主文 原判決を取消す。本件訴を却下する。訴訟費用は、第一、二審とも控訴人らの負担とする。事実 第一、 当事者の求めた裁判一、 控訴人原判決を取消す。(本位的請求の趣旨)控訴人らに対し、被控訴人A、同Bは原判決添付物件目録記載第一の土地について、被控訴人Bは同目録記載第二の土地について、被控訴人丸楽紙業株式会社は同目録記載第三の土地について、所有権移転登記手続をせよ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。(予備的請求の趣旨)被控訴人A、同Bは、控訴人らに対し、右目録記載第一および第二の各土地について、(イ) 控訴人らが農地法五条記載の届出をするについて協力し、(ロ) 右届出受理と同時に、昭和二三年六月頃の返還契約を原因として、所有権移転登記手続をなし、かつ、右地上耕作物を収去して、右各土地を明渡せ。訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人A、同Bの負担とする。二、 被控訴人ら本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人らの負担とする。三、 被控訴人A、同B(予備的請求について本案前)控訴人らの予備的請求を却下する。(同本案)控訴人らの予備的請求を棄却する。第二、 双方の主張および証拠関係は、次に付加、訂正するほか、原判決事実摘示のとおりである<ul></ul>一、 控訴人らの主張(1) 予備的主張仮りに、本件買収処分が有効とすれば、Cは、昭和二三年六月頃、本件各土地の買受申込書を城東区農地委員会に提出する際、Dに対し、「本件各土地を時期をみて返還する」旨を約した。(2) 被控訴人A、同Bの主張に対し、(イ) 自創法二八条、同法施行令二二条、同施行規則一〇条一一条は、いずれも法的拘束力のない訓示規定で し、「本件各土地を時期をみて返還する」旨を約した。(2) 被控訴人A、同Bの主張に対し、(イ) 自創法二八条、同法施行令二二条、同施行規則一〇条一一条は、いずれも法的拘束力のない訓示規定であつて、時期をみて返還するというのは、農地法三条のみではなく同法五条によつてもよいのであり、本件各土地は市街化区域内に在るので同法条による移転は容易であるから、Dが農業者でなかつたにしても、返還が不能ではない。 し、「本件各土地を時期をみて返還する」旨を約した。(2) 被控訴人A、同Bの主張に対し、(イ) 自創法二八条、同法施行令二二条、同施行規則一〇条一一条は、いずれも法的拘束力のない訓示規定であつて、時期をみて返還するというのは、農地法三条のみではなく同法五条によつてもよいのであり、本件各土地は市街化区域内に在るので同法条による移転は容易であるから、Dが農業者でなかつたにしても、返還が不能ではない。(ロ) 返還契約は、自創法の趣旨に反するものではないから、公序良俗に反する契約ということはできない。(3) Cは、農地委員等から、本件各土地について買受申込書の提出を勧められ、非小作地であることの理由で、仲々これに応じなかつたが、強引に買収され、第三者に売渡されるかも知れないとの緊迫した状勢が生じて来たので、Dのために、本件各土地を保全する手段として、自己名義で買受申込書を提出し、これが売渡を受けることを決意したものであつて、本件各土地について、買収の不法性を十分に知悉しながら、これが売渡を受け、一時預つていたものに過ぎないから、Cの本件土地占有は、他主占有であつて、仮りに自主占有とすれば悪意であり、少くとも過失があつたものといわなければならない。二、 予備的請求に対する被控訴人A、同Bの主張(本案前)本訴は前訴と重複する不適法な訴である。(本案について)控訴人ら主張の返還契約を否認する。仮りに、右契約が存在したとしても、農地の売渡を受けたものが、自作をやめようとするときは、政府が買戻し、自作農として農業に精進する者に売渡さなければならないのに、Dは医師で農業者ではないから、売渡を受ける資格がない。従つて、右契約は、給付の不能が法律上、始めから確定している契約であり公序良俗に反する無効な契約である。三、 証拠関 さなければならないのに、Dは医師で農業者ではないから、売渡を受ける資格がない。従つて、右契約は、給付の不能が法律上、始めから確定している契約であり公序良俗に反する無効な契約である。三、 証拠関係(省略) 理由 先ず、控訴人らの本件訴の適否について判断する。控訴人は、前訴においても本訴と同様にCの相続人らに対し本件と同一の土地の返還請求をしたのであるから、前訴の確定判決の既判力が本訴に及ぶか否かは別として、相続人側としては二重の訴を避けることを求めるのは無理からぬ節がある。 。従つて、右契約は、給付の不能が法律上、始めから確定している契約であり公序良俗に反する無効な契約である。三、 証拠関係(省略) 理由 先ず、控訴人らの本件訴の適否について判断する。控訴人は、前訴においても本訴と同様にCの相続人らに対し本件と同一の土地の返還請求をしたのであるから、前訴の確定判決の既判力が本訴に及ぶか否かは別として、相続人側としては二重の訴を避けることを求めるのは無理からぬ節がある。一方、控訴人の側において、このように二重に訴を提起するについての実益の有無を考察すると、控訴人は前訴においては農地の買収および売渡の効力という根本の問題に触れることなく、これを有効なものとの前提の下に、単に右売渡を受けた被控訴人先代が控訴人先代に対し売戻しの契約をしたとしてその履行を求めるとともに、仮りに右売戻しの契約が農地法に反して無効であるとすれば、その交付した代金の返還を請求すると主張して、右予備的請求についてのみ勝訴したのであるが、本訴においては、あらためて買収および売渡が根本的に無効であるとして、右農地の返還を請求するとともに、仮りに右が有効であるとすれぼ、昭和二三年六<要旨>月頃右農地を控訴人先代に返還する約定が成立したとして、その履行を請求している。以上の二つの訴の主張</要旨>を比較すると、本訴においては買収売渡の効力について前訴と全く正反対の主張をしているのであつて、二つの訴における控訴人のすべての主張を検討してみると、結局本訴は前訴と殆んど同一の紛争のむし返しであるかのごとき感さえもある。もとより訴訟において如何なる主張をなし、如何なる主張をしないかの取捨選択は、いずれの当事者にとつても重要な訴訟技術に属するもの 本訴は前訴と殆んど同一の紛争のむし返しであるかのごとき感さえもある。もとより訴訟において如何なる主張をなし、如何なる主張をしないかの取捨選択は、いずれの当事者にとつても重要な訴訟技術に属するものであるが若し控訴人が本訴において主張するような無効の事由があつたとすれば、前訴の係属中に気付かぬ筈はなく、また当時この主張をするについて何らかの支障があつたとも認めることはできないのであつて、現に、控訴人は、原審における昭和四四年九月三〇日附準備書面第三項において「原告は前訴において、前記売買契約に基き本件土地の返還を求めたものであるが、それは前訴において自創法による買収売渡の有効を自認していたものではない。 控訴人が本訴において主張するような無効の事由があつたとすれば、前訴の係属中に気付かぬ筈はなく、また当時この主張をするについて何らかの支障があつたとも認めることはできないのであつて、現に、控訴人は、原審における昭和四四年九月三〇日附準備書面第三項において「原告は前訴において、前記売買契約に基き本件土地の返還を求めたものであるが、それは前訴において自創法による買収売渡の有効を自認していたものではない。右売買契約は、あくまでも本来無効な買収売渡処分による無条件の土地返還の過程においてその一方法としてなされたものであること前訴でくり返して主張してきた通りである」と述べているのである。この点を被控訴人の立場から見れば、控訴人が前訴において買収売渡の無効を主張しなかつた理由の如何に拘わらず、兎も角二重に訴を提起されることによつて迷惑を受けることには何ら相違はないのである。かくして、当裁判所は、当事者双方の利害関係を公平に比較調整すべき民事訴訟法の理想に照らして考察した場合、当事者の訴訟技術の選択についても、信義則に基づく制約がなければならないとの見地に立つて、本件のような農地買収と売渡、およびその買主より旧地主に対する売戻しという一連の事実関係の下において、売渡の相手方に対し右農地の返還を求めるについては、特段の事情がないかぎり、訴訟経済の理念に則り、いやしくも主張し得べき事由はなるべく同一の訴において主張することによつて、相手方に対し二重応訴という不当な迷惑がかからないように配慮することこそ信義則の要請するところであると解し、右の配慮を欠 り、いやしくも主張し得べき事由はなるべく同一の訴において主張することによつて、相手方に対し二重応訴という不当な迷惑がかからないように配慮することこそ信義則の要請するところであると解し、右の配慮を欠く本訴請求はこの原則に牴触するものとして、許すべきでないと判断する。民事訴訟法における信義則の適用範囲如何ということは学説判例の上で尚未開拓の分野であつて、今直ちにこれを全面的に解明することは困難であるが本件は正にその一適用例に当るものと解するのである。かくして当裁判所は控訴人の本訴請求については訴権の要件としての正当な利益を欠くものと解するのであつて、この場合にはいわゆる不利益変更の禁止規定は適用されないから、控訴人らの本訴本位的請求を棄却した原判決は取消を免れず、右請求および予備的請求にかかる本件訴は却下すべきである。 上で尚未開拓の分野であつて、今直ちにこれを全面的に解明することは困難であるが本件は正にその一適用例に当るものと解するのである。かくして当裁判所は控訴人の本訴請求については訴権の要件としての正当な利益を欠くものと解するのであつて、この場合にはいわゆる不利益変更の禁止規定は適用されないから、控訴人らの本訴本位的請求を棄却した原判決は取消を免れず、右請求および予備的請求にかかる本件訴は却下すべきである。よつて、民訴法三八六条九六条八九条九三条に従い、主文のとおり判決する。(裁判長裁判官沢井種雄裁判官常安政夫裁判官野田宏)
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