平成18(わ)333

裁判年月日・裁判所
平成19年3月27日 奈良地方裁判所
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判決文本文19,152 文字)

主文 被告人は無罪。 理由 第1事案の概要等 本件公訴事実は「被告人は,平成年月日午後時分ころ,奈良市, A丁目B番C号所在のD大学Eキャンパス内において,F(当時歳)と些細 なことから口論となり,やにわにその顔面を手拳で数回殴打する暴行を加え,よって,同人に全治約か月間を要する顔面多発骨折の傷害を負わせた」というも のである。 本件において,検察官・弁護人間に争いがなく,同意書証等の関係証拠によって明らかに認められる事実は以下のとおりである。 㨯現場の位置関係等本事件が発生したのは,D大学Eキャンパス敷地内の,法政策学部の校舎である甲号館と教員研修室となっている乙号館の間に設置されていた渡り廊下においてである(以下「本件現場」という。同キャンパス敷地内には,人文。)科学部の校舎となっている丙号館等が建ち並び,隣接する丙号館と甲号館の間には八角形状のベンチ式の椅子が設置されており,本件現場はその北東に位置している。 㨯本事件当時の人間関係等ア被告人は,D大学人文科学部の回生である。 イ本事件の被害者であるF,本事件の現場に居合わせたG及びHは,いずれも同大学法政策学部の回生である。 ウ本事件を約からメートルの距離から目撃したI及びJも,いずれも 同学部の回生である。 エ被告人とF,G及びH(以下「Fら名」という)とは,本事件まで全 。 く面識がなかった。 オG及びHは,Fの友人である。 カI及びJは,被告人及びFとの間に直接の友人関係はないものの,他の友人との関係等から同人らを知っていた。 㨯事実経過等ア被告人は,平成年(以下,いずれも平成年のことであるので,その 記載を省略する)月日午後時分ころ,授 ないものの,他の友人との関係等から同人らを知っていた。 㨯事実経過等ア被告人は,平成年(以下,いずれも平成年のことであるので,その 記載を省略する)月日午後時分ころ,授業に出るため,人文科学。6 部の教室がある丙号館へと向かったところ,上記ベンチ式の椅子に座って雑談をしていたFら名に出くわした。 イ被告人とFら名は,お互いに「相手の顔を見た。見ていない」という 。 口論となった。その際,Fは,被告人の身体の一部を押した。 ウ被告人は,その場を離れ,丙号館の出入口を入ってエレベーター前まで行った。 エ被告人に立腹していたFら名は,被告人の後を追いかけ,上記エレベ ーター前で再び被告人と口論を始めた。その際,被告人は,Fから土下座するよう求められたものの,これに応じなかった。 オ被告人とFら名は,丙号館を出て本件現場に向かい移動した。その移 動の間,先頭を歩いていた被告人は,Fから背中を押された。 カFは,本件現場で,被告人の顔面を回頭突きした。 キ被告人は,上記頭突きにより鼻に痛みを感じ,すぐさま右手拳でFの左顔面を回殴打した。 クFは,上記殴打を受けていったん後退したが,再び被告人に近づいてき。 ,,。 た被告人は左右の手拳でFの左右の顔面を回ずつ計回殴打した ケFは,上記殴打行為により,鼻血を出してうずくまった。 コG及びHは,本件現場において,被告人に対し暴行を加えなかった。 サ被告人は,本件現場から立ち去ったが,その途中で,I及びJから鼻血が出ていることを指摘され,その際に「やばいっすわ。この後授業あるか,らばれてしまいますわ。ティッシュ持ってないですか。このことは先生から聞かれても言わないでくださいよ「余裕でしたわ」などと 血が出ていることを指摘され,その際に「やばいっすわ。この後授業あるか,らばれてしまいますわ。ティッシュ持ってないですか。このことは先生から聞かれても言わないでくださいよ「余裕でしたわ」などと言った。 。」,。 シFら名は,本件現場に駆けつけた同大学職員に対し,Fはこけて近く の柱にぶつかった旨虚偽の事実を申告した。Fは,後日,大学側に対し,そのように話した理由について,喧嘩で怪我をしたら保険金が下りないと思ったからであると説明した。 㨯傷害結果等アFは,被告人の上記各殴打行為により,顔面多発骨折の傷害を負い,医師により全治か月と診断された。 イ被告人は,Fの上記頭突き行為により,約日間の通院加療を要する鼻 背部打撲及び挫傷の傷害を負った。Fは,この件により,月日K簡易 裁判所において罰金万円の略式命令を受けている。 第2本件の争点及び検察官・弁護人の主張の概要等 争点 本件の争点は,正当防衛の要件のうち,侵害の急迫性が認められるか否かである(なお,当裁判所は,弁護人が第回公判において正当防衛の主張をしたこ とから,本件を期日間整理手続に付して争点を整理したところ,検察官が,侵害の不正性,防衛の意思,行為の相当性といった正当防衛の他の要件が認められることを争わず,急迫性の要件のみを争う旨を明示したことから,本件の争点が同要件の存否という点に絞られたものである。 。) 弁護人の主張の概要は以下のとおりである。 㨯被告人は,Fからいきなり顔面に頭突きする暴行を受けて傷害を負い,なおも暴行を加える気勢を示されたことから,自己の身体を防衛するため,やむを得ずFの顔面を手拳で殴打したものであるから,正当防衛が成立し,被告人は無罪である。 㨯本件は,Fら名が,多人数であること も暴行を加える気勢を示されたことから,自己の身体を防衛するため,やむを得ずFの顔面を手拳で殴打したものであるから,正当防衛が成立し,被告人は無罪である。 㨯本件は,Fら名が,多人数であることの威勢をもとに被告人に暴行を加 えようと企て,名で被告人を挑発し,Fが率先して被告人に暴行を加えたの に対し,被告人が,第三者に助けを求めたりその場から退避する余裕もなくこれに反撃した事案であって,喧嘩闘争には該当しない。また,被告人の反撃行為は防御の意思に基づくものであって,当該機会を利用して積極的に加害行為をする意思に基づくものではなかった。以上のほか,信用することの,できる被告人の公判供述等の関係証拠から認められる事実経過等に照らせば急迫性の要件を満たすことは明らかである。 これに対し,検察官は,急迫性の要件が欠ける旨を主張しているところ,期日間整理手続における争点整理の結果に,検察官の冒頭陳述及び論告を併せると,検察官の具体的な主張は以下のとおりであると認められる。 㨯加害者において,被害者との間で暴力を伴う喧嘩(以下「喧嘩」とは暴力,,。),を伴う喧嘩のことを指しいわゆる口喧嘩等は含まないものとするになり被害者の侵害行為があることを予期し,かつ,その場から逃走するなどして喧嘩を回避することが可能であったにもかかわらず,喧嘩の機会を利用しようとして,積極的に被害者に加害行為をする意思をもって現場に臨み,暴行に及んだ場合には,急迫性の要件を欠き,正当防衛は成立しないものというべきである。 㨯Fの侵害行為を予期していたか否かについて信用することのできるFら名の公判供述等の関係証拠によれば,被告人 が,八角形状の椅子の場所においてFら名と口論になったこと,Fから体 を突かれるなどしたこと,エレベーター前に 否かについて信用することのできるFら名の公判供述等の関係証拠によれば,被告人 が,八角形状の椅子の場所においてFら名と口論になったこと,Fから体 を突かれるなどしたこと,エレベーター前に移動する際,気持ち悪いという意味のことを繰り返し言ったところエレベーター前まで追いかけられて土,「下座せい」などと言われたこと「表に出ろや「出たろやないか」など。 ,。」,。 のやりとりがあったこと,Fから体を突かれてエレベーター前から移動するよう促されたことが認められ,これらの事実を前提にすると,被告人において,移動先で喧嘩になることは予期可能であったというべきであることに加え,被告人は移動先でFらに謝罪する気がなかったのであるから,移動先で喧嘩になることを十分に理解していたと認められる。 㨯逃走して喧嘩を回避することが可能であったか否かについて本件において,被告人に法的な回避義務があったとまではいえないものの,信用性の認められる被告人の捜査段階における「人に囲まれていないので, 逃げようと思えば逃げられる状態であった」旨の供述その他の関係証拠によ。 れば,被告人において,その場から逃走して喧嘩を回避することが可能であったことは明らかである。 㨯Fの侵害の機会を利用する意思があったか否かについて前記㨯同様の関係証拠によれば,被告人が,エレベーター前から本件現場に至るまで一団の先頭を歩いていること,行き先をFに尋ねていること,付近にいる学生に助けを求めていないこと,犯行現場において逃走が可能であるのに,あえてその場に止まっていること,Fに対する腹立ちや敵意を抱いていたことが認められ,これらの事実から,被告人にFの侵害の機会を利用する意思があったことが十分に推認される。 㨯積極的にFに加害行為をする意思があったか否かにつ こと,Fに対する腹立ちや敵意を抱いていたことが認められ,これらの事実から,被告人にFの侵害の機会を利用する意思があったことが十分に推認される。 㨯積極的にFに加害行為をする意思があったか否かについて前記㨯同様の関係証拠によれば,被告人が,Fの頭突き行為に対し,素早く身構えて反撃を加えていること,Fを回殴打した後,ステップをとりなが らファイティングポーズをとり,ステップを踏みながらFを待ちかまえていること,Fに対し「来いや」と挑発する言葉をかけていること,無防備のF。 の顔面を回殴打していること,前記のとおりFに対する腹立ちや敵意を有 していたことからすれば,被告人において,積極的にFに加害行為をする意思があったことは明らかである。また,本件現場から引き上げる際,Fらに対し「人まとめてかかってこい」という捨て台詞を吐いたり,IやJに対 。 し「余裕っすわ」などと発言したりしているという事実は,被告人の喧嘩に。 おける余裕と積極的加害意思の存在を裏付けるものである。 㨯以上によれば,被告人は,Fとの間で喧嘩になることを予期し,これを回避することが可能であったにもかかわらず,その機会を利用して積極的に加害行為をする意思をもって本件現場に臨んだものであるから,急迫性の要件を欠き,正当防衛は成立しない。遅くともFが頭突きをした時点において,被告人とFはいわゆる喧嘩闘争の状態にあったのであり,したがって,被告人の本件殴打行為は,被告人とFが攻撃及び防御を繰り返す一団の連続的闘争行為の一つとしてとらえられるべきものであって,防衛行為として正当化されるものではない。 第3当裁判所の判断,, そもそも刑法条が正当防衛について侵害の急迫性を要件としているのは 予期された侵害を避けるべき義務を課する趣旨ではないから,当然 正当化されるものではない。 第3当裁判所の判断,, そもそも刑法条が正当防衛について侵害の急迫性を要件としているのは 予期された侵害を避けるべき義務を課する趣旨ではないから,当然又はほとんど確実に侵害が予期(以下,この趣旨を「侵害の確実な予期」などという)され。 たとしても,そのことから直ちに侵害の急迫性が失われるわけではない。しかしながら,同条が侵害の急迫性を要件としている趣旨から考えて,単に予期された侵害を避けなかったというにとどまらず,その機会を利用し積極的に相手に対して加害行為をする意思で侵害に臨んだときは,もはや侵害の急迫性の要件を充たさないものというべきである(最決昭和年月日刑集巻号頁参 照。なぜなら,侵害の確実な予期がありながら,積極的加害意思をもって侵害),,,に臨むことは実質的にみれば正当防衛状況を利用した単なる加害行為であり緊急状況下における防衛行為として正当化できないからである。そして,このような場合,行為者には当然に回避義務が認められるといえるのである。 これに対し,侵害の確実な予期がなく,侵害の単なる可能性を予期していたにすぎないときや,不意打ちといえるほど予想外の場面で侵害を受けたときは,たとえ行為者に積極的加害意思があったとしても,急迫性は否定されないというべきである。なぜなら,このような場合に急迫性を否定することは,行為者に回避義務を課すことになり,その分だけ不当に行為者の行動の自由を制約することになって,先に述べた刑法条の趣旨を逸脱することになるからである。 しかるに,検察官は,本件において,被告人に法的な回避義務があったとまではいえない(第回期日間整理手続調書頁)としながら,前記第2の3㨯のと おり,侵害の予期と回 になるからである。 しかるに,検察官は,本件において,被告人に法的な回避義務があったとまではいえない(第回期日間整理手続調書頁)としながら,前記第2の3㨯のと おり,侵害の予期と回避可能性が認められ,侵害の機会を利用し積極的加害行為をする意思がある場合には急迫性の要件が欠けると主張しているのである。しかしながら,このような見解によるならば,侵害の確実な予期がなく,法的な回避義務もないにもかかわらず,行為者に積極的加害意思がある場合には,その意思と併存して防衛の意思を有していた場合であっても,逃走等の回避措置をとらず反撃した場合には処罰を免れないことになってしまうのである。したがって,検察官の前記見解は,刑法条の趣旨を逸脱し不当に行為者の行動の自由を制限 するものといわざるを得ず,当裁判所の採用するところではないといわなければならない。 そして,本件において,検察官は,その主張の全体的な趣旨にかんがみれば,被告人がFの侵害行為を確実に予期していたとまでは考えておらず,そうであるからこそ,被告人に法的な回避義務があったとまではいえないとしているものと解される上,本件全証拠を精査してみても,被告人がFの侵害行為を確実に予期していたとは認められないのである。 そうすると,以上の点だけをみても,本件において急迫性の要件が否定されないのは明らかというべきである。 また,検察官は,前記第2の3のとおり,Fら名の公判供述が信用できると の前提に立った上で,同供述等の関係証拠から認められる各事実から,本件は,。 喧嘩闘争に該当し急迫性の要件が否定される旨を主張しているところであるしかしながら,Fら名はいずれも,当公判廷において,本件現場への移動開 始時はもとより,本件現場に到着した後も喧嘩をする気はなかったという趣旨 急迫性の要件が否定される旨を主張しているところであるしかしながら,Fら名はいずれも,当公判廷において,本件現場への移動開 始時はもとより,本件現場に到着した後も喧嘩をする気はなかったという趣旨の供述をしているのである。すなわち,Fは「被告人が攻撃してくるというこ,とはちょっと頭にあったものの,喧嘩になるとは思ってなかった(F証人尋。」問調書頁「渡り廊下(本件現場)に行った後でも,被告人を攻撃すること ),は考えていなかった。頭突きをしたのは,たぶん怖かったので,防衛反応が働。 ,。」いたんだと思う渡り廊下に行くまでは全然喧嘩しようとも思ってなかった(同,頁「喧嘩になるとも全然思ってなかった。喧嘩をしてはだめだな ),というのは思っていた(同頁,Gは「よく分からず付いて行ったが,裏。」), に行ったら話し合いやと思いました(G証人尋問調書頁「話し合いの目。」), 的で裏に付いて行った(同頁,Hは「話し合いにでも行くのかなと思っ。」), た(H証人尋問調書頁「後を付いて行きながら,何か話し合いでもする。」), のかなと思った(同頁)旨それぞれ供述しているのである。そして,被告。」 人も,捜査・公判を通じ一貫して,自分から喧嘩を仕掛ける意思は全くなかった旨を供述しているところである。 そうすると,Fら名の公判供述が信用できるとの前提に立つならば,被告人 及びFら名がいずれも喧嘩の意思をもたずに本件現場に赴いたところ,Fが ,突然に暴行の意思を生じて頭突き行為に及んだということになるのであるからいかにFら名が被告人に対し挑発的な態度をとっていたとはいえ,被告人が Fの暴行を予期することは困難であったというほかなく,当然に急迫性 意思を生じて頭突き行為に及んだということになるのであるからいかにFら名が被告人に対し挑発的な態度をとっていたとはいえ,被告人が Fの暴行を予期することは困難であったというほかなく,当然に急迫性の要件が認められることになるはずである。このように,Fら名は,当公判廷にお いて,急迫性の有無という本件の争点に最も直結した点につき,検察官の主張に反する供述をしているといえるのである。 そうすると,Fら名の公判供述が信用できると解した場合には,上記のとお り急迫性の要件が肯定されることになるし,Fら名の公判供述が信用できな いと解した場合には,これが信用できるということを前提とした検察官の主張が認められないことになるのである。そうすると,上記の点からみても,本件における検察官の主張は妥当を欠くものというべきである。 次に,検察官がその主張の根拠としている,Fら名の各公判供述の信用性を 検討した上,その主張の当否について判断することとする。 㨯Fの公判供述の信用性についてアFの公判供述の概要八角形状の椅子のところで被告人と口論になった際,被告人の胸辺りを押したのは,被告人が近づいてきたので殴られると思い怖くなったからである。被告人は「何やねん。お前外出ろや」と喧嘩を売るようなことを言,。 ったり「きっしょい」と回以上言うなどしていた。エレベーター前で,。 自分が「土下座しろや」と言ったときは,被告人は自分を馬鹿にしたよう。 な,挑発的な態度であった。被告人に「外出ろや」と言ったが,それはそ。 のように言えば被告人が謝るだろうと思ったからである。被告人から「おお,どこ行くねん」と言われ,何も考えずに普通に,被告人の左腕をポン。 と叩いた。本件現場へ移動する際,前方の葉っぱが生えているところにぶつかりかけ,つ 謝るだろうと思ったからである。被告人から「おお,どこ行くねん」と言われ,何も考えずに普通に,被告人の左腕をポン。 と叩いた。本件現場へ移動する際,前方の葉っぱが生えているところにぶつかりかけ,つまずいたら格好が付かないので,思わず被告人の体を回 押したことがあった「びびってんのか「なめとんのか」などとは言っ。 。」,。 ていない。本件現場に着いた時,自分は被告人に暴力を振るう気は全くなかったが,被告人が攻撃してくるかもしれないとは思っていた。本件現場において被告人がお前見てたやんけと言ってきたので自分も見,「,。」,「てないわ」と言い返し,お互いの顔を近づけた状態で口論となった。被告。 人に「気持ち悪い顔してんな」と言うと「お前が気持ち悪い顔してんね。 ,ん」みたいなことを言い返された。それからすぐ,自分から手を出すつも。 りはなかったが,防衛本能がはたらいたのか,頭突きするように顔を下げたが,頭突きしようと考えてしたわけではない。すると,被告人から目と鼻の先を殴られ,気づいたら自分が全然違う位置にいて,手で顔を押さえて目が見えない状態だった「痛い」とか「打ち所が悪かった」と言って。 。 。 ,「。」。 いると被告人が来いや来いやと言っているのがずっと聞こえてきた被告人がステップを踏んでいるのが見え,はっきりとは見えなかったが,両手を胸の辺りに構えていて,気が付いたら,被告人から何発も殴られて自分が血まみれだった。両手で顔を押さえていたが,びっくりして両手を離した時に,被告人の拳が飛んできたのだと思う。その場にしゃがみ込んだ後,被告人は「弱いよう。相手にならんわ」と言って去っていった。 ,。 イしかしながら,Fの前記公判供述は,以下の理由から信用することができない。 㨯まず前 と思う。その場にしゃがみ込んだ後,被告人は「弱いよう。相手にならんわ」と言って去っていった。 ,。 イしかしながら,Fの前記公判供述は,以下の理由から信用することができない。 㨯まず前記のとおりFは被告人の顔面に頭突きする暴行を加えて約,,,日間の通院加療を要する鼻背部打撲及び挫傷の傷害を負わせ,この件に,,,より罰金万円の略式命令を受けているのでありこの事実からFが 被告人に頭突きをする際,暴行の故意を有していたことはもとより,相当に強い力を込めたことが容易に推認されるところ,前記のとおり,Fは,当公判廷において,暴行の故意を否定する趣旨のあいまいな供述をするにとどまり,防衛本能がはたらいて頭突きをしてしまったと思うなどと経験則上不自然・不合理な供述をしているのであるから,これを信用することができないのは明らかである。 㨯また,本事件の目撃者であるI及びJは,被告人,Fのいずれにも利害関係を持たず,その供述内容をみても,ことさら一方の肩を持つような様子も認められないことからすると,I及びJの捜査・公判における各供述の信用性は高いものと認められ,検察官も同趣旨の主張をしているところである(論告要旨頁。そして,信用することのできるI及びJ )の各供述によれば,Fは,被告人から回顔面を殴打された際,二,三 歩程度しか後退せず,再び被告人のほうへ行こうという明確な意思をもって,しっかりした足取りで近づいたことが認められるところ,Fの上記公判供述はかかる事実と大きく相反するものであって,この点からも信用性に欠けるものといわざるを得ない。 㨯さらに,関係証拠によれば,Fの供述経過等につき以下のとおり認められる。 aFは,本事件当日,大学職員に対し,柱にぶつかって怪我をした事故である旨虚偽の事実 性に欠けるものといわざるを得ない。 㨯さらに,関係証拠によれば,Fの供述経過等につき以下のとおり認められる。 aFは,本事件当日,大学職員に対し,柱にぶつかって怪我をした事故である旨虚偽の事実を述べ,暴行事件であることすら否定していた。 b月日に至り,副学長から本当のことを言うように説得され「自 ,分の頭を下げたとき被告人に当たったかもしれない。その後,殴られた」旨申告した。 。 cその後大学の対応に不審を抱いて警察に被害を届け出た際には被,,「告人の顔が生理的に受け付けることができない顔だったので,思わず反射的に顔を下にそらしたところ,ゴンと鼻に石みたいな堅い物がぶつけられた衝撃が走った「一方的に何度も殴られた」などと供述し」,て,頭突きを明確に否定していた。なお,Fの月日付け警察官調 書(弁第号証)には,事件に至る経緯に関し,同人が当公判廷にお いて認めている,被告人に対し挑発的な言動をしたという趣旨の供述は全く見当たらない。 d月日に検察官から事情を聞かれた際には「自分のどこかが被告 ,人のどこかに当たったという記憶があります。しかし,すぐに鼻に強,。」い衝撃を受けたので被告人のどこに当たったのか分からないのですというあいまいな供述をした上で,頭突きをしたのではないかとの問いに対し「私は顔をそらしましたが,意識して被告人に頭突きをして,やろうという意思はありませんでした」と供述した。 。 eその後,被告人が本事件で受傷した旨の診断書が警察に提出された。 fFは,月日,自らが被疑者として取調べを受け「刑事さんに被 ,告人の顔面に頭突きをしたのかと尋ねられて,そのときの状況についてよく思い出してみますと,僕が頭を下げた時に,僕の額あたりが被告人の顔面 ,自らが被疑者として取調べを受け「刑事さんに被 ,告人の顔面に頭突きをしたのかと尋ねられて,そのときの状況についてよく思い出してみますと,僕が頭を下げた時に,僕の額あたりが被告人の顔面にぶつかったという記憶がよみがえったのです」と供述を。 変遷させた。 gFは,月日にK簡易裁判所において,被告人に頭突きをして負 傷させたという傷害罪により罰金万円の略式命令を受け,自らの頭 突き行為が暴行の故意に基づくものである旨を認めた。 hところが,Fは,当公判廷において「自分から手を出すつもりはな,かった(F公判調書頁「頭突きをしようと考えてしたわけじゃ。」), 。」(,),。 ない同頁と故意に頭突きをしたことをなおも否定した 以上のとおり認められ,Fは,自らがした頭突き行為の有無,経緯,態様という極めて重要な点につき,めまぐるしく供述を変遷させているのであり,この点からも,同人の公判供述を信用することはできないというべきである。 ウこれに対し,検察官は,Fの公判供述は,①G及びHの各公判供述と符合している,②自分に不利な事実についても積極的に認める供述をしている,③自己の頭突き行為の場面について,あいまいともとれる供述が存在するけれども,被告人の暴行により重傷を負っていることからすれば,受傷寸前の自己の行為について記憶が明確でなくなるということは,特段不自然なことではない,④Fが事件当初に嘘をついたのは,喧嘩であれば保険が使えず,家族に金銭的負担をかけることを心配した結果であり,その心情は自然で納得できるし,捜査段階の早い時期には真実を語っているから,十分な信用性が認められる旨主張する。 しかしながら,①については,Gが,当公判廷で,本事件発生直後,Fから,同人の受傷 ,その心情は自然で納得できるし,捜査段階の早い時期には真実を語っているから,十分な信用性が認められる旨主張する。 しかしながら,①については,Gが,当公判廷で,本事件発生直後,Fから,同人の受傷の原因が喧嘩ではなく柱にぶつかったことである旨の虚偽の事実を,大学側に申告するよう依頼を受け,これに応じた旨を供述していることなどの関係証拠によれば,Fら名の間で,事件直後に,Fが受傷した 真の理由を隠ぺいする旨の口裏合わせが行われたことが認められるのである。これに,G及びHが,いずれもFの友人であること,本事件時にFとともに被告人に挑発的な態度をとったものであることといった事情を併せ考えると,Fら名がそれぞれ,柱にぶつかったとの嘘が通用しなくなった段階 に至っても,当初の口裏合わせに基づくなどして,いまだ殊更にFに有利な供述をしているのではないかとの疑いは,誰しもが抱くところである。そうすると,Fら名の供述が符合しているからといって,同人らの供述の信用 性が高まると解することはできない。次に,②については,前記イ㨯で認定したFの供述経過に照らせば,Fは,大学側の調査や本件捜査の進展によって,自己に不利益な事実の一部について認めざるを得なくなったにすぎないと解されるから,その供述のなかに不利益な事実があるからといって,それが供述全体の信用性を高めることにはならないというべきである。また,③については,Fが,柱にぶつかったという嘘をわざわざつくこと自体,受傷に至る経緯に自己の違法ないし不正な行為が介在していた旨を認識していたことを強くうかがわせるものといわざるを得ないし(仮に,頭突き行為を失念し,被告人に一方的に殴られたという記憶しかなかったのであれば,その記憶のとおりの申告をすることにつき,保険が使えないという心配をする必要は がわせるものといわざるを得ないし(仮に,頭突き行為を失念し,被告人に一方的に殴られたという記憶しかなかったのであれば,その記憶のとおりの申告をすることにつき,保険が使えないという心配をする必要はないのである,Fは,受傷の直後においても,GやHと口裏合わせ。)をするだけの思考能力を有していたものと認められるから,その寸前の行為についての記憶が不明確になるということは考えがたいというべきである。 さらに,④については,Fは,受傷の原因が柱にぶつかったことであるとの嘘が通用しなくなった後も,自己の頭突き行為の存在やその故意を否定するなど信用性に欠ける供述をしているのであるから,Fが捜査段階の早い時期に真実を語っているという検察官の指摘は正鵠を欠くものといわざるを得ない。 以上のとおり,Fの公判供述の信用性に関する検察官の主張はいずれも理由がない。 エ以上によれば,前記のFの公判供述は,捜査の進展等に伴い認めるに至った自己に不利益な部分を除き,これを信用することはできないというべきである。 㨯Gの公判供述の信用性についてアGは,当公判廷において,本件現場に至る経緯については概ねFの公判供述に沿う供述をしたほか,本件現場における状況について,概要「本件現,場で被告人とFが言い合いになった時,自分はFの後方メートルくらいの 。 。 位置にいた人がどのような言い合いをしていたかはよく聞こえなかった 急にFが飛んできて,自分の前を通過して校舎前に飛んでいった。被告人がFを殴ったため,Fが飛んできたのだと思う。Fは,メートルくらい飛ば された場所で,顔を押さえて痛がりながら立ち上がった。すると,被告人が『来いや来いや』と言って,ゆっくりと,ボクシングのようなステップを。 踏んでFに近づいていき,Fの顔を発殴った。Fは,倒れて された場所で,顔を押さえて痛がりながら立ち上がった。すると,被告人が『来いや来いや』と言って,ゆっくりと,ボクシングのようなステップを。 踏んでFに近づいていき,Fの顔を発殴った。Fは,倒れて血を吹き出し て痛がっていた。被告人は『今度は人でかかってこいや』みたいな捨,。 て台詞を言って去っていった」旨供述している。 。 イしかしながら,まず,Gの公判供述は,被告人が度目にFを殴打した状 況について,被告人,I及びJだけでなく,Hの各公判供述とも,またG自身の捜査段階の供述とも大きく異なる供述をしている上,殴打行為により約メートルも飛ばされるという供述内容自体,極めて不自然であって,その ような事象が現実に起こったとはおよそ考えられない。また,Gは,捜査段階から一貫して,Fが被告人に頭突きした場面を見ていないという趣旨の供述をしているところ,Fの後方にいたとはいえ,約メートルの近距離から Fの頭突き行為が見えなかったというのは不自然である。これに,Gが,Fの友人であること,エレベーター前で被告人に文句を言うなどして同人に反感を抱いていたものであること,事件直後にFと口裏合わせをしていることを併せ考えると,前記アのGの公判供述を信用することはできない。 㨯Hの公判供述の信用性についてアHは,当公判廷において,本件現場に至る経緯については概ねFの公判供述に沿う供述をしたほか,本件現場における状況について,概要「本件現,場で被告人とFが向き合っていた時,自分はFの右方約二,三メートルの位置にいた。被告人とFは,お互いに顔を近づけて言い合いをしていたが,ぼそぼそしゃべっている感じで聞き取れなかった。顔と顔とが付くくらいの状態から,一瞬Fの頭が下がったみたいになり,被告人が一瞬下がって,Fを殴った。被告人が暴行 に顔を近づけて言い合いをしていたが,ぼそぼそしゃべっている感じで聞き取れなかった。顔と顔とが付くくらいの状態から,一瞬Fの頭が下がったみたいになり,被告人が一瞬下がって,Fを殴った。被告人が暴行を加える前に,Fは何もしていないし,Fの顔は被告人の顔に当たっていないと思う。Fは,吹っ飛んだような感じでかなり後ろのほうまで下がっていき,顔面を押さえてふらふらしていた。被告人は,ボクシングのファイティングポーズみたいなのをとってステップみたいなのを,『。』。 踏んでFに対しもっと早く来いやみたいなことをずっと言っていたFは,鼻を押さえて下を向きながらふらふらしたまま,被告人のほうに近づ,,。 いたところ被告人から顔を回殴られて鼻血を出して膝をついて倒れた 被告人は『弱いくせに調子のんなよ』みたいなことを言いながら去って,。 いった」旨供述している。 。 イしかしながら,Hは,その供述によれば,Fの行動を容易に視認できる位置にいたことになるにもかかわらず,Fの頭突き行為を否定する供述をして,。 いるのでありこの点においてあまりにも不自然であるといわざるを得ない,,,またFが被告人から殴られた後無防備な状態で近づいてきたとする点はそのような状態でFが近づいていく合理的理由が見いだせない上,信用する。 ,,ことのできるI及びJの各供述と齟齬しているさらに関係証拠によればHは,大学側に対し,Fが頭突きをしたことをいったんは認める供述をしながら,その後,そのような供述をしたこと自体を否定するなど,不自然に供述を変遷させていたことが認められる。これに,Hが,Gと同じく,Fの友人であること,エレベーター前で被告人に文句を言うなどして同人に反感を抱いていたものであること,事件直後にFと口裏合わせをしていることを併せ考 いたことが認められる。これに,Hが,Gと同じく,Fの友人であること,エレベーター前で被告人に文句を言うなどして同人に反感を抱いていたものであること,事件直後にFと口裏合わせをしていることを併せ考えると,前記アのHの公判供述を信用することはできない。 㨯以上によれば,前記のFら名の各公判供述はいずれも信用することができ ない。そうすると,検察官が,前記第2の3㨯から㨯のとおり,急迫性の要件が欠けることを基礎づける事実として挙げているもののうち,同㨯の,被告人がエレベーター前に移動する際気持ち悪いという意味のことを繰り返し言った「表に出ろや「出たろやないか」などのやりとりがあった,同㨯の,,。」,。 被告人が,Fに対し「来いや」と挑発する言葉をかけた,度目にFを殴打。 した時同人が無防備の状態であった,本件現場から引き上げる際「人まとめ てかかってこい」という捨て台詞を吐いたとの各事実は,いずれもFら名。 の供述以外にその裏付けとなるものは存在しないから,これらの事実は認定できないということとなる。してみると,仮に,急迫性の存否の判断について,検察官の主張する枠組みに従ったとしても,はたして被告人が喧嘩を予期していたのか,正当防衛の成立を否定するに足るほどの積極的加害意思を有していたのかといった点について,検察官は十分な根拠を示すことができていないということになるから,この点においても,検察官の主張は失当というべきである。 一方,被告人は,当公判廷において,弁護人の主張に概ね沿う供述をしているところであるが,同供述は,①捜査段階から大筋において一貫していること,②逮捕された当初に罪が軽くなればいいと思って供述した部分もあることを正直に述べるなど,供述に真摯性が認められること,③前記第1の2で認定した争いの は,①捜査段階から大筋において一貫していること,②逮捕された当初に罪が軽くなればいいと思って供述した部分もあることを正直に述べるなど,供述に真摯性が認められること,③前記第1の2で認定した争いのない事実に抵触する部分が見当たらず,供述内容にも特段不自然なところはうかがわれないこと,④信用することのできるI及びJの各供述と符合すること,⑤前記3で摘示したFら名の各公判供述が信用できないことから,格別の反対証 拠は存在しないこと,⑥検察官の反対尋問的な質問に対して全く崩れるところがなかったことといった諸点に照らし,十分な信用性を有するものと認められる。 そうすると,前記第1の2の争いのない事実に加え,信用することのできる被告人の公判供述等の関係証拠を併せると,本件の事実経過等につき以下のとおり認められ,同認定を被告人に不利な方向に覆すに足る証拠はない。 㨯被告人は,月日午後時分ころ,授業に出るために号館に向かっ ていたところ,八角形状の椅子のところにいたFと目が合い,いったん目を反らしてまた見た時にも目が合ったことから,Fのところへ行き「何」と,。 尋ねた。すると,Fは「何やねん」と言ってきて,その後,被告人が,誤,。 って「何やねんって,お前らが見てたやんか」というふうに言ってしまった。 ことから,そばにいたGとHが「お前らって,俺ら何も見てないやんけ」と。 。 ,,「,いうふうに言って口論に入ってきた被告人はまずかったと思いごめんごめん」と言ったところ,Fが,被告人の胸と肩の間辺りを回くらい押し。 てきて「何やねん,何やねん」と言ってきた。被告人は,口論を打ち切る,。 ことにして「うっとうしいわ」と言って,号館のエレベーター前に向かっ,。 た。 㨯被告人がエレベーター し。 てきて「何やねん,何やねん」と言ってきた。被告人は,口論を打ち切る,。 ことにして「うっとうしいわ」と言って,号館のエレベーター前に向かっ,。 た。 㨯被告人がエレベーター前まで来たところ,Fら名が追いかけてきて,H がエレベーターの入口前に立ったため,被告人はエレベーターに乗れない状。 ,,「。」,態になったHは人のなかでいちばん勢いよい感じでしばくぞとか 「殺すぞ」などと怒鳴り,Fは,顔を真っ赤にして,唇が引きつり,手をブ。 ルブル震わせ,Gは,他の人のペースに合わせるような様子であった。F は,被告人に対し「土下座せい」と申し向けたところ,被告人は「土下座,。 ,はせえへん」というふうに言った。被告人は,喧嘩になる,そうなったら退。 学になるという思いから,Fら名に対し「退学になるから喧嘩はせえへん で」とか「もうええから,授業に行かせてくれや」などと言った。そうす。 ,。 ると,Fら名の興奮が解けた感じで,名のうち誰かが「こいつ,びびっと るわ」と言い,Gが「こっちの喧嘩やから,退学なんてならへんわ」と言。 。 い,Fが被告人の顔を見ながらケラケラ笑うなどした。被告人は,Fら名 の興奮が冷め,普通に近い雰囲気になったので,Fに袖を引っ張られ「行け,や」と言われ,背中を押されるなどして本件現場に向かう際には,名とも。 喧嘩をする勇気はないだろう,本件現場まで移動するのに付き合えば名と も気が済むだろうなどと考えていた。また,Fら名のなかにも,被告人に 暴力を振るうということを具体的に考えていた者はいなかった。なお,被告人及びFら名が本件現場に向かうのを目撃したI及びJは,Fら名のう ち誰かが被告人に「びびってんのか」と言っていたこ 暴力を振るうということを具体的に考えていた者はいなかった。なお,被告人及びFら名が本件現場に向かうのを目撃したI及びJは,Fら名のう ち誰かが被告人に「びびってんのか」と言っていたことなどから,喧嘩にな。 るのではないかと考えていたけれども,当然のことながら被告人の内心を知るはずもなく,また,I及びJの目から見ても,被告人に積極的に喧嘩をしようという様子はうかがわれなかった。 㨯本件現場に着くと,FがGらに「こいつ,やるところないな」と言い始め。 たことから,被告人は,喧嘩になる,やばいと思い「どうするねん。もう,,ええやろう」というふうに言った。すると,Fが,被告人と向き合い「お。 ,前むかつく顔しとんな」と言い,近づいてきて,いきなり顔面に頭突きして。 きた。被告人は,Fの頭突きを全く予期していなかったため,無防備の状態のまま顔面に頭突きを受け,痛みを感じ,左手で鼻を覆うのとほぼ同時に,右手拳でFの顔面を殴打して反撃した。すると,Fは,殴打を受けて二,三歩ほど後退したものの,大したダメージがないような素振りで,笑った顔で「当たり所,悪かったわ」と言った後,顔を真っ赤にして怒り出し,睨み付。 けながら再び被告人に近づいてきた。被告人は,再びFから攻撃されると思った上,これまでのFら名の言動等から,G及びHも自分に向かってくる ことも危惧されたことから,とっさに身構え,歩踏み込んでFの顔面を回 殴打した。Fは,その場にうずくまってしゃがみ,被告人は,Fら名が暴 行を加えてくる様子がなくなったことから「ふざけるなよ」と言って本件,。 現場から立ち去った。 㨯被告人は,本件現場から立ち去る途中で,I及びJから鼻血が出ていることを指摘され,その際に「やばいっすわ。この後授業あるからばれてしまい, けるなよ」と言って本件,。 現場から立ち去った。 㨯被告人は,本件現場から立ち去る途中で,I及びJから鼻血が出ていることを指摘され,その際に「やばいっすわ。この後授業あるからばれてしまい,ますわ。ティッシュ持ってないですか。このことは先生から聞かれても言わないでくださいよ「余裕でしたわ」などと言ったが,これは,自分が本。」,。 件現場まで連れて行かれて頭突きされ,鼻血が出ていたことが格好悪いと思い,格好付けの意味で言ったことであった。 以上のとおり認められる。 前記4で認定した事実によれば,被告人は,本件現場に赴くまで,Fから暴行を受けることを予期せず,本件現場に到着した後,FがGらに対し「こいつ,やるところないな」と言い始めた時点ではじめて暴行を受けることを予期して間。 もなく,Fがいきなり近づいてきて顔面を頭突きし,防御の姿勢をとる余裕もなくこれを顔面に受けたため,Fの顔面を回殴打して反撃したところ,Fがさら に攻撃の意思をもって被告人に向かってきたため,GやHによる攻撃も危惧されたこともあって,退避等の措置を考える暇もなく,Fの顔面を回殴打する反撃 行為に出たものと認められる。このようなFによる頭突き行為や攻撃の意思をもって被告人に接近する行為が,急迫性の認められる侵害であるということは,明らかというほかない。 これに対し,検察官は,被告人の捜査段階における「逃げようと思えば逃げら」,,れた旨の供述が信用できるのであってこれに相反する公判供述は信用できず被告人に回避可能性があったことは急迫性の要件を否定する事情となるものである旨主張する。 しかしながら,関係証拠によれば,被告人の上記捜査段階の供述は,取調官であるE刑事が,被告人が逮捕当初から正当防衛の主張をし,その後,Iらの供述等その主張を裏付け 事情となるものである旨主張する。 しかしながら,関係証拠によれば,被告人の上記捜査段階の供述は,取調官であるE刑事が,被告人が逮捕当初から正当防衛の主張をし,その後,Iらの供述等その主張を裏付ける証拠が得られるに至ったにもかかわらず,同刑事の正当防衛の要件に関する誤解ないしは理解不足から,被告人に対し「被告人一人だけ,が悪者になるようなことはない」旨説明したり,正当防衛の主張が認められなかった架空の事例を実例として紹介したりするなどして,被告人の弁解が通ろうと通るまいと犯罪が成立する旨誤った認識を抱かせた上,現実に現場から逃げることが可能であったのかという点に対する十分な吟味をしないまま得られたものと認められるから,その信用性は低いといわざるを得ず,被告人の公判供述の信用性を減殺するに足る証拠価値を有しないというべきである。また,当裁判所は,被告人が,Fの頭突きを予測してこれを回避したり,Fが再び被告人に向かってきた際に逃走したりする方途を選択することは,事件当時の客観的状況に照らしかなり困難であったと思料するものであるが,仮に,本件において回避可能性があったからといって,そのことから直ちに急迫性の要件が否定されることにならないのはいうまでもない。 また,検察官は,被告人の公判供述のうち,Fら名がエレベーター前で喧嘩 を挑発するような言動をしていたのに,被告人が「喧嘩をしない」と一言述べ。 ただけで,Fら名の興奮が収まったことから,喧嘩になることはないだろうと 思ったというのは,不自然であり信用できない旨主張する。 しかしながら,そもそも,二十歳を過ぎた大学生が「顔を見た,見ない」と,いった口論をきっかけに,他の学生も現在する大学のキャンパス内において,暴,,,行傷害といった犯罪行為に及ぶということは極めて異常なこと もそも,二十歳を過ぎた大学生が「顔を見た,見ない」と,いった口論をきっかけに,他の学生も現在する大学のキャンパス内において,暴,,,行傷害といった犯罪行為に及ぶということは極めて異常なことなのであって一般常識を備えた者にとって,相手から挑発的な態度をとられたということから直ちに,このような犯罪行為を予期するというのは,決して容易なことではないというべきである。さらに,前記4で認定した事実経過のとおり,G及びHは,被告人に対しかなり挑発的な言動をしながらも,終始一貫して被告人に暴力を振るう意思はなかったものと認められるし,Fにしても,本件現場に赴いてはじめて頭突きをすることを思い立ったものと認められるのであって,Fら名は,当 初の口論によって生じた怒りを解消させるべく,専ら被告人を謝罪させることを目的に,喧嘩をにおわせる言葉をかけていたにすぎないのである。そうすると,Fら名が「喧嘩はしない」という被告人の一言から,精神的に優位に立っ ,。 たと感じて落ち着きを取り戻し,被告人も,その気配を察して,Fら名が喧嘩 を仕掛けることはないであろうと思ったとしても,何ら不自然ではないというべきである。 その他,検察官が論告においてるる指摘している点を逐一検討してみても,被告人の公判供述の信用性を疑わせるものはないし,急迫性の要件を否定すべき事情も認めることができない。 第4 結論 以上のとおり,正当防衛の要件のうち,侵害の急迫性が認められ,また,侵害の不正性,防衛の意思,防衛行為の相当性といったその他の要件が認められることについては,検察官も争わず,かつ証拠上明らかである。そうすると,本件については正当防衛の成立が認められることとなるから,弁護人の主張は理由がある。 以上によれば,本被告事件につき犯罪は成立しないから,刑事訴 主文 検察官も争わず,かつ証拠上明らかである。そうすると,本件については正当防衛の成立が認められることとなるから,弁護人の主張は理由がある。以上によれば,本被告事件につき犯罪は成立しないから,刑事訴訟法条により,無罪の言渡しをすることとする。よって,主文のとおり判決する。(求刑懲役年) 平成年月日 奈良地方裁判所刑事部 松井修 裁判官

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