令和6(ワ)139 港湾施設工事差止請求事件

裁判年月日・裁判所
令和7年3月11日 鹿児島地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-94053.txt

判決文本文19,476 文字)

判決 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告は、別紙港湾施設工事目録記載1の工事場所のうち別紙漁業権等の消滅・制限区域図において赤色で着色された区域(以下「本件消滅区域」という。)及び青色で着色された区域(以下「本件制限区域」といい、本件消滅区域と併せて「本件消滅区域等」という。)において、同記載2の内容の工事をしてはならない(なお、令和6年3月28日付け訴状訂正申立書における請求の趣旨においては、差止めを求める区域が限定されていないが、後記第2の1及び3(3)のとおり、原告が、本件消滅区域等における組合員行使権等に基づき、本件消滅区域等で漁を行うことができないことを組合員行使権等の侵害として工事の差止めを求めていることから、工事の差止めを求める範囲は、本件消滅区域等であると解した。)。 第2 事案の概要 1 事案の要旨本件は、種子島漁業協同組合(以下「種子島漁協」という。)の組合員である原告が、被告(防衛省、以下、行政機関である防衛省等を含むものとして「被告」という。)が鹿児島県西之表市に属する馬毛島において行っている自衛隊施設の整備工事の一環としてその周辺海域において行っている港湾施設の整備工事によって、原告の漁業法(平成30年法律第95号による改正後のもの。)上の組合員行使権又は慣習的漁業権が侵害され、又は侵害されるおそれがあるとして、これらの権利に基づく妨害排除請求及び妨害予防請求として、本件消滅区域等にお ける工事の差止めを求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠(枝番のあるものは枝番を含む。以下同じ。)及び弁論の全趣旨によ 害予防請求として、本件消滅区域等にお ける工事の差止めを求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠(枝番のあるものは枝番を含む。以下同じ。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)等(1) 関係法令等の定め別紙関係法令等の定め記載のとおりである(いずれも現行の規定である。)。 (2) 馬毛島及び原告について馬毛島は、鹿児島県西之表市に属する面積約8.2平方キロメートルの島であり、種子島の西沖合約12キロメートルに位置している。 原告は、種子島内の鹿児島県西之表市に居住し、馬毛島周辺の海域で漁を営む者であり、種子島漁協の組合員である。 (以上、乙14、弁論の全趣旨)(3) 被告による馬毛島の取得や馬毛島における自衛隊施設の整備事業被告は、令和元年11月、馬毛島内の大半の土地を所有していた会社との間で土地の取得合意を成立させ、令和4年11月には西之表市から馬毛島内の同市所有地を購入した。 被告は、この間の令和元年12月、馬毛島に自衛隊施設である馬毛島基地の建設事業(以下「本件事業」という。)実施計画を公表し、令和5年3月24日には、馬毛島周辺の海域において、仮設桟橋の設置・撤去のほか、防波堤、一般桟橋、燃料桟橋、消波堤防及び接続施設等からなる係留施設等や揚陸施設の整備を主な内容とする別紙港湾施設工事目録記載2の内容の港湾施設整備工事に着手した(なお、以下、上記港湾施設整備工事のうち本件消滅区域等で行われる工事を「本件工事」という。)。 (以上、甲14、21、26、27、乙4、5、8、34、弁論の全趣旨)(4) 種子島漁協が馬毛島周辺海域で有していた共同漁業権における漁場の区域の変更、被告との間における共同漁業権の一部放棄合意等ア種子島漁協が有していた当 4、5、8、34、弁論の全趣旨)(4) 種子島漁協が馬毛島周辺海域で有していた共同漁業権における漁場の区域の変更、被告との間における共同漁業権の一部放棄合意等ア種子島漁協が有していた当初の共同漁業権の内容について 種子島漁協は、平成25年9月1日、鹿児島県知事から、存続期間を平成35年(令和5年)8月31日までとして、西之表市馬毛島地先の馬毛島の最大高潮時海岸線及びその沖合3000メートルの線によって囲まれた区域(以下「本件海域」という。)における第1種ないし第3種共同漁業に係る共同漁業権の免許(熊共第2号、以下「平成25年免許」といい、この内容の共同漁業権を「平成25年共同漁業権」という。)を受けた(乙16)。 イ本件消滅区域等における共同漁業権の放棄等合意(ア) 令和5年2月24日、種子島漁協の正会員114人のうち105人が出席して開催された種子島漁協の臨時組合員総会において、99人の賛成により、本件事業の実施に伴い、①種子島漁協は、本件海域内のうち本件消滅区域における一切の漁業(漁業権漁業、許可漁業及び自由漁業。以下同じ。)に係る権利を放棄し、将来にわたり本件消滅区域においていかなる漁業権等(漁業権及びこれに類する権利全てを含む。以下同じ。)も求めないものとし、被告が、種子島漁協に対し、これにより生ずる全ての漁業損失に係る補償金として5億5020万5998円を支払うこと、②種子島漁協は、本件海域内のうち本件制限区域において、港湾施設整備工事が着手されてから57か月間、全ての漁業の操業を行わないものとし、被告が、種子島漁協に対し、これにより生ずる全ての漁業損失に係る補償金として16億5663万1373円を支払うことなどで合意を成立させることを承認する旨の決議(以下「本件総会決議 行わないものとし、被告が、種子島漁協に対し、これにより生ずる全ての漁業損失に係る補償金として16億5663万1373円を支払うことなどで合意を成立させることを承認する旨の決議(以下「本件総会決議」という。)がされた(乙14、15)。 (イ) 種子島漁協は、令和5年2月27日、被告との間で、前記(ア)①及び②に加え、③被告は、本件事業の実施に当たり漁業上悪影響を及ぼさないよう努力するものとし、種子島漁協は被告による本件事業の実施についてできる限り協力するものとすることなどで合意(以下「本件合意」という。)し(乙12、13)、同月28日、被告から、本件合意に基づき補償金合計 22億0683万7371円の支払を受けた(弁論の全趣旨)。 ウ本件合意後に種子島漁協に付与された共同漁業権の内容等鹿児島県知事は、令和5年4月25日、熊毛海区に設定する共同漁業権のうち漁場番号を熊共第2号とする第1種ないし第3種共同漁業について、漁場の区域を本件海域から本件消滅区域を除いた区域とするなどの漁場計画を定めた上で、同年9月1日、種子島漁協に対し、存続期間を、令和5年9月1日から令和15年8月31日までとし、上記第1種ないし第3種共同漁業に係る共同漁業権(以下「本件共同漁業権」という。)の免許(以下「令和5年免許」という。)を付与した(乙17ないし19)。 3 争点及び争点に対する当事者の主張(1) 争点①-種子島漁協が本件消滅区域等における制約のない共同漁業権を有しており、原告が同区域における組合員行使権を有しているか(原告の主張)ア種子島漁協が本件消滅区域等における制約のない共同漁業権を有していることにおける組合員行使権の有無について(ア) 本件総会決議は無効であり、本件共同漁業権に (原告の主張)ア種子島漁協が本件消滅区域等における制約のない共同漁業権を有していることにおける組合員行使権の有無について(ア) 本件総会決議は無効であり、本件共同漁業権に係る漁場の区域には本件消滅区域も含まれるものと擬制され、何らの制約も課されていないこと共同漁業権は、漁業協同組合(以下「漁協」という。)の組合員の総有に属し、共同漁業権の放棄及び制限には入会権と同様に組合員全員の同意を要する。 また、種子島漁業協同組合(西之表市地区)漁業権行使規約(以下「漁業権行使規約」という。)によれば、本件総会決議当時、種子島漁協の有する共同漁業権のうち熊共第2号の第1種共同漁業権は、その管理が西之表地区及び住吉地区の専権に属し、その放棄及び制限にはこれらの地区での協議及びこれらの地区の関係組合員の同意を要することと定められていた。 にもかかわらず、本件総会決議は、上記に反し、西之表地区及び住吉地 区での協議を経ず、これらの地区の関係組合員の同意を得ることもないまま、特別決議によって本件消滅区域等における共同漁業権の放棄等を決議している点で、違法無効である。したがって、本件制限区域における共同漁業権に係る組合員行使権の行使には何らの制約もない。 また、令和5年免許は、種子島漁協が有していた本件海域を漁場の区域とする平成25年共同漁業権のうち本件消滅区域に係る部分を本件総会決議により放棄したことを前提とするところ、本件総会決議が無効であることにより、令和5年免許は、本件共同漁業権が本件消滅区域をも漁場の区域とするものとして付与されたものと当然に擬制される。 (イ) 最高裁平成元年7月13日第一小法廷判決・民集43巻7号866頁(以下「平成元年最高裁判決」という。)の解釈は誤っており、共同 区域とするものとして付与されたものと当然に擬制される。 (イ) 最高裁平成元年7月13日第一小法廷判決・民集43巻7号866頁(以下「平成元年最高裁判決」という。)の解釈は誤っており、共同漁業権の放棄及び制限は、水産業協同組合法(以下「水協法」という。)50条4号所定の特別決議事項ではないこと平成元年最高裁判決は、共同漁業権の権利主体は漁協であり、組合員の漁業を営む権利は漁協の構成員としての地位に基づく社員権的権利であることを前提とするが、誤っている。 また、漁業権の放棄及び制限は水協法の目的である水産業の生産力の増進に反する。その放棄及び制限の対象となるのは、漁業権の免許を受ける者と漁業を営む者が一致するいわゆる経営者免許漁業権であり、共同漁業権のように両者が異なるいわゆる組合管理漁業権には水協法50条4号の適用はないと解すべきである。 イ原告が本件消滅区域等における組合員行使権を有していること本件共同漁業権における漁場の区域に本件消滅区域が含まれており、本件制限区域を含め、何らの制約も課されていないから、原告は、これを前提として本件消滅区域等における制約のない組合員行使権を有している。 (被告の主張) 本件共同漁業権における漁場の区域には、本件消滅区域は含まれておらず、種子島漁協は本件消滅区域における共同漁業権を有していない。また、本件合意により、本件制限区域において種子島漁協が共同漁業権に基づく全ての漁業の操業を行うことはできず、本件工事による制約は共同漁業権の侵害にはならない。したがって、本件共同漁業権を前提とする原告の組合員行使権の漁場の区域にも本件消滅区域は含まれておらず、被告との関係では本件制限区域において組合員行使権を行使して操業する権利も有 侵害にはならない。したがって、本件共同漁業権を前提とする原告の組合員行使権の漁場の区域にも本件消滅区域は含まれておらず、被告との関係では本件制限区域において組合員行使権を行使して操業する権利も有していないから、本件工事による本件消滅区域等における操業の制約は組合員行使権の侵害に当たらない。なお、漁業権は、免許の交付によって創設的に付与されるものであるから、本件総会決議が無効であることによって本件共同漁業権における漁場の区域に本件消滅区域が含まれるものと擬制されることはないし、本件合意の効力が本件総会決議の効力によって否定される根拠もない。そもそも、本件総会決議に無効事由があるともいえない(2) 争点②-原告が本件消滅区域等で排他性を有する慣習的漁業権を有しているか(原告の主張)ア慣習上の漁業権は、物権類似の権利として物権的効力が認められる公共用物使用権の一種であるから、物権的排他性を有する。 イ馬毛島周辺の海域での漁業は、原告が所属する塰泊浦ほか3つの種子島の浦(村落共同体、以下「塰泊浦等」という。)を単位として営まれてきた。 すなわち、塰泊浦等は、馬毛島周辺海域での漁業について、江戸時代に種子島家から独占的に営む許可を受けて以降、明治8年から明治32年までの間に一時的に失った時期を除き、明治34年に制定された漁業法(以下「旧漁業法」という。)の下で地先水面専用漁業権の免許を受けるなど排他的独占的に漁業を営んできた。このような塰泊浦等の入会漁業の慣習は、明治43年の改正後の旧漁業法(以下「明治43年旧漁業法」という。)の下で地先 水面専用漁業権の免許が付与された頃には、物権類似の排他性を有する権利として成熟した慣習上の入会漁業権(慣習的漁業権)となっていたと評価できる。旧漁業法制定以降、馬毛島 いう。)の下で地先 水面専用漁業権の免許が付与された頃には、物権類似の排他性を有する権利として成熟した慣習上の入会漁業権(慣習的漁業権)となっていたと評価できる。旧漁業法制定以降、馬毛島周辺海域での漁業については、塰泊浦等ほか2つの浦が、その専有する馬毛島の漁港の地先水面において排他的独占的に行い、操業に係るルールは各浦の小組合において決定されていた実態を踏まえれば、上記の慣習的漁業権は、旧漁業法制定以降、昭和24年の漁業法(以下「新漁業法」又は単に「漁業法」という。)制定等を経て現在に至るまでも消滅しておらず、共同漁業権とは別個にかつ重層的に存続しているというべきである。 ウしたがって、原告は、塰泊浦の漁業者らの総有に属する排他性を有する慣習的漁業権を有し、これを行使することができる。 (被告の主張)アそもそも、原告は、法定の漁業権が公共用物使用権に当たることを前提に、慣習上の漁業権も排他性を有する公共用物使用権に当たる旨主張しているものと解されるが、法定の漁業権は、一定の場所(水面)を使用することをその内容とするものではなく、公共用物使用権には当たらないから、原告の主張は前提を欠く。 イ昭和24年の新漁業法制定に伴って、慣習上の漁業権その他既存の漁業権は全て消滅するものとされたから、原告主張の慣習的漁業権も消滅しており、現時点でこれを有してはいない。 原告が、新漁業法制定後も従前と同様の漁業を営んでいる実態があるとしても、漁業権は、有体物を直接支配し使用収益し得る権利である民法上の物権とその本来的な性質を異にしており、定置漁業、区画漁業及び共同漁業に係る漁業権については、水面の利用と土地の利用が形態上類似し、保護の必要があることから、免許等により取得することとしつつ、便宜上物権と その本来的な性質を異にしており、定置漁業、区画漁業及び共同漁業に係る漁業権については、水面の利用と土地の利用が形態上類似し、保護の必要があることから、免許等により取得することとしつつ、便宜上物権とみなすことにされたにすぎないのであって、これらの免許等を得ないまま、漁業 を長年営んだとしても、排他性を有する漁業に関する権利を取得しない。 (3) 争点③-原告の組合員行使権又は慣習的漁業権に対する侵害の有無及び本件工事の差止めの必要性(原告の主張)本件工事の実施により、原告は、本件消滅区域等で現に漁を行うことができず、組合員行使権及び慣習的漁業権が侵害されているばかりか、本件工事の実施が今後継続されることにより、将来の漁獲量の減少も見込まれ、さらに、漁場が不可逆的に破壊され、漁を行うことができないおそれが大きいといえる。 このような組合員行使権等の侵害による生活への影響は甚大であり、漁業によって生計を立てることにとどまらず、祖先から引き継がれてきた馬毛島周辺海域での漁業を断絶せざるを得ない状況にさせかねない状況となっており、経済的損害だけでなく、原告の人格的価値をも損なっている。一方、馬毛島に自衛隊基地を新設する必要は乏しく、住宅街に近い馬毛島でFCLPを実施する必要もなく、本件事業自体が、周辺住民への十分な情報開示を欠くなど手続的正義も欠いている。 このような、本件工事の実施による権利侵害の程度の大きさや本件工事が必要性を欠き、手続的正義も欠いていることからすると、本件工事の違法性は大きく、これを差し止める必要がある。 (被告の主張)否認し、争う。 第3 争点に対する判断 1 新漁業法の制定及び改正に至る経緯証拠(甲36、39、41の1、乙2、35)及び弁論の全趣旨によれ 要がある。 (被告の主張)否認し、争う。 第3 争点に対する判断 1 新漁業法の制定及び改正に至る経緯証拠(甲36、39、41の1、乙2、35)及び弁論の全趣旨によれば、新漁業法の制定及び改正の経緯は、次のとおりであったと認められる。 (1) 明治34年に制定された旧漁業法は、定置漁業権、区画漁業権、特別漁業権及び専用漁業権の4つの漁業権を法定し、漁業権免許制を確立した。そして、 専用漁業権には、従来の慣行がある場合に免許を付与された慣行専用漁業権と、従前の部落漁民集団を再構成して結成された地元の漁業組合がその地先水面を専有しようとする場合にのみ免許を付与された地先水面専用漁業権があり、漁業組合は、自営を禁止され、地先水面専用漁業権の免許を付与されたときは、組合規約の定めるところにより組合員をして漁業をさせなければならないものとされていた。 もっとも、旧漁業法は、漁業権の法的性格のあいまいさのほか、慣行漁業、慣行漁場の処理方法等種々の点で実情に即しないことの指摘があり、明治43年に全面改正されるに至った。 (2) 明治43年旧漁業法(以下、旧漁業法と併せて「明治旧漁業法」という。)は、漁業権を物権とみなすこととし、専用漁業権について、法人とされた漁業組合以外には免許を付与せず、慣行による漁業権の免許は付与しないこととしたほか、組合員が漁業組合の取得するなどした専用漁業権の範囲内において各自漁業をなす権利を法定した。 (3) 明治旧漁業法に基づく漁業権は、その存続期間が20年と長期で、事実上更新制が採用されていたことなどから、漁業生産力の向上や水面の計画的高度利用等に弊害を及ぼす状態となっていた。そうした中で、昭和24年、戦後の経済民主化政策の一環として、新漁業法が制定され 、事実上更新制が採用されていたことなどから、漁業生産力の向上や水面の計画的高度利用等に弊害を及ぼす状態となっていた。そうした中で、昭和24年、戦後の経済民主化政策の一環として、新漁業法が制定された。 新漁業法は、従来の専用漁業権及び特別漁業権を廃止し、そのうち浮魚を漁業権の内容から外して許可漁業又は自由漁業とし、その他を従来の定置漁業の一部とともに共同漁業権に編成替えした。そして、漁業権の免許については、明治旧漁業法下において事実上先願主義により個々の申請に基づいて免許が付与されていたのを改め、都道府県知事が海区漁業調整委員会の意見を聴き、水面の総合的利用の見地から予め漁場計画を定めて公示し、免許を希望する申請人のうちから、適格性のある者で、かつ、優先順位の第一のものに免許を付与するものとされた。また、漁業権は物権とみなされるが、貸付けが一切禁止 され、譲渡、担保権の設定も著しく制限されるなど財産権としての性質が著しく制限され、漁業権の存続期間も5年(定置漁業権・区画漁業権)又は10年(共同漁業権)に短縮され、区画漁業権を除いては更新制度が廃止された。さらに、漁協の組合員の地位については、組合員であって漁民である者は、定款の定めるところにより、当該漁協又は当該漁協が会員である漁連の有する共同漁業権、区画漁業権又は入漁権の範囲内において各自漁業を営む権利(以下「組合員各自行使権」という。)を有するものとされたが、定款の定めにより組合員各自行使権を特定の者に限ることができるかどうかや、定款に漁業権の行使方法に関する定めを欠く場合に組合員各自行使権が認められるかどうかについては条文上明らかではなかった。 一方、新漁業法施行の際現に存する明治43年旧漁業法に基づく既存の漁業権及びこれについて現に存し又は新たに設 場合に組合員各自行使権が認められるかどうかについては条文上明らかではなかった。 一方、新漁業法施行の際現に存する明治43年旧漁業法に基づく既存の漁業権及びこれについて現に存し又は新たに設定される入漁権については、新漁業法施行後2年間に限って存続する旨の経過措置が設けられるにとどまり(漁業法施行法1条1項)、2年以内に消滅させることとされ、旧漁業権者に対しては補償金が交付された。 (4) その後、新漁業法制定後の漁業の発展に伴い、組合員各自行使権に係る前記(3)の条文上の疑義を解消する必要があったほか、漁協への加入脱退の自由があり、法定の資格要件を満たす者の加入を正当な理由なくしては拒否できないという状況の下で、従前の漁場の利用関係の大きな変動への危惧に伴って漁協の合併促進が障害されて零細経営が温存され、漁業生産力発展の停滞をもたらしているとの指摘がされるようになった。そこで、新漁業法は、昭和37年にその一部が改正され(以下、昭和37年の改正後の漁業法を「昭和37年漁業法」という。)、漁業権行使規則制度が導入されて、特定区画漁業権及び共同漁業権(いわゆる組合管理漁業権)につき、漁協の組合員は、組合又は当該漁協が会員である漁連が制定する漁業権行使規則に規定された資格を有する場合に、当該漁業権の範囲内において漁業を営む権利を有するとされ、新漁業法の 組合員各自行使権に係る規定における「各自」との文言が削除された。また、併せて、漁協又は漁連が特定区画漁業権又は第1種共同漁業権について漁業権行使規則を定めようとする場合には、水協法の規定による総会の議決の前に、組合員のうち当該漁業権の内容たる漁業を営み、当該漁業権に係る地元地区・関係地区内に住所を有する者の3分の2以上の書面による同意を要するとされた。 (5) 新漁業法 の規定による総会の議決の前に、組合員のうち当該漁業権の内容たる漁業を営み、当該漁業権に係る地元地区・関係地区内に住所を有する者の3分の2以上の書面による同意を要するとされた。 (5) 新漁業法は、その後、累次の改正がなされており、平成30年法律第95号によって、「第2章漁業権及び入漁権(第6条-第51条)」が削除され、「第4章漁業権及び沿岸漁業管理(第60条-第118条)」が新たに設けられたが、漁業権に関する規定内容に大きな変更はない。 2 争点①(種子島漁協が本件消滅区域等における制約のない共同漁業権を有しており、原告が同区域等における組合員行使権を有しているか)について(1) 本件消滅区域における種子島漁協の共同漁業権の有無についてア共同漁業権を始めとする漁業権は、都道府県知事の免許によって創設的に設定される権利である(漁業法(現行のもの。以下、(1)において同じ。)69条1項、2項)ところ、原告は、本件共同漁業権に係る漁場の区域に本件消滅区域が含まれておらず(第2の2(4)ウ)、基本的には種子島漁協が同区域において共同漁業権を有しないことを前提としつつ、①共同漁業権は漁協が有しており、組合員行使権は社員権的権利であるとした平成元年最高裁判決は誤っており、また、共同漁業権の放棄及び制限は、水協法50条4号の特別決議事項には含まれておらず、共同漁業権は漁協の組合員の総有に属し、その放棄及び制限を特別決議によってすることはできず、組合員全員の同意を要するのであり、特別決議による本件総会決議は違法無効である、②令和5年免許は、本件総会決議が有効であることを前提に、平成25年免許において含めていた本件消滅区域を漁場の区域から除外したものであるところ、本件総会決議が無効である以上、令和5年免許においても本件消滅区域が漁 は、本件総会決議が有効であることを前提に、平成25年免許において含めていた本件消滅区域を漁場の区域から除外したものであるところ、本件総会決議が無効である以上、令和5年免許においても本件消滅区域が漁 場の区域に含まれるものと擬制される旨主張する。 イしかしながら、前記のとおり、共同漁業権が都道府県知事の免許によって創設的に設定されるものと解され、また、漁業法75条1項は、共同漁業権の存続期間を10年と規定しているから、平成25年共同漁業権における漁場の区域に本件消滅区域が含まれているとしても、同漁業権は存続期間の満了により消滅し、その後に付与された令和5年免許において漁場の区域に本件消滅区域が含まれていない以上、同区域における共同漁業権を放棄する旨の本件総会決議が無効であることによって、直ちに本件共同漁業権の漁場の区域に本件消滅区域が含まれるとは解し難い。原告の主張は、漁業法の規定やその解釈を踏まえない独自の解釈に基づくものであり、直ちに採用し難い。 ウまた、念のため、本件総会決議の有効性についてみても、現行漁業法における共同漁業権は、法人である漁協に帰属するのであり、組合員行使権は、漁協という団体の構成員としての地位に基づき、漁協の制定する漁業権行使規則の定めるところに従って行使することのできる権利、すなわち社員権的権利にとどまると解するのが相当である(平成元年最高裁判決参照)。また、漁協の特別決議事項とされる水協法50条4号の「漁業権又はこれに関する物権の設定、得喪又は変更」の文言に照らすと、漁業権の得喪又は変更が特別決議事項であり、ここにいう漁業権が、漁業法上の漁業権である定置漁業権、区画漁業権及び共同漁業権を意味することは明らかであり、共同漁業権のうち一部の漁場の区域に係る漁業権を放棄し、又はその権利を 別決議事項であり、ここにいう漁業権が、漁業法上の漁業権である定置漁業権、区画漁業権及び共同漁業権を意味することは明らかであり、共同漁業権のうち一部の漁場の区域に係る漁業権を放棄し、又はその権利を制限することが、漁業権の得喪又は変更に当たることも明らかであって、平成元年最高裁判決もその旨を判示している。したがって、本件消滅区域における共同漁業権を放棄したり、本件制限区域における共同漁業権の行使を制約したりすることが特別決議事項であることもまた明らかである。 エ原告は、平成元年最高裁判決が誤っている理由として、①新漁業法が、明治旧漁業法の趣旨を踏襲し、共同漁業の実態に照らして、共同漁業権の免許 を受ける者を漁協とする一方で、共同漁業を営む権利は組合員が各自行使することとして、共同漁業権を入会的権利として規定した趣旨を無視している、②共同漁業権は、一定の水面を共同に利用して漁業を営む権利をいう(漁業法60条2項及び5項)ところ、共同漁業権の沿革や水協法11条の規定からすれば漁協は自ら共同漁業を営むものではないから、共同漁業権の権利主体は実際に漁業を営む立場の組合員のはずであって、漁業法105条も一定の資格を有する組合員が漁業を営む権利(組合員行使権)がある旨規定し、一定の資格を有する組合員に共同漁業権が帰属することを明示的に確認している、③新漁業法上、共同漁業権等の団体漁業権について関係地区が定められ、当該関係地区を単位として、免許の付与を受けた漁協の組合員と非組合員との調整が図られたり、総会に先立った事前同意制度が設けられたりしていることからすれば、新漁業法は共同漁業権が関係地区の漁業者の総有に属することを当然の前提としているといえる、④仮に、組合員行使権が社員権的権利であるとすると、㋐協同組合における組合員平等の原則に ていることからすれば、新漁業法は共同漁業権が関係地区の漁業者の総有に属することを当然の前提としているといえる、④仮に、組合員行使権が社員権的権利であるとすると、㋐協同組合における組合員平等の原則に照らし、組合員が等しく共同漁業を営むことができるはずであるが、漁業法105条は、共同漁業を営むことができるのが組合員の一部とされる可能性があることと矛盾する、㋑共同漁業権の免許が漁業協同組合連合会(以下「漁連」という。)に付与された場合、その会員である漁協が共同漁業を営む権利を有するはずであるが、漁業法105条は漁連の会員たる漁協の組合員が共同漁業を営む権利を有すると規定していて説明が困難である、㋒漁業補償の際、漁業権漁業に対する補償と自由漁業及び許可漁業に対する補償が同一に取り扱われ、漁協がまとめて交渉や補償契約の締結、漁業補償金の受領を行うのが一般的であるが、自由漁業や許可漁業に係る権利の権利主体は漁業を営む個々の漁業者であるため、漁協が、漁業権漁業と併せて自由漁業等に係る漁業補償の交渉当事者となることができなくなり、上記漁業補償のあり方が損なわれるおそれがある、などの問題点がある、⑤平成元年最高裁判決は、 昭和37年の漁業法改正により、組合員の漁業を営む権利が入会権的権利から社員権的権利に変更されたと判示するところ、これを前提とすると、共同漁業権の権利者が変更されることになるため、旧権利者たる入会集団に対する損失補償を要するはずであるが、そのような損失補償は一切されていないため、権利者が変更されたとみることはできない、などと指摘する。 しかしながら、平成元年最高裁判決は、新漁業法及び水協法の規定によれば、同法における漁業権は都道府県知事の免許によって設定され、免許は先願主義によらず、都道府県知事が予め定めて公示する漁場計画 。 しかしながら、平成元年最高裁判決は、新漁業法及び水協法の規定によれば、同法における漁業権は都道府県知事の免許によって設定され、免許は先願主義によらず、都道府県知事が予め定めて公示する漁場計画に従い、法定の適格性を有する者に法定の優先順位に従って付与されるものであり、かつ、漁業権は、法定の存続期間の経過により消滅すること、共同漁業権の免許は漁協等に対してのみ付与され、組合員は、当該漁協等の定める漁業権行使規則に規定された資格を有する場合に限り、当該漁業権の範囲内において漁業を営む権利を有し、組合員であっても漁業権行使規則に定める資格要件を充たさない者は行使権を有しないものとされていて、全組合員の権利という意味での各自行使権は存在しないといえること、共同漁業権の主体たる漁協は法人格を有し、加入及び脱退の自由が保障され、組合員の3分の1以上の同意があるときには漁協自らが漁業を営むこともできるものとされ、総会の特別決議があるときには、漁業権の放棄もできるものとされていることなどが認められ、これらの規定内容による漁業権の取得方法や取得に至る手続、組合員の有する権利内容やこれを有するための資格要件、漁協の性格や事業内容、漁業権の放棄要件などを踏まえ、新漁業法上の共同漁業権は、古来の入会漁業権とはその性質を全く異にするとして、組合員行使権が社員権的権利である旨を判示したものであるところ、原告の主張はこれらの規定内容を踏まえた判示の不合理性を何ら指摘していない点でそもそも採用し難い。 念のため、原告の指摘する点についてみても、①については、確かに証拠(乙35)によって認められる新漁業法の立案担当者や昭和37年漁業法の 改正担当者の説明や、平成元年最高裁判決が新漁業法における組合員各自行使権に係る規定につき判示するところによれば、共 (乙35)によって認められる新漁業法の立案担当者や昭和37年漁業法の 改正担当者の説明や、平成元年最高裁判決が新漁業法における組合員各自行使権に係る規定につき判示するところによれば、共同漁業権等のいわゆる組合管理漁業権が、明治旧漁業法下における地先水面専用漁業権へとつながる入会権的な地先水面利用権にその淵源を有するとはいえるが、後記3(2)のとおり、新漁業法の施行により、慣習上の漁業権も含め既存の漁業権は消滅させられた上で新たに共同漁業権等の漁業権が設定されることとなったといえることからすると、新漁業法における共同漁業権と明治旧漁業法下における地先水面専用漁業権が同一内容の権利であるとは直ちには解されない。 ②については、そもそも、現行の水協法17条1項及び2項によれば、一定の漁協は自ら共同漁業を含む漁業を営むことができ、原告の主張は前提を誤っているし、仮に漁協自らが共同漁業を営まないとしても、そのことをもって共同漁業権の権利主体が漁協に属しないと直ちに解することはできない。むしろ、一定の水面を共同で利用して漁業が営まれるという共同漁業権の性質に照らせば、その管理を当該漁業に関係する漁業者や漁業従事者による規制に委ねるために、その地域の漁業者らで構成される漁協に帰属させることとしたと解されるのであって、共同漁業権の内容をもって共同漁業権の権利主体が漁協でないとはいえない。また、漁業法105条の規定についても、所定の資格を有する組合員が組合員行使権を有する旨規定するに過ぎず、共同漁業権が組合員の総有に属することを示すものとはいえない。 ③については、原告が指摘する新漁業法における関係地区の組合員による事前同意の制度(漁業法106条4項、108条)は、関係地区外の組合員も議決権を有する総会において、漁業権を実際に い。 ③については、原告が指摘する新漁業法における関係地区の組合員による事前同意の制度(漁業法106条4項、108条)は、関係地区外の組合員も議決権を有する総会において、漁業権を実際に行使する当該関係地区の組合員の意思が反映されることを保障し、もってとりわけ関係地区の組合員が少数の場合にその利益が不当に害されるのを防止する趣旨に基づくものと解されるが、関係地区の区域内に住所を有する組合員の3分の2以上の同意が要件とされることからすると、共同漁業権が関係地区の組合員ひいては漁 協の組合員全員の総有に属することの根拠足り得ない。 ④㋐については、組合員平等の原則が基本的に採用されているとしても、例外的に一部の組合員が組合員行使権を行使することを制限することが全く許容されないとは解し難く、漁業法105条の規定が組合員行使権が社員権的権利であることと矛盾するとはいえない。㋑については、共同漁業権が漁協に帰属し、組合員行使権を社員権的権利と解した場合においても、共同漁業権が漁連に帰属する場合に実際に漁業を営む権利は漁協を介して組合員に帰属すると解すれば何ら不合理ではない。㋒については、事実上の不利益に過ぎず、共同漁業権が漁協の組合員の総有に属すると解したとしても、その権利主体と自由漁業や許可漁業に係る権利の主体とが一致しない状況に変わりはないし、実際には漁協と組合員が共に交渉に参加したり、組合員が補償金の受領を漁協に委任したりすることで実質的には不利益もさほど生じないと考えられる。したがって、いずれの点も平成元年最高裁判決の判示の不合理性を裏付けない。 ⑤については、平成元年最高裁判決は、昭和37年の漁業法改正によって組合員の漁業を営む権利が入会権的権利から社員権的権利に変更されたとは判示しておら 判決の判示の不合理性を裏付けない。 ⑤については、平成元年最高裁判決は、昭和37年の漁業法改正によって組合員の漁業を営む権利が入会権的権利から社員権的権利に変更されたとは判示しておらず、原告の主張は前提を欠く。 よって、原告の主張はいずれも独自の解釈に基づくものであるといえ、採用できない。 オまた、漁業権行使規約の定めに反するとの主張について検討しても、原告の主張は、漁業権行使規約2条の「管理」に共同漁業権の放棄や制限が含まれることを前提とするものと解されるが、共同漁業権の放棄及び制限は、共同漁業権の「処分」であって、漁業権行使規約の「管理」との文言にこれが含まれると解することは困難である。さらに、漁業権行使規約は、種子島漁業協同組合熊共第1号、第2号第1種共同漁業権行使規則の実施に関し、必要な事項を定めるもので(同規則9条)、漁業権行使規則の一部というべき ものであるところ、そもそも漁業権行使規則との文言のほか、漁業法105条が、漁業権行使規則で規定する資格に該当する組合員が漁業権行使規則に基づいて漁業を営む権利を有すると規定していることからすると、漁業権行使規則は、組合員による組合員行使権の行使要件や行使方法を規定するものと解される。実際にも、同法106条3項は、漁業権行使規則に規定すべき事項につき、組合員行使権者の資格(1号)、漁業を営むべき区域又は期間、当該漁業の方法その他組合員行使権者が漁業を営む場合における遵守事項(2号)、漁協等が組合員行使権者に賦課する金銭の額(3号)と規定しており、これらの事項はいずれも組合員による組合員行使権の行使要件や行使方法に関するものである。これらに照らすと、漁業法は、漁業権行使規則において、漁業権の放棄や制限に関する事項を規定することを予定していない らの事項はいずれも組合員による組合員行使権の行使要件や行使方法に関するものである。これらに照らすと、漁業法は、漁業権行使規則において、漁業権の放棄や制限に関する事項を規定することを予定していないと解されるから、漁業権行使規則の一部である漁業権行使規約において漁業権の放棄や制限に関する事項を定めることが予定されているとも解し難い。 したがって、漁業権行使規約2条の「管理」に共同漁業権の放棄や制限が含まれるものと解することはできず、本件共同漁業権の放棄及び制限に関する本件総会決議が西之表地区及び住吉地区での協議やこれらの地区の関係組合員の同意を経ずに行われたとしても、これが漁業権行使規約2条の定めに反するとはいえない。原告の主張は採用できず、本件総会決議が違法無効であるとはいえない。 カ小括そうすると、本件共同漁業権における漁場の区域に本件消滅区域が含まれているとはいえないから、これを前提とする原告の組合員行使権についても、本件消滅区域においてはこれを有しているとは認められず、行使することはできない。 (2) 本件制限区域における種子島漁協の共同漁業権に対する制限の有無前記(1)ウ及びオで判断したとおり、本件総会決議が違法無効であるとはい えないから、これに基づく本件合意により、種子島漁協は、被告に対し、57か月間にわたって本件共同漁業権のうち本件制限区域における共同漁業権を有していることを主張・対抗できず、本件共同漁業権を前提とする原告の組合員行使権についても、被告に対し、本件制限区域における組合員行使権を主張し、これを行使することはできない。 (3) 小括以上によれば、原告は、被告に対して主張・対抗できる本件消滅区域等における組合員行使権を有しているとは認められず、その他原告が 員行使権を主張し、これを行使することはできない。 (3) 小括以上によれば、原告は、被告に対して主張・対抗できる本件消滅区域等における組合員行使権を有しているとは認められず、その他原告が主張するところを検討してみてもこの判断を左右しないから、組合員行使権に基づく原告の本件工事の差止請求は理由がない。 3 争点②(原告が本件消滅区域等で排他性を有する慣習的漁業権を有しているか)について(1) 原告は、明治43年旧漁業法のもとで地先水面専用漁業権の免許が付与された頃には、塰泊浦等が入会的権利である慣習的漁業権を取得するに至り、原告を含む塰泊浦に所属する漁民がこれを総有していて、これが昭和24年の新漁業法制定後現在に至るまで存続している旨主張する。 (2) そこで、前記1の新漁業法の制定及び改正に至る経緯に基づいて漁業法施行法1条1項に基づいて消滅するものとされた明治旧漁業法のもとでの漁業権に慣習的漁業権が含まれるかについて検討すると、旧漁業法においては、従来の慣行がある場合に慣行専用漁業権、従前の部落漁民集団を再構成して結成された地元の漁業組合がその地先水面を専有しようとする場合に地先水面専用漁業権の各免許を付与されており、慣行上の漁業権の存在を踏まえた上でその取扱いを規定したものと解される。また、その後の明治43年旧漁業法への改正についても、慣行上の漁業権に関する問題点の指摘を受けて、専用漁業権の免許を漁協にのみ付与し、慣行上の漁業権については免許を付与しない旨規定されたものであって、やはり慣行上の漁業権の存在を踏まえてその取扱いを規 定したものと解される。そうした中で、新漁業法は、明治旧漁業法下での専用漁業権及び特別漁業権を廃止し、そのうち浮魚を漁業権の内容から外して許可漁業又は自由漁業とし、その他を従 取扱いを規 定したものと解される。そうした中で、新漁業法は、明治旧漁業法下での専用漁業権及び特別漁業権を廃止し、そのうち浮魚を漁業権の内容から外して許可漁業又は自由漁業とし、その他を従来の定置漁業の一部とともに共同漁業権に編成替えし、都道府県知事が予め定めて公示した漁場計画に従い、適格性があり、かつ、優先順位第一位の者に漁業権の免許を付与する旨制度を改めたものであり、このような旧漁業法の廃止及び新漁業法の制定は、広範な水面を計画的かつ総合的に利用できるような漁業権の設定及び漁場の配置を可能とするとともに、漁業権の存続期間の短縮と区画漁業権を除いた更新制度の廃止によって漁業権の内容や漁場の固定化を防ぎ、海況の変化や技術の進歩といった事情の変化に応じて合理的な漁業権の設定及び漁場の利用を可能とすることで、水面を計画的に総合利用できるようにして漁業生産力の発展を図ろうとする趣旨に基づくものと解される。 このような明治旧漁業法下での慣行上の漁業権の位置付けや新漁業法における規定内容及びその制定趣旨に照らせば、漁業法施行法1条1項によって2年以内に消滅するものと規定された既存の漁業権には慣習上の漁業権が含まれると解するのが相当であるから、仮に、原告又は原告が属するとする塰泊浦や西之表地区の漁民が、本件海域において排他的独占的に漁業を営む入会権的な権利である慣習的漁業権を有していたとしても、新漁業法が施行された昭和25年3月14日から2年の経過をもって消滅したというべきである。 よって、原告が排他性を有する慣習的漁業権を有するものと認めることはできない。 (3) なお、原告は、法律が制定されれば、その法律下での積み重ねが新たな慣習となると主張しており、新漁業法制定以降塰泊浦や西之表地区の漁業者が従前と同様に入会漁 認めることはできない。 (3) なお、原告は、法律が制定されれば、その法律下での積み重ねが新たな慣習となると主張しており、新漁業法制定以降塰泊浦や西之表地区の漁業者が従前と同様に入会漁業的な漁業活動を継続していたことをもって、塰泊浦や西之表地区の漁業者集団が排他性を有する慣習的漁業権を取得し、これを有している旨を主張するものとも解される。 しかしながら、海は、古来より自然の状態のままで一般公衆の共同使用に供されてきたところのいわゆる公共用物であって、国の直接の公法的支配管理に服し、特定人による排他的支配の許されないものである(最高裁昭和61年12月16日第三小法廷判決・民集40巻7号1236頁参照)ところ、一定の水面等で営まれるものではあるが、一定の水面を占有使用するものではないという漁業の性質も踏まえれば、少なくとも新漁業法制定以降に営まれる漁業においては、民法上の物権とみなされて排他性を付与されている漁業法上の漁業権(漁業法(現行のもの。(3)において同じ。)77条1項)及び入漁権(98条1項)に基づく漁業や許可漁業を除いては、原告の主張するような排他性を有する公共用物使用権成立の前提となるべき特別な公共用物の使用関係を観念し難いから、漁業法上の漁業権に基づく漁業と同様の内容の漁業が免許や許可に基づくことなく継続して営まれたからといって、慣習上の漁業権が排他性を有する公共用物使用権として成立するといえるかには疑問がある。これを措くとしても、前記(2)で述べた慣習上の漁業権を含む既存の漁業権は全て消滅させるなどの新漁業法及び漁業法施行法の規定内容及びその制定趣旨に照らすと、新漁業法施行前の既存の慣習上の漁業権を消滅させたにもかかわらず、施行後に地区や浦に所属する漁民らが一定の海域における漁業を継続的 などの新漁業法及び漁業法施行法の規定内容及びその制定趣旨に照らすと、新漁業法施行前の既存の慣習上の漁業権を消滅させたにもかかわらず、施行後に地区や浦に所属する漁民らが一定の海域における漁業を継続的に営んでいる実態があった場合に、当該地区や浦(又はこれに所属する漁民)が新たに排他性を有する慣習上の漁業権を取得するものとし、同様に排他性を有する漁協の有する当該海域における共同漁業権と抵触し、緊張関係を生じさせて調整を要するような事態の発生を漁業法が想定し、これを許容しているとは考えにくい。 (4) この点、A 拓殖大学教授の意見書(甲41)には、本件海域においては、新漁業法施行後も慣習的漁業権が消滅せずに機能し、原告の属する西之表地区及び住吉地区の漁業者が排他的に漁を営む慣習上の権利を有しており、漁業権行使規約2条において、馬毛島周辺の海域を漁場の区域とする熊共第2号第1種 共同漁業権については、当分の間その地先ごとに西之表地区と住吉地区がそれぞれ管理するものと規定されていることが、その根拠である旨の記載がある。 しかしながら、そもそも漁業法にその制定の根拠を有する漁業権行使規則の一部である上、種子島漁協が制定及び改廃できる漁業権行使規約の定めが、前記(2)で述べた旧漁業法の廃止並びに新漁業法の制定内容及び立法趣旨に反する解釈上の根拠となるとはいい難い。また、漁業権行使規約2条は、あくまで共同漁業権に関する定めであり、これをもって共同漁業権と抵触する排他性を有する慣習上の漁業権が存在することを根拠付けるものともいい難い。漁業権行使規約2条の定めが、馬毛島周辺の海域における漁業の歴史的な実態を一定程度尊重するものと解する余地はあるとしても、これをもって、共同漁業権の管理が委ねられたに過ぎない西之表地区等が排他性を有する慣習的漁業 2条の定めが、馬毛島周辺の海域における漁業の歴史的な実態を一定程度尊重するものと解する余地はあるとしても、これをもって、共同漁業権の管理が委ねられたに過ぎない西之表地区等が排他性を有する慣習的漁業権を共同漁業権等の漁業法上の漁業権とは別個独立に有することを根拠付けるものとはいい難いというべきであるから、上記意見書の記載は直ちには採用できず、前記(2)及び(3)の判断を左右しない。 (5) 小括よって、原告が本件消滅区域等において排他性を有する慣習的漁業権を取得し、これを有していると認めることはできない。その他原告が主張するところを検討しても、この判断を左右しない。 第4 結論以上のとおり、原告が本件消滅区域等によって排他性を有し、被告に対抗し得る権利を有しているとは認められない以上、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がないからこれを棄却すべきである。 よって、主文のとおり判決する。 鹿児島地方裁判所民事第1部 裁判長裁判官窪田俊秀 裁判官木上寛子 裁判官鈴村悠恭

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る