令和6年10月7日宣告令和4年(わ)第824号、令和5年(わ)第102号詐欺、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反被告事件判決 主文 被告人を懲役10年に処する。 未決勾留日数中280日をその刑に算入する。 被告人から1億9800万円(当該金額は犯罪被害財産の価額)を追徴する。 訴訟費用は被告人の負担とする。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、第1 分離前の相被告人A1と共謀の上、独立行政法人Bの新型コロナウイルス対応支援資金による無担保無保証融資(以下「本件融資」という。)に乗じて医療機関や福祉施設から融資手数料名目で金銭をだまし取ろうと企て、令和2年7月26日から同年12月12日までの間、複数回にわたり、訪問介護施設等を運営する有限会社C1代表取締役C2(当時49歳)に対し、堺市a 区bc 番地dC1事務所において、真実は、前記A1は本件融資の決定権限を有しておらず、前記A1らを通じなくても本件融資を受けることができる上、融資金の返済ができなければ、Bから民事責任を追及されるにもかかわらず、前記A1がB又はその関係機関の審議官であり、本件融資の決定権限を有しており、前記A1らを通じて本件融資を申し込むとともに同人らを通じて融資金の約半額をB又はその関係機関に戻せば特別に本件融資を受けることができ、かつ、本件融資は融資金の返済ができなくても支払期限を繰り延べ続けることができ、事実上民事責任を追及されることがないように装い ながら、その旨のうそを言い、前記C2にその旨誤信させ、よって、同人に、同年11月10日頃、前記A1らを通じて本件融資の申込みをさせて、同年12月15日、Bから本件融資として株式会社D1銀行D2 ながら、その旨のうそを言い、前記C2にその旨誤信させ、よって、同人に、同年11月10日頃、前記A1らを通じて本件融資の申込みをさせて、同年12月15日、Bから本件融資として株式会社D1銀行D2支店に開設されたC1名義の普通預金口座に1億2000万円の振込入金を受けさせた上、同月16日、同口座から、Eから口座使用の承諾を得た同人管理の株式会社F1銀行F2支店に開設された株式会社G名義の普通預金口座に現金1320万円を、前同様の株式会社H1銀行H2支店に開設された株式会社I名義の普通預金口座に現金4620万円をそれぞれ振込入金させ、もって人を欺いて財物を交付させた。(以下「C1事件」という。)第2 前記同様に本件融資に乗じて、J病院を運営する医療法人K1理事長K2(当時60歳)を欺き、K1から金銭をだまし取ろうと考え、前記A1と共謀の上、令和2年7月22日から同年11月15日までの間、複数回にわたり、福岡県久留米市ef 丁目g 番h 号J病院及び千葉県成田市ijL病院において、前記K2に対し、真実は、前記A1は本件融資の決定権限を有しておらず、前記A1らを通じなくても本件融資を受けることができる上、融資金の返済ができなければ、Bから民事責任を追及されるにもかかわらず、前記A1がB又はその関係機関の審議官であり、本件融資の決定権限を有しており、前記A1らを通じて本件融資を申し込むとともに同人らを通じて融資金の約半額をB又はその関係機関に戻せば特別に本件融資を受けることができ、かつ、本件融資は融資金の返済ができなくても支払期限を繰り延べ続けることができ、事実上民事責任を追及されることがないように装いながら、その旨のうそを言い、前記K2にその旨誤信させ、さらに、被告人は、前記A1の関与を排してK1から金銭をだまし取ろうと考え、同年12月2 とができ、事実上民事責任を追及されることがないように装いながら、その旨のうそを言い、前記K2にその旨誤信させ、さらに、被告人は、前記A1の関与を排してK1から金銭をだまし取ろうと考え、同年12月2日から令和3年1月19日までの間、前記J病院にいた前記K2らにショートメッセージを送信するなどし、同人らに対し、前同様に装った上、A1審議官が融資に前向きでなく、このままでは融資を受けられないが、被告人に対して融資金の約4割の金銭を渡すことを条件に被告人を通じて本件融資を申し込めば、特別に前記同様事実上民事責任を追及されることがない旨うそを言い、前記K2にその旨誤信させ、よって、同人 に、令和2年12月10日頃、被告人を通じて本件融資の申込みをさせて、令和3年1月15日、Bから本件融資として株式会社D1銀行D3支店に開設されたK1名義の普通預金口座に現金6億円の振込入金を受けさせた上、K1からだまし取る金銭の取得の原因を仮装しようと企て、その頃、日本国内において、株式会社Mに9900万円を振り込むよう依頼する架空のコンサルティング費用に関する振込依頼書、N株式会社に5300万円を振り込むよう依頼する架空の業務委託費用に関する振込依頼書及び株式会社Oに8000万円を振り込むよう依頼する架空の貸付金に関する振込依頼書をそれぞれ作成した上、これらを前記J病院に送付し、さらに、同月19日、同病院において、情を知らない前記K2と共に、K1が前記Mにコンサルティング業務の報酬として9900万円を支払う旨記載した架空のコンサルティング業務委託契約書、K1が前記Nに委託業務の報酬として5300万円を支払う旨記載した架空の業務委託契約書及び前記OがK1から8000万円を借用する旨記載した架空の金銭消費貸借契約書確認合意書をそれぞれ作成し、同月20日、 前記Nに委託業務の報酬として5300万円を支払う旨記載した架空の業務委託契約書及び前記OがK1から8000万円を借用する旨記載した架空の金銭消費貸借契約書確認合意書をそれぞれ作成し、同月20日、前記K1名義の普通預金口座から、被告人管理の株式会社P1銀行P2支店に開設された株式会社M名義の普通預金口座に現金9900万円を、同人管理の株式会社D1銀行D4支店に開設された株式会社O名義の普通預金口座に現金8000万円を、及び、A2から口座使用の承諾を得た同人管理の株式会社Q1銀行Q2支店に開設されたN株式会社名義の普通預金口座に現金5300万円をそれぞれ振込入金させ、もって人を欺いて財物を交付させるとともに、犯罪収益等の取得の事実につき事実を仮装した。(以下「K1事件」という。)第3 前記第2記載のK1の本件融資の申込みを代行するに当たり、その医業収益が前年同月又は前々年同月と比較して30パーセント以上減少した月がある場合は、無担保貸付の限度額が3億円から6億円に増額されることを利用し、Bを欺いてK1への融資金を増額させてだまし取ろうと考え、分離前の相被告人である前記A2と共謀の上、あらかじめ、K1理事長K2との間で、K1名義の預金口座に振り込まれる本件融資金の一部を被告人が指示するとおり交付させる約束をした上で、令 和2年12月10日頃、東京都港区kl 丁目m 番n 号Bにおいて、同福祉医療貸付部医療審査課職員に対し、真実は、K1の令和2年6月の医業収益は、前年同月と比較して30パーセント以上減少していなかったにもかかわらず、30パーセント以上減少した旨記載した内容虚偽の合計残高試算表等を、K1作成名義の借入申込書等と共に提出して本件融資を申し込み、同部長Rらをして、K1の令和2年6月の医業収益が前年同月と比較して30パーセ セント以上減少した旨記載した内容虚偽の合計残高試算表等を、K1作成名義の借入申込書等と共に提出して本件融資を申し込み、同部長Rらをして、K1の令和2年6月の医業収益が前年同月と比較して30パーセント以上減少したものと誤信させて本件融資を決定させ、よって、令和3年1月15日、Bから株式会社D1銀行D3支店に開設されたK1名義の普通預金口座に現金6億円を振込入金させ、もって人を欺いて財物を交付させた。(以下「B事件」という。)(事実認定の補足説明)第1 被告人・弁護人の主張及び争点各公訴事実に対する被告人及び弁護人の主張の要旨並びに本件の争点は、以下のとおりである。 1 C1事件及びK1事件について被告人が、C1やK1に対してA1と共にA1らを通じて本件融資の申込みをするよう勧誘したり、その後K1に対して被告人を通じて本件融資の申込みをするよう勧誘し、その際申込代行の手数料を求めたことは間違いない。 もっとも、公訴事実のうち、C1やK1に対して、「A1らを通じて融資金の約半額をB又はその関係機関に戻せば、融資金の返済ができなくても民事責任を追及されることがないように装」ったり、「被告人を通じて融資金の約4割の金銭をB又はその関係機関に戻せば、融資金の返済義務を免れることができる旨うそを言」ったことはない。被告人は、本件融資の申込代行の仕事を持ち掛けてきたA1から、①Bは、コロナウイルスの感染拡大により壊滅的な打撃を受けた医療機関等を救うため、本件融資について回収することは考えておらず、Bから返済は求められるものの、返済ができなかった場合でも返済期限を繰り延べることができ、強制執行手続を受けることはないし、Bは本件融資によって予算をばらまいた後は解散して債権 譲渡をすることもないという説明を受けるとともに、②Bの理事 た場合でも返済期限を繰り延べることができ、強制執行手続を受けることはないし、Bは本件融資によって予算をばらまいた後は解散して債権 譲渡をすることもないという説明を受けるとともに、②Bの理事であるSがT2と共にT1というBの下請けをする会社を作っており、T1を通して本件融資を申し込めば、Sがその医療施設等の売上げの多寡や経営状態に関わらず事前に査定をしてくれるため、無担保無保証で満額の融資を受けることができ、Bのホームページ上には載っていない2回目、3回目の融資を受けることができる、医療機関等には手数料として融資額の半額を支払ってもらう必要があるが、その内訳は1割がT1への事務委託料、残り4割がBや厚生労働省へのキックバックであると説明され、その後A1からBの現役理事としてSを紹介され、Sも同席する場で同様の説明を受けたため、本件犯行当時、その話を信じていた。C1やK1に対しても、あくまで本件融資の一般論としてBからの返済期限を繰り延べることができるという説明をするとともに、それとは別に融資金の半額あるいは4割の手数料を支払ってもらえば、無担保無保証で満額の融資を受けることができるなどと説明したにすぎず、公訴事実に書かれたような、返済期限を繰り延べることと融資金の半額あるいは4割の手数料の支払いが条件関係になっているという説明はしていないし、またその故意・共謀もない。 なお、K1事件について、被告人は、途中、A1の関与を排して申込みを代行することにしたが、K1についてはSによる査定やB内部における融資決定の根回しが済んでおり、6億円という融資額で本件融資の申請が通ることは既に決まっており、A1やT2、Sと共に申込代行をせずとも、無担保無保証で満額の融資を受けることができると認識していた。 そして、K1事件において詐欺罪は成立 いう融資額で本件融資の申請が通ることは既に決まっており、A1やT2、Sと共に申込代行をせずとも、無担保無保証で満額の融資を受けることができると認識していた。 そして、K1事件において詐欺罪は成立しないから、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(以下「組織犯罪処罰法」という。)違反の罪についても、被告人がK1から振込入金を受けた2億3200万円は犯罪収益に当たらずその認識もないため無罪である。 2 B事件についてBに対して、K1の本件融資の申込みをする際に、K1作成の合計残高試算表と は異なる数字を記載した書類を提出したことは間違いない。もっとも、K1については、Sによる査定やB内部の融資決定の根回しが済んでおり、申請書は形式さえ整っていればよく、T1従業員からも教示されたとおり、今年度の売上げを記載する欄は前年度の85~95パーセントを掛け合わせて書けばよいと認識していた。 3 争点以上のとおり、本件の争点は、C1事件及びK1事件については、欺罔行為の有無・内容及び詐欺の故意・共謀が認められるか否かであり、B事件については、詐欺の故意が認められるか否かである。 第2 前提事実当事者間に争いがなく、関係証拠上認められる事実は、以下のとおりである。 1 被告人ら及びBについて⑴ 被告人は、本件当時、X市議会議員であった者である。 A1は、本件当時、貿易業やU2内でエステ等の事業を営んでいた。 ⑵ Bは、平成15年に設立された厚生労働省所管の独立行政法人であり、国から財政融資資金を受けて、医療施設や福祉施設の設置のために必要な資金の貸付け等を行っていた。 Bでは、こうした従前からの事業に加えて、新型コロナウイルスの拡大に伴い、令和2年2月からは、本件融資、すなわち新型コロナウイルス感染症により減 の設置のために必要な資金の貸付け等を行っていた。 Bでは、こうした従前からの事業に加えて、新型コロナウイルスの拡大に伴い、令和2年2月からは、本件融資、すなわち新型コロナウイルス感染症により減収や事業停止等の影響を受けた医療機関や福祉施設に対する長期運転資金の優遇融資が実施されることとなった。その貸付限度額等の融資条件についてはBのホームページ上でも公表され、本件融資の概要を紹介するトップページには、見出しと共に本件融資の詳細情報や借入申込書等を見るためのリンクが設けられていた。 2 C1事件及び同事件に至るまでの経緯⑴ T2は、同月18日、株式会社T1を設立した。T2は、遅くとも同年3月頃、Bの元理事であったSから本件融資の存在を伝えられ、遅くとも同年4月頃には、同社の業務として、医療施設等からの依頼を受けて本件融資の申込みの代行 等の事務を行うようになり、融資額の5~10パーセントの手数料を医療施設等から受領していた。 ⑵ A1は、知人を介してT2やSと知り合い、T2から、本件融資の申込みを希望する医療施設や福祉施設をT1に紹介すれば手数料を支払うなどと持ち掛けられた。 ⑶ 被告人は、同年6月頃、元夫の取引先であったEと連絡を取り合うようになり、更に同月14日、Eから紹介されてA1と知り合った。被告人は、翌15日から同月16日にかけて、Eとともに、A1から、本件融資の存在を説明されるとともに、本件融資の申込みを希望する医療施設や福祉施設を紹介してほしいなどと申し向けられ、これを了承した(なお、この際A1からなされた本件融資に関する説明内容については、A1供述と被告人供述との間で食い違いがある。)。 以後、被告人は、A1に対し、本件融資の申込みを希望する医療施設等を紹介するとともに、A1と共にその医療施設等を訪 融資に関する説明内容については、A1供述と被告人供述との間で食い違いがある。)。 以後、被告人は、A1に対し、本件融資の申込みを希望する医療施設等を紹介するとともに、A1と共にその医療施設等を訪れ、A1らを通じて本件融資を申込むよう勧誘するようになった。 ⑷ Bのホームページ上に、「融資あっせんについてのご注意」と題して、要旨、「Bは解散予定であり余剰金を抱えているため、今ならばすぐにまとまった金額の融資を受けることができ、利息のみを返済すればよい。Bの解散後、返済が免除される」などという内容を吹聴して、融資額の5~20パーセントの手数料を要求している業者がいるが、その内容は事実無根である旨の文書が掲載された。被告人は、同月25日、A1に対し、同文書が掲載されたホームページのURLを送信した。 A1から「大丈夫です。我々は、30から50%要求なので」という返信を受けると、被告人は「さっきのページ、Bが、わざわざ作ったんですかー?笑」などと返信した。 ⑸ T2は、同月29日、T1の従業員から、A1が医療施設等に対して融資額の30パーセント、あるいは50パーセントの法外な手数料を要求しているという報告を受けた。 ⑹ 被告人は、同年7月4日、A1と共に、本件融資の申込みを希望する大阪の医療施設を訪れ、申込代行の勧誘を行った。その際、A1は、医療施設の理事らに対し、A1らを通じて本件融資の申込みをすれば満額の融資を受けられること、返さなくてよいとは言えないが、無担保無保証の融資であり、返せないと言えばBには強制力がないため、事実上返済を遅らせることができること、Bは数年後には潰れるためそうなれば返済しなくてよくなることなどを説明した上、A1らを通じて本件融資の申込みを行うためには融資額の50パーセントの金額を支払う必要がある を遅らせることができること、Bは数年後には潰れるためそうなれば返済しなくてよくなることなどを説明した上、A1らを通じて本件融資の申込みを行うためには融資額の50パーセントの金額を支払う必要があるなどと述べた。被告人もこれに同席し、A1の話に終始同意するような態度を示していた。同面談には、T2からの指示を受けたT1の従業員も同席していた。 ⑺ 被告人は、同月7日、A1と共に、本件融資の申込みを希望する高松の福祉施設を訪れ、申込代行の勧誘を行った。A1は、各福祉施設において、要旨、直接Bに申込をした場合には満額の融資が下りることはないが、A1らを通じて本件融資の申込みをすれば最大限の金額を無担保無保証で融資する、A1らを通じて申込みをする場合には融資額の50パーセントの金額を支払う必要がある、国やBとしては莫大な予算を使い切りたいが、きちんとキックバックをしてもらえる特定の医療施設にのみ融資をしたいと考えており、そのためにA1らが紹介を受けた限られた医療施設等にのみ話を持ち掛けている、融資という形式は取るものの、無担保無保証の融資であるため返済ができないのであれば返済できなくても構わない、Bは予算を出し切った上で解散するため民事責任を追及されなくなるなどと述べた。 なお、福祉施設の関係者から「返さんでいいって言う基準は」などと問いかけられたのに対し、A1が「これは無担保無保証ですから」などと返答したが、同関係者から「はっは、本当?」、「Bに裁判されて、そしてやっぱ払えるやんかいうたら。 財務状況見たら払えるでしょみたいに。」などと指摘された。各福祉施設との面談では、T2からの指示でT1の従業員らもこれに同行し、同従業員らは面談の様子をいずれも録音した上、A1らと別れた後にA1らの話はもはや詐欺であるなどと話した。 ⑻ 被告人 祉施設との面談では、T2からの指示でT1の従業員らもこれに同行し、同従業員らは面談の様子をいずれも録音した上、A1らと別れた後にA1らの話はもはや詐欺であるなどと話した。 ⑻ 被告人及びA1は、同月26日から同年12月12日にかけて、C1を訪問し、本件融資の申込みを勧誘した。C1の代表取締役による録音データによれば、その勧誘の際、被告人及びA1が本件融資に関して説明した内容は以下のとおりである。 すなわち、A1は、本件融資金の返済の要否に関して、「この趣旨の一番の条件といたしましては無担保無保証。ある意味言葉を変えて言いますと、返さなくてもいいお金」である、「融資という言葉なんですけれども、返して貰うことが目的ではな」い、「返せないと言ったとしても無担保無保証ですので、…(省略)…こちらが事業をされてて、お金を返して下さいって我々が言うたときに、返せませんって言われたら、あぁそうですか、じゃあどのぐらいから返して貰えるでしょう、2年位かかりそうですかね、じゃあわかりました、2年半に取りに行きますっていうようなずっとそういう風なくだりをやるだけです。」、「61回目から支払って下さいという契約書にきちんと明記されてますんで。で61回目にちゃんと通知が来ます。…(省略)…でも返せませんて言われたら、あぁそうですかって言って引きます。」、「何にも回収することはありませんし、次の整理回収機構に渡すことも出来ません」、「無担保無保証で、その追っかける物がないので、それが別の機構に移されることはないっていうことです。同じ所がずっとうってくるだけですので、ずっとシュレッダー掛けて貰えれば。」、「返さなくて、ここの医院を、ここの施設を、担保に取ったりとか、そういうことはどんなに裁判所で我々が出しても契約が無担保無保証だと。 それを一生す だけですので、ずっとシュレッダー掛けて貰えれば。」、「返さなくて、ここの医院を、ここの施設を、担保に取ったりとか、そういうことはどんなに裁判所で我々が出しても契約が無担保無保証だと。 それを一生することはできない。」、「無担保無保証なんで借りて返せませんって言っても銀行から差し押さえられることはないんです。」、「我々は単なる催促状送って返して下さいって…(省略)…で返さなくて良いって言う、いってる訳ですから、返せませんって言ったら、ああそうですか、また返せる時になったら教えて下さいねってしか言わない訳なんですよ。」、「無担保無保証ってどういうことかっていったら、返して下さいって今後ありませんので。」等、本件融資が無担保無保証であるがゆえに差押えを受けることなく支払期限を繰り延べ続けることでき、また債権譲 渡を経て回収されることもないから、本件融資金を支払わずにいることができる旨述べている。そして、これらのA1の説明を補足する形で、同席していた被告人も「無担保無保証なので、万が一こう、債権がどっかに移ったとしてもというか移らないですね、無担保無保証なので、なんで、皆さん、例えばT1がなくなったとかBがなくなったときにその債権がどっかにいって、怖い人達が本気で取りに来るんじゃないかとかそういう不安があるかと思うんですけど、そういう風に回っていくことはない、無担保無保証っていう、そういう意味合いだということも分かって頂きたい」とか、「根気強くシュレッダー掛けて下さいって。本当に。」、「『お金無いんでリスケお願いします』と、ずっと後はそれだけでいいんで」などと述べており、A1に同調して同内容の説明をしていることが認められる。 また、本件融資をA1やT1を通じて申し込むことについて、A1は「特殊な案件ですので…(省略)…もしご不安でし でいいんで」などと述べており、A1に同調して同内容の説明をしていることが認められる。 また、本件融資をA1やT1を通じて申し込むことについて、A1は「特殊な案件ですので…(省略)…もしご不安でしたら、…(省略)…ホームページ上から、あの、ダウンロードして頂いて、通常通りの一般融資で申し込んで下さい」、「私が動くっていうことは、もうちょっと特例な動きになります」、「私がついたものに関しましては、無担保無保証というものを絶対とします。」、「今回コロナ禍というもので予算が3兆5000億ついたもので、それをちゃんとした血液として流すというのが本来の目的ですので。そしてその本来の目的を叶えて頂ける出口さんに関しては手厚くさせて貰うし、その出口に関してはちゃんと業務委託料という形で(省略)回収させて貰いますと。そして、それは、また政治の方で使わせて貰いますという、ある意味政治的な資金だと考えて頂ければ」、「ちゃんとした業務委託金が払われないとかいうことがあったときも、我々は、直ぐに行政指導を別枠でもう指導を掛けてしまいますんで、その時はもう運営が出来なくなる。…(省略)…もう病院でもそうです。国民健康保険とか社会保険の保険料の入金の支払いまで止めてしまいますんで。ですからそれだけの権限を持った状態で動かさせて頂いて。ですから、つける際も手厚く満額で、無担保無保証でしっかりつけさせて頂くっていうのが対条件だと思っていただければ。」などと述べており、A1を通じた融資申込みは特殊な ものであり、満額かつ無担保無保証での融資を確約するが、その条件として融資金額の半額相当の業務委託料の支払いが必要である旨説明している。そして、被告人もこれを補足する形で、「表おもてというか、このホームページから申込まれた歯医者さんというのがいらっしゃって、… 融資金額の半額相当の業務委託料の支払いが必要である旨説明している。そして、被告人もこれを補足する形で、「表おもてというか、このホームページから申込まれた歯医者さんというのがいらっしゃって、…(省略)…1400万円下りたところがあるんです。すごい今にしてはそこまで下りないんですけど、最初のころだったんで、結構大きな額が降りてるんですけど、ただやっぱり保証人付けさせられた。同じBのコロナの融資であっても、ホームページ上で行くと融資満額4000…(省略)…、そこも下りないで1400万ですし、有担保、保証人が付くっていうのが、表のルートです。」など、A1やT1を通じて融資を申し込まなければ、無担保無保証である本件融資を受けることはできず、また融資金額も満額は下りない旨述べている。 ⑼ 被告人は、同年9月12日、A1から「S理事より」などとして、一覧表のファイルを受信した。同一覧表には、医療施設や福祉施設を経営する事業者ごとに「年商」、「主な借入先」、「最大申込金額」等の欄が設けられていたが、「最大申込金額」欄には本件融資の融資限度額を大幅に下回る金額が記載されたものが複数存在した。加えて、備考欄には、各事業者について年商の多寡や債務超過の状況、返済能力の評価等について記載されるとともに「年商が少ないため無担保上限での申込金額に届かない」、「申込は難しいか?」、「さすがに申込には無理がある」、「書類作成難度は高い/低い」などと記載されていた。 3 K1事件・B事件及び各事件に至る経緯⑴ 被告人及びA1は、令和2年10月18日以降、K1理事長に対し、A1はBの審議官であり本件融資の決定権限がある、既にK1については3億円の融資を付けられると考えている、融資額の半額は国ないしBに返す必要があるが、残りの融資金は返済する必要はなく、K 長に対し、A1はBの審議官であり本件融資の決定権限がある、既にK1については3億円の融資を付けられると考えている、融資額の半額は国ないしBに返す必要があるが、残りの融資金は返済する必要はなく、K1が自由に使ってよいなどと説明し、A1らを通じて本件融資を申し込むよう勧誘し、K1理事長はこれに応じてA1を通じて本件融資を受けたいという意向を示していた(この点に関して被害関係者らが供述するA1の説明内容は、同時期にされたC1の代表取締役や高松の福祉施設に対する 説明と整合しており、信用することができる。)。 ⑵ 被告人は、同年11月18日、被告人らに対して本件融資の申込みを希望する医療施設等を紹介していたA2及びVに対し、A1やT1を通じた本件融資の申込みが滞っているのは、A1やT2の真の目的が医療施設等の買収を行うことにあり、買収の対象とはならない小規模な医療施設等の本件融資の申込みが後回しにされているせいであるなどとメッセージを送り、以後、A1らの関与を排して、被告人・A2・Vの3人で本件融資の申込みの代行を行うこととなった。 ⑶ 被告人は、同年12月2日、K1事務長補佐を通じて、K1理事長に対し、概要、A1審議官がK1に対する本件融資に前向きではなくこのままでは本件融資を受けられないこと、被告人が無担保無保証の本件融資を受けるための他のルートを確保したこと、A1審議官はK1に対して融資額の半額の手数料を要求していたが、実は融資額の1割については自らの懐に入れようとしていたこと、被告人を通じた新たなルートであれば融資額の約4割の手数料を支払えばよいことを内容とするメッセージを送り、A1を通じた本件融資の申込みを断り、被告人を通じた新たなルートでの本件融資の申込みをするよう勧誘した。なお、被告人は、K1理事長に対し、 割の手数料を支払えばよいことを内容とするメッセージを送り、A1を通じた本件融資の申込みを断り、被告人を通じた新たなルートでの本件融資の申込みをするよう勧誘した。なお、被告人は、K1理事長に対し、従来の本件融資に関するA1の説明を特段訂正したり変更したことはなかった。 ⑷ K1理事長は、被告人に対し、被告人を通じた新たなルートで本件融資の申込みをしたい旨伝え、被告人は、同月2日、A1に対し、K1が本件融資の申込みを辞退する意向を示しているとメッセージを送った。 ⑸ 医療機関に対する本件融資の上限額は、医業収益が前年同月又は前々年同月と比較して30パーセント以上減少した月があるという要件(以下「本件減収要件」という。)を満たす場合には6億円、満たさない場合には3億円とされており、本件減収要件はBのホームページ上で公表されていた。被告人は、A2らと共に本件融資の申込みを代行するに当たり、K1から提供された決算書類によれば令和2年6月度の医業収益は前年同月と比較して約10.2パーセントの減収しか認めら れないのに、A2に30パーセント以上減収している旨の合計残高試算表を作成するよう指示した。A2は、その指示に従い、令和2年6月度の医業収益については約13パーセント減少させる一方、令和元年6月の医業収益については約10パーセント増加させることによって、令和2年6月度の医業収益が前年同月と比較して30パーセント以上減少している旨の内容虚偽の合計残高試算表を作成した。被告人は、令和2年12月10日頃、同試算表を他の申込書類と共にBに送付して6億円の本件融資の申込みをし、Bの決裁権者において、同試算表の内容が真実であり本件減収要件を満たすと誤信して6億円の本件融資の決定を行い、令和3年1月15日、K1名義の預金口座に6億円の振込みがされ 円の本件融資の申込みをし、Bの決裁権者において、同試算表の内容が真実であり本件減収要件を満たすと誤信して6億円の本件融資の決定を行い、令和3年1月15日、K1名義の預金口座に6億円の振込みがされた。 ⑹ 被告人は、同月19日、K1理事長との間で、消費貸借契約書やコンサルティング業務等の委託契約書を作成し、K1は、翌20日、同契約書に従って、被告人の管理する判示第2記載の各預金口座に合計2億3200万円を振り込んだが、同契約はいずれも実体の伴わないものであった。被告人は、振り込まれた現金の一部をA2らの取り分としたほか、出金を繰り返した。 第3 検討 1 C1事件について⑴ 欺罔行為の有無・内容について被告人及びA1のC1の代表取締役に対する説明は、A1らを通じた本件融資の申込みは「特例的なもの」で、医療施設等が自ら本件融資を申し込む場合には、担保権設定や保証人を付けることを求められたり、融資金額も上限額に比して低額となるのに対し、A1らを通じての申込みであれば、必ず満額で無担保無保証である本件融資を受けることができるというものである。そして、これに留まらず、A1らを通じた申込みの場合、融資金の半額の手数料を納めることが必須であり、その金銭は政治で使われる政治的な資金であること、A1らはその手数料が支払われなければ行政指導等を行って医療施設を運営できなくすることもできるような権限を持って動いているが、だからこそ手厚く無担保無保証の融資 を行うなどとも述べている。その上で、無担保無保証であるからこそ本件融資金の返済は事実上免れることができると述べていることからすると、結局、被告人やA1の説明は、これを全体としてみれば、A1らに融資金の半額の手数料を納めることによって初めて確実に無担保無保証である本件融資を受けるこ 上免れることができると述べていることからすると、結局、被告人やA1の説明は、これを全体としてみれば、A1らに融資金の半額の手数料を納めることによって初めて確実に無担保無保証である本件融資を受けることができ、しかもその返済が事実上不要になると述べたものと評価できる。 このことは勧誘を受ける側の立場に立ってみても、本件融資の返済が必要となれば融資金の半額などという莫大な手数料の支払いを了承することはおよそ想定しがたいし、逆にいえば莫大な手数料に見合うだけの返済不要という大きな恩典があるからこそ、その支払いを許容でき、加えて、公的な融資でありながら融資を行う側に融資金の半額もの手数料を支払うという非常識な内容も、その手数料が国に還流後には政治的に使われる政治的な資金であるという一見もっともらしい理由で正当化されている、と考えるのが合理的である。同時に、勧誘をする側も、莫大な手数料を支払ってもらうため、当然これらの点を意識しながら説明すると考えるのが合理的であって、その点からも被告人及びA1の説明を先に述べたとおり評価するのが相当である。 したがって、判示のとおり、被告人及びA1が、A1らを通じて本件融資を申し込むとともに同人らを通じて融資金の約半額をB又はその関係機関に戻せば特別に本件融資を受けることができ、かつ、本件融資は融資金の返済ができなくても支払期限を繰り延べ続けることができ、事実上民事責任を追及されることがない旨のうそを言ったと認められる。 ⑵ 被告人の故意及び共謀についてア欺罔行為の内容が持つ推認力そこで次に被告人の故意について検討すると、まず被告人及びA1がC1の代表取締役に説明した内容は、いずれもBのホームページに掲載された本件融資の内容とはかけ離れたものである上、同ホームページ上には、被告人及びA1と同様の説 ついて検討すると、まず被告人及びA1がC1の代表取締役に説明した内容は、いずれもBのホームページに掲載された本件融資の内容とはかけ離れたものである上、同ホームページ上には、被告人及びA1と同様の説明をして融資あっせんの手数料を要求する業者がいるが、その説明は事実無根であ る旨の注意喚起がなされており、被告人もそのことを認識していた。 加えて、被告人及びA1らの説明内容をみても、公的資金を原資とした「融資」であるのにBは回収することを考えていないなどというものであり、新型コロナウイルスの感染拡大により打撃を受けた医療施設等を救済するという本件融資の趣旨を踏まえても、事後的に将来何らかの政策的な救済措置が取られる可能性はあるにしても、貸付け当初から回収を考えていないと確定的に定まっているかのような内容自体、容易に信じがたいものといえる。しかも、Bが債権回収を考えていないあるいは回収することができない根拠として、本件融資が無担保無保証であることやBが債権譲渡をすることもなく解散予定であることを挙げている。本件融資が無担保無保証であることと強制執行の可否は法的には無関係である(なお、前記第2の2⑺のとおり、被告人及びA1は、C1より前に勧誘に訪れた高松の福祉施設でも、同施設の関係者から、無担保無保証であっても裁判を起こされて債権回収される可能性がある旨、この法理について指摘を受けている。被告人自身も債権回収目的で民事訴訟を提起した経験もある。)。また、時限的に立ち上げられた法人であればともかく、平成15年に設立され長年にわたって医療施設の設立等のための融資を行ってきたBが解散するとか、本件融資は公的資金による融資であるのにその回収の手立てを何ら講じないまま解散するなどという内容は、不合理である。被告人及びA1の前記の説明は、不合 設立等のための融資を行ってきたBが解散するとか、本件融資は公的資金による融資であるのにその回収の手立てを何ら講じないまま解散するなどという内容は、不合理である。被告人及びA1の前記の説明は、不合理というにとどまらず相当胡散臭いものといえる。実際、複数の勧誘先で説明内容の欺瞞性が看破されている。市議会議員を務めるなど、相応の社会経験・政治経験を有する被告人がこれを鵜呑みにしていたとは到底考え難い。 被告人に本件の欺罔行為の認識に欠けるところはなく、本件欺罔行為は、内容それ自体が被告人の詐欺の故意を合理的に推認させるものといえる。 イ被告人の主張これに対して被告人は、A1から、「Bの理事であるSから直接、Bが多額の予算のもと本件融資を行うことになったが、予算をしっかり使わないと厚生労働省が次 の予算をもらえなくなるので、融資先を紹介して欲しい旨依頼された。本件融資は無担保無保証で、コロナ禍で医療機関が危機的状態にあるときに実行されるもので、性質としては補助金のようなものであり、Bは返済を考えていないものである。Bは融資金を回収しないことを前提に多額の本件融資を実行するのであり、未回収になった予算を握りつぶすため、債権譲渡せずに解散する。また、Bの理事が作ったT1という会社が本件融資の事務代行・下請けをしており、T1を通じて本件融資を申し込めば、先にSが査定をしてくれるので、売り上げの多寡関係なく、満額で無担保無保証の融資が下りる。融資が下りたら、融資先はBや厚生労働省にキックバックするために、T1側に融資額の50パーセントを納める必要があり、そのうち融資額の10パーセント相当の金銭はT1が業務委託費として受け取ることになっている」などという説明を聞き、Bが実施する本件融資に関する情報をほかならぬBの理事がA1 ントを納める必要があり、そのうち融資額の10パーセント相当の金銭はT1が業務委託費として受け取ることになっている」などという説明を聞き、Bが実施する本件融資に関する情報をほかならぬBの理事がA1に話したという経緯や、当時新型コロナウイルスが猛威を振るっており国も持続化給付金等の政策を打ち出していたこと、病院に特に壊滅的な打撃があったことなどから、Bが融資金の回収を考えていないという話を信じた。また、令和2年7月頃、A1の紹介で、T2及びSと面談した際、SからBの理事であると紹介されてその名刺も受け取り、またT2からは、本件融資について、Sルートで申し込めば無担保無保証で満額出せる、Bは多額の融資を実行するが融資金は回収も債権譲渡もせずに解散するから融資先施設の負担はなくなる、T1はS理事が作った会社だからこのような特別な話をすることができるなど、本件説明と同内容の説明をされ、Sもそれに同調したことから、その内容を真実だと疑わなかった旨供述している。 たしかに、A1が、被告人に対するメッセージの中で、Sのことを「S理事」と呼んだり、T2やSから話を聞いたことを指して「B本体から聞きました」などと記載していることからすると、自身の立場を誇示して市議会議員である被告人を利用するため、被告人に対して、Sのことを現役のBの理事と紹介したり、Sから特別な話を聞いたかのような説明をした可能性は否定できない。T2やSについても、 Sが被告人に対してあえてBの理事であった頃の名刺を渡していたことや、S・T2間で、本件融資をT1の顧客に紹介して融資額の数パーセントから10パーセント程度の手数料収入を受け取り、Sが関与した案件についてはその収入の一部にSも与かっていたこと、SがT2に対して個別の医療施設等に係る本件融資の申込みについてBに根 額の数パーセントから10パーセント程度の手数料収入を受け取り、Sが関与した案件についてはその収入の一部にSも与かっていたこと、SがT2に対して個別の医療施設等に係る本件融資の申込みについてBに根回し済みであるなどというメッセージを送っていること(なお、Bの本件融資の実行に関して、Sが実際にBに影響力を行使したかは明らかでない。)からすると、Sが、T2に対してBの元理事という立場を利用してBに融通を効かせたり、高額な融資を受けるための書類作成方法について指南するなどして、T1を通じて本件融資を申し込んだ施設に対し高額で本件融資を実行させるかわりに、T1が融資申込み先から手数料収入を得てその一部をSが受け取るという合意があったことがうかがわれるし、SやT2が、被告人やA1に対し、手数料収入を得る目的で、T1を通じて本件融資を申し込む施設を紹介するよう同人らに依頼したり、その際、Sの持つ影響力をA1や被告人に大きく見せようとして、Bの理事であり、Bに対して本件融資の審査に関し影響力を行使できるかのように述べた可能性も否定できない。 もっとも、被告人供述のうち、T2から、本件融資について、無担保無保証で満額出せる、Bは多額の融資を実行するが融資金は回収も債権譲渡もせずに解散するから融資先施設の負担はなくなるなどと説明され、Sもそれに同調していたという点については、信用することができない。すなわち、曲がりなりにもSはBの元理事であったのに、Bが公的資金を原資とする巨額の不良債権を抱えたまま何もせずに解散するなどという荒唐無稽な内容を説明したことは考え難い。かえって、T2がT1の従業員に対してA1や被告人による勧誘の場に同行するよう指示して、そのT1の従業員がA1や被告人の説明ぶりを録音するなどその言動を確認していることや、T1の従業員がA え難い。かえって、T2がT1の従業員に対してA1や被告人による勧誘の場に同行するよう指示して、そのT1の従業員がA1や被告人の説明ぶりを録音するなどその言動を確認していることや、T1の従業員がA1らの説明を詐欺であると評していたことからすると、T2にとってA1や被告人の説明は予想外のものであったとみるのが自然である。 Sルートで本件融資を申し込めば無担保無保証で満額の融資を出すことができる という点についても、被告人は前記第2の2⑼の一覧表がそのSルートによる「査定リスト」であったと述べているが、同一覧表において、年商(売上げ)を理由に、「最大申込金額」欄に融資限度額を大幅に下回る査定がなされた事業者が複数存在することと矛盾するものといえる。S・T2がT1の顧客らにそのような説明をしたことをうかがわせる証拠は見当たらない。結局、SやT2が、Sが現役のBの理事であり、その影響力を行使して融資の審査を通りやすくしたり、融資額をいくばくか高く査定させるかのような言動を取っていたこと自体は否定できないものの、被告人がいうような説明をしたものとは認められない。 他方で、A1がSから聞いた話として欺罔文言のような内容を被告人に説明した抽象的な可能性は否定できないが、被告人自身、A1がBの関係者ではないことは知っていたのであり、A1の勧誘での説明、すなわち、B又はその関係機関の審議官であるとの自己紹介の欺瞞性は認識していた。そして、A1らは、T1を通じて本件融資を申し込んだ場合に、融資額の半分という法外な手数料を融資先から取得することを正当化する事情として、その手数料の多くがBや厚生労働省にキックバックされて政治的に使われる旨を勧誘先にも説明していた。K1の理事長もA1や被告人からの説明からそう信じていた。ところが、被告人は、後のK1 する事情として、その手数料の多くがBや厚生労働省にキックバックされて政治的に使われる旨を勧誘先にも説明していた。K1の理事長もA1や被告人からの説明からそう信じていた。ところが、被告人は、後のK1事件において、A1らの関与を排除して被告人を通じて融資の申込みをさせた際、同様に手数料として融資額の40パーセントという法外な金銭をK1に要求した上、ちゅうちょなく、自己の差配できる銀行口座に振り込ませて取得している。前述のような政治的な資金であるという点を、被告人がA1の説明通りに信用していたというのであれば、K1事件での被告人の手数料の取得に関する一連の行動は不自然・不合理というほかなく、この点もC1事件当時から被告人がA1の説明の欺瞞性を認識していたことを強く推認させる。これに加えて、先に述べた欺罔文言の内容の不合理さ等に照らせば、A1がU1のオーナーであり金の取引でも成功しているなどと自称し、実際にそのような振舞いを見せていたといった被告人の供述を踏まえても、欺罔文言を被告人がそのまま信じていたとは到底考えられない。 そうすると、本件欺罔行為の認識に欠けるところがない被告人には、その内容から、欺罔文言が虚偽であることの認識、すなわち、欺罔行為に沿った詐欺の故意が認められる。 関係各証拠によれば、被告人は、A1と本件説明の内容について事前に共有した上で、C1の代表取締役に対し欺罔行為に及んでいるのであるから、A1との共謀も優に認められる。 ⑶ 小括以上によれば、被告人には判示第1記載のとおりの詐欺罪が成立する。 2 K1事件について前提事実によれば、被告人は、K1理事長に対し、C1に対するのと同様の説明をしたことが認められるが、前記第3の1でも述べたとおり、被告人がその説明内容の虚偽性を認識していたと認め 事件について前提事実によれば、被告人は、K1理事長に対し、C1に対するのと同様の説明をしたことが認められるが、前記第3の1でも述べたとおり、被告人がその説明内容の虚偽性を認識していたと認められる。 したがって、被告人には、詐欺の故意が認められ、判示第2の詐欺罪の成立が認められる。 また、その詐取金である2億3200万円について、それが詐取金であると認識しながら、実体を伴わない架空の貸金及び業務委託費名目で受け取っているから、犯罪収益の取得について事実を仮装したと認められ、組織犯罪処罰法違反の罪も成立する。 3 B事件について⑴ 前提事実によれば、被告人は本件減収要件の存在を認識しながら、Bに6億円の融資を実行させるため、本件減収要件を満たすよう医業収益額を大幅に書き換えた内容虚偽の合計残高試算表を作成・提出したものと認められる。そうすると、詐欺の故意に欠けるところはない。 ⑵ これに対し、被告人は、A1やT1を通じた本件融資の申込みについては、事前にSがB内部で根回しをして融資額を決定していると認識しており、T1の従業員からも今年度の売上げを記載する欄は前年度の85~95パーセントを掛け合 わせて書けばよいなどと言われていた、K1についてもSの根回しが済んでおり、6億円という融資額で本件融資の申請が通ることは既に決まっており、計算書類を含む申請書等は形式的な部分を整えれば良く、合計残高試算表を正確に記載する必要はないものと認識していた旨主張する。 確かに、前述のとおり、被告人において、Sが現役のBの理事であるとか、SがB内部で融資の可否や融資額について根回しをしていると考えていた可能性は否定できないし、T2とT1従業員であるT3との間のメッセージの内容やT3供述の内容からすると、T1において、申込書類 か、SがB内部で融資の可否や融資額について根回しをしていると考えていた可能性は否定できないし、T2とT1従業員であるT3との間のメッセージの内容やT3供述の内容からすると、T1において、申込書類に真実とは異なる医業収益を記載していた可能性も認められる。 しかし、被告人は、A1に対してK1が本件融資の申込みを辞退する旨申し出ていると連絡をしており、その連絡を受けたA1がその旨T2やSに報告する可能性があることは被告人も当然認識していたといえる。現に被告人は、K1と同様の経緯で被告人らが申込みを代行することになった別の福祉施設について、Bから本件融資の申込書類の再提出を求められた際、「T2さんの嫌がらせかなぁーとも、感じています。」といった、T1を通じて本件融資の申込みをすることを断った場合にそれがT2の耳に入ることを前提としたメッセージを送信している。それにもかかわらず、A1の関与を排した後も、なぜSルートの恩恵に与かることができると思っていたのか、その合理的な説明はされていない。結局、被告人がA1の関与を排した後も合計残高試算表を正確に記載する必要はないと考えていたと疑うに足りる合理的な根拠はない。 したがって、B事件においても、被告人には少なくとも未必的な詐欺の故意があったと認められる。 第4 被告人及び弁護人のその余の主張以上によれば、C1事件、K1事件及びB事件について、いずれも被告人の故意・共謀に欠けるところはなく、被告人には判示の各罪が成立する。 これに対し、被告人及び弁護人は、本件各犯行が犯罪行為に当たると被告人が当 時認識していたのであれば、金銭的に困窮していなかったにもかかわらず、自身の政治生命を犠牲にしてまで手数料目当てで本件各犯行に及んだということになるが、それはあまりにも不自然である旨主 時認識していたのであれば、金銭的に困窮していなかったにもかかわらず、自身の政治生命を犠牲にしてまで手数料目当てで本件各犯行に及んだということになるが、それはあまりにも不自然である旨主張する。 しかし、W供述、A1供述及び被告人供述によれば、被告人は、Wに指示して、A1に無断でA1が銀行の貸金庫内に保管していた1億円を超える現金を持ち出して領得し、A1から窃盗の被害にあったと被害届が出された出来事があったと認められる(なお、貸金庫内の現金については、被告人は譲り受けたものと主張している。)。その他、被告人は、C1代表取締役に対して、本件融資の手数料として支払う融資金の半額の決算処理について、貸付金として虚偽記載をすることで「節税」と称した事実上の脱税を指南したり、氏名の読み仮名を偽った名義で銀行口座を作ったり、A2らにもそのような名義での銀行口座の作成を勧めたり、虚偽の肩書での社員証を偽造させるなど、遵法精神や規範意識を疑う行動に及んでいる。このような被告人の行動からすると、被告人には、政治生命を守るために法律を遵守しようとか慎重に行動しようなどという姿勢は特段うかがわれず、そのような被告人が金銭目当てで本件各犯行に及ぶことについて、何ら不自然なところはない。 また、被告人及び弁護人は、被告人が本件融資の申込みに関し、当時詐欺だと認識した他のグループによる申込み代行の案件については、タイガーマスク名義でBに告発文書を送付するなどして被害予防に努めていたのであり、そのような被告人が詐欺と認識しながら詐欺に及ぶはずがない旨主張する。しかし、被告人自身も認めるとおり、被告人が本件各犯行を含む一連の本件融資の申込みの代行をしていた目的の1つに手数料を得ることがあったことは明らかであるところ、そのような被告人にとっては、他の申 。しかし、被告人自身も認めるとおり、被告人が本件各犯行を含む一連の本件融資の申込みの代行をしていた目的の1つに手数料を得ることがあったことは明らかであるところ、そのような被告人にとっては、他の申込み代行者は競合関係に立つのであるから、自己の競合相手を減らすために告発行為に及んだ可能性も考えられ、本件各犯行における被告人の故意の認定は妨げられない。 第5 結論以上によれば、被告人が、判示記載の各行為に及んだこと、及び、そのいずれに ついても故意や共謀に欠けるところがないと認められるから、被告人には判示のとおり詐欺罪及び組織犯罪処罰法違反の罪が成立する。 (量刑の理由)本件は、新型コロナウイルスの感染拡大により経営が悪化した福祉施設や医療施設を救済するため、厚生労働省所管の独立行政法人であるBが国から拠出された財政融資資金により実施する優遇融資について、①福祉施設を営む法人の代表者に対し、被告人らを通じて申し込めば特別な融資を受けられるかのように装って、被告人らを通じた申込みをさせ、融資金の約5割の金銭を手数料名目で交付させたという詐欺の事案(判示第1)、②医療施設を営む法人の代表者に対して同様の説明をして被告人らを通じた本件融資の申込みをさせ、その融資金の約4割の金銭を手数料名目で交付させるとともに、その犯罪収益の取得の事実を仮装したという詐欺及び組織犯罪処罰法違反の事案(判示第2)、③判示第2の申込みを代行するにあたり、内容虚偽の計算書類を作成・提出して融資金を不正に増額させたという詐欺の事案(判示第3)である。 判示第3の詐欺により、本来融資額の上限は3億円であったのに、6億円の融資が実行されており、その被害額はとりわけ高額である。判示第1及び第2の各詐欺についても、それぞれ5940万円、2億3200万円 判示第3の詐欺により、本来融資額の上限は3億円であったのに、6億円の融資が実行されており、その被害額はとりわけ高額である。判示第1及び第2の各詐欺についても、それぞれ5940万円、2億3200万円もの被害を生じさせている上、被告人らが融資という名目だが事実上民事責任を追及されることはないとか、自由に使ってよいお金であるなどと虚偽の事実を述べたことにより、各被害会社・被害法人は十分な返済計画を立てられないまま巨額の負債を負わされている。これによってBにとっても将来融資金の回収が困難となるおそれが高まっており、その点も見過ごすことはできない。 犯行態様についてもみると、判示第1及び第2の犯行では、実在する独立行政法人や本件融資を前提とし、更に自身の市議会議員という立場を利用することにより、各被害会社・被害法人の代表者らの信用を得るとともに、国やBの政治的な思惑から被告人らを通じて本件融資の申込みをすれば特別の利益を受けられるなどという 説明内容の信憑性を高めており、巧妙なものといえる。判示第3についても、本件融資が医療施設を適正迅速に救済するためにあえて簡易な審査制度がとられていることに付け込んだ卑劣なものであり、総じて、本件各犯行の態様も悪質といえる。 判示第2の詐欺に係る詐取金の受領に際し、その取得の事実を正当な業務委託報酬や借入金であると仮装した点も軽視できない。 このような犯行の中で被告人が果たした役割についてもみると、とりわけ判示第2・第3の犯行においては、被告人は、判示第1の共犯者を排除し、自ら被害法人の理事長に対し被告人において本件融資の申込代行を行う旨積極的に提案した上、その申込代行に当たっては共犯者に内容虚偽の計算書類の作成を指示している。加えて、被害法人への融資実行後は、判示第2の詐取金の半額以上を共犯者 人において本件融資の申込代行を行う旨積極的に提案した上、その申込代行に当たっては共犯者に内容虚偽の計算書類の作成を指示している。加えて、被害法人への融資実行後は、判示第2の詐取金の半額以上を共犯者や協力者に交付することなく自らのものとしており、判示第2及び第3における被告人の立場は、まさに主犯格と呼ぶにふさわしいものといえる。判示第1の犯行についても、被害会社に対する欺罔行為は主に共犯者が行っていたものの、被告人も共犯者に同行し市議会議員であると名乗った上で共犯者に同調したり補足的に説明するなどして、実行行為の一部を分担し、被害会社の代表者を誤信させるために重要な役割を果たしていたといえるし、共犯者に対して融資先の候補となる医療施設等を紹介する役割をほぼ一手に担うなど主体的・意欲的に犯行に及んでいたものであるから、共犯者と比べてもその責任が軽いものであるとは到底いえない。 被告人は、公益を尊重すべき市議会議員の地位にありながら、本件融資の制度趣旨や融資先施設・融資実施主体が被る被害を顧みることなく、多額の金銭を得たいなどという私的な利益を追求して本件各犯行に及んだのであり、その身勝手かつ自己中心的な動機も厳しい非難に値する。 なお、判示第1の被害については、全額被害弁償がなされている。財産的被害が回復されたとはいえるものの、判示第1の犯行の共犯者が全額出捐したものであり、他方で共犯者と被告人は、共犯者の貸金庫から被告人が多額の現金を無断で持ち去ったとして紛争状態にあるから、共犯者の出捐による被害回復をその金額どおりに 被告人の量刑において援用することは共犯者の合理的意思にそぐわない。共犯者の被害弁償の事実を考慮するにしても、この点で自ずと限度がある。 以上によれば、本件の犯情は悪く、これだけの被害を生じさせながら反省するど において援用することは共犯者の合理的意思にそぐわない。共犯者の被害弁償の事実を考慮するにしても、この点で自ずと限度がある。 以上によれば、本件の犯情は悪く、これだけの被害を生じさせながら反省するどころか不合理な弁解を繰り返す被告人に対しては、判示第1の被害の共犯者の出捐による被害弁償の事実や、被告人に前科前歴がないことなどの酌むべき事情を考慮しても、主文の刑はやむを得ないものと判断した。 (求刑懲役10年、主文同旨の追徴)令和6年10月2日福岡地方裁判所第2刑事部裁判長裁判官冨田敦史 裁判官加 々 美希 裁判官荒木克仁
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