平成16(ワ)990 損害賠償

裁判年月日・裁判所
平成18年8月3日 名古屋地方裁判所 その他
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判決文本文29,875 文字)

- 1 -平成18年8月3日判決言渡平成16年(ワ)第990号判決主文 被告は,原告Aに対し,1億2951万5956円及びこれに対する平成11年11月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告は,原告Bに対し,220万円及びこれに対する平成11年11月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告は,原告Cに対し,220万円及びこれに対する平成11年11月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は,原告Aと被告との間で生じたものについてはこれを20分し,その17を被告の,その余を同原告の各負担とし,原告B及び同Cと被告との間で生じたものについてはこれを5分し,その2を被告の,その余を同原告らの各負担とする。 この判決は,第1項ないし第3項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由第1請求 被告は,原告Aに対し,1億5621万6026円及びこれに対- 2 -する平成11年11月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告は,原告Bに対し,525万円及びこれに対する平成11年11月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告は,原告Cに対し,525万円及びこれに対する平成11年11月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,被告の設置管理するD病院(以下「被告病院」という。 )に肺炎を患い入院した原告A(昭和62年9月12日生)が,抗生剤ブロアクトの投与を受けたところ,その直後にショック状態に陥って一時心肺停止状態となり,急性循環不全による虚血性脳症を発症したため,原告ら(原告Aとその両親)が被告に対し,上記 12日生)が,抗生剤ブロアクトの投与を受けたところ,その直後にショック状態に陥って一時心肺停止状態となり,急性循環不全による虚血性脳症を発症したため,原告ら(原告Aとその両親)が被告に対し,上記ブロアクトを投与したこと自体に過失がある上,投与方法も不適切で,かつ,ショック状態に陥った後の救急措置にも過失があったと主張して,不法行為又は債務不履行に基づき,後遺障害による逸失利益,慰謝料等の賠償を求めた医療事件の事案である。 前提事実(注記のある部分を除き,当事者間に争いがない。)(1)当事者ア原告Bは原告Aの父,原告Cは原告Aの母である。 イ被告は,被告病院を設置及び管理し,医療業務を行っている。 (2)医療事故発生に至る事実経過の概要ア原告Aは,平成11年11月15日(以下,平成11年中の月日は,年の表記を適宜省略する。),急性肺炎の診断で,被告病院に入院した。原告Aの主治医は,E医師であった。 イ原告Aは,同月17日12時30分ころ,抗生剤であるブロアクトに対するアレルギー反応の有無を確認するため,皮内反- 3 -応検査(以下「本件皮内反応検査」という。)を受けた。 ウ原告Aは,同日18時58分ころ,ブロアクト1グラムの静脈投与を受けた(以下「本件投与」という。)。 エ原告Aは,同日19時00分,上記ブロアクトの投与により,ショック状態に陥り(以下「本件ショック」という。),心肺停止状態となったため,被告病院の医師及び看護師から,人工呼吸,心臓マッサージ,ボスミン(エピネフリン)投与等の心肺蘇生措置を受けた。 オ原告Aは,本件ショック後,急性循環不全による虚血性脳症等を発症し,平成12年4月20日まで被告病院に入院し,以後も被告病院に通院した。 カ上記アないしオの経過も含め,原告Aの被告病院における退院 告Aは,本件ショック後,急性循環不全による虚血性脳症等を発症し,平成12年4月20日まで被告病院に入院し,以後も被告病院に通院した。 カ上記アないしオの経過も含め,原告Aの被告病院における退院までの診療経過等に関する当事者の主張は,別紙診療経過一覧表のとおりである(同一覧表中,原告らの主張の認否欄が不知又は否認とされている部分を除き,当事者間に争いがない。 )。 (3)原告Aの後遺障害原告Aは,上記(2)オの虚血性脳症等により,両視力障害,視覚失認,四肢運動麻痺,全身不随意運動の後遺障害が生じた(以下「本件後遺障害」という。)。 本件の争点(1)ブロアクト投与自体の適否(2)ブロアクト投与方法上の過失の有無(3)救命措置上の過失の有無(4)原告らの損害額 争点に関する当事者の主張- 4 -(1)争点(1)(ブロアクト投与自体の適否)について【原告らの主張】アブロアクト適応等(ア)肺炎に対する抗生剤の投与は,原因菌の特定が不可欠であり,臨床所見及び検査所見(胸部レントゲン撮影等)に加え,喀痰の細菌塗抹検査・培養検査や血液培養検査等を実施して,原因菌を特定し,これに基づき,適切な抗生剤を選択すべきである。 しかるに,被告病院の医師は,原因菌の特定に必要な上記の措置を採ることなく,原告Aについて,マイコプラズマ肺炎を疑い,抗生剤として,ミノマイシンに加え,マイコプラズマ肺炎に対しては無効で適応がないブロアクトを投与した(なお,本件ショックの発現後,原告Aに対してはミノマイシンのみが投与されたが,これにより肺炎は軽快しており,結果的にも,ブロアクトの投与は不要であった。)。 (イ)被告は,原告Aの全身状態に重篤感があったので,マイコプラズマ以外の原因菌による混合細菌感染も疑った旨主張するが,原告A 炎は軽快しており,結果的にも,ブロアクトの投与は不要であった。)。 (イ)被告は,原告Aの全身状態に重篤感があったので,マイコプラズマ以外の原因菌による混合細菌感染も疑った旨主張するが,原告Aには,高熱以外に臨床的に重篤症状を裏付けるものはなく(この高熱も,マイコプラズマ肺炎により生じ得るものである。),血液検査の所見も,白血球数が正常値以下,CRPが中等度上昇ながらやや改善気味であったこと(11月15日4.27。同月17日3.96)からみても,混合細菌感染の疑いは否定されるべきであるし,仮にその疑いがあるとしても,上記(ア)のとおり,原因菌を特定した上で適切な抗生剤を選択すべきであった。 イ本件皮内反応検査- 5 -(ア)本件皮内反応検査に立ち会った原告Cが観察したところ,ブロアクト希釈液の注入部のみ10mm以上膨隆し,その周りが発赤していたことから,原告Cは,被告病院の看護師が病棟に来たときに,そのことを何度も同看護師に確認した。仮に上記注入部の状態が,発赤の直径20㎜以上又は膨疹の直径9㎜以上という陽性判定基準(乙B8)に達しなかったとしても,原告Aが本件皮内反応検査の直後に「指がピリピリする」としびれ感を訴えていたことを併せ考えれば,陽性と判定されるべきであった。 (イ)したがって,原告Aに対しては,ブロアクトを投与してはならなかった。 【被告の主張】アブロアクト適応等(ア)被告病院の医師は,当初,原告Aに対し,ペントシリン(1日当たり2gを3回)及びダラシン(同じく600mgを2回)を投与したが,11月17日も高熱が続いたことから,血液検査,肺部レントゲン検査を行ったところ,肺炎の増悪傾向が認められ,上記抗生剤は奏功していないと判断された。 そこで,被告病院の医師は,原告Aの症状等から,学童期に最 日も高熱が続いたことから,血液検査,肺部レントゲン検査を行ったところ,肺炎の増悪傾向が認められ,上記抗生剤は奏功していないと判断された。 そこで,被告病院の医師は,原告Aの症状等から,学童期に最も多い肺炎であるマイコプラズマ肺炎を疑ったが,一般的なマイコプラズマ肺炎に比べて重篤感(全身倦怠感や高熱)があり(マイコプラズマ肺炎は,一般的に,全身状態は保たれていることが多い。),混合細菌感染を併発している可能性も考えたため,マイコプラズマ(感染)に対して(抗菌力を有する)ミノマイシンを選択し,一方,混合細菌感染に対してブロアクトを選択して,原告Cの了解を得た上で,こ- 6 -れらを併用投与したものであり,かかる措置は医学的に相当である。 (イ)原告らは,抗生剤の選択に当たり,原因菌を特定すべきであった旨主張する。しかしながら,小児は,一般に,喀痰(気道分泌物)の採取が困難で(そのため,その代わりに咽頭培養検査のなされることが多い。),特に,マイコプラズマ肺炎の初期の症状は,痰の少ない乾性の咳が主で,原告Aにおいても同様であったから,喀痰を臨床材料とする培養検査等は不可能であった。また,血液培養検査も,検出率が15パーセント程度で,必ずしも原因菌を特定できるものではなく,さらに,原告Aについては,穿刺により採取可能な程度の胸水の貯留も存在せず,胸水培養検査もできなかった。 加えて,これらの検査の結果は,判明するまでに数日程度を要するから,治療の初期は,検査結果によるのではなく,原因菌を推定して抗生剤を選択しなければならない。 イ本件皮内反応検査(ア)本件皮内反応検査の結果は,検査部位に著変はなく,陰性であった。陽性と判定されるべきであった旨の原告らの主張は,原告Cの主観に基づくものにすぎない。 (イ)なお,原告らの主張す 内反応検査(ア)本件皮内反応検査の結果は,検査部位に著変はなく,陰性であった。陽性と判定されるべきであった旨の原告らの主張は,原告Cの主観に基づくものにすぎない。 (イ)なお,原告らの主張する手足のピリピリ感は,皮膚に針を刺したという物理的刺激が原因と考えられる。すなわち,皮内反応検査の実施時には,アレルギー反応と違う非特異的反応と呼ばれる生体反応が見られることがあるが,これは,皮膚に針を刺したという物理的刺激が原因で発赤を生じたりするものである(そのため,皮内反応検査では,薬剤と生理食塩水をそれぞれ皮内注射して比較対照するのである。)。 - 7 -上記のピリピリ感も,そのような非特異的反応の一種であり,皮内反応検査の陽性判定の根拠になるものではない。 (2)争点(2)(ブロアクト投与方法上の過失の有無)について【原告らの主張】ア原告Aは,用法・用量の設定や患者のモニタリングを適切に行った上で投与ができるという,慎重投与の対象とされる患者であったにもかかわらず,被告病院の医師は,これを何ら考慮せず本件投与をなした。 イすなわち,原告Aは,卵・花粉にアレルギーがあり,原告B及び同Cもアレルギー体質であるので,ブロアクトの添付文書(乙B4号証)の「使用上の注意」により,慎重投与(甲B1の2)の対象とされる患者である。特に,ブロアクトの初回投与時には,本人や両親・兄弟のアレルギー反応既往歴の有無を十分問診し,注意して投与されなければならない(乙B2)。 しかるに,本件では,入院時に,被告病院の看護学生が原告Aのアレルギーの既往の有無を聴取したのみで,しかも,それが被告病院の医師に伝えられず(カルテには既往歴等の記載がない。),また,原告B及び同Cのアレルギーの既往の有無については,本件ショックの発現後に聴取されるにとどま 無を聴取したのみで,しかも,それが被告病院の医師に伝えられず(カルテには既往歴等の記載がない。),また,原告B及び同Cのアレルギーの既往の有無については,本件ショックの発現後に聴取されるにとどまった。 ウまた,ブロアクトは,添付文書の「用法・用量」で,成人には通常1日1ないし2gを2回に分けて,緩徐に(3ないし5分かけて。甲B1の2)静脈内に注射するとされている(乙B4)。本件投与は初回投与であるから,(少ない方の用量である)1日1gを2回に分けて投与すべきであるにもかかわらず,被告病院の医師は,1日2gを2回に分けて投与することを指示した上,指示を受けた看護師は,本件投与の際,5秒程度の- 8 -短い時間で,点滴ルートから急速に投与した。 エさらに,被告病院の看護師は,本件投与中の経過観察を何らなさず,本件投与後も,原告Aの状態を観察することなく,カーテンの外に出てその場を離れようとした(そのため,本件ショックの発現時は,原告Cがナースコールで緊急連絡せざるを得なかった。)。 オなお,被告は,本件ショックにつき,アナフィラキシーショックではなく,薬剤性ショックであるアナフィラキシー様ショックである旨主張するが,その根拠が薄弱である。また,仮に,本件ショックがアナフィラキシー様ショックであったとしても,両者は,発現の機序に相違があるのみで,臨床的には同様の症状を示すものであるから,相当因果関係が否定されることにはならない。 【被告の主張】ア本件ショックは,Ⅰ型アレルギー(即時型反応)によるアナフィラキシーショックではなく,薬剤性ショックであるアナフィラキシー様ショックであり,患者のアレルギー体質の有無にかかわらず発生するものである。このことは,本件ショックの発現時,原告Aには,Ⅰ型アレルギーでしばしばみられる咽頭 剤性ショックであるアナフィラキシー様ショックであり,患者のアレルギー体質の有無にかかわらず発生するものである。このことは,本件ショックの発現時,原告Aには,Ⅰ型アレルギーでしばしばみられる咽頭等の浮腫,蕁麻疹が認められず,薬剤によるリンパ球幼弱化試験が陰性であったことから明らかである。 イアナフィラキシー様ショックの場合,あらかじめアレルギー既往の有無を確認していたとしても,その発生を予見することは不可能である。また,仮に本件ショックがアナフィラキシーショックであるとしても,本件で,これを予見することは困難であった。すなわち,被告病院の医師及び看護師は,問診等に- 9 -より,原告Aに花粉症・喘息のアレルギー疾患の既往があることを把握していたが,原告Aにアナフィラキシーの既往はなかった。原告Aの上記既往は,他の患者でもしばしば見られる程度のものであり,特に薬剤投与に対する危険性を有するものではない。また,アレルギーの既往のない患者でも,ショックの発現する場合があるからである(なお,現在,厚生労働省は,皮内反応検査がショックの発生の予見に有用でないとして,原則として行わないように勧告している。)。 ウこのように,ショックの発生を予見することができない以上,結局,アレルギーの既往の有無にかかわらず,薬剤の慎重投与が求められるところ,その慎重投与とは,投与の際にショックに対する救急措置が採れるよう準備することである。 本件投与時には,原告Aに対する持続点滴ルートが確保され,異常時にはナースコールでこれを知らせることができる環境にあり,現に,原告Cのナースコールにより,被告病院の看護師が原告Aの下に急行し,医療スタッフが招集されて,直ちに救急措置が採られているのであるから,本件投与は慎重になされている(なお,アナフィラキシーシ 現に,原告Cのナースコールにより,被告病院の看護師が原告Aの下に急行し,医療スタッフが招集されて,直ちに救急措置が採られているのであるから,本件投与は慎重になされている(なお,アナフィラキシーショック及びアナフィラキシー様ショックともに,結果において,治療方法はほぼ同じである。)。 エまた,ブロアクトは,小児では1日60ないし80mg/kgを3,4回に分けて投与し,成人では1日1ないし2gを2回に分けて投与するとされている。原告Aの体重は,本件投与当時約64㎏であり,上記の小児投与量に従えば,1日当たり4g程度になる。 本件で,被告病院の医師は,過量投与にならないよう配慮し- 10 -て,1日2gを2回に分けて投与することにし,また,投与方法についても,被告病院の看護師は,10mlあるいは20mlの滅菌蒸留水に溶解したブロアクト1gを点滴ルート途中の三方活栓から約1分間で投与した(なお,三方活栓から注入される薬剤が体内に入る速度は,注入速度と同じである。)。原告らは,本件投与時に被告病院の看護師が5秒程度の短い時間で投与した旨主張するが,原告Aについては,小児用の24ゲージの細い留置針によって点滴ルートが確保されており,上記の薬剤量を5秒程度の時間で投与することは,そもそも不可能である。 オさらに,被告病院の看護師は,上記エのとおり約1分間の本件投与中,観察を行い,本件投与後も点滴ルートに異常がないことを確認してから,カーテンの外にいったん出たが,原告Aの「えらい。えらい。」という声を聞いて異常を知り,すぐにカーテン内に戻った。また,原告Cによるナースコールを受けて,他の看護師も駆けつけた。 カしたがって,本件投与における投与方法等には,過失はない。 (3)争点(3)(救命措置上の過失の有無)について【原告らの主張 。また,原告Cによるナースコールを受けて,他の看護師も駆けつけた。 カしたがって,本件投与における投与方法等には,過失はない。 (3)争点(3)(救命措置上の過失の有無)について【原告らの主張】ア呼吸管理(気管内挿管)(ア)一般に,ショックの発現直後は,末梢血管の拡張や血管透過性の亢進等による急激な血圧低下及び意識障害を主たる病態としている。原告Aも,本件投与後,顔面蒼白・脈拍微弱等の典型的な循環虚脱状態を呈し,意識障害も伴う極めて重篤なショック症状を発現しており,適切な呼吸管理とともに,輸液等による適切な循環管理を行う必要があった。 - 11 -(イ)しかるに,被告病院の医師は,本件ショックの発現後,19時03分に気管内挿管の準備をしていたにもかかわらず,その時点から19時29分までの約26分間(仮に被告の主張どおりであるとしても,19時22分までの約19分間),一次救命措置によって原告Aの呼吸状態,全身状態が改善されていなかったにもかかわらず,気管内挿管を実施しなかった。 すなわち,看護記録上,経皮酸素飽和濃度(SpO)の 測定値は,19時05分に57パーセント,19時10分に20パーセントであり,また,原告Aの臨床症状として,19時03分に「呼吸弱い」「全身チアノーゼ」,19時05分に「自発呼吸弱い」等とそれぞれ記載されている。したがって,アンビューバッグによる人工呼吸(一次救命措置)では,換気ないし酸素供給の効果が上がっていないことが明らかであり,直ちに気管内挿管による人工呼吸を実施すべきであった。 他方,被告病院の看護師の陳述書(乙A4)には,19時10分の時点で,原告Aに自発呼吸があり,チアノーゼを認めず,経皮酸素飽和度の数値が高く保たれていた旨の記載があるが,看護記録上,これを裏づけるような記 告病院の看護師の陳述書(乙A4)には,19時10分の時点で,原告Aに自発呼吸があり,チアノーゼを認めず,経皮酸素飽和度の数値が高く保たれていた旨の記載があるが,看護記録上,これを裏づけるような記載はない。 (ウ)なお,人工呼吸器が接続された時刻は19時31分であるところ,診療記録上,「6.5㎝tubeにて挿管respiratorへ」と,気管内挿管及び人工呼吸器装着が連続的に実施された旨の記載になっていること,気管内挿管を実施してから約9分後に人工呼吸器に接続するというのは通常考え難いことからすれば,原告Aに対する気管内挿管の実施された時刻は,- 12 -19時31分の少し前である19時29分ころと推測される(看護記録上,19時22分以降,ほぼ1分ごとに,心臓マッサージが中止されて心拍数が確認されているが,これも,数回にわたり気管内挿管が試みられ,その都度,心臓マッサージを中断せざるを得なかったことを表している。)。 イ循環管理(輸液)(ア)上記ア(ア)のとおり,ショックの発現直後は,輸液等による適切な循環管理を行うことが不可欠である。そして,輸液については,医学文献上,中等症以上のショックの場合,初期輸液量は10ないし20ml/kg/hとされており(乙B10),原告Aの当時体重は約64kgであるから,640ないし1280ml/hとなる(なお,他の医学文献でも,「乳酸リンゲル液などの血漿増量剤1000~2000mlの点滴静注を全開で行う」(乙B8),「乳酸加リンゲル液500~1000mlを全開で急速補液」(乙B9)とされている。 なお,急速とは,最初の15分間で,成人で1000ml,小児で20ml/kgを投与する必要がある(甲B3)。)。 (イ)しかるに,本件ショックの発現後,循環管理のための輸液が最初に実施されたのは なお,急速とは,最初の15分間で,成人で1000ml,小児で20ml/kgを投与する必要がある(甲B3)。)。 (イ)しかるに,本件ショックの発現後,循環管理のための輸液が最初に実施されたのは,それから約30分が経過した19時29分の生理食塩水(100ml)である上,末梢血管からの投与であったため,全開投与にもかかわらず投与終了時刻は19時48分であり,100mlの投与に約20分間を要している。その後,EL-3号(500ml)の投与が全開で開始されたが,これも末梢血管からの投与であり,20時02分までの間に100mlが投与されるにとどまった。 結局,本件ショックの発現から約1時間の輸液量は合計2- 13 -00mlのみであり,明らかに投与量が少なく,かつ,投与時期及び投与速度も遅すぎたものである。 (ウ)原告Aは,上記(イ)のような不適切な輸液により,循環虚脱状態の改善が遅れ,血圧は気管内挿管の実施後も,19時48分ころまで,収縮期血圧が100㎜Hg以下にとどまった。また,その後も,20時12分以降の約30分間は,再び血圧が低下し,収縮期血圧が80㎜Hgを下回る状態であり,中心静脈ルートからの輸液の効果が表れてきた20時45分以降になって,ようやく100㎜Hg以上を保つようになった(そのころの輸液量の合計は約800ml程度であると考えられる。なお,19時22分に再度心拍の低下しているが,これも,輸液量の不足から脳への酸素供給が不足して呼吸抑制に至ったことにより惹起されたものである。)。 (エ)循環虚脱状態が改善されなければ,仮に適切な呼吸管理が実施され,肺における酸素化がなされても,血液が体内を循環せず,脳の神経細胞などに酸素を十分供給できず,低酸素性脳障害を発症する。 原告Aの本件後遺障害は,脳が虚血による低酸素状態 適切な呼吸管理が実施され,肺における酸素化がなされても,血液が体内を循環せず,脳の神経細胞などに酸素を十分供給できず,低酸素性脳障害を発症する。 原告Aの本件後遺障害は,脳が虚血による低酸素状態にさらされ,特に虚血に弱い大脳基底核及び後頭葉部分に障害が発生したことによるが,仮に適切な呼吸管理が実施されていたとすると,適切な輸液により速やかに循環虚脱状態が改善されていれば,本件後遺障害の発生しなかった蓋然性が極めて高いというべきである。 【被告の主張】ア呼吸管理(気管内挿管)(ア)本件ショックの発現時,被告病院の病棟看護師は多数残- 14 -っており,また,内科医が回診のため病棟を訪れていたので(小児科医も直ちに招集されて救命措置に参加している。),被告病院の医師及び看護師は,原告Aに対し,救命措置を実施すべく,直ちに心臓マッサージ及びアンビューバッグによる人工呼吸を開始し,その後,19時22分に気管内挿管を実施し(引き続きアンビューバッグによる用手換気),19時31分には人工呼吸器に接続した。 (イ)原告らは,経皮酸素飽和度が低値であった旨主張するが,経皮酸素飽和度は,末梢動脈の拍動を検知することによって測定されるものであり,ショックの発現時などで末梢循環が悪い状態の場合は,検知不十分により,実際の酸素飽和度を正確に反映しない場合があり,また,患者の体動によって正確に測定できないことがある。したがって,酸素化の程度は,患者の皮膚色や呼吸状態等の身体所見,血圧や脈拍数等のバイタルサインから総合的に判断することになる。 原告Aについては,19時22分に気管内挿管が実施されたが,それ以前は,アンビューバッグによる人工呼吸が行われて奏功しており,気管内挿管を必要とする状態にはなかった。 (ウ)なお,心臓マッサージが実施 については,19時22分に気管内挿管が実施されたが,それ以前は,アンビューバッグによる人工呼吸が行われて奏功しており,気管内挿管を必要とする状態にはなかった。 (ウ)なお,心臓マッサージが実施されている状態では自己心拍があるかどうかを確認できないから,自己心拍の有無を確認するためには,いったん心臓マッサージを中断しなければならない。原告Aに対する心臓マッサージも,上記の理由により数秒間中断されたにすぎず,原告らの主張するように,これが気管内挿管に手間取ったことの根拠になるものではない。 - 15 -イ循環管理(輸液)(ア)原告Aに対しては,本件ショックの発現時,13時50分に交換されたEL-3号(500ml)が滴下速度60ml/hで点滴投与されていた(本件ショックの発現時の残量は約200mlとなる。)。そして,本件ショックの発現時には,これが全開投与され,以後も輸液が滴下し終わるたびに新たな輸液が交換投与されていた(本件ショックの発現後,エピネフリン及び硫酸アトロピンが点滴ルート途中の三方活栓を通じて投与されたが,これを速やかに体内に注入するためにも,点滴の滴下速度が上げられた。)。その間,19時29分にEL-3号に換えて,ソルメドロール(粉末)及びその溶解目的の生理食塩水(100ml)が上記点滴ルートから全開投与され,19時48分に生理食塩水に換えて,再びEL-3号が点滴ルートから全開投与された。 (イ)したがって,原告Aに対する輸液は適切になされている。 ウこのように,被告病院は,本件ショックの発現後,直ちに適切な救命措置を採っており,過失はない。本件後遺障害を引き起こした病態がいつ生じたのかは不明であるが,被告病院の医師らの救命措置上の過失によるものではない。 (4)争点(4)(原告らの損害額)について 命措置を採っており,過失はない。本件後遺障害を引き起こした病態がいつ生じたのかは不明であるが,被告病院の医師らの救命措置上の過失によるものではない。 (4)争点(4)(原告らの損害額)について【原告らの主張】ア原告Aについて(ア)後遺障害逸失利益7041万5526円原告Aは,本件後遺障害により,物を見てもそれが何かを判断理解できず,食事・排便排尿・入浴等の基本的な日常生活において,介護が必要である。そのため,原告Aは,生涯- 16 -にわたって就労が不可能であり,労働能力を100パーセント喪失した。原告Aの就労可能年数を18歳から67歳までとし,平成14年賃金センサス・企業規模計・産業計・全労働者全年齢平均賃金の年収494万6300円を基礎として,ライプニッツ方式(通院終了時13歳)により中間利息を控除すると,次の計算式のとおり,7041万5526円(1円未満の端数切捨て)となる。 (計算式)4,946,300円× 14.236=70,415,526円(イ)付添介護費(将来分を含む。)5673万5600円原告Aは,上記(ア)のとおり,本件後遺障害により生涯にわたって介護を必要としている。付添介護費を1日8000円とし,本件ショックの発現時から原告A(当時12歳)の平均余命である73年間について,ライプニッツ方式により中間利息を控除すると,次の計算式のとおり,5673万5600円となる。 (計算式)8,000円× 365日× 19.43=56,735,600円(ウ)慰謝料(入通院・後遺障害を含む。)2500万円原告Aは,平成11年11月17日から平成12年4月20日まで(156日間)被告病院に入院し,翌21日から同年10月20日まで(実日数10日間)被告病院に通院して,それぞれ治療を受けた。 (エ)損益 Aは,平成11年11月17日から平成12年4月20日まで(156日間)被告病院に入院し,翌21日から同年10月20日まで(実日数10日間)被告病院に通院して,それぞれ治療を受けた。 (エ)損益相殺原告Aは,医療品基金給付金として,合計243万5100円の支給を受けたので,これを損益相殺する。 (オ)弁護士費用650万円(カ)以上,合計1億5621万6026円- 17 -イ原告B及び原告Cについて(ア)固有の慰謝料各500万円原告Aの本件後遺障害の内容及び程度に加え,原告Aは,外界が十分確認できないことにより,極端な潔癖症になり,ささいなことでパニックを来すような状態であり,介護に当たる原告B及び原告Cの心労や精神的苦痛は著しい。 (イ)弁護士費用各25万円(ウ)以上,合計各525万円【被告の主張】争う。 第3当裁判所の判断 争点(1)について(1)まず,本件ショック発現時までの診療経過等についてみるに,当事者間に争いのない事実(前記第2の1(2)の前提事実参照)及び証拠(乙A1ないしA3,A8)により認められる事実は,次のとおりである。 ア11月13日ないし同月15日(ア)原告Aは,13日20時ころから,39度の発熱があり,また,翌14日昼にも,39度の発熱があったため,休日診療所を外来受診し,座薬等の処方を受けた。 (イ)しかし,原告Aは,処方された座薬等を使用しても病状が改善せず,翌15日朝も高熱が続き,咳も患うようになったため,近所の医院を外来受診し,胸部レントゲン検査を受けた結果,左下肺野の所見から,肺炎と診断された。原告Aは,上記医院の担当医師から被告病院を紹介され,被告病院(小児科)を外来受診し,同日12時30分,入院となった。 - 18 -(ウ)原告Aの入院時における 肺野の所見から,肺炎と診断された。原告Aは,上記医院の担当医師から被告病院を紹介され,被告病院(小児科)を外来受診し,同日12時30分,入院となった。 - 18 -(ウ)原告Aの入院時における血液検査の所見は,白血球4000,CRP4.27であり,臨床症状は,体温39.2度で,頭痛がひどく,全身倦怠感が強かった。原告Aは,入院後,EL-3号(500ml)の持続点滴投与(60ml/h)等の治療を受け始めた。 イ同月16日(ア)原告Aは,未明から,咳(主として乾性の咳)が増強し,また,39度台の発熱も続き,座薬による解熱及び発熱を繰り返し,頭痛・ぐったり感が強かった。 (イ)原告Aは,抗生剤として,ペントシリン及びダラシンの投与を受けた(なお,その投与に先立ち,原告Aに対して実施されたペントシリン皮内反応検査の結果は,陰性であった。 )。 ウ同月17日(ア)原告Aは,依然として高熱が続き(12時00分に40. 2度),座薬による解熱及び発熱を繰り返したほか,全身倦怠感が強く,主として乾性の咳も多かった。また,胸部レントゲン検査の所見上,肺炎の増悪傾向を認め,血液検査の所見は,白血球3500,CRP3.96であった。 (イ)被告病院の医師は,投与する抗生剤につき,ペントシリンをブロアクトに,ダラシンをミノマイシンにそれぞれ変更することを決め,12時20分,来院した原告Cに対し,診断名は肺炎であり,臨床経過からマイコプラズマ肺炎が考えられること等を説明し,併せて,夜から投与する抗生剤を変更することを説明した。 (ウ)原告Aは,12時30分,被告病院の医師から指示を受- 19 -けた看護師により,ブロアクト皮内反応検査(本件皮内反応検査)を受けた。被告病院の看護師は,検査箇所の発赤及び膨疹の大きさが陽性の判定基準(後記 2時30分,被告病院の医師から指示を受- 19 -けた看護師により,ブロアクト皮内反応検査(本件皮内反応検査)を受けた。被告病院の看護師は,検査箇所の発赤及び膨疹の大きさが陽性の判定基準(後記(2)イ(イ)②)に満たなかったことから,陰性と判定した。 そこで,原告Aは,18時58分,被告病院の看護師により,ブロアクト1gの静脈投与(本件投与)を受けたところ,19時00分,ショック症状(本件ショック)を発現した。 (2)次に,証拠(甲B1,乙B1,B2,B4,B6,B12)によれば,前提となる医学的知見として,次の事実が認められる。 アブロアクトブロアクトは,セフェム系の抗生物質であり,その添付文書には,次のとおりの記載がある(一部抜粋)。 (ア)用法・用量通常,成人には1日1ないし2g(力価)を2回に分けて静脈内に注射する。なお,難治性又は重症感染症に対しては,症状に応じて1日4g(力価)まで増量し,2ないし4回に分割投与する。 通常,小児には1日60ないし80mg(力価)/kgを3,4回に分けて静脈内に注射するが,年齢・症状に応じ適宜増減する。なお,難治性又は重症感染症に対しては,160mg(力価)/kgまで増量し,3,4回に分割投与するが,髄膜炎には1日200mg(力価)/kgまで増量できる。 静脈内注射に際しては,日局注射用水,日局生理食塩液又は日局ブドウ糖注射液に溶解し,緩徐に投与する。また,点滴静注に際しては,日局生理食塩液,日局ブドウ糖注射液又は補液に溶解する。 - 20 -(イ)使用上の注意①慎重投与(次の患者には慎重に投与すること)本人又は両親,兄弟に気管支喘息,発疹,蕁麻疹等のアレルギー症状を起こしやすい体質を有する患者②重要な基本的注意ショックが現れるおそれがあるので,十分な問診を行うこ 者には慎重に投与すること)本人又は両親,兄弟に気管支喘息,発疹,蕁麻疹等のアレルギー症状を起こしやすい体質を有する患者②重要な基本的注意ショックが現れるおそれがあるので,十分な問診を行うこと。なお,事前に皮膚反応を実施することが望ましい。 ショック発現時に救急措置を採れる準備をしておくこと。 また,投与後患者を安静の状態に保たせ,十分な観察を行うこと。 ③副作用重篤な副作用の1つとして,ショック(頻度不明)を起こし,又はアナフィラキシー様症状(頻度不明)が現れることがあるので,観察を十分に行い,症状が現れた場合,異常が認められた場合は,投与を中止し,適切な処置を行うこと。 イブロアクト皮内反応検査薬(ア)皮内反応検査は,薬剤によるアレルギー反応(副作用)の有無を調べる検査であり,通常,対象薬剤の希釈液及び対照液(生理食塩水)を各々皮内に注射し,皮膚膨張疹を作って各膨張部位を観察し,その皮膚の変化によりアレルギー反応の有無を判定する。 (イ)市販のブロアクト皮内反応検査薬の添付文書には,次のとおりの記載がある(一部抜粋)。 ①用法・用量添付の溶解液1mlで溶解し,300μ g(力価)/mlの- 21 -溶液を調製する。この液約0.02mlを皮内に注射する。 また,対照として添付の対照液(生理食塩水)約0.02mlを試験液注射部位から十分離れた位置に皮内注射する。 ②判定方法試験液及び対照液ともに次の基準により判定する。 (a)判定時間注射後15~20分(b)判定基準陽性発赤直径20mm以上又は膨疹直径9mm以上陰性発赤,膨疹ともに上記陽性の判定基準未満判定不能対照液が陽性を示す場合なお,偽足(みみずばれ)を伴う膨疹を認めた場合,注射局所の反応以外に全身反応(しびれ感,熱感,頭痛,眩暈,耳鳴,不 陰性発赤,膨疹ともに上記陽性の判定基準未満判定不能対照液が陽性を示す場合なお,偽足(みみずばれ)を伴う膨疹を認めた場合,注射局所の反応以外に全身反応(しびれ感,熱感,頭痛,眩暈,耳鳴,不安,頻脈,不快感,口内異常感,喘鳴,便意,発汗等)を認めた場合も,陽性と判定する。 ③処置試験液の判定が陽性であって,対照液の判定が陰性の場合は,ブロアクトの投与を行わない。 判定不能の場合は,ブロアクトの投与を行わないか,あるいは過敏反応に十分注意して投与すること。 皮内反応試験の結果が陰性の場合でも,ブロアクト初回投与時は,本人又は両親,兄弟のアレルギー反応既往歴の有無を十分問診し,注意して投与すること。 ウマイコプラズマ肺炎(ア)マイコプラズマ肺炎は,マイコプラズマという病原菌の感染によって発症する肺炎をいう。 マイコプラズマ肺炎は,学童期に多く(統計上,6ないし- 22 -7歳以上の学童期の肺炎については,マイコプラズマを原因菌とするものが最も多いとされている。),発熱(中等度の発熱を呈する場合が多いが,39度以上の高熱や無熱の場合もある。),初期の乾性の咳嗽が特徴的で,一般的に,患者の全身状態は保たれていることが多い。また,血液検査所見として,白血球数及びCRPは,軽度から中等度の上昇が一般的である。 (イ)なお,マイコプラズマは細胞壁を持たず限界膜で囲まれた微生物であるため,これに起因する肺炎に対しては,細胞壁合成阻害薬であるセフェム系薬剤のブロアクトは効果がない。 (3)以上を前提として,原告Aに対するブロアクト投与の適否について検討する。 ア証拠(乙A10,B7,B12)によれば,肺炎(特に小児の肺炎)の初期治療における抗生剤の選択に関する医学上の知見として,(ア)抗生剤の選択に当たっては,原因微生物の 否について検討する。 ア証拠(乙A10,B7,B12)によれば,肺炎(特に小児の肺炎)の初期治療における抗生剤の選択に関する医学上の知見として,(ア)抗生剤の選択に当たっては,原因微生物の特定が必要であるが,肺炎のような呼吸器感染症における原因微生物(特に原因菌)の特定は,感染症の中で最も困難であること,(イ)肺炎の原因微生物の特定のために実施される細菌培養検査においては,洗浄喀痰,血液,胸水等が臨床材料とされているが,喀痰については,小児では,一般に喀出痰の量が少なくその採取が困難である上,特にマイコプラズマ肺炎の場合,病初期は,痰の乏しい乾性の咳が多いため,より一層採取が困難であること,また,血液については,検査の感度が悪い上に,検出率が低く,原因微生物の特定に必ずしも有効- 23 -ではないこと,(ウ)これらの事情により,肺炎と診断された段階で,原因微生物が特定されているとは限られないところ,その特定されていない段階では,一般に,臨床症状や(原因微生物の)統計学的知見に基づいて抗生剤を選択してこれを投与した上,臨床症状及び検査所見の改善状況等から,その効果(感受性)の有無を判定し(効果判定の期間は,通常,2~3日程度である。),効果が認められれば(原因微生物の判明するまでは)同じ抗生剤を継続し,効果が認められなければ抗生剤を変更するという治療方法が採られること,以上の事実が認められる。 イところで,上記(1)認定のとおり,原告Aに対しては,抗生剤として,16日にペントシリン及びダラシンが投与されたが,17日夜にブロアクト及びミノマイシンに変更されている。この点について,証拠(乙A7,A8,A10,B12,証人Eの証言)によれば,(ア)被告病院の医師は,原告Aの肺炎について,原因菌として(統計上学 にブロアクト及びミノマイシンに変更されている。この点について,証拠(乙A7,A8,A10,B12,証人Eの証言)によれば,(ア)被告病院の医師は,原告Aの肺炎について,原因菌として(統計上学童期に最も多い)マイコプラズマを疑っていたが,喀痰及び胸水を採取できなかったため,これらの臨床材料による細菌培養検査等を実施できず,また,被告病院では,肺炎患者について,感度の悪い血液培養検査を実施していなかったこと,もっとも,被告病院の医師は,原告Aに対する咽頭培養検査を実施したが,検査結果の判明するまでには通常5日程度を要し,本件投与の時点では,その検査結果が判明していなかったこと,そのため,本件投与の時点では,マイコプラズマ肺炎の確定診断ないし原因微生物の特定ができ- 24 -ていなかったこと(マイコプラズマ肺炎自体の確定診断方法もあるが,当時は,相当の日数を要するなどの難点があった。 ),(イ)一方で,被告病院の医師は,原告Aの全身倦怠感が強く,血液検査によるCRP,胸部レントゲン検査所見の悪化から,マイコプラズマ肺炎にしては重症感があり,その一般的な臨床症状から少しはずれる点もうかがわれると判断し,マイコプラズマ及び別の細菌による混合感染の可能性も疑っていたこと,そのため,被告病院の医師は,抗生剤として,11月16日,マイコプラズマに対して適応のあるダラシンを,また,感染の可能性が疑われる他の細菌に対して(適応のある原因菌が広い)ペントシリンをそれぞれ選択し,これらを併用投与したこと,(ウ)しかし,原告Aは,11月17日になっても,発熱が治まらず,咳も続き,血液検査の所見上も,CRPが15日の数値(4.27)よりは改善されたとはいえ,なお3.96という高い数値であって(なお,乙B12によれば,血液検査の所見上,C っても,発熱が治まらず,咳も続き,血液検査の所見上も,CRPが15日の数値(4.27)よりは改善されたとはいえ,なお3.96という高い数値であって(なお,乙B12によれば,血液検査の所見上,CRP3以上の肺炎は中等症,15以上の肺炎は重症にそれぞれ分類されることが認められる。),胸部レントゲン検査の所見上も増悪傾向があるなど,臨床所見及び検査所見上,症状の改善が必ずしも見られなかったため,被告病院の医師は,上記(イ)の抗生剤が無効であると判断して,投与する抗生剤を変更することとし,ダラシンの代わりにミノマイシンを,ペントシリンの代わりに(抗菌作用のより強い)ブロアクトをそれぞれ選択し,これらを併用投与することにしたこと,- 25 -以上の事実が認められ,これに,上記(2)ウ及び(3)ア認定の医学的知見を適用すれば,上記認定に係る被告病院の医師の処置(抗生剤の選択ないし変更)は,医学的にみて相応の合理性を有すると判断することができる。 ウこの点につき,原告らは,原因微生物を特定する措置を採ることなくブロアクトを投与した過失がある旨主張する。 しかし,上記ア及びイ(ア)の認定説示に徴すれば,被告病院の医師が原告らの主張する細菌培養検査等の措置を採ることなく,ブロアクトを投与したことをもって,医師としての注意義務に違反する過失があるということはできない。 また,原告らは,本件皮内反応検査の結果は陽性と判定されるべきであったにもかかわらず,陰性と判定してブロアクトを投与した過失がある旨主張するが,証拠(乙A2,A3,A6,B8,証人F及び同Eの各証言)によれば,本件皮内反応検査の結果は,ブロアクト皮内反応検査薬の添付文書の示す判定基準上,陰性であったことが認められる。 この点,原告らは,仮に,原告Aの検査箇所の変化が陽性の判定 び同Eの各証言)によれば,本件皮内反応検査の結果は,ブロアクト皮内反応検査薬の添付文書の示す判定基準上,陰性であったことが認められる。 この点,原告らは,仮に,原告Aの検査箇所の変化が陽性の判定基準(発赤直径20㎜以上又は膨疹直径9㎜以上)に達していなかったとしても,本件皮内反応検査において,試験液注入部のみ10mm以上膨隆し,その周りが発赤していたこと,原告Aが本件皮内反応検査の直後に「指がピリピリする」としびれ感を訴えていたことからすれば,陽性と判定されるべきであった旨主張するところ,乙A1によれば,本件ショックによる事故後,原告Cが被告病院の関係者に対して上記主張に沿った言動を示したこと,本件皮内反応検査を担当した看護師も,アルコール綿でふくと検査箇所が赤くなり,2つの膨疹ができて- 26 -いたと述べたことは認められるが,これを超えて,上記判定基準上,陽性と判定されるべき臨床所見が生じていたことを認めるに足りる証拠はない。 (4)以上によれば,被告病院の医師が原告Aに対してブロアクトを投与したこと自体は合理的なものであり,医師としての注意義務に違反する過失があると認めることはできない。 争点(2)について(1)原告らは,ブロアクトの投与量及びその方法について,原告Aが添付文書上慎重投与の対象とされる患者であることを前提に,1日1gを2回に分け,3ないし5分の時間をかけて投与すべきであるにもかかわらず,被告病院の医師は,1日2gを2回に分けて投与することとし,かつ,被告病院の看護師がこれを5秒程度の短時間で投与した過失がある旨主張する。 (2)上記1(2)ア(イ)及びイ(イ)認定のとおり,ブロアクトについては,添付文書上,本人又は両親,兄弟に気管支喘息,発疹,蕁麻疹等のアレルギー症状を起こしやすい体質を有する がある旨主張する。 (2)上記1(2)ア(イ)及びイ(イ)認定のとおり,ブロアクトについては,添付文書上,本人又は両親,兄弟に気管支喘息,発疹,蕁麻疹等のアレルギー症状を起こしやすい体質を有する患者は,慎重投与の対象とされており,また,皮内反応検査の結果が陰性の場合でも,初回投与時は,本人又は両親,兄弟のアレルギー反応既往歴の有無を十分問診し,注意して投与することが求められている。そして,甲B1の2によれば,上記にいう慎重投与とは,他の患者よりも副作用の発現や重篤化の危険性が高いため,投与の可否の判断,用法・用量の決定等に特に注意が必要である場合,又は臨床検査の実施や患者に対する細かい観察が必要とされる場合であることが認められる。 証拠(乙A6,A8,A9,証人Eの証言,弁論の全趣旨)によれば,①原告Aについては,11月15日の外来診察時に主治- 27 -医以外の医師が,また入院時に看護師及び看護学生がそれぞれ食物や薬剤に対するアレルギーの有無や,喘息・花粉症等のアレルギー性疾患の有無に関して問診したこと,②これらの問診を通じて,原告Aに喘息の既往があること,原告Aの両親が花粉症であること,一方で原告Aには薬物に対するアレルギー反応の既往はないことが確認されたこと,③なお,原告Aの主治医は,診療記録により,遅くとも本件投与時までには,上記問診結果を確認していたこと,以上の事実が認められる。 また,上記1(2)ア(ア)認定のとおり,ブロアクトの添付文書には,用法・用量として,通常,成人には1日1ないし2gを2回に分けて静脈内に注射し,小児には1日60ないし80mg/kgを3,4回に分けて静脈内に注射する旨記載されているところ,証拠(乙A1,A8)によれば,原告Aの当時の体重は約64kgであることが認められるから,小児投与量の 小児には1日60ないし80mg/kgを3,4回に分けて静脈内に注射する旨記載されているところ,証拠(乙A1,A8)によれば,原告Aの当時の体重は約64kgであることが認められるから,小児投与量の基準に従えば,原告Aに対する投与量は,1日約3.8ないし5.1gになる。 これらの事実に鑑みれば,上記問診の結果及び本件皮内反応検査の判定結果(陰性)も加味した上で,上記1(3)イ認定の経緯により,1日2gを2回に分けて(1回1g)ブロアクトを投与することにした被告病院の医師の措置は,原告らの主張するように原告Aが慎重投与を求められる患者であること及び本件投与が初回投与であることを考慮に入れても,その投与の可否の判断及び投与量の判断の点で,不適切であるとは断定できない(もっとも,上記添付文書の指示する投与量・回数を記載どおりに受け取るならば,原告Aのように,年齢に比べて体格(体重)の優れた児童については,1日当たりの投与量,1回当たりの投与量が成人のそれを上回ることになり,奇異な印象を受けざるを得ない。 - 28 -したがって,少なくとも,かかる児童については成人の投与量が上限となると解釈すべきもののようにも考えられるところ,そうだとすると,原告Aについては,成人に対する通常の投与量の最大値が投与されたこととなって,その措置の相当性について疑問がないわけではない。しかしながら,上記1(2)ア(ア)認定のとおり,上記添付文書には,上記の点について触れた部分は見当たらず,かえって,年齢や症状に応じて,通常の投与量を増減でき,重症感染症等に対しては160mg(力価)/kgを1日3ないし4回に分けて投与することができる旨記載されていることなどを考慮すると,上記の投与量をもって,被告病院の医師に過失があると判断することはできない。)。 (3) 60mg(力価)/kgを1日3ないし4回に分けて投与することができる旨記載されていることなどを考慮すると,上記の投与量をもって,被告病院の医師に過失があると判断することはできない。)。 (3)さらに,上記1(2)ア(ア)認定のとおり,添付文書上,ブロアクトの静脈内注射の際は緩徐に投与するとされており,甲B1の2によれば,「緩徐に」という場合は,ワンショットでは5ないし15mlを3ないし5分で,点滴静注では1ml/分でというのが一般的であるとされていることが認められるところ,被告病院の看護師がブロアクトを5秒程度の時間で投与した旨の原告らの主張については,乙A1によれば,原告Cが被告病院の関係者に対して上記主張に沿う言動を示したことは認められるものの,投与速度が上記主張のとおりであったことを認めるに足りる証拠はない。かえって,証拠(乙A6,証人Fの証言,弁論の全趣旨)によれば,被告病院の看護師は,本件投与時,ブロアクト1gを蒸留水10mlで溶解した液を注射器に注入し,その注射器を点滴ルートの途中の三方活栓に直接つなぎ,既に三方活栓につながれていた輸液(EL-3号)の点滴投与をいったん停止させた上で,上記ブロアクト溶解液を約1分間かけて静脈投与したこと(投与- 29 -終了後は,上記輸液の点滴投与を再開している。)が認められる。 これらの事実によれば,本件投与については,その投与速度の点でも,特に不適切であるというべき点はうかがわれない。 (4)さらに,原告らは,本件投与中及び投与後の経過観察が不適切であった旨主張する。しかし,証拠(乙A4ないしA6,証人Fの証言)によれば,①被告病院の看護師は,本件投与中,原告Aの症状及び点滴ルートを観察して異常の見られないことを確認し,本件投与後も同様の確認を行った上で,カーテンで仕切られ A4ないしA6,証人Fの証言)によれば,①被告病院の看護師は,本件投与中,原告Aの症状及び点滴ルートを観察して異常の見られないことを確認し,本件投与後も同様の確認を行った上で,カーテンで仕切られた原告Aの病床をいったん離れてカーテンの外に出たこと,②その瞬間,上記看護師は,原告Aの「えらい。えらい。」などと身体の異常を訴える声を聞き,直ちにカーテン内の病床に戻り,原告Aが嘔吐していることを確認したため,ナースコールにより医師を呼び寄せた(もっとも,その直前に,原告Cがナースコールを行っている。)が,その直後原告Aに尿失禁や痙攣等の症状が発現したため,再度ナースコールにより心電図モニター及び救急カートの取寄せを依頼したこと,③これらを受けて,他の看護師数名及び医師2名が直ちに原告Aの病床に駆け付け,救命措置の体制がとられ,救命措置が開始されたこと,以上の事実が認められる。 これらの事実によれば,被告病院の医師ないし看護師に,本件投与中及び投与後の経過観察において,注意義務に違反する点があると認めることはできない。 (5)以上によれば,ブロアクトの投与方法について,被告病院の医師ないし看護師に注意義務に違反する過失があると認めることはできない。 争点(3)について- 30 -(1)まず,本件ショックの発現後,原告Aが集中治療室に移されるまでの診療経過等は,別紙診療経過一覧表の,11月17日午後7時00分の欄から同日午後10時10分の欄までの部分のとおりであると認められる。 なお,上記の診療経過等は,原告らの主張の認否欄の認否が否認ないし不知の箇所を除き,当事者間に争いがなく,また,否認ないし不知の箇所については,被告の主張における証拠欄摘示の各証拠及び証人Eの証言により,これを認めることができる。 (2)上記第2の1 認ないし不知の箇所を除き,当事者間に争いがなく,また,否認ないし不知の箇所については,被告の主張における証拠欄摘示の各証拠及び証人Eの証言により,これを認めることができる。 (2)上記第2の1(2)のとおり,原告Aは,本件ショックの発現直後に心肺停止状態に陥っているところ,証拠(甲B3,乙B3,B8ないしB11)によれば,ショック発現時に心肺停止状態に陥った場合は,末梢血管の拡張や血管透過性亢進による血漿漏出等によって急激な循環虚脱・血圧低下を生じており,心肺蘇生のため,迅速かつ適切な呼吸管理及び循環管理が求められ,特にショック発現直後の短時間内における救命措置の適否がその予後を大きく左右することが認められる。 アまず,原告らは,呼吸管理の点について,気管内挿管の実施が遅れた旨主張するので,この点について判断する。 (ア)証拠(乙A7,B3,B11,証人G及び同Eの各証言)によれば,心肺蘇生措置としての呼吸管理に関する医学的知見として,①一般に,心肺蘇生措置は,一次救命措置と二次救命措置に分類され,一次救命措置は,気道確保,マウスツーマウスやアンビューバッグによる人工呼吸,心臓マッサージ等を指し,二次救命措置は,気管内挿管による人工呼吸,薬剤(エピネフリン等)の投与等を指すこと,②心肺停止状態に陥った患者の気道を確保しても自発呼吸が見られない場- 31 -合,まずは一次救命措置としての人工呼吸を試みるべきであり,その時点で直ちに気管内挿管を実施する必要性は必ずしもない(一時的とはいえ,呼吸の停止という危険性を伴う。 )こと,③一次救命措置により心肺蘇生が完了しなければ,二次救命措置を実施するが,気管内挿管による人工呼吸を実施する際には,一次救命措置により十分換気し,全身の酸素状態(血中酸素濃度)をある程度改善させておく 次救命措置により心肺蘇生が完了しなければ,二次救命措置を実施するが,気管内挿管による人工呼吸を実施する際には,一次救命措置により十分換気し,全身の酸素状態(血中酸素濃度)をある程度改善させておくべきであること,以上の事実が認められる。 (イ)そして,上記(1)認定の診療経過等及び証拠(乙A4,A5,A7)によれば,本件ショック発現後の原告Aに対しては,気道確保の上,速やかにアンビューバッグによる人工呼吸及び心臓マッサージ等が実施され,これらの救命措置により,本件ショックの発現から約3分後の19時03分には,自発呼吸及び自己心拍がいったん再開したことが認められ,この事実によれば,上記の救命措置が所期の効果を奏したということができ,その後,19時22分に自己心拍が再度低下したため,直ちに気管内挿管を実施した被告病院の医師の措置は,全体として,上記(ア)認定の医学的知見に準拠したものであるということができ,呼吸管理について,医師としての注意義務に違反する過失があると認めることはできない。 (ウ)この点について,原告らは,経皮酸素飽和度(19時05分57パーセント,19時10分20パーセント)や,看護記録上の臨床所見(19時03分「自発呼吸あり」「呼吸弱い」「全身チアノーゼあり」,19時05分「自発呼吸弱い」等)を根拠に,本件ショックの発現後気管内挿管が実施されるまでの間,一次救命措置による呼吸管理が奏功してい- 32 -なかった旨主張する。 しかし,証拠(乙A4,A6,B11,証人G,同F及び同Eの各証言)によれば,①経皮酸素飽和度は,末梢の血流で測定されるため,ショックの発現により末梢血管の血液循環が芳しくない状態下では,正確に測定できない場合があること,②特に,原告Aには,19時03分にボスミン(エピネフリン)が静注さ ,末梢の血流で測定されるため,ショックの発現により末梢血管の血液循環が芳しくない状態下では,正確に測定できない場合があること,②特に,原告Aには,19時03分にボスミン(エピネフリン)が静注されているところ,ボスミンは,末梢血管を収縮させ,冠動脈や脳血管への血流を増加させる薬効を有しているため,末梢血管の循環が悪くなる傾向があること,③そのような事情もあり,医師は,ショック発現時には,基本的に,心拍(脈拍),血圧,全身状態等の臨床症状によって呼吸状態を管理していること,以上の事実が認められる。 これらの事実に,上記測定値の正確性について疑問を呈する旨の証人G及び同Fの各証言を併せ考慮すれば,上記経皮酸素飽和度の測定値は,当時の原告Aの動脈血酸素飽和度を正確に表すものではない疑いが強く,一次救命措置の奏功に関する上記認定を覆すに足りるものではないというべきである。 したがって,原告らの上記主張は採用できない。 イ次に,原告らは,循環管理の点について,本件ショックの発現後の原告Aに対する輸液が不適切であった旨主張するので,この点について判断する。 (ア)上記(2)認定のとおり,ショック発現直後は,心肺蘇生措置として,呼吸管理と並行して,迅速かつ適切な循環管理を行うことが必要とされている。そして,証拠(甲B3,乙B8ないしB11)によれば,上記循環管理のためには,適切な輸液の実施が必要かつ重要であるところ,医学文献上,- 33 -輸液の量及び方法に関する医学的知見として,①収縮期血圧が80mmHg以下のショック状態では,生理食塩水か乳酸又は酢酸リンゲルを成人なら1000ml,小児では20ml/kgを最初の15分間で急速に点滴静注し,反応をみて輸液の速度を調節する(甲B3),②乳酸リンゲル液等の血漿増量剤1000ないし2000 又は酢酸リンゲルを成人なら1000ml,小児では20ml/kgを最初の15分間で急速に点滴静注し,反応をみて輸液の速度を調節する(甲B3),②乳酸リンゲル液等の血漿増量剤1000ないし2000mlの点滴静注を全開で行う(乙B8),③収縮期血圧100mmHgを目標に乳酸化リンゲル液500ないし1000mlを全開で急速補液する(乙B9),④初期輸液剤を10ないし20ml/kg/hで注入する(乙B10)などとされていることが認められる。 したがって,被告病院の医師は,本件ショックの発現時,原告Aに対して医学上要求される相当量の輸液を急速実施すべき注意義務を負っていたというべきである。 (イ)これを本件についてみるに,被告は,原告Aに対する輸液について,①本件ショックの発現時,13時50分に交換されたEL-3号(500ml)が滴下速度60ml/hで点滴投与されていたこと(本件ショック発現時の残量約200ml),②本件ショックの発現時にこれを全開投与し,以後も,輸液が滴下し終わる度に新たな輸液を交換投与していたこと,③その間,19時29分,EL-3号(500ml)に換えて,ソルメドロール(粉末)及びその溶解目的の生理食塩水(100ml)を同じ点滴ルートから全開投与し,19時48分,再びEL-3号を全開投与したことを主張し,証人Eの証言中にも上記主張に沿う部分がある。 しかし,乙A1によれば,診療記録上,本件ショックの発現後の原告Aに対する輸液について,上記①の点以外には,- 34 -19時29分に「生食100ml」「全開にてスタート」,19時48分に「EL3500ml全開へ末梢より」,20時02分に「末梢もれにて抜去400ハキ」と,上記③の主張に沿う趣旨の記載がある一方で,上記②の主張に沿う趣旨の記載は全く存在しない。診療記 9時48分に「EL3500ml全開へ末梢より」,20時02分に「末梢もれにて抜去400ハキ」と,上記③の主張に沿う趣旨の記載がある一方で,上記②の主張に沿う趣旨の記載は全く存在しない。診療記録上,(証人Eの証言するように)上記②の点のみ記載の失念により欠けているというのは,不自然との観を否めないのみならず,かえって,上記「全開にてスタート」という記載は,19時29分の生理食塩水の投与開始時に初めて全開投与されたことをうかがわせるものであり,上記②の主張とは整合しないといわざるを得ない。加えて,19時48分投与開始のEL-3号は,上記のとおり,診療記録上,20時02分に「末梢もれにて抜去400ハキ」と記載されており,その間の約14分間に100ml投与されたのみであることが認められるのであって,そうであるにもかかわらず,19時03分以降,同じ点滴ルートにより投与されたEL-3号が速やかに投与されたというのも,不自然さを否めない。 そして,証人Eの証言中,上記②の主張に沿う部分も,医学的知見上又は経験上,エピネフリン及び硫酸アトロピンを投与する際,その速やかな投与のためにも,EL-3号の点滴投与を全開にしているはずであるという趣旨にとどまり,本件において全開投与したという体験ないし記憶を直接的・具体的に供述するものではなく,また,心肺蘇生措置に携わった他の病院関係者の証言ないし陳述書中の陳述からも,本件ショックの発現時からEL-3号が全開投与されていたことをうかがうことはできない。証人Eは,エピネフリン及び- 35 -硫酸アトロピンの効果がすぐに現れたことはEL-3号の点滴投与を全開にしたことを裏付けている旨証言するが,本件証拠上,これらの薬剤が全開投与でなければ速やかに奏功しないというべき医学的根拠を認め難い。 (ウ) ンの効果がすぐに現れたことはEL-3号の点滴投与を全開にしたことを裏付けている旨証言するが,本件証拠上,これらの薬剤が全開投与でなければ速やかに奏功しないというべき医学的根拠を認め難い。 (ウ)これらの事情を総合考慮すれば,本件ショックの発現後,原告Aに対して循環確保のための輸液が最初に行われたのは,本件ショック発現から約30分が経過した19時29分の生理食塩水100mlであり,これも含め,本件ショックの発現時から20時02分までの約1時間で循環確保のために確実に投与された輸液の量は,合計約200mlにとどまると認めるのが相当であり,この認定に反する被告の上記主張は採用できない。 そして,上記認定の輸液量は,上記(ア)認定の医学的知見に照らし,本件ショックの発現時の原告Aに対して医学上要求される輸液量として,明らかに不足するというべきである。 (エ)もっとも,証拠(甲B3,B4,乙B9)によれば,急速輸液は,血管拡張と血管透過性亢進による血液の漏出に対処し,血圧を上げて脳内血流を確保することに主たる目的がある(収縮期血圧80mmHg以下では,急速かつ大量の輸液を行うことによって,同100mmHgを維持することが目標となる。)と認められるところ,別紙診療経過一覧表記載のとおり,本件ショックの発現時から約10分経過した19時10分における原告Aの血圧は,収縮期211mmHg,拡張期120mmHgであり,19時27分のそれは,収縮期149mmHg,拡張期129mmHgであったことが認められる。 しかしながら,これらの血圧測定値は,その数分前に投与- 36 -された薬剤(ボスミン及び硫酸アトロピン)の影響による一時的なものにすぎなかったと推認されることは,その直後である19時33分の血圧が収縮期67mmHg,拡張期23mmHg 前に投与- 36 -された薬剤(ボスミン及び硫酸アトロピン)の影響による一時的なものにすぎなかったと推認されることは,その直後である19時33分の血圧が収縮期67mmHg,拡張期23mmHgと低下し,目標値である収縮期100mmHgを超えたのは,19時48分に至ってからであったことからも裏付けられる(ただし,20時台には,再び不安定な様相を呈している。)。 そうすると,本件ショック発現時の原告Aの血圧が一時的に高かったからといって,同人に対する輸液量が不足していたとの上記認定を覆すことはできない。 (オ)したがって,原告Aの救命措置を担当した被告病院の医師らには,個々人について見れば,原告Aを救命すべく努力を重ねたことは否定できないものの,全体として見れば,なお上記(ア)認定説示の注意義務に違反する過失があると判断せざるを得ないところである(以下,この過失を「本件過失」という。)。 そこで進んで,本件過失と原告Aの本件後遺障害との間の因果関係の有無について判断する。 (1)証拠(甲A4,B4,乙A1,乙B1)によれば,原告Aの本件後遺障害は,脳の神経細胞の中でも特に虚血(酸素不足)に弱いとされる大脳基底核及び後頭葉が虚血による損傷を受けたことにより生じたものであると認められる。 (2)上記3(2)認定のとおり,一般に,ショック発現直後は,迅速かつ適切な呼吸管理及び循環管理が求められ,その心肺蘇生措置の適切さが患者の予後を大きく左右する。そして,被告病院には,循環管理の点で,本件ショックの発現後約1時間の間で合計約200mlの輸液しか行わなかったという本件過失があると判断され- 37 -るところ,循環管理としての輸液量が大きく不足すれば,脳灌流の低下ないし停止によって脳虚血状態が発生することは医学的に十分予想される 輸液しか行わなかったという本件過失があると判断され- 37 -るところ,循環管理としての輸液量が大きく不足すれば,脳灌流の低下ないし停止によって脳虚血状態が発生することは医学的に十分予想される転帰であるということができる一方で,仮に適切な輸液がなされていれば,呼吸管理等のその余の救命措置の効果とあいまって,大脳基底核及び後頭葉が酸素不足に陥ることもなく,本件後遺障害の発生を回避できた蓋然性が高いというべきであり,したがって,本件過失と本件後遺障害の発生との間に相当因果関係の存在を肯認するのが相当である。 (3)なお,本件ショックがアナフィラキシーショックであるか,それともアナフィラキシー様ショックであるかについては,当事者間に争いがあるが,そのいずれであるとしても,証拠(乙B8,B10)及び弁論の全趣旨によれば,両者には,ショック発現の態様やその際に採られるべき救命措置の内容に差異がないことが認められ,してみれば,この点は,当裁判所の上記結論を左右するものではないと解されるので,この点について判断しない。 最後に,被告の賠償すべき原告らの損害額について判断する。 (1)原告Aについてア逸失利益(請求額7041万5526円)原告Aには,上記第2の1(3)の前提事実のとおり,両視力障害,視覚失認,四肢運動麻痺,全身不随意運動の後遺障害(本件後遺障害)が生じており(なお,甲A1によれば,両視力障害の程度は,裸眼視力が左右とも0.01(矯正不可)であることが認められる。),その内容・程度に照らし,原告Aは労働能力を100パーセント喪失したものと認められる。 しかるところ,原告Aは,本件後遺障害を負わなければ,18歳から67歳までの49年間にわたって就労することが可能- 38 -であり,その就労期間中,平成12年賃金センサス 失したものと認められる。 しかるところ,原告Aは,本件後遺障害を負わなければ,18歳から67歳までの49年間にわたって就労することが可能- 38 -であり,その就労期間中,平成12年賃金センサス産業計・企業規模計・全労働者全年齢平均賃金の年収497万7700円を下らない年収を得ることができたと推認できるから,原告Aの逸失利益を算出すると,次の計算式(ライプニッツ係数13. 558)のとおり,6748万7656円(1円未満切捨て)となる。 (計算式)4,977,700円× 13.558=67,487,656円イ付添介護費(請求額5673万5600円)原告Aの被告病院の退院日は平成12年4月20日で,当時の年齢は12歳であるところ,証拠(甲A3の1,2)及び弁論の全趣旨によれば,原告Aは,本件後遺障害により,日常生活において他者による介護を必要としており,上記退院後,自分で行うことのできる事項が漸増しつつも,主として原告B及び同Cが原告Aの身の回りの世話をしていることが認められ,今後も,他者による原告Aに対する継続的な付添介護が必要とされるものと推認できる。 これに加え,原告Aの本件後遺障害の内容及び程度等を併せ考慮すれば,同日以降,平均余命の73年間に要する付添介護費は,1日当たり5000円が相当であると認められるので,次の計算式(ライプニッツ係数19.432)のとおり,3546万3400円となる。 (計算式)5,000円× 365日× 19.432=35,463,400円ウ入通院及び後遺障害慰謝料(請求額2500万円)原告Aが,平成11年11月15日に被告病院に入院し,平成12年4月20日に退院したことは当事者間に争いがなく,また,弁論の全趣旨によれば,原告Aは,翌21日から同年1- 39 -0月20日まで被告病院 ,平成11年11月15日に被告病院に入院し,平成12年4月20日に退院したことは当事者間に争いがなく,また,弁論の全趣旨によれば,原告Aは,翌21日から同年1- 39 -0月20日まで被告病院に通院(実日数10日間)したことが認められる。これに加え(ただし,上記入院期間中には,入院時の疾病である肺炎に対する治療に必要な期間も含まれていると解されるので,この点も斟酌する。),原告Aの年齢,本件後遺障害の程度,被告病院の過失の内容及び程度,その他本件に表れた一切の事情を考慮すると,入通院慰謝料及び後遺障害慰謝料は,合計2300万円をもって相当と認める。 エ損益相殺(医療品基金給付金)243万5100円原告Aが,医療品基金給付金として243万5100円を受領したことは,当事者間に争いがない。したがって,原告らの自認するとおり,被告の賠償すべき原告Aの損害額からこれを控除すべきである。 オ小計1億2351万5956円カ弁護士費用(請求額650万円)原告らが弁護士である訴訟代理人らに本訴の提起・遂行を委任したことは本件記録上明らかであり,本訴の認容額その他本件に表れた一切の事情に照らし,本件と相当因果関係のある原告Aの弁護士費用としては,600万円をもって相当と認める。 キ以上によれば,被告の賠償すべき原告Aの損害は,合計1億2951万5956円となる。 (2)原告B及び同Cについてア慰謝料(請求額各500万円)本件後遺障害の内容・程度,原告Aの年齢,被告の過失の内容・程度のほか,証拠(甲A3の1,2)及び弁論の全趣旨によれば,その父母である原告B及び同Cは,感染症治療の目的で入院した被告病院での治療行為の結果生じた原告Aの現況に- 40 -強い精神的衝撃を受けているほか,日常的に原告Aを介護する肉体的・精神的負 ば,その父母である原告B及び同Cは,感染症治療の目的で入院した被告病院での治療行為の結果生じた原告Aの現況に- 40 -強い精神的衝撃を受けているほか,日常的に原告Aを介護する肉体的・精神的負担を受けていると認められることなどを併せ考慮すれば,原告B及び同Cの固有の慰謝料は,各々200万円をもって相当と認める。 イ弁護士費用(請求額各25万円)上記(1)カ同様,本件に表れた一切の事情に照らし,本件と相当因果関係のある原告B及び同Cの弁護士費用としては,各々20万円をもって相当と認める。 ウ以上によれば,被告の賠償すべき原告B及び同Cの損害は,それぞれ合計220万円となる。 よって,原告らの不法行為(使用者責任)に基づく本訴請求は,原告Aについては1億2951万5956円及びこれに対する(不法行為日である)平成11年11月17日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で,また,原告B及び同Cについては各自220万円及びこれに対する同日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度でそれぞれ理由があるので認容し,その余は理由がないのでいずれも棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,64条,65条1項本文を,仮執行の宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第4部裁判長裁判官加藤幸雄裁判官寺本明広裁判官大野千尋

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