加わった際の状況としては不自然である,③静止画像14及び15によれば,②のとおり,被告Dの下半身は安定した状態にあるのに,上半身だけが,両腕が上に挙がり不安定な体勢が作られている点は不自然である,④静止画像12ないし16または13ないし17は1秒間の状況を よれば,②のとおり,被告Dの下半身は安定した状態にあるのに,上半身だけが,両腕が上に挙がり不安定な体勢が作られている点は不自然である,④静止画像12ないし16または13ないし17は1秒間の状況をコマ送りに撮影されたものであるとこ ろ,これらをみると被告Dの両腕が明らかにスローモーション的に挙がっており,不自然である等と指摘する(前記2⑷イ)。 しかしながら,そもそもN鑑定等は,本件防犯カメラの映像に映る原告の頭頚部の位置関係,原告の肘関節,肩関節の各動きの中から,左右の腕ないし手の交差を解いてから両手を前方に突き出したという動きや 左右の腕ないし手を交差させたまま両手を前方に突き出したという動きを観察することができるかを嘱託事項とするものであり(前記2⑷イ),N鑑定等が指摘する被告Dの行動の不自然さについては,上記嘱託事項との関係では傍論的な位置づけを有するにすぎないというべきである。 また,この点を措くとしても,N鑑定等は,被告Dが故意に本件ダンプ カーに接触したことまでを断定するものではなく,上昇した原告の腕が - 75 -被告Dに接触したことにより,被告Dに前方からの力が加わり,それによって,被告Dが後方にバランスを崩したという可能性を排斥するものではない。 すなわち,上記①の点については,本件暴行事件の当時,被告Dと原告とは接着している状態にあったことが認められるのは前記のとおりで あるところ,そのような状態の下で前方から力が加われば,その力に対してのバランスを維持するために,右足を後方に下げるといったことは十分に考えられるところである。また,上記②の点については,静止画像14からは,被告Dの右腕の先端部分を確認することはできないところ,この時点で既に,被告Dの右腕が本件ダンプカーの側面に ったことは十分に考えられるところである。また,上記②の点については,静止画像14からは,被告Dの右腕の先端部分を確認することはできないところ,この時点で既に,被告Dの右腕が本件ダンプカーの側面に接触して いるという可能性を排斥することはできない。そして,その可能性を前提とすれば,被告Dの両足のかかと部分が浮いているのは,被告Dが右腕を本件ダンプカーの側面に突いた際に生じた力が影響したためだと解釈することもできる。このような解釈を前提とすれば,静止画像12において被告Dの両足のかかとが浮いていることと,被告Dが前方から力 を受けたこととは何ら矛盾するものではないということができる。さらに,上記③の点についても,前記のとおり,静止画像14の時点で被告Dの右腕が本件ダンプカーに接触しているという可能性を排斥することはできないところ,この可能性を前提とすれば,本件ダンプカーが徐行中であったことで上半身のバランスが崩れたと解釈することも可能であ る。なお,上記④の点については,そもそも静止画像12ないし16又は13ないし17を見ても,被告Dの腕の動きがとりたててゆっくりであるとは読み取れない。 このように本件各画像については,N鑑定等で示された解釈とは異なった解釈をすることも可能なのであり,これを前提とすれば,N鑑定等 は,上昇した原告の腕が被告Dに接触したことにより被告Dに前方から - 76 -の力が加わり,それによって,被告Dが後方にバランスを崩したという可能性を排斥するものではないというべきである。 イ被告Dが被害を偽装する機会をうかがっていたとの主張また,原告は,①本件暴行事件が発生する直前,原告は,本件ダンプカーの進行方向ではなく,本件ダンプカーの後方に向かって足を踏み出 しており, 告Dが被害を偽装する機会をうかがっていたとの主張また,原告は,①本件暴行事件が発生する直前,原告は,本件ダンプカーの進行方向ではなく,本件ダンプカーの後方に向かって足を踏み出 しており,被告Dが身を挺してまで原告の動きを制止しなければならないような危険は生じていないこと,②その前の場面でも,原告が本件ダンプカーの前を横切って反対側に行こうとしている際,原告をそのまま行かせた方が本件ダンプカーの邪魔にならずに済むのにあえて原告を元の位置に戻そうとしていること,③日傘をさした女性が本件工事現場西 側出入口前の歩道を横切っているのに,それには目もくれず原告のみに執着し続けていること,④本件暴行事件発生前の原告及び被告Dの動きを見ると,どの場面を切り取っても,相手の体に自分の体を接触させているのは,被告Dであることなどを指摘して,これらの事情からすると,被告Dにおいては,本件マンションの建設工事に対する反対運動を行っ ていた原告を陥れるための被害の偽装を実行に移そうと,執拗な制止行為におよび,それにたまりかねた原告が制止行為を振り払おうとする機会をうかがっていたとしか考えられないと主張する。 さらに,⑤原告に突き飛ばされた直後にどこに手を突けばよいかを確認するために意識的に本件ダンプカーを確認し,側面に手を突けば大丈 夫だと思ったとする被告Dの証言は,突然突き飛ばされた者の思考過程としては不自然である,⑥本件防犯カメラの映像からは,本件暴行事件の後,臨場した警察官と話をしている際に被告Dが本件防犯カメラの方を指さした状況を確認することができるところ,この事情は,被告Dが本件防犯カメラの存在を意識していたことを示す事情であり,被告Dに おいて,事前に被害の偽装を目論んでいたことを推認させると主張する。 状況を確認することができるところ,この事情は,被告Dが本件防犯カメラの存在を意識していたことを示す事情であり,被告Dに おいて,事前に被害の偽装を目論んでいたことを推認させると主張する。 - 77 -しかしながら,上記①の点については,本件暴行事件の直前,原告が本件ダンプカーの後方に向かって進んでおり,本件ダンプカーの前を横切ろうとしていた訳ではないものの,本件ダンプカーの方向に進んでいることに変わりはない。そして,本件防犯カメラの映像によれば,本件暴行事件が発生する前から,原告が本件ダンプカーの進行を執拗に妨害 していたことが明らかに認められるのであり(前記2⑷ア),このような状況も併せて考えれば,被告Dが原告を制止したことは何ら不合理ではない。また,上記②の点についても,原告が本件ダンプカーの進行を執拗に妨害していた状況からすれば,被告Dが原告を元いた場所に押し戻したことにも何ら不自然な点はない。そして,上記③の点についても, 日傘をさした女性が本件ダンプカーの前を横切ろうとしたまさにそのとき,被告Dは原告の行動を制止している最中であったのであるから,被告Dにおいて日傘をさした女性への対応ができなかったとしても何ら不自然ではない。さらに,上記④の点についても,原告が本件ダンプカーの進行を執拗に妨害していた状況からすれば,被告Dにおいて,身を挺 してでも原告の妨害を阻止すべき必要が高かったものと認められるのであって,その過程で被告Dの体が原告に接触したとしても何ら不合理ではない。 その他,上記⑤の点についても,進行中のダンプカーが後方にいる状況で前方から力が加わるとすれば,自己の身の安全を確保するために咄 嗟に上記のような思考に至ることは,何ら不自然ではない。また,上記⑥の点について についても,進行中のダンプカーが後方にいる状況で前方から力が加わるとすれば,自己の身の安全を確保するために咄 嗟に上記のような思考に至ることは,何ら不自然ではない。また,上記⑥の点についても,そもそも,原告が本件ダンプカーの前を横切ろうとしなければ,被告Dが原告を制止する必要もなかったのであり,本件暴行事件の後,臨場した警察官と話をしている際,被告Dが本件防犯カメラの方を指さしたからといって,被告Dにおいて事前に被害の偽装を目 論んでいたことを推認するには飛躍があるといわざるを得ない。 - 78 -原告の上記主張は,いずれも,本件防犯カメラの映像を牽強付会に解釈したものであって,採用することができない。 ウ本件診断書と本件防犯カメラの映像との矛盾そして,原告は,本件防犯カメラの映像によれば,被告Dの背中が本件ダンプカーに当たっているようには見えず,仮に当たっているとして も体の右側であるとしか考えられないところ,左背部打撲の診断をする本件診断書は本件防犯カメラの映像と矛盾するとして,このような矛盾が生じたのは,被告Dが怪我などしていないのに怪我をしたかのように装ったためであると主張する。そして,これを裏付ける事情として,被告Dの治療の経過が不自然に長いことや被告Dが本件暴行事件の当夜に 同僚と酒を飲みに行っていることなどを指摘する。 しかしながら,本件診断書に全治1週間の左背部打撲と記載されるに至った経緯や被告Dの申告内容等については証拠上明らかでなく,本件診断書の記載と本件防犯カメラの映像との矛盾から,直ちに被告Dによる被害の偽装の事実を推認することはできない。また,被告Dの治療の 経過が不自然に長いことや被告Dが本件暴行事件の当夜に同僚と酒を飲みに行っていることといった事情につ 盾から,直ちに被告Dによる被害の偽装の事実を推認することはできない。また,被告Dの治療の 経過が不自然に長いことや被告Dが本件暴行事件の当夜に同僚と酒を飲みに行っていることといった事情についても,被告Dが受傷した事実と何ら矛盾するものではなく,被告Dにおいて虚偽の被害申告をしたことを推認させるものではない。 エ被告Dの被害申告が誇張・歪曲されたものであるとする主張 さらに,原告は,被告Dの証言によれば,本件暴行事件に係る被害申告の内容が誇張・歪曲されたものであるというほかなく,被告Dによる被害の偽装を強く推認させると主張する。すなわち,被告Dの証言によれば,本件暴行事件は一瞬の出来事であり,原告の手元付近が見えていたかははっきりしないが,気も動転しており,胸の辺りに衝撃を受けた ので両手で押されたのだろうと思い,G警察官らに対し原告から両手で - 79 -胸を押された旨申告したというのであるが,原告の手元付近が見えていたかがはっきりしないのであれば,そのようにG警察官らに説明すればよいはずなのに,あえて両手で突き飛ばされた旨の被害申告をしたということは,被告Dにおいて,被害の偽装の意思があったからであると主張する。 しかしながら,原告の何らかの動作により被告Dに力が加わったことで,被告Dが,原告から両手で突き飛ばされたものと推測し,その旨の被害申告をするに至ったという可能性が考えられることは前記のとおりであり,被告Dの被害申告は,体に衝撃を受けた経験を基にした申告であり,何の接触もなかったのに押されたと被害申告をしたものとは事情 が異なる。そうすると,本件暴行事件に係る被害申告の内容と本件本人尋問における被告Dの供述が矛盾することから直ちに被告Dによる被害の偽装の事実を認めることは れたと被害申告をしたものとは事情 が異なる。そうすると,本件暴行事件に係る被害申告の内容と本件本人尋問における被告Dの供述が矛盾することから直ちに被告Dによる被害の偽装の事実を認めることはできないのであって,原告の上記主張は採用することができない。 オその他,原告は,①被告Dの証言には変遷が見られ著しく信用性が低い こと,②進行する本件ダンプカーに巻き込まれる危険を回避する形で被害を偽装することは十分に可能であること,③被告D及び被告会社の提出した法科学鑑定研究所株式会社の鑑定書には重大な欠陥がありおよそ信用することができないことなどを主張する。しかしながら,原告の何らかの動作により被告Dに力が加わったことで,被告Dが,原告から両手で突き飛 ばされたものと推測し,その旨の被害申告をするに至ったという可能性が考えられることは前記のとおりであり,原告の上記①ないし③の主張を踏まえて検討しても,当裁判所の判断は揺るがない。 ⑶ 小括以上によれば,被告Dが原告に突き飛ばされたかのように装い,その旨の 虚偽供述をしたものとは認められない。したがって,争点6について判断す - 80 -るまでもなく,原告の被告D及び被告会社に対する損害賠償請求は認められない。 5 争点4(原告の被告国に対する本件各データの抹消請求の可否)について⑴ 制度の概要ア諸外国の立法例 慶応義塾大学法学部のQ教授の意見書(甲21)a ドイツにおいては,DNA型鑑定等の要件,手続はドイツ刑事訴訟法に規律されている。ドイツでは,1997年,遺伝子指紋に関するドイツ刑事訴訟法改正が行われ,DNA型鑑定に関する法が整備された。それ以前は,DNA型鑑定の実施に関する特別な法律上の規定は 存在せず,強制採血等を規 ツでは,1997年,遺伝子指紋に関するドイツ刑事訴訟法改正が行われ,DNA型鑑定に関する法が整備された。それ以前は,DNA型鑑定の実施に関する特別な法律上の規定は 存在せず,強制採血等を規律対象としたドイツ刑事訴訟法81a条が定める要件を満たせばこれが認められていた。1998年には,DNA同一性確認法が成立し,ドイツ刑事訴訟法81g条が新設された。 その後,1999年,2000年の法改正を経て,2005年には同法81h条が新設され,いわゆるDNA一斉検査が導入された。係属 中の刑事手続における具体的犯罪の解明を目的としたDNA型検査については,同法81e条,81f条が規律する。 これに対し,将来の刑事手続における利用を目的としたDNA型鑑定資料の採取及び鑑定結果の利用については,同法81g条が定めている。その要点は,次のとおりである。①「重大な」犯罪,「性的自己 決定」に対する犯罪(同条1項1文)又は「その他犯罪の反復した実行」(同条1項2文)を対象とした手続が係属している場合に,その被疑者・被告人に再犯の危険が認められるとき,将来における別の刑事手続において,DNA型同定検査を行い,これによって身元確認を行うという目的で,被疑者・被告人から体組織を採取することができる。 ②同条1項において対象とされている犯罪行為について有罪判決を受 - 81 -けた者又はその犯罪事実自体は認定されたが,責任無能力などの理由から自由刑の執行が行われなかった者についても,当該犯罪行為を理由として将来再度刑事手続が行われると思料されるに足る事情が存在する場合,DNA型鑑定の実施が認められる(同条4項)。③DNA型鑑定を実施した後,鑑定資料を採取した被疑者の血液等は直ちにこれ を廃棄しなければならない(同条2項1文) されるに足る事情が存在する場合,DNA型鑑定の実施が認められる(同条4項)。③DNA型鑑定を実施した後,鑑定資料を採取した被疑者の血液等は直ちにこれ を廃棄しなければならない(同条2項1文)。④被疑者の同意がない場合には,裁判所による令状がなければ,DNA型鑑定の実施は認められない。裁判所の書面による理由付けにおいては,個別事例に結びつけて,犯罪行為の重大性の判断を決定づける事実,被疑者に対して将来,刑事手続が行われるであろうとの推定の根拠となる認識,関係す る諸事情の衡量が説明されていなければならない(同条3項)。⑤得られたDNA型鑑定結果は,ドイツ連邦刑事庁において蓄積され,連邦刑事庁法の定める基準に従って利用される(同条5項)。 b ドイツ刑事訴訟法81g条3項は,比例原則の遵守を求めるものであり,これが不十分な場合には,令状を発した刑事裁判所の決定自体 が違憲として破棄される。また,同条5項にあるように,DNA型鑑定結果は連邦刑事庁で保管され,データの利用,処理,消去は,連邦刑事庁法に基づいて行われる。連邦刑事庁法において,公訴提起に足る犯罪の嫌疑が認められず,公判が開始されなかった場合,公判において被告人に対して無罪判決が下された場合には,DNA型鑑定結果 に基づくデータは破棄されなければならないとされている。(なお,証拠(甲22)によれば,DNA型鑑定記録の保存期間は,対象者が少年の場合は5年,成人の場合は10年ごとに,保存されたデータについて,これを削除するか,今後も継続して保存するかを審査するとされている。)。 cDNA型データベースに関する2000年12月14日の連邦憲法 - 82 -裁判所第二法廷第三部会決定(BVerfGE 103,21)は,ドイツ刑事訴訟法81g条 れている。)。 cDNA型データベースに関する2000年12月14日の連邦憲法 - 82 -裁判所第二法廷第三部会決定(BVerfGE 103,21)は,ドイツ刑事訴訟法81g条と結びついたDNA同一性確認法の規律を合憲としたが,その実質的観点として次の点を指摘している。①絶対的に保護される人格の核心領域は侵害されていない。このことは,少なくとも,DNAのコード化されていない部分だけが捕捉され,専ら将来の刑事手続 における同一性確認という目的のためだけにDNA識別型の確認が行われ,DNA識別型の確認後に遺伝子物質が破棄される限りにおいて妥当する。その限りで,「遺伝子指紋」は,その証拠価値がはるかに高いとしても,従来の指紋押捺ないしその他の同一性確認方法に類似する。②「遺伝子指紋」の確認,記録及び将来の利用は情報自己決定権 に対する介入となるが,DNA同一性確認法及びドイツ刑事訴訟法81g条は,基本権介入に対する制約留保により画される限界を超えるものではない。この介入は,法治国家的保障を志向する刑事司法という,高次の公共の福祉の利益に奉仕する。法律上の規律は,規範明確性及びこの規定に基づき下された決定の事後的審査可能性の要件も満 たす。③DNA同定型の確認及び登録による事前の証拠入手は,過剰侵害禁止に反するものでもない。この事前証拠入手は,重大な犯罪行為を理由とした有罪判決と結びついており,加えて,その者に対して将来的に重大な犯罪行為を理由とする更なる刑事手続が行われるとの特定の事実に依拠した予測を前提とする。したがって,この措置は, 特別な場合に限定されている。実効的な基本権保護に対する当該個人の利益は,当該措置を命ずるには管轄裁判所が個々の事例ごとに審査をすることを強いる裁判官留保によっ る。したがって,この措置は, 特別な場合に限定されている。実効的な基本権保護に対する当該個人の利益は,当該措置を命ずるには管轄裁判所が個々の事例ごとに審査をすることを強いる裁判官留保によって考慮されている。獲得されたデータの濫用は,厳格な目的拘束と,DNA識別型確認後に全細胞組織を破壊すべきとの要請によって,阻止されている。 d なお,DNA型データベースに関する法律による詳細な規律は,韓 - 83 -国及び台湾でも行われており,いずれも,被疑者資料の鑑定後の即座の廃棄と無罪判決の場合のデータベースからの削除を定めており,特に韓国法は,廃棄・削除義務違反に対して1年以下の懲役又は3年以下の資格停止を定めている。 警察における情報の取得及び管理に対する行政法的統制(R,産大法 学50巻1・2号(2017.1))(甲28)犯罪経歴者を対象とした(指掌紋,被疑者写真,DNA型,犯歴,手口といった)情報は,責任無能力以外で無罪判決が確定した場合などに,保有を継続することができるかどうかが問題となる。法制化された国においては,無罪とされた場合には,特段の事情がなければ,無期限の保 管が認められてはいないものと思われる。 また,上記論文において引用されているV「DNA型データベースをめぐる論点」レファレンス平成23年3月号は,罪種,年齢を問わず有罪とされなかった逮捕被疑者のデータ保有がほぼ無期限であったイギリスの制度について欧州人権裁判所が欧州人権条約8条違反とした判決 (2008年12月)を紹介し,諸外国の制度はデータ収集時期,対象犯罪等について分かれているが,無罪判決等の抹消事由は概ね共通する(ただしある程度の期間保有する例はある。)と述べている。 令和3年5月11日参議院内閣委員会議事録( の制度はデータ収集時期,対象犯罪等について分かれているが,無罪判決等の抹消事由は概ね共通する(ただしある程度の期間保有する例はある。)と述べている。 令和3年5月11日参議院内閣委員会議事録(甲39)参議院内閣委員会の委員が,「欧州人権裁判所が昨年2月,英国に対 し,2008年,飲酒運転で逮捕,起訴された男性の顔写真,DNA,指紋などを無期限で持ち続けていたことについて,罪の軽重を考慮せずに永久に保持し続け,実質的に見直しの機会も与えないのは私生活を尊重する権利侵害を構成し,違法であるとの判決を出しています。その理由の中では,民主主義社会では許容できないという言及もあるわけです。」 と発言している。 - 84 -当裁判所においては,令和2年2月の欧州人権裁判所の判決を確認することはできなかったが,欧州人権裁判所大法廷が2008年12月4日に言い渡した判決(S.andMarpervUnitedKingdom [2008] ECHR1581)が,イギリス警察が運用するDNA型データベースについて,嫌疑をかけられたが有罪には至らなかった個人の指紋,組織資料及びDN A型プロファイルを継続的に保有している状況の網羅的で見境ない性格は公私の利益の均衡を欠いたものであり,こうした保有の在り方は,私生活の尊重に関する申立人の権利への不釣り合いな介入を構成し,民主的社会において必要不可欠なものとみなしえないとして,欧州人権条約8条(私生活及び家族生活の尊重を受ける権利)違反を構成すると判断 した事実は存する(顕著な事実)。 警察庁DNA型データベース・システムに関する日本弁護士連合会の意見書日本弁護士連合会は,平成19年12月21日付けの上記意見書を公開している(顕著な事実)。同意見書において 顕著な事実)。 警察庁DNA型データベース・システムに関する日本弁護士連合会の意見書日本弁護士連合会は,平成19年12月21日付けの上記意見書を公開している(顕著な事実)。同意見書において,イギリス,アメリカ, カナダ,ドイツ,オランダ,スイス,オーストリア,スウェーデン,フランスの立法例を紹介しているところ,イギリス以外の国では無罪の場合削除するものとされていることが紹介されている。 なお,イギリスの制度に関して,2008(平成20)年12月に欧州人権裁判所が欧州人権条約8条に違反するとの判断を示したことは既 述のとおりである。 イ日本における法令の定め警察法5条4項20号及び17条は,犯罪鑑識施設の維持管理その他犯罪鑑識に関する事務が国家公安委員会及び警察庁の所掌事務の一つとして掲げているところ,国家公安委員会は,その所掌事務について,法 律,政令又は内閣府令の特別の委任に基づいて,国家公安委員会規則を - 85 -制定することができ(同法12条),警察法の実施のために必要な事項は政令で定め(同法81条),警察法施行令13条1項において,国家公安委員会が警察法5条4項の規定による管理に係る事務を行うために必要な手続その他の事項については,国家公安委員会規則で定めるものとしている。 これを受け,国家公安委員会は,指掌紋の取扱いについては指掌紋規則(乙A10)を,DNA型記録の取扱いについてはDNA型規則(乙A11)を,被疑者写真の管理等については写真規則(乙A12)をそれぞれ定めている。 この点,指掌紋規則等は,それぞれ,その1条において,これらのデ ータを組織的に管理・運用等するために必要な事項を定め,もって犯罪捜査に資することを目的として掲げ,要旨,以下のような規定 この点,指掌紋規則等は,それぞれ,その1条において,これらのデ ータを組織的に管理・運用等するために必要な事項を定め,もって犯罪捜査に資することを目的として掲げ,要旨,以下のような規定を置いている。 すなわち,指掌紋規則及び写真規則によれば,警察署長等は,所属の警察官が被疑者を逮捕したとき又は被疑者の引渡しを受けたときは,指 掌紋記録及び被疑者写真記録を作成しなければならず(指掌紋規則3条1項,写真規則2条1項),また,身体の拘束を受けていない被疑者についても,必要があると認めるときは,その承諾を得て指掌紋記録及び被疑者写真記録を作成するものとされている(指掌紋規則3条2項,写真規則2条2項)。そして,警察署長等は,指掌紋記録及び被疑者写真記録 を作成したときは,指掌紋記録については警察庁犯罪鑑識官及び警視庁,道府県警察本部又は方面本部の鑑識課長(以下「府県鑑識課長」という。)に電磁的方法により送らなければならず(指掌紋規則4条1項),被疑者写真記録については,府県鑑識課長に電磁的方法により送信し(写真規則3条1項),府県鑑識課長は,これを警察庁犯罪鑑識官に電磁的記録に より送信しなければならない(同条2項)。警察庁犯罪鑑識官(指掌紋記 - 86 -録については府県鑑識課長を含む。)は,上記のとおり,指掌紋記録及び被疑者写真記録の送信又は送付を受けたときは,これを整理保管しなければならない(指掌紋規則4条4項,写真規則4条)。さらに,警察庁犯罪鑑識官(指掌紋記録については府県鑑識課長を含む。)は,その保管する指掌紋記録及び被疑者写真記録が,①同記録に係る者が死亡したとき, ②これらの記録を保管する必要がなくなったときには,これらを抹消又は廃棄しなければならない(指掌紋規則5条3項,写真規則 管する指掌紋記録及び被疑者写真記録が,①同記録に係る者が死亡したとき, ②これらの記録を保管する必要がなくなったときには,これらを抹消又は廃棄しなければならない(指掌紋規則5条3項,写真規則5条)。 次に,DNA型規則によれば,犯罪鑑識官は,警察署長等から嘱託を受けて被疑者の身体から採取された資料のDNA型鑑定を行い,その特定DNA型が判明したときは,被疑者DNA型記録を作成しなければな らない(DNA型規則3条1項)。また,警視庁又は都道府県警察の科学捜査研究所長は,当該科学捜査研究所が警察署長等から嘱託を受けて同資料のDNA型鑑定を行い,その特定DNA型が判明したときは,被疑者DNA型記録を作成し,これを犯罪鑑識官に電磁的方法により送信しなければならない(同条2項)。そして,犯罪鑑識官は,上記のとおり, 被疑者DNA型記録を作成したとき又はその送信を受けたときは,これを整理保管しなければならない(DNA型規則6条1項)。さらに,犯罪鑑識官は,その保管する被疑者DNA型記録が,①同記録に係る者が死亡したとき,②これらの記録を保管する必要がなくなったときには,これらを抹消しなければならない(DNA型規則7条1項)。 さらに,警察庁は,行政機関個人情報保護法の「行政機関」に当たり(同法2条1項4号,同法施行令1条),警察庁で保管されている指掌紋記録,被疑者写真記録及び被疑者DNA型記録(以下,これらを併せて「指掌紋記録等」という。)は,同法の「保有個人情報」(同法2条5項)に当たる。そして,行政機関の長は,保有個人情報の漏えい,滅失又は 毀損の防止その他保有個人情報の適切な管理のために必要な措置を講じ - 87 -なければならないとされ(同法6条1項),行政機関の職員等が正当な理由がないのに 人情報の漏えい,滅失又は 毀損の防止その他保有個人情報の適切な管理のために必要な措置を講じ - 87 -なければならないとされ(同法6条1項),行政機関の職員等が正当な理由がないのに,個人の秘密に属する事項が記録された個人情報ファイルを提供したとき(同法53条)やその業務に関して知り得た保有個人情報を自己若しくは第三者の不正な利益を図る目的で提供し,又は盗用したとき(同法54条)は,刑罰の対象とされている。 ウ日本における運用北九州市立大学法学部のT准教授の意見書(甲22)平成元年に科学警察研究所においてDNA型鑑定が初めて実施され,平成15年に警察実務におけるDNA型鑑定にSTR型検査法が用いられるようになると,その実施件数は飛躍的に増加することになった。そ れまで,DNA型鑑定結果は個別の事件捜査に用いられるに留まるものであったが,鑑定実施件数の増加に伴い,これらの鑑定結果を広く用いるべきであるとの要請が高まり,平成16年12月にDNA型情報をデータベース化した「遺留資料DNA型情報検索システム」の運用が開始された。わが国の警察実務におけるDNA型データベースは,現行法の 範囲内で適法に採取された資料から,DNA型情報をコンピュータに入力し,系統的に整理・管理し,指紋,前科・前歴等のデータベースと同様の運用が行われるものであると説明される。 警察庁通達である「犯罪捜査におけるDNA型データベースの積極的運用について」は,「強盗,強姦,強制わいせつ,公然わいせつ,住居 侵入及び常習累犯窃盗については,一般的に,同種の余罪等を犯しているおそれが高く,また,データベースを用いた余罪捜査が効果的と考えられること等から,これらの罪種により検挙した被疑者については,基本的には,資料採取及び については,一般的に,同種の余罪等を犯しているおそれが高く,また,データベースを用いた余罪捜査が効果的と考えられること等から,これらの罪種により検挙した被疑者については,基本的には,資料採取及びDNA型鑑定の必要性が認められる可能性が高い」としており,警察においては以上の罪種を中心にDNA型鑑定デー タを収集,保存,かつこれを運用しているものと考えられる。しかしな - 88 -がら,行政機関個人情報保護法で保有する個人情報の目的外利用は例外事由に該当する場合を除いては許容されないとされる一方,警察実務におけるDNA型データベースは「捜査目的」及び「身元を明らかにするため」にその利用が認められており,DNA型データベースのためのDNA情報収集,管理,利用について,罪種等を理由とする明確な制限は 課されていないと考えられるだろう。 令和3年5月11日参議院内閣委員会議事録(甲39)参議院内閣委員会の委員が,質問をする前提として,要旨,次のとおり発言している。警察の方針は,従前は,強姦,強制わいせつなどの性犯罪,強盗や窃盗などで被疑者を逮捕した場合であっても,同種の余罪 を具体的に把握していなければDNA採取やDNA型データベースとの照合は実施していなかったが,2010年4月1日からは,余罪を具体的に把握していない場合でも余罪が疑われれば積極的にDNAの任意提出を求め,データベースと照合する方針となった。さらに,2012年9月10日,積極的なDNAの採取とDNA型鑑定の実施をするよう通 達が出され,性犯罪以外の罪種についても,余罪を犯しているおそれを限定的に解釈することなく,DNA型鑑定によって余罪の有無等を確認する必要性がある被疑者については,身柄拘束の有無にかかわらず積極的に被疑者から採取し鑑定を 罪種についても,余罪を犯しているおそれを限定的に解釈することなく,DNA型鑑定によって余罪の有無等を確認する必要性がある被疑者については,身柄拘束の有無にかかわらず積極的に被疑者から採取し鑑定を実施するよう指示が出されるようになった。 さらに,2016年12月1日の通達,DNA型鑑定資料の採取等にお ける留意事項についてでは,本件や余罪捜査のために必要な場合には積極的に被疑者から鑑定資料を採取して鑑定を実施するというようにされ,余罪を犯しているおそれを限定的に解釈することなく積極的に採取を行い,保管することになっている(なお,「犯罪捜査におけるDNA型データベースの積極的活用について」(平成22年4月1日警察庁丁刑企 発第45号ほか),「DNA型データベースの抜本的拡充に向けた取組 - 89 -について」(平成24年9月10日警察庁丁鑑発第906号ほか),「DNA型鑑定資料の採取等における留意事項について(通達)」(平成28年12月1日警察庁丁鑑発第1246号ほか)の各通達が存する。)。 同委員がデータベースに登録されている件数を尋ねたところ,政府参考人は,令和2年末現在,被疑者写真約1170万件,被疑者指紋約1 135万件,被疑者DNA型約141万件が登録されていると答弁した。 ⑵ 指紋,DNA型及び被疑者写真のデータベース化についての検討ア憲法13条は,国民の私生活上の自由が公権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものであり,個人の私生活上の自由の一つとして,何人もみだりにその容貌・姿態を撮影されない自由及びみだりに指 紋の押捺を強制されない自由を有すると解される(最高裁昭和40年第1187号同44年12月24日大法廷判決・刑集23巻12号1625頁,最高裁平成2年第848号同 ない自由及びみだりに指 紋の押捺を強制されない自由を有すると解される(最高裁昭和40年第1187号同44年12月24日大法廷判決・刑集23巻12号1625頁,最高裁平成2年第848号同7年12月15日第三小法廷判決・刑集49巻10号842頁)。また,DNA型(DNA資料とは異なり,あくまで人を識別するための限られた情報としてのデータである。)についても, 基本的には識別性,検索性を有するものとして,少なくとも指紋と同程度には保護されるべき情報であるため,何人もみだりにDNA型を採取されない自由を有すると解される(なお,東京高等裁判所平成28年8月23日判決・判例タイムズ1441号77頁は,DNAを含む唾液を警察官らによってむやみに採取されない利益(個人識別情報であるDNA型をむや みに捜査機関によって認識されない利益)は,強制処分を要求して保護すべき重要な利益であると解するのが相当であるとしている。)。 イそして,指紋を取得するための指紋の押捺やDNA型を取得するための口腔内細胞の採取は,通常,人の身体に対する侵襲の程度は高くないものであるし,指紋及びDNA型はその情報単独で用をなすものではなく,過 去に取得していた指紋及びDNA型との同一性を確認したり,遺留された - 90 -指紋及びDNA型などと対照したり,データベース化して検索に用いたりすることで意義を発揮するものであることからすれば,みだりに指紋の押捺を強制されない自由やみだりにDNA型の採取を強制されない自由は,身体的な侵襲を受けない自由があるというのみならず,取得された後に利用されない自由をも含意していると解するのが相当である。 指紋及びDNA型は,個人の私生活の核心領域に属する情報,思想信条等の内心の深い部分に関わる情報, るというのみならず,取得された後に利用されない自由をも含意していると解するのが相当である。 指紋及びDNA型は,個人の私生活の核心領域に属する情報,思想信条等の内心の深い部分に関わる情報,病歴や犯罪歴等に関する情報といった秘匿性の高い情報とはいい難く,これと同程度に慎重に扱わねばならない情報とまではいえないが,氏名,生年月日,性別及び住所などの情報のように,一律に登録,管理され,社会生活を営む上で一定の範囲の他者に当 然に開示することが予定されている情報とは異なり,万人不同性,終生不変性ないしこれらに近い性質を有するもので,識別性,検索性を備えており,特定のもののみ登録,管理され,他者に対する開示が予定されていない情報という性格を有しており,氏名等に比べれば,より高い秘匿性が認められるべきものであり,それゆえ,公権力からみだりに取得されない自 由が保障され,みだりに利用されない自由が保障されるものと解される。 ウもとより,これらの自由も公共の福祉のために必要があるときには,相当な制限を受けることはありうるものであり,例えば,刑事訴訟法218条3項に基づき,身体の拘束を受けている被疑者の指紋の採取や写真撮影を行い,これらを犯罪捜査のために使用することは許されており,また, 被疑者等の承諾を得た場合にも同様に許されるというべきである。通常は,指紋及びDNA型の取得は,後に使用することを企図して行われるのであるから,取得が許される場合には同時に使用も許されるものと解される。 エもっとも,一旦適法に取得した指紋及びDNA型を,データベース化することで半永久的に保管し,使用することが直ちに許されるかは別途考慮 する必要があるというべきである。 - 91 -確かに,指紋及びDNA型がデータベース化さ A型を,データベース化することで半永久的に保管し,使用することが直ちに許されるかは別途考慮 する必要があるというべきである。 - 91 -確かに,指紋及びDNA型がデータベース化されることにより科学的な捜査が可能となり,犯罪捜査の効率性,実効性が高まり,社会安全政策の観点から国民が負担する安全確保のコストが下がり,使用法によっては冤罪防止にも役立つなど,積極的意義が存することは論を俟たないものであり,その機能をより高く発揮させるという観点からは,極力多数のデータ を収集し,蓄積することが望ましいといえる。 そして,指紋及びDNA型がデータベース化され,犯罪捜査に資することを目的として使用される場合,適正に管理・使用される限り,国民が,罪を犯すことなく,私生活を送る上では,格別の不利益があるともいい難いようにも思われる。 しかしながら,情報の漏出や,情報が誤って用いられるおそれがないとは断言できないものであり,また,継続的に保有されるとした場合に将来どのように使われるか分からないことによる一般的な不安の存在や被侵害意識が惹起され,結果として,国民の行動を萎縮させる効果がないともいえないことなどからすれば,何の不利益もないとはいい難いのであって, みだりに使用されない自由に対する侵害があるといわざるを得ない。 例えば,犯罪被害者が捜査協力のため指紋及びDNA型を提供することにつき承諾した場合に,当該具体的犯罪の捜査を超えて,半永久的にデータベースに登録されることについて承諾をしたというわけではないであろうし(現実にそのような登録が行われているという趣旨ではない。),科学 的な捜査のために有益であるからといって,国民に対し一律に指紋及びDNA型の提供を義務づけることが許されるとも思われないのであ (現実にそのような登録が行われているという趣旨ではない。),科学 的な捜査のために有益であるからといって,国民に対し一律に指紋及びDNA型の提供を義務づけることが許されるとも思われないのであり,やはり,指紋及びDNA型がデータベース化され半永久的に使用される状況があれば,そこには,程度はともかくとしても,国民の私生活上の利益に対する制約が看取できるものといわざるを得ない。 既述のとおり主として自由主義を基本的な価値として標榜する諸外国に - 92 -おいて,データベースを整備するに際し,DNA型の採取,管理等に関する立法措置を講じ,対象犯罪,保存期間,無罪判決確定時等の削除などの規制を設けているのは,国民の私生活における自由への侵害になりうるとの理解が背景にあるものと解されるのであり,自由権が普遍的価値を有するものであることに鑑みれば,各国における歴史的背景,文化,社会情勢 等の相違を十分に考慮する必要があるとしても,諸外国における立法例及びその背景に存する価値判断を参酌することはありうるというべきであり,半永久的に保管しデータベース化することが国民の私生活上の利益に対する制約になりうることは否定できないという,上記の判断を裏付けるものとして援用できるというべきである。 オ以上,指紋及びDNA型について検討してきたが,容貌・姿態に係る被疑者写真については,もともと容貌・姿態は外部に晒されているものであり,加齢等によっても変容するものであるから,指紋及びDNA型と些か性質が異なるが,みだりに撮影されない自由が認められることは既に説示したとおりであり,データベース化して使用する問題は共通するものであ るから,基本的に指紋及びDNA型の場合と同様に論じることが可能であるというべきである。 カ が認められることは既に説示したとおりであり,データベース化して使用する問題は共通するものであ るから,基本的に指紋及びDNA型の場合と同様に論じることが可能であるというべきである。 カそして,指紋,DNA型及び被疑者写真をデータベース化することで半永久的に保管し,使用することが,上記の意味で,国民の権利に対する侵害であると捉えられることからすれば,その制約がいかなる法的根拠に基 づくものかを考慮する必要があるから,関係法令の定めを踏まえながら,原告の指紋,DNA型及び被疑者写真である本件3データの削除の可否について,次項以下で検討する。 ⑶ 本件3データの削除の可否についてア関係法令に該当しうるものとしては,指掌紋規則等が存する。 この点について,原告は,指掌紋規則等は,いずれも法律でもなければ, - 93 -法律に直接の根拠を置くものでもなく,警察法施行令13条1項の規定に基づいて制定されるにとどまり,警察法施行令自体,その基礎になっているのは,警察法という組織法であり,国民の権利・自由への侵害を授権し得る作用法を基礎とするものではない旨主張する。 しかしながら,既述のとおり,警察法上,犯罪鑑識施設の維持管理その 他犯罪鑑識に関する事務が警察庁の所掌事務の一つに掲げられ(同法17条,5条4項20号),指掌紋規則等については,いずれも犯罪鑑識に関する事務の実施のために必要な事項として警察法81条及び同法施行令13条1項に基づき制定されたものである。そして,指掌紋記録等がいずれも個人の識別に必要な情報にとどまり,個人の私生活の核心領域に属する情 報等の高度の秘匿性が認められるべき情報とは異なること,犯罪捜査のためにこれらの情報を警察が組織として保有する必要があることは否定し難く,データ にとどまり,個人の私生活の核心領域に属する情 報等の高度の秘匿性が認められるべき情報とは異なること,犯罪捜査のためにこれらの情報を警察が組織として保有する必要があることは否定し難く,データベース化に何ら法令上の根拠が存しないと解するのは現実的ではないことなどからすれば,指掌紋規則等が上記各法令に基づいて制定されていることについて,適法な法律の委任によらないものとまで認めるこ とはできない。 イそこで,指掌紋規則等を見ると,主として警察当局における指掌紋記録等の取扱いについての規程となっており,データベースの運用に関する要件,対象犯罪,保存期間,抹消請求権について規定がなく,被疑者の指掌紋記録等の抹消については,①指掌紋記録等に係る者が死亡したとき,② 指掌紋記録等を保管する必要がなくなったときに抹消しなければならないとされているのみである。 指紋,DNA型及び被疑者写真がみだりに使用されてはならないという保護法益を有することからすれば,その保護の観点からは脆弱な規定に留まっているといわざるを得ず,諸外国の立法例も参照すれば尚更顕著であ る。 - 94 -この抹消を義務づける場合の「必要がなくなったとき」について,令和3年5月11日参議院内閣委員会議事録(甲39)によれば,政府参考人は,要旨,保管する必要がなくなったときに該当するか否かについては,個別具体の事案に即して判断する必要があり,通達等で一概に定められておらず,警察が保有する被疑者写真,指紋,DNA型の中には,無罪判決 が確定した者や不起訴処分となった者のものも含まれるところ,誤認逮捕といった場合には,その者の被疑者写真,指紋,DNA型を抹消することとしているが,抹消を指示する文書はない,と答弁している。 この答弁では,結局,「必 処分となった者のものも含まれるところ,誤認逮捕といった場合には,その者の被疑者写真,指紋,DNA型を抹消することとしているが,抹消を指示する文書はない,と答弁している。 この答弁では,結局,「必要がなくなったとき」は個別の判断とされ,いかなる場合に抹消されるのかが甚だ曖昧であるといわざるを得ないもの である。また,指掌紋規則等が目的としている「犯罪捜査に資すること」について,これを広く解釈し,データベースを拡充するという一般論をもって,犯罪捜査に資すると解釈するのであれば,「必要がなくなったとき」はほとんど想定できなくなり,運用次第では,抹消されるべき場合がほぼ存在し得なくなる可能性もある。 しかしながら,指紋,DNA型及び被疑者写真にはみだりに使用されない一定の保護法益が認められるべきであるから,無制限にこれらの保護法益を侵害しうるような解釈をとることは相当ではなく,これらの保護法益を制約することが,犯罪捜査のための必要性があるといった公共の福祉の観点から容認できるかとの観点から比較衡量して検討する必要があり,そ の趣旨に沿って指掌紋規則等も解釈されるべきである。 この点,刑事訴訟法218条3項や被疑者等の承諾により指紋及びDNA型を採取し,被疑者写真を撮影する場合,第一義的には,当該被疑事実の捜査に使用するために行われるものであると考えられるが,データベース化を前提とした捜査の有用性や,適正な管理下における国民の不利益の 程度が著しいとまではいえないことに鑑みると,当該被疑事実の捜査に限 - 95 -定してのみ使用が許されると解するのは,データベース化自体を容認できないとの帰結になりかねず,狭きに失するものであり,当該被疑事実以外の余罪の捜査や(少なくとも一定の範囲内の)有罪判決が確定した場合 定してのみ使用が許されると解するのは,データベース化自体を容認できないとの帰結になりかねず,狭きに失するものであり,当該被疑事実以外の余罪の捜査や(少なくとも一定の範囲内の)有罪判決が確定した場合に再犯の捜査に使用するために保管することは許容できると解される。 しかし,当該被疑事実について公訴提起がなされ,刑事裁判において犯 罪の証明がなかったことが確定した場合にまで,なお制約を許容できるかは慎重に検討すべきである。指紋,DNA型及び被疑者写真を取得する前提となった被疑事実について,公判による審理を経て,犯罪の証明がないと確定した場合については,継続的保管を認めるに際して,データベース化の拡充の有用性という抽象的な理由をもって,犯罪捜査に資するとする には不十分であり,余罪の存在や再犯のおそれ等があるなど,少なくとも,当該被疑者との関係でより具体的な必要性が示されることを要するというべきであって,これが示されなければ,「保管する必要がなくなった」と解すべきである。なぜなら,犯罪の証明がないとして無罪となった場合には,有罪判決が確定した場合のように,被疑者がその指紋,DNA型及び被疑 者写真を取得され,保管,利用がされてもやむを得ない原因を作り出したと評価しうる事情が認められない上,被疑者等から承諾を得る際に,指紋,DNA型及び被疑者写真をデータベース化して半永久的に保管して使用することを明示的に説明しているとの捜査実務が確立しているとの証拠はなく,被疑者等が自身に嫌疑をかけられた被疑事実に関して指紋,DNA型 及び被疑者写真を提供することを承諾したとしても,当該被疑事実に係る犯罪の証明がないとの刑事裁判が確定した場合をも含めて承諾していたとその意思を解釈するのは無理があるといわざるを得ないし,刑事訴訟法2 被疑者写真を提供することを承諾したとしても,当該被疑事実に係る犯罪の証明がないとの刑事裁判が確定した場合をも含めて承諾していたとその意思を解釈するのは無理があるといわざるを得ないし,刑事訴訟法218条3項に基づいて採取した場合においても,身柄拘束の根拠となっていた被疑事実が,審理の結果,犯罪の証明がないとして否定され,確定し た以上は,それ以降の継続的な保管の根拠が薄弱になるといわざるを得な - 96 -いからである。 そして,指掌紋規則等がいう「保管する必要がなくなった」の要件に該当する場合には,指紋,DNA型及び被疑者写真をみだりに使用されない利益を制約する正当性が失われること,指掌紋規則等には抹消請求権やその手続は設けられていないものの,指掌紋規則等自体も必要がなくなった ときは抹消しなければならないと命じていること,さらに,保管権限者自らが要件該当性を判断するのでは恣意的な解釈,運用がなされるおそれを否定できないことなどを勘案すれば,指紋,DNA型及び被疑者写真をみだりに使用されない利益を,より射程の広いプライバシー権や情報コントロール権等の一部として位置づける理解をするかはともかく,当該利益自 体が人格権を基礎に置いているものと解することは可能であるから,指紋,DNA型及び被疑者写真を取得された被疑者であった者は,訴訟において,人格権に基づく妨害排除請求として抹消を請求できるものと解するのが相当である(なお,東京高等裁判所平成26年6月12日・判例時報2236号63頁は,任意捜査を行った時点では被疑者が罪を犯したことを疑う に足りる相当な理由があった場合であっても,その後の捜査の進展,公訴提起後の公判での審理の結果,犯罪の証明がなかったことに帰するときは,当該事件の捜査及び公判での審理に採取 犯したことを疑う に足りる相当な理由があった場合であっても,その後の捜査の進展,公訴提起後の公判での審理の結果,犯罪の証明がなかったことに帰するときは,当該事件の捜査及び公判での審理に採取した指紋等及び撮影した写真を使用したことは適法であるとはいえ,犯罪の証明がなかったことが確定した後にまで,本人の明示的な意思に反して,指紋等及び撮影した写真を保管 して別の目的に使用することが直ちに許されるものと解するのは相当ではなく,本人の同意がある場合のほか,指紋等及び撮影した写真を保管して別の目的に使用することについて高度の必要性が認められ,かつ,社会通念上やむを得ないものとして是認される場合に限られるものと解するのが相当であると説示した上,このように,犯罪の証明がなかったことが確定 した後にまで,本人の明示的な意思に反して,指紋等及び撮影した写真を - 97 -保管して別の目的に使用することは,上記の要件を満たさない限り,許されないものと解するのが相当であるから,任意捜査として指紋等を採取され,写真を撮影された者は,人格権に基づく妨害排除請求として,当該指掌紋記録及び写真記録(いずれも電子データを含む。)の抹消を請求することができるものと解するのが相当であると説示している。)。 ウ本件の検討原告が,身柄を拘束される根拠となった本件暴行事件における暴行の事実については,犯罪の証明がないとの本件無罪判決(甲8)が確定しているところ,原告は,本件現行犯人逮捕当時60歳で(乙A1),前科・前歴がないこと(これを認めるべき証拠はない。),本件暴行事件は,本件マン ションの建設工事をめぐる原告ら近隣住民と被告会社側の紛争を背景とするものであるが,本件暴行事件それ自体は,被告Dが原告の動きを制止しようとした際 き証拠はない。),本件暴行事件は,本件マン ションの建設工事をめぐる原告ら近隣住民と被告会社側の紛争を背景とするものであるが,本件暴行事件それ自体は,被告Dが原告の動きを制止しようとした際に突発的に生じたものであること,本件マンションの建設工事が終了し,既に本件マンションの建設工事をめぐる原告と被告会社間の紛争が終結していること(弁論の全趣旨),本件暴行事件における検察官の 求刑は罰金15万円であること(甲18),本件現行犯人逮捕から本件口頭弁論終結時まで約5年が経過していることなどからすれば,原告の余罪や再犯の可能性を認めるのは困難であり,その他,原告との関係で本件3データを保管すべき具体的な必要性は示されていないから,本件3データについて,「保管する必要がなくなった」というべきである。 したがって,原告は,被告国に対し,本件3データの抹消を請求することができる。 ⑷ 原告の携帯電話のデータについてア関係法令の定め等前記前提事実⑵ウのとおり,本件携帯電話のデータは,現在,刑事事件 の記録に綴られて,名古屋地方検察庁において保管されている。この点に - 98 -ついて,刑事確定訴訟記録法は,刑事被告事件に係る訴訟の記録は,訴訟終結後は,当該被告事件について第一審の裁判をした裁判所に対応する検察庁の検察官が保管するものとするとした上で(同法2条1項),その保管期間については,同法別表の上欄に掲げる保管記録の区分に応じ,それぞれ同表の下欄に定めるところによるとしている(同条2項)。また,裁判所 不提出記録の保管については,記録事務規定(平成25年3月19日法務省刑総訓第6号)(乙A13)が,当該記録に係る裁判書以外の保管記録又は再審保存記録の保管又は保存に従うものとしている(同規定23条 不提出記録の保管については,記録事務規定(平成25年3月19日法務省刑総訓第6号)(乙A13)が,当該記録に係る裁判書以外の保管記録又は再審保存記録の保管又は保存に従うものとしている(同規定23条)。 イ検討携帯電話のデータについても,その中には個人の私生活上の営みに関す る情報が多数含まれていると考えられることに照らし,何人もみだりに携帯電話のデータを取得されない自由を有すると解するのが相当である。 しかしながら,上記アのとおり,名古屋地方検察庁が本件無罪判決確定後も本件携帯電話のデータを保管し続けていることは,専ら刑事確定訴訟記録法及び記録事務規定の定めるところによるものである。そして,刑事 確定記録法及び記録事務規定による記録の保管は,指掌紋記録等による指掌紋等の継続的な保管の場合と異なり,新たな犯罪の捜査のために積極的にこれらの記録を用いることを予定しているものではなく,過去に行われた刑事裁判や捜査の記録を一定期間保管しておくことを目的とするものであると解されるところ,本件暴行事件の捜査のために本件携帯電話のデー タを提供したことについての原告の承諾の範囲を超えて,これらのデータの保管がなされているとはいい難い。そうであるとすれば,名古屋地方検察庁において本件無罪判決確定後も本件携帯電話のデータを保管し続けることにより,原告のみだりに携帯電話機のデータを取得されない自由が違法に侵害されているものと言えない。 ウしたがって,原告のこの点の請求には理由がない。 - 99 -第4 結論以上によれば,原告の被告国,被告県に対する各国家損害賠償請求,被告D及び被告会社に対する損害賠償請求並びに被告国に対する本件各データの抹消請求のうち本件携帯電話のデータの抹消請求についてはいずれ 以上によれば,原告の被告国,被告県に対する各国家損害賠償請求,被告D及び被告会社に対する損害賠償請求並びに被告国に対する本件各データの抹消請求のうち本件携帯電話のデータの抹消請求についてはいずれも理由がないから棄却することとし,他方,被告国に対する本件各データの抹消請求のうち本 件3データの抹消請求については理由があるとして,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第8部 裁判長裁判官西村修 裁判官植村一仁 裁判官梁川将成
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