- 1 -平成27年10月22日判決言渡同日原本交付裁判所書記官平成26年(ワ)第6372号不正競争行為差止等請求事件口頭弁論終結日平成27年8月20日判決 当事者の表示別紙当事者目録記載のとおり主文 原告の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由 第1 請求 1 被告らは,別紙営業秘密目録に記載された情報を使用して,業務請負を目的とした基本契約,業務請負契約,労働者派遣を行うことを目的とした基本契約又は労働者派遣契約等を締結し又は締結を勧誘する行為その他これらに付随する営業行為を行ってはならない。 2 被告らは,別紙営業秘密目録記載の情報が記載又は記録された一切の資料及びこれに基づいて作成された一切の資料を廃棄せよ。 3 被告らは,原告の業務請負契約又は労働者派遣契約の取引先に対し,「原告の従業員が大量に一斉退職するので業務の継続ができなくなる」と告知してはならない。 4 被告A(以下「被告A」という。)は,原告に対し,1000万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成26年4月12日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 5 被告らは,原告に対し,連帯して,3525万5000円うち2508万円に対する訴状送達の日の翌日(被告セントラルソフト株式会社(以下「被告会社」という。)につき平成26年4月10日,被告Aにつき同月12日)から,うち500万円に対する同年6月13日付け訴えの変更申立書送- 2 -達の日の翌日(同月21日)から,うち517万5000円に対する平成27年4月10日付け訴えの変更申立書送達の翌日(同月17日)から各支払済みまで年5分 月13日付け訴えの変更申立書送- 2 -達の日の翌日(同月21日)から,うち517万5000円に対する平成27年4月10日付け訴えの変更申立書送達の翌日(同月17日)から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要被告Aは,原告の取締役であったが,退任後,被告会社に就職した。被告Aは,退任に際し,別紙営業秘密目録記載の名刺帳3冊(以下「本件名刺帳」と総称する。)を原告のオフィスから持ち出した(以下,これを「本件持ち出し行為」という。)。また,被告Aの退任後,原告の従業員5名が原告を退職し,被告会社に就職した(以下,これを「本件転職」という。)。 本件持ち出し行為につき,本件名刺帳に収納された名刺に記載された情報は原告の営業秘密であり,被告Aがこれを不正に取得して被告会社における営業活動に使用したことが被告Aにつき不正競争防止法(平成27年法律第54号による改正前のもの。以下「不競法」という。)2条1項4号所定の不正競争(以下,同項各号所定の行為を「4号の不正競争」などという。)に,被告会社につき5号の不正競争に当たり,又は被告Aによる不法行為が成立すると主張して,① 被告らに対し,上記情報の使用の差止め(不競法3条1項)及びこれが記載された資料等の廃棄(同条2項)を,② 被告Aに対し,主位的に不競法4条に基づき,予備的に民法709条に基づき,損害賠償金1000万円及び遅延損害金の支払を,本件転職につき,被告Aが原告の従業員を引き抜いたことが不法行為に当たり,被告会社は使用者責任を負うと主張して,被告らに対し,損害賠償被告Aが被告会社に就職した後に原告の顧客に対して虚偽の事実を告知したこと(以下,原告の主張する告知行為を「本件告知行為」という。)が被告らによる14号の不正競争又は不法行為に に対し,損害賠償被告Aが被告会社に就職した後に原告の顧客に対して虚偽の事実を告知したこと(以下,原告の主張する告知行為を「本件告知行為」という。)が被告らによる14号の不正競争又は不法行為に当たると主張して,被告らに対し,① 不競法3条1項に基づき,上記事実の告知の差止めを,② 主位的に不競法4条に基- 3 -づき,予備的に民法709条(被告会社につき民法715条1項)に基づき,さらに,被告らに対し,上記各不正競争及び不法行為に係る弁護士費用300万円及び遅延損害金の連帯支払を求めた事案である。 1 前提事実(争いのない事実並びに後掲の各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定することができる事実。なお,書証の枝番の記載は省略する。以下同じ。)当事者ア原告は,電子計算機及びその周辺機器の据付工事,保守及び修理,ソフトウェアの開発,設計,製作及び保守並びにそれらに関する労働者派遣事業等を目的とする株式会社である。 イ被告会社は,電子計算機に関する各種システム調査,研究,開発,販売及び保守,一般労働者派遣業等を目的とする株式会社である。 ウ被告Aは,昭和63年7月に原告に入社し,平成14年6月に原告の取締役に選任され,その後常務取締役,常務執行役員となり,平成24年4月12日に常務取締役・事業戦略本部長となったが(執行役員は同月11日限り退任),同年6月16日に取締役を退任した。被告Aは,同年8月1日,被告会社に就職した。 本件名刺帳及びその持ち出し(本件持ち出し行為)ア本件名刺帳は,被告Aが原告の従業員又は取締役としての在職又は在任中に営業活動等を通じて受け取った他社の従業員等の名刺を,会社名ア行~サ行及びタ行~ワ行並びに大手取引先3社の3冊に分けて,会社名の五十音順又は会社ごとに分類して収納したも 締役としての在職又は在任中に営業活動等を通じて受け取った他社の従業員等の名刺を,会社名ア行~サ行及びタ行~ワ行並びに大手取引先3社の3冊に分けて,会社名の五十音順又は会社ごとに分類して収納したものである。本件名刺帳は,被告Aの在任中,その秘書業務を担当していた原告従業員の袖机の引き出し(キャビネット)に保管されていた。(甲16,18~20)イ被告Aは,取締役退任の翌日である平成24年6月17日(日曜日)- 4 -の早朝に原告のオフィスに赴き,上記引き出しから本件名刺帳を取り出して持ち帰ったが,同月28日頃,原告からの問合せを機に,これを原告に返還した。(甲13,15)原告従業員の退職及び被告会社への就職(本件転職)原告は,日本ヒューレット・パッカード株式会社(以下「日本HP」という。)から「ロイター業務」と呼ばれる業務を請け負っていた。B,C,D,E及びF(以下,これら5名を「Bら5名」という。)は,いずれも原告の従業員としてロイター業務に従事していたところ,B以外の4名は平成25年1月31日に,Bは同年2月28日に原告をそれぞれ退職し,各退職の翌日に被告会社に就職した。 被告会社における被告Aの営業活動被告Aは,平成24年11月20日頃,ロイター業務を担当していた日本HPの従業員G(以下「G」という。)と面談し,原告の従業員の退職に関する話をした。 2 争点本件持ち出し行為についてア本件名刺帳の営業秘密該当性イ本件持ち出し行為に係る不法行為の成否ウ損害の有無及び額本件転職についてア本件転職に係る不法行為の成否イ損害の有無及び額本件告知行為についてア虚偽の事実の告知の有無イ本件告知行為に係る不法行為の成否ウ損害の有無及び額- 5 -弁護 ア本件転職に係る不法行為の成否イ損害の有無及び額本件告知行為についてア虚偽の事実の告知の有無イ本件告知行為に係る不法行為の成否ウ損害の有無及び額- 5 -弁護士費用請求の当否 3 争点に関する当事者の主張本件持ち出し行為についてア (原告の主張)本件名刺帳は合計2639枚の名刺を収納したものであり,これに記載された情報は,以下のとおり,不競法2条6項所定の営業秘密に該当する。 a 秘密管理性原告は,オフィスの出入口に生体認証システムを採用していた。 本件名刺帳を収納していた引き出しは,そのオフィス部分にあり,原告の担当秘書専用で,同人以外がアクセスすることはなかった。 名刺帳の表示とその外形があれば,誰の目にも秘密情報であることは明らかであり,多数の名刺が収納された名刺帳が秘密として管理されなければならないことは,通常の社会人であれば常識である。 b 有用性本件名刺帳に収納されていたのは原告の取引先,取引見込み顧客等の名刺であり,会社名,所属,氏名,住所,電話番号等が記載されている。また,会社名の五十音順に(大手3社分は別途整理),見開き2頁で20枚整列して収納されており,そのまま顧客名簿として使用可能である。そして,これらの情報を使用して,現在の顧客に対して業務の連絡を取ったり,取引見込み顧客に対して営業活動を行ったりすることができるから,本件名刺帳には有用性がある。 c 非公知性本件名刺帳に収納された名刺は,営業上の必要の範囲において使用することを前提に提供するもので,それ以外の目的で使用される- 6 -こと,一般に公表されることは予定されていない。さらに,上記のとおり整列して本件名刺帳に収納された2639枚の名刺全体としてみれば,公然と知られ するもので,それ以外の目的で使用される- 6 -こと,一般に公表されることは予定されていない。さらに,上記のとおり整列して本件名刺帳に収納された2639枚の名刺全体としてみれば,公然と知られていない情報である。 被告Aは,平成24年6月16日に取締役を退任し,原告のオフィスに立ち入る権限を失った。また,原告は,同月18日に生体認証システムから被告Aの情報を抹消する予定であった。ところが,被告Aは,その抹消前の日曜日の早朝にオフィスに侵入し,本件名刺帳を窃取した。そして,被告Aは,被告会社入社後の同年11月20日頃,本件名刺帳の情報を利用して,日本HPを訪れてGに対する営業行為を行った。被告Aの行為は,営業秘密を不正に取得し,使用したものであって,4号の不正競争に該当する。 被告会社は,原告の営業秘密が不正に取得されたことを知り,又は重大な過失により知らないで被告Aから当該情報を取得し,被告Aを介してこれを使用したから,5号の不正競争が成立する。 よって,原告は,被告らに対し,不競法3条1項に基づき本件名刺帳に記載された情報の使用の差止めを,同条2項に基づきこれが記載された資料等の廃棄を求める。 (被告らの主張)本件名刺帳は,以下のとおり,秘密管理性,有用性及び非公知性を欠くから,営業秘密に該当しない。 a 社屋出入口に生体認証システム等を導入して従業員以外の者が社内に入れないようにすることは一般的であるから,原告が同システムを導入していたことは本件名刺帳を秘密として管理していたことを裏付ける事情とならない。また,本件名刺帳が保管されていた引き出しは施錠されておらず,原告の従業員であれば誰でも取り出すことができた。さらに,本件名刺帳に秘密であることを示す表示は- 7 -なく,原告においては,名刺帳等を秘密 名刺帳が保管されていた引き出しは施錠されておらず,原告の従業員であれば誰でも取り出すことができた。さらに,本件名刺帳に秘密であることを示す表示は- 7 -なく,原告においては,名刺帳等を秘密として管理するようにとの指示も注意喚起もされていなかった。 b 本件名刺帳に収納された名刺は被告Aが自らの業務の過程で収集したものであり,原告はその存在すら認識していなかった。原告は現在の顧客の連絡先は当然把握していたし,見込み客に対して営業活動を行うために本件名刺帳を活用することもなかった。 c 本件名刺帳に収納された名刺にはごく一般的な事項が記載されているにすぎず,どのような人物でも名刺交換等によって取得することができる。 被告Aが早朝にオフィスに行ったのは,前日の株主総会において意に沿わない退任をさせられた気まずさから,なるべく他の従業員に会わない時間帯を選んだためである。退職後の従業員等が会社からの貸与物を返却したり私物を回収したりするために会社を訪れるのは当然に予定された行為であり,このような合理的な理由があればオフィスへの立入りも許される。また,被告Aは,コピーを取ることなく本件名刺帳を原告に返却しており,本件名刺帳の情報を使用したこともない。 したがって,本件持ち出し行為について4号又は5号の不正競争は成立しない。 イ (原告の主張)本件名刺帳に収納された名刺は,被告Aが原告の取締役の地位にある期間中,職務執行の過程で,原告の取締役としての名刺と交換に収集されたものであるから,その所有権は原告に属する。また,本件名刺帳は,原告のオフィス内に保管されていたから,原告に占有がある。 - 8 -本件持ち出し行為は不法行為に該当する。 (被告Aの主張)本件名刺帳に収納された名刺は被告Aが独自の判 件名刺帳は,原告のオフィス内に保管されていたから,原告に占有がある。 - 8 -本件持ち出し行為は不法行為に該当する。 (被告Aの主張)本件名刺帳に収納された名刺は被告Aが独自の判断で収集し,保管したものであり,原告から指示を受けたりしていない。また,原告は本件名刺帳の存在を把握しておらず,原告の就業規則上,従業員等が集めた名刺の所有権が原告に帰属するとの定めもない。本件名刺帳に収納された名刺は被告Aの所有物であり,本件持ち出し行為は窃取に当たらない。 ウ (原告の主張)本件名刺帳の価値は,以下のとおり,1025万4970円を下らない。 ・2639枚÷3枚(1回の面談で取得する平均枚数)×2時間(1回の名刺交換に要する時間)=1759時間(2639枚の名刺入手に要する時間)・100万円(被告Aの在任中の平均月収)÷171.5時間(1か月の所定労働時間)=5830円・5830円×1759時間=1025万4970円よって,原告は,被告Aに対し,上記のうち1000万円及びこれに対する不正競争又は不法行為の後である訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 (被告Aの主張)争う。 本件転職についてア (原告の主張)被告Aは,ロイター業務に従事していた原告の従業員に対し,被告- 9 -会社の通常の採用手続によることなく,被告会社の会社説明会を開催し,自ら採用面接を行う,Bを介して勧誘するなどしてBら5名を引き抜き,被告会社に入社させた。被告Aによる引き抜き行為は,原告に対する害意をもって,競業避止義務に反して行われ,社会的相当性の範囲を逸脱したものであるから,不法行為に該当する。 被告Aによる引き抜き行為は被告会社の業務に関 被告Aによる引き抜き行為は,原告に対する害意をもって,競業避止義務に反して行われ,社会的相当性の範囲を逸脱したものであるから,不法行為に該当する。 被告Aによる引き抜き行為は被告会社の業務に関するものであるので,被告会社はこれにつき使用者責任を負う。 (被告らの主張)Bら5名は,いずれも原告における待遇に不満を持っており,各自の意思で原告を辞め,被告会社に就職したものである。被告Aは,Bから転職について相談を受け,他にも転職を希望する原告従業員がいたことから会社説明会を開催したのであり,Bら5名に対する引き抜き行為をしていない。 イ (原告の主張)被告Aの引き抜き行為により,原告はBら5名が転職しなかった場合に得られた利益相当額の損害を被った。その額は,1人につき月34万5000円(ロイター業務担当従業員1人当たりの1か月の平均売上金75万円×原告の利益率46%)であるので,平成25年2月~平成26年2月分が2208万円(B以外の4名につき各13か月,Bにつき12か月の合計64か月分),同年3月~5月分が517万5000円(Bら5名につき合計15か月分)となる。 よって,原告は,被告らに対し,上記の合計2725万5000円及びこれに対する不法行為の後である訴状送達の日の翌日(平成26年2月分まで)又は平成27年4月10日付け訴えの変更申立書送達の翌日(同年3月分以降)から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による- 10 -遅延損害金の連帯支払を求める。 なお,上記主張が認められないとしても,原告の損害額は,少なくとも以下のとおり1884万8768円となる。 ・4771万8445円(平成24年4月~平成25年1月にロイター業務で得た原告の利益)÷20名(ロイター業務担当者)÷10か月=23万85 ,少なくとも以下のとおり1884万8768円となる。 ・4771万8445円(平成24年4月~平成25年1月にロイター業務で得た原告の利益)÷20名(ロイター業務担当者)÷10か月=23万8592円(1人1か月当たりの逸失利益)・23万8592円×(64か月+15か月)=1884万8768円(被告らの主張)争う。 本件告知行為についてア (原告の主張)被告Aは,平成24年11月20日頃,日本HPの購買担当のGに対し,「12月賞与支給後に,原告のロイター業務担当の従業員が大量に一斉退職するので業務の継続ができなくなる」旨の事実を,具体的な原告従業員の氏名を挙げて告知した。しかし,一斉退職及び業務の継続不可能という事実はいずれも存在しないから,被告Aが告知した事実は虚偽であって,原告の営業上の信用を害するものである。 したがって,被告Aによる本件告知行為は14号の不正競争に該当する。 本件告知行為は被告会社が被告Aにさせたものということができるから,被告会社についても14号の不正競争が成立する。 よって,原告は,被告らに対し,不競法3条1項に基づき,上記虚偽の事実を告知することの差止めを求める。 (被告らの主張)- 11 -被告Aは,日本HPのGに対して,原告のロイター業務担当の従業員が退職する可能性がある旨の話はしたが,原告の業務の継続ができなくなるなどといった発言はしていない。 イ (原告の主張)被告Aは,原告の執行役員であったから,執行役員規程に基づき,競業行為を行ってはならない義務を負う。上記アの虚偽事実の告知は競業避止義務に違反し,不法行為に該当する。また,被告会社はこれにつき使用者責任を負う。 (被告らの主張)争う。 ウ (原告の主張)原 らない義務を負う。上記アの虚偽事実の告知は競業避止義務に違反し,不法行為に該当する。また,被告会社はこれにつき使用者責任を負う。 (被告らの主張)争う。 ウ (原告の主張)原告は本件告知行為によって営業上の信用を害された。その損害額は500万円を下回らない。 よって,原告は,被告らに対し,500万円及びこれに対する不正競争又は不法行為の後である平成26年6月13日付け訴えの変更申立書送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める。 (被告らの主張)争う。 (原告の主張)原告は本件訴訟の遂行を弁護士に依頼した。その弁護士費用の額は300万円を下回らない。 よって,原告は,被告らに対し,300万円及びこれに対する不正競- 12 -争又は不法行為の後である訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める。 (被告らの主張)争う。 第3 当裁判所の判断 前記前提事実に加え,証拠(甲1,2,10,16,18~21,26,乙6,証人I,被告A本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ア原告は資本金約8億円の株式会社であり,従業員数は400~450名程度である。原告のオフィスのあるビルへの入館にはカードキーが必要であり,さらに,オフィス部分の入口には生体認証システムが設けられ,入室が制限されていたものの,オフィス内に従業員が立ち入れない箇所は特段定められていなかった。本件名刺帳は被告Aの秘書業務を担当する従業員の袖机の引き出しに保管されていたが,この引き出しは施錠されていなかった。 イ本件名刺帳は市販の名刺ホルダーを使用したものであり,表紙及び背表紙に「名刺帳」と記載 告Aの秘書業務を担当する従業員の袖机の引き出しに保管されていたが,この引き出しは施錠されていなかった。 イ本件名刺帳は市販の名刺ホルダーを使用したものであり,表紙及び背表紙に「名刺帳」と記載され,背表紙に別紙営業秘密目録添付の各別紙のとおり会社名の頭文字等が明記されていたが,「秘」の文字その他秘密情報であることを示す表示は付されていなかった。 ウ原告は,従業員又は取締役が業務上入手した名刺の管理や処分につき,就業規則等に定めを置いておらず,従業員らに対しこの点に関する指示をすることもなかった。被告Aは,取引先等から受領した名刺を上記秘書業務を担当する従業員に管理させており,同従業員は,被告Aの指示に従い,被告Aから手渡された名刺を会社名で分類して本件名刺帳に収納していた。本件名刺帳に収納されていたのは被告Aが入手した名刺の- 13 -みであり,原告の顧客リストは別途作成されていた。 エ原告は,従業員又は取締役が退職又は退任する際,業務上入手した名刺を残置するよう指示したことはなく,その処分は当該従業員等に任せていた。被告Aの取締役退任に当たっても,本件名刺帳を持ち出さないよう求めることはなかった。 技術上又は営業上の情報が不競法上の営業秘密として保護されるためには,当該情報が秘密として管理され,事業活動に有用であって,かつ,公然と知られていないことを要する(不競法2条6項)。 原告は,本件名刺帳に収納された名刺に記載された情報が原告の営業秘密に当たる旨主張するが,名刺は他人に対して氏名,会社名,所属部署,連絡先等を知らせることを目的として交付されるものであるから,その性質上,これに記載された情報が非公知であると認めることはできない。なお,守秘義務を負うべき状況下で特定の者に対して名刺を手交するような場合には, せることを目的として交付されるものであるから,その性質上,これに記載された情報が非公知であると認めることはできない。なお,守秘義務を負うべき状況下で特定の者に対して名刺を手交するような場合には,その記載内容が非公知性を有することもあり得ようが,本件においてそのような事情は見当たらない。 また,本件名刺帳に収納された2639枚の名刺を集合体としてみた場合には非公知性を認める余地があるとしても,本件名刺帳は,上記認定事実によれば,被告Aが入手した名刺を会社別に分類して収納したにとどまるのであって,当該会社と原告の間の取引の有無による区別もなく,取引内容ないし今後の取引見込み等に関する記載もなく,また,古い名刺も含まれ,情報の更新もされていないものと解される(甲16参照)。これに加え,原告においては顧客リストが本件名刺帳とは別途作成されていたというのであるから,原告がその事業活動に有用な顧客に関する営業上の情報として管理していたのは上記顧客リストであったというべきである。そうすると,名刺帳について顧客名簿に類するような有用性を認め得る場合があるとしても,本件名刺帳については,有用性があると認めることはで- 14 -きない。 さらに,上記認定事実によれば,原告においては,従業員又は取締役が業務上入手した名刺の管理や処分につき就業規則等に定めを置いておらず,従業員等に対しこの点に関する指示をすることもなかったというのであるから,上記顧客リストの記載とは別に従業員等が所持する名刺については,その処分を従業員等に委ねていたと認めるのが相当である。本件名刺帳は,上記認定の収納及び管理の状況に照らせば,被告Aが原告から処分を委ねられた名刺を単に自己の営業活動等のために整理していたにすぎないものというべきであり,原告が管理していたとみるこ る。本件名刺帳は,上記認定の収納及び管理の状況に照らせば,被告Aが原告から処分を委ねられた名刺を単に自己の営業活動等のために整理していたにすぎないものというべきであり,原告が管理していたとみることはできない。また,原告による管理を認め得るとしても,本件名刺帳が保管された引き出しは施錠されておらず,秘密とする旨の表示もなかったというのであるから,秘密管理性を認めることは困難である。 以上によれば,本件名刺帳を営業秘密ということはできないから,4号又は5号の不正競争をいう原告の主張は失当と解すべきである。 原告は,本件持ち出し行為につき,不正競争の成立が認められないとしても,不法行為に当たる旨主張する。 含め退職又は退任する従業員及び取締役に対し,業務上受領した名刺の管理や処分について特段の指示をしていなかったというのであり,被告Aは,本件名刺帳につき原告が何ら関心を払っていなかったので,取締役退任に際し自らが収集した名刺を持ち帰ったとみることができる。また,前記前提事実ており,本件持ち出し行為により原告に何らかの損害が生じたとうかがわせる証拠はない。本件における以上の事情の下では,本件持ち出し行為が不法行為に当たることはないと解すべきである。 - 15 - 前記前提事実に加え,証拠(甲10,29,34,乙1~6,証人I,同J,同B,被告A本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ア原告の従業員数は400~450名程度であるが,離職率が高く,平成24年には年初従業員448名のうち80名が,平成25年には同406名のうち57名が退職した。原告の経営陣の中には,勤続年数が15年以上の従業員に対してハローワークに行くよう指示するなど,従業員が漫然と長期間勤続することに否定的な考え方があ 平成25年には同406名のうち57名が退職した。原告の経営陣の中には,勤続年数が15年以上の従業員に対してハローワークに行くよう指示するなど,従業員が漫然と長期間勤続することに否定的な考え方があった。Bら5名は,原告における従業員の処遇に不満を抱き,将来に不安を感じており,機会があれば転職したいと考えていた。 イ原告は,日本HPからロイター業務を請け負っており,平成24年4月頃には20名前後の人員をこれに充てていた。なお,ロイター業務とは,日本HPがロイター社から受託した金融機関向けトレーディングシステムの配信システムの設置,保守等の業務をいう。Bら5名はいずれもロイター業務の担当であり,Bは,平成22年7月以降,ロイター業務の責任者を務めていた。 ウ日本HPは,平成24年7月頃,原告に対し,ロイター社からの受託業務の減少に伴い,原告に委託しているロイター業務を縮小すると申し入れた。Bは,この頃,その話を聞き,ロイター業務に従事する人員が削減されるものと考え,これを機に転職することを決意した。そして,かつての上司であり,原告を退任して間もない被告Aに転職について相談したところ,被告A(当時は被告会社への就職前であった。)は慎重に考えるようにと助言した。 エ Bは,その後も被告Aに数回転職の相談をし,その中で,被告Aが就職した被告会社を転職先の一つと考えるようになった。Bは,また,ロ- 16 -イター業務を担当する原告の従業員らに,ロイター業務が縮小されること及び自分が転職を考えていることを告げた。上記従業員らの中には,自らも転職を希望しているとして,Bにその旨を話すものがいた。Bは,被告Aに対し,自らの転職先候補の一つとして被告会社を挙げるとともに,自分以外にも転職希望者がいるので,被告会社の会社説明会を開いてほし 転職を希望しているとして,Bにその旨を話すものがいた。Bは,被告Aに対し,自らの転職先候補の一つとして被告会社を挙げるとともに,自分以外にも転職希望者がいるので,被告会社の会社説明会を開いてほしいと希望した。被告Aは,被告会社のネットワーク3部の部長職にあり,従業員の採用を決定する立場になかったが,人事関係の担当者と協議をして会社説明会を開催することとし,その日時等をBに伝えた。 オ同年11月頃,被告会社において会社説明会が開催され,Bら5名を含む10名弱の原告従業員が参加した。被告会社側の出席者は被告A及びその上司らであり,被告会社の概要や業務内容等の説明がされた。その後,会社説明会参加者のうち就職を希望する者に対する個別の面接が行われ,被告Aもこれに携わった。 カ Bら5名のうちB以外は平成25年1月末に,Bは同年2月末に原告を退職し,被告会社に就職した。原告においてはロイター業務の縮小に伴い担当者を削減することが予定されており,Bら5名の退職により業務に支障が生じることはなかった。原告は,平成26年5月末頃,ロイター業務を終了した。他方,Bら5名は,被告会社においてロイター社の業務を担当していない。 上記認定事実によれば,Bら5名は,かねてから原告での勤務に不満を感じていたところ,ロイター業務の縮小を機に転職を決意し,原告を退職して被告会社に就職したものであり,被告Aは,その過程で,Bからの相談に乗り,Bの希望に応じて会社説明会を開催し,被告会社の管理職として採用面接に関与したにとどまるということができる。そうすると,本件転職はBら5名が各自の意思に基づいて行ったとみるべきものであって,被告Aによる不法行為は成立しないと判断するのが相当である。 - 17 -これに対し,原告は,被告AがBら5名に対して社会的相当 職はBら5名が各自の意思に基づいて行ったとみるべきものであって,被告Aによる不法行為は成立しないと判断するのが相当である。 - 17 -これに対し,原告は,被告AがBら5名に対して社会的相当性の範囲を逸脱した引き抜き行為を行った旨主張するが,本件の証拠上,被告AがBら5名に対し積極的に転職を働きかけたといった事実は認められない。したがって,原告の上記主張を採用することはできない。 前記前提事実,証拠(甲22,23,乙6,証人J,被告A本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ア被告Aは,平成24年9月頃,転職の挨拶をするため,原告在籍中に世話になった日本HPのGを訪問した。被告Aは,Gから被告Aの退任による影響について尋ねられた際,今後原告を退職する従業員が何人かいるかもしれない旨話した。Gは,退職の話が具体的になったら連絡してほしい旨頼んだ。 イ被告Aは,前記会社説明会開催の前後である同年11月20日頃,日本HPのGを訪問し,Bら5名のうち一部の実名を挙げて,ロイター業務を担当している原告の従業員が複数退職する可能性がある旨伝えた。 Gは,その直後に原告に電話連絡を取り,原告の執行役員と面談して,ロイター業務担当の従業員が大量に退職するとの情報があり,そうであるとすれば業務の継続ができないリスクになると考えられるので,事実関係を調査してほしいと要望した。原告は,上記の情報は事実無根であり,ロイター業務の遂行に問題はない旨回答した。 上記事実関係によれば,被告AはGに対して「ロイター業務を担当する原告の従業員が複数退職する可能性がある」旨の事実を告知したにとどまとは認められない。したがって,被告Aの行為が14号の不正競争に当たるということはできない。 これに対し,原告は,被告AがGに対 原告の従業員が複数退職する可能性がある」旨の事実を告知したにとどまとは認められない。したがって,被告Aの行為が14号の不正競争に当たるということはできない。 これに対し,原告は,被告AがGに対し「原告のロイター業務担当の従- 18 -業員が大量に一斉退職するので業務の継続ができなくなる」旨発言したと主張する。しかし,原告が主張の根拠とする証拠(甲10,22~25,28,証人I,同J)のうち被告Aが上記の発言をしたとの部分はいずれも伝聞ないし推測に基づくものであり,これにより被告Aの発言内容を認メール(甲22)中のGからの入電内容に関する記載によれば,「業務の継続ができなくなる」との部分は,Gが被告Aから聞いた話ではなく,Gが考えた事項を原告に伝えたものと認めることが相当である。したがって,原告の上記主張を採用することはできない。 原告は,本件告知行為につき,14号の不正競争に当たらないとしても不法行為が成立する旨主張する。しかし,原告の主張は,被告Aが原告主張の発言をしたことを前提とするものであるところ,そのような発言をしたと認められないことは上記4のとおりである。したがって,不法行為をいう原告の主張も失当と解すべきである。 第4 結論以上によれば,原告の請求はその余の点について判断するまでもなくいずれも理由がないから,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官長谷川 浩 二 裁判官清野正彦 裁判官藤原典子 - 19 -別紙当事者目録 東京都品川区<以下略>原告 裁判官藤原典子 別紙当事者目録 東京都品川区<以下略>原告日本サード・パーティ株式会社 同訴訟代理人弁護士津留崎裕 小林深志 久保田智史 日野修男 東京都千代田区<以下略>被告セントラルソフト株式会社 東京都府中市<以下略>被告A上記両名訴訟代理人弁護士武藤功 渡邊淳子 相良恵美 牧野盛匡 新谷紀之 前川理佐 坪川哲也 粂井範之 別紙営業秘密目録 1 名刺帳1(別紙1のとおり)に収納された会社名の「ア行~サ行」の名刺 範之 - 20 -別紙営業秘密目録 1 名刺帳1(別紙1のとおり)に収納された会社名の「ア行~サ行」の名刺1095枚 2 名刺帳2(別紙2のとおり)に収納された会社名の「タ行~ワ行」の名刺931枚 3 名刺帳3(別紙3のとおり)に収納された原告取引先3社の名刺613枚上記各名刺帳に収納された名刺合計2639枚に記載された会社名・部署・役職・氏名・会社住所・電話番号・ファクシミリ番号・電子メールアドレス以上
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