平成15(少イ)1 未成年者飲酒禁止法違反被告事件

裁判年月日・裁判所
平成16年9月30日 宇都宮家庭裁判所 栃木支部
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判決文本文19,207 文字)

判決 主文 被告人は無罪 理由 第1 本件公訴事実本件は,未成年者飲酒禁止法(大正11年法律第20号,以下単に「法」という場合はこの法律を指す。)1条2項の「未成年者ニ対シテ親権ヲ行フ者若ハ親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者未成年者ノ飲酒ヲ知リタルトキハ之ヲ制止スヘシ」(罰則は法3条2項)に係る罪に関する事案で,その訴因変更後の公訴事実は,要旨,「被告人は,A塗装の経営者として未成年者である同店従業員のB(当時17歳)及び同C(当時16歳)を親権者に代わって監督する者であるが,平成15年2月9日午後6時過ぎころから同日午後10時30分過ぎころまでの間,栃木県下都賀郡a町所在の被告人方及び同町内所在のスナック店舗内において,上記Bら2名に対し,同人らが未成年者であることを知りながら,酒類であるビール,焼酎等を提供して飲酒させ,これを制止しなかった。」というのである。 第2 証拠によって明らかに認められる前提事実 1 そこで検討すると,(証拠‐略)によれば,以下の事実が認められる。 「被告人は,平成7年ころからA塗装の名称で建築塗装業を経営しているものであるが,平成13年夏ころからB(本件当時17歳)を,平成15年1月28日ころからC(本件当時16歳)を,いずれもA塗装の従業員として雇用していた。被告人は,B及びCが未成年者であることを知りながら,平成15年2月9日午後6時ころから同日午後8時30分ころまでの間,仕事を終えて戻ってきたB及びC並びに同従業員D及び同Eに対し,栃木県下都賀郡a町大字bc番地d・e号室の被告人方において,日本酒,ビール等を振る舞って飲酒させ,その後場所を代えて,同日午後9時ころから同日午後10時30分ころまでの間,被告人の実父が経営するスナックであり,その日は定休日であった同町大 告人方において,日本酒,ビール等を振る舞って飲酒させ,その後場所を代えて,同日午後9時ころから同日午後10時30分ころまでの間,被告人の実父が経営するスナックであり,その日は定休日であった同町大字fg番地hの「F」店舗内において,上記4名らに対し,さらに焼酎等を振る舞って飲酒させた。」 2 上記認定事実によれば,被告人がB及びCに対し,同人らが未成年者であることを知りながら,酒類を提供して,飲酒させたことは明らかである。 なお,法1条2項にいう「飲酒を制止しない」とは,文理上は,未成年者が自発的に飲酒することを知りながら,これを止めさせないという不作為を意味することは明らかであるが(大阪家庭裁判所昭和39年12月23日判決(家裁月報17巻7号181頁),福岡家庭裁判所久留米支部昭和43年5月6日判決(家裁月報20巻11号217頁)等参照),本件のように,より積極的に未成年者に酒類を提供して飲酒させた場合が不処罰となるのは不合理であるから,当然これに含まれるものと解する(水戸家庭裁判所昭和33年9月20日判決(家裁月報10巻9号130頁)も同旨)。 そして,法1条2項の「未成年者ニ対シテ親権ヲ行フ者」とは,通常は父母らの親権者(民法818条)を指し,また,「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」の中に,法律上の親権代行者(親権者が子の親権を代行する場合(民法833条),未成年後見人(民法857条等),未成年後見人が未成年被後見人の親権を代行する場合(民法867条),児童福祉施設の長(児童福祉法47条)等)が含まれることは,その文言等から見ても明白であると言えるが,被告人は,B及びCの親権者でも法律上の親権代行者でもない。 第3 争点及び当事者の主張 1 争点そこで,本件犯罪の成否は,法1条2項の「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」の中 あると言えるが,被告人は,B及びCの親権者でも法律上の親権代行者でもない。 第3 争点及び当事者の主張 1 争点そこで,本件犯罪の成否は,法1条2項の「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」の中に,法律上の親権代行者以外にどのような者が含まれるのか,そして,被告人がB及びCとの関係でこれに該当するか否かによることになる。 2 検察官の主張これについて,検察官は,要旨,以下のとおり主張する。 法1条2項の「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」とは,文理上,親権そのものを代行する者ないしは法律上の義務に基づいて未成年者を監督する者には限られない。未成年者飲酒禁止法は,飲酒による未成年者の心身への悪影響から未成年者を社会全体で保護しようとする趣旨で制定された法律であるから,その法の理念,機能と目的,当該刑罰法規の保護法益と保護の目的などの諸要素を考慮して解釈すべきである。近時,少年犯罪の増加,凶悪化が著しく,重大な非行へとつながる飲酒を社会全体で防止する必要性が高まっており,警視庁,厚生労働省,文部科学省等の関係各機関が連携しながら飲酒防止対策を進めている中,平成12年には同法の改正がなされ,営業者による酒類の販売禁止違反の罰則が科料から罰金に引き上げられ(法3条1項),酒類を提供する側の責任が拡大されるに至ったという社会情勢に照らせば,法1条2項の「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」を「法律上の義務」に基づいて未成年者を監督する者に限定的に解釈するのは,法の制定趣旨に反する。したがって,法1条2項の「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」とは,法律上親権代行者とされている者はもとより,事実上親権者に準ずる監護教育をなすべき地位にある者も含まれると解すべきである(安西温「改訂特別刑法4」155頁同旨)。裁判例も,親代わりに実弟を監督していた兄につき, 行者とされている者はもとより,事実上親権者に準ずる監護教育をなすべき地位にある者も含まれると解すべきである(安西温「改訂特別刑法4」155頁同旨)。裁判例も,親代わりに実弟を監督していた兄につき,これに該当するとしており(前掲福岡家庭裁判所久留米支部判決),法律上の義務に基づいて未成年者を監督する者などと限定的に解釈していない。 本件において,被告人は,B及びCの雇主であるところ,上記安西「改訂特別刑法4」には,法1条2項の「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」の意義につき,「単なる雇主とか上司など職務上の監督者であるということだけでは足りない。」との記載があるが,雇主や上司であることから直ちに本件の構成要件該当性が否定されるとする趣旨でないことは明らかである。被告人は,会社としてではなく,個人経営で塗装業を営んでいることから,雇主である被告人と従業員との人間関係が緻密であり,会社における経営者と従業員との関係とは質的に異なるものがある。また,個人で営む塗装業においては,未成年者を雇い入れることが多いが,一人前の塗装工として成長するには最低2,3年かかり,従業員を定着させて確保し,安易に辞めさせないようにしないと,経営が維持できないという特殊性があるため,未成年者らの従業員については,仕事面のみならず,日常生活についても指導監督する必要があった。また,被告人は,B及びCの親権者らから,個別的に生活全般を含めた監督を強く依頼されていた。そして,Bは,中学生のころから非行化し,高校を中退して,暴走族に加入し,無免許運転を繰り返して,保護観察処分に付されたり,多数の女性と代わる代わる交際したりしていて,Bの両親が日常生活の監督が困難な状態になっていたため,被告人は,Bに対し,暴走族から脱退するように注意したり,無免許運転をしないように指導する れたり,多数の女性と代わる代わる交際したりしていて,Bの両親が日常生活の監督が困難な状態になっていたため,被告人は,Bに対し,暴走族から脱退するように注意したり,無免許運転をしないように指導するなど,生活面についても指導監督していた。また,Cは,実母,実母の内縁の夫らと生活していたが,実母の内縁の夫と折り合いが悪かったため,家に寄り付かず,友人宅を泊まり歩く生活をしており,窃盗,道路交通法違反により保護観察中であったため,被告人は,平成15年2月初旬ころにCを数日間にわたって被告人方に宿泊させたり,保護司の観察に服するように注意するなど,その生活面も含めて指導監督していた。B及びCの親権者らは,B及びCの生活状況に問題があることから,いずれも親権者自らの監督は困難と考え,その子らに対する監督を被告人に委ねていた。 このように,法1条2項の「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」とは,親権者の依頼等により,未成年者に対し,事実上親権者に準ずる監護教育をなすべき地位にある者も含まれると解され,本件において,被告人は,これに該当する。 3 弁護人の主張一方,弁護人は,要旨,以下のとおり主張する。 法1条2項の「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」とは,「親権者ニ代リテ」との文言が規定されているので,親権者の代替要員でなければならないと解されるところ,一般的,包括的な親権者の代替要員は,親権代行者(未成年後見人,児童福祉施設の長)以外には存在しない。ただ,教師や舎監は,教育現場や寄宿舎内という一定の限られた場面ではあるが,未成年者を指導・懲戒・措置をする権限と義務が法定されており,親権者の監督権の行使が著しく困難な場面であるから,このような場合には,「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」に含まれると解される。 しかし,監督権限や義務が法定されて する権限と義務が法定されており,親権者の監督権の行使が著しく困難な場面であるから,このような場合には,「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」に含まれると解される。 しかし,監督権限や義務が法定されておらず,単に事実上親権者に準ずる監護教育をなすべき地位にある者を,「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」に該当するとするのは妥当でない。上記安西「改訂特別刑法4」では,事実上親権者に準ずる監護教育をなすべき地位にある者も含まれるとされているが,そこで例示されている学校教師,寄宿舎の舎監及び実兄は,いずれも学校教育法11条(教師の懲戒権),労働基準法96条(寄宿舎における安全衛生措置義務)及び民法730条(互助義務)などという,いずれも親権とは異なるが,関係法令により監督権限が与えられている場合であるから,そこで言われている「事実上親権者に準ずる」とは,何らかの意味で未成年者の法律関係に関与しうる法律的裏付けによって,監督権限が認められている場合を意味していると解される。よって,この見解によっても,これらの関係法令の存在しない単なる雇主や上司が排除されるのは当然である。仮に,そうでないとすると,例えば,学習塾や書道塾の教師,趣味のサークルの指導者や先輩,町内会の役員や隣人等までそのような地位に立ち得ることになり,可罰と不可罰の限界が余りにも不鮮明となってしまうから,罪刑法定主義に反することになる。 また,未成年者の親権者が雇主に私生活の監督を依頼した場合に,雇主に未成年者の監督者としての地位を与えるのは,前近代的な労使関係の復活の危険性がある。親権者と雇主との行為により,未成年者の労働契約を締結することは禁止されているから(労基法58条),この面から見ても,親権者の依頼の存在が,雇主に未成年者に対する監督者としての地位を与えるとの主張は誤りである 主との行為により,未成年者の労働契約を締結することは禁止されているから(労基法58条),この面から見ても,親権者の依頼の存在が,雇主に未成年者に対する監督者としての地位を与えるとの主張は誤りであるが,被告人は,そもそも,B及びCの親権者らから,B及びCの監督や親代わりになることを依頼されたことはなかった。被告人は,Bの母親と顔を合わせた際に,互いに,「息子をよろしくお願いします。」,「承知しました。」程度の話をしたことがあったが,このような会話は,単なる挨拶の範疇を出るものではなく,僅かな時間でなされたことでもあり,監督権の依頼というような特別な法的意味を付与するものではなかった。また,被告人は,Cに対しては,その複雑な家庭事情から,Cが家庭に寄り付かない状態にあったため,Cを雇用する以前から自宅に泊めてやるようなこともあり,Cの母親とは以前からの知り合いであったが,金銭上のトラブルがあり,双方気まずい関係にあったので,電話連絡などしておらず,挨拶もしていない。ましてや,「親代わり」など依頼されていないのである。 本件において,被告人の営む塗装業は零細企業であり,一般的に大企業の場合と異なって,労使の人間関係は濃密であるところ,被告人は,人の良さ,面倒見の良さにより,従業員との濃密な人間関係を形成したが,そのことによっても,労使関係の権利義務に変化が生じることはなく,雇主の権限や義務が拡張された訳ではない。 したがって,被告人は,B及びCの単なる雇主であって,親権者に準ずる地位にはなく,「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」には該当しない。 第4 当裁判所の判断 1 法1条2項の「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」の意義について(1)  一般に,成文法の解釈は,条文上の用語,字句に密着してその意味を考え(文理解釈),また,論理 第4 当裁判所の判断 1 法1条2項の「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」の意義について(1)  一般に,成文法の解釈は,条文上の用語,字句に密着してその意味を考え(文理解釈),また,論理上の整合性や法の目的に適合した規定の意味を追求しなければならない(論理解釈,目的論的解釈)。しかし,刑罰法規の解釈の場合は,罪刑法定主義(憲法31条)の要請に従う必要があり,国民の予測を超えて適用範囲を不当に拡げることがないようにするため,刑罰法規の解釈はできるだけ厳格であるべきで,成文法規の文言の可能な意味の範囲を超える解釈は許されないとされる(類推解釈の禁止)。 したがって,法1条2項の「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」の意義を解明するにあたっても,まず,その法規の文理解釈を基本としなければならない。しかし,この「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」の字句のみからは,必ずしもその意味ないし範囲が明確とは言い難い。そこで,さらに,法の制定趣旨,目的,立法の沿革,立法当時の社会的実態とその後の変化,法改正の有無,関連法規との関係等を十分に考察して,その法規の持つ可能な意味の範囲が明確になるように解釈していかなければならない(明確性の理論)。 (2)  そこで,まず,法1条2項の文理を見ていくと,法1条2項の「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」という文言は,他の規定で親権代行者を示す場合に用いられている「……に代わって親権を行う」という文言(民法833条,867条1項等参照)とは明らかに異なっており,その文言自体から,親権代行者のみに限定する趣旨ではないと解される。 そして,次に,親権代行者以外のどのような者が「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」に該当するかについて検討するに,法1条2項は「未成年者ニ対シテ親権ヲ行フ者若ハ親権者ニ代リテ之ヲ ないと解される。 そして,次に,親権代行者以外のどのような者が「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」に該当するかについて検討するに,法1条2項は「未成年者ニ対シテ親権ヲ行フ者若ハ親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」というように,親権者の次にこれと並べて「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」に未成年者の飲酒を制止すべきことを規定しており,「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」にも,親権者と同じ刑罰を科している(法3条2項)。したがって,この規定の構造自体からみても,「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」とは,親権者と同等か,あるいは,少なくともこれに準ずる程度に一般的,包括的に未成年者を監督することが期待されるような特別な関係ないしは立場にある者を意味していると解すべきである。また,「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」とは,親権者がいないか,いたとしても何らかの理由によって,親権者が当該未成年者を監督できないような場合に,これに代わって未成年者を監督する者を意味すると解すべきである。「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」の「代リテ」との文言は,本来の監督権者である親権者が監督できない場合であることを当然の前提としていると解されるのである。 また,論理的に考えてみても,本来未成年者を監護教育する権限及び義務を一般的,包括的に有しているのは親権者であるから(民法818条ないし820条参照),未成年者が飲酒をしようとしている現場に親権者がいる場合には,その未成年者の飲酒を制止するという作為義務を負うのは親権者のみであって,他の者は,たとえその未成年者の親族,知人等親しい関係にあったとしても,親権者に監督を任せておけばよく,倫理的,道徳的な義務は別として,法律上はそのような作為義務を一切負わないことは明らかである。それにもかかわらず,例えば,その場に親権者がいなくなると, たとしても,親権者に監督を任せておけばよく,倫理的,道徳的な義務は別として,法律上はそのような作為義務を一切負わないことは明らかである。それにもかかわらず,例えば,その場に親権者がいなくなると,それだけで直ちに親族らが未成年者の飲酒を制止すべき作為義務を負うに至るというのはあまりにも不合理であるし,その作為義務を負う者の範囲をどこまでにするかなど,基準が非常に不明確になる。したがって,その親権者以外の者が,親権者と同様の作為義務を負い,かつ違反した場合に同じ刑罰を科されるのは,単に親族等であるというだけではなく,その者が親権者と同等か,あるいは,少なくともこれに準ずる程度に一般的,包括的に未成年者を監督すべき権限及び義務を有するという特殊な関係ないし立場にある場合に限られると考えられるのである。 前記の親権代行者は,正に,親権者がいないか,あるいは,親権者がいても親権を行使できない場合で,かつ,法律上親権者と同等の監督義務を持つとされた者であるから,親権者と同等の責任を負うのである。 (3)  ところで,弁護人は,この親権者以外の者が,法1条2項の「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」に当たるための監督権限,義務は,何らかの法律上の権限,義務でなければならない旨主張するが,法1条2項の文理解釈上,弁護人の主張するような法律上の権限,義務でなければならないという限定は認められないし,実質的にもそのような限定をすべき理由は見当たらず,親権者との間の契約(依頼)により監督している場合や,契約もなくて単に事実上,民法の事務管理者(民法697条)等として監督しているような場合であっても妨げないと解する。 要は,前記のとおり,親権者と同等か,あるいはこれに準ずる程度に一般的,包括的に未成年者を監督することが期待される立場にあるか否かによるべきであ て監督しているような場合であっても妨げないと解する。 要は,前記のとおり,親権者と同等か,あるいはこれに準ずる程度に一般的,包括的に未成年者を監督することが期待される立場にあるか否かによるべきであり,その監督権限の由来や根拠は問わないのである。 このことは,法1条2項と類似した規定を持つ民法714条(責任無能力者の監督者の責任)の文言からも明らかであると言える。すなわち,同法同条1項は,無能力者を監督すべき法定の義務ある者(親権者及び未成年後見人等)の責任を規定し,これと区別して同法同条2項では,法1条2項の「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」と類似した文言を用いて,「監督義務者ニ代ハリテ無能力者ヲ監督スベキ者」(代理監督者)の責任を規定しており,この2項の「監督義務者ニ代ハリテ無能力者ヲ監督スベキ者」とは,法定の義務者以外の者を意味することが明らかなのである。 (4)  そして,より具体的に,親権代行者以外のどのような者が,法1条2項の「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」に該当するかという問題についても,刑罰法規と民事法規との相違,監督の対象の年齢層,監督内容及び目的等の相違はあるが,上記民法714条2項の解釈が一応参考になる。同法同条2項の「監督義務者ニ代ハリテ無能力者ヲ監督スベキ者」(代理監督者)の意義については,一般に,法律によって無能力者を託された公立小学校等の教員,少年院の職員等のほか,1項の親権者,未成年後見人等との契約(依頼)によって無能力者を預かる託児所の保母,幼稚園の教員等がこれに当たると解されているのである(加藤一郎「不法行為」増補版161頁以下(法律学全集22-Ⅱ有斐閣),山本進一「注釈民法(19)」261頁(有斐閣),同「民法(7)」166頁(有斐閣双書)等参照)。 また,未成年者飲酒禁止法制定に当たっての立 為」増補版161頁以下(法律学全集22-Ⅱ有斐閣),山本進一「注釈民法(19)」261頁(有斐閣),同「民法(7)」166頁(有斐閣双書)等参照)。 また,未成年者飲酒禁止法制定に当たっての立法府での議論の状況もこれを解釈するに当たっての参考資料とされなければならないが,同法は,未成年者喫煙禁止法(明治33年3月7日制定)の法案提出者でもある根本正衆議院議員によって,明治33年に初めて帝国議会に提出された法案が,毎年否決・再提出を繰り返して,大正11年3月30日に至ってようやく成立したものであるが,成立時の大正11年の第44回ないし第45回帝国議会衆議院,貴族院議事録においては,法1条2項の意義については,ほとんど議論された形跡がない。そこで,それ以前の議事録等の資料を見ていくと,明治34年2月18日の第15回帝国議会衆議院「未成年者飲酒禁止法案委員会会議録(速記)第2回」によると,当時の同法案では,「未成年者ニ対シテ親権ヲ行フ者」のみが未成年者の飲酒を制止すべき者とされていたが,その「親権ヲ行フ者」の解釈につき,提案者である前記根本正委員長が,「両親トカ,兄トカ,後見人トカ云フモノデアリ」云々と答弁しており,また,明治37年12月23日の第21回帝国議会衆議院「未成年者飲酒禁止法案委員会会議録(速記筆記)第2回」によると,現行の法文と同旨の「親権者ニ代リテ未成年者ヲ監督スル者」が加わり,その解釈につき,同じく根本正委員が,「之ハ主ニ学校ニ居ルトコロノ教官デアルトカ,後見者デアルトカ,父兄デアルトカ云フ者ヲ,指シタ積モリデアリマス」と答弁しており,ここに父兄を入れているのはやや疑問であるが,ここでは学校の教師も含まれるとしている。なお,明治33年に成立した上記未成年者喫煙禁止法の審議においては,明治32年12月15日の第14回帝 しており,ここに父兄を入れているのはやや疑問であるが,ここでは学校の教師も含まれるとしている。なお,明治33年に成立した上記未成年者喫煙禁止法の審議においては,明治32年12月15日の第14回帝国議会衆議院「幼者喫煙禁止法案審査特別委員会速記録第2号」によると,法1条2項と全く同義である同法案3条2項の「親権ヲ行フ者ニ代リテ未成年者ヲ監督スル者」の意義に関し,「本案ノ責任ヲ負フモノト云フモノハ父,父ガゴザイマセヌケレバ母,詰リ父母トモアラザルトキハ,後見人等ニ於テ是等ノ人ヨリ依頼ヲ受ケテ未成年者ヲ監督スルモ(ノ)」が責任を負うことになり,(中略)「学校教員ノ如キモノハ,茲ニ含ミマセヌ」,(中略)「雇主ト云フモノハ受ケナイ」などと答弁しており,学校教員は,一般監督者と被監督者との関係とは違って,徳義上の責任を負わせるべきではなく,生徒の悪行に対して責任を負わせるのは不穏当であるとし,また,雇主も同様であるとして,かなり限定的に解釈していたことが窺われるのである。 (5)  なお,検察官は,前記のとおり,近時,少年犯罪の増加,凶悪化が著しく,重大な非行へとつながる飲酒を社会全体で防止する必要性が高まっており,未成年者飲酒禁止法の改正がなされ,営業者による酒類の販売禁止違反の罰則が引き上げられたという社会情勢に照らし,飲酒による未成年者の心身への悪影響から未成年者を保護するという,法の制定趣旨を実現するためには,法1条2項を限定的に解すべきではない旨主張しており,確かに,時代の推移によって,少年を取り巻く環境は著しく変化し,その中で少年非行は増減を繰り返し,現在は,少子化の進む中で,少年非行の絶対数はそれほど多いとは言えないが,凶悪化,低年齢化等の傾向が顕著であるとされている。しかし,未成年者を飲酒の害悪から保護すべきであるとする法の制定 繰り返し,現在は,少子化の進む中で,少年非行の絶対数はそれほど多いとは言えないが,凶悪化,低年齢化等の傾向が顕著であるとされている。しかし,未成年者を飲酒の害悪から保護すべきであるとする法の制定趣旨,目的自体は,現在も,何ら変化していないと認められ,その目的を社会全体の努力で実現していかなければならないということも,成立当時から現在まで共通して言えることであり,未成年者の飲酒を制止しなかった者をどの範囲まで処罰し,どの範囲までは倫理,道徳等に任せて処罰まではしないかという問題に関しては,立法当時も現在も,その社会情勢,すなわち,立法事実に大きな変化があるとは認められないのである。このことは,未成年者飲酒禁止法の近時の改正は,酒類の販売業者の関係に限られており,法1条2項の監督者の範囲については,立法当時から現在まで一度も改正されていないことからも言えることである。したがって,法1条2項の監督者の範囲を,立法当時よりも安易に拡大して解釈することは許されないと解する。 (6)  小結したがって,以上を総合して考察すると,法1条2項の「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」とは,親権者や親権代行者のように,未成年者に対する監督権限や義務が法定されていなくても,親権者らが欠けたり,親権者らがいても何らかの理由で未成年者を監督できないときに,親権者に準じて一般的,包括的に未成年者を監督すべき立場にある者が,これに当たると解するべきであり,その監督権限の由来は,必ずしも法律上の義務である必要はなく,親権者や親権代行者から契約等によって依頼されたり,あるいはそのような依頼がなくても,事実上親権者らに代わって未成年者を手元に引き取り,同居させるなどして,日常一般的,包括的にこれを監督する者などが,これに当たると解するのが相当である。 そこで り,あるいはそのような依頼がなくても,事実上親権者らに代わって未成年者を手元に引き取り,同居させるなどして,日常一般的,包括的にこれを監督する者などが,これに当たると解するのが相当である。 そこで,例えば,親に代って実弟を監督している同居の兄等は,親権者が遠隔地等にいて,当該未成年者を事実上監督できず,親権者からその監督を託されている場合と考えられるから,これに該当する典型的な場合の1つであると認められる(前掲福岡家庭裁判所久留米支部判決参照。ただし,同判決が,単なる甥をも監督すべき未成年者に含ませている(と読める)点は疑問である。)。また,寄宿舎の舎監(前掲・安西「改訂特別刑法4」155頁),住込店員の雇主(3訂版「犯罪事実記載の実務『特別法犯Ⅰ』85頁」近代警察社参照),内弟子を指導する各種の師匠,地方から出てきた親類,知人等の子を預かって都会の家に同居させ,面倒を見ている者(前掲第14回帝国議会衆議院「幼者喫煙禁止法案審査特別委員会速記録第2号」における根本正委員の答弁参照)等も,親権者らが未成年者を日常監督できない場合であるから,同様と解される。さらには,親権者が欠けて未成年後見人が選任されるまでの間,事実上未成年者を同居させて面倒を見ている親族等(弁護人も例外的な場合としてこれを認めている。),あるいは,家出中の未成年者や孤児を事実上同居させて世話をしている者等も,場合にもよるが,これに含まれ得ると解されるのである。 ただし,ここで問題とされている監督の内容は,あくまでも未成年者の飲酒を制止するという,未成年者の生活面に関する一般的,包括的なものでなければならないから,監督内容としてそれを含まないような場合は,法1条2項の「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」には該当しないというべきである。弁護人が例示する学習塾や書道塾の教 般的,包括的なものでなければならないから,監督内容としてそれを含まないような場合は,法1条2項の「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」には該当しないというべきである。弁護人が例示する学習塾や書道塾の教師,趣味のサークルの指導者や先輩,町内会の役員や隣人等は,通常親権者等から未成年者の飲酒の制止等をも含めた生活面全般についての監督を依頼されているとは考えられないから,この意味で,「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」には含まれないと解されるのである。そして,同様に,本件の被告人のような,未成年者の雇主は,上記の住込店員等の場合とは違って,通常は,職務上の監督権限及び義務を有するのみで,日常的な生活面についての監督権限及び義務は有さないから,「単なる雇主」はこれに含まれないと解されるのである(上記・安西「改訂特別刑法4」155頁同旨)。 なお,因みに,上記の学校等の教師については,これに含まるべきかどうか疑問がないではない。学校等の教師は,通常学校内という限られた場面でのみ学生,生徒の指導,監督をするもので,朝夕,休日等においては,親権者が当該未成年者を監護,教育をしているのであって,上記の多くの例にあるような未成年者が親許にいない場合などとは違って,親権者が日常一般的,包括的に未成年者たる学生,生徒を監護教育している場合であること,監督される学生,生徒にも,小学校から,中学校,高校,専門学校,大学までと各種あり,しかも飲酒をする恐れが高いと思われる高校生以上の生徒等にあっては,教師の学習指導内容も次第に高度化,専門化してきて,教師の役割も知識の教授面に重きが置かれるようになり,生活面の指導という役割は相対的に減少していくと考えられること,また,高校生以上にもなると,教師が生活面の指導をしようと思っても,非常な困難が伴うと思われることなどから に重きが置かれるようになり,生活面の指導という役割は相対的に減少していくと考えられること,また,高校生以上にもなると,教師が生活面の指導をしようと思っても,非常な困難が伴うと思われることなどから,そのような教師に一律に法1条2項の義務を課するのはやや酷な感じを受けるのである。上記のとおり,未成年者飲酒禁止法及び未成年者喫煙禁止法の発案者である根本正委員の学校教師の扱いに対する衆議院での説明も,一貫していないのである。 2 被告人が,B及びCを「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」に該当するか否か。 (1) 以上を前提に,被告人が,B及びCを「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」に該当するか否かにつき判断すると,前記認定のとおり,被告人は,A塗装の名称で建築塗装業を営み,B及びCを雇用する雇主であるが,単に雇主であるというだけでは,B及びCを「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」には該当しない。逆に,雇主であるからといって,「親権者ニ代リテ之ヲ監督スル者」になり得ないわけでもない。要するに,被告人が単なる雇主という立場を超えて,B及びCを親権者に代わって監督するような特別な関係ないし立場にあったか否かが問題である。 (2) そこで,この点につき判断すると,(証拠‐略)によれば,以下の事実が認められる。 ア被告人の未成年の従業員に対する監督状況等「被告人が経営するA塗装では,従前から若年の従業員を多く雇い入れており,本件当時8人の従業員がいたが,そのうちB及びCを含む3名が未成年者で,4名が20歳代であった。そして,A塗装は,宇都宮市所在のG建築塗装工業等から下請けの仕事を受注していたが,同社の社長から,特に18歳以下の従業員は生活面も含めて指導,監督するように注意を受けていた。また,同社から東京都内等の現場の仕事を受注した場合 のG建築塗装工業等から下請けの仕事を受注していたが,同社の社長から,特に18歳以下の従業員は生活面も含めて指導,監督するように注意を受けていた。また,同社から東京都内等の現場の仕事を受注した場合には,同社の用意した埼玉県朝霞市内のアパートに従業員を宿泊させる必要があったが,そのような場合,被告人は,腰痛等もあってあまり現場へは行かず,専ら営業の仕事をしていたため,同行はしないが,年長の従業員を通じて,Bら未成年者を含む従業員に,同アパート内では飲酒しないように生活面の注意もしたり,Bその他の従業員に電話をして,その様子を確認したりしていた。その他,雇い入れた従業員が仕事を十分に覚えないうちに辞めてしまうと,採算がとれず,受注に必要な人員確保もできなくなるため,長く定着させる必要もあって,被告人は,日頃から仕事が終わった後,未成年者を含む従業員らを自宅兼事務所に呼んで,しばしば夕飯を食べさせながら,仕事の話をして従業員との親睦を図ったほか,従業員の個人的な悩み事の相談にも乗ったりしていた。また,夕飯を振る舞う際には,未成年者も含めて従業員に飲酒をさせることもしばしばあった。自宅以外でも,被告人の実父が経営する本件スナック「F」等へ従業員を連れて行って飲酒させたりして,従業員らとの関係を深めていき,若い従業員らからも慕われていた。なお,A塗装には従業員寮などはなく,基本的に従業員は全員通いであった。」イ Bの生活状況及び被告人のBに対する監督状況等について「Bは,中学校2年生のころから非行が現れ始め,タバコやシンナーを吸ったりし,中学3年生の冬ころから,両親に反発して,友人宅で無断外泊することなどを繰り返し,中学校にもあまり登校しなくなり,平成13年4月に高校に進学したが,すぐに登校しなくなって,暴走族にも加入し たりし,中学3年生の冬ころから,両親に反発して,友人宅で無断外泊することなどを繰り返し,中学校にもあまり登校しなくなり,平成13年4月に高校に進学したが,すぐに登校しなくなって,暴走族にも加入し,自動二輪車の無免許運転等を頻繁に繰り返し,同年6月末ころには両親の反対を押し切って高校も退学してしまい,同年8月ころまで就職もせず,昼間寝て夜活動するといった荒れた生活を続けていた。そして,Bは,同月19日ころから,友人の紹介でA塗装で働くようになったが,その後1週間から2週間ほど経過したころ,被告人が仕事帰りにBを自動車で自宅まで送りがてら,B方へ赴き,在宅していたBの両親と玄関先で,Bの仕事振りや,今後の雇用のことなどについて,互いに,「ちょろちょろしていますけど,仕事は真面目にやっていますか。」「真面目にやっているので大丈夫です。」程度の簡単な挨拶を交わして帰って行った。 その後,被告人は,Bの両親に,Bを通じ,Bが現場で勤務することの承諾書を書いて貰って提出を受けたことはあったが,それ以外は,本件時まで,Bの両親と一度も会っておらず,電話や手紙のやりとりなども一切したことはなかった。Bは,被告人の給料の支払いが遅れがちだったことなどもあって,平成14年6月ころから8月ころまでの2か月間ほどA塗装を辞めたこともあったが,その後またA塗装に復帰し,本件当日まで月に20日程度一応まじめに勤務し,その間,被告人は,Bを説得して,同年5月ころには暴走族を脱退させ,言葉使いや挨拶なども注意して良くなっていった。また,被告人は,Bが,暴走族に加入していたころに犯した自動二輪車の無免許運転等により,同年6月に家庭裁判所で保護観察処分を受けたことも聞かされており,Bに対し,無免許運転や女性との奔放な交際等について注意したり,悩み事の相談に乗ったりし ころに犯した自動二輪車の無免許運転等により,同年6月に家庭裁判所で保護観察処分を受けたことも聞かされており,Bに対し,無免許運転や女性との奔放な交際等について注意したり,悩み事の相談に乗ったりしていた。Bの誕生日には,スナックに連れて行き,Bの友達も呼んで誕生会を開いてやったりした。それらの結果,Bの問題行動がすべてなくなったわけではなく,特に職場の先輩から普通乗用自動車の運転を教えられてからは,無免許運転をしばしば繰り返し,本件で飲酒をした後,普通乗用自動車の無免許運転をして重大な死亡事故を惹起してしまったりしたが,本件当時の日常の生活態度はかなり改善されてきており,月に2,3回程度友人宅に泊まることはあったが,無断外泊はなくなり,普段は両親のいる家に戻り,家から仕事に出掛け,仕事のない日は家で過ごしていた。両親との関係も良くなり,家で食事をするようになり,仕事の話など会話もよくするようになっていた。 なお,Bは,被告人方に宿泊したことは一度もなかった。」ウ Cの生活状況及び被告人のCに対する監督状況等について「Cは,実父母の離婚等に伴い,平成9年ころから,実母,実母の内縁の夫,祖母らと生活していたが,平成13年夏ころ,Cが実母の内縁の夫所有のバイクを壊してしまった際に,実母の内縁の夫がCに辛く当ったことを契機として,以後Cと実母の内縁の夫との折り合いが極端に悪くなり,Cは,家に居づらくなって,しばしば友人宅に泊まりに行くようになった。Cは,平成14年春,中学校を卒業して定時制高校に通い始めたが,同年8月末ころ経済的事情から退学し,以後,レストランやガソリンスタンド等で働いたりしていたが,無職のときの方が多かった。Cの普段の素行は良くなく,オートバイの窃盗,無免許運転等を繰り返し,同年5月に家庭裁判所で保護観察 から退学し,以後,レストランやガソリンスタンド等で働いたりしていたが,無職のときの方が多かった。Cの普段の素行は良くなく,オートバイの窃盗,無免許運転等を繰り返し,同年5月に家庭裁判所で保護観察処分を受けたりしていた。Cは,平成15年1月ころ,Bの紹介で被告人方に出入りするようになり,同月28日ころから,A塗装に雇用されたばかりで,本件当日まで延べ数日間働いただけであった。Cの実母は,平成14年10月21日覚せい剤取締法違反の罪で逮捕され,平成15年1月20日に釈放されるまで家にいなかった。被告人は,Cが自宅に帰りたがらず,友人宅に泊まり歩くことが多いことを知って,Cを不憫に思い,同年2月初旬ころにCを2,3日間被告人方に宿泊させたことがあった。また,仕事がない日でもCを食事に連れて行ったりし,Cに対しても無免許運転をしないように注意するなどしていた。ただし,Cとその実母や祖母らとの関係は比較的良く保たれており,Cは,実母らとは会話もしていた上,自宅に全く帰っていなかったわけではなく,特にA塗装に雇われて,仕事に出掛ける際には,母親の作る弁当を持って自宅から出掛け,帰りも先輩等に自宅まで送ってもらっていた。被告人は,Cの実母とは以前から面識があり,Cを雇用した後の同年1月下旬ころ,Cに連絡するため,C方に電話をかけた際,これを取り次いだCの実母と短い会話をし,互いに,「Cがいつもお世話になっております。息子をお願いします。」「大丈夫です。」程度の簡単な挨拶を交わした。Cの実母は,被告人がCの父親代わりになってくれればいいなどと一方的に期待していたが,それを口に出して被告人に依頼したわけではなかった。」(3) 判断ア Bとの関係について以上認定した事実により,まず,被告人とBとの関係についてみると,被告人は,Bを雇い していたが,それを口に出して被告人に依頼したわけではなかった。」(3) 判断ア Bとの関係について以上認定した事実により,まず,被告人とBとの関係についてみると,被告人は,Bを雇い入れて間もないころ,B方でその両親と会って一度挨拶を交わしているが,それは玄関先の立ち話程度で,その内容も,雇主と使用人の両親との間で交わされる通常の挨拶の範囲を超えてはおらず,特別に,Bの仕事面のみならず,日常生活面についても両親に代わって監督することを依頼されたりしたものとは認められず,その後,Bの両親からBが現場で働くことの承諾書を書いて貰ったことはあったが,それ以外には,本件までの約1年半の間,全く接触もしていなかった。確かに,被告人は,個人で建築塗装業を営んでおり,従業員も少ない零細企業の特殊性等から,Bとの関係は,一般の大企業の経営者と社員の関係などより濃密で,職務上必要な指導監督に止まらず,仕事が終わった後夕飯を食べさせたり,相談に乗ったり,その他日常生活面についても指導,助言等をしていたため,Bから,両親よりも頼られていた側面が認められ,Bの両親も,日常生活面も含めた指導を被告人に期待していたことが窺われる。しかし,被告人は,従業員とともに現場に出ていることは少なく,これらの被告人のBに対する指導等は,主に一日の仕事が終わった後以降に限られていたと見られ,このようなことは,程度の差はあっても,未成年者を雇用する個人営業の雇主であるならば,通常行う範囲のことであるとも考えられ,被告人の場合ややそれが濃密であったが,このような濃密な人間関係を形成していたとしても,それが,被告人とBの労使関係を質的に変化させて,被告人にBの私生活面についての監督権限や義務を発生させるものとは考えられない。そして,被告人がBを自宅に泊めたことは一度 関係を形成していたとしても,それが,被告人とBの労使関係を質的に変化させて,被告人にBの私生活面についての監督権限や義務を発生させるものとは考えられない。そして,被告人がBを自宅に泊めたことは一度もなく,Bは,本件当時は,生活関係がかなり改善されてきていて,両親と同居し,家から仕事に通い,両親とよく話もするようになっていたのというであるから,現実的にもBは,親権者である両親の監督に服していたものと認められるのである。 なお,被告人の警察官に対する供述調書中には,「従業員にその保護者に代わり監督する立場にありながら,未成年者に酒を飲ませ……」「未成年者を雇用した以上は,私が経営者ですから,その間は,保護者に代わって,生活実態を監督していかなければならないことも充分に分かっていたのです。」「保護者に代わり監督する立場にありながら……」などと,被告人がBらの親権者に代わって指導監督すべき立場にあったことを認めるような内容の供述部分があるが,これらは,法律知識が十分でなく,本件の争点等を良く理解していない被告人に対し,捜査官が都合の良い見解を押しつけたことによって作成されたものに過ぎないと認められ,その証拠価値は乏しいと言わざるを得ない。 したがって,以上によれば,検察官が主張する,被告人がBの親権者から個別的にBの生活全般を含めた監督を強く依頼されていたというような事実は認められず,その他事実上にしても,被告人が,単なる雇主という立場を超えて,Bの親権者に代わってその生活面等についてまで指導監督すべき立場にあったとは認められないから,被告人は,Bとの関係において,未成年者飲酒禁止法1条2項の「親権者ニ代リ之ヲ監督する者」には該当しない。 イ Cとの関係について次に,被告人とCとの関係についてみると,上記認定事実によれば,被告人 は,Bとの関係において,未成年者飲酒禁止法1条2項の「親権者ニ代リ之ヲ監督する者」には該当しない。 イ Cとの関係について次に,被告人とCとの関係についてみると,上記認定事実によれば,被告人がCを雇い入れる少し前から,Cは,被告人方等に出入りし始め,Cの家庭の事情等を聞いて,その境遇を不憫に思い,Cを雇い入れ,平成15年2月上旬ころには,Cを2,3日間自宅に泊めてやったり,食事や遊びに連れて行ったりしたこともあったが,CがA塗装の仕事に従事したのは,まだほんの数日間しかなく,他の従業員と同様に,仕事が終わった後に夕飯を一緒に食べさせたりしたことはあったが,それ以上特別に,Cに対し,雇主と使用人の立場を超えて,一般的,包括的に生活全般について指導していたというほどのことでもなかったと認められる。また,被告人は,Cの実母とは以前からの知り合いであったが,Cを雇い入れた後,本件までの間に,Cの実母とは会ったこともなく,Cへの電話を取り次いで貰った際に,一度だけCの実母と短い間電話で話したことはあったが,その内容は,Bの際と同様に,雇主と使用人の親権者との間で交わされる通常の挨拶程度のものに過ぎず,特別にCの日常生活面を親権者に代わって監督することを依頼されたりしたものでは全くなかった。 確かに,Cの実母は,Cが実母の内縁の夫と折り合いが悪く,家にあまり寄り付かず,友人方に泊まり歩くような生活を続けていたことなどから,親権者としての指導が行き届かず,被告人に雇われた後は,被告人にCの父親代わりになって指導して貰えたならばよいなどと暗に期待していた面は窺われるが,それを被告人に口に出して伝えたわけではないから,被告人も,Cの実母から,そこまで依頼されたなどと考えてはいなかったものと認められる。逆に,Cは,実母や祖母との関係は比較的良く保た 面は窺われるが,それを被告人に口に出して伝えたわけではないから,被告人も,Cの実母から,そこまで依頼されたなどと考えてはいなかったものと認められる。逆に,Cは,実母や祖母との関係は比較的良く保たれており,自宅にも全く帰っていなかったわけではなく,本件当時は,実母や祖母らと一応同居して,家人らと会話もしていたのであるから,不十分ながら,親権者である実母の親権に服していたものと認められるのである。 したがって,以上によれば,被告人は,Cとの関係においても,検察官が主張する,被告人がCの親権者から個別的にCの生活全般を含めた監督を強く依頼されていたというような事実は認められず,一般の大企業の経営者と社員の関係などよりは濃密な関係にあったが,それは主に被告人の親切心や面倒見の良さ等から出たものに過ぎず,労使関係を質的に変化させるものとは認められないから,事実上にしても,被告人が,単なる雇主という立場を超えて,Cの親権者に代わってその生活面等についてまで指導監督すべき立場にあったとは認められず,被告人は,未成年者飲酒禁止法1条2項の「親権者ニ代リ之ヲ監督する者」には該当しない。 第5 結論よって,以上によれば,本件公訴事実については,犯罪の証明がないことに帰するから,刑事訴訟法336条により被告人に対し無罪の言渡しをする。 (求刑・科料9000円)平成16年9月30日宇都宮家庭裁判所栃木支部裁判官山田敏彦

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