判決平成13年12月27日神戸地裁尼崎支部平成11年(ワ)第290号損害賠償請求事件(第1事件) 同年(ワ)第381号損害賠償請求事件(第2事件) 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求(第1事件・第2事件) 1 主位的請求被告会社及び被告Aは,原告に対し,各自金6299万1750円及びこれに対する平成9年10月7日から同支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。 2 予備的請求被告会社及び被告Aは,原告に対し,各自金5459万9240円及びこれに対する平成10年2月12日から同支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,原告が,株式取引の経験が全くない投資不適格者であるにもかかわらず,被告会社B支店の従業員であった被告Aから,株式会社さくら銀行(以下「さくら銀行」という。)の株式(以下「さくら銀行株」という。)につき,必ず値上がりする旨の断定的判断を示され,適切な助言,説明を何ら受けないままこれを購入するに至ったとして(主位的請求),また,その後の株式売却に当たっても,も近い時期に必ず株価が上昇する旨の断定的判断を示され,その売却を断念させられたとして(予備的請求),被告会社に対して債務不履行(民法415条)又は不法行為(民法715条)に基づき,また,被告Aに対して民法709条に基づき売却損及び本訴追行のための弁護士費用につき損害賠償を請求した事案である。 1 争いのない事実(1) 当事者ア原告は,平成9年10月7日,被告会社との間でさくら銀行株につき売買委 び本訴追行のための弁護士費用につき損害賠償を請求した事案である。 1 争いのない事実(1) 当事者ア原告は,平成9年10月7日,被告会社との間でさくら銀行株につき売買委託取引を行った者である。 イ被告会社は,有価証券の売買等の媒介,取次ぎ及び代理並びに有価証券市場(外国有価証券市場を含む。)における有価証券の売買等の委託の媒介,取次ぎ及び代理等を行うことを目的とする株式会社である(平成11年4月26日旧商号「大和証券株式会社」から現商号に変更。)。 ウ被告Aは,平成9年当時,被告会社B支店投資相談課次長の地位にあった被告会社の従業員である。 (2) さくら銀行株に関する取引ア原告は,平成9年10月7日,被告会社に対し,さくら銀行株の買付委託をし(以下「本件買付委託」という。なお,買付委託時の状況,買付数量,買付金額については,後記第3の1(1)ア(ウ)c,イ(イ)(ウ)。),同株合計26万株(以下,一括して「本件株式」という。)を購入した。 イ原告は,平成10年8月25日及び26日,本件株式のうち16万株を,同11年8月19日,残りの10万株を各売却した。 2 争点(1) 主位的請求ア本件買付委託時における断定的判断の提供の有無。 イ本件買付委託時における説明義務違反の有無。 (2) 予備的請求ア断定的判断の提供によって,原告は本件株式の売却を断念させられたか否か。 イ本件株式の売却に関する説明義務違反の有無。 (3) 被告会社及び被告A(以下「被告ら」という。)の責任の有無。 (4) 損害の有無,額。 3 当事者の主張(1)ア争点(1)ア(本件買付委託時に 明義務違反の有無。 (3) 被告会社及び被告A(以下「被告ら」という。)の責任の有無。 (4) 損害の有無,額。 3 当事者の主張(1)ア争点(1)ア(本件買付委託時における断定的判断の提供の有無)について(原告の主張)被告Aは,本件買付委託に際し,原告が,本件株式のうち1万株を購入した後,原告に対し,「小幅揉み合いで上がります。急いだ方がいいです。」と言って,確信があるかのように,必ず値上がりするので今のうちに是非買うべきであるという断定的判断を述べて,株式取引の知識及び経験がない原告をして,必ず値上がりするものと誤信させ,本件株式の残り25万株の一括大量購入を勧誘した。 (被告らの主張)被告Aは,原告から本件買付委託を受けた際,予め原告に対して勧誘をしていないし,本件株式の株価について,「小幅高でもみ合っている」と現在の状態を説明したにすぎず,今後の株価の騰落に関する断定的判断)(平成10年法律第107号による改正前の証券取引法50条1項1号)を提供していない。 イ争点(1)イ(本件買付委託時における説明義務違反の有無)について(原告の主張)(ア) 原告と被告会社間には,株式取引に関する委託契約が締結されており,被告会社は原告に対して善管注意義務を負うから(商法552条2項),被告らは,原告に対し,専門的立場から適切な助言,説明,情報を与えるべき義務を負っている。 (イ) そして,原告は,初めて株式を購入する投資不適格者であるから,被告らとしては株式投資の方法につき懇切丁寧に説明を行い,一括大量購入は元本割れするおそれがあるので慎 っている。 (イ) そして,原告は,初めて株式を購入する投資不適格者であるから,被告らとしては株式投資の方法につき懇切丁寧に説明を行い,一括大量購入は元本割れするおそれがあるので慎重に判断すべきである旨の注意を行うとともにこれを中止させるべきであるのに,同措置を講じることを怠った。 (被告らの主張)本件買付委託は,株式の現物取引という,ごく一般的な証券取引であり,原告は株価が下がれば損失が発生することを認識していたこと,本件買付委託は,原告の方から,対象銘柄(さくら銀行株),買付単価ないし買付時期の判断基準(株価が600円を割ったら買いたい。),数量ないし買付金額(最終的には1億5000万円)を指定して申し込まれたのであって,被告Aらが本件株式の購入を勧めたのではないことなどの事実に照らせば,本件買付に当たって,原告が主張するような説明義務を被告に認めるのは相当ではない。 (2)ア争点(2)ア(断定的判断の提供によって,原告は本件株式の売却を断念させられたか否か)について(原告の主張)原告は,平成10年2月12日,被告Aに対し,本件株式全部について「今もう売りたい」と言って売却してほしい旨申し出たにもかかわらず,同被告から「社長に損をかけたら申し訳ないので売るのは待ちましょう。3月の決算期で株価は上がる。3月の決算期がだめなら7月の参議院選挙もあるし,9月の中間決算もあります。例年上がっているんだから。いけます。」などと,近い時期に必ず株価の騰貴がある旨の断定的判断の提供を受けるとともに,売却依頼を断念するよう強く勧誘され,本件株式の売却を断念させられた。 (被告らの主張)当時,原告は,本件株式につき,売却の準 旨の断定的判断の提供を受けるとともに,売却依頼を断念するよう強く勧誘され,本件株式の売却を断念させられた。 (被告らの主張)当時,原告は,本件株式につき,売却の準備をしたことはあるものの,株価が原告の希望する600円台に達しなかったため,売却の注文をしなかったもので,被告Aは,そのような原告に対し,金融不安によって株価が大きく下落した後だけに,今後も株価は値上がりや値下がりを繰り返す綱引き状態になるかも分からない旨述べたにすぎず,株価が高騰するとの意見は述べていない。 イ争点(2)イ(本件株式の売却に関する説明義務違反の有無)について(原告の主張)被告らは,原告に対し,株式取引に関する委託契約に基づき専門的立場から適切な助言,説明を行う義務を負っているところ,原告から平成10年1月には豊岡市内で実施することを予定していた事業に資金が必要であることを聞いていたのであるから,同年2月12日の時点で,本件株式の株価の値下がりが続いているのであれば,これによる原告の損失を最小限にくい止めるように早い段階で売却するよう助言,説明すべきであったのに,これをしなかった。 (被告らの主張)(ア) 被告Aは,原告から,豊岡市の土地を購入して新規出店する計画があることや,本件株式の購入に充てた資金がそのために準備した資金であるということは聞いていたが,土地購入の交渉がなかなか進展せず,計画の実現はいつになるか分からない旨の説明も受けていたものであって,平成10年1月には同資金が必要であるとの話は聞いていない。 (イ) また,原告は,「損失を最小限にくい止めるように早い段階で売却するよう助言,説明すべきであった」と主張するが,そのよ 成10年1月には同資金が必要であるとの話は聞いていない。 (イ) また,原告は,「損失を最小限にくい止めるように早い段階で売却するよう助言,説明すべきであった」と主張するが,そのような助言は,「有価証券の価値等又は有価証券の価値等の分析に基づく投資判断に関する助言」(有価証券に係る投資顧問業の規制等に関する法律2条1項)に該当し,投資顧問業者の業務であって,有価証券の売買取引の委託の媒介,取次ぎ又は代理を業務とする証券業者(平成10年法律第107号による改正前の証券取引法2条8項3号)のなすべき業務ではない。 (3) 争点(3)(被告らの責任の有無)(原告の主張)被告Aによる上記(1)又は(2)による断定的判断の提供又は説明義務違反の各行為は,原告に対する,本件株式の買付委託取引契約上の債務不履行又は不法行為に該当する。 よって,被告A及びその使用者である被告会社は,債務不履行責任又は不法行為責任(被告会社においては使用者責任)を負う。 (被告らの主張)原告の上記主張は否認ないし争う。 (4) 争点(4)(損害の有無,額)について(原告の主張)ア主位的主張(ア) 原告は,平成9年10月7日,本件株式のうち1万株を購入した後,被告Aの断定的判断の提供又は説明義務違反により,本件株式の残り25万株を1億4312万7874円で購入させられたものであるところ,原告が同10年8月25日及び同月26日に上記25万株のうち16万株を売却して得た金額は4417万9017円であり,同11年8月19日に同株式の残り9万株を1株490円で売却して得た金額は4383万7109円であって,合計金額は8801万 25万株のうち16万株を売却して得た金額は4417万9017円であり,同11年8月19日に同株式の残り9万株を1株490円で売却して得た金額は4383万7109円であって,合計金額は8801万6124円となる。 (イ) したがって,原告は,上記25万株の購入額合計と売却額合計との差額である5511万1750円及び本件訴訟追行のための弁護士費用788万円の合計6299万1750円の損害を被った。 イ予備的主張(ア) 原告は,平成10年2月12日,被告Aの断定的判断の提供又は説明義務違反により,本件株式の売却を断念させられたものであるところ,この時点における本件株式の株価は,1株当たり540円であるから,本件株式を売却していた場合の損失は,購入額合計1億4887万2820円と上記売却額合計1億3961万6070円との差額である925万6750円にとどまったものと考えられる。 (イ) したがって,原告は,株式を売却して得た金額合計である9289万6830円(内訳,平成10年8月25日及び同月26日に本件株式のうち16万株を売却した代金合計4417万9017円,同11年8月19日に同株式の残り10万株を1株490円で売却した代金合計4871万7813円)と上記(ア)の金額との差額である4671万9240円及び本件訴訟追行のための弁護士費用788万円の合計5459万9240円の損害を被った。 (被告らの主張)原告の上記各主張はいずれも否認ないし争う。 第3 争点に対する判断1(1) 争点(1)ア(本件買付委託時における断定的判断の提供の有無)についてア前記第2の1(2)の事実及び証拠(甲1,3の1及び2,4の1及び2,7,10の1ないし5,1 判断 1(1) 争点(1)ア(本件買付委託時における断定的判断の提供の有無)についてア前記第2の1(2)の事実及び証拠(甲1,3の1及び2,4の1及び2,7,10の1ないし5,11,12〈一部〉,13の1ないし3,14ないし17,18の1及び2,19の1及び2,20,21,乙1,2,5,7ないし9,13,14,証人C,被告A,原告本人〈一部〉)によれば,本件買付委託前の事情及び本件株式売却に至るまでの経緯として,次の各事実が認められ,これに反する証拠は同認定に沿う証拠に照らし信用できず,これを採用できない。 (ア)a 原告は,平成8年ころから,兵庫県豊岡市でカラオケルーム等の事業を興すことを考え,資産を売却して,不動産購入資金として1億5000万円を準備した。 b そして,原告は,購入予定の不動産を決定し,その所有者と売買交渉をしていたが,同所有者は平成9年10月2日同不動産をほかへ売却し,同月8日所有権移転登記をしてしまった。 c その後も,原告は,引き続き,北兵庫信用組合を通じて上記不動産の買取り交渉を行っていたが,値段の折り合いがつかず,具体的に売買契約が成立する見通しは立っていなかった。 (イ)a 原告は,他方,上記(ア)bの交渉を行っている間,さくら銀行に預けていた上記事業資金1億5000万円をより有利に運用できないかと考え,それまで株式を購入した経験がなかったものの,さくら銀行株を買うことを思いついた。 b 原告は,平成9年1月初めころ,被告会社B支店(以下「B支店」という。)に電話をし,応対した同店投資相談課のC(以下「C」という。)に対し,余っているお金が2億円ぐらいあるのでさくら銀行株を買いたい旨伝え,Cから同株 初めころ,被告会社B支店(以下「B支店」という。)に電話をし,応対した同店投資相談課のC(以下「C」という。)に対し,余っているお金が2億円ぐらいあるのでさくら銀行株を買いたい旨伝え,Cから同株価(1株当たりの取引価格をいう。以下同じ。)を聞いた上,同株価が600円を下回ったら買いたい旨伝えた(なお,原告は,同年3月ころ,B支店に電話をしたところ,被告Aが原告の事務所に来たものである旨述べるが,被告Aの供述内容が具体的であるのに対し,その内容があいまいであり,これを信用することはできない。)。 cCは,その後,さくら銀行株の株価が600円に近づいたころ,週1,2回の割合で原告に電話をし,株価を報告するとともに,株を購入しないかと持ちかけた。 d そして,原告は,同年4月11日,Cから,さくら銀行株の株価が600円を下回った旨の連絡を受け,その購入の勧誘を受けたが,忙しいことなどを理由として,これに応じなかった。 e 被告AとCは,同月28日,原告の事務所を訪ね,原告に株式を購入する場合に必要な口座の開設手続をしてもらった。その際,原告は,被告AとCに対し,さくら銀行株を購入する資金が自己の事業用不動産の購入資金であること,その不動産の購入交渉がうまくいっていないことなどの話をした。 f その後も,Cは,さくら銀行株の株価が600円に近づくたびに,何度か,原告に連絡して,同株式の購入を持ちかけた。 (ウ)aCは,さくら銀行株の株価が同年9月29日ころから600円を下回るようになったため,同年10月6日,これを原告に連絡したところ,原告から,さくら銀行株を購入することに決めたと聞いたため,被告Aとともに,原告の事務所を訪ね,原告に対し,さくら銀 ら600円を下回るようになったため,同年10月6日,これを原告に連絡したところ,原告から,さくら銀行株を購入することに決めたと聞いたため,被告Aとともに,原告の事務所を訪ね,原告に対し,さくら銀行株を買い付けるために必要な資金を銀行に振り込む段取り等の手続につき,説明をした。 b これを受けて,原告は,翌7日,東京三菱銀行において上記(イ)eの取引口座にさくら銀行株の購入資金として1億円を振り込んだ上,B支店を訪れた。 c そして,原告は,被告Aとやりとりをした結果,同日午前9時55分,被告Aをして,本件株式26万株全部の買付注文をし,同日午前9時56分に,約定価格569円で1万株,約定価格570円で7万3000株及び約定価格571円で17万7000株の合計26万株を購入した。 d なお,被告Aは,同日夕方,原告の事務所に赴き,原告から本件株式の購入資金の一部として5000万円を受け取った上,翌8日,原告の事務所に再び赴き,受取金額と買付代金及び保護預り料との差額112万4030円を原告に渡した。 e 原告は,上記差額を受領した際,被告Aからさくら銀行株の値動きを聞くや,たちまち不機嫌となり(本件買付単価よりも値下がりしていた。),株券を所持していれば,いつでも,どこの証券会社でも売却ができると言いながら,被告Aに対して,本件株式の出庫を指示した。 原告は,同月14日,被告会社に保護預り扱いとなっていた本件株式全部を出庫した。 f さくら銀行株は,同月16日に584円の最高値となった後,本件買付単価より安値で推移し,同年12月22日には300円台にまで値下がりするに至った。 (エ) 原告は,本件株式の株価に さくら銀行株は,同月16日に584円の最高値となった後,本件買付単価より安値で推移し,同年12月22日には300円台にまで値下がりするに至った。 (エ) 原告は,本件株式の株価につき,その始値が550円にまで回復した平成10年2月12日,自己の事務所を訪れた被告Aに対し,売却手続や損益の計算方法などについて質問するとともに,買付単価が571円,売付単価が555円で26万株を売却した場合の損失金額をノート(甲7)に記載させた。 (オ)a その後,本件株式の株価については,小幅の増減が続き小康状態で推移していたところ,原告は,その始値が536円であった平成10年3月12日,本件株式を売却するため,その全部を被告会社に入庫した。 b しかし,原告は,本件株式の株価が下落し,その始値が412円となっていた同年5月29日,再度,被告会社から本件株式全部を出庫した。 c その後も,本件株式の株価は下落し,同年8月10日には200円台となり,原告は,同月25日,本件株式を売却するため,その全部を被告会社に入庫した。 d そして,本件株式につき,平成10年8月25日に1株当たり285円で10万株,翌26日に1株当たり268円で2万5000株,1株当たり267円で3万5000株が順次売却された。 e また,本件株式のうち残りの10万株については,平成11年8月19日に1株490円で売却された。 イ(ア) 上記アの認定事実に基づき,本件買付委託時の原告と被告Aのやりとりの内容につき検討してみるに,原告は,平成9年10月7日午前9時10分過ぎころ,B支店に行った際,被告Aから,さくら銀行株の株価が569円と言われたが,すぐやるとは言わなかった, と被告Aのやりとりの内容につき検討してみるに,原告は,平成9年10月7日午前9時10分過ぎころ,B支店に行った際,被告Aから,さくら銀行株の株価が569円と言われたが,すぐやるとは言わなかった,被告Aから「社長,1万株でもやりませんか。 取りあえず1万株でもやりましょう。」と勧められて,その値段で1万株購入することにした,その後,しばらくすると「社長上がりましたよ。」と言われた,1分もかかっていないのに株価が570円になっていたので「どうしてそんなに株が急に上がるんですか。」と言ったら,「株は1分1秒で動きますから急いでください。」と言われた,私が「株の動きはどうなりますか。」と聞いたら,「小幅もみ合いで上がります。」と言われた,そのため,「今買います 。 」と言って,株価が570円で,7万3000株を買った,しばらくすると,「社長また上がりました。」と言われ,株価が571円になっていた,被告Aから「絶対さくら銀行は日本の巨大銀行やから間違いありません,やりましょう。」と言われ,考える余裕もなくわずか5分か10分ぐらいでどんどんと全部買ってしまった,などと供述する。 (イ) しかしながら,本件買付委託の際の注文伝票(乙7)(その信用性を疑うに足りる証拠はない。)によれば,原告は,同日午前9時55分に本件株式26万株全部を発注した旨記載されており,原告の上記供述内容はこの記載と一致しないことに加えて,上記アの認定事実によれば,原告は,平成9年1月初めころから,さくら銀行株を,上記事業資金1億5000万円を運用する目的で,同株価が600円を下回ったら購入する意思を有していたこと,本件買付の前日に,同株価が600円を下回った旨を聞き,株式購入資金の振込口座を聞いた上,本件買付委託直前に,同口座に1億円を振込入金した上,B支店 600円を下回ったら購入する意思を有していたこと,本件買付の前日に,同株価が600円を下回った旨を聞き,株式購入資金の振込口座を聞いた上,本件買付委託直前に,同口座に1億円を振込入金した上,B支店に出向いたものであり,その時点で,同金員を資金とする範囲で,さくら銀行株を購入する意思を有していたことが認められ,これらのことからすると,原告の上記(ア)の供述を信用することができない。 また,単価569円から571円とする買付約定は同時刻(午前9時56分)に成立していることからすると,「社長上がりましたよ。急いで下さい。」などと言って,追加注文を急がされたとの原告の供述は疑わしいし,さらに,当日のさくら銀行株の株価がいったん578円まで値下がりしたものの,午前9時21分以降は一進一退を繰り返しながら徐々に値を下げ,本件買付委託直前には570円から572円の間で揉み合っており,小幅揉み合いの状態ではあったものの,値上がり中ではなかったのであるから,被告Aが「社長上がりました。小幅揉み合いで上がります。」などと述べたというのも不自然であるといわなければならない。 (ウ) かえって,被告Aの,原告がB支店に来てから,原告に対し,当日の全体の株価動向,日経平均株価,さくら銀行を含めた大手都銀株の全体の動き及び株式市場においてさくら銀行の株式取引が開始された午前9時から本件買付委託時点までの同株価推移につきコンピューター端末からプリントアウトしたものを,2,3回にわたり見せて,その状況を説明した,そして,原告から,指値で26万株という注文を受け,その指値につき,同時点までの株価推移と,直近の同株価が570円ないし573円だったことから,572円ぐらいにされたらいかがでしょうと言ったところ,原告から,それでいいという 万株という注文を受け,その指値につき,同時点までの株価推移と,直近の同株価が570円ないし573円だったことから,572円ぐらいにされたらいかがでしょうと言ったところ,原告から,それでいいという返事を受けた,さくら銀行株の株価は,当日,小幅で570円から578円ぐらいの間で推移していたので,小幅高の状態ですという話はしたが,今後の見通しは話していない旨の供述こそ,上記(イ)において説示したような客観的な状況(1回で買付注文がなされたという客観的事実)と符合するものであることが認められる。 (エ) そうすると,ほかに,本件買付委託時に被告Aから株価が上がる旨の断定的な判断の提供があったとの事実を認めるに足りる証拠はないから,原告の同主張を認めることはできない。 (2) 争点(1)イ(本件買付委託時における説明義務違反の有無)についてア株価は様々な要因で刻一刻と変動するため,株価の変動により多額の損失を被る危険性が伴なうこと(その反面,得られる利益も大きい)は周知の事実であるから,株価の変動に伴なう損失は基本的には株式を購入した者において負担すべきものである。 しかしながら,購入者が株式取引に関する知識や情報を十分有しておらず,合理的な投資を行うことができないような特別な事情がある場合には,専門的な知識や情報,ノウハウ等を有している証券会社は,委託者が自由な判断の下に合理的な投資を行うことができるように配慮すべき信義則上の義務があると考えられ,その一環として,場合によっては株式買付時に,上記のような株式取引の危険性につき詳細に説明する義務を負う場合もあると解される。 イそこで,説明義務違反の有無につき検討するに,上記(1)アで認定したとおり,原告は,上記事業を計画し,自己資産 な株式取引の危険性につき詳細に説明する義務を負う場合もあると解される。 イそこで,説明義務違反の有無につき検討するに,上記(1)アで認定したとおり,原告は,上記事業を計画し,自己資産を売却して,不動産の購入交渉を金融機関との間で行っていた実業家であること,自ら,自己資金1億5000万円の有効運用を目的としてさくら銀行株の買付を希望したものであること,その後本件買付委託に至る態様も,自ら株価を尋ねた上,600円を下回れば購入する旨伝えた後,同金額を下回ったことを初めて聞いた平成9年4月11日には購入勧誘を拒否した上,再度,同金員を下回ったことを聞いた同年10月6日に購入を決意するなど,主体的にさくら銀行株の買付に関する判断を行っていたことがそれぞれ認められるから,株式取引につき,一般的な知識を有し,本件株式の購入に関する危険性についても,十分に認識し,自己責任の下に判断することができる能力を有していたと推認することができ,かつ,本件株式の取引態様が,株式信用取引のような継続的なものではなく,1回的なものであり,その対象銘柄も特殊なものであるとは考え難く,しかも,原告は,株価の動向について十分に情報を入手した上,自らの判断に従い本件買付委託を行ったものであることも認められる。 ウそうすると,原告は,その自由な判断の下に合理的な投資を行うことに何ら支障がなかったといえ,委託を受けた被告会社ないし被告Aが,殊更,本件買付委託時に,株式取引の危険性を詳細に説明する必要性は認められないから,ほかに,原告につき,本件買付委託に当たり,株式取引に関する知識や情報を十分有しておらず,合理的な投資を行い得ないような特別な事情を認めるに足る証拠がない以上,本件買付委託時における説明義務違反をいう,原告の主張は認めることができない り,株式取引に関する知識や情報を十分有しておらず,合理的な投資を行い得ないような特別な事情を認めるに足る証拠がない以上,本件買付委託時における説明義務違反をいう,原告の主張は認めることができない。 エなお,上記(1)アで認定したところによれば,本件株式の購入金額は約1億5000万円と,個人投資家が1度に購入する金額としては多額で,株価の変動により多額の損害が発生する可能性があること,原告にはこれまで株式取引の経験がなかったこと,被告AやCは,本件株式購入資金が,原告の事業計画に充てるための資金であることを聞かされており,株価が下落すれば原告の事業計画が頓挫する危険があることは予想できたことなどの事情が認められるが,これらの事情は,あえて被告会社ないし被告Aから指摘を受けるまでもなく,原告自身理解し,又は認識することができたものであり,これによっても,上記(ウ)の認定を左右するには足りない。 オ更に付言するに,原告は株式取引の適格性に欠けているにもかかわらず本件株式の買付取引に参加させられたかのようにも主張するが,上記(イ)ないし(エ)において説示したところによれば,本件買付取引における対象銘柄の性格,原告の職業,経済人としての活動状況等にかんがみ,いわゆる適合性の原則に違反しているとはいえないので,原告の上記主張は採用できない。 2(1) 争点(2)ア(断定的判断の提供によって,原告は本件株式の売却を断念させられたか否か)についてア原告は,被告Aが平成10年2月12日に自己の事務所に来た際に同被告との間で交わしたやりとりとして,同月10日くらいに,さくら銀行株の株価が550円くらいまで戻したため,これこそ天の恵みだと思って,被告Aにすぐ全部売りたいと言った,すると,被告Aから,「これは社長に迷惑 で交わしたやりとりとして,同月10日くらいに,さくら銀行株の株価が550円くらいまで戻したため,これこそ天の恵みだと思って,被告Aにすぐ全部売りたいと言った,すると,被告Aから,「これは社長に迷惑かけたらあかんので,損かけられないので待ちましょう。今度は辛抱しましょう。3月の決算には必ず上がります。自民党とか政府が動いて資産内容に色々手を打つそうです。7月の参議院選挙があります。9月に中間決算があるから,社長大丈夫です,辛抱しましょう。」と言われ,専門家(被告A)が言われることやから,そうですかと思って,そのままになり,株の売却を断念させられたと供述する。 イしかしながら,原告の上記供述における被告Aの発言内容は,「3月の決算には必ず上がります。」との部分を除き,株価が必然的に上昇する要素を示したものとまでは言い難いところ,これに加えて,上記1(1)ア(オ)で認定したとおり.その後,原告は,さくら銀行株の株価につき,小幅の増減が続き小康状態で推移していた平成10年3月12日に本件株式の株券を入庫しながら,同年5月29日,同株券を再び出庫した経緯からすると,原告は,本件株式の売却につき被告Aの助言,指導を受けながらも,自らの意思でその是非を決定しようとしたと推認することができ(他方,同出庫の際,被告Aが原告に対し,さくら銀行株の株価が値上がりする旨の断定的判断の提供をしたことを認めるに足る証拠はない。),原告のこのような対応と被告Aから必ず株価が上がると言われて株の売却を断念させられた旨の上記アの原告の供述とは整合しないものであることからすると,この点に関する原告の同供述を信用することができない。 ウほかに,平成10年2月12日に被告Aから株価が上がる旨の断定的な判断の提供があったために原告が本件株式の売却を断念 らすると,この点に関する原告の同供述を信用することができない。 ウほかに,平成10年2月12日に被告Aから株価が上がる旨の断定的な判断の提供があったために原告が本件株式の売却を断念したとの事実を認めるに足りる証拠はないから,原告の同主張を認めることはできない。 (2) 争点(2)イ(本件株式の売却に関する説明義務違反の有無)についてア原告と被告会社との間における本件株式買付に関する委託契約は,被告会社が本件株式の買付を行って,これを引き渡すことにより終了する1回的な取引であるから,その後,さくら銀行株の株価の値下がりが続いて,被告の損失が膨らんでいるからといって,早い段階でこれを売却するよう助言,説明すべき義務を被告会社が当然に負っていると認めるべき根拠は見当たらないし,本件の事実関係に照らして検討してみても同義務を肯定すべき特段の事情の存在は認められない。 イ結局,株式を売却するか否かの判断は,その時点での利益ないし損失の発生状況や,投資資金を回収する必要性の程度などを考慮した上で,株式の所有者自身が,その責任において決定すべき事柄であるというべきであって,本件株式の下落により被った損害は原告自身がこれを負担するほかない。 ウなお,平成10年2月12日の時点で,被告Aが本件株式の購入資金が原告の計画している事業用の資金であるということを認識していた(上記1(1)ア(イ)e参照)としても,実際,株価の動向は,証券会社及びその従業員においても,これを正確に把握することが難しいのであって,さくら銀行株の株価につき,本件買付委託後,一度下落した後,回復し,原告が購入した当時の価格に戻りかけていた同時点において,仮に被告Aが上記(1)アのとおり株価が上がる旨の予測をしたとし であって,さくら銀行株の株価につき,本件買付委託後,一度下落した後,回復し,原告が購入した当時の価格に戻りかけていた同時点において,仮に被告Aが上記(1)アのとおり株価が上がる旨の予測をしたとしても,そのことのみをもって,説明義務違反を認めることはできず,かえって,その際,原告が,被告Aに記載させたノート(甲7)の内容によれば,被告Aは,本件株式につき,原告が購入した当時の価格に回復しなかった場合に原告に相応の損失が生じるおそれがあることを認識させ得る程度の説明を行い,かつ,原告もこれにより同損失が生じるおそれを認識し,又は認識し得た状況にあったと認められる。 エそうすると,被告らに,平成10年2月12日の時点において,本件株式の売却に関して,ほかに,特段の説明義務を認めるに足る事情が認定できない以上,原告の同時点における説明義務違反の主張を認めることはできない。 3 結論よって,原告の被告らに対する本件各請求は,その余の点を判断するまでもなく,いずれも理由がないからこれらを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民訴法61条を適用し,主文のとおり判決する。 神戸地方裁判所尼崎支部第2民事部裁判長裁判官高山浩平裁判官坂上文一裁判官右田晃一
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