令和5(わ)1732 詐欺、窃盗、有印私文書偽造・同行使被告事件

裁判年月日・裁判所
令和6年11月22日 千葉地方裁判所
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判決文本文7,435 文字)

- 1 -令和5年(わ)第1732号、同第1883号、令和6年(わ)第32号、同第277号詐欺、窃盗、有印私文書偽造・同行使被告事件令和6年11月22日千葉地方裁判所刑事第3部判決 主文 被告人を懲役3年に処する。 この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。 千葉地方検察庁で保管中のクレジット売上票18枚の偽造部分を没収する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、第1 令和5年2月28日午後1時14分頃から同日午後2時01分頃までの間に、千葉県市原市(以下略)A方において、同人管理のクレジットカード1枚を窃取した。 第2 窃取した株式会社B発行のA名義のクレジットカードを使用して、購入名目で商品をだまし取ろうと考え、別表1(略)記載のとおり、令和5年3月23日午後7時08分頃から同年6月22日午後2時06分頃までの間、15回にわたり、千葉県柏市(以下略)株式会社CのD店ほか5か所において、同店従業員Eほか10名に対し、真実は、同クレジットカードの正当な使用権限も同クレジットカードシステム所定の方法により代金を支払う意思もないのに、これらがあるように装い、同クレジットカードを各店設置のクレジットカード決済端末機に挿入するなどしてAppleギフトカード15枚の購入を申し込み、さらに、行使の目的で、クレジットカード売上票のご署名欄に「A」と記入して前記A作成名義のクレジットカード売上票15通を偽造した上、これらを真正に成立したもののように装って前記Eらに提出して行使し、同人らに、被告人が同クレジットカードの正当な使用権- 2 -限を有し、後日同クレジットカードシステム所定の方法により確実に代金の支払が受けられるものと誤信させ、よって、その頃、同所において、 し、同人らに、被告人が同クレジットカードの正当な使用権- 2 -限を有し、後日同クレジットカードシステム所定の方法により確実に代金の支払が受けられるものと誤信させ、よって、その頃、同所において、前記Eらから前記Appleギフトカード合計15枚(販売価格合計145万円)の交付を受け、もって人を欺いて財物を交付させた。 第3 窃取した株式会社B発行のA名義のクレジットカードを使用して、購入名目で商品をだまし取ろうと考え、別表2(略)記載のとおり、令和5年5月15日午後5時27分頃から同年6月6日午前10時48分頃までの間、5回にわたり、千葉市(以下略)F株式会社G店ほか3か所において、同店従業員Hほか4名に対し、真実は、同クレジットカードの正当な使用権限も同クレジットカードシステム所定の方法により代金を支払う意思もないのに、これらがあるように装い、同クレジットカードを各店設置のクレジットカード決済端末機に挿入するなどして半袖Tシャツ1枚等17点の購入を申し込むなどし、前記Hらをその旨誤信させ、よって、その頃、同所において、前記Hらから前記半袖Tシャツ1枚等17点(販売価格合計15万5130円)の交付を受け、もって人を欺いて財物を交付させた。 第4 窃取した株式会社B発行のA名義のクレジットカードを使用して、購入名目で商品をだまし取ろうと考え、別表3(略)記載のとおり、同年5月16日午後2時49分頃及び同月19日午後6時13分頃、2回にわたり、千葉県八千代市(以下略)株式会社IのJ店ほか1か所において、同店店長Kほか1名に対し、真実は、同クレジットカードの正当な使用権限も同クレジットカードシステム所定の方法により代金を支払う意思もないのに、これらがあるように装い、同クレジットカードを各店設置のクレジットカード決済端末機に挿入するなどして ットカードの正当な使用権限も同クレジットカードシステム所定の方法により代金を支払う意思もないのに、これらがあるように装い、同クレジットカードを各店設置のクレジットカード決済端末機に挿入するなどしてゴルフシューズ1足等11点の購入を申し込み、さらに、行使の目的で、クレジットカード売上票のご署名欄に「A」と記入して前記A作成名義のクレジットカード売上票3通を偽造した上、これらを真正に成立したもののように装って前記Kらに提出して行使し、前記Kらに、被告人が同クレジットカードの正当な使用権限を有し、後日同クレジットカードシステム所定の方法により確実に代金の支払が受けられるものと誤- 3 -信させ、よって、その頃,同所において、前記Kらから前記ゴルフシューズ1足等11点(販売価格合計8万9434円)の交付を受け、もって人を欺いて財物を交付させた。 第5 窃取した株式会社B発行のA名義のクレジットカードを使用して、購入名目で商品をだまし取ろうと考え、令和5年5月31日午後5時52分頃、千葉市(以下略)L店店内において、同店従業員Mに対し、真実は、同クレジットカードの正当な使用権限も同クレジットカードシステム所定の方法により代金を支払う意思もないのに、これらがあるように装い、同クレジットカードを同店設置のクレジット決済端末機に挿入するなどしてフェイスタオル1枚等2点(販売価格合計2900円)の購入を申し込み、同人をその旨誤信させ、よって、その頃、同所において、同人から前記フェイスタオル1枚等2点の交付を受け、もって人を欺いて財物を交付させた。 (事実認定の補足説明) 1 弁護人は、判示第2ないし第4につき、犯罪の成否はいずれも争わないものの、被告人が「クレジットカードの正当な使用権限」「があるように装い」との部分について、男性である被告人が 認定の補足説明) 1 弁護人は、判示第2ないし第4につき、犯罪の成否はいずれも争わないものの、被告人が「クレジットカードの正当な使用権限」「があるように装い」との部分について、男性である被告人が一見して女性名の名義人の氏名を売上票等所定の署名欄に署名していて、被告人は自身がクレジットカードの名義人本人ではないことを前提として取引をしており、また、各加盟店においてクレジットカードの名義人と利用者の同一確認が徹底されていたわけではないから、被告人がクレジットカードによる取引を申し込む行為自体が当然にクレジットカードの正当な使用権限がある旨の意思表示を含む挙動とはいえない旨主張するため、この点について補足して説明する。 2 関係各証拠によれば、⑴ 被告人は、判示第2ないし第4の商品購入の際、株式会社B(以下「本件クレジット会社」という。)発行のA名義のクレジットカード(以下「本件クレジットカード」という。)を利用して各商品を購入する旨の意思表示をした上、- 4 -同クレジットカードを決裁端末機に挿入し、本件クレジット会社による決済承認を受けて印字された売上票又は表示された決済端末機画面上の各署名欄に被告人自身の氏名ではなく、本件クレジットカードの名義人の氏名である「A」と記入して、同クレジットカードを使用したこと、⑵ 判示第2ないし第4における各被欺罔者(各加盟店の各従業員)は、いずれも、客がクレジットカードを提示して商品の購入を希望した場合、当該クレジットカードの正当な使用権限があり、クレジットカードシステム所定の方法により代金を支払うという意思表示を当該客がしたものと認識していること、当該客に当該クレジットカードの使用権限がないと分かっていればクレジットカード取引には応じないし、判示第2ないし第4の各取引においても同様に取引 うという意思表示を当該客がしたものと認識していること、当該客に当該クレジットカードの使用権限がないと分かっていればクレジットカード取引には応じないし、判示第2ないし第4の各取引においても同様に取引に応じなかったとの認識であったこと、⑶ 判示第2及び第4の各取引に応じた各被欺罔者は、いずれも、客がクレジットカードによる支払を希望した場合は、クレジットカードを決済端末機に挿入し、クレジットカード会社による決済承認の審査(当該カードが事故カード〔盗難や紛失等の手配のあるカード〕や使用不能カード〔限度額を超えた利用であったり、料金を滞納していたりするカード〕か否か等の審査)を受け、決済承認が得られると、クレジットカード売上票等が印字され、印字された売上票の署名欄に客に署名をしてもらい、客から署名が得られれば、当該客を当該クレジットカードを使用する正当な権限のある者と信用してクレジットカード取引に応じていたこと、前記各取引においても、本件クレジット会社による決済承認が得られ、被告人が滞りなく署名をするなど被告人の挙動に不審な点はなかったため、被告人に本件クレジットカードの正当な使用権限があり、所定の方法により代金を支払う客であると信用して商品を販売したこと、⑷ 判示第3の各取引に応じた各被欺罔者は、いずれも、客がクレジットカードによる支払を希望した場合は、クレジットカードを決済端末機に挿入し、クレジットカード会社による決済承認の審査を受け、決済承認が得られると、決済端- 5 -末機の指示に従ってサインパッドの液晶画面上に署名欄が表示され、同画面上に客に署名をしてもらう、決済端末機の液晶画面上に客がした署名が表示されるので、その記入が確認できれば、当該客を当該クレジットカードを使用する正当な権限のある者と信用してクレジットカード取引に応 上に客に署名をしてもらう、決済端末機の液晶画面上に客がした署名が表示されるので、その記入が確認できれば、当該客を当該クレジットカードを使用する正当な権限のある者と信用してクレジットカード取引に応じていたこと、前記各取引においても、本件クレジット会社による決済承認が得られ、被告人が滞りなく署名をするなど被告人の挙動に不審な点はなかったため、被告人に本件クレジットカードの正当な使用権限があり、所定の方法により代金を支払う客であると信用して商品を販売したこと、⑸ 本件クレジットカードに係る会員規約には、カード及びカード情報は、会員本人に限って利用できるものであると定められていること(第2条⑵)、⑹ 本件クレジットカードに係る加盟店規約には以下の定めが存在すること、ア加盟店は、クレジットカード会員からクレジットカードの提示等による信用販売の申込があった場合、善良なる管理者の注意をもって決済端末機を利用して、本加盟店規約等に従って手続を行う(第3条1項本文)。 イ前記アの手続のうち署名取得による確認に関し、加盟店は、①決済端末機にクレジットカードを挿入して同カードの真偽、有効性及び利用可能であることの確認をする、②売上票所定の欄に会員の署名の取得をする、③クレジットカード裏面にされた会員の署名と前号により取得した署名の一致の確認等をする(第3条2項)。 ウ前記アの手続において、①クレジットカード発行会社から当該クレジットカードが無効と通知されたとき、②明らかに偽造、変造と判断できるクレジットカードや破損したクレジットカードを提示されたとき、③クレジットカード券面にエンボスされた会員の氏名と売上票に印字された会員の氏名等の不一致、又は、同カード裏面にされた会員の署名と売上票所定欄にされた署名が明らかに不一致のとき、④信用 されたとき、③クレジットカード券面にエンボスされた会員の氏名と売上票に印字された会員の氏名等の不一致、又は、同カード裏面にされた会員の署名と売上票所定欄にされた署名が明らかに不一致のとき、④信用販売の申込をした者の挙動その他が不審で、当該クレジットカードの会員でないと判断したとき、⑤その他信用販売の申込が明らかに不審と- 6 -判断できるときは、加盟店は信用販売を中止し、クレジットカードを回収のうえ直ちにクレジットカード発行会社に連絡をし、同社の指示に従う(第4条)。 ⑺ クレジット取引セキュリティ対策協議会(クレジットカード発行会社、決済代行業者、加盟店等や行政機関として経済産業省が参加して設立された団体)が令和5年3月に公表した「クレジットカード・セキュリティガイドライン【4.0版】」によると、日本におけるクレジットカード市場では、長年にわたり、本人確認として署名の果たす役割の重要性に鑑み、クレジットカード会員に対してはクレジットカード裏面に自署の徹底を、加盟店に対してはその署名照合の徹底を啓発し取り組んできた経緯がある。一方で、クレジットカード会員自らクレジットカードを決済端末機に挿入する、又は同カードをかざす決済方法が浸透しつつあることにより、従来、加盟店がカード会員から一時的にクレジットカードを預かり、署名照合を行ってきた商慣習がその変更を迫られていること等に鑑み、本人確認方法としての署名の取得は令和7年3月をめどに加盟店の任意とし、取得しないことを推奨するとされていること、以上の事実が認められる。 3⑴ 以上の事実関係を前提とすると、被告人が本件クレジットカードの正当な使用権限を有するか否かは、加盟店の従業員である判示第2ないし第4の各被欺罔者において本件クレジットカードを利用した商品販売をするか否かの判断の基 前提とすると、被告人が本件クレジットカードの正当な使用権限を有するか否かは、加盟店の従業員である判示第2ないし第4の各被欺罔者において本件クレジットカードを利用した商品販売をするか否かの判断の基礎となる重要な事項であるというべきである。そして、被告人は自身が本件クレジットカードの名義人ではないことを秘して、売上票所定の署名欄又は決裁端末機の画面上に表示された署名欄にも、自身の氏名ではなく、本件クレジットカードの名義人の氏名を記入して同クレジットカードの利用を申し込んだのであるから、被告人による本件クレジットカードによる取引を申し込む行為は、当然に同カードの名義人として正当な使用権限がある旨の意思表示を含む挙動に当たり、詐欺罪にいう欺罔行為に当たると認められる。 ⑵ この点について、弁護人は、被告人と名義人の性別が異なり、男性である被- 7 -告人が一見して女性名の氏名を売上票等の所定欄に記入して取引を申し込んだ点を捉えて、この点が不審点であるにもかかわらず、各被欺罔者(加盟店従業員)が本件各取引に応じたことから、署名による本人確認を徹底していなかったなどと主張する。しかしながら、性別については、繊細な問題が潜む可能性のある客のプライバシーに関する事項であり、客の外見等のみをもってこの事項に踏み込んだ確認をすることは加盟店従業員において困難である。そして、前記2⑴ないし⑷及び関係各証拠によれば、判示第2ないし第4の各被欺罔者は、判示第2ないし第4の各取引に際し、本件クレジット会社から決済承認が受けられ、本件クレジットカードが事故カードや使用不能カードでないと確認できたこと、被告人に署名を求めると署名を嫌がったり、手間取ることもなく、滞りなく署名に応じたことといった事情をもとに、他に不審な事情も見当たらなかったとして、被告人に本件ク 不能カードでないと確認できたこと、被告人に署名を求めると署名を嫌がったり、手間取ることもなく、滞りなく署名に応じたことといった事情をもとに、他に不審な事情も見当たらなかったとして、被告人に本件クレジットカードの正当な使用権限があると判断して各取引に応じたと認められるのであって、弁護人の前記主張は採用できない。また、その他弁護人がるる指摘する事情を踏まえても、前記判断を左右しない。 ⑶ したがって、判示第2ないし第4につき、被告人が「クレジットカードの正当な使用権限」「があるように装い」との事実は、詐欺罪の欺罔行為に当たるから、判示第2ないし第4のとおり認定した。 (量刑の理由)本件は、現職の警察官であった被告人が、安否確認を要請する指令を受けて臨場した女性方において、クレジットカード1枚を盗んだ窃盗の事案(第1)、窃取したクレジットカードを、繰り返し不正に使用した有印私文書偽造、同行使、詐欺の事案(第2及び第4)と詐欺の事案(第3及び第5)である。 第1の窃盗については、警察官としての職務中に、救急搬送された女性方からクレジットカードを盗むというもので、市民の信頼を裏切る悪質な犯行である。また、第2ないし第5の窃取したクレジットカードの不正利用は合計23回にわたり、その詐欺による被害額は合計約169万円と高額で、その結果は重い。 - 8 -被告人は自由に使える金が欲しかったとして、偶発的ではあるものの、第1の窃盗に及び、その後も自身の欲望のままに窃取したクレジットカードを利用して第2ないし第5の犯行に及んだもので、その利欲的な動機に酌むべき点はなく、警察官として法を遵守することが強く求められる立場にありながらした本件各犯行は、強い非難に値する。 以上のような犯情に照らすと、被告人の刑事責任は重いといわざるを得ず、実刑に処 酌むべき点はなく、警察官として法を遵守することが強く求められる立場にありながらした本件各犯行は、強い非難に値する。 以上のような犯情に照らすと、被告人の刑事責任は重いといわざるを得ず、実刑に処することも十分考えられる。 他方で、第2ないし第5の各詐欺により実質的な損害を被ったクレジットカード会社に対して被告人の両親の出捐によって本件を含む被告人によるカード利用分全額の被害弁償がされたことは被告人の刑を決めるにあたって相当程度斟酌すべき事情といえる。加えて、被告人が事実を認めて、自分に甘かったなどと本件を振り返って反省の弁を述べていること、被告人に前科前歴がないこと、現在の雇用主が出廷の上、被告人の雇用を継続し、今後の監督を誓約したこと、本件によって懲戒免職処分を受けるなど被告人が一定の社会的制裁を受けたこと等の事情も認められる。 そこで、以上の諸事情を考慮して、被告人に対しては、主文の刑に処した上、社会内での更生の機会を与えるべく、今回に限り、その刑の執行を猶予するのが相当と判断した。 (求刑・懲役3年・主文同旨の没収)(裁判官内村祥子)

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